無線端末送受信性能測定方法および装置
【課題】広帯域信号を扱う無線端末の性能を、アンテナの不整合も含めて精度よく求めることができるようにする。
【解決手段】電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間を有し、その空間内の楕円長軸上の一方の焦点F1またはその近傍位置に無線端末の供試器10を保持し、他方の焦点F2またはその近傍位置に試験アンテナ11を保持する結合器20、結合器20の内部に保持された試験アンテナ11に接続され、試験アンテナ11を介して供試器10に対する電波の送受信を行い、供試器10の性能評価に必要な情報を取得するスペクトルアナライザ(測定部)50とを備えるとともに、試験アンテナ11は、その試験アンテナ11が配置されている領域に集約されて金属壁へ放射される電波を減衰させるための電波吸収体ブロック30で覆われている。
【解決手段】電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間を有し、その空間内の楕円長軸上の一方の焦点F1またはその近傍位置に無線端末の供試器10を保持し、他方の焦点F2またはその近傍位置に試験アンテナ11を保持する結合器20、結合器20の内部に保持された試験アンテナ11に接続され、試験アンテナ11を介して供試器10に対する電波の送受信を行い、供試器10の性能評価に必要な情報を取得するスペクトルアナライザ(測定部)50とを備えるとともに、試験アンテナ11は、その試験アンテナ11が配置されている領域に集約されて金属壁へ放射される電波を減衰させるための電波吸収体ブロック30で覆われている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域信号を扱う無線端末の送受信性能を、アンテナの不整合も含めて精度よく求めるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス社会の到来で、近年、高機能携帯電話を筆頭に無線タグ、UWB(Ultra Wide Band)やBAN(Body
Area Network)デバイスなどの小形無線端末が急激に増大している。これらの無線端末は、小形化や低コスト化などの理由から従来の無線機のような測定端子を有しないものが多い。また最近では、MIMO(Multi
In Multi out)通信に代表されるように実使用状態で携帯機の性能を測定する必要が強まってきた。
【0003】
これらの無線端末に対しては、実際に電波を飛ばして空間で全放射電力(TRP)や全放射感度(TRS)などの送受信性能を測定する、所謂OTA(Over The Air)測定が求められる。
【0004】
OTA測定には電波無反射室を用いるのが一般的であるが、設備コストが高く、測定時間も長い。そのほか、ランダムフィールド法に基づく電波反射箱を用いる方法もあるが、レーリーフェージング環境の実現が容易でなく、また多量の統計データを取得するため測定時間もかかる。さらに時間変化する信号のリアルタイム測定ができないという問題もある。
【0005】
この問題を解決するために本願出願者等は、電波を反射する金属壁で覆われた楕円球空間を内部に有し、その楕円の一方の焦点近傍から放射された電波を他方の焦点位置に集中させることができる楕円球型の結合器を用いて、全放射電力等を測定する技術を提案している(特許文献1、2)。
【0006】
この楕円球型の結合器を用いた場合、一方の焦点位置近傍から送信された電波が他方の焦点位置に近傍に集まって受信されるが、その電波が受信側で全て吸収されるわけではなく、再び金属壁で反射して送信側の焦点位置に戻りさらに金属壁で反射してそ受信側に入力されるという動作が繰り返される現象(多重反射現象)が生じる。
【0007】
この多重反射によって間隔を開けて受信側に入力される電波同士が干渉し、その位相が合わないと送信電波が正しく受信されなくなって測定困難になるが、送信側と受信側の距離を調整して受信電力を最大とすることで、結果的に受信側の多重反射波の位相合わせを行い、測定可能な状態にしていた。
【0008】
つまり、楕円球型の結合器を用いた測定方式では、多重反射を前提とし、結合器内の送信側機器と受信側機器との間で最大の結合度が得られるように間隔を調整する方法(変位法と呼ぶ)を用いて、端末の全放射電力等を高感度に測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2009/041513
【0010】
【特許文献2】国際公開WO2009/136638
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、この多重反射を前提とし、変位法を用いて送受信間の結合度を得る測定モード(多重反射利用モード)の場合、以下の2つの問題が生じる。
【0012】
1つは送信アンテナから受信アンテナへの伝送特性(SパラメータでS21に相当)の周波数特性には、多重反射波相互の干渉により大きなリップルが生じることである。
【0013】
このリップルの周期は、結合器が大きい程、また周波数が高い程短くなる。そのため、広帯域信号を扱う無線機の放射電力や感度の測定を行う場合、信号の周波数スペクトルに落ち込みが生じ、測定の精度が劣化する。
【0014】
他の一つは、多重反射利用モードの場合に変位法で求めた最大結合位置では、結合器によって供試器も含めて整合がとられてしまうため、供試器が本来有している不整合が補償されてしまうことが最近の研究で明らかになってきた。
【0015】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、楕円球型の結合器内における多重反射を効果的に抑圧することにより、広帯域信号を扱う無線端末の性能を、アンテナの不整合も含めて精度よく求めることができる無線端末送受信性能測定方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の無線端末送受信性能測定方法は、
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末(10、10′)を配置し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナ(11)を保持する段階と、
前記試験アンテナを介して前記無線端末に対する電波の送受信を行い、該無線端末の性能評価に必要な情報を取得する段階とを有する無線端末送受信性能測定方法であって、
前記試験アンテナを電波吸収体ブロック(30)で覆い、該試験アンテナが配置されている領域に集約されて前記金属壁へ放射される電波を減衰させることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項2の無線端末送受信性能測定方法は、請求項1記載の無線端末送受信性能測定方法において、
前記無線端末を損失既知の基準アンテナ(15)に代え、該基準アンテナに既知電力の信号を供給して前記試験アンテナの受信電力を測定し、システムの校正に必要な校正情報を求める段階と、
前記基準アンテナの代わりに前記無線端末が配置されたときの測定を前記校正情報を用いて行う段階とを含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項3の無線端末送受信性能測定方法は、請求項1または請求項2記載の無線端末送受信性能測定方法において、
前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナの位置と前記試験アンテナの位置とを前記楕円長軸に沿って楕円中心に対して対称に移動させて、前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナと前記試験アンテナとの間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置として求める段階を含み、
該有効測定位置において前記校正情報の取得または該校正情報を用いた無線端末の性能測定を行うことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項4の無線端末送受信性能測定装置は、
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間を有し、該空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末(10、10′)を保持し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナ(11)を保持する結合器(20)と、
前記結合器の内部に保持された前記試験アンテナに接続され、該試験アンテナを介して前記無線端末に対する電波の送受信を行い、該無線端末の性能評価に必要な情報を取得する測定部(50、60)とを備えるとともに、
前記試験アンテナは、該試験アンテナが配置されている領域に集約されて前記金属壁へ放射される電波を減衰させるための電波吸収体ブロック(30)で覆われていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項5の無線端末送受信性能測定装置は、請求項4記載の無線端末送受信性能測定装置において、
前記測定部は、前記無線端末を損失既知の基準アンテナ(15)に代え、該基準アンテナに既知電力の信号を供給して前記試験アンテナの受信電力を測定したときに得られる情報を校正情報として予め記憶し、前記基準アンテナの代わりに前記無線端末が配置されたときの測定を前記校正情報を用いて行うことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項6の無線端末送受信性能測定装置は、請求項4または請求項5記載の無線端末送受信性能測定装置において、
前記結合器は、前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナの位置と前記試験アンテナの位置とを前記楕円長軸に沿って楕円中心に対して対称に移動させる機構を有しており、
前記測定部は、前記結合器内で移動される前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナと前記試験アンテナとの間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置とし、該有効測定位置において前記校正情報の取得または該校正情報を用いた無線端末の性能測定を行うことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の請求項7の無線端末送受信性能測定装置は、請求項4〜6のいずれかに記載の無線端末送受信性能測定装置において、
前記測定対象の無線端末が携帯電話(10′)であり、
前記測定部は、前記試験アンテナを介して前記携帯電話機に対するダウンリンク信号を発射し、該携帯電話機から発射されるアップリンクの応答信号を前記試験アンテナを介して受信する基地局シミュレータ(60)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明では、電波を反射する金属壁で囲まれた楕円球状の空間の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末を保持し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナを保持し、試験アンテナを介して無線端末と電波の送受信を行うことで無線端末の測定を行うものにおいて、試験アンテナを電波吸収体ブロックで覆い、試験アンテナが配置されている領域に集約されて金属壁へ放射される電波を減衰させている。
【0024】
このため、楕円球空間内の電波の多重反射成分を減衰させることができ、広帯域信号を扱う無線端末の性能を、アンテナの不整合も含めて精度よく求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】楕円球型の結合器のモデルを示す図
【図2】結合器内に発生する多重反射波を示す図
【図3】多重反射成分が大きいときの送受信アンテナ間の透過率の周波数特性図
【図4】多重反射成分が無い場合の送受信アンテナ間の透過率の周波数特性図
【図5】本発明の実施形態のシステム構成図
【図6】校正系を示す図
【図7】アンテナ損失を測定するための系を示す図
【図8】実施形態の測定系で、異なる吸収体を用いたときの透過率の周波数特性図
【図9】供試器と試験アンテナの位置を変化させたときの透過率の変化を示す図
【図10】供試器と試験アンテナの位置を変化させたときの供試器の全放射電力の変化図
【図11】供試器として携帯電話、測定部として基地局シミュレータを用いたシステム図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
本発明は、楕円球型の結合器を用いて無線端末のOTA測定によりその送受信性能を測定するものにおいて、結合器内で生じる多重反射波を効果的に抑圧することで、広帯域信号を扱う無線端末の性能を、アンテナの不整合も含めて精度よく求めようとするものである。
【0027】
ここで、先に多重反射を抑圧する方法を述べる前に、まずそれを実現した場合の効果を示したシミュレーションについて説明する。
【0028】
図1はシミュレーションに用いたモデルで、長軸(2a)が800mm、短軸(2b)が764mm、離心率0.3の楕円を長軸に沿って回転して得られる楕円球空間を、電気伝導率(導電率)σ=200000S/m(楕円球内壁に塗布した導電性塗料の導電率))の金属壁で囲んで形成した結合器20を用い、送信アンテナ21と受信アンテナ22としてダイポールアンテナを用い、楕円長軸上の2つの焦点位置にそれぞれのアンテナの中心を一致させ、且つそれらのアンテナの長さ方向が長軸(z軸)に沿った、所謂コリニア配置させたものである。使用周波数は3GHzである。
【0029】
先ず、この結合器20のインパルス応答を調べる。
図2は、時刻t=0に送信アンテナ21にインパルス電圧を印加したとき、受信アンテナ22に流れる電流の時間変化、即ち、インパルス応答である。
【0030】
電波発射後、2.7n(ナノ)秒後に最初の強い電流(一次波)が観測され、続いて5.3n秒毎に二次波、三次波の電流が流れている。ここで、2.7n秒は、送信アンテナ21の位置(一方の焦点位置)から結合器20の内壁面で反射し受信アンテナ22の位置(他方の焦点位置)に到達する通路長(800mm)を光速で割った時間に相当している。
【0031】
また、二次波、三次波は、受信アンテナ22に到達した波の一部は負荷に吸収されるが残りは再放射し、壁面反射を介して送信アンテナ21に到達した後、再び受信アンテナ22に戻ってくる1往復の通路長に対応した時間になっている。
【0032】
これらの結果から3GHzの電波と言えども、結合器20の中では幾何光学的近似がほぼ成立していると考えることができる。
【0033】
図3は、十分な時間が経過した後の定常状態における透過特性(S21)の周波数特性であり、周期的に変動する多数のリップルが生じていることが分かる。
【0034】
このシミュレーションの例ではリップルの周期が約150MHzであるので、周波数スペクトルの振幅偏差を1dBに抑えるためには、信号帯域幅は45MHz以下でないといけないことが計算から求められる。さらに結合器(楕円球空間)が大きくなった場合や周波数が高い場合には信号帯域幅はさらに狭くなければならない。
【0035】
次に、図2で二次波以降の高次波を何らかの手段で抑圧し、これらの影響が無視できるとした場合の透過特性を考える。図2の受信電流のインパルス応答から一次波のみを抽出し、FFT(高速フーリエ変換)して透過係数の周波数特性を求める。
【0036】
このとき、送信アンテナ21として整合特性の異なる2つのアンテナを考える。一つは自由空間中で整合がとれたアンテナ(VSWR=1)、他方は不整合のあるアンテナ(VSER=3)である。VSWR=3の場合の反射損失は1.3dBである。これらのアンテナについて上記の透過係数S21を求めたグラフが図4である。
【0037】
この図4のグラフから、高次反射波の電力が失われた分、全体のレベルは低下しているが、図3に比べて周波数特性変化が極めて緩やかなこと、およびVSWR=3のアンテナンの透過係数は整合アンテナに比べ、約1.3dB低下していることが分かる。
【0038】
したがって、二次波以降の高次反射波を抑圧することができれば、信号周波数帯域に制限がなく、且つ自由空間での不整合の効果も含めた無線端末の送受信性能、例えば放射電力や受信感度の測定を行うことが出来る。
【0039】
次に、上記の多重反射波の抑圧を実現する方法について説明する。
前述のように楕円球型の結合器20の中では、電波が壁面反射を介して送受信アンテナ間を往復伝搬している。受信アンテナ22に到達する毎に電波は一定割合ずつアンテナの負荷(受信機等)に取り出されるので、減衰しながらの往復伝搬となる。
【0040】
もし仮に、図5に示すように、焦点位置F1に配置された試験対象の無線端末としての供試器10に対して、焦点位置F2に配置された測定用の試験アンテナ11を電波吸収体ブロック30で覆うと、一次波も電波吸収体ブロック30により吸収され減衰するが、二次波は試験アンテナ11と供試器10の間を1往復するので電波吸収体ブロック30を2回通過することになり、dB値で一次波の2倍減衰する。同様に、三次波はさらにdB値で二次波の2倍減衰する。
【0041】
したがって、電波吸収体ブロック30の寸法と材料の吸収率を適当に選べば二次波以降の高次波は無視できるようにすることができる。なお、供試器10の感度測定のように、試験アンテナ11から電波を送信する測定の場合で、供試器10に供給する一次波のレベルが所定以上必要な場合には、電波吸収体ブロック30による減衰分を見込んで試験アンテナ11への供給電力を増加させればよい。
【0042】
また、結合器20内で高次反射波を抑える別の方法として、例えば楕円球の水平断面に電波吸収体のシートを敷く方法や、内壁面全体に電波吸収体材料を貼付ける方法も考えられるが、このような方法では、多量の電波吸収体を必要とし、コスト高になるばかりでなく、結合器内で使用できる空間が大幅に狭くなり、供試器10の大きさや試験アンテナ11の配置に大きな制限が生じてしまう。
【0043】
これに対し、図5の測定システムのように、試験アンテナ11を電波吸収体ブロック30で覆い、試験アンテナ11が配置されている領域に集約されて金属壁へ放射される電波を減衰させる構造にすれば、試験アンテナ11が配置されている焦点F2付近の電波のエネルギー密度が高いので、体積が小さい電波吸収体ブロック30で効率的に電波吸収がなされ、その結果、低コストで、使用空間の広い結合器20を実現できる。
【0044】
換言すれば、この構造の結合器20は、送信アンテナから放射される拡散球面波を受信アンテナに到来する収束球面波に変換する電波無反射室であると言える。
【0045】
上記構造の結合器20は、供試器10の全放射電力(TRP)測定や、全放射感度(TRS)測定のいずれにも用いることができるが、以下、全放射電力(TRP)測定を例にとって説明する。
【0046】
(TRP測定方法)
図5に示した測定システムで、供試器10の全放射電力TRPを求めるため、先ず、測定系の校正を行う必要がある。
【0047】
図6は、その校正系を示し、結合器20の中に、供試器10に代わる基準アンテナ15と、電波吸収体ブロック30で覆った試験アンテナ11とを、それらの中心がほぼ楕円長軸上の各焦点F1、F2にそれぞれ一致するように配置する。
【0048】
簡単のため、基準アンテナ15は試験アンテナ11と同一アンテナを用い、両アンテナの長さ方向を楕円長軸に一致させたコリニア配置とし、送受信のアンテナ間の直接結合を抑える。ただし、両アンテナが互いに平行で楕円長軸に直交する、いわゆる対向配置でもよい。電波吸収体ブロック30の形状はここでは直方体とするが、これに限らず任意でよい。
【0049】
また、基準アンテナ15には、信号発生器40から電力PO[dBm]の信号を供給し、試験アンテナ11は、損失LC[dB]のケーブルを介して測定部としてのスペクトルアナライザ50に接続する。試験アンテナ11および基準アンテナ15の損失をLA[dB]、電波吸収体ブロック30の損失をLABS[dB]とする。ここでは、信号電力測定用の測定部としてスペクトルアナライザ(スペクトラムアナライザ)50を用いているが、使用周波数の信号の電力を測定できるものであればよく、スペクトルアナライザに限らない。
【0050】
なお、本システムに要求される測定部は、結合器20の内部に保持された試験アンテナ11に接続され、試験アンテナ11を介して無線端末に対する電波の送信あるいは受信を行い、無線端末の性能評価に必要な情報を取得するものであればよく、ここでは受信信号電力を測定するためのスペクトルアナライザ50を用いているが、測定対象の無線端末に応じたものを用いればよい。
【0051】
次いで、基準アンテナ15と試験アンテナ11とを、焦点F1、F2の位置を基準にして楕円長軸に沿って対称(楕円中心からみて同一量、同一方向)に変位させ、受信電力が最大となる位置を見出す(変位法)。このときの最大受信電力をPRA[dBm]とすると、次の関係が成立する。
【0052】
P0[dBm]=PRA[dBm]+2LA[dB]+Lc[dB]+LABS[dB] ……(1)
【0053】
次に、前述の図5のように、基準アンテナ15に代えて供試器10を配置する。このとき、供試器10の主偏波が楕円長軸に一致する、いわゆるコリニア配置にする。
【0054】
そして、基準アンテナ15の測定の場合と同様に、変位法により最大受信電力PRE[dBm]を測定する。
【0055】
供試器10の全放射電力TRPをPEUT[dBm]とすると、
PEUT[dBm]=PRE[dBm]+LA[dB]+Lc[dB]+LABS[dB] ……(2)
が得られる。
【0056】
式(2)−式(1)から、供試器10の全放射電力TRPは、
PEUT[dBm]=PRE[dBm]+P0[dBm]−PRA[dBm]−LA[dB] ……(3)
となり、両測定システムで共通の損失(Lc[dB]+LABS[dB])を除去した式で表される。
【0057】
式(3)からわかるように、供試器10の全放射電力TRPを求めるには、基準アンテナ15の損失LA[dB]を知る必要がある。
【0058】
損失LA[dB]を測定するためには、図7に示すように、前記した多重反射利用モード(Aモードと呼ぶ)を用いる。即ち、基準アンテナ15と試験アンテナ11とをコリニア配置し、変位法で最大受信点を見出す。
【0059】
信号発生器40からの送信電力をP0[dBm]、受信電力をPR0[dBm]とすると、前記したように2つのアンテナは同一であるからそれらの損失は等しく、また、結合器20の壁面損失は一般に十分小さいので、
LA[dB]={P0[dBm]−PR0[dBm]−Lc[dB]}/2 ……(4)
となる。なお、ケーブル損失Lc[dB]は、別途測定しておく必要がある。
【0060】
上記の測定方法をまとめると、始めに、電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間内の楕円長軸上の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末を配置し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナ11を保持する。そして、試験アンテナ11を介して無線端末に対する電波の送受信を行い、無線端末の性能評価に必要な情報を取得する無線端末送受信性能測定方法であって、試験アンテナ11を電波吸収体ブロック30で覆い、試験アンテナ11が配置されている領域に集約されて金属壁へ放射される電波を減衰させることを特徴としている。
【0061】
また、より具体的に言えば、無線端末を損失既知の基準アンテナ15に代えて既知電力の信号を供給して試験アンテナ11の受信電力を測定し、システムの校正に必要な校正情報を求め、基準アンテナ15の代わりに無線端末が配置されたときの測定を校正情報を用いて行う。
【0062】
さらに、変位法を併用し、無線端末や基準アンテナ15の位置と試験アンテナ11の位置とを楕円長軸に沿って楕円中心に対して対称に移動させて、無線端末や基準アンテナ15と試験アンテナ11との間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置として求め、その有効測定位置において校正情報の取得あるいは校正情報を用いた無線端末の性能測定を行う。
【0063】
また、本測定システムにおける測定部は、単に受信信号電力を測定する機能だけでなく、システムの校正に必要な情報を記憶し、無線端末の実際に求めたい性能(全放射電力や全方位感度等)を算出する演算機能も含まれるものとする。即ち、前記校正系のように、無線端末を損失既知の基準アンテナ15に代えて既知電力の信号を供給して試験アンテナ11の受信電力を測定したときに得られる情報(前記式(1)に用いられる情報)を校正情報として予め記憶し、基準アンテナ15の代わりに無線端末が配置されたときの測定および前記演算処理(式(2)、(3)等)を校正情報を用いて行う。その際には、結合器20内で移動される無線端末や基準アンテナ15と試験アンテナ11との間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置とし、その有効測定位置において校正情報の取得や正情報を用いた無線端末の性能測定を行うものである。
【0064】
(測定例)
以下、前記方法に基づく測定実験の例を述べる。
結合器20は長軸径760mm、短軸径725mm、離心率0.3で、試験アンテナ11と基準アンテナ15はともに中心周波数1.47GHzの半波長スリーブアンテナとする。
【0065】
また、試験アンテナ11を覆う電波吸収体ブロック30としては、吸収率の異なる2種類の材料を用いた。これらを電波吸収体A、電波吸収体Bと呼ぶことにする。いずれも発泡ウレタンにカーボンを含浸させた電波吸収体で、寸法は180mm×120mm×120mmの直方体である。
【0066】
供試器10としては、無線端末を模擬するものとして、1.47GHzの連続波発振器を内蔵した140mm×46mm×40mmの金属筺体の外部に1.47GHzでほぼ整合するモノポールアンテナを取り付けた無線機と、同じ金属筺体にVSW=3のモノポールアンテナを取り付けたものの2種類について測定した。
【0067】
次の表1に2種類の電波吸収体に対する各測定値をまとめている。
【0068】
【表1】
【0069】
図8は、送受信のスリーブアンテナの中心をそれぞれ焦点位置に一致させ、コリニア配置したときの透過係数S21の周波数特性である。
【0070】
Aモード(多重反射利用モード)では、透過係数S21は大きいがいくつかの周波数で鋭い落ち込みが見られる。これに対し、試験アンテナ11を電波吸収体ブロック30で覆ったBモード(多重反射抑圧モード)では、変化がかなり緩やかになっていることが分かる。
【0071】
図9は、中心周波数1.47GHzで変位法を行った時の透過特性で、どちらのモードでも変位位置Δz=28.6mmで透過係数がそれぞれ最大になることが分かる(Δz=0mmが焦点位置)。
【0072】
図10は、整合アンテナと不整合アンテナを有する供試器の全放射電力TRPを比較したグラフで、(a)が電波吸収体A、(b)が電波吸収体Bを用いた時の結果である。供試器は金属筺体とモノポールアンテナの付け根を焦点に一致させた時をΔz=0mmとしている。
【0073】
この結果をみると、図9で透過が最大となる位置Δz=28.6mmに供試器10と試験アンテナ11を配置して測定することで整合アンテナはもちろん、不整合アンテナを持つ供試器10でも不整合を含めた全放射電力TRPを求めることができる。整合と不整合の差は、自由空間での反射損失の差1.3dBに概略近い値になっている。
【0074】
(携帯電話の性能測定法)
実際の携帯電話は、基地局との通信を行うように設計されているため、その送受信性能である全放射電力TRPや全方位感度TRSをOTA測定するシステムの場合には、測定部として基地局シミュレータを用いる必要がある。図11に、前記結合器20を用いてこれらの性能を測定するシステムを示す。以下、その動作を説明する。
【0075】
先ず、TRP測定の場合、基地局シミュレータ60から供試器としての携帯電話10′に最大の電波を発射する命令をダウンリンクの周波数で送る。
【0076】
携帯電話10′はこれを受信し、アップリンクの周波数で最大電力の電波を発射し、その電波が試験アンテナ11を介して基地局シミュレータ60で受信される。
【0077】
この状態を維持しながら、前記した変位法により、携帯電話10′と試験アンテナ11とを楕円長軸に沿ってその中点を中心に対称に移動させ、受信電力が最大となる位置を見つけ、そのときの最大受信電力PRE[dBm]と、前記校正時の供給電力P0[dBm]、受信電力PRA[dBm]、試験アンテナ損失LA[dB]に基づいて、前記式(3)から、携帯電話10′の全放射電力TRPを求める。
【0078】
次に、全方位感度TRSを測定する方法を述べる。先ず基地局シミュレータ60から適当なレベルでPN信号(擬似雑音信号)を送信し、試験アンテナ11を介してダウンリンクで携帯電話10′に送る。
【0079】
携帯電話10′では、受信したレベルと受信したPN信号をアップリンクに乗せて送り返す。基地局シミュレータ60では、試験アンテナ11を介してこの信号を受けてビット誤り率BERを算出する。
【0080】
この状態を維持しながら、前記変位法により前記受信レベルが最大または前記ビット誤り率BERが最低となる携帯電話10′と試験アンテナ11の位置を見出し、その位置に固定する。
【0081】
次に、基地局シミュレータ60が送信するPN信号の送信レベルを徐々に低下させていき、ビット誤り率BERが1%を超える送信レベルを見出す。これが求める全方位感度TRSとなる。
【0082】
なお、結合器20の基本構造は、上記したように楕円をその長軸を中心に回転して得られる楕円球状の空間を、電波を反射させる金属壁(金属板、金属網あるいは導電性塗料膜等)で囲む構造で、且つ楕円長軸上の焦点位置あるいはその近傍位置に、試験アンテナや無線端末を保持できる構造であれば、任意でよい。
【0083】
ただし、実際には、アンテナや無線端末などを取り替えたり、その保持位置を調整する必要がある。そのためのに必要な最大の開口面が得られるように、楕円球空間を形成する金属による隔壁体を、楕円長軸に沿った平面で上下あるいは前後に切断して2分し、半楕円球状の一方の隔壁体を他方の隔壁体に被せる構造が現実的となる。
【0084】
また、図示していないが、結合器内でアンテナや無線端末を保持するための保持体は、電波を通過させやすい材質(低損失材)で形成し、その一部を楕円長軸に沿って結合器の外側に突出させておき、その外部に突出した部分を保持しつつ楕円長軸に沿ってスライドさせる機構(手動、電動のいずれ手もよい)を設けることで前記した変位法に対応できる。その保持体や移動機構の具体的な構造については任意である。
【0085】
なお、上記実施形態では、測定対象の無線端末が携帯電話10′で、試験アンテナ11に接続される測定部が基地局シミュレータの場合について説明したが、本発明は、携帯電話以外の無線端末、例えば、無線タグ、UWBやBANデバイスなどの小形無線端末に対しても適用でき、その場合には、図5に示したシステムのように、測定部としてスペクトルアナライザ50あるいは無線端末の測定に最適な測定部を用いればよい。
【符号の説明】
【0086】
10……供試器、10′……携帯電話、11……試験アンテナ、15……基準アンテナ、20……結合器、30……電波吸収体ブロック、40……信号発生器、50……スペクトルアナライザ、60……基地局シミュレータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域信号を扱う無線端末の送受信性能を、アンテナの不整合も含めて精度よく求めるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス社会の到来で、近年、高機能携帯電話を筆頭に無線タグ、UWB(Ultra Wide Band)やBAN(Body
Area Network)デバイスなどの小形無線端末が急激に増大している。これらの無線端末は、小形化や低コスト化などの理由から従来の無線機のような測定端子を有しないものが多い。また最近では、MIMO(Multi
In Multi out)通信に代表されるように実使用状態で携帯機の性能を測定する必要が強まってきた。
【0003】
これらの無線端末に対しては、実際に電波を飛ばして空間で全放射電力(TRP)や全放射感度(TRS)などの送受信性能を測定する、所謂OTA(Over The Air)測定が求められる。
【0004】
OTA測定には電波無反射室を用いるのが一般的であるが、設備コストが高く、測定時間も長い。そのほか、ランダムフィールド法に基づく電波反射箱を用いる方法もあるが、レーリーフェージング環境の実現が容易でなく、また多量の統計データを取得するため測定時間もかかる。さらに時間変化する信号のリアルタイム測定ができないという問題もある。
【0005】
この問題を解決するために本願出願者等は、電波を反射する金属壁で覆われた楕円球空間を内部に有し、その楕円の一方の焦点近傍から放射された電波を他方の焦点位置に集中させることができる楕円球型の結合器を用いて、全放射電力等を測定する技術を提案している(特許文献1、2)。
【0006】
この楕円球型の結合器を用いた場合、一方の焦点位置近傍から送信された電波が他方の焦点位置に近傍に集まって受信されるが、その電波が受信側で全て吸収されるわけではなく、再び金属壁で反射して送信側の焦点位置に戻りさらに金属壁で反射してそ受信側に入力されるという動作が繰り返される現象(多重反射現象)が生じる。
【0007】
この多重反射によって間隔を開けて受信側に入力される電波同士が干渉し、その位相が合わないと送信電波が正しく受信されなくなって測定困難になるが、送信側と受信側の距離を調整して受信電力を最大とすることで、結果的に受信側の多重反射波の位相合わせを行い、測定可能な状態にしていた。
【0008】
つまり、楕円球型の結合器を用いた測定方式では、多重反射を前提とし、結合器内の送信側機器と受信側機器との間で最大の結合度が得られるように間隔を調整する方法(変位法と呼ぶ)を用いて、端末の全放射電力等を高感度に測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2009/041513
【0010】
【特許文献2】国際公開WO2009/136638
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、この多重反射を前提とし、変位法を用いて送受信間の結合度を得る測定モード(多重反射利用モード)の場合、以下の2つの問題が生じる。
【0012】
1つは送信アンテナから受信アンテナへの伝送特性(SパラメータでS21に相当)の周波数特性には、多重反射波相互の干渉により大きなリップルが生じることである。
【0013】
このリップルの周期は、結合器が大きい程、また周波数が高い程短くなる。そのため、広帯域信号を扱う無線機の放射電力や感度の測定を行う場合、信号の周波数スペクトルに落ち込みが生じ、測定の精度が劣化する。
【0014】
他の一つは、多重反射利用モードの場合に変位法で求めた最大結合位置では、結合器によって供試器も含めて整合がとられてしまうため、供試器が本来有している不整合が補償されてしまうことが最近の研究で明らかになってきた。
【0015】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、楕円球型の結合器内における多重反射を効果的に抑圧することにより、広帯域信号を扱う無線端末の性能を、アンテナの不整合も含めて精度よく求めることができる無線端末送受信性能測定方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の無線端末送受信性能測定方法は、
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末(10、10′)を配置し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナ(11)を保持する段階と、
前記試験アンテナを介して前記無線端末に対する電波の送受信を行い、該無線端末の性能評価に必要な情報を取得する段階とを有する無線端末送受信性能測定方法であって、
前記試験アンテナを電波吸収体ブロック(30)で覆い、該試験アンテナが配置されている領域に集約されて前記金属壁へ放射される電波を減衰させることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項2の無線端末送受信性能測定方法は、請求項1記載の無線端末送受信性能測定方法において、
前記無線端末を損失既知の基準アンテナ(15)に代え、該基準アンテナに既知電力の信号を供給して前記試験アンテナの受信電力を測定し、システムの校正に必要な校正情報を求める段階と、
前記基準アンテナの代わりに前記無線端末が配置されたときの測定を前記校正情報を用いて行う段階とを含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項3の無線端末送受信性能測定方法は、請求項1または請求項2記載の無線端末送受信性能測定方法において、
前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナの位置と前記試験アンテナの位置とを前記楕円長軸に沿って楕円中心に対して対称に移動させて、前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナと前記試験アンテナとの間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置として求める段階を含み、
該有効測定位置において前記校正情報の取得または該校正情報を用いた無線端末の性能測定を行うことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項4の無線端末送受信性能測定装置は、
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間を有し、該空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末(10、10′)を保持し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナ(11)を保持する結合器(20)と、
前記結合器の内部に保持された前記試験アンテナに接続され、該試験アンテナを介して前記無線端末に対する電波の送受信を行い、該無線端末の性能評価に必要な情報を取得する測定部(50、60)とを備えるとともに、
前記試験アンテナは、該試験アンテナが配置されている領域に集約されて前記金属壁へ放射される電波を減衰させるための電波吸収体ブロック(30)で覆われていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項5の無線端末送受信性能測定装置は、請求項4記載の無線端末送受信性能測定装置において、
前記測定部は、前記無線端末を損失既知の基準アンテナ(15)に代え、該基準アンテナに既知電力の信号を供給して前記試験アンテナの受信電力を測定したときに得られる情報を校正情報として予め記憶し、前記基準アンテナの代わりに前記無線端末が配置されたときの測定を前記校正情報を用いて行うことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項6の無線端末送受信性能測定装置は、請求項4または請求項5記載の無線端末送受信性能測定装置において、
前記結合器は、前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナの位置と前記試験アンテナの位置とを前記楕円長軸に沿って楕円中心に対して対称に移動させる機構を有しており、
前記測定部は、前記結合器内で移動される前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナと前記試験アンテナとの間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置とし、該有効測定位置において前記校正情報の取得または該校正情報を用いた無線端末の性能測定を行うことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の請求項7の無線端末送受信性能測定装置は、請求項4〜6のいずれかに記載の無線端末送受信性能測定装置において、
前記測定対象の無線端末が携帯電話(10′)であり、
前記測定部は、前記試験アンテナを介して前記携帯電話機に対するダウンリンク信号を発射し、該携帯電話機から発射されるアップリンクの応答信号を前記試験アンテナを介して受信する基地局シミュレータ(60)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明では、電波を反射する金属壁で囲まれた楕円球状の空間の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末を保持し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナを保持し、試験アンテナを介して無線端末と電波の送受信を行うことで無線端末の測定を行うものにおいて、試験アンテナを電波吸収体ブロックで覆い、試験アンテナが配置されている領域に集約されて金属壁へ放射される電波を減衰させている。
【0024】
このため、楕円球空間内の電波の多重反射成分を減衰させることができ、広帯域信号を扱う無線端末の性能を、アンテナの不整合も含めて精度よく求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】楕円球型の結合器のモデルを示す図
【図2】結合器内に発生する多重反射波を示す図
【図3】多重反射成分が大きいときの送受信アンテナ間の透過率の周波数特性図
【図4】多重反射成分が無い場合の送受信アンテナ間の透過率の周波数特性図
【図5】本発明の実施形態のシステム構成図
【図6】校正系を示す図
【図7】アンテナ損失を測定するための系を示す図
【図8】実施形態の測定系で、異なる吸収体を用いたときの透過率の周波数特性図
【図9】供試器と試験アンテナの位置を変化させたときの透過率の変化を示す図
【図10】供試器と試験アンテナの位置を変化させたときの供試器の全放射電力の変化図
【図11】供試器として携帯電話、測定部として基地局シミュレータを用いたシステム図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
本発明は、楕円球型の結合器を用いて無線端末のOTA測定によりその送受信性能を測定するものにおいて、結合器内で生じる多重反射波を効果的に抑圧することで、広帯域信号を扱う無線端末の性能を、アンテナの不整合も含めて精度よく求めようとするものである。
【0027】
ここで、先に多重反射を抑圧する方法を述べる前に、まずそれを実現した場合の効果を示したシミュレーションについて説明する。
【0028】
図1はシミュレーションに用いたモデルで、長軸(2a)が800mm、短軸(2b)が764mm、離心率0.3の楕円を長軸に沿って回転して得られる楕円球空間を、電気伝導率(導電率)σ=200000S/m(楕円球内壁に塗布した導電性塗料の導電率))の金属壁で囲んで形成した結合器20を用い、送信アンテナ21と受信アンテナ22としてダイポールアンテナを用い、楕円長軸上の2つの焦点位置にそれぞれのアンテナの中心を一致させ、且つそれらのアンテナの長さ方向が長軸(z軸)に沿った、所謂コリニア配置させたものである。使用周波数は3GHzである。
【0029】
先ず、この結合器20のインパルス応答を調べる。
図2は、時刻t=0に送信アンテナ21にインパルス電圧を印加したとき、受信アンテナ22に流れる電流の時間変化、即ち、インパルス応答である。
【0030】
電波発射後、2.7n(ナノ)秒後に最初の強い電流(一次波)が観測され、続いて5.3n秒毎に二次波、三次波の電流が流れている。ここで、2.7n秒は、送信アンテナ21の位置(一方の焦点位置)から結合器20の内壁面で反射し受信アンテナ22の位置(他方の焦点位置)に到達する通路長(800mm)を光速で割った時間に相当している。
【0031】
また、二次波、三次波は、受信アンテナ22に到達した波の一部は負荷に吸収されるが残りは再放射し、壁面反射を介して送信アンテナ21に到達した後、再び受信アンテナ22に戻ってくる1往復の通路長に対応した時間になっている。
【0032】
これらの結果から3GHzの電波と言えども、結合器20の中では幾何光学的近似がほぼ成立していると考えることができる。
【0033】
図3は、十分な時間が経過した後の定常状態における透過特性(S21)の周波数特性であり、周期的に変動する多数のリップルが生じていることが分かる。
【0034】
このシミュレーションの例ではリップルの周期が約150MHzであるので、周波数スペクトルの振幅偏差を1dBに抑えるためには、信号帯域幅は45MHz以下でないといけないことが計算から求められる。さらに結合器(楕円球空間)が大きくなった場合や周波数が高い場合には信号帯域幅はさらに狭くなければならない。
【0035】
次に、図2で二次波以降の高次波を何らかの手段で抑圧し、これらの影響が無視できるとした場合の透過特性を考える。図2の受信電流のインパルス応答から一次波のみを抽出し、FFT(高速フーリエ変換)して透過係数の周波数特性を求める。
【0036】
このとき、送信アンテナ21として整合特性の異なる2つのアンテナを考える。一つは自由空間中で整合がとれたアンテナ(VSWR=1)、他方は不整合のあるアンテナ(VSER=3)である。VSWR=3の場合の反射損失は1.3dBである。これらのアンテナについて上記の透過係数S21を求めたグラフが図4である。
【0037】
この図4のグラフから、高次反射波の電力が失われた分、全体のレベルは低下しているが、図3に比べて周波数特性変化が極めて緩やかなこと、およびVSWR=3のアンテナンの透過係数は整合アンテナに比べ、約1.3dB低下していることが分かる。
【0038】
したがって、二次波以降の高次反射波を抑圧することができれば、信号周波数帯域に制限がなく、且つ自由空間での不整合の効果も含めた無線端末の送受信性能、例えば放射電力や受信感度の測定を行うことが出来る。
【0039】
次に、上記の多重反射波の抑圧を実現する方法について説明する。
前述のように楕円球型の結合器20の中では、電波が壁面反射を介して送受信アンテナ間を往復伝搬している。受信アンテナ22に到達する毎に電波は一定割合ずつアンテナの負荷(受信機等)に取り出されるので、減衰しながらの往復伝搬となる。
【0040】
もし仮に、図5に示すように、焦点位置F1に配置された試験対象の無線端末としての供試器10に対して、焦点位置F2に配置された測定用の試験アンテナ11を電波吸収体ブロック30で覆うと、一次波も電波吸収体ブロック30により吸収され減衰するが、二次波は試験アンテナ11と供試器10の間を1往復するので電波吸収体ブロック30を2回通過することになり、dB値で一次波の2倍減衰する。同様に、三次波はさらにdB値で二次波の2倍減衰する。
【0041】
したがって、電波吸収体ブロック30の寸法と材料の吸収率を適当に選べば二次波以降の高次波は無視できるようにすることができる。なお、供試器10の感度測定のように、試験アンテナ11から電波を送信する測定の場合で、供試器10に供給する一次波のレベルが所定以上必要な場合には、電波吸収体ブロック30による減衰分を見込んで試験アンテナ11への供給電力を増加させればよい。
【0042】
また、結合器20内で高次反射波を抑える別の方法として、例えば楕円球の水平断面に電波吸収体のシートを敷く方法や、内壁面全体に電波吸収体材料を貼付ける方法も考えられるが、このような方法では、多量の電波吸収体を必要とし、コスト高になるばかりでなく、結合器内で使用できる空間が大幅に狭くなり、供試器10の大きさや試験アンテナ11の配置に大きな制限が生じてしまう。
【0043】
これに対し、図5の測定システムのように、試験アンテナ11を電波吸収体ブロック30で覆い、試験アンテナ11が配置されている領域に集約されて金属壁へ放射される電波を減衰させる構造にすれば、試験アンテナ11が配置されている焦点F2付近の電波のエネルギー密度が高いので、体積が小さい電波吸収体ブロック30で効率的に電波吸収がなされ、その結果、低コストで、使用空間の広い結合器20を実現できる。
【0044】
換言すれば、この構造の結合器20は、送信アンテナから放射される拡散球面波を受信アンテナに到来する収束球面波に変換する電波無反射室であると言える。
【0045】
上記構造の結合器20は、供試器10の全放射電力(TRP)測定や、全放射感度(TRS)測定のいずれにも用いることができるが、以下、全放射電力(TRP)測定を例にとって説明する。
【0046】
(TRP測定方法)
図5に示した測定システムで、供試器10の全放射電力TRPを求めるため、先ず、測定系の校正を行う必要がある。
【0047】
図6は、その校正系を示し、結合器20の中に、供試器10に代わる基準アンテナ15と、電波吸収体ブロック30で覆った試験アンテナ11とを、それらの中心がほぼ楕円長軸上の各焦点F1、F2にそれぞれ一致するように配置する。
【0048】
簡単のため、基準アンテナ15は試験アンテナ11と同一アンテナを用い、両アンテナの長さ方向を楕円長軸に一致させたコリニア配置とし、送受信のアンテナ間の直接結合を抑える。ただし、両アンテナが互いに平行で楕円長軸に直交する、いわゆる対向配置でもよい。電波吸収体ブロック30の形状はここでは直方体とするが、これに限らず任意でよい。
【0049】
また、基準アンテナ15には、信号発生器40から電力PO[dBm]の信号を供給し、試験アンテナ11は、損失LC[dB]のケーブルを介して測定部としてのスペクトルアナライザ50に接続する。試験アンテナ11および基準アンテナ15の損失をLA[dB]、電波吸収体ブロック30の損失をLABS[dB]とする。ここでは、信号電力測定用の測定部としてスペクトルアナライザ(スペクトラムアナライザ)50を用いているが、使用周波数の信号の電力を測定できるものであればよく、スペクトルアナライザに限らない。
【0050】
なお、本システムに要求される測定部は、結合器20の内部に保持された試験アンテナ11に接続され、試験アンテナ11を介して無線端末に対する電波の送信あるいは受信を行い、無線端末の性能評価に必要な情報を取得するものであればよく、ここでは受信信号電力を測定するためのスペクトルアナライザ50を用いているが、測定対象の無線端末に応じたものを用いればよい。
【0051】
次いで、基準アンテナ15と試験アンテナ11とを、焦点F1、F2の位置を基準にして楕円長軸に沿って対称(楕円中心からみて同一量、同一方向)に変位させ、受信電力が最大となる位置を見出す(変位法)。このときの最大受信電力をPRA[dBm]とすると、次の関係が成立する。
【0052】
P0[dBm]=PRA[dBm]+2LA[dB]+Lc[dB]+LABS[dB] ……(1)
【0053】
次に、前述の図5のように、基準アンテナ15に代えて供試器10を配置する。このとき、供試器10の主偏波が楕円長軸に一致する、いわゆるコリニア配置にする。
【0054】
そして、基準アンテナ15の測定の場合と同様に、変位法により最大受信電力PRE[dBm]を測定する。
【0055】
供試器10の全放射電力TRPをPEUT[dBm]とすると、
PEUT[dBm]=PRE[dBm]+LA[dB]+Lc[dB]+LABS[dB] ……(2)
が得られる。
【0056】
式(2)−式(1)から、供試器10の全放射電力TRPは、
PEUT[dBm]=PRE[dBm]+P0[dBm]−PRA[dBm]−LA[dB] ……(3)
となり、両測定システムで共通の損失(Lc[dB]+LABS[dB])を除去した式で表される。
【0057】
式(3)からわかるように、供試器10の全放射電力TRPを求めるには、基準アンテナ15の損失LA[dB]を知る必要がある。
【0058】
損失LA[dB]を測定するためには、図7に示すように、前記した多重反射利用モード(Aモードと呼ぶ)を用いる。即ち、基準アンテナ15と試験アンテナ11とをコリニア配置し、変位法で最大受信点を見出す。
【0059】
信号発生器40からの送信電力をP0[dBm]、受信電力をPR0[dBm]とすると、前記したように2つのアンテナは同一であるからそれらの損失は等しく、また、結合器20の壁面損失は一般に十分小さいので、
LA[dB]={P0[dBm]−PR0[dBm]−Lc[dB]}/2 ……(4)
となる。なお、ケーブル損失Lc[dB]は、別途測定しておく必要がある。
【0060】
上記の測定方法をまとめると、始めに、電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間内の楕円長軸上の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末を配置し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナ11を保持する。そして、試験アンテナ11を介して無線端末に対する電波の送受信を行い、無線端末の性能評価に必要な情報を取得する無線端末送受信性能測定方法であって、試験アンテナ11を電波吸収体ブロック30で覆い、試験アンテナ11が配置されている領域に集約されて金属壁へ放射される電波を減衰させることを特徴としている。
【0061】
また、より具体的に言えば、無線端末を損失既知の基準アンテナ15に代えて既知電力の信号を供給して試験アンテナ11の受信電力を測定し、システムの校正に必要な校正情報を求め、基準アンテナ15の代わりに無線端末が配置されたときの測定を校正情報を用いて行う。
【0062】
さらに、変位法を併用し、無線端末や基準アンテナ15の位置と試験アンテナ11の位置とを楕円長軸に沿って楕円中心に対して対称に移動させて、無線端末や基準アンテナ15と試験アンテナ11との間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置として求め、その有効測定位置において校正情報の取得あるいは校正情報を用いた無線端末の性能測定を行う。
【0063】
また、本測定システムにおける測定部は、単に受信信号電力を測定する機能だけでなく、システムの校正に必要な情報を記憶し、無線端末の実際に求めたい性能(全放射電力や全方位感度等)を算出する演算機能も含まれるものとする。即ち、前記校正系のように、無線端末を損失既知の基準アンテナ15に代えて既知電力の信号を供給して試験アンテナ11の受信電力を測定したときに得られる情報(前記式(1)に用いられる情報)を校正情報として予め記憶し、基準アンテナ15の代わりに無線端末が配置されたときの測定および前記演算処理(式(2)、(3)等)を校正情報を用いて行う。その際には、結合器20内で移動される無線端末や基準アンテナ15と試験アンテナ11との間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置とし、その有効測定位置において校正情報の取得や正情報を用いた無線端末の性能測定を行うものである。
【0064】
(測定例)
以下、前記方法に基づく測定実験の例を述べる。
結合器20は長軸径760mm、短軸径725mm、離心率0.3で、試験アンテナ11と基準アンテナ15はともに中心周波数1.47GHzの半波長スリーブアンテナとする。
【0065】
また、試験アンテナ11を覆う電波吸収体ブロック30としては、吸収率の異なる2種類の材料を用いた。これらを電波吸収体A、電波吸収体Bと呼ぶことにする。いずれも発泡ウレタンにカーボンを含浸させた電波吸収体で、寸法は180mm×120mm×120mmの直方体である。
【0066】
供試器10としては、無線端末を模擬するものとして、1.47GHzの連続波発振器を内蔵した140mm×46mm×40mmの金属筺体の外部に1.47GHzでほぼ整合するモノポールアンテナを取り付けた無線機と、同じ金属筺体にVSW=3のモノポールアンテナを取り付けたものの2種類について測定した。
【0067】
次の表1に2種類の電波吸収体に対する各測定値をまとめている。
【0068】
【表1】
【0069】
図8は、送受信のスリーブアンテナの中心をそれぞれ焦点位置に一致させ、コリニア配置したときの透過係数S21の周波数特性である。
【0070】
Aモード(多重反射利用モード)では、透過係数S21は大きいがいくつかの周波数で鋭い落ち込みが見られる。これに対し、試験アンテナ11を電波吸収体ブロック30で覆ったBモード(多重反射抑圧モード)では、変化がかなり緩やかになっていることが分かる。
【0071】
図9は、中心周波数1.47GHzで変位法を行った時の透過特性で、どちらのモードでも変位位置Δz=28.6mmで透過係数がそれぞれ最大になることが分かる(Δz=0mmが焦点位置)。
【0072】
図10は、整合アンテナと不整合アンテナを有する供試器の全放射電力TRPを比較したグラフで、(a)が電波吸収体A、(b)が電波吸収体Bを用いた時の結果である。供試器は金属筺体とモノポールアンテナの付け根を焦点に一致させた時をΔz=0mmとしている。
【0073】
この結果をみると、図9で透過が最大となる位置Δz=28.6mmに供試器10と試験アンテナ11を配置して測定することで整合アンテナはもちろん、不整合アンテナを持つ供試器10でも不整合を含めた全放射電力TRPを求めることができる。整合と不整合の差は、自由空間での反射損失の差1.3dBに概略近い値になっている。
【0074】
(携帯電話の性能測定法)
実際の携帯電話は、基地局との通信を行うように設計されているため、その送受信性能である全放射電力TRPや全方位感度TRSをOTA測定するシステムの場合には、測定部として基地局シミュレータを用いる必要がある。図11に、前記結合器20を用いてこれらの性能を測定するシステムを示す。以下、その動作を説明する。
【0075】
先ず、TRP測定の場合、基地局シミュレータ60から供試器としての携帯電話10′に最大の電波を発射する命令をダウンリンクの周波数で送る。
【0076】
携帯電話10′はこれを受信し、アップリンクの周波数で最大電力の電波を発射し、その電波が試験アンテナ11を介して基地局シミュレータ60で受信される。
【0077】
この状態を維持しながら、前記した変位法により、携帯電話10′と試験アンテナ11とを楕円長軸に沿ってその中点を中心に対称に移動させ、受信電力が最大となる位置を見つけ、そのときの最大受信電力PRE[dBm]と、前記校正時の供給電力P0[dBm]、受信電力PRA[dBm]、試験アンテナ損失LA[dB]に基づいて、前記式(3)から、携帯電話10′の全放射電力TRPを求める。
【0078】
次に、全方位感度TRSを測定する方法を述べる。先ず基地局シミュレータ60から適当なレベルでPN信号(擬似雑音信号)を送信し、試験アンテナ11を介してダウンリンクで携帯電話10′に送る。
【0079】
携帯電話10′では、受信したレベルと受信したPN信号をアップリンクに乗せて送り返す。基地局シミュレータ60では、試験アンテナ11を介してこの信号を受けてビット誤り率BERを算出する。
【0080】
この状態を維持しながら、前記変位法により前記受信レベルが最大または前記ビット誤り率BERが最低となる携帯電話10′と試験アンテナ11の位置を見出し、その位置に固定する。
【0081】
次に、基地局シミュレータ60が送信するPN信号の送信レベルを徐々に低下させていき、ビット誤り率BERが1%を超える送信レベルを見出す。これが求める全方位感度TRSとなる。
【0082】
なお、結合器20の基本構造は、上記したように楕円をその長軸を中心に回転して得られる楕円球状の空間を、電波を反射させる金属壁(金属板、金属網あるいは導電性塗料膜等)で囲む構造で、且つ楕円長軸上の焦点位置あるいはその近傍位置に、試験アンテナや無線端末を保持できる構造であれば、任意でよい。
【0083】
ただし、実際には、アンテナや無線端末などを取り替えたり、その保持位置を調整する必要がある。そのためのに必要な最大の開口面が得られるように、楕円球空間を形成する金属による隔壁体を、楕円長軸に沿った平面で上下あるいは前後に切断して2分し、半楕円球状の一方の隔壁体を他方の隔壁体に被せる構造が現実的となる。
【0084】
また、図示していないが、結合器内でアンテナや無線端末を保持するための保持体は、電波を通過させやすい材質(低損失材)で形成し、その一部を楕円長軸に沿って結合器の外側に突出させておき、その外部に突出した部分を保持しつつ楕円長軸に沿ってスライドさせる機構(手動、電動のいずれ手もよい)を設けることで前記した変位法に対応できる。その保持体や移動機構の具体的な構造については任意である。
【0085】
なお、上記実施形態では、測定対象の無線端末が携帯電話10′で、試験アンテナ11に接続される測定部が基地局シミュレータの場合について説明したが、本発明は、携帯電話以外の無線端末、例えば、無線タグ、UWBやBANデバイスなどの小形無線端末に対しても適用でき、その場合には、図5に示したシステムのように、測定部としてスペクトルアナライザ50あるいは無線端末の測定に最適な測定部を用いればよい。
【符号の説明】
【0086】
10……供試器、10′……携帯電話、11……試験アンテナ、15……基準アンテナ、20……結合器、30……電波吸収体ブロック、40……信号発生器、50……スペクトルアナライザ、60……基地局シミュレータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末(10、10′)を配置し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナ(11)を保持する段階と、
前記試験アンテナを介して前記無線端末に対する電波の送受信を行い、該無線端末の性能評価に必要な情報を取得する段階とを有する無線端末送受信性能測定方法であって、
前記試験アンテナを電波吸収体ブロック(30)で覆い、該試験アンテナが配置されている領域に集約されて前記金属壁へ放射される電波を減衰させることを特徴とする無線端末送受信性能測定方法。
【請求項2】
前記無線端末を損失既知の基準アンテナ(15)に代え、該基準アンテナに既知電力の信号を供給して前記試験アンテナの受信電力を測定し、システムの校正に必要な校正情報を求める段階と、
前記基準アンテナの代わりに前記無線端末が配置されたときの測定を前記校正情報を用いて行う段階とを含むことを特徴とする請求項1記載の無線端末送受信性能測定方法。
【請求項3】
前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナの位置と前記試験アンテナの位置とを前記楕円長軸に沿って楕円中心に対して対称に移動させて、前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナと前記試験アンテナとの間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置として求める段階を含み、
該有効測定位置において前記校正情報の取得または該校正情報を用いた無線端末の性能測定を行うことを特徴とする請求項1または請求項2記載の無線端末送受信性能測定方法。
【請求項4】
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間を有し、該空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末(10、10′)を保持し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナ(11)を保持する結合器(20)と、
前記結合器の内部に保持された前記試験アンテナに接続され、該試験アンテナを介して前記無線端末に対する電波の送受信を行い、該無線端末の性能評価に必要な情報を取得する測定部(50、60)とを備えるとともに、
前記試験アンテナは、該試験アンテナが配置されている領域に集約されて前記金属壁へ放射される電波を減衰させるための電波吸収体ブロック(30)で覆われていることを特徴とする無線端末送受信性能測定装置。
【請求項5】
前記測定部は、前記無線端末を損失既知の基準アンテナ(15)に代え、該基準アンテナに既知電力の信号を供給して前記試験アンテナの受信電力を測定したときに得られる情報を校正情報として予め記憶し、前記基準アンテナの代わりに前記無線端末が配置されたときの測定を前記校正情報を用いて行うことを特徴とする請求項4記載の無線端末送受信性能測定装置。
【請求項6】
前記結合器は、前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナの位置と前記試験アンテナの位置とを前記楕円長軸に沿って楕円中心に対して対称に移動させる機構を有しており、
前記測定部は、前記結合器内で移動される前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナと前記試験アンテナとの間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置とし、該有効測定位置において前記校正情報の取得または該校正情報を用いた無線端末の性能測定を行うことを特徴とする請求項4または請求項5記載の無線端末送受信性能測定装置。
【請求項7】
前記測定対象の無線端末が携帯電話(10′)であり、
前記測定部は、前記試験アンテナを介して前記携帯電話機に対するダウンリンク信号を発射し、該携帯電話機から発射されるアップリンクの応答信号を前記試験アンテナを介して受信する基地局シミュレータ(60)であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の無線端末送受信性能測定装置。
【請求項1】
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末(10、10′)を配置し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナ(11)を保持する段階と、
前記試験アンテナを介して前記無線端末に対する電波の送受信を行い、該無線端末の性能評価に必要な情報を取得する段階とを有する無線端末送受信性能測定方法であって、
前記試験アンテナを電波吸収体ブロック(30)で覆い、該試験アンテナが配置されている領域に集約されて前記金属壁へ放射される電波を減衰させることを特徴とする無線端末送受信性能測定方法。
【請求項2】
前記無線端末を損失既知の基準アンテナ(15)に代え、該基準アンテナに既知電力の信号を供給して前記試験アンテナの受信電力を測定し、システムの校正に必要な校正情報を求める段階と、
前記基準アンテナの代わりに前記無線端末が配置されたときの測定を前記校正情報を用いて行う段階とを含むことを特徴とする請求項1記載の無線端末送受信性能測定方法。
【請求項3】
前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナの位置と前記試験アンテナの位置とを前記楕円長軸に沿って楕円中心に対して対称に移動させて、前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナと前記試験アンテナとの間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置として求める段階を含み、
該有効測定位置において前記校正情報の取得または該校正情報を用いた無線端末の性能測定を行うことを特徴とする請求項1または請求項2記載の無線端末送受信性能測定方法。
【請求項4】
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間を有し、該空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点またはその近傍位置に測定対象の無線端末(10、10′)を保持し、他方の焦点またはその近傍位置に試験アンテナ(11)を保持する結合器(20)と、
前記結合器の内部に保持された前記試験アンテナに接続され、該試験アンテナを介して前記無線端末に対する電波の送受信を行い、該無線端末の性能評価に必要な情報を取得する測定部(50、60)とを備えるとともに、
前記試験アンテナは、該試験アンテナが配置されている領域に集約されて前記金属壁へ放射される電波を減衰させるための電波吸収体ブロック(30)で覆われていることを特徴とする無線端末送受信性能測定装置。
【請求項5】
前記測定部は、前記無線端末を損失既知の基準アンテナ(15)に代え、該基準アンテナに既知電力の信号を供給して前記試験アンテナの受信電力を測定したときに得られる情報を校正情報として予め記憶し、前記基準アンテナの代わりに前記無線端末が配置されたときの測定を前記校正情報を用いて行うことを特徴とする請求項4記載の無線端末送受信性能測定装置。
【請求項6】
前記結合器は、前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナの位置と前記試験アンテナの位置とを前記楕円長軸に沿って楕円中心に対して対称に移動させる機構を有しており、
前記測定部は、前記結合器内で移動される前記無線端末またはそれに代わる基準アンテナと前記試験アンテナとの間の電波の透過率が最大となる位置を有効測定位置とし、該有効測定位置において前記校正情報の取得または該校正情報を用いた無線端末の性能測定を行うことを特徴とする請求項4または請求項5記載の無線端末送受信性能測定装置。
【請求項7】
前記測定対象の無線端末が携帯電話(10′)であり、
前記測定部は、前記試験アンテナを介して前記携帯電話機に対するダウンリンク信号を発射し、該携帯電話機から発射されるアップリンクの応答信号を前記試験アンテナを介して受信する基地局シミュレータ(60)であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の無線端末送受信性能測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−163444(P2012−163444A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24146(P2011−24146)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、総務省、電波資源拡大のための委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、総務省、電波資源拡大のための委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
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