説明

無線送信機

【課題】局部発振器の位相雑音性能の改善により、送信信号に含まれる隣接チャネル漏洩信号を大幅に低減することができる無線送信機を提供する。
【解決手段】ディジタルデータ信号を出力するデータ信号生成回路と、ディジタルデータ信号をディジタル/アナログ変換し、中間周波数のIF信号を出力するディジタル/アナログ変換回路と、IF信号と局部発振器から出力されるローカル信号とをミキシングし、無線周波数のRF送信信号を出力する直交ミキサ回路とを備えた無線送信機において、データ信号生成回路は、ディジタル/アナログ変換回路から出力されるIF信号の周波数が送信チャネルに応じて切り替わるディジタルデータ信号を出力する構成であり、局部発振器は、RF送信信号のチャネル周波数間隔のn倍(nは3以上の整数)の周波数間隔のローカル信号を切り替えて出力する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ信号である中間周波数(IF)信号と局部発振器から出力されるローカル信号をミキシングして無線周波数帯(RF)送信信号を生成するミキサ回路を有する無線送信機において、局部発振器の発振周波数(fLO)を、複数のチャネルをまとめたチャネルブロックごとに設定し、同チャネルブロック内のチャネルに対して局部発振器の発振周波数を一定に保ち、隣接チャネル選択性能に必要な局部発振器の位相雑音特性をPLL(フェーズロック・ループ)により大幅に改善する無線送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来のダイレクトコンバージョン送信機の構成例を示す(非特許文献1)。
図4において、データ信号生成回路41から出力されるベースバンドのディジタルデータ信号はディジタル/アナログ変換器(D/A)42に入力し、生成された中間周波数のIF信号がローパスフィルタ(LPF)43でディジタル/アナログ変換時のクロックノイズを除去して直交ミキサ回路44に入力する。このIF信号は、直交ミキサ回路44で局部発振器50から出力される周波数fLOのローカル信号とミキシングされ、無線周波数fRFのRF送信信号が生成される。その後、RF送信信号はパワーアンプ(PA)45で増幅され、RFバンドパスフィルタ(RF−BPF)46によりRF送信信号に含まれ不要信号を抑圧して送信される。RF送信信号のチャネルに応じた送信周波数の変更は、ローカル信号周波数fLOをチャネル周波数間隔fCHで切り替えることにより行う。
【0003】
ここに示す局部発振器50は積分型PLLであり、電圧制御発振器(VCO)51、分周器52、比較器53およびループフィルタ54により構成される。VCO51から出力されるローカル信号(fLO)は、分周器52でチャネル選択制御信号に応じて分周され、当該分周信号とチャネル周波数間隔fCHの参照信号が比較器53で位相比較され、ループフィルタ54を介してVCO51にフィードバックされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Behzad Razavi, RF Microelectronics, pp.122-129, Prentice Hall PTR, 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のダイレクトコンバージョン送信機における局部発振器50の位相雑音特性の一例を図5に示す。IF信号とローカル信号(fLO)をミキシングすることによりRF送信信号(fRF)が生成されるので、RF送信信号の中心周波数はfLOとなる。しかし、図5に示すようにローカル信号に周波数fLO+fCHの雑音信号が含まれると、隣接チャネルへの漏洩信号も送信されることになる。
【0006】
この隣接チャネル漏洩信号の問題を解決するには、ローカル信号に含まれる位相雑音を低減する必要がある。このため、従来技術では局部発振器にQ値の大きなLC共振器を用いてきた。しかし、ICチップ上にLC共振器を作成するとチップ面積が増加し、チップコストを上昇させる要因になる。
【0007】
また従来技術では、チャネル周波数間隔fCHよりも高周波の参照信号と帯域の広いループフィルタを用いたデルタ・シグマ型分数分周PLLにより、周波数fLO+fCHの雑音信号を抑圧する手法が用いられることがある。しかし、この手法では分周器の分周比を擬似ランダム的に変動させるデルタ・シグマ処理により多数のスプリアスが発生する。特に、参照信号周波数をチャネル周波数間隔fCHよりも大幅に大きくすると、このスプリアスを抑圧することが複雑になり、デルタ・シグマ型分数分周PLLの設計が困難になる。
【0008】
本発明は、局部発振器の位相雑音性能の改善により、送信信号に含まれる隣接チャネル漏洩信号を大幅に低減することができる無線送信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ディジタルデータ信号を出力するデータ信号生成回路と、ディジタルデータ信号をディジタル/アナログ変換し、中間周波数のIF信号を出力するディジタル/アナログ変換回路と、IF信号と局部発振器から出力されるローカル信号とをミキシングし、無線周波数のRF送信信号を出力する直交ミキサ回路とを備えた無線送信機において、データ信号生成回路は、ディジタル/アナログ変換回路から出力されるIF信号の周波数が送信チャネルに応じて切り替わるディジタルデータ信号を出力する構成であり、局部発振器は、RF送信信号のチャネル周波数間隔のn倍(nは3以上の整数)の周波数間隔のローカル信号を切り替えて出力する構成である。
【0010】
本発明の無線送信機において、局部発振器は、積分型PLL(フェーズロック・ループ)を用い、ループフィルタの帯域は、チャネル周波数間隔の2倍より大きくn倍より小さいものとする。
【0011】
本発明の無線送信機において、局部発振器は、デルタ・シグマ型分数分周PLL(フェーズロック・ループ)を用い、ループフィルタの帯域は、チャネル周波数間隔の2倍より大きくm×n倍(m>1)より小さいものとする。
【0012】
本発明の無線送信機において、直交ミキサ回路の後段に、RF送信信号に含まれる不要信号を抑圧するRFバンドパスフィルタを配置し、IF信号の周波数がRFバンドパスフィルタの帯域の1/2より大きく設定される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無線送信機は、局部発振器から出力されるローカル信号の周波数fLOを複数のチャネルをまとめたチャネルブロックごとに設定し、同ブロック内のチャネルではローカル信号周波数fLOを一定に保つ構成であり、チャネル周波数間隔fCHよりも高周波の参照信号を用いたPLLによりループフィルタの帯域を大きくすることにより、局部発振器の位相雑音性能を大幅に改善することができる。
【0014】
さらに、データ信号生成回路とD/A変換器により、RFフィルタ帯域の1/2よりも周波数の高いIF信号を形成してローカル信号との混合によりRF送信信号を形成することにより、隣接チャネル漏洩信号、イメージ信号、およびキャリアリーク信号のない高品質な送信信号を小面積で安価なLSIチップにより生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の無線送信機の実施例1を示す図である。
【図2】局部発振器20Aの位相雑音特性を示す図である。
【図3】本発明の無線送信機の実施例2を示す図である。
【図4】従来のダイレクトコンバージョン送信機の構成例を示す図である。
【図5】局部発振器50の位相雑音特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の無線送信機の実施例1を示す。
図1において、無線送信機は、図4に示す従来のダイレクトコンバージョン送信機と同様のディジタル/アナログ変換器(D/A)42、ローパスフィルタ(LPF)43、直交ミキサ回路44、パワーアンプ(PA)45、RFバンドパスフィルタ(RF−BPF)46を備えるとともに、IF信号の中間周波数が固定のディジタルデータ信号を出力するデータ信号生成回路41に代えて、チャネル選択制御信号に応じて異なるベースバンドのディジタルデータ信号を出力するデータ信号生成回路11を備える。さらに、局部発振器50に代えて、発振周波数を複数のチャネルをまとめたチャネルブロックごとに設定する局部発振器20Aを用いた構成である。ここでは、局部発振器20Aとして積分型PLLを用いる構成例を示す。
【0017】
データ信号生成回路11は、チャネル選択制御信号に応じたディジタル演算によってベースバンドのディジタルデータ信号を生成し、D/A42でD/A変換することにより、チャネル選択制御信号に応じた周波数のIF信号を生成する。近年のデータ信号生成回路11を構成するディジタルLSIの高性能化により、IF信号中の隣接チャネル漏洩などの妨害信号成分は大幅に抑圧することができる。また、LPF43は、D/A変換時のクロックノイズを除去するためのものであり、各チャネルのIF信号の周波数によらず帯域は広帯域で一定である。この後、IF信号は、直交ミキサ回路44で局部発振器20Aからのローカル信号と混合され、RF送信信号が生成される。なお、LPF43は、各チャネルのIF信号の周波数に応じて通過帯域がシフトする狭帯域の可変バンドパスフィルタであってもよい。
【0018】
直交ミキサ回路44によりRF送信信号中のイメージ成分は−30dBc程度に抑圧されるが、IFをRF−BPF46の帯域の1/2倍よりも大きくすることでRF送信信号中に残存するイメージ成分をRF−BPF46でさらに抑圧することができる。また、IFをRF−BPF46の帯域よりも大きくすることで、RF送信信号中のローカル信号リーク成分(fLOの周波数成分)をRF−BPF46で抑圧することができる。このためキャリアリーク信号抑圧条件により、IFはRF−BPF46の帯域よりも大きく設定され、IFは通常、数百kHz以上になる。
【0019】
局部発振器20Aは、電圧制御発振器(VCO)21、分周器22、比較器23およびループフィルタ24により構成される。分周器22は、電圧制御発振器21から出力されるローカル信号(fLO)を、n個(nは3以上の整数)のチャネルに対応するブロック選択制御信号に応じて分周する。比較器23は、分周器22から出力されるローカル信号の分周信号と、チャネル周波数間隔fCHのn倍の参照信号(n×fCH)を比較し、VCO21を制御するフィードバックループを形成する。
【0020】
これにより、VCO21の発振周波数fLOは、n個のチャネルをまとめたチャネルブロックごとに設定され、同一のチャネルブロック内では一定となり、直交ミキサ回路44から出力される各チャネルのRF信号周波数fRFは、データ信号生成回路41が出力するディジタルデータの出力IF周波数に応じてチャネルごとに異なることになる。
【0021】
ループフィルタ24の帯域は、チャネル周波数間隔fCHよりも大きく、そのn倍よりも小さく設定される。図2に、局部発振器20Aの位相雑音特性を示す。上向き矢印は中心周波数付近の出力であり、VCO21の元々持っていた位相雑音がPLLにより抑圧されている。これに対し、ループフィルタ24の帯域の外側の位相雑音はPLLにより抑圧されないため、VCO21の元々持っていた位相雑音特性を示している。
【0022】
以上により、VCO21に含まれる位相雑音は、広いループフィルタ帯域の範囲で位相雑音の小さい水晶発振器からの参照信号により補正されて大幅に低減される。すなわち、隣接チャネル信号の折り返し妨害信号が大幅に抑圧される。この時、隣接チャネル信号の折り返しに影響する位相雑音を低減するには、ループフィルタ24の帯域をチャネル周波数間隔fCHの2倍よりも大きくする必要がある。このため、チャネルブロックを構成するチャネル数nは3以上であり、位相雑音を充分低減するには通常n≧6程度に設定することが好ましい。また、チャネル数nの値は大きければ大きいほど効果が大きくなるが、ディジタル回路の性能限界を考慮すると、チャネル数nの上限は例えば 100程度が好ましい。
【実施例2】
【0023】
図3は、本発明の無線送信機の実施例2を示す。
図3において、実施例2の無線送信機は、図1に示す実施例1の無線送信器の局部発振器20Aに代えて、デルタ・シグマ型分数分周PLLを用いる局部発振器20Bを備えた構成である。局部発振器20Bは、電圧制御発振器(VCO)21、分周器22、比較器23、ループフィルタ24および分周比擬似ランダム設定回路25により構成される。
【0024】
分周比擬似ランダム設定回路25は、周波数ロック時における分周器22の分周比を擬似ランダム的に変動させることで、出力信号周波数間隔nfCHよりも高周波の参照信号を用いることができる。ここでは、参照信号周波数が出力信号周波数間隔nfCHよりもm倍大きい(m>1)とする。
【0025】
本実施例の局部発振器20Bにおいても、発振周波数はn個のチャネルをまとめたチャネルブロックごとに設定される。このため、同一のチャネルブロック内では局部発振器20Bの発振周波数は一定であり、各チャネルのIF信号周波数fIFはチャネルごとに異なる。
【0026】
また、局部発振器20Bを構成するループフィルタ24の帯域は、チャネル周波数間隔fCHよりも大きく、そのm×n倍よりも小さく設定される。したがって、実施例1における同じnの値を用いた局部発振器に比べて、ループフィルタ帯域をm倍大きくできる。このためnの値が実施例1に比べて小さい場合でも、局部発振器20Bの出力に含まれる位相雑音は広いループフィルタ帯域により大幅に低減することができ、隣接チャネル信号の折り返し妨害信号を大幅に抑圧できる。この時、隣接チャネル信号の折り返しに影響する位相雑音を低減するには、ループフィルタの帯域をチャネル周波数間隔fCHの2倍よりも大きくする必要がある。すなわち、m×n>2が必要条件であり、位相雑音を充分低減するには通常m×n≧6程度に設定する。
【0027】
なお、n=1である一般的なデルタ・シグマ型分数分周PLLを用いても、mを充分大きくすれば同様な効果が得られる。しかし、上記のようにm値が大きくなれば擬似ランダム処理が複雑になり、不要なスプリアスが起こらないようにするため設計が困難になる。そこで、実施例2では3以上の整数nを用いることで小さいm値でも同様の広いループフィルタ帯域が実現でき、m値を小さくすることでデルタ・シグマ型分数分周PLLの構成を簡略化できるという長所も持つ。
【符号の説明】
【0028】
11 データ信号生成回路
20A,20B 局部発振器
21 電圧制御発振器(VCO)
22 分周器
23 比較器
24 ループフィルタ
25 分周比擬似ランダム設定回路
41 データ信号生成回路
42 ディジタル/アナログ変換器(D/A)
43 ローパスフィルタ(LPF)
44 直交ミキサ回路
45 パワーアンプ(PA)
46 RFバンドパスフィルタ(RF−BPF)
50 局部発振器
51 電圧制御発振器(VCO)
52 分周器
53 比較器
54 ループフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタルデータ信号を出力するデータ信号生成回路と、
前記ディジタルデータ信号をディジタル/アナログ変換し、中間周波数のIF信号を出力するディジタル/アナログ変換回路と、
前記IF信号と局部発振器から出力されるローカル信号とをミキシングし、無線周波数のRF送信信号を出力する直交ミキサ回路と
を備えた無線送信機において、
前記データ信号生成回路は、前記ディジタル/アナログ変換回路から出力される前記IF信号の周波数が送信チャネルに応じて切り替わる前記ディジタルデータ信号を出力する構成であり、
前記局部発振器は、前記RF送信信号のチャネル周波数間隔のn倍(nは3以上の整数)の周波数間隔のローカル信号を切り替えて出力する構成である
ことを特徴とする無線送信機。
【請求項2】
請求項1に記載の無線送信機において、
前記局部発振器は、積分型PLL(フェーズロック・ループ)を用い、ループフィルタの帯域は、前記チャネル周波数間隔の2倍より大きくn倍より小さい
ことを特徴とする無線送信機。
【請求項3】
請求項1に記載の無線送信機において、
前記局部発振器は、デルタ・シグマ型分数分周PLL(フェーズロック・ループ)を用い、ループフィルタの帯域は、前記チャネル周波数間隔の2倍より大きくm×n倍(m>1)より小さい
ことを特徴とする無線送信機。
【請求項4】
請求項1に記載の無線送信機において、
前記直交ミキサ回路の後段に、前記RF送信信号に含まれる不要信号を抑圧するRFバンドパスフィルタを配置し、前記IF信号の周波数が前記RFバンドパスフィルタの帯域の1/2より大きく設定される
ことを特徴とする無線送信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−55592(P2013−55592A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193876(P2011−193876)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】