無線装置およびその試験方法、無線システム
【課題】単一周波数を用いた無線システムにおいて、アンテナを用いた送受信試験を運用に障害を与えることなく実施する。
【解決手段】無線装置2は、アンテナ1を介して電波を送信する送信部3と、アンテナ1を介して電波を受信し、特定の電波を受信した旨を使用者に通知する受信部4とを備える。送信部3は、通常の運用に使用する運用波と、無線装置2の試験に使用する試験波とを切り替えて送信可能である。無線装置2は、送信部3が運用波を送信し、受信部4が運用波を受信した旨を通知する運用モードと、送信部3が試験波を送信し、受信部4が試験波を受信した旨を通知する点検モードとを切り替え可能である。
【解決手段】無線装置2は、アンテナ1を介して電波を送信する送信部3と、アンテナ1を介して電波を受信し、特定の電波を受信した旨を使用者に通知する受信部4とを備える。送信部3は、通常の運用に使用する運用波と、無線装置2の試験に使用する試験波とを切り替えて送信可能である。無線装置2は、送信部3が運用波を送信し、受信部4が運用波を受信した旨を通知する運用モードと、送信部3が試験波を送信し、受信部4が試験波を受信した旨を通知する点検モードとを切り替え可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線システムに関し、特に、単一周波数にて運用される無線システムの試験に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば複数の列車間で緊急事態を相互に通知するための防護無線システムには、単一周波数で運用される無線システムが用いられている。そのような無線システムでは、無線装置の健全性を確認するための試験方法として、無線装置の送信部が送信した電波をアンテナから外部へ送信せずに内部で折り返し、その無線装置の受信部に受信させ、送受信動作が正しく行われるか確認する方法をとっている(以下、この試験方法を「折り返し試験」と称す)。
【0003】
単一周波数で運用される無線システムでは、試験対象の無線装置がアンテナから電波を送信すると、その電波が実際に運用中の他の無線装置にも受信され、同一周波数の電波による干渉が生じ、無線システムの運用の障害となる。これを防止するために、上記の折り返し試験が行われていた。
【0004】
しかし、折り返し試験ではアンテナを使用しないため、無線装置のアンテナから正常に電波が送信されるかの確認はできない。例えば無線装置とアンテナとの間のケーブルが断線した場合など、アンテナが使用不能な状態になっていても、折り返し試験ではアンテナの不具合は検出されない。特に、列車の防護無線システムのように、電波の送受信が平常時には行われず、緊急時のみに行われる場合、使用者がアンテナの不具合に気付かないまま長期間に渡って運用される危険性がある。
【0005】
アンテナの不具合を検出するためには、実際にアンテナから電波を送信させ、アンテナから見通しのある地点に設置した測定器(電測計等)で電波の受信レベルを確認する試験(以下「アンテナ送信試験」と称す)が必要になる。この試験は、無線システムの運用の障害とならないように、運用時間を避けた深夜などの時間帯に実施しなければならない。
【0006】
例えば下記の特許文献1では、列車の防護無線システムにおいて、地上に設置する基地局から特定の試験信号を変調した電波(試験波)を常時送信し、列車に搭載された無線装置がそれを受信することで、無線装置の健全性を確認する試験方法が提案されている。しかし単一周波数を用いる無線システムであるので、試験対象でない運用中の列車の無線装置が試験波を受信すると、その無線装置は運用に使用している電波(運用波)を受信できなくなり、運用の障害となる。
【0007】
そのため特許文献1では、無線基地局からの試験波の送信レベルを弱くし、運用中の無線装置が運用波を試験波よりも高い受信レベルで受信できるように構成している。しかし運用中の列車は移動するため、無線基地局との位置関係によっては、運用波よりも試験波の受信レベルが高くなり、運用中の無線装置が運用波を受信できないことも考えられる。例えば、列車が無線基地局の近くを通過している間に、遠くの他の列車から運用波が送信されたケース等である。特許文献1では、運用波は他の列車を緊急停止させる目的で使用されており、試験波の影響により運用波の受信が妨害されると、列車の停止タイミングが遅れるため問題となる。また特許文献1の試験方法は、無線装置の受信機能を試験するものであり、送信機能の試験には対応していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59−27635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、折り返し試験ではアンテナの不具合を検出できない。特に列車の防護無線システムのように、電波の送受信が緊急時のみに行われるシステムでは、使用者がアンテナの不具合に気付かないまま無線装置が運用され、緊急事態への対応が遅れる危険性がある。
【0010】
アンテナの不具合を検出するためにはアンテナ送信試験を行えばよいが、運用に障害を与えないように運用時間外に行う必要があり、試験時間が制限される。また貨物列車など24時間運用される列車がある場合は、試験時間を確保できない。
【0011】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、単一周波数を用いた無線システムに適用可能であり、アンテナを用いた送受信試験を運用に障害を与えることなく実施可能な無線装置およびその試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る無線装置は、アンテナと、前記アンテナを介して電波を送信する送信部と、前記アンテナを介して電波を受信し、特定の電波を受信した旨を外部に通知する受信部とを備え、前記送信部は、通常の運用で使用される運用波および前記運用波とは異なるデータを変調した試験波を切り替えて送信可能であり、前記送信部が運用波を送信し、前記受信部が運用波を受信した旨を外部に通知する運用モードと、前記送信部が試験波を送信し、前記受信部が試験波を受信した旨を外部に通知する点検モードとを切り替え可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る無線装置によれば、一対の無線装置を点検モードにし、互いに試験波の送受信が正常に行われるか確認することにより実施可能である。運用中の無線装置が試験波を受信しても、その受信部は外部への通知を行わないため、試験波が運用に障害を与えることはない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1に係る無線装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る無線システムの概略構成図である。
【図3】実施の形態1に係る無線装置の試験手順を示すフロー図である。
【図4】実施の形態1に係る無線システムにおける運用波および試験波の送信タイミングを示す図である。
【図5】実施の形態2に係る無線システムの概略構成図である。
【図6】実施の形態2に係る無線システムの動作を説明するための図である。
【図7】実施の形態2に係る無線装置の試験手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係る無線装置の構成を示す図である。また図2は、その無線装置から構成される無線システムの概略構成図である。本実施の形態では、無線システムの一例として列車の防護無線システムを想定して説明するが、本発明は単一周波数を用いた無線システムに広く適用可能である。
【0016】
図2の無線システムでは、列車10,21,22,23の運転台のそれぞれに図1の無線装置2が搭載されている。そのうち列車10は、試験の対象となる無線装置2を搭載した列車(試験対象列車)であり、それ以外の列車21,22,23は、運用中の列車である。図示の便宜のため、図2では各列車の運転台のみを示している。また列車は前方と後方のそれぞれに運転台を有するが、運用中の列車21,22,23では前方運転台のみを図示している。
【0017】
図1の如く、本実施の形態に係る無線装置2は、アンテナ1、送信部3、受信部4、制御部5、アンテナスイッチ6、保守用コネクタ8、発報スイッチ9を備える。送信部3および受信部4は、規定の単一周波数による電波の送受信を行う。アンテナスイッチ6は、アンテナ1を送信部3に接続させるか、受信部4に接続させるかを切り替える。
【0018】
保守用コネクタ8は、無線装置2が内蔵する時計の時刻補正などの保守作業を行うための保守用装置7を無線装置2に接続させるためのものである。無線装置2は、保守用コネクタ8に保守用装置7が接続されていないときは運用のための動作モード(運用モード)で動作するが、保守用コネクタ8に保守用装置7が接続されると、送受信試験を含む保守点検のための動作モード(点検モード)に移行する。
【0019】
発報スイッチ9は、無線装置2の送信部3にアンテナ1から所定の電波を送信させるための押しボタンである。無線装置2が運用モードのときは、発報スイッチ9が押下されると送信部3は運用で使用される電波(運用波)を出力する。無線装置2が点検モードのときは、発報スイッチ9が押下されると送信部3は試験用の電波(試験波)を出力する。試験波は、運用波とは異なる信号を変調して生成したものである。
【0020】
無線装置2の運用時の動作を説明する。運用時には、無線装置2の保守用コネクタ8には保守用装置7を接続させず、無線装置2を運用モードで動作させる。
【0021】
平常時の無線装置2は、外部からの運用波の待ち受け状態である。すなわち制御部5はアンテナスイッチ6を制御してアンテナ1に受信部4を接続させており、受信部4は他の列車の無線装置2からの運用波を受信可能な状態になっている。
【0022】
列車の運用中に緊急事態が生じたときなど、運用波を送信する必要が生じた場合、使用者(例えば運転手)は無線装置2の発報スイッチ9を押下する。制御部5は、発報スイッチ9が押下されたことを検出すると、送信部3を制御して運用波を生成させると共に、アンテナスイッチ6を制御してアンテナ1を送信部5に接続させる。それにより、運用波がアンテナ1を通して外部へ出力される。
【0023】
一方、運用波を発していない他の列車の無線装置2は、アンテナ1を通して電波を受信すると、受信部4がそれを復調し、その電波が運用波か否かを確認する。受信した電波が運用波であった場合、運用波を受信した旨を使用者に通知するための所定の動作を行う。本実施の形態では、無線装置2の受信部4は、運用波を受信するとスピーカを鳴動させるように動作するものとする。図2においては、運用中の列車22の無線装置2が運用波を送信し、運用中の他の列車23の無線装置2がそれを受信してスピーカ15を鳴動させている状態を示している。
【0024】
なお、運用モードの無線装置2は、受信した電波が運用波以外の電波(試験波を含む)であった場合には、受信部4は何も行わず、運用波の待ち受け状態を継続する。
【0025】
次に、無線装置2の保守点検時の動作を説明する。保守点検時には、無線装置2の保守用コネクタ8に保守用装置7が接続され、無線装置2は点検モードで動作する。点検モードでは、保守用装置7を用いた内蔵時計の時刻補正などの保守作業の他、無線装置2の送信部3、受信部4およびアンテナ1の試験を行うことが可能である。
【0026】
図3は、実施の形態1に係る無線装置の試験手順を示すフロー図である。図2および図3を参照して、本実施の形態に係る無線装置2の試験方法を説明する。
【0027】
本実施の形態では、無線装置2の試験を一対の無線装置2によって行われる。ここでは試験対象列車10の前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)と、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)とを用いて試験が行われるものとする。
【0028】
無線装置2の試験を行う前、試験対象列車10の前方運転台10aおよび後方運転台10bの無線装置2(第1および第2の無線装置)は、運用モードでの待ち受け状態となっている(ステップST1)。試験を開始するとき、試験者は、前方運転台10aおよび後方運転台10bの各無線装置2(第1および第2の無線装置)の保守用コネクタ8に保守用装置7を接続させ、それらを点検モードにする(ステップST2)。
【0029】
そして、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の発報スイッチ9を押下する(ステップST3)。当該無線装置2の制御部5は、発報スイッチ9の押下を検出すると、送信部3を制御して試験波を生成させると共に、アンテナスイッチ6を制御してアンテナ1に送信部3を接続させる。それにより、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)からアンテナ1を通して試験波が送信される(ステップST4)。
【0030】
後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)は、アンテナ1を通して受信部4が電波を受信すると、受信部4が受信した電波を復調し、その電波が試験波か否かを確認する(ステップST5)。
【0031】
後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)は、受信した電波が試験波であった場合(ステップST5においてYes)、試験波の送受信が正常に行われた旨を試験者に通知する。ここでは点検モードの無線装置2の受信部4は、試験波を受信するとスピーカ15を鳴動させるように動作するものとする。スピーカ15の鳴動音は、無線装置2が運用モードのときと点検モードのときとで異なる音にするとよい。それにより試験者は、無線装置2が試験波ではなく、運用波を受信したことを直感的に知ることができる。
【0032】
その結果、試験者は、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の送信系(アンテナ1、送信部3、アンテナスイッチ6並びにそれらの接続ケーブル)および、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の受信系(アンテナ1、無線装置2、アンテナスイッチ6並びにそれらの接続ケーブル)に、異常がないことを認識できる(ステップST6)。
【0033】
一方、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)が試験波を受信できなかった場合は(ステップST5においてNo)、スピーカ15は鳴動しない。その結果、試験者は、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の送信系、あるいは後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の受信系に、異常があることを認識できる(ステップST7)。
【0034】
上記のステップST3〜ST7により、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)を送信側、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)を受信側としての送受信試験(第1の送受信試験)が行われたことになる。なお図2には、試験対象列車10の前方運転台10aが試験波を送信し、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)がそれを受信してスピーカ15を鳴動させている状態が示されている。
【0035】
次に試験者は、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の発報スイッチ9を押下する(ステップST8)。すると今度は後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)が、アンテナ1から試験波を送信する(ステップST9)。
【0036】
前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)では、アンテナ1を通して受信部4が電波を受信すると、受信部4が受信した電波を復調し、その電波が試験波か否かを確認する(ステップST10)。
【0037】
前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の受信部4は、受信した電波が試験波であった場合(ステップST10においてYes)、スピーカ15を鳴動させて、試験波の送受信が正常に行われた旨を試験者に通知する。これにより試験者は、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の送信系および、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の受信系に、異常がないことを認識できる(ステップST11)。
【0038】
一方、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)が試験波を受信できなかった場合は(ステップST10においてNo)、スピーカ15は鳴動しない。その結果、試験者は、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の送信系、あるいは前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の受信系に、異常があることを認識できる(ステップST12)。
【0039】
上記のステップST8〜ST12により、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)を送信側、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)を受信側としての送受信試験(第2の送受信試験)が行われたことになる。
【0040】
第1および第2の送受信試験によって、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の送信系および受信系(アンテナ1及びケーブルを含む)、および後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の送信系および受信系の試験が全て実施されたことになる。第1および第2の送受信試験を通して異常が全く検出されなかった場合には(ステップST13においてNo)、前方運転台10aおよび後方運転台10bの各無線装置2(第1および第2の無線装置)から保守用装置7を取り外し、試験を終了する。保守用装置7が取り外された無線装置2(第1および第2の無線装置)は、それぞれ運用モードに戻り、運用波の待ち受け状態となる(ステップST15)。
【0041】
また第1および第2の送受信試験において何らかの異常が検出された場合には(ステップST13においてYes)、その異常の原因となった故障部位の特定および修理が行われる(ステップST16)。以上により、本実施の形態に係る無線装置2の動作試験が完了する。
【0042】
本実施の形態では、同じ試験対象列車10の前方運転台10aと後方運転台10bとの間で、第1および第2の送受信試験が行われる。送信側と受信側との距離が近いため、送信側による試験波の送信レベルは比較的小さくてもよい。よって運用中の列車21,22,23の無線装置2が試験波の干渉を受けることを抑制できる。
【0043】
運用中の列車21,22,23は移動しているため、試験対象列車10の近くを通過する間は、運用中の列車21,22,23の無線装置2が試験波を受信してしまうことも考えられる。しかし、運用中の列車21,22,23の無線装置2は運用モードであるため、試験波を受信したとしても緊急時の動作(スピーカ15の鳴動等)は行われない。そのため試験波が列車の運用の障害となることは防止される。
【0044】
但し、本無線システムの通信は単一周波数を用いるため、運用波と試験波の両方が届くエリアでは、運用波と同じタイミングで試験波が送信されると、それらが衝突し、互いの干渉が発生し得る。そこで本実施の形態では、運用波および試験波の送信タイミングを以下のように制御している。
【0045】
図4は、本実施の係る無線システムにおける運用波および試験波の送信タイミングを示す図である。図4では、図2のように運用中の列車22の無線装置2が運用波を送信するのに並行して、試験対象列車10の前方運転台10aが試験波を送信した場合の例を示している。
【0046】
本実施の形態では、運用波および試験波のそれぞれは間欠送信され、その送信タイミング(送信間隔の長さ)はランダムに制御される。図4に示す期間において、試験対象列車10の前方運転台10aからの試験波および運用中の列車22からの運用波は、それぞれランダムなタイミングで4回ずつ発信され、そのうち2回目の運用波と2回目の試験波とが衝突して干渉を起こしている。この場合、干渉を受けた試験波は試験対象列車10の後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)で正常に受信できず、同じく干渉を受けた運用波も運用中の他の列車22の無線装置2で正常に受信できない(受信NG)。しかしそれ以外のタイミングで発信された運用波および試験波は、衝突せずに、それぞれ正常に受信されている(受信OK)。
【0047】
このように試験波と運用波とをそれぞれランダムに変化する間隔で間欠送信することにより、運用波および試験波の衝突の発生頻度を少なくできる。また一旦衝突が生じても、運用波と試験波の送信タイミングがランダムにずれるため衝突はすぐに解消され、運用上の問題は殆ど生じない。よって、運用中の列車21,22,23が試験波を受信可能なエリアを通過したとしても、試験波が運用に障害を与えることを防止できる。
【0048】
<実施の形態2>
実施の形態1では、運用波および試験波がランダムな間隔で間欠送信されることにより、運用波と試験波との衝突による運用上の問題は殆ど生じないが、図4に示したように運用波と試験波の衝突(干渉)が完全に無くなるわけではない。本実施の形態では、運用波と試験波との衝突を無くすことが可能なシステム構成を提案する。
【0049】
図5は、実施の形態2に係る無線システムの概略構成図である。当該無線システムは、図2に示した構成に加え、無線装置2の動作タイミングを制御するための電波(制御波)を一定間隔で送信する地上装置19(基地局)と、地上装置19が制御波を出力するタイミングを制御する中央装置20が設けられている。制御波は、運用波および試験波と同一周波数により送信されるが、運用波および試験波とは異なる信号を変調して生成されたものである。また図示は省略するが、本実施の形態の無線装置2の受信部4には、受信信号の同一波干渉を解消できる適応等化器が設けられている。
【0050】
地上装置19は、送信する制御波が当該無線システムの運用エリアの全域に到達するように設置される。図5では、地上装置19が各駅に設置された例を示している。中央装置20は、全ての地上装置19が揃ったタイミングで制御波を送信するように、全ての地上装置19を統括して制御している。
【0051】
当該無線システムの運用エリア内にある無線装置2は、受信部4が受信した電波が制御波であった場合、自己の動作タイミングを、その制御波の受信タイミングに同期させる。制御波は、運用エリア内にある全ての無線装置2に同じタイミングで受信されるため、全ての無線装置2の動作タイミングが同期することになる。これを利用し、本実施の形態では、無線装置2が送信する運用波および試験波、並びに地上装置19が送信する制御波をそれぞれ異なるタイムスロットで送信されるように規定する。
【0052】
図6は、実施の形態2に係る無線システムにおける運用波、試験波および制御波の送受信動作を示す図である。図6では、図2のように運用中の列車22の無線装置2が運用波を送信するのに並行して、試験対象列車10の前方運転台10aが試験波を送信した場合の例を示している。
【0053】
図6の例では、時間的に分割された各フレームを、A〜Dの4つのタイムスロットに区分し、スロットAを制御波の送信用、スロットBを試験波の送信用、スロットC,Dを運用波の送信用として規定している。このように、運用波、試験波および制御波が送信されるタイムスロットを異ならしめることにより、それらの衝突を確実に防止できる。なお、2つの地上装置19から制御波が届くエリアでは制御波の同一波干渉が発生するが、無線装置2の受信部4は適応等化器を有しているため、その場合でも制御波の復調は可能である。
【0054】
図7は、実施の形態2に係る無線装置の試験手順を示すフロー図である。同図の如く、本実施の形態における無線装置2の試験方法は、試験対象である無線装置2が運用波を送信するステップST4,ST9が、それぞれ運用波用のスロットBのタイミングで実行されることを除き、実施の形態1(図3)と同様である。よってここでの詳細な説明は省略する。
【0055】
なお、本実施の形態では、試験波用のタイムスロットを1つ(スロットB)、運用波用のタイムスロットを2つ(スロットC,D)とした例を示したが、フレームをより多くのスロットに分割し、試験波用および運用波用のスロットの数を増やしてもよい。それにより運用波同士あるいは試験波同士の衝突の発生を抑制しつつ、同時に電波を送信できる無線装置2を増やすことが可能になる。
【符号の説明】
【0056】
1 アンテナ、2 無線装置、3 送信部、4 受信部、5 制御部、6 アンテナスイッチ、7 保守用装置、8 保守用コネクタ、9 発報スイッチ、10 試験対象列車、15 スピーカ、19 地上装置、20 中央装置、21〜23 運用中の列車。
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線システムに関し、特に、単一周波数にて運用される無線システムの試験に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば複数の列車間で緊急事態を相互に通知するための防護無線システムには、単一周波数で運用される無線システムが用いられている。そのような無線システムでは、無線装置の健全性を確認するための試験方法として、無線装置の送信部が送信した電波をアンテナから外部へ送信せずに内部で折り返し、その無線装置の受信部に受信させ、送受信動作が正しく行われるか確認する方法をとっている(以下、この試験方法を「折り返し試験」と称す)。
【0003】
単一周波数で運用される無線システムでは、試験対象の無線装置がアンテナから電波を送信すると、その電波が実際に運用中の他の無線装置にも受信され、同一周波数の電波による干渉が生じ、無線システムの運用の障害となる。これを防止するために、上記の折り返し試験が行われていた。
【0004】
しかし、折り返し試験ではアンテナを使用しないため、無線装置のアンテナから正常に電波が送信されるかの確認はできない。例えば無線装置とアンテナとの間のケーブルが断線した場合など、アンテナが使用不能な状態になっていても、折り返し試験ではアンテナの不具合は検出されない。特に、列車の防護無線システムのように、電波の送受信が平常時には行われず、緊急時のみに行われる場合、使用者がアンテナの不具合に気付かないまま長期間に渡って運用される危険性がある。
【0005】
アンテナの不具合を検出するためには、実際にアンテナから電波を送信させ、アンテナから見通しのある地点に設置した測定器(電測計等)で電波の受信レベルを確認する試験(以下「アンテナ送信試験」と称す)が必要になる。この試験は、無線システムの運用の障害とならないように、運用時間を避けた深夜などの時間帯に実施しなければならない。
【0006】
例えば下記の特許文献1では、列車の防護無線システムにおいて、地上に設置する基地局から特定の試験信号を変調した電波(試験波)を常時送信し、列車に搭載された無線装置がそれを受信することで、無線装置の健全性を確認する試験方法が提案されている。しかし単一周波数を用いる無線システムであるので、試験対象でない運用中の列車の無線装置が試験波を受信すると、その無線装置は運用に使用している電波(運用波)を受信できなくなり、運用の障害となる。
【0007】
そのため特許文献1では、無線基地局からの試験波の送信レベルを弱くし、運用中の無線装置が運用波を試験波よりも高い受信レベルで受信できるように構成している。しかし運用中の列車は移動するため、無線基地局との位置関係によっては、運用波よりも試験波の受信レベルが高くなり、運用中の無線装置が運用波を受信できないことも考えられる。例えば、列車が無線基地局の近くを通過している間に、遠くの他の列車から運用波が送信されたケース等である。特許文献1では、運用波は他の列車を緊急停止させる目的で使用されており、試験波の影響により運用波の受信が妨害されると、列車の停止タイミングが遅れるため問題となる。また特許文献1の試験方法は、無線装置の受信機能を試験するものであり、送信機能の試験には対応していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59−27635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、折り返し試験ではアンテナの不具合を検出できない。特に列車の防護無線システムのように、電波の送受信が緊急時のみに行われるシステムでは、使用者がアンテナの不具合に気付かないまま無線装置が運用され、緊急事態への対応が遅れる危険性がある。
【0010】
アンテナの不具合を検出するためにはアンテナ送信試験を行えばよいが、運用に障害を与えないように運用時間外に行う必要があり、試験時間が制限される。また貨物列車など24時間運用される列車がある場合は、試験時間を確保できない。
【0011】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、単一周波数を用いた無線システムに適用可能であり、アンテナを用いた送受信試験を運用に障害を与えることなく実施可能な無線装置およびその試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る無線装置は、アンテナと、前記アンテナを介して電波を送信する送信部と、前記アンテナを介して電波を受信し、特定の電波を受信した旨を外部に通知する受信部とを備え、前記送信部は、通常の運用で使用される運用波および前記運用波とは異なるデータを変調した試験波を切り替えて送信可能であり、前記送信部が運用波を送信し、前記受信部が運用波を受信した旨を外部に通知する運用モードと、前記送信部が試験波を送信し、前記受信部が試験波を受信した旨を外部に通知する点検モードとを切り替え可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る無線装置によれば、一対の無線装置を点検モードにし、互いに試験波の送受信が正常に行われるか確認することにより実施可能である。運用中の無線装置が試験波を受信しても、その受信部は外部への通知を行わないため、試験波が運用に障害を与えることはない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1に係る無線装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る無線システムの概略構成図である。
【図3】実施の形態1に係る無線装置の試験手順を示すフロー図である。
【図4】実施の形態1に係る無線システムにおける運用波および試験波の送信タイミングを示す図である。
【図5】実施の形態2に係る無線システムの概略構成図である。
【図6】実施の形態2に係る無線システムの動作を説明するための図である。
【図7】実施の形態2に係る無線装置の試験手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係る無線装置の構成を示す図である。また図2は、その無線装置から構成される無線システムの概略構成図である。本実施の形態では、無線システムの一例として列車の防護無線システムを想定して説明するが、本発明は単一周波数を用いた無線システムに広く適用可能である。
【0016】
図2の無線システムでは、列車10,21,22,23の運転台のそれぞれに図1の無線装置2が搭載されている。そのうち列車10は、試験の対象となる無線装置2を搭載した列車(試験対象列車)であり、それ以外の列車21,22,23は、運用中の列車である。図示の便宜のため、図2では各列車の運転台のみを示している。また列車は前方と後方のそれぞれに運転台を有するが、運用中の列車21,22,23では前方運転台のみを図示している。
【0017】
図1の如く、本実施の形態に係る無線装置2は、アンテナ1、送信部3、受信部4、制御部5、アンテナスイッチ6、保守用コネクタ8、発報スイッチ9を備える。送信部3および受信部4は、規定の単一周波数による電波の送受信を行う。アンテナスイッチ6は、アンテナ1を送信部3に接続させるか、受信部4に接続させるかを切り替える。
【0018】
保守用コネクタ8は、無線装置2が内蔵する時計の時刻補正などの保守作業を行うための保守用装置7を無線装置2に接続させるためのものである。無線装置2は、保守用コネクタ8に保守用装置7が接続されていないときは運用のための動作モード(運用モード)で動作するが、保守用コネクタ8に保守用装置7が接続されると、送受信試験を含む保守点検のための動作モード(点検モード)に移行する。
【0019】
発報スイッチ9は、無線装置2の送信部3にアンテナ1から所定の電波を送信させるための押しボタンである。無線装置2が運用モードのときは、発報スイッチ9が押下されると送信部3は運用で使用される電波(運用波)を出力する。無線装置2が点検モードのときは、発報スイッチ9が押下されると送信部3は試験用の電波(試験波)を出力する。試験波は、運用波とは異なる信号を変調して生成したものである。
【0020】
無線装置2の運用時の動作を説明する。運用時には、無線装置2の保守用コネクタ8には保守用装置7を接続させず、無線装置2を運用モードで動作させる。
【0021】
平常時の無線装置2は、外部からの運用波の待ち受け状態である。すなわち制御部5はアンテナスイッチ6を制御してアンテナ1に受信部4を接続させており、受信部4は他の列車の無線装置2からの運用波を受信可能な状態になっている。
【0022】
列車の運用中に緊急事態が生じたときなど、運用波を送信する必要が生じた場合、使用者(例えば運転手)は無線装置2の発報スイッチ9を押下する。制御部5は、発報スイッチ9が押下されたことを検出すると、送信部3を制御して運用波を生成させると共に、アンテナスイッチ6を制御してアンテナ1を送信部5に接続させる。それにより、運用波がアンテナ1を通して外部へ出力される。
【0023】
一方、運用波を発していない他の列車の無線装置2は、アンテナ1を通して電波を受信すると、受信部4がそれを復調し、その電波が運用波か否かを確認する。受信した電波が運用波であった場合、運用波を受信した旨を使用者に通知するための所定の動作を行う。本実施の形態では、無線装置2の受信部4は、運用波を受信するとスピーカを鳴動させるように動作するものとする。図2においては、運用中の列車22の無線装置2が運用波を送信し、運用中の他の列車23の無線装置2がそれを受信してスピーカ15を鳴動させている状態を示している。
【0024】
なお、運用モードの無線装置2は、受信した電波が運用波以外の電波(試験波を含む)であった場合には、受信部4は何も行わず、運用波の待ち受け状態を継続する。
【0025】
次に、無線装置2の保守点検時の動作を説明する。保守点検時には、無線装置2の保守用コネクタ8に保守用装置7が接続され、無線装置2は点検モードで動作する。点検モードでは、保守用装置7を用いた内蔵時計の時刻補正などの保守作業の他、無線装置2の送信部3、受信部4およびアンテナ1の試験を行うことが可能である。
【0026】
図3は、実施の形態1に係る無線装置の試験手順を示すフロー図である。図2および図3を参照して、本実施の形態に係る無線装置2の試験方法を説明する。
【0027】
本実施の形態では、無線装置2の試験を一対の無線装置2によって行われる。ここでは試験対象列車10の前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)と、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)とを用いて試験が行われるものとする。
【0028】
無線装置2の試験を行う前、試験対象列車10の前方運転台10aおよび後方運転台10bの無線装置2(第1および第2の無線装置)は、運用モードでの待ち受け状態となっている(ステップST1)。試験を開始するとき、試験者は、前方運転台10aおよび後方運転台10bの各無線装置2(第1および第2の無線装置)の保守用コネクタ8に保守用装置7を接続させ、それらを点検モードにする(ステップST2)。
【0029】
そして、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の発報スイッチ9を押下する(ステップST3)。当該無線装置2の制御部5は、発報スイッチ9の押下を検出すると、送信部3を制御して試験波を生成させると共に、アンテナスイッチ6を制御してアンテナ1に送信部3を接続させる。それにより、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)からアンテナ1を通して試験波が送信される(ステップST4)。
【0030】
後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)は、アンテナ1を通して受信部4が電波を受信すると、受信部4が受信した電波を復調し、その電波が試験波か否かを確認する(ステップST5)。
【0031】
後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)は、受信した電波が試験波であった場合(ステップST5においてYes)、試験波の送受信が正常に行われた旨を試験者に通知する。ここでは点検モードの無線装置2の受信部4は、試験波を受信するとスピーカ15を鳴動させるように動作するものとする。スピーカ15の鳴動音は、無線装置2が運用モードのときと点検モードのときとで異なる音にするとよい。それにより試験者は、無線装置2が試験波ではなく、運用波を受信したことを直感的に知ることができる。
【0032】
その結果、試験者は、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の送信系(アンテナ1、送信部3、アンテナスイッチ6並びにそれらの接続ケーブル)および、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の受信系(アンテナ1、無線装置2、アンテナスイッチ6並びにそれらの接続ケーブル)に、異常がないことを認識できる(ステップST6)。
【0033】
一方、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)が試験波を受信できなかった場合は(ステップST5においてNo)、スピーカ15は鳴動しない。その結果、試験者は、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の送信系、あるいは後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の受信系に、異常があることを認識できる(ステップST7)。
【0034】
上記のステップST3〜ST7により、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)を送信側、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)を受信側としての送受信試験(第1の送受信試験)が行われたことになる。なお図2には、試験対象列車10の前方運転台10aが試験波を送信し、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)がそれを受信してスピーカ15を鳴動させている状態が示されている。
【0035】
次に試験者は、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の発報スイッチ9を押下する(ステップST8)。すると今度は後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)が、アンテナ1から試験波を送信する(ステップST9)。
【0036】
前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)では、アンテナ1を通して受信部4が電波を受信すると、受信部4が受信した電波を復調し、その電波が試験波か否かを確認する(ステップST10)。
【0037】
前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の受信部4は、受信した電波が試験波であった場合(ステップST10においてYes)、スピーカ15を鳴動させて、試験波の送受信が正常に行われた旨を試験者に通知する。これにより試験者は、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の送信系および、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の受信系に、異常がないことを認識できる(ステップST11)。
【0038】
一方、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)が試験波を受信できなかった場合は(ステップST10においてNo)、スピーカ15は鳴動しない。その結果、試験者は、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の送信系、あるいは前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の受信系に、異常があることを認識できる(ステップST12)。
【0039】
上記のステップST8〜ST12により、後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)を送信側、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)を受信側としての送受信試験(第2の送受信試験)が行われたことになる。
【0040】
第1および第2の送受信試験によって、前方運転台10aの無線装置2(第1の無線装置)の送信系および受信系(アンテナ1及びケーブルを含む)、および後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)の送信系および受信系の試験が全て実施されたことになる。第1および第2の送受信試験を通して異常が全く検出されなかった場合には(ステップST13においてNo)、前方運転台10aおよび後方運転台10bの各無線装置2(第1および第2の無線装置)から保守用装置7を取り外し、試験を終了する。保守用装置7が取り外された無線装置2(第1および第2の無線装置)は、それぞれ運用モードに戻り、運用波の待ち受け状態となる(ステップST15)。
【0041】
また第1および第2の送受信試験において何らかの異常が検出された場合には(ステップST13においてYes)、その異常の原因となった故障部位の特定および修理が行われる(ステップST16)。以上により、本実施の形態に係る無線装置2の動作試験が完了する。
【0042】
本実施の形態では、同じ試験対象列車10の前方運転台10aと後方運転台10bとの間で、第1および第2の送受信試験が行われる。送信側と受信側との距離が近いため、送信側による試験波の送信レベルは比較的小さくてもよい。よって運用中の列車21,22,23の無線装置2が試験波の干渉を受けることを抑制できる。
【0043】
運用中の列車21,22,23は移動しているため、試験対象列車10の近くを通過する間は、運用中の列車21,22,23の無線装置2が試験波を受信してしまうことも考えられる。しかし、運用中の列車21,22,23の無線装置2は運用モードであるため、試験波を受信したとしても緊急時の動作(スピーカ15の鳴動等)は行われない。そのため試験波が列車の運用の障害となることは防止される。
【0044】
但し、本無線システムの通信は単一周波数を用いるため、運用波と試験波の両方が届くエリアでは、運用波と同じタイミングで試験波が送信されると、それらが衝突し、互いの干渉が発生し得る。そこで本実施の形態では、運用波および試験波の送信タイミングを以下のように制御している。
【0045】
図4は、本実施の係る無線システムにおける運用波および試験波の送信タイミングを示す図である。図4では、図2のように運用中の列車22の無線装置2が運用波を送信するのに並行して、試験対象列車10の前方運転台10aが試験波を送信した場合の例を示している。
【0046】
本実施の形態では、運用波および試験波のそれぞれは間欠送信され、その送信タイミング(送信間隔の長さ)はランダムに制御される。図4に示す期間において、試験対象列車10の前方運転台10aからの試験波および運用中の列車22からの運用波は、それぞれランダムなタイミングで4回ずつ発信され、そのうち2回目の運用波と2回目の試験波とが衝突して干渉を起こしている。この場合、干渉を受けた試験波は試験対象列車10の後方運転台10bの無線装置2(第2の無線装置)で正常に受信できず、同じく干渉を受けた運用波も運用中の他の列車22の無線装置2で正常に受信できない(受信NG)。しかしそれ以外のタイミングで発信された運用波および試験波は、衝突せずに、それぞれ正常に受信されている(受信OK)。
【0047】
このように試験波と運用波とをそれぞれランダムに変化する間隔で間欠送信することにより、運用波および試験波の衝突の発生頻度を少なくできる。また一旦衝突が生じても、運用波と試験波の送信タイミングがランダムにずれるため衝突はすぐに解消され、運用上の問題は殆ど生じない。よって、運用中の列車21,22,23が試験波を受信可能なエリアを通過したとしても、試験波が運用に障害を与えることを防止できる。
【0048】
<実施の形態2>
実施の形態1では、運用波および試験波がランダムな間隔で間欠送信されることにより、運用波と試験波との衝突による運用上の問題は殆ど生じないが、図4に示したように運用波と試験波の衝突(干渉)が完全に無くなるわけではない。本実施の形態では、運用波と試験波との衝突を無くすことが可能なシステム構成を提案する。
【0049】
図5は、実施の形態2に係る無線システムの概略構成図である。当該無線システムは、図2に示した構成に加え、無線装置2の動作タイミングを制御するための電波(制御波)を一定間隔で送信する地上装置19(基地局)と、地上装置19が制御波を出力するタイミングを制御する中央装置20が設けられている。制御波は、運用波および試験波と同一周波数により送信されるが、運用波および試験波とは異なる信号を変調して生成されたものである。また図示は省略するが、本実施の形態の無線装置2の受信部4には、受信信号の同一波干渉を解消できる適応等化器が設けられている。
【0050】
地上装置19は、送信する制御波が当該無線システムの運用エリアの全域に到達するように設置される。図5では、地上装置19が各駅に設置された例を示している。中央装置20は、全ての地上装置19が揃ったタイミングで制御波を送信するように、全ての地上装置19を統括して制御している。
【0051】
当該無線システムの運用エリア内にある無線装置2は、受信部4が受信した電波が制御波であった場合、自己の動作タイミングを、その制御波の受信タイミングに同期させる。制御波は、運用エリア内にある全ての無線装置2に同じタイミングで受信されるため、全ての無線装置2の動作タイミングが同期することになる。これを利用し、本実施の形態では、無線装置2が送信する運用波および試験波、並びに地上装置19が送信する制御波をそれぞれ異なるタイムスロットで送信されるように規定する。
【0052】
図6は、実施の形態2に係る無線システムにおける運用波、試験波および制御波の送受信動作を示す図である。図6では、図2のように運用中の列車22の無線装置2が運用波を送信するのに並行して、試験対象列車10の前方運転台10aが試験波を送信した場合の例を示している。
【0053】
図6の例では、時間的に分割された各フレームを、A〜Dの4つのタイムスロットに区分し、スロットAを制御波の送信用、スロットBを試験波の送信用、スロットC,Dを運用波の送信用として規定している。このように、運用波、試験波および制御波が送信されるタイムスロットを異ならしめることにより、それらの衝突を確実に防止できる。なお、2つの地上装置19から制御波が届くエリアでは制御波の同一波干渉が発生するが、無線装置2の受信部4は適応等化器を有しているため、その場合でも制御波の復調は可能である。
【0054】
図7は、実施の形態2に係る無線装置の試験手順を示すフロー図である。同図の如く、本実施の形態における無線装置2の試験方法は、試験対象である無線装置2が運用波を送信するステップST4,ST9が、それぞれ運用波用のスロットBのタイミングで実行されることを除き、実施の形態1(図3)と同様である。よってここでの詳細な説明は省略する。
【0055】
なお、本実施の形態では、試験波用のタイムスロットを1つ(スロットB)、運用波用のタイムスロットを2つ(スロットC,D)とした例を示したが、フレームをより多くのスロットに分割し、試験波用および運用波用のスロットの数を増やしてもよい。それにより運用波同士あるいは試験波同士の衝突の発生を抑制しつつ、同時に電波を送信できる無線装置2を増やすことが可能になる。
【符号の説明】
【0056】
1 アンテナ、2 無線装置、3 送信部、4 受信部、5 制御部、6 アンテナスイッチ、7 保守用装置、8 保守用コネクタ、9 発報スイッチ、10 試験対象列車、15 スピーカ、19 地上装置、20 中央装置、21〜23 運用中の列車。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナと、
前記アンテナを介して電波を送信する送信部と、
前記アンテナを介して電波を受信し、特定の電波を受信した旨を外部に通知する受信部とを備え、
前記送信部は、通常の運用で使用される運用波および前記運用波とは異なるデータを変調した試験波を切り替えて送信可能であり、
前記送信部が運用波を送信し、前記受信部が運用波を受信した旨を外部に通知する運用モードと、
前記送信部が試験波を送信し、前記受信部が試験波を受信した旨を外部に通知する点検モードとを切り替え可能である
ことを特徴とする無線装置。
【請求項2】
前記送信部が送信する電波と、前記受信部が受信する電波は同一周波数のものである
請求項1記載の無線装置。
【請求項3】
前記送信部は、前記運用波および前記試験波をランダムに変化する間隔で間欠送信する
請求項1または請求項2記載の無線装置。
【請求項4】
前記送信部は、前記運用波と前記試験波とを異なるタイムスロットで送信する
請求項1または請求項2記載の無線装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項記載の無線装置の試験方法であって、
一対の前記無線装置を用意する工程と、
前記一対の前記無線装置を共に前記点検モードにする工程と、
一対の前記無線装置のうちの第1の無線装置から試験波を送信し、第2の無線装置で当該試験波が受信されるか確認する工程と、
前記第2の無線装置から試験波を送信し、前記第1の無線装置で当該試験波が受信されるか確認する工程と、を含む
ことを特徴とする無線装置の試験方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2記載の無線装置を複数備える無線システム。
【請求項7】
前記複数の無線装置それぞれの前記送信部は、前記運用波および前記試験波をランダムに変化する間隔で間欠送信する
請求項6記載の無線システム。
【請求項8】
運用波および試験波とは異なるデータを変調した制御波を一定の間隔で送信する基地局をさらに備え、
複数の前記無線装置のそれぞれは、前記制御波の受信タイミングに同期して動作する
請求項6記載の無線システム。
【請求項9】
前記複数の無線装置それぞれの前記送信部は、前記運用波と前記試験波とを異なるタイムスロットで送信する
請求項8記載の無線システム。
【請求項10】
前記制御波は、前記運用波および前記試験波と同一周波数のものである
請求項8または請求項9記載の無線システム。
【請求項11】
前記複数の無線装置それぞれの前記送信部は、前記運用波と前記試験波とを異なるタイムスロットで送信し、
前記基地局は、前記制御波を前記運用波および前記試験波と異なるタイムスロットで送信する
請求項8から請求項10のいずれか一項記載の無線システム。
【請求項1】
アンテナと、
前記アンテナを介して電波を送信する送信部と、
前記アンテナを介して電波を受信し、特定の電波を受信した旨を外部に通知する受信部とを備え、
前記送信部は、通常の運用で使用される運用波および前記運用波とは異なるデータを変調した試験波を切り替えて送信可能であり、
前記送信部が運用波を送信し、前記受信部が運用波を受信した旨を外部に通知する運用モードと、
前記送信部が試験波を送信し、前記受信部が試験波を受信した旨を外部に通知する点検モードとを切り替え可能である
ことを特徴とする無線装置。
【請求項2】
前記送信部が送信する電波と、前記受信部が受信する電波は同一周波数のものである
請求項1記載の無線装置。
【請求項3】
前記送信部は、前記運用波および前記試験波をランダムに変化する間隔で間欠送信する
請求項1または請求項2記載の無線装置。
【請求項4】
前記送信部は、前記運用波と前記試験波とを異なるタイムスロットで送信する
請求項1または請求項2記載の無線装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項記載の無線装置の試験方法であって、
一対の前記無線装置を用意する工程と、
前記一対の前記無線装置を共に前記点検モードにする工程と、
一対の前記無線装置のうちの第1の無線装置から試験波を送信し、第2の無線装置で当該試験波が受信されるか確認する工程と、
前記第2の無線装置から試験波を送信し、前記第1の無線装置で当該試験波が受信されるか確認する工程と、を含む
ことを特徴とする無線装置の試験方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2記載の無線装置を複数備える無線システム。
【請求項7】
前記複数の無線装置それぞれの前記送信部は、前記運用波および前記試験波をランダムに変化する間隔で間欠送信する
請求項6記載の無線システム。
【請求項8】
運用波および試験波とは異なるデータを変調した制御波を一定の間隔で送信する基地局をさらに備え、
複数の前記無線装置のそれぞれは、前記制御波の受信タイミングに同期して動作する
請求項6記載の無線システム。
【請求項9】
前記複数の無線装置それぞれの前記送信部は、前記運用波と前記試験波とを異なるタイムスロットで送信する
請求項8記載の無線システム。
【請求項10】
前記制御波は、前記運用波および前記試験波と同一周波数のものである
請求項8または請求項9記載の無線システム。
【請求項11】
前記複数の無線装置それぞれの前記送信部は、前記運用波と前記試験波とを異なるタイムスロットで送信し、
前記基地局は、前記制御波を前記運用波および前記試験波と異なるタイムスロットで送信する
請求項8から請求項10のいずれか一項記載の無線システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−165092(P2012−165092A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22469(P2011−22469)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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