説明

無線通信システム、情報提供装置、移動体端末、及び移動体端末へ情報を提供する方法

【課題】ダウンリンクを一対多通信で行う。
【解決手段】移動体端末3との間で無線通信を行う無線通信機2を介して、前記移動体端末3へ情報を提供する無線通信システム1であって、前記移動体端末3は、複数の前記移動体端末3が受信可能である一対多の無線通信によって送信された第1ダウンリンク情報を受信可能であるとともに、一対一通信によって送信された第2ダウンリンク情報を受信可能である。さらに、前記移動体端末3は、一対一の無線通信によってアップリンク情報を送信可能である。前記第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報は、前記移動体端末3が前記第1ダウンリンク情報及び前記第2ダウンリンク情報の双方を用いた情報処理を行うことで、前記移動体端末3において使用される情報が得られるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、道路に設置されたインフラ装置から受信した情報を活用することで車両の安全性を向上させる高度道路交通システム(ITS;Intelligent Transport Systems)が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2806801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ITSでは、車両への交通情報等の情報提供のために、路側機(RSU;Road Side Unit)から車両に対して情報を送信するためのダウンリンクが必要である。
また、より適切な情報提供のためには、車両から路側機に対して、車両の走行データなどの情報(Probe Data;Floating Car Data)を送信するアップリンクが実現されるのが好ましい。アップリンクによって車両から情報を得ることで、ITSを管理するコンピュータは、交通情報を更新し、車両に対して、より適切な情報提供を行うことができる。
【0005】
ここで、本発明者らは、ITSのための通信システムとして、携帯電話用に整備された移動体通信システムを利用するという着想を得た。ところが、携帯電話用の移動体通信システムでは、一対一通信を基本としている。そのため、路側機と車両との間で、一対一の通信コネクションを確立した上で、ダウンリンク及びアップリンクの通信を行う必要が生じる。
【0006】
具体的には、まず、車両に搭載された移動体端末から、路側機に対して、通信コネクションの確立を要求する。路側機は、当該要求を行った移動端末との間でのみ利用可能な無線リソース(無線通信帯域など)を割り当てて、通信コネクションを確立させる。通信コネクションが確立すると、移動体端末と路側機との間で、一対一のダウンリンク及びアップリンクの通信を行うことができる。
【0007】
しかし、単に、携帯電話通信システムを、ITS用に使用すると、交通量が多くなり、車両に搭載された移動体端末の数が多くなると、その分、無線リソースが多く必要となる。このため、交通量が多い場所では、予め、無線リソースを多く準備しておく必要がある。
また、ダウンリンクによって送信されるデータ量は、アップリンクに比べて大きいため、ダウンリンクのデータを送信するために多くの無線リソースを、車両毎に割り当てる必要が生じ、無線リソースの枯渇が懸念される。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、移動体端末との間で無線通信を行う無線通信機を介して、前記移動体端末へ情報を提供する無線通信システムであって、前記移動体端末は、複数の前記移動体端末が受信可能である一対多の無線通信によって送信された第1ダウンリンク情報を受信可能であるとともに、一対一通信によって送信された第2ダウンリンク情報を受信可能であり、さらに、前記移動体端末は、一対一の無線通信によってアップリンク情報を送信可能であり、前記第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報は、前記移動体端末が前記第1ダウンリンク情報及び前記第2ダウンリンク情報の双方を用いた情報処理を行うことで、前記移動体端末において使用される情報が得られるように形成されている無線通信システムである。
【0010】
上記本発明によれば、第1ダウンリンク情報は、一対多の無線通信によって送信されるため、移動体端末が多くなっても無線資源の増加を抑えることができる。しかも、移動体端末は、一対一の無線通信によって受信した第2ダウンリンクも受信する必要があるため、一対一の無線通信によるアップリンク情報の送信が行われることも期待できる。
【0011】
(2)前記第1ダウンリンク情報は、暗号化された情報を含み、前記第2ダウンリンク情報は、暗号化された前記第1ダウンリンク情報を復号するための復号用情報を含むのが好ましい。この場合、暗号化された情報を復号用情報で復号することができる。
【0012】
(3)前記第2ダウンリンク情報は、前記第1ダウンリンク情報の一部にのみ関連した情報を含むのが好ましい。
【0013】
(4)前記第1ダウンリンク情報は、交通情報を含み、前記アップリンク情報は、前記移動体端末の位置情報を含むのが好ましい。
【0014】
(5)前記第1ダウンリンク情報は、前記アップリンク情報に基づいて更新される情報を含むのが好ましい。
【0015】
(6)前記復号用情報は、使い捨て型の復号用情報であるのが好ましい。
【0016】
(7)前記移動体端末は、前記第1ダウンリンク情報を受信可能な状態になると、前記一対一通信によってアップリンク情報を送信するのが好ましい。
【0017】
(8)前記第2ダウンリンク情報は、前記アップリンク情報の内容に応じて変化するのが好ましい。
【0018】
(9)前記第2ダウンリンク情報は、前記アップリンク情報において第2ダウンリンク情報に含めるよう要求されたオプション情報を含むのが好ましい。
【0019】
(10)他の観点からみた本発明は、移動体端末との間で無線通信を行う無線通信機を介して、前記移動体端末へ情報を提供する情報提供装置であって、複数の前記移動体端末が受信可能である一対多送信によって前記無線通信機が送信する第1ダウンリンク情報を、前記無線通信機に与える第1情報提供部と、前記移動体端末との一対一通信によって前記無線通信機が送信する第2ダウンリンク情報を、前記無線通信機に与える第2情報提供部と、前記移動体端末から前記一対一通信によって前記無線通信機に送信されたアップリンク情報を、前記無線通信機を介して取得する取得部と、を備え、前記第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報は、前記移動体端末が前記第1ダウンリンク情報及び前記第2ダウンリンク情報の双方を用いた情報処理を行うことで、前記移動体端末において使用される情報が得られるように形成されている情報提供装置である。
【0020】
(11)他の観点から見た本発明は、無線通信機との間で無線通信を行う移動体端末であって、他の移動体端末も受信可能である一対多の無線通信によって送信された第1ダウンリンク情報を受信可能であり、かつ、一対一の無線通信によって送信された第2ダウンリンク情報を受信可能である受信部と、前記一対一通信によってアップリンク情報を送信可能である送信部と、受信した前記第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報の双方を用いた情報処理を行う情報処理部と、を備える移動体端末である。
【0021】
(12)他の観点からみた本発明は、前記移動体端末へ情報を提供する方法であって、複数の前記移動体端末が受信可能である一対多の無線通信によって送信された第1ダウンリンク情報を、前記移動体端末に受信させるステップと、前記移動体端末が、一対一の無線通信によってアップリンク情報を送信するステップと、前記一対一通信によって送信された第2ダウンリンク情報を、前記移動体端末に受信させるステップと、前記移動体端末が、受信した前記第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報の双方を用いた情報処理を行って得られた情報を使用するステップと、を含む方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、移動体端末が多くなっても無線資源の増加を抑えることができる。しかも、移動体端末は、一対一の無線通信によって受信した第2ダウンリンクも受信する必要があるため、一対一の無線通信によるアップリンク情報の送信が行われることも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】無線通信システムの全体構成図である。
【図2】ITSサーバと移動体端末の構成図である。
【図3】第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報の例を示す図である。
【図4】第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報の例を示す図である。
【図5】第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報の例を示す図である。
【図6】第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報の例を示す図である。
【図7】変形例に係る無線通信システムの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[1.システムの全体構成]
図1は、移動体通信システム(無線通信システム)1を利用した高度道路交通システムを示している。
移動体通信システム1は、複数の基地局(無線通信機)2を備えている。基地局2は、車両に搭載された車載機などの移動体端末(携帯電話を含む)3との間で無線通信を行う。本実施形態において、移動体通信システムは、LTE(Long Term Evolution)に準拠したものであるが、通信規格がLTEに限定されるものではない。
【0025】
複数の基地局2は、移動体通信ネットワーク4を介して接続されている。移動体通信ネットワーク4は、ゲートウェイ(図2参照)41を有しており、基地局2は、ゲートウェイ41を介して、ITSサーバ(情報提供装置)5と接続されている。
ITSサーバ5は、交通情報などの車両に有益な情報を生成する。ITSサーバ5は、生成した情報を、移動体通信ネットワーク4の基地局2を介して、移動体端末3に提供する。本実施形態では、車両に搭載された移動体端末3との間の無線通信は、携帯電話などの移動体端末向けに整備された移動体通信システム(携帯電話用の通信システム)を利用して行えるため、車両との間の無線通信専用の無線通信機(路側機)を別途設置する必要がない。
【0026】
ITSサーバ5は、車両側からプローブデータなどの情報を取得して、交通情報を更新する。したがって、ITSサーバ5は、車両側から多くの情報を得たほうが、より適切な交通情報を生成することができる。なお、ITSサーバ5は、光ビーコン6などの路側センサや交通信号制御機7などの機器に対して有線通信回線にて接続されている。ITSサーバ5は、各種センサから取得した情報に基づいて交通情報を更新することもできる。また、ITSサーバ5は、交通信号制御機7を制御することもできる。
【0027】
図2に示すように、ITSサーバ(情報提供装置)5は、第1情報提供部51、第2情報提供部52、取得部53、及び情報生成部54を備えている。
移動体端末3には、ITSサーバ5との間で通信するためのITS用アプリケーション(コンピュータプログラム)がインストールされている。ITS用アプリケーションは、移動体端末3が有するコンピュータを、受信部31、送信部32、及び情報処理部33として機能させる。
【0028】
ITSサーバ5の第1情報提供部51は、基地局2から送信される情報(ダウンリンク情報)のうち、複数の移動体端末3への一対多通信(ブロードキャスト又はマルチキャスト)によって移動体端末3へ送信される第1ダウンリンク情報を、移動体通信ネットワーク4へ提供するためのものである。
一対多通信は、例えば、LTEでは、MBMS(Multimedia Broadcast Multicast Service)を利用することができる。MBMSは、トランスポートチャネルとしてMCHを使用し、論理チャネルとしてMCCHとMTCHを使用して伝送される。
LTEに準拠した場合、第1情報提供部51は、LTEにおけるBMSC(Broadcast Multicast Service Center)として機能する。
【0029】
第2情報提供部52は、基地局2から送信される情報(ダウンリンク情報)のうち、移動体端末3との一対一通信(ユニキャスト)によって移動体端末3へ送信される第2ダウンリンク情報を、移動体通信ネットワーク4へ提供するためのものである。
【0030】
取得部53は、移動体端末3から一対一通信によって基地局2に送信された情報(アップリンク情報)を、移動体通信ネットワーク4を介して取得するためのものである。
【0031】
第1ダウンリンク情報は、1又は複数の基地局がカバーするエリア内又はエリア近傍に属する交通信号制御機の信号情報・道路における交通状況情報(リンク旅行時間、渋滞度及び/又は渋滞長さ、平均走行速度等)、事故又は災害等の事象情報、交通規制に関する情報などの交通情報を含むことができる。
第1情報提供部51は、送信される第1ダウンリンク情報の一部又は全部を、暗号化する。一部又は全部が暗号化された第1ダウンリンク情報が、ゲートウェイ(BMSC−GW)41に与えられる。ゲートウェイ41は、各基地局2に対して、第1ダウンリンク情報を配信する。
【0032】
第1ダウンリンク情報を取得した基地局2は、自己の通信エリア(セル)内の移動体端末3に対して、一部又は全部が暗号化された第1ダウンリンク情報をブロードキャスト又はマルチキャストで送信する。
【0033】
ITS用アプリケーションが実行されている移動体端末3では、受信部31が、基地局2から送信された第1ダウンリンク情報を受信することができる。一対多通信で送信される第1ダウンリンク情報は、基地局2との間で一対一通信コネクションを確立していなくても移動体端末3にて受信できる。したがって、移動体端末3は、第1ダウンリンク情報を受信する際には、一対一通信コネクションの確立処理が不必要となる。また、データ通信料金の発生も回避できる。
【0034】
なお、一対多通信を行う無線通信機は、一対一通信を行う無線通信機とは別の無線通信機(例えば、ITS用の専用の無線通信機)であってもよい。この場合、一対一通信を行う無線通信機が、ブロードキャスト又はマルチキャストの機能を有していなくてもよいことになる。また、この場合のITS用の専用の無線通信機は、例えば、IEEE802.11pをベースとしたWAVE(Wireless Access in Vehicular Environments)やDSRC(Dedicated Short Range Communications)等に準拠した通信機とすることができる。
【0035】
第1ダウンリンク情報をブロードキャスト又はマルチキャストで送信することで、各移動体端末3に対して個別に無線リソースを割り当てる必要がなく、第1ダウンリンク情報の情報量が大きくても、無線リソースの枯渇のおそれが低減される。
【0036】
車両に搭載された移動体端末3の送信部32は、移動体端末3は、第1ダウンリンク情報を受信可能な状態になると、現在の位置情報、現在時刻、過去の走行軌跡などのアップリンク情報(プローブデータ)を、基地局2に対して一対一通信で送信する。なお、移動体端末3は、第1ダウンリンク情報が受信できない状態では、アップリンク情報を送信しないことが望ましい。これにより、第1ダウンリンク情報が受信できないのに、わざわざアップリンク情報を送信してしまうことを防止できる。
【0037】
移動体端末3と基地局2との一対一通信(ユニキャスト)のコネクションの確立は、移動体端末3からITSサーバ5に設定されたIPアドレス(URL)等の通信ネットワーク上でITSサーバ5へのアクセスを希望する者のために付与されているアドレスへの接続開始処理を契機として行われる。なお、移動体端末3と基地局2との一対一通信のコネクションの確立は、移動体端末3がITSサービス用に予め用意された電話番号へ発信することで行われても良い。
【0038】
移動体端末3から基地局2に送信されたアップリンク情報は、基地局2から移動体通信ネットワーク4及びインターネットを介して、ITSサーバ5に送信される。ITSサーバ5の取得部53は、基地局2から取得したアップリンク情報を、情報生成部54に与える。情報生成部54は、取得部53が取得したアップリンク情報に基づいて、第1ダウンリンク情報として提供される交通情報を更新することができる。
【0039】
アップリンク情報に含まれるプローブデータには、少なくとも、現在の移動体端末3の位置情報が含まれるが、過去の複数の位置情報(走行軌跡についての情報)を含んでいても良い。また、車両に搭載された機器又はセンサの状態を示す情報(走行速度、ワイパーが動作しているか否か、車両に搭載されたABS(Antilock Brake System)の動作状況、乗車人数、先行車両及び後続車両との車間距離などの情報)を含んでいても良い。
【0040】
ITSサーバ5は、移動体端末3からアップリンク情報を取得すると、第2情報提供部52は、暗号化された第1ダウンリンク情報を復号するための復号用情報である復号キー(第2ダウンリンク情報)を、移動体通信ネットワーク4側へ与える。
復号キー(第2ダウンリンク情報)は、アップリンク情報を送信した移動体端末3との間で一対一通信コネクションを確立している基地局2から、当該一対一通信によって、移動体端末3に対して送信される。送信された復号キー(第2ダウンリンク情報)は、移動体端末3の受信部31が受信する。
【0041】
このように、移動体端末3は、アップリンク情報の送信を行うと、その対価として、第2ダウンリンク情報を得ることができる。つまり、アップリンク情報の送信を行った移動体端末3は、第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報の双方を得ることができる。
【0042】
図3に示すように、移動体端末3の情報処理部33は、受信した第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報を組み合わせて必要な情報を得る。本実施形態では、第2ダウンリンク情報は、暗号化された第1ダウンリンク情報を復号するための復号キーである。したがって、情報処理部33は、復号キーを用いて第1ダウンリンク情報に対する復号処理を行うことで、復号された第1ダウンリンク情報(交通情報;移動体端末において使用される情報)を得ることができる。
【0043】
一方、アップリンク情報の送信を行わない移動体端末3は、復号キー(第2ダウンリンク情報)を得られないため、第1ダウンリンク情報を復号することができない。したがって、アップリンク情報の送信を行わない移動体端末3は、第1ダウンリンク情報を受信できても、必要な情報(交通情報)の一部又は全部が得られない。
【0044】
仮に、一対多通信で送信される第1ダウンリンク情報を受信するだけで、移動体端末3が必要な情報を得られるとすると、移動体端末3は、一対一通信コネクションを確立してまで、アップリンク情報を送信するメリットが乏しくなる。
【0045】
つまり、車両側の移動体端末3が、プローブデータのようなアップリンク情報を送信することは、個々の移動体端末3としては、元来、メリットが少ない。それにもかかわらず、移動体端末3が、基地局2との間で一対一通信コネクションを確立して通信を行おうとすると、移動体端末3が電力を消費してしまい、電池駆動タイプの移動体端末3の場合には不利であり、データ通信料金も発生する。
【0046】
一方、ITSサーバ5からすると、プローブデータのようなアップリンク情報をできるだけ多く収集することが望まれる。なぜなら、車両側の移動体端末3からのアップリンクによって収集されるプローブデータによって、ITSサーバ5は、より一層、交通状況を正確に把握できるようになるからである。その結果、ITSサーバ5側から移動体端末3に対して提供される交通情報が精度の高いものとなるとともに、交通信号制御機7などの交通インフラ機器の制御も適切なものとなる。
【0047】
このように、本実施形態では、アップリンク情報を送信した移動体端末3が復号キーを得られるようにしているため、ダウンリンク情報を得たい移動体端末3がアップリンク情報を送信することを促すことができる。
しかも、アップリンク情報を送信した移動体端末3に対して、一対一通信で第2ダウンリンク情報を送信しても、第2ダウンリンク情報(復号キー)は、第1ダウンリンク情報よりも情報量が少ないため、通信資源の枯渇のおそれは少ない。
【0048】
第2ダウンリンク情報として送信される復号キーは、使い捨て復号キーとして構成されている。復号キーを使い捨て型とすることで、復号キーが使えなくなったときに、アップリンク情報の再送信が行われることが期待できる。
【0049】
使い捨て復号キーは、例えば、有効期間内において有効であり、当該有効期間が経過すると使用できなくなる。例えば、有効期間が経過すると復号に必要な復号キーが変更されて古い復号キーでは復号できなくなるか、有効期間が経過すると、移動体端末3から削除されてもよい。
【0050】
有効期間は、例えば、3秒又は5秒といった時間とすることができ、基地局2がアップリンク情報の送信間隔として所望する時間間隔と同一又はそれよりも短い時間間隔とすることが好ましい。なお、通信資源を潤沢に有しない基地局2の場合は、有効期間を長く設定してもよい。
また、使い捨て復号キーは、復号回数(使用回数)に、1回又は数回程度の上限が設けられていることで、使い捨て型となっているものであってもよい。
【0051】
復号キーは、復号キーを送信した基地局2からの第1ダウンリンク情報の復号にのみ有効であってもよいし、特定の複数の基地局2(例えば、復号キーを送信した基地局装置及びその周辺の基地局)からの第1ダウンリンク情報の復号にのみ有効であってもよい。また、移動体端末3が所定の範囲の位置(例えば、復号キーを送信した基地局の通信エリアやその近傍)に存在する場合にのみ有効としてもよい。
【0052】
また、第1ダウンリンク情報は、全体が暗号化されている必要はない。第1ダウンリンク情報は、図4に示すように、非暗号化部分と、暗号化部分とを含んでいてもよい。この場合、復号キーは、暗号化部分を復号するために用いられる。非暗号化部分は、緊急的な通知(事故や災害等が発生したことを知らせる情報)又は、基地局の識別番号若しくは現在時刻の情報を含むことができる。また、非暗号化部分は、広告情報などであってもよい。
【0053】
第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報は、暗号化された情報及びその復号キーに限られるものではない。
例えば、第1ダウンリンク情報は、第1ダウンリンク情報単独では、移動体端末3にとって役に立たないか、情報の利用が困難になるような形式で形成することもでき、第1ダウンリンク情報に加えて第2ダウンリンク情報も得ることで、移動体端末3が使用する情報が得られるようにすることもできる。
【0054】
例えば、図5に示すように、第1ダウンリンク情報は、広域の交通情報であり、複数の地域毎の交通情報を有している。したがって、移動体端末3にとっては、第1ダウンリンク情報のすべてが必要な情報ではなく、一部だけが必要な情報である。アップリンク情報を送信した移動体端末3にとってどの地域の交通情報が必要かを示す関連箇所識別情報は、第2ダウンリンク情報として、移動体端末3に送信される。
【0055】
この場合も、移動体端末3の情報処理部33は、第1ダウンリンク情報と第2ダウンリンク情報とを用いた情報処理を行って、必要な情報を得る。具体的には、移動体端末3は、第2ダウンリンク情報(関連箇所識別情報)に基づいて、第1ダウンリンク情報(広域交通情報)を参照することで、移動体端末3にとって必要な情報(地域B)の交通情報を得ることができる。
【0056】
このように、第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報は、第1ダウンリンク情報に含まれる情報のうち、移動体端末3において用いられるべき信号を識別するための情報であってもよい。
また、第1ダウンリンク情報は、第1ダウンリンク情報単独では、簡素な情報しか得られないようになっており、第1ダウンリンク情報に加えて第2ダウンリンク情報も得ることで、移動体端末3が使用する情報の内容が高度化されるようにすることもできる。
例えば、第1ダウンリンク情報に含ませる交通信号制御機の信号情報のうち、青信号の表示時間については第1ダウンリンク情報から除外しておき、当該青信号の表示時間のみを第2ダウンリンク情報に含ませることで、移動体端末3が、第1ダウンリンク情報に加えて第2ダウンリンク情報の両者を統合させれば、移動体端末3にとって使用可能な情報となるようにすることもできる。
【0057】
図6に示すように、一対多通信で送信される第1ダウンリンク情報には、全ての車両の移動体端末3に対して共通して配信される情報(共通情報)とは別に、オプション情報を含めても良い。共通情報とオプション情報は、異なるキーによって暗号化されている。
移動体端末3が、アップリンク情報に、オプション情報要求を含めて送信すると、ITSサーバ5は、共通情報を復号するための復号キーのほか、オプション情報を復号するための第二の復号キーを第2ダウンリンク情報として基地局2に与える。移動体端末3は、基地局2から共通情報を復号するための復号キー及びオプション情報を復号するための第二の復号キーを取得して、共通情報及びオプション情報の双方を復号することができる。
【0058】
なお、この場合、オプション情報要求をせずにアップリンク情報を送信した移動体端末3は、共通情報を復号するための復号キーだけを取得する。
【0059】
図6に示すオプション情報は、第1ダウンリンク情報に含めずに、第2ダウンリンク情報に含めても良い。第2ダウンリンク情報にオプション情報を含める場合には、オプション情報を暗号化する必要はない。このように、アップリンク情報の内容に応じて、第2ダウンリンク情報の内容を変化させてもよい。
また、多くの有用な情報を含むアップリンク情報を送信した移動体端末3や所定時間あたりのアップリンク情報の送信回数が多い移動体端末3に対して、オプション情報を復号するための第二の復号キーを送信したり、第2ダウンリンク情報としてオプション情報を送信してもよい。
【0060】
なお、第2ダウンリンク情報にオプション情報を含めると、一対一通信の通信容量を大きくする必要が生じ、無線資源が枯渇することも予想される。したがって、オプション情報の要求があっても、要求する車両が多い場合には、第2ダウンリンク情報にオプション情報を含めずに送信したり、オプション情報のデータサイズを小さくして(オプション情報に含まれる情報のうちの一部を削除して)送信するようにしてもよい。
【0061】
また、オプション情報を要求する移動体端末3が少ない場合には、オプション情報を第2ダウンリンク情報に含める一方、オプション情報を要求する移動体端末3が多い場合には、オプション情報を第1ダウンリンク情報に含めるようにすることができる。なお、オプション情報を第1ダウンリンク情報に含めた場合には、オプション情報を復号するための復号キーが第2ダウンリンク情報として移動体端末3に与えられる。
【0062】
共通情報とオプション情報の区別に関し、例えば、一般的な交通情報(リンク旅行時間及びリンクの渋滞度のような道路の混雑状況を示す情報)は、共通情報とし、信号情報をオプション情報とすることができる。この場合、移動体端末3側が、単なる交通情報だけでなく、信号情報も必要とする場合には、アップリンク情報に、オプション情報要求を含めて送信すればよい。
【0063】
また、信号情報をオプション情報とした場合、交通信号機の設置された交差点を通過可能かどうかといった運転支援に関する情報を利用する車両(運転支援の機能を備えた車両)にのみ、オプション情報を送信することで、ダウンリンク情報の情報量を抑えることができる。なお、運転支援の機能を備えた車両であるか否かについては、例えば、機能の有無を示す情報をアップリンク情報に含めて送信することによって区別することができる。
また、交通情報は共通情報とし、車両(移動体端末3)の近傍エリアに存在する飲食店及び小売業店などの店舗に関する広告情報などをオプション情報としてもよい。
【0064】
また、共通情報は無料とし、オプション情報は有料とすることができる。オプション情報への課金は、オプション情報の復号キーの送信の際に行うことができる。
【0065】
図7は、無線通信システム1の変形例を示している。図7に示す無線通信システム1では、図1及び図2に示す無線通信システム1のITSサーバ5の機能が、ITSサーバ5と、処理装置8に分離されている。処理装置8は、移動体通信ネットワーク4内に設けられた装置である。
【0066】
図7に示すITSサーバ5は、図2に示すITSサーバ5の機能のうち、情報生成部54を備え、その他の機能(第1情報提供部51、第2情報提供部52、取得部53)は、処理装置8が備えている。
図7に示すITSサーバ5の情報生成部5は、処理装置8の取得部53が取得した情報に基づいて交通情報などの情報(第1ダウンリンク情報)を生成するが、ITSサーバ5側では情報(第1ダウンリンク情報)を暗号化せずに、生成した情報(第1ダウンリンク情報)を処理装置8に送信する。
【0067】
処理装置8の第1情報提供部51は、ITSサーバ5から受信した第1ダウンリンク情報の一部又は全部を暗号化し、基地局2から一対多通信によって移動体端末3に送信させる。そして、処理装置8の第2情報提供部52は、アップリンク情報に応じて、第2ダウンリンク情報(復号キー)を移動体端末に送信する。
【0068】
さらに、第1情報提供部51及び第2情報提供部52の機能は、ITSサーバ5及び処理装置8の双方が有していても良い。
【0069】
例えば、図6に示すように、第1ダウンリンク情報として、共通情報とオプション情報とがある場合に、ITSサーバ5の第1情報提供部51は、共通情報を暗号化して第1ダウンリンク情報の一部として基地局2に与え、ITSサーバ5の第2情報提供部52は、共通情報を復号するための復号キーを第2ダウンリンク情報の一部として基地局2に与える。
一方、処理装置8の第1情報提供部51は、オプション情報を暗号化して第1ダウンリンク情報の他の一部として基地局2に与え、処理装置8の第1情報提供部52は、オプション情報を復号するための第二復号キーを第2ダウンリンク情報の他の一部として基地局装置2に与えることができる。
【0070】
なお、前述した処理装置8の機能は、基地局2又は移動体通信ネットワーク内のその他の装置が有していても良い。
【0071】
本発明に関して、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0072】
1 無線通信システム
2 基地局(無線通信機)
3 移動体端末
4 移動体通信ネットワーク
5 ITSサーバ(情報提供装置)
6 光ビーコン
7 交通信号制御機
8 処理装置
41 ゲートウェイ
51 第1情報提供部
52 第2情報提供部
53 取得部
54 情報生成部
31 受信部
32 送信部
33 情報処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体端末との間で無線通信を行う無線通信機を介して、前記移動体端末へ情報を提供する無線通信システムであって、
前記移動体端末は、複数の前記移動体端末が受信可能である一対多の無線通信によって送信された第1ダウンリンク情報を受信可能であるとともに、一対一通信によって送信された第2ダウンリンク情報を受信可能であり、
さらに、前記移動体端末は、一対一の無線通信によってアップリンク情報を送信可能であり、
前記第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報は、前記移動体端末が前記第1ダウンリンク情報及び前記第2ダウンリンク情報の双方を用いた情報処理を行うことで、前記移動体端末において使用される情報が得られるように形成されている
無線通信システム。
【請求項2】
前記第1ダウンリンク情報は、暗号化された情報を含み、
前記第2ダウンリンク情報は、暗号化された前記第1ダウンリンク情報を復号するための復号用情報を含む
請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記第2ダウンリンク情報は、前記第1ダウンリンク情報の一部にのみ関連した情報を含む
請求項1又は2記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記第1ダウンリンク情報は、交通情報を含み、
前記アップリンク情報は、前記移動体端末の位置情報を含む
請求項1〜3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記第1ダウンリンク情報は、前記アップリンク情報に基づいて更新される情報を含む
請求項1〜4のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記復号用情報は、使い捨て型の復号用情報である
請求項2記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記移動体端末は、前記第1ダウンリンク情報を受信可能な状態になると、前記一対一通信によってアップリンク情報を送信する
請求項1〜6のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記第2ダウンリンク情報は、前記アップリンク情報の内容に応じて変化する
請求項1〜7のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項9】
前記第2ダウンリンク情報は、前記アップリンク情報において第2ダウンリンク情報に含めるよう要求されたオプション情報を含む
請求項1〜8のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項10】
移動体端末との間で無線通信を行う無線通信機を介して、前記移動体端末へ情報を提供する情報提供装置であって、
複数の前記移動体端末が受信可能である一対多送信によって前記無線通信機が送信する第1ダウンリンク情報を、前記無線通信機に与える第1情報提供部と、
前記移動体端末との一対一通信によって前記無線通信機が送信する第2ダウンリンク情報を、前記無線通信機に与える第2情報提供部と、
前記移動体端末から前記一対一通信によって前記無線通信機に送信されたアップリンク情報を、前記無線通信機を介して取得する取得部と、
を備え、
前記第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報は、前記移動体端末が前記第1ダウンリンク情報及び前記第2ダウンリンク情報の双方を用いた情報処理を行うことで、前記移動体端末において使用される情報が得られるように形成されている
情報提供装置。
【請求項11】
無線通信機との間で無線通信を行う移動体端末であって、
他の移動体端末も受信可能である一対多の無線通信によって送信された第1ダウンリンク情報を受信可能であり、かつ、一対一の無線通信によって送信された第2ダウンリンク情報を受信可能である受信部と、
前記一対一通信によってアップリンク情報を送信可能である送信部と、
受信した前記第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報の双方を用いた情報処理を行う情報処理部と、
を備える移動体端末。
【請求項12】
前記移動体端末へ情報を提供する方法であって、
複数の前記移動体端末が受信可能である一対多の無線通信によって送信された第1ダウンリンク情報を、前記移動体端末に受信させるステップと、
前記移動体端末が、一対一の無線通信によってアップリンク情報を送信するステップと、
前記一対一通信によって送信された第2ダウンリンク情報を、前記移動体端末に受信させるステップと、
前記移動体端末が、受信した前記第1ダウンリンク情報及び第2ダウンリンク情報の双方を用いた情報処理を行って得られた情報を使用するステップと、
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−102310(P2013−102310A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244140(P2011−244140)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】