説明

無線端末におけるハンドオーバ制御方法および制御装置

【課題】受信されるビーコン信号のレベルからハンドオーバを起動した場合には、さらに高速な通信を行うチャンスを逃してしまうことになり、また、定期的にスキャニングを行えば、上記の問題は解消できるが、ハンドオーバのタイミングが遅れてしまうことになる従来技術の欠点を解消する。
【解決手段】通信中のパケット間隔が、通常の間隔より短いときに通話品質は良好であるかのテストをし、通常の間隔より長いときにアクセスポイント各APに対して約数秒周期でスキャニングをする。通話品質のテストがNOであったときに、各APに対して約数百ミリ秒周期でハンドオーバするべきかのテストをする。通話品質が良好であり、スキャニングはOKであるとき、または、数百ミリ秒周期でハンドオーバするべきかのテストがYESであったときに、ハンドオーバを制御して、ハンドオーバ先のAPとリンクを確立して当該ハンドオーバ先のAPと通信を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線端末がネットワークに対するアクセスポイントを変更するハンドオーバの制御方法および制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線LAN(Local Area Network)に配置されている端末(STA:Station )がリンク先のAP(Access Point:アクセスポイント))を変更する動作をハンドオーバと呼ぶ。ハンドオーバを起動する場合、端末STAは、周辺のアクセスポイントAPの有無を確認するためにスキャニングという動作を行う。スキャニングとは、IEEE802.11a/b/g で使用するチャネル(例えば、IEEE802.11b だと14チャネル)に対して、Probe と呼ばれるパケットを送信する。ハンドオーバ候補のアクセスポイントAPはProbe に対する応答を返信するので、端末STAはこの応答を参照して、そのときにハンドオーバ先のアクセスポイントAPとして最適なものを選択する。ただし、通話中はVoIP(Voice over IP )パケットが20ms間隔等で通信しているので、スキャニングをこの程度の短い周期で行うことはできず、数秒単位での周期で行わなければならない。
【0003】
従来の技術として、各アクセスポイントAPから一定の周期で送出されるビーコン信号の受信レベルから、ハンドオーバを起動する方法が用いられている(特許文献1参照)。ここでは、図6のように、現在通信中のアクセスポイントAP1のビーコン信号のレベルが弱くなり、ある閾値を下回った場合にはスキャニングを行う。スキャニングの結果、端末STAはアクセスポイントAP2にハンドオーバをして通信を行うことになる。この方法の問題点として、その通信中のアクセスポイントAP1からのビーコン信号の受信レベルが閾値以上のレベルであれば、受信レベルがさらに高いアクセスポイントAPが存在しても、アクセスポイントAP1からその受信レベルが高いアクセスポイントAPにハンドオーバしないことが挙げられる。これは、受信レベルが高いアクセスポイントAPを用いれば、さらに高速な通信を行うことができる機会を放棄していることになる。
【特許文献1】特開2003−153327号公報
【0004】
また、従来の技術として、周期的に他のアクセスポイントAPをスキャニングする方法もある。すなわち、図7のように、アクセスポイントAP1と通信中に周期的にProbe を送信して、周りのアクセスポイントAPからアクセスポイントAP情報を入手する。現在通信中のアクセスポイントAP1のチャネルを中心にProbe を送信するので、その他のチャネルではProbe の送出間隔は長くなる。現在通信中のアクセスポイントAP1より高いレベルのもの(アクセスポイントAP2の11CH)が見つかれば、そのアクセスポイントAPにハンドオーバする。この方法の問題点として、最適なアクセスポイントAPの発見が遅れる場合がある。例えば、アクセスポイントAP1との通信中に最適なハンドオーバ先がアクセスポイントAP3(7CH)であったとする。このとき、スキャニングの間隔は数秒単位であるため、通話品質が悪くなったときでも、次のスキャニングまで時間がかかりハンドオーバのタイミングが遅れてしまう可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の通り、受信されるビーコン信号のレベルからハンドオーバを起動した場合には、ビーコン信号のレベルがある閾値以上であれば、ハンドオーバしない。このことで、さらに高速な通信のチャンスを逃してしまうことになる。
また、定期的にスキャニングを行えば、上記の問題は解消できるが、逆にCH毎のスキャニング間隔が長いことで、ハンドオーバのタイミングが遅れてしまう場合もある。
【0006】
本発明の目的は、ビーコン信号の受信レベルからハンドオーバを起動する方法では、通話中のアクセスポイントAPよりも高い受信レベルのビーコン信号を送出している別のアクセスポイントAPがあっても、通話中のアクセスポイントAPからのビーコン信号の受信レベルが定められた閾値を下回らない限り、ハンドオーバを行わないとの前述の欠点を解消することができるハンドオーバ制御方法および制御装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、Probe によるスキャニングをして得られる周辺のアクセスポイントAPからのアクセスポイントAP情報を参照してハンドオーバをする場合には、スキャニング間隔が長くなるため、ハンドオーバのタイミングが遅れる欠点を解消することができるハンドオーバ制御方法および制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明による無線端末におけるハンドオーバ制御方法は、通信中のパケット間隔が通常の間隔より短い(YES)か否か(NO)をテストする第一のステップと、
該第一のステップによるテストがYESであったときに、通話品質は良好(YES)であるか否か(NO)をテストする第二のステップと、
第二のステップによるテストがNOであったときに、各APに対して約数百ミリ秒周期でハンドオーバするべきか(YES)否か(NO)をテストをして、そのテストがNOであったときに前記第一のステップにかえる処理をする第三のステップと、
前記第一のステップによるテストがNOであったときに、各APに対して約数秒周期でスキャニングをする第四のステップと、
該第四のステップの次または前記第二のステップによるテストがYESであったときに、スキャニングはOKであるかNOであるかのテストをし、そのテストがNOであったときに前記第一のステップにかえる処理をする第五のステップと、
前記第三のステップのテストがYESであったとき、または、前記第五のステップのテストがYESであったときに、ハンドオーバを制御して、該ハンドオーバ先のAPとリンクを確立して当該ハンドオーバ先のAPと通信を開始し、前記第一のステップにかえる処理をする第六のステップと、
を備えた構成を有している。
【0008】
また、本発明による無線端末におけるハンドオーバ制御装置は、ネットワークに無線回線を介して接続される無線端末であって、
前記無線回線から受信されたパケットの間隔が予め定めた標準の間隔より短い(YES)か否か(NO)かのテストをする監視機能を有するパケット処理部と、
該パケット処理部によるテストがNOであったときに、予め決められたアクセスポイントに対して数秒程度の周期でスキャニングをして各アクセスポイントからの応答を受信する周期スキャニング処理部と、
前記パケット処理部によるテストがYESであったときに、現在通信中のアクセスポイントからの信号の通信品質の推移を測定する通信品質測定器と、
前記周期スキャニング処理部からの前記スキャニングの応答結果と、前記通信品質測定器からの前記受信レベルの測定値とから通話限界であるか否かを判断するレベル比較処理部と、
該レベル比較処理部において通話限界であると判断されたときに、数百ミリ秒程度の周期で予め定められたアクセスポイントに対してスキャニングをする集中スキャニング処理部と、
前記レベル比較処理部が前記通話限界であると判断したとき、または、該集中スキャニング処理部におけるスキャニングの結果がハンドオーバすべきであるとの判断であるときにハンドオーバ制御を行うハンドオーバ制御部とを備えた
構成を有している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ビーコン信号の受信レベルからハンドオーバを起動する場合においては、受信レベルが予め定めた閾値を下回らない状態でも適切にハンドオーバを行うことができ、またProve によるスキャニングによりハンドオーバを起動する場合においてもハンドオーバのタイミングを適切に選定して実行することができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に本発明のハンドオーバ制御方法を実現する端末(STA)10の構成図を示す。図1の構成は、図2のようなシステムで使用される。動作例を図3及び図4を用いて説明する。端末(STA)10は、現在図4の半分に示すように、アクセスポイントAP1の受信レベル(○印)が比較的高い条件下で、アクセスポイントAP1と通信中であるとする。このとき送信部2と受信部3はアンテナ1を介して通信品質が良好なアクセスポイントAPと通信中であって、そのときの通信パケットはパケット処理部5で処理される。このパケット処理部5では、受信部3で受信されたパケットの間隔が予め定めた標準の間隔より短い(YES)か否か(NO)のテストをする監視機能を有している。端末(STA)10内の周期スキャニング処理部7は、パケット処理部5でのテストがNOであったとき、通信中のアクセスポイントAP1の受信レベルの低下が図4に示すように予測されるため、数秒程度の周期でアクセスポイントAP2やアクセスポイントAP3等の予め定められたアクセスポイントAPに対してスキャニングを行い、結果をレベル比較処理部9に渡す。また、端末(STA)10内の通信品質測定部8で現在のアクセスポイントAP1の受信レベル(例えば、ビーコン信号や通信パケットの受信レベル)を測定し、レベル比較処理部9に渡す。レベル比較処理部9では上記の周期スキャニング処理部7と通信品質測定部8から受け取った情報を基に、ハンドオーバすべきかどうかを判断する。ハンドオーバすべきであると判断すれば、ハンドオーバ制御部4に渡し、ハンドオーバ制御部4はハンドオーバを行う。
【0011】
また、通信品質測定部8において、例えば、ビーコン信号や通信パケットの電界強度又は通信パケットのリトライを参照して通話限界であると判断すれば、集中スキャニング処理部6で各チャネルに対して、スキャニングを行う。ここでの処理は、周期スキャニング処理部7による周期スキャニング処理とは異なり、数百ミリ秒程度の周期で行う。その結果、ハンドオーバすべきであると判断すれば、ハンドオーバ制御部4に渡し、ハンドオーバ制御部4はハンドオーバを行う。図3において、Probe 通信はスキャニング処理を表し, Authentication, Reassociation 通信はハンドオーバ先のアクセスポイントAPとのリンク確立処理を表す。
【0012】
上記一連の流れをフローチャートに示したのものが図5であり、「パケット間隔 短?」S2は通信中のVoIPパケット間隔から判断して、リトライ(再送)等によりパケット間隔が短い場合にはYへ、通常の間隔ならばNへ推移する。「通信品質 良?」S3は通信品質測定部8で通信品質を測定し、良好ならばYへ、良好ではない場合にはNへ推移する。「周期スキャニング」S6は周期スキャニング処理部7で数秒程度の周期でスキャニングを行なう。「レベル比較ハンドオーバOK?」S7は現在通信中のアクセスポイントAPと隣接アクセスポイントAPを比較し、ハンドオーバすべきであると判断すればYへ、すべきでないと判断するとNへ推移する。「集中スキャニング ハンドオーバOK?」S4は各チャネルに対して数百ミリ秒周期でスキャニングを行い、ハンドオーバすべきであると判断すればYへ、すべきでないと判断するとNへ推移する。「ハンドオーバ制御」S5はハンドオーバ先のアクセスポイントAPとリンクを確立し、ハンドオーバ先のアクセスポイントAPと通信を開始する。
【0013】
この方法のメリットとして通話中の受信レベルはビーコン周期等の短い周期で取得しているので、品質劣化に対して直ちに検知することができ、品質劣化が長時間継続することはない。また、品質が変化する前でもさらに良い品質が得られるアクセスポイントAPがあれば、切替可能である。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、無線端末がネットワークに対するアクセスポイントを変更するハンドオーバに広範囲に、かつ、効果的に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による無線端末におけるハンドオーバ制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明を適用するシステム例を示すブロック図である。
【図3】図2に示すシステムに本発明を適用した場合の動作例を示すタイムチャートである。
【図4】各アクセスポイントからの信号の受信レベルの時間的変化を示す図である。
【図5】本発明による無線端末におけるハンドオーバ制御装置の動作例を説明するためのフロー図である。
【図6】各アクセスポイントから一定の周期で送出されるビーコン信号の受信レベルを参照してハンドオーバを起動する従来の方法を説明するための図である。
【図7】周期的に他のアクセスポイントをスキャニングして他のアクセスポイントのチャネルからの応答信号のレベルを参照してハンドオーバを起動する従来の方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0016】
1 アンテナ
2 送信部
3 受信部
4 ハンドオーバ制御部
5 パケット処理部
6 集中スキャニング処理部
7 周期スキャニング処理部
8 通信品質測定部
9 レベル比較処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークに無線回線を介して接続される無線端末において、
通信中のパケット間隔が通常の間隔より短い(YES)か否か(NO)をテストする第一のステップと、
該第一のステップによるテストがYESであったときに、通話品質は良好(YES)であるか否か(NO)をテストする第二のステップと、
第二のステップによるテストがNOであったときに、各APに対して約数百ミリ秒間隔でハンドオーバするべきか(YES)否か(NO)をテストをして、そのテストがNOであったときに前記第一のステップにかえる処理をする第三のステップと、
前記第一のステップによるテストがNOであったときに、各APに対して約数秒間隔でスキャニングをする第四のステップと、
該第四のステップの次または前記第二のステップによるテストがYESであったときに、スキャニングはOKであるかNOであるかのテストをし、そのテストがNOであったときに前記第一のステップにかえる処理をする第五のステップと、
前記第三のステップのテストがYESであったとき、または、前記第五のステップのテストがYESであったときに、ハンドオーバ制御をして、該ハンドオーバ先のAPとリンクを確立して当該ハンドオーバ先のAPと通信を開始し、前記第一のステップにかえる処理をする第六のステップと、
を備えた無線端末におけるハンドオーバ制御方法。
【請求項2】
ネットワークに無線回線を介して接続される無線端末であって、
前記無線回線から受信されたパケットの間隔が予め定めた標準の間隔より短い(YES)か否か(NO)かのテストをする監視機能を有するパケット処理部と、
該パケット処理部によるテストがNOであったときに、予め決められたアクセスポイントの使用チャネルに対して数秒程度の周期でスキャニングをして各アクセスポイントからの応答を受信する周期スキャニング処理部と、
前記周期スキャニング処理部によるテストがYESであったときに、現在通信中のアクセスポイントからの信号の通信品質の推移を測定する通信品質測定器と、
前記周期スキャニング処理部からの前記スキャニングの応答結果と、前記通信品質測定器からの前記受信レベルの測定値とから通話限界であるか否かを判断するレベル比較処理部と、
該レベル比較処理部において通話限界であると判断されたときに、数百ミリ秒程度の周期で予め定められたアクセスポイントに対してスキャニングをする集中スキャニング処理部と、
前記レベル比較処理部が前記通話限界であると判断したとき、または、該集中スキャニング処理部におけるスキャニングの結果がハンドオーバすべきであるとの判断であるときに、ハンドオーバ制御を行うハンドオーバ制御部とを備えた
無線端末におけるハンドオーバ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−128790(P2006−128790A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311005(P2004−311005)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【Fターム(参考)】