無線通信システム、無線通信方法および移動ノード
【課題】固定ノードと移動ノードの位置関係が変化した場合でも両ノード間の通信を効率的に継続することのできる技術を提供する。
【解決手段】固定ノードと、固定ノードと直接通信を行う第1の移動ノードと、固定ノードと第1の移動ノードの通信が途絶した場合にこれらのノード間の通信を中継する第2の移動ノードであるバックアップノードと、から構成される無線通信システムにおいて、バックアップノードは、固定ノードと第1の移動ノードの両方と直接通信可能な移動ノードの中から、固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間が長いノードが選択される。この滞在時間は、固定ノード・移動ノード間の距離と移動ノードの移動方向・移動速度を元に算出したり、移動ノードが通信可能エリアに進入してからの経過時間や移動距離などに基づいて算出することが好ましい。
【解決手段】固定ノードと、固定ノードと直接通信を行う第1の移動ノードと、固定ノードと第1の移動ノードの通信が途絶した場合にこれらのノード間の通信を中継する第2の移動ノードであるバックアップノードと、から構成される無線通信システムにおいて、バックアップノードは、固定ノードと第1の移動ノードの両方と直接通信可能な移動ノードの中から、固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間が長いノードが選択される。この滞在時間は、固定ノード・移動ノード間の距離と移動ノードの移動方向・移動速度を元に算出したり、移動ノードが通信可能エリアに進入してからの経過時間や移動距離などに基づいて算出することが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信技術に関し、特に、複数の移動ノードと固定ノードから構成される無線通信システムにおける無線通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アドホックネットワークと呼ばれる形態の無線通信システムが知られている。アドホックネットワークでは、複数の無線通信装置(ノード)が相互に通信を行い、自律的かつ即時的にネットワークが構築される。アドホックネットワークにおいては、通信するノードが直接通信できない場合には、1または複数のノードによる中継を介して通信を行う。
【0003】
このようなアドホックネットワークでは、通信経路を確立する技術が重要である。特に、ノードの移動に伴って通信路(リンク)の切断が頻繁に生じるので、迅速に経路を再構築する必要がある。
【0004】
リンクの切断が発生しても送受信ノード間で通信を行うための技術として、送受信ノード間で複数の経路を確立する技術が知られている(特許文献1)。特許文献1に記載の技術では、送受信ノード間で最短ホップ数となる経路を利用するとともに、最短ホップ数から所定数のホップ数の経路も利用して通信を行っている。したがって、最短ホップ数の経路が途切れた場合であっても、通信を継続することができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、複数の経路を用いて通信しているため無駄な通信が発生してしまっている。また、送受信ノードのそれぞれがフラッディングを行って各ノードと送受信ノード間のホップ数を判定しているためオーバヘッドが大きいという欠点がある。
【0006】
リンクの切断が発生しても送受信ノード間で通信を行うためのその他の技術としては、送受信ノード間の経路を設定する際に、実際に利用するメイン経路の他に、メイン経路が途絶した場合に備えてバックアップ経路を持つ技術が知られている(特許文献2,3,4)。メインの経路が途絶した場合にはバックアップ経路を利用して通信を行うことで、送受信ノード間の通信を行うことができる。
【0007】
ここで、バックアップ経路の決定は次のように行われる。特許文献2に記載の技術では、経路数(ホップ数)やリンクの安定度などを基準にバックアップ経路が決定される。また、特許文献3に記載の技術では、通信速度や遅延などのサービス品質を基準にバックアップ経路が決定される。また、特許文献4に記載の技術では、ノード間の位置変化の少なさを基準にバックアップ経路が決定される。
【0008】
このように、特許文献2〜4に記載されている技術では、ホップ数やリンクの安定度などを指標としてバックアップ経路を設定することによって、メインの経路が途絶した場合であっても、バックアップ経路に切り替えて通信を継続することが可能である。
【特許文献1】特開2005−150791号公報
【特許文献2】特開2006−50377号公報
【特許文献3】特開2004−56787号公報
【特許文献4】特開2005−269042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような従来技術の場合には、下記のような問題が生じていた。
【0010】
すなわち、上述のようにホップ数やリンクの安定度などに基づいてバックアップ経路を選択する技術を、図15に示すような移動ノードと固定ノードから構成されるアドホックネットワークに適用した場合には所望の効果が得られない。
【0011】
図15に示すアドホックネットワークは、移動ノードとして無線通信装置を搭載した車両と、固定ノードとして路側に設置されたアクセスポイントAPから構成される。ここで、ノードSからアクセスポイントAPへの通信経路(実線矢印)は、ノードS−ノード1−ノード2−アクセスポイントAPとなる。ノード2とアクセスポイントAP間のバックアップ経路としては、通信の安定度等を考慮した上記従来技術ではノード5を介する経路(点線矢印)が選択されることとなる。ノード5がバックアップノードとして選択される理由は、ノード2との距離が近く、かつ、相対速度が小さいため通信が安定していることによる。しかしながら、図15(b)に示すように、ノード2がアクセスポイントAPの通信可能エリアから離脱しノード2とアクセスポイントAP間の通信が途切れた後には、ノード5とアクセスポイントAP間の通信も既に途切れていてバックアップ経路も利用できなかったり、すぐに途切れてバックアップ経路として利用できなくなってしまう。このように、上記従来技術を適用した場合には、バックアップ経路が利用できなかったり、利用できたとしても利用できる期間が短くなってしまうという問題が生じる。
【0012】
また、上記従来技術はいずれも、冗長な経路を作成する目的や、バックアップ経路を設定する目的で、フラッディングやブロードキャストを多用しており、オーバヘッドが大きいという問題点もある。
【0013】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、固定ノードと移動ノードとの位置関係が変化した場合でも、固定ノードと移動ノード間の通信を効率的に継続することのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明では、以下の手段または処理によって無線通信を行う。
【0015】
本発明に係る無線通信システムは、固定ノードと、固定ノードと直接無線通信を行う第1の移動ノードと、固定ノードと第1の移動ノードの通信が途絶した場合にこれらのノード間の通信を中継する第2の移動ノードであるバックアップノードとから構成される。ここで、バックアップノードは、固定ノードと第1の移動ノードの両方と直接通信可能な移動ノードの中から、固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて決定される。
【0016】
ここで、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、固定ノードと移動ノードの位置情報と、移動ノードの移動方向とに基づいて推定される構成を好適に採用できる。
【0017】
また、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードから受信する電波の受信電力と、移動ノードの移動方向とに基づいて推定される構成を好適に採用することもできる。
【0018】
また、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に進入してからの経過時間に基づいて推定される構成を好適
に採用することもできる。
【0019】
また、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に進入してからの移動距離に基づいて推定される構成を好適に採用することもできる。
【0020】
また、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードの移動速度も考慮して推定されることが好ましい。
【0021】
また、バックアップノードは以下のようにして決定することができる。すなわち、まず、固定ノードと第1のノード間の通信を受信した移動ノードが、それぞれ、固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて、バックアップノードとしての適合度を算出する。そして、各移動ノードが、算出した自ノードの適合度を周囲の移動ノードに通知する。そして、この通知の結果、最も高い適合度を有する移動ノードが、自ノードをバックアップノードとして設定する。このようにして、固定ノードおよび第1の移動ノードと通信可能な移動ノードの中から、バックアップノードを決定することができる。
【0022】
このような構成の無線通信システムによれば、固定ノードと第1の移動ノード間の位置関係が変化し通信が途絶した場合に、バックアップノード(第2の移動ノード)を中継ノードとして利用して通信を継続することができる。そして、バックアップノードは固定ノードと通信可能な期間に基づいて決定されるため、バックアップ経路の有効期間が長くなり、頻繁に経路を変更する必要が無くなる。したがって、経路切替に要する処理を少なくすることができ、効率的な通信を実現することができる。
【0023】
また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む無線通信方法、または、かかる方法を実現するためのプログラムとして捉えることもできる。なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する移動ノード(移動端末)として捉えることができる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【0024】
たとえば、本発明の一態様としての無線通信方法は、複数のノードから構成され、ノード間で直接または他のノードの中継を介して無線通信を行う無線通信システムにおける無線通信方法であって、固定ノードと第1の移動ノードとの間で直接通信を行うステップと、前記固定ノードと前記第1の移動ノードの両方と直接通信可能な移動ノードの中から、前記固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて、バックアップノードを決定するステップと、前記固定ノードと前記第1の移動ノードの通信が途絶した場合に、前記バックアップノードが、これらのノード間の通信を中継するステップとを含むことを特徴とする。
【0025】
また、本発明の一態様としての移動ノード(移動端末)は、複数のノードから構成され、ノード間で直接または他のノードの中継を介して無線通信を行う無線通信システムにおける移動ノードであって、第1の移動ノードと固定ノードとの通信を検知する固定ノード通信検知手段と、前記第1の移動ノードと前記固定ノードとの通信を検知したときに、自ノードが前記固定ノードの通信可能エリアに滞在する時間を推定し、該滞在時間に基づいてバックアップノードとしての適合度を算出する適合度算出手段と、算出した適合度を周囲の移動ノードに通知する適合度通知手段と、自ノードが最も高い適合度を持つと判定された場合は、前記第1の移動ノードと前記固定ノード間の通信が途絶したときに、これらのノード間の通信を中継するバックアップノードとして自ノードを設定するバックアップノード設定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、固定ノードと移動ノードとの位置関係が変化した場合でも、固定ノードと移動ノードの通信を効率的に継続することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
<システム概要>
図1は、本実施形態に係る無線通信システムのシステム概要を示す図である。本実施形態に係る無線通信システムは、移動ノードとしての車両と、固定ノードとしてのアクセスポイント(路側機)から構成される。車両間および路車間の通信は無線通信によって行われ、各ノードが自律分散的に通信を中継することによって他のノードと通信が行えるアドホックネットワークを形成している。
【0029】
図1では、送信ノードSがノード1およびノード2による中継を介してアクセスポイントAPと通信を行っている。本実施形態は、この通信経路のうち、アクセスポイントAPとこれに隣接するノード2との間の通信路が途切れてしまった場合に、即座に経路を切り替えて送信ノードSとアクセスポイントAP間の通信を継続することを目的とする。なお、通信経路の切替やその事前の準備のために処理負荷や通信負荷がなるべくかからず、効率的な通信経路の切替を実現することも目的とする。
【0030】
<構成>
次に、移動ノードである車両の構成について説明する。なお、移動ノードとしての車両は、車両内に無線通信装置が備え付けられた形態であっても、パーソナルコンピュータやPDA(Personal Digital Assistant)や携帯電話機などの無線通信装置が持ち込まれて車両とともに移動する形態であっても構わない。
【0031】
図2は、移動ノードが有する機能ブロックを示す図である。移動ノードは、パケット受信部11、パケット判定部12、パケットバッファ13、アクセスポイント通信判定部14、経路作成/判定部15、パケット送信部16、経路情報記憶部17とから構成される。
【0032】
移動ノードは、ハードウェア構成としては、バスを介して接続されたCPU(中央演算処理装置)、主記憶装置(RAM)、補助記憶装置、通信インタフェースなどを備える。移動ノードにおける上記の各機能部は、補助記憶装置に記憶された各種のプログラム(OS、アプリケーション等)が主記憶装置にロードされCPUによって実行されることによって実現される。なお、上記各機能部の一部または全部は、専用のチップとして構成されても良い。
【0033】
以下、各機能部について詳しく説明する。
【0034】
パケット受信部11は、通信インタフェースから構成され、他の移動ノードおよび固定ノードからのパケットを受信する。パケット受信部11が受信したパケットは、パケット判定部12に送られる。
【0035】
パケット判定部12は、パケット受信部11で受信したパケットの種類を判定して、パケットの種類に応じて処理を振り分ける。受信パケットが自ノード宛である場合には、パケット判定部12は、受信パケットを上位層へと送る。受信パケットが、自ノードが中継ノードとなって転送すべき転送パケットである場合には、パケット判定部12は、この受信パケットをパケットバッファ13へ送る。また、受信パケットが経路探索や経路維持に
関わるパケットである場合には、パケット判定部12は、受信パケットを経路作成/判定部15へと送る。そして、パケット判定部12は、その他の受信パケットをアクセスポイント通信判定部14へと送る。
【0036】
パケットバッファ13は、送信するパケットを一時的に格納する。送信するパケットとしては、他のノードから受信した転送パケットと、上位層(アプリケーションプログラム)から送られてきたパケットとが含まれる。
【0037】
アクセスポイント通信判定部14は、パケット判定部12によって、自ノード宛てパケットでも転送パケットでも経路探索や経路維持に関わるパケットでもないと判定されたパケットが、アクセスポイントAPと移動ノードの間の通信であるか否かの判定を行う。受信パケットがアクセスポイントAPとの間の通信ではない場合には、受信パケットを破棄してそれ以降の処理は行わない。
【0038】
受信パケットがアクセスポイントAPとの間の通信である場合には、自ノードがこのパケットの通信経路のバックアップノードとして設定されているか否かによって異なる処理が行われる。
【0039】
まず、自ノードがこのパケットの通信経路のバックアップノードとして設定されていない場合には、自ノードがこの通信経路のバックアップノードとなるか否かの判定を行わせるために、経路作成/判定部15に通知を行う。
【0040】
また、自ノードがバックアップノードとして設定されている場合には、この受信パケットを受信ノードが正しく受信したかを監視し、通信路が途絶した場合には自ノードがこの通信を中継する処理を行う。また、通信経路をバックアップ経路に切り替える処理を行う。このバックアップ経路に切り替える判定および切替処理については後で詳しく説明する。
【0041】
経路作成/判定部15は、通信経路の作成を行う。ここで、通信経路は、通常の場合に使用するメイン経路と、メイン経路が途絶した場合に利用する予備的な経路であるバックアップ経路との2つが作成される。経路作成/判定部15が作成した経路は、経路情報記憶部17の経路テーブル17aに格納される。図3は、経路テーブル17aのテーブルフォーマットを示す図である。経路テーブル17aには、宛先IPアドレス31ごとに、次にパケットを転送すべき転送ノードの転送先IPアドレス32,宛先ノードまでのホップ数33、自ノードと転送ノード間の経路のバックアップノード34とが格納されている。この経路テーブル17aを参照することで、宛先ノードのIPアドレスがノードd1である場合には、通常時はパケットをノードt1に転送すればよいことが分かる。そして、自ノードとノードt1の通信経路が途絶した場合には、ノードb1がバックアップノードとしてパケットを中継することによって自ノードとノードt1との間の通信が継続可能であることが分かる。
【0042】
経路作成/判定部15が行う通信経路の作成処理の内、メイン経路の作成処理は既存のどのような技術を用いて行っても良い。例えば、AODV(Ad-hoc On-demand Distance Vector Routing)プロトコルを利用してメイン経路を作成できるが、その他どのような技術を利用しても構わない。
【0043】
経路作成/判定部15が行う通信経路作成処理の内、バックアップ経路の作成処理の詳細については、後で詳しく説明する。
【0044】
パケット送信部16は、パケットバッファ13に蓄積されているパケットや、経路作成
/判定部15から送られる経路探索や経路維持に関わるパケットを送信する。
【0045】
経路情報記憶部17には、上述した経路テーブル17aと、バックアップ経路テーブル17bが格納される。経路テーブル17aについてはすでに説明したので、説明を省略する。バックアップ経路テーブル17bは、自ノードがバックアップノードであるときに、どの通信経路をバックアップしているかを示す情報が格納される。図4は、バックアップ経路情報テーブル17bのテーブルフォーマットを示す図である。バックアップ経路情報テーブル17bには、送信元ノードのIPアドレス41およびMACアドレス42と、送信先アドレスのIPアドレス43とMACアドレス44が格納される。
【0046】
<処理フロー>
次に、移動ノードと固定ノードの通信経路のバックアップノードにどの移動ノードがなるかを決定するバックアップノード設定処理、およびバックアップノードが経路のバックアップを行う処理の詳細について説明する。
【0047】
[バックアップノード設定処理]
まず、固定ノードとの間の通信経路をどの移動ノードがバックアップするかを決定するバックアップノード設定処理について、図5,6を用いて説明する。図5は、パケットを受信した際に行う処理の流れを示すフローチャートである。図6は、バックアップノードを決定する処理の詳細な流れを示すフローチャートである。
【0048】
まず、図5を用いて移動ノードがパケットを受信したときの処理について説明する。パケット受信部11がパケットを受信する(S101)と、そのパケットの種類をパケット判定部12が判定する。受信パケットが自ノード宛であるか否かを判定し(S102)、自ノード宛である場合(S102−YES)は、受信したパケットを上位層へ受け渡す(S109)。また、受信パケットが経路探索や経路維持に関わる経路制御パケットであるか否かを判定し(S103)、経路制御パケットである場合(S103−YES)には、受信したパケットを経路作成/判定部15に受け渡す(S110)。そして、受信パケットの受信ノードがアクセスポイントAPであるか(S104)、または、送信ノードがアクセスポイントAPであるか(S105)を判定する。受信ノードおよび送信ノードのいずれもアクセスポイントAPではない場合(S104−NOかつS105−NO)は、その受信パケットについてはそれ以上は処理を行わない。受信ノードか送信ノードのいずれかがアクセスポイントAPである場合(S104−YESまたはS105−YES)は、自ノードがバックアップノードとなる否かの判定を行う(S106)。なお、アクセスポイントのアドレス(MACアドレス)は、各移動ノードがあらかじめデータとして保有していても良く、アクセスポイントAPが定期的に送信するビーコンから取得する構成としても良い。
【0049】
バックアップノードとなるか否かの判定処理の詳細は後で説明するとして、図5のフローチャートの説明を続ける。S106で自ノードがバックアップノードになると判定された場合(S107−YES)は、自ノードをバックアップノードとして設定する(S108)。具体的には、バックアップ経路テーブル17bに、自ノードがバックアップする経路を格納する。
【0050】
そして、周囲のノードに自ノードがバックアップノードになったことを通知する(S109)。図7は、自ノードがバックアップノードになったことを通知するバックアップノード通知メッセージのパケット構造を示す図である。バックアップノード通知メッセージは、このメッセージがバックアップノード通知メッセージであることを示すフラグ71と、自ノード(バックアップノード)のアドレス72、バックアップする経路の両端ノードのアドレス73,74および、バックアップノードとしての適合度75から構成される。
周囲のノードは、このバックアップノード通知メッセージを受信することで、どのノードがどの通信路をバックアップするかを把握することができる。
【0051】
次に、図6を用いて、図5のS106におけるバックアップノード判定処理の詳細について説明する。固定ノードであるアクセスポイントAPと移動ノードとの間のパケットを受信した移動ノードは、まず、アクセスポイントAPに対する受信電力Pを取得する(S201)。次に、この受信電力Pがあらかじめ定められた閾値電力P0より大きいか判定する(S202)。受信電力Pが閾値電力P0以下である場合(S202−NO)は、バックアップノードにはならないと判定される(S206)。受信電力Pが閾値電力P0より大きい場合(S202−YES)は、他の移動ノードからバックアップノード通知メッセージを受信したか判定する(S203)。他の移動ノードからバックアップノード通知メッセージを受信していない場合(S203−NO)は、自ノードがバックアップノードになると判定する(S205)。他の移動ノードがバックアップノードになるというバックアップノード通知メッセージを受信している場合(S203−YES)は、バックアップノードとしての適合度を算出し、適合度の比較を行う(S204)。
【0052】
ここで、適合度の具体的な算出方法について説明する。適合度は、移動ノードがアクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて算出されることが好ましい。この滞在時間は移動ノードとアクセスポイントAP間の距離および移動ノードのアクセスポイントAPに対する移動方向(近づいているか、遠ざかっているか)に依存する。なお、移動ノードのアクセスポイントAPに対する移動方向は、指向性を有するアンテナによってアクセスポイントAPからの電波の到来方向を判断して取得しても良く、アクセスポイントAPからの電波の受信電力の時間変化(強くなっているか弱くなっているか)を判断して取得しても良い。
【0053】
本実施形態では移動ノードとアクセスポイントAP間の距離を受信電力によって判断することとし、アクセスポイントAPに対する受信電力Pと、自ノードのアクセスポイントAPに対する移動方向を基準として適合度を算出する。本実施形態においては、次の基準に従って適合度を算出する。
【0054】
1.アクセスポイントAPに近づいている移動ノードの方が、アクセスポイントAPから遠ざかっている移動ノードよりも適合度が高い
2.アクセスポイントAPに近づいている移動ノードが複数ある場合は、受信電力Pが小さいほど適合度が高い
3.アクセスポイントAPから遠ざかっている移動ノードが複数ある場合は、受信電力Pが大きいほど適合度が高い
【0055】
このような基準にしたがって適合度を算出することによって、アクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間が長い移動ノードほど、高い適合度を持つようになる。さらに、移動ノード(車両)の移動速度も考慮し、移動速度が小さいほど適合度を高くし、移動速度が大きいほど適合度を低くすることが好適である。移動速度も考慮することで、適合度は、アクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間をより正確に反映したものとなる。また、バックアップする経路の一端の移動ノードとの相対的な移動速度が小さいものほど適合度を高く算出することも望ましい。移動ノード間の位置関係が比較的長期間にわたって保たれることになるので、バックアップノードとして機能できる期間が長くなるためである。
【0056】
そしてこのようにして算出した自ノードの適合度の方が、バックアップノード通知メッセージを送信してきた移動ノードの適合度よりも高い場合は自ノードがバックアップノードになると判定する(S205)。逆の場合は、自ノードはバックアップノードにならな
いと判定する(S206)。
【0057】
[バックアップ経路切替処理]
次に、バックアップノードが行う処理について説明する。バックアップノードは、メインの通信経路を監視し、この経路の通信が途絶した場合に、バックアップ経路に切り替える。図8は、メイン経路の監視およびバックアップ経路への切替処理の流れを示すフローチャートである。
【0058】
まず、パケット受信部11が、受信ノードまたは送信ノードのいずれかがアクセスポイントである通信を受信する(S301)。このパケットは、パケット判定部12によって、アクセスポイント通信判定部14へと受け渡される。次に、アクセスポイント通信判定部14は、このパケットが自ノードがバックアップしている経路間の通信に係るパケットであるか否かを判断する(S302)。具体的には、バックアップ経路テーブル17bに格納されている経路間での通信であるかを判断する。バックアップ経路の通信ではない場合(S302−NO)は、このパケットについての処理は終了する。このパケットがバックアップ経路の通信である場合(S302−YES)は、このパケットをパケットバッファに一時的に格納する(S303)。
【0059】
そして、一定時間待機(S304)している間に、このパケットに対するACKを受信したか判定する(S305)。ACKを受信した場合(S305−YES)は、メイン経路での通信が正常に行えているので、一時バッファをクリア(S309)して処理を終了する。ACKを受信していない場合(S305−NO)は、メイン経路での通信が途絶しているので、一時バッファからパケットを読み込み(S306)、受信ノードに対してパケットを送信する(S307)。この際、図9に示すように、一時バッファに格納したパケットの送信元MACアドレスを自ノードのMACアドレスに書き換えて送信する。
【0060】
そして、送受信ノード(メイン経路の両端ノード)に対して経路が変わったことを通知する経路情報を送信する(S308)。この通知を受信した送受信ノードは、このノード間の経路が途絶しバックアップ経路に切り替わったことがわかり、自ノードが有する経路テーブル17aを書き換え、以降の通信はバックアップ経路を用いて行うようにする。
【0061】
なお、上記では、メイン経路の途絶の判断する方法として、一定時間内にACKを受信できるか否か(S304〜S305)で判断する方法を採用しているが、送信ノードから再送パケットを所定回数受信した場合にメイン経路が途絶したと判断する方法を採用することも可能である。
【0062】
<動作例>
以下に、図1のような状況を例にとって本実施形態における無線通信システムの動作の例を説明する。
【0063】
図1においては、送信ノードSが、ノード1およびノード2の中継を介して、アクセスポイントAPと通信をしている。ここで、ノード2とアクセスポイントAP間の通信を受信できるノード(両ノードから送信されるパケットを受信可能なノード)は、ノード3,4,5である。ノード2とアクセスポイントAP間で通信されるパケットを受信したノード3,4,5は、自ノードのバックアップノードとしての適合度を算出する。
【0064】
適合度は、上述の基準に従って算出されるので、アクセスポイントAPから遠ざかるノード5の適合度が最も低くなる。アクセスポイントAPに近づくノード3,4については、アクセスポイントAPからの距離が遠く、アクセスポイントAPからの電波の受信電力が小さいノード4の適合度が最も高くなる。なお、ここでは各ノードがほぼ同じ速度で移
動していると仮定しているが、移動速度も考慮に入れた適合度算出では適合度の高低が入れ替わる場合もある。例えば、ノード3の移動速度がノード4に比べて遅い場合は、ノード3の適合度が最も高く算出されたりする。
【0065】
適合度を算出した各ノードは、このノード2とアクセスポイントAP間をバックアップするバックアップノードが存在しない場合、もしくは、自ノードの適合度よりも低い適合度を有するバックアップノードが存在する場合には、自ノードをバックアップノードとして設定する。図1の状況では、最終的にノード4が、ノード2とアクセスポイントAP間のバックアップノードになる。
【0066】
バックアップノードとなったノード4は、ノード2とアクセスポイントAP間の経路をバックアップしていることを記憶するために、バックアップ経路テーブル17bとして図10のような情報を保持する。図10のバックアップ経路テーブル17bは、送信ノードがノード2で受信ノードがアクセスポイントAPの通信、および送信ノードがアクセスポイントAPで受信ノードがノード2の通信を、自ノード(ノード4)がバックアップすることが記録される。
【0067】
また、バックアップノードとなったノード4は、バックアップノード通知メッセージを周囲のノードに通知する。このメッセージを受信したノードは、ノード2およびアクセスポイントAP間の通信をノード4がバックアップすると判断できる。そこで、ノード2とアクセスポイントAPは、自ノードが有する経路テーブル17aにこの経路のバックアップノードがノード4であることを記録する。図11は、ノード4がノード2とアクセスポイントAP間のバックアップノードとなったことを周囲に通知したときの経路テーブル17aであり、図11(a)はノード2が有する経路テーブルであり、図11(b)はアクセスポイントAPが有する経路テーブルである。
【0068】
図11(a)を参照すると、ノード2は、アクセスポイントAP宛のパケットはアクセスポイントAPに送信すれば良く、アクセスポイントAPまで1ホップで到達し、この経路のバックアップノードがノード4であることが分かる。ノードS宛のパケットはノード1に転送すれば良く、ホップ数は2で、この経路のバックアップノードは設定されていないことが分かる。
【0069】
また、図11(b)を参照すると、アクセスポイントAPは、ノードS宛のパケットはノード2に転送すれば良く、ノードSまでのホップ数は3であり、この経路のバックアップノードはノード4であることが分かる。
【0070】
次に、バックアップノードとなったノード4の動作について説明する。ノード4は、自ノードがバックアップする経路間で通信されるパケットを受信した場合は、このパケットを一時的にバッファする。具体的には、図10に示すバックアップ経路テーブル17bに格納されている経路間の通信(ここではノード2−アクセスポイントAP間の通信)のパケットをバッファする。そして、この通信が正常に受信されたかを確認して、この経路の通信が途絶した場合には、自ノードがこの通信をバックアップする。
【0071】
通信のバックアップは、具体的には、図9に示すようにバッファしたパケットの送信元MACアドレスを自ノードのMACアドレスに書き換えて再送することによって行われる。それとともに、ノード2−アクセスポイントAP間の経路がバックアップ経路に変わったことをノード2およびアクセスポイントAPに通知する。この通知を受け取ったノード2およびアクセスポイントAPは、自ノードが有する経路テーブル17aを図12に示すように書き換える。
【0072】
図12(a)はノード2が有する経路テーブル17aであり、アクセスポイントAP宛のパケットは、ノード4に転送するように変更されており、ホップ数も1だけ増えて2となっている。ノードS宛の経路については変更されていない。
【0073】
図12(b)はアクセスポイントAPが有する経路テーブル17aであり、ノード2宛のパケットは、ノード4に転送するように変更されており、ホップ数も1だけ増えて4となっている。
【0074】
<作用・効果>
本実施形態における無線通信システムでは、移動ノード(車両)と固定ノード(アクセスポイント)間の通信が途絶した場合でも、バックアップノードが迅速にこの通信を中継することになるので、安定した通信を行うことができる。従来技術では、最短のホップ数や電波の安定度などを基準のバックアップノードを選択すると、図1のような状況ではノード2−アクセスポイントAP間の経路のバックアップノードは、両ノードに近いノード5が選択される可能性が高い。この場合、ノード2−アクセスポイントAP間の通信が途絶した場合、ノード5−アクセスポイントAP間の通信も既に途絶してしまっているか、直後に途絶してしまう。これに対して、本実施形態では、アクセスポイントAPの通信可能エリアに滞在する時間を考慮してバックアップノードを選択しているため、バックアップ経路に切り替えた後でも、このバックアップ経路を比較的長期間にわたって使用することができる。したがって、頻繁に経路の途絶・更新をする必要が無くなり、通信が効率化され、通信性能の劣化を抑えることができる。
【0075】
(第2の実施の形態)
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、バックアップノードとしての適合度を算出する処理の内容だけである。ここでは、主にその相違点について説明する。
【0076】
第1の実施形態では、固定ノード(アクセスポイントAP)からの電波の受信強度によって、固定ノードと移動ノードの距離を推定し、これと移動ノードの移動方向とに基づいて、バックアップノードとしての適合度を算出していた。本実施形態では、移動ノードはアクセスポイントAPの位置情報(地図情報)を格納したデータベース(固定ノード位置情報記憶手段)と、自ノードの位置情報を取得可能な位置情報取得手段としてのGPS(Global Positioning System)装置を備える。そして、各移動ノードは、アクセスポイン
トAPの位置情報と自ノードの位置情報から、自ノードとアクセスポイントAPの距離を算出する。また、アクセスポイントAPからの電波の到来方向または電波の受信強度の時間変化によって、自ノードのアクセスポイントAPに対する移動方向を求める。移動ノードは、アクセスポイントAPとの距離と移動方向とを元に、以下の基準に従って適合度を算出する。
【0077】
1.アクセスポイントAPに近づいている移動ノードの方が、アクセスポイントAPから遠ざかっている移動ノードよりも適合度が高い
2.アクセスポイントAPに近づいている移動ノードが複数ある場合は、アクセスポイントAPからの距離が遠い方が適合度が高い
3.アクセスポイントAPから遠ざかっている移動ノードが複数ある場合は、アクセスポイントAPからの距離が近い方が適合度が高い
【0078】
このような基準に従って適合度を算出することによって、第1の実施形態と同様に、アクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間が長い移動ノードほど高い適合度を持つようになる。したがって、バックアップノードとして機能できる期間が長くなるため、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
なお、上記の適合度の算出において、さらに、移動ノードの移動速度を考慮することが望ましい。また、バックアップする経路の一端の移動ノードとの相対的な移動速度を考慮することも好ましい。
【0080】
(第3の実施の形態)
第3の実施形態が上記第1および第2の実施形態と異なる点は、バックアップノードとしての適合度を算出する処理の内容だけである。ここでは、主にその相違点について説明する。
【0081】
本実施形態では、バックアップノードとしての適合度を、移動ノードがアクセスポイントAPの通信可能エリア内に進入してからの経過時間に基づいて算出する。そして、この経過時間が短いほど適合度が高く算出される。また、上記の実施形態と同様に、自ノードの移動速度も考慮して、移動速度が小さいほど適合度が高く算出されるようにすることも好ましい。なお、アクセスポイントAPの通信可能エリア内への進入は、アクセスポイントAPから定期的に発信されるビーコンを受信することによって検知可能である。
【0082】
このような基準に従って、適合度を算出することによって、上記の実施形態と同様に、アクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間が長い移動ノードほど高い適合度を持つようになる。したがって、バックアップノードとして機能できる期間が長くなるため、上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0083】
なお、本実施形態におけるアクセスポイントAPの通信可能エリア内に進入してからの経過時間に基づいて適合度を算出する方法は、図1に示すような路車間通信システムに対して特に好適に用いることができる。すなわち、移動ノードである車両は道路に沿って移動するため、通過するアクセスポイントAPの通信可能エリアの距離(長さ)は一定となる。したがって、通信可能エリア内に進入してからの経過時間が少ないほど、通信可能エリア内に滞在する時間が長いと判断することができるため、本実施形態の方法が効果的である。
【0084】
(第4の実施の形態)
第4の実施形態が上記第1〜3の実施形態と異なる点は、バックアップノードとしての適合度を算出する処理の内容だけである。ここでは、主にその相違点について説明する。
【0085】
本実施形態では、バックアップノードとしての適合度を、移動ノードがアクセスポイントAPの通信可能エリア内に進入してからの移動距離に基づいて算出する。そして、この移動距離が短いほど適合度が高く算出される。また、上記の実施形態と同様に、自ノードの移動速度も考慮して、移動速度が小さいほど適合度が高く算出されるようにすることも好ましい。なお、アクセスポイントAPの通信可能エリア内への進入は、アクセスポイントAPから定期的に発信されるビーコンを受信することによって検知可能である。
【0086】
このような基準に従って、適合度を算出することによって、上記の実施形態と同様に、アクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間が長い移動ノードほど高い適合度を持つようになる。したがって、バックアップノードとして機能できる期間が長くなるため、上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0087】
なお、本実施形態におけるアクセスポイントAPの通信可能エリア内に進入してからの移動距離に基づいて適合度を算出する方法は、図1に示すような路車間通信システムに対して特に好適に用いることができる。すなわち、移動ノードである車両は道路に沿って移動するため、通過するアクセスポイントAPの通信可能エリアの距離(長さ)は一定となる。したがって、通信可能エリア内に進入してからの移動距離が短いほど、通信可能エリ
ア内に滞在する時間が長いと判断することができるため、本実施形態の方法が効果的である。
【0088】
(第5の実施の形態)
第5の実施形態が上記の実施形態と異なる点は、アクセスポイントAPとの通信を受信した移動ノードがバックアップノードとなるか否かを判定するタイミングである。上記の実施形態においては、図5,6のフローチャートに示すように、アクセスポイントAPとの通信を受信するたびに、図6のフローチャートに示す適合度判定処理を行い、バックアップノードとなるか否かを判断していた。
【0089】
本実施形態においては、バックアップノード判定処理を図13に示すフローチャートにしたがって行う。図13のフローチャートが図6のフローチャートと異なる点は、処理の先頭に、受信したパケットの経路をバックアップするバックアップノードが既に設定されているか判断するステップS1301が追加されている点である。バックアップノードが既に設定されている場合(S1301−YES)は、バックアップノードにはならないと判定される。バックアップノードが設定されていない場合には、ステップS201に進み第1の実施形態と同様の判定処理を行う。
【0090】
本実施形態のバックアップノード判定処理によれば、既にバックアップノードが設定されている場合には、アクセスポイントAPとの通信を受信するたびに図6のステップS201〜S204にかかる処理を省くことができる。一般にノード間の通信は短い期間に集中的に行われるため、各通信のたびに判定処理を行っていては周囲の移動ノードに無駄に負荷かがかかってしまい効率的ではない。本実施形態では、この無駄な負荷を抑制し、効率的な通信を行うことができる。
【0091】
また、本実施形態においては、一度バックアップノードが設定された後に、そのノードよりもバックアップノードとして適した移動ノードが出現したときに、バックアップノードを変更することのできる構成とする必要がある。
【0092】
そこで、本実施形態においては、バックアップノード更新処理を行う。以下では、バックアップノード更新処理を図14のフローチャートを参照して説明する。バックアップノードは、定期的に、自ノードのバックアップノードとして適合度を算出し(S1401)、この適合度を格納したバックアップノード通知メッセージ(図7)を送信する(S1402)。このメッセージを受信(S1403)した移動ノードは、バックアップノードがバックアップしている経路の通信を受信できるか判定する(S1404)。すなわち、アクセスポイントAPおよび移動ノード(ノード2)の双方と通信可能であるか判定する。いずれかと通信可能ではない場合(S1404−NO)は、バックアップノードとなることはできないので処理を終了する。アクセスポイントAPおよび移動ノード2の両方と通信可能である場合(S1404−YES)は、アクセスポイントAPからの受信電力Pを取得する(S1405)。そして、受信電力Pが閾値P0よりも大きいか判定し(S1406)、大きい場合にはバックアップノードとしての適合度を算出する(S1407)。算出した適合度と、受信したバックアップノード通知メッセージに含まれる現在のバックアップノードの適合度を比較し(S1408)、自ノードの適合度が高い場合には、自ノードをバックアップノードとして設定する(S1409)。自ノードがバックアップノードとなった場合には、バックアップノード通知メッセージを送信して、周囲のノードに自ノードがバックアップノードになったことを通知する(S1410)。
【0093】
このように、バックアップノードが定期的にバックアップノードとしての適合度を周囲のノードに通知し、バックアップノードとしてより適したノードが存在すればそのノードがバックアップノードになるため、常に好適なノードがバックアップノードとして設定す
ることが可能となる。
【0094】
(その他)
本発明に係る無線通信システムは、上記実施形態で例示したような車両と路側機から構成される路車間アドホックネットワークに特に好適に適用することができる。なぜならば、路車間通信システムにおいては、車両の移動方向は道路によって規定されており、路側機の通信可能エリアを通過する際には、どの車両も同じ距離だけ通信可能エリアを通過することになる。したがって、車両が路側機の通信可能エリア内に滞在する時間を、路側機との距離(位置情報や受信電力から分かる)や移動方向、移動速度、もしくは、通信可能エリアに進入してからの経過時間や移動距離に基づいて精度良く推定することができるからである。
【0095】
もっとも、本発明に係る無線通信システムは、路車間通信アドホックネットワークシステムにのみ限定して解釈するべきではなく、移動ノードと固定ノードから構成されるどのような無線通信システムに対しても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】第1の実施形態に係る無線通信システムのシステム概要を示す図である。
【図2】第1の実施形態における移動ノード(車両)の機能ブロックを示す図である。
【図3】第1の実施形態における経路テーブルのテーブルフォーマットを示す図である。
【図4】第1の実施形態におけるバックアップ経路テーブルのテーブルフォーマットを示す図である。
【図5】第1の実施形態におけるパケットを受信した際に行う処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態におけるバックアップノードを決定する処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】バックアップノードになったことを通知するバックアップノード通知メッセージのパケット構造を示す図である。
【図8】メインの通信経路が途絶した場合に、バックアップ経路に切り替える際の処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】バックアップノードがメイン経路の通信をバックアップしてパケットを転送する際のヘッダ情報書き換えを説明する図である。
【図10】バックアップノードが有する、どの経路をバックアップしているかを記憶するバックアップ経路情報テーブルの例を示す図である。
【図11】経路情報テーブルの例を示す図である。
【図12】経路情報テーブルの例を示す図である。
【図13】第5の実施形態におけるバックアップノード判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】第5の実施形態におけるバックアップノード更新処理の流れを示すフローチャートである。
【図15】従来技術におけるバックアップ経路の設定を説明する図である。
【符号の説明】
【0097】
AP アクセスポイント
S 送信元ノード
1,2,3,4,5 移動ノード
11 パケット受信部
12 パケット判定部
13 パケットバッファ
14 アクセスポイント通信判定部
15 経路作成/判定部
16 パケット送信部
17 経路情報記憶部
17a 経路テーブル
17b バックアップ経路テーブル
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信技術に関し、特に、複数の移動ノードと固定ノードから構成される無線通信システムにおける無線通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アドホックネットワークと呼ばれる形態の無線通信システムが知られている。アドホックネットワークでは、複数の無線通信装置(ノード)が相互に通信を行い、自律的かつ即時的にネットワークが構築される。アドホックネットワークにおいては、通信するノードが直接通信できない場合には、1または複数のノードによる中継を介して通信を行う。
【0003】
このようなアドホックネットワークでは、通信経路を確立する技術が重要である。特に、ノードの移動に伴って通信路(リンク)の切断が頻繁に生じるので、迅速に経路を再構築する必要がある。
【0004】
リンクの切断が発生しても送受信ノード間で通信を行うための技術として、送受信ノード間で複数の経路を確立する技術が知られている(特許文献1)。特許文献1に記載の技術では、送受信ノード間で最短ホップ数となる経路を利用するとともに、最短ホップ数から所定数のホップ数の経路も利用して通信を行っている。したがって、最短ホップ数の経路が途切れた場合であっても、通信を継続することができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、複数の経路を用いて通信しているため無駄な通信が発生してしまっている。また、送受信ノードのそれぞれがフラッディングを行って各ノードと送受信ノード間のホップ数を判定しているためオーバヘッドが大きいという欠点がある。
【0006】
リンクの切断が発生しても送受信ノード間で通信を行うためのその他の技術としては、送受信ノード間の経路を設定する際に、実際に利用するメイン経路の他に、メイン経路が途絶した場合に備えてバックアップ経路を持つ技術が知られている(特許文献2,3,4)。メインの経路が途絶した場合にはバックアップ経路を利用して通信を行うことで、送受信ノード間の通信を行うことができる。
【0007】
ここで、バックアップ経路の決定は次のように行われる。特許文献2に記載の技術では、経路数(ホップ数)やリンクの安定度などを基準にバックアップ経路が決定される。また、特許文献3に記載の技術では、通信速度や遅延などのサービス品質を基準にバックアップ経路が決定される。また、特許文献4に記載の技術では、ノード間の位置変化の少なさを基準にバックアップ経路が決定される。
【0008】
このように、特許文献2〜4に記載されている技術では、ホップ数やリンクの安定度などを指標としてバックアップ経路を設定することによって、メインの経路が途絶した場合であっても、バックアップ経路に切り替えて通信を継続することが可能である。
【特許文献1】特開2005−150791号公報
【特許文献2】特開2006−50377号公報
【特許文献3】特開2004−56787号公報
【特許文献4】特開2005−269042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような従来技術の場合には、下記のような問題が生じていた。
【0010】
すなわち、上述のようにホップ数やリンクの安定度などに基づいてバックアップ経路を選択する技術を、図15に示すような移動ノードと固定ノードから構成されるアドホックネットワークに適用した場合には所望の効果が得られない。
【0011】
図15に示すアドホックネットワークは、移動ノードとして無線通信装置を搭載した車両と、固定ノードとして路側に設置されたアクセスポイントAPから構成される。ここで、ノードSからアクセスポイントAPへの通信経路(実線矢印)は、ノードS−ノード1−ノード2−アクセスポイントAPとなる。ノード2とアクセスポイントAP間のバックアップ経路としては、通信の安定度等を考慮した上記従来技術ではノード5を介する経路(点線矢印)が選択されることとなる。ノード5がバックアップノードとして選択される理由は、ノード2との距離が近く、かつ、相対速度が小さいため通信が安定していることによる。しかしながら、図15(b)に示すように、ノード2がアクセスポイントAPの通信可能エリアから離脱しノード2とアクセスポイントAP間の通信が途切れた後には、ノード5とアクセスポイントAP間の通信も既に途切れていてバックアップ経路も利用できなかったり、すぐに途切れてバックアップ経路として利用できなくなってしまう。このように、上記従来技術を適用した場合には、バックアップ経路が利用できなかったり、利用できたとしても利用できる期間が短くなってしまうという問題が生じる。
【0012】
また、上記従来技術はいずれも、冗長な経路を作成する目的や、バックアップ経路を設定する目的で、フラッディングやブロードキャストを多用しており、オーバヘッドが大きいという問題点もある。
【0013】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、固定ノードと移動ノードとの位置関係が変化した場合でも、固定ノードと移動ノード間の通信を効率的に継続することのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明では、以下の手段または処理によって無線通信を行う。
【0015】
本発明に係る無線通信システムは、固定ノードと、固定ノードと直接無線通信を行う第1の移動ノードと、固定ノードと第1の移動ノードの通信が途絶した場合にこれらのノード間の通信を中継する第2の移動ノードであるバックアップノードとから構成される。ここで、バックアップノードは、固定ノードと第1の移動ノードの両方と直接通信可能な移動ノードの中から、固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて決定される。
【0016】
ここで、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、固定ノードと移動ノードの位置情報と、移動ノードの移動方向とに基づいて推定される構成を好適に採用できる。
【0017】
また、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードから受信する電波の受信電力と、移動ノードの移動方向とに基づいて推定される構成を好適に採用することもできる。
【0018】
また、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に進入してからの経過時間に基づいて推定される構成を好適
に採用することもできる。
【0019】
また、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に進入してからの移動距離に基づいて推定される構成を好適に採用することもできる。
【0020】
また、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードの移動速度も考慮して推定されることが好ましい。
【0021】
また、バックアップノードは以下のようにして決定することができる。すなわち、まず、固定ノードと第1のノード間の通信を受信した移動ノードが、それぞれ、固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて、バックアップノードとしての適合度を算出する。そして、各移動ノードが、算出した自ノードの適合度を周囲の移動ノードに通知する。そして、この通知の結果、最も高い適合度を有する移動ノードが、自ノードをバックアップノードとして設定する。このようにして、固定ノードおよび第1の移動ノードと通信可能な移動ノードの中から、バックアップノードを決定することができる。
【0022】
このような構成の無線通信システムによれば、固定ノードと第1の移動ノード間の位置関係が変化し通信が途絶した場合に、バックアップノード(第2の移動ノード)を中継ノードとして利用して通信を継続することができる。そして、バックアップノードは固定ノードと通信可能な期間に基づいて決定されるため、バックアップ経路の有効期間が長くなり、頻繁に経路を変更する必要が無くなる。したがって、経路切替に要する処理を少なくすることができ、効率的な通信を実現することができる。
【0023】
また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む無線通信方法、または、かかる方法を実現するためのプログラムとして捉えることもできる。なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する移動ノード(移動端末)として捉えることができる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【0024】
たとえば、本発明の一態様としての無線通信方法は、複数のノードから構成され、ノード間で直接または他のノードの中継を介して無線通信を行う無線通信システムにおける無線通信方法であって、固定ノードと第1の移動ノードとの間で直接通信を行うステップと、前記固定ノードと前記第1の移動ノードの両方と直接通信可能な移動ノードの中から、前記固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて、バックアップノードを決定するステップと、前記固定ノードと前記第1の移動ノードの通信が途絶した場合に、前記バックアップノードが、これらのノード間の通信を中継するステップとを含むことを特徴とする。
【0025】
また、本発明の一態様としての移動ノード(移動端末)は、複数のノードから構成され、ノード間で直接または他のノードの中継を介して無線通信を行う無線通信システムにおける移動ノードであって、第1の移動ノードと固定ノードとの通信を検知する固定ノード通信検知手段と、前記第1の移動ノードと前記固定ノードとの通信を検知したときに、自ノードが前記固定ノードの通信可能エリアに滞在する時間を推定し、該滞在時間に基づいてバックアップノードとしての適合度を算出する適合度算出手段と、算出した適合度を周囲の移動ノードに通知する適合度通知手段と、自ノードが最も高い適合度を持つと判定された場合は、前記第1の移動ノードと前記固定ノード間の通信が途絶したときに、これらのノード間の通信を中継するバックアップノードとして自ノードを設定するバックアップノード設定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、固定ノードと移動ノードとの位置関係が変化した場合でも、固定ノードと移動ノードの通信を効率的に継続することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
<システム概要>
図1は、本実施形態に係る無線通信システムのシステム概要を示す図である。本実施形態に係る無線通信システムは、移動ノードとしての車両と、固定ノードとしてのアクセスポイント(路側機)から構成される。車両間および路車間の通信は無線通信によって行われ、各ノードが自律分散的に通信を中継することによって他のノードと通信が行えるアドホックネットワークを形成している。
【0029】
図1では、送信ノードSがノード1およびノード2による中継を介してアクセスポイントAPと通信を行っている。本実施形態は、この通信経路のうち、アクセスポイントAPとこれに隣接するノード2との間の通信路が途切れてしまった場合に、即座に経路を切り替えて送信ノードSとアクセスポイントAP間の通信を継続することを目的とする。なお、通信経路の切替やその事前の準備のために処理負荷や通信負荷がなるべくかからず、効率的な通信経路の切替を実現することも目的とする。
【0030】
<構成>
次に、移動ノードである車両の構成について説明する。なお、移動ノードとしての車両は、車両内に無線通信装置が備え付けられた形態であっても、パーソナルコンピュータやPDA(Personal Digital Assistant)や携帯電話機などの無線通信装置が持ち込まれて車両とともに移動する形態であっても構わない。
【0031】
図2は、移動ノードが有する機能ブロックを示す図である。移動ノードは、パケット受信部11、パケット判定部12、パケットバッファ13、アクセスポイント通信判定部14、経路作成/判定部15、パケット送信部16、経路情報記憶部17とから構成される。
【0032】
移動ノードは、ハードウェア構成としては、バスを介して接続されたCPU(中央演算処理装置)、主記憶装置(RAM)、補助記憶装置、通信インタフェースなどを備える。移動ノードにおける上記の各機能部は、補助記憶装置に記憶された各種のプログラム(OS、アプリケーション等)が主記憶装置にロードされCPUによって実行されることによって実現される。なお、上記各機能部の一部または全部は、専用のチップとして構成されても良い。
【0033】
以下、各機能部について詳しく説明する。
【0034】
パケット受信部11は、通信インタフェースから構成され、他の移動ノードおよび固定ノードからのパケットを受信する。パケット受信部11が受信したパケットは、パケット判定部12に送られる。
【0035】
パケット判定部12は、パケット受信部11で受信したパケットの種類を判定して、パケットの種類に応じて処理を振り分ける。受信パケットが自ノード宛である場合には、パケット判定部12は、受信パケットを上位層へと送る。受信パケットが、自ノードが中継ノードとなって転送すべき転送パケットである場合には、パケット判定部12は、この受信パケットをパケットバッファ13へ送る。また、受信パケットが経路探索や経路維持に
関わるパケットである場合には、パケット判定部12は、受信パケットを経路作成/判定部15へと送る。そして、パケット判定部12は、その他の受信パケットをアクセスポイント通信判定部14へと送る。
【0036】
パケットバッファ13は、送信するパケットを一時的に格納する。送信するパケットとしては、他のノードから受信した転送パケットと、上位層(アプリケーションプログラム)から送られてきたパケットとが含まれる。
【0037】
アクセスポイント通信判定部14は、パケット判定部12によって、自ノード宛てパケットでも転送パケットでも経路探索や経路維持に関わるパケットでもないと判定されたパケットが、アクセスポイントAPと移動ノードの間の通信であるか否かの判定を行う。受信パケットがアクセスポイントAPとの間の通信ではない場合には、受信パケットを破棄してそれ以降の処理は行わない。
【0038】
受信パケットがアクセスポイントAPとの間の通信である場合には、自ノードがこのパケットの通信経路のバックアップノードとして設定されているか否かによって異なる処理が行われる。
【0039】
まず、自ノードがこのパケットの通信経路のバックアップノードとして設定されていない場合には、自ノードがこの通信経路のバックアップノードとなるか否かの判定を行わせるために、経路作成/判定部15に通知を行う。
【0040】
また、自ノードがバックアップノードとして設定されている場合には、この受信パケットを受信ノードが正しく受信したかを監視し、通信路が途絶した場合には自ノードがこの通信を中継する処理を行う。また、通信経路をバックアップ経路に切り替える処理を行う。このバックアップ経路に切り替える判定および切替処理については後で詳しく説明する。
【0041】
経路作成/判定部15は、通信経路の作成を行う。ここで、通信経路は、通常の場合に使用するメイン経路と、メイン経路が途絶した場合に利用する予備的な経路であるバックアップ経路との2つが作成される。経路作成/判定部15が作成した経路は、経路情報記憶部17の経路テーブル17aに格納される。図3は、経路テーブル17aのテーブルフォーマットを示す図である。経路テーブル17aには、宛先IPアドレス31ごとに、次にパケットを転送すべき転送ノードの転送先IPアドレス32,宛先ノードまでのホップ数33、自ノードと転送ノード間の経路のバックアップノード34とが格納されている。この経路テーブル17aを参照することで、宛先ノードのIPアドレスがノードd1である場合には、通常時はパケットをノードt1に転送すればよいことが分かる。そして、自ノードとノードt1の通信経路が途絶した場合には、ノードb1がバックアップノードとしてパケットを中継することによって自ノードとノードt1との間の通信が継続可能であることが分かる。
【0042】
経路作成/判定部15が行う通信経路の作成処理の内、メイン経路の作成処理は既存のどのような技術を用いて行っても良い。例えば、AODV(Ad-hoc On-demand Distance Vector Routing)プロトコルを利用してメイン経路を作成できるが、その他どのような技術を利用しても構わない。
【0043】
経路作成/判定部15が行う通信経路作成処理の内、バックアップ経路の作成処理の詳細については、後で詳しく説明する。
【0044】
パケット送信部16は、パケットバッファ13に蓄積されているパケットや、経路作成
/判定部15から送られる経路探索や経路維持に関わるパケットを送信する。
【0045】
経路情報記憶部17には、上述した経路テーブル17aと、バックアップ経路テーブル17bが格納される。経路テーブル17aについてはすでに説明したので、説明を省略する。バックアップ経路テーブル17bは、自ノードがバックアップノードであるときに、どの通信経路をバックアップしているかを示す情報が格納される。図4は、バックアップ経路情報テーブル17bのテーブルフォーマットを示す図である。バックアップ経路情報テーブル17bには、送信元ノードのIPアドレス41およびMACアドレス42と、送信先アドレスのIPアドレス43とMACアドレス44が格納される。
【0046】
<処理フロー>
次に、移動ノードと固定ノードの通信経路のバックアップノードにどの移動ノードがなるかを決定するバックアップノード設定処理、およびバックアップノードが経路のバックアップを行う処理の詳細について説明する。
【0047】
[バックアップノード設定処理]
まず、固定ノードとの間の通信経路をどの移動ノードがバックアップするかを決定するバックアップノード設定処理について、図5,6を用いて説明する。図5は、パケットを受信した際に行う処理の流れを示すフローチャートである。図6は、バックアップノードを決定する処理の詳細な流れを示すフローチャートである。
【0048】
まず、図5を用いて移動ノードがパケットを受信したときの処理について説明する。パケット受信部11がパケットを受信する(S101)と、そのパケットの種類をパケット判定部12が判定する。受信パケットが自ノード宛であるか否かを判定し(S102)、自ノード宛である場合(S102−YES)は、受信したパケットを上位層へ受け渡す(S109)。また、受信パケットが経路探索や経路維持に関わる経路制御パケットであるか否かを判定し(S103)、経路制御パケットである場合(S103−YES)には、受信したパケットを経路作成/判定部15に受け渡す(S110)。そして、受信パケットの受信ノードがアクセスポイントAPであるか(S104)、または、送信ノードがアクセスポイントAPであるか(S105)を判定する。受信ノードおよび送信ノードのいずれもアクセスポイントAPではない場合(S104−NOかつS105−NO)は、その受信パケットについてはそれ以上は処理を行わない。受信ノードか送信ノードのいずれかがアクセスポイントAPである場合(S104−YESまたはS105−YES)は、自ノードがバックアップノードとなる否かの判定を行う(S106)。なお、アクセスポイントのアドレス(MACアドレス)は、各移動ノードがあらかじめデータとして保有していても良く、アクセスポイントAPが定期的に送信するビーコンから取得する構成としても良い。
【0049】
バックアップノードとなるか否かの判定処理の詳細は後で説明するとして、図5のフローチャートの説明を続ける。S106で自ノードがバックアップノードになると判定された場合(S107−YES)は、自ノードをバックアップノードとして設定する(S108)。具体的には、バックアップ経路テーブル17bに、自ノードがバックアップする経路を格納する。
【0050】
そして、周囲のノードに自ノードがバックアップノードになったことを通知する(S109)。図7は、自ノードがバックアップノードになったことを通知するバックアップノード通知メッセージのパケット構造を示す図である。バックアップノード通知メッセージは、このメッセージがバックアップノード通知メッセージであることを示すフラグ71と、自ノード(バックアップノード)のアドレス72、バックアップする経路の両端ノードのアドレス73,74および、バックアップノードとしての適合度75から構成される。
周囲のノードは、このバックアップノード通知メッセージを受信することで、どのノードがどの通信路をバックアップするかを把握することができる。
【0051】
次に、図6を用いて、図5のS106におけるバックアップノード判定処理の詳細について説明する。固定ノードであるアクセスポイントAPと移動ノードとの間のパケットを受信した移動ノードは、まず、アクセスポイントAPに対する受信電力Pを取得する(S201)。次に、この受信電力Pがあらかじめ定められた閾値電力P0より大きいか判定する(S202)。受信電力Pが閾値電力P0以下である場合(S202−NO)は、バックアップノードにはならないと判定される(S206)。受信電力Pが閾値電力P0より大きい場合(S202−YES)は、他の移動ノードからバックアップノード通知メッセージを受信したか判定する(S203)。他の移動ノードからバックアップノード通知メッセージを受信していない場合(S203−NO)は、自ノードがバックアップノードになると判定する(S205)。他の移動ノードがバックアップノードになるというバックアップノード通知メッセージを受信している場合(S203−YES)は、バックアップノードとしての適合度を算出し、適合度の比較を行う(S204)。
【0052】
ここで、適合度の具体的な算出方法について説明する。適合度は、移動ノードがアクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて算出されることが好ましい。この滞在時間は移動ノードとアクセスポイントAP間の距離および移動ノードのアクセスポイントAPに対する移動方向(近づいているか、遠ざかっているか)に依存する。なお、移動ノードのアクセスポイントAPに対する移動方向は、指向性を有するアンテナによってアクセスポイントAPからの電波の到来方向を判断して取得しても良く、アクセスポイントAPからの電波の受信電力の時間変化(強くなっているか弱くなっているか)を判断して取得しても良い。
【0053】
本実施形態では移動ノードとアクセスポイントAP間の距離を受信電力によって判断することとし、アクセスポイントAPに対する受信電力Pと、自ノードのアクセスポイントAPに対する移動方向を基準として適合度を算出する。本実施形態においては、次の基準に従って適合度を算出する。
【0054】
1.アクセスポイントAPに近づいている移動ノードの方が、アクセスポイントAPから遠ざかっている移動ノードよりも適合度が高い
2.アクセスポイントAPに近づいている移動ノードが複数ある場合は、受信電力Pが小さいほど適合度が高い
3.アクセスポイントAPから遠ざかっている移動ノードが複数ある場合は、受信電力Pが大きいほど適合度が高い
【0055】
このような基準にしたがって適合度を算出することによって、アクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間が長い移動ノードほど、高い適合度を持つようになる。さらに、移動ノード(車両)の移動速度も考慮し、移動速度が小さいほど適合度を高くし、移動速度が大きいほど適合度を低くすることが好適である。移動速度も考慮することで、適合度は、アクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間をより正確に反映したものとなる。また、バックアップする経路の一端の移動ノードとの相対的な移動速度が小さいものほど適合度を高く算出することも望ましい。移動ノード間の位置関係が比較的長期間にわたって保たれることになるので、バックアップノードとして機能できる期間が長くなるためである。
【0056】
そしてこのようにして算出した自ノードの適合度の方が、バックアップノード通知メッセージを送信してきた移動ノードの適合度よりも高い場合は自ノードがバックアップノードになると判定する(S205)。逆の場合は、自ノードはバックアップノードにならな
いと判定する(S206)。
【0057】
[バックアップ経路切替処理]
次に、バックアップノードが行う処理について説明する。バックアップノードは、メインの通信経路を監視し、この経路の通信が途絶した場合に、バックアップ経路に切り替える。図8は、メイン経路の監視およびバックアップ経路への切替処理の流れを示すフローチャートである。
【0058】
まず、パケット受信部11が、受信ノードまたは送信ノードのいずれかがアクセスポイントである通信を受信する(S301)。このパケットは、パケット判定部12によって、アクセスポイント通信判定部14へと受け渡される。次に、アクセスポイント通信判定部14は、このパケットが自ノードがバックアップしている経路間の通信に係るパケットであるか否かを判断する(S302)。具体的には、バックアップ経路テーブル17bに格納されている経路間での通信であるかを判断する。バックアップ経路の通信ではない場合(S302−NO)は、このパケットについての処理は終了する。このパケットがバックアップ経路の通信である場合(S302−YES)は、このパケットをパケットバッファに一時的に格納する(S303)。
【0059】
そして、一定時間待機(S304)している間に、このパケットに対するACKを受信したか判定する(S305)。ACKを受信した場合(S305−YES)は、メイン経路での通信が正常に行えているので、一時バッファをクリア(S309)して処理を終了する。ACKを受信していない場合(S305−NO)は、メイン経路での通信が途絶しているので、一時バッファからパケットを読み込み(S306)、受信ノードに対してパケットを送信する(S307)。この際、図9に示すように、一時バッファに格納したパケットの送信元MACアドレスを自ノードのMACアドレスに書き換えて送信する。
【0060】
そして、送受信ノード(メイン経路の両端ノード)に対して経路が変わったことを通知する経路情報を送信する(S308)。この通知を受信した送受信ノードは、このノード間の経路が途絶しバックアップ経路に切り替わったことがわかり、自ノードが有する経路テーブル17aを書き換え、以降の通信はバックアップ経路を用いて行うようにする。
【0061】
なお、上記では、メイン経路の途絶の判断する方法として、一定時間内にACKを受信できるか否か(S304〜S305)で判断する方法を採用しているが、送信ノードから再送パケットを所定回数受信した場合にメイン経路が途絶したと判断する方法を採用することも可能である。
【0062】
<動作例>
以下に、図1のような状況を例にとって本実施形態における無線通信システムの動作の例を説明する。
【0063】
図1においては、送信ノードSが、ノード1およびノード2の中継を介して、アクセスポイントAPと通信をしている。ここで、ノード2とアクセスポイントAP間の通信を受信できるノード(両ノードから送信されるパケットを受信可能なノード)は、ノード3,4,5である。ノード2とアクセスポイントAP間で通信されるパケットを受信したノード3,4,5は、自ノードのバックアップノードとしての適合度を算出する。
【0064】
適合度は、上述の基準に従って算出されるので、アクセスポイントAPから遠ざかるノード5の適合度が最も低くなる。アクセスポイントAPに近づくノード3,4については、アクセスポイントAPからの距離が遠く、アクセスポイントAPからの電波の受信電力が小さいノード4の適合度が最も高くなる。なお、ここでは各ノードがほぼ同じ速度で移
動していると仮定しているが、移動速度も考慮に入れた適合度算出では適合度の高低が入れ替わる場合もある。例えば、ノード3の移動速度がノード4に比べて遅い場合は、ノード3の適合度が最も高く算出されたりする。
【0065】
適合度を算出した各ノードは、このノード2とアクセスポイントAP間をバックアップするバックアップノードが存在しない場合、もしくは、自ノードの適合度よりも低い適合度を有するバックアップノードが存在する場合には、自ノードをバックアップノードとして設定する。図1の状況では、最終的にノード4が、ノード2とアクセスポイントAP間のバックアップノードになる。
【0066】
バックアップノードとなったノード4は、ノード2とアクセスポイントAP間の経路をバックアップしていることを記憶するために、バックアップ経路テーブル17bとして図10のような情報を保持する。図10のバックアップ経路テーブル17bは、送信ノードがノード2で受信ノードがアクセスポイントAPの通信、および送信ノードがアクセスポイントAPで受信ノードがノード2の通信を、自ノード(ノード4)がバックアップすることが記録される。
【0067】
また、バックアップノードとなったノード4は、バックアップノード通知メッセージを周囲のノードに通知する。このメッセージを受信したノードは、ノード2およびアクセスポイントAP間の通信をノード4がバックアップすると判断できる。そこで、ノード2とアクセスポイントAPは、自ノードが有する経路テーブル17aにこの経路のバックアップノードがノード4であることを記録する。図11は、ノード4がノード2とアクセスポイントAP間のバックアップノードとなったことを周囲に通知したときの経路テーブル17aであり、図11(a)はノード2が有する経路テーブルであり、図11(b)はアクセスポイントAPが有する経路テーブルである。
【0068】
図11(a)を参照すると、ノード2は、アクセスポイントAP宛のパケットはアクセスポイントAPに送信すれば良く、アクセスポイントAPまで1ホップで到達し、この経路のバックアップノードがノード4であることが分かる。ノードS宛のパケットはノード1に転送すれば良く、ホップ数は2で、この経路のバックアップノードは設定されていないことが分かる。
【0069】
また、図11(b)を参照すると、アクセスポイントAPは、ノードS宛のパケットはノード2に転送すれば良く、ノードSまでのホップ数は3であり、この経路のバックアップノードはノード4であることが分かる。
【0070】
次に、バックアップノードとなったノード4の動作について説明する。ノード4は、自ノードがバックアップする経路間で通信されるパケットを受信した場合は、このパケットを一時的にバッファする。具体的には、図10に示すバックアップ経路テーブル17bに格納されている経路間の通信(ここではノード2−アクセスポイントAP間の通信)のパケットをバッファする。そして、この通信が正常に受信されたかを確認して、この経路の通信が途絶した場合には、自ノードがこの通信をバックアップする。
【0071】
通信のバックアップは、具体的には、図9に示すようにバッファしたパケットの送信元MACアドレスを自ノードのMACアドレスに書き換えて再送することによって行われる。それとともに、ノード2−アクセスポイントAP間の経路がバックアップ経路に変わったことをノード2およびアクセスポイントAPに通知する。この通知を受け取ったノード2およびアクセスポイントAPは、自ノードが有する経路テーブル17aを図12に示すように書き換える。
【0072】
図12(a)はノード2が有する経路テーブル17aであり、アクセスポイントAP宛のパケットは、ノード4に転送するように変更されており、ホップ数も1だけ増えて2となっている。ノードS宛の経路については変更されていない。
【0073】
図12(b)はアクセスポイントAPが有する経路テーブル17aであり、ノード2宛のパケットは、ノード4に転送するように変更されており、ホップ数も1だけ増えて4となっている。
【0074】
<作用・効果>
本実施形態における無線通信システムでは、移動ノード(車両)と固定ノード(アクセスポイント)間の通信が途絶した場合でも、バックアップノードが迅速にこの通信を中継することになるので、安定した通信を行うことができる。従来技術では、最短のホップ数や電波の安定度などを基準のバックアップノードを選択すると、図1のような状況ではノード2−アクセスポイントAP間の経路のバックアップノードは、両ノードに近いノード5が選択される可能性が高い。この場合、ノード2−アクセスポイントAP間の通信が途絶した場合、ノード5−アクセスポイントAP間の通信も既に途絶してしまっているか、直後に途絶してしまう。これに対して、本実施形態では、アクセスポイントAPの通信可能エリアに滞在する時間を考慮してバックアップノードを選択しているため、バックアップ経路に切り替えた後でも、このバックアップ経路を比較的長期間にわたって使用することができる。したがって、頻繁に経路の途絶・更新をする必要が無くなり、通信が効率化され、通信性能の劣化を抑えることができる。
【0075】
(第2の実施の形態)
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、バックアップノードとしての適合度を算出する処理の内容だけである。ここでは、主にその相違点について説明する。
【0076】
第1の実施形態では、固定ノード(アクセスポイントAP)からの電波の受信強度によって、固定ノードと移動ノードの距離を推定し、これと移動ノードの移動方向とに基づいて、バックアップノードとしての適合度を算出していた。本実施形態では、移動ノードはアクセスポイントAPの位置情報(地図情報)を格納したデータベース(固定ノード位置情報記憶手段)と、自ノードの位置情報を取得可能な位置情報取得手段としてのGPS(Global Positioning System)装置を備える。そして、各移動ノードは、アクセスポイン
トAPの位置情報と自ノードの位置情報から、自ノードとアクセスポイントAPの距離を算出する。また、アクセスポイントAPからの電波の到来方向または電波の受信強度の時間変化によって、自ノードのアクセスポイントAPに対する移動方向を求める。移動ノードは、アクセスポイントAPとの距離と移動方向とを元に、以下の基準に従って適合度を算出する。
【0077】
1.アクセスポイントAPに近づいている移動ノードの方が、アクセスポイントAPから遠ざかっている移動ノードよりも適合度が高い
2.アクセスポイントAPに近づいている移動ノードが複数ある場合は、アクセスポイントAPからの距離が遠い方が適合度が高い
3.アクセスポイントAPから遠ざかっている移動ノードが複数ある場合は、アクセスポイントAPからの距離が近い方が適合度が高い
【0078】
このような基準に従って適合度を算出することによって、第1の実施形態と同様に、アクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間が長い移動ノードほど高い適合度を持つようになる。したがって、バックアップノードとして機能できる期間が長くなるため、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
なお、上記の適合度の算出において、さらに、移動ノードの移動速度を考慮することが望ましい。また、バックアップする経路の一端の移動ノードとの相対的な移動速度を考慮することも好ましい。
【0080】
(第3の実施の形態)
第3の実施形態が上記第1および第2の実施形態と異なる点は、バックアップノードとしての適合度を算出する処理の内容だけである。ここでは、主にその相違点について説明する。
【0081】
本実施形態では、バックアップノードとしての適合度を、移動ノードがアクセスポイントAPの通信可能エリア内に進入してからの経過時間に基づいて算出する。そして、この経過時間が短いほど適合度が高く算出される。また、上記の実施形態と同様に、自ノードの移動速度も考慮して、移動速度が小さいほど適合度が高く算出されるようにすることも好ましい。なお、アクセスポイントAPの通信可能エリア内への進入は、アクセスポイントAPから定期的に発信されるビーコンを受信することによって検知可能である。
【0082】
このような基準に従って、適合度を算出することによって、上記の実施形態と同様に、アクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間が長い移動ノードほど高い適合度を持つようになる。したがって、バックアップノードとして機能できる期間が長くなるため、上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0083】
なお、本実施形態におけるアクセスポイントAPの通信可能エリア内に進入してからの経過時間に基づいて適合度を算出する方法は、図1に示すような路車間通信システムに対して特に好適に用いることができる。すなわち、移動ノードである車両は道路に沿って移動するため、通過するアクセスポイントAPの通信可能エリアの距離(長さ)は一定となる。したがって、通信可能エリア内に進入してからの経過時間が少ないほど、通信可能エリア内に滞在する時間が長いと判断することができるため、本実施形態の方法が効果的である。
【0084】
(第4の実施の形態)
第4の実施形態が上記第1〜3の実施形態と異なる点は、バックアップノードとしての適合度を算出する処理の内容だけである。ここでは、主にその相違点について説明する。
【0085】
本実施形態では、バックアップノードとしての適合度を、移動ノードがアクセスポイントAPの通信可能エリア内に進入してからの移動距離に基づいて算出する。そして、この移動距離が短いほど適合度が高く算出される。また、上記の実施形態と同様に、自ノードの移動速度も考慮して、移動速度が小さいほど適合度が高く算出されるようにすることも好ましい。なお、アクセスポイントAPの通信可能エリア内への進入は、アクセスポイントAPから定期的に発信されるビーコンを受信することによって検知可能である。
【0086】
このような基準に従って、適合度を算出することによって、上記の実施形態と同様に、アクセスポイントAPの通信可能エリア内に滞在する時間が長い移動ノードほど高い適合度を持つようになる。したがって、バックアップノードとして機能できる期間が長くなるため、上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0087】
なお、本実施形態におけるアクセスポイントAPの通信可能エリア内に進入してからの移動距離に基づいて適合度を算出する方法は、図1に示すような路車間通信システムに対して特に好適に用いることができる。すなわち、移動ノードである車両は道路に沿って移動するため、通過するアクセスポイントAPの通信可能エリアの距離(長さ)は一定となる。したがって、通信可能エリア内に進入してからの移動距離が短いほど、通信可能エリ
ア内に滞在する時間が長いと判断することができるため、本実施形態の方法が効果的である。
【0088】
(第5の実施の形態)
第5の実施形態が上記の実施形態と異なる点は、アクセスポイントAPとの通信を受信した移動ノードがバックアップノードとなるか否かを判定するタイミングである。上記の実施形態においては、図5,6のフローチャートに示すように、アクセスポイントAPとの通信を受信するたびに、図6のフローチャートに示す適合度判定処理を行い、バックアップノードとなるか否かを判断していた。
【0089】
本実施形態においては、バックアップノード判定処理を図13に示すフローチャートにしたがって行う。図13のフローチャートが図6のフローチャートと異なる点は、処理の先頭に、受信したパケットの経路をバックアップするバックアップノードが既に設定されているか判断するステップS1301が追加されている点である。バックアップノードが既に設定されている場合(S1301−YES)は、バックアップノードにはならないと判定される。バックアップノードが設定されていない場合には、ステップS201に進み第1の実施形態と同様の判定処理を行う。
【0090】
本実施形態のバックアップノード判定処理によれば、既にバックアップノードが設定されている場合には、アクセスポイントAPとの通信を受信するたびに図6のステップS201〜S204にかかる処理を省くことができる。一般にノード間の通信は短い期間に集中的に行われるため、各通信のたびに判定処理を行っていては周囲の移動ノードに無駄に負荷かがかかってしまい効率的ではない。本実施形態では、この無駄な負荷を抑制し、効率的な通信を行うことができる。
【0091】
また、本実施形態においては、一度バックアップノードが設定された後に、そのノードよりもバックアップノードとして適した移動ノードが出現したときに、バックアップノードを変更することのできる構成とする必要がある。
【0092】
そこで、本実施形態においては、バックアップノード更新処理を行う。以下では、バックアップノード更新処理を図14のフローチャートを参照して説明する。バックアップノードは、定期的に、自ノードのバックアップノードとして適合度を算出し(S1401)、この適合度を格納したバックアップノード通知メッセージ(図7)を送信する(S1402)。このメッセージを受信(S1403)した移動ノードは、バックアップノードがバックアップしている経路の通信を受信できるか判定する(S1404)。すなわち、アクセスポイントAPおよび移動ノード(ノード2)の双方と通信可能であるか判定する。いずれかと通信可能ではない場合(S1404−NO)は、バックアップノードとなることはできないので処理を終了する。アクセスポイントAPおよび移動ノード2の両方と通信可能である場合(S1404−YES)は、アクセスポイントAPからの受信電力Pを取得する(S1405)。そして、受信電力Pが閾値P0よりも大きいか判定し(S1406)、大きい場合にはバックアップノードとしての適合度を算出する(S1407)。算出した適合度と、受信したバックアップノード通知メッセージに含まれる現在のバックアップノードの適合度を比較し(S1408)、自ノードの適合度が高い場合には、自ノードをバックアップノードとして設定する(S1409)。自ノードがバックアップノードとなった場合には、バックアップノード通知メッセージを送信して、周囲のノードに自ノードがバックアップノードになったことを通知する(S1410)。
【0093】
このように、バックアップノードが定期的にバックアップノードとしての適合度を周囲のノードに通知し、バックアップノードとしてより適したノードが存在すればそのノードがバックアップノードになるため、常に好適なノードがバックアップノードとして設定す
ることが可能となる。
【0094】
(その他)
本発明に係る無線通信システムは、上記実施形態で例示したような車両と路側機から構成される路車間アドホックネットワークに特に好適に適用することができる。なぜならば、路車間通信システムにおいては、車両の移動方向は道路によって規定されており、路側機の通信可能エリアを通過する際には、どの車両も同じ距離だけ通信可能エリアを通過することになる。したがって、車両が路側機の通信可能エリア内に滞在する時間を、路側機との距離(位置情報や受信電力から分かる)や移動方向、移動速度、もしくは、通信可能エリアに進入してからの経過時間や移動距離に基づいて精度良く推定することができるからである。
【0095】
もっとも、本発明に係る無線通信システムは、路車間通信アドホックネットワークシステムにのみ限定して解釈するべきではなく、移動ノードと固定ノードから構成されるどのような無線通信システムに対しても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】第1の実施形態に係る無線通信システムのシステム概要を示す図である。
【図2】第1の実施形態における移動ノード(車両)の機能ブロックを示す図である。
【図3】第1の実施形態における経路テーブルのテーブルフォーマットを示す図である。
【図4】第1の実施形態におけるバックアップ経路テーブルのテーブルフォーマットを示す図である。
【図5】第1の実施形態におけるパケットを受信した際に行う処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態におけるバックアップノードを決定する処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】バックアップノードになったことを通知するバックアップノード通知メッセージのパケット構造を示す図である。
【図8】メインの通信経路が途絶した場合に、バックアップ経路に切り替える際の処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】バックアップノードがメイン経路の通信をバックアップしてパケットを転送する際のヘッダ情報書き換えを説明する図である。
【図10】バックアップノードが有する、どの経路をバックアップしているかを記憶するバックアップ経路情報テーブルの例を示す図である。
【図11】経路情報テーブルの例を示す図である。
【図12】経路情報テーブルの例を示す図である。
【図13】第5の実施形態におけるバックアップノード判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】第5の実施形態におけるバックアップノード更新処理の流れを示すフローチャートである。
【図15】従来技術におけるバックアップ経路の設定を説明する図である。
【符号の説明】
【0097】
AP アクセスポイント
S 送信元ノード
1,2,3,4,5 移動ノード
11 パケット受信部
12 パケット判定部
13 パケットバッファ
14 アクセスポイント通信判定部
15 経路作成/判定部
16 パケット送信部
17 経路情報記憶部
17a 経路テーブル
17b バックアップ経路テーブル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ノードと、
前記固定ノードと直接通信を行う第1の移動ノードと、
前記固定ノードと前記第1の移動ノードの通信が途絶した場合にこれらのノード間の通信を中継する第2の移動ノードであるバックアップノードと、
から構成され、
前記バックアップノードは、前記固定ノードと前記第1の移動ノードの両方と直接通信可能な移動ノードの中から、前記固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて決定される
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、固定ノードと移動ノードの位置情報と、移動ノードの移動方向とに基づいて推定される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードから受信する電波の受信電力と、移動ノードの移動方向とに基づいて推定される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に進入してからの経過時間に基づいて推定される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項5】
移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に進入してからの移動距離に基づいて推定される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
移動ノードの移動速度も考慮して、移動ノードが固定ノードの通信可能エリアに滞在する時間が推定される
ことを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記バックアップノードの決定は、
前記固定ノードと前記第1の移動ノード間の通信を受信した各移動ノードが、前記固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて、バックアップノードとしての適合度を算出し、
各移動ノードが、算出した自ノードの適合度を周囲の移動ノードに通知し、
最も高い適合度を有する移動ノードが、自ノードをバックアップノードとして設定する、
ことによって行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項8】
複数のノードから構成され、ノード間で直接または他のノードの中継を介して無線通信を行う無線通信システムにおける無線通信方法であって、
固定ノードと第1の移動ノードとの間で直接通信を行うステップと、
前記固定ノードと前記第1の移動ノードの両方と直接通信可能な移動ノードの中から、前記固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて、バックアップノードを決定するステップと、
前記固定ノードと前記第1の移動ノードの通信が途絶した場合に、前記バックアップノードが、これらのノード間の通信を中継するステップと、
を含むことを特徴とする無線通信方法。
【請求項9】
複数のノードから構成され、ノード間で直接または他のノードの中継を介して無線通信を行う無線通信システムにおける移動ノードであって、
第1の移動ノードと固定ノードとの通信を検知する固定ノード通信検知手段と、
前記第1の移動ノードと前記固定ノードとの通信を検知したときに、自ノードが前記固定ノードの通信可能エリアに滞在する時間を推定し、該滞在時間に基づいてバックアップノードとしての適合度を算出する適合度算出手段と、
算出した適合度を周囲の移動ノードに通知する適合度通知手段と、
自ノードが最も高い適合度を持つと判定された場合は、前記第1の移動ノードと前記固定ノード間の通信が途絶したときに、これらのノード間の通信を中継するバックアップノードとして自ノードを設定するバックアップノード設定手段と、
を有することを特徴とする移動ノード。
【請求項1】
固定ノードと、
前記固定ノードと直接通信を行う第1の移動ノードと、
前記固定ノードと前記第1の移動ノードの通信が途絶した場合にこれらのノード間の通信を中継する第2の移動ノードであるバックアップノードと、
から構成され、
前記バックアップノードは、前記固定ノードと前記第1の移動ノードの両方と直接通信可能な移動ノードの中から、前記固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて決定される
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、固定ノードと移動ノードの位置情報と、移動ノードの移動方向とに基づいて推定される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードから受信する電波の受信電力と、移動ノードの移動方向とに基づいて推定される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に進入してからの経過時間に基づいて推定される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項5】
移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間は、移動ノードが固定ノードの通信可能エリア内に進入してからの移動距離に基づいて推定される
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
移動ノードの移動速度も考慮して、移動ノードが固定ノードの通信可能エリアに滞在する時間が推定される
ことを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記バックアップノードの決定は、
前記固定ノードと前記第1の移動ノード間の通信を受信した各移動ノードが、前記固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて、バックアップノードとしての適合度を算出し、
各移動ノードが、算出した自ノードの適合度を周囲の移動ノードに通知し、
最も高い適合度を有する移動ノードが、自ノードをバックアップノードとして設定する、
ことによって行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項8】
複数のノードから構成され、ノード間で直接または他のノードの中継を介して無線通信を行う無線通信システムにおける無線通信方法であって、
固定ノードと第1の移動ノードとの間で直接通信を行うステップと、
前記固定ノードと前記第1の移動ノードの両方と直接通信可能な移動ノードの中から、前記固定ノードの通信可能エリア内に滞在する時間に基づいて、バックアップノードを決定するステップと、
前記固定ノードと前記第1の移動ノードの通信が途絶した場合に、前記バックアップノードが、これらのノード間の通信を中継するステップと、
を含むことを特徴とする無線通信方法。
【請求項9】
複数のノードから構成され、ノード間で直接または他のノードの中継を介して無線通信を行う無線通信システムにおける移動ノードであって、
第1の移動ノードと固定ノードとの通信を検知する固定ノード通信検知手段と、
前記第1の移動ノードと前記固定ノードとの通信を検知したときに、自ノードが前記固定ノードの通信可能エリアに滞在する時間を推定し、該滞在時間に基づいてバックアップノードとしての適合度を算出する適合度算出手段と、
算出した適合度を周囲の移動ノードに通知する適合度通知手段と、
自ノードが最も高い適合度を持つと判定された場合は、前記第1の移動ノードと前記固定ノード間の通信が途絶したときに、これらのノード間の通信を中継するバックアップノードとして自ノードを設定するバックアップノード設定手段と、
を有することを特徴とする移動ノード。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−109262(P2008−109262A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288652(P2006−288652)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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