説明

無線送信装置及び無線受信装置

【課題】OFDMによる通信技術においてデータ伝送のスループットを犠牲にすることなく伝播路の推定精度向上に寄与する。
【解決手段】スロット(SLT_adv)を構成する複数のシンボル(SMBL)に、無線通信の伝播路を推定するための既知信号(SIGDIV_ref)の系列を領域α、βに分割配置する。換言すれば、情報信号と既知信号を合成したシンボルを生成してスロットに配置する。これにより、1シンボルに割り当てられた既知信号の系列が各シンボルに分散配置されるから、シンボル単位で伝播路の推定を行うことが可能になる。シンボル単位で伝播路の推定を行うことによって伝送路推定の追従性が良くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)技術を用いた無線送信装置、無線受信装置及び無線通信装置に関し、例えば移動体通信システム更には移動体通信端末に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
OFDM技術は、3GPP(Third Generation Partnership Project)におけるLTE(Long Term Evolution)など多数のシステムに用いられている。移動体通信では電波の位相や振幅によって情報伝達を行うたが、移動体通信端末が移動するので電波の位相や周波数は時々刻々と変化することから、電波の状態即ち伝播路を高精度に推定することが受信性能を高める上で必要とされる。伝播路推定には、受信装置で既知のリファレンス信号を送信スロットに含めて送信し、送信されたリファレンス信号に対してその時間領域での受信波の成分を分析して既知信号を抽出し、それによって複数反射波の到来時刻や振幅などを推定する技術を用いる。また、従来より、OFDM技術の中でガードバンドとしてのサイクリックプレフィックス(Cyclic prefix、以下単にCPとも記す)はマルチパス環境においてサブキャリア間の直交性を保つために使用されている。
【0003】
LTEなどのシステムで用いられる通信フレーム構造は例えば1フレームが10msで、そこに各0.5msのスロットが19スロットが含まれ、各スロットは複数シンボルで構成される。端末から基地局に向かうアップリンク(Uplink)信号には、1スロットあたり1シンボル長のリファレンス信号が付加され、また、データ信号の各シンボルにはペイロードの前にCPが付加されている。尚、LTEについて記載された文献の例として下記非特許文献1がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Long Term Evolution (LTE):Overview of LTE Air-Interface Technical White Paperhttp://business.motorola.com/experiencelte/pdf/LTEAirInterfaceWhitePaper.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来リファレンス信号は1スロット当たり1シンボル長というようにそのビット長は一定にされていた。伝播路の推定精度(同期検出精度)を向上させるためにリファレンス信号のシンボル数を増やすことも考えられるが、そうすると、スロット若しくはフレーム内のペイロードのデータ長が短くなってデータ伝送効率が低下してスループットが犠牲になる。
【0006】
本発明の目的はOFDMによる通信技術においてデータ伝送のスループットを犠牲にすることなく伝播路の推定精度向上に資することにある。
【0007】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0009】
すなわち、スロットを構成する複数のシンボルに、無線通信の伝播路を推定するための既知信号の系列を分割配置する。換言すれば、情報信号と既知信号を合成したシンボルを生成してスロットに配置する。
【0010】
これにより、1シンボルに割り当てられた既知信号の系列が各シンボルに分散配置されるから、無線受信装置はシンボル単位で伝播路の推定を行うことが可能になる。シンボル単位で伝播路の推定を行うことによって伝送路推定の追従性が良くなる。
【発明の効果】
【0011】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば下記のとおりである。
【0012】
すなわち、OFDMによる通信技術においてデータ伝送のスループットを犠牲にすることなく伝播路の推定精度向上に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1はリファレンス信号を一つのシンボルに集約して配置したスロットフォーマット及びリファレンス信号を各シンボルに分割配置したスロットフォーマットの説明図である
【図2】図2は本発明の第1の実施の形態に係る無線送信装置を例示するブロック図である。
【図3】図3は図2の無線送信装置から送信された信号を受信して処理する無線受信装置を例示するブロック図である。
【図4】図4は無線通信状態に応じてリファレンス信号のビット長を可変にする無線送信装置を例示するブロック図である。
【図5】図5は演算器とセレクタによるβ値の演算及び選択機能を例示するフローチャートである。
【図6】図6は図4の無線送信装置から送信された信号を受信して処理する無線受信装置を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。代表的な実施の形態についての概要説明で括弧を付して参照する図面中の参照符号はそれが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。
【0015】
〔1〕<複数シンボルに既知信号の系列を分割配置>
本発明の代表的な実施の形態に係る、OFDM方式による無線通信を行う無線送信装置は、無線通信の伝播路を確定するための既知信号の系列と送信すべき情報を変調した情報信号とを所定のシンボル長を持つ複数のシンボルに配置してスロットを生成するスロット生成部と、前記スロット生成部で生成されたスロットに配置されたシンボルに対して逆フーリエ変換を行って時間領域のOFDM信号を生成する逆フーリエ変換処理部と、逆フーリエ変換処理部で生成されたOFDM信号を所定の無線通信周波数帯域に変調し、RF信号として送信する無線送信部とを有する。前記スロット生成部は夫々のシンボルに前記既知信号の系列を分割して配置する。
【0016】
これにより、1シンボルに割り当てられた既知信号の系列が各シンボルに分散配置されるから、スロット単位で見たときの情報信号のスループットは低下せず、無線受信装置はシンボル単位で伝播路の推定を行うことが可能になる。1シンボルにまとめて既知信号の系列が配置される場合に比べるとシンボル毎の既知信号のビット長は短くなり、シンボル毎に得られる伝播路推定による相関は小さくなるが、シンボル単位で伝播路の推定を行うことによって伝送路推定の追従性が良くなる。したがって、スループットを低下させずに伝播路の推定精度向上に資することができる。
【0017】
〔2〕<シンボル内のサイクリックプレフィックス領域とポストフィックス領域が既知信号>
項1の無線送信装置において、前記既知信号の系列が分割配置される領域は、前記シンボルの先頭に配置されたサイクリックプレフィックスの領域及び前記シンボルの後端部に配置される領域である。
【0018】
シンボルの後端部に配置された領域だけでなくサイクリックプレフィックスの領域も既知信号の配置に流用することにより、シンボル単位で見たときの既知信号のビット数が増えて伝送路推定の追従性が更に向上し、既知信号の配置に流用されたサイクリックプレフィックスの領域は依然としてガードバンドとして機能を維持することができる。ただしこの場合には、情報信号の末尾のコピーによってサイクリックプレフィックスを構成することはできなくなる。
【0019】
〔3〕<既知信号の系列及び送信すべき情報を生成するデータ処理部>
項2の無線送信装置は、前記既知信号の系列及び前記情報信号を生成して前記スロット生成部に供給するデータ処理部を有する。
【0020】
データ処理部の制御でスロット及びシンボルのフォーマットを容易に制御可能になる。
【0021】
〔4〕<既知信号のビット長を可変制御>
項3の無線通信装置において、前記データ処理部は前記伝播路の無線通信状態が良好なほどビット長を短くする所定の規則に従って前記既知信号のビット長を可変に設定して前記スロット生成部に供給する。
【0022】
無線通信状態が良好な場合は既知信号の少ないビット数で良好な伝送路推定を可能にするから、そのときは既知信号のビット数を少なくして情報信号の伝送スループットの向上を優先させることができる。
【0023】
〔5〕<既知信号のビット長を受信感度に応じて制御>
項4の無線送信装置は受信感度の検出部を有し、前記データ処理部は、前記検出部による受信感度に応じて前記既知信号のビット長を設定する。
【0024】
伝送路推定の追従性と情報信号の伝送スループットとをダイナミックにコントロールすることによって無線通信の安定化に資することができる。
【0025】
〔6〕<シンボルの後端部の領域を既知信号のビット長可変領域とする>
項5の無線通信装置において、前記データ処理部は、前記既知信号が配置される領域のうち前記シンボルの後端部に配置される領域をビット長可変の対象として制御する。
【0026】
シンボルに対するサイクリックプレフィックス領域のフォーマットを一定に維持して、他のスロットフォーマットとの互換性を増すことが可能になる。
【0027】
〔7〕<シンボル内のポストフィックス領域が既知信号>
項1の無線通信装置において、前記既知信号の系列が分割配置される領域は、前記各シンボルの後端部に配置される領域である。
【0028】
伝送路推定の追従性向上という点では項2に比べてわずかに劣るが、情報信号の末尾のコピーによってサイクリックプレフィックスを構成するシンボルフォーマットを維持することができ、そのようなサイクリックプレフィックスを有する他のスロットフォーマットとの互換性を増すことが可能になる。
【0029】
〔8〕<既知信号が分割配置されたシンボルを処理する無線受信装置>
本発明の別の実施の形態に係るOFDM方式による無線通信を行う無線受信装置は、項1に記載の無線送信装置から送信されたRF信号をベースバンド信号に変換する無線受信部と、前記無線受信部によって変換されたベースバンド信号に対してフーリエ変換を行って周波数領域のシンボルを生成するフーリエ変換部と、フーリエ変換部で変換されたシンボルに含まれる既知信号と情報信号を抽出する抽出部と、を有する。
【0030】
移動体通信システムの基地局などに適用される無線受信装置は受信した既知信号を用いることにより、移動体通信端末などに適用される無線送信装置の位置が時々刻々と変化する場合にも伝播路の推定精度を向上させて無線通信を行うことができる。
【0031】
〔9〕<既知信号の可変ビット長に対応する無線受信装置>
本発明の更に別の実施の形態に係るOFDM方式による無線通信を行う無線受信装置は、項5に記載の無線送信装置から送信されたRF信号をベースバンド信号に変換する無線受信部と、前記無線受信部によって変換されたベースバンド信号に対してフーリエ変換を行って周波数領域のシンボルを生成するフーリエ変換部と、フーリエ変換部で変換されたシンボルに含まれる既知信号と情報信号を抽出する抽出部とを有し、前記抽出部は、前記無線送信装置が決定した前記既知信号のビット長を取得し、取得したビット長にしたがってシンボルから既知信号を抽出する。
【0032】
移動体通信システムの基地局などに適用される無線受信装置は、移動体通信端末などに適用される無線送信装置が通信状態に応じたビット数で送信してきた既知信号のビット数を取得することができるから、送信されてきたシンボルから既知信号を容易に取得することができる。
【0033】
2.実施の形態の詳細
実施の形態について更に詳述する。
【0034】
《実施の形態1》
図2には本発明の第1の実施の形態に係る無線送信装置が例示される。同図に示される無線送信装置1はOFDMによる無線通信を行い、例えば移動体通信システムに利用される携帯電話機のような移動体通信端末に適用される。即ち、アップリンク伝送に利用される無線送信装置1とされる。この無線送信装置1はデータ処理部2、スロット生成部3、逆フーリエ変換処理部(IFFT処理部)4、無線送信部としての帯域変調部5及びアンテナ6を有する。
【0035】
スロット生成部3は、無線通信の伝播路を確定するための既知信号の系列と送信すべき情報を変調した情報信号とを所定のシンボル長を持つ複数のシンボルに配置してスロットを生成する。
【0036】
逆フーリエ変換処理部4は、前記スロット生成部3で生成されたスロットに配置されたシンボルに対して逆フーリエ変換を行って時間領域のOFDM信号を生成する。
【0037】
帯域変調部5は、逆フーリエ変換処理部4で生成されたOFDM信号を所定の無線通信周波数帯域に変調し、RF信号としてアンテナ5から送信する。
【0038】
データ処理部2は前記既知信号の系列及び前記情報信号を生成して前記スロット生成部3に供給する。データ処理部2はプログラム処理装置としてのプロセッサ、アクセラレータ及び其の周辺回路によって実現され、移動体通信端末のための通信プロトコル処理、さらには移動体通信端末のための表示制御などに適用される。情報信号生成部20はペイロードを構成する送信データの生成を行う。既知信号生成部21は移動体通信システムの基地局において既知とされる既知信号としてのリファレンス信号を生成する。
【0039】
OFDMによる無線通信で従来から使用されるスロットフォーマットの例として図1のSLT_prvがある。このフォーマットのスロットSLT_prvは、特に制限されないが、7個のシンボルSMBLで1個のスロットを構成し、1個のシンボルSMBLは情報信号としてのペイロードxと、ガードバンドとしてのサイクリックプレフィックスCPとを有する。3GPPのLTEの場合、サイクリックプレフィックスCPは1stに対応される先頭シンボルSMBLが160ビット、そのほかのサイクリックプレフィックスCPは144ビットであり、ペイロードxは2048ビットとされる。このとき1個のシンボルSMBLにリファレンス信号SIG_refが配置される。リファレンス信号SIG_refは受信側の基地局では既知の信号とされ、基地局では受信したリファレンス信号SIG_refの受信波から抽出した信号に基づいて複数反射波の到来時刻や振幅などを推定することによって伝送路の推定を行う。
【0040】
一方、スロット生成部3が生成するスロットは図1のSLT_advで示されるフォーマットを有する。即ち、スロットSLT_advは、リファレンス信号の系列を分割してスロット内の各シンボルSMBLに配置したフォーマットを有する。SIGDIV_refが分割されたリファレンス信号である。個々のSIGDIV_refも受信側の基地局では既知の信号とされ、基地局では受信したリファレンス信号SIGDIV_refの受信波から抽出した信号に基づいて複数反射波の到来時刻や振幅などを推定することによって伝送路の推定を行う。この場合には、スロットSLT_prvに示されるようなリファレンス信号SIG_refだけのシンボルは不要になる。
【0041】
分割されたリファレンス信号SIGDIV_refが配置される領域は、各シンボルSMBLにおける領域α及びβの双方を利用する第1配置形態、又は各シンボルSMBLにおける領域βだけを利用する第2配置形態が考えられる。領域αは従来のスロットフォーマットSLT_prvにおけるガードバンドとしてのサイクリックプレフィックスCPの領域であり、シンボルSMBLの先頭に設けられた領域である。領域βはシンボルSMBLの後端部に設けられた領域である。このときペイロードはyとされる。
【0042】
第1配置形態又は第2配置形態の何れにおいても、1シンボルに割り当てられたリファレンス信号SIGDIV_refhの系列が各シンボルに分散配置されるから、スロット単位で見たときのペイロードンの伝送スループットは低下せず、シンボル単位で伝播路の推定を行うことが可能になる。1シンボルにまとめて既知信号の系列が配置される場合に比べるとシンボル毎の既知信号のビット長は短くなり、シンボル毎に得られる伝播路推定による相関は小さくなるが、シンボル単位で伝播路の推定を行うことによって伝送路推定の追従性が良くなる。したがって、スループットを低下させずに伝播路の推定精度向上に資することができる。
【0043】
特に第1配置形態では、シンボルの後端部に配置された領域βだけでなくサイクリックプレフィックスの領域αもリファレンス信号SIGDIV_refの配置に流用することにより、シンボル単位で見たときのリファレンス信号SIGDIV_refのビット数が多くなるから伝送路推定の追従性が更に向上し、リファレンス信号SIGDIV_refの配置に流用されたサイクリックプレフィックスの領域αは依然としてガードバンドとして機能を維持することができる。ただしこの場合には、情報信号の末尾のコピーによってサイクリックプレフィックスCPを構成することはできなくなる。
【0044】
第2配置形態では、伝送路推定の追従性向上という点では第1配置形態に比べてわずかに劣るが、ペイロードの末尾のコピーによってサイクリックプレフィックスCPを構成するシンボルフォーマットを維持することができ、そのようなサイクリックプレフィックスCPを有する他のスロットフォーマットとの互換性を増すことが可能になる。
【0045】
第1配置形態を採用したときのリファレンス信号SIGDIV_refのビット数について具体的に説明する。例えば1stのシンボルSMBLにおけるCPを160サンプル、2nd乃至7thのシンボルSMBLにおけるCPを144サンプル、ペイロードの長さを2048サンプルとする。この定義を下記の如く、
CP(1st)=160 samples
CP(2nd 〜7th)=144 samples
The length of payload=2048 samples
のように記述する。なお、1サンプルは例えば1ビットと等価であるとする。
【0046】
図1のスロットフォーマットSLT_prvにおいて、リファレンス信号のビット数(エネルギー)がスロット全体のビット数(エネルギー)に占める割合(Reference samples / Total samples)、及びペイロードのビット数(エネルギー)がスロット全体のビット数(エネルギー)に占める割合(Payload samples / Total samples)は、スロットSLT_prvの全サンプル数(Total samples)と、リファレンス信号SIG_refの全サンプル数(Reference samples)と、ペイロードの全サンプル数(Payload samples)に関する以下の式、
Total samples=15360 samples
Reference samples=2048+144=2192 samples
Payload samples =2048*6=12288 samples
により、
∴Reference samples / Total samples=2192/15360=14.27%
∴Payload samples / Total samples=12288/15360=80%
と見積もられる。
【0047】
一方、図1のスロットフォーマットSLT_adv内の領域α及びβにリファレンス信号SIGDIV_refの系列を分割配置したときの、リファレンス信号のビット数(エネルギー)がスロット全体のビット数(エネルギー)に占める割合(Reference samples / Total samples)、及びペイロードのビット数(エネルギー)がスロット全体のビット数(エネルギー)に占める割合(Payload samples / Total samples)は、ペイロードサンプル数が上記12288 samplesに匹敵する(12288/7=1756)ことを条件とし、以下の式、
Total samples=15360 samples
Reference samples=(2048-1756)*7+(160+144*6)=2044+1024=3068 samples
Payload samples =1756*7=12292 samples
により、
∴Reference samples / total samples=3068/15360=19.96%
∴Payload samples / Total samples=12292/15360=80.03%
と見積もられる。
【0048】
これにより、スロット単位で見たときスロットSLT_advにおけるリファレンス信号SIGDIV_refの系列のビット数が、スロットSLT_prvにおけるリファレンス信号SIG_refのビット数よりも5.69%増加する。このとき、スロットSLT_advにおけるデータ伝送のスループットはスロットSLT_prvにおけるデータ伝送のスループットを少なくとも維持している。したがって、スロットSLT_advのフォーマットを採用することにより、伝送するープットの劣化を生ずることなくリファレンス信号のエネルギー(ビット数)を増大させることができるため、伝送路推定の追従特性の向上と共に、同期検出性能の向上を期待することができる。伝播路が時々刻々と変化していく中で同期検出の精度、伝送路推定の追従性を容易に高めることができるので、無線受信装置を構成するために使用する部品コストの削減にも貢献する。
【0049】
図3には、図2の無線送信装置1から送信された信号を受信して処理する無線受信装置が例示される。同図に示される無線受信装置11は、OFDMによる無線通信を行い、例えば移動体通信システムに利用される基地局に適用され、アップリンク伝送における無線受信に用いられる。この無線受信装置11は、アンテナ12、無線受信部としての帯域復調部13、フーリエ変換部(FFT処理部)14、抽出部15及びデータ処理部16を有する。
【0050】
帯域復調部13は図2に記載の無線送信装置1から送信されたRF信号をアンテナ12で受信してベースバンド信号に変換する。フーリエ変換部14は前記帯域復調部13によって変換されたベースバンド信号に対してフーリエ変換を行って周波数領域のシンボルを生成する。抽出部15はフーリエ変換部14で変換されたシンボルに含まれる既知信号と情報信号を抽出する。データ処理部16は抽出された既知信号を用いて伝送路の推定を行い、推定された伝送路に好適な受信動作を制御する。受信した情報信号に対しては所定のデータ処理を行う。移動体通信システムの基地局などに適用される無線受信装置11は受信した既知信号を用いることにより、移動体通信端末などに適用される無線送信装置1の位置が時々刻々と変化する場合にも伝播路の推定精度を向上させて無線通信を行うことができる。
【0051】
《実施の形態2》
図4には無線通信状態に応じて既知信号のビット長を可変にする無線送信装置1Aが例示される。実施の形態1で説明した図2の無線送信装置1との相違点はデータ処理部2Aが生成する既知信号のビット長を可変に制御する点である。その他の構成は実施の形態1の図2の場合と同様であり、同一機能を有する機能ブロックには同じ参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0052】
データ処理部2Aは、前記伝播路の無線通信状態が良好なほどビット長を短くする所定の規則に従って既知信号としてのリファレンス信号SIGDIV_refのビット長を可変に設定して前記スロット生成部3に供給する。ここでは、特に制限されないが、前記データ処理部2Aは、前記シンボルの後端部に配置された領域βの最大ビット長をビット長可変幅とし、領域αに対してはビット長可変の対象とはしないものとする。これは、シンボルのサイクリックプレフィックスCPを領域αに規定のビット長で備えるスロットフォーマットとの互換性を増すためである。
【0053】
領域βのビット長を可変制御するために、伝送路の無線通信状態を受信信号の電界強度によって検出する受信レベル検出部7が設けられ、データ処理部2Aはその検出レベルRSSIを受け取る。データ処理部2Aは、領域βの規定ビット数が設定されたレジスタ22と、検出レベルに応じて領域βのビット数を演算する演算部23を有し、演算部23で演算されたビット数の値又はレジスタ22が保有するビット数の値をセレクタ24が検出レベルRSSIに応じて選択して前記情報信号生成部20及び既知信号生成部21に与える。以下領域βに割り当てられるビット数を単にβ値とも記す。特に制限されないが、領域βに割り当てるβ値は大、中、小の3段階とする。レジスタ22が保有する規定ビット数のβ値は中段階のビット数である。演算部23は検出レベルRSSIに応じて大段階のビット数又は小段階のビット数を演算する。セレクタ24は検出レベルRSSIに応じてレジスタ22の出力又は演算部23の出力を選択する。
【0054】
既知信号生成部21はセレクタ24から供給されたβ値に応じたビット数と領域αの規定のビット数とで決定されるビット数でリファレンス信号SIGDIV_refを生成する。
【0055】
情報信号生成部20はβ値で示されるビット数と領域αのビット数とで決まるビット数でペイロードの情報信号を生成する。
【0056】
演算部23とセレクタ24によるβ値の演算及び選択機能について図5をも参照しながら説明する。受信レベル検出部7は所定インターバルで検出した直近の複数の検出値を単純移動平均又は加重移動平均することによって検出レベルRSSIを生成する(S1)。演算部23は検出レベルRSSIが所定の閾値LVth1よりも小さいときは大きなβ値を演算し(S2)、逆に、検出レベルRSSIが所定の閾値LVth2よりも大きいときは小さなβ値を演算し(S3)、セレクタ24は何れの場合にも演算部23の出力を選択して出力する(S2,S3)。一方、演算部23は検出レベルRSSIが所定の閾値LVth1以上又は閾値LVth2以下のときはβ値の演算を休止し、セレクタ24はレジスタ22の規定β値を選択して出力する(S4)。
【0057】
領域βのビット長(β値)を可変制御することにより、無線通信状態が良好な場合はリファレンス信号SIGDIV_refの少ないビット数で伝送路推定を可能にするから、そのときはリファレンス信号SIGDIV_refのビット数を少なくして情報信号の伝送スループットの向上を優先させることができる。逆に、無線通信状態が劣悪な場合はリファレンス信号SIGDIV_refの大きなビット数で伝送路推定精度の向上を可能にする。特に、伝送路推定の追従性と情報信号の伝送スループットとをダイナミックにコントロールすることによって無線通信の安定化に資することができる。
【0058】
図6には図4の無線送信装置1Aから送信された信号を受信して処理する無線受信装置11Aが例示される。実施の形態1で説明した図3の無線送信装置1との相違点は、抽出部15Aが前記無線送信装置1Aが決定したリファレンス信号SIGDIV_refのビット長を取得し、取得したビット長にしたがってシンボルから既知信号を抽出することである。例えば、無線送信装置1Aが検出した受信レベルを受信レベル検出部17で検出して抽出部15Aに与える。受信レベル検出部17は、特に制限されないが、受信レベル検出部7と同じ構成を備え、無線送信装置1Aからの送信信号受信時における受信レベルを検出し、検出レベルに応じてβ値を生成し、生成したβ値を抽出部15Aに与える。これによって抽出部15Aはリファレンス信号SIGDIV_refのビット長を取得する。その他の構成は実施の形態1の図3の場合と同様であり、同一機能を有する機能ブロックには同じ参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0059】
移動体通信システムの基地局などに適用される無線受信装置11Aは、移動体通信端末などに適用される無線送信装置1Aが通信状態に応じたビット数で送信してきたリファレンス信号SIGDSIV_refのビット数を取得することができるから、送信されてきたシンボルからリファレンス信号SIGDSIV_refを容易に取得することができる。
【0060】
無線送信装置1Aと無線受信装置11Aによる移動体通信システムにおいて、悪条件な伝播路では、スループットを向上するためにβ値を小さくした場合、リファレンス信号SIGDIV_refにより同期確立の精度が低下し、正しく受信することは出来ない。このようなケースでは、β値が大きくされることで相関値が向上し、無線送信装置1Aが適用された移動体通信端末と無線受信装置11Aが適用された基地局との間の同期耐性を強めることができる。従来は1スロット毎に伝送路推定していたのに対し、各シンボル毎に伝送路推定することができるから、伝播路の変化により正確に追従することができる。結果的に、従来に比べ伝播路推定精度を高めることが出来る。逆に、静的な伝播路においては、βを小さくすることでスループットを向上させることができる。
【0061】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0062】
例えば、無線送信装置は移動体通信端末に適用される場合に限定されず、移動体通信システムの基地局などに適用することも可能である。同様に、無線受信装置は移動体通信システムの基地局に適用される場合に限定されず、移動体通信端末などにも適用することが可能である。
【0063】
また、OFDMによる無線通信の通信フレーム、スロット、シンボルについては本発明が適用される通信気買う若しくは通信プロトコルに応じて適宜変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
1 無線送信装置
2 データ処理部
3 スロット生成部
4 逆フーリエ変換処理部(IFFT処理部)
5 帯域変調部
6 アンテナ
20 情報信号生成部
21 既知信号生成部
SLT_adv スロットフォーマット
SMBL シンボル
SIG_ref リファレンス信号
SIGDIV_ref 分割されたリファレンス信号
11 無線受信装置
12 アンテナ
13 帯域復調部
14 フーリエ変換部(FFT処理部)
15 抽出部
16 データ処理部
1A 無線送信装置
2A データ処理部
22 レジスタ22
23 演算部
24 セレクタ
RSSI 検出レベル
11A 無線受信装置
15A 抽出部
17 受信レベル検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OFDM方式による無線通信を行う無線送信装置であって、
無線通信の伝播路を確定するための既知信号の系列と送信すべき情報を変調した情報信号とを所定のシンボル長を持つ複数のシンボルに配置してスロットを生成するスロット生成部と、
前記スロット生成部で生成されたスロットに配置されたシンボルに対して逆フーリエ変換を行って時間領域のOFDM信号を生成する逆フーリエ変換処理部と、
逆フーリエ変換処理部で生成されたOFDM信号を所定の無線通信周波数帯域に変調し、RF信号として送信する無線送信部と、を有し、
前記スロット生成部は夫々のシンボルに前記既知信号の系列を分割して配置する、無線送信装置。
【請求項2】
前記既知信号の系列が分割配置される領域は、前記シンボルの先頭に配置されたサイクリックプレフィックスの領域及び前記シンボルの後端部に配置される領域である、請求項1記載の無線送信装置。
【請求項3】
前記既知信号の系列及び前記情報信号を生成して前記スロット生成部に供給するデータ処理部を有する、請求項2記載の無線送信装置。
【請求項4】
前記データ処理部は前記伝播路の無線通信状態が良好なほどビット長を短くする所定の規則に従って前記既知信号のビット長を可変に設定して前記スロット生成部に供給する、請求項3記載の無線送信装置。
【請求項5】
受信感度の検出部を有し、
前記データ処理部は、前記検出部による受信感度に応じて前記既知信号のビット長を設定する、請求項4記載の無線送信装置。
【請求項6】
前記データ処理部は、前記既知信号が配置される領域のうち前記シンボルの後端部に配置される領域をビット長可変の対象として制御する、請求項5記載の無線送信装置。
【請求項7】
前記既知信号の系列が分割配置される領域は、前記各シンボルの後端部に配置される領域である、請求項1記載の無線送信装置。
【請求項8】
OFDM方式による無線通信を行う無線受信装置であって、
請求項1に記載の無線送信装置から送信されたRF信号をベースバンド信号に変換する無線受信部と、
前記無線受信部によって変換されたベースバンド信号に対してフーリエ変換を行って周波数領域のシンボルを生成するフーリエ変換部と、
フーリエ変換部で変換されたシンボルに含まれる既知信号と情報信号を抽出する抽出部と、を有する、無線受信装置。
【請求項9】
OFDM方式による無線通信を行う無線受信装置であって、
請求項5に記載の無線送信装置から送信されたRF信号をベースバンド信号に変換する無線受信部と、
前記無線受信部によって変換されたベースバンド信号に対してフーリエ変換を行って周波数領域のシンボルを生成するフーリエ変換部と、
フーリエ変換部で変換されたシンボルに含まれる既知信号と情報信号を抽出する抽出部と、を有し、
前記抽出部は、前記無線送信装置が決定した前記既知信号のビット長を取得し、取得したビット長にしたがってシンボルから既知信号を抽出する、無線受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−199750(P2012−199750A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62140(P2011−62140)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】