説明

無線通信システムおよび移動局

【課題】本発明は、移動局の端末登録時において、移動局が受信した下りCCHの通信経路に関わらず、最適な上りTCCH送信電力を制御することが可能な無線通信システムおよび移動局を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明による無線通信システムは、移動局2,3は、無線通信システムへの自局の端末登録時において、受信周波数に基づいて、基地局1と自局との間で直接的に無線通信を行う第1の経路か、または、異周波非再生レピータ10を介して基地局1と自局との間で無線通信を行う第2の経路かの経路判定を行う経路判定手段と、第1の経路の場合は当該第1の経路に対応した送信電力の制御である第1の制御を行い、第2の経路の場合は当該第2の経路に対応した送信電力の制御である第2の制御を行う電力制御手段とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信方式にOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)/TDD(Time Division Duplex)方式を採用する次世代PHS(Personal Handyphone System)システムである無線通信システムに関し、特に、異周波非再生中継送受信装置を導入した無線通信システムおよび移動局に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代PHSシステム(以下、XGP(eXtended Global Platform)(登録商標)システムとする)では、基地局と移動局との間で通信を行うために用いられている制御用チャネル(以下、CCH(Control Channel)とする)が定義されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
CCHは、タイミング補正チャネル(以下、TCCH(Timing CorrectChannel)とする)と、共通制御チャネル(以下、CCCH(Common Control Channel)とする)とに分別される。また、CCCHには、報知用チャネル(以下、BCCH(Broadcast Control Channel)とする)、着信情報チャネル(以下、PCH(Paging Channel)とする)、チャネル割当制御チャネル(以下、SCCH(Signaling Control Channel)とする)が含まれる。基地局と移動局との間で無線通信を行う際において、初めに移動局の登録(以下、端末登録とする)が行われる。
【0004】
移動局では、端末登録開始時の基地局への上りTCCH送信電力値(上りTCCH初期送信電力値)を決定するために、基地局から受信した下りCCHの受信レベルを測定して基地局と移動局との間における電波の伝播損失を推定し、当該伝播損失に基づいて基地局にて所定の品質を満たすような上りTCCH送信電力値を決定するオープンループ制御による送信電力制御方式が採用されている。ここで、「上り」とは移動局から基地局への信号送信方向のこととし、「下り」とは基地局から移動局への信号送信方向のこととする。
【0005】
例えば、端末登録時に移動局から基地局に対してTCCHを送信する場合において、移動局は基地局から下りCCHを受信し、受信した下りCCHの受信電界強度を測定して伝播損失を推定する。そして、基地局にて所定の品質を満たす上りTCCH送信電力と伝播損失とから上りTCCHを決定して送信する。また、移動局が上りTCCHに対する基地局からの応答を受信しなかった場合は、上りTCCH送信電力の決定に失敗した(上りTCCHを基地局にて受信できなかった)と判断し、基地局に対してTCCHを再送信する。
【0006】
また、移動局を屋内で使用する場合において、基地局から送信された電波が建物等の壁によって減衰し、十分な受信電界強度が得られずに安定した無線通信ができない不感地帯が存在する。このような不感地帯で基地局と無線通信を行うために、基地局から送信された電波の受信が可能な建物の窓際等に中継送受信装置を設置する方法がある。中継送受信装置は、「上り」および「下り」双方向の信号を中継する際に信号を適切な利得で増幅することによって、基地局と移動局とが互いに良好な通信を行うようにしている。
【0007】
TDD方式を採用している無線通信システムでは、下り方向および上り方向の双方向で同一の周波数帯を使用しており、下り方向と上り方向とを時分割多重している。そのため、中継送受信装置は、下り方向と上り方向とのデータフレームを認識して分離するためにフレーム同期が必要である。
【0008】
フレーム同期の方法には、再生中継方式と非再生中継方式とが考えられる。再生中継方式は、受信した下り方向および上り方向の信号をそれぞれ完全に復調してリタイミングした後に送信する方式であるが、中継送受信装置の基地局側および移動局側のそれぞれでPHY(Physical layer)を終端するため、回路規模が大きくなって消費電力も高くなってしまう。一方、非再生中継方式は、中継送受信装置の基地局側および移動局側のそれぞれでPHYを終端しないため、再生中継方式のような問題は生じない。
【0009】
中継送受信装置と移動局との間の無線通信に用いられる周波数には、基地局と中継送受信装置との間の無線通信に用いられる周波数と同一の周波数を用いる周波数無変換方式と、基地局と中継送受信装置との間の無線通信に用いられる周波数とは異なる周波数を用いる周波数変換方式とが考えられる。無変換方式では、中継送受信装置の内部で周波数の干渉が生じるため対策が必要となる。XGPシステムにおいて、下り方向および上り方向の双方向ともアンテナ利得が4dBiと定められている(例えば、非特許文献1参照)。そのため、アンテナパターンの指向性が十分ではなく、アイソレーションをとるためには中継送受信装置の構造が複雑化、大型化、重量化して、高コストになるという問題がある。従って、中継送受信装置をXGPシステムで用いる場合は、周波数変換方式が適している。
【0010】
以上のことから、XGPシステムに導入される中継送受信装置としては、異周波非再生中継送受信装置(以下、異周波非再生レピータとする)が最適であると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「OFDMA/TDMA TDD Broadband Wireless Access System(Next Generation PHS),ARIB STANDARD,ARIB STD−T95 Version 1.2」、Association of Radio Industries and Businesses、2009年3月18日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、異周波非再生レピータが導入されたXGPシステムには次のような問題がある。
【0013】
異周波非再生レピータは、基地局と移動局との間の無線通信における送信電力制御に影響を与えないようにするために、異周波非再生レピータの送信電力の上限を移動局の送信電力の上限に規定する必要がある。このような異周波非再生レピータにおいて、下り方向の中継利得と同様の利得を上り方向に適用すると、基地局と異周波非再生レピータとの距離が比較的近いところで遠近問題が生じてしまう。従って、異周波非再生レピータにおいて、下り方向の中継利得と上り方向の中継利得とを同一にすることができないという問題がある。
【0014】
また、基地局と異周波非再生レピータとの距離に関わらず、異周波非再生レピータの下り方向の中継利得によって、異周波非再生レピータから送信される下り方向の送信電力は一定となる。そのため、移動局は、受信した下りCCHの受信電界強度から基地局と移動局との伝播損失を推定しているため、基地局と移動局との間の伝播損失が基地局と異周波非再生レピータとの距離に関わらず同一であると認識する。従って、基地局と異周波非再生レピータとの距離が遠くなるほど、基地局で上りTCCHを受信するための電力(すなわち、移動局から送信されるTCCH送信電力)が不足してしまい、基地局は上りTCCHを受信できなくなってしまう。
【0015】
基地局が上りTCCHを受信できなくなると、移動局は上りTCCHに対する応答を基地局から受信できないため、上りTCCH送信電力を調整して基地局への再送信を試みる。しかし、異周波非再生レピータから移動局への下り送信電力が一定であるため、調整後の上りTCCH送信電力は調整前の上りTCCH送信電力と同じになってしまい、何度再送信しても基地局が上りTCCHを受信できずに端末登録に失敗するという問題が生じる。
【0016】
また、異周波非再生レピータを導入したXGPシステムに小セル用基地局を設置した場合において、移動局は、小セル用基地局から直接的に受信した信号の周波数と、屋外の基地局から異周波非再生レピータを経由して受信した信号の周波数とが同一周波数となるため、どの基地局から送信されてきた信号なのか判断できない。すなわち、通信経路の判別ができない。従って、移動局は、小セル用基地局から直接的に受信した下りCCHに対する上りTCCH送信電力の制御と、屋外の基地局から異周波非再生レピータを経由して受信した下りCCHに対する上りTCCH送信電力の制御とが同じになってしまい、各下りCCHに対して最適な上りTCCH送信電力の制御ができないという問題がある。なお、屋外に設置され通信エリアが比較的広い基地局を「基地局」、屋内などの不感地帯に設置され通信エリアが基地局よりも狭いエリアの基地局を「小セル用基地局」とする。
【0017】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、移動局が自局の端末登録時において、自局が受信した下りCCHの通信経路に関わらず、最適な上りTCCH送信電力を制御することが可能な無線通信システムおよび移動局を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明による無線通信システムは、基地局と、基地局と無線通信を行う移動局と、基地局と移動局との間の無線通信を補助するために配置され、基地局との間における無線通信の周波数と、移動局との間における無線通信の周波数とが異なるように、無線通信を中継する中継送受信装置とを備える無線通信システムであって、移動局は、無線通信システムへの自局の端末登録時において、受信周波数に基づいて、基地局と自局との間で直接的に無線通信を行う第1の経路か、または、中継送受信装置を介して基地局と自局との間で無線通信を行う第2の経路かの経路判定を行う経路判定手段と、第1の経路の場合は当該第1の経路に対応した送信電力の制御である第1の制御を行い、第2の経路の場合は当該第2の経路に対応した送信電力の制御である第2の制御を行う電力制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、移動局は、無線通信システムへの自局の端末登録時において、受信周波数に基づいて、基地局と自局との間で直接的に無線通信を行う第1の経路か、または、中継送受信装置を介して基地局と自局との間で無線通信を行う第2の経路かの経路判定を行う経路判定手段と、第1の経路の場合は当該第1の経路に対応した送信電力の制御である第1の制御を行い、第2の経路の場合は当該第2の経路に対応した送信電力の制御である第2の制御を行う電力制御手段とを備えるため、移動局の端末登録時において、移動局が受信した下りCCHの通信経路に関わらず、最適な上りTCCH送信電力を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1によるXGPシステムの構成図である。
【図2】本発明の実施形態1による移動局における端末登録時のシーケンスの一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態1による移動局における端末登録時の上りTCCH送信電力制御のフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態1による基地局配下の移動局における端末登録時の上りTCCH送信電力決定のフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態1による異周波非再生レピータ配下の移動局における端末登録時の上りTCCH送信電力決定のフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態2によるXGPシステムの構成図である。
【図7】本発明の実施形態2による移動局における受信信号経路判定のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について、図面を用いて以下に説明する。
【0022】
〈実施形態1〉
図1は、本発明の実施形態1によるXGPシステムの構成図である。図1に示すように、本発明によるXGPシステム(無線通信システム)は、基地局1と、基地局1と無線通信を行う移動局2,3a,3bと、異周波非再生レピータ10(中継送受信装置)とを備えている。異周波非再生レピータ10は、基地局側アンテナ11と端末側アンテナ12とを備えており、基地局1から送信された電波が十分に届かない屋内等の不感地帯(シャドウィング領域)4に存在する移動局3a,3bと基地局1との無線通信を補助するために配置され、当該無線通信を中継する。以下、特別な断りがない限り、移動局3a,3bを単に移動局3とする。
【0023】
移動局2は、基地局1との間で直接的に無線通信を行う、基地局1配下に属する移動局である。移動局2は、基地局1から送信された周波数f1の信号を受信し(下り受信)、周波数f1の信号を基地局に送信する(上り送信)。
【0024】
移動局3は、基地局1とは直接的に無線通信を行わず、異周波非再生レピータ10を介して基地局1との間で無線通信を行う、異周波非再生レピータ10配下に属する移動局である。異周波非再生レピータ10は、基地局1から送信された周波数f1の信号を受信し(下り受信)、受信した周波数f1の信号を例えば別の周波数f2に変換して移動局3に送信する(下り送信)。また、移動局3から送信された周波数f2の信号を受信し(上り受信)、受信した周波数f2の信号を周波数f1に変換して基地局1に送信する(上り送信)。このように、異周波非再生レピータ10では、ダウンリンク(下り回線)では下り受信および下り送信を行い、アップリンク(上り回線)では上り受信および上り送信を行う。すなわち、異周波非再生レピータ10は、基地局1との間における無線通信の周波数と、移動局3との間における無線通信の周波数とが異なるように無線通信を中継している。
【0025】
図2は、本発明の実施形態1による移動局2,3における端末登録時のシーケンスの一例を示す図である。図2に示すように、移動局(MS:Mobile Station)2,3は、Idleの状態から起動した後に、基地局(BS:Base Station)1から周期的に送信されるBCCHを受信する。移動局2,3は端末登録時において、受信したBCCHに基づいてTCCH(LCH割当要求)を基地局1に送信し、基地局1からSCCH(LCH割当応答)を受信する。次に、移動局2,3はICCH(無線リンク設定要求)を基地局1に送信し、基地局1からICCH(無線リンク設定応答)を受信する。その後、移動局2,3はICCH(拡張機能要求)を基地局1に送信し、基地局1からICCH(拡張機能応答)を受信する。そして、移動局2,3と基地局1との間で認証シーケンスを行った後に無線通信を開始する。
【0026】
図3は、本発明の実施形態1による移動局2,3における端末登録時の上りTCCH送信電力制御のフローチャートである。図3に示すように、移動局2,3の端末登録が開始されると(ステップS301)、受信したCCHの周波数帯域が異周波非再生レピータ10を経由したものかどうかを判断する(経路判定手段)(ステップS302)。移動局2,3は、基地局1から直接的に送信されてきたCCHの周波数と、異周波非再生レピータ10を介して送信されてきたCCHの周波数とから、どの経路で送信されてきたのかを判別することができる。例えば、図1に示すように、移動局2,3が周波数f1のCCHを受信した場合は、基地局1から直接的に送信されてきたCCHであると認識する(第1の経路)。また、移動局2,3が周波数f2のCCHを受信した場合は、異周波非再生レピータ10を介して送信されてきたCCHであると認識する(第2の経路)。
【0027】
ステップS302において、CCHの周波数が異周波非再生レピータ10を経由したものではないと判断すると、図1に示すように、基地局1配下に属する移動局2が周波数f1のCCHを基地局1から直接的に受信したと判断する。
【0028】
次に、移動局2は、基地局1へ送信する上りTCCHの送信電力を決定する(ステップS303)。図4は、本発明の実施形態1による基地局1配下の移動局2における端末登録時の上りTCCH送信電力決定のフローチャートである。図4のステップS401〜ステップS404の処理によって、図3のステップS303での上りTCCH初期送信電力が決定される。基地局1配下の上りTCCH送信電力決定の処理が開始されると(ステップS401)、移動局2は受信したCCHの受信電界強度(以下、CCH受信電力とする)を測定し、基地局1のCCH送信出力値とCCH受信電力とから基地局1と移動局2(端末)との間における伝播損失を算出する(ステップS402)。そして、基地局1との無線通信に必要な上りTCCHターゲット電力(Target_TCCH[dBm])に伝播損失分の電力を加算したTCCH_INI_BS[dBm](第1の送信電力)(ステップS403)を基地局配下上りTCCH送信電力として決定して(ステップS404)基地局1に送信する。なお、移動局2,3は、基地局1のCCH送信出力値と上りTCCHターゲット電力とを送信電力パラメータとして所有している。
【0029】
次に、基地局1に送信した上りTCCHに対する応答(SCCH)を受信したか否かを判断する(ステップS305)。基地局1から応答を受信した(上りTCCHの送信が成功した)場合は、図2に示すシーケンスの通り、基地局1に個別制御チャネル(ICCH)を送信して無線リンク(無線回線)の設定要求を行う(ステップS316)。
【0030】
一方、基地局1からの応答を受信できなかった(上りTCCH送信後、一定時間が経過しても、上りTCCHに対する応答を検出しない状況、すなわち、上りTCCHの送信が失敗した)場合は、CCH受信電力と基地局近傍判定閾値受信レベルとを比較し(ステップS306)、移動局2が基地局1の近傍に存在するか否かを判定する。なお、移動局2,3は、基地局近傍判定閾値受信レベルを送信電力パラメータとして所有している。
【0031】
CCH受信電力が基地局近傍判定閾値受信レベル以下の場合は、移動局2が基地局1の近傍に存在していないと判断する。そして、ステップS303にて決定した基地局配下上りTCCH送信電力であるTCCH_INI_BS[dBm]に、基地局配下上りTCCH再送用送信電力制御値であるTCCH_OFFSET_BS[dB](第1の電力制御値)を加算した電力を上りTCCH送信電力として決定して基地局1に送信する(ステップS307)。なお、移動局2,3は、基地局配下上りTCCH再送用送信電力制御値であるTCCH_OFFSET_BS[dB]を送信電力パラメータとして所有している。
【0032】
一方、CCH受信電力が基地局近傍判定閾値受信レベルより大きい場合は(ステップS306)、移動局2が基地局1の近傍に存在していると判断する。そして、上りTCCH送信電力の制御を行わずに、ステップS303にて決定した基地局配下上りTCCH送信電力であるTCCH_INI_BS[dBm]にて、基地局1に上りTCCHを送信する。
【0033】
ステップS305〜ステップS307の処理を行った後、なおも上りTCCHに対する基地局1からの応答を移動局2が受信できなかった場合は、リトライ回数カウント値を1ずつアップしながらステップS304〜ステップS308の処理を(設定リトライ回数−1)[回](所定回数)繰り返す。すなわち、移動局2が基地局1の近傍に存在しない場合は基地局配下上りTCCH送信電力であるTCCH_INI_BS[dBm]に、基地局配下上りTCCH再送用送信電力制御値であるTCCH_OFFSET_BS[dB]を再送信するたびに加算する動作を所定回数繰り返し、移動局2が基地局1の近傍に存在する場合は基地局配下上りTCCH送信電力であるTCCH_INI_BS[dBm]で再送信する動作を所定回数繰り返す。
【0034】
そして、(設定リトライ回数−1)[回]を超過した場合は、移動局2の端末登録の失敗となる(ステップS309)。なお、移動局2,3は、端末登録時の上りTCCH送信リトライ回数を送信電力パラメータとして所有している。
【0035】
このように、移動局2の電力制御手段は、基地局1と移動局2とが直接的に無線通信を行う経路(第1の経路)に対応した送信電力の制御を行う(第1の制御)。
【0036】
また、ステップS302において、CCHの周波数が異周波非再生レピータ10を経由したものであると判断すると、図1に示すように、異周波非再生レピータ10配下に属する移動局3が周波数f2のCCHを受信したと判断する。
【0037】
次に、移動局3は、基地局1への上りTCCH送信電力を決定する(ステップS310)。図5は、本発明の実施形態1による異周波非再生レピータ10配下の移動局3における端末登録時の上りTCCH送信電力決定のフローチャートである。図5のステップS501〜ステップS504の処理によって、図3のステップS310での上りTCCH送信電力が決定される。異周波非再生レピータ10配下の上りTCCH送信電力決定の処理が開始されると(ステップS501)、図4のステップS402、ステップS403と同様の方法で基地局配下上りTCCH送信電力であるTCCH_INI_BS[dBm](第1の電力)を算出して決定する(ステップS502)。そして、算出した基地局配下上りTCCH送信電力に、異周波非再生レピータ経由送信電力制御値であるY_RS[dB](第2の電力制御値)を加算した電力を上りTCCH送信電力として決定し(ステップS503)、基地局1に送信する(ステップS504)。なお、移動局2,3は、異周波非再生レピータ経由送信電力制御値であるY_RS[dB]を送信電力パラメータとして所有している。
【0038】
次に、基地局1に送信した上りTCCHに対する応答(SCCH)を受信したか否かを判断する(ステップS312)。基地局1から応答を受信した(上りTCCHの送信が成功した)場合は、図2に示すシーケンスの通り、基地局1に個別制御チャネル(ICCH)を送信して無線リンク(無線回線)の設定要求を行う(ステップS316)。
【0039】
一方、基地局1からの応答を受信できなかった(上りTCCH送信後、一定時間が経過しても、上りTCCHに対する応答を検出しない状況、すなわち、上りTCCHの送信が失敗した)場合は、ステップS310にて決定したTCCH送信電力に、異周波非再生レピータ配下上りTCCH再送用送信電力制御値であるTCCH_OFFSET_RS[dB](第3の電力制御値)を加算した電力を上りTCCH送信電力として決定して送信する(ステップS313)。すなわち、ステップS310にて決定したTCCH送信電力に、異周波非再生レピータ配下上りTCCH再送用送信電力制御値であるTCCH_OFFSET_RS[dB]を再送信するたびに加算する動作を所定回数繰り返す。なお、移動局2,3は、異周波非再生レピータ配下上りTCCH再送用送信電力制御値であるTCCH_OFFSET_RS[dB]を送信電力パラメータとして所有している。
【0040】
ステップS312、ステップS313の処理を行った後、なおも上りTCCHに対する基地局1からの応答を移動局2が受信できなかった場合は、リトライ回数カウント値を1ずつアップしながらステップS311〜ステップS314の処理を(設定リトライ回数−1)[回](所定回数)繰り返す。そして、(設定リトライ回数−1)[回]を超過した場合は、移動局2の端末登録の失敗となる(ステップS315)。
【0041】
このように、移動局3の電力制御手段は、基地局1と移動局3とが異周波非再生レピータ10を介して無線通信を行う経路(第2の経路)に対応した送信電力の制御を行う(第2の制御)。
【0042】
以上のことから、移動局2,3において、受信CCHの周波数から基地局1と移動局2,3との通信経路を判断し、異周波非再生レピータ10配下の移動局3は、基地局1配下の移動局2による上りTCCH送信電力に異周波非再生レピータ経由用の電力制御値を加算して送信しており、基地局1配下の移動局2による上りTCCH送信電力よりも大きい送信電力であるため上りTCCHの送信電力不足を解消することができる。
【0043】
また、基地局1配下の移動局2が上りTCCHを再送信する際において、CCH受信電力から基地局1と移動局2との距離を推定し、基地局1の近傍に移動局2が存在しない場合は上りTCCH送信電力を増加させて再送信し、基地局1の近傍に移動局2が存在する場合は上りTCCH送信電力を増加させずに再送信する。当該再送信は、所定回数(例えば、移動局2の端末登録が完了するまで)繰り返し行われる。従って、移動局2の端末登録の成功率を上げるとともに、他の移動局の電力への影響を抑制することができる。
【0044】
また、異周波非再生レピータ10配下の移動局3が上りTCCHを再送信する場合は、上りTCCH送信電力を増加させて再送信する。当該再送信は、所定回数(例えば、移動局3の端末登録が完了するまで)繰り返し行われる。従って、移動局3の端末登録の成功率を上げることができる。
【0045】
このように、移動局が自局の端末登録時において、自局が受信した下りCCHの通信経路に関わらず、最適な上りTCCH送信電力を制御することが可能となる。
【0046】
〈実施形態2〉
図6は、本発明の実施形態2によるXGPシステム(無線通信システム)の構成図である。本発明の実施形態2では、図6に示すように、不感地帯4に半径数十メートルの通信エリア(小セル)を対象とした基地局(以下、小セル用基地局)5(第2の基地局)を設置しており、移動局3は基地局1または小セル用基地局5のいずれかと無線通信を行うことを特徴としている。その他の構成および移動局2の動作は、実施形態1と同様であるためここでは説明を省略する。
【0047】
小セル用基地局5の開発によって、図6に示すように、異周波非再生レピータ10(中継送受信装置)と小セル用基地局5とが共存するシステムが想定される。移動局3は、小セル用基地局5に直接的に端末登録する経路(第3の経路)と、異周波非再生レピータ10を介して基地局1に端末登録する経路(第4の経路)とで、端末登録時に送信する上りTCCH送信電力を変更する必要がある。また、TCCHを再送信する際においても、通信経路に応じてTCCH送信電力を変更する必要がある。しかし、移動局3では、小セル用基地局5から直接的に受信したCCHの周波数はf2であり、異周波非再生レピータ10を介して受信したCCHの周波数もf2であるため、基地局1または小セル用基地局5のどちらから送信されてきたものなのか判別することができない(すなわち、通信経路の判別ができない)という問題がある。
【0048】
基地局1および小セル用基地局5は、それぞれ報知用チャネル(BCCH)を移動局に報知送信している。前述の通り、BCCHはCCHに含まれている。BCCHには、基地局情報やシステム情報が含まれており、基地局情報には当該基地局が送受信する周波数帯域情報が含まれている。例えば、図6に示すXGPシステムにおいて、基地局1が送信するBCCHに含まれている周波数帯域情報はf1となり、小セル用基地局5が送信するBCCCHに含まれている周波数帯域情報はf2となる。
【0049】
移動局3は、受信したCCHの周波数と、BCCHに含まれている周波数帯域情報とから、小セル用基地局5から直接的に送信されてきた通信経路なのか、または、異周波非再生レピータ10を介して基地局1から送信されてきた通信経路なのかを判定する(経路判定手段)。
【0050】
図7は、本発明の実施形態2による移動局3における受信信号経路判定のフローチャートである。図7に示すように、受信信号経路判別が開始されると(ステップS701)、受信したCCHの周波数を認識する(ステップS702)。
【0051】
次に、BCCHに含まれている周波数帯域情報を取得し(ステップS703)、ステップS702にて認識したCCHの周波数と、ステップS703にて取得した周波数帯域情報とが一致しているか否かを判断する(ステップS704)。
【0052】
ステップS704での判断の結果、CCHの周波数と周波数帯域情報とが一致している場合は、受信したCCHが小セル用基地局5から直接的に送信されてきたものであると認識され(ステップS705)、受信信号経路判別は完了する(ステップS706)。例えば、図6に示すXGPシステムにおいて、ステップS702にて認識した周波数がf2であり、かつ、ステップS703にて取得した周波数帯域情報がf2の場合が相当する。
【0053】
一方、ステップS704での判定の結果、CCHの周波数と周波数帯域情報とが異なる場合は、受信したCCHが異周波非再生レピータ10を介して基地局1から送信されてきたものであると認識され(ステップS707)、受信信号経路判別は完了する(ステップS706)。例えば、図6に示すXGPシステムにおいて、ステップS702にて認識した周波数がf2であり、かつ、ステップS703にて取得した周波数帯域情報がf1の場合が相当する。
【0054】
このように、移動局3では、異周波非再生レピータ10が、異周波非再生レピータ10と基地局1との間における通信周波数をf1とし、異周波非再生レピータ10と移動局3との間における通信周波数をf2とするように周波数変換を行っていることを利用して、通信経路の判定を行うことができる。
【0055】
移動局3は、判定された通信経路に応じて、上りTCCH送信電力の制御を行う。
【0056】
移動局3において、受信したCCHが異周波非再生レピータ10を介して基地局1から送信されてきたものであると判定されると、図3のステップS310〜ステップS316、および図5のステップS501〜ステップS504と同様の処理を行って、上りTCCH送信電力を決定して基地局1に送信する。
【0057】
このように、移動局3の電力制御手段は、基地局1と移動局3とが異周波非再生レピータ10を介して無線通信を行う経路(第4の経路)に対応した送信電力の制御を行う(第4の制御)。すなわち、基地局1と移動局3(自局)との間における伝播損失を算出し、無線通信に必要なTarget_TCCH(ターゲット電力)に伝播損失分の電力を加算したTCCH_INI_BS(第3の送信電力)にさらにY_RS(第5の電力制御値)を加算したTCCH_INI_RS(第4の送信電力)を上りTCCH初期送信電力として決定した後に基地局1に送信し、当該送信が失敗した際において、TCCH_INI_RSにTCCH_OFFSET_RS(第6の電力制御値)を再送信するたびに加算する動作を所定回数繰り返す。
【0058】
一方、受信したCCHが小セル用基地局5から直接的に送信されてきたものであると判定されると、小セル用基地局5のCCH送信出力値とCCH受信電力とから小セル用基地局5と移動局3との間における伝播損失を算出する。そして、移動局3は、小セル用基地局5との無線通信に必要な上りTCCHターゲット電力に伝播損失分の電力を加算したTCCH_INI_BS[dBm](第3の送信電力)を上りTCCH初期送信電力として決定して小セル用基地局5に送信する。なお、移動局2,3は、小セル用基地局5のCCH送信出力値と上りTCCHターゲット電力とを送信電力パラメータとして所有している。
【0059】
移動局3が小セル用基地局5からの応答を受信した場合は、図2に示すシーケンスの通り、小セル用基地局5に個別制御チャネル(ICCH)を送信して無線リンク(無線回線)の設定要求を行う。
【0060】
一方、移動局3が小セル用基地局5からの応答を受信しなかった場合は、図3のステップS304〜ステップS308と同様の処理を行う。すなわち、小セル用基地局5の近傍に移動局3が存在しない場合は、TCCH_INI_BS[dBm]にTCCH_OFFSET_BS[dB](第4の電力制御値)を再送信するたびに加算する動作を所定回数繰り返し、小セル用基地局5の近傍に移動局3が存在する場合は、TCCH_INI_BS[dBm]で再送信する動作を所定回数繰り返す。
【0061】
このように、移動局3の電力制御手段は、小セル用基地局5と移動局3とが直接的に無線通信を行う経路(第3の経路)に対応した送信電力の制御を行う(第3の制御)。
【0062】
以上のことから、移動局2,3は、受信したCCHの周波数とBCCHに含まれている周波数帯域情報とからCCHの送信経路を判断することができ、移動局2,3が自局の端末登録時において、移動局2,3が受信した下りCCHの通信経路に関わらず、最適な上りTCCH送信電力を制御することが可能となる。
【0063】
また、移動局3が異周波非再生レピータ10配下である場合は、移動局3が小セル用基地局5配下である場合における上りTCCH送信電力に、異周波非再生レピータ経由用の電力制御値を加算して送信しており、移動局3が小セル用基地局5配下である場合における上りTCCH送信電力よりも大きい送信電力であるため上りTCCHの送信電力不足を解消することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
この発明の活用例として、基地局と移動局との間に非再生中継送受信装置を導入した移動体通信システムに利用できる。
【符号の説明】
【0065】
1 基地局、2,3,3a,3b 移動局、4 不感地帯、5 小セル用基地局、10 異周波非再生レピータ、11 基地局側アンテナ、12 端末側アンテナ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局と、
前記基地局と無線通信を行う移動局と、
前記基地局と前記移動局との間の無線通信を補助するために配置され、前記基地局との間における前記無線通信の周波数と、前記移動局との間における前記無線通信の周波数とが異なるように、前記無線通信を中継する中継送受信装置と、
を備える無線通信システムであって、
前記移動局は、
前記無線通信システムへの自局の端末登録時において、受信周波数に基づいて、前記基地局と前記自局との間で直接的に前記無線通信を行う第1の経路か、または、前記中継送受信装置を介して前記基地局と前記自局との間で前記無線通信を行う第2の経路かの経路判定を行う経路判定手段と、
前記第1の経路の場合は当該第1の経路に対応した送信電力の制御である第1の制御を行い、前記第2の経路の場合は当該第2の経路に対応した前記送信電力の制御である第2の制御を行う電力制御手段と、
を備えることを特徴とする、無線通信システム。
【請求項2】
前記電力制御手段における前記第1の制御は、前記基地局と前記自局との間における伝播損失を算出し、前記無線通信に必要なターゲット電力に前記伝播損失分の電力を加算した第1の送信電力を前記送信電力として決定した後に前記基地局に送信し、当該送信が失敗した際において、前記自局が前記基地局の近傍に存在するか否かを判定し、前記近傍に存在しない場合は前記第1の送信電力に第1の電力制御値を再送信するたびに加算する動作を所定回数繰り返し、前記近傍に存在する場合は前記第1の送信電力で再送信する動作を所定回数繰り返すことを特徴とする、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記電力制御手段における前記第2の制御は、前記基地局と前記自局との間における伝播損失を算出し、前記無線通信に必要なターゲット電力に前記伝播損失分の電力を加算した第1の送信電力にさらに第2の電力制御値を加算した第2の送信電力を前記送信電力として決定した後に前記基地局に送信し、当該送信が失敗した際において、前記第2の送信電力に第3の電力制御値を再送信するたびに加算する動作を所定回数繰り返すことを特徴とする、請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の無線通信システムに用いられる移動局。
【請求項5】
第1の基地局および小セル用の第2の基地局と、
前記第1の基地局または前記第2の基地局のいずれかと無線通信を行う移動局と、
前記第1の基地局と前記移動局との間の無線通信を補助するために配置され、前記第1の基地局との間における前記無線通信の周波数と、前記移動局との間における前記無線通信の周波数とが異なるように前記無線通信を中継する中継送受信装置と、
を備える無線通信システムであって、
前記移動局は、
前記無線通信システムへの自局の端末登録時において、所定の判定基準に基づいて、前記第2の基地局と前記自局との間で直接的に前記無線通信を行う第3の経路か、または、前記中継送受信装置を介して前記第1の基地局と前記自局との間で前記無線通信を行う第4の経路かの経路判定を行う経路判定手段と、
前記第3の経路の場合は当該第3の経路に対応した送信電力の制御である第3の制御を行い、前記第4の経路の場合は当該第4の経路に対応した前記送信電力の制御である第4の制御を行う電力制御手段と、
を備えることを特徴とする、無線通信システム。
【請求項6】
前記経路判定手段は、前記移動局が受信した制御チャネルの周波数と、当該制御チャネルに含まれる前記第1または第2の基地局のいずれかの送信時の周波数情報とに基づいて、前記第1の経路か前記第2の経路かの判定を行うことを特徴とする、請求項5に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記電力制御手段における前記第3の制御は、前記第2の基地局と前記自局との間における伝播損失を算出し、前記無線通信に必要なターゲット電力に前記伝播損失分の電力を加算した第3の送信電力を前記送信電力として決定した後に前記第2の基地局に送信し、当該送信が失敗した際において、前記自局が前記第2の基地局の近傍に存在するか否かを判定し、前記近傍に存在しない場合は前記第3の送信電力に第4の電力制御値を再送信するたびに加算する動作を所定回数繰り返し、前記近傍に存在する場合は前記第3の送信電力で再送信する動作を所定回数繰り返すことを特徴とする、請求項5または6に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記電力制御手段における前記第4の制御は、前記第1の基地局と前記自局との間における伝播損失を算出し、前記無線通信に必要なターゲット電力に前記伝播損失分の電力を加算した第3の送信電力にさらに第5の電力制御値を加算した第4の送信電力を前記送信電力として決定した後に前記第1の基地局に送信し、当該送信が失敗した際において、前記第4の送信電力に第6の電力制御値を再送信するたびに加算する動作を所定回数繰り返すことを特徴とする、請求項5ないし7のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれかに記載の無線通信システムに用いられる移動局。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−182002(P2011−182002A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41421(P2010−41421)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(304058826)株式会社ウィルコム (56)
【Fターム(参考)】