説明

無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブ

【課題】不平衡型配線を用いて平衡型回路のインピーダンス測定を行う際に必要な平衡不平衡変換器(バラン)付プローブで、平衡性が高く正確な測定値となるものを実現する。
【解決手段】本発明の平衡不平衡変換器付プローブは、同軸型給電線と、それに並行する同軸型分岐導体を備え、その端部位置を揃えた物である。また、同軸型給電線の内部導体と上記同軸型分岐導体の内部導体は、内部導体短絡線で短絡し、外部体どうしは、上記の端部のほぼ反対位置で外部導体短絡線で短絡する。さらに、上記端部には、触針をつけて測定に用いる。これらの触針は、なるべく離す。同軸型分岐導体の上記端部から外部導体短絡線での短絡部までの長さは、測定の際の波長の4分の1にその10から20%を加えた長さである。また、同軸型給電線と同軸型分岐導体の間隔は同軸給電線外径の1.2倍であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線タグのインピーダンスをその通信周波数帯域で測定する際に必要となる平衡不平衡変換器付プローブに関している。
【背景技術】
【0002】
無線タグにおいても、アンテナ部と半導体集積回路部とのインピーダンス整合を取る必要があることはよく知られている。また、これらのインピーダンスは、ネットワークアナライザ等を用いて測定されるが、ネットワークアナライザの測定プローブは、一般に同軸ケーブルを用いたものであり、不平衡型の電気回路である。
【0003】
一方、アンテナは平衡型の電気回路であり、また、そのため、上記半導体集積回路部のアンテナとの接続部分も平衡型である。このため、アンテナ部と半導体集積回路部とのインピーダンス整合を取るには、平衡型の測定器でそれぞれのインピーダンスを測定する必要がある。
【0004】
不平衡型の測定プローブをもったネットワークアナライザで平衡型の電気回路の測定を行う場合は、平衡不平衡変換器(バラン)を介在させることが、通常行なわれる。
【0005】
無線タグは小型にすることで多くの利便性が生じることから、また、伝送情報量の観点から、その通信周波数帯域は、UHF帯以上の周波数が用いられることが多い。
【0006】
このような周波数帯域でのバランとしては、同軸ケーブルを用いたものや、ストリップラインを用いたものが知られている。また、バランを入力端あるいは出力端から見た場合に、それぞれ直流的に短絡したものと開放のものとに分けることが出来る。
【0007】
例えば、非特許文献1(遠藤、他著、「アンテナ工学」、日刊工業新聞社、257頁)には、図3(a)に示すバランが開示されている。これは、分岐導体を用いた平衡不平衡変換回路である。このバランは、直流的に見て、入力端の外部導体と芯線とは短絡していないが、出力端の導体どうしは短絡している。さらに、入力端と出力端は、直流的には接続されていない。また、分岐導体の長さ(L)が4分の1波長の場合に、負荷が直接接続された状態になることが記載されている。
【0008】
しかし、上記の分岐導体を用いた平衡不平衡変換回路を、図3(b)の回路で実際の測定に適用してみると、その出力が平衡からずれている事が分かる。例えば、校正ずみの同軸測定系に上記の平衡不平衡変換回路をつけ、出力端を開放した状態でスミスチャート上開放の位置である図4のスミスチャートでA点に表示するよう電気長を調整した後、出力端を短絡するとインピーダンスは、180度回転した実数軸上のB点にはなく、C点にいるためリアクタンス成分を持っていることが分かる。このため、この平衡不平衡変換回路を用いてのインピーダンス測定では、不正確な測定値となってしまう。不正確になる主な要因は接合部の大きさや短絡部の長さによるリアクタンス要因が考えられる。しかし、この平衡不平衡変換回路は通常アンテナ給電系に使用されるため、平衡不平衡変換回路内で発生している前記不正確要因はアンテナ側のインピーダンス特性を利用して補正している。しかし、インピーダンス測定プローブ用途の場合、出力端にオープン負荷・ショート負荷・50Ω負荷を接続したときに、それぞれ正確にオープン・ショート・50Ω表示することが求められる。
【非特許文献1】遠藤、他著、「アンテナ工学」、日刊工業新聞社、257頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
不平衡型配線を用いて平衡型回路のインピーダンス測定を行う際に必要な平衡不平衡変換器(バラン)付プローブで、平衡性が高く正確な測定値となるものを実現する。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブであって、不平衡型配線を用いて平衡型回路のインピーダンス測定を行う際に用いるものである。この平衡不平衡変換器付プローブは、(1)同軸型給電線に並行する同軸型分岐導体を備える。(2)また、上記同軸型給電線の端部と上記同軸型分岐導体の端部は、前記同軸型分岐導体の長手方向に垂直な共通線上にあって、(3)上記同軸型給電線の内部導体と上記同軸型分岐導体の内部導体とが前記同軸型分岐導体の長手方向に垂直な共通線上内部導体短絡線で短絡し、(4)上記同軸型分岐導体の他の端部の外部導体は、前記同軸型分岐導体の長手方向に垂直な他の共通線上で、上記同軸型給電線の外部導体と外部導体短絡線で短絡している。(5)さらに、上記同軸型給電線の外部導体の上記端部と上記同軸型分岐導体の外部導体の上記端部とからそれぞれ上記同軸型分岐導体の5%以下の長さの触針が伸びたものであって、(6)上記同軸型分岐導体の上記端部から上記外部導体短絡線での短絡部までの長さは、上記同軸型分岐導体の伝播波長の4分の1にその10から20%を加えた長さであって、上記同軸型給電線と上記同軸型分岐導体とは、同外径を有し、上記同軸給電線と上記同軸型分岐導体との間隔は上記外径の1.2倍であることにより、出力端にオープン負荷・ショート負荷・50Ω負荷を接続したときに、それぞれ正確にオープン・ショート・50Ωを表示し正確に測定することができる。
【0012】
特に、上記外部導体短絡線での短絡部は、移動可能である構成にすることによって、触針形状による微調整が可能であり、より正確な測定ができる。
【0013】
また、上記のそれぞれの触針は、上記同軸型給電線の外部導体の上記端部の外側位置と上記同軸型分岐導体の外部導体の上記端部の外側位置との互いに最も離間するそれぞれの位置に固定する。これによって、触針の状態による測定値へ影響を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、この発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明においては、同じ機能あるいは類似の機能をもった装置に、特別な理由がない場合には、同じ符号を用いるものとする。
【実施例1】
【0015】
図1(a)は、本発明は無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブ1である。これは、図1(b)に示す様に、不平衡型配線である同軸ケーブル2を用いて平衡型回路のインピーダンス測定を行う際に用いるものである。この平衡不平衡変換器付プローブ1は、次のような特徴をもつものである。
【0016】
(1)同軸型給電線4に並行する同軸型分岐導体6を備える。同軸型給電線4と軸型分岐導体6とは、伝送インピーダンスが50オームで一致するものであり、同軸型給電線4は、コネクタ3によって、ネットワークアナライザ10から伸びる同軸測定系2に接続する。
【0017】
(2)また、触針7あるいは触針8のついた側の同軸型給電線4の端部と同軸型分岐導体6の端部は、同軸型分岐導体6の長手方向に垂直な共通線上にあって縦方向に揃っている。
【0018】
また、(3)同軸型給電線4の内部導体と同軸型分岐導体6の内部導体とが内部導体短絡導体9によって同軸型分岐導体4の長手方向に垂直な共通線上で短絡している。
【0019】
(4)また、同軸型分岐導体6の先の端部と反対側の他の端部の外部導体は、同軸型分岐導体6の長手方向に垂直な他の共通線上で、同軸型給電線4の外部導体と外部導体短絡導体5で短絡している。この外部導体短絡導体5は、固定したものでもよいが、移動できるようにしておくことによって、広い周波数帯で使用することができるようになる。ここで、同軸分岐導体の芯線の長さは、測定端よりショートバーの位置までの長さの約70%である。これは、図1において芯線と外部導体とを分離する絶縁体としてテフロン(登録商標)を用いた場合であって、他の材料を用いる場合は、その比誘電率に応じて決まる短縮率を用いることが望ましい。
【0020】
(5)さらに、同軸型給電線4の外部導体の上記端部と同軸型分岐導体6の外部導体の上記端部とからそれぞれ同軸型分岐導体6の5%以下の長さの触針が伸びたものである。
【0021】
また、(6)同軸型分岐導体6の上記端部から外部導体短絡導体5での短絡部までの長さ(L)は、測定しようとする周波数帯の信号の同軸型分岐導体6における伝播波長(λ)の4分の1にその5%から15%を加えた予め決められた長さである。
【0022】
この長さLは、触針7と触針8間を短絡し、その複素インピーダンスを測定して、虚数部分が許容値に入るようにすることで決めることができる。L=α×λ/4とする場合、α=1.00、1.10、1.20のそれぞれの場合の測定結果を、図2のスミスチャートの、A、B、C点に示す。この結果から、α=1.10の場合に、正しい測定値が得られることが分かる。このαの値は、許容される測定誤差によって変るが、無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブ1を用いたインピーダンスの測定値を5%の誤差に納めようとする場合は、α=1.05から1.10の範囲にする。また、10%の誤差が許容される場合には、α=1.00から1.20の範囲にする。
【0023】
上記のように外部導体短絡導体5は、移動できるようにすることで、適用できる測定帯域を広くすることができる事に加えて、これを適宜移動させることで、測定誤差を小さくすることができる。
【0024】
また、触針7あるいは触針8は、なるべく短くすることで、誤差を少なくすることができる。これに加えて、これらの触針間の距離をなるべく大きくすることが望ましい。例えば、図1(a)に示す様に、触針7と触針8とを、同軸型給電線4の外部導体の端部の外側位置と同軸型分岐導体6の外部導体の端部の外側位置との互いに最も離間するそれぞれの位置に固定する。
【0025】
本発明の無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブを用いて測定する場合は、例えば、次のような手順になる。
(1)同軸測定系2つきのネットワークアナライザ10で、同軸測定系をオープン負荷・ショート負荷・50Ω負荷を使って校正する。
(2)本発明の無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブを同軸測定系2に接続する。
(3)触針7と触針8間を短絡し、その複素インピーダンスを測定して、ネットワークアナライザ10の表示が0Ωを示すようネットワークアナライザ10の電気長を調整する。
(4)触針7と触針8を測定対象に接触させてインピーダンスなどを測定する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
上記の同軸型給電線4と軸型分岐導体6との伝送インピーダンスは50オームとしたが、75オームの場合にも、上記と同様に無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブを構成することができる。但し、この場合は、同軸型給電線及び同軸型分岐導体の特性インピーダンスを75Ωに変更する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブを示す図である。
【図2】測定点を書き入れたスミスチャートである。
【図3】従来の分岐導体を用いた平衡不平衡変換回路の例を示す図である。
【図4】従来の測定で得られる測定点を示すスミスチャートである。
【符号の説明】
【0028】
1 無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブ
2 同軸ケーブル
3 コネクタ
4 同軸型給電線
5 外部導体短絡導体
6 同軸型分岐導体
7、8 触針
9 内部導体短絡導体
10 ネットワークアナライザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸型給電線に並行する同軸型分岐導体を備え、
上記同軸型給電線の端部と上記同軸型分岐導体の端部は、前記同軸型分岐導体の長手方向に垂直な共通線上にあって、
上記同軸型給電線の内部導体と上記同軸型分岐導体の内部導体とが前記同軸型分岐導体の長手方向に垂直な共通線上内部導体短絡線で短絡し、
上記同軸型分岐導体の他の端部の外部導体は、前記同軸型分岐導体の長手方向に垂直な他の共通線上で、上記同軸型給電線の外部導体と外部導体短絡線で短絡し、
上記同軸型給電線の外部導体の上記端部と上記同軸型分岐導体の外部導体の上記端部とからそれぞれ上記同軸型分岐導体の5%以下の長さの触針が伸びたものであって、
上記同軸型給電線と上記同軸型分岐導体とは、同外径を有し、
上記同軸型給電線と上記同軸型分岐導体との間隔は、上記外径の1.2倍であり、
上記同軸型分岐導体の上記端部から上記外部導体短絡線での短絡部までの長さは、上記同軸型分岐導体の伝播波長の4分の1にその10から20%を加えた長さであることを特徴とする無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブ。
【請求項2】
上記外部導体短絡線での短絡部は、移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブ。
【請求項3】
上記のそれぞれの触針は、上記同軸型給電線の外部導体の上記端部の外側位置と上記同軸型分岐導体の外部導体の上記端部の外側位置との互いに最も離間するそれぞれの位置に固定されていることを特徴とする請求項1あるいは2のいずれか一方に記載の無線タグ用平衡不平衡変換器付プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−253584(P2009−253584A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97994(P2008−97994)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【出願人】(398002167)アンテナテクノロジー株式会社 (6)