説明

無給油チェーン

【課題】プレート強度の低下とチェーン部品点数の増加を回避しつつチェーン製造負担を大幅に軽減するとともに、潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止して、しかも、ブシュが優れた潤滑油の徐放性を発揮してブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を長期に亘って供給してチェーンの摩耗伸びを防止する無給油チェーンを提供すること。
【解決手段】内プレート110とブシュ130と外プレート150と連結ピン160とから構成され、ブシュ130と連結ピン160との間に潤滑油が封入されており、ブシュ130が焼結含油金属材料から成形され、内プレート110の外側面から一部突出したブシュ突出端部131が、外プレート150の内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態のブシュ軸支用環状凹部151に囲繞支持されている無給油チェーン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動用ローラチェーン、搬送コンベヤチェーンなどに用いる無給油チェーンに係るものであって、特に、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる無給油チェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2個の外リンクプレートの両端部をピンにて連結した外リンクと、2個の内リンクプレートをブシュにて連結した内リンクとを前記ピンをブシュに遊嵌することにより交互に連結し、かつ前記ピンとブシュとの間に注入された潤滑油を封止するシール手段を備えてなるシールチェーンが知られている。そして、このようなシールチェーンのシール手段は、少なくとも前記ブシュの軸方向端面に接触するように配置されるリング部材と、該リング部材とそれに対向する外リンクプレートとの間に圧接される弾性シールリングとを備えている(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−256262号公報(第4欄、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述したような従来のシールチェーンでは、ブシュと外リンクプレートとの間を密封してピンとブシュとの間に注入された潤滑油のシール効果を持続させるために、リング部材と弾性シールリングとがブシュと外リンクプレートとの間に押圧状態で配置され、このような押圧状態の押圧力によって、外リンクプレートと内リンクプレートとの間の相対的な屈曲抵抗、すなわち、チェーン自体の屈曲抵抗が大きくなるという問題があった。
【0004】
また、リング部材と弾性シールリングが外リンクプレート等に対して摺接摩耗することによって生じるシール効果の低下を防止するために、リング部材及び弾性シールリングと接触する外リンクプレートの内側面とブシュの端面の表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があり、その表面仕上げ加工の加工負担が増加するという問題があった。
【0005】
そして、シール手段としてのリング部材と弾性シールリングとを基本的なチェーン構成部品であるブシュと外プレートとの間に設けているので、チェーンの部品点数、組立工数が多くなり、チェーンの組立性が悪くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、プレート強度の低下とチェーン部品点数の増加を回避しつつチェーン製造負担を大幅に軽減するとともに、チェーン稼動時における潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止して、しかも、ブシュが優れた潤滑油の徐放性を発揮してブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を長期に亘って供給してチェーンの摩耗伸びを防止する無給油チェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる無給油チェーンにおいて、前記ブシュが潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されているとともに、前記内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、前記外プレートの内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態のブシュ軸支用環状凹部にそれぞれ囲繞支持されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0008】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の構成に加えて、前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝が、前記連結ピンの外周面に刻設されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0009】
請求項3に係る本発明は、請求項1または請求項2記載の構成に加えて、前記ブシュ軸支用環状凹部の膨出面が、前記ブシュ軸支用環状凹部の座面より大きな外径を有していることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0010】
請求項4に係る本発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構成に加えて、前記外プレートの内側面と内プレートの外側面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面を備えていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0011】
請求項5に係る本発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の構成に加えて、前記ブシュ軸支用環状凹部の座面の外径Wj、ブシュの内径Wbi、ブシュの外径Wbo及び連結ピンの外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0012】
請求項6に係る本発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の構成に加えて、前記ブシュ軸支用環状凹部の深さDj及びブシュ突出端部の内プレート外側面からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されているとともに、前記ブシュ軸支用環状凹部の深さDj、ブシュ突出端部の内プレート外側面からの突出量Db、外リンクの内幅Do及び内リンクの外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0013】
なお、本発明の無給油チェーンで言うところの「焼結含油金属材料」とは、その内部に無数の気孔を有するように金属粉末を圧縮成形して融解点以下の温度で焼結することで得られた多孔質材に潤滑油を含浸させた金属材料を意味している。
また、本発明の無給油チェーンで言うところの「オフセット状態」とは、ブシュ軸支用環状凹部とそれ以外のプレート部分とがプレート厚み方向にずれて段差状を呈している状態を意味している。
また、本発明の無給油チェーンで言うところの「ラビリンス構造形成粗面」とは、油溜り用ラビリンス構造を形成し得る粗面を意味している。
また、本発明の無給油チェーンで言うところの「外リンクの内幅」とは、左右一対で配置された外プレートの内側面が相互離間する間隔のことを意味している。
また、本発明の無給油チェーンで言うところの「内リンクの外幅」とは、左右一対で配置された内プレートの外側面が相互離間する間隔のことを意味している。
【発明の効果】
【0014】
そこで、本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクとブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなることにより、外部からの無給油状態で長期にわたってチェーン駆動することができるばかりでなく、以下のような特有の効果を奏することができる。
【0015】
請求項1に係る本発明の無給油チェーンによれば、ブシュが潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されていることにより、ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油が充分に供給されてない状態となっても、ブシュが優れた潤滑油の徐放性を発揮して、すなわち、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因してブシュの内部に形成された無数の気孔に含浸された潤滑油がブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に徐々に滲み出すので、ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間の摺接摩耗を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止でき、また、焼結含油金属材料からなるブシュは何らの加工を施していない通常のブシュと同形状を呈しており、通常のブシュと同様に取り扱うことができるので、チェーン切り継ぎなどの分解組み付け作業を簡便に達成できる。
【0016】
また、内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、外プレートの内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態のブシュ軸支用環状凹部にそれぞれ囲繞支持されていることにより、このようなブシュ突出端部とブシュ軸支用環状凹部の内面との間に形成された油溜り用ラビリンス構造が、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因した潤滑油の漏出を抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制して、チェーンの摩耗伸びを長期にわたって防止することができる。
【0017】
また、ブシュ軸支用環状凹部が外プレートの内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態で形成されていることにより、ブシュ軸支用環状凹部の断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部を形成することによる外プレートの強度低下を抑制できるとともに、外プレートのプレス打ち抜き加工を行う際に、外プレートの内側面を凹ませて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、外プレートの打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部の形成加工とを同時に行うことができるので、外プレートの打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部を形成する研削やミーリング等の機械加工を外プレートに施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0018】
また、内プレートと外プレートとの間には、従来のシールチェーンのようなブシュと外リンクプレートとの間に押圧状態で配置したシール部材を別部品として設けていないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行するとともに、チェーン部品点数の増加を回避することができる。
また、従来のシールチェーンでは、シール部材の摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、内リンクプレートの外側面と外リンクプレートの内側面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の無給油チェーンでは、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減することができる。
【0019】
請求項2に係る本発明の無給油チェーンによれば、請求項1記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝が、連結ピンの外周面に刻設されていることにより、より多くの潤滑油を封入して連結ピンとブシュとの間に潤滑油を継続的に供給できるので、連結ピンの外周面とブシュの内周面の摺接摩耗を長期に亘って低減でき、チェーンの摩耗伸びをより一層防止することができる。
【0020】
請求項3に係る本発明の無給油チェーンによれば、請求項1または請求項2記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、ブシュ軸支用環状凹部の膨出面がブシュ軸支用環状凹部の座面より大きな外径を有していることにより、外プレートの段差部分、すなわち、ピン孔を中心として膨出面よりも小径で座面よりも大径なプレート部分の断面係数がそれ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなるので、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな外プレートの段差部分の強度を向上できる。
【0021】
請求項4に係る本発明の無給油チェーンによれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、外プレートの内側面と内プレートの外側面が相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面を備えていることにより、外プレートの内側面と内プレートの外側面との間には油溜り用ラビリンス構造が形成されているので、連結ピンとブシュとの間に注入された潤滑油のシール効果をより一層向上させることができ、ブシュと連結ピンとの間に注入された潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入を防止できる。
【0022】
請求項5に係る本発明の無給油チェーンによれば、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、ブシュ軸支用環状凹部の座面の外径Wj、ブシュの内径Wbi、ブシュの外径Wbo及び連結ピンの外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、チェーン進行方向に引張力を受けるチェーン稼動時、すなわち、内リンクが外リンクに対してチェーン進行方向に偏在した際に、ブシュの内周面と連結ピンの外周面とが接触しても、ブシュ突出端部の外周面とブシュ軸支用環状凹部の内周面とが互いに接触することを完全に阻止するので、ブシュ突出端部の外周面とブシュ軸支用環状凹部の内周面との摺動接触に起因する金属摩耗粉が連結ピンとブシュとの間に侵入し、このような金属摩耗粉が研摩剤となって連結ピンとブシュとの間で生じがちな異常な摩耗損傷を防止することができ、チェーンの摩耗伸びを大幅に防止することができる。
【0023】
請求項6に係る本発明の無給油チェーンによれば、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、ブシュ軸支用環状凹部の深さDj及びブシュ突出端部の内プレート外側面からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、チェーン稼動時に内リンクが外リンクに対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、偏在した際にも、摺動面積の小さいブシュの端面とブシュ軸支用環状凹部の座面とが互いに接触して、摺動面積の大きい内プレートの外側面と外プレートの内側面とが接触することを完全に阻止するので、長期に亘る円滑なチェーンの屈曲摺動を実現できる。
【0024】
また、ブシュ軸支用環状凹部の深さDj、ブシュ突出端部の内プレート外側面からの突出量Db、外リンクの内幅Do及び内リンクの外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、チェーン稼動時に内リンクが外リンクに対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄りを生じた際にも、ブシュ突出端部がブシュ軸支用環状凹部から外れることはなく、また、潤滑油が外部に漏出することもないので、連結ピンの外周面とブシュの内周面の摺接摩耗を長期に亘って低減でき、チェーンの摩耗伸びを更に一段と防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる無給油チェーンにおいて、前記ブシュが、前記潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されているとともに、前記内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、前記外プレートの内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態のブシュ軸支用環状凹部にそれぞれ囲繞支持されて、プレート強度の低下とチェーン部品点数の増加を回避しつつチェーン製造負担を大幅に軽減するとともに、チェーン稼動時における潤滑油の漏出と外部塵埃の侵入を防止して、しかも、ブシュが優れた潤滑油の徐放性を発揮してブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を長期に亘って供給してチェーンの摩耗伸びを防止するものであれば、その具体的な実施の形態は如何なるものであっても何ら構わない。
【0026】
例えば、本発明の無給油チェーンは、ローラチェーン、ブシュチェーンのいずれのものがその対象であっても差し支えないが、ローラチェーンの場合には、スプロケットとの噛み合いが円滑となるため、チェーンの摩耗を防止するので、より好ましい。
【0027】
また、本発明の無給油チェーンにおける油溜り溝の具体的形状については、Dカット形状の凹溝、連結ピンの外周面に周設した環状の凹溝などいずれであっても差し支えないが、Dカット形状の凹溝の場合には、連結ピンの強度を低下させることなく多くの潤滑油を封入することができるので、より好ましい。
また、本発明の無給油チェーンにおける油溜り溝の個数については、連結ピンの外周面に1つ設けたもの、連結ピンの外周面に2つ設けたものなどいずれであっても差し支えない。
【0028】
また、本発明の無給油チェーンにおけるブシュ軸支用環状凹部の具体的な形状については、円形の凹溝、多角形の凹溝などいずれであっても差し支えない。
また、本発明の無給油チェーンにおけるブシュ突出端部の具体的な形状については、外周面が円形に形成されたもの、外周面が多角形に形成されたものなどいずれであっても差し支えない。
【0029】
また、本発明の無給油チェーンに組み込まれるブシュの具体的な態様については、その内部に無数の気孔を有するように金属粉末を圧縮成形して融解点以下の温度で焼結することで得られた多孔質材に潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されて強靱性および潤滑油の徐放性を発揮するものであれば、焼結含油金属材料の焼結密度やその原料となる金属粉末の具体的な種類や組み合わせは如何なるものであっても良く、特に、焼結含油金属材料が、鉄、銅、ニッケル、クロムモリブデン鋼などを配合してなる混合金属粉末を圧縮形成するとともに6.0g/cm〜7.0g/cmの焼結密度で焼結することで成形されている場合には、ブシュがチェーン張力に起因する剪断力及び衝撃力を受けるための強靱性能や多くの潤滑油を含浸させて長期に亘って連結ピンとブシュとの間に潤滑油を供給する含油性能および徐放性能の両方をバランス良く兼ね備えて充分に発揮できる。
【0030】
また、本発明の無給油チェーンにおいて用いられる潤滑油の具体的な種類については、潤滑性や耐劣化性を備えたものであれば如何なるものであって良く、特に、ポリαオレフィンやポリオールエステルなどの合成系炭化水素を基油とする合成油を採用した場合には、優れた粘性、潤滑性、耐劣化性を発揮して、ブシュの内部に形成された気孔に目詰まりを生じさせることなくブシュの気孔から長期に亘って連結ピンとブシュとの間に滲み出て摺接摩耗を抑制できる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の第1実施例である無給油チェーン100を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の第1実施例である無給油チェーンの一部を切り欠いた全体概要図であり、図2は、図1に示す無給油チェーンの連結状態を示す斜視図であり、図3は、図1に示す無給油チェーンを一部拡大視した断面図であり、図4は、図1に示す無給油チェーンに組み込まれるブシュを一部拡大視した斜視図であり、図5は、図1に示す無給油チェーンの組み付け寸法図であり、図6は、図1の無給油チェーンがチェーン進行方向に引張られている状態を示す寸法図であり、図7は、図1の無給油チェーンがチェーン幅方向に片寄った状態を示す寸法図である。
【0032】
まず、本発明の第1実施例である無給油チェーン100は、図1及び図3に示すように、左右一対で離間して配置された内プレート110、110のブシュ圧入孔にローラ120、120が遊嵌された前後一対のブシュ130、130の両端部を嵌入固定した内リンク140と、左右一対で離間して配置された外プレート150、150のピン圧入孔に前後一対の連結ピン160、160の両端部を嵌入固定した外リンク170とを備えており、内リンク140と外リンク170とは、ブシュ130に連結ピン160が遊嵌されることにより連結されている。
そして、ブシュ130と連結ピン160との間には、潤滑油が封入されている。
【0033】
そこで、本実施例の無給油チェーン100が最も特徴とするブシュ130、外プレート150及び内プレート110の具体的な形態について図2乃至図7により詳しく説明する。
まず、図2及び図3に示すように、外プレート150には、内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態のブシュ軸支用環状凹部151が形成されており、このブシュ軸支用環状凹部151に内プレート110の外側面から一部突出したブシュ突出端部131がそれぞれ囲繞支持されている。
なお、本発明の無給油チェーン100で言うところの「オフセット状態」とは、ブシュ軸支用環状凹部151とそれ以外のプレート部分とがずれて段差状を呈している状態を意味している。
【0034】
ブシュ130は、図4に示すように、焼結含油金属材料、すなわち、その内部に無数の気孔132を有するように金属粉末を圧縮成形して融解点以下の温度で焼結することで得られた多孔質材に潤滑油を含浸させた金属材料から成形されており、そのため、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因してブシュ130の内部に形成された無数の気孔132に含浸された潤滑油がブシュ130の内周面と連結ピン160の外周面との間に徐々に滲み出すようになっている。
なお、この焼結含油金属材料は、鉄、銅、ニッケル、クロムモリブデン鋼などを配合してなる混合金属粉末を圧縮形成するとともに6.0g/cm〜7.0g/cmの焼結密度で焼結することで成形されており、そのため、ブシュ130は、チェーン張力に起因する剪断力及び衝撃力を受けるための強靱性能と、多くの潤滑油を含浸させて長期に亘って連結ピン160とブシュ130との間に潤滑油を供給する含油性能および徐放性能の両方をバランス良く兼ね備えて充分に発揮するようになっている。
また、本実施例の無給油チェーン100では、潤滑油としてポリαオレフィンやポリオールエステルなどの合成系炭化水素を基油とする合成油を採用しており、優れた粘性、潤滑性、耐劣化性を発揮して、ブシュ130の内部に形成された気孔132に目詰まりを生じさせることなくブシュ130の気孔132から長期に亘って安定して連結ピン160とブシュ130との間に滲み出て摺接摩耗を抑制するようになっている。
【0035】
外プレート150の内側面と内プレート110の外側面は、図3に示すように、梨地状のラビリンス構造形成粗面152、111をそれぞれ有しており、このラビリンス構造形成粗面152、111は、相互に近接対向して外プレート150の内側面と内プレート110の外側面との間に油溜り用ラビリンス構造Lを形成して、ブシュ130と連結ピン160との間に注入された潤滑油の外部漏出を抑制するとともに外部塵埃の侵入を防止するようになっている。
【0036】
ブシュ軸支用環状凹部151の膨出面151aの外径Wxは、図5に示すように、ブシュ軸支用環状凹部151の座面151bの外径Wjより大きく設定されており、外プレート150の段差部分、すなわち、ピン孔を中心として膨出面151aよりも小径で座面151bよりも大径なプレート部分の断面係数がそれ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなって、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな外プレート150の段差部分の強度を向上するようになっている。
【0037】
ブシュ軸支用環状凹部151の座面151bの外径Wj、ブシュ130の内径Wbi、ブシュ130の外径Wbo及び連結ピン160の外径Wpが、図5に示すように、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されており、図6に示すように、チェーン進行方向に引張力を受けるチェーン稼動時、すなわち、内リンク140が外リンク170に対してチェーン進行方向に偏在した際においても、ブシュ130の内周面と連結ピン160の外周面とが接触して、ブシュ突出端部131の外周面とブシュ軸支用環状凹部151の内周面とが互いに接触することを完全に阻止するようになっている。
【0038】
ブシュ軸支用環状凹部151の深さDj及びブシュ突出端部131の内プレート110の外側面からの突出量Dbは、図5に示すように、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されており、図7に示すように、チェーン稼動時に内リンク140が外リンク170に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、偏在した際にも、ブシュ130の端面とブシュ軸支用環状凹部151の座面151bとが互いに接触して、内プレート110の外側面と外プレート150の内側面とが接触することを完全に阻止するようになっている。
【0039】
ブシュ軸支用環状凹部151の深さDj、ブシュ突出端部131の内プレート110の外側面からの突出量Db、外リンク170の内幅Do及び内リンク140の外幅Diは、図5に示すように、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されており、図7に示すように、チェーン稼動時に内リンク140が外リンク170に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄りを生じた際にも、ブシュ突出端部131がブシュ軸支用環状凹部151から外れることを防止するようになっている。
なお、本発明の無給油チェーン100で言うところの「外リンク170の内幅Do」とは、左右一対で配置された外プレート150、150の内側面が相互離間する間隔のことを意味している。
また、本発明の無給油チェーン100で言うところの「内リンク140の外幅Di」とは、左右一対で配置された内プレート110、110の外側面が相互離間する間隔のことを意味している。
【0040】
このようにして得られた本実施例の無給油チェーン100は、ブシュ130が焼結含油金属材料から成形されている。
したがって、ブシュ130の内周面と連結ピン160の外周面との間に潤滑油が充分に供給されてない状態となっても、ブシュ130が優れた潤滑油の徐放性を発揮して、すなわち、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因してブシュ130の内部に形成された無数の気孔132に含浸された潤滑油がブシュ130の内周面と連結ピン160の外周面との間に徐々に滲み出すので、ブシュ130の内周面と連結ピン160の外周面との間の摺接摩耗を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止でき、また、焼結含油金属材料からなるブシュ130は何らの加工を施していない通常のブシュと同形状を呈しており、通常のブシュと同様に取り扱うことができるので、チェーン切り継ぎなどの分解組み付け作業を簡便に達成できる。
【0041】
内プレート110の外側面から一部突出したブシュ突出端部131が、外プレート150の内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態のブシュ軸支用環状凹部151にそれぞれ囲繞支持されている。
したがって、このようなブシュ130のブシュ突出端部131とブシュ軸支用環状凹部151の内面との間に形成された油溜り用ラビリンス構造Lが、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因した潤滑油の漏出を抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制して、チェーンの摩耗伸びを長期にわたって防止することができる。
【0042】
ブシュ軸支用環状凹部151が、外プレート150の内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態で形成されている。
したがって、ブシュ軸支用環状凹部151の断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部151を形成することによる外プレート150の強度低下を抑制できるとともに、外プレート150のプレス打ち抜き加工を行う際に、外プレート150の内側面を凹ませて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、外プレート150の打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部151の形成加工とを同時に行うことができるので、外プレート150の打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部151を形成する研削やミーリング等の機械加工を外プレート150に施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0043】
内プレート110と外プレート150との間には、従来のシールチェーンのようなブシュと外リンクプレートとの間に押圧状態で配置したシール部材を別部品として設けていないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行するとともに、チェーン部品点数の増加を回避することができる。
【0044】
従来のシールチェーンでは、シール部材の摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、内リンクプレートの外側面と外リンクプレートの内側面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の無給油チェーン100では、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減することができる。
【0045】
ブシュ軸支用環状凹部151の膨出面151aの外径Wxが、ブシュ軸支用環状凹部151の座面151bの外径Wjよりも大きく設定されている。
したがって、外プレート150の段差部分、すなわち、ピン孔を中心として膨出面151aよりも小径で座面151bよりも大径なプレート部分の断面係数がそれ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなるので、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな外プレート150の段差部分の強度を向上できる。
【0046】
外プレート150の内側面と内プレート110の外側面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面152、111を備えている。
したがって、外プレート150の内側面と内プレート110の外側面との間には油溜り用ラビリンス構造Lが形成されているので、連結ピン160とブシュ130との間に注入された潤滑油のシール効果をより一層向上させることができ、ブシュ130と連結ピン160との間に注入された潤滑油が外部に漏れ出すことを防止できるとともに外部から塵埃が侵入することを防止できる。
【0047】
ブシュ軸支用環状凹部151の座面151bの外径Wj、ブシュ130の内径Wbi、ブシュ130の外径Wbo及び連結ピン160の外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、チェーン進行方向に引張力を受けるチェーン稼動時、すなわち、内リンク140が外リンク170に対してチェーン進行方向に偏在した際に、ブシュ130の内周面と連結ピン160の外周面とが接触しても、ブシュ突出端部131の外周面とブシュ軸支用環状凹部151の内周面とが互いに接触することを完全に阻止するので、ブシュ突出端部131の外周面とブシュ軸支用環状凹部151の内周面との摺動接触に起因する金属摩耗粉が連結ピン160とブシュ130との間に侵入し、このような金属摩耗粉が研摩剤となって連結ピン160とブシュ130との間で生じがちな異常な摩耗損傷を防止することができ、チェーンの摩耗伸びを大幅に防止することができる。
【0048】
ブシュ軸支用環状凹部151の深さDj及びブシュ突出端部131の内プレート110の外側面からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、チェーン稼動時に内リンク140が外リンク170に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、偏在した際にも、摺動面積の小さいブシュ130の端面とブシュ軸支用環状凹部151の座面151bとが互いに接触して、摺動面積の大きい内プレート110の外側面と外プレート150の内側面とが接触することを完全に阻止するので、長期に亘る円滑なチェーンの屈曲摺動を実現できる。
【0049】
ブシュ軸支用環状凹部151の深さDj、ブシュ突出端部131の内プレート110の外側面からの突出量Db、外リンク170の内幅Do及び内リンク140の外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、チェーン稼動時に内リンク140が外リンク170に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄りを生じた際にも、ブシュ突出端部131がブシュ軸支用環状凹部151から外れることはなく、また、潤滑油が外部に漏出することもないので、連結ピン160の外周面とブシュ130の内周面の摺接摩耗を長期に亘って低減でき、チェーンの摩耗伸びを更に一段と防止することができるなど、その効果は甚大である。
【0050】
つぎに、本発明の第2実施例である無給油チェーン200について、図8及び図9に基づいて説明する。
まず、本発明の第2実施例である無給油チェーン200は、図8及び図9に示すように、左右一対で離間して配置された内プレート210、210のブシュ圧入孔にローラ220、220が遊嵌された前後一対のブシュ230、230の両端部を嵌入固定した内リンク240と、左右一対で離間して配置された外プレート250、250のピン圧入孔に前後一対の連結ピン260、260の両端部を嵌入固定した外リンク270とを備えており、内リンク240と外リンク270とは、ブシュ230に連結ピン260が遊嵌されることにより連結されている。
そして、ブシュ230と連結ピン260との間には、潤滑油が封入されている。
【0051】
そこで、本実施例の無給油チェーン200が最も特徴とするブシュ230、外プレート250、内プレート210、連結ピン260の具体的な形態について図8及び図9により詳しく説明する。
まず、図8及び図9に示すように、外プレート250には、内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態のブシュ軸支用環状凹部251が形成されており、このブシュ軸支用環状凹部251に内プレート210の外側面から一部突出したブシュ突出端部231がそれぞれ囲繞支持されている。
なお、本発明の無給油チェーン200で言うところの「オフセット状態」とは、ブシュ軸支用環状凹部251とそれ以外のプレート部分とがずれて段差状を呈している状態を意味している。
【0052】
ブシュ230は、焼結含油金属材料、すなわち、その内部に無数の気孔を有するように金属粉末を圧縮成形して融解点以下の温度で焼結することで得られた多孔質材に潤滑油を含浸させた金属材料から成形されており、そのため、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因してブシュ230の内部に形成された無数の気孔に含浸された潤滑油がブシュ230の内周面と連結ピン260の外周面との間に徐々に滲み出すようになっている。
なお、この焼結含油金属材料は、鉄、銅、ニッケル、クロムモリブデン鋼などを配合してなる混合金属粉末を圧縮形成するとともに6.0g/cm〜7.0g/cmの焼結密度で焼結することで成形されており、そのため、ブシュ230は、チェーン張力に起因する剪断力及び衝撃力を受けるための強靱性能と、多くの潤滑油を含浸させて長期に亘って連結ピン260とブシュ230との間に潤滑油を供給する含油性能および徐放性能の両方をバランス良く兼ね備えて充分に発揮するようになっている。
また、本実施例の無給油チェーン200では、潤滑油としてポリαオレフィンやポリオールエステルなどの合成系炭化水素を基油とする合成油を採用しており、優れた粘性、潤滑性、耐劣化性を発揮して、ブシュ230の内部に形成された気孔に目詰まりを生じさせることなくブシュ230の気孔から長期に亘って安定して連結ピン260とブシュ230との間に滲み出て摺接摩耗を抑制するようになっている。
【0053】
連結ピン260の外周面には、図8及び図9に示すように、ブシュ230の内周面と連結ピン260の外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝261が刻設されており、より多くの潤滑油を封入して連結ピン260とブシュ230との間に潤滑油を継続的に供給するようになっている。
【0054】
外プレート250の内側面と内プレート210の外側面は、図9に示すように、梨地状のラビリンス構造形成粗面252、211をそれぞれ有しており、このラビリンス構造形成粗面252、211は、相互に近接対向して外プレート250の内側面と内プレート210の外側面との間に油溜り用ラビリンス構造Lを形成して、ブシュ230と連結ピン260との間に注入された潤滑油の外部漏出を抑制するとともに外部塵埃の侵入を防止するようになっている。
【0055】
ブシュ軸支用環状凹部251の膨出面251aの外径は、ブシュ軸支用環状凹部251の座面251bの外径より大きく設定されており、外プレート250の段差部分、すなわち、ピン孔を中心として膨出面251aよりも小径で座面251bよりも大径なプレート部分の断面係数がそれ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなって、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな外プレート250の段差部分の強度を向上するようになっている。
【0056】
ブシュ軸支用環状凹部251の座面251bの外径Wj、ブシュ230の内径Wbi、ブシュ230の外径Wbo及び連結ピン260の外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されており、チェーン進行方向に引張力を受けるチェーン稼動時、すなわち、内リンク240が外リンク270に対してチェーン進行方向に偏在した際においても、ブシュ230の内周面と連結ピン260の外周面とが接触して、ブシュ突出端部231の外周面とブシュ軸支用環状凹部251の内周面とが互いに接触することを完全に阻止するようになっている。
【0057】
ブシュ軸支用環状凹部251の深さDj及びブシュ突出端部231の内プレート210の外側面からの突出量Dbは、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されており、チェーン稼動時に内リンク240が外リンク270に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、偏在した際にも、ブシュ230の端面とブシュ軸支用環状凹部251の座面251bとが互いに接触して、内プレート210の外側面と外プレート250の内側面とが接触することを完全に阻止するようになっている。
【0058】
ブシュ軸支用環状凹部251の深さDj、ブシュ突出端部231の内プレート210の外側面からの突出量Db、外リンク270の内幅Do及び内リンク240の外幅Diは、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されており、チェーン稼動時に内リンク240が外リンク270に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄りを生じた際にも、ブシュ突出端部231がブシュ軸支用環状凹部251から外れることを防止するようになっている。
なお、本発明の無給油チェーン200で言うところの「外リンク270の内幅Do」とは、左右一対で配置された外プレート250、250の内側面が相互離間する間隔のことを意味している。
また、本発明の無給油チェーン200で言うところの「内リンク240の外幅Di」とは、左右一対で配置された内プレート210、210の外側面が相互離間する間隔のことを意味している。
【0059】
このようにして得られた本実施例の無給油チェーン200は、ブシュ230が焼結含油金属材料から成形されている。
したがって、ブシュ230の内周面と連結ピン260の外周面との間に潤滑油が充分に供給されてない状態となっても、ブシュ230が優れた潤滑油の徐放性を発揮して、すなわち、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因してブシュ230の内部に形成された無数の気孔に含浸された潤滑油がブシュ230の内周面と連結ピン260の外周面との間に徐々に滲み出すので、ブシュ230の内周面と連結ピン260の外周面との間の摺接摩耗を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止でき、また、焼結含油金属材料からなるブシュ230は何らの加工を施していない通常のブシュと同形状を呈しており、通常のブシュと同様に取り扱うことができるので、チェーン切り継ぎなどの分解組み付け作業を簡便に達成できる。
【0060】
内プレート210の外側面から一部突出したブシュ突出端部231が、外プレート250の内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態のブシュ軸支用環状凹部251にそれぞれ囲繞支持されている。
したがって、このようなブシュ230のブシュ突出端部231とブシュ軸支用環状凹部251の内面との間に形成された油溜り用ラビリンス構造Lが、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因した潤滑油の漏出を抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制して、チェーンの摩耗伸びを長期にわたって防止することができる。
【0061】
ブシュ軸支用環状凹部251が、外プレート250の内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態で形成されている。
したがって、ブシュ軸支用環状凹部251の断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部251を形成することによる外プレート250の強度低下を抑制できるとともに、外プレート250のプレス打ち抜き加工を行う際に、外プレート250の内側面を凹ませて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、外プレート250の打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部251の形成加工とを同時に行うことができるので、外プレート250の打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部251を形成する研削やミーリング等の機械加工を外プレート250に施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0062】
内プレート210と外プレート250との間には、従来のシールチェーンのようなブシュと外リンクプレートとの間に押圧状態で配置したシール部材を別部品として設けていないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行するとともに、チェーン部品点数の増加を回避することができる。
【0063】
従来のシールチェーンでは、シール部材の摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、内リンクプレートの外側面と外リンクプレートの内側面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の無給油チェーン200では、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減することができる。
【0064】
ブシュ230の内周面と連結ピン260の外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝261が、連結ピン260の外周面に刻設されている。
したがって、より多くの潤滑油を封入して連結ピン260とブシュ230との間に潤滑油を継続的に供給できるので、連結ピン260の外周面とブシュ230の内周面の摺接摩耗を長期に亘って低減でき、チェーンの摩耗伸びをより一層防止することができる。
【0065】
ブシュ軸支用環状凹部251の膨出面251aの外径が、ブシュ軸支用環状凹部251の座面251bの外径よりも大きく設定されている。
したがって、外プレート250の段差部分、すなわち、ピン孔を中心として膨出面251aよりも小径で座面251bよりも大径なプレート部分の断面係数がそれ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなるので、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな外プレート250の段差部分の強度を向上できる。
【0066】
外プレート250の内側面と内プレート210の外側面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面252、211を備えている。
したがって、外プレート250の内側面と内プレート210の外側面との間には油溜り用ラビリンス構造Lが形成されているので、連結ピン260とブシュ230との間に注入された潤滑油のシール効果をより一層向上させることができ、ブシュ230と連結ピン260との間に注入された潤滑油が外部に漏れ出すことを防止できるとともに外部から塵埃が侵入することを防止できる。
【0067】
ブシュ軸支用環状凹部251の座面251bの外径Wj、ブシュ230の内径Wbi、ブシュ230の外径Wbo及び連結ピン260の外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、チェーン進行方向に引張力を受けるチェーン稼動時、すなわち、内リンク240が外リンク270に対してチェーン進行方向に偏在した際に、ブシュ230の内周面と連結ピン260の外周面とが接触しても、ブシュ突出端部231の外周面とブシュ軸支用環状凹部251の内周面とが互いに接触することを完全に阻止するので、ブシュ突出端部231の外周面とブシュ軸支用環状凹部251の内周面との摺動接触に起因する金属摩耗粉が連結ピン260とブシュ230との間に侵入し、このような金属摩耗粉が研摩剤となって連結ピン260とブシュ230との間で生じがちな異常な摩耗損傷を防止することができ、チェーンの摩耗伸びを大幅に防止することができる。
【0068】
ブシュ軸支用環状凹部251の深さDj及びブシュ突出端部231の内プレート210の外側面からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、チェーン稼動時に内リンク240が外リンク270に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、偏在した際にも、摺動面積の小さいブシュ230の端面とブシュ軸支用環状凹部251の座面251bとが互いに接触して、摺動面積の大きい内プレート210の外側面と外プレート250の内側面とが接触することを完全に阻止するので、長期に亘る円滑なチェーンの屈曲摺動を実現できる。
【0069】
ブシュ軸支用環状凹部251の深さDj、ブシュ突出端部231の内プレート210の外側面からの突出量Db、外リンク270の内幅Do及び内リンク240の外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、チェーン稼動時に内リンク240が外リンク270に対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄りを生じた際にも、ブシュ突出端部231がブシュ軸支用環状凹部251から外れることはなく、また、潤滑油が外部に漏出することもないので、連結ピン260の外周面とブシュ230の内周面の摺接摩耗を長期に亘って低減でき、チェーンの摩耗伸びを更に一段と防止することができるなど、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施例である無給油チェーンの一部を切り欠いた全体概要図。
【図2】図1に示す無給油チェーンの連結状態を示す斜視図。
【図3】図1に示す無給油チェーンを一部拡大視した断面図。
【図4】図1に示す無給油チェーンに組み込まれるブシュを一部拡大視した斜視図。
【図5】図1に示す無給油チェーンの組み付け寸法図。
【図6】図1の無給油チェーンがチェーン進行方向に引張られている状態を示す寸法図。
【図7】図1の無給油チェーンがチェーン幅方向に片寄った状態を示す寸法図。
【図8】本発明の第2実施例である無給油チェーンの連結状態を示す斜視図。
【図9】図8に示す無給油チェーンを一部拡大視した断面図。
【符号の説明】
【0071】
100、200 ・・・ 無給油チェーン
110、210 ・・・ 内プレート
111、211 ・・・ ラビリンス構造形成粗面
120、220 ・・・ ローラ
130、230 ・・・ ブシュ
131、231 ・・・ ブシュ突出端部
140、240 ・・・ 内リンク
150、250 ・・・ 外プレート
151、251 ・・・ ブシュ軸支用環状凹部
151a、251a ・・・ 膨出面
151b、251b ・・・ 座面
152、252 ・・・ ラビリンス構造形成粗面
160、260 ・・・ 連結ピン
170、270 ・・・ 外リンク
261 ・・・ 油溜り溝
、L ・・・ 油溜り用ラビリンス構造
Wj ・・・ ブシュ軸支用環状凹部の座面の外径
Wbi ・・・ ブシュの内径
Wbo ・・・ ブシュの外径
Wp ・・・ 連結ピンの外径
Wx ・・・ ブシュ軸支用環状凹部の膨出面の外径
Dj ・・・ ブシュ軸支用環状凹部の深さ
Db ・・・ ブシュ突出端部の内プレート外側面からの突出量
Do ・・・ 外リンクの内幅
Di ・・・ 内リンクの外幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結され、前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる無給油チェーンにおいて、
前記ブシュが、前記潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されているとともに、
前記内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、前記外プレートの内側面を凹ませて外側面へ膨出させたオフセット状態のブシュ軸支用環状凹部にそれぞれ囲繞支持されていることを特徴とする無給油チェーン。
【請求項2】
前記ブシュの内周面と連結ピンの外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝が、前記連結ピンの外周面に刻設されていることを特徴とする請求項1記載の無給油チェーン。
【請求項3】
前記ブシュ軸支用環状凹部の膨出面が、前記ブシュ軸支用環状凹部の座面より大きな外径を有していることを特徴とする請求項1または請求項2記載の無給油チェーン。
【請求項4】
前記外プレートの内側面と内プレートの外側面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の無給油チェーン。
【請求項5】
前記ブシュ軸支用環状凹部の座面の外径Wj、ブシュの内径Wbi、ブシュの外径Wbo及び連結ピンの外径Wpが、Wj−Wbo>Wbi−Wpを満足するようにそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の無給油チェーン。
【請求項6】
前記ブシュ軸支用環状凹部の深さDj及びブシュ突出端部の内プレート外側面からの突出量Dbが、Dj<Dbを満足するようにそれぞれ形成されているとともに、
前記ブシュ軸支用環状凹部の深さDj、ブシュ突出端部の内プレート外側面からの突出量Db、外リンクの内幅Do及び内リンクの外幅Diが、Dj+Do<Di+2Db<2Dj+Doを満足するようにそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の無給油チェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−36276(P2009−36276A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200139(P2007−200139)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】