無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法
【課題】マルチユーザMIMO通信において、不能状態の伝送路が発生した場合でも、安定なMIMO通信を実現することが可能な無線通信システムを提供する。
【解決手段】無線送信装置1000において、制御部50は、受信側からのチャネル状態情報に基づいて、MIMO伝送のための送信信号に対する重み付け係数を算出する。故障アンテナ検知部82は、チャネル状態情報により故障アンテナを検知し、チャネル情報修復処理部84は、受信機側からフィードバックされた伝送路行列に対応するチャネル状態情報の行列の要素のうち故障アンテナに対応する要素を修復して、制御部50に与える。
【解決手段】無線送信装置1000において、制御部50は、受信側からのチャネル状態情報に基づいて、MIMO伝送のための送信信号に対する重み付け係数を算出する。故障アンテナ検知部82は、チャネル状態情報により故障アンテナを検知し、チャネル情報修復処理部84は、受信機側からフィードバックされた伝送路行列に対応するチャネル状態情報の行列の要素のうち故障アンテナに対応する要素を修復して、制御部50に与える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のアンテナを有する基地局と、端末装置の存在する無線通信システムに関し、より特定的には、マルチユーザMIMO(Multiple Input Multiple Output)通信の無線通信システムにおける送信ビームフォーミング技術に関連する、無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マルチユーザMIMO技術が提案されている(特許文献1,特許文献2、特許文献3)。マルチユーザMIMOは、基地局(またはアクセスポイント)側に多数のアンテナ素子をもたせるとともに、端末側は比較的少数のアンテナ素子をもたせ、基地局と複数の端末とで同時に仮想的なMIMOチャネルを形成するものである。
【0003】
つまり、マルチユーザMIMO送信技術とは、送信局側において複数の送信アンテナから同一周波数同一タイミングで異なる独立な信号を複数の通信相手装置に送信し、複数の通信相手装置の受信アンテナ全体を巨大な受信アレーとみなして下りスループットの向上を図る技術である。
【0004】
図14は、このようなマルチユーザMIMO通信システムの構成を示す概念図である。
【0005】
図14に示されるように、基地局BSは、アンテナ1〜Mから、それぞれ送信信号x1〜xMを送信する。端末UE1〜UEkは、たとえば、それぞれ2本のアンテナを備えているものとする。端末UE1は、基地局からの送信信号x1〜xMを、その2本のアンテナにより受けて、それぞれ信号y1およびy2を受信する。同様にして、他の端末UE2〜UEkも、それぞれ2本のアンテナにより、基地局からの送信信号x1〜xMを受けて、信号y3およびy4,…,yM-1およびyMを受信する。
【0006】
すなわち、図14の例では、(基地局の送信アンテナの本数)=(1つの端末側の受信アンテナの本数)×(端末数)が成り立っている場合を例示している。
【0007】
このとき、受信側の端末UE1〜UEkでの各アンテナでの受信信号y1〜yMをまとめた受信信号ベクトルYは、以下の式により表される。
【0008】
【数1】
ここで、行列Hの各要素は、送信側の各アンテナから受信側の各アンテナへの伝送路のインパルス応答に相当し、行列Hは「チャネル応答マトリックス」(または「伝送路行列」)と呼ばれる。ベクトルxは、送信機側での各アンテナへの送信信号を並べたベクトルである。また、ベクトルNは、受信側の各アンテナで受信される信号に含まれるノイズ成分を並べたものである。
【0009】
従来のマルチユーザMIMOダウンリンクにおける送信ビーム形成(BF:Beam Forming)法としては、自端末以外の全ての端末の全受信アンテナに対してヌルを形成するZF(Zero Forcing:ゼロフォーシング)法や、MMSE(Maximum Mean Square Error:最小二乗法)法に基づいた種々のビーム形成法が考案されている。MMSE法に基づくビーム形成法では、自端末以外の全ての端末の全受信アンテナに対してヌルを形成するのではなく、一定量の漏洩を許容する。
【0010】
ここで、シングルキャリアの場合について、MMSE法により、各アンテナに与える送信信号を合成するための「重み付け係数」(ビームフォーミングウェイト行列)を推定する方法については、特許文献2(特開2007−110664号公報)に開示されている。
【0011】
さらに、特許文献3にも記載のとおり、MIMOダウンリンクにおける送信ビーム形成法の他の例としては、BD(Block Diagonalization:ブロック対角化)法がある。
【0012】
また、非特許文献1には、このBD法をさらに改良したBD−VP(Vector Perturbation with Block Diagonalization)法について開示がある。
【0013】
以下、この非特許文献1の開示にしたがって、まず、マルチユーザMIMO(以下、MU−MIMOと称す)に適用されるBD法について簡単に説明する。
【0014】
すなわち、BD法では、以下に説明するように、チャネル応答マトリックスから、プリコーディング行列(重み付け係数を表現する送信ビームフォーミングのための行列、以下、上述した「ビームフォーミングウェイト行列」とを合わせた総称として「プリコーディング行列」と呼ぶ)を算出する。
【0015】
MU−MIMOシステムにおいて、下りリンクを想定することとする。送信アンテナは、nT本であり、nUユーザについて、各ユーザ(各端末)ごとにnR本の受信アンテナが設けられているものとする。そして、nT=nR×nUが成り立っているものとする。
【0016】
このとき、チャネル応答マトリックスHが以下のように表されるものとする。
【0017】
【数2】
ここで、チャネル応答マトリックスの部分行列Hiは、i番目のユーザについて、送信側のnT本の送信アンテナと受信側のnR本の受信アンテナとの間の伝送路の応答を示す。また、記号右肩の添え字Tは、転置行列を示す。
【0018】
以下に説明するようなブロック対角化アルゴリズム(BDアルゴリズム)によれば、ユーザ間の干渉についてはキャンセルすることが可能である。
【0019】
すなわち、BDアルゴリズムは、MU−MIMOをシングルユーザMIMO(以下、SU−MIMOと称す)のチャネルに変換するものである。ユーザ側の受信機での処理の複雑さを低減するために、プリコーディング処理により、送信側でチャネルについての等価処理が実行される。
【0020】
BDアルゴリズムとは、以下の式(2)で表されるような行列Bを見出すことを目的とするものである。
【0021】
【数3】
ここで、0nRとは、nR×nRのゼロマトリックスであり、Heff,i=HiBiとは、ユーザiについての有効チャネル応答マトリックスである。
【0022】
さて、さらに、式(1)のシステム全体のチャネル応答マトリックスから、ユーザiの部分チャネル応答マトリックスを除くことで、以下の式(3)で表されるマトリックスを定義する。
【0023】
【数4】
式(3)のマトリックスの特異値分解は、以下の式(4)のように表現される。
【0024】
【数5】
そこで、ユーザiに対するチャネル応答マトリックスHiに対して、上記式(4)中のヌル空間ウェイト行列を乗算して得られる行列について、以下の式(5)で示されるように特異値分解を実行すると、プリコーディング行列Biも以下の式(6)のように表現される。
【0025】
【数6】
特許文献3には、さらに、このようなBDアルゴリズムを用いて、マルチユーザMIMO送信技術を、マルチキャリアの伝送技術である直交周波数分割多重 (OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式に適用した例について開示がある。
【0026】
図15は、このようなBDアルゴリズムを用いて、送信ビームフォーミングを実行する無線送信装置9の構成を説明するための図である。図15を参照して、以下、簡単に、このような送信装置9の構成について説明する。
【0027】
図15は、伝搬環境に最適となるように送信し、空間多重により伝送速度を向上させる従来技術におけるBD指向性制御法を用いた構成例である。
【0028】
通信装置9のアンテナ素子数をMt、通信相手装置の数をMa、i番目の通信相手装置の受信アンテナ素子数をMr(i)、i番目の通信相手装置に同時間、同 周波数帯において送信する通信系列数をL(i)、サブキャリア数をMf、Mt≧Mr(i)として通信相手装置を決定する方法の一例を示す。
【0029】
通信装置9は、データ出力回路901、送信信号変換回路902、IFFT回路903−1〜903−Mt、無線部904−1〜904−Mt、アンテナ素子905−1〜905−Mt、通信相手指定回路906、チャネル情報取得回路907、送信符号化決定回路908を備えている。
【0030】
アンテナ素子905−1〜905−Mt及び無線部904−1〜904−Mtは、無線信号の送受信を行う。チャネル情報取得回路907は、各アンテナ素子905−1〜905−Mtと通信相手装置の各アンテナ素子との間の複数の周波数のチャネル情報を推定する。このチャネル情報の取得方法は、例えば、アンテナ素子905−1〜905−Mtを介して得られる既知信号の受信を行った際に得られる情報に対してFFTを行い周波数領域の情報に変換して、周波数帯域ごとのチャネル情報を推定する方法がある。また、受信信号に含まれるフィードバック情報に含まれる情報により、チャネル情報を取得する方法もある。
【0031】
通信相手指定回路906が通信を行う複数の通信相手装置を決定すると、通信相手指定回路906は、チャネル情報取得回路907を通じて、当該通信相手装置 の全周波数帯域のチャネル情報を送信符号化決定回路908に出力する。送信符号化決定回路908は、入力されたチャネル情報を用いて、通信相手装置を同時 送信が行われる組に分けるスケジューリングを行い、各通信相手装置の組合せに対する信号系列それぞれの送信ウエイトと通信品質を算出し、通信ストリーム 数、通信ストリームに対応する変調方式及び符号化率を含む送信モードを決定する。また、送信符号化決定回路908は、決定した送信モードをデータ出力回路 901及び送信信号変換回路902へ出力する。
【0032】
データ出力回路901は、通信相手装置へ送信するデータを生成し、生成したデータを送信信号変換回路902へ出力する。送信信号変換回路902は、入力されたデータをシリアル−パラレル変換、既知信号の付与、誤り検出や誤り訂正のための符号化を行いIFFT回路903−1〜903−Mtへ出力する。IFFT回路903−1〜903−Mtは、入力された周波数領域の送信情報を時間領域への送信情報へ変換し、無線部904−1〜904−Mtへ出力する。無線部904−1〜904−Mtは、入力された時間領域のデータを、アンテナ905−1〜905−Mtを通じて、無線信号として送信する。
【0033】
なお、このようなOFDM変調へのBDアルゴリズムの適用については、上述したシングルキャリアの場合と、本質的には同様であるので、ここでは説明は繰り返さない。
【0034】
さらに、非特許文献1においては、送信ビームフォーミングのための非線形な重み付け処理として、上述したBD−VP法について開示がある。
【0035】
非特許文献1に開示されるBD−VP法は、簡単に説明すると、BD法により、MU−MIMOチャネルを、ユーザ間の干渉のない並行的なSU−MIMOチャネルに変換するとともに、非線形プリコーディング法であるVP(Vector Perturbation)アルゴリズムにより、送信電力を減少させる技術である。さらに、VP法のアルゴリズムを適切に設計することで、演算負荷を抑制することも可能となる。
【0036】
VP法のような非線形プリコーディング法においては、受信装置間干渉を受ける受信装置宛の送信信号に対し、プリコーディング処理が行われ、事前に干渉成分が間引かれる。しかし、このプリコーディング処理後の信号は伝搬路に起因する成分を持つため、送信電力が規定値を超える可能性がある。
【0037】
そのため、プリコーディング処理前の信号に対し、モジュロ演算処理が実行される。「モジュロ演算処理」とは、入力された信号の実数部および虚数部に対し、既定の値の剰余演算を行うことである。これは、入力された信号に対し、実数部および虚数部に規定の値の整数倍の値を持つ摂動信号を加えることと等価である。 モジュロ演算により送信電力が規定値内に抑えられた信号はビームフォーミングにより伝送される。
【0038】
一方、受信処理では、所望の信号(データを含む情報信号)に上述した摂動信号が加わっている受信信号に対し、再びモジュロ演算処理が行われ、上記摂動信号成分が除去されて、情報信号が取り出される。
【0039】
このような「非線形プリコーディング法」については、たとえば、特許文献4にも開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【特許文献1】特開2005−328312号公報
【特許文献2】特開2007−110664号公報
【特許文献3】特開2009−177616号公報
【特許文献4】特開2010−154320号公報
【非特許文献】
【0041】
【非特許文献1】Manar Mohaisen, Bing Hui, KyungHi Chang, Seunghwan Ji, and Jinsoup Joung, ”Fixed-complexity vector perturbation with block diagonalization for MU-MIMO systems,”Proc. 2009 IEEE MICC, pp.238-243,15-17, Dec.2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0042】
上述したような方法にしたがって、MU−MIMOを実現するためのプリコーディング行列の算出にあたっては、演算量の抑制のための様々な手法が提案されている。
【0043】
ただし、一般には、このようなプリコーディング行列の算出には、専用のソフトウェア演算モジュール、あるいは、専用の演算ハードウェア等を用いることになる。
【0044】
しかし、以下のような様々な要因により、プリコーディング行列の算出処理には、理想的な状態から外れた状態が生じる可能性があり、このような状態が生じた場合は、一部のユーザについてのプリコーディング行列の算出処理が破たんし、算出処理が正常に復帰するまで、MU−MIMOの全ユーザについての送信処理に障害が生じる場合がありうる。
【0045】
i)ハードウェアの故障
たとえば、送信機側の一部のアンテナ、または、受信機側の一部のアンテナに障害が発生した場合、このような障害が発生したアンテナに対応するチャネルについては、受信機側からの伝送路についての推定情報(チャネル状態情報)が正常な値ではなくなるため、プリコーディング行列の算出処理を、破たんせずに実行できなくなる。
【0046】
ii)設計またはテスト
MU−MIMOの設計段階やテスト段階では、一部の端末のみについてのテストを実行したり、あるいは、試行的なテスト条件等により一部のハードウェアの故障等が発生したりすることが、実際の運用時より、高い頻度で発生することになる。このような場合にも、i)のハードウェアの故障と等価な状態となりうる。このような場合には、「プリコーディング行列の算出処理」を実行する本質的な処理部分(演算アルゴリズム)については、特に、修正を加えなくとも、プリコーディング行列の算出処理に破たんが生じないようにできる構成が望ましい。
【0047】
以下では、このような送信側または受信側の一部(1つの送信機または1つの受信機の複数のアンテナのうちの一部の場合と複数の受信機のうちの一部の受信機のアンテナの場合の双方を意味する)が、通信できない状態となることを「故障アンテナ効果(Broken antennas effect)」とよび、このような「故障アンテナ効果」により通信不能となっている伝送路のことを「不能状態の伝送路」と呼ぶことにする。
【0048】
それゆえに本発明の目的は、マルチユーザMIMO通信において、不能状態の伝送路が発生した場合でも、正常状態にある伝送路についてのプリコーディング行列の算出アルゴリズムの演算処理の破たんを回避して安定なMIMO通信を実現することが可能な無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法を提供することである。
【0049】
また、この発明の他の目的は、マルチユーザMIMO通信において、不能状態の伝送路が発生した場合でも、アルゴリズム修正やハードウェア調整を加えなくとも、プリコーディング行列の算出処理に破たんが生じることを防ぐことが可能な無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0050】
この発明のある局面に従うと、基地局と複数の端末との間でMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信する無線通信システムであって、基地局は、複数の第1のアンテナと、複数の端末において推定された伝送路のチャネル応答行列に対応するチャネル状態情報に基づいて、重み付け係数を算出するための制御部と、複数の第1のアンテナから複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、変調された送信シンボル系列に、重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するための重み付け処理部と、重み付け処理部の出力を複数の第1のアンテナから送信するための第1の送信処理部と、複数の端末から受信したチャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、基地局および端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知する不能アンテナ検知部と、不能アンテナ検知部の検知結果に応じて、チャネル状態情報のうち、不能状態にある伝送路に対応するチャネル応答行列の要素を修復して、制御部に与えるチャネル情報修復処理部とを備え、各複数の端末は、複数の第2のアンテナと、複数の送信信号のうち、対応する送信信号を受信するための受信処理部と、受信処理部で受信した受信信号に基づいて、対応する伝送路のチャネル応答行列を推定し、チャネル状態情報として、第2のアンテナから基地局に送信するための第2の送信処理部とを備える。
【0051】
好ましくは、チャネル情報修復処理部は、端末から受信したチャネル状態情報を統合して得られる基地局および複数の端末についてのチャネル応答行列に基づいて、不能状態の伝送路に対応するチャネル応答行列の行または列の要素のうち非対角成分を0に設定するとともに、対角成分を所定の値に設定することで、チャネル応答行列の修復を実行する。
【0052】
好ましくは、不能アンテナ検知部は、端末から受信した端末から受信したチャネル状態情報を統合して得られる基地局および複数の端末についてのチャネル応答行列において、列または行の要素の大きさの和に相当する値が、所定値以下であることに応じて、不能状態にある伝送路を検知する。
【0053】
この発明の他の局面に従うと、複数の端末とMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信する無線送信装置であって、複数のアンテナと、複数の端末において推定された伝送路のチャネル応答行列に対応するチャネル状態情報に基づいて、重み付け係数を算出するための制御部と、複数のアンテナから複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、変調された送信シンボル系列に、重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するための重み付け処理部と、重み付け処理部の出力を複数のアンテナから送信するための送信処理部と、複数の端末から受信したチャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、基地局および端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知する不能アンテナ検知部と、不能アンテナ検知部の検知結果に応じて、チャネル状態情報のうち、不能状態にあるアンテナに対応するチャネル応答行列の要素を修復して、制御部に与えるチャネル情報修復処理部とを備える。
【0054】
好ましくは、チャネル情報修復処理部は、端末から受信したチャネル状態情報を統合して得られる基地局および複数の端末についてのチャネル応答行列に基づいて、不能状態の伝送路に対応するチャネル応答行列の行または列の要素のうち非対角成分を0に設定するとともに、対角成分を所定の値に設定することで、チャネル応答行列の修復を実行する。
【0055】
好ましくは、不能アンテナ検知部は、端末から受信した端末から受信したチャネル状態情報を統合して得られる基地局および複数の端末についてのチャネル応答行列において、列または行の要素の大きさの和に相当する値が、所定値以下であることに応じて、不能状態にある伝送路を検知する。
【0056】
この発明のさらに他の局面に従うと、複数のアンテナを有する基地局と複数の端末との間でMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信するための無線通信方法であって、各複数の端末が、基地局からの送信信号を受信するステップと、各複数の端末が、受信した受信信号に基づいて、対応する伝送路のチャネル応答行列を推定し、チャネル状態情報として、基地局に送信するステップと、基地局が、複数の端末から受信したチャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、基地局および端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知するステップと、基地局が、チャネル状態情報のうち、不能状態にある伝送路に対応するチャネル応答行列の要素を修復するステップと、基地局が、修復されたチャネル状態情報に基づいて、複数のアンテナから複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、重み付け係数を算出するステップと、基地局が、変調された送信シンボル系列に、重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するステップと、複数の送信信号を複数のアンテナから送信するステップとを備える。
【発明の効果】
【0057】
本発明の無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法によれば、マルチユーザMIMO通信において、不能状態の伝送路が発生した場合でも、正常状態にある伝送路についてのプリコーディング行列の算出アルゴリズムの演算処理の破たんを回避することが可能である。
【0058】
また、本発明の無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法によれば、マルチユーザMIMO通信において、プリコーディング行列の算出処理のための専用処理部分には変更を加えることなく、不能状態の伝送路が発生した場合でも、プリコーディング行列の算出処理の破たんを回避することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施の形態1の無線通信システムにおける無線送信装置1000の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1の無線通信システムにおける端末装置1100の構成を示すブロック図である。
【図3】通常状態のMIMO通信システムにおいて、チャネル応答行列とフィードバックされるチャネル状態情報との関係を示す概念図である。
【図4】受信機側において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【図5】送信機において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【図6】送信機および受信機において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【図7】実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第1の概念図である。
【図8】実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第2の概念図である。
【図9】実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第3の概念図である。
【図10】無線送信装置1000におけるプリコーディング行列の演算処理についてのシミュレーション結果を示す図である。
【図11】、実施の形態2の無線通信システムにおける無線送信装置2000の構成を示すブロック図である。
【図12】実施の形態2の無線通信システムにおける端末装置2100の構成を示すブロック図である。
【図13】無線送信装置2000の動作を説明するためのフローチャートである。
【図14】マルチユーザMIMO通信システムの構成を示す概念図である。
【図15】BDアルゴリズムを用いて、送信ビームフォーミングを実行する無線送信装置9の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明の実施の形態の無線通信システムについて、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
【0061】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の無線通信システムにおける無線送信装置1000の構成を示すブロック図である。
【0062】
なお、図1では、説明の簡単のために、無線送信装置1000は、8本のアンテナ100−1〜100−8を有するものとして説明するが、MU−MIMOの送信機の構成としては、より一般的には、このようなアンテナ本数に限定されるものではない。
【0063】
図1を参照して、無線送信装置1000は、入力ノード10から与えられる送信シンボルをシリアルパラレル変換するためのシリアルパラレル変換部20と、パラレル変換された各信号を、所定の変調方式で変調するための変調部30−1〜30−8とを含む。
【0064】
なお、送信シンボルは、同相成分と直行成分とを含みうるが、図1では、両者は、1つの信号線で表現されている。
【0065】
無線送信装置1000は、後に説明するチャネル状態情報(CSI:Channel State Information)に基づいて、プリコーディング行列を算出するための制御部50と、制御部50からのプリコーディング行列中の係数を、変調部30−1〜30−8からの信号に乗算するための重み付け処理部40−1〜40−8とを含む。
【0066】
重み付け処理部40−1は、変調部30−1からの信号に対して、プリコーディング行列中の係数を乗算して、アンテナ100−1〜100−8からそれぞれ送信するための信号を生成する乗算器42−11〜42−81を含む。ここで、他の変調部30−2〜30−8からの信号について重み付け処理を実行する重み付け処理部40−2〜40−8についても、重み付け処理部40−1と同様な構成を有する。
【0067】
なお、プリコーディング処理として上述したような非線形プリコーディングを実施する場合には、変調部30−1〜30−8の出力に対しては、モジュロ演算処理が実行される。このようなモジュロ演算処理についても、制御部50の制御の下に実行されることになる。
【0068】
また、このようなモジュロ演算とともに、干渉キャンセルのための符号化技術としてDPC(Dirty Paper Coding)を用いることも可能である。
【0069】
重み付け処理部40−1〜40−8の出力は、それぞれ、アンテナ100−1〜100−8に対応する加算器44−1〜44−8に入力され、合成される。たとえば、加算器44−1は、重み付け処理部40−1〜40−8のそれぞれからのアンテナ100−1向けの信号を合成する。他の加算器44−2〜44−8についても、同様に、対応するアンテナ100−2〜100−8向けの信号を合成する。
【0070】
さらに、無線送信装置1000は、加算器44−1〜44−8からの信号をそれぞれ受けて、無線送信する信号に変換するためのアップコンバータ60−1〜60−8を含む。
【0071】
アップコンバータ60−1は、加算器44−1の出力を受けて、デジタルアナログ変換するためのDA変換部64と、DA変換部64の信号を局部発信部70からの信号に基づいて周波数変換するための周波数変換部66と、周波数変換部66の出力を増幅して、アンテナ100−1に供給するための電力増幅部68とを含む。他のアップコンバータ60−2〜60−8も同様の構成を有する。
【0072】
無線送信装置1000は、さらに、アンテナ100−1〜100−8により受信機側からのチャネル状態情報を受信するためのフィードバック情報受信部80と、後に説明するように、受信したチャネル状態情報に基づいて、故障アンテナ(すなわち、不能状態にある伝送路)を検知するための故障アンテナ検知部82と、故障アンテナ検知部82の検知結果に応じて、チャネル状態情報を修復して制御部50に与えるチェネル情報修復処理部84とを含む。ここで、「チャネル状態情報を修復」とは、後に説明するように、仮に、不能状態となる伝送路が発生した場合でも、制御部50は、プリコーディング行列の算出処理のアルゴリズムを変更することなく実行することが可能な状態に、チャネル状態情報を変換することを意味する。
【0073】
なお、図1において、点線で示した部分は、特に限定されないが、たとえば、所定のプリコーディング行列の算出処理のアルゴリズムに基づいて動作する専用のハードウェアであり、フィードバック情報受信部80、故障アンテナ検知部82およびチェネル情報修復処理部84は、このような専用のハードウェアに、後付けで設ける構成としてもよい。
【0074】
図2は、実施の形態1の無線通信システムにおける端末装置1100の構成を示すブロック図である。
【0075】
図2を参照して、端末装置1100は、アンテナ200−1と200−2とを含む。そして、無線通信システムとしては、図1の無線送信装置1000の例示的構成に対応して、4つの端末を含んで、(送信アンテナの総本数)=(端末1台当たりのアンテナ数)×(端末数)の関係が成り立っているものとして、以下、説明をする。
【0076】
端末装置1100は、アンテナ200−1および200−2からの受信信号をダウンコンバートするためのダウンコンバータ220−1および220−2を含む。ダウンコンバータ220−1は、アンテナ200−1からの受信信号を増幅するための低雑音増幅部232と、低雑音増幅部222の出力に対して、局部発信部230からの局部発信信号により周波数変換を行うための周波数変換部224と、周波数変換部224の出力に対して、アナログデジタル変換を実行するためのAD変換部226とを含む。ダウンコンバータ220−2についても、同様の構成を有する。
【0077】
端末装置1100は、さらに、ダウンコンバータ220−1と220−2とからの信号を受けて、制御部250からの制御の下に、重み付け処理を実行するための重み付け処理部240を含む。重み付け処理部240は、制御部250からの重み付け係数をそれぞれ乗算するための乗算器242−1および242−2と、乗算器242−1および242−2からの信号を加算して合成し、端末装置1100に対応するチャネルからの受信信号を選択的に分離するための加算器244とを含む。
【0078】
なお、端末装置1100側でも、送信側でプリコーディング処理として上述したような非線形プリコーディングを実施する場合には、ダウンコンバータ220−1および220−2の出力に対して、モジュロ演算処理が実行される。このようなモジュロ演算処理についても、制御部250の制御の下に実行されることになる。また、このようなモジュロ演算とともに、干渉キャンセルのための符号化技術としてDPC(Dirty Paper Coding)が用いられている場合は、これに対する復号処理も実行される。
【0079】
重み付け処理部240の出力は、復調部270により、復調処理が実行された後に、パラレルシリアル変換部280において、パラレルシリアル変換されて、ノード290から受信信号として出力される。
【0080】
制御部250における重み付け係数の演算処理には、チャネル応答推定部260における端末装置1100についてのチャネル応答行列(伝送路行列)の推定結果が使用される。なお、このようなチャネル応答行列の推定処理は、上述した先行技術において開示されているのと同様の処理を使用することが可能である。
【0081】
また、チャネル応答推定部260において推定された端末装置1100についてのチャネル応答行列は、チャネル状態情報送信処理部262により、アンテナ200−1、200−2から、無線送信装置1000に対して、フィードバック情報として送信される。
【0082】
図3は、通常状態のMIMO通信システムにおいて、チャネル応答行列とフィードバックされるチャネル状態情報との関係を示す概念図である。
【0083】
図3に示されるように、送信部が8本のアンテナから送信信号x1〜x8を送信し、4つの端末UE1〜UE4が、それぞれ、受信するものとする。端末UE1は、2つのアンテナにより信号y1およびy2を受信する。同様にして、他の端末UE2〜UE4も、それぞれ2本のアンテナにより、基地局からの送信信号x1〜x8を受けて、信号y3およびy4,…,y7およびy8を受信する。
【0084】
送信信号x1〜x8を1つのベクトルとして統合し、受信信号y1〜y8も1つのベクトルとして統合すると、受信機側において推定されたチャネル応答行列に基づいて、送信機側にフィードバックされるチャネル状態情報CSIは、M=8として、以下のような1つの行列にまとめられる。
【0085】
【数7】
図4は、受信機側において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【0086】
端末UE1の第2アンテナ(端末全体として2番目のアンテナ)が故障し、かつ、端末UE3の第2アンテナ(端末全体として6番目のアンテナ)が故障しているものとする。
【0087】
この場合、送信機にフィードバックされるチャネル状態情報CSIの行列は、これらのアンテナが故障していることに伴い、第2行および第6行の成分は、図4に示されるように雑音成分のみとなる。
【0088】
ここで、無線通信システムにおいて、信号対雑音比SNRが高い場合を想定すると、チャネル状態情報CSIの行列の逆行列のノルムは、送信アンテナと受信アンテナ間で正常に信号の伝送が行われている場合に比べて極端に大きな値となる。これは、MMSE法やBD−VP法などのビームフォーミング法では、送信信号への重み係数の絶対値が極端に小さな値となることを意味し、単純に、フィードバックされたチャネル状態情報を用いるとMIMO伝送が破たんすることを意味する。
【0089】
図5は、送信機において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【0090】
図5においては、送信機の2番目のアンテナと8番目のアンテナが故障しているものとしている。
【0091】
この場合は、送信機にフィードバックされるチャネル状態情報CSIの行列は、これらのアンテナが故障していることに伴い、第2列および第8列の成分は、図5に示されるように雑音成分のみとなる。
【0092】
ここでも、無線通信システムにおいて、信号対雑音比SNRが高い場合を想定すると、チャネル状態情報CSIの行列の逆行列のノルムは、極端に大きな値となり、単純に、フィードバックされたチャネル状態情報を用いるとMIMO伝送が破たんする。
【0093】
図6は、送信機および受信機において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【0094】
すなわち、図6では、図4に示した受信機側でのアンテナ故障と、図5で示した送信機側でのアンテナ故障とが同時に発生した場合を示している。
【0095】
これに伴って、送信機にフィードバックされるチャネル状態情報CSIの行列は、これらのアンテナが故障していることに伴い、第2行および第6行ならびに第2列および第8列の成分は、図6に示されるように雑音成分のみとなる。
【0096】
ここでも、同様にして、信号対雑音比SNRが高い場合を想定すると、単純に、フィードバックされたチャネル状態情報を用いるとMIMO伝送が破たんする。
【0097】
図7は、実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第1の概念図である。
【0098】
図7においては、図4に示したように、受信機側の端末UE1の第2アンテナが故障し、かつ、端末UE3の第2アンテナが故障しているものとする。
【0099】
したがって、受信機側からフィードバックされるチャネル状態情報の行列においては、第2行および第6行の成分は、図7に示されるように雑音成分のみとなる。
【0100】
これを、無線送信機1000における故障アンテナ検知部82では、後に説明する演算により、フィードバックされるチャネル状態情報の行列の行において、故障しているアンテナがあることを検知すると、故障が検知されたチャネル状態情報の行列の行の要素をすべて0に設定する。
【0101】
次に、チャネル情報修復処理部84では、故障アンテナ検知部82で、故障アンテナに相当する行であって、値が0に設定された行の要素のうち、後に説明するように、対角要素を所定の値aに設定する。
【0102】
チャネル情報修復処理部84により、以上のようにして、修復されたチャネル状態情報の行列に基づいて、制御部50は、所定のビームフォーミングのためのアルゴリズムで、重み付け係数を算出する。この場合、対角要素が0ではないので、MIMO通信のためのプリコーディング行列の算出が破たんすることがない。
【0103】
図8は、実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第2の概念図である。
【0104】
図8においては、図5に示したように、送信機側の第2アンテナおよび第8アンテナが故障しているものとする。
【0105】
したがって、受信機側からフィードバックされるチャネル状態情報の行列においては、第2列および第8列の成分は、図8に示されるように雑音成分のみとなる。
【0106】
これを、無線送信機1000における故障アンテナ検知部82では、後に説明する演算により、フィードバックされるチャネル状態情報の行列の列において、故障しているアンテナがあることを検知すると、故障が検知されたチャネル状態情報の行列の列の要素をすべて0に設定する。
【0107】
次に、チャネル情報修復処理部84では、故障アンテナ検知部82で、故障アンテナに相当する列であって、値が0に設定された列の要素のうち、後に説明するように、対角要素を所定の値aに設定する。
【0108】
チャネル情報修復処理部84により、以上のようにして、修復されたチャネル状態情報の行列に基づいて、制御部50は、所定のビームフォーミングのためのアルゴリズムで、重み付け係数を算出する。この場合も、MIMO通信のためのプリコーディング行列の算出が破たんすることがない。
【0109】
図9は、実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第3の概念図である。
【0110】
図9においては、図6に示したように、図4に示した受信機側でのアンテナ故障と、図5で示した送信機側でのアンテナ故障とが同時に発生しているものとする。
【0111】
したがって、受信機側からフィードバックされるチャネル状態情報の行列においては、第2行および第6行ならびに第2列および第8列の成分は、図9に示されるように雑音成分のみとなる。
【0112】
これを、無線送信機1000における故障アンテナ検知部82では、後に説明する演算により、フィードバックされるチャネル状態情報の行列の行または列において、故障しているアンテナがあることを検知すると、故障が検知されたチャネル状態情報の行列の行および列の要素をすべて0に設定する。
【0113】
次に、チャネル情報修復処理部84では、故障アンテナ検知部82で、故障アンテナに相当する列または行であって、値が0に設定された行または列の要素のうち、後に説明するように、対角要素を所定の値aに設定する。
【0114】
チャネル情報修復処理部84により、以上のようにして、修復されたチャネル状態情報の行列に基づいて、制御部50は、所定のビームフォーミングのためのアルゴリズムで、重み付け係数を算出する。この場合も、MIMO通信のためのプリコーディング行列の算出が破たんすることがない。
【0115】
以上のとおり、図9の場合は、送信機側において故障アンテナが発生している場合も、受信機側において、故障アンテナが発生している場合も、両者を包含しているので、以下では、図9を参照して、故障アンテナ検知部82の処理およびチャネル情報修復処理部84の処理について、さらに詳しく説明する。
【0116】
(故障アンテナの検知)
まず、故障アンテナ検知部82が、故障アンテナを検知する処理について説明する。
【0117】
故障アンテナ検知部82は、以下のようにして、フィードバックされるチャネル状態情報の行列Hfbの各列の要素の絶対値の自乗和Scol(i)(i=1,2,…,M)または各行の要素の自乗和Srow(j)(j=1,2,…,M)を計算する。ここで、このような「チャネル状態情報の行列の各行(各列)の要素の絶対値の自乗和」は、対応するアンテナでの送受信時の信号電力に対応する。
【0118】
【数8】
故障アンテナ検知部82は、Scol(i)の値が、所定の値(たとえば、β)よりも小さい列を故障アンテナに対応すると判断し、あるいは、Srow(j)の値が、所定の値(たとえば、β)よりも小さい行を故障アンテナに対応すると判断する。
【0119】
(チャネル状態情報の修復)
続いて、故障アンテナ検知部82は、故障アンテナに対応すると判断された行および列について、行列Hfbの要素をすべて0に設定する。
【0120】
続いて、チャネル情報修復処理部84は、行列Hfbの行または列のうち、要素が0に設定されている行または列の対角成分を、以下のようにして計算される値aに設定する。ここでは、図9に示すように、送信側および受信側とのアンテナは総数として8本ずつであり、フィードバックされるチャネル状態情報の行列においては、第2行および第6行ならびに第2列および第8列の成分は、故障アンテナ検知部82により0に設定されている場合について例示する。
【0121】
すなわち、チャネル情報修復処理部84は、行列Hfbの行または列の要素のうち、故障アンテナ検知部82により、要素の値が0に設定されていない要素の絶対値の自乗和の平均を、値aとすることで、修復されたチャネル状態情報の行列を生成する。
【0122】
この場合、要素の値が0に設定されていないものは、全部で36個ある。
【0123】
【数9】
無線送信装置1000の制御部50は、このようにして修復されたチャネル状態情報の行列に基づいて、所定のビームフォーミングのアルゴリズムに従い、プリコーディング行列を算出する。ここで、制御部50は、送信アンテナが故障アンテナに相当している場合は、プリコーディング行列の行(プリコーディングの重み)のうち、故障アンテナに相当するものを0ベクトルに設定する。これにより、故障アンテナに相当する送信アンテナへは、送信信号が供給されない。
【0124】
図10は、以上説明したような無線送信装置1000におけるプリコーディング行列の演算処理についてのシミュレーション結果を示す図である。
【0125】
図10においては、横軸はユーザあたりの信号対雑音比(SNR)であり、縦軸は、ビット誤り率(BER)を様々な条件について、シミュレーションしている。ここで、シミュレ−シュンのチャネル条件は、各パスが独立かつ同一に分布する(i.i.d.:independent and identically distributed)MIMOチャネルである。
【0126】
このシミュレーションにおいても、送信機側のアンテナ本数は、総数8本であり、端末は4台で、各端末は、2本ずつのアンテナを備えているものとする。
【0127】
ここで、送信機側の故障アンテナの本数をNTとし、受信機側の故障アンテナの本数をNrとする。また、送信機側で故障しているアンテナの番号(インデックス)の集合をSTとし、受信機側で故障しているアンテナの番号(インデックス)をSrとする。
【0128】
シミュレーション条件は、以下のとおりである。
【0129】
なお、BD−VPは、ビームフォーミングアルゴリズムとして、BD−VP法を用いた場合を示し、MMSEは、ビームフォーミングアルゴリズムとして、MMSE法を用いた場合を示す。シミュレーションは、いずれもシングルキャリアの場合について行っている。
【0130】
1)BD−VP(1):NT=Nr=0;ST=Sr={φ}
2)BD−VP(2):NT=0,Nr=4;ST={φ},Sr={2,3,5,7}
3)BD−VP(3):NT=2,Nr=2;ST={3,5},Sr={2,7}
4)BD−VP(4):NT=1,Nr=0;ST={1},Sr={φ}(チャネル状態情報の修復なし)
5)MMSE(1) :NT=Nr=0;ST=Sr={φ}
6)MMSE(2) :NT=0,Nr=4;ST={φ},Sr={2,3,5,7}
7)MMSE(3) :NT=2,Nr=2;ST={3,5},Sr={2,7}
8)MMSE(4) :NT=1,Nr=0;ST={1},Sr={φ}(チャネル状態情報の修復なし)
なお、BD−VPアルゴリズムシミュレ−シュンでのBDは、2BDブロック(8×8マトリックスのうち、対角方向の4×4マトリックス)であり、かつ、VP処理は、このようなBDブロックのそれぞれに対して実行されるものとしている。
【0131】
図10からは、チャネル状態情報の修復を行わない場合(BD−VP(4)およびMMSE(4))では、送信アンテナが1本故障することで、MIMO伝送の信号分離が破たんしていることがわかる。
【0132】
一方で、チャネル状態情報の修復を行う場合(BD−VP(1)〜(3)およびMMSE(1)〜(3))では、送信側あるいは受信側に故障アンテナが存在する場合でも、MIMO伝送が破たんせず、信号分離が行われていることを示している。
【0133】
以上のような構成により、無線送信装置1000においては、ハードウェアの故障あるいは遠近効果等により、一部の送信あるいは受信アンテナの信号強度が著しく低下し、対応する伝送路が通信不能状態となった場合でも、MIMO伝送の破たんが回避される。また、このようなMIMO伝送の破たんの回避のために、無線送信装置1000においては、制御部50の実行する信号分離のためのビームフォーミングアルゴリズムそのものについては、変更を加える必要がない。
(実施の形態2)
図11は、実施の形態2の無線通信システムにおける無線送信装置2000の構成を示すブロック図である。
【0134】
なお、図11では、MIMO伝送される信号がOFDM変調されているものとしている。
【0135】
そして、NS個のストリーム(NS/2ユーザ)に対して、OFDM信号のサブキャリアがN個であり、送信アンテナはNT本であるものとする。なお、後に説明するように、各受信機側のアンテナは、2本であるものとする。
【0136】
図11において、図1に示した実施の形態1のシングルキャリアの場合の無線送信装置1000の場合の構成との相違点を主として説明し、共通な部分については適宜説明を省略する。なお、上述した特許文献3の説明でも述べたように、マルチキャリアのOFDM信号であっても、ビームフォーミングのためのプリコーディング行列の算出については、本質的には、シングルキャリアの場合と同様である。
【0137】
図11を参照して、無線送信装置2000は、入力ノード10から与えられる送信シンボルをシリアルパラレル変換して、それぞれN個ごとの信号のグループにするためのシリアルパラレル変換部20と、パラレル変換された各信号を、N個のグループごとに所定の変調方式で変調するための変調部30−1〜30−NSとを含む。
【0138】
なお、送信シンボルは、同相成分と直行成分とを含みうるが、図11でも、両者は、1つの信号線で表現されている。
【0139】
無線送信装置2000は、チャネル状態情報に基づいて、プリコーディング行列を算出するための制御部50と、制御部50からのプリコーディング行列中の係数を、変調部30−1〜30−8からの信号に乗算するための重み付け処理部40−1〜40−Nとを含む。
【0140】
重み付け処理部40−1は、変調部30−1からの信号に対して、プリコーディング行列中の係数を乗算して、アンテナ100−1〜100−NTからそれぞれ送信するための信号を生成する乗算器42−11−42−NT1を含む。重み付け処理部40−1は、変調部30−1に対応するのと同様の構成を、変調部30−2〜30−NSに対応しても含んでいる。たとえば、重み付け処理部40−1は、変調部30−NSからの信号に対しては、プリコーディング行列中の係数を乗算して、アンテナ100−1〜100−NTからそれぞれ送信するための信号を生成する乗算器42−1NS−42−NTNSを含む。さらに、重み付け処理部40−1は、アンテナ100−1に対応する乗算器42−11〜42−1NSからの信号を統合して、アンテナ100−1向けの信号を生成する加算器44−1を含む。他のアンテナ100−2〜100−NTに対応しても、同様な加算器44−2(図示せず)〜44−NTを含んでいる。ここで、変調部30−1〜30−NSからの信号について重み付け処理を実行する他の重み付け処理部40−2〜40−Nについても、重み付け処理部40−1と同様な構成を有する。
【0141】
なお、プリコーディング処理として上述したような非線形プリコーディングを実施する場合には、変調部30−1〜30−NSの出力に対しては、モジュロ演算処理が実行される。このようなモジュロ演算処理についても、制御部50の制御の下に実行されることになる。
【0142】
また、このようなモジュロ演算とともに、干渉キャンセルのための符号化技術としてDPC(Dirty Paper Coding)を用いることも可能である。
【0143】
無線送信装置2000は、さらに、重み付け処理部40−1〜40−Nの出力をそれぞれ受けて、無線送信する信号に変換するためのアップコンバータ60−1〜60−NTを含む。
【0144】
アップコンバータ60−1は、重み付け処理部40−1の出力を受けて、逆フーリエ変換するための逆フーリエ変換部62と、デジタルアナログ変換するためのDA変換部64と、DA変換部64の信号を局部発信部70からの信号に基づいて周波数変換するための周波数変換部66と、周波数変換部66の出力を増幅して、アンテナ100−1に供給するための電力増幅部68とを含む。他のアップコンバータ60−2〜60−NTも同様の構成を有する。
【0145】
その他の構成、たとえば、フィードバック情報受信部80、故障アンテナ検知部82、チェネル情報修復処理部84等の構成については、図1の無線送信装置1000と同様であるので、説明を繰り返さない。
【0146】
なお、図11においても、点線で示した部分は、特に限定されないが、たとえば、所定のプリコーディング行列の算出処理のアルゴリズムに基づいて動作する専用のハードウェアであり、フィードバック情報受信部80、故障アンテナ検知部82およびチェネル情報修復処理部84は、このような専用のハードウェアに、後付けで設ける構成としてもよい。
【0147】
図12は、実施の形態2の無線通信システムにおける端末装置2100の構成を示すブロック図である。
【0148】
図12においては、受信される信号がOFDM信号であることに伴い、ダウンコンバータ220−1〜220−2において、フーリエ変換部228が設けられる構成となっている他は、制御部250において算出される重み係数が、OFDM伝送に対応するものとなっていることを除いて、基本的な構成は、図2に示した実施の形態1の端末装置1100の構成と同様である。
【0149】
なお、端末装置2100においても、チャネル応答推定部260において推定された端末装置1100についてのチャネル応答行列は、チャネル状態情報送信処理部262により、アンテナ200−1、200−2から、無線送信装置2000に対して、フィードバック情報として送信される。
【0150】
図13は、無線送信装置2000の動作を説明するためのフローチャートである。
【0151】
図13を参照して、処理が開始されると、まず、制御部50は、故障アンテナの状態の監視に応じて、故障アンテナのインデックスへの登録を実施する周期の期間Tを管理するための時間変数tの値をインクリメントする(S100)。
【0152】
続いて、故障アンテナ検知部82は、受信端末からのフィードバック情報(チャネル状態情報)の受信にエラーが存在するかを判定する(S102)。
【0153】
ここで、受信端末をUE(m)とする(m=1,2,3,4)。端末UE(m)からの信号がエラーである、すなわち、受信機側からのチャネル状態情報の受信に失敗すると、故障アンテナ検知部82は、故障アンテナの状態であると判断し、エラーである端末について、エラー状態を管理するための変数UEFBErr(m)を1だけインクリメントする(S106)。
【0154】
一方、ステップS104において、故障アンテナ検知部82は、端末UE(m)からのチャネル状態情報の受信についてエラーがないと判断すると、それまでに受信して記憶していたチャネル状態情報の行列Hfb(t、f)を上書きしてアップデートする(S108)。ここで、fは、OFDMにおけるサブキャリアを表す。
【0155】
さらに、故障アンテナ検知部82は、以下の式にしたがって、故障アンテナ検知のためのメトリックスM(t)を積算する(S110)。ここで、メトリックスの(i,j)成分は以下のようになる。
【0156】
【数10】
メトリックスM(t)は、したがって、(受信アンテナ本数)×(送信アンテナ本数)の大きさの行列であり、各要素は、時間軸おおよび周波数軸方向におけるパワーの合計に相当する。
【0157】
続いて、動作モードが“2”に設定されている場合は、検出されている故障アンテナについての情報(故障アンテナインデックス)に基づいて、チャネル情報修復処理部84は、チャネル情報の修復処理を実行し(S120)、制御部50が、プリコーディング行列を算出する(S122)。
【0158】
制御部50は、故障アンテナであって使用されない送信アンテナが存在する場合は(S124)は、プリコーディング行列のうち、使用されない送信アンテナに対応する行をゼロベクトルとする(S126)。これにより、故障アンテナに相当する送信アンテナへは、送信信号が供給されない。続いて、制御部50からの重み付け係数に基づいて、重み付け処理部40−1〜40−Nが、送信信号の重み付け処理を実行する(S130)。一方、使用されないアンテナが存在しない場合(S124)も、処理は、ステップS130へ移行する。
【0159】
一方、ステップS112において、動作モードが“1”に設定されている場合は、現状のチャネル状態情報の行列Hfbに基づいて、制御部50が、プリコーディング行列を算出し(S114)、制御部50からの重み付け係数に基づいて、重み付け処理部40−1〜40−Nが、送信信号の重み付け処理を実行する(S130)。
【0160】
送信信号の重み付け処理の後、アンテナから送信信号が送信される(S132)。
【0161】
続いて、制御部50は、時間変数tが期間Tに等しいかを判断し、期間Tに達していない場合(S134)、処理を、ステップS100に復帰させる。
【0162】
一方、制御部50は、時間変数tが期間Tに達している場合(S134)、動作モードを“1”に設定する(S136)。すなわち、チャネル修復処理を実行しないモードに設定する。
【0163】
次に、制御部50は、変数UEFBErr(m)を期間Tについて積算した値の期間Tについて平均をCheErr(m)として算出するとともに、UEFBErr(m)の値については、0にリセットする(S138)。
【0164】
ここで、故障アンテナ検知部82は、CheErr(m)の値が所定の値φを超えると判断すると(S140)、制御部50に対して、動作モードを“2”(チャネル状態情報の修復を実行するモード)に設定することを通知し、m番目の端末のアンテナの故障アンテナ(不能状態の伝送路)に対応するアンテナを故障アンテナインデックスに加える(S142)。
【0165】
続いて、故障アンテナ検知部82は、メトリックスM(t)の時間平均をMavgとして算出する(S144)。
【0166】
ここで、Mavgの要素の列についての和が、所定の値以下であって、送信アンテナが正常に接続されていない(故障アンテナである)と故障アンテナ検知部82が判断すると、故障アンテナ検知部82は、制御部50に対して、動作モードを“2”(チャネル状態情報の修復を実行するモード)に設定することを通知し、正常に接続されていない送信アンテナ(不能状態の伝送路)に対応する送信アンテナを故障アンテナインデックスに加える(S148)。なお、受信側の故障アンテナの検知および故障アンテナインデックスの登録においても、Mavgの要素の行についての和が、所定の値以下であることを利用してもよい。
【0167】
続いて、制御部50は、時間変数tと、メトリックスの値を0に初期化する(S150)。
【0168】
以上のような処理により、少なくとも期間Tにわたって、所定の回数以上にわたって、故障アンテナであると検知された受信アンテナまたは送信アンテナが存在する場合には、チャネル情報修復処理部84によるチャネル情報の修復処理が実行されることになる。
【0169】
なお、故障アンテナの検知については、図13で説明した方法に限定されず、実施の形態1で説明したScol(i)(i=1,2,…,M)またはSrow(j)(j=1,2,…,M)によってもよい。
【0170】
以上のような実施の形態2の無線通信システムでは、OFDMのようなマルチキャリア伝送においても、実施の形態1の無線通信システムと同様に、ハードウェアの故障あるいは遠近効果等により、一部の送信あるいは受信アンテナの信号強度が著しく低下し、対応する伝送路が通信不能状態となった場合でも、MIMO伝送の破たんが回避される。また、このようなMIMO伝送の破たんの回避のために、無線送信装置2000においては、信号分離のためのビームフォーミングアルゴリズムそのものについては、変更を加える必要がない。
【0171】
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0172】
10 入力ノード、20 シリアルパラレル変換部、30−1〜30−8 変調部、40−1〜40−8 重み付け処理部、50 制御部、60−1〜60−8 アップコンバータ、80 フィードバック情報受信部、82 故障アンテナ検知部、84 チャネル情報修復処理部、100−1〜100−8 アンテナ、CSI チャネル状態情報制御部、100,2000 無線送信装置、1100,2100 端末装置。
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のアンテナを有する基地局と、端末装置の存在する無線通信システムに関し、より特定的には、マルチユーザMIMO(Multiple Input Multiple Output)通信の無線通信システムにおける送信ビームフォーミング技術に関連する、無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マルチユーザMIMO技術が提案されている(特許文献1,特許文献2、特許文献3)。マルチユーザMIMOは、基地局(またはアクセスポイント)側に多数のアンテナ素子をもたせるとともに、端末側は比較的少数のアンテナ素子をもたせ、基地局と複数の端末とで同時に仮想的なMIMOチャネルを形成するものである。
【0003】
つまり、マルチユーザMIMO送信技術とは、送信局側において複数の送信アンテナから同一周波数同一タイミングで異なる独立な信号を複数の通信相手装置に送信し、複数の通信相手装置の受信アンテナ全体を巨大な受信アレーとみなして下りスループットの向上を図る技術である。
【0004】
図14は、このようなマルチユーザMIMO通信システムの構成を示す概念図である。
【0005】
図14に示されるように、基地局BSは、アンテナ1〜Mから、それぞれ送信信号x1〜xMを送信する。端末UE1〜UEkは、たとえば、それぞれ2本のアンテナを備えているものとする。端末UE1は、基地局からの送信信号x1〜xMを、その2本のアンテナにより受けて、それぞれ信号y1およびy2を受信する。同様にして、他の端末UE2〜UEkも、それぞれ2本のアンテナにより、基地局からの送信信号x1〜xMを受けて、信号y3およびy4,…,yM-1およびyMを受信する。
【0006】
すなわち、図14の例では、(基地局の送信アンテナの本数)=(1つの端末側の受信アンテナの本数)×(端末数)が成り立っている場合を例示している。
【0007】
このとき、受信側の端末UE1〜UEkでの各アンテナでの受信信号y1〜yMをまとめた受信信号ベクトルYは、以下の式により表される。
【0008】
【数1】
ここで、行列Hの各要素は、送信側の各アンテナから受信側の各アンテナへの伝送路のインパルス応答に相当し、行列Hは「チャネル応答マトリックス」(または「伝送路行列」)と呼ばれる。ベクトルxは、送信機側での各アンテナへの送信信号を並べたベクトルである。また、ベクトルNは、受信側の各アンテナで受信される信号に含まれるノイズ成分を並べたものである。
【0009】
従来のマルチユーザMIMOダウンリンクにおける送信ビーム形成(BF:Beam Forming)法としては、自端末以外の全ての端末の全受信アンテナに対してヌルを形成するZF(Zero Forcing:ゼロフォーシング)法や、MMSE(Maximum Mean Square Error:最小二乗法)法に基づいた種々のビーム形成法が考案されている。MMSE法に基づくビーム形成法では、自端末以外の全ての端末の全受信アンテナに対してヌルを形成するのではなく、一定量の漏洩を許容する。
【0010】
ここで、シングルキャリアの場合について、MMSE法により、各アンテナに与える送信信号を合成するための「重み付け係数」(ビームフォーミングウェイト行列)を推定する方法については、特許文献2(特開2007−110664号公報)に開示されている。
【0011】
さらに、特許文献3にも記載のとおり、MIMOダウンリンクにおける送信ビーム形成法の他の例としては、BD(Block Diagonalization:ブロック対角化)法がある。
【0012】
また、非特許文献1には、このBD法をさらに改良したBD−VP(Vector Perturbation with Block Diagonalization)法について開示がある。
【0013】
以下、この非特許文献1の開示にしたがって、まず、マルチユーザMIMO(以下、MU−MIMOと称す)に適用されるBD法について簡単に説明する。
【0014】
すなわち、BD法では、以下に説明するように、チャネル応答マトリックスから、プリコーディング行列(重み付け係数を表現する送信ビームフォーミングのための行列、以下、上述した「ビームフォーミングウェイト行列」とを合わせた総称として「プリコーディング行列」と呼ぶ)を算出する。
【0015】
MU−MIMOシステムにおいて、下りリンクを想定することとする。送信アンテナは、nT本であり、nUユーザについて、各ユーザ(各端末)ごとにnR本の受信アンテナが設けられているものとする。そして、nT=nR×nUが成り立っているものとする。
【0016】
このとき、チャネル応答マトリックスHが以下のように表されるものとする。
【0017】
【数2】
ここで、チャネル応答マトリックスの部分行列Hiは、i番目のユーザについて、送信側のnT本の送信アンテナと受信側のnR本の受信アンテナとの間の伝送路の応答を示す。また、記号右肩の添え字Tは、転置行列を示す。
【0018】
以下に説明するようなブロック対角化アルゴリズム(BDアルゴリズム)によれば、ユーザ間の干渉についてはキャンセルすることが可能である。
【0019】
すなわち、BDアルゴリズムは、MU−MIMOをシングルユーザMIMO(以下、SU−MIMOと称す)のチャネルに変換するものである。ユーザ側の受信機での処理の複雑さを低減するために、プリコーディング処理により、送信側でチャネルについての等価処理が実行される。
【0020】
BDアルゴリズムとは、以下の式(2)で表されるような行列Bを見出すことを目的とするものである。
【0021】
【数3】
ここで、0nRとは、nR×nRのゼロマトリックスであり、Heff,i=HiBiとは、ユーザiについての有効チャネル応答マトリックスである。
【0022】
さて、さらに、式(1)のシステム全体のチャネル応答マトリックスから、ユーザiの部分チャネル応答マトリックスを除くことで、以下の式(3)で表されるマトリックスを定義する。
【0023】
【数4】
式(3)のマトリックスの特異値分解は、以下の式(4)のように表現される。
【0024】
【数5】
そこで、ユーザiに対するチャネル応答マトリックスHiに対して、上記式(4)中のヌル空間ウェイト行列を乗算して得られる行列について、以下の式(5)で示されるように特異値分解を実行すると、プリコーディング行列Biも以下の式(6)のように表現される。
【0025】
【数6】
特許文献3には、さらに、このようなBDアルゴリズムを用いて、マルチユーザMIMO送信技術を、マルチキャリアの伝送技術である直交周波数分割多重 (OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式に適用した例について開示がある。
【0026】
図15は、このようなBDアルゴリズムを用いて、送信ビームフォーミングを実行する無線送信装置9の構成を説明するための図である。図15を参照して、以下、簡単に、このような送信装置9の構成について説明する。
【0027】
図15は、伝搬環境に最適となるように送信し、空間多重により伝送速度を向上させる従来技術におけるBD指向性制御法を用いた構成例である。
【0028】
通信装置9のアンテナ素子数をMt、通信相手装置の数をMa、i番目の通信相手装置の受信アンテナ素子数をMr(i)、i番目の通信相手装置に同時間、同 周波数帯において送信する通信系列数をL(i)、サブキャリア数をMf、Mt≧Mr(i)として通信相手装置を決定する方法の一例を示す。
【0029】
通信装置9は、データ出力回路901、送信信号変換回路902、IFFT回路903−1〜903−Mt、無線部904−1〜904−Mt、アンテナ素子905−1〜905−Mt、通信相手指定回路906、チャネル情報取得回路907、送信符号化決定回路908を備えている。
【0030】
アンテナ素子905−1〜905−Mt及び無線部904−1〜904−Mtは、無線信号の送受信を行う。チャネル情報取得回路907は、各アンテナ素子905−1〜905−Mtと通信相手装置の各アンテナ素子との間の複数の周波数のチャネル情報を推定する。このチャネル情報の取得方法は、例えば、アンテナ素子905−1〜905−Mtを介して得られる既知信号の受信を行った際に得られる情報に対してFFTを行い周波数領域の情報に変換して、周波数帯域ごとのチャネル情報を推定する方法がある。また、受信信号に含まれるフィードバック情報に含まれる情報により、チャネル情報を取得する方法もある。
【0031】
通信相手指定回路906が通信を行う複数の通信相手装置を決定すると、通信相手指定回路906は、チャネル情報取得回路907を通じて、当該通信相手装置 の全周波数帯域のチャネル情報を送信符号化決定回路908に出力する。送信符号化決定回路908は、入力されたチャネル情報を用いて、通信相手装置を同時 送信が行われる組に分けるスケジューリングを行い、各通信相手装置の組合せに対する信号系列それぞれの送信ウエイトと通信品質を算出し、通信ストリーム 数、通信ストリームに対応する変調方式及び符号化率を含む送信モードを決定する。また、送信符号化決定回路908は、決定した送信モードをデータ出力回路 901及び送信信号変換回路902へ出力する。
【0032】
データ出力回路901は、通信相手装置へ送信するデータを生成し、生成したデータを送信信号変換回路902へ出力する。送信信号変換回路902は、入力されたデータをシリアル−パラレル変換、既知信号の付与、誤り検出や誤り訂正のための符号化を行いIFFT回路903−1〜903−Mtへ出力する。IFFT回路903−1〜903−Mtは、入力された周波数領域の送信情報を時間領域への送信情報へ変換し、無線部904−1〜904−Mtへ出力する。無線部904−1〜904−Mtは、入力された時間領域のデータを、アンテナ905−1〜905−Mtを通じて、無線信号として送信する。
【0033】
なお、このようなOFDM変調へのBDアルゴリズムの適用については、上述したシングルキャリアの場合と、本質的には同様であるので、ここでは説明は繰り返さない。
【0034】
さらに、非特許文献1においては、送信ビームフォーミングのための非線形な重み付け処理として、上述したBD−VP法について開示がある。
【0035】
非特許文献1に開示されるBD−VP法は、簡単に説明すると、BD法により、MU−MIMOチャネルを、ユーザ間の干渉のない並行的なSU−MIMOチャネルに変換するとともに、非線形プリコーディング法であるVP(Vector Perturbation)アルゴリズムにより、送信電力を減少させる技術である。さらに、VP法のアルゴリズムを適切に設計することで、演算負荷を抑制することも可能となる。
【0036】
VP法のような非線形プリコーディング法においては、受信装置間干渉を受ける受信装置宛の送信信号に対し、プリコーディング処理が行われ、事前に干渉成分が間引かれる。しかし、このプリコーディング処理後の信号は伝搬路に起因する成分を持つため、送信電力が規定値を超える可能性がある。
【0037】
そのため、プリコーディング処理前の信号に対し、モジュロ演算処理が実行される。「モジュロ演算処理」とは、入力された信号の実数部および虚数部に対し、既定の値の剰余演算を行うことである。これは、入力された信号に対し、実数部および虚数部に規定の値の整数倍の値を持つ摂動信号を加えることと等価である。 モジュロ演算により送信電力が規定値内に抑えられた信号はビームフォーミングにより伝送される。
【0038】
一方、受信処理では、所望の信号(データを含む情報信号)に上述した摂動信号が加わっている受信信号に対し、再びモジュロ演算処理が行われ、上記摂動信号成分が除去されて、情報信号が取り出される。
【0039】
このような「非線形プリコーディング法」については、たとえば、特許文献4にも開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【特許文献1】特開2005−328312号公報
【特許文献2】特開2007−110664号公報
【特許文献3】特開2009−177616号公報
【特許文献4】特開2010−154320号公報
【非特許文献】
【0041】
【非特許文献1】Manar Mohaisen, Bing Hui, KyungHi Chang, Seunghwan Ji, and Jinsoup Joung, ”Fixed-complexity vector perturbation with block diagonalization for MU-MIMO systems,”Proc. 2009 IEEE MICC, pp.238-243,15-17, Dec.2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0042】
上述したような方法にしたがって、MU−MIMOを実現するためのプリコーディング行列の算出にあたっては、演算量の抑制のための様々な手法が提案されている。
【0043】
ただし、一般には、このようなプリコーディング行列の算出には、専用のソフトウェア演算モジュール、あるいは、専用の演算ハードウェア等を用いることになる。
【0044】
しかし、以下のような様々な要因により、プリコーディング行列の算出処理には、理想的な状態から外れた状態が生じる可能性があり、このような状態が生じた場合は、一部のユーザについてのプリコーディング行列の算出処理が破たんし、算出処理が正常に復帰するまで、MU−MIMOの全ユーザについての送信処理に障害が生じる場合がありうる。
【0045】
i)ハードウェアの故障
たとえば、送信機側の一部のアンテナ、または、受信機側の一部のアンテナに障害が発生した場合、このような障害が発生したアンテナに対応するチャネルについては、受信機側からの伝送路についての推定情報(チャネル状態情報)が正常な値ではなくなるため、プリコーディング行列の算出処理を、破たんせずに実行できなくなる。
【0046】
ii)設計またはテスト
MU−MIMOの設計段階やテスト段階では、一部の端末のみについてのテストを実行したり、あるいは、試行的なテスト条件等により一部のハードウェアの故障等が発生したりすることが、実際の運用時より、高い頻度で発生することになる。このような場合にも、i)のハードウェアの故障と等価な状態となりうる。このような場合には、「プリコーディング行列の算出処理」を実行する本質的な処理部分(演算アルゴリズム)については、特に、修正を加えなくとも、プリコーディング行列の算出処理に破たんが生じないようにできる構成が望ましい。
【0047】
以下では、このような送信側または受信側の一部(1つの送信機または1つの受信機の複数のアンテナのうちの一部の場合と複数の受信機のうちの一部の受信機のアンテナの場合の双方を意味する)が、通信できない状態となることを「故障アンテナ効果(Broken antennas effect)」とよび、このような「故障アンテナ効果」により通信不能となっている伝送路のことを「不能状態の伝送路」と呼ぶことにする。
【0048】
それゆえに本発明の目的は、マルチユーザMIMO通信において、不能状態の伝送路が発生した場合でも、正常状態にある伝送路についてのプリコーディング行列の算出アルゴリズムの演算処理の破たんを回避して安定なMIMO通信を実現することが可能な無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法を提供することである。
【0049】
また、この発明の他の目的は、マルチユーザMIMO通信において、不能状態の伝送路が発生した場合でも、アルゴリズム修正やハードウェア調整を加えなくとも、プリコーディング行列の算出処理に破たんが生じることを防ぐことが可能な無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0050】
この発明のある局面に従うと、基地局と複数の端末との間でMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信する無線通信システムであって、基地局は、複数の第1のアンテナと、複数の端末において推定された伝送路のチャネル応答行列に対応するチャネル状態情報に基づいて、重み付け係数を算出するための制御部と、複数の第1のアンテナから複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、変調された送信シンボル系列に、重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するための重み付け処理部と、重み付け処理部の出力を複数の第1のアンテナから送信するための第1の送信処理部と、複数の端末から受信したチャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、基地局および端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知する不能アンテナ検知部と、不能アンテナ検知部の検知結果に応じて、チャネル状態情報のうち、不能状態にある伝送路に対応するチャネル応答行列の要素を修復して、制御部に与えるチャネル情報修復処理部とを備え、各複数の端末は、複数の第2のアンテナと、複数の送信信号のうち、対応する送信信号を受信するための受信処理部と、受信処理部で受信した受信信号に基づいて、対応する伝送路のチャネル応答行列を推定し、チャネル状態情報として、第2のアンテナから基地局に送信するための第2の送信処理部とを備える。
【0051】
好ましくは、チャネル情報修復処理部は、端末から受信したチャネル状態情報を統合して得られる基地局および複数の端末についてのチャネル応答行列に基づいて、不能状態の伝送路に対応するチャネル応答行列の行または列の要素のうち非対角成分を0に設定するとともに、対角成分を所定の値に設定することで、チャネル応答行列の修復を実行する。
【0052】
好ましくは、不能アンテナ検知部は、端末から受信した端末から受信したチャネル状態情報を統合して得られる基地局および複数の端末についてのチャネル応答行列において、列または行の要素の大きさの和に相当する値が、所定値以下であることに応じて、不能状態にある伝送路を検知する。
【0053】
この発明の他の局面に従うと、複数の端末とMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信する無線送信装置であって、複数のアンテナと、複数の端末において推定された伝送路のチャネル応答行列に対応するチャネル状態情報に基づいて、重み付け係数を算出するための制御部と、複数のアンテナから複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、変調された送信シンボル系列に、重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するための重み付け処理部と、重み付け処理部の出力を複数のアンテナから送信するための送信処理部と、複数の端末から受信したチャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、基地局および端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知する不能アンテナ検知部と、不能アンテナ検知部の検知結果に応じて、チャネル状態情報のうち、不能状態にあるアンテナに対応するチャネル応答行列の要素を修復して、制御部に与えるチャネル情報修復処理部とを備える。
【0054】
好ましくは、チャネル情報修復処理部は、端末から受信したチャネル状態情報を統合して得られる基地局および複数の端末についてのチャネル応答行列に基づいて、不能状態の伝送路に対応するチャネル応答行列の行または列の要素のうち非対角成分を0に設定するとともに、対角成分を所定の値に設定することで、チャネル応答行列の修復を実行する。
【0055】
好ましくは、不能アンテナ検知部は、端末から受信した端末から受信したチャネル状態情報を統合して得られる基地局および複数の端末についてのチャネル応答行列において、列または行の要素の大きさの和に相当する値が、所定値以下であることに応じて、不能状態にある伝送路を検知する。
【0056】
この発明のさらに他の局面に従うと、複数のアンテナを有する基地局と複数の端末との間でMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信するための無線通信方法であって、各複数の端末が、基地局からの送信信号を受信するステップと、各複数の端末が、受信した受信信号に基づいて、対応する伝送路のチャネル応答行列を推定し、チャネル状態情報として、基地局に送信するステップと、基地局が、複数の端末から受信したチャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、基地局および端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知するステップと、基地局が、チャネル状態情報のうち、不能状態にある伝送路に対応するチャネル応答行列の要素を修復するステップと、基地局が、修復されたチャネル状態情報に基づいて、複数のアンテナから複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、重み付け係数を算出するステップと、基地局が、変調された送信シンボル系列に、重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するステップと、複数の送信信号を複数のアンテナから送信するステップとを備える。
【発明の効果】
【0057】
本発明の無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法によれば、マルチユーザMIMO通信において、不能状態の伝送路が発生した場合でも、正常状態にある伝送路についてのプリコーディング行列の算出アルゴリズムの演算処理の破たんを回避することが可能である。
【0058】
また、本発明の無線通信システム、無線送信装置および無線通信方法によれば、マルチユーザMIMO通信において、プリコーディング行列の算出処理のための専用処理部分には変更を加えることなく、不能状態の伝送路が発生した場合でも、プリコーディング行列の算出処理の破たんを回避することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施の形態1の無線通信システムにおける無線送信装置1000の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1の無線通信システムにおける端末装置1100の構成を示すブロック図である。
【図3】通常状態のMIMO通信システムにおいて、チャネル応答行列とフィードバックされるチャネル状態情報との関係を示す概念図である。
【図4】受信機側において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【図5】送信機において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【図6】送信機および受信機において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【図7】実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第1の概念図である。
【図8】実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第2の概念図である。
【図9】実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第3の概念図である。
【図10】無線送信装置1000におけるプリコーディング行列の演算処理についてのシミュレーション結果を示す図である。
【図11】、実施の形態2の無線通信システムにおける無線送信装置2000の構成を示すブロック図である。
【図12】実施の形態2の無線通信システムにおける端末装置2100の構成を示すブロック図である。
【図13】無線送信装置2000の動作を説明するためのフローチャートである。
【図14】マルチユーザMIMO通信システムの構成を示す概念図である。
【図15】BDアルゴリズムを用いて、送信ビームフォーミングを実行する無線送信装置9の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明の実施の形態の無線通信システムについて、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
【0061】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の無線通信システムにおける無線送信装置1000の構成を示すブロック図である。
【0062】
なお、図1では、説明の簡単のために、無線送信装置1000は、8本のアンテナ100−1〜100−8を有するものとして説明するが、MU−MIMOの送信機の構成としては、より一般的には、このようなアンテナ本数に限定されるものではない。
【0063】
図1を参照して、無線送信装置1000は、入力ノード10から与えられる送信シンボルをシリアルパラレル変換するためのシリアルパラレル変換部20と、パラレル変換された各信号を、所定の変調方式で変調するための変調部30−1〜30−8とを含む。
【0064】
なお、送信シンボルは、同相成分と直行成分とを含みうるが、図1では、両者は、1つの信号線で表現されている。
【0065】
無線送信装置1000は、後に説明するチャネル状態情報(CSI:Channel State Information)に基づいて、プリコーディング行列を算出するための制御部50と、制御部50からのプリコーディング行列中の係数を、変調部30−1〜30−8からの信号に乗算するための重み付け処理部40−1〜40−8とを含む。
【0066】
重み付け処理部40−1は、変調部30−1からの信号に対して、プリコーディング行列中の係数を乗算して、アンテナ100−1〜100−8からそれぞれ送信するための信号を生成する乗算器42−11〜42−81を含む。ここで、他の変調部30−2〜30−8からの信号について重み付け処理を実行する重み付け処理部40−2〜40−8についても、重み付け処理部40−1と同様な構成を有する。
【0067】
なお、プリコーディング処理として上述したような非線形プリコーディングを実施する場合には、変調部30−1〜30−8の出力に対しては、モジュロ演算処理が実行される。このようなモジュロ演算処理についても、制御部50の制御の下に実行されることになる。
【0068】
また、このようなモジュロ演算とともに、干渉キャンセルのための符号化技術としてDPC(Dirty Paper Coding)を用いることも可能である。
【0069】
重み付け処理部40−1〜40−8の出力は、それぞれ、アンテナ100−1〜100−8に対応する加算器44−1〜44−8に入力され、合成される。たとえば、加算器44−1は、重み付け処理部40−1〜40−8のそれぞれからのアンテナ100−1向けの信号を合成する。他の加算器44−2〜44−8についても、同様に、対応するアンテナ100−2〜100−8向けの信号を合成する。
【0070】
さらに、無線送信装置1000は、加算器44−1〜44−8からの信号をそれぞれ受けて、無線送信する信号に変換するためのアップコンバータ60−1〜60−8を含む。
【0071】
アップコンバータ60−1は、加算器44−1の出力を受けて、デジタルアナログ変換するためのDA変換部64と、DA変換部64の信号を局部発信部70からの信号に基づいて周波数変換するための周波数変換部66と、周波数変換部66の出力を増幅して、アンテナ100−1に供給するための電力増幅部68とを含む。他のアップコンバータ60−2〜60−8も同様の構成を有する。
【0072】
無線送信装置1000は、さらに、アンテナ100−1〜100−8により受信機側からのチャネル状態情報を受信するためのフィードバック情報受信部80と、後に説明するように、受信したチャネル状態情報に基づいて、故障アンテナ(すなわち、不能状態にある伝送路)を検知するための故障アンテナ検知部82と、故障アンテナ検知部82の検知結果に応じて、チャネル状態情報を修復して制御部50に与えるチェネル情報修復処理部84とを含む。ここで、「チャネル状態情報を修復」とは、後に説明するように、仮に、不能状態となる伝送路が発生した場合でも、制御部50は、プリコーディング行列の算出処理のアルゴリズムを変更することなく実行することが可能な状態に、チャネル状態情報を変換することを意味する。
【0073】
なお、図1において、点線で示した部分は、特に限定されないが、たとえば、所定のプリコーディング行列の算出処理のアルゴリズムに基づいて動作する専用のハードウェアであり、フィードバック情報受信部80、故障アンテナ検知部82およびチェネル情報修復処理部84は、このような専用のハードウェアに、後付けで設ける構成としてもよい。
【0074】
図2は、実施の形態1の無線通信システムにおける端末装置1100の構成を示すブロック図である。
【0075】
図2を参照して、端末装置1100は、アンテナ200−1と200−2とを含む。そして、無線通信システムとしては、図1の無線送信装置1000の例示的構成に対応して、4つの端末を含んで、(送信アンテナの総本数)=(端末1台当たりのアンテナ数)×(端末数)の関係が成り立っているものとして、以下、説明をする。
【0076】
端末装置1100は、アンテナ200−1および200−2からの受信信号をダウンコンバートするためのダウンコンバータ220−1および220−2を含む。ダウンコンバータ220−1は、アンテナ200−1からの受信信号を増幅するための低雑音増幅部232と、低雑音増幅部222の出力に対して、局部発信部230からの局部発信信号により周波数変換を行うための周波数変換部224と、周波数変換部224の出力に対して、アナログデジタル変換を実行するためのAD変換部226とを含む。ダウンコンバータ220−2についても、同様の構成を有する。
【0077】
端末装置1100は、さらに、ダウンコンバータ220−1と220−2とからの信号を受けて、制御部250からの制御の下に、重み付け処理を実行するための重み付け処理部240を含む。重み付け処理部240は、制御部250からの重み付け係数をそれぞれ乗算するための乗算器242−1および242−2と、乗算器242−1および242−2からの信号を加算して合成し、端末装置1100に対応するチャネルからの受信信号を選択的に分離するための加算器244とを含む。
【0078】
なお、端末装置1100側でも、送信側でプリコーディング処理として上述したような非線形プリコーディングを実施する場合には、ダウンコンバータ220−1および220−2の出力に対して、モジュロ演算処理が実行される。このようなモジュロ演算処理についても、制御部250の制御の下に実行されることになる。また、このようなモジュロ演算とともに、干渉キャンセルのための符号化技術としてDPC(Dirty Paper Coding)が用いられている場合は、これに対する復号処理も実行される。
【0079】
重み付け処理部240の出力は、復調部270により、復調処理が実行された後に、パラレルシリアル変換部280において、パラレルシリアル変換されて、ノード290から受信信号として出力される。
【0080】
制御部250における重み付け係数の演算処理には、チャネル応答推定部260における端末装置1100についてのチャネル応答行列(伝送路行列)の推定結果が使用される。なお、このようなチャネル応答行列の推定処理は、上述した先行技術において開示されているのと同様の処理を使用することが可能である。
【0081】
また、チャネル応答推定部260において推定された端末装置1100についてのチャネル応答行列は、チャネル状態情報送信処理部262により、アンテナ200−1、200−2から、無線送信装置1000に対して、フィードバック情報として送信される。
【0082】
図3は、通常状態のMIMO通信システムにおいて、チャネル応答行列とフィードバックされるチャネル状態情報との関係を示す概念図である。
【0083】
図3に示されるように、送信部が8本のアンテナから送信信号x1〜x8を送信し、4つの端末UE1〜UE4が、それぞれ、受信するものとする。端末UE1は、2つのアンテナにより信号y1およびy2を受信する。同様にして、他の端末UE2〜UE4も、それぞれ2本のアンテナにより、基地局からの送信信号x1〜x8を受けて、信号y3およびy4,…,y7およびy8を受信する。
【0084】
送信信号x1〜x8を1つのベクトルとして統合し、受信信号y1〜y8も1つのベクトルとして統合すると、受信機側において推定されたチャネル応答行列に基づいて、送信機側にフィードバックされるチャネル状態情報CSIは、M=8として、以下のような1つの行列にまとめられる。
【0085】
【数7】
図4は、受信機側において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【0086】
端末UE1の第2アンテナ(端末全体として2番目のアンテナ)が故障し、かつ、端末UE3の第2アンテナ(端末全体として6番目のアンテナ)が故障しているものとする。
【0087】
この場合、送信機にフィードバックされるチャネル状態情報CSIの行列は、これらのアンテナが故障していることに伴い、第2行および第6行の成分は、図4に示されるように雑音成分のみとなる。
【0088】
ここで、無線通信システムにおいて、信号対雑音比SNRが高い場合を想定すると、チャネル状態情報CSIの行列の逆行列のノルムは、送信アンテナと受信アンテナ間で正常に信号の伝送が行われている場合に比べて極端に大きな値となる。これは、MMSE法やBD−VP法などのビームフォーミング法では、送信信号への重み係数の絶対値が極端に小さな値となることを意味し、単純に、フィードバックされたチャネル状態情報を用いるとMIMO伝送が破たんすることを意味する。
【0089】
図5は、送信機において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【0090】
図5においては、送信機の2番目のアンテナと8番目のアンテナが故障しているものとしている。
【0091】
この場合は、送信機にフィードバックされるチャネル状態情報CSIの行列は、これらのアンテナが故障していることに伴い、第2列および第8列の成分は、図5に示されるように雑音成分のみとなる。
【0092】
ここでも、無線通信システムにおいて、信号対雑音比SNRが高い場合を想定すると、チャネル状態情報CSIの行列の逆行列のノルムは、極端に大きな値となり、単純に、フィードバックされたチャネル状態情報を用いるとMIMO伝送が破たんする。
【0093】
図6は、送信機および受信機において故障したアンテナがある場合に、フィードバックされるチャネル状態情報を示す概念図である。
【0094】
すなわち、図6では、図4に示した受信機側でのアンテナ故障と、図5で示した送信機側でのアンテナ故障とが同時に発生した場合を示している。
【0095】
これに伴って、送信機にフィードバックされるチャネル状態情報CSIの行列は、これらのアンテナが故障していることに伴い、第2行および第6行ならびに第2列および第8列の成分は、図6に示されるように雑音成分のみとなる。
【0096】
ここでも、同様にして、信号対雑音比SNRが高い場合を想定すると、単純に、フィードバックされたチャネル状態情報を用いるとMIMO伝送が破たんする。
【0097】
図7は、実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第1の概念図である。
【0098】
図7においては、図4に示したように、受信機側の端末UE1の第2アンテナが故障し、かつ、端末UE3の第2アンテナが故障しているものとする。
【0099】
したがって、受信機側からフィードバックされるチャネル状態情報の行列においては、第2行および第6行の成分は、図7に示されるように雑音成分のみとなる。
【0100】
これを、無線送信機1000における故障アンテナ検知部82では、後に説明する演算により、フィードバックされるチャネル状態情報の行列の行において、故障しているアンテナがあることを検知すると、故障が検知されたチャネル状態情報の行列の行の要素をすべて0に設定する。
【0101】
次に、チャネル情報修復処理部84では、故障アンテナ検知部82で、故障アンテナに相当する行であって、値が0に設定された行の要素のうち、後に説明するように、対角要素を所定の値aに設定する。
【0102】
チャネル情報修復処理部84により、以上のようにして、修復されたチャネル状態情報の行列に基づいて、制御部50は、所定のビームフォーミングのためのアルゴリズムで、重み付け係数を算出する。この場合、対角要素が0ではないので、MIMO通信のためのプリコーディング行列の算出が破たんすることがない。
【0103】
図8は、実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第2の概念図である。
【0104】
図8においては、図5に示したように、送信機側の第2アンテナおよび第8アンテナが故障しているものとする。
【0105】
したがって、受信機側からフィードバックされるチャネル状態情報の行列においては、第2列および第8列の成分は、図8に示されるように雑音成分のみとなる。
【0106】
これを、無線送信機1000における故障アンテナ検知部82では、後に説明する演算により、フィードバックされるチャネル状態情報の行列の列において、故障しているアンテナがあることを検知すると、故障が検知されたチャネル状態情報の行列の列の要素をすべて0に設定する。
【0107】
次に、チャネル情報修復処理部84では、故障アンテナ検知部82で、故障アンテナに相当する列であって、値が0に設定された列の要素のうち、後に説明するように、対角要素を所定の値aに設定する。
【0108】
チャネル情報修復処理部84により、以上のようにして、修復されたチャネル状態情報の行列に基づいて、制御部50は、所定のビームフォーミングのためのアルゴリズムで、重み付け係数を算出する。この場合も、MIMO通信のためのプリコーディング行列の算出が破たんすることがない。
【0109】
図9は、実施の形態1の無線送信装置1000において実行されるチャネル情報の修復処理を説明するための第3の概念図である。
【0110】
図9においては、図6に示したように、図4に示した受信機側でのアンテナ故障と、図5で示した送信機側でのアンテナ故障とが同時に発生しているものとする。
【0111】
したがって、受信機側からフィードバックされるチャネル状態情報の行列においては、第2行および第6行ならびに第2列および第8列の成分は、図9に示されるように雑音成分のみとなる。
【0112】
これを、無線送信機1000における故障アンテナ検知部82では、後に説明する演算により、フィードバックされるチャネル状態情報の行列の行または列において、故障しているアンテナがあることを検知すると、故障が検知されたチャネル状態情報の行列の行および列の要素をすべて0に設定する。
【0113】
次に、チャネル情報修復処理部84では、故障アンテナ検知部82で、故障アンテナに相当する列または行であって、値が0に設定された行または列の要素のうち、後に説明するように、対角要素を所定の値aに設定する。
【0114】
チャネル情報修復処理部84により、以上のようにして、修復されたチャネル状態情報の行列に基づいて、制御部50は、所定のビームフォーミングのためのアルゴリズムで、重み付け係数を算出する。この場合も、MIMO通信のためのプリコーディング行列の算出が破たんすることがない。
【0115】
以上のとおり、図9の場合は、送信機側において故障アンテナが発生している場合も、受信機側において、故障アンテナが発生している場合も、両者を包含しているので、以下では、図9を参照して、故障アンテナ検知部82の処理およびチャネル情報修復処理部84の処理について、さらに詳しく説明する。
【0116】
(故障アンテナの検知)
まず、故障アンテナ検知部82が、故障アンテナを検知する処理について説明する。
【0117】
故障アンテナ検知部82は、以下のようにして、フィードバックされるチャネル状態情報の行列Hfbの各列の要素の絶対値の自乗和Scol(i)(i=1,2,…,M)または各行の要素の自乗和Srow(j)(j=1,2,…,M)を計算する。ここで、このような「チャネル状態情報の行列の各行(各列)の要素の絶対値の自乗和」は、対応するアンテナでの送受信時の信号電力に対応する。
【0118】
【数8】
故障アンテナ検知部82は、Scol(i)の値が、所定の値(たとえば、β)よりも小さい列を故障アンテナに対応すると判断し、あるいは、Srow(j)の値が、所定の値(たとえば、β)よりも小さい行を故障アンテナに対応すると判断する。
【0119】
(チャネル状態情報の修復)
続いて、故障アンテナ検知部82は、故障アンテナに対応すると判断された行および列について、行列Hfbの要素をすべて0に設定する。
【0120】
続いて、チャネル情報修復処理部84は、行列Hfbの行または列のうち、要素が0に設定されている行または列の対角成分を、以下のようにして計算される値aに設定する。ここでは、図9に示すように、送信側および受信側とのアンテナは総数として8本ずつであり、フィードバックされるチャネル状態情報の行列においては、第2行および第6行ならびに第2列および第8列の成分は、故障アンテナ検知部82により0に設定されている場合について例示する。
【0121】
すなわち、チャネル情報修復処理部84は、行列Hfbの行または列の要素のうち、故障アンテナ検知部82により、要素の値が0に設定されていない要素の絶対値の自乗和の平均を、値aとすることで、修復されたチャネル状態情報の行列を生成する。
【0122】
この場合、要素の値が0に設定されていないものは、全部で36個ある。
【0123】
【数9】
無線送信装置1000の制御部50は、このようにして修復されたチャネル状態情報の行列に基づいて、所定のビームフォーミングのアルゴリズムに従い、プリコーディング行列を算出する。ここで、制御部50は、送信アンテナが故障アンテナに相当している場合は、プリコーディング行列の行(プリコーディングの重み)のうち、故障アンテナに相当するものを0ベクトルに設定する。これにより、故障アンテナに相当する送信アンテナへは、送信信号が供給されない。
【0124】
図10は、以上説明したような無線送信装置1000におけるプリコーディング行列の演算処理についてのシミュレーション結果を示す図である。
【0125】
図10においては、横軸はユーザあたりの信号対雑音比(SNR)であり、縦軸は、ビット誤り率(BER)を様々な条件について、シミュレーションしている。ここで、シミュレ−シュンのチャネル条件は、各パスが独立かつ同一に分布する(i.i.d.:independent and identically distributed)MIMOチャネルである。
【0126】
このシミュレーションにおいても、送信機側のアンテナ本数は、総数8本であり、端末は4台で、各端末は、2本ずつのアンテナを備えているものとする。
【0127】
ここで、送信機側の故障アンテナの本数をNTとし、受信機側の故障アンテナの本数をNrとする。また、送信機側で故障しているアンテナの番号(インデックス)の集合をSTとし、受信機側で故障しているアンテナの番号(インデックス)をSrとする。
【0128】
シミュレーション条件は、以下のとおりである。
【0129】
なお、BD−VPは、ビームフォーミングアルゴリズムとして、BD−VP法を用いた場合を示し、MMSEは、ビームフォーミングアルゴリズムとして、MMSE法を用いた場合を示す。シミュレーションは、いずれもシングルキャリアの場合について行っている。
【0130】
1)BD−VP(1):NT=Nr=0;ST=Sr={φ}
2)BD−VP(2):NT=0,Nr=4;ST={φ},Sr={2,3,5,7}
3)BD−VP(3):NT=2,Nr=2;ST={3,5},Sr={2,7}
4)BD−VP(4):NT=1,Nr=0;ST={1},Sr={φ}(チャネル状態情報の修復なし)
5)MMSE(1) :NT=Nr=0;ST=Sr={φ}
6)MMSE(2) :NT=0,Nr=4;ST={φ},Sr={2,3,5,7}
7)MMSE(3) :NT=2,Nr=2;ST={3,5},Sr={2,7}
8)MMSE(4) :NT=1,Nr=0;ST={1},Sr={φ}(チャネル状態情報の修復なし)
なお、BD−VPアルゴリズムシミュレ−シュンでのBDは、2BDブロック(8×8マトリックスのうち、対角方向の4×4マトリックス)であり、かつ、VP処理は、このようなBDブロックのそれぞれに対して実行されるものとしている。
【0131】
図10からは、チャネル状態情報の修復を行わない場合(BD−VP(4)およびMMSE(4))では、送信アンテナが1本故障することで、MIMO伝送の信号分離が破たんしていることがわかる。
【0132】
一方で、チャネル状態情報の修復を行う場合(BD−VP(1)〜(3)およびMMSE(1)〜(3))では、送信側あるいは受信側に故障アンテナが存在する場合でも、MIMO伝送が破たんせず、信号分離が行われていることを示している。
【0133】
以上のような構成により、無線送信装置1000においては、ハードウェアの故障あるいは遠近効果等により、一部の送信あるいは受信アンテナの信号強度が著しく低下し、対応する伝送路が通信不能状態となった場合でも、MIMO伝送の破たんが回避される。また、このようなMIMO伝送の破たんの回避のために、無線送信装置1000においては、制御部50の実行する信号分離のためのビームフォーミングアルゴリズムそのものについては、変更を加える必要がない。
(実施の形態2)
図11は、実施の形態2の無線通信システムにおける無線送信装置2000の構成を示すブロック図である。
【0134】
なお、図11では、MIMO伝送される信号がOFDM変調されているものとしている。
【0135】
そして、NS個のストリーム(NS/2ユーザ)に対して、OFDM信号のサブキャリアがN個であり、送信アンテナはNT本であるものとする。なお、後に説明するように、各受信機側のアンテナは、2本であるものとする。
【0136】
図11において、図1に示した実施の形態1のシングルキャリアの場合の無線送信装置1000の場合の構成との相違点を主として説明し、共通な部分については適宜説明を省略する。なお、上述した特許文献3の説明でも述べたように、マルチキャリアのOFDM信号であっても、ビームフォーミングのためのプリコーディング行列の算出については、本質的には、シングルキャリアの場合と同様である。
【0137】
図11を参照して、無線送信装置2000は、入力ノード10から与えられる送信シンボルをシリアルパラレル変換して、それぞれN個ごとの信号のグループにするためのシリアルパラレル変換部20と、パラレル変換された各信号を、N個のグループごとに所定の変調方式で変調するための変調部30−1〜30−NSとを含む。
【0138】
なお、送信シンボルは、同相成分と直行成分とを含みうるが、図11でも、両者は、1つの信号線で表現されている。
【0139】
無線送信装置2000は、チャネル状態情報に基づいて、プリコーディング行列を算出するための制御部50と、制御部50からのプリコーディング行列中の係数を、変調部30−1〜30−8からの信号に乗算するための重み付け処理部40−1〜40−Nとを含む。
【0140】
重み付け処理部40−1は、変調部30−1からの信号に対して、プリコーディング行列中の係数を乗算して、アンテナ100−1〜100−NTからそれぞれ送信するための信号を生成する乗算器42−11−42−NT1を含む。重み付け処理部40−1は、変調部30−1に対応するのと同様の構成を、変調部30−2〜30−NSに対応しても含んでいる。たとえば、重み付け処理部40−1は、変調部30−NSからの信号に対しては、プリコーディング行列中の係数を乗算して、アンテナ100−1〜100−NTからそれぞれ送信するための信号を生成する乗算器42−1NS−42−NTNSを含む。さらに、重み付け処理部40−1は、アンテナ100−1に対応する乗算器42−11〜42−1NSからの信号を統合して、アンテナ100−1向けの信号を生成する加算器44−1を含む。他のアンテナ100−2〜100−NTに対応しても、同様な加算器44−2(図示せず)〜44−NTを含んでいる。ここで、変調部30−1〜30−NSからの信号について重み付け処理を実行する他の重み付け処理部40−2〜40−Nについても、重み付け処理部40−1と同様な構成を有する。
【0141】
なお、プリコーディング処理として上述したような非線形プリコーディングを実施する場合には、変調部30−1〜30−NSの出力に対しては、モジュロ演算処理が実行される。このようなモジュロ演算処理についても、制御部50の制御の下に実行されることになる。
【0142】
また、このようなモジュロ演算とともに、干渉キャンセルのための符号化技術としてDPC(Dirty Paper Coding)を用いることも可能である。
【0143】
無線送信装置2000は、さらに、重み付け処理部40−1〜40−Nの出力をそれぞれ受けて、無線送信する信号に変換するためのアップコンバータ60−1〜60−NTを含む。
【0144】
アップコンバータ60−1は、重み付け処理部40−1の出力を受けて、逆フーリエ変換するための逆フーリエ変換部62と、デジタルアナログ変換するためのDA変換部64と、DA変換部64の信号を局部発信部70からの信号に基づいて周波数変換するための周波数変換部66と、周波数変換部66の出力を増幅して、アンテナ100−1に供給するための電力増幅部68とを含む。他のアップコンバータ60−2〜60−NTも同様の構成を有する。
【0145】
その他の構成、たとえば、フィードバック情報受信部80、故障アンテナ検知部82、チェネル情報修復処理部84等の構成については、図1の無線送信装置1000と同様であるので、説明を繰り返さない。
【0146】
なお、図11においても、点線で示した部分は、特に限定されないが、たとえば、所定のプリコーディング行列の算出処理のアルゴリズムに基づいて動作する専用のハードウェアであり、フィードバック情報受信部80、故障アンテナ検知部82およびチェネル情報修復処理部84は、このような専用のハードウェアに、後付けで設ける構成としてもよい。
【0147】
図12は、実施の形態2の無線通信システムにおける端末装置2100の構成を示すブロック図である。
【0148】
図12においては、受信される信号がOFDM信号であることに伴い、ダウンコンバータ220−1〜220−2において、フーリエ変換部228が設けられる構成となっている他は、制御部250において算出される重み係数が、OFDM伝送に対応するものとなっていることを除いて、基本的な構成は、図2に示した実施の形態1の端末装置1100の構成と同様である。
【0149】
なお、端末装置2100においても、チャネル応答推定部260において推定された端末装置1100についてのチャネル応答行列は、チャネル状態情報送信処理部262により、アンテナ200−1、200−2から、無線送信装置2000に対して、フィードバック情報として送信される。
【0150】
図13は、無線送信装置2000の動作を説明するためのフローチャートである。
【0151】
図13を参照して、処理が開始されると、まず、制御部50は、故障アンテナの状態の監視に応じて、故障アンテナのインデックスへの登録を実施する周期の期間Tを管理するための時間変数tの値をインクリメントする(S100)。
【0152】
続いて、故障アンテナ検知部82は、受信端末からのフィードバック情報(チャネル状態情報)の受信にエラーが存在するかを判定する(S102)。
【0153】
ここで、受信端末をUE(m)とする(m=1,2,3,4)。端末UE(m)からの信号がエラーである、すなわち、受信機側からのチャネル状態情報の受信に失敗すると、故障アンテナ検知部82は、故障アンテナの状態であると判断し、エラーである端末について、エラー状態を管理するための変数UEFBErr(m)を1だけインクリメントする(S106)。
【0154】
一方、ステップS104において、故障アンテナ検知部82は、端末UE(m)からのチャネル状態情報の受信についてエラーがないと判断すると、それまでに受信して記憶していたチャネル状態情報の行列Hfb(t、f)を上書きしてアップデートする(S108)。ここで、fは、OFDMにおけるサブキャリアを表す。
【0155】
さらに、故障アンテナ検知部82は、以下の式にしたがって、故障アンテナ検知のためのメトリックスM(t)を積算する(S110)。ここで、メトリックスの(i,j)成分は以下のようになる。
【0156】
【数10】
メトリックスM(t)は、したがって、(受信アンテナ本数)×(送信アンテナ本数)の大きさの行列であり、各要素は、時間軸おおよび周波数軸方向におけるパワーの合計に相当する。
【0157】
続いて、動作モードが“2”に設定されている場合は、検出されている故障アンテナについての情報(故障アンテナインデックス)に基づいて、チャネル情報修復処理部84は、チャネル情報の修復処理を実行し(S120)、制御部50が、プリコーディング行列を算出する(S122)。
【0158】
制御部50は、故障アンテナであって使用されない送信アンテナが存在する場合は(S124)は、プリコーディング行列のうち、使用されない送信アンテナに対応する行をゼロベクトルとする(S126)。これにより、故障アンテナに相当する送信アンテナへは、送信信号が供給されない。続いて、制御部50からの重み付け係数に基づいて、重み付け処理部40−1〜40−Nが、送信信号の重み付け処理を実行する(S130)。一方、使用されないアンテナが存在しない場合(S124)も、処理は、ステップS130へ移行する。
【0159】
一方、ステップS112において、動作モードが“1”に設定されている場合は、現状のチャネル状態情報の行列Hfbに基づいて、制御部50が、プリコーディング行列を算出し(S114)、制御部50からの重み付け係数に基づいて、重み付け処理部40−1〜40−Nが、送信信号の重み付け処理を実行する(S130)。
【0160】
送信信号の重み付け処理の後、アンテナから送信信号が送信される(S132)。
【0161】
続いて、制御部50は、時間変数tが期間Tに等しいかを判断し、期間Tに達していない場合(S134)、処理を、ステップS100に復帰させる。
【0162】
一方、制御部50は、時間変数tが期間Tに達している場合(S134)、動作モードを“1”に設定する(S136)。すなわち、チャネル修復処理を実行しないモードに設定する。
【0163】
次に、制御部50は、変数UEFBErr(m)を期間Tについて積算した値の期間Tについて平均をCheErr(m)として算出するとともに、UEFBErr(m)の値については、0にリセットする(S138)。
【0164】
ここで、故障アンテナ検知部82は、CheErr(m)の値が所定の値φを超えると判断すると(S140)、制御部50に対して、動作モードを“2”(チャネル状態情報の修復を実行するモード)に設定することを通知し、m番目の端末のアンテナの故障アンテナ(不能状態の伝送路)に対応するアンテナを故障アンテナインデックスに加える(S142)。
【0165】
続いて、故障アンテナ検知部82は、メトリックスM(t)の時間平均をMavgとして算出する(S144)。
【0166】
ここで、Mavgの要素の列についての和が、所定の値以下であって、送信アンテナが正常に接続されていない(故障アンテナである)と故障アンテナ検知部82が判断すると、故障アンテナ検知部82は、制御部50に対して、動作モードを“2”(チャネル状態情報の修復を実行するモード)に設定することを通知し、正常に接続されていない送信アンテナ(不能状態の伝送路)に対応する送信アンテナを故障アンテナインデックスに加える(S148)。なお、受信側の故障アンテナの検知および故障アンテナインデックスの登録においても、Mavgの要素の行についての和が、所定の値以下であることを利用してもよい。
【0167】
続いて、制御部50は、時間変数tと、メトリックスの値を0に初期化する(S150)。
【0168】
以上のような処理により、少なくとも期間Tにわたって、所定の回数以上にわたって、故障アンテナであると検知された受信アンテナまたは送信アンテナが存在する場合には、チャネル情報修復処理部84によるチャネル情報の修復処理が実行されることになる。
【0169】
なお、故障アンテナの検知については、図13で説明した方法に限定されず、実施の形態1で説明したScol(i)(i=1,2,…,M)またはSrow(j)(j=1,2,…,M)によってもよい。
【0170】
以上のような実施の形態2の無線通信システムでは、OFDMのようなマルチキャリア伝送においても、実施の形態1の無線通信システムと同様に、ハードウェアの故障あるいは遠近効果等により、一部の送信あるいは受信アンテナの信号強度が著しく低下し、対応する伝送路が通信不能状態となった場合でも、MIMO伝送の破たんが回避される。また、このようなMIMO伝送の破たんの回避のために、無線送信装置2000においては、信号分離のためのビームフォーミングアルゴリズムそのものについては、変更を加える必要がない。
【0171】
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0172】
10 入力ノード、20 シリアルパラレル変換部、30−1〜30−8 変調部、40−1〜40−8 重み付け処理部、50 制御部、60−1〜60−8 アップコンバータ、80 フィードバック情報受信部、82 故障アンテナ検知部、84 チャネル情報修復処理部、100−1〜100−8 アンテナ、CSI チャネル状態情報制御部、100,2000 無線送信装置、1100,2100 端末装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局と複数の端末との間でMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信する無線通信システムであって、
前記基地局は、
複数の第1のアンテナと、
前記複数の端末において推定された伝送路のチャネル応答行列に対応するチャネル状態情報に基づいて、重み付け係数を算出するための制御部と、
前記複数の第1のアンテナから前記複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、変調された送信シンボル系列に、前記重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するための重み付け処理部と、
前記重み付け処理部の出力を前記複数の第1のアンテナから送信するための第1の送信処理部と、
前記複数の端末から受信した前記チャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、前記基地局および前記端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知する不能アンテナ検知部と、
前記不能アンテナ検知部の検知結果に応じて、前記チャネル状態情報のうち、前記不能状態にある伝送路に対応するチャネル応答行列の要素を修復して、前記制御部に与えるチャネル情報修復処理部とを備え、
各前記複数の端末は、
複数の第2のアンテナと、
前記複数の送信信号のうち、対応する送信信号を受信するための受信処理部と、
前記受信処理部で受信した受信信号に基づいて、対応する伝送路の前記チャネル応答行列を推定し、前記チャネル状態情報として、前記第2のアンテナから前記基地局に送信するための第2の送信処理部とを備える、無線通信システム。
【請求項2】
前記チャネル情報修復処理部は、
前記端末から受信した前記チャネル状態情報を統合して得られる前記基地局および前記複数の端末についてのチャネル応答行列に基づいて、前記不能状態の伝送路に対応する前記チャネル応答行列の行または列の要素のうち非対角成分を0に設定するとともに、対角成分を所定の値に設定することで、前記チャネル応答行列の修復を実行する、請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記不能アンテナ検知部は、前記端末から受信した前記端末から受信した前記チャネル状態情報を統合して得られる前記基地局および前記複数の端末についてのチャネル応答行列において、列または行の要素の大きさの和に相当する値が、所定値以下であることに応じて、前記不能状態にある伝送路を検知する、請求項1または2記載の無線通信システム。
【請求項4】
複数の端末とMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信する無線送信装置であって、
複数のアンテナと、
前記複数の端末において推定された伝送路のチャネル応答行列に対応するチャネル状態情報に基づいて、重み付け係数を算出するための制御部と、
前記複数のアンテナから前記複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、変調された送信シンボル系列に、前記重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するための重み付け処理部と、
前記重み付け処理部の出力を前記複数のアンテナから送信するための送信処理部と、
前記複数の端末から受信した前記チャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、前記基地局および前記端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知する不能アンテナ検知部と、
前記不能アンテナ検知部の検知結果に応じて、前記チャネル状態情報のうち、前記不能状態にあるアンテナに対応するチャネル応答行列の要素を修復して、前記制御部に与えるチャネル情報修復処理部とを備える、無線送信装置。
【請求項5】
前記チャネル情報修復処理部は、
前記端末から受信した前記チャネル状態情報を統合して得られる前記基地局および前記複数の端末についてのチャネル応答行列に基づいて、前記不能状態の伝送路に対応する前記チャネル応答行列の行または列の要素のうち非対角成分を0に設定するとともに、対角成分を所定の値に設定することで、前記チャネル応答行列の修復を実行する、請求項4記載の無線送信装置。
【請求項6】
前記不能アンテナ検知部は、前記端末から受信した前記端末から受信した前記チャネル状態情報を統合して得られる前記基地局および前記複数の端末についてのチャネル応答行列において、列または行の要素の大きさの和に相当する値が、所定値以下であることに応じて、前記不能状態にある伝送路を検知する、請求項4または5記載の無線通信システム。
【請求項7】
複数のアンテナを有する基地局と複数の端末との間でMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信するための無線通信方法であって、
各前記複数の端末が、前記基地局からの送信信号を受信するステップと、
各前記複数の端末が、前記受信した受信信号に基づいて、対応する伝送路の前記チャネル応答行列を推定し、チャネル状態情報として、前記基地局に送信するステップと、
前記基地局が、前記複数の端末から受信した前記チャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、前記基地局および前記端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知するステップと、
前記基地局が、前記チャネル状態情報のうち、前記不能状態にある伝送路に対応するチャネル応答行列の要素を修復するステップと、
前記基地局が、修復された前記チャネル状態情報に基づいて、前記複数のアンテナから前記複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、重み付け係数を算出するステップと、
前記基地局が、変調された送信シンボル系列に、前記重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するステップと、
前記複数の送信信号を前記複数のアンテナから送信するステップとを備える、無線通信方法。
【請求項1】
基地局と複数の端末との間でMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信する無線通信システムであって、
前記基地局は、
複数の第1のアンテナと、
前記複数の端末において推定された伝送路のチャネル応答行列に対応するチャネル状態情報に基づいて、重み付け係数を算出するための制御部と、
前記複数の第1のアンテナから前記複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、変調された送信シンボル系列に、前記重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するための重み付け処理部と、
前記重み付け処理部の出力を前記複数の第1のアンテナから送信するための第1の送信処理部と、
前記複数の端末から受信した前記チャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、前記基地局および前記端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知する不能アンテナ検知部と、
前記不能アンテナ検知部の検知結果に応じて、前記チャネル状態情報のうち、前記不能状態にある伝送路に対応するチャネル応答行列の要素を修復して、前記制御部に与えるチャネル情報修復処理部とを備え、
各前記複数の端末は、
複数の第2のアンテナと、
前記複数の送信信号のうち、対応する送信信号を受信するための受信処理部と、
前記受信処理部で受信した受信信号に基づいて、対応する伝送路の前記チャネル応答行列を推定し、前記チャネル状態情報として、前記第2のアンテナから前記基地局に送信するための第2の送信処理部とを備える、無線通信システム。
【請求項2】
前記チャネル情報修復処理部は、
前記端末から受信した前記チャネル状態情報を統合して得られる前記基地局および前記複数の端末についてのチャネル応答行列に基づいて、前記不能状態の伝送路に対応する前記チャネル応答行列の行または列の要素のうち非対角成分を0に設定するとともに、対角成分を所定の値に設定することで、前記チャネル応答行列の修復を実行する、請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記不能アンテナ検知部は、前記端末から受信した前記端末から受信した前記チャネル状態情報を統合して得られる前記基地局および前記複数の端末についてのチャネル応答行列において、列または行の要素の大きさの和に相当する値が、所定値以下であることに応じて、前記不能状態にある伝送路を検知する、請求項1または2記載の無線通信システム。
【請求項4】
複数の端末とMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信する無線送信装置であって、
複数のアンテナと、
前記複数の端末において推定された伝送路のチャネル応答行列に対応するチャネル状態情報に基づいて、重み付け係数を算出するための制御部と、
前記複数のアンテナから前記複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、変調された送信シンボル系列に、前記重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するための重み付け処理部と、
前記重み付け処理部の出力を前記複数のアンテナから送信するための送信処理部と、
前記複数の端末から受信した前記チャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、前記基地局および前記端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知する不能アンテナ検知部と、
前記不能アンテナ検知部の検知結果に応じて、前記チャネル状態情報のうち、前記不能状態にあるアンテナに対応するチャネル応答行列の要素を修復して、前記制御部に与えるチャネル情報修復処理部とを備える、無線送信装置。
【請求項5】
前記チャネル情報修復処理部は、
前記端末から受信した前記チャネル状態情報を統合して得られる前記基地局および前記複数の端末についてのチャネル応答行列に基づいて、前記不能状態の伝送路に対応する前記チャネル応答行列の行または列の要素のうち非対角成分を0に設定するとともに、対角成分を所定の値に設定することで、前記チャネル応答行列の修復を実行する、請求項4記載の無線送信装置。
【請求項6】
前記不能アンテナ検知部は、前記端末から受信した前記端末から受信した前記チャネル状態情報を統合して得られる前記基地局および前記複数の端末についてのチャネル応答行列において、列または行の要素の大きさの和に相当する値が、所定値以下であることに応じて、前記不能状態にある伝送路を検知する、請求項4または5記載の無線通信システム。
【請求項7】
複数のアンテナを有する基地局と複数の端末との間でMIMO(Multiple Input Multiple Output)により無線通信するための無線通信方法であって、
各前記複数の端末が、前記基地局からの送信信号を受信するステップと、
各前記複数の端末が、前記受信した受信信号に基づいて、対応する伝送路の前記チャネル応答行列を推定し、チャネル状態情報として、前記基地局に送信するステップと、
前記基地局が、前記複数の端末から受信した前記チャネル状態情報に基づいて、MIMOによる無線通信において、前記基地局および前記端末間のチャネルのうち通信が不能状態にある伝送路を検知するステップと、
前記基地局が、前記チャネル状態情報のうち、前記不能状態にある伝送路に対応するチャネル応答行列の要素を修復するステップと、
前記基地局が、修復された前記チャネル状態情報に基づいて、前記複数のアンテナから前記複数の端末へMIMOにより無線伝送するために、重み付け係数を算出するステップと、
前記基地局が、変調された送信シンボル系列に、前記重み付け係数を乗算し合成して、複数の送信信号を生成するステップと、
前記複数の送信信号を前記複数のアンテナから送信するステップとを備える、無線通信方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−46399(P2013−46399A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185285(P2011−185285)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「非線形マルチユーザMIMO技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「非線形マルチユーザMIMO技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】
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