説明

無線印刷システム

【課題】 複数のホストコンピュータから印刷を実行する場合にも、あるホストコンピュータからの印刷実行中に上記のような問題が発生すると、他のホストコンピュータからの印刷も待たされてしまい、全体的な印刷パフォーマンスが大きく低減してしまう。
【解決手段】 ホスト装置において印字処理を開始させる際に、電波状況を判定することにより印字処理の続行ができるか判定し、印字処理を開始させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線インタフェースを有するホストコンピュータ及び印刷装置からなる無線印刷システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ホストコンピュータから無線インタフェースを介して印刷データを送信し、印刷を行うプリンタがある。無線インタフェースとしては、例えば、IEEE802.11bやBluetooth等の規格に応じた通信方式が知られている。IEEE802.11bは無線LANをターゲットとして策定された近距離無線通信方式の規格であり、またBluetoothは、コンピュータに限らず様々な機器同士の接続をターゲットとして策定された近距離無線通信方式の規格である。これら無線通信方式ではISMバンド(Industrial,Scientific and Medical Band)と称される2.4GHz帯の周波数帯域が用いられるが、IEEE802.11bでは直接拡散(DS:Direct Sequence)方式のスペクトラム拡散技術により、またBluetoothでは周波数ホッピング(FH:Frequency Hopping)方式のスペクトラム拡散技術により、十分な耐ノイズ性を実現している。
【0003】
そして、従来、無線接続されるプリンタとの間の無線状況を調べ、プリントできる状況かどうかをユーザーに通知するものがある(例えば特許文献1)。また、無線接続されたプリンタにデータ転送中に無線接続が切れてしまえば、接続可能な他のプリンタを探して、残りのデータを転送してプリントするものがある(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−264431号公報
【特許文献2】特開2002−287917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記2.4GHz帯の周波数帯域は免許不要で利用できるオープンなものであり、例えば、電子レンジなども2.4GHz帯の電磁波を発生させるなど、ほかの機器から電波干渉をうけやすくなる。また、近接するエリアに複数の無線LANのアクセスポイントが存在するような場合や、通信端末間の物理的な障害物の有無などにも影響される。
【0005】
そのような場合、通信パフォーマンスが低下するという問題が起き、最悪の場合、リンクが切断されてしまい通信不能に陥る場合もある。通信パフォーマンスが低下すると印刷速度が低下し、また、通信不能に陥ると印刷が停止してしまうという問題が発生する。
【0006】
また、複数のホストコンピュータから印刷を実行する場合にも、あるホストコンピュータからの印刷実行中に上記のような問題が発生すると、他のホストコンピュータからの印刷も待たされてしまい、全体的な印刷パフォーマンスが大きく低減してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の無線通信を用いて互いに接続されるホスト装置と印字装置からなる無線印刷システムは、印字装置は、無線通信を行う無線インタフェース部と、ホスト装置からの印刷要求に対し返信を行う印刷要求返答部と、無線インタフェース部より受信した印字データを印字するプリントエンジン部とを有し、ホスト装置は、通信を行う無線インタフェース部と、印字装置に送信する印字データの作成を行う印字データ作成部と、印字装置に対して印刷要求を行い印刷要求の確立をおこなう印刷要求確立部と、印字装置との無線通信の通信品位を検出する通信品位検出部と、無線通信品位より印字処理を続行するか中断するかを判断する電波状況判定部とを有し、ホスト装置において印字処理を開始させる際に、電波状況判定部により印字処理の続行ができるか判定し、さらに、印刷要求確立部により前記印字装置に対し印字処理要求の確立を行った後に、印字処理を開始させることを特徴とする。
【0008】
また、ホスト装置は、印字処理の開始後、電波状況判定手段による印字処理の続行判定を印字データのページごとに行い、電波状況判定手段により印字処理の中断が判定された時は印字処理の中断処理を行うことを特徴とする。
【0009】
また、ホスト装置は、印字処理中断後、再度、電波状況判定部により印字処理の続行ができるか判定し、さらに、印刷要求確立部により前記印字装置に対し印字処理要求の確立を行った後に、印字処理を再開させることを特徴とする。
【0010】
また、ホスト装置は、表示部を有し、電波状況判定手段により印字処理の中断が判定された時は印字処理の中断を行うとともに、ホスト装置の表示部に印字を中断した旨を表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
無線インタフェースを介して印字を行う無線印刷システムにおいて、印字途中で電波の状況が悪くなった場合に、印字が遅くなり、そのため印字装置を不正に占有し、他のホスト装置からの印字が待たされてしまう。そのため、複数ページの印字データを印字するような場合、印字中に通信品位の検出を行い、電波の状況が悪くなった場合に、印字中のページの完了で印字処理を一旦終了させ、電波の状況がよくなった後に、残りのページの印字を再開させるようにする。それにより、他のホスト装置から印字要求があった場合には、電波状況の悪くなったホスト装置の印字完了を待つことなく、他のホスト装置の印字処理を行うことができるため、無線印刷システム全体としてのパフォーマンスは向上することになる。
【0012】
さらに、ホスト装置のプリントキューに、有線インタフェースで接続された他の印字装置や他の無線インタフェースで接続された印字装置への印字データが存在する場合、その印字データの印字処理を先に実行することができるため、印刷システム全体としてのパフォーマンスも向上することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の好適な実施例を以下に記載する。
【0014】
図1は本発明の無線印刷システムの概略構成を示す図である。図1において、本無線印刷システムは、インクジェット方式で行う印字装置100と、パーソナルコンピュータやPDAからなるホスト装置200a、200bから構成される。ホスト装置200a、200bには、OS(Operating System)、ワープロ等のアプリケーションソフト、印字装置を動作させるためのプリンタドライバソフト等のソフトウェアがインストールされている。また、印字装置100、および、ホスト装置200a、200bは、IEEE802.11bに基づく無線送受信部(アンテナ)101、201a、201b、および、無線コントローラ(不図示)を有し、これらの無線通信機能を通じ互いに接続され、各ホスト装置から印字装置に対し印刷を実行することが可能である。
【0015】
図2は本発明の無線印刷システムにおける印字装置を示すブロック図である。印字装置100において、無線コントローラ102は、通信プロトコルに応じた制御を行い、無線送受信部(アンテナ)101を介してデータの送受信を行う。CPU103は印字装置の印字データの生成、コマンドの解析、パネル等からの入力による各種設定等の処理を行うための演算装置である。ROM104はプリンタの制御ソフトが格納され、CPU103により読み出され実行される。RAM105は無線コントローラ102によりホスト装置から受信したデータ及びコマンドを格納するための受信バッファとしての機能と、印字データを生成するためのワークバッファとしての機能、および、各種設定情報を一時的に保管するために利用される。パネルコントローラ106はユーザの操作による各種スイッチ部からの信号をCPU103に送る機能と、CPU103からの指令に応じてLEDや液晶表示素子等を有する表示部への表示を制御する機能を有している。ヘッドコントローラ107は本実施例の印字装置がインクジェット方式にて印字を行う印字装置であるため、印字ヘッドに印字するデータを転送する機能と印字ヘッドからインクを吐出するための制御を行う機能を有している。モータコントローラ108は本実施例の印字装置に於いては主走査方向に印字ヘッドを搭載したキャリッジユニットを走査させ、一回又は複数回の主走査後、紙を送り更に印字を継続することにより用紙一枚の印字を完成させるため、主走査方向の移動を行うキャリッジモータコントローラと紙の前進、後退を行うラインフィードモータコントローラの2つの制御を行うものである。EEPROM109はフォントの種類、印字用紙種別等の印字装置の設定状態を保管しておくためのものである。
【0016】
このように構成されたプリンタ装置において、無線送受信部(アンテナ)101を介してホスト装置より印字データを受信すると、RAM105に展開され、CPU103により解析され、モータコントローラ108が駆動されるとともに、ヘッドコントローラ107がヘッドに印字データを転送し、インク吐出制御を行い印字が実行される。
【0017】
上記のような構成の無線印刷システムにおいて、ホスト装置200aから印字装置100に対し印字処理を行おうとした場合、ホスト装置200aおよび印字装置100が互いに通信エリア内にあり通信できる状態において印字が可能となる。また、互いに通信エリア内にあり通信できる状態にある複数のホスト装置200a、200bから印字装置100に対し印字処理を行おうとした場合、最初に印字要求を出したホスト装置(例えばホスト装置200a)との印字処理が開始される。その間、印字要求を出した他のホスト装置(例えばホスト装置200b)は、ホスト装置200aの印字処理が終了するまで印字処理が待たされることとなる。
【0018】
ここで、ホスト装置200a、200bと印字装置100との間を接続している無線通信は、各々が通信エリア内にあったとしても、電波の強弱、障害物、他の機器からの電波等によって影響を受け、その通信品位は時と場所に応じて変化する。したがって、印字処理中において電波の状況が悪くなると、印刷データの送受信がうまく行われず、送信のリトライが行われ、印字処理が遅くなってしまうことがある。また、上述したように、他のホスト装置からの印刷要求がある場合においては、印字装置が占有された状態のため印字処理終了待ちとなり、いつまでも印字処理が待たされてしまう。そのため、複数のホスト装置と印字装置で構築されている印刷環境においても、全体的な印刷パフォーマンスが低下することになる。
【0019】
そこで、本発明の無線印刷システムでは、上述したホスト装置において、無線通信における電波状況をチェックする手段を設け、印字処理前および印字処理中において、電波状況をチェックし、その結果により、印字処理を制御するというものである。
【0020】
以下、図3のフローチャートを用い、上記印字処理制御の説明を行う。
【0021】
上記構成において、ホスト装置200aから、ユーザがホスト装置上のアプリケーション等より印字指示を行うと、ホスト装置上のプリンタドライバソフトは印字データの作成を行うとともに、出力先の印字装置100との無線伝送路の通信品位を検出し(S301)、電波状況が良好であるかチェックを行う(S302)。ここで、電波状況が悪いと判断された場合には、以降の印字処理は行わず、再度、通信品位の検出(S301)、電波状況のチェック(S302)を行い、電波状況が良好になるまで上記の処理を繰り返す。
【0022】
電波状況が良好であると判断された場合には、出力先の印字装置100に対して印字要求の確立処理を行い(S303)、印字装置100からの返信をチェックする(S304)。例えば、印字装置100が別のホスト装置200bからの印字処理を実行しているような場合は、上記印字要求に対して、印字装置100より印字要求拒否の返信がなされる。この場合には、以降の印字処理は行わず、再度、通信品位の検出(S301)、電波状況のチェック(S302)、印字要求確立処理(S303)を行い、印字装置100が印字要求受け付け可能になるまで上記の処理を繰り返す。
【0023】
印字装置100より印字要求受け付け可能の返信がなされた場合には、再度、通信品位の検出(S301)、電波状況のチェック(S302)を行う。ただし、印字要求確立処理直後の通信品位の検出・チェックは行わないように制御することも可能である。
【0024】
ここで、電波状況が良好であると判断された場合には、印字データの作成・送信処理を行う(S307)。本実施例では、印字するデータに対し、1ページごとに印字データの作成・送信を行う。1ページごとの印字処理(S307)を行うと、ユーザの印字要求に対し全ページの印字処理を行ったかどうかのチェックを行い(S308)、全ページの印字処理が完了している場合は、本処理を終了する。
全ページの印字処理が完了していない場合は、再度、通信品位の検出(S301)、電波状況のチェック(S302)を行い、電波状況が良好な場合には、以降のページの印字処理(S307)を繰り返す。
【0025】
ここで、電波状況が悪いと判断された場合には、以降のページの印字処理は行わず、印字処理を中断する(S309)。このとき、ホスト装置200aの表示画面上に、「電波状況が良くないため、プリントを中断しています」のような表示を行い、ユーザに印字処理が中断している旨を通知するようにしても良い。このとき、印字装置100に対し他のホスト装置(例えばホスト装置200b)から印字要求があった場合には、印字装置100は、ホスト装置200aからの印字中断処理の後、ホスト装置200bからの印字処理を行うことができるため、電波状況の悪くなったホスト装置200aの印字完了を待つことなくホスト装置200bの印字処理を行うことができる。
【0026】
印字中断処理(S309)を行ったホスト装置200aの残りのページの印字処理は、再度、通信品位の検出(S301)、電波状況のチェック(S302)、印字要求確立処理(S303)を行い、電波状況が回復し、かつ、印字装置100が印字要求受け付け可能になるまで上記の処理を繰り返す。再度印字要求確立処理(S303)を行うことにより、上述したように、印字処理中断中に印字装置100が他のホスト装置からの印字処理を行っているような場合の排他制御が可能となっている。
【0027】
上記通信品位検出処理(S301、S305)は、電波状況確認(S302、S306)時点の通信品位を検出しても良いし、また、周期タイマ等を用い周期的に通信品位の検出を行い、ある一定期間の平均的なレベルを電波状況の判断時に用いても良い。
【0028】
また、さらに、上述の印字処理中断中に、ホスト装置200aのプリントキューに、有線インタフェースで接続された他の印字装置や他の無線インタフェースで接続された印字装置への印字データが存在する場合、その印字データの印字処理を先に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態を示す無線印刷システムの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す印字装置の構成を説明するブロック図である。
【図3】本発明のホスト装置における印刷処理手順の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
100 印字装置
101 無線送受信部(アンテナ)
200a、200b ホスト装置
201a、201b 無線送受信部
102 無線コントローラ
103 CPU
104 ROM
105 RAM
106 パネルコントローラ
107 ヘッドコントローラ
108 モータコントローラ
109 EEPROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信を用いて互いに接続されるホスト装置と印字装置からなる無線印刷システムにおいて、
前記印字装置は、
無線通信を行う無線インタフェース部と、
前記ホスト装置からの印刷要求に対し返信を行う印刷要求返答部と、
前記無線インタフェース部より受信した印字データを印字するプリントエンジン部と、
を有し、
前記ホスト装置は、
無線通信を行う無線インタフェース部と、
前記印字装置に送信する印字データの作成を行う印字データ作成部と、
前記印字装置に対して印刷要求を行い印刷要求の確立をおこなう印刷要求確立部と、
前記印字装置との無線通信の通信品位を検出する通信品位検出部と、
前記無線通信品位より印字処理を続行するか中断するかを判断する電波状況判定部と、
を有し、
前記ホスト装置において印字処理を開始させる際に、
前記電波状況判定部により印字処理の続行ができるか判定し、
前記印刷要求確立部により前記印字装置に対し印字処理要求の確立を行い、
印字処理を開始させる
ことを特徴とする無線印刷システム。
【請求項2】
前記ホスト装置は、
前記印字処理の開始後、前記電波状況判定手段による印字処理の続行判定を印字データのページごとに行い、
前記電波状況判定手段により印字処理の中断が判定された時は印字処理の中断処理を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の無線印刷システム。
【請求項3】
前記ホスト装置は、
前記印字処理中断後、再度、
前記電波状況判定部により印字処理の続行ができるか判定し、
前記印刷要求確立部により前記印字装置に対し印字処理要求の確立を行い、
印字処理を再開させる
ことを特徴とする請求項1および2に記載の無線印刷システム。
【請求項4】
前記ホスト装置は、さらに表示部を有し、
前記電波状況判定手段により印字処理の中断が判定された時は印字処理の中断を行うとともに、前記ホスト装置の表示部に印字を中断した旨を表示することを特徴とする
請求項1乃至3のいずれかに記載の無線印刷システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−58953(P2006−58953A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237297(P2004−237297)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】