説明

無線タグ距離測定装置

【課題】無線タグ距離測定システムにおいて、複数の無線タグから送信される応答信号の干渉を回避すること、および距離測定精度を向上させることを目的とする。
【解決手段】無線タグ距離測定装置10は、距離測定対象の無線タグの固有割り当てPN符号に応じて値が変化するPN信号を生成し、さらにPN信号に基準正弦波信号を乗じた正弦波PN信号を生成する。そして、正弦波PN信号を無線信号に変換した拡散パルス変調信号を送信する。無線タグ距離測定装置10は、無線タグによって拡散パルス変調信号に対して時間圧縮処理が施された圧縮パルス変調信号を受信する。無線タグ距離測定装置10は、正弦波PN信号を生成する元となった基準正弦波信号と、受信した圧縮パルス変調信号に含まれる基準正弦波信号との位相差に基づいて、無線タグまでの距離を算出する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線タグまでの距離を測定する無線タグ距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
量産工場等では、生産工程または品種ごとに保管位置が定められ製品管理を行うことが多い。このような製品管理を行うため、無線タグ距離測定システムが広く用いられる。無線タグ距離測定システムでは、管理対象製品に取り付けられた無線タグと距離測定装置との間の無線送受信によって、距離測定装置が無線タグまでの距離を測定する。
【0003】
無線タグまでの距離を測定する際には、距離測定装置はパルス信号を送信する。パルス信号を受信した無線タグは、固有に割り当てられた符号によって受信パルス信号を変調し、応答パルス信号として送信する。応答パルス信号を受信した距離測定装置は、応答パルス信号を変調した元の符号を識別することにより、応答パルス信号を送信した無線タグを特定する。そして、パルス信号を送信してから応答パルス信号が受信されるまでの時間に基づいて、特定した無線タグまでの距離を測定する。
【0004】
このような処理によれば、複数の無線タグのうち特定の無線タグまでの距離を測定することができ、距離測定装置から特定の無線タグが付された製品までの距離を測定することができる。
【0005】
無線タグ距離測定システムは、工場における製品管理の他、日用品、小物等の販売を行う小売店、イベント参加者の居場所を管理する必要があるイベント会場等に用いることができる。
【0006】
【特許文献1】特表2006−505018号公報
【特許文献2】特表2005−513629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の無線タグ距離測定システムでは、距離測定装置からの距離が等しい無線タグが複数ある場合、これらの無線タグからそれぞれ送信された応答パルス信号が時間的に重なって距離測定装置で受信される。このとき、複数の応答パルス信号が互いに干渉し、各無線タグまでの距離を測定することが困難となるという問題があった。また、無線タグ距離測定装置で検出された応答パルス信号にノイズが含まれていると、測定される距離の誤差が大きくなるという問題があった。
【0008】
本発明はこのような課題に対してなされたものである。すなわち、無線タグ距離測定システムにおいて、複数の無線タグからそれぞれ送信される応答信号の干渉を回避すること、および距離測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、目標物距離測定を行うための距離測定信号を送信する無線送信部と、前記距離測定信号の送信後に到来した到来信号を受信する無線受信部と、目標物とする無線タグまでの距離を算出する距離算出部と、を備える無線タグ距離測定装置において、前記無線タグの固有割り当てPN符号に応じた値を有するPN信号を生成し、当該PN信号に正弦波信号を乗じた信号に基づき前記距離測定信号を生成する距離測定信号生成部、を備え、前記無線受信部は、前記無線タグによって前記距離測定信号に対して時間圧縮処理が施された時間圧縮信号を前記到来信号として受信し、前記距離算出部は、前記距離測定信号を生成する元となった正弦波信号と、前記無線受信部で受信された到来信号に含まれる正弦波信号との位相差に基づいて、前記無線タグまでの距離を算出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る無線タグ距離測定装置においては、前記距離算出部は、前記距離測定信号の立ち上がり時刻と、前記無線受信部で受信された到来信号の立ち上がり時刻との差に基づいて、前記無線タグまでの距離を算出することが好適である。
【0011】
また、本発明に係る無線タグ距離測定装置においては、前記距離測定信号生成部は、前記PN信号に正弦波信号を乗じた信号を、搬送波に変調が施された信号に変換して前距離測定信号を生成し、前記距離算出部は、前記無線受信部で受信された到来信号の搬送波と、前記距離測定信号の搬送波と、の位相差に基づいて、前記無線タグまでの距離を算出することが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る無線タグ距離測定装置によれば、複数の無線タグからそれぞれ送信される応答信号の干渉を回避し、各無線タグまでの距離を測定することができる。また、距離測定精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に本発明の第1の実施形態に係る無線タグ距離測定システムの構成を示す。このシステムは、無線タグ距離測定装置10が、無線信号の送受信によって距離測定対象の無線タグまでの距離を測定するものである。無線タグ12−1〜12−4には、固有のPN符号(PNはPseudo Noiseの略である。)が割り当てられている。図1は、無線タグ12−1〜12−4に対し、固有のPN符号として、それぞれ「01001・・・」、「10011・・・」、「01111・・・」、および「10001・・・」が割り当てられている例を示している。無線タグ距離測定装置10は、距離測定対象とする無線タグをPN符号によって特定する。
【0014】
一般に、PN符号は1および0による擬似雑音パターンを示す。PN符号の値「1」および「0」に対し信号値「1」および「−1」をそれぞれ対応付けることで、PN符号のパターンで値が変化するPN信号を生成することができる。
【0015】
同一のPN符号に基づく2つのPN信号の間で畳み込み演算を行うと、1符号分の時間長を有する時間圧縮信号が得られる。ここで、畳み込み演算は、相関演算、またはコンボリューションとも称され、2つの信号の波形の近似度を求める演算である。一方、異なるPN符号に基づく2つのPN信号の間で畳み込み演算を行ったとしても、得られる信号の時間長は元のままとなる。このような時間圧縮に関する性質は、PN信号に他の信号が乗ぜられていても維持することができる。本発明の実施形態に係る無線タグ距離測定システムは、このようなPN符号の直交性を利用するものである。
【0016】
距離測定対象とする無線タグまでの距離を測定する際には、無線タグ距離測定装置10は、距離測定対象の無線タグの固有割り当てPN符号によってPN信号を生成する。そして、そのPN信号を基準正弦波信号に乗じた信号を無線信号に変換した拡散パルス変調信号を生成し送信する。
【0017】
拡散パルス変調信号を受信した複数の無線タグのうち、拡散パルス変調信号の生成に用いられたPN符号と自らの固有割り当てPN符号とが一致する無線タグは、受信した拡散パルス変調信号に対して時間圧縮処理を施した圧縮パルス変調信号を送信する。
【0018】
無線タグ距離測定装置10は、圧縮パルス変調信号を受信すると、拡散パルス変調信号を送信してから圧縮パルス変調信号が受信されるまでの時間に基づいて、距離測定対象の無線タグまでの距離を算出する。
【0019】
このような処理を実行するための無線タグ距離測定装置10の構成を図2に示す。無線タグ距離測定装置10は、PN信号に基準正弦波信号を乗じた正弦波PN信号を無線信号に変換し、拡散パルス変調信号として送信する。正弦波PN信号を用いることで、無線タグから送信される圧縮パルス変調信号は基準正弦波信号によって変調を受けた信号となる。無線タグ距離測定装置10は、圧縮パルス変調信号に含まれる基準正弦波信号の位相を用いて精度の高い距離測定を行う。
【0020】
PN符号記憶部14には、無線タグ距離測定システムで用いられる無線タグの固有割り当てPN符号が記憶されている。符号選択部16は、ユーザの操作または別に設けられた装置等によって距離測定対象の無線タグが指定されると、指定された無線タグの固有割り当てPN符号をPN符号記憶部14から読み込む。そして、読み込んだPN符号に基づいてPN信号を生成し乗算部20に出力する。
【0021】
正弦波信号生成部18は、基準正弦波信号を乗算部20および正弦波距離算出部36に出力する。乗算部20は、PN信号に基準正弦波信号を乗じた正弦波PN信号を無線送信部22および立ち上がり距離算出部34に出力する。
【0022】
図3(a)、(b)および(c)に、それぞれ、符号選択部16が出力するPN信号、基準正弦波信号、および正弦波PN信号を示す。ただし、これらの図が示す時間波形は、説明のための一つの例である。図3の縦軸は信号値を示し横軸は時間を示す。PN信号は、PN符号の符号変化に従って極性が変化する矩形信号である。正弦波PN信号は、PN信号の値に応じて極性が変化する正弦波信号である。なお、基準正弦波信号の周波数の設定については後述する。
【0023】
無線送信部22は、ローカル信号発生器24から出力されるローカル信号によって正弦波PN信号を無線信号に変換し、拡散パルス変調信号を生成する。拡散パルス変調信号は、正弦波PN信号によってローカル信号に変調が施された信号であり、元のPN信号の時間長と同一のパルス時間長を有する。無線送信部22は、拡散パルス変調信号を搬送波位相差検出部40に出力すると共に、拡散パルス変調信号を測定装置アンテナ26を介して送信する。
【0024】
このような処理によって、符号選択部16によって指定されたPN符号に基づく正弦波PN信号が生成され、正弦波PN信号を無線信号に変換した拡散パルス変調信号が、無線タグ距離測定装置10から送信される。
【0025】
なお、正弦波信号生成部18から正弦波距離算出部36に出力された基準正弦波信号、乗算部20から立ち上がり距離算出部34に出力された正弦波PN信号、および無線送信部22から搬送波位相差検出部40に出力された拡散パルス変調信号は、後述のように、無線タグまでの距離の測定に用いられる。
【0026】
拡散パルス変調信号は各無線タグで受信される。図4(a)に無線タグ12の構成を示す。無線タグアンテナ44で受信された拡散パルス変調信号は、分波器46に入力される。分波器46はパルス変調信号を相関処理デバイス48に出力する。分波器46は、サーキュレータ、方向性結合器等を用いて構成することができる。
【0027】
無線タグ12の相関処理デバイス48には、無線タグ12に固有に割り当てられたPN符号によって、入力信号に対して畳み込み演算を施し出力するものを用いる。このようなデバイスとしては、SAWデバイス、CCD(Charge Coupled Device)マッチドフィルタ、ディジタルマッチドフィルタ等を用いることができる。SAWデバイスには電源電力を供給する必要があるもの(SAWコンボルバ等)と、電源電力を供給する必要がないものとがある。電源電力を供給する必要がないSAWデバイスを用いた場合には、無線タグ12に電力供給源を搭載する必要がなくなる。
【0028】
また、ディジタルマッチドフィルタ、SAWコンボルバ等は、畳み込み演算を行う際のPN符号を任意に設定することができる。この場合の構成を図4(b)に示す。ここでは、ディジタルマッチドフィルタ48Aを用いた場合を示している。SAWコンボルバを用いる場合には、ディジタルマッチドフィルタ48AをSAWコンボルバに置き換えた構成とすればよい。無線タグ12には、PN符号を記憶するPN符号記憶部52およびPN符号設定回路50を設ける。PN符号記憶部52には、複数の異なるPN符号を予め記憶させておく。PN符号設定回路50は、PN符号記憶部52からPN符号を読み込み、そのPN符号に基づいてディジタルマッチドフィルタ48Aが処理を実行するよう、ディジタルマッチドフィルタ48Aの動作状態を設定する。また、PN符号記憶部52およびPN符号設定回路50を設ける代わりに、無線タグ12の外部の装置によって、ディジタルマッチドフィルタ48AにPN符号を設定する構成としてもよい。ディジタルマッチドフィルタ48Aを用いる無線タグ12の構成によれば、異なるPN符号が与えられた複数の無線タグ12に対し、ハードウエアを共通化することができる。
【0029】
相関処理デバイス48は、分波器46から出力された信号に対し、無線タグ12の固有割り当てPN符号によって畳み込み演算を施して分波器46に出力する。分波器46は、相関処理デバイス48から出力された信号を無線タグアンテナ44に出力する。無線タグアンテナ44からは分波器46から出力された信号が送信される。
【0030】
相関処理デバイス48に入力された信号が、固有割り当てPN符号が乗ぜられた信号である場合には、相関処理デバイス48からは、入力信号に対し時間圧縮処理が施された信号が出力される。一方、相関処理デバイス48に入力された信号が、固有割り当てPN符号とは異なる符号が乗ぜられた信号である場合には、相関処理デバイス48からは、入力信号に対し時間圧縮処理が施された信号は出力されない。
【0031】
したがって、無線タグアンテナ44で受信された拡散パルス変調信号が、固有割り当てPN符号が乗ぜられた信号である場合、相関処理デバイス48からは、拡散パルス変調信号に対し時間圧縮処理を施した信号が出力される。これによって、複数の無線タグのうち、受信した拡散パルス変調信号に乗ぜられている元のPN符号と、自らの固有割り当てPN符号とが一致する無線タグからは、その拡散パルス変調信号に対して時間圧縮処理が施された信号が圧縮パルス変調信号として送信される。
【0032】
次に、無線タグ距離測定装置10が、無線タグから送信された圧縮パルス変調信号に対して実行する処理について説明する。無線受信部28は、圧縮パルス変調信号を測定装置アンテナ26を介して受信する。受信増幅部30は、受信した信号を所定の信号レベルとなるまで増幅し、周波数変換部32および搬送波位相差検出部40に出力する。周波数変換部32は、ローカル信号発生器24から出力されるローカル信号によって、圧縮パルス変調信号の周波数を低域側にシフトする周波数変換を行い、周波数変換後の信号を立ち上がり距離算出部34および正弦波距離算出部36に出力する。
【0033】
立ち上がり距離算出部34は、圧縮パルス変調信号の包絡線を受信包絡線信号として求める。また、立ち上がり距離算出部34は、乗算部20から出力された正弦波PN信号の包絡線を送信包絡線信号として求める。
【0034】
立ち上がり距離算出部34は、送信包絡線信号の立ち上がり時刻と、受信包絡線信号の立ち上がり時刻との差を測定する。そして、測定した時間差に基づいて、無線タグ距離測定装置10と無線タグとの間を無線信号が往復するときの往復伝播時間を求める。立ち上がり距離算出部34は、往復伝播時間と無線信号の伝播速度とに基づいて無線タグとの間の往復距離(無線タグまでの距離の2倍)を往復立ち上がり距離D0として算出し、正弦波距離算出部36に出力する。
【0035】
立ち上がり距離算出部34は、往復伝播時間を算出するときは、信号が乗算部20から出力されてから測定装置アンテナ26に至るまでの遅延時間、無線タグの受送信応答時間、および、信号が測定装置アンテナ26で受信されてから立ち上がり距離算出部34に至るまでの遅延時間を、送信包絡線信号立ち上がり時刻と受信包絡線信号立ち上がり時刻との差から減算する。これによって、測定装置アンテナ26の位置を基準とした往復立ち上がり距離D0を算出することができる。これらの遅延時間は、無線タグ距離測定装置10および無線タグに固有の時間であり、予め設計またはキャリブレーションの段階で求めておくことができる。
【0036】
このようにして求められた往復立ち上がり距離D0には、測定分解能に応じた分解能誤差が含まれる。すなわち真の往復距離は、往復立ち上がり距離D0から分解能誤差を減じた距離と、往復立ち上がり距離D0に分解能誤差を加算した距離との間にある。この分解能誤差δRは、圧縮パルス変調信号の信号対雑音比SNR、PN符号の1符号当たりの時間長τ、送受信する信号の波形等によって定まる値であり、次の(数1)で与えられることが知られている。
(数1) δR≒(1/2)・k・c・τ/√SNR
【0037】
ここで、cは無線信号の伝播速度(3×108)、kは送受信する信号の波形等に基づいて定まる係数であり、図3(c)に示されるような正弦波PN信号を用いる場合には、1としてよい。分解能誤差δRは、設計の段階で求めておくことができる。
【0038】
このような処理によれば、往復立ち上がり距離D0を中心とし、プラス側およびマイナス側にそれぞれ分解能誤差δRの誤差が見込まれる往復距離を求めることができる。
【0039】
ここで、立ち上がり距離算出部34は、往復立ち上がり距離D0を表示部42に出力し、往復立ち上がり距離D0の半分を測定距離として表示部42に表示させてもよい。
【0040】
本実施形態に係る無線タグ距離測定装置10では、正弦波信号生成部18から出力される基準正弦波信号と、圧縮パルス変調信号に含まれる応答正弦波信号との位相差を用いることで、距離測定精度を向上させる。正弦波信号の位相差を用いた測定精度向上処理は、基準正弦波信号の周波数fを有する電磁波の伝播波長λ=c/fよりも分解能誤差δRの2倍が短くなるよう、無線タグ距離測定システムが設計されている場合に高い効果を得ることができる。すなわち、次の(数2)の関係が成立するよう、システム設計がなされていることが好ましい。
(数2) 2δR<c/f
【0041】
分解能誤差δRが先に定められている場合には、正弦波信号生成部18が生成する基準正弦波信号の周波数fは、c/(2δR)よりも小さくなるよう、すなわち、基準正弦波信号の波長λは2δRよりも長くなるよう決定すればよい。すなわち、(数1)を用いれば次の(数3)の関係を得ることができる。
(数3) f<c/(2δR)=√SNR/(k・τ)
【0042】
ここで、例えば、SNR=20dB=100、k=1、τ=100nsとすれば、基準正弦波信号の周波数fを100MHz未満とするという設計条件、すなわち、波長λを3mより長くするという設計条件を得ることができる。
【0043】
図5に正弦波信号の位相差を用いた測定精度向上処理のフローチャートを示す。正弦波距離算出部36は、FFT(Fast Fourier Transform)等の演算法を用い、圧縮パルス変調信号から周波数fの成分を応答正弦波信号として抽出する(S101)。正弦波距離算出部36は、基準正弦波信号と応答正弦波信号との位相差を測定位相差として求める(S102)。正弦波距離算出部36は、さらに、乗算部20から信号が出力されてから測定装置アンテナ26に至るまでの位相変化量、無線タグの受送信応答に基づく位相変化量、および信号が測定装置アンテナ26で受信されてから正弦波距離算出部36に至るまでの位相変化量を、測定位相差から減算した距離測定用位相差Pを求める(S103)。
【0044】
これらの位相変化量は、無線タグ距離測定装置10および無線タグに固有の量であり、予め設計またはキャリブレーションの段階で求めておくことができる。
【0045】
正弦波距離算出部36は、往復立ち上がり距離D0から分解能誤差δRを減算した下限値d1、および往復立ち上がり距離D0に分解能誤差δRを加算した上限値d2を求める(S104)。また、正弦波距離算出部36は、下限値d1を基準正弦波信号の波長λで除した値の小数点以下を切り捨てた値(整数部分)をmとして求める(S105)。そして、D1=λ(2mπ+P)/(2π)に従って求められる値を第1推定往復距離D1とする(S106)。
【0046】
正弦波距離算出部36は、上限値d2を基準正弦波信号波長λで除した値の小数点以下を切り捨てた値をnとして求める(S107)。そして、D2=λ(2nπ+P)/(2π)に従って求められる値を第2推定往復距離D2とする(S108)。
【0047】
正弦波距離算出部36は、第1推定往復距離D1と第2推定往復距離D2が等しいか否かを判定する(S109)。そして、これらの値が等しいときは、第1推定往復距離D1または第2推定往復距離D2を基本往復距離E0として決定し(S110)、詳細距離算出部38に出力する(S112)。
【0048】
正弦波距離算出部36は、第1推定往復距離D1と第2推定往復距離D2とが異なるときには、これらの往復距離のうち下限値d1と上限値d2との間にある方を選択する。そして、選択した往復距離を基本往復距離E0として決定し(S111)、詳細距離算出部38に出力する(S112)。
【0049】
ここで、正弦波距離算出部36は、基本往復距離E0を表示部42に出力し、基本往復距離E0の半分を測定距離として表示部42に表示させてもよい。
【0050】
ステップS101〜S103によれば、測定装置アンテナ26の位置を基準として、基準正弦波信号の位相と圧縮パルス変調信号に含まれる基準正弦波信号の位相との差が距離測定用位相差Pとして求められる。距離測定用位相差Pは0から2πまでの値をとる。この値は、無線タグとの間の往復距離を波長単位で表したときの小数点以下に対応する伝播位相変化量を表す。したがって、無線タグとの間の往復距離を波長単位で表したときの整数部分jを求め、その整数部分に2πを乗じて求まる位相に距離測定用位相差Pを加算した位相値2πj+Pを用い、無線タグとの間の往復距離をλ(2πj+P)/(2π)として求めることができる。
【0051】
ステップS105およびS107は、それぞれ、往復距離の下限値d1および上限値d2を波長単位で表したときの整数部分として、整数mおよびnを求める処理である。上記の整数jは、整数mまたはnのいずれか一方であり、往復距離は、ステップS106およびS108においてそれぞれ求められる推定往復距離D1またはD2のうちいずれか一方となる。
【0052】
上述のように、基準正弦波信号の波長λは、分解能誤差δRの2倍よりも長くなるよう設定されている。そのため、上限値d2と下限値d1との差異(=2δR)は波長λより短くなり、n=mが成立する場合と、n=m+1が成立する2つの場合がある。ここで、真の往復距離は、下限値d1〜上限値d2の範囲内にあるため、n=m+1が成立する場合には、λ(2πm+P)/(2π)およびλ(2πn+P)/(2π)のうち下限値d1〜上限値d2の範囲内にあるものを最終的な基本往復距離E0として採用すればよい。他方、n=mが成立する場合には、λ(2πm+P)/(2π)=λ(2πn+P)/(2π)が最終的な基本往復距離E0となることはいうまでもない。
【0053】
したがって、基本往復距離E0は、n=mのときはD1(またはD2)となり、n=m+1のときはD1またはD2のうち下限値d1〜上限値d2の範囲内にある方となる。ステップS109〜S111は、このような原理に基づいて無線タグまでの往復距離を求めるものである。
【0054】
本実施形態に係る無線タグ距離測定装置10では、無線送信部22から出力される拡散パルス変調信号の搬送波と、受信増幅部30から出力される圧縮パルス変調信号の搬送波との位相差を用いることで、基本往復距離E0についての距離測定精度よりも更に精度を向上させる。搬送波の位相差を用いた測定精度向上処理は、搬送波の周波数f0を有する電磁波の伝播波長λ0=c/f0よりも、基本往復距離E0の分解能誤差2δrが短くなるよう、無線タグ距離測定システムが設計されている場合に高い効果を得ることができる。すなわち、次の(数4)の関係が成立するよう、システム設計がなされていることが好ましい。
(数4) 2δr<c/f0
【0055】
分解能誤差2δrが先に定められている場合には、搬送波の周波数f0は、c/(2δr)よりも小さくなるよう、すなわち、搬送波の波長λ0は2δrよりも長くなるよう決定すればよい。すなわち、(数4)を用いれば次の(数5)の関係を得ることができる。
(数5) f0<c/(2δr)
【0056】
ここで、基本往復距離E0の分解能誤差の2δrは、基準正弦波信号の波長λの50分の1以下に抑えることができることが確かめられている。したがって、基準正弦波信号の周波数を10MHzとして波長を30mとした場合、基本往復距離E0の分解能誤差は2δr=60cmとなり、基本往復距離E0に基づく距離測定誤差は30cm(±30cm)となる。この場合、搬送波の周波数は、(数4)に基づき500MHz未満とすればよい。
【0057】
図6に搬送波の位相差を用いた測定精度向上処理のフローチャートを示す。この処理は、図5に示す処理と同様の原理に基づき測定精度を向上するものである。図5に示す処理と重複する内容については説明を省略する。
【0058】
搬送波位相差検出部40は、拡散パルス変調信号の搬送波と、圧縮パルス変調信号の搬送波との位相差を測定位相差として求める(S201)。搬送波位相差検出部40は、信号が無線送信部22から出力されてから測定装置アンテナ26に至るまでの位相変化量、無線タグの受送信応答に基づく位相変化量、および信号が測定装置アンテナ26で受信されてから搬送波位相差検出部40に至るまでの位相変化量を、測定位相差から減算した距離測定用位相差Qを求め、詳細距離算出部38に出力する(S202)。この位相変化量は、無線タグ距離測定装置10および無線タグに固有の量であり、予め設計またはキャリブレーションの段階で求めておくことができる。
【0059】
詳細距離算出部38は、正弦波距離算出部36から出力された基本往復距離E0から分解能誤差δrを減算した下限値e1、および基本往復距離E0に分解能誤差δrを加算した上限値e2を求める(S203)。また、詳細距離算出部38は、下限値e1を搬送波信号の波長λ0で除した値の小数点以下を切り捨てた値をMとして求める(S204)。そして、E1=λ0(2Mπ+Q)/(2π)に従って求められる値を第1推定往復距離E1とする(S205)。
【0060】
詳細距離算出部38は、上限値e2を搬送波波長λ0で除した値の小数点以下を切り捨てた値をNとして求める(S206)。そして、E2=λ0(2Nπ+Q)/(2π)に従って求められる値を第2推定往復距離E2とする(S207)。
【0061】
詳細距離算出部38は、第1推定往復距離E1と第2推定往復距離E2が等しいか否かを判定する(S208)。そして、これらの値が等しいときは、第1推定往復距離E1または第2推定往復距離E2の半分を無線タグまでの測定距離として決定し(S209)、測定距離情報を表示部42に出力する(S211)。表示部42は測定距離を表示する。
【0062】
詳細距離算出部38は、第1推定往復距離E1と第2推定往復距離E2とが異なるときには、これらの往復距離のうち下限値e1と上限値e2との間にある方を選択する。そして、選択した往復距離の半分を無線タグまでの測定距離として決定し(S210)、測定距離情報を表示部42に出力する(S211)。表示部42は測定距離を表示する。
【0063】
このような構成および処理によれば、距離測定対象とする無線タグを指定し、無線タグ距離測定装置10から無線タグまでの距離を測定することができる。例えば、図1に示される符号割り当てにおいて、距離測定対象として無線タグ12−2を指定した場合、乗算部20には無線タグ12−2の固有割り当てPN符号「10011・・・」に基づくPN信号が出力される。これによって、無線タグ距離測定装置10からは、無線タグ12−2のPN符号「10011・・・」に基づく拡散パルス変調信号が送信される。そして、拡散パルス変調信号を受信した無線タグ12−1〜12−4のうち、固有割り当てPN符号「10011・・・」と同一の固有割り当てPN符号が割り当てられた無線タグ12−2が、圧縮パルス変調信号を送信する。したがって、無線タグ距離測定装置10は、無線タグ12−2までの距離を算出することができる。
【0064】
本実施形態に係る無線タグ距離測定システムによれば、上述のPN符号の直交性により、距離測定対象の無線タグのみが時間圧縮処理を行い圧縮パルス変調信号を送信する。そして、距離測定対象でない無線タグからは圧縮パルス変調信号は送信されない。したがって、無線タグ距離測定装置10からの距離の差異が小さい複数の無線タグがある場合であっても、複数の無線タグからそれぞれ送信される信号が干渉することがなく、距離測定対象の無線タグまでの距離を算出することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る無線タグ距離測定システムでは、送信信号の立ち上がり時刻と受信信号の立ち上がり時刻との差に基づいて求められた往復立ち上がり距離を求め、さらに、送信信号の生成に用いる基準正弦波信号と受信信号に含まれる応答正弦波信号との位相差に基づいて無線タグまでの往復距離を基本往復距離として求める。そして、基本往復距離、および送信搬送波と受信搬送波との位相差に基づいて、距離測定精度を更に向上させる。これによって、信号の立ち上がり時刻のみに基づいて距離測定を行う場合に比して、距離測定精度を向上させることができる。
【0066】
さらに、本実施形態に係る無線タグ距離測定システムでは、無線タグ距離測定装置10が拡散パルス変調信号を送信する。拡散パルス変調信号は、PN符号の1符号分の時間長を有するパルス信号に比して、PN信号の時間長にわたってエネルギーが時間拡散されている。
【0067】
無線タグ距離測定装置10の無線送信部22は、その飽和レベルまたは規格に定められた値を超える信号を送信することができない。しかし、本実施形態では、送信するパルス信号を時間拡散しているため、送信する信号のレベルを大きくすることなく、送信可能な総合電力量を大きくすることができる。
【0068】
そして、本実施形態では、無線タグから無線タグ距離測定装置10に送信される信号は、無線タグによって時間圧縮処理が施される。時間圧縮処理が施されて得られる信号のレベルは、時間圧縮処理を施す前の信号の総合電力量が大きい程大きくなる。したがって、時間拡散処理および時間圧縮処理を行わない測位システムに比して、無線タグ距離測定装置10で受信される信号のレベルを大きくすることができ、測定可能な最大距離を大きくすることができる。
【0069】
次に、無線タグ距離測定システムを応用した無線タグ測位システムについて図を参照して説明する。無線タグ測位システムは、複数の無線タグ距離測定装置10を配置することにより無線タグの位置を測定するものである。図は4台の無線タグ距離測定装置10を配置した例を示す。
【0070】
情報処理装置54は、距離測定対象の無線タグを指定する指定情報を各無線タグ距離測定装置10の符号選択部16に出力する。各無線タグ距離測定装置10の符号選択部16は、指定情報によって指定された無線タグの固有割り当てPN符号をPN符号記憶部14から読み込む。そして、読み込んだPN符号に基づいて距離測定を行う。これによって、各無線タグ距離測定装置10は、情報処理装置54によって指定された無線タグまでの距離を算出し、算出した距離を情報処理装置54に出力する。
【0071】
情報処理装置54には、各無線タグ距離測定装置10が設置されている位置を示す設置位置情報が記憶されている。情報処理装置54は、各無線タグ距離測定装置10から出力された距離算出結果と、各無線タグ距離測定装置10の設置位置情報とに基づいて、指定した無線タグの位置を求める。
【0072】
無線タグ12の位置は次のようにして求めることができる。情報処理装置54は、各無線タグ距離測定装置10について、無線タグ距離測定装置10の位置を中心とし、算出距離を半径の長さとする算出距離球面56を表す式を求める。情報処理装置54は、各無線タグ距離測定装置10について求められた算出距離球面56が交わる交点58の位置を無線タグ12の位置として算出する。
【0073】
無線タグ距離測定装置10を平面上に配置し、その平面上にある無線タグの位置を測定する場合には、同一直線上にない3台以上の無線タグ距離測定装置10を配置すれば、1点の交点58を求めることができ、これを無線タグの位置として求めることができる。また、3次元空間で無線タグの位置を測定する場合には、同一平面上にない4台以上の無線タグ距離測定装置10を配置すればよい。
【0074】
本発明の実施形態に係る無線タグ距離測定システムを応用した無線タグ測位システムは、工場における製品管理、日用品、小物等の販売を行う小売店、イベント参加者の居場所を管理する必要があるイベント会場等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施形態に係る無線タグ距離測定システムの構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る無線タグ距離測定装置の構成を示す図である。
【図3】PN信号、基準正弦波信号、および正弦波PN信号を示す図である。
【図4】無線タグの構成を示す図である。
【図5】正弦波信号の位相差を用いた測定精度向上処理のフローチャートである。
【図6】搬送波の位相差を用いた測定精度向上処理のフローチャートである。
【図7】無線タグ測位システムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
10 無線タグ距離測定装置、12,12−1〜12−4 無線タグ、14,52 PN符号記憶部、16 符号選択部、18 正弦波信号生成部、20 乗算部、22 無線送信部、24 ローカル信号発生器、26 測定装置アンテナ、28 無線受信部、30 受信増幅部、32 周波数変換部、34 立ち上がり距離算出部、36 正弦波距離算出部、38 詳細距離算出部、40 搬送波位相差検出部、42 表示部、44 無線タグアンテナ、46 分波器、48 相関処理デバイス、48A ディジタルマッチドフィルタ、50 PN符号設定回路、54 情報処理装置、56 算出距離球面、58 交点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物距離測定を行うための距離測定信号を送信する無線送信部と、
前記距離測定信号の送信後に到来した到来信号を受信する無線受信部と、
目標物とする無線タグまでの距離を算出する距離算出部と、
を備える無線タグ距離測定装置において、
前記無線タグの固有割り当てPN符号に応じた値を有するPN信号を生成し、当該PN信号に正弦波信号を乗じた信号に基づき前記距離測定信号を生成する距離測定信号生成部、
を備え、
前記無線受信部は、
前記無線タグによって前記距離測定信号に対して時間圧縮処理が施された時間圧縮信号を前記到来信号として受信し、
前記距離算出部は、
前記距離測定信号を生成する元となった正弦波信号と、前記無線受信部で受信された到来信号に含まれる正弦波信号との位相差に基づいて、前記無線タグまでの距離を算出することを特徴とする無線タグ距離測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無線タグ距離測定装置において、
前記距離算出部は、
前記距離測定信号の立ち上がり時刻と、前記無線受信部で受信された到来信号の立ち上がり時刻との差に基づいて、前記無線タグまでの距離を算出することを特徴とする無線タグ距離測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の無線タグ距離測定装置において、
前記距離測定信号生成部は、
前記PN信号に正弦波信号を乗じた信号を、搬送波に変調が施された信号に変換して前記距離測定信号を生成し、
前記距離算出部は、
前記無線受信部で受信された到来信号の搬送波と、前記距離測定信号の搬送波と、の位相差に基づいて、前記無線タグまでの距離を算出することを特徴とする無線タグ距離測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−48748(P2010−48748A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215147(P2008−215147)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】