説明

無線通信システム並びにそれに使用される送信機及び受信機

【課題】サブキャリア位相を制御することでOFDM信号のピーク対平均電力比を低減し、受信機側で、制御情報を用いることなく位相制御量を推定することができる無線通信システム並びにそれに使用される送信機及び受信機を提供する。
【解決手段】ターボ符号化OFDM信号のピーク対平均電力比を、検査ビットが割り当てられたサブキャリアに1または−1をとる重み係数を乗算することにより低減する。受信機側のターボ復号器は要素復号器を具え、各要素復号器では、MAP復号器で求めた外部値の絶対値平均を比較することで、重み係数を推定する。信頼性が高いと判断された外部値のみを他方の要素復号器の事前情報として用いることで、反復復号を行う。要素復号器間で重み係数の推定値が全て一致するか、規定の反復回数に達した場合に重み係数を確定する。重み係数が確定した後は、従来のターボ復号(繰り返し復号)を継続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交周波数分割多重(OFDM: Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式を用いた無線通信システム並びにそれに用いられる送信機及び受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
OFDM方式は、周波数選択性フェージングによる信号歪みの影響を軽減することができるので、高速無線通信に有効である。しかしながら、OFDM方式では、キャリア数の増加に伴い、ピーク対平均電力比(PAPR: Peak-to-Average Power Ratio)が上昇するため、送信電力増幅器での非線形歪みによる帯域外スペクトル放射を生じる。電力増幅器におけるバックオフ量を増加することで非線形歪みを軽減できるものの、シングルキャリア方式と比べて電力効率が大きく低下する。電力増幅器における非線形歪みを軽減し、電力効率を改善させる方法として、OFDM信号のピーク対平均電力比を低減する技術が知られている。
【非特許文献1】R. W. Bauml, R.F. H. Fischer and J. B. Huber, “Reducing the peak-to-average power ratio of multicarrier modulation by selective mapping,” Electron. Lett., vol.32, no.22, pp.2056-2057, Oct. 1996.
【非特許文献2】S. H. Muller and J. B. Huber, “OFDM with reduced peak-to-average power ratio by optimum combination of partial transmit sequence,” Electron. Lett., vol.33, no.5, pp.368-369, Feb. 1997.
【非特許文献3】M.Breiling, S. H. Muller, and J. B. Huber, "SLM Peak-Power Reduction without explicit side information," IEEE Commun. Letters, vol.5. no.6, pp.239-241, June 2001.
【非特許文献4】T. Fujii and M. Nakagawa, “Weighting factor estimation methods for partial transmit sequences OFDM to reduce peak power,” IEICE Trans. Commun., vol.E85-B, no.1, pp.221-230, Jan. 2002.
【非特許文献5】L.J.Cimini and N.R. Sollenberger, "Peak-to-Average Power ratio reduction of an OFDM signal using partial transmit sequence," IEEE Commun. Lett., vol.4, no.3, pp.86-88, March 2000.
【非特許文献6】L.Hanzo, T.H.Liew, and B.L.Yeap, “Turbo Coding, Turbo Equalization and Space-Time Coding for Transmission over fading channels,” John Wiley & Sons, LTD.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した背景技術には以下の問題がある。
【0004】
OFDM信号のPAPRを低減する技術は、クリッピング、符号化、サブキャリアの位相制御に基づく方式に大別できる。
【0005】
クリッピングは、PAPRが基準値以下になるように振幅を制限する技術であり、大きなピーク電力値の発生する確率が低いことを考慮するとPAPRの低減に有効である。しかし、クリッピングは非線形処理であるため、非線形ひずみによる帯域外スペクトル放射を生じる。クリッピング後にフィルタリングを施すことで帯域外スペクトルを除去できるものの、これはピーク再生成の原因となる。
【0006】
符号化による方式は、冗長ビット(冗長帯域)を付加し、高いピーク電力を発生させる組合せ(符号語)を避けて符号化することでPAPRを低減するものである。この符号語の冗長性は誤り訂正に利用可能である。しかし、そのためには、低PAPRと誤り訂正の双方の特性を有する特殊な符号語集合(符号化アルゴリズム)を見つける必要がある。
【0007】
サブキャリア位相制御に基づく方式として、選択マッピング方式(SLM: Selective Mapping)(例えば、非特許文献1参照)や部分系列伝送方式(PTS: Partial Transmit Sequence)(例えば、非特許文献2参照)が知られている。
【0008】
SLMはOFDM変調前の送信系列にランダムな位相系列をOFDMシンボル単位で乗算する方式であり、複数の候補の中からピーク電力が最小となる系列を選択することでPAPRを低減させる。
【0009】
一方、PTSは、全サブキャリアを複数のクラスタ(グループ)に分割し、クラスタ毎に適切な位相重み(位相回転子)を乗算した後、それらの出力を合成する方式である。ピーク電力が最小となるように各クラスタの位相重みを制御することでPAPRを低減することができる。
【0010】
SLMとPTSはPAPRの低減に有効であるが、両方式とも冗長な制御ビット(位相系列または位相重みの情報)がシンボル毎に必要となることに加えて、制御ビットに伝送誤りが生じた場合、元の情報の復元が困難となる。
【0011】
また、SLMのランダム系列乗算部に自己同期型スクランブラを用いる方式が報告されている(例えば、非特許文献3参照)。この方式では、制御情報が伝送誤りの影響を受けにくいという利点があるものの、冗長ビットの量は従来のPTSと変わらないため伝送効率は改善されない。
【0012】
また、PTS方式での重み係数を受信側で最尤推定する方式が提案されている(例えば、非特許文献4参照)。この方式はQPSK方式に対して有効であるが、多値変調を用いる場合、最尤推定に必要な計算量の増大が問題となる。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、送信機側でサブキャリア位相を制御(重み係数を乗算)することでOFDM信号のPAPRを低減し、制御情報を用いることなく受信機側で位相制御量(重み係数)を推定することができる無線通信システム並びにそれに使用される送信機及び受信機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の無線通信システムは、送信機と受信機とを備える無線通信システムにおいて、前記送信機は、組織ビットと検査ビットとを出力するターボ符号化器と、前記組織ビットと前記検査ビットとをOFDM信号のサブキャリアに割り当てる割当手段と、前記検査ビットが割り当てられた複数のサブキャリアに重み係数を乗算する係数乗算手段と、全てのサブキャリアを合成してOFDM信号を生成し伝送する合成手段を備え、前記受信機は、前記OFDM信号を受信する受信手段と、前記OFDM信号から受信データを抽出する抽出手段と、前記受信データを復号するためのターボ復号器とを備え、前記ターボ復号器は、外部値を計算する複数の要素復号手段と、前記要素復号器の外部値を利用して前記重み係数の推定値を決定する重み係数推定値決定手段と、前記重み係数の推定値と外部値の信頼度を検査する信頼度検査手段と、前記信頼度の基準を満たした外部値のみをインタリーバまたはデインタリーバを介して要素復号器間で通知しあう通知手段を備えることを特徴の1つとする。
【0015】
このように構成することにより、重み係数の取り得る値が1または-1の2通りであるので、受信側では、要素復号器の外部値を利用して重み係数を推定することができる。
【0016】
また、本発明にかかる送信機は、組織ビットと検査ビットとを出力するターボ符号化器と、前記組織ビットと前記検査ビットとをOFDM信号のサブキャリアに割り当てる割当手段と、前記検査ビットが割り当てられた複数のサブキャリアに重み係数を乗算する係数乗算手段と、全てのサブキャリアを合成してOFDM信号を生成し伝送する合成手段とを備えることを特徴の1つとする。
【0017】
このように構成することにより、サブキャリア位相を制御(重み係数を乗算)することでOFDM信号のPAPRを低減することができる。
【0018】
また、本発明の受信機は、OFDM信号を受信する受信手段と、前記OFDM信号から受信データを抽出する抽出手段と、前記受信データを復号するためのターボ復号器とを備え、前記ターボ復号器は、外部値を計算する複数の要素復号手段と、前記要素復号器の外部値を利用して前記重み係数の推定値を決定する重み係数推定値決定手段と、前記重み係数の推定値と外部値の信頼度を検査する信頼度検査手段と、前記信頼度の基準を満たした外部値のみをインタリーバまたはデインタリーバを介して要素復号器間で通知しあう通知手段とを備えることを特徴の1つとする。
【0019】
このように構成することにより、位相制御量(重み係数)を推定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実施例によれば、送信機側でサブキャリア位相を制御(重み係数を乗算)することでOFDM信号のPAPRを低減し、制御情報を用いることなく受信機側で位相制御量(重み係数)を推定することができる無線通信システム並びにそれに使用される送信機及び受信機を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0022】
図1は、本発明の実施例にかかる無線通信システムの送信機の構成を示すブロック図である。
【0023】
本実施例にかかる送信機は、情報ビット系列が入力されるターボ符号化器11と、ターボ符号化器11と接続された変調器12とを備える。変調部12は、ターボ符号化器11の出力のうち、検査ビットが入力される変調器12と、組織ビットが入力される変調器12とを備える。
【0024】
また、送信機は、変調器12の出力が入力される直並列変換器(S/P)13と、変調器12の出力が入力される直並列変換器13と、直並列変換器13および直並列変換器13の出力が入力される割当手段としての複数のIFFT回路14と、複数のIFFT回路のうち、直並列変換器13と接続されたIFFT回路の出力が入力される係数乗算部15と、係数乗算部15および直並列変換器13の出力が入力されるIFFT回路の出力が入力される合成手段としての加算器16と、加算器16と接続されたガードインターバル挿入回路17とを備える。
【0025】
情報ビット系列が、入力部10より入力され、ターボ符号化器11で符号化される。ターボ符号化器11は複数の要素符号器を有し、組織ビット(入力された情報ビット)と、各要素符号器で生成された検査ビットを出力する。このとき、ターボ符号の符号化率を変更するために、検査ビットを一定規則に従い削除(パンクチャード符号化)してもよい。
【0026】
組織ビットは変調器12により送信シンボルに変換された後、直並列変換器13を介して、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)回路14に入力される。IFFT回路14はOFDM変調回路として働く。
【0027】
一方、検査ビットは変調器12により送信シンボルに変換された後、直並列変換器13に入力される。直並列変調器13の出力を、複数のクラスタ(グループ)に分けてIFFT回路14によりIFFTを実行する。
【0028】
例えば、組織キャリア(組織ビットが割り当てられたサブキャリア)のグループを1番目のクラスタと定義し、検査キャリア(検査ビットが割り当てられたサブキャリア)を複数のグループに分割し、これらを2番目以降のクラスタと定義する。その結果、組織ビットと検査ビットは、OFDM信号のサブキャリアに割り当てられる。
【0029】
組織キャリアと検査キャリアは任意の周波数に配置することが可能である。例えば、同一クラスタのサブキャリアが隣り合う周波数に連続的に配置されていてもよいし(図2参照)、飛び飛びの周波数に配置されていてもよい(図3参照)。
【0030】
2番目以降のクラスタには、異なる要素符号器で生成された検査ビットが割り当てられたサブキャリアがそれぞれ同程度の数、含まれるものとする。
【0031】
IFFT回路14の出力信号は係数乗算部15に入力され、1または−1をとる重み係数Aが乗算される。例えば、直並列変換器13の出力が入力される複数のIFFT回路の各出力に対して重み係数が乗算され、直並列変換器13の出力が入力されるIFFT回路の出力に対しては重み係数が乗算されない。すなわち、検査ビットが割り当てられた複数のサブキャリアに重み係数が乗算され、組織ビットが割り当てられたクラスタには重み係数が乗算されない。
【0032】
係数乗算部15は、各クラスタの信号の同相成分(以下、I相)と直交成分(以下、Q相)に対して異なる重み係数値を乗算する構成であってもよいし、I相とQ相に同じ重み係数値を乗算する構成であってもよい。
【0033】
全てのIFFT回路の出力信号は、加算器16により合成される。その結果、OFDM信号が生成される。
【0034】
係数乗算部15は、OFDM信号のPAPRが最小となるように重み係数Aをシンボル毎に定める。重み係数Aを求める方法は、全ての可能な組み合わせの中から最適な組み合わせを選ぶ方法を用いてもよいし、反復フリッピング法(例えば、非特許文献5参照)のような簡略化アルゴリズムを用いてもよい。
【0035】
OFDM信号は、ガードインターバル挿入回路17においてガードインターバルが挿入された後、出力部18から出力される。
【0036】
重み係数Aが−1であるとき、重み係数が乗算された信号の極性が反転する。したがって、受信機では、重み係数が1と−1のいずれであるのかを推定して、反転された信号の極性を元に戻す必要がある。重み係数の取り得る値は、1または−1の2通りであることから、受信機では、重み係数が1である可能性と−1である可能性を比較することで重み係数を推定する。重み係数の推定方法の詳細については以下で説明する。
【0037】
図4は、本発明の実施例にかかる無線通信システムの受信機の構成を示すブロック図である。
【0038】
本実施例にかかる受信機は、OFDM信号が受信されるガードインターバル除去回路21と、ガードインターバル除去回路21の出力が入力される伝搬路特性計算回路22および直並列変換器(S/P)23と、直並列変換器23の出力が入力されるFFT回路24と、FFT回路24の出力および伝搬路特性計算回路22の出力が入力される抽出手段としての同期検波回路25と、同期検波回路25の出力が入力される並直列変換器(P/S)26と、並直列変換器26の出力が入力されるシンボル/ビット変換器27と、シンボル/ビット変換器27の出力が入力されるターボ復号器281と、ターボ復号器281の出力が入力される硬判定器282とを備える。
【0039】
受信部20によりOFDM信号が受信される。ガードインターバル除去回路21によりガード区間が除去された信号は、直並列変換器23および伝搬路特性計算回路に入力される。直並列変換器23に入力された信号は、直並列変換され、FFT回路24(OFDM復調回路)に入力される。FFT回路24の出力は、同期検波回路25に入力され、伝搬路特性計算回路22で求められた伝搬路特性を用いて同期検波され、受信データが抽出される。同期検波回路25の出力系列は、並直列変換器26、シンボル/ビット変換器27を介して、軟判定ビット列に変換される。軟判定ビット列はターボ復号器281に入力され、重み係数Aの推定と誤りの訂正が行われ、受信データの復号が行われる。ターボ復号器281の出力系列は、硬判定器282において1または0の系列に変換される。
【0040】
次に、ターボ復号器281について説明する。図5Aは、ターボ復号器281の詳細を示すブロック図である。
【0041】
ターボ復号器281は、2つの要素復号器31及び32と、インタリーバ33と、デインタリーバ34と、信頼度検査手段としての比較器35と、通知手段としての判定器36とを備える。
【0042】
具体的には、ターボ復号器281は、検査ビットおよび組織ビットが入力される要素復号器31と、要素復号器31の出力が入力される判定器36、比較器35および35と、判定器36の出力が入力されるインタリーバ33と、判定器36の出力が入力されるデインタリーバ34と、組織ビットが入力されるインタリーバ33と、インタリーバ33および33の出力および検査ビットが入力される要素復号器32とを備える。比較器35および35の出力は、判定器36および36に入力される。デインターリーバ34の出力は、要素復号器31に入力される。要素復号器32の出力は、比較器35および35、および判定器36に入力される。
【0043】
入力部311及び321から組織ビットが、入力部312及び322から検査ビットが入力される。要素復号器31及び32は、入力された組織ビットと検査ビットに基づき外部値を求め、該外部値に基づき、重み係数の推定値^Aを求める。説明の簡単化のために、要素復号器31で推定された重み係数を^A1、要素復号器32で推定された重み係数を^A2と表記する。
【0044】
ここで、要素復号器31及び32の構成について、図5Bを参照して説明する。
【0045】
図5Bは、要素復号器31及び32の詳細を示すブロック図である。
【0046】
要素復号器は、組織ビットおよび検査ビットが入力される要素復号手段としてのMAP復号器451と、スイッチ43と、スイッチが閉じている場合に検査ビットが入力される極性反転回路44と、スイッチが閉じている場合に、組織ビットと、極性反転回路の出力が入力される要素復号手段としてのMAP復号器452と、MAP復号器451および452の出力が入力される選択回路49および絶対値計算回路46と、絶対値計算回路46の出力が入力される平均値計算回路47と、平均値計算回路47の出力が入力される重み係数推定値決定手段としての比較器48とを備える。比較器48の出力は選択回路49に入力される。
【0047】
スイッチ43は、極性反転回路44とMAP復号器452の動作状態を説明するための記号である。スイッチ43が閉じているとき、極性反転回路44とMAP復号器452は動作し、スイッチ43が開いているとき、極性反転回路44とMAP復号器452は停止する(動作しない)ことを表す。復号開始時点ではスイッチ43は閉じられている。したがって、入力部41より入力された組織ビットは、MAP(Maximum A-Posterior)復号器451と452に入力される。入力部42より入力された検査ビットはMAP復号器451と極性反転回路44に入力される。
【0048】
極性反転回路44は、入力信号に−1を乗算する回路である。重み係数として−1が乗算された入力信号に対して、極性反転回路44は重み係数を除去するように働く。サブキャリアの変調方式として多値QAMを用いる場合、多値QAMシンボルのI相、Q相の最上位ビットに対応するデータにのみ−1を乗算する。
【0049】
この理由は、図6に示すように、(グレイ符号化)多値QAMシンボルのI相とQ相には、最上位ビット以外は原点対称となるようにビットを割り当てるので、送信シンボルの極性が反転したとしてもI相とQ相の最上位ビット以外は影響を受けないためである。
【0050】
極性反転回路44の出力である検査ビットデータはMAP復号器452に入力される。MAP復号器451と452は、入力された組織ビットと検査ビットに基づき、例えばMAP(またはMax−log−MAP)アルゴリズムを用いて外部値を計算する(例えば、非特許文献6参照)。
【0051】
図7は、拘束長K=4のターボ符号に対するトレリス線図の例を示す。同一の重み係数が乗算されている検査ビットと対応する組織ビットのグループとを1ブロックと定義する。ここで、α(i)は初期状態から時刻mに至る全ての状態推移で、時刻mにおいて状態iである確率を表す。β(i)は終了状態から時刻mに至る全ての状態推移で、時刻mにおいて状態iである確率を表す。
【0052】
重み係数の推定値が確定していないとき、ブロック境界のノードでの各状態のα(i)、β(i)を等確率とみなして計算を行う。この理由は、重み係数が正しく推定されていないブロックではα(i)、β(i)が適切に求まらないので、これらの不適切なα(i)、β(i)の情報を隣接ブロックに引き継がないようにするためである。後述する条件を満たし、重み係数の値が確定した後は、ブロック境界のノードでの各状態のα(i)、β(i)を等確率とすることを止める、例えば、MAP復号と同じアルゴリズムを用いる。
【0053】
MAP復号器451、452から出力された外部値L(m)、^L(m)は選択回路49と絶対値計算回路46に入力される。ここで、mは時刻を表す。絶対値計算回路46はL(j)(m)と^L(j)(m)の絶対値である|L(j)(m)|、|^L(j)(m)|を出力する。jはブロック番号を表す。
【0054】
平均値計算回路47は、絶対値計算回路46の1ブロック分の出力の平均値であるAL(j)=〈|L(j)(m)|〉、A^L(j)=〈|^L(j)(m)|〉を計算する回路である。ここで、〈a〉は系列{a}の平均値を示す。比較器48は、重み係数が取り得る値のそれぞれについて確からしさを求め、最も確からしい値を重み係数として選択する。例えば、重み係数の推定値の確からしさの指標として、要素復号器で求めた外部値の絶対値の平均値を用い、この平均値を最大とする重み係数を最も確からしいとみなす。具体的には、AL(j)とA^L(j)の比較を行い、次式のように重み係数^Aを決定する。すなわち、外部値を利用して重み係数の推定値を決定する。
【0055】
【数1】

式(1)は、検査ビットが反転していない場合(AL(j))と反転している場合(A^L(j))を比較して、AL(j)が大きいとき検査ビットの反転がない(重み係数^A=1)とみなし、A^L(j)が大きいとき検査ビットが反転している(重み係数^A=−1)とみなすことを表す。式(1)の^Aは出力部491より出力される。選択回路49は、式(1)の^Aを参照して、L(j)(m)と^L(j)(m)のいずれかを次式のようにして選択する。
【0056】
【数2】

式(3)により選択した外部値
【0057】
【数3】

は出力部492より出力される。
【0058】
上述のアルゴリズムでは、式(1)の推定結果に誤りがある場合、式(3)において誤った^Aに対応する外部値が選択される。したがって、不適切な外部値を他の要素復号器の事前情報として用いることで、復号誤りが伝搬し、BER特性を劣化させる可能性がある。
【0059】
この問題に対処するために、要素復号器で求めた外部値の信頼性を次に示す方法で検査する。^A1と^A2の値を比較器35および35において比較し、2つの重み係数の推定値が一致するかどうかを判定器36および36に通知する。すなわち、重み係数の推定値と外部値の信頼度を検査する。判定器36および36は、次式を用いて外部値を求める。
【0060】
【数4】

ここで、^A1、^A2はそれぞれ1番目と2番目の要素復号器におけるj番目のブロックの重み係数の推定値を示す。式(4)を用いるとき、2つの要素復号器の重み係数の推定値が一致しない場合、判定器36および36はこの重み係数が乗算された検査ビットに対する外部値を0とし、出力しない。信頼度の基準を満たした外部値のみをインタリーバまたはデインタリーバを介して、要素復号器間で通知しあう。このように、信頼性が高いと判断された外部値のみを用いて復号と推定を繰り返すことで、重み係数の推定精度を反復毎に改善することができる。
【0061】
上述の重み係数の推定手順を、「2つの要素復号器の重み係数の推定結果が全て同一となる」または「反復復号回数が規定の回数Nに達する」まで繰り返す。
【0062】
上記の基準が満たされた場合、重み係数の値を確定し、以下の処理を実行する。
【0063】
図5Bのスイッチ43を開き、MAP復号器452を停止し、MAP復号器451のみを動作させる。MAP復号器451は、ブロック境界のノードでの各状態のα(i)、β(i)を等確率とすることを止め、従来と同一のアルゴリズムにより外部値を求める。
【0064】
重み係数の値が確定した後のターボ復号器及び要素復号器の構成を図8A、図8Bに示す。重み係数が確定した後の復号処理は、乗算器30において検査ビットに重み係数の推定値を乗算すること以外は、従来のターボ復号と同一である。すなわち、複数の要素復号器間、例えば要素復号器31、要素復号器32間でインタリーバまたはデインタリーバを介して、外部値を通知しあいながら繰り返し復号を継続する。
【0065】
重み係数の推定に要する反復回数をnr、重み係数が確定した後の通常のターボ復号における反復回数をNとする場合、ターボ復号の全反復回数Nitは、式(5)となる。
【0066】
it=nr+N (5)
となる。ここで、nr<Nである。
【0067】
本発明の実施例にかかる無線通信システムのPAPR低減と重み係数推定の効果について、計算機シミュレーション結果を参照して説明する。なお、シミュレーション条件を以下の表に示す。
【0068】
【表1】

図9は、本実施例にかかる無線通信システムのPAPR低減方式を適用した場合のOFDM信号の瞬時電力値の補累積分布関数(CCDF)特性を示す。比較のため、従来方式(PTS)によりPAPR低減を行う場合のCCDF特性も示す。NCLはクラスタ数を表す。図9によれば、本実施例の方式が、従来方式(PTS)と同等のPAPR低減特性を達成することを示している。
【0069】
図10は、本実施例にかかる無線通信システムの重み係数の推定方法を適用した場合の平均ビット誤り率特性を示す。比較のため、重み係数の推定が完全である場合の平均ビット誤り率特性も示す。図10によれば、本実施例にかかる重み係数推定方法を用いた場合と重み係数の推定が完全である場合とを比較して大きな特性劣化がなく、本発明の実施例による重み係数の推定精度が十分に高いことを示している。
【0070】
本発明の実施例によれば、送信機側で、検査ビットが割り当てられたサブキャリアに1または−1をとる重み係数を乗算し、サブキャリア位相を適応的に制御することで、OFDM信号のPAPRを低減できる。また、重み係数の取り得る値が限られていることから、受信側では、これらの可能性を比較して、最も可能性の高い値を重み係数の推定値とすることにより、制御情報を用いることなく重み係数を決定することができる。これにより、電力増幅器で発生する非線形歪みを軽減し、電力増幅器における電力効率を改善することができる。また、制御情報を用いることによる伝送効率の低下を回避することができる。
【0071】
本実施例にかかる無線通信システムにおいては、重み係数の取り得る値が1または−1の2通りであるので、受信側では、重み係数が1である可能性と−1である可能性を比較することで、重み係数を推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明にかかる無線通信システム、送信機及び受信機は、移動通信システムに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例に係る無線通信システム用の送信機を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施例に係るサブキャリアのクラスタ分割を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施例に係るサブキャリアのクラスタ分割を示す説明図である。
【図4】本発明の実施例に係る無線通信システム用の受信機を示すブロック図である。
【図5A】本発明の一実施例にかかるターボ復号器を示すブロック図である。
【図5B】本発明の一実施例にかかるターボ復号器の要素復号器を示すブロック図である。
【図6】グレイ符号化64QAMシンボルの同相軸上でのビットマッピングの一例を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施例に係る要素復号器のトレリス線図である。
【図8A】本発明の実施例に係る重み係数確定後のターボ復号器を示すブロック図である。
【図8B】本発明の実施例に係る重み係数確定後のターボ復号器の要素復号器を示すブロック図である。
【図9】PAPR低減を行う場合のOFDM信号の瞬時電力値の補累積分布関数特性を示す特性図である。
【図10】PAPR低減および重み係数推定を行う場合の平均ビット誤り率特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0074】
10、20、311、312、321,322,41、42 入力端子
11 ターボ符号化器
12 変調器
13、23 直並列変換器
14 IFFT回路
15 係数乗算器
16 加算器
17 ガードインターバル挿入回路
18、29、491、492 出力端子
21 ガードインターバル除去回路
22 伝搬路特性計算回路
24 FFT回路
25 同期検波回路
26 並直列変換器
27 シンボル/ビット変換
281 ターボ復号器
282 硬判定器
31、32 要素復号器
33 インターリーバー
34 デインターリーバー
35、48 比較器
36 判定器
43 スイッチ
44 極性反転回路
451、452 MAP復号器
46 絶対値計算器
47 平均値計算器
49 選択回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機と受信機とを備える無線通信システムにおいて:
前記送信機は、
組織ビットと検査ビットとを出力するターボ符号化器;
前記組織ビットと前記検査ビットとをOFDM信号のサブキャリアに割り当てる割当手段;
前記検査ビットが割り当てられた複数のサブキャリアに重み係数を乗算する係数乗算手段;
全てのサブキャリアを合成してOFDM信号を生成し伝送する合成手段;
を備え、
前記受信機は、
前記OFDM信号を受信する受信手段;
前記OFDM信号から受信データを抽出する抽出手段;
前記受信データを復号するためのターボ復号器と;
を備え、
前記ターボ復号器は、
外部値を計算する複数の要素復号手段;
前記要素復号器の外部値を利用して前記重み係数の推定値を決定する重み係数推定値決定手段;
前記重み係数の推定値と外部値の信頼度を検査する信頼度検査手段;
前記信頼度の基準を満たした外部値のみをインタリーバまたはデインタリーバを介して要素復号器間で通知しあう通知手段;
を備えることを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて:
前記サブキャリアに乗算する重み係数が、1または−1のいずれか1つであることを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて:
前記サブキャリアに乗算する重み係数が、OFDM信号のピーク対平均電力比を最小とするように選ばれることを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて:
前記サブキャリアの変調方式として多値QAMを用いる場合、同相成分と直交成分の最上位ビット以外は原点対称となるように送信すべきビットを割り当てることを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて:
前記重み係数推定値決定手段は、前記重み係数が取り得る値のそれぞれについて確からしさを求め、最も確からしい値を重み係数として選択することを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
請求項5に記載の無線通信システムにおいて:
前記重み係数の推定値の確からしさの指標として、要素復号器で求めた外部値の絶対値の平均値を用い、この平均値を最大とする重み係数を最も確からしいとみなすことを特徴とする無線通信システム。
【請求項7】
請求項1、2および5のいずれか1項に記載の無線通信システムにおいて:
前記重み係数の取り得る値が1または−1であるとき、受信機において検査ビットに1を乗算した場合と−1を乗算した場合の確からしさを比較して、前者の方が確からしい場合に重み係数を1と推定し、後者の方が確からしい場合に重み係数を−1と推定することを特徴とする無線通信システム。
【請求項8】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて:
前記重み係数の推定を複数の要素復号器を用いて繰り返し実行することを特徴とする無線通信システム。
【請求項9】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて:
検査ビットに乗算された重み係数を複数の要素復号器で推定し、それらの推定結果が一致しない場合に該検査ビットに対応する外部値の信頼度が低いと判断し、該検査ビットに対応する外部値を0とし、出力しないことを特徴とする無線通信システム。
【請求項10】
請求項9に記載の無線通信システムにおいて:
前記要素復号器で求めた重み係数の推定値が、その他の要素復号器で求めた重み係数の推定値と全て一致した場合に重み係数の推定を終了することを特徴とする無線通信システム。
【請求項11】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて:
前記重み係数の推定が終了した後、複数の要素復号器間でインタリーバまたはデインタリーバを介して外部値を通知しあいながら繰り返し復号を継続することを特徴とする記載の無線通信システム。
【請求項12】
組織ビットと検査ビットとを出力するターボ符号化器;
前記組織ビットと前記検査ビットとをOFDM信号のサブキャリアに割り当てる割当手段;
前記検査ビットが割り当てられた複数のサブキャリアに重み係数を乗算する係数乗算手段;
全てのサブキャリアを合成してOFDM信号を生成し伝送する合成手段;
を備えることを特徴とする送信機。
【請求項13】
OFDM信号を受信する受信手段;
前記OFDM信号から受信データを抽出する抽出手段;
前記受信データを復号するためのターボ復号器;
を備え、
前記ターボ復号器は、
外部値を計算する複数の要素復号手段;
前記要素復号器の外部値を利用して前記重み係数の推定値を決定する重み係数推定値決定手段;
前記重み係数の推定値と外部値の信頼度を検査する信頼度検査手段;
前記信頼度の基準を満たした外部値のみをインタリーバまたはデインタリーバを介して要素復号器間で通知しあう通知手段;
を備えることを特徴とする受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−74148(P2007−74148A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256942(P2005−256942)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月7日 社団法人電子情報通信学会発行の「2005年電子情報通信学会 総合大会講演論文集 通信1」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年6月10日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.105 No.121」に発表
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】