説明

無線基地局

【課題】高品質なマルチキャストデータの配信を行うことができ、無線資源を効率的に利用することができる無線基地局を提供すること。
【解決手段】マルチキャストデータを複数の端末装置に配信するマルチキャストデータ配信サービスに用いられる無線基地局において、複数の端末装置の通信状態が包括的に良好か否かを判断する通信状態判断部24と、通信状態判断部24の判断結果に基づいて、複数の端末装置の通信状態が包括的に良好であると判断した場合には、カルーセル伝送を適用したマルチキャストによるマルチキャストデータの配信を選択し、複数の端末装置の通信状態が包括的に良好でないと判断した場合には、ARQを適用したユニキャストによるマルチキャストデータの配信を選択する配信方式選択部25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチキャストデータ配信サービスに用いられる無線基地局に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マルチキャストデータ配信サービスとして、映像等のマルチキャストデータを無線基地局から複数の端末装置に対して同時に送信されるMBS(Multicast and Broadcast Service)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】庄内崇、「WiMAX教科書」、初版、日本、株式会社インプレスR&D、2008年7月21日、p.227−229
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなマルチキャストデータ配信サービスにおいては、無線基地局と端末装置との間の無線区間において、ノイズの混入や電波状況の変化等により、伝送中にビット単位、パケット単位の損失が生じてしまうことがある。
【0005】
このため、上述したような従来のマルチキャスト配信技術は、無線環境がそれぞれ異なる端末装置毎に再送すべき欠損パケットが異なるため、各端末装置に欠損パケットを再送するのが困難である。この結果、従来のマルチキャスト配信技術は、映像ストリーミング配信等のように、高品質なマルチキャストデータの配信ができないという課題があった。
【0006】
また、従来のマルチキャスト配信技術は、各端末の無線環境に依存せず、複数の端末が公平に、安定して受信できるように、最も安定した変調符号化方式を用いてデータ送信を行っていた。この結果、従来のマルチキャスト配信技術は、無線資源を効率的に利用することができないという課題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたもので、高品質なマルチキャストデータの配信を行うことができ、無線資源を効率的に利用することができる無線基地局を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無線基地局は、マルチキャストデータを複数の端末装置に配信するマルチキャストデータ配信サービスに用いられる無線基地局において、
前記複数の端末装置の通信状態が包括的に良好か否かを判断する通信状態判断部と、
前記通信状態判断部の判断結果に基づいて、前記複数の端末装置の通信状態が包括的に良好であると判断した場合には、片方向通信チャネルで前記マルチキャストデータの配信を選択し、前記複数の端末装置の通信状態が包括的に良好でないと判断した場合には、双方向通信チャネルによって前記マルチキャストデータの配信を選択する配信方式選択部とを備えた構成を有している。
【0009】
この構成により、本発明の無線基地局は、複数の端末装置の通信状態が包括的に良好であると判断した場合には、片方向通信チャネルでマルチキャストデータの配信を選択し、複数の端末装置の通信状態が包括的に良好でないと判断した場合には、双方向通信チャネルによってマルチキャストデータの配信を選択することにより、高品質なマルチキャストデータの配信を行うことができ、無線資源を効率的に利用することができる。
【0010】
なお、前記配信方式選択部は、前記片方向通信チャネルでは、カルーセル伝送を適用したマルチキャストによる前記マルチキャストデータの配信を選択し、前記双方向通信チャネルでは、ARQを適用したユニキャストによる前記マルチキャストデータの配信を選択するようにしてもよい。
【0011】
また、前記通信状態判断部は、前記各端末装置によって送信されたパケットロスを表す情報から前記各端末装置ロス率を算出し、算出したパケットロス率に基づいて、前記複数の端末装置の通信状態が包括的に良好であるか否かを判断するようにしてもよい。
【0012】
また、前記通信状態判断部は、前記各端末装置ロス率に基づいて、前記カルーセル伝送を適用したマルチキャストによって前記マルチキャストデータを配信するためにかかる配信時間相当値と、前記ARQを適用したユニキャストによって前記マルチキャストデータを配信するためにかかる配信時間相当値とをそれぞれ概算し、概算した配信時間相当値を比較することにより前記複数の端末装置の通信状態が包括的に良好か否かを判断するようにしてもよい。
【0013】
また、前記通信状態判断部は、前記各端末装置に前記マルチキャストデータを配信するために送信されるデータ量の合計を概算することによって、前記ARQを適用したユニキャストによって前記マルチキャストデータを配信するためにかかる配信時間相当値を概算するようにしてもよい。
【0014】
また、前記通信状態判断部は、前記パケットロス率が最も高い端末装置に前記マルチキャストデータを配信するために送信されるデータ量を概算することによって、前記カルーセル伝送を適用したマルチキャストによって前記マルチキャストデータを配信するためにかかる配信時間相当値を概算するようにしてもよい。
【0015】
このような構成により、本発明の無線基地局は、複数の端末装置の通信状態が包括的に良好であるか否かを判断することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、高品質なマルチキャストデータの配信を行うことができ、無線資源を効率的に利用することができる無線基地局を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態としての無線基地局によって構成される通信システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施の形態としての無線基地局の機能ブロック図である。
【図3】本発明の一実施の形態としての無線基地局によって参照されるサービステーブルの一例を示す概念図である。
【図4】本発明の一実施の形態としての無線基地局によって構成される通信システムのコネクション確立動作を示すシーケンス図である。
【図5】本発明の一実施の形態としての無線基地局のマルチキャストデータ転送動作を示すシフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態としての無線基地局によって構成される通信システムについて、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態においては、通信システムを構成する各装置がWiMax規格に準拠して動作するものとして説明する。
【0019】
図1に示すように、通信システムには、マルチキャスト(以下、単に「MC」ともいう)コンテンツが格納されたMCサーバ1と、MCサーバ1とネットワーク2を介して接続されたMCルータ3と、WiMax基地局4と、WiMax端末5a、5bとが設けられている。
【0020】
なお、図1において、1つのMCサーバ1、1つのMCルータ3、1つのWiMax基地局4および2つのWiMax端末5a、5bが図示されているが、図1は、これらの数および配置を限定するものではない。
【0021】
MCサーバ1は、例えば、MCコンテンツを格納するための大容量の記憶媒体を有するコンピュータ装置によって構成される。MCルータ3は、MC網に接続された、マルチキャストパケットの転送が可能な一般的なルータによって構成されている。
【0022】
WiMax基地局4は、本発明における無線基地局を構成し、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、有線通信を行うための有線通信モジュールと、無線通信を行うための無線通信モジュールとを備えた無線装置によって構成されている。
【0023】
ROMには、当該無線装置をWiMax基地局4として機能させるためのプログラムが記憶されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに記憶されたプログラムを実行することにより、当該無線装置は、WiMax基地局4として機能する。
【0024】
WiMax基地局4は、有線通信モジュールを介してMCルータ3と有線で通信し、無線通信モジュールを介して各WiMax端末5a、5b(以下、総称して「WiMax端末5」ともいう)と無線で通信するようになっている。
【0025】
WiMax端末5aは、例えば、携帯電話等の携帯端末によって構成され、WiMax端末5bは、WiMax CPE(Customer Premises Equipment)等によって構成される。
【0026】
WiMax端末5bは、ルータ6に接続され、ルータ6は、宅内ネットワーク7に接続され、宅内ネットワーク7には、パーソナルコンピュータ等の通信機器8a〜8dが接続されている。
【0027】
また、MCルータ3とWiMax基地局4との間には、AAA(Authentication、Authorization、Accounting)サーバ9と、MCBCS(Multicast Broadcast Service)サーバ10とが設けられている。
【0028】
なお、図1において、1つのAAAサーバ9および1つのMCBCSサーバ10が図示されているが、図1は、これらの数および配置を限定するものではない。特に、図1において、発明を理解しやすくするために、1つのMCBCSサーバ10が図示されているが、通信システムには、複数のMCBCSサーバ10を設けてもよい。
【0029】
AAAサーバ9は、コンピュータ装置によって構成され、WiMax端末5の加入者に対して、認証、認可および課金等を行うようになっている。具体的には、AAAサーバ9には、加入者を識別するための加入者IDと、加入者を認証するための認証情報と、MCBCSサーバ10のアドレス情報との対応関係が予め登録されている。
【0030】
AAAサーバ9は、加入者IDで識別される加入者を認証情報に基づいて認証し、WiMax端末5の加入者が正当なものであると認証した場合には、MCBCSサーバ10のアドレス情報をWiMax基地局4に返信するようになっている。
【0031】
MCBCSサーバ10は、コンピュータ装置によって構成され、WiMax基地局4にWiMax端末5とのコネクションを確立させるようになっている。具体的には、MCBCSサーバ10には、加入者IDと、加入者が契約しているサービスを識別するためのサービスIDと、当該サービスを提供するためのパケットに付与するIPマルチキャストグループアドレス(以下、単に「IP−MCGアドレス」という)との対応関係が予め登録されている。
【0032】
MCBCSサーバ10は、WiMax基地局4から送信されたアクセス要求に応じて、サービスを提供するためのパケットに付与するIP−MCGアドレスをWiMax基地局4に送信するようになっている。
【0033】
WiMax基地局4は、MCBCSサーバ10から送信されたIP−MCGアドレスの受信に応じて、WiMax端末5とコネクションを確立するようになっている。
【0034】
図2に示すように、WiMax基地局4は、コネクション確立部20と、テーブル格納部21と、有線通信部22と、コネクションID抽出部23と、通信状態判断部24と、配信方式選択部25と、無線通信部26とを備えている。
【0035】
なお、本実施の形態において、コネクション確立部20、コネクションID抽出部23、通信状態判断部24および配信方式選択部25は、CPUによって構成され、テーブル格納部21は、RAMによって構成され、有線通信部22は、有線通信モジュールによって構成され、無線通信部26は、無線通信モジュールによって構成される。
【0036】
コネクション確立部20は、各WiMax端末5とコネクションを確立するようになっている。具体的には、コネクション確立部20は、WiMax端末5から無線通信部26を介してマルチキャストデータ配信サービスに対するエントリを受け付け、AAAサーバ9から有線通信部22を介してMCBCSサーバ10のアドレス情報を受信するようになっている。
【0037】
また、コネクション確立部20は、WiMax端末5とのコネクションを確立するようになっている。具体的には、コネクション確立部20は、MCBCSサーバ10に有線通信部22を介してコネクションを確立するために必要な情報(伝送品質や必要帯域等の情報)とIP−MCGアドレスとを要求し、それらをMCBCSサーバ10から受け取った後、受信するIP−MCGアドレスが付されたパケットをWiMax端末5に送信するためのコネクションを確立するようになっている。
【0038】
コネクション確立部20は、WiMax端末5にマルチキャストデータのパケットを無線で送信するための無線リソースの位置と割当を、WiMax端末5との間で決定することによりコネクションを確立するようになっている。
【0039】
ここで、WiMax端末5との間で決定するコネクションは、マルチキャストコネクションID(以下、単に「MID」ともいう)で識別されるマルチキャストコネクションと、コネクションID(以下、単に「CID」ともいう)で識別されるユニキャストコネクションとが含まれる。
【0040】
また、テーブル格納部21は、図3に示すように、IP−MCGアドレスと、CIDのリストと、MIDとの対応関係を表すサービステーブルを格納するようになっている。サービステーブルを構成する各行は、WiMax端末5とのコネクションが確立したときに、IP−MCGアドレスが既に登録されている場合には、コネクション確立部20によって該当する行にCIDが登録され、IP−MCGアドレスが登録されていない場合には、コネクション確立部20によって新たな行が追加され、追加された行にCIDおよびMIDが登録される。
【0041】
また、サービステーブルを構成する各行は、WiMax端末5とのコネクションが切断されたときに、該当するIP−MCGアドレスに対応して複数のCIDが登録されている場合には、コネクション確立部20によって該当するCIDが削除され、該当するIP−MCGアドレスに対応して該当するCIDのみが登録されている場合には、該当するIP−MCGアドレスの行がコネクション確立部20によって削除される。
【0042】
図2において、有線通信部22は、上述したように、WiMax端末5とのコネクションを確立するための情報を送受信する他に、マルチキャストデータのパケットや他のインターネットサービスに関するパケットをMCルータ3から受信するようになっている。
【0043】
コネクションID抽出部23は、有線通信部22によって受信されたパケットに付されたIPアドレスにサービステーブル(図3参照)によって対応付けられたCIDまたはMIDを抽出するようになっている。
【0044】
通信状態判断部24は、WiMax端末5a、5bの通信状態が包括的に良好か否かを判断するようになっている。配信方式選択部25は、通信状態判断部24の判断結果に基づいて、WiMax端末5a、5bの通信状態が包括的に良好であると判断した場合には、片方向通信チャネルでマルチキャストデータの配信を選択し、WiMax端末5a、5bの通信状態が包括的に良好でないと判断した場合には、双方向通信チャネルによるマルチキャストデータの配信を選択するようになっている。
【0045】
本実施の形態において、配信方式選択部25は、片方向通信チャネルでは、カルーセル伝送を適用したマルチキャストによるマルチキャストデータの配信を選択し、双方向通信チャネルでは、ARQを適用したユニキャストによるマルチキャストデータの配信を選択するものとする。
【0046】
以下、具体的に説明すると、通信状態判断部24は、各WiMax端末5a、5bとのコネクションが確立した後に、上述した他のインターネットサービスに関するパケットを受信した各WiMax端末5a、5bによって送信されたパケットロスを表す情報から各WiMax端末5a、5bのパケットロス率を算出し、算出したパケットロス率に基づいて、WiMax端末5a、5bの通信状態が包括的に良好であるか否かを判断するようになっている。
【0047】
ここで、通信状態判断部24は、各WiMax端末5a、5bに実装されたARQ(Automatic Repeat reQuest)機能によって各WiMax端末5a、5bのパケットロスを取得するようにしてもよく、各WiMax端末5a、5bに実装された他の誤り検出自動再送要求方式よって各WiMax端末5a、5bのパケットロスを取得するようにしてもよい。
【0048】
また、通信状態判断部24は、各WiMax端末5a、5bとの間で予め規定したプロトコルに準拠して各WiMax端末5a、5bのパケットロスを取得するようにしてもよい。
【0049】
より詳細には、通信状態判断部24は、各WiMax端末5a、5bのパケットロス率に基づいて、カルーセル伝送を適用したマルチキャストによってマルチキャストデータのパケットを配信するためにかかる配信時間相当値と、ARQを適用したユニキャストによってマルチキャストデータのパケットを配信するためにかかる配信時間相当値とをそれぞれ概算し、概算した配信時間相当値を比較することによりWiMax端末5a、5bの通信状態が包括的に良好か否かを判断するようになっている。
【0050】
通信状態判断部24は、各WiMax端末5a、5bにマルチキャストデータのパケットを配信するために送信されるデータ量の合計を概算することによって、ARQを適用したユニキャストによってマルチキャストデータのパケットを配信するためにかかる配信時間相当値を概算するようになっている。
【0051】
また、WiMax端末5の数をNとし、WiMax基地局4からWiMax端末5に送信するデータサイズをDとし、各WiMax端末5のパケットロス率をXとし、ARQの再送回数の最大値をnとすると、WiMax基地局4から1つのWiMax端末5に実際に送信されるデータの量Yは、以下の式(1)で表すことができる。
【0052】
【数1】

【0053】
ここで、以下の式(2)が成立し、X<1であるため、各WiMax端末5が全てのマルチキャストデータを受信するまで、無限にパケットが再送されることを想定すると、WiMax基地局4から全てのWiMax端末5に送信するデータの量の最大値Y、すなわち、配信時間相当値は、以下の式(3)で表すことができる。なお、式(3)におけるXは、各WiMax端末5のパケットロス率を表す。
【0054】
【数2】

【数3】

【0055】
通信状態判断部24は、パケットロス率が最も高いWiMax端末5にマルチキャストデータを配信するために送信されるデータ量を概算することによって、カルーセル伝送を適用したマルチキャストによってマルチキャストデータを配信するためにかかる配信時間相当値を概算するようになっている。
【0056】
ここで、カルーセル伝送回数をcとし、パケットロス率が最も高いWiMax端末5のパケットロス率をZとし、1つのWiMax端末5に対してc回カルーセル伝送したときの受信成功率Pは、以下の式(4)で表すことができる。
【0057】
【数4】

【0058】
ここで、カルーセル伝送回数をcを無限大に大きくしても受信成功率Pは、100%になることは理論上ないため、受信成功率Pが99.5%以上になったときに受信成功とすると、式(4)は、以下の式(5)から式(9)のように表すことができる。
【0059】
【数5】

【数6】

【数7】

【数8】

【数9】

【0060】
ここで、1回のカルーセル伝送でサイズがDのデータが送信される場合、WiMax基地局4からWiMax端末5に実際に送信されるデータの量の最大値Yは、以下の式(10)で表すことができる。
【0061】
【数10】

【0062】
ここで、ARQを適用したユニキャストの方がカルーセル伝送を適用したマルチキャストより高い変調符号化方式でデータを送信することができるため、本実施の形態においては、ユニキャストでは64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、マルチキャストではQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)で送信データを変調するものとする。
【0063】
また、本実施の形態においては、64QAMの符号化率を3/4とし、QPSKの符号化率を1/2とする。すなわち、64QAMでは、1シンボルで6ビットを送信することができ、符号化率3/4では、6ビットのうち3/4、すなわち9/2ビットを送信することができる。一方、QPSKでは、1シンボルで2ビットを送信することができ、符号化率1/2では、2ビットのうち1/2、すなわち1ビットを送信することしかできない。
【0064】
したがって、周波数帯および送信時間が同じであっても、ユニキャストは、マルチキャストの9/2倍のデータを送信することができるため、ARQを適用したユニキャストでサイズがDのデータを送信するために必要な時間を1としたとき、カルーセル伝送を適用したマルチキャストでサイズがDのデータを送信するために必要な時間の比R、すなわち、配信時間相当値は、以下の式(11)で表すことができる。
【0065】
【数11】

【0066】
以上より、式(3)から求められるWiMax基地局4から全てのWiMax端末5に送信するデータの量の最大値Y(配信時間相当値)を式(11)から求められる比R(配信時間相当値)で割った正規化値RVが1より大きければマルチキャストの方がユニキャストより短時間でマルチキャストデータを送信し終えることとなり、周波数利用効率が高くなる。一方、正規化値RVが1より小さければユニキャストの方がマルチキャストより短時間でマルチキャストデータを送信し終えることとなり、周波数利用効率が高くなる。
【0067】
配信方式選択部25は、通信状態判断部24の判断結果として得られた正規化値RVが1以上であれば、カルーセル伝送を適用したマルチキャストによるマルチキャストデータの配信を選択し、正規化値RVが1未満であれば、ARQを適用したユニキャストによるマルチキャストデータの配信を選択するようになっている。
【0068】
本実施の形態においては、通信状態判断部24は、数分間隔で正規化値RVを算出し、配信方式選択部25は、正規化値RVに基づいて、カルーセル伝送を適用したマルチキャストによるマルチキャストデータの配信またはARQを適用したユニキャストによるマルチキャストデータの配信のいずれか一方を選択するようになっている。
【0069】
MCサーバ1がマルチキャストデータを配信するときには、マルチキャストデータをカルーセル方式で伝送するか否かの問い合わせを表すクエリがMCサーバ1から有線通信部22に送信される。
【0070】
このクエリを受けた有線通信部22は、配信方式選択部25によってカルーセル伝送を適用したマルチキャストによるマルチキャストデータの配信が選択されている場合には、MCサーバ1に対して、カルーセル伝送でマルチキャストデータを送信するよう応答し、配信方式選択部25によってARQを適用したユニキャストによるマルチキャストデータの配信が選択されている場合には、MCサーバ1に対して、マルチキャストデータを非カルーセル伝送、すなわち、マルチキャストデータを実質的に1回送信するよう応答するようになっている。
【0071】
無線通信部26は、コネクションID抽出部23によって抽出されたCIDまたはMIDによって識別される各コネクションを介して当該パケットを各WiMax端末5にユニキャストで送信するようになっている。
【0072】
ここで、無線通信部26は、配信方式選択部25によってカルーセル伝送を適用したマルチキャストによるマルチキャストデータの配信が選択されている場合には、MIDによって識別されるコネクションを介して当該パケットを各WiMax端末5にユニキャストで送信し、配信方式選択部25によってARQを適用したユニキャストによるマルチキャストデータの配信が選択されている場合には、CIDによって識別される各コネクションを介して当該パケットを各WiMax端末5にユニキャストで送信するようになっている。
【0073】
なお、無線通信部26は、有線通信部22に受信されたパケットを格納するバッファ27を有し、パケットを各WiMax端末5にユニキャストで送信する場合には、バッファ27に格納されたパケットを各WiMax端末5に送信するようになっている。
【0074】
以上のように構成された通信システムにおいて、WiMax基地局4とWiMax端末5とのコネクションが確立するまでのコネクション確立動作について、図4を参照して説明する。
【0075】
まず、WiMax端末5からWiMax基地局4にマルチキャストデータ配信サービスに対するエントリが要求されると、当該エントリを受け入れるネットワークエントリ処理(図中、「NE」と記載する)がWiMax端末5とWiMax基地局4との間で実行される(ステップS1)。
【0076】
次に、WiMax端末5からAAAサーバ9に認証が要求される(ステップS2)。ここで、WiMax端末5からAAAサーバ9に要求される認証処理は、例えば、拡張認証プロトコル(Extensible Authentication Protocol、図中、「EAP」と記載する)に準拠して行われる。
【0077】
ここで、AAAサーバ9において、WiMax端末5の加入者が正当なものであると認証された場合には、MCBCSサーバ10のアドレス情報(図中、「MCBCS Server@」と記載する)がWiMax基地局4に返信される(ステップS3)。
【0078】
次に、MCBCSサーバ10のアドレス情報に基づいて、WiMax基地局4からMCBCSサーバ10にアクセス要求(図中、「Access Req.」と記載する)が行われる(ステップS4)。
【0079】
なお、このアクセス要求には、ステップS1において、WiMax基地局4にマルチキャストデータ配信サービスに対するエントリを要求したWiMax端末5の加入者の加入者IDが含まれる。
【0080】
この要求を受信したMCBCSサーバ10では、加入者IDに対応付けられたサービスIDとIP−MCGアドレスとを含む応答情報(図中、「Access Acpt.」と記載する)がWiMax基地局4に送信される(ステップS5)。
【0081】
この応答情報を受信したWiMax基地局4では、応答情報に基づいたコネクションがWiMax端末5との間で確立される(ステップS6)。なお、ステップS6で確立されるコネクションは、MIDで識別されるマルチキャストコネクションと、CIDで識別されるユニキャストコネクションとが含まれる。
【0082】
このようにWiMax基地局4とWiMax端末5とのコネクションが確立した状態で、WiMax基地局4がマルチキャストデータのパケットをWiMax端末5に転送するマルチキャストデータ転送動作について、図5を参照して説明する。なお、以下に説明するマルチキャストデータ転送動作は、WiMax基地局4の有線通信部22にマルチキャストデータのパケットが受信されたときにスタートする。
【0083】
有線通信部22にマルチキャストデータのパケットが受信されると、配信方式選択部25によってARQを適用したユニキャストによるマルチキャストデータの配信が選択されているか、カルーセル伝送を適用したマルチキャストによるマルチキャストデータの配信が選択されているかが有線通信部22によって判断される(ステップS10)。
【0084】
ここで、配信方式選択部25によってARQを適用したユニキャストによるマルチキャストデータの配信が選択されていると判断された場合には、受信されたパケットが無線通信部26のバッファ27に格納される(ステップS11)。
【0085】
また、受信されたパケットのIPアドレスにサービステーブルによって対応付けられたCIDのリストがコネクションID抽出部23によって抽出され(ステップS12)、コネクションID抽出部23によって抽出されたCIDにコネクションテーブルによって対応付けられた各コネクションを介してバッファ27に格納されたパケットが無線通信部26によってARQを適用したユニキャストで送信される(ステップS13)。
【0086】
一方、ステップS10において、配信方式選択部25によってカルーセル伝送を適用したマルチキャストによるマルチキャストデータの配信が選択されていると判断された場合には、有線通信部22にマルチキャストデータのパケットが受信されると、受信されたパケットのIPアドレスにサービステーブルによって対応付けられたMIDがコネクションID抽出部23によって抽出される(ステップS14)。
【0087】
ここで、受信されたパケットが、コネクションID抽出部23によって抽出されたMIDにコネクションテーブルによって対応付けられたコネクションを介して無線通信部26によってマルチキャストで送信される(ステップS15)。
【0088】
このように、本発明の一実施の形態に係るWiMax基地局4は、複数のWiMax端末5の通信状態が包括的に良好であると判断した場合には、カルーセル伝送を適用したマルチキャストによるマルチキャストデータの配信を選択し、複数のWiMax端末5の通信状態が包括的に良好でないと判断した場合には、ARQを適用したユニキャストによるマルチキャストデータの配信を選択することにより、高品質なマルチキャストデータの配信を行うことができ、無線資源を効率的に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の無線基地局は、マルチキャストデータ配信サービスに用いられる無線基地局として利用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 MCサーバ
2 ネットワーク
3 MCルータ
4 WiMax基地局
5、5a、5b WiMax端末
6 ルータ
7 宅内ネットワーク
8a〜8d 通信機器
9 AAAサーバ
10 MCBCSサーバ
20 コネクション確立部
21 テーブル格納部
22 有線通信部
23 コネクションID抽出部
24 通信状態判断部
25 配信方式選択部
26 無線通信部
27 バッファ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチキャストデータを複数の端末装置に配信するマルチキャストデータ配信サービスに用いられる無線基地局において、
前記複数の端末装置の通信状態が包括的に良好か否かを判断する通信状態判断部と、
前記通信状態判断部の判断結果に基づいて、前記複数の端末装置の通信状態が包括的に良好であると判断した場合には、片方向通信チャネルで前記マルチキャストデータの配信を選択し、前記複数の端末装置の通信状態が包括的に良好でないと判断した場合には、双方向通信チャネルによって前記マルチキャストデータの配信を選択する配信方式選択部とを備えたことを特徴とする無線基地局。
【請求項2】
前記配信方式選択部は、前記片方向通信チャネルでは、カルーセル伝送を適用したマルチキャストによる前記マルチキャストデータの配信を選択し、前記双方向通信チャネルでは、ARQを適用したユニキャストによる前記マルチキャストデータの配信を選択することを特徴とする請求項1に記載の無線基地局。
【請求項3】
前記通信状態判断部は、前記各端末装置によって送信されたパケットロスを表す情報から前記各端末装置ロス率を算出し、算出したパケットロス率に基づいて、前記複数の端末装置の通信状態が包括的に良好であるか否かを判断することを特徴とする請求項2に記載の無線基地局。
【請求項4】
前記通信状態判断部は、前記各端末装置ロス率に基づいて、前記カルーセル伝送を適用したマルチキャストによって前記マルチキャストデータを配信するためにかかる配信時間相当値と、前記ARQを適用したユニキャストによって前記マルチキャストデータを配信するためにかかる配信時間相当値とをそれぞれ概算し、概算した配信時間相当値を比較することにより前記複数の端末装置の通信状態が包括的に良好か否かを判断することを特徴とする請求項3に記載の無線基地局。
【請求項5】
前記通信状態判断部は、前記各端末装置に前記マルチキャストデータを配信するために送信されるデータ量の合計を概算することによって、前記ARQを適用したユニキャストによって前記マルチキャストデータを配信するためにかかる配信時間相当値を概算することを特徴とする請求項4に記載の無線基地局。
【請求項6】
前記通信状態判断部は、前記パケットロス率が最も高い端末装置に前記マルチキャストデータを配信するために送信されるデータ量を概算することによって、前記カルーセル伝送を適用したマルチキャストによって前記マルチキャストデータを配信するためにかかる配信時間相当値を概算することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の無線基地局。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−90105(P2013−90105A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228110(P2011−228110)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「ネットワーク統合制御システム標準化等推進事業」(環境負荷低減を実現するためのワイヤレスシステムに関する要件)のうち「WiMAXを利用したデータ収集システム」に関する開発・実証、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】