無線周波数発振器
【課題】本発明は、改良されたQ値を有する無線周波数発振器を提供する。
【解決手段】この無線周波数発振器は、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により互いに結合された、少なくとも3つの強磁性またはフェリ磁性層を積層してなる自由層10および/または参照層を有し、少なくとも2つの副層間は、反強磁性RKKY結合により、磁気的に互いに結合されている。
【解決手段】この無線周波数発振器は、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により互いに結合された、少なくとも3つの強磁性またはフェリ磁性層を積層してなる自由層10および/または参照層を有し、少なくとも2つの副層間は、反強磁性RKKY結合により、磁気的に互いに結合されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線周波数発振器に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、スピン偏極電流が流れる磁気抵抗素子を統合する無線周波数発振器に関する。
【背景技術】
【0003】
このような発振器では、スピン偏極電流の流れが、磁気抵抗素子の抵抗値に周期的な変化を生じさせる。一般的に、周波数が100MHz〜数10GHzの範囲の高周波信号は、この周期的変化によって生成される。抵抗値の変化の周期および発振周波数は、磁気抵抗素子および/または外部磁場を横切るスピン偏極電流の大きさを利用して調整することができる。
【0004】
このような発振器は、大きいQ値を有する周波数の広い帯域を生成できるため、例えば、無線テレビ通信における利用のために設計される。
【0005】
「Q値」の用語は、次の比率を表す。
Q=f/Δf
ここで、QはQ値、fは発振器の発振周波数、Δfは、この発振器のパワースペクトルにおける周波数fの中央値の半値幅である。
【0006】
ある無線周波数発振器は、スピントロニクスから得られる。
【0007】
スピントロニクスでは、新しい効果を得るため、追加される自由度として電子のスピンを利用する。電流のスピン偏極は、スピンアップ型の伝導電子(すなわち、局所磁化に平行)の拡散と、スピンダウン型の伝導電子(すなわち、局所磁化に反平行)の拡散との間の非対称性に起因する。この非対称性は、スピンアップとスピンダウンのチャネル間での非対称な伝導性をもたらし、従って、電流の鮮明なスピン偏極が生じる。
【0008】
この電流のスピン偏極は、巨大磁気抵抗(非特許文献1)、またはトンネル磁気抵抗(非特許文献2)等の磁性多重層における磁気抵抗現象を生じさせる。
【0009】
さらに、スピン偏極電流が薄い磁性層を通過することにより、外部磁場が存在していないときに、磁化の反転を誘起可能であることが観察されている(非特許文献3)。
【0010】
また、偏極電流は、特に振動として知られる継続する磁気励起を生成することができる(非特許文献4)。磁気抵抗素子に継続する磁気励起を発生させる効果を利用することにより、この効果を、電子回路に直接適用可能な電気抵抗の変調に変換することが可能となり、その必然的帰結として、周波数レベルでの直接介入が可能である。特許文献1には、上述した物理原理を利用した種々の成果が開示されている。特に、スピン偏極電流が通過する磁性層の磁化の歳差運動について開示されている。また、特許文献2には、使用される専門用語とともに、利用される物理原理について開示されている。
【0011】
これらの無線周波数発振器の発振周波数は、通過する電流の大きさ、および、必要に応じて、外部磁場を動かすことで調整される。
【0012】
特許文献2には、少なくとも、
− 電流をスピン偏極することのできる固定された磁化方向を有する「参照層」である第1磁性層と、
− スピン偏極電流が通過することで磁化が振動する自由層である第2磁性層と、
− 前記2つの層間に挿入され、前記第1磁性層と前記第2磁性層とを磁気的に分離するように設計されたスペーサである非磁性層
とを有する積層体と、
− 前記各層に直交して流れる電流を生成する手段
とを備える無線周波数発振器が開示されている。
【0013】
特許文献2は、歳差運動の一貫性(コンシステンシー)を改良するため、合成反強磁性からなる強磁性副層の積層体を用いた自由層とすることが有利であることを示している。
【0014】
「歳差運動の一貫性(コンシステンシー)」の用語は、相互に一貫性のない多数の小さな励起を発生させることとは対照的に、構造体を通過する電流シートの広がりに対して(すなわち、ピラー構造を有するピラーの断面に対して、また、ナノコンタクト構造を有する場合には自由層の円錐状電流の断面に対して)、1つのブロックとして磁化がそろって動くということを意味する。
【0015】
「合成反強磁性」(synthetic antiferromagnetic:SAF)または人工反強磁性の用語は、反強磁性RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により、近接した強磁性副層が磁気的に結合される少なくとも2つの強磁性副層の積層体のことを意味する。さらに、合成反強磁性の強磁性副層は、外部磁場がない場合、合成反強磁性の全体の磁化はゼロである。
【0016】
RKKY結合を得るため、強磁性副層は、薄い非磁性副層によって互いに分離される。
【0017】
非磁性副層の厚さに依存して、得られるRKKY結合は、
− 「反強磁性」、すなわち、2つの結合された副層の磁気モーメントが反平行であるか、または、
− 「強磁性」、すなわち、2つの結合された副層の磁気モーメントが平行である。
【0018】
合成反強磁性では、非磁性副層または副層の厚さは、反強磁性RKKY結合を得るため、規定どおりに選択される。
【0019】
RKKY結合におけるさらなる情報として、2つの論文(非特許文献5、6)を参照することができる。
【0020】
全体として磁化ゼロを得るため、各強磁性副層の磁気モーメントは、相互に補正される。例えば、2つの強磁性副層を有する合成反強磁性の場合、以下の関係がある。
(M1・t1−M2・t2)/(t1+t2)=0
ここで、
− M1およびt1は、それぞれ、第1磁性層の磁気モーメントおよび厚さであり、また、
− M2およびt2は、それぞれ、第2磁性層の磁気モーメントおよび厚さである。
【0021】
合成反強磁性は、特定の合成フェリ磁性である。合成フェリ磁性は、SYFの頭字語で知られている。合成フェリ磁性は、反強磁性RKKY結合の手段により非磁性層を介して互いに結合された、少なくとも2つの強磁性またはフェリ磁性副層の積層体である。合成強磁性の場合とは異なり、積層体の磁化の結果は、ゼロである必要はない。
【0022】
非磁性層または非磁性材料の用語は、ゼロの場においていかなる測定可能な磁性も有していない層または材料を意味する。従って、それは、磁気特性を有していない材料、非磁性材料、反磁性材料または常磁性材料である。
【0023】
特許文献2は、無線周波数発振器の自由層を構成する合成反強磁性の使用を開示する。この合成反強磁性は、2つの強磁性副層だけで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許5695864号公報
【特許文献2】仏国特許公開第2892871号明細書
【特許文献3】仏国特許公開第2817998号明細書
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】バイビヒ,M.,ブロト,J.M.,フェルト,エイ.,グエン バン デュー,エフ.,ペトロフ,エチエンヌ,ピー.,クルツェット,ジー.,フリーデルヒ,エイ.,チェゼラス,ジェイ.,「磁気超格子(001)Fe/(001)Crの巨大磁気抵抗」,フィジカル レビュー レターズ,1988年,61巻,2472頁(Baibich, M., Broto, J.M., Fert, A., Nguyen Van Dau, F., Petroff, F., Etienne, P., Creuzet, G., Friederch, A. and Chazelas, J., " Giant magnetoresistance of (001)Fe/(001)Cr magnetic superlattices ", Phys.Rev.Lett., 61 (1988) 2472)
【非特許文献2】モードラ,ジェイエス.,キンダー,エルアール.,ウォン,ティーエム.,メザーベイ,アール.,「強磁性薄膜トンネル接合における室温での巨大磁気抵抗」フィジカル レビュー レターズ,1995年,74巻,3273−6頁(Moodera, JS., Kinder, LR., Wong, TM. and Meservey, R."Large magnetoresistance at room temperature in ferromagnetic thin-film tunnel junctions", Phys.Rev.Lett 74, (1995) 3273-6)
【非特許文献3】カティーン,ジェイ.エイ.,アルバート,エフ.ジェイ.,バーマン,アール.エイ.,マイアーズ,イー.ビー.,ラルフ,ディー.シー.,「Co/Cu/Coピラーにおける電流駆動磁化反転およびスピン波励起」フィジカル レビュー レターズ,2000年,84巻,3149頁(Katine, J.A., Albert, F.J., Buhrman, R.A., Myers, E.B., and Ralph, D.C., "Current-Driven Magnetization Reversal and Spin-Wave Excitations in Co /Cu /Co Pillars ", Phys.Rev.Lett. 84, 3149 (2000))
【非特許文献4】キセレフ,エス.アイ.,サンケイ,ジェイ.シー.,クリボロトフ,エル.エヌ.,エムレイ,エヌ.シー.,ショールコフ,アール.ジェイ.,バーマン,アール.エイ.,ラルフ,ディー.シー.,「スピン偏極電流によるナノ磁石駆動のマイクロ波発振」ネーチャー,2003年,425巻,380頁(Kiselev, S.I., Sankey, J.C., Krivorotov, LN., Emley, N.C., Schoelkopf, R.J., Buhrman, R.A., and Ralph, D.C., "Microwave oscillations of a nanomagnet driven by a spin-polarized current", Nature, 425, 380 (2003))
【非特許文献5】エス.パーキン他,フィジカル レビュー ビー,1991年,44巻,13号(S. Parkin et al., Physical Review B 44 N°13 (1991))
【非特許文献6】エス.パーキン他,フィジカル レビュー レターズ,1990年,64巻,19号(S. Parkin et al. Physical Review Letters 64 N°19 (1990))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、改良されたQ値を有する無線周波数発振器を提供するものである。従って、本発明の目的は、自由層および/または参照層は、少なくとも、3つの強磁性、またはフェリ磁性副層の積層体により構成され、前記強磁性またはフェリ磁性副層は、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により互いに結合され、前記2つの強磁性、またはフェリ磁性副層間が反強磁性RKKY結合により、互いに磁気的に結合される無線周波数発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
発振周波数fにおける無線周波数発振器の半値幅Δfは、自由層または参照層の磁性材料の体積(以下、有効体積といい、Veffと記す。)に逆比例することが知られている。RKKY結合によって互いに磁気的に結合された少なくとも3つの強磁性、またはフェリ磁性副層の積層体により、自由層または参照層を形成することで、この層の有効体積は増大する。
【0028】
実際、自由層または参照層の有効体積は、これを構成する強磁性、またはフェリ磁性の各副層の体積の総和に対応する。この有効体積の増加は、半値幅Δfを減少させ、従って、発振器のQ値を改良する。
【0029】
さらに、RKKY結合によって磁気的に結合された副層の積層体として、自由層または参照層を作成することにより、
− 如何なる質の低下もなく、あるいは、この層に保持される歳差運動の一貫性を改良することなく、また、
− 発振器の保持された発振を行わせるために必要な臨界電流Icの大きさを変更し、または、減少させることなく、
半値幅Δfが減少する。
【0030】
また、この無線周波数発振器の実施形態では、以下の1つ以上の特徴を備えることができる。
・前記積層体の各強磁性またはフェリ磁性副層は、前記積層体が合成フェリ磁性であるため、反強磁性RKKY結合により直上に配置される前記強磁性またはフェリ磁性副層に結合される。
・前記副層は、強磁性副層であり、各強磁性副層の磁気モーメントは、前記積層体が合成反強磁性であるため、互いに相殺される。
・少なくとも2つの強磁性またはフェリ磁性副層は、反強磁性RKKY結合により互いに結合され、少なくとも2つの強磁性またはフェリ磁性副層は、強磁性RKKY結合により互いに結合される。
・前記強磁性またはフェリ磁性副層の前記積層体は、3つの強磁性またはフェリ磁性副層だけから形成される。
・非磁性層に最も接近する第1強磁性副層またはフェリ磁性副層の厚みは、10nm未満であり、好適には、1nm〜4nmの範囲である。
・少なくとも前記自由層は、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により互いに結合される、少なくとも3つの強磁性副層の積層体により形成される。
・前記発振器は、その磁性を固定する前記参照層に直接接触する反強磁性層を有する。
・前記参照層は、合成反強磁性である。
【0031】
前記無線周波数発振器のこれらの実施形態は、さらに次の利点を有する。
− 全体の磁気モーメントが明らかにゼロである積層体を用いることにより、他の磁性層に放射される双極子場を弱め、または、除去することにより、発振器の安定性が増大する。
− 前記第1強磁性副層の厚さを4nm未満とすることにより、臨界電流Icの大きさが減少する。実際、この電流は、前記第1強磁性副層の厚さに正比例する。また、
− 前記参照層を反強磁性層で固定するか、または、合成反強磁性層により参照層を形成することにより、前記参照層の磁性の安定性が増加する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本発明は、制限されない実施形態に関する添付の図面を参照して、以下の説明を読みことにより、明確に理解することができると思う。
【図1】無線周波数発振器の概略図である。
【図2】図1の無線周波数発振器の他の実施形態の概略図である。
【図3】図1の無線周波数発振器の他の実施形態の概略図である。
【図4】図1の無線周波数発振器の他の実施形態の概略図である。
【図5】図1の無線周波数発振器の他の実施形態の概略図である。
【図6】図1〜図5の発振器の1つを構成する利用可能な合成反強磁性体の概略図である。
【図7】図1〜図5の発振器の1つを構成する利用可能な強磁性副層の積層体の概略図である。
【0033】
これらの図において、同じ要素には同じ符号を付してある。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の記載において、当業者に周知の特徴および機能については、詳細に記載しない。
【0035】
図1は、無線周波数発振器2を示す。この無線周波数発振器2は、スピン偏極電流が流れる磁気抵抗素子を統合する。この磁気抵抗素子は、CPP(current perpendicular to plane geometry)として知られる構造からなっている。より具体的には、図1において、磁気抵抗素子は、いわゆる、「ナノピラー」構造からなっている。このナノピラーは、互いの上に同じ水平断面を有する水平層を積層して形成されている。
【0036】
さらに、無線周波数発振器2は、前記ナノピラーの各端部に導電性電極4、6をそれぞれ備えている。これらの電極は、磁気抵抗素子を構成する異なる層を垂直に横切る電流を生成するために用いられる。この電流の大きさが臨界電流Icの大きさを超えると、これらの導電性電極4、6間の電圧が導電性電極4、6を横切る電流に依存する周波数で振動を開始する。この電圧は、例えば、参照信号を生成するため、それを処理する電子機器7に送信される。
【0037】
これらの導電性電極4、6間において、ピラーは、主として、参照層8、自由層10、および、参照層8と自由層10との間に挿入される非磁性層12の3つの層を有する。非磁性層12は、スペーサとして知られている。
【0038】
これらの参照層8、自由層10および非磁性層12は、磁気抵抗特性、すなわち、参照層8および自由層10の磁化方向の関数として、ピラーの抵抗変化が現れるように設計されている。
【0039】
ピラーを構成する各層の幅Lは、一定である。ここで、幅Lは、1μmよりも小さく、一般的には、20nm〜200nmの範囲である。
【0040】
参照層8は、導電性磁性体から形成されている。その上面には、スペーサ12が直接接触する。参照層8は、その層の平面に含まれる軟磁化方向を有する。
【0041】
参照層8は、それを横切る電流の電子をスピン偏極させる機能を有する。従って、参照層8は、この機能を達成するのに充分な厚さを有する。一般的には、参照層8の厚さは、スピン拡散長(この用語の定義は、例えば、特許文献2参照)よりも確実に大きい。
【0042】
例えば、参照層8は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、または、これらの合金(CoFe、NiFe、CoFeB等)から形成されている。参照層8の厚さは、数nmのオーダである。参照層8には、スピン拡散長を減少させる0.2nm〜0.5nmのオーダの厚さからなる銅、銀、または金の非常に薄い2〜3(一般的には2〜4)の層を被覆することができる。また、参照層8は、SYFまたはSAFから形成することができる。図1では、理解を容易にするため、各層の厚さの比率にこだわっていない。
【0043】
ここで、参照層8は、磁化の方向が固定されている。「固定された磁化方向」の用語は、自由層10の磁気モーメントの方向よりも参照層8の磁気モーメントの方向を変更することが困難である、ということを表している。そのため、参照層8の磁化は、例えば、参照層8と導電性電極6との間に挿入される導電性反強磁性層16によって固定される。導電性反強磁性層16の上面は、例えば、参照層8の下面に直接接触する。
【0044】
一般的に、導電性反強磁性層16の厚さは、5nm〜50nmの範囲である。導電性反強磁性層16は、IrMn、PtMn、FeMn等の合金の1つであるマンガン合金から形成することができる。例えば、導電性反強磁性層16は、IrMn、FeMn、PtMn、NiMnを含む群から選択される一の材料から形成される。
【0045】
スペーサ12は、非磁性層である。このスペーサ12は、偏極損失を規制して、参照層8から自由層10にスピン偏極電流が流れるために充分に薄い。その一方で、スペーサ12の厚さは、参照層8と自由層10との間の磁気的分離を得るための充分な厚さを有する。
【0046】
例えば、スペーサ12は、銅(Cu)のような導電材料から形成される。ピラーの磁気抵抗特性は、巨大磁気抵抗(GMR)の特質として適している。この場合、スペーサ12の厚さは、一般的には2nmよりも厚い。通常、その厚さは、2nm〜40nmの範囲であり、好適には、5nm±25%である。
【0047】
また、スペーサ12は、酸化物または窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化タンタル、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等のような絶縁体材料から形成される。ピラーは、トンネル磁気抵抗(TMR)特性を有する。この場合、スペーサ12の厚さは、一般的には0.5nm〜3nmの範囲である。
【0048】
自由層10は、参照層8の磁化よりも容易に磁化が回転または歳差運動する導電性磁性層である。
【0049】
この自由層10は、3つの強磁性副層20〜22の積層体で構成されている。強磁性副層20と21、21と22は、反強磁性RKKY結合によって互いに結合されている。従って、強磁性副層20〜22の積層体は、合成フェリ磁性である。これらの強磁性副層20〜22の軟磁化方向は、強磁性副層20〜22の平面に含まれる。
【0050】
強磁性副層20の下面は、スペーサ12の上面に直接接触する。強磁性副層20の厚さt1は、可能な限り薄い。実際、この厚さt1が規制されるほど、臨界電流Icが小さくなる。例えば、厚さt1は、1nm〜6nmの範囲であり、好適には、1nm〜4nmの範囲である。
【0051】
この強磁性副層20は、コバルト、ニッケル、鉄、または、これらの各金属の合金(例えば、CoFe、CoFeB、NiFe等)のような強磁性材料から形成されている。
【0052】
スピン偏極電流または外部磁場電流が存在しないとき、強磁性副層20の全体の磁気モーメントは、この強磁性副層20の平面に平行となる。この磁気モーメントの方向は、図1における矢印24で示されている。
【0053】
強磁性副層20の磁気モーメントの大きさは、強磁性副層20に使用される強磁性材料の磁化M1に厚さt1を乗算した値に比例する。強磁性副層20は、体積V1を占める。磁気モーメントmは、磁化M1にこの体積V1を乗算した結果に等しく、従って、M1・t1に比例する。
【0054】
強磁性副層20、21をRKKY結合するため、導電性非磁性副層26が、これらの2つの強磁性副層20、21間に挿入されている。この導電性非磁性副層26の厚さは、強磁性副層20、21に対して反強磁性的に結合されるのに充分に薄い。「反強磁性結合」の用語は、強磁性副層20、21の磁気モーメントが反平行であることを意味する。
【0055】
例えば、導電性非磁性副層26は、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、銅(Cu)クロム(Cr)、白金(Pt)または銀(Ag)のような材料から形成されている。RKKY結合を達成するために使用される厚さは、導電性非磁性副層26を形成するために選択される材料に依存し、同じではない。例えば、導電性非磁性副層26がクロムから形成される場合、厚さは、4.5nm以下である。導電性非磁性副層26が銅から形成される場合、厚さは、1.5nm未満である。
【0056】
導電性非磁性副層26の厚さは、数Å、すなわち、1Å〜50Åの範囲であることが好ましい。ここでの厚さは、例えば、8Åである。
【0057】
強磁性副層21の下面は、導電性非磁性副層26の上に直接接触している。この強磁性副層21は、強磁性副層22と同様に、反強磁性RKKY結合により強磁性副層20に磁気的に結合されている。従って、矢印28で示されるその磁気モーメントの方向は、強磁性副層20、22の磁気モーメントとは反対である。
【0058】
この実施形態において、強磁性副層21の厚さt2は、自由層10の有効体積Veffをさらに増加させるため、厚さt1よりも確実に大きくなるように選択される。実際、自由層10の有効体積Veffの増加が大きくなれば、半値幅Δfの減少も大きくなる。例えば、厚さt2は、強磁性副層21の体積V2が強磁性副層20の体積V1よりも、少なくとも10%〜25%だけ大きくなるように選択される。
【0059】
さらに、強磁性副層21は、合成反強磁性を得るため、強磁性副層20、22の磁気モーメントを相殺するように設計されている。自由層10を形成するために補正された合成反強磁性を使用することにより、他の磁性層から放射される双極子場が減少し、発振器の安定性は増加する。
【0060】
ここに記述した特定の場合では、強磁性副層21は、強磁性副層20、22と同じ反強磁性材料から形成されている。従って、その磁気モーメントは、磁化M1に厚さt2を乗算した値に比例する。このことは、強磁性副層20、22の磁気モーメントを相殺するため、厚さt2が厚さt1の2倍に等しくなるように選択することを意味する。
【0061】
導電性非磁性副層30は、2つの強磁性副層21、22を反強磁性RKKY結合するため、これらの強磁性副層21、22間に挿入されている。導電性非磁性副層30は、例えば、導電性非磁性副層26と同じである。
【0062】
強磁性副層22の下面は、導電性非磁性副層30の上面に直接接触する。強磁性副層22は、例えば、強磁性副層20と同じである。ここで、磁気モーメントの方向は、矢印32で示されている。
【0063】
図2は、反強磁性層44が自由層10の上に配置されていることを除き、無線周波数発振器2と同じである無線周波数発振器40を示す。従って、反強磁性層44は、一方の導電性電極4と他方の自由層10との間に挿入されている。この反強磁性層44は、例えば、導電性反強磁性層16に使用することができるものと同じ材料から形成されている。この反強磁性層44は、自由層10の磁化の相対的な自由を低下させる。しかしながら、反強磁性層44の厚さを利用することで、用いる磁気結合は、参照層8および導電性反強磁性層16を用いるものよりも小さくなることが保証される。このように、自由層10の磁化は、歳差運動にもかかわらず、反強磁性層44の固有の結合がこの磁化の一貫性を維持するのに貢献する。
【0064】
図3は、反強磁性層44が、スペーサ54により自由層10から分離された偏極子(polarizer)52によって置き換えられた点を除き、図2のものと同じである無線周波数発振器50を示す。偏極子52は、磁化が層の平面の外側にあり、好ましくは、層の平面に直交する1つの層または磁性マルチ層である。偏極子52は、それを横切る電流をスピン偏極させる。一般的には、偏極子52は、例えば、磁性層および金属層(例えば、(Co/Pt)n)を選択的に互いに重畳した複数の副層により形成されている。ここで、偏極子52については、より詳細には記載していない。偏極子52についてのさらなる情報としては、特許文献3を参照されたい。
【0065】
ここで、偏極子52は、導電性電極4の下に直接積層されている。この偏極子52の磁気モーメントは、層の平面に直交している。
【0066】
スペーサ54は、偏極子52の下に直接積層されている。スペーサ54は、スペーサ12と同じ機能を有する。
【0067】
偏極子52は、その外側の自由層10の磁化の歳差運動を得るためのものである。このことは、例えば、ゼロ場、すなわち、外部磁場のない場合において作用する振動を発生させることを可能とする。
【0068】
図4は、Q値が図1を参照して得られるものと同じ技術を使用することにより改良される無線周波数発振器60を示す。なお、無線周波数発振器60は、「ナノコンタクト(nanocontact)」または「ポイントコンタクト(point contact)」積層体として知られている構造からなっている。このような構造は、特許文献2に記載されているため、ここでは、詳細には記載しない。
【0069】
従って、無線周波数発振器60は、導電性電極4が電極62によって置き換えられている点を除き、無線周波数発振器2と同じである。
【0070】
参照層8、自由層10、スペーサ12および導電性反強磁性層16と同様に、導電性電極6は、幅Lの同じ水平断面を有する。この幅Lは、一般的には、100nmよりも大きい。それは、数μmに達してもよい。
【0071】
電極62は、自由層10の上面に直接接触する幅Lpの先端部64を有する。幅Lpは、導電性電極4、6間を流れる電流の電子が、参照層8、自由層10、スペーサ12および導電性反強磁性層16の積層体において、本質的に円錐状に分布するように、幅Lよりも確実に小さい。幅Lpは、幅Lよりも数分の1(例えば、5分の1)だけ小さい方が好ましい。例えば、幅Lpは、数nm〜20nmまたは200nmの範囲である。
【0072】
図5は、電極62が偏極子74およびスペーサ76の上に重畳される電極72に置き換えられている点を除き、無線周波数発振器60と同じである無線周波数発振器70を示す。例えば、偏極子74およびスペーサ76は、幅Lpが参照層8、自由層10およびスペーサ12の幅Lよりも数分の1だけ小さい点を除き、それぞれが偏極子52およびスペーサ54と同じである。一般的には、幅Lpと幅Lとの比率は、図4に記載されたものと同じである。例えば、幅Lpは、先端部64と同じである。
【0073】
無線周波数発振器は、多数の実施形態が可能である。例えば、上記の実施形態は、自由層が3つの強磁性副層を有する合成反強磁性を用いて形成される特定の場合のものである。しかしながら、磁気モーメントが互いに補正されるように寸法が設定されるのであれば、強磁性副層は必要ではない。このように、変形例として、副層の積層体は、単純な合成強磁性として形成することができる。
【0074】
合成強磁性は、n強磁性副層を備えることができる。ここで、nは、3よりも大きい整数である。実際には、nは、10よりも小さい。3つよりも多い強磁性副層を有する合成強磁性からなる実施形態を、図6に示す。ここで、FMiは、底部から始まる積層体のi番目の強磁性副層であり、NMiは、強磁性副層FMiとFMi+1との間に配設されたi番目の非磁性副層である。
【0075】
それぞれにおいて、非磁性副層NMiの厚さは、強磁性副層FMiとFMi+1との間の反強磁性RKKY結合により生成することができる。
【0076】
磁気歳差運動の一貫性を低下させることなく、自由層の有効体積Veffを増加させるため、強磁性副層の積層体を合成フェリ磁性とする必要はない。変形例として、例えば、上述した合成フェリ磁性は、RKKY結合によって相互に結合された強磁性副層の積層体によって置き換えられる。ここで、RKKY結合は、他の直上の少なくとも2つの強磁性副層を強磁性RKKY結合によって結合するもの、および、他の直上の少なくとも2つの強磁性副層を反強磁性RKKY結合によって結合するものがある。
【0077】
「他の直上の1つ」の用語は、2つの強磁性副層が、2つの強磁性副層間の所望のRKKY結合を生成する形状の非磁性副層によって互いに分離されていることを意味する。
【0078】
一旦、積層体が強磁性RKKY結合により結合された2以上の強磁性副層が形成されると、前記の定義からなる合成強磁性をこれ以上構成することはない。
【0079】
例えば、図7は、間に非磁性副層98〜100が挿入される4つの強磁性副層92〜95からなる積層体90である。非磁性副層98の厚さは、強磁性RKKY結合により強磁性副層92、93の磁気的な結合のために選択される。同様に、非磁性副層100の厚さは、強磁性副層94、95間の強磁性RKKY結合を得るために選択される。図6において、各強磁性副層の磁気モーメントの方向は、対応する副層の中に記載された矢印によって示されている。湾曲する矢印は、積層体の外のいくつかの磁力線の方向を示す。
【0080】
積層体90は、全磁気モーメントがゼロとなるように補正されることが好ましい。この目的を達成するために、各強磁性副層の体積を利用することができる。
【0081】
しかしながら、無線周波数発振器のQ値を改良するためには、合成強磁性または使用する積層体90を補正する必要はない。
【0082】
また、無線周波数発振器のQ値の改良は、合成フェリ磁性、または、積層体90のようなRKKY結合によって結合される少なくとも3つの強磁性層の積層体によってなされる。このように、変形例として、Q値を改良するため、参照層および自由層は、ともにこの種の積層体によって形成される。他の変形例においては、これらの2つの層の1つだけが上述した積層体の1つによって形成される。
【0083】
偏極子は、反強磁性材料によって固定することができるが、外部磁場が存在しない場合には、測定可能な磁化がないため、補正することができる。
【0084】
図1〜図5を参照して記載された発振器の各層の積層の順番は、示されている積層の順番と反対にすることができる。
【0085】
強磁性層または強磁性副層は、例えば、特許文献2の13頁、第1行目〜第10行目に記載されるようにして被覆することができる。スペーサを構成する層に近接する強磁性副層だけを被覆することが好ましい。
【0086】
変形例として、スペーサに最も近い第1副層と他の副層の1つのとの間の体積の差は、第1副層の水平の面積の少なくとも1つを減少させることにより得られる。
【0087】
また、歳差運動の一貫性を増加させるため、希土類、特に、0.01%〜2%(原子%)の範囲で比例するテルビウムに基づく不純物を、強磁性副層の少なくとも1つに添加することが可能である。
【0088】
より一般的には、全ての実施形態において、強磁性副層は、フェリ磁性副層に置き換えることができる。
【0089】
強磁性またはフェリ磁性副層の少なくとも1つに利用される磁性材料は、高い交換スティフネス定数を有することが好ましい。この目的を達成するために、本発明では、第3の材料、特に、コバルトまたはコバルトリッチ合金を利用する。
【0090】
また、強磁性またはフェリ磁性副層は、例えば、スピンバルブに共通に用いられるNiFe/CoFe(共に強磁性)の二重層またはTbCo/CoFeB(共に強磁性)の二重層とともに、直接互いに重畳された複数の強磁性またはフェリ磁性ストリップの組から構成することができる。
【0091】
また、参照層の磁化は、外部の磁場によってピラーに固定することができる。
【0092】
また、自由層は、層の平面または層の平面の外で歳差運動する磁化を有することができる。また、自由層の軟磁化方向は、その層の平面の外であって、平面に直交する方向であることが好ましい。
【符号の説明】
【0093】
2、40、50 無線周波数発振器
4、6 導電性電極
7 電子機器
8 参照層
10 自由層
12 非磁性層(スペーサ)
16 導電性反強磁性層
20〜22 強磁性副層
26 導電性非磁性副層
30 導電性非磁性副層
44 反強磁性層
52、74 偏極子
54、76 スペーサ
62 電極
90 積層体
92〜95 強磁性副層
98〜100 非磁性副層
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線周波数発振器に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、スピン偏極電流が流れる磁気抵抗素子を統合する無線周波数発振器に関する。
【背景技術】
【0003】
このような発振器では、スピン偏極電流の流れが、磁気抵抗素子の抵抗値に周期的な変化を生じさせる。一般的に、周波数が100MHz〜数10GHzの範囲の高周波信号は、この周期的変化によって生成される。抵抗値の変化の周期および発振周波数は、磁気抵抗素子および/または外部磁場を横切るスピン偏極電流の大きさを利用して調整することができる。
【0004】
このような発振器は、大きいQ値を有する周波数の広い帯域を生成できるため、例えば、無線テレビ通信における利用のために設計される。
【0005】
「Q値」の用語は、次の比率を表す。
Q=f/Δf
ここで、QはQ値、fは発振器の発振周波数、Δfは、この発振器のパワースペクトルにおける周波数fの中央値の半値幅である。
【0006】
ある無線周波数発振器は、スピントロニクスから得られる。
【0007】
スピントロニクスでは、新しい効果を得るため、追加される自由度として電子のスピンを利用する。電流のスピン偏極は、スピンアップ型の伝導電子(すなわち、局所磁化に平行)の拡散と、スピンダウン型の伝導電子(すなわち、局所磁化に反平行)の拡散との間の非対称性に起因する。この非対称性は、スピンアップとスピンダウンのチャネル間での非対称な伝導性をもたらし、従って、電流の鮮明なスピン偏極が生じる。
【0008】
この電流のスピン偏極は、巨大磁気抵抗(非特許文献1)、またはトンネル磁気抵抗(非特許文献2)等の磁性多重層における磁気抵抗現象を生じさせる。
【0009】
さらに、スピン偏極電流が薄い磁性層を通過することにより、外部磁場が存在していないときに、磁化の反転を誘起可能であることが観察されている(非特許文献3)。
【0010】
また、偏極電流は、特に振動として知られる継続する磁気励起を生成することができる(非特許文献4)。磁気抵抗素子に継続する磁気励起を発生させる効果を利用することにより、この効果を、電子回路に直接適用可能な電気抵抗の変調に変換することが可能となり、その必然的帰結として、周波数レベルでの直接介入が可能である。特許文献1には、上述した物理原理を利用した種々の成果が開示されている。特に、スピン偏極電流が通過する磁性層の磁化の歳差運動について開示されている。また、特許文献2には、使用される専門用語とともに、利用される物理原理について開示されている。
【0011】
これらの無線周波数発振器の発振周波数は、通過する電流の大きさ、および、必要に応じて、外部磁場を動かすことで調整される。
【0012】
特許文献2には、少なくとも、
− 電流をスピン偏極することのできる固定された磁化方向を有する「参照層」である第1磁性層と、
− スピン偏極電流が通過することで磁化が振動する自由層である第2磁性層と、
− 前記2つの層間に挿入され、前記第1磁性層と前記第2磁性層とを磁気的に分離するように設計されたスペーサである非磁性層
とを有する積層体と、
− 前記各層に直交して流れる電流を生成する手段
とを備える無線周波数発振器が開示されている。
【0013】
特許文献2は、歳差運動の一貫性(コンシステンシー)を改良するため、合成反強磁性からなる強磁性副層の積層体を用いた自由層とすることが有利であることを示している。
【0014】
「歳差運動の一貫性(コンシステンシー)」の用語は、相互に一貫性のない多数の小さな励起を発生させることとは対照的に、構造体を通過する電流シートの広がりに対して(すなわち、ピラー構造を有するピラーの断面に対して、また、ナノコンタクト構造を有する場合には自由層の円錐状電流の断面に対して)、1つのブロックとして磁化がそろって動くということを意味する。
【0015】
「合成反強磁性」(synthetic antiferromagnetic:SAF)または人工反強磁性の用語は、反強磁性RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により、近接した強磁性副層が磁気的に結合される少なくとも2つの強磁性副層の積層体のことを意味する。さらに、合成反強磁性の強磁性副層は、外部磁場がない場合、合成反強磁性の全体の磁化はゼロである。
【0016】
RKKY結合を得るため、強磁性副層は、薄い非磁性副層によって互いに分離される。
【0017】
非磁性副層の厚さに依存して、得られるRKKY結合は、
− 「反強磁性」、すなわち、2つの結合された副層の磁気モーメントが反平行であるか、または、
− 「強磁性」、すなわち、2つの結合された副層の磁気モーメントが平行である。
【0018】
合成反強磁性では、非磁性副層または副層の厚さは、反強磁性RKKY結合を得るため、規定どおりに選択される。
【0019】
RKKY結合におけるさらなる情報として、2つの論文(非特許文献5、6)を参照することができる。
【0020】
全体として磁化ゼロを得るため、各強磁性副層の磁気モーメントは、相互に補正される。例えば、2つの強磁性副層を有する合成反強磁性の場合、以下の関係がある。
(M1・t1−M2・t2)/(t1+t2)=0
ここで、
− M1およびt1は、それぞれ、第1磁性層の磁気モーメントおよび厚さであり、また、
− M2およびt2は、それぞれ、第2磁性層の磁気モーメントおよび厚さである。
【0021】
合成反強磁性は、特定の合成フェリ磁性である。合成フェリ磁性は、SYFの頭字語で知られている。合成フェリ磁性は、反強磁性RKKY結合の手段により非磁性層を介して互いに結合された、少なくとも2つの強磁性またはフェリ磁性副層の積層体である。合成強磁性の場合とは異なり、積層体の磁化の結果は、ゼロである必要はない。
【0022】
非磁性層または非磁性材料の用語は、ゼロの場においていかなる測定可能な磁性も有していない層または材料を意味する。従って、それは、磁気特性を有していない材料、非磁性材料、反磁性材料または常磁性材料である。
【0023】
特許文献2は、無線周波数発振器の自由層を構成する合成反強磁性の使用を開示する。この合成反強磁性は、2つの強磁性副層だけで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許5695864号公報
【特許文献2】仏国特許公開第2892871号明細書
【特許文献3】仏国特許公開第2817998号明細書
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】バイビヒ,M.,ブロト,J.M.,フェルト,エイ.,グエン バン デュー,エフ.,ペトロフ,エチエンヌ,ピー.,クルツェット,ジー.,フリーデルヒ,エイ.,チェゼラス,ジェイ.,「磁気超格子(001)Fe/(001)Crの巨大磁気抵抗」,フィジカル レビュー レターズ,1988年,61巻,2472頁(Baibich, M., Broto, J.M., Fert, A., Nguyen Van Dau, F., Petroff, F., Etienne, P., Creuzet, G., Friederch, A. and Chazelas, J., " Giant magnetoresistance of (001)Fe/(001)Cr magnetic superlattices ", Phys.Rev.Lett., 61 (1988) 2472)
【非特許文献2】モードラ,ジェイエス.,キンダー,エルアール.,ウォン,ティーエム.,メザーベイ,アール.,「強磁性薄膜トンネル接合における室温での巨大磁気抵抗」フィジカル レビュー レターズ,1995年,74巻,3273−6頁(Moodera, JS., Kinder, LR., Wong, TM. and Meservey, R."Large magnetoresistance at room temperature in ferromagnetic thin-film tunnel junctions", Phys.Rev.Lett 74, (1995) 3273-6)
【非特許文献3】カティーン,ジェイ.エイ.,アルバート,エフ.ジェイ.,バーマン,アール.エイ.,マイアーズ,イー.ビー.,ラルフ,ディー.シー.,「Co/Cu/Coピラーにおける電流駆動磁化反転およびスピン波励起」フィジカル レビュー レターズ,2000年,84巻,3149頁(Katine, J.A., Albert, F.J., Buhrman, R.A., Myers, E.B., and Ralph, D.C., "Current-Driven Magnetization Reversal and Spin-Wave Excitations in Co /Cu /Co Pillars ", Phys.Rev.Lett. 84, 3149 (2000))
【非特許文献4】キセレフ,エス.アイ.,サンケイ,ジェイ.シー.,クリボロトフ,エル.エヌ.,エムレイ,エヌ.シー.,ショールコフ,アール.ジェイ.,バーマン,アール.エイ.,ラルフ,ディー.シー.,「スピン偏極電流によるナノ磁石駆動のマイクロ波発振」ネーチャー,2003年,425巻,380頁(Kiselev, S.I., Sankey, J.C., Krivorotov, LN., Emley, N.C., Schoelkopf, R.J., Buhrman, R.A., and Ralph, D.C., "Microwave oscillations of a nanomagnet driven by a spin-polarized current", Nature, 425, 380 (2003))
【非特許文献5】エス.パーキン他,フィジカル レビュー ビー,1991年,44巻,13号(S. Parkin et al., Physical Review B 44 N°13 (1991))
【非特許文献6】エス.パーキン他,フィジカル レビュー レターズ,1990年,64巻,19号(S. Parkin et al. Physical Review Letters 64 N°19 (1990))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、改良されたQ値を有する無線周波数発振器を提供するものである。従って、本発明の目的は、自由層および/または参照層は、少なくとも、3つの強磁性、またはフェリ磁性副層の積層体により構成され、前記強磁性またはフェリ磁性副層は、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により互いに結合され、前記2つの強磁性、またはフェリ磁性副層間が反強磁性RKKY結合により、互いに磁気的に結合される無線周波数発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
発振周波数fにおける無線周波数発振器の半値幅Δfは、自由層または参照層の磁性材料の体積(以下、有効体積といい、Veffと記す。)に逆比例することが知られている。RKKY結合によって互いに磁気的に結合された少なくとも3つの強磁性、またはフェリ磁性副層の積層体により、自由層または参照層を形成することで、この層の有効体積は増大する。
【0028】
実際、自由層または参照層の有効体積は、これを構成する強磁性、またはフェリ磁性の各副層の体積の総和に対応する。この有効体積の増加は、半値幅Δfを減少させ、従って、発振器のQ値を改良する。
【0029】
さらに、RKKY結合によって磁気的に結合された副層の積層体として、自由層または参照層を作成することにより、
− 如何なる質の低下もなく、あるいは、この層に保持される歳差運動の一貫性を改良することなく、また、
− 発振器の保持された発振を行わせるために必要な臨界電流Icの大きさを変更し、または、減少させることなく、
半値幅Δfが減少する。
【0030】
また、この無線周波数発振器の実施形態では、以下の1つ以上の特徴を備えることができる。
・前記積層体の各強磁性またはフェリ磁性副層は、前記積層体が合成フェリ磁性であるため、反強磁性RKKY結合により直上に配置される前記強磁性またはフェリ磁性副層に結合される。
・前記副層は、強磁性副層であり、各強磁性副層の磁気モーメントは、前記積層体が合成反強磁性であるため、互いに相殺される。
・少なくとも2つの強磁性またはフェリ磁性副層は、反強磁性RKKY結合により互いに結合され、少なくとも2つの強磁性またはフェリ磁性副層は、強磁性RKKY結合により互いに結合される。
・前記強磁性またはフェリ磁性副層の前記積層体は、3つの強磁性またはフェリ磁性副層だけから形成される。
・非磁性層に最も接近する第1強磁性副層またはフェリ磁性副層の厚みは、10nm未満であり、好適には、1nm〜4nmの範囲である。
・少なくとも前記自由層は、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により互いに結合される、少なくとも3つの強磁性副層の積層体により形成される。
・前記発振器は、その磁性を固定する前記参照層に直接接触する反強磁性層を有する。
・前記参照層は、合成反強磁性である。
【0031】
前記無線周波数発振器のこれらの実施形態は、さらに次の利点を有する。
− 全体の磁気モーメントが明らかにゼロである積層体を用いることにより、他の磁性層に放射される双極子場を弱め、または、除去することにより、発振器の安定性が増大する。
− 前記第1強磁性副層の厚さを4nm未満とすることにより、臨界電流Icの大きさが減少する。実際、この電流は、前記第1強磁性副層の厚さに正比例する。また、
− 前記参照層を反強磁性層で固定するか、または、合成反強磁性層により参照層を形成することにより、前記参照層の磁性の安定性が増加する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本発明は、制限されない実施形態に関する添付の図面を参照して、以下の説明を読みことにより、明確に理解することができると思う。
【図1】無線周波数発振器の概略図である。
【図2】図1の無線周波数発振器の他の実施形態の概略図である。
【図3】図1の無線周波数発振器の他の実施形態の概略図である。
【図4】図1の無線周波数発振器の他の実施形態の概略図である。
【図5】図1の無線周波数発振器の他の実施形態の概略図である。
【図6】図1〜図5の発振器の1つを構成する利用可能な合成反強磁性体の概略図である。
【図7】図1〜図5の発振器の1つを構成する利用可能な強磁性副層の積層体の概略図である。
【0033】
これらの図において、同じ要素には同じ符号を付してある。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の記載において、当業者に周知の特徴および機能については、詳細に記載しない。
【0035】
図1は、無線周波数発振器2を示す。この無線周波数発振器2は、スピン偏極電流が流れる磁気抵抗素子を統合する。この磁気抵抗素子は、CPP(current perpendicular to plane geometry)として知られる構造からなっている。より具体的には、図1において、磁気抵抗素子は、いわゆる、「ナノピラー」構造からなっている。このナノピラーは、互いの上に同じ水平断面を有する水平層を積層して形成されている。
【0036】
さらに、無線周波数発振器2は、前記ナノピラーの各端部に導電性電極4、6をそれぞれ備えている。これらの電極は、磁気抵抗素子を構成する異なる層を垂直に横切る電流を生成するために用いられる。この電流の大きさが臨界電流Icの大きさを超えると、これらの導電性電極4、6間の電圧が導電性電極4、6を横切る電流に依存する周波数で振動を開始する。この電圧は、例えば、参照信号を生成するため、それを処理する電子機器7に送信される。
【0037】
これらの導電性電極4、6間において、ピラーは、主として、参照層8、自由層10、および、参照層8と自由層10との間に挿入される非磁性層12の3つの層を有する。非磁性層12は、スペーサとして知られている。
【0038】
これらの参照層8、自由層10および非磁性層12は、磁気抵抗特性、すなわち、参照層8および自由層10の磁化方向の関数として、ピラーの抵抗変化が現れるように設計されている。
【0039】
ピラーを構成する各層の幅Lは、一定である。ここで、幅Lは、1μmよりも小さく、一般的には、20nm〜200nmの範囲である。
【0040】
参照層8は、導電性磁性体から形成されている。その上面には、スペーサ12が直接接触する。参照層8は、その層の平面に含まれる軟磁化方向を有する。
【0041】
参照層8は、それを横切る電流の電子をスピン偏極させる機能を有する。従って、参照層8は、この機能を達成するのに充分な厚さを有する。一般的には、参照層8の厚さは、スピン拡散長(この用語の定義は、例えば、特許文献2参照)よりも確実に大きい。
【0042】
例えば、参照層8は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、または、これらの合金(CoFe、NiFe、CoFeB等)から形成されている。参照層8の厚さは、数nmのオーダである。参照層8には、スピン拡散長を減少させる0.2nm〜0.5nmのオーダの厚さからなる銅、銀、または金の非常に薄い2〜3(一般的には2〜4)の層を被覆することができる。また、参照層8は、SYFまたはSAFから形成することができる。図1では、理解を容易にするため、各層の厚さの比率にこだわっていない。
【0043】
ここで、参照層8は、磁化の方向が固定されている。「固定された磁化方向」の用語は、自由層10の磁気モーメントの方向よりも参照層8の磁気モーメントの方向を変更することが困難である、ということを表している。そのため、参照層8の磁化は、例えば、参照層8と導電性電極6との間に挿入される導電性反強磁性層16によって固定される。導電性反強磁性層16の上面は、例えば、参照層8の下面に直接接触する。
【0044】
一般的に、導電性反強磁性層16の厚さは、5nm〜50nmの範囲である。導電性反強磁性層16は、IrMn、PtMn、FeMn等の合金の1つであるマンガン合金から形成することができる。例えば、導電性反強磁性層16は、IrMn、FeMn、PtMn、NiMnを含む群から選択される一の材料から形成される。
【0045】
スペーサ12は、非磁性層である。このスペーサ12は、偏極損失を規制して、参照層8から自由層10にスピン偏極電流が流れるために充分に薄い。その一方で、スペーサ12の厚さは、参照層8と自由層10との間の磁気的分離を得るための充分な厚さを有する。
【0046】
例えば、スペーサ12は、銅(Cu)のような導電材料から形成される。ピラーの磁気抵抗特性は、巨大磁気抵抗(GMR)の特質として適している。この場合、スペーサ12の厚さは、一般的には2nmよりも厚い。通常、その厚さは、2nm〜40nmの範囲であり、好適には、5nm±25%である。
【0047】
また、スペーサ12は、酸化物または窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化タンタル、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等のような絶縁体材料から形成される。ピラーは、トンネル磁気抵抗(TMR)特性を有する。この場合、スペーサ12の厚さは、一般的には0.5nm〜3nmの範囲である。
【0048】
自由層10は、参照層8の磁化よりも容易に磁化が回転または歳差運動する導電性磁性層である。
【0049】
この自由層10は、3つの強磁性副層20〜22の積層体で構成されている。強磁性副層20と21、21と22は、反強磁性RKKY結合によって互いに結合されている。従って、強磁性副層20〜22の積層体は、合成フェリ磁性である。これらの強磁性副層20〜22の軟磁化方向は、強磁性副層20〜22の平面に含まれる。
【0050】
強磁性副層20の下面は、スペーサ12の上面に直接接触する。強磁性副層20の厚さt1は、可能な限り薄い。実際、この厚さt1が規制されるほど、臨界電流Icが小さくなる。例えば、厚さt1は、1nm〜6nmの範囲であり、好適には、1nm〜4nmの範囲である。
【0051】
この強磁性副層20は、コバルト、ニッケル、鉄、または、これらの各金属の合金(例えば、CoFe、CoFeB、NiFe等)のような強磁性材料から形成されている。
【0052】
スピン偏極電流または外部磁場電流が存在しないとき、強磁性副層20の全体の磁気モーメントは、この強磁性副層20の平面に平行となる。この磁気モーメントの方向は、図1における矢印24で示されている。
【0053】
強磁性副層20の磁気モーメントの大きさは、強磁性副層20に使用される強磁性材料の磁化M1に厚さt1を乗算した値に比例する。強磁性副層20は、体積V1を占める。磁気モーメントmは、磁化M1にこの体積V1を乗算した結果に等しく、従って、M1・t1に比例する。
【0054】
強磁性副層20、21をRKKY結合するため、導電性非磁性副層26が、これらの2つの強磁性副層20、21間に挿入されている。この導電性非磁性副層26の厚さは、強磁性副層20、21に対して反強磁性的に結合されるのに充分に薄い。「反強磁性結合」の用語は、強磁性副層20、21の磁気モーメントが反平行であることを意味する。
【0055】
例えば、導電性非磁性副層26は、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、銅(Cu)クロム(Cr)、白金(Pt)または銀(Ag)のような材料から形成されている。RKKY結合を達成するために使用される厚さは、導電性非磁性副層26を形成するために選択される材料に依存し、同じではない。例えば、導電性非磁性副層26がクロムから形成される場合、厚さは、4.5nm以下である。導電性非磁性副層26が銅から形成される場合、厚さは、1.5nm未満である。
【0056】
導電性非磁性副層26の厚さは、数Å、すなわち、1Å〜50Åの範囲であることが好ましい。ここでの厚さは、例えば、8Åである。
【0057】
強磁性副層21の下面は、導電性非磁性副層26の上に直接接触している。この強磁性副層21は、強磁性副層22と同様に、反強磁性RKKY結合により強磁性副層20に磁気的に結合されている。従って、矢印28で示されるその磁気モーメントの方向は、強磁性副層20、22の磁気モーメントとは反対である。
【0058】
この実施形態において、強磁性副層21の厚さt2は、自由層10の有効体積Veffをさらに増加させるため、厚さt1よりも確実に大きくなるように選択される。実際、自由層10の有効体積Veffの増加が大きくなれば、半値幅Δfの減少も大きくなる。例えば、厚さt2は、強磁性副層21の体積V2が強磁性副層20の体積V1よりも、少なくとも10%〜25%だけ大きくなるように選択される。
【0059】
さらに、強磁性副層21は、合成反強磁性を得るため、強磁性副層20、22の磁気モーメントを相殺するように設計されている。自由層10を形成するために補正された合成反強磁性を使用することにより、他の磁性層から放射される双極子場が減少し、発振器の安定性は増加する。
【0060】
ここに記述した特定の場合では、強磁性副層21は、強磁性副層20、22と同じ反強磁性材料から形成されている。従って、その磁気モーメントは、磁化M1に厚さt2を乗算した値に比例する。このことは、強磁性副層20、22の磁気モーメントを相殺するため、厚さt2が厚さt1の2倍に等しくなるように選択することを意味する。
【0061】
導電性非磁性副層30は、2つの強磁性副層21、22を反強磁性RKKY結合するため、これらの強磁性副層21、22間に挿入されている。導電性非磁性副層30は、例えば、導電性非磁性副層26と同じである。
【0062】
強磁性副層22の下面は、導電性非磁性副層30の上面に直接接触する。強磁性副層22は、例えば、強磁性副層20と同じである。ここで、磁気モーメントの方向は、矢印32で示されている。
【0063】
図2は、反強磁性層44が自由層10の上に配置されていることを除き、無線周波数発振器2と同じである無線周波数発振器40を示す。従って、反強磁性層44は、一方の導電性電極4と他方の自由層10との間に挿入されている。この反強磁性層44は、例えば、導電性反強磁性層16に使用することができるものと同じ材料から形成されている。この反強磁性層44は、自由層10の磁化の相対的な自由を低下させる。しかしながら、反強磁性層44の厚さを利用することで、用いる磁気結合は、参照層8および導電性反強磁性層16を用いるものよりも小さくなることが保証される。このように、自由層10の磁化は、歳差運動にもかかわらず、反強磁性層44の固有の結合がこの磁化の一貫性を維持するのに貢献する。
【0064】
図3は、反強磁性層44が、スペーサ54により自由層10から分離された偏極子(polarizer)52によって置き換えられた点を除き、図2のものと同じである無線周波数発振器50を示す。偏極子52は、磁化が層の平面の外側にあり、好ましくは、層の平面に直交する1つの層または磁性マルチ層である。偏極子52は、それを横切る電流をスピン偏極させる。一般的には、偏極子52は、例えば、磁性層および金属層(例えば、(Co/Pt)n)を選択的に互いに重畳した複数の副層により形成されている。ここで、偏極子52については、より詳細には記載していない。偏極子52についてのさらなる情報としては、特許文献3を参照されたい。
【0065】
ここで、偏極子52は、導電性電極4の下に直接積層されている。この偏極子52の磁気モーメントは、層の平面に直交している。
【0066】
スペーサ54は、偏極子52の下に直接積層されている。スペーサ54は、スペーサ12と同じ機能を有する。
【0067】
偏極子52は、その外側の自由層10の磁化の歳差運動を得るためのものである。このことは、例えば、ゼロ場、すなわち、外部磁場のない場合において作用する振動を発生させることを可能とする。
【0068】
図4は、Q値が図1を参照して得られるものと同じ技術を使用することにより改良される無線周波数発振器60を示す。なお、無線周波数発振器60は、「ナノコンタクト(nanocontact)」または「ポイントコンタクト(point contact)」積層体として知られている構造からなっている。このような構造は、特許文献2に記載されているため、ここでは、詳細には記載しない。
【0069】
従って、無線周波数発振器60は、導電性電極4が電極62によって置き換えられている点を除き、無線周波数発振器2と同じである。
【0070】
参照層8、自由層10、スペーサ12および導電性反強磁性層16と同様に、導電性電極6は、幅Lの同じ水平断面を有する。この幅Lは、一般的には、100nmよりも大きい。それは、数μmに達してもよい。
【0071】
電極62は、自由層10の上面に直接接触する幅Lpの先端部64を有する。幅Lpは、導電性電極4、6間を流れる電流の電子が、参照層8、自由層10、スペーサ12および導電性反強磁性層16の積層体において、本質的に円錐状に分布するように、幅Lよりも確実に小さい。幅Lpは、幅Lよりも数分の1(例えば、5分の1)だけ小さい方が好ましい。例えば、幅Lpは、数nm〜20nmまたは200nmの範囲である。
【0072】
図5は、電極62が偏極子74およびスペーサ76の上に重畳される電極72に置き換えられている点を除き、無線周波数発振器60と同じである無線周波数発振器70を示す。例えば、偏極子74およびスペーサ76は、幅Lpが参照層8、自由層10およびスペーサ12の幅Lよりも数分の1だけ小さい点を除き、それぞれが偏極子52およびスペーサ54と同じである。一般的には、幅Lpと幅Lとの比率は、図4に記載されたものと同じである。例えば、幅Lpは、先端部64と同じである。
【0073】
無線周波数発振器は、多数の実施形態が可能である。例えば、上記の実施形態は、自由層が3つの強磁性副層を有する合成反強磁性を用いて形成される特定の場合のものである。しかしながら、磁気モーメントが互いに補正されるように寸法が設定されるのであれば、強磁性副層は必要ではない。このように、変形例として、副層の積層体は、単純な合成強磁性として形成することができる。
【0074】
合成強磁性は、n強磁性副層を備えることができる。ここで、nは、3よりも大きい整数である。実際には、nは、10よりも小さい。3つよりも多い強磁性副層を有する合成強磁性からなる実施形態を、図6に示す。ここで、FMiは、底部から始まる積層体のi番目の強磁性副層であり、NMiは、強磁性副層FMiとFMi+1との間に配設されたi番目の非磁性副層である。
【0075】
それぞれにおいて、非磁性副層NMiの厚さは、強磁性副層FMiとFMi+1との間の反強磁性RKKY結合により生成することができる。
【0076】
磁気歳差運動の一貫性を低下させることなく、自由層の有効体積Veffを増加させるため、強磁性副層の積層体を合成フェリ磁性とする必要はない。変形例として、例えば、上述した合成フェリ磁性は、RKKY結合によって相互に結合された強磁性副層の積層体によって置き換えられる。ここで、RKKY結合は、他の直上の少なくとも2つの強磁性副層を強磁性RKKY結合によって結合するもの、および、他の直上の少なくとも2つの強磁性副層を反強磁性RKKY結合によって結合するものがある。
【0077】
「他の直上の1つ」の用語は、2つの強磁性副層が、2つの強磁性副層間の所望のRKKY結合を生成する形状の非磁性副層によって互いに分離されていることを意味する。
【0078】
一旦、積層体が強磁性RKKY結合により結合された2以上の強磁性副層が形成されると、前記の定義からなる合成強磁性をこれ以上構成することはない。
【0079】
例えば、図7は、間に非磁性副層98〜100が挿入される4つの強磁性副層92〜95からなる積層体90である。非磁性副層98の厚さは、強磁性RKKY結合により強磁性副層92、93の磁気的な結合のために選択される。同様に、非磁性副層100の厚さは、強磁性副層94、95間の強磁性RKKY結合を得るために選択される。図6において、各強磁性副層の磁気モーメントの方向は、対応する副層の中に記載された矢印によって示されている。湾曲する矢印は、積層体の外のいくつかの磁力線の方向を示す。
【0080】
積層体90は、全磁気モーメントがゼロとなるように補正されることが好ましい。この目的を達成するために、各強磁性副層の体積を利用することができる。
【0081】
しかしながら、無線周波数発振器のQ値を改良するためには、合成強磁性または使用する積層体90を補正する必要はない。
【0082】
また、無線周波数発振器のQ値の改良は、合成フェリ磁性、または、積層体90のようなRKKY結合によって結合される少なくとも3つの強磁性層の積層体によってなされる。このように、変形例として、Q値を改良するため、参照層および自由層は、ともにこの種の積層体によって形成される。他の変形例においては、これらの2つの層の1つだけが上述した積層体の1つによって形成される。
【0083】
偏極子は、反強磁性材料によって固定することができるが、外部磁場が存在しない場合には、測定可能な磁化がないため、補正することができる。
【0084】
図1〜図5を参照して記載された発振器の各層の積層の順番は、示されている積層の順番と反対にすることができる。
【0085】
強磁性層または強磁性副層は、例えば、特許文献2の13頁、第1行目〜第10行目に記載されるようにして被覆することができる。スペーサを構成する層に近接する強磁性副層だけを被覆することが好ましい。
【0086】
変形例として、スペーサに最も近い第1副層と他の副層の1つのとの間の体積の差は、第1副層の水平の面積の少なくとも1つを減少させることにより得られる。
【0087】
また、歳差運動の一貫性を増加させるため、希土類、特に、0.01%〜2%(原子%)の範囲で比例するテルビウムに基づく不純物を、強磁性副層の少なくとも1つに添加することが可能である。
【0088】
より一般的には、全ての実施形態において、強磁性副層は、フェリ磁性副層に置き換えることができる。
【0089】
強磁性またはフェリ磁性副層の少なくとも1つに利用される磁性材料は、高い交換スティフネス定数を有することが好ましい。この目的を達成するために、本発明では、第3の材料、特に、コバルトまたはコバルトリッチ合金を利用する。
【0090】
また、強磁性またはフェリ磁性副層は、例えば、スピンバルブに共通に用いられるNiFe/CoFe(共に強磁性)の二重層またはTbCo/CoFeB(共に強磁性)の二重層とともに、直接互いに重畳された複数の強磁性またはフェリ磁性ストリップの組から構成することができる。
【0091】
また、参照層の磁化は、外部の磁場によってピラーに固定することができる。
【0092】
また、自由層は、層の平面または層の平面の外で歳差運動する磁化を有することができる。また、自由層の軟磁化方向は、その層の平面の外であって、平面に直交する方向であることが好ましい。
【符号の説明】
【0093】
2、40、50 無線周波数発振器
4、6 導電性電極
7 電子機器
8 参照層
10 自由層
12 非磁性層(スペーサ)
16 導電性反強磁性層
20〜22 強磁性副層
26 導電性非磁性副層
30 導電性非磁性副層
44 反強磁性層
52、74 偏極子
54、76 スペーサ
62 電極
90 積層体
92〜95 強磁性副層
98〜100 非磁性副層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
− 電流をスピン偏極することのできる固定された磁化方向を有する参照層である第1磁性層(8)と、
− スピン偏極電流が通過することで磁化が振動する自由層である第2磁性層(10)と、
− 前記2つの層間に挿入され、前記第1磁性層と前記第2磁性層とを磁気的に分離するように設計されたスペーサである非磁性層(12)
とを有する積層体と、
− 前記各層に直交する前記層を流れる電流を生成する手段(4、6、62、6、72、6)とを備えるスピン偏極電流が流れる磁気抵抗素子を統合する無線周波数発振器において、
前記自由層(10)および/または前記参照層は、少なくとも、3つの強磁性(20〜22、92〜95)、またはフェリ磁性副層の積層体により構成され、前記強磁性またはフェリ磁性副層間に導電性非磁性副層(26、30、98、100)が挿入され、前記強磁性またはフェリ磁性副層(20〜22、92〜95)は、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により互いに結合され、少なくとも前記2つの強磁性またはフェリ磁性副層(20〜22、92〜95)間は、反強磁性RKKY結合により、互いに磁気的に結合されていることを特徴とする無線周波数発振器。
【請求項2】
前記積層体の各強磁性(20〜22)またはフェリ磁性副層は、反強磁性RKKY結合により、直上に配置される前記強磁性またはフェリ磁性副層に結合され、前記積層体が合成フェリ磁性となっていることを特徴とする請求項1記載の無線周波数発振器。
【請求項3】
前記副層は、強磁性副層であり、各強磁性副層(20〜22)の磁気モーメントは、互いに相殺し、前記積層体が合成反強磁性となっていることを特徴とする請求項2記載の無線周波数発振器。
【請求項4】
少なくとも2つの強磁性またはフェリ磁性副層(93、94)は、反強磁性RKKY結合により互いに結合され、少なくとも2つの強磁性(92、93、94、95)またはフェリ磁性副層は、強磁性RKKY結合により互いに結合されていることを特徴とする請求項1記載の無線周波数発振器。
【請求項5】
前記強磁性(20〜22)またはフェリ磁性副層の前記積層体は、3つの強磁性、またはフェリ磁性副層だけから形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無線周波数発振器。
【請求項6】
非磁性層に最も接近する第1強磁性副層またはフェリ磁性副層の厚さは、10nm未満であり、好適には、1nm〜4nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の無線周波数発振器。
【請求項7】
少なくとも前記自由層(10)は、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により互いに結合されている少なくとも3つの強磁性副層の積層体により形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の無線周波数発振器。
【請求項8】
前記発振器(16)は、その磁性を固定する前記参照層(8)に直接接触する反強磁性層を有することを特徴とする請求項7記載の無線周波数発振器。
【請求項9】
前記参照層は、合成反強磁性であることを特徴とする請求項7または8記載の無線周波数発振器。
【請求項1】
少なくとも、
− 電流をスピン偏極することのできる固定された磁化方向を有する参照層である第1磁性層(8)と、
− スピン偏極電流が通過することで磁化が振動する自由層である第2磁性層(10)と、
− 前記2つの層間に挿入され、前記第1磁性層と前記第2磁性層とを磁気的に分離するように設計されたスペーサである非磁性層(12)
とを有する積層体と、
− 前記各層に直交する前記層を流れる電流を生成する手段(4、6、62、6、72、6)とを備えるスピン偏極電流が流れる磁気抵抗素子を統合する無線周波数発振器において、
前記自由層(10)および/または前記参照層は、少なくとも、3つの強磁性(20〜22、92〜95)、またはフェリ磁性副層の積層体により構成され、前記強磁性またはフェリ磁性副層間に導電性非磁性副層(26、30、98、100)が挿入され、前記強磁性またはフェリ磁性副層(20〜22、92〜95)は、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により互いに結合され、少なくとも前記2つの強磁性またはフェリ磁性副層(20〜22、92〜95)間は、反強磁性RKKY結合により、互いに磁気的に結合されていることを特徴とする無線周波数発振器。
【請求項2】
前記積層体の各強磁性(20〜22)またはフェリ磁性副層は、反強磁性RKKY結合により、直上に配置される前記強磁性またはフェリ磁性副層に結合され、前記積層体が合成フェリ磁性となっていることを特徴とする請求項1記載の無線周波数発振器。
【請求項3】
前記副層は、強磁性副層であり、各強磁性副層(20〜22)の磁気モーメントは、互いに相殺し、前記積層体が合成反強磁性となっていることを特徴とする請求項2記載の無線周波数発振器。
【請求項4】
少なくとも2つの強磁性またはフェリ磁性副層(93、94)は、反強磁性RKKY結合により互いに結合され、少なくとも2つの強磁性(92、93、94、95)またはフェリ磁性副層は、強磁性RKKY結合により互いに結合されていることを特徴とする請求項1記載の無線周波数発振器。
【請求項5】
前記強磁性(20〜22)またはフェリ磁性副層の前記積層体は、3つの強磁性、またはフェリ磁性副層だけから形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無線周波数発振器。
【請求項6】
非磁性層に最も接近する第1強磁性副層またはフェリ磁性副層の厚さは、10nm未満であり、好適には、1nm〜4nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の無線周波数発振器。
【請求項7】
少なくとも前記自由層(10)は、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合により互いに結合されている少なくとも3つの強磁性副層の積層体により形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の無線周波数発振器。
【請求項8】
前記発振器(16)は、その磁性を固定する前記参照層(8)に直接接触する反強磁性層を有することを特徴とする請求項7記載の無線周波数発振器。
【請求項9】
前記参照層は、合成反強磁性であることを特徴とする請求項7または8記載の無線周波数発振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2011−101015(P2011−101015A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−247987(P2010−247987)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(510132347)コミサリア ア レネルジ アトミク エ オウ エネルジ アルタナティヴ (51)
【出願人】(500356876)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247987(P2010−247987)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(510132347)コミサリア ア レネルジ アトミク エ オウ エネルジ アルタナティヴ (51)
【出願人】(500356876)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (9)
【Fターム(参考)】
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