説明

無線式踏切警報システム

【課題】警報時間割れでも規定警報時間が確保される無線式踏切警報システムを実現。
【解決手段】車上装置21が列車10の踏切警報始動点位置ADCへの到達にて停止用の速度照査パターンPvを用いた速度照査を行い、無線式踏切警報制御装置25が、無線で列車位置を取得する度にその列車位置と踏切警報始動点位置ADCとに基づいて踏切12への列車接近判定と踏切警報機24の警報出力制御とを行う際、踏切警報開始より前に列車10が踏切警報始動点位置ADCを通過したときは、踏切警報開始時に車上装置21へ無線で踏切警報開始済み通知を送信してから速度照査解除通知を送信するまでの時間差を、速度照査パターンPvで減速し速度照査解除後は最大加速度αで最速運転すれば踏切警報開始から列車の踏切到達までの時間が規定警報時間になるよう可変調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の軌道を横切る踏切(踏切道)に設置された踏切警報機の警報出力を制御する踏切警報システムに関し、詳しくは、車上装置から踏切警報制御装置へ列車情報を無線で通知する無線式踏切警報システムに関し、更に詳しくは列車停止用の速度照査パターンを用いる無線式踏切警報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最も一般的な踏切警報装置は有線式のものであり(例えば非特許文献1参照)、この場合、踏切警報機の設置された踏切から少し離れたところに踏切制御子(短小軌道回路)が設けられ、それらとケーブル接続された踏切警報制御装置によって、列車の踏切への接近及び通過に応じて踏切警報機の警報灯や警報音発生器の警報出力が制御される。踏切警報機は踏切道の両側に設置されるが、それに加えて遮断機も設置されていれば、踏切警報制御装置は、警報出力に加えてしゃ断桿の昇降制御も行う踏切制御装置に拡張される。このような軌道において、列車の踏切接近時に警報を開始すべき位置は踏切警報始動点位置と呼ばれ、列車の踏切通過直後に警報を停止すべき位置は踏切警報終止点位置と呼ばれる。
【0003】
これに対し、無線を導入した踏切警報装置や(例えば特許文献1参照)、無線と有線とを併用した踏切制御システムも(例えば非特許文献2参照)、知られている。
これらの無線列車制御システムでは、無線機を列車と地上設備に設置し、地上装置に設置された無線機と伝送が可能となる範囲まで列車の無線機が接近すると、所定の伝送手順に従い通信回線を確立し、情報伝送を開始する。また、地上の踏切制御装置は列車からの無線情報を受信し、踏切警報の開始/終了の制御を行う。さらに、踏切制御装置は列車から「位置や速度」情報を無線受信することで、踏切制御子や関連ケーブルなしで当該踏切の警報開始/終了制御ができるものとなっている。
【0004】
このような従来の装置では、有線式の踏切警報装置の場合、列車検知を踏切制御子や軌道回路にて踏切始動点で行っているため、踏切への列車の接近を何秒も遅れて検知するという不都合な事態が生じる可能性はない。また、無線式の列車制御システムの場合も、出願人の東日本旅客鉄道株式会社がモニターランしているATACSでは(非特許文献2参照)、通信速度や通信頻度が十分に大きいうえ、地上に漏洩同軸(LCX)ケーブルを敷設し、アンテナも高くしているので、警報開始の遅延や無警報・無しゃ断といった不都合の生じる可能性がない。
【0005】
一方、トランスポンダを用いた車上パターン式のATS(Automatic Train Stop)−Pでは、信号機や分岐器の手前に地上子を設置しておき、信号機が停止を現示している状況の下で列車が地上子を通過した時には、停止限界位置で上限速度をゼロにする列車停止用の速度照査パターンを車上装置が生成し、その速度照査パターンを列車速度が超えないように減速することで、列車を停止限界の直前に停止させるようになっている。また、入換信号機や分岐器の手前では、上限速度がゼロにならない速度制限用の速度照査パターンを利用することにより、列車を停止はさせないが、列車の速度を制限するようになっている(例えば非特許文献3,特許文献2参照)。
【0006】
このような速度照査パターンを用いた列車制御では、速度制限用の速度照査パターンは消去や解除を行わなくても列車が走行を継続できるので不都合が無いが、列車停止用の速度照査パターンは、その速度制限によって最終的に停車し更には停止し続けても速度照査を継続したのでは列車運行に支障が生じるので、停止条件が解消されたら列車走行の継続や再開のために、速度照査も解除する必要がある。そのため、信号機に対しては現示が停止から進行に替わると直ちに速度照査が解除され、踏切に関しては、しゃ断機の無い踏切警報制御装置の場合は踏切警報の開始から一定時間たとえば8秒の経過後に速度照査が解除され、しゃ断機のある踏切警報制御装置すなわち踏切制御装置の場合は、踏切警報の開始から例えば16秒といった一定時間の経過後であって而もしゃ断桿の降下が完了した後に、速度照査が解除されるようになっている。
【0007】
また、そのような速度照査パターンを利用した列車制御は、有線式の踏切警報装置に限らず、無線式の列車制御システムにも導入されているが(例えば特許文献3,非特許文献2参照)、上述したように速度制限用の速度照査パターンは無線式でも解除しなくても良いので解除は考慮されず(例えば特許文献3)、やはり上述したように有線式の踏切警報装置と同じく警報開始の遅延や無警報・無しゃ断といった不都合の生じる可能性の低いATACSでも(非特許文献2の無線式列車制御システム)、有線式が踏襲されて、警報開始から一定時間経過後等に速度照査が解除されるようになっている。なお、速度照査の解除は、速度照査パターンを生成する態様では速度照査パターンの消去で行われ、保持している速度照査パターンを参照する態様では照査処理の取り止めによって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−20702号公報
【特許文献2】特開2000−335416号公報
【特許文献3】特開2007−159309号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】鉄道技術者のための電気概論 信号シリーズ8 「踏切保安装置」 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成9年10月30日 4版発行
【非特許文献2】竹内浩一著『無線による列車制御システム(ATACS)』、 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成18年4月発行 「鉄道と電気技術」 第17巻 第4号 24−27頁
【非特許文献3】鉄道電気技術者のための信号概論「ATS・ATC」38−42頁 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成17年6月28日 改訂版2刷発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、地方交通線で現在使用している特殊自動閉そくや電子閉そくの老朽化に対処するために、無線を利用した簡便な列車制御(閉そく管理)が検討されているが、そのような路線では簡便で安価な設備でなければ予算に適わないので、地上設備や無線設備の費用を低減するために、上述したATACSのような高機能・高性能な無線情報伝送設備を採用することができない。このため、無線交信による地上・車上間の情報更新の頻度は、地上設備一台当り、数秒で1回程度に、抑えることが要請される。また、地上設備の簡素化には、踏切制御子の設備をなくすが、踏切について予め確定しているうえ多数の踏切警報装置で実績もある踏切警報始動点位置や踏切警報終止点位置といった位置情報はデータとして記憶保持して使用するのが望ましい。
【0011】
しかしながら、数秒に1回程度の情報更新では、踏切警報始動点位置や踏切警報終止点位置かその直近で情報更新ができるとは限らない。しかも、外乱等によって電波状況が悪化した場合には、情報更新の頻度が更に低下することや、一時的に通信が途絶えることも、ありうる。このため、簡便な無線式踏切警報システムでは、列車が踏切警報始動点位置を大幅に過ぎてから初めて列車の位置情報が踏切警報制御装置に届くこともあり、踏切警報の開始より先に列車が踏切警報始動点位置を通過してしまうという不所望な警報時間割れが発生するおそれがある。
【0012】
そして、警報時間割れになって警報開始が遅れた場合、従来のように踏切警報開始から一定時間経過後に速度照査を解除したのでは、踏切警報開始から列車の先頭が踏切道に到達するまでの時間として例えば35秒などに規定された警報時間の確保がおぼつかなくなる。しかし、この規定警報時間は安全のため必ず確保しなければならない。
そこで、速度照査の解除タイミングを工夫することにより、各設備当りの無線交信の時間間隔を広げたことで例え警報時間割れが発生したとしても規定警報時間が確実に確保される無線式踏切警報システムを実現することが、技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の無線式踏切警報システムは、このような課題を解決するために創案されたものであり、列車に搭載されて列車位置を含む列車情報を無線で送信する車上装置と、前記列車の走行する軌道の踏切に臨んで設置された踏切警報機と、地上側に設置されていて前記車上装置から無線で列車情報を受信するとともに該列車情報に含まれている列車位置に基づき前記踏切への前記列車の接近及び通過を判定して前記踏切警報機の警報出力を制御する無線式踏切警報制御装置とを備えた無線式踏切警報システムであって、前記車上装置及び前記無線式踏切警報制御装置は前記踏切に係る踏切警報始動点位置をデータ保持し、前記車上装置が前記列車の前記踏切警報始動点位置への接近又は到達に応じて停止用の速度照査パターンを用いた速度照査を行うものであり、前記無線式踏切警報制御装置が、無線で列車位置を取得する度にその列車位置と前記踏切警報始動点位置とに基づいて前記踏切への列車接近判定と前記踏切警報機の警報出力制御とを行い、踏切警報開始前に前記列車が前記踏切警報始動点位置を通過していたときには、前記車上装置へ無線で速度照査解除通知を送信するまでの時間を前記踏切の規定警報時間になるよう可変調整するものである、ことを特徴とする。
【0014】
また、上記の無線式踏切警報システムであって、前記車上装置へ無線で速度照査解除通知を送信するまでの時間を、前記速度照査パターンでの前記列車の減速と速度照査解除後の前記列車の最大加速とで最速運転すれば踏切警報開始から前記列車の前記踏切への到達までの所用時間が前記踏切の規定警報時間になるよう可変調整するものである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このような本発明の無線式踏切警報システムにあっては、踏切手前までに停止できる速度照査パターンを車上装置が持っていることから、警報時間割れになって警報開始が遅れた場合、最悪でも列車が踏切の手前で停止するので、踏切は安全に保たれる。また、停止用の速度照査パターンに基づく運転操作によって列車が減速してからでも、無線通信が回復して列車情報の送受信ができるようになれば、踏切警報が開始されるとともに、無線式踏切警報制御装置から車上装置へ無線で踏切警報開始済み通知と速度照査解除通知が送信され、それに応じて車上での速度照査とそれによる速度制限が解除されるので、列車は踏切を通過することができる。
【0016】
さらに、踏切警報開始済み通知と速度照査解除通知の送信に際しては、警報時間割れがなければ両通知がほぼ同時か既定の一定時間差で送信されるが、警報時間割れになって警報開始が遅れた場合、両通知の送信の時間差(踏切警報開始済み通知を送信してから速度照査解除通知を送信するまでの時間差,車上装置へ無線で速度照査解除通知を送信するまでの時間)が可変調整されて、その分だけ車上で速度照査を解除するタイミングが遅れるので、踏切警報開始から列車先頭が踏切道に到達するまでの時間が延び、その条件下で最速運転すれば踏切警報開始から列車の踏切への到達までの所用時間が踏切の規定警報時間になるような時間調整がなされる。
【0017】
これにより、例え警報時間割れが発生したとしても、規定警報時間が確実に確保されて安全なうえ、速度照査パターンに則って運転操作すれば容易に、最速かそれに近い運転が実現されて、時間の無駄を減らすことまで、できることとなる。
その結果、簡便で安価な無線式踏切警報システムであっても、踏切通行者の安全を確保することと、列車の運行を円滑化することとを、両立させることができる。
【0018】
また、車上装置へ無線で速度照査解除通知を送信するまでの時間(踏切警報開始済み通知を送信してから速度照査解除通知を送信するまでの時間差)を踏切の規定警報時間になるよう可変調整する際には、速度照査パターンでの列車の減速と速度照査解除後の列車の最大加速とに基づいて上記時間(踏切警報開始済み通知を送信してから速度照査解除通知を送信するまでの時間差)が決定されるようにしたことにより、最速かそれに近い運転を可能にする時間調整が具体的に実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1について、無線式踏切警報システムの構成を示し、(a)が概要模式図、(b)が詳細ブロック図である。
【図2】(a)が速度照査パターンのイメージ図、(b)が時間差可変調整の決定手順の説明図、(c)が時間差可変調整表の一例である。
【図3】警報開始遅れが無いときのシステム動作を時系列で示し、(a)〜(d)何れも概要模式図である。
【図4】警報開始が遅れたときのシステム動作を時系列で示し、(a)〜(e)何れも概要模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
このような本発明の無線式踏切警報システムについて、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1により説明する。
【実施例1】
【0021】
本発明の無線式踏切警報システムの実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、無線式踏切警報システム20の概要模式図、(b)がその詳細ブロック図である。また、図2は、(a)が速度照査パターンPvのイメージ図、(b)が時間差可変調整の決定手順の説明図、(c)が時間差可変調整表27の一例である。
【0022】
無線式踏切警報システム20の説明に先だって設置先の列車10や軌道11を概説する。簡明化のため単線の場合を図示したが(図1(a)参照)、列車10の走行する軌道11を横切る踏切12(踏切道)には踏切警報機24が設置されている。踏切警報機24は、警報灯や警報音発生器を装備しており、図示したのは一個だけであるが、通常は一対のものが踏切道の両端に分かれて設置されている。また、第3種の踏切には踏切しゃ断機が無くて踏切警報機24が単独で設置されているが、第1種の踏切には踏切警報機24に加えて図示しない踏切しゃ断機が併設されている。
【0023】
無線式踏切警報システム20は(図1(a)参照)、踏切しゃ断機の併設された又はされていない踏切警報機24に加えて、その警報出力を制御するために地上側に設置されて踏切警報機24とケーブル接続されている無線式踏切警報制御装置25と、列車10に搭載されて無線式踏切警報制御装置25と無線で通信する車上装置21とを具えている。踏切警報機24は従来機を踏襲したもので良いが、車上装置21と無線式踏切警報制御装置25は、通信の無線化にとどまらず、踏切12に係る踏切警報始動点位置ADCと踏切警報終止点位置BDCをデータ保持するようになっている。また、後で詳述するが、踏切警報開始から速度照査解除までの時間差を可変調整するようにもなっている。
【0024】
車上装置21は(図1(b)参照)、フェールセーフコンピュータに無線機を接続したものからなり、搭載先の列車10の車軸計から自列車の先頭位置を取得する列車位置取得プログラム22と、予め設定された搭載先列車10の列車長と各踏切に係る情報とをデータ保持している不揮発性メモリと、自列車の先頭位置を列車位置としそれに列車長と列車識別番号など適宜なデータを加えて列車情報としこの列車情報を無線で無線式踏切警報制御装置25へ送信する無線通信プログラムと、列車10の踏切警報始動点位置ADCへの接近又は到達に応じて停止用の速度照査パターンPvを用いた速度照査を行う速度照査プログラム23とを具えている。
【0025】
ここで、踏切に係る情報としては、線区における踏切12の位置や,既述した踏切警報始動点位置ADC,踏切警報終止点位置BDCなどが、基点からの距離を示す所謂キロ程で規定されている。また、速度照査パターンPvは(図2(a)参照)、急停止より穏やかで安全だが比較的速やかに停止可能な例えば一定減速度で列車が減速したときに踏切12の手前に列車が停止するような上限速度を規定するパターンであり、ここでは区間最高速度Vmax 以下の規制も加味したものとする。この例では、どの踏切にも共通な一つの固定パターンを図示したが、個々の踏切や類似の踏切群それぞれに異なる速度照査パターンPvを割り当てても良く、列車進行に合わせて動的に生成し直すようにしても良い。
【0026】
速度照査プログラム23は(図1参照)、自列車の先頭位置と踏切警報始動点位置ADCとのデータ比較を随時行って、列車が踏切警報始動点位置ADCに接近して速度照査可能範囲に入ったか或いは踏切警報始動点位置ADCに到達したばかりか又は到達して通過したことが判明したときには、速度照査を開始するとともに、適宜な時期に、運転席の表示器にパターン接近の表示を行わせたり、ベルを鳴動させることも行うようになっている。速度照査では、列車10の速度計から列車速度を取り込むことと、速度照査パターンPvに自列車の先頭位置を照らして現時点の上限速度を求めることと、列車速度が上限速度を上回っていれば非常ブレーキを作動させることが行われる。また、速度照査プログラム23は、速度照査解除通知を受信すると、速度照査を解除するようになっている。
【0027】
無線式踏切警報制御装置25も(図1(b)参照)、フェールセーフコンピュータに無線機を接続したものからなり、無線通信可能範囲に進入した列車10の車上装置21から列車情報が送信されて来ると、その受信を試行して正常に受信できたときにはその旨の受信ACKを無線で返信する無線通信プログラムを具えている。この無線通信プログラムは、踏切警報機24の警報出力の制御に関する踏切警報開始の通知と速度照査解除の通知と踏切警報停止の通知を無線で車上装置21へ送信するようにもなっている。無線式踏切警報制御装置25と車上装置21の無線機は、同期式通信であれ非同期通信であれ数秒に1回以上の頻度で交信できるものであれば良い。
【0028】
また、無線式踏切警報制御装置25は、プログラムメモリに上述の無線通信プログラムと共に踏切警報制御プログラム26がインストールされており、データ保持用の不揮発性メモリには警報対象踏切に係る踏切係属情報と時間差可変調整表27とが設定されている。ここで、警報対象踏切は、有線接続されて制御対象になっている踏切警報機24が臨設されている踏切12を指し、その警報対象踏切に係る情報としては、既述した踏切警報始動点位置ADC,踏切警報終止点位置BDCなどが、キロ程で規定されている。また、時間差可変調整表27は、踏切警報開始から速度照査解除までの時間差Δtを警報開始遅れ時間dtから求めるのに参照される表であり、区間最高速度Vmax と速度照査パターンPvと列車最大加速度αなどに基づいて予め算出されたデータ値が設定されている。その算出については後で詳述する。
【0029】
踏切警報制御プログラム26は、踏切警報開始前には、無線で受信した列車情報に含まれている列車位置に基づき、列車の先頭が踏切警報始動点位置ADCに達したか否かに応じて、警報対象の踏切12への列車10の接近を判定し、列車10が踏切警報始動点位置ADCに達したことが判明したときには踏切警報機24に警報出力を開始させるようになっている。なお、上記の列車の踏切警報始動点位置ADCへの到達には、受信した列車情報に含まれている列車位置が踏切警報始動点位置ADCに一致するか過ぎている場合はもちろん、直前の列車位置と経過時間とから到達したと推定される場合も含まれる。
【0030】
また、踏切警報制御プログラム26は、上述した列車接近判定と警報出力制御を行うに際して、列車10から無線で初めて受信した列車情報に含まれている列車位置が踏切警報始動点位置ADCを通過していたときには、規定警報時間を確保するため、踏切警報開始から速度照査解除までの時間差Δtを可変調整するようになっている。具体的には、列車10の列車位置と踏切警報始動点位置ADCとの位置関係と速度から警報開始遅れ時間dtを求め、遅れが無ければ警報開始遅れ時間dtをゼロにし、遅れが有るときには端数を切り上げて警報開始遅れ時間dtを整数化してから、時間差可変調整表27に対する表引き等にて、時間差Δtを求めるようになっている。
【0031】
時間差可変調整表27は(図2(c)参照)、警報開始遅れ時間dtをゼロから一秒刻みで分けて、それぞれに対応する適切な時間差Δtの算出値を設定した対応表・変換表である。警報開始遅れ時間dtの各区分値に対応した時間差Δtの典型的な算出例は(図2(b)参照)、仮に時間差Δtを変数として想定範囲内で変化させて、警報開始遅れ時間dtと時間差Δtとの合計時間は速度照査パターンPvの速度で走行し、その直後から列車最大加速度αで区間最高速度Vmax まで加速する速度Vfで走行したときの所用時間Stを算出して、所用時間Stと規定警報時間とが一致するような時間差Δtを採択する、というものである。こうして算出されて時間差可変調整表27に設定された時間差Δtは、踏切警報開始から速度照査解除までの時間、より具体的に言えば踏切警報開始時に車上装置21へ無線で踏切警報開始済み通知を送信してから速度照査解除通知を送信するまでの時間として、踏切警報制御プログラム26によって使用されるものである。
【0032】
また、このような時間差可変調整表27に基づいて警報開始遅れ時間dtから時間差Δtを得る踏切警報制御プログラム26は、無線で踏切警報開始済み通知を送信してから時間差Δt後に無線で速度照査解除通知を送るものである。時間差Δt後の速度照査解除通知によって規定警報時間以上の所用時間Stを確保できる。なお、時間差可変調整表27として、ここでは、どの列車にも共通な一つの固定表を例示したが、個々の列車や列車種別毎に異なる時間差可変調整表27を準備しておいて、選択使用するようにしても良い。
【0033】
この実施例1の無線式踏切警報システム20について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図3(a)〜(d)及び図4(a)〜(e)は、何れも、列車10の走行状態と無線式踏切警報システム20の概要模式図であり、そのうち図3は警報開始遅れが無いときのシステム動作を時系列で示し、図4は警報開始が遅れたときのシステム動作を時系列で示している。上述したように、軌道11を走行する列車10に車上装置21が搭載されるとともに、軌道11の踏切12に設置された踏切警報機24に無線式踏切警報制御装置25がケーブル接続されて、無線式踏切警報システム20が使用される。
【0034】
ここでは、そのような使用状況の下で、先ず通信状態が良好で警報開始遅れが無いときのシステム動作を説明し(図3参照)、次いで通信の何らかの不具合で警報開始が遅れたときのシステム動作を説明する(図4参照)。
通信状態が良好な場合(図3参照)、列車10が踏切12に向かって進行して踏切警報始動点位置ADCに近づくと(図3(a)参照)、車上装置21から列車情報が無線で送信され、それが無線式踏切警報制御装置25によって受信されるとともに、車上装置21では速度照査プログラム23によって速度照査パターンPvに基づく速度照査が開始されるが、この位置では未だ区間最高速度Vmax での走行が列車10に許されている。
【0035】
そして(図3(b)参照)、列車10が踏切警報始動点位置ADCに到達したか到達しそうな時刻には、無線式踏切警報制御装置25の制御によって踏切警報機24が踏切警報の出力を開始するとともに、無線式踏切警報制御装置25から踏切警報開始済み通知が無線で送信され、それが車上装置21によって受信される。また、無線式踏切警報制御装置25では、時間差可変調整表27に基づいて警報開始遅れ時間dtから時間差Δtが求められるが、この場合は、警報開始遅れ時間dtが“0”秒なので、時間差Δtは“16.0”秒になる。
【0036】
それから(図3(c)参照)、数秒毎に車上装置21から列車情報が無線で送信され、それが無線式踏切警報制御装置25によって受信されて、列車10の位置が無線式踏切警報制御装置25にも確認されるとともに、踏切警報機24が踏切警報を出力する状態が継続するが、この位置でも未だ区間最高速度Vmax での走行が列車10に許されている。
その状態で時間差Δtの16.0秒ほど時間が経過すると(図3(d)参照)、無線式踏切警報制御装置25から速度照査解除通知が無線で送信され、それが車上装置21によって受信されると、車上装置21では速度照査が解除されるので、それ以後も区間最高速度Vmax での走行が列車10に許される。そして、列車10が踏切12に到達したときには、踏切警報開始から例えば35秒の規定警報時間が経過するので、踏切12の安全が確保される。
【0037】
次に(図4参照)、通信の不具合で警報開始が遅れた状況を述べる。雷等で一時的に通信が途絶えたり、外来電波等で通信距離が不所望に短縮されたような場合を想定する。
この場合(図4(a)参照)、列車10が踏切12に向かって進行して踏切警報始動点位置ADCに近づくと、車上装置21から列車情報が無線で送信されるが、それが通信の不具合によって無線式踏切警報制御装置25まで届かず受信されないので、無線式踏切警報制御装置25は列車10の接近を検知できない。もっとも、車上装置21では速度照査プログラム23によって速度照査パターンPvに基づく速度照査が開始され、この位置では未だ区間最高速度Vmax での走行が列車10に許されている。
【0038】
そして、列車10が踏切警報始動点位置ADCを通過して(図4(b)参照)、車上装置21と無線式踏切警報制御装置25とが十分に近づくと、列車情報が無線式踏切警報制御装置25に届いて受信される。すると(図4(c)参照)、無線式踏切警報制御装置25の制御によって踏切警報機24が踏切警報の出力を開始するとともに、無線式踏切警報制御装置25から踏切警報開始済み通知が無線で送信され、それが車上装置21によって受信される。また、無線式踏切警報制御装置25では、時間差可変調整表27に基づいて警報開始遅れ時間dtから時間差Δtが求められるが、この場合は、警報開始遅れ時間dtがゼロでなく例えば“9”秒だったとすれば、時間差Δtは“28.5”秒になる。
【0039】
それから(図4(d)参照)、数秒毎に車上装置21から列車情報が無線で送信され、それが無線式踏切警報制御装置25によって受信されて、列車10の位置が無線式踏切警報制御装置25にも確認されるとともに、踏切警報機24が踏切警報を出力する状態が継続するが、やがて列車10には区間最高速度Vmax での走行が許されなくなり、列車10は速度照査パターンPvの制約下での減速を余儀なくされる。そして、その減速のため、列車10が踏切12に到達する前に時間差Δtの28.5秒の時間が経過する。すると(図4(e)参照)、無線式踏切警報制御装置25から速度照査解除通知が無線で送信され、それが車上装置21によって受信されると、車上装置21では速度照査が解除されるので、それ以後は区間最高速度Vmax に達するまでは列車最大加速度αで加速しながら走行することが列車10に許される。
【0040】
そして、この場合も、列車10が踏切12に到達したときには、踏切警報開始から規定警報時間たとえば35秒が経過するので、踏切12の安全が確保される。
なお、何れの場合も、列車10が踏切警報終止点位置BDCを通過したことが車上装置21からの列車情報に基づき無線式踏切警報制御装置25によって確認されると、無線式踏切警報制御装置25の制御によって踏切警報機24の警報出力が停止させられるとともに、そのことが無線式踏切警報制御装置25から車上装置21へ無線で通知される。
【0041】
[その他]
本願発明の無線式踏切警報システムは、有線式踏切警報装置の設備更新を契機として開発されたものであるが、併用も可能である。例えば、踏切警報装置の設置されている踏切と無線式踏切警報制御装置の設置された踏切とが同じ路線に混在していても良い。あるいは、踏切警報制御装置が老朽化していても踏切制御子は未だ使用できるような場合には、無線式踏切警報制御装置に踏切制御子の出力も取り込んで安全側を優先採用する等のことにより、一つの踏切に係る設備で協動させるようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の無線式踏切警報制御装置および無線式踏切警報システムは、上記実施例で示した単線の場合に適用が限られる訳でなく、複線化されたところの踏切や複数路線の並走するところの踏切にも適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10…列車、11…軌道、12…踏切、
20…無線式踏切警報システム、21…車上装置、
22…列車位置取得プログラム、23…速度照査プログラム、
24…踏切警報機、25…無線式踏切警報制御装置、
26…踏切警報制御プログラム、27…時間差可変調整表

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に搭載されて列車位置を含む列車情報を無線で送信する車上装置と、
前記列車の走行する軌道の踏切に臨んで設置された踏切警報機と、
地上側に設置されていて前記車上装置から無線で列車情報を受信するとともに該列車情報に含まれている列車位置に基づき前記踏切への前記列車の接近及び通過を判定して前記踏切警報機の警報出力を制御する無線式踏切警報制御装置とを備えた無線式踏切警報システムであって、
前記車上装置及び前記無線式踏切警報制御装置は前記踏切に係る踏切警報始動点位置をデータ保持し、
前記車上装置が前記列車の前記踏切警報始動点位置への接近又は到達に応じて停止用の速度照査パターンを用いた速度照査を行うものであり、
前記無線式踏切警報制御装置が、
無線で列車位置を取得する度にその列車位置と前記踏切警報始動点位置とに基づいて前記踏切への列車接近判定と前記踏切警報機の警報出力制御とを行い、
踏切警報開始前に前記列車が前記踏切警報始動点位置を通過していたときには、
前記車上装置へ無線で速度照査解除通知を送信するまでの時間を前記踏切の規定警報時間になるよう可変調整するものである、
ことを特徴とする無線式踏切警報システム。
【請求項2】
前記車上装置へ無線で速度照査解除通知を送信するまでの時間を、
前記速度照査パターンでの前記列車の減速と速度照査解除後の前記列車の最大加速とで最速運転すれば踏切警報開始から前記列車の前記踏切への到達までの所用時間が前記踏切の規定警報時間になるよう可変調整するものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線式踏切警報システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−76563(P2012−76563A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222597(P2010−222597)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000207470)大同信号株式会社 (83)
【Fターム(参考)】