説明

無線通信システム、通信装置、情報機器、及び無線通信方法

【課題】情報機器の筐体内において、無線通信を行う無線通信システムを提供する。
【解決手段】第1の通信装置3は、アンテナを介して通信信号を送信する第1の送信部と、通信信号を第1の送信部によって送信させる第1の制御部6とを備える。第2の通信装置4は、通信信号をアンテナを介して受信する第2の受信部と、第2の受信部が受信する通信信号の受信レベルを測定する第2の測定部と、第2の測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にある場合に、第2の受信部が受信する通信信号を利用し、第2の測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にない場合に、第2の受信部が受信する通信信号を利用しない第2の制御部7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報機器の筐体内において無線通信を行う無線通信システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信は、一般的には遠隔した地点間で情報を伝達する技術として用いられてきた。その背景としては、有線では当然ながら配線作業が必要であり、所望の通信区間が長くなるほどそのための設備の準備にかける労力・コストは増すからである。また、有線では、配線に線材を用いるため、その線そのものの製造に費用・エネルギーを要し、さらに維持コストも増すことになる。したがって、そのようなコスト等の不要な無線通信が用いられてきている。
【0003】
また、近年は長距離の通信だけでなく、ごく近距離の通信においても、無線LANやBluetooth(登録商標)などに代表される無線免許不要な周波数帯域を用いた無線通信がよく利用されている(例えば、非特許文献1参照)。それは、無線通信は有線に比べて通信の伝送速度が遅い、信頼性が悪いなどの従来の欠点が、新たな通信方式などの研究により、日々進歩・改善されてきた結果である。
【0004】
これらの無線通信では、ユースケースを想定した技術開発が行われている。それは近距離の無線通信方式においても例外ではない。近距離無線通信では、一般的には自由空間、標準的屋内空間等の伝搬路を想定し、そこで生じる通信の障害に対する配慮を行い、共通的な(標準化された)通信方式として一般に提供されている。
【0005】
一方、例えば、銀行のATM(Automated Teller Machine)機やコピー機、自動販売機等のような情報機器は、金属等の筐体で覆われ、内部に紙や金属類等の送り出しや受け取り、識別、認識等を物理的に行う機構部品が複雑に充填されている。そのような情報機器の内部では、無線による情報伝達は一般的ではなく、有線での配線が一般的である。その経緯としては、機器自体が1m程度の大きさであり、制御に関する通信は有線でよいと考えられてきたこと、あるいは、金属等の筺体で囲まれ、かつその内部に多数の金属構成品がある中での無線通信は困難であると考えられてきたことなどがある。
【0006】
なお、金属導波管を用いた通信があるが、金属導波管は電波の特性(モード伝搬特性)を利用した情報・電力伝送手段であり、ケーブルよりも低損失に出力電力を扱いたい場合、例えば、大電力の出力などを行いたい場合に用いられる、いわば通常のケーブルと同様の情報伝達用資材である。したがって、金属導波管を用いた情報機器内部での伝送は、情報機器内における無線通信とは異なる範疇のものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Bluetooth」、[online]、2011年3月23日、[2011年3月25日検索]、ウィキペディア、インターネット<URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/Bluetooth>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自由空間、あるいは、家屋内などで行われてきた無線通信をそのまま、金属等の筺体に覆われた情報機器(例えば、ATM機など)に適用したとしても、適切な通信を行うことができないという問題がある。その理由としては、機器内部は複雑な構造であるため、マルチパスが多くなり、符号干渉を生じること、自由空間に比べて空間の伝搬損失が大きくなること等が挙げられる。そのため、情報機器の内部では微弱な電波での通信が行われることになり、外部からの電波干渉を受け易くなる。情報機器は金属等の筐体で覆われているが、現実的には、例えば、タッチパネルや樹脂部分などから外部の電波が内部へ漏れ込むため、機器の内部と外部を通信上隔離できるほど遮蔽されていない場合がある。実測結果として、機器内の無線送受信装置の位置にもよるが、筺体による遮蔽量は、例えば、ISM 2.4GHz帯において20〜30dB程度であった。そのため、前述のように機器内部での微弱な電波での通信を行うと、外部からの干渉電波によって通信品質が劣化することになる。そして、通信品質が劣化した場合には、情報機器が適切に作動しない、あるいは、誤作動するという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、情報機器の筐体内において適切な無線通信を行うことができる無線通信システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明による無線通信システムは、情報機器の筐体内に設けられた1以上の第1の通信装置及び1以上の第2の通信装置を備え、第1の通信装置と第2の通信装置との間で無線通信を行う無線通信システムであって、第1の通信装置は、アンテナを介して通信信号を送信する第1の送信部と、通信信号を第1の送信部によって送信させる第1の制御部と、を備え、第2の通信装置は、通信信号をアンテナを介して受信する第2の受信部と、第2の受信部が受信する通信信号の受信レベルを測定する第2の測定部と、第2の測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にある場合に、第2の受信部が受信する通信信号を利用し、第2の測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にない場合に、第2の受信部が受信する通信信号を利用しない第2の制御部と、を備えた、ものである。
このような構成により、受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にある場合にのみ通信信号を利用するため、筐体の外部からの干渉電波によって誤作動することを防止することができ、筐体内の適切な無線通信を実現することができる。
【0011】
また、本発明による無線通信システムでは、複数の第1の通信装置、及び/または、複数の第2の通信装置を備えており、各第1の通信装置と各第2の通信装置とは、複数の通信チャネルのうち、それぞれ異なる通信チャネルを用いて通信を行ってもよい。
このような構成により、各第1の通信装置と各第2の通信装置との間において、干渉しないで通信を行うことができるようになる。
【0012】
また、本発明による無線通信システムでは、第1の制御部は、情報の授受で用いられる通信信号である実体通信信号の通信が行われない通信チャネルに、ダミーの通信信号であるダミー通信信号を送信するように第1の送信部を制御してもよい。
このような構成により、実体通信信号の通信が行われている場合に、筐体外部において電波が傍受されたとしても、その実体通信信号が何を意味しているのかを分からないように撹乱することができうる。
【0013】
また、本発明による無線通信システムでは、第1の通信装置は、通信信号をアンテナを介して受信する第1の受信部と、第1の受信部が受信する通信信号の受信レベルを測定する第1の測定部と、をさらに備え、第1の制御部は、第1の測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にある場合に、第1の受信部が受信する通信信号を利用し、第1の測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にない場合に、第1の受信部が受信する通信信号を利用しないものであり、第2の通信装置は、アンテナを介して通信信号を送信する第2の送信部をさらに備え、第2の制御部は、通信信号を第2の送信部によって送信させてもよい。
このような構成により、第1の通信装置と、第2の通信装置との間において、双方向の通信を行うことができるようになる。
【0014】
また、本発明による無線通信システムでは、複数の第1の通信装置、及び/または、複数の第2の通信装置を備えており、各第1の通信装置と各第2の通信装置とは、複数の通信チャネルのうち、それぞれ異なる通信チャネルを用いて通信を行い、情報の授受で用いられる通信信号である実体通信信号の通信が行われない通信チャネルについて通信信号の送信を制御する第1の制御部または第2の制御部は、通信チャネルにおいて、ダミーの通信信号であるダミー通信信号が送信されるように制御してもよい。
このような構成により、実体通信信号の通信が行われている場合に、筐体外部において電波が傍受されたとしても、その実体通信信号が何を意味しているのかを分からないように撹乱することができうる。
【0015】
また、本発明による無線通信システムでは、第1の制御部は、伝搬特性取得用の通信信号を第1の送信部に送信させるものであり、第2の制御部は、伝搬特性取得用の通信信号を第2の送信部に送信させるものであり、第1の通信装置は、第1の受信部が受信した伝搬特性取得用の通信信号を用いて伝搬特性を取得する第1の伝搬特性取得部と、第1の伝搬特性取得部が取得した伝搬特性を用いて暗号鍵を取得する第1の暗号鍵取得部と、第1の暗号鍵取得部が取得した暗号鍵を用いて、通信信号を暗号化する暗号化部と、をさらに備え、第1の送信部は、暗号化部によって暗号化された通信信号を送信するものであり、第2の受信部は、暗号化された通信信号を受信するものであり、第2の通信装置は、第2の受信部が受信した伝搬特性取得用の通信信号を用いて伝搬特性を取得する第2の伝搬特性取得部と、第2の伝搬特性取得部が取得した伝搬特性を用いて暗号鍵を取得する第2の暗号鍵取得部と、第2の暗号鍵取得部が取得した暗号鍵を用いて、第2の受信部が受信した暗号化された通信信号を復号する復号部と、をさらに備えてもよい。
このような構成により、第1及び第2の通信装置の間における伝搬特性、すなわち、両装置のみが知り得る情報を用いて暗号鍵を取得し、暗号通信を行うことによって、安全性の高い通信を行うことができるようになる。
【0016】
また、本発明による無線通信システムでは、情報機器の筐体は、金属の筐体であってもよい。
【0017】
また、本発明による情報機器は、前記無線通信システムを備え、第1の通信装置及び第2の通信装置の間の無線通信により、機器内の信号の授受を行うものである。
【0018】
また、本発明による無線通信方法は、情報機器の筐体内に設けられた1以上の第1の通信装置及び1以上の第2の通信装置を用い、第1の通信装置と第2の通信装置との間で行われる無線通信方法であって、第1の通信装置が、アンテナを介して通信信号を送信するステップと、第2の通信装置が、通信信号をアンテナを介して受信するステップと、第2の通信装置が、受信した通信信号の受信レベルを測定するステップと、第2の通信装置が、測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にあるかどうか判断するステップと、第2の通信装置が、受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にある場合に、受信された通信信号を利用し、受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にない場合に、受信された通信信号を利用しないステップと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明による無線通信システム等によれば、情報機器の筐体内において適切な無線通信を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1による無線通信システムの構成を示すブロック図
【図2】同実施の形態による第1の通信装置の構成を示すブロック図
【図3】同実施の形態による第2の通信装置の構成を示すブロック図
【図4】同実施の形態による第1の通信装置の動作を示すフローチャート
【図5】同実施の形態による第1の通信装置の動作を示すフローチャート
【図6】同実施の形態による第2の通信装置の動作を示すフローチャート
【図7】同実施の形態による第2の通信装置の動作を示すフローチャート
【図8】同実施の形態による情報機器の内部構成の一例を示す図
【図9】同実施の形態におけるウィンドウの設定について説明するための図
【図10】同実施の形態におけるウィンドウを用いた受信について説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による無線通信システムについて、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。
【0022】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1による無線通信システムについて、図面を参照しながら説明する。本実施の形態による無線通信システムは、情報機器の筐体内で無線通信を行うものである。
【0023】
図1は、本実施の形態による無線通信システム1の構成を示すブロック図である。本実施の形態による無線通信システム1は、情報機器2の筐体5内に設けられた、第1の通信装置3、第2の通信装置4を備える。第1の通信装置3と、第2の通信装置4とは、その筐体5内において、無線通信を行うものである。図1では、説明の便宜上、無線通信システム1が、1個の第1の通信装置3と、1個の第2の通信装置4とを備えている場合について示しているが、本実施の形態では、無線通信システム1が、1個の第1の通信装置3と、2個以上の第2の通信装置4とを備えている場合について説明する。一般的に言えば、無線通信システム1は、1個以上の第1の通信装置3と、1個以上の第2の通信装置4とを備えているものであればよい。
【0024】
情報機器2は、何らかの情報処理を行うものであれば、どのような機器であってもよい。情報機器2は、ICT(Information and Communication Technology)機器であってもよい。また、情報機器2は、例えば、銀行のATM機や、コピー機、プリンタ、飲料等の自動販売機、交通機関の券売機等であってもよく、あるいは、その他の機器であってもよい。情報機器2の筐体5は、例えば、金属の筐体であってもよく、少なくとも一部が金属の筐体であってもよく、あるいは、金属でない筐体であってもよい。また、情報機器2の筐体5内において、第1の通信装置3と、第2の通信装置4とは、機器内の信号の授受を行うために、無線通信を行うものである。すなわち、従来であれば有線で行われていた信号の授受を、第1の通信装置3及び第2の通信装置4によって無線通信によって行うものである。したがって、情報機器2の大きさにも依存するが、両装置間の距離は、例えば、10cmから1m程度であり、3cm以上程度は離れていることが通常である。なお、両装置間の距離は、それ以上であってもよく、あるいは、それ以下であってもよい。本実施の形態では、第1の通信装置3は、情報機器2の有する制御部6から通信信号を受け取って第2の通信装置4に送信し、第2の通信装置4から受信した通信信号を制御部6に渡すものとする。また、第2の通信装置4は、第1の通信装置3から受信した通信信号を、情報機器2の有する被制御部7に渡し、被制御部7から受け取った通信信号を第1の通信装置3に送信するものとする。制御部6は、被制御部7を制御するものであり、被制御部7は、例えば、制御部6によって制御されるセンサや駆動部(例えば、モータ等)であってもよい。また、本実施の形態では、無線通信システム1によって、制御部6と被制御部7との間の通信が行われる場合について説明するが、そうでなくてもよい。情報機器2におけるその他の構成要素間の通信が、無線通信システム1によって行われてもよいことは言うまでもない。例えば、制御とは関係のないデータの授受のための無線通信が、無線通信システム1によって行われてもよい。
【0025】
図2は、本実施の形態による第1の通信装置3の構成を示すブロック図である。図2において、本実施の形態による第1の通信装置3は、第1の送信部32と、第1の受信部33と、第1の測定部34と、第1の伝搬特性取得部35と、第1の暗号鍵取得部36と、暗号化部37と、第1の制御部38とを備える。
【0026】
第1の送信部32は、第1のアンテナ31を介して通信信号を送信する。なお、第1の送信部32は、送信対象の通信信号が暗号化部37によって暗号化された場合には、その暗号化された通信信号を送信してもよい。第1の送信部32は、第1の制御部38から受け取った送信対象の通信信号に対して、適宜、変調等の送信処理を行い、第1のアンテナ31を介して送信する。なお、本実施の形態では、変調前の信号も、変調後の第1のアンテナ31を介して送信される信号も、通信信号と呼ぶことにする。後述する第2の通信装置4においても同様であるとする。また、第1の送信部32は、複数の通信チャネル(周波数チャネル)のうち、いずれかの通信チャネルを介して通信信号を送信してもよい。その通信チャネルは、例えば、通信先の装置ごとに決まっていてもよい。
【0027】
第1の受信部33は、第1のアンテナ31を介して通信信号を受信する。第1の受信部33は、第1のアンテナ31で受信された通信信号に対して、適宜、復調等の受信処理を行う。なお、本実施の形態では復調前の信号も、復調後の信号も通信信号と呼ぶことにする。後述する第2の通信装置4においても同様であるとする。また、第1の受信部33は、複数の通信チャネルのうち、いずれかの通信チャネルの通信信号を受信してもよい。その通信チャネルは、例えば、通信先の装置ごとに決まっていてもよい。また、第1の受信部33は、伝搬特性取得用の通信信号をも受信するものとする。その通信信号には、その通信信号の送信時の送信レベルが含まれているものとする。
【0028】
なお、図2では、第1の送信部32と、第1の受信部33とが同じ第1のアンテナ31を介して通信信号を送受信する場合について示しているが、そうでなくてもよい。通信信号の送信されるアンテナと、通信信号の受信されるアンテナとが別々であってもよい。その場合であったとしても、後述するように、第1の通信装置3から第2の通信装置4に送信された通信信号によって取得された伝搬特性と、第2の通信装置4から第1の通信装置3に送信された通信信号によって取得された伝搬特性とが同様になる必要がある場合には、送信用のアンテナと、受信用のアンテナとは同様の特性を持ち、また、近い位置に配置されることが好適である。このことは、第2の通信装置4においても同様であるとする。
【0029】
第1の測定部34は、第1の受信部33が受信する通信信号の受信レベルを測定する。受信レベルは、例えば、受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indication/Indicator)であってもよく、その他の受信レベルであってもよい。第1の測定部34は、例えば、第1の受信部33による復調後の信号を用いて受信レベルを測定してもよく、あるいは、第1の受信部33による復調前の信号を用いて受信レベルを測定してもよい。前者の場合には、例えば、第1の受信部33が受信する通信チャネルの受信レベルを測定してもよい。また、後者の場合には、例えば、バンドパスフィルタ等を用いて、第1の受信部33が受信する通信チャネルに応じた信号のみを抽出し、その信号の受信レベルを測定してもよい。なお、受信レベルを測定する方法はすでに公知であり、その詳細な説明を省略する。その測定された受信レベルは、図示しない記録媒体で記憶されてもよい。
【0030】
第1の伝搬特性取得部35は、第1の受信部33が受信した伝搬特性取得用の通信信号を用いて伝搬特性を取得する。その伝搬特性は、例えば、伝搬損失であってもよく、遅延特性プロファイルであってもよい。なお、情報機器2の筐体5内は、前述のように、自由空間に比べて非常に複雑な構成となっており、理想的な遅延特性プロファイルを取得することができないことが多い。したがって、伝搬特性である遅延特性プロファイルを取得するよりは、伝搬特性である伝搬損失を取得する方が好適であると考えられる。したがって、本実施の形態では、伝搬特性が伝搬損失である場合について主に説明する。すなわち、第1の伝搬特性取得部35は、第1の測定部34が測定した、伝搬特性取得用の通信信号の受信レベルと、その伝搬特性取得用の通信信号に含まれていた送信レベルとを用いて、伝搬損失である伝搬特性を取得するものとする。例えば、受信レベルや送信レベルが対数表記である場合には、送信レベルから受信レベルを減算することによって、対数の伝搬特性を取得することができる。また、例えば、受信レベル等が対数表記でない場合には、受信レベルを送信レベルで除算することによって、対数でない伝搬特性を取得することができる。その取得された伝搬特性は、図示しない記録媒体で記憶されてもよい。
【0031】
第1の暗号鍵取得部36は、第1の伝搬特性取得部35が取得した伝搬特性を用いて暗号鍵を取得する。例えば、第1の暗号鍵取得部36は、伝搬特性を引数とする関数を用いて暗号鍵を取得してもよい。また、例えば、第1の暗号鍵取得部36は、伝搬特性と、暗号鍵とを対応付ける情報を用いて、第1の伝搬特性取得部35が取得した伝搬特性に対応する暗号鍵を取得してもよい。なお、第1の通信装置3で取得される暗号鍵と、第2の通信装置4で取得される暗号鍵とは同じものになる必要がある。一方、両装置で取得される伝搬特性は、同様のものとなる可能性は高いが、厳密に一致することは少ないと考えられる。特に伝搬特性が伝搬損失である場合には、厳密に一致することはほぼあり得ないと考えられる。したがって、両装置で取得された伝搬特性に対して、伝搬特性が同じになる程度の丸めの処理(端数処理)を行い、その処理後の伝搬特性を用いて暗号鍵の取得を行うことが好適である。なお、その丸めの処理自体が、暗号鍵の取得の処理に含まれていると考えてもよい。第1の暗号鍵取得部36が取得した暗号鍵は、図示しない記録媒体で記憶されてもよい。
【0032】
暗号化部37は、第1の暗号鍵取得部36が取得した暗号鍵を用いて、通信信号を暗号化する。暗号化部37による暗号化は、例えば、共通鍵暗号方式による暗号化であってもよい。暗号化部37は、送信対象のすべての通信信号に対して暗号化を行ってもよく、あるいは、そうでなくてもよい。本実施の形態では、後者の場合について説明する。すなわち、暗号化部37は、例えば、暗号通信を行うことが決まっている送信先に送信する通信信号については暗号化を行い、そうでない送信先に送信する通信信号については暗号化を行わなくてもよく、あるいは、アスキー文字等を含む通信信号のように、データ量の多い通信信号については暗号化を行い、1ビットから数ビット程度のデータ量の少ない通信信号については暗号化を行わなくてもよい。
【0033】
第1の制御部38は、第1の測定部34が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にある場合に、第1の受信部33が受信する通信信号を利用し、第1の測定部34が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にない場合に、第1の受信部33が受信する通信信号を利用しない。ウィンドウは、上限のしきい値と下限のしきい値とを有するものである。したがって、第1の制御部38は、第1の受信部33が受信する通信信号の受信レベルが、あらかじめ決められた下限のしきい値から上限のしきい値までの間にある場合にのみ、その通信信号を利用し、そうでない場合には、その通信信号を利用しないことになる。その結果、例えば、情報機器2の外部から干渉電波が入ってきたり、情報機器2の内部の各機構等がノイズの電波を発生したりしたとしても、そのノイズの電波を間違って受信する可能性を低減させることができる。従来、自由空間においてキャリアセンスのために通信信号を下限のしきい値を用いて検出することは行われていたが、ここでは、上限のしきい値をも用いて目的とする通信信号を検出することが特徴である。このようにすることで、例えば、情報機器2内で高度な変復調方式を用いない、信号の検出レベルを用いた無線通信や、オンオフ変調(On Off Keying)による無線通信等を行う場合においても、筐体5内部の無線通信信号と、筐体5外部の無線通信信号とを区別することができる。なお、そのウィンドウの情報は、図示しない記録媒体で記憶されており、第1の制御部38は、その情報を読み出して用いてもよい。また、そのウィンドウの情報は、例えば、情報機器2を運用する段階において、設定されてものであってもよい。情報機器2の設置場所等に応じて、ウィンドウの位置が変化する可能性があるからである。また、通信信号を利用するとは、その通信信号を後段の構成要素、例えば、制御部6に渡すことであってもよく、あるいは、その他の通信信号の利用の処理であってもよい。また、通信信号を利用しないとは、その通信信号を破棄することであってもよく、その通信信号を後段の構成要素に渡さないことであってもよく、あるいは、その他の通信信号を利用しない処理であってもよい。
また、第1の制御部38は、通信信号を第1の送信部32によって送信させる処理も行う。その際に、前述のように、第1の制御部38は、暗号化の要否の判断を行い、暗号化が必要な場合には、暗号化部37による暗号化を行い、暗号化が不要な場合には、暗号化部37による暗号化を行わないように制御してもよい。
【0034】
また、第1の制御部38は、情報の授受で用いられる通信信号である実体通信信号の通信が行われない通信チャネルに、ダミーの通信信号であるダミー通信信号を送信するように第1の送信部32を制御してもよい。例えば、第1の送信部32が、複数の通信チャネルを用いて実体通信信号の送信を行うように設定されている場合であって、そのうちの1以上の通信チャネルで実体通信信号の送信を行わない場合には、第1の制御部38は、実体通信信号の送信を行わない通信チャネルにおいてダミー通信信号を送信するように第1の送信部32を制御してもよい。ダミー通信信号は、ランダムに生成された通信信号であってもよく、あるいは、あらかじめ決められている通信信号であってもよい。このダミー通信信号は、情報機器2の外部で電波が傍受された場合であっても、実体通信信号が何を意味しているのかを理解できないように撹乱する目的で送信されるものである。例えば、筐体5の外部から、情報機器2の動きと、外部に漏洩した電波とを観察することによって、ある電波によってどのような動きが行われているのかを解析されうることもある。一方、ダミー通信信号も送信されることにより、情報機器2の動きと、外部に漏洩した電波との紐付けを容易に行うことができないようにすることができ、安全性を高めることができる。したがって、実体通信信号と似ている信号であることが好適である。例えば、ダミー通信信号は、実体通信信号と同ビット数の信号であってもよい。また、ダミー通信信号は、上記目的で送信されるため、実体通信信号と同じタイミングで送信されることが好適である。例えば、第1の送信部32が複数の通信チャネルで送信を行う場合であって、いずれかの通信チャネルでのみ実体通信信号を送信する場合には、第1の制御部38は、他の通信チャネルにおいて、その実体通信信号と同じタイミングでダミー通信信号が送信されるように第1の送信部32を制御してもよい。また、例えば、他の装置がある通信チャネルで実体通信信号を定期的(例えば、10秒おきなど)に送信する場合には、第1の制御部38は、その実体通信信号の送信タイミングに同期して、ダミー通信信号が送信されるように第1の送信部32を制御してもよい。なお、ダミー通信信号は、実体通信信号を妨害しないように送信されることが好適であるため、実体通信信号の通信が行われている通信チャネルにおいては送信されないことが好適である。また、ダミー通信信号は、その通信信号が受信側でダミー通信信号と分かるように送信してもよく、あるいは、そうでなくてもよい。前者の場合には、例えば、ダミー通信信号がダミーであることを示す情報を含んでいてもよく、あるいは、ダミー通信信号が実体通信信号と異なる送信レベルで送信されてもよい。但し、そのような場合であっても、筐体5の外部で漏洩電波を傍受している者に、通信信号がダミー通信信号であるかどうかが分からないようになっている必要がある。
また、第1の制御部38は、伝搬特性取得用の通信信号を第1の送信部32に送信させる。伝搬特性取得用の通信信号は、前述のように、送信レベルを含む通信信号のことである。なお、伝搬特性取得用の通信信号は、暗号化された実体通信信号の送信前になされることが好適である。暗号化された実体通信信号の送信までに、暗号鍵の取得を行うためである。
【0035】
図3は、本実施の形態による第2の通信装置4の構成を示すブロック図である。図3において、本実施の形態による第2の通信装置4は、第2の送信部42と、第2の受信部43と、第2の測定部44と、第2の伝搬特性取得部45と、第2の暗号鍵取得部46と、復号部47と、第2の制御部48とを備える。
【0036】
第2の送信部42は、第2のアンテナ41を介して通信信号を送信する。この第2の送信部42は、第1の送信部32と同様のものであり、その説明を省略する。なお、本実施の形態では、第2の送信部42は、暗号化された通信信号の送信は行わないものとする。
【0037】
第2の受信部43は、第2のアンテナ41を介して通信信号を受信する。この第2の受信部43は、第1の受信部33と同様のものであり、その説明を省略する。なお、本実施の形態では、第2の受信部43は、暗号化された通信信号をも受信するものとする。
【0038】
第2の測定部44は、第2の受信部43が受信する通信信号の受信レベルを測定する。この第2の測定部44は、第1の測定部34と同様のものであり、その説明を省略する。
【0039】
第2の伝搬特性取得部45は、第2の受信部43が受信した伝搬特性取得用の通信信号を用いて伝搬特性を取得する。この第2の伝搬特性取得部45は、第1の伝搬特性取得部35と同様のものであり、その説明を省略する。なお、第2の伝搬特性取得部45が取得する伝搬特性の種類は、第1の伝搬特性取得部35が取得する伝搬特性の種類と同じであるとする。例えば、両者は、伝搬損失であってもよく、遅延特性プロファイルであってもよい。また、第2の伝搬特性取得部45で取得される伝搬特性は、第1の伝搬特性取得部35で取得される伝搬特性と誤差の範囲内で一致することが好適である。したがって、例えば、同時期に通信された伝搬特性取得用の通信信号を用いて、第1の伝搬特性取得部35での伝搬特性の取得と、第2の伝搬特性取得部45での伝搬特性の取得とが行われることが好適である。
【0040】
第2の暗号鍵取得部46は、第2の伝搬特性取得部45が取得した伝搬特性を用いて暗号鍵を取得する。この第2の暗号鍵取得部46は、第1の暗号鍵取得部36と同様のものであり、その説明を省略する。なお、第2の暗号鍵取得部46が暗号鍵を取得する方法と、第1の暗号鍵取得部36が暗号鍵を取得する方法とは同じであるとする。例えば、関数を用いた暗号鍵の取得が行われる場合には、両者で同じ関数が用いられるものとする。前述のように、第1の伝搬特性取得部35が取得した伝搬特性と、第2の伝搬特性取得部45が取得した伝搬特性とが同じである場合には、第1の暗号鍵取得部36が取得する暗号鍵と、第2の暗号鍵取得部46が取得する暗号鍵とは同じになるが、前述のように、両伝搬特性が誤差程度異なっていたとしても、両暗号鍵が同じになるように、暗号鍵の取得時に、適宜、丸め処理が行われることが好適である。
【0041】
復号部47は、第2の暗号鍵取得部46が取得した暗号鍵を用いて、第2の受信部43が受信した暗号化された通信信号を復号する。復号部47による復号は、例えば、共通鍵暗号方式による復号であってもよい。復号部47は、すべての通信信号が暗号化されている場合には、すべての通信信号に対して復号を行い、一部の通信信号が暗号化されている場合には、暗号化されている通信信号についてのみ復号を行ってもよい。なお、通信信号が暗号化されているかどうかは、例えば、通信信号のヘッダ等に含まれる情報や、通信信号の形式によって判断されてもよく、その他の方法で判断されてもよい。
【0042】
第2の制御部48は、第2の測定部44が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にある場合に、第2の受信部43が受信する通信信号を利用し、第2の測定部44が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にない場合に、第2の受信部43が受信する通信信号を利用しない。この処理は、第1の制御部38による処理と同様であり、その説明を省略する。なお、通信信号を利用するとは、その通信信号を後段の構成要素、例えば、被制御部7に渡すことであってもよく、あるいは、その他の通信信号の利用の処理であってもよい。
また、第2の制御部48は、通信信号を第2の送信部42によって送信させる処理も行う。なお、本実施の形態では、第2の通信装置4では暗号化を行わないため、第2の制御部48は、暗号化に関する処理は行わないものとする。
【0043】
また、第2の制御部48は、情報の授受で用いられる通信信号である実体通信信号の通信が行われない通信チャネルに、ダミーの通信信号であるダミー通信信号を送信するように第2の送信部42を制御してもよい。この処理は、第1の制御部38による処理と同様であり、その説明を省略する。なお、ある通信チャネルで実体通信信号の通信が行われている場合であって、他の通信チャネルでダミー通信信号の通信を行う場合には、第1の通信装置3と第2の通信装置4とのうち、一方の装置からダミー通信信号を送信すればよいことになる。すなわち、実体通信信号の通信が行われない通信チャネルについて通信信号の送信を制御する第1の制御部38または第2の制御部48が、その通信チャネルにおいてダミー通信信号が送信されるように制御してもよい。そして、そのどちらの装置がダミー通信信号を送信するのかは、あらかじめ設定されていてもよい。したがって、第1の制御部38及び第2の制御部48は、実体通信信号の通信が行われない通信チャネルであっても、ダミー通信信号が送信されるように制御しないことがあり得る。なお、上述の場合であっても、一の通信チャネルにおいて、両装置からダミー通信信号を送信してもよい。
また、第2の制御部48は、伝搬特性取得用の通信信号を第2の送信部42に送信させる。伝搬特性取得用の通信信号は、前述のように、送信レベルを含む通信信号のことである。なお、伝搬特性取得用の通信信号は、暗号化された実体通信信号の送信前になされることが好適である。暗号化された実体通信信号の送信までに、暗号鍵の取得を行うためである。
【0044】
なお、無線通信システム1が、複数の第1の通信装置3、及び/または、複数の第2の通信装置4を備えている場合に、各第1の通信装置3と、各第2の通信装置4とは、複数の通信チャネルのうち、それぞれ異なる通信チャネルを用いて通信を行ってもよい。すなわち、通信チャネルは、第1の通信装置3と、第2の通信装置4との組み合わせごとに異なっていてもよい。なお、どの装置間でどの通信チャネルを用いるのかについては、あらかじめ設定が行われていてもよく、あるいは、通信を開始する時点においてセンシングを行い、通信チャネルの割り当てを行うようにしてもよい。このように、第1の通信装置3と、第2の通信装置4との組み合わせごとに異なる通信チャネルが用いられることによって、ある第1の通信装置3と第2の通信装置4との組み合わせにおいて通信が行われている場合であっても、他の第1の通信装置3と第2の通信装置4との組み合わせにおいて通信を行うことができるようになる。
なお、ウィンドウは、送信元の装置ごとに異なり、また、通信チャネルごとに異なるものである。したがって、送信元の装置と通信チャネルとのすべての組み合わせについて、ウィンドウが設定されていてもよく、あるいは、ある装置との通信を開始する前に、その装置との通信で用いる通信チャネルのウィンドウが設定されてもよい。このように、通信で用いるウィンドウが設定されるタイミングは問わない。また、情報機器2がサービスを行っていない時にチャネルを変える等の制御をランダムに行ってもよい。
【0045】
また、情報機器2内の被制御部7がセンサである場合に、そのセンサは従来、有線通信により状態信号を送信していることが多い。例えば、そのセンサは、長時間ハイレベルである状態信号を送信したり、あるいは、長時間ローレベルである状態信号を送信したりしている。そのような状態信号をデジタル無線通信で伝送する場合には、適切な時間間隔でサンプリングを行い、状態信号を量子化することになる。すなわち、有線通信で状態信号を通信する場合には、連続して状態信号が通信されることになるが、無線通信で状態信号を通信する場合には、サンプリングされた各状態信号が通信されることになる。
【0046】
また、情報機器2の筐体5内における無線通信で使用される周波数帯域は、例えば、日本国内においては無線免許不要で使用できるISM 2.4GHz帯などであってもよく、その他の帯域であってもよい。また、情報機器2が銀行のATM機等である場合であって、そのATM機等のユーザが、PDA機器等によりBluetooth(登録商標)の通信を行いながらATM機等を使用するような場合には、そのPDA機器等が外部干渉機器となり、そのBluetooth(登録商標)の通信が、情報機器2の外部からの干渉電波となりうる。そして、その外部干渉機器からの干渉電波は、第1の通信装置3や第2の通信装置4に到達し、それぞれで受信される可能性もあるが、ウィンドウを用いた無線通信を行うことによって、その干渉電波を誤って受信する可能性は著しく低くなりうる。
【0047】
次に、第1の通信装置3の動作について図4のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS101)伝搬特性の取得や暗号鍵の取得、ウィンドウの設定等が行われる。なお、この処理の詳細については、図5のフローチャートを用いて後述する。
【0048】
(ステップS102)第1の受信部33は、通信信号を受信したかどうか判断する。そして、受信した場合には、ステップS103に進み、そうでない場合には、ステップS106に進む。
【0049】
(ステップS103)第1の測定部34は、受信レベルを測定する。
【0050】
(ステップS104)第1の制御部38は、第1の測定部34が測定した受信レベルが、ウィンドウ内であるかどうか判断する。そして、ウィンドウ内である場合には、ステップS105に進み、そうでない場合には、ステップS102に戻る。なお、ステップS102に戻る際には、第1の受信部33が受信した通信信号を廃棄する処理を行ってもよい。
【0051】
(ステップS105)第1の制御部38は、受信された通信信号を利用する。その利用は、例えば、通信信号を制御部6に渡すことであってもよい。そして、ステップS102に戻る。
【0052】
(ステップS106)第1の制御部38は、送信を行うタイミングであるかどうか判断する。そして、送信を行うタイミングである場合には、ステップS107に進み、そうでない場合には、ステップS102に戻る。なお、第1の制御部38は、例えば、定期的に送信を行うタイミングであると判断してもよく、所定のイベントの発生に応じて送信を行うタイミングであると判断してもよく、あるいは、その他のタイミングで送信を行うタイミングであると判断してもよい。
【0053】
(ステップS107)第1の制御部38は、送信対象の実体通信信号が存在するかどうか判断する。そして、実体通信信号が存在する場合には、ステップS108に進み、そうでない場合には、ステップS111に進む。第1の制御部38は、例えば、送信対象の実体通信信号が一時的に記憶されるバッファメモリに実体通信信号が記憶されている場合に、実体通信信号が存在すると判断してもよい。
【0054】
(ステップS108)第1の制御部38は、暗号化を行うかどうか判断する。そして、暗号化を行う場合には、ステップS109に進み、そうでない場合には、ステップS110に進む。なお、第1の制御部38は、例えば、暗号通信を行うことが決まっている送信先に送信する場合に、暗号化を行うと判断してもよい。
【0055】
(ステップS109)暗号化部37は、送信対象の実体通信信号を暗号化する。
【0056】
(ステップS110)第1の送信部32は、実体通信信号を第1のアンテナ31を介して送信する。なお、ステップS109での暗号化が行われている場合には、その暗号化された実体通信信号を送信するものとする。そして、ステップS102に戻る。
【0057】
(ステップS111)第1の送信部32は、ダミー通信信号を第1のアンテナ31を介して送信する。そのダミー通信信号は、あらかじめ図示しない記録媒体で記憶されていたものであってもよく、あるいは、第1の制御部38が生成したものであってもよい。そして、ステップS102に戻る。なお、ダミー通信信号の送信と並行して他の通信チャネルで送信される実体通信信号が暗号化されている場合には、それに応じて、ダミー通信信号も暗号化してもよい。
【0058】
なお、図4のフローチャートにおいて、電源オフや処理終了の割り込みにより処理は終了する。また、図4のフローチャートにおいて、第1の送信部32が複数の通信チャネルを用いた送信を行う場合には、その通信チャネル数だけ、ステップS107〜S111の処理を繰り返してもよい。
【0059】
図5は、図4のフローチャートにおける設定の処理(ステップS101)の詳細を示すフローチャートである。本実施の形態では、第1の通信装置3がまず伝搬特性取得用の通信信号を送信し、それに応じて、第2の通信装置4が伝搬特性取得用の通信信号を送信する場合について説明する。
【0060】
(ステップS201)第1の制御部38は、送信レベルを含む伝搬特性取得用の通信信号を構成し、その通信信号をその送信レベルで送信するように第1の送信部32を制御する。その結果、第1の送信部32は、その伝搬特性取得用の通信信号を、その送信レベルで送信する。
【0061】
(ステップS202)第1の受信部33は、伝搬特性取得用の通信信号の送信に応じて、第2の通信装置4から送信される伝搬特性取得用の通信信号を受信したかどうか判断する。そして、受信した場合には、ステップS203に進み、そうでない場合には、受信するまでステップS202の処理を繰り返す。
【0062】
(ステップS203)第1の測定部34は、第1の受信部33が受信した伝搬特性取得用の通信信号の受信レベルを測定する。
【0063】
(ステップS204)第1の伝搬特性取得部35は、第1の測定部34が取得した受信レベルと、第1の受信部33が受信した伝搬特性取得用の通信信号の示す送信レベルとを用いて、伝搬損失である伝搬特性を取得する。
【0064】
(ステップS205)第1の暗号鍵取得部36は、第1の伝搬特性取得部35が取得した伝搬特性を用いて暗号鍵を取得する。
【0065】
(ステップS206)第1の制御部38は、第1の測定部34が取得した受信レベルを用いて、ウィンドウを設定する。そのウィンドウは、第1の測定部34が測定した受信レベルよりもあらかじめ決められたレベルだけ高い上限のしきい値と、その受信レベルよりもあらかじめ決められたレベルだけ低い下限のしきい値とを有するものであってもよい。そして、図4のフローチャートに戻る。
【0066】
なお、図5のフローチャートにおいて、第1の受信部33が複数の通信チャネルを用いた受信を行う場合には、その通信チャネル数だけ、図5のフローチャートの処理が行われてもよい。
【0067】
次に、第2の通信装置4の動作について図6のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS301)伝搬特性の取得や暗号鍵の取得、ウィンドウの設定等が行われる。なお、この処理の詳細については、図7のフローチャートを用いて後述する。
【0068】
(ステップS302)第2の受信部43は、通信信号を受信したかどうか判断する。そして、受信した場合には、ステップS303に進み、そうでない場合には、ステップS308に進む。
【0069】
(ステップS303)第2の測定部44は、受信レベルを測定する。
【0070】
(ステップS304)第2の制御部48は、第2の測定部44が測定した受信レベルが、ウィンドウ内であるかどうか判断する。そして、ウィンドウ内である場合には、ステップS305に進み、そうでない場合には、ステップS302に戻る。なお、ステップS302に戻る際には、第2の受信部43が受信した通信信号を破棄する処理を行ってもよい。
【0071】
(ステップS305)第2の制御部48は、受信された通信信号が暗号化されているかどうか判断する。そして、暗号化されている場合には、ステップS306に進み、そうでない場合には、ステップS307に進む。なお、暗号化されているかどうかは、通信信号の形式等によって判断されてもよい。
【0072】
(ステップS306)復号部47は、暗号化されている通信信号を復号する。
【0073】
(ステップS307)第1の制御部38は、受信された通信信号を利用する。その利用は、例えば、通信信号を被制御部7に渡すことであってもよい。そして、ステップS302に戻る。
【0074】
(ステップS308)第2の制御部48は、送信を行うタイミングであるかどうか判断する。そして、送信を行うタイミングである場合には、ステップS309に進み、そうでない場合には、ステップS302に戻る。なお、第2の制御部48は、例えば、定期的に送信を行うタイミングであると判断してもよく、所定のイベントの発生に応じて送信を行うタイミングであると判断してもよく、あるいは、その他のタイミングで送信を行うタイミングであると判断してもよい。
【0075】
(ステップS309)第2の制御部48は、送信対象の実体通信信号が存在するかどうか判断する。そして、実体通信信号が存在する場合には、ステップS310に進み、そうでない場合には、ステップS311に進む。第2の制御部48は、例えば、送信対象の実体通信信号が一時的に記憶されるバッファメモリに実体通信信号が記憶されている場合に、実体通信信号が存在すると判断してもよい。
【0076】
(ステップS310)第2の送信部42は、実体通信信号を第2のアンテナ41を介して送信する。そして、ステップS302に戻る。
【0077】
(ステップS311)第2の送信部42は、ダミー通信信号を第2のアンテナ41を介して送信する。そのダミー通信信号は、あらかじめ図示しない記録媒体で記憶されていたものであってもよく、あるいは、第2の制御部48が生成したものであってもよい。そして、ステップS302に戻る。
【0078】
なお、図6のフローチャートにおいて、電源オフや処理終了の割り込みにより処理は終了する。また、図6のフローチャートにおいて、第2の送信部42が複数の通信チャネルを用いた送信を行う場合には、その通信チャネル数だけ、ステップS309〜S311の処理を繰り返してもよい。
【0079】
図7は、図6のフローチャートにおける設定の処理(ステップS301)の詳細を示すフローチャートである。
(ステップS401)第2の受信部43は、伝搬特性取得用の通信信号を受信したかどうか判断する。そして、受信した場合には、ステップS402に進み、そうでない場合には、受信するまでステップS401の処理を繰り返す。
【0080】
(ステップS402)第2の制御部48は、送信レベルを含む伝搬特性取得用の通信信号を構成し、その通信信号をその送信レベルで送信するように第2の送信部42を制御する。その結果、第2の送信部42は、その伝搬特性取得用の通信信号を、その送信レベルで送信する。このように、伝搬特性取得用の通信信号を受信した直後に伝搬特性取得用の通信信号を送信することによって、筐体5の外部からの干渉電波に時間変化があったとしても、第1の通信装置3及び第2の通信装置4で取得する伝搬特性の差を小さくすることができうる。
【0081】
(ステップS403)第2の測定部44は、第2の受信部43が受信した伝搬特性取得用の通信信号の受信レベルを測定する。
【0082】
(ステップS404)第2の伝搬特性取得部45は、第2の測定部44が取得した受信レベルと、第2の受信部43が受信した伝搬特性取得用の通信信号の示す送信レベルとを用いて、伝搬損失である伝搬特性を取得する。
【0083】
(ステップS405)第2の暗号鍵取得部46は、第2の伝搬特性取得部45が取得した伝搬特性を用いて暗号鍵を取得する。
【0084】
(ステップS406)第2の制御部48は、第2の測定部44が測定した受信レベルを用いて、ウィンドウを設定する。そのウィンドウは、第2の測定部44が測定した受信レベルよりもあらかじめ決められたレベルだけ高い上限のしきい値と、その受信レベルよりもあらかじめ決められたレベルだけ低い下限のしきい値とを有するものであってもよい。そして、図6のフローチャートに戻る。
【0085】
なお、図7のフローチャートにおいて、第2の受信部43が複数の通信チャネルを用いた受信を行う場合には、その通信チャネル数だけ、図7のフローチャートの処理が行われてもよい。
【0086】
なお、ステップS101,S301の設定の処理が行われるタイミングは問わない。例えば、情報機器2の電源が入れられた時にそれらの設定の処理が行われてもよく、あるいは、情報機器2内の無線通信のリセット時にそれらの設定の処理が行われてもよい。また、無線通信のリセットは、例えば、情報機器2の移動のように、筐体5の外部からの干渉電波が変化しうる状況が発生した場合に行われてもよい。
【0087】
また、図5,図7のフローチャートで示される設定の処理では、第1の通信装置3が設定の処理を開始する場合について説明したが、そうでなくてもよい。第2の通信装置4が設定の処理を開始してもよい。また、その設定の処理において、ウィンドウの設定が終了した後に、その設定の終了を通知する通信信号を通信先に送信するようにしてもよい。また、その設定の処理において、伝搬特性取得用の通信信号を用いてウィンドウの設定も行われる場合について説明したが、そうでなくてもよい。伝搬特性の取得と、ウィンドウの設定とは、別の通信信号を用いて行われてもよい。そして、ウィンドウの設定の際には、両装置間で適切な通信が行われる範囲において送信レベルを低くし、その送信レベルに応じたウィンドウの設定が行われてもよい。運用時の送信における消費電力を低減させるためである。なお、その場合には、ウィンドウの設定が行われた送信レベルによって、実体通信信号の送信が行われることになる。
【0088】
次に、本実施の形態による無線通信システム1の動作について、具体例を用いて説明する。この具体例では、図8で示されるように、情報機器2の筐体5内に設けられた、1個の第1の通信装置3と、5個の第2の通信装置4a〜4eとの間で、通信チャネルCH1〜CH5を用いた無線通信が行われる場合について説明する。なお、第2の通信装置4a〜4eはそれぞれ、被制御部7a〜7eに接続されており、受信した通信信号を被制御部7a〜7eに渡し、被制御部7a〜7eから受け取った信号を第1の通信装置3に送信するものである。また、第2の通信装置4a〜4eの構成及び動作はそれぞれ、上述の第2の通信装置4と同様のものであるとする。
【0089】
まず、情報機器2の電源が入れられると、第1の通信装置3と、第2の通信装置4a〜4eとの間で設定の処理が行われる(ステップS101,S301)。具体的には、まず、第1の制御部38が、送信レベルを含む伝搬特性取得用の通信信号を構成し、その通信信号を、その送信レベルで、通信チャネルCH1で送信するように、第1の送信部32を制御する。そして、第1の送信部32は、その伝搬特性取得用の通信信号を、設定された送信レベルで、また、通信チャネルCH1で送信する(ステップS201)。第2の通信装置4aの第2の受信部43は、第1の通信装置3から通信チャネルCH1で送信された伝搬特性取得用の通信信号を受信し、その受信した通信信号を第2の制御部48と、第2の伝搬特性取得部45とに渡す(ステップS401)。すると、第2の制御部48は、送信レベルを含む伝搬特性取得用の通信信号を構成し、その通信信号を、その送信レベルで、通信チャネルCH1で送信するように、第2の送信部42を制御する。そして、第2の送信部42は、その伝搬特性取得用の通信信号を、設定された送信レベルで、また、通信チャネルCH1で送信する(ステップS402)。また、第2の測定部44は、第2の受信部43が受信した伝搬特性取得用の通信信号の受信レベルを測定し、その測定した受信レベルを第2の制御部48と、第2の伝搬特性取得部45とに渡す(ステップS403)。第2の伝搬特性取得部45は、第2の受信部43から受け取った通信信号の示す送信レベルと、第2の測定部44から受け取った受信レベルとを用いて、伝搬損失である伝搬特性を取得し、第2の暗号鍵取得部46に渡す(ステップS404)。第2の暗号鍵取得部46は、受け取った伝搬特性を用いて暗号鍵を生成し、その生成した暗号鍵を復号部47に渡す(ステップS405)。復号部47は、受け取った暗号鍵を、図示しない記録媒体に蓄積する。また、第2の制御部48は、第2の測定部44から受け取った受信レベルを用いて、ウィンドウの設定を行う。すなわち、第2の制御部48は、受信レベルに所定のレベルを加算した上限のしきい値と、受信レベルから所定のレベルを減算した下限のしきい値とを有するウィンドウを、通信チャネルCH1に対応付けて図示しない記録媒体に蓄積する(ステップS406)。例えば、第2の受信部43が受信した、通信チャネルCH1の伝搬特性取得用の通信信号が、図9(a)で示されるものであったとする。すると、その受信レベルが第2の測定部44で測定され、第2の制御部48に渡されるため、図9(a)で示されるように、第2の制御部48は、上下のしきい値であるウィンドウを設定する。
【0090】
第1の通信装置3の第1の受信部33は、第2の通信装置4aから通信チャネルCH1で送信された伝搬特性取得用の通信信号を受信する(ステップS202)。第1の測定部34は、第1の受信部33が受信した伝搬特性取得用の通信信号の受信レベルを測定し、その測定した受信レベルを第1の制御部38と、第1の伝搬特性取得部35とに渡す(ステップS203)。第1の伝搬特性取得部35は、第1の受信部33から受け取った通信信号の示す送信レベルと、第1の測定部34から受け取った受信レベルとを用いて、伝搬損失である伝搬特性を取得し、第1の暗号鍵取得部36に渡す(ステップS204)。第1の暗号鍵取得部36は、受け取った伝搬特性を用いて暗号鍵を生成し、その生成した暗号鍵を暗号化部37に渡す(ステップS205)。暗号化部37は、受け取った暗号鍵を、図示しない記録媒体に蓄積する。また、第1の制御部38は、第1の測定部34から受け取った受信レベルを用いて、ウィンドウの設定を行い、通信チャネルCH1に対応付けて図示しない記録媒体に蓄積する(ステップS206)。
【0091】
なお、第1の通信装置3と、第2の通信装置4b〜4eとの間でも、同様の処理が行われる(ステップS201〜S206、S401〜S406)。その結果、図9(c)で示されるように、第1の制御部38では、各通信チャネルCH1〜CH5について、ウィンドウが設定されることになる。
【0092】
また、その後の通信信号の送信において、第1の送信部32及び第2の送信部42は、伝搬特性取得用の通信信号を送信したときと同じ送信レベルで実体通信信号を送信するものとする。一方、この具体例では、ダミー通信信号の送信の際は、第1の送信部32及び第2の送信部42は、伝搬特性取得用の通信信号を送信したときと異なる送信レベルで送信するものとする。また、情報機器2の電源が入れられた時点を基点として、第2の通信装置4a〜4eのぞれぞれは、T秒おき(例えば、10秒おき等)に、通信を行うものとする。一方、第1の通信装置3からの送信は、不定期に行われるものとする。
【0093】
ここで、ウィンドウを用いた受信の処理について簡単に説明する。例えば、第2の通信装置4cが、通信チャネルCH3の通信信号を受信したとする(ステップS302)。そして、その際に測定された受信レベルが下限のしきい値より大きく、上限のしきい値より小さい場合、すなわち、図10(a)で示されるようにウィンドウ内に入っていた場合には、その通信信号は、利用されることになる(ステップS303,S304,S307)。なお、その通信信号が暗号化されている場合には、暗号化が解除されて用いられることになる(ステップS305,S306)。一方、測定された受信レベルが下限のしきい値より小さい場合、すなわち、図10(b)で示されるようにウィンドウ外である場合、または、測定された受信レベルが上限のしきい値より大きい場合、すなわち、図10(c)で示されるようにウィンドウ外である場合には、その通信信号は、利用されないことになる(ステップS303,S304)。それらの通信信号は、情報機器2の筐体5の外部からの干渉電波や、情報機器2内で発生したノイズの電波であると考えられるからである。このように、設定されたウィンドウに応じた通信信号の選択が行われることは、第1の通信装置3が受信を行う場合にも同様である(ステップS102〜S105)。
【0094】
その後、制御部6が、センサである被制御部7cで測定された値を取得するため、被制御部7cへの測定値の要求を第1の通信装置3に渡したとする。なお、制御部6は、各被制御部7a〜7eと、各通信チャネルCH1〜CH5とを対応付ける情報を図示しない記録媒体で保持しており、その情報を用いて、被制御部7cに対応する通信チャネルCH3を特定する。そして、被制御部7cへの測定値の要求を、通信チャネルCH3に対応する実体通信信号のバッファメモリに蓄積する。すると、第1の通信装置3の第1の制御部38は、送信を行うタイミングであると判断し(ステップS106)、通信チャネルCH3について、測定値の要求である実体通信信号が存在すると判断する(ステップS107)。なお、通信チャネルCH3での通信では、暗号通信を行わないことになっているものとする。すると、この場合には、暗号化が必要ないことになり(ステップS108)、第1の送信部32は、その実体通信信号を、通信チャネルCH3で送信する(ステップS110)。なお、その実体通信信号の送信と同時に、他のチャネルCH1,2,4,5については、ダミー通信信号が送信されてもよい(ステップS111)。前述のように、ダミー通信信号は、伝搬特性取得用の通信信号と異なる送信レベルで送信されるため、第2の通信装置4a,4b,4d,4eで受信されても利用されないことになる(ステップS302〜S304)。一方、通信チャネルCH3で送信された実体通信信号は、第2の通信装置4cの第2の受信部43で受信され(ステップS302)、受信レベルが測定され(ステップS303)、受信レベルがウィンドウ内であると判断されて(ステップS304)、被制御部7cに渡される(ステップS305,S307)。被制御部7cは、その実体通信信号を受け取ると、測定値を取得し、その測定値である実体通信信号を第2の制御部48に渡す。すると、次の送信タイミングとなった際に(ステップS308)、第2の通信装置4cの第2の制御部48は、実体通信信号があると判断して(ステップS309)、その実体通信信号を第2の送信部42に通信チャネルCH3で送信させる(ステップS310)。なお、第2の通信装置4c以外の第2の通信装置4a,4b,4d,4eの第2の制御部48は、その送信タイミングで実体通信信号がないと判断し(ステップS309)、ダミー通信信号を第2の送信部42に各通信チャネルCH1,2,4,5で送信させたとする(ステップS311)。その結果、通信チャネルCH3の実体通信信号が、それ以外の通信チャネルのダミー通信信号と一緒に送信されることになり、たとえ情報機器2の外部で電波を傍受していたとしても、どの電波が有意なものであるのかが撹乱されることになり、機器内の動作アルゴリズムの解析を阻害することができうる。なお、第1の通信装置3では、通信チャネルCH3で送信された実体通信信号のみを制御部6に渡すことになる(ステップS102〜S105)。
【0095】
以上のように、本実施の形態による無線通信システム1によれば、情報機器2の内部において、有線通信に代えて無線通信を行うことができるようになる。そのため、情報機器2の内部で使用されている線材を削減することができる。例えば、1個のATM機器に使用されている線材の長さは数kmにも及び、また世界では現在、200万台を超えるATM機器が使用されている。これらの情報機器2の線材を無線化することで、莫大な量の線材を削減することができる。また、有線通信の場合には、情報機器2の内部において、配線が機構構成と複雑に関係するため、設計作業時にも、また組み立て作業時にも煩雑な作業が必要となる。さらに、配線が多いことは、運用時にも筺体開閉時の線噛み等のメンテナンス性の低下を招く要因となっている。一方、無線化により、配線に関する設計作業や組み立て作業を削減することができ、メンテナンス性も改善できる。そのため、設計面や製造面、運用面において、人的コストを削減することができる。
【0096】
また、第1の通信装置3と第2の通信装置4との間の無線通信は、移動通信ではなく固定通信であるため、通信先の送信した通信信号の受信レベルは一定となる。したがって、その受信レベルに応じたウィンドウを設定して、そのウィンドウ内の受信レベルである通信信号のみを利用することにより、目的とする通信信号のみを利用することができ、筐体外部からの電波による干渉や妨害などを排除することができ、誤作動を防止することができうる。
【0097】
なお、情報機器2の筐体5内の無線通信において、高速な伝送レートを用いることができれば、通信信号に冗長性を持たせることができ、高度な変調・干渉抑圧機能を用いた品質の高い無線通信を実現することができる。しかしながら、筺体5内は、マルチパスの多く発生する環境であり、符号間干渉を生じるため、高速な伝送レートの無線通信を行うことは困難である。また、伝送レートの低い状態で高度な干渉抑圧機能を持つことは、データスループットの低下を招き、適切でない。さらに、高度な信号処理機能を動作させるためには、電力を多く必要とする。例えば、情報機器2内にあるセンサ類と、その情報を集約する制御部との間の無線通信において、配線を極限に減らすためには、センサ類と制御部の間の信号配線を削除するだけでなく、電源配線をも削除する必要がある。その電源線の削除のためには、情報機器2内の狭い空間に収まるセンサ類をバッテリで駆動させる必要がある。そのバッテリを、ある運用期間中、無交換で使い続けるようにするためには、通信信号の符号化・復号、変調・復調のために大きな電力を供給することは適切でない。したがって、高度な変調・干渉抑圧機能を用いた品質の高い無線通信を実現するよりも、前述のように、設定されたウィンドウを用いた無線通信を行うことの方が好適である。
【0098】
また、実体通信信号による通信が行われる場合に、その実体通信信号の通信で使用される通信チャネル以外の通信チャネルにおいて、ダミー通信信号を送信することにより、情報機器2の内部の無線電波の微弱な漏洩を、筐体5の外部で取得することを困難にしたり、取得された無線電波の解析を困難にしたりすることができる。その結果、情報機器2から漏れ出る電波を収集することによって機器内の動作アルゴリズムを推察する解析手法であるサイドチャネル手法に対する防御を行うことができる。特に、データ量の少ない通信信号の場合、例えば、1ビットの通信信号の場合には、16ビットの暗号化をしたとしても情報そのものが2値(1もしくは0)であるため、16ビット(256通り)の状態に暗号化しても、通信信号が2値であることがわかってしまうと、1/2の確率で通信信号の内容が読み取られてしまう問題がある。一方、ダミー通信信号を送信することにより、情報機器2の動作と、内部での無線通信との関係を把握することを困難にすることができ、安全性が高められることになる。
【0099】
また、第1の通信装置3及び第2の通信装置4のみが知りうる伝搬特性を用いて暗号鍵を取得することにより、安全な無線通信を実現することができる。この無線通信は、例えば、情報機器2の内部のシリアルデータ等の通信に適用してもよい。情報機器2の内部における伝搬特性は、その内部構造、第1の通信装置3の位置・角度、第2の通信装置4の位置・角度、内部機器の反射係数等によって決定される。しかしながら、情報機器2の内部は通常、非常に複雑であり、その内部における伝搬特性を理論的に計算することは難しい。したがって、第1の通信装置3及び第2の通信装置4のみが知りうる伝搬特性を用いて暗号鍵を取得した場合には、たとえ暗号鍵の取得アルゴリズムを知っていたとしても、外部からはその伝搬特性を知ることができないため、どのような暗号鍵が用いられているのかを予測することは困難となり、暗号化された無線通信の安全性が高められることになる。
【0100】
なお、情報機器2の内部での無線通信を秘匿化するために、周波数拡散方式による電波のロープロバビリティ特性を用いた無線通信なども考えられる。しかしながら、情報機器2の内部は、前述のように、マルチパスの多い環境であり、周波数特性にディップが多く存在する。そのため、情報機器2の内部での周波数拡散方式を用いた無線通信は、周波数帯域を占有する割には、通信品質が悪化することとなり、適切ではないことになる。
【0101】
また、本実施の形態では、伝搬損失である伝搬特性を取得する場合について主に説明したが、前述のように、伝搬特性は遅延特性プロファイルであってもよい。その場合に、例えば、第1の伝搬特性取得部35や、第2の伝搬特性取得部45は、パス間の遅延時間である伝搬特性を取得してもよく、しきい値(あらかじめ決められた値でもよく、あるいは、1個目のパスの受信レベルに1未満の所定値を掛けた値でもよい)以上の受信レベルのパスの個数である伝搬特性を取得してもよく、あるいは、その他の遅延特性プロファイルに関する値である伝搬特性を取得してもよい。また、第1の伝搬特性取得部35や第2の伝搬特性取得部45は、その他の伝搬特性を取得してもよい。例えば、ディップ周波数や、ある周波数帯域におけるディップ数等の伝搬特性が取得されてもよい。
【0102】
また、本実施の形態では、第1の通信装置3で暗号化が行われ、第2の通信装置4で復号が行われる場合について説明したが、そうでなくてもよい。第2の通信装置4で暗号化が行われ、第1の通信装置3で復号が行われてもよく、あるいは、第1の通信装置3及び第2の通信装置4の両方で、暗号化と復号の両方が行われてもよい。
【0103】
また、本実施の形態では、伝搬特性を用いて取得された暗号鍵を用いた暗号化が行われる場合について説明したが、そうでなくてもよい。その他の暗号鍵を用いた暗号化が行われてもよく、あるいは、暗号化が行われなくてもよい。伝搬特性を用いて取得された暗号鍵を用いた暗号化が行われない場合には、第1の通信装置3は、第1の伝搬特性取得部35や、第1の暗号鍵取得部36、暗号化部37を備えていなくてもよく、第2の通信装置4は、第2の伝搬特性取得部45や、第2の暗号鍵取得部46、復号部47を備えていなくてもよい。
【0104】
また、本実施の形態では、安全性を高めるためにダミー通信信号を送信する場合について説明したが、そうでなくてもよい。例えば、内部の電波が漏洩しても問題ない場合や、数ビット程度の信号であっても、ランダムに発生させた信号を付加することによってデータ量を多くして暗号化する場合等には、ダミー通信信号を送信しなくてもよい。
【0105】
また、本実施の形態では、第1の通信装置3と第2の通信装置4との間で双方向の通信が行われる場合について説明したが、そうでなくてもよい。第1の通信装置3から第2の通信装置4への向きにのみ送信が行われてもよい。その場合には、第1の通信装置3は、第1の受信部33や、第1の測定部34を備えていなくてもよく、第2の通信装置4は、第2の送信部42を備えていなくてもよい。
【0106】
また、本実施の形態では、複数の通信チャネルを用いた通信を行う場合について説明したが、そうでなくてもよい。単一の通信チャネルを用いて通信が行われてもよい。そのように、単一の通信チャネルを用いて通信を行う場合であって、無線通信システム1が複数の第1の通信装置3、及び/または、複数の第2の通信装置4を備えている場合には、各第1の通信装置3と各第2の通信装置4とは、単一の通信チャネルで通信信号の送信タイミングをずらしながら通信を行ってもよい。
【0107】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、あるいは、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0108】
また、上記実施の形態において、各構成要素間で行われる情報の受け渡しは、例えば、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に異なるものである場合には、一方の構成要素による情報の出力と、他方の構成要素による情報の受け付けとによって行われてもよく、あるいは、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に同じものである場合には、一方の構成要素に対応する処理のフェーズから、他方の構成要素に対応する処理のフェーズに移ることによって行われてもよい。
【0109】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いるしきい値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していない場合であっても、図示しない記録媒体において、一時的に、あるいは長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、あるいは、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、あるいは、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0110】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いるしきい値やアドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していない場合であっても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、あるいは、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0111】
また、上記実施の形態において、第1の通信装置3や第2の通信装置4に含まれる2以上の構成要素が通信デバイスや入力デバイス等を有する場合に、2以上の構成要素が物理的に単一のデバイスを有してもよく、あるいは、別々のデバイスを有してもよい。
【0112】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上より、本発明による無線通信システム等によれば、情報機器の筐体内で無線通信を実現できるという効果が得られ、例えば、ATM機や自動販売機、コピー機等の内部において配線をなくす技術として有用である。
【符号の説明】
【0114】
1 無線通信システム
2 情報機器
3 第1の通信装置
4、4a〜4e 第2の通信装置
5 筐体
6 制御部
7、7a〜7e 被制御部
31 第1のアンテナ
32 第1の送信部
33 第1の受信部
34 第1の測定部
35 第1の伝搬特性取得部
36 第1の暗号鍵取得部
37 暗号化部
38 第1の制御部
41 第2のアンテナ
42 第2の送信部
43 第2の受信部
44 第2の測定部
45 第2の伝搬特性取得部
46 第2の暗号鍵取得部
47 復号部
48 第2の制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報機器の筐体内に設けられた1以上の第1の通信装置及び1以上の第2の通信装置を備え、前記第1の通信装置と前記第2の通信装置との間で無線通信を行う無線通信システムであって、
前記第1の通信装置は、
アンテナを介して通信信号を送信する第1の送信部と、
通信信号を前記第1の送信部によって送信させる第1の制御部と、を備え、
前記第2の通信装置は、
通信信号をアンテナを介して受信する第2の受信部と、
前記第2の受信部が受信する通信信号の受信レベルを測定する第2の測定部と、
前記第2の測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にある場合に、前記第2の受信部が受信する通信信号を利用し、前記第2の測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にない場合に、前記第2の受信部が受信する通信信号を利用しない第2の制御部と、を備えた、無線通信システム。
【請求項2】
複数の前記第1の通信装置、及び/または、複数の前記第2の通信装置を備えており、
前記各第1の通信装置と前記各第2の通信装置とは、複数の通信チャネルのうち、それぞれ異なる通信チャネルを用いて通信を行う、請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記第1の制御部は、情報の授受で用いられる通信信号である実体通信信号の通信が行われない通信チャネルに、ダミーの通信信号であるダミー通信信号を送信するように前記第1の送信部を制御する、請求項2記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記第1の通信装置は、
通信信号をアンテナを介して受信する第1の受信部と、
前記第1の受信部が受信する通信信号の受信レベルを測定する第1の測定部と、をさらに備え、
前記第1の制御部は、前記第1の測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にある場合に、前記第1の受信部が受信する通信信号を利用し、前記第1の測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にない場合に、前記第1の受信部が受信する通信信号を利用しないものであり、
前記第2の通信装置は、
アンテナを介して通信信号を送信する第2の送信部をさらに備え、
前記第2の制御部は、通信信号を前記第2の送信部によって送信させる、請求項1記載の無線通信システム。
【請求項5】
複数の前記第1の通信装置、及び/または、複数の前記第2の通信装置を備えており、
前記各第1の通信装置と前記各第2の通信装置とは、複数の通信チャネルのうち、それぞれ異なる通信チャネルを用いて通信を行い、
情報の授受で用いられる通信信号である実体通信信号の通信が行われない通信チャネルについて通信信号の送信を制御する前記第1の制御部または前記第2の制御部は、当該通信チャネルにおいて、ダミーの通信信号であるダミー通信信号が送信されるように制御する、請求項4記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記第1の制御部は、伝搬特性取得用の通信信号を前記第1の送信部に送信させるものであり、
前記第2の制御部は、伝搬特性取得用の通信信号を前記第2の送信部に送信させるものであり、
前記第1の通信装置は、
前記第1の受信部が受信した伝搬特性取得用の通信信号を用いて伝搬特性を取得する第1の伝搬特性取得部と、
前記第1の伝搬特性取得部が取得した伝搬特性を用いて暗号鍵を取得する第1の暗号鍵取得部と、
前記第1の暗号鍵取得部が取得した暗号鍵を用いて、通信信号を暗号化する暗号化部と、をさらに備え、
前記第1の送信部は、前記暗号化部によって暗号化された通信信号を送信するものであり、
前記第2の受信部は、前記暗号化された通信信号を受信するものであり、
前記第2の通信装置は、
前記第2の受信部が受信した伝搬特性取得用の通信信号を用いて伝搬特性を取得する第2の伝搬特性取得部と、
前記第2の伝搬特性取得部が取得した伝搬特性を用いて暗号鍵を取得する第2の暗号鍵取得部と、
前記第2の暗号鍵取得部が取得した暗号鍵を用いて、前記第2の受信部が受信した暗号化された通信信号を復号する復号部と、をさらに備えた、請求項4記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記情報機器の筐体は、金属の筐体である、請求項1から請求項6のいずれか記載の無線通信システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか記載の無線通信システムを備え、
前記第1の通信装置及び前記第2の通信装置の間の無線通信により、機器内の信号の授受を行う、情報機器。
【請求項9】
通信信号をアンテナを介して受信する受信部と、
前記受信部が受信する通信信号の受信レベルを測定する測定部と、
前記測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にある場合に、前記受信部が受信する通信信号を利用し、前記測定部が測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にない場合に、前記受信部が受信する通信信号を利用しない制御部と、を備えた通信装置。
【請求項10】
情報機器の筐体内に設けられた1以上の第1の通信装置及び1以上の第2の通信装置を用い、前記第1の通信装置と前記第2の通信装置との間で行われる無線通信方法であって、
前記第1の通信装置が、アンテナを介して通信信号を送信するステップと、
前記第2の通信装置が、通信信号をアンテナを介して受信するステップと、
前記第2の通信装置が、受信した通信信号の受信レベルを測定するステップと、
前記第2の通信装置が、測定した受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にあるかどうか判断するステップと、
前記第2の通信装置が、受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にある場合に、受信された通信信号を利用し、受信レベルがあらかじめ決められたウィンドウ内にない場合に、受信された通信信号を利用しないステップと、を備えた無線通信方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−209652(P2012−209652A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72063(P2011−72063)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「ICT機器内ハーネスのワイヤレス化の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】