説明

無線通信システム、無線送信機、無線受信機および無線通信方法

【課題】通信エラー耐性を備えたウェイクアップ型無線通信システムを、小規模な回路で実現する。
【解決手段】無線送信機は、あらかじめ算出したMDS符号の符号語を、複数の無線受信機のそれぞれに対応付けてウェイクアップIDとして記憶するウェイクアップID記憶手段と、通信相手のウェイクアップIDを前記ウェイクアップID記憶手段から取得して、ウェイクアップパケットを生成および送信するウェイクアップパケット送信手段と、を有する。無線受信機は、自ノードのウェイクアップIDを記憶するID記憶手段と、受信したウェイクアップパケットに含まれるウェイクアップIDを抽出し、自ノードのウェイクアップIDとのビット毎の不一致数を検出し、不一致数が前記MDS符号の最小ハミング距離の1/2未満であれば、データ通信モジュールを起動させるウェイクアップ手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信技術に関し、特にウェイクアップ型無線通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、快適性や安全性の向上のために、多数のセンサが搭載されるようになっている。センサの数が増えるにつれて、ワイヤハーネスが増加したりその配索が困難になったりという問題がある。このような問題に対して、車両内センサのデータ通信を無線化する手法が提案されている。
【0003】
センサデータ通信の無線化に伴い、車両内に設置されたセンサノードは電池駆動となることから、センサノードの省電力化が必要となる。センサノードは受信待機している時間が長いシステムも多く、受信待機電力を削減することが必要となる。
【0004】
センサノードの通信の低消費電力化に向けて、ウェイクアップ型無線通信を適用することが検討されている(特許文献1,非特許文献1,2)。ウェイクアップ型無線通信システムは、受信待機電力が極めて小さいウェイクアップモジュールと、従来のデータ通信モジュールを組み合わせて構成される。ウェイクアップモジュールが自ノードのIDを含むウェイクアップパケットを受信した時のみデータ通信モジュールを起動することで、ウェイクアップ型無線通信装置の受信待機電力を大幅に削減することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−261771号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Junaid Ansari, Dmitry Pankin, Petri Maehoenen, "Radio-triggered Wake-ups with Addressing Capabilities for Extremely Low Power Sensor Network Application", International Journal of Wireless Information Networks, vol.16, no.3, pp.118-130, Sep. 2009
【非特許文献2】瀧口貴啓、石田繁巳、猿渡俊介、南正輝、森川博之、「ブルームフィルタを用いたウェイクアップ型無線通信システムの消費電力評価」、信学技報、RCS2009-254, Jan. 2010
【非特許文献3】R.M. Roth and G. Seroussi, "On generator matrices of MDS codes", IEEE Trans. Information Theory, vol.31, pp.826-830, 1985
【非特許文献4】M. Blaum, J. Brady, J. Bruck, J. Menon, "EVENODD: An efficient scheme for tolerating double disk failures in RAID architectures", IEEE Trans. Comput., vol.44, no.2, pp.192-202, Feb. 1995
【非特許文献5】M. Blaum, R. M. Roth, "On lowest density MDS codes", IEEE Trans. Inf. Theory, vol.45, no.1, pp.46-59, 1999
【非特許文献6】L. Xu, J. Bruck, "X-Code: MDS array codes with optimal encoding", IEEE Trans. Information Theory, vol.45, pp.272-276, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のウェイクアップ型無線通信システムでは通信誤り対策が行われていない。車両内ではエンジンやモータなどのアクチュエータからのノイズが大きい。車両内に限られず、このように劣悪な通信環境では、通信誤り(ビットエラー)によりIDマ
ッチングが正しく行われず、必要なノードをウェイクアップできなかったり、不必要なノードがウェイクアップしたりする事態が生じうる。これらの場合には、消費電力の増加や通信開始の遅延という問題が発生する。
【0008】
なお、一般的な無線通信における通信エラー対策としては再送を行う手法やエラー訂正を行う手法が考えられる。再送を行う手法では、通信開始遅延の増加という問題や、ウェイクアップパケット受信回数の増加によって消費電力の増加という問題が生じる。また、エラー訂正を行う手法では、ビットエラーを含むビット列から元のビット列を復元するための多数のレジスタや多数の演算回路を必要とする。エラー訂正回路の大規模化に伴うコストの増大は、多数のウェイクアップ型無線通信装置を用いるシステムにおいては無視できない問題である。
【0009】
本発明は、通信エラー耐性を備えたウェイクアップ型無線通信システムを、小規模な回路で実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために本発明に係る無線通信システムは、以下の構成を有する。すなわち、本発明に係る無線通信システムは、少なくとも1台の無線送信機と複数の無線受信機とを含む。なお、ここで無線送信機および無線受信機はともに無線送受信機であっても良い。
【0011】
無線送信機は、ウェイクアップID記憶手段と、ウェイクアップパケット送信手段とを有する。ウェイクアップID記憶手段は、あらかじめ算出したMDS(Maximum Distance
Separable:最大距離分離)符号の符号語を、複数の無線受信機のそれぞれに対応づけて
ウェイクアップIDとして記憶する。ウェイクアップパケット送信手段は、通信相手のウェイクアップIDを、ウェイクアップID記憶手段から取得して、このウェイクアップIDを含むウェイクアップパケットを生成して送信する。
【0012】
無線受信機は、ID記憶手段と、ウェイクアップ手段とを有する。ID記憶手段には、自ノードのウェイクアップIDが記憶される。ウェイクアップ手段は、受信したウェイクアップパケットに含まれるウェイクアップIDを抽出し、抽出されたウェイクアップIDと自ノードのウェイクアップIDとのビット毎の一致/不一致を検出する。不一致数が、上記MDS符号における符号語間の最小ハミング距離の1/2未満であれば、ウェイクアップ手段はデータ通信モジュールを起動させる。
【0013】
このような本発明によれば、無線送信機において、MDS符号をあらかじめ求めてウェイクアップID記憶手段に格納しているので、MDS符号を算出するための回路を省略できる。また、無線受信機においては、自ノードのウェイクアップIDとの比較のみを行っているため、誤り検出や誤り訂正のための特別な回路を設ける必要がなく、回路規模を抑制できる。また、符号間距離が大きなMDS符号を用い、さらにIDマッチングにおいてビット不一致をある程度許容しているため、劣悪な通信環境下であっても対象とする無線受信機を適切にウェイクアップさせることができる。
【0014】
本発明における無線受信機のウェイクアップ手段は、電波検出回路とIDマッチング回路とから構成されることが好ましい。ここで、電波検出回路は常時動作しており、IDマッチング回路は通常はスリープ状態であり電波検出回路からの指示により必要に応じて動作する。すなわち、電波検出回路がウェイクアップパケットを検出するとIDマッチング回路を動作させる。IDマッチング回路は、ウェイクアップパケットが自ノード宛のものであるかを判定する。IDマッチング回路は、XORゲートによってウェイクアップパケットに含まれるウェイクアップIDと自ノードのウェイクアップIDとのビット毎の排他
的論理和を演算し、演算結果に含まれる「1」の数をカウンタによってカウントすることができる。カウント結果は受信したウェイクアップIDと自ノードのウェイクアップIDのビット毎の不一致数であり、これが上記の所定値以下である場合にIDマッチング回路はデータ通信モジュールをウェイクアップさせる。
【0015】
本発明は、上記手段の少なくとも一部を含む無線送信機や無線受信機として捉えることができる。また、これらの処理を行う無線通信方法として捉えることもできる。
【0016】
本発明の一態様における無線送信機は、あらかじめ算出したMDS符号の符号語を、複数の無線受信機のそれぞれに対応付けてウェイクアップIDとして記憶するウェイクアップID記憶手段と、通信相手のウェイクアップIDを前記ウェイクアップID記憶手段から取得して、当該ウェイクアップIDを含むウェイクアップパケットを生成および送信するウェイクアップパケット送信手段と、を含む。
【0017】
本発明の一態様としての無線受信機は、あらかじめ算出したMDS符号のうち、1つの符号語を自ノードのウェイクアップIDとして記憶するID記憶手段と、ウェイクアップIDを含むウェイクアップパケットを受信し、ウェイクアップパケットに含まれるウェイクアップIDを抽出し、抽出されたウェイクアップIDと自ノードのウェイクアップIDとのビット毎の不一致数を検出し、不一致数が前記MDS符号の最小ハミング距離の1/2未満であれば、データ通信モジュールを起動させるウェイクアップ手段と、を含む。
【0018】
本発明の一態様としての無線通信方法は、無線送信機に、あらかじめ算出したMDS符号の符号語を、複数の無線受信機のそれぞれに対応付けてウェイクアップIDとして記憶し、無線送信機が、無線通信を開始する際に通信相手のウェイクアップIDを含むウェイクアップパケットを送信し、無線受信機が、ウェイクアップパケットを受信し、ウェイクアップパケットに含まれるウェイクアップIDを抽出し、自ノードのウェイクアップIDとのビット毎の不一致数を検出し、不一致数が前記MDS符号の最小ハミング距離の1/2未満であれば、データ通信モジュールを起動させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、通信エラー耐性を備えたウェイクアップ型無線通信システムを、小規模な回路で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態における無線通信システムの概要を示す図である。
【図2】本実施形態における無線送信機の機能ブロック図である。
【図3】本実施形態における無線受信機の機能ブロック図である。
【図4】MDS符号とビット不一致を許容する本実施形態、IDとして連番を採用した場合、ハミング符号方式を採用した場合の、平均受信待機電力を求めたシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<構成>
以下では、本発明に係るウェイクアップ型無線通信システムを車両内のセンサネットワークに適用した場合を例として説明する。自動車内には、多数のセンサノードが設置されており、各センサノードはECU(Electronic Control Unit)と通信を行う。ワイヤハ
ーネスの増加による問題を回避するために、ECUと各センサノード間の通信を無線化する。ここで、センサノードの通信を低消費電力化するために本発明に係るウェイクアップ型無線通信が適用される。
【0022】
図1は、本実施形態におけるECUおよびセンサノードの機能ブロック図である。なお、ここではウェイクアップ型無線通信に関連する機能のみを説明しており、その他の通常のECUやセンサノードが有する機能については説明を省略している。ECU10は、ウェイクアップモジュール11とデータ通信モジュール12を有する。また、センサノード20は、ウェイクアップモジュール21とデータ通信モジュール24を有する。
【0023】
この車両内のセンサネットワークでは、ECU10から通信が開始される。したがって、ECU10が各センサノード20をウェイクアップさせて通信を行う。ECU10(データ通信モジュール12)があるセンサノードと通信と開始する場合には、そのセンサノードのIDが含まれるウェイクアップパケットをウェイクアップモジュール11から送信する。センサノード20のウェイクアップモジュール21がウェイクアップパケットを受信すると、ウェイクアップパケットに含まれるIDと自ノードのIDを比較し、2つのIDが一致した場合(ただし、所定数以下のビット不一致は許容してIDが一致したと判断する)に、データ通信モジュール24をウェイクアップさせる。データ通信モジュール24がウェイクアップすると、ECU10のデータ通信モジュール12に対してACKを送信し、ECUとセンサノードの間で通信が開始される。
【0024】
本実施形態においては、最大距離分離(Maximum Distance Separable:MDS)符号を用い、ある程度のビット不一致を許容するIDマッチングを適用することで、劣悪な通信環境下においても対象とするセンサノード少ない再送回数でウェイクアップさせることができる。なお、MDS符号は、各符号間のハミング距離が最大となるように設計された符号であり、通信エラー対策において理想的な符号である。
【0025】
[ECU(送信機)]
図2は、ECU10のウェイクアップモジュール11のより詳細な機能ブロック図である。ウェイクアップモジュール11は、各センサノードのノードIDと、ウェイクアップIDとを対応付けたID変換器111と、ウェイクアップパケット生成器112とを有する。
【0026】
ここで、MDS符号はあらかじめ作成しておき、作成されたMDS符号の各符号語をセンサノードにウェイクアップIDとして割り当てる。ウェイクアップIDは、ECU10がウェイクアップさせるセンサノードを指定するために用いるIDである。本実施形態では、上位層ではセンサノードをノードIDによって識別することを想定しており、ID変換器111は、ノードIDとウェイクアップIDを対応付けて記憶する。なお、図中ではウェイクアップIDは6ビットとして表されているが、実際にはより長い符号長を有する。ID変換器111はウェイクアップさせるノードのノードIDを入力として受けると、対応するウェイクアップIDをウェイクアップパケット生成器112に渡してウェイクアップパケットを生成させる。
【0027】
ここで、センサノードへのウェイクアップIDの割当についてより詳しく説明する。センサノードへのウェイクアップIDの割当は、符号長の決定、MDS符号の作成、センサノードへのIDの割当の3つのステップによって実現される。
【0028】
第1ステップでは、MDS符号を作成するために符号長nを決定する。符号長nは作成する符号数Nおよび許容エラービット数tとから決定される。許容エラービット数tはIDマッチングにおいて許容するビット不一致の数であり、ビットエラーが発生した場合でもエラービット数が許容エラービット数t以下である場合にはIDマッチングを正しく行うことができる。なお、許容エラービット数をtとしたとき、MDS符号間の最小ハミング距離は2t+1となる。MDS符号では、許容エラービット数tと、符号数N、符号長nの間に、
【数1】

の関係が成り立つ。許容エラービット数tは、通信環境に応じて適宜設定する。符号数Nは、センサノードの数である。これらの値を式(1)に代入して、符号長nが決定される。例えば、センサ数が1000個で許容エラービット数が5ビットの場合には、符号長nは27ビットとなる。
【0029】
第2ステップでは、許容エラービット数t、作成する作成する符号数N、符号長nをパラメータとして、既知の手法(例えば非特許文献3〜6)を用いてMDS符号を作成する。非特許文献3の手法では、N×(n−[logN])のコーシー列を用いた行列演算を繰り返すことで、N個のMDS符号を作成する(なお、式中の角括弧は天井関数を表し、[A]はA以上の最小の整数を意味する)。
【0030】
第3ステップでは、MDS符号の各符号語を、それぞれのセンサノードにウェイクアップIDとして割り当てる。ウェイクアップIDは上記で作成されたMDS符号から1つずつ選択され、車両製造時に各センサノードに1つずつ割り当てられる。ウェイクアップIDのID長はnであり、最大でN個のセンサノードに割り当てることができる。各センサノードのウェイクアップID記憶部233に、割り当てられたウェイクアップIDが記憶される。また、ECUは、ID変換器111に各センサノードのノードIDとウェイクアップIDの関連を記憶する。
【0031】
ECU10がセンサノードとの通信を開始する際には、ID変換器111を用いて通信相手のセンサノードのノードIDをウェイクアップIDに変換する。ウェイクアップパケット生成器112が、変換されたウェイクアップIDにプリアンブルやヘッダなどを付加してウェイクアップパケットを生成して送信する。
【0032】
[センサノード(受信機)]
図3は、ウェイクアップモジュール21のより詳細な機能ブロック図である。ウェイクアップモジュール21は、電波検出回路22とIDマッチング回路23とから構成される。さらに、IDマッチング回路23は、符号抽出器231、符号比較器232、ウェイクアップID記憶部233、ミスマッチ数カウント器234を含む。
【0033】
電波検出回路22は、例えば十〜数十μW程度の消費電力で動作し、常に電波検知を行う。IDマッチング回路23はウェイクアップパケットを受信して通信の宛先を判定する回路であり、受信待機状態ではスリープ状態にしておく。
【0034】
受信待機状態では、電波検出回路22で電波検出を行い、IDマッチング回路23およびデータ通信モジュール24はスリープ状態としておく。電波検出回路22が電波を検知すると、IDマッチング回路23をウェイクアップさせ、IDマッチング回路23はウェイクアップパケットを受信する。電波検出回路はウェイクアップパケット以外の電波も検知するため、IDマッチング回路がウェイクアップパケットを受信できない場合もある。この場合、IDマッチング回路23はスリープ状態に戻り、電波検出回路22のみが動作する受信待機状態に戻る。
【0035】
IDマッチング回路23がウェイクアップパケットを受信した場合には、このウェイクアップパケットが自ノード宛であるか否かを判断する。具体的には、符号抽出器231が、受信されたウェイクアップパケットからプリアンブルやヘッダを取り除いてウェイクア
ップIDを抽出する。符号比較器232は、XORゲートから構成され、得られたウェイクアップIDと自ノードのウェイクアップID234とのビット毎の排他的論理和(XOR)を演算する。ミスマッチ数カウント器234は演算されたビット列中の「1」のビット数をカウントし、その数が許容エラービット数t以下(MDS符号における符号間の最小ハミング距離の1/2未満ともいえる)であれば、データ通信モジュール24に対してウェイクアップ信号を出力する。一方、ミスマッチ数カウント器234の計数が許容エラービット数tより大きければ、自ノード宛のウェイクアップパケットではないと判断し、IDマッチング回路23はスリープ状態に戻り、電波検出回路22のみが動作する受信待機状態に戻る。
【0036】
データ通信モジュール24は、ウェイクアップ信号によってウェイクアップして、ACKをECU10に送信する。これにより、ECU10とセンサノード20との間で通信が開始される。
【0037】
<実施形態の作用/効果>
本実施形態によれば、回路規模、受信待機電力、通信遅延時間の3つの点で従来の方法よりも有利な効果が得られる。以下、それぞれについて説明する。
【0038】
(1)回路規模
本実施形態においては、センサノードの数があらかじめ定められているので、ECUは各センサノードに対して割り当てるMDS符号をあらかじめ求めて記憶している。したがって、MDS符号(ウェイクアップID)を動的に求めるための回路が不要である。また、車両内に搭載されるセンサ数は、現状で数百台であり、将来的には数千台になることが予想されるが、MDS符号に必要な符号長はそれ程大きくならず、ID変換器の回路規模も比較的小規模で済む。
【0039】
また、センサノードにおけるIDマッチングでは、自ノードのウェイクアップIDが既知であるので、受信したウェイクアップIDと比較するだけで済み、エラービットの特定は不要である。したがって、センサノードは受信したウェイクアップIDと自ノードのウェイクアップIDとのハミング距離を算出するだけでよく、XORゲート(符号比較器)と許容エラービット数tを最大値とするカウンタ(ミスマッチ数カウント器)によって実現できる。ハミング符号などを用いたエラー訂正では多数の演算回路とレジスタが必要となるが、本実施形態はこれと比べて簡素な回路で実現が可能である。簡素な回路で本システムを構成できるので、製造コストの上昇を避けられる。
【0040】
(2)受信待機電力
MDS符号をウェイクアップIDとして用いているため、指定したセンサノードが起動しなかったり、誤って別のセンサノードが起動したりすることが避けられるために、受信待機電力が少なくなる。このことを示すために、数値シミュレーションを行った。
【0041】
ここで、数値シミュレーションは以下の条件を仮定して行った。
・ウェイクアップパケットの構成:プリアンブル 9bit + ID 32bit
・ウェイクアップモジュール(センサノード)
受信待機電力:12.4μW
ID受信時の電力:623.68μW
ビットレート:20kbps
・データ通信モジュール
受信待機電力:55.5mW
スリープ→アクティブ遷移時間:0.5ms
・通信環境
ECU:1台、センサノード:1000台
ECUは100msごとにセンサノード1台と通信
対象ノードと通信できるまでのウェイクアップパケット再送間隔:20ms
誤ってウェイクアップしたノードは10ms後に再びスリープ状態へ遷移
状態遷移のオーバーヘッドは考慮しない
【0042】
IDマッチングのパラメータとしては、許容エラービット数「5」を採用した。なお、比較のためにウェイクアップIDとして単なる連番0(00...00), 1(00...01), 2(00...10), 3(00...11),...を割り当てた場合、および、連番のウェイクアップIDにハミング符号の符号長6としてエラー訂正を行う場合のシミュレーションも行った。
【0043】
図4は、上記の3通りの場合における平均受信待機電力を表したシミュレーション結果である。図からわかるように、MDS符号を用いた本実施形態の手法は、単なる連番を用いた場合の消費電力と比較して1/3以下になることがわかる。また、ハミング符号方式では、ビットエラー率が大きくなるにつれて消費電力が増大するのに対して、本実施形態の手法ではビットエラー率が大きくなっても消費電力には大きな変化が見られない。すなわち、劣悪な通信環境においてハミング符号方式の場合よりも低消費電力化を達成できる。
【0044】
また、本実施形態では、ビット不一致を許容しているため、IDの完全一致を条件とする場合と比較して、ウェイクアップパケットの再送回数が減り、IDマッチング回路の起動回数が少なくなるため消費電力が少なくなる。
【0045】
(3)通信遅延時間
ウェイクアップパケットの再送や、誤ウェイクアップするセンサノード数が減少し、1回のウェイクアップパケットの送信で通信対象のセンサノードをウェイクアップできる確率が高まる。すなわち、従来の他の方式と比べてウェイクアップに伴う通信遅延時間を少なくすることができる。
【0046】
<その他>
上記の説明においては、車両内におけるECUとセンサノードからなるネットワークを例として取り上げているが、これ以外の任意のシステムに本発明を適用できることは明らかであろう。例えば、車内ネットワークであれば、センサノードだけでなくボディ系のセンサ・アクチュエータを無線化した場合に、これらセンサ・アクチュエータ係に対してウェイクアップ型無線通信を適用することが考えられる。このような制御系の無線の消費電力は狭義のセンサ系よりも大きいため、ウェイクアップ型無線とすることで低消費電力化の面で大きな効果が得られる。
【0047】
また、本発明が適用されるシステムは自動車内のネットワークに限られず、利用される無線通信装置があらかじめ想定される無線通信システムであれば任意の無線通信システムに適用できることは明らかであろう。
【0048】
また、上記の説明では、1台のノード(ECU)のみが他のノードをウェイクアップさせているが、システム内の任意のノードがウェイクアップパケットを送信するようにしても良い。さらに、システム内の一部または全部のノードが、他のノードをウェイクアップさせるための機能(ウェイクアップモジュール11)と、他のノードからウェイクアップされるための機能(ウェイクアップモジュール21)の両方を有しても良い。
【符号の説明】
【0049】
10 ECU
11 ウェイクアップモジュール
12 データ通信モジュール
20 センサノード
21 ウェイクアップモジュール
22 電波検出回路
23 IDマッチング回路
24 データ通信モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1台の無線送信機と複数の無線受信機とを含み、
無線送信機は、
あらかじめ算出したMDS(Maximum Distance Separable:最大距離分離)符号の符号
語を、複数の無線受信機のそれぞれに対応付けてウェイクアップIDとして記憶するウェイクアップID記憶手段と、
通信相手のウェイクアップIDを前記ウェイクアップID記憶手段から取得して、当該ウェイクアップIDを含むウェイクアップパケットを生成および送信するウェイクアップパケット送信手段と、
を有し、
無線受信機は、
自ノードのウェイクアップIDを記憶するID記憶手段と、
受信したウェイクアップパケットに含まれるウェイクアップIDを抽出し、抽出されたウェイクアップIDと自ノードのウェイクアップIDとのビット毎の不一致数を検出し、不一致数が前記MDS符号の最小ハミング距離の1/2未満であれば、データ通信モジュールを起動させるウェイクアップ手段と、
を有する、
無線通信システム。
【請求項2】
前記ウェイクアップ手段は、常時動作する電波検出回路と必要に応じて動作するIDマッチング回路とから構成され、
電波検出回路が、ウェイクアップパケットを検出するとIDマッチング回路を動作させ、
IDマッチング回路が、ウェイクアップパケットが自ノード宛のものであるか判定する、
請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
あらかじめ算出したMDS(Maximum Distance Separable:最大距離分離)符号の符号
語を、複数の無線受信機のそれぞれに対応付けてウェイクアップIDとして記憶するウェイクアップID記憶手段と、
通信相手のウェイクアップIDを前記ウェイクアップID記憶手段から取得して、当該ウェイクアップIDを含むウェイクアップパケットを生成および送信するウェイクアップパケット送信手段と、
を含む無線送信機。
【請求項4】
あらかじめ算出したMDS(Maximum Distance Separable:最大距離分離)符号のうち
の1つの符号語を自ノードのウェイクアップIDとして記憶するID記憶手段と、
ウェイクアップIDを含むウェイクアップパケットを受信し、ウェイクアップパケットに含まれるウェイクアップIDを抽出し、抽出されたウェイクアップIDと自ノードのウェイクアップIDとのビット毎の不一致数を検出し、不一致数が前記MDS符号の最小ハミング距離の1/2未満であれば、データ通信モジュールを起動させるウェイクアップ手段と、
を含む無線受信機。
【請求項5】
前記ウェイクアップ手段は、常時動作する電波検出回路と必要に応じて動作するIDマッチング回路とから構成され、
電波検出回路が、ウェイクアップパケットを検出するとIDマッチング回路を動作させ、
IDマッチング回路が、ウェイクアップパケットが自ノード宛のものであるか判定する

請求項4に記載の無線受信機。
【請求項6】
無線送信機に、あらかじめ算出したMDS(Maximum Distance Separable:最大距離分
離)符号の符号語を、複数の無線受信機のそれぞれに対応付けてウェイクアップIDとして記憶し、
無線送信機が、無線通信を開始する際に通信相手のウェイクアップIDを含むウェイクアップパケットを送信し、
無線受信機が、ウェイクアップパケットを受信し、ウェイクアップパケットに含まれるウェイクアップIDを抽出し、自ノードのウェイクアップIDとのビット毎の不一致数を検出し、不一致数が前記MDS符号の最小ハミング距離の1/2未満であれば、データ通信モジュールを起動させる、
無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−175537(P2012−175537A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37269(P2011−37269)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】