説明

無線送信装置、無線受信装置、および無線通信システム

【課題】コードブックベースのMU−MIMOの伝送特性を改善できるようにする。
【解決手段】基地局装置200は、複数の端末装置100に対して、既知参照信号系列を送信する(L1)。各端末装置100は、受信された参照信号系列に基づき、伝搬路推定を行う(L2)。推定された伝搬路情報に基づき、基地局装置200と共用しているコードブックより所望のコード(線形フィルタ)を抽出し、基地局装置200に通知する(L3)。基地局装置200は、各端末装置宛の送信データを生成しており(L4)、各端末装置100よりフィードバックされたコードに基づき、各端末装置宛の送信データに対して、プリコーディングを行い(L5)、データ送信する(L6)。各端末装置100は、他の端末装置宛の信号も多重されて受信される受信信号より所望の信号を検出する(L7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MIMO方式の移動通信技術における伝送特性を改善する無線送信装置、無線受信装置、および無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムでは、多様なブロードバンド情報サービスの提供のために、伝送速度の向上が常に望まれている。伝送速度の向上は通信帯域幅の拡大により実現可能だが、利用可能な周波数帯域には限りがあるため、周波数利用効率の改善が必須となる。周波数利用効率を大幅に改善できる技術として、複数の送受信アンテナを用いて無線伝送を行なうMultiple Input Multiple Output(MIMO)技術が注目を集めており、セルラーシステムや無線LANシステムなどで実用化されている。MIMO技術による周波数利用効率改善量は送受信アンテナ数に比例する。しかし、小型・低消費電力が求められる端末装置(無線受信装置)に配置できる受信アンテナ数には限りがある。そこで、同時接続する複数端末装置を仮想的な大規模アンテナアレーとみなし、基地局装置(無線送信装置)から各端末装置への送信信号を空間多重させるMulti−User MIMO(MU-MIMO)が周波数利用効率の改善に有効である。
【0003】
下りリンク(基地局装置→端末装置)MU−MIMOでは、各端末装置宛の送信信号同士がユーザ間干渉(以下、Inter−User−Interference(IUI)と呼ぶ)として端末装置に受信されてしまうため、IUIを抑圧する送信符号化処理(プリコーディング)を送信信号に施す必要がある。例えば、第3.9世代移動無線通信システムの一つとして採用されているLong Term Evolution(LTE)においては、各端末装置より通知される伝搬路情報に基づき算出される線形フィルタを基地局装置にて予め乗算することでIUIを抑圧する線形プリコーディングが採用されており、非特許文献1には、その実施形態の例が記載されている。ここで、伝搬路情報の通知は、基地局装置と端末装置の間で複数の共用された、複数の線形フィルタが記載されたコードブックに基づき行われる。すなわち、端末装置は自装置宛の送信信号に乗算されることが望ましい線形フィルタを前述のコードブックより抽出し、その番号(インデックス)を基地局装置に通知する。基地局装置は、通知された線形フィルタに基づき、伝搬路情報を把握することになる。しかし、コードブックが有する線形フィルタの数は有限であるから、基地局装置は伝搬路情報を完全には把握することが出来ない。そのため、たとえ線形プリコーディングを行ったとしてもIUIを完全に抑圧することは困難である。
【0004】
ところで、最近、非線形信号処理を前提とした非線形プリコーディングを用いるMU−MIMO技術が注目を集めている。端末装置において、剰余(Modulo、モジュロ)演算が可能である場合、送信信号に対して、任意のガウス整数に一定の実数が乗算された複素数(摂動項)の加算が可能となる。そこで、基地局装置と複数端末装置の間の伝搬路状態に応じて、摂動項を適切に設定してやれば、摂動項を加算しない線形プリコーディングと比較して、所要送信電力を大幅に削減することが可能となる。
【0005】
非線形プリコーディングとして、優れた伝送特性を実現できる方式として非特許文献2記載のVector perturbation(VP)が挙げられている。しかし、非線形プリコーディングは、端末装置から基地局装置に対して、高精度に伝搬路情報がフィードバックされることを前提として検討が為されており、前述のコードブックによるフィードバックに基づいた非線形プリコーディングについては殆ど検討が行われていないのが実状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】3GPP R1-100501, NTT Docomo, “Performance of DL MU-MIMO based on implicit feedback scheme in LTE-Advanced,” Jan. 2010.
【非特許文献2】B. M. Hachwald, et. al., “A vector-perturbation technique for near-capacity multiantenna multiuser communication-Part II:Perturbation,” IEEE Trans. Commun., Vol. 53, No. 3, pp. 537-544, March 2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コードブックベースの線形MU−MIMOでは、伝搬路情報のフィードバック精度が高くなく、IUIの増加を招いてしまう。線形MU−MIMOよりも優れた伝送特性を実現できる非線形MU−MIMOを用いれば、伝送特性の改善が期待できるものの、コードブックベースの非線形MU−MIMOを実現する方法については、開示されていないのが実状である。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑み、コードブックベースのMU−MIMOの伝送特性を改善できる無線送信装置、無線受信装置および無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数の送信アンテナを備え、複数の無線受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、プリコーディング後の信号を同一無線リソースに空間多重して送信する無線送信装置であって、
前記複数の無線受信装置と共通の、複数の線形フィルタが記載されたコードブックを記憶する記憶部と、前記複数の無線受信装置より通知された、前記コードブックより抽出され、前記各無線受信装置の受信信号対雑音電力比、または受信信号対干渉プラス雑音電力比を最小とする第一の線形フィルタに関連付けられた第一の制御情報を取得する制御情報取得部と、前記第一の制御情報に基づき、前記複数の無線受信装置宛てのデータ信号にプリコーディングを行なうプリコーディング部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の前記無線送信装置において、前記プリコーディング部は、前記第一の制御情報に基づき第三の線形フィルタを算出し、前記データ信号に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の前記無線送信装置において、前記プリコーディング部は、前記第一の制御情報に基づき第三の線形フィルタを算出し、前記第三の線形フィルタと前記データ信号に基づき、第一のベクトルを算出し、前記データ信号に前記第一のベクトルが加算されたのち、更に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の前記無線送信装置において、前記プリコーディング部は、第一のプリコーディングと第二のプリコーディングとを選択的もしくは同時に実行でき、前記第一のプリコーディングは、前記第一の制御情報に基づき第三の線形フィルタを算出し、前記データ信号に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出する信号処理であり、前記第二のプリコーディングは、前記第三の線形フィルタと前記データ信号に基づき、第一のベクトルを算出し、前記データ信号に前記第一のベクトルが加算されたのち、更に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出する信号処理であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の前記無線送信装置において、前記制御情報取得部は、前記複数の無線受信装置より通知された、前記コードブックより抽出され、前記無線受信装置の受信信号対雑音電力比、または受信信号対干渉プラス雑音電力比を最大とする第二の線形フィルタに関連付けられた第二の制御情報を更に取得し、前記プリコーディング部は、前記第一の制御情報と前記第二の制御情報に基づいて前記複数の無線受信装置宛てのデータ信号に、プリコーディングを行うことを特徴とする。
【0014】
このプリコーディング部は、前記第一の制御情報と前記第二の制御情報の少なくとも一部の情報に基づき第三の線形フィルタを算出し、前記第三の線形フィルタと前記データ信号に基づき、第一のベクトルを算出し、前記データ信号に前記第一のベクトルが加算されたのち、更に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出してもよい。
また、このプリコーディング部は、第一のプリコーディングと第二のプリコーディングとを選択的もしくは同時に実行でき、前記第一のプリコーディングは、前記第一の制御情報と第二の制御情報の少なくとも一部の情報に基づき第三の線形フィルタを算出し、前記データ信号に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出する信号処理であり、前記第二のプリコーディングは、前記第三の線形フィルタと前記データ信号に基づき、第一のベクトルを算出し、前記データ信号に前記第一のベクトルが加算されたのち、更に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出してもよい。
【0015】
また、本発明の前記無線送信装置において、記複数のプリコーディングのいずれかが行われたことを明示できる第三の制御情報を前記無線受信装置に通知してもよい。
ここで、前記第三の制御情報は、適応変調伝送において参照されるModulation and Coding schme (MCS)セットに関連付けられた情報である。
【0016】
本発明は、少なくとも一つの受信アンテナを備え、無線送信装置より複数のデータ信号が同一無線リソースに空間多重されて送信された信号を受信する無線受信装置であって、
前記複無線送信装置と共通の、複数の線形フィルタが記載されたコードブックを記憶する記憶部と、前記コードブックより抽出され、自装置の受信信号対雑音電力比、または受信信号対干渉プラス雑音電力比を最小とする第一の線形フィルタに関連付けられた第一の制御情報を算出する制御情報生成部と、を備え、前記第一の制御情報を前記無線送信装置に通知することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の前記無線受信装置において、前記制御情報生成部は、前記コードブックより抽出され、自装置の受信信号対雑音電力比、または受信信号対干渉プラス雑音電力比を最大とする第二の線形フィルタに関連付けられた第二の制御情報を更に算出することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の前記無線受信装置において、前記無線送信装置より送信された信号から、modulo演算を含む非線形演算処理によって所望の信号を検出する信号復調部を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明は、前記無線送信装置と、前記複数の無線受信装置と、を備えることを特徴とする無線通信システムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コードブックベースのMU−MIMOの周波数利用効率を改善させることが可能となる。コードブックベースのMU−MIMOは既にLTEに採用された技術であるが、本発明の方法によれば、既存のLTEのシステムに大幅な変更を加えることなく、周波数利用効率の改善に寄与することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る信号処理のシーケンスチャートである。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る端末装置の構成を示すブロック図である。
【図3】データ信号とCRSとDM−RSの、時間および周波数における関係を示す図である。
【図4】コードブックを示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る基地局装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るアンテナ部の装置構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るプリコーディング部の装置構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るプリコーディング部の装置構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係るプリコーディング部の装置構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の無線通信システムを適用した場合における実施形態について説明する。なお、本実施形態において説明した事項は、発明を理解するための一態様であり、実施形態に限定して発明の内容が解釈されるものではない。
【0023】
[1.第1の実施形態]
第1の実施形態においては、N本の送信アンテナを有した基地局装置(無線送信装置とも呼ぶ)200に対して、N本の受信アンテナを有する端末装置(無線受信装置とも呼ぶ)100がU個接続しているMU−MIMO伝送を対象とする。なお、N>U×Nが満たされているものとし、各端末装置100に向けて送信するストリーム数R(ランク数とも呼ぶ)は一つであるものとする。伝送方式としてはN個のサブキャリア(副搬送波)を有する直交周波数分割多重(以下、Orthogonal frequency division multiplexing(OFDM)と呼ぶ)信号伝送を仮定する。基地局装置200は各端末装置100より通知される制御情報により各端末装置100までの伝搬路(チャネル)情報を取得し、その伝搬路情報に基づき、送信データに対してサブキャリア毎にプリコーディングを行うものとする。
【0024】
はじめに基地局装置と端末装置間の伝搬路情報について定義する。本実施形態においては、準静的周波数選択性フェージングチャネルを仮定する。ここでいう準静的とは1OFDMシンボル内のチャネルの時間変動が無視できるほど小さいことを意味している。第n送信アンテナ(n=1〜N)と第u端末装置(u=1〜U)の第m受信アンテナ(m=1〜N)との間の複素チャネル利得をhu,m,n(k)としたとき、第u端末装置の伝搬路行列h
【数1】

と定義し、接続されている全端末装置と基地局装置間の伝搬路行列H(k)を
【数2】

と定義する。
【0025】
[1.1 端末装置のフィードバック処理]
図2は、本発明の第1の実施形態に係る端末装置の構成を示すブロック図である。図2に示すように、端末装置100は、アンテナ101と、無線受信部102と、GI除去部103と、FFT部104と、参照信号分離部105と、伝搬路推定部106と、フィードバック情報生成部107と、無線送信部108と、伝搬路補償部109と、P/S変換部110と、データ復調部111と、チャネル復号部112と、コードブック記憶部113を含んで構成されている。
以下では第u端末装置における伝搬路情報のフィードバック(図1の伝搬路情報推定L2およびコード番号通知L3)について説明する。
【0026】
詳細は後述するが、各端末装置100には、基地局装置200より、N個のサブキャリアを有するOFDM信号が送信信号として送信される。送信信号には、データ信号とともに、参照信号系列が含まれて送信されている。参照信号系列には伝搬路推定用の参照信号(以下、Cell-specific reference signal(CRS)と呼ぶ)と復調用の参照信号(以下、Demodulation reference signal(DM-RS)と呼ぶ)の2つの参照信号が含まれているものとする。CRSは、式(1)で表されている伝搬路行列を推定するためのものであり、DM−RSはデータ信号の復調に必要となる情報を推定するためのものである。CRSとDM−RSの多重方法については、特に限定されない。しかし、CRSは各送信アンテナ間で直交するように配置され、DM−RSは接続している端末装置間で直交するように配置される。直交させる方法としては、時間直交、周波数直交、空間直交および符号直交のいずれか、もしくは複数の直交技術の組み合わせが考えられる。
【0027】
例えば、図3に示すように、データ信号とCRSとDM−RSを、時間および周波数の関係において、符号直交多重する方法が考えられる。なお、図3ではN=U=4の場合を例としており、時間軸はOFDMシンボル番号、周波数軸はサブキャリア番号を表す。#nは第n送信アンテナより送信されるCRSを表しており、該当無線リソースでは、第n送信アンテナからのみ信号が送信される。また*uは第u端末装置宛に送信されるDM−RSを表しており,*1と*2,および*3と*4はそれぞれ直交符号多重されている。空白部分では別の制御信号もしくはデータ信号が送信されており、データ信号部分には接続している端末装置宛の複数のデータ信号が空間多重されて送信されている。
【0028】
端末装置100においては、受信アンテナ101で受信された信号が、無線受信部102に入力され、ベースバンド帯の信号に変換される。ベースバンド帯に変換された信号は、GI除去部103に入力され、ガードインターバルが取り除かれた後、FFT部104に入力される。FFT部104では、入力された信号に対して、Nポイントの高速フーリエ変換(FFT)もしくは離散フーリエ変換(DFT)が適用され、N個のサブキャリア成分に変換される。FFT部104の出力は参照信号分離部105に入力される。参照信号分離部105では入力された信号を、データ信号成分とCRS成分と、DM−RS成分とに分離する。そして、データ信号成分については、伝搬路補償部109に向けて出力し、CRSとDM−RSについては、伝搬路推定部106に向けて出力される。以下では、伝搬路推定部106に出力されるCRSに関する信号処理について説明を行う。
【0029】
伝搬路推定部106では、入力されたCRSに基づいて伝搬路推定が行われる。CRSは、プリコーディングを適用されずに送信されているため、式(1)で表されている伝搬路行列H(k)のうち、各端末装置に対応する要素(例えば第u端末装置であればh(k))を推定することが可能である。図3のようにCRSが全無線リソースに対して間欠的に多重されている場合、全てのサブキャリアの伝搬路情報を直接推定することは出来ないが、標本化定理を満たすように時間方向、および周波数方向にCRSを多重してやれば、適切な伝搬路推定技術および補間技術により全てのサブキャリアの伝搬路情報を推定することが可能である。具体的な伝搬路推定方法については、特に限定しないが、例えば二次元のMinimum mean square error(MMSE)伝搬路推定を用いることが考えられる。以下では、伝搬路情報は理想的に推定されたものとして説明を行う。
【0030】
CRSにより推定された伝搬路情報はフィードバック情報生成部107に入力される。フィードバック情報生成部107では、各端末装置がフィードバックする伝搬路情報形式に応じて、基地局装置200にフィードバックする情報を生成する。ここで、第u端末装置の第m受信アンテナで受信される受信信号の第kサブキャリア成分をRu,m(k)としたとき、受信信号ベクトルR(k)=[Ru,1(k),・・・,Ru,Nr(k)](Tは転置処理を表す)は次式で与えられる。
【0031】
【数3】

【0032】
ここで、β(k)は電力正規化係数を表す。またW(k)はU行N列のプリコーディング行列を表す。d(k)=[d(k),・・・,d(k),・・・,d(k)]は送信シンボルベクトルを表し、d(k)は第kサブキャリアで伝送される第u端末装置宛の送信シンボルを表す。N(k)は雑音ベクトルである。ここで、適切なプリコーディングにより、IUIが完全に抑圧されている場合を考える。このとき、受信信号は次式で与えられることになる。
【0033】
【数4】

ここで、w(k)はプリコーディング行列W(k)の第u列ベクトルを表す。
【0034】
第u端末装置が基地局装置200に通知する情報は、第u端末装置が所望するw(k)に関連付けられた情報である。従来技術として、受信信号の信号電力対雑音電力比(以下、Signal−to−noise power ratio(SNR)と呼ぶ)を最大とするw(k)を基地局装置200に通知する方法が考えられる。各端末装置100では、受信信号ベクトルR(k)に適切な受信フィルタwr,u(k)を乗算することで、所望信号を検出している。通常、受信フィルタにはSNRを最大とするものが選択され、wr,u(k)=(h(k)w(k))が用いられる(ここでHはエルミート転置を表す)。なお、送信信号との平均二乗誤差を最小とするMMSE規範に基づく受信フィルタが用いられる場合もある。SNRを最大とする受信フィルタが用いられた場合、SNRを最大とするw(k)は次式を満たす線形フィルタとなる。
【0035】
【数5】

【0036】
ここで、||a||はベクトルのノルム演算を表す。式(4)を満たす線形フィルタはエルミート行列
【数6】

の最大固有値に関連付けられた、要素数Nの固有ベクトルuu,1(k)で与えられることが知られている。よって、式(4)を満たす線形フィルタは、与えられた伝搬路行列h(k)に対して、一意に定まることになる。しかし、uu,1(k)を直接量子化して基地局装置に通知する場合、制御情報量が大幅に増加してしまう。
【0037】
ところで、通知に係る情報量は可能な限り少なくすることが求められているから、コードブック記載の線形フィルタの数にはある程度の制限を与える必要がある。例えば、LTEで採用されている送信アンテナ数4本でランク1送信におけるコードブック(図4参照)には16個の線形フィルタしか記載されていないため、最適な線形フィルタであるuu,1(k)を通知できる確率は極めて低く、通常は最適な線形フィルタとは誤差のある線形フィルタを通知することになる。この場合、IUIはコードブックより抽出した線形フィルタと、最適な線形フィルタとの間の誤差に比例して大きくなるため、伝送特性の大幅な劣化を招いてしまう。
【0038】
そこで、本実施形態では、SNRを最大とする線形フィルタではなく、SNRを最小とする線形フィルタ(これを第一の線形フィルタとも呼ぶ)を所望の線形フィルタとして通知することを考える。つまり、通知すべき線形フィルタは次式を満たすことになる。
【0039】
【数7】

【0040】
式(6)を満たす線形フィルタも、式(5)で与えられるエルミート行列H(k)に対する固有値分解、すなわち、H(k)=U(k)×V(k)×U(k)に基づき求めることが出来る。ここで、U(k)は(N×N)のユニタリ行列、V(k)は対角成分にH(k)の固有値を持った対角行列を表す。H(k)のランクはNであるため、V(k)の対角成分の第(N+1)行(N+1)列成分以降は0となる。受信SNRはV(k)の対角成分,すなわち固有値に比例する。よって、式(6)を満たす線形フィルタは、V(k)の対角成分の第(N+1)行(N+1)列成分以降に対応するユニタリ行列U(k)の第(N+1)列以降の列ベクトルとなる。このことから、理想的には式(6)を満たす線形フィルタは全部で(N−N)個存在することになる。実際にはコードブック記載の線形フィルタからしか、通知可能な線形フィルタは抽出できないが、SNRを最大とする線形フィルタが一つしか存在しないのに対して、SNRを最小とする線形フィルタは(N−N)個存在するから、有限個の線形フィルタしか記載されていないコードブック中から、所望の線形フィルタを抽出できる確率は大きくなる。
【0041】
なお、これまでの説明のように、推定された伝搬路行列に対する固有値分解により、所望の線形フィルタを求めるのではなく、コードブック記載の線形フィルタを直接式(6)に代入することで、所望の線形フィルタを抽出しても良い。
【0042】
なお、本実施形態に対象となるコードブックについては、何かに限定されるものではないが、例えば、図4に記載されているLTEのコードブックを用いれば良い。ここで線形フィルタの値は、適宜正規化して用いても良い。また、上述した方法では、受信SNRを最小とする線形フィルタを抽出しているが、受信信号対干渉プラス雑音電力比(以下、Signal−to−interference plus noise power ratio(SINR)と呼ぶ)を最小とするフィルタを抽出しても良い。
【0043】
フィードバック情報生成部107では、上記の方法により所望の線形フィルタをコードブックより抽出し、そのコード番号を無線送信部108に出力し、その後基地局装置200に通知される事になる。通知される制御情報を第一の制御情報とも呼ぶこととする。基地局装置200に通知する線形フィルタの個数は、対象となる無線通信システムにおける最大空間多重数に依存して決定される。最大空間多重数がKである場合、各端末装置100は(K−1)個の線形フィルタを通知する必要がある。通常、最大空間多重数は、前述したDM−RSの個数等にも影響するため、無線通信システムとしては予め定められている場合が普通である。よって通知すべき線形フィルタの個数も予め定められることなる。また、後述するプリコーディングの精度を向上させるためには、(N−1)個の線形フィルタを通知することが望ましい。以下の説明では、最大空間多重数はUであるものとし、第u端末装置からは所望の線形フィルタとして、{cu,1(k)〜cu,U−1(k)}の(U−1)個の線形フィルタがコードブックより抽出され、基地局装置200に通知されるものとして説明を行っていくものとする。なお通知フィルタ数を明示的に通知可能な制御手段を別に有している場合、通知フィルタ数は任意の数としても良い。
【0044】
なお、本実施形態では説明は省略するが、端末装置より基地局装置に通知する情報として、受信品質に関連付けられた制御情報を通知する場合がある。例えば、LTEではChannel Quality Indicator(CQI)が通知される。通常、CQIは受信SNRもしくは受信SINRに関連付けられた情報が通知される。このとき、本来基地局装置に通知したかった線形フィルタと、実際にコードブックを使って通知された線形フィルタとの誤差に関連付けた情報をCQIに含めて通知するように制御しても良い。このことは以降の実施形態でも同様である。
【0045】
[1.2 基地局装置]
図5は、本発明の第1の実施形態に係る基地局装置の構成を示すブロック図である。図5に示すように、基地局装置200は、チャネル符号化部201と、データ変調部202と、参照信号多重部203と、S/P変換部204と、プリコーディング部205と、アンテナ部206と、制御情報取得部207と、CSI取得部208と、コードブック記憶部209とを含んで構成されている。プリコーディング部205はサブキャリア数N、アンテナ部206は送信アンテナ数Nだけそれぞれ存在する。
【0046】
各端末装置100より通知された、所望の線形フィルタに関連付けられたコードブックのコード番号は、制御情報取得部207において取得される。コード番号は、CSI取得部208に入力される。CSI取得部208では、コードブック記憶部209より選択されるコードブックと、コード番号に基づき、線形フィルタ{cu,1〜cu,U−1;u=1〜U}が取得される。コードブック記憶部209に記憶されているコードブックは端末装置100のコードブック記憶部113に記憶されているものと同一である。CSI取得部208より出力される線形フィルタに関する情報は後述するプリコーディング部205に入力される。
【0047】
各端末装置宛の送信データ系列はチャネル符号化部において、チャネル符号化が行なわれたのち、データ変調部202において、QPSK、16QAM等にデータ変調される。データ変調部202からの出力は参照信号多重部203に入力され、各端末装置100において伝搬路推定を行うための既知参照信号系列が参照信号多重部203において多重される。
【0048】
各端末装置宛の参照信号については、受信した端末装置100において分離可能なように、それぞれが直交するように多重されるものとする。また、前述したようにCRSとDM−RSの二つの参照信号が図3に示すように多重されるものとしている。参照信号多重部203の出力は、S/P変換部204に入力され、Nサンプル毎に、N個の並列信号系列に直列並列変換される。S/P変換部204の出力は、サブキャリア数であるN個だけ出力され、それぞれ対応するサブキャリアのプリコーディング部205に入力される。プリコーディング部205における信号処理の説明は後述するものとし、先に、プリコーディング部205の出力に対する信号処理について説明するものとする。各サブキャリアのプリコーディング部205の出力は、それぞれ対応する送信アンテナのアンテナ部206に入力される。
【0049】
図6は、本発明の第1の実施形態に係るアンテナ部の装置構成を示すブロック図である。図6に示すように、アンテナ部206は、IFFT部211と、GI挿入部212と、無線送信部213と、無線受信部214と、アンテナ215とを含んで構成されている。各アンテナ部206では、対応するプリコーディング部205の出力がIFFT部211に入力され、Nポイントの逆高速フーリエ変換(IFFT)、もしくは逆離散フーリエ変換(IDFT)が適用されて、Nサブキャリアを有するOFDM信号が生成され、IFFT部211より出力される。ここでは、サブキャリア数と逆離散フーリエ変換のポイント数は同じものとして説明しているが、周波数領域にガードバンドを設定する場合、ポイント数はサブキャリア数よりも大きくなる。IFFT部211の出力はGI挿入部212に入力され、ガードインターバルが付与されたのち、無線送信部213に入力される。無線送信部213において、ベースバンド帯の送信信号が無線周波数(RF)帯の送信信号に変換される。無線送信部213の出力信号は、アンテナ215よりそれぞれ送信される。
【0050】
無線受信部214には、各アンテナ215に受信される端末装置100より通知される制御情報に関する信号が入力され、ベースバンド帯の信号に変換され、基地局装置200の制御情報取得部207に向けて出力されることになる。制御情報には、端末装置100のフィードバック情報生成部107で生成された、所望の線形フィルタを示すコード番号も含まれる。制御情報取得部207から、線形フィルタを示すコード番号がCSI取得部208に入力される。CSI取得部208では、端末装置100より通知されたコード番号と、端末装置100との間で共用しているコードブックより、端末装置100が所望する線形フィルタを抽出し、抽出された線形フィルタがプリコーディング部205に向けて出力される。なお、端末装置100から実際に通知される情報は、所望の線形フィルタに関連付けられたコード番号であるが、以下の説明では、「端末装置より通知されたコード番号に対応する線形フィルタ」を単に「端末装置より通知された線形フィルタ」とも記す。
【0051】
[1.3 プリコーディング装置]
プリコーディング部205において行われる信号処理について説明する。以下では、第kサブキャリアのプリコーディング部205について説明するものとし、はじめに参照信号多重部203の出力のうち、データ信号成分が入力された場合について説明する。
【0052】
図7は、本発明の第1の実施形態に係るプリコーディング部205の装置構成を示すブロック図である。図7に示すように、プリコーディング部を205aとし、このプリコーディング部205aは、線形フィルタ生成部221と、送信信号生成部222とを含んで構成されている。プリコーディング部205aには、各端末装置宛の送信データに関するS/P変換部204の出力の第kサブキャリア成分{d(k);u=1〜U}と、CSI取得部208の出力の第kサブキャリアに関する各端末装置より通知された線形フィルタ{cu,1(k)〜cu,U−1(k);u=1〜U}が入力される。
【0053】
はじめに線形フィルタ生成部221において、プリコーディングフィルタW(k)が生成される(このフィルタを第三の線形フィルタとも呼ぶ)。プリコーディングフィルタW(k)は多重端末数に応じて生成方法が異なる。以下では多重端末数が(i)U=2の場合と(ii)U>2の場合の2通りに分けて説明を行う。
【0054】
(i)多重端末数がU=2の場合
ここでは、第1端末装置と第2端末装置の2つの端末装置が多重される場合を考え、第1端末装置からはc1,1(k)、第2端末装置からはc2,1(k)が通知されているものとする。このとき、プリコーディングフィルタW(k)は次式で与えられる。
【0055】
【数8】

【0056】
各端末装置100より通知されてきた線形フィルタが複数であった場合でも、複数の線形フィルタのうち、一つを抽出し、W(k)の第1列には第2端末装置より通知された線形フィルタ、第2列には第1端末装置より通知された線形フィルタが用いられる。このようにして生成されたプリコーディングフィルタW(k)を用いることで、IUIの影響を小さくすることが可能となる。ただし、この場合においては、c2,1(k)は第1端末装置が通知してきた複数の線形フィルタのいずれとも一致していないことが望ましい。なぜならば、c2,1(k)と第1端末装置が通知してきた複数の線形フィルタのいずれかが一致している場合、第1の端末装置の受信SNRが極端に低下してしまう可能性が極めて高くなるためである。このことはc1,1(k)についても同様である。
【0057】
(ii)多重端末数がU>2の場合
はじめに多重端末数をU=3とし、第1、第2および第3端末装置を空間多重するものとし、それぞれの端末装置からは{cu,1(k),cu,2(k);u=1〜3}の2つの線形フィルタが通知されているものとする。
第1、第2および第3端末装置を空間多重するためには以下の条件を満たす必要がある。
【0058】
【数9】

【0059】
ここで、∧は論理積を表す。式(8)の条件を満たす場合、プリコーディングフィルタW(k)は次式で与えられる。
【0060】
【数10】

【0061】
一般に多重端末数がU(>2)であるときに第1〜第U端末装置が空間多重されるためには以下の条件を満たす必要がある。
【0062】
【数11】

【0063】
式(10)の条件が満たされているとき、プリコーディングフィルタW(k)は次式で与えられる。
【0064】
【数12】

【0065】
多重端末数がU>2の場合、式(10)の条件を満たす場合に限り、空間多重が可能となる。式(10)より、U個の端末を空間多重するためには、各端末装置は少なくとも(U−1)個の線形フィルタを通知する必要がある。また、各端末装置より通知される線形フィルタの数が(U−1)個より多い場合、通知された複数の線形フィルタより抽出された(U−1)個の線形フィルタが式(10)を満たすように線形フィルタを抽出すれば良い。つまり、通知される線形フィルタの数が増加するに従い、空間多重機会が増加することになる。よって、システムの最大空間多重数に依らずに、空間多重機会の向上のために、可能な限り多くの線形フィルタを通知するように制御しても良い。この場合、U=2のときと同様に、W(k)の第u列に該当する線形フィルタについては、第u端末装置より通知された複数の線形フィルタのいずれとも一致していないことが望ましい。
【0066】
以上説明してきた方法により、線形フィルタ生成部221ではプリコーディングフィルタW(k)が生成され、送信信号生成部222に入力される。送信信号生成部222では、次式で与えられる送信信号ベクトルが生成され、プリコーディング部205aの出力として出力される。
【0067】
【数13】

【0068】
本実施形態では、空間多重する端末装置の組み合わせ、すなわちスケジューリングについては、特に制限は無い。例えば、式(10)を満たす端末装置を組み合わせるように、スケジューリングを行えば良い。また、受信SNRはβ(k)に比例するから、β(k)が可能な限り大きくなるようにスケジューリングを行っても良いし、CQI等の端末装置より通知される受信品質に関連付けられた制御情報に基づいてスケジューリングしても良い。
【0069】
次いで、プリコーディング部205aに参照信号(CRSおよびDM−RS)が入力された場合について説明する。CRSについては、プリコーディングに関する信号処理が行われず、そのまま出力される。DM−RSについては、送信データと同様のプリコーディングが行われることになるが、各端末装置に送信されるDM−RSは空間多重されずに送信される事になる。
【0070】
[1.4 端末装置における所望データ検出]
以下では、所望データ検出に係る端末装置100の信号処理について説明する。図2に戻り、参照信号分離部105より出力される、DM−RSとデータ信号成分に対して行われる信号処理について説明する。
【0071】
DM−RSについては、伝搬路推定部106に入力される。DM−RSはCRSとは異なり、プリコーディング部205aにおいてプリコーディングが施されて送信されているため、プリコーディングされたデータ信号を復調するための伝搬路情報を得ることが出来る。今、DM−RSは端末装置間で直交するように多重されているから、DM−RS成分の受信信号は式(3−2)において、d(k)を既知参照信号p(k)に置き換えたものとなる。よって、等価伝搬路利得h^(k)=β(k)h(k)w(k)を推定することが出来る。なお、CRSと同様にDM−RSも全無線リソースに対して間欠的に多重される場合があるが、適切な伝搬路推定技術および補間技術により全てのサブキャリア成分に関して復調用の情報を得ることが可能である。例えば、CRSと同様に二次元MMSE伝搬路推定技術により推定すれば良い。DM−RSによって得られた情報は伝搬路補償部109に入力されることになる。
【0072】
参照信号分離部105の出力のうち、データ信号成分と、伝搬路推定部106の出力のうち、DM−RSによって得られた伝搬路情報は伝搬路補償部109に入力される。伝搬路補償部109ではデータ信号成分に対してチャネル等化処理が行われる。チャネル等化処理の方法は何かに限定されるものではないが、例えば、空間フィルタリングによる方法が考えられる。データ信号成分の受信信号ベクトルR(k)は式(3−1)で与えられている。伝搬路補償部109の出力d^(k)は、R(k)に対して、適切な受信フィルタwr,u(k)を乗算することで復調される。wr,u(k)は、前述したような、受信SNRを最大化するフィルタを用いても良いし、伝搬路補償部109の出力d^(k)と送信シンボルd(k)と平均二乗誤差を最初とするMMSE規範に基づくフィルタや、雑音が無い状態で、伝搬路補償部109の出力d^(k)と送信シンボルd(k)との誤差を0とするZF規範に基づくフィルタを用いても良い。
【0073】
伝搬路補償部109の出力は、その後P/S変換部110に入力され、並列直列変換が施される。P/S変換部110の出力は、その後、データ復調部111およびチャネル復号部112に入力され、データ復調とチャネル復号が行われる。
【0074】
本実施形態においては、OFDM信号伝送を仮定し、プリコーディングはサブキャリア毎に行うことを仮定したが、伝送方式(もしくはアクセス方式)やプリコーディングの適用単位に制限は無い。例えば、複数サブキャリアを一纏めとしたリソースブロック毎にプリコーディングが行われた場合も本実施形態は適用可能であり、同様に、シングルキャリアベースのアクセス方式(例えばシングルキャリア周波数分割多重アクセス(SC−FDMA)方式など)にも適用することは可能である。
【0075】
以上、説明してきた方法により、コードブックベースの下りリンクMU−MIMOにおいて、空間多重機会を増加させることが可能となるから、周波数利用効率の改善に寄与できる。
【0076】
[2.第2の実施形態]
第1の実施形態において、基地局装置のプリコーディング部で行われたプリコーディングは線形プリコーディングと呼ばれる手法である。線形プリコーディングは要求される演算量が少ないという利点があるものの、伝搬路行列の直交性が低い場合、伝送特性が大幅に劣化するという欠点がある。第2の実施形態においては、伝搬路行列の直交性が低い場合でも、良好な空間多重性能を有する非線形プリコーディングを用いる場合を対象とする。
【0077】
[2.1 端末装置のフィードバック処理]
端末装置の構成は第1の実施形態とほぼ同様である。特にフィードバック処理に係る信号処理については全く同じであるため、説明は省略する。
【0078】
[2.2 基地局装置]
基地局装置の構成は第1の実施形態とほぼ同様であり、異なるのはプリコーディング部において行われる信号処理であり、以下ではプリコーディング部205bが配置されているものとする。
【0079】
[2.3 プリコーディング装置]
第2の実施形態に係るプリコーディング部205bにおいて行われる信号処理について説明する。以下では、第kサブキャリアのプリコーディング部205bについて説明するものとし、はじめに参照信号多重部203の出力のうち、データ信号成分が入力された場合について説明する。
【0080】
図8は、本発明の第2の実施形態に係るプリコーディング部205bの装置構成を示すブロック図である。図8に示すように、プリコーディング部205bは、線形フィルタ生成部231と、摂動ベクトル探査部232と、送信信号生成部233と、を含んで構成されている。プリコーディング部205bには、各端末装置宛の送信データに関するS/P変換部204の出力の第kサブキャリア成分{d(k);u=1〜U}と、CSI取得部208の出力の第kサブキャリアに関する各端末装置より通知された線形フィルタ{cu,1(k)〜cu,U−1(k);u=1〜U}が入力される。
【0081】
線形フィルタ生成部231で行われる信号処理、すなわち、線形フィルタW(k)の算出方法については、プリコーディング部205aの線形フィルタ生成部221と同様であるため、説明は省略する。線形フィルタ生成部231の出力は、摂動ベクトル探査部232と送信信号生成部233に入力される事になる。
【0082】
摂動ベクトル探査部232における信号処理について説明する。まず、第1の実施形態と同様に式(12)に基づき、送信信号ベクトルを算出することを考える。ここで、プリコーディングされたデータ信号の送信に要する所要送信電力は、乗算される線形フィルタに大きく依存する。例えば、線形フィルタW(k)がユニタリ行列であれば、プリコーディング前と後とで、所要送信電力に変化は生じない。一方、先に述べたように、本実施形態の線形フィルタW(k)は端末装置から通知された所望の線形フィルタを式(10)で述べたような規範に基づき組み合わせることで形成されているため、必ずしもユニタリ行列となるわけではない。線形フィルタW(k)がユニタリ行列ではない場合、式(12)で与えられる送信信号の電力はW(k)に応じて変化し、単純にd(k)だけを送信する場合と比較して、送信電力が大幅に増加してしまうことがある。このような状況は有相関伝搬路環境下において発生しやすい。
【0083】
そこで、第2の実施形態においては、送信シンボルベクトルd(k)に対して、摂動ベクトルZ(k)=[zt,1(k),・・・,zt,U(k)]を加算することを考える(このベクトルを第一のベクトルとも呼ぶ)。このとき、送信信号は次式で与えられることになる。
【0084】
【数14】

【0085】
ここで、{zt,u(k);u=1〜U}を摂動項と呼ぶこととする。摂動項は任意のガウス整数を割り当てることができる。δは任意の正実数であり適当に決めても良いが、データ変調方式に依存して決定することが望ましく、QPSKであれば、δ=21/2、16QAMであれば、4×10−1/2とすれば良い。
【0086】
式(12−1)に示したように、送信シンボルに対して、摂動ベクトルを加算する手法は、非線形プリコーディングと呼ばれる手法であり、摂動ベクトルの選択の仕方により、伝送特性が大きく変化する。本発明で対象となる非線形プリコーディングは、何かに限定されるものではないが、以下では、Vector perturbation(VP)が用いられたものとして説明する。
【0087】
VPは選択可能な全ての摂動ベクトルから、所要送信電力を最小化する摂動ベクトルを探索する非線形プリコーディングである。VPで選択される摂動ベクトルZ(k)が満たす条件は次式で与えられることになる。
【0088】
【数15】

【0089】
式(13)で与えられる最小化問題は、2U次元の整数格子最小二乗問題であり、次元数すなわち空間多重数Uに対して演算量が指数関数的に増加してしまうという問題を有している。現実的には、Sphere encoding(SE)技術や、MアルゴリズムとQR分解に基づくQRM技術等により、摂動ベクトルの探査範囲を限定させる必要がある。また、Tomlinson−Harashima precodingに基づく方法により、摂動ベクトルを探査することも出来る。以下では、何らかの摂動ベクトル探査技術により、摂動ベクトルZ(k)が抽出されたものとして説明を行う。
【0090】
摂動ベクトル探査部232において算出された摂動ベクトルZ(k)は、送信信号生成部233に入力される。送信信号生成部233では、式(12−1)に基づき、送信信号ベクトルが算出され、最終的なプリコーディング部205bの出力が出力される。
【0091】
なお、プリコーディング部205bにCRSおよびDM−RSが入力された場合の信号処理は第1の実施形態とほぼ同様であるが、DM−RSには、線形フィルタW(k)の乗算は行われるものの、摂動ベクトルZ(k)の加算は行われない。
【0092】
[2.4 端末装置における所望データ検出]
以下では、第2の実施形態における、所望データ検出に係る端末装置の信号処理について説明する。所望データ検出に係る端末装置の信号処理について、第1の実施形態と異なるのは、伝搬路補償部109において、データ信号に対して行われる信号処理とチャネル復号部112における信号処理のみであるから、以下では、この2点を中心に説明を行う。
【0093】
伝搬路補償部109では、データ信号に対して、第1の実施形態と同様に、DM−RSによって推定された情報に基づきチャネル等化処理が行われる。ここでは、説明を簡単にするため、適切なプリコーディングによりIUIが無く、また、受信フィルタとしてZF規範のフィルタが用いられたものとする。このとき伝搬路補償部109の出力d^(k)は次式で与えられることになる。
【0094】
【数16】

【0095】
式(14)から分かるように、伝搬路補償部109の出力d^(k)には、所望信号成分と雑音成分に加えて、基地局装置200のプリコーディング部205bで加えられた摂動項zt,uが残っている。伝搬路補償部109では、摂動項zt,uの影響を取り除くために、次式で与えられるmodulo演算を施す。
【0096】
【数17】

【0097】
ここで、floor(c)は実部と虚部それぞれが、複素数cの実部と虚部を超えない複素数を返す関数であり、床関数とも呼ばれる。また、δは、基地局装置の摂動ベクトル探査部232で用いられたものを用いる。通常、δは変調方式毎に最適な値が用いられるが、基地局装置において最適な値が用いられていない場合、端末装置は、最適値ではなく、あくまで基地局装置で実際に用いられている値を用いる必要がある。式(15)のmodulo演算出力が伝搬路補償部109の出力として出力される。
【0098】
最後に、チャネル復号部112においては、基本的には第1の実施形態と同様に行えば良いが、チャネル符号化の方法によっては、チャネル復号部112において、対数尤度比(以下、Log likelihood ratio(LLR)と呼ぶ)の計算が必要になってくる。このとき、式(15)で行われるmodulo演算を行わないことを前提としたLLRの算出方法もある。この場合、式(15)で行われるmodulo演算は、伝搬路補償部109では行われないことになる。
【0099】
なお、受信信号に対するmodulo演算を前提とする非線形プリコーディングは、線形プリコーディングに対して、通常は良好な伝送特性を実現できるが、QPSK変調等の低多値数の変調方式を用いられる場合や、極端に受信SNRが低い場合には、modulo損失と呼ばれる非線形プリコーディング特有の特性劣化要因により、線形プリコーディングよりも伝送特性が劣化する場合がある。このような場合、摂動ベクトル探査部232では、一部の端末装置宛の送信データには摂動項を加算しないことを前提として、摂動ベクトルの探索を行うことも可能である。つまり、第1の実施形態で対象とした線形プリコーディングと本実施形態で対象としている非線形プリコーディングとを混在させることも可能である。
【0100】
第2の実施形態では、基地局装置のプリコーディングとして、非線形プリコーディングが行われた場合を対象とした。本実施形態によれば、伝搬路環境下や、空間多重させる端末装置の組み合わせに依存して発生する所要送信電力の大幅な低下を回避することが可能となり、周波数利用効率を更に改善させることが可能となる。
【0101】
[3.第3の実施形態]
第1および第2の実施形態では、端末装置から通知される所望線形フィルタは、端末装置の受信SNRもしくは受信SINRを最小とする線形フィルタに関連付けられたものである。一方、LTEで仕様化されているMU−MIMOでは、端末装置が通知する所望線形フィルタは受信SNRもしくは受信SINRを最大とするものである(これを第二の線形フィルタとも呼ぶ)。第3の実施形態では、第1および第2の実施形態と同様に、受信SNRを最小とする線形フィルタを通知するとともに、受信SNRを最大とする線形フィルタも通知された場合を対象とする。
【0102】
[3.1 端末装置のフィードバック処理]
端末装置の構成は第1および第2の実施形態とほぼ同様である。フィードバック処理に係る信号処理については、フィードバック情報生成部107における信号処理のみが、第1および第2の実施形態と異なるため、以下では、第3の実施形態に係るフィードバック情報生成部の信号処理について説明する。
【0103】
フィードバック情報生成部107では、伝搬路推定部106において推定される伝搬路行列と、所定の規範に基づいて、基地局装置200に通知すべき線形フィルタを決定している。実施形態1および2では、複数の線形フィルタを通知する場合においても、同一の規範、すなわち、受信SNRを最小とする線形フィルタを通知していた。第3の実施形態においては、異なる複数の規範に基づいて複数の線形フィルタを通知する。規範については、何かに限定されるものではないが、以下では、複数の線形フィルタを通知する場合に、受信SNRを最小とする線形フィルタ{cu,1(k)〜cu,U−1(k)}に関する第一の制御情報とともに、受信SNRを最大とする線形フィルタ{cu,max(k)}に関する制御情報(これを第二の制御情報とも呼ぶこととする)を通知するものとする。フィードバック情報生成部107では、式(4)および式(6)に基づいて、{cu,1(k)〜cu,U−1(k)}と{cu,max(k)}を算出する。第1の実施形態で説明したように、{cu,1(k)〜cu,U−1(k)}と{cu,max(k)}は、ともに第u端末装置で推定される伝搬路行列から算出される固有ベクトルに関連づいている。フィードバック情報生成部107では、実際に固有ベクトルを算出したのち、所定のコードブックより所望の線形フィルタを求めても良いし、固有ベクトルを算出することなく、式(4)および式(6)に直接、所定のコードブック記載の線形フィルタを代入することで、{cu,1(k)〜cu,U−1(k)}および{cu,max(k)}を求めても良い。
【0104】
本実施形態では、異なる規範に基づいて抽出された線形フィルタを端末装置が通知するため、基地局装置は、通知された線形フィルタが、いずれの規範に基づいているかを把握する必要がある。通常、制御情報を通知するための無線リソースは基地局装置と端末装置との間で予め決定されているため、制御情報を通知する無線リソースと、所望線形フィルタの規範とを関連付けておくことで、基地局装置はいずれの規範に基づいて、所望線形フィルタが通知されてきたかを把握することが可能である。
【0105】
[3.2 基地局装置]
基地局装置の構成は第1の実施形態とほぼ同様であり、異なるのはプリコーディング部205において行われる信号処理であり、第3の実施形態においては、プリコーディング部205cが配置されているものとする。
【0106】
[3.3 プリコーディング装置]
プリコーディング部205cにおいて行われる信号処理について説明する。以下では、第kサブキャリアのプリコーディング部205cについて説明するものとし、はじめに参照信号多重部出力のうち、データ信号成分が入力された場合について説明する。
【0107】
図9は、本発明の第3の実施形態に係るプリコーディング部205cの装置構成を示すブロック図である。図9に示すように、プリコーディング部205cは、線形フィルタ生成部241と、摂動ベクトル探査部242と、プリコーディング切替部243と、送信信号生成部244と、を含んで構成されている。プリコーディング部205cには、各端末装置宛の送信データに関するS/P変換部出力204の第kサブキャリア成分{d(k);u=1〜U}と、CSI取得部208の出力の第kサブキャリアに関する各端末装置より通知された線形フィルタ{cu,1(k)〜cu,U−1(k);u=1〜U}と{c1,max(k)〜cU,max(k)}が入力される。
【0108】
プリコーディング部205cでは、各端末装置より通知されてきた線形フィルタに基づき、複数のプリコーディングが行われる。複数のプリコーディングはどのような方法でも良いが、本実施形態においては、以下の4つのプリコーディングが行われるものとして説明をする。
【0109】
(i)第一のプリコーディング:受信SNR最小線形フィルタに基づく線形プリコーディング
第一のプリコーディングにおけるプリコーディング部205cの信号処理は、第1の実施形態と同様であるから説明は省略する。
【0110】
(ii)第ニのプリコーディング:受信SNR最小線形フィルタに基づく非線形プリコーディング
第二のプリコーディングにおけるプリコーディング部205cの信号処理は、第2の実施形態と同様であるから説明は省略する。
【0111】
(iii)第三のプリコーディング:受信SNR最大線形フィルタに基づく線形プリコーディング
第三のプリコーディングでは、まず線形フィルタ生成部241において、各端末装置より通知される受信SNRを最大とする線形フィルタ{c1,max(k)〜cU,max(k)}に基づいて、見掛け上の伝搬路行列Gを次式のように生成する。
【0112】
【数18】

【0113】
見掛け上の伝搬路行列G(k)に基づいて、線形フィルタW(k)を次式のように生成する。
【0114】
【数19】

【0115】
ここで、Iは単位行列、α(k)は干渉制御項である。α(k)は適当に定めても良いが、例えば、送信電力と、各端末装置で観測される雑音電力との比とすれば良い。またα(k)=0としても良い。また、送信信号対与干渉電力比(SLR)もしくは、送信信号対与干渉プラス雑音電力比(SLNR)規範に基づいて、線形フィルタを算出しても良い。
第三のプリコーディングでは、線形フィルタ生成部241より出力される線形フィルタが送信信号生成部244に入力され、式(12)に基づいて、送信信号が算出されることになる。
【0116】
(iv)第四のプリコーディング:受信SNR最大線形フィルタに基づく非線形プリコーディング
第四のプリコーディングでは、第三のプリコーディングと同様に、線形フィルタW(k)の算出が行われる。算出された線形フィルタW(k)に基づいて、第二のプリコーディングで行われる摂動ベクトルの探査等の信号処理が行われる事になる。
【0117】
プリコーディング部205cでは、前述してきた4つのプリコーディングに関する信号処理が行われ、その計算結果がプリコーディング切替部243に入力される。そして、所望の受信品質と、生成された送信信号ベクトルの送信に要する所要送信電力と、各端末装置より通知される受信品質に関連付けられた制御情報(CQI等)と、接続されている端末装置の機能に基づき、最も適切なプリコーディングがプリコーディング切替部243において、判断される。なお、端末装置の機能とは、端末装置の伝搬路補償部109もしくはチャネル復号部112において、modulo演算を考慮した信号処理が行えるか否かを指す。プリコーディング切替部243からは、前述した判断に基づき、最適な送信信号ベクトルが出力され、最終的なプリコーディング部205cの出力となる。
【0118】
また、非線形プリコーディングにおいては、所定の端末装置向けのデータ信号にだけ摂動項を付与するように制御しても良い。例えば、空間多重される複数の端末装置内に、modulo演算が行える端末装置と行えない端末装置とが混在する場合、modulo演算が行える端末装置宛のデータ信号にだけ摂動項を付与するように制御しても良い。
【0119】
なお、プリコーディング切替部243に入力される情報は、最終的な送信信号ベクトル以外の情報でも良い。例えば、線形フィルタ生成部241より出力される線形フィルタW(k)に基づいて、最適なプリコーディング方法を決定しても良い。
【0120】
また、前述した4つのプリコーディングが達成可能な受信品質は空間多重される端末装置の組み合わせにより大きく左右される。そのため、各プリコーディングに最も適した端末装置の組み合わせ(スケジューリング)を施したのち、各プリコーディングによる受信品質を比較しても良いし、ある特定のスケジューリングに基づいて、受信品質の比較をしても良い。
【0121】
なお、端末装置によっては、複数の規範に基づく所望線形フィルタの通知を行えず、ある特定の規範に基づいてしか線形フィルタの通知が行えない場合がある。この場合、プリコーディング部205cで選択可能なプリコーディング方法の選択肢は減少するものの、適切なスケジューリングを行うことで、複数の規範に基づいて所望線形フィルタを通知する端末装置と、ある特定の規範のみに基づいて所望線形フィルタを通知する端末とを空間多重することも可能である。
【0122】
[3.4 端末装置における所望データ検出]
以下では、第3の実施形態における、所望データ検出に係る端末装置の信号処理について説明する。所望データ検出に係る端末装置の信号処理について、第1の実施形態および第2の実施形態と異なるのは、伝搬路補償部109において、データ信号に対して行われる信号処理のみであるから、以下では、この2点を中心に説明を行う。
【0123】
第3の実施形態では、基地局装置200のプリコーディング部205cで行われるプリコーディングが受信品質等によって切り替わることになる。そのため、端末装置100の伝搬路補償部109では、第2の実施形態のようにmodulo演算が必要な場合と、第1の実施形態のようにmodulo演算が不必要な場合とがある。端末装置100の伝搬路補償部109において、modulo演算が必要な否かについては、基地局装置200より新たに制御情報により通知しても良い。また、無線通信で一般に用いられている適応変調伝送が行われている場合、受信品質と符号化率と変調方式などを関連付けたテーブルであるModulation and Coding Scheme(MCS)セットに関連付けられた情報を基地局装置200と端末装置100がやり取りすることになるが、modulo演算の有無を、このMCSセットに更に関連付けるように制御しても良い。また、端末装置は、常にmodulo演算を行って信号を復調するように制御しても良い。
【0124】
第3の実施形態では、端末装置100は異なる複数の規範に基づいて、複数の線形フィルタを通知する場合を対象とした。基地局装置200で行えるプリコーディングの選択肢が増加するため、空間多重機会が向上し、周波数利用効率の向上に寄与できる。
【0125】
<全実施形態共通>
[変形例]
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も特許請求の範囲に含まれる。
【0126】
本発明に関わる移動局装置および基地局装置で動作するプログラムは、本発明に関わる上記実施形態の機能を実現するように、CPU等を制御するプログラム(コンピュータを機能させるプログラム)である。そして、これら装置で取り扱われる情報は、その処理時に一時的にRAMに蓄積され、その後、各種ROMやHDDに格納され、必要に応じてCPUによって読み出し、修正・書き込みが行なわれる。プログラムを格納する記録媒体としては、半導体媒体(例えば、ROM、不揮発性メモリカード等)、光記録媒体(例えば、DVD、MO、MD、CD、BD等)、磁気記録媒体(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスク等)等のいずれであってもよい。また、ロードしたプログラムを実行することにより、上述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、オペレーティングシステムあるいは他のアプリケーションプログラム等と共同して処理することにより、本発明の機能が実現される場合もある。
【0127】
また市場に流通させる場合には、可搬型の記録媒体にプログラムを格納して流通させたり、インターネット等のネットワークを介して接続されたサーバコンピュータに転送したりすることができる。この場合、サーバコンピュータの記憶装置も本発明に含まれる。また、上述した実施形態における移動局装置および基地局装置の一部、または全部を典型的には集積回路であるLSIとして実現してもよい。移動局装置および基地局装置の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現しても良い。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いることも可能である。
【0128】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0129】
100 端末装置
101 受信アンテナ
102 無線受信部
103 GI除去部
104 FFT部
105 参照信号分離部
106 伝搬路推定部
107 フィードバック情報生成部
108 無線送信部
109 伝搬路補償部
110 P/S変換部
111 データ復調部
112 チャネル復号部
200 基地局装置
201 チャネル符号化部
202 データ変調部
203 参照信号多重部
204 S/P変換部
205,205a,205b,205c プリコーディング部
206 アンテナ部
207 制御情報取得部
208 CSI取得部
211 IFFT部
212 GI挿入部
213 無線送信部
214 無線受信部
215 アンテナ
221,231,241 線形フィルタ生成部
222,233,244 送信信号生成部
232,242 摂動ベクトル探査部
243 プリコーディング切替部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信アンテナを備え、複数の無線受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、プリコーディング後の信号を同一無線リソースに空間多重して送信する無線送信装置であって、
前記複数の無線受信装置と共通の、複数の線形フィルタが記載されたコードブックを記憶する記憶部と、
前記複数の無線受信装置より通知された、前記コードブックより抽出され、前記各無線受信装置の受信信号対雑音電力比、または受信信号対干渉プラス雑音電力比を最小とする第一の線形フィルタに関連付けられた第一の制御情報を取得する制御情報取得部と、
前記第一の制御情報に基づき、前記複数の無線受信装置宛てのデータ信号にプリコーディングを行なうプリコーディング部と、
を備えることを特徴とする無線送信装置。
【請求項2】
前記プリコーディング部は、
前記第一の制御情報に基づき第三の線形フィルタを算出し、
前記データ信号に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出することを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項3】
前記プリコーディング部は、
前記第一の制御情報に基づき第三の線形フィルタを算出し、
前記第三の線形フィルタと前記データ信号に基づき、第一のベクトルを算出し、
前記データ信号に前記第一のベクトルが加算されたのち、更に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出することを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項4】
前記プリコーディング部は第一のプリコーディングと第二のプリコーディングとを選択的もしくは同時に実行でき、
前記第一のプリコーディングは、前記第一の制御情報に基づき第三の線形フィルタを算出し、前記データ信号に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出する信号処理であり、
前記第二のプリコーディングは、前記第三の線形フィルタと前記データ信号に基づき、第一のベクトルを算出し、前記データ信号に前記第一のベクトルが加算されたのち、更に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出する信号処理であることを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項5】
前記制御情報取得部は、
前記複数の無線受信装置より通知された、前記コードブックより抽出され、前記無線受信装置の受信信号対雑音電力比、または受信信号対干渉プラス雑音電力比を最大とする第二の線形フィルタに関連付けられた第二の制御情報を更に取得し、
前記プリコーディング部は、
前記第一の制御情報と前記第二の制御情報に基づいて前記複数の無線受信装置宛てのデータ信号に、プリコーディングを行うことを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項6】
前記プリコーディング部は、
前記第一の制御情報と前記第二の制御情報の少なくとも一部の情報に基づき第三の線形フィルタを算出し、
前記第三の線形フィルタと前記データ信号に基づき、第一のベクトルを算出し、
前記データ信号に前記第一のベクトルが加算されたのち、更に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出することを特徴とする請求項5記載の無線送信装置。
【請求項7】
前記プリコーディング部は、第一のプリコーディングと第二のプリコーディングとを選択的もしくは同時に実行でき、
前記第一のプリコーディングは、前記第一の制御情報と第二の制御情報の少なくとも一部の情報に基づき第三の線形フィルタを算出し、前記データ信号に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出する信号処理であり、
前記第二のプリコーディングは、前記第三の線形フィルタと前記データ信号に基づき、第一のベクトルを算出し、前記データ信号に前記第一のベクトルが加算されたのち、更に前記第三の線形フィルタが乗算された送信信号を算出する信号処理であることを特徴とする請求項5記載の無線送信装置。
【請求項8】
前記複数のプリコーディングのいずれかが行われたことを明示できる第三の制御情報を前記無線受信装置に通知することを特徴とする請求項4と請求項7のいずれかに記載の無線送信装置。
【請求項9】
前記第三の制御情報は、適応変調伝送において参照されるModulation and coding scheme (MCS)セットに関連付けられた情報であることを特徴とする請求項8記載の無線送信装置。
【請求項10】
少なくとも一つの受信アンテナを備え、無線送信装置より複数のデータ信号が同一無線リソースに空間多重されて送信された信号を受信する無線受信装置であって、
前記複無線送信装置と共通の、複数の線形フィルタが記載されたコードブックを記憶する記憶部と、
前記コードブックより抽出され、自装置の受信信号対雑音電力比、または受信信号対干渉プラス雑音電力比を最小とする第一の線形フィルタに関連付けられた第一の制御情報を算出する制御情報生成部と、
を備え、
前記第一の制御情報を前記無線送信装置に通知することを特徴とする無線受信装置。
【請求項11】
前記制御情報生成部は、
前記コードブックより抽出され、自装置の受信信号対雑音電力比、または受信信号対干渉プラス雑音電力比を最大とする第二の線形フィルタに関連付けられた第二の制御情報を更に算出することを特徴とする請求項10記載の無線受信装置。
【請求項12】
前記無線送信装置より送信された信号から、modulo演算を含む非線形演算処理によって所望の信号を検出する信号復調部を備えることを特徴とする請求項10または請求項11のいずれかに記載の無線受信装置。
【請求項13】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の無線送信装置と、
請求項10から請求項12のいずれかに記載の複数の無線受信装置と、
を備えることを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−62763(P2013−62763A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201599(P2011−201599)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】