説明

無給油チェーン

【課題】チェーン駆動時に生じがちな潤滑油の外部漏出と外部からの異物侵入を抑制して潤滑油の熱的劣化を防止するとともに潤滑油を長期に亘って使用し、しかも、シールカバーの不用意な脱落や変形を防止する無給油チェーンを提供すること。
【解決手段】外プレート140の内側面140aから外側面140bに向けて被嵌してブシュ120と連結ピン130との間に供給された潤滑油の外部漏出を封止するシールカバー160を備え、シールカバー160が内プレート110と外プレート140との間に介装するシールベース部とシールベース部に穿設してブシュ120のブシュ端部121を緩挿するブシュ遊嵌孔とシールベース部と一体成形して外プレート140の外周縁を密封状態で囲繞するシール周壁部とを備えている無給油チェーン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達機構や搬送機構等に用いられる無給油チェーンに関し、特に、ピンとブシュとの間に潤滑油を保有する無給油チェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達機構や搬送機構等に用いられる無給油チェーンとして、内プレートと外プレートとの間にOリングを配設してブシュと連結ピンとの間に潤滑油を封入するシールチェーン(例えば、特許文献1参照)、内プレートに嵌着されるブシュに含油焼結金属製ブシュを用いて含浸させた潤滑油をブシュと連結ピンとの間に供給する無給油チェーン(例えば、特許文献2参照)、内プレートと外プレートとの間にフェルト等の吸湿材を配設してブシュと連結ピンとの間の潤滑油の漏出経路を塞ぐチェーンが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭54−45864号公報(3頁、図2参照)
【特許文献2】特開平10−250818号公報(段落[0009]、図1参照)
【特許文献3】特開平11−351338号公報(段落[0008]、図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来のOリングを用いた無給油チェーンは、チェーン屈曲の際にOリングが内プレートと外プレートとの間で摺動変形して摺動摩耗するため、潤滑油がOリングの摩耗部分から外部漏出してシール効果が維持できないおそれがあるという厄介な問題があった。
また、チェーン屈曲の際に摺動抵抗の大きいOリングを挟んだまま内プレートと外プレートが相互に屈曲するため、チェーン駆動のエネルギー効率が低下するという問題があった。
さらに、ブシュと連結ピンとが摺動して発生した摩擦熱により潤滑油の油温度が上昇した場合であっても、Oリングが潤滑油と外気との接触を妨げて摩擦熱を外気に放熱させないため、潤滑油が高温になるにつれて粘度を失い劣化するおそれがあるという問題があった。
【0005】
また、前述したような従来の含油焼結金属製ブシュを用いた無給油チェーンは、含油焼結金属製ブシュの機械特性が鋼鉄製ブシュに比べて劣るため、チェーンの耐久性や剛性が相対的に低いという問題があった。
さらに、含油焼結金属製ブシュに含浸される潤滑油の油量が僅かであるため、潤滑油の油切れが早期に生じるおそれがあるという問題があった。
【0006】
そして、前述したような従来の吸湿材を用いた無給油チェーンは、フェルト等の吸湿材が潤滑油を含むと内プレートと外プレートとの間で隙間なく膨張するため、チェーン屈曲の際に吸湿材が内プレートおよび外プレートと摺動摩耗して潤滑油が吸湿材の摩耗部分から外部漏出するおそれがあるという厄介な問題があった。
さらに、吸湿材が十分な機械特性を備えていない場合にはチェーン屈曲の際に吸湿材が変形したり破損するため、含浸させた潤滑油をブシュと連結ピンとの間に有効に供給することができないおそれがあるという問題があった。
【0007】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、チェーン駆動時に生じがちな潤滑油の外部漏出と外部からの異物侵入を抑制して潤滑油の熱的劣化を防止するとともに潤滑油を長期に亘って使用し、しかも、シールカバーの不用意な脱落や変形を防止する無給油チェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本請求項1に係る発明は、離間配置する左右一対の内プレートと、該内プレートのブシュ圧入孔にブシュ端部をそれぞれ圧入嵌通させるブシュと、該ブシュ内へ緩挿する連結ピンと、該連結ピンをピン圧入孔に圧入嵌合して前後の内プレートをチェーン長手方向に連結する左右一対の外プレートと、前記外プレートの内側面から外側面に向けて被嵌して前記ブシュと連結ピンとの間に供給された潤滑油の外部漏出を封止するシールカバーとを備えた無給油チェーンであって、前記シールカバーが、前記内プレートと外プレートとの間に介装するシールベース部と該シールベース部に穿設してブシュのブシュ端部を緩挿するブシュ遊嵌孔と前記シールベース部と一体成形して外プレートの外周縁を密封状態で囲繞するシール周壁部とを備えていることによって、前述した課題を解決するものである。
【0009】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載された無給油チェーンの構成に加えて、前記外プレートが、前記シールカバーのシールベース部の外側面に突出する位置決め段部と当接して前記外プレートとシールベース部との間隙に潤滑油を貯留する油貯留領域を形成していることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0010】
本請求項3に係る発明は、請求項2に記載された無給油チェーンの構成に加えて、前記シールカバーが、前記シールベース部の外側面の中央部位から外プレートに向けて突出して前記油貯留領域を保持するベース着座部を備えていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0011】
本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の無給油チェーンの構成に加えて、前記シールカバーが、前記シールベース部の内側面にブシュ遊嵌孔と同心円状に形成して潤滑油を滞留させる複数の油滞留用環状溝を備えていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0012】
本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の無給油チェーンの構成に加えて、前記外プレートの内側面とシールベース部の内側面との間隔寸法が、前記内プレートの外側面から外プレートに向けて突出したブシュ端部の突出寸法より小さく設定されていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0013】
本請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の無給油チェーンの構成に加えて、前記外プレートの内側面とシールベース部の外側面との間隙寸法が、前記外プレートの内側面とブシュのブシュ端部との間隔寸法より大きく設定されていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
なお、本明細書において、「内側面」とは、チェーン幅方向に対して内側に面した部分を意味し、「外側面」とは、チェーン幅方向に対して外側に面した部分を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本請求項1に係る発明の無給油チェーンは、離間配置する左右一対の内プレートと、この内プレートのブシュ圧入孔にブシュ端部をそれぞれ圧入嵌通させるブシュと、このブシュ内へ緩挿する連結ピンと、この連結ピンをピン圧入孔に圧入嵌合して前後の内プレートをチェーン長手方向に連結する左右一対の外プレートと、外プレートの内側面から外側面に向けて被嵌してブシュと連結ピンとの間に供給された潤滑油の外部漏出を封止するシールカバーとを備えていることにより、ブシュと連結ピンとが相互に潤滑油を介して円滑に摺動するため、内プレートと外プレートとが相対的に屈曲回動して本来のチェーン機能を発揮し、また、ブシュ端部が内プレートを嵌通して外プレートに向けて突出しているため、この突出したブシュ端部がブシュと連結ピンとの間に供給された潤滑油の障壁となって内プレートと外プレートとの間に生じがちな潤滑油の外部漏出を抑制することができる。
【0015】
そして、シールカバーが、内プレートと外プレートとの間に介装するシールベース部とこのシールベース部に穿設してブシュのブシュ端部を緩挿するブシュ遊嵌孔とシールベース部と一体成形して外プレートの外周縁を密封状態で囲繞するシール周壁部とを備えていることにより、シールカバーが外プレートの外周縁を密封状態で抱持して外プレートと一体に組み付けられているため、チェーン駆動時におけるシールカバーの不用意な脱落や変形を防止するとともに、外プレートとシールカバーとの間に生じがちな潤滑油の外部漏出を抑制し、しかも、シールカバーの耐久性や剛性を向上させることができる。
【0016】
また、請求項2に係る発明によれば、請求項1に記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、外プレートがシールカバーのシールベース部の外側面に突出する位置決め段部と当接して外プレートとシールベース部との間隙に潤滑油を貯留する油貯留領域を形成していることにより、この油貯留領域がブシュと連結ピンとの間から外プレートとシールベース部との間隙に漏出してくる潤滑油を集約貯留するため、外プレートとシールカバーとの間で生じがちな潤滑油の外部漏出の勢いを抑制することができる。
【0017】
そして、チェーン駆動時にブシュと連結ピンとの摺動により生じた摩擦熱が潤滑油に伝熱した場合であっても、このような摩擦熱に晒された潤滑油が油貯留領域に貯留された状態で外プレートを介して放熱されるため、潤滑油の熱的劣化を防止して潤滑油を長期に亘って使用することができる。
【0018】
また、請求項3に係る発明によれば、請求項2に記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、シールカバーがシールベース部の外側面の中央部位から外プレートに向けて突出して油貯留領域を保持するベース着座部を備えていることにより、シールカバーのシールベース部がチェーン幅方向に外力を受けて歪みを生じがちな場合であっても、このベース着座部が外プレートの内側面に当接着座してシールベース部の屈曲変形を防止するため、油貯留領域の形態を安定させて潤滑油の貯留容量を長期にわたって確保することができる。
【0019】
また、請求項4に係る発明によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、シールカバーがシールベース部の内側面にブシュ遊嵌孔と同心円状に形成して潤滑油を滞留させる油滞留用環状溝を備えていることにより、このような複数の油滞留用環状溝が内プレートの外側面とシールベース部の内側面との間に凹凸空間を形成してラビリンス機能を発揮するため、内プレートとシールカバーとの間に生じがちな潤滑油の外部漏出をより一段と抑制するとともに外部からの異物の侵入を抑制することができる。
【0020】
また、請求項5に係る発明によれば、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、外プレートの内側面とシールベース部の内側面との間隔寸法が、内プレートの外側面から外プレートに向けて突出したブシュ端部の突出寸法より小さく設定されていることにより、内プレートと外プレートとのチェーン幅方向の相対移動に伴ってブシュのブシュ端部が外プレートの内側面に当接する場合であっても、シールベース部の内側面が内プレートの外側面と隙間を空けて対向するため、内プレートとシールベース部との接触によるシールカバーの変形、損傷を確実に回避することができる。
【0021】
そして、請求項6に係る発明によれば、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の無給油チェーンが奏する効果に加えて、外プレートの内側面とシールベース部の外側面との間隙寸法が外プレートの内側面とブシュのブシュ端部との間隔寸法より大きく設定されていることにより、潤滑油が外プレートの内側面とブシュのブシュ端部との狭小な間隙から外プレートの内側面とシールベース部の外側面との広い間隙、すなわち、油貯留領域に放散されるため、ブシュのブシュ端部とシールカバーのブシュ遊嵌孔との間から外部漏出する潤滑油の勢いを確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例である無給油チェーンの斜視図。
【図2】本実施例の無給油チェーンの分解組み立て状態を示す斜視図。
【図3】本実施例の無給油チェーンの断面図。
【図4】本実施例の無給油チェーンに用いるシールカバーの斜視図。
【図5】図4の矢印V方向から視たシールカバーの斜視図。
【図6】図3のVI部で示す要部拡大図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、離間配置する左右一対の内プレートと、この内プレートのブシュ圧入孔にブシュ端部をそれぞれ圧入嵌通させるブシュと、このブシュ内へ緩挿する連結ピンと、この連結ピンをピン圧入孔に圧入嵌合して前後の内プレートをチェーン長手方向に連結する左右一対の外プレートと、外プレートの内側面から外側面に向けて被嵌してブシュと連結ピンとの間に供給された潤滑油の外部漏出を封止するシールカバーとを備えた無給油チェーンであって、シールカバーが内プレートと外プレートとの間に介装するシールベース部とこのシールベース部に穿設してブシュのブシュ端部を緩挿するブシュ遊嵌孔とシールベース部と一体成形して外プレートの外周縁を密封状態で囲繞するシール周壁部とを備え、チェーン駆動時に生じがちな潤滑油の外部漏出と外部からの異物侵入を抑制して潤滑油の熱的劣化を防止するとともに潤滑油を長期に亘って使用し、しかも、シールカバーの不用意な脱落や変形を防止するものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても何ら構わない。
【0024】
すなわち、本発明の無給油チェーンは、連結ピンとブシュとの間に潤滑油を封入してなるチェーンであれば良く、例えば、外プレート、内プレート、連結ピン、ブシュで構成されるブシュチェーン、または、外プレート、内プレート、連結ピン、ブシュ、ローラで構成されるローラチェーンのいずれであっても構わない。
【0025】
本発明で用いるシールカバーの具体的な材質については、内プレートと外プレートとの間に介装するシールベース部とこのシールベース部に穿設してブシュのブシュ端部を緩挿するブシュ遊嵌孔とシールベース部と一体成形して外プレートの外周縁を密封状態で囲繞するシール周壁部とを造形し得るもので如何なるものであっても良く、耐熱性樹脂、耐油性樹脂、ゴム材、鋼鉄材、アルミニウム材等であっても構わない。
【0026】
本発明で用いるシールカバーの位置決め段部の具体的態様については、シールカバーのシールベース部の外側面に突出して外プレートと当接することにより外プレートとシールベース部との間隙に潤滑油を貯留する油貯留領域を確保するものであれば良く、シールカバーのシール周壁部の全周、または、数カ所に設けられていても何ら構わない。
【0027】
本発明で用いるシールカバーのベース着座部の具体的態様については、シールベース部の外側面の中央部位から外プレートに向けて突出して油貯留領域を保持するものであれば良く、シールカバーのシールベース部の中央部位に1つ、または、2つ以上設けられても構わない。
【0028】
本発明で用いるシールカバーの内側面に形成される油滞留用環状溝の具体的な設置数については、シールベース部の内側面にブシュ遊嵌孔と同心円状に形成して潤滑油を滞留させるものであれば良く、1列のみ設けても、連結ピンと同心円状に複数列を設けても構わない。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の一実施例である無給油チェーンについて、図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の一実施例である無給油チェーンの斜視図であり、図2は、図1に示す無給油チェーンの分解組み立て状態を示す斜視図であり、図3は、本実施例の無給油チェーンを連結ピンの回転軸に沿って切断した断面図であり、図4は、本実施例の無給油チェーンに用いるシールカバーの斜視図であり、図5は、図4の矢印V方向から視たシールカバーの斜視図であり、図6は、図3のVI部で示す要部拡大図である。
【0030】
まず、本発明の一実施例である無給油チェーン100は、図1および図2に示すように、離間配置する左右一対の内プレート110、110と、この内プレート110のブシュ圧入孔111にブシュ端部121をそれぞれ圧入嵌通した鋼鉄製ブシュ120と、このブシュ120内へ緩挿した連結ピン130と、この連結ピン130をピン圧入孔141に圧入嵌合して前後の内プレート110、110をチェーン長手方向に連結する左右一対の外プレート140、140と、ブシュ120に回転自在に外嵌されたローラ150と、外プレート140の内側面140aから外側面140bに向けて被嵌してブシュ120と連結ピン130との間に供給された潤滑油の外部漏出を封止するシールカバー160とを備えている。
これにより、ブシュ120と連結ピン130とが、相互に潤滑油を介して円滑に摺動するとともに、突出したブシュ端部121が、ブシュ120と連結ピン130との間に供給された潤滑油の障壁となっている。
【0031】
次に、本実施例の無給油チェーン100が最も特徴とするシールカバー160の具体的な態様について、図に基づいて説明する。
【0032】
まず、図3に示すように、合成樹脂製のシールカバー160は、内プレート110と外プレート140との間に介装するシールベース部161と、シールベース部161に穿設してブシュ120のブシュ端部121を緩挿するブシュ遊嵌孔162と、シールベース部161と一体成形して外プレート140の外周縁140cを密封状態で囲繞するシール周壁部163とを備えている。
これにより、シールカバー160が、外プレート140の外周縁140cを密封状態で抱持して外プレート140と一体に組み付けられる。
なお、本実施例では、シールカバー160に合成樹脂材を用いたが、鋼材やアルミ材を用いても何ら構わない。
【0033】
そして、前述したシールカバー160は、ブシュ端部121とブシュ遊嵌孔162との間に無給油チェーン100のチェーンピッチに対して例えば2%程度の隙間を空けてブシュ端部121を緩挿している。
これにより、チェーン屈曲の際にシールカバー160のブシュ遊嵌孔162の内周が、ブシュ120の外周と過度に摺接することなく、ブシュ120が、シールカバー160に対して円滑に相対屈曲する。
【0034】
シールカバー160は、図4に示すように、シールベース部161の外側面161aの周縁にこの外側面161aに対して垂直方向に突出する位置決め段部164を備えている。
そして、外プレート140は、この位置決め段部164と当接して、外プレート140とシールベース部161との間の潤滑油を貯留する油貯留領域Sと称する間隙を形成している。
これにより、油貯留領域Sが、ブシュ120と連結ピン130との間から外プレート140とシールベース部161との間隙に漏出してくる潤滑油を集約して貯留し、また、チェーン駆動時にブシュ120と連結ピン130との摺動により生じた摩擦熱が潤滑油に伝熱した場合であっても、摩擦熱に晒された潤滑油が油貯留領域Sに貯留された状態で外プレート140を介して放熱する。
【0035】
また、シールカバー160は、図4に示すように、シールベース部161の外側面161aの中央部位からこの外側面161aに対して垂直方向に突出したベース着座部165を備えている。
ベース着座部165は、外プレート140の内側面140aに当接して、油貯留領域Sを保持している。
これにより、シールカバー160のシールベース部161がチェーン幅方向に外力を受けて歪みを生じがちな場合であっても、ベース着座部165が、外プレート140の内側面140aに当接着座してシールベース部161の屈曲変形を防止して、油貯留領域Sの形態を安定させて潤滑油の貯留容量を長期にわたって確保するようになっている。
【0036】
また、シールカバー160は、図5に示すように、シールベース部161の内側面161bにブシュ遊嵌孔162と同心円状に形成された3重の油滞留用環状溝166を備えている。
すなわち、油滞留用環状溝166は、シールベース部161の内側面161bから外側面161aに向けて凹設されて、図6中の矢印のように潤滑油を滞留させるように配置されている。
これにより、油滞留用環状溝166が、内プレート110の外側面110aとシールベース部161の内側面161bとの間に凹凸空間を形成してラビリンス機能を発揮して、内プレート110とシールカバー160との間に生じがちな潤滑油の外部漏出をより一段と抑制するとともに外部からの異物の侵入を抑制するようになっている。
【0037】
また、図6に示すように、外プレート140の内側面140aとシールベース部161の内側面161bとの間隔寸法Tは、内プレート110の外側面110aから外プレート140に向けて突出したブシュ端部121の突出寸法Lより小さく設定されている。
これにより、内プレート110と外プレート140とのチェーン幅方向の相対移動に伴ってブシュ120のブシュ端部121が外プレート140の内側面140aに当接する場合であっても、シールベース部161の内側面161bが内プレート110の外側面110aと隙間を空けて対向して、内プレート110とシールベース部161との接触によるシールカバー160の変形、損傷を確実に回避するようになっている。
【0038】
そして、外プレート140の内側面140aとシールベース部161の外側面161aとの間隙寸法は、外プレート140の内側面140aとブシュ120のブシュ端部121との間隔寸法より大きく設定されている。
これにより、潤滑油が外プレート140の内側面140aとブシュ120のブシュ端部121との狭小な間隙から外プレート140の内側面140aとシールベース部161の外側面161aとの広い間隙、すなわち、油貯留領域Sに放散されるため、ブシュ120のブシュ端部121とシールカバー160のブシュ遊嵌孔162との間から外部漏出する潤滑油の勢いを確実に抑制することができる。
【0039】
このようにして得られた本実施例の無給油チェーン100は、離間配置する左右一対の内プレート110、110と、この内プレート110のブシュ圧入孔111にブシュ端部121をそれぞれ圧入嵌通させるブシュ120と、このブシュ120内へ緩挿する連結ピン130と、この連結ピン130をピン圧入孔141に圧入嵌合して前後の内プレート110、110をチェーン長手方向に連結する左右一対の外プレート140、140と、外プレート140の内側面140aから外側面140bに向けて被嵌してブシュ120と連結ピン130との間に供給された潤滑油の外部漏出を封止するシールカバー160とを備えていることにより、内プレート110と外プレート140とが相対的に屈曲回動して本来のチェーン機能を発揮し、また、突出したブシュ端部121がブシュ120と連結ピン130との間に供給された潤滑油の障壁となって内プレート110と外プレート140との間に生じがちな潤滑油の外部漏出を抑制することができる。
【0040】
また、シールカバー160が内プレート110と外プレート140との間に介装するシールベース部161とこのシールベース部161に穿設してブシュ120のブシュ端部121を緩挿するブシュ遊嵌孔162とシールベース部161と一体成形して外プレート140の外周縁140cを密封状態で囲繞するシール周壁部163とを備えていることにより、チェーン駆動時におけるシールカバー160の不用意な脱落や変形を防止するとともに、外プレート140とシールカバー160との間に生じがちな潤滑油の外部漏出を抑制し、しかも、シールカバー160の耐久性や剛性を向上させることができる。
【0041】
そして、外プレート140がシールカバー160のシールベース部161の外側面161aに突出する位置決め段部164と当接して外プレート140とシールベース部161との間隙に潤滑油を貯留する油貯留領域Sを形成していることにより、外プレート140とシールカバー160との間で生じがちな潤滑油の外部漏出の勢いを抑制し、また、潤滑油の熱的劣化を防止して潤滑油を長期に亘って使用することができる等、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0042】
100 ・・・ 無給油チェーン
110 ・・・ 内プレート
110a・・・ 外側面
111 ・・・ ブシュ圧入孔
120 ・・・ ブシュ
120a・・・ ブシュ端面
121 ・・・ ブシュ端部
130 ・・・ 連結ピン
140 ・・・ 外プレート
140a・・・ 内側面
140b・・・ 外側面
140c・・・ 外周縁
141 ・・・ ピン圧入孔
150 ・・・ ローラ
160 ・・・ シールカバー
161 ・・・ シールベース部
161a・・・ 外側面
161b・・・ 内側面
162 ・・・ ブシュ遊嵌孔
163 ・・・ シール周壁部
164 ・・・ 位置決め段部
165 ・・・ ベース着座部
166 ・・・ 油貯留用環状溝
S ・・・ 油貯留空間
L ・・・ 突出寸法
T ・・・ 間隔寸法


【特許請求の範囲】
【請求項1】
離間配置する左右一対の内プレートと、該内プレートのブシュ圧入孔にブシュ端部をそれぞれ圧入嵌通させるブシュと、該ブシュ内へ緩挿する連結ピンと、該連結ピンをピン圧入孔に圧入嵌合して前後の内プレートをチェーン長手方向に連結する左右一対の外プレートと、前記外プレートの内側面から外側面に向けて被嵌して前記ブシュと連結ピンとの間に供給された潤滑油の外部漏出を封止するシールカバーとを備えた無給油チェーンであって、
前記シールカバーが、前記内プレートと外プレートとの間に介装するシールベース部と該シールベース部に穿設してブシュのブシュ端部を緩挿するブシュ遊嵌孔と前記シールベース部と一体成形して外プレートの外周縁を密封状態で囲繞するシール周壁部とを備えていることを特徴とする無給油チェーン。
【請求項2】
前記外プレートが、前記シールカバーのシールベース部の外側面に突出する位置決め段部と当接して前記外プレートとシールベース部との間隙に潤滑油を貯留する油貯留領域を形成していることを特徴とする請求項1に記載の無給油チェーン。
【請求項3】
前記シールカバーが、前記シールベース部の外側面の中央部位から外プレートに向けて突出して前記油貯留領域を保持するベース着座部を備えていることを特徴とする請求項2に記載の無給油チェーン。
【請求項4】
前記シールカバーが、前記シールベース部の内側面にブシュ遊嵌孔と同心円状に形成して潤滑油を滞留させる油滞留用環状溝を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の無給油チェーン。
【請求項5】
前記外プレートの内側面とシールベース部の内側面との間隔寸法が、前記内プレートの外側面から外プレートに向けて突出したブシュ端部の突出寸法より小さく設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の無給油チェーン。
【請求項6】
前記外プレートの内側面とシールベース部の外側面との間隙寸法が、前記外プレートの内側面とブシュのブシュ端部との間隔寸法より大きく設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の無給油チェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−11313(P2013−11313A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144797(P2011−144797)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)