説明

無線端末におけるハンドオーバ制御装置

【課題】無線LAN機器がエリア限界を正確に予測してハンドオーバを起動することができる無線端末におけるハンドオーバ制御装置を提供する。
【解決手段】予め定められた各アクセスポイントの使用チャネルからの各ビーコン信号を受信して当該ビーコン信号の受信レベルまたは受信率の如きビーコン情報を取り出し、ビーコン情報から無線端末のハンドオーバの要否を判断するビーコン信号測定器と、無線端末の送信側における通信中のリトライ率,リトライ数の如きリトライ情報を測定するリトライ測定器と、ビーコン信号測定器からのビーコン情報と、リトライ測定器からのリトライ情報とを参照して、ビーコン情報が予め定めた第一の限界値以下である第一の条件と、リトライ情報が予め定めた第二の限界値以下である第二の条件との少なくとも一方が満足されたときに、ハンドオーバの起動をするハンドオーバ制御器とを備えた構成を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線端末がネットワークに対するアクセスポイントを変更するハンドオーバ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線LANを構築する技術として、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers )802.11が知られている。IEEE802.11は、無線LAN端末がAP(Access Point)と呼ばれる特定の無線LAN端末とのみリンクを確立可能なインフラストラクチャーモードと、無線LAN端末同士が直接通信可能なアドホックモードが規定されている。インフラストラクチャーモードにおいて、無線LAN端末がリンク先APを切り替える動作はハンドオーバと呼ばれる。ハンドオーバの起動条件についてはIEEE802.11に規定されていない。一般的には、APが定期的に送信するビーコン信号の受信率およびビーコン信号の受信レベルから判断する方法が利用されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−153327号公報
【0003】
図9をもとに、ビーコン信号の受信レベルを利用する従来のハンドオーバ処理手順を説明する。受信器12はAPから送信されてくるパケットをアンテナ1を介して受信し、制御系パケットはハンドオーバ制御器15に、データパケットはパケット処理器16に送る。受信器12はAPから受信したビーコン信号の受信レベルをビーコン信号測定器14に送る。また、送信器13はパケット処理器16からのデータパケットとハンドオーバ制御器15からの制御系パケットを、アンテナ1を介して、APに対して送信する。ビーコン信号測定器14は受信器12から送られてくるビーコン信号の受信レベルからハンドオーバの要否を判断する。ビーコン信号測定器14はハンドオーバが必要であると判断した場合、ハンドオーバ制御器15に対してハンドオーバ要求通知を送る。ハンドオーバ制御器15はハンドオーバ要求通知を受け取ると、ハンドオーバ候補APを探すためのAP探索要求を送信器13に与える。受信器12はハンドオーバ候補APからのAP探索応答をハンドオーバ制御器15に送る。ハンドオーバ制御器15はAP探索応答の中に現在のAPよりも良好なハンドオーバ候補APが存在する場合には、リンク確立要求を含む制御系パケットを送信器に与える。ハンドオーバ候補APが無線LAN端末のリンク確立を認めた場合には、リンク確立応答を返し、無線LAN端末がリンク確立応答を受信することでハンドオーバが完了する。
【0004】
IEEE802.11においては、送信側無線LAN端末はパケット送信後、受信側の無線LAN端末からの応答(ACK:Acknowledge )を期待しなければならない。ACKが返されない場合、送信側の無線LAN端末は受信側の無線LAN端末にパケットが届いていないと判断し、事前に設定された最大リトライ回数の範囲内で再送(リトライ)を試みる。もし、最大リトライ回数のリトライを施行してもACKが返されない場合、送信側の無線LAN端末は当該パケットを廃棄し、次のパケットの送信を試みる。パケットロスが発生する時点では最大リトライ回数のリトライを施行しているため、パケットロスの増大はすなわちリトライの増大となる。なお、マルチキャストあるいはブロードキャストのような1対N通信はACKを必要としないため、リトライが発生しない。
IP(Internet Protocol )上で音声通話を行う技術は、総称してVoIP(Voice over IP )と呼ばれる。VoIPパケットの瞬時的なパケットロスは通話品質には影響しない。ただし、連続的なパケットロスは通話品質の劣化を引き起こす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先に述べた通り、一般的なハンドオーバ起動条件としてはAPが定期的に送信するビーコン信号の受信率およびビーコン信号の受信レベルから判断する方式が利用されている。しかし、この方式はVoIPにおける通話中の起動条件としては問題がある。通話品質の劣化、すなわち、連続的なパケットロスが発生する前にはリトライが増大するが、ビーコン信号はブロードキャストでありリトライが発生しないため、ビーコン信号からは通話品質を判断することはできないし、ビーコン信号からはエリア限界を正確に知ることができないと言える。従って、どの様な環境下でもハンドオーバ前にエリア外に出ることのないように、早い段階でAP探索を開始しなければならない。しかし、AP探索が早過ぎることによって、他のAPを探索することができずにハンドオーバが失敗し、再びAP探索を繰り返す現象が発生する。図6はビーコン信号の受信レベルが所要値D以下であるときにAP探索を開始し、AP1とAP2の受信レベルの差が閾値h以上であるときにハンドオーバが成功する系を示している。無線LAN端末がAP1とのリンク確立後にAP2に向かって移動する場合、無線LAN端末はB1地点からAP探索を繰り返し始め、A地点でハンドオーバに成功するが、B2地点を越えるまで受信レベルがD以下であるためAP探索を繰り返す。このようなAP探索の繰り返し動作はAP探索時間によっては通話品質の劣化が発生し、電力および無線帯域を消費する要因となる。また、A地点がエリア内である保障もない。
【0006】
本発明の目的は、無線LAN機器がエリア限界を正確に予測してハンドオーバを起動することができる無線端末におけるハンドオーバ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明による無線端末におけるハンドオーバ制御装置は、ハンドオーバ起動条件としてビーコン信号の他にリトライを利用する。
【0008】
すなわち、本発明による無線端末におけるハンドオーバ制御装置は、ネットワークに無線回線を介して接続される無線端末であって、
予め定められた各アクセスポイントの使用チャネルからの各ビーコン信号を受信して当該ビーコン信号の受信レベルまたは受信率の如きビーコン情報を取り出し、該ビーコン情報から当該無線端末のハンドオーバの要否を判断するビーコン信号測定器と、
該無線端末の送信側における通信中のリトライ率,リトライ数の如きリトライ情報を測定するリトライ測定器と、
前記ビーコン信号測定器からの前記ビーコン情報と、前記リトライ測定器からの前記リトライ情報とを参照して、前記ビーコン情報が予め定めた第一の限界値以下である第一の条件と、前記リトライ情報が予め定めた第二の限界値以下である第二の条件との少なくとも一方が満足されたときに、ハンドオーバの起動をするハンドオーバ制御器とを備えた構成を有している。
【0009】
前記リトライ測定器は、該無線端末の送信側および受信側における通信中のリトライ率,リトライ数の如きリトライ情報を測定するように構成することができる。
当該無線端末は複数のアンテナに接続されたダイバシチ制御器を備え、前記ビーコン信号測定器と前記リトライ測定器とは、前記複数のアンテナの各アンテナ毎の前記ビーコン情報と前記リトライ情報とを測定するように構成され、さらに、前記ハンドオーバ制御器は前記各アンテナ毎の前記ビーコン情報がすべて前記第一の限界値以下である第一の条件と、前記各アンテナ毎の前記リトライ情報がすべて前記第二の限界値以下である第二の条件との少なくとも一方が満足されたときに、ハンドオーバの起動をするように構成することができる。
当該無線端末は、通話状態監視器をさらに備え、
該通話状態監視器により当該無線端末が通話中であることが検知されたときには、前記ハンドオーバ制御器は、前記リトライ測定器からの前記リトライ情報を参照してハンドオーバの起動をし、
該通話状態監視器により当該無線端末が非通話中であることが検知されたときには、前記ハンドオーバ制御器は、前記ビーコン信号測定器からの前記ビーコン情報を参照してハンドオーバの起動をするように構成することができる。
【0010】
例として、通話中のVoIPパケットのリトライ率からエリア限界を判断する方法を説明する。リトライ率をpとし、最大リトライ回数をnとする場合、パケットロス率は次の式で求められる。
パケットロス率=1−{(1−p)+p・(1−p)+p・p・(1−p)+…+pn ・(1−p)}
=pn+1 ……(1)
図7に、最大リトライ回数nが3である場合に、上記式(1)から求めたリトライ率とパケットロス率の相関を示す。仮にエリア限界をパケットロス率5%とすると、上記式(1)からエリア限界のリトライ率は約47.3%である。
【0011】
図8は2つのAP(AP1,AP2)から構成される無線LANを示している。無線LAN端末がAP1とのリンク確立後、AP2に向かって通話しながら移動する場合、A’地点でリトライ率が47.3%を超え、エリア限界であることを知り、AP探索を開始する。
上記説明から明らかなように、通話中はハンドオーバ起動条件としてリトライを利用することでリトライからエリア限界を判断することができる。その結果として、環境によらずエリア限界にてAP探索を開始することが可能であり、エリアが適切にオーバラップしていればAP探索を繰り返す動作が発生しないために、通話品質の劣化,電力消費,帯域消費を抑えることができる。ただし、非通話中はリトライが発生しないため、非通話中はビーコン信号の受信レベルから判断しなければならない。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明で明らかなように、本発明によればエリア限界を正確に予測してハンドオーバを起動するハンドオーバ制御装置を生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明であるハンドオーバ制御装置の一例を示す構成図である。図2は、ハンドオーバ制御器6の動作フローチャートを示す。ハンドオーバ制御器6はビーコン情報とリトライ情報からハンドオーバ起動を判断する。ここで、ビーコン情報とは例えばビーコン受信レベル,ビーコン受信率,ビーコン受信数などがあり、リトライ情報とは例えばリトライ率,リトライ数などがある。
ハンドオーバ制御器6はビーコン信号測定器4とリトライ測定器5をセットし(S1)、各測定器4,5からの通知を待つ(S2)。各測定器4,5が測定するために必要な情報、例えば閾値,測定周期などはハンドオーバ制御器6が各測定器4,5に与えるか、あるいは各測定器4,5に事前に設定されていなければならない。ビーコン信号測定器4は受信器2から得られるビーコン情報を測定し、リトライ測定器5は送信器3のリトライ情報を測定する。各測定器4,5は与えられた周期ごとに測定したビーコン情報とリトライ情報を個別に集計して「ハンドオーバ要求通知か?」のテストをし(S3)、その集計結果の少なくとも一方が閾値を超える場合に(S3のテストがYES)、ハンドオーバ制御器6に通知する。この通知を受け取ったハンドオーバ制御器6は送信器3にAP探索要求を送り(S4)、「候補APが有?」のテストをし(S5)、そのテストがYESとなって候補APが発見されればリンク確立動作を試みる(S6)。
この装置により、例えばリトライ測定器5はリトライ率を、ビーコン信号測定器4はビーコン信号の受信率を参照することにより、通話中はVoIPパケットのリトライ率からエリア限界を予測することができ、非通話中にエリア外に出た場合にはビーコン信号の受信率から判断することができる。
【実施例2】
【0015】
図3に、本発明であるハンドオーバ制御装置の構成の一例(実施例2)を示す。実施例1との違いはリトライ測定器5aの動作にある。リトライ測定器5aは送信器3のリトライ情報だけでなく、受信器2のリトライ情報も利用してハンドオーバ起動を判断する。
この装置により、例えばストリーミング映像の受信のような下り方向の通信中にハンドオーバを行う場合において、APの送信電力が無線LAN端末より大きいときには、APからのパケットは無線LAN端末が受信可能であるが、無線LAN端末からのACKがAPに届かないことがあり、このようなときにはAPから受信するパケットのリトライ率からエリア限界を予測することができる。
【実施例3】
【0016】
図4に、本発明であるハンドオーバ制御装置の構成の他の一例(実施例3)を示す。実施例1との違いは無線LANデバイスのダイバーシチ技術を考慮している点にある。受信器2はアンテナ1a,1b毎のビーコン情報を持ち、送信器3はアンテナ1a,1b毎のリトライ情報を待つ。各測定器4,5はダイバーシチ制御器8によりアンテナ1a,1bを切替えているので、アンテナ毎にビーコン情報あるいはリトライ情報を測定し、ハンドオーバ制御器6に与えられた周期ごとに集計する。両方のアンテナの集計結果が閾値を超えた場合に、ハンドオーバ制御器6に通知する。
この装置により、ダイバーシチによって得られる利得をエリア限界予測に適用することができ、エリア限界予測より正確に行うことができる。
【実施例4】
【0017】
図5に本発明であるハンドオーバ制御装置の構成の他の一例(実施例4)を示す構成図である。。実施例1との違いは通話状態によって動作させる測定器を変更するために、通話状態を監視するための通話状態監視器9を追加した点にある。通話中はリトライ情報からハンドオーバ起動を判断し、非通話中はビーコン情報からハンドオーバ起動を判断する。
この装置により、通話状態に応じて一方の測定器の動作を停止せさることにより、処理コストおよび電力消費を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は無線LAN(Local Area Network)端末のハンドオーバ制御装置として使用する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1におけるハンドオーバ制御装置の構成図である。
【図2】本発明に用いるハンドオーバ制御器の動作フローチャートである。
【図3】本発明の実施例2におけるハンドオーバ制御装置の構成図である。
【図4】本発明の実施例3におけるハンドオーバ制御装置の構成図である。
【図5】本発明の実施例4におけるハンドオーバ制御装置の構成図である。
【図6】ハンドオーバ起動の繰り返し動作が発生する範囲を説明するための図である。
【図7】リトライ率とパケットロス率の相関(最大リトライ数3)を示す特性図である。
【図8】リトライ率によるエリア限界予測(最大リトライ数3)を説明するための図である。
【図9】従来のハンドオーバ制御装置の構成例図である。
【符号の説明】
【0020】
1a,1b アンテナ
2 受信器
3 送信器
4 ビーコン信号測定器
5,5a リトライ測定器
6 ハンドオーバ制御器
7 パケット処理器
8 ダイバーシチ制御器
9 通話状態監視器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークに無線回線を介して接続される無線端末であって、
予め定められた各アクセスポイントの使用チャネルからの各ビーコン信号を受信して当該ビーコン信号の受信レベルまたは受信率の如きビーコン情報を取り出し、該ビーコン情報から当該無線端末のハンドオーバの要否を判断するビーコン信号測定器と、
該無線端末の送信側における通信中ののリトライ率,リトライ数の如きリトライ情報を測定するリトライ測定器と、
前記ビーコン信号測定器からの前記ビーコン情報と、前記リトライ測定器からの前記リトライ情報とを参照して、前記ビーコン情報が予め定めた第一の限界値以下である第一の条件と、前記リトライ情報が予め定めた第二の限界値以下である第二の条件との少なくとも一方が満足されたときに、ハンドオーバの起動をするハンドオーバ制御器とを備えた、
無線端末におけるハンドオーバ制御装置。
【請求項2】
前記リトライ測定器は、該無線端末の送信側および受信側における通信中ののリトライ率,リトライ数の如きリトライ情報を測定するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の無線端末におけるハンドオーバ制御装置。
【請求項3】
当該無線端末は複数のアンテナに接続されたダイバシチ制御器を備え、前記ビーコン信号測定器と前記リトライ測定器とは、前記複数のアンテナの各アンテナ毎の前記ビーコン情報と前記リトライ情報とを測定するように構成され、さらに、前記ハンドオーバ制御器は前記各アンテナ毎の前記ビーコン情報がすべて前記第一の限界値以下である第一の条件と、前記各アンテナ毎の前記リトライ情報がすべて前記第二の限界値以下である第二の条件との少なくとも一方が満足されたときに、ハンドオーバの起動をするように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の無線端末におけるハンドオーバ制御装置。
【請求項4】
当該無線端末は、通話状態監視器をさらに備え、
該通話状態監視器により当該無線端末が通話中であることが検知されたときには、前記ハンドオーバ制御器は、前記リトライ測定器からの前記リトライ情報を参照してハンドオーバの起動をし、
該通話状態監視器により当該無線端末が非通話中であることが検知されたときには、前記ハンドオーバ制御器は、前記ビーコン信号測定器からの前記ビーコン情報を参照してハンドオーバの起動をするように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の無線端末におけるハンドオーバ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−128791(P2006−128791A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311006(P2004−311006)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【Fターム(参考)】