説明

無線通信システム

【課題】移動局がゾーン境界を通過した直後も、上り回線通信が断たれることのない無線通信システムを提供する。
【解決手段】基地局1aの漏洩同軸ケーブル通信の受信入力となるLCX3cは、境界Aを越えてゾーンZ2内の位置Bまでをカバーするように配置され、基地局1bの漏洩同軸ケーブル通信の受信入力となるLCX3dは、境界Aを越えてゾーンZ1内の位置Cまでをカバーするように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信システムに関し、特に、列車無線システムにおいて、漏洩同軸ケーブル(LCX)を使用した無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な列車無線システムにおいては、例えば、非特許文献1の第16頁〜第23頁に説明されているように、列車、すなわち移動局の走行路に対応させて複数の通信領域を設定し、各通信領域をゾーンと呼称している。ゾーンは、単数または複数の基地局を含み、各ゾーンは固有の識別情報を使用することで、他のゾーンの通信との混信を防止している。
【0003】
周波数が同一で、識別情報が異なる2つのゾーンに渡って移動局が移動した場合、移動局は移動先のゾーンの基地局からの下り回線信号により識別情報を受けて、移動先のゾーンに移動したことを識別した後に、移動先のゾーンの識別情報に変更して移動局から基地局への上り回線信号を送信することになる。
【0004】
従って、ゾーン境界を通過して識別情報の変化を検出し、新たな識別情報に変更して送信を行うまでの間は、上り回線信号は移動前のゾーンの識別情報のまま送信されることになり、それを受信した基地局、または基地局を統括する中央装置では、移動先のゾーンに適合した信号ではないと判断し、無効信号として扱う。このため、移動局がゾーンを移動した後であって、移動先のゾーンの識別情報で送信を始めるまでの間(これを境界通過直後と呼称する)は、上り回線は通信途絶状態となる可能性があった。
【0005】
【非特許文献1】(社)日本鉄道電気技術協会発行、「鉄道技術者のための電気概論 通信シリーズ4 列車無線」、平成5年11月発行、p.7〜23
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上説明したように、従来の列車無線システムにおいては、移動局がゾーン境界を通過した直後に、移動局から基地局への上り回線が途絶されるという問題を有していた。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、移動局がゾーン境界を通過した直後も、上り回線通信が断たれることのない無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る無線通信システムの第1の態様は、移動局の走行路に対応させて通信領域であるゾーンが複数設定され、各ゾーンに含まれる基地局と移動局との間で無線通信を行うための無線通信システムであって、複数の前記ゾーンにおいては通信周波数を共通とし、それぞれで固有の識別情報を信号に付加することでゾーン間での混信を防止し、前記基地局の送信出力となる第1の漏洩同軸ケーブルと、前記基地局の受信入力となる第2の漏洩同軸ケーブルと、を備え、前記第1の漏洩同軸ケーブルは、一方端が隣接するゾーンとの間の境界部に位置するように前記移動局の走行路に沿って配置されて前記ゾーンの境界領域を規定し、前記第2の漏洩同軸ケーブルは、一方端が前記境界部を越えて前記隣接するゾーン内の所定位置に存在するように前記移動局の走行路に沿って配置される。
【0009】
本発明に係る無線通信システムの第2の態様は、移動局の走行路に対応させて通信領域であるゾーンが複数設定され、各ゾーンに含まれる基地局と移動局との間で無線通信を行うための無線通信システムであって、複数の前記ゾーンにおいては通信周波数を共通とし、それぞれで固有の識別情報を信号に付加することでゾーン間での混信を防止し、前記基地局の送信出力となる漏洩同軸ケーブルと、前記基地局の受信入力となる空間波通信のアンテナと、を備え、前記漏洩同軸ケーブルは、一方端が隣接するゾーンとの間の境界部に位置するように前記移動局の走行路に沿って配置されて前記ゾーンの境界領域を規定し、前記アンテナは、前記境界領域とともに前記隣接するゾーン内の所定位置までの空間波通信を受信できる位置に配置される。
【0010】
本発明に係る無線通信システムの第3の態様は、移動局の走行路に対応させて通信領域であるゾーンが複数設定され、各ゾーンに含まれる基地局と移動局との間で無線通信を行うための無線通信システムであって、複数の前記ゾーンにおいては通信周波数を共通とし、それぞれで固有の識別情報を信号に付加することでゾーン間での混信を防止し、前記基地局の受信入力および送信出力となる漏洩同軸ケーブルと、前記漏洩同軸ケーブルの一方端に、送信波を除去するフィルタを介して接続された受信専用アンテナと、を備え、前記漏洩同軸ケーブルは、前記一方端が隣接するゾーンとの間の境界部に位置するように前記移動局の走行路に沿って配置されて前記ゾーンの境界領域を規定し、前記受信専用アンテナは、前記境界部から前記隣接するゾーン内の所定位置までの空間波通信を受信できる位置に配置される。
【0011】
本発明に係る無線通信システムの第4の態様は、移動局の走行路に対応させて通信領域であるゾーンが複数設定され、各ゾーンに含まれる基地局と移動局との間で無線通信を行うための無線通信システムであって、複数の前記ゾーンにおいては通信周波数を共通とし、それぞれで固有の識別情報を信号に付加することでゾーン間での混信を防止し、前記基地局の受信入力および送信出力となる漏洩同軸ケーブルと、前記漏洩同軸ケーブルの一方端に、前記基地局の方向だけに電波を通過させるアイソレータを介して接続された受信専用アンテナと、を備え、前記漏洩同軸ケーブルは、前記一方端が隣接するゾーンとの間の境界部に位置するように前記移動局の走行路に沿って配置されて前記ゾーンの境界領域を規定し、前記受信専用アンテナは、前記境界部から前記隣接するゾーン内の所定位置までの空間波通信を受信できる位置に配置される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る無線通信システムの第1の態様によれば、第2の漏洩同軸ケーブルは、一方端が境界部を越えて隣接するゾーン内の所定位置に存在するように移動局の走行路に沿って配置されるので、隣接するゾーンに移動局が移動した場合に、移動前のゾーンの識別情報のまま移動局から送信される上り回線信号を、移動前のゾーンの基地局に接続された第2の漏洩同軸ケーブルで受信することができるので、移動局が境界部を通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができ、通信不感地帯を低減する効果がある。
【0013】
本発明に係る無線通信システムの第2の態様によれば、アンテナが、境界領域とともに隣接するゾーン内の所定位置までの空間波通信を受信できる位置に配置されるので、隣接するゾーンに移動局が移動した場合に、移動前のゾーンの識別情報のまま移動局から送信される上り回線信号を、移動前のゾーンの基地局に接続されたアンテナで受信することができるので、移動局が境界部を通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができ、通信不感地帯を低減する効果がある。
【0014】
本発明に係る無線通信システムの第3の態様によれば、受信専用アンテナが、境界部から隣接するゾーン内の所定位置までの空間波通信を受信できる位置に配置されるので、隣接するゾーンに移動局が移動した場合に、移動前のゾーンの識別情報のまま移動局から送信される上り回線信号を、移動前のゾーンの基地局に接続された受信専用アンテナで受信することができるので、移動局が境界部を通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができ、通信不感地帯を低減する効果がある。
【0015】
本発明に係る無線通信システムの第4の態様によれば、受信専用アンテナが、境界部から隣接するゾーン内の所定位置までの空間波通信を受信できる位置に配置されるので、隣接するゾーンに移動局が移動した場合に、移動前のゾーンの識別情報のまま移動局から送信される上り回線信号を、移動前のゾーンの基地局に接続された受信専用アンテナで受信することができるので、移動局が境界部を通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができ、通信不感地帯を低減する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<前提技術について>
本発明に係る実施の形態の説明に先立って、図1を用いて、列車無線システムの前提技術について説明する。
【0017】
図1においては、ゾーンZ1とゾーンZ2との境界位置を境界Aとして示し、境界Aの近傍には、ゾーンZ1では境界基地局として基地局1aが配置され、ゾーンZ2では境界基地局として基地局1bが配置されている。
【0018】
基地局1aには、空間波通信の送信出力および受信入力となるアンテナ2a、および漏洩同軸ケーブル通信の送信出力および受信入力となるLCX3aが共通に接続され、LCX3aは送受信アンテナ6を有する移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3aの先端には、終端のための終端器4aが取り付けられ、基地局1aの無線回線を構成している。
【0019】
基地局1bには、空間波通信の送信出力および受信入力となるアンテナ2b、および漏洩同軸ケーブル通信の送信出力および受信入力となるLCX3bが共通に接続され、LCX3bは移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3bの先端には、終端のための終端器4bが取り付けられ、基地局1bの無線回線を構成している。
【0020】
また、ゾーンZ2においては、基地局1b以外に、アンテナ2cを有する基地局1c等の複数の基地局が配置されていることを示しており、これは、ゾーンZ1においても同様であるが、図示は省略している。
【0021】
なお、図1では、全ての基地局がアプローチ回線で中央装置7に接続された構成を示しているが、ゾーンごとに対応する中央装置を設け、各ゾーンの基地局は、対応する中央装置に接続された構成を採っても良い。
【0022】
基地局1aおよび1bにそれぞれ接続されるLCX3aおよび3bは、境界Aにおいて、ゾーンZ1およびZ2の基地局1aおよび1bから、移動局5への下り回線電波のオーバラップが最低になるように配置されている。
【0023】
ここで、複数のゾーンで同一の周波数を使用する列車無線システムにおいては、隣接ゾーンへの混信による誤着信等を防止するために、基地局から移動局への下り回線信号、および、移動局から基地局への上り回線信号に識別情報を付加している。
【0024】
移動局5がゾーンZ1からゾーンZ2に移動する場合、境界Aを通過すると、移動局5は、LCX3bから送信される下り回線信号からゾーンZ2の識別情報を検出した後に、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ2の識別情報に変更する処理を行う。従って、識別情報の変更が完了するまでの間に、上り通信の要求があった場合は、上り回線信号は、ゾーンZ1の識別情報のままで送信される。
【0025】
逆に、移動局5がゾーンZ2からゾーンZ1に移動する場合、境界Aを通過すると、移動局5は、LCX3aから送信される下り回線信号からゾーンZ1の識別情報を検出した後に、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ1の識別情報に変更する処理を行う。従って、識別情報の変更が完了するまでの間に、上り通信の要求があった場合は、上り回線信号は、ゾーンZ2の識別情報のままで送信される。
【0026】
このように、移動局がゾーン境界を通過した直後は、移動局から基地局への上り回線信号は、移動前のゾーンの識別情報のまま送信されていた。
【0027】
発明者は、この状況に着目し、上り回線においてはゾーン境界で意図的にオーバラップ区間を設け、移動局が移動先のゾーンで、移動前のゾーンの識別情報のまま送信した上り通信信号を、移動前のゾーンの上り通信信号として受信するという技術思想に到達した。
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0028】
<実施の形態1>
<システム構成>
図2に本発明に係る実施の形態1の列車無線システムの構成を示す。
図2においては、ゾーンZ1とゾーンZ2との境界位置を境界Aとして示し、境界Aの近傍には、ゾーンZ1では境界基地局として基地局1aが配置され、ゾーンZ2では境界基地局として基地局1bが配置されている。
【0029】
基地局1aには、空間波通信の送信出力となるアンテナ2a、および漏洩同軸ケーブル通信の送信出力となるLCX3aが共通に接続され、LCX3aは移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3aの先端には、終端のための終端器4aが取り付けられて基地局1aの下り回線を構成している。また、基地局1aには、空間波通信の受信入力となるアンテナ2d、および漏洩同軸ケーブル通信の受信入力となるLCX3cが共通に接続され、LCX3cは移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3cの先端には、終端のための終端器4cが取り付けられて基地局1aの上り回線を構成している。
【0030】
境界基地局1bには、空間波通信の送信出力となるアンテナ2b、および漏洩同軸ケーブル通信の送信出力となるLCX3bが接続され、LCX3bは移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3bの先端には、終端のための終端器4bが共通に取り付けられて、境界基地局1bの下り回線を構成している。また、基地局1bには、空間波通信の受信入力となるアンテナ2e、および漏洩同軸ケーブル通信の受信入力となるLCX3dが共通に接続され、LCX3dは移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3dの先端には、終端のための終端器4dが取り付けられて基地局1bの上り回線を構成している。
【0031】
なお、ゾーンZ2においては、基地局1b以外に、アンテナ2cを有する基地局1c等の複数の基地局が配置されていることを示しており、これは、ゾーンZ1においても同様であるが、図示は省略している。
【0032】
図1に示すように、基地局1aおよび1bのそれぞれの漏洩同軸ケーブル通信の送信出力となるLCX3aおよび3bは、境界Aにおいて、ゾーンZ1およびZ2の基地局1aおよび1bから、移動局5への下り回線電波のオーバラップが最低になるように配置されている。
【0033】
すなわち、漏洩同軸ケーブルの先端からは電波が漏れるため、漏洩同軸ケーブルを終端させるために終端器を取り付けるが、若干の漏洩電波により発生するオーバラップを防止するために、LCX3aの先端とLCX3bの先端とを離して配置している。この離間距離は、特に限定されるものではなく、数m〜数十mの範囲で任意に選択すれば良い。なお、LCX3aおよびLCX3bは、それぞれのゾーンの境界領域を規定していると言うことができる。
【0034】
一方、基地局1aの漏洩同軸ケーブル通信の受信入力となるLCX3cは、境界Aを越えてゾーンZ2内の位置Bまでをカバーするように配置され、基地局1bの漏洩同軸ケーブル通信の受信入力となるLCX3dは、境界Aを越えてゾーンZ1内の位置Cまでをカバーするように配置されている。
【0035】
ここで、図2においては、基地局1aでカバーする受信エリアをゾーンZ10として表し、ゾーンZ10の領域は、ゾーンZ1の領域に境界Aから位置Bまでの領域を加えた領域となる。また、基地局1bでカバーする受信エリアをゾーンZ20として表し、ゾーンZ20の領域は、ゾーンZ2の領域に境界Aから位置Cまでの領域を加えた領域となる。
【0036】
<特徴的作用および効果>
このような構成を採ることで、以下のような作用および効果を奏する。
すなわち、移動局5がゾーンZ1からゾーンZ2に移動する場合、境界Aを通過すると、移動局5は、LCX3bから送信される下り回線信号からゾーンZ2の識別情報を検出した後に、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ2の識別情報に変更する処理を行うが、この処理が完了するまでの間された上り回線信号は、ゾーンZ1の識別情報のままで送信される。当該上り回線信号は、基地局1aの、漏洩同軸ケーブル通信の受信入力となるLCX3cで受信されるので、それを受信した基地局1a、または中央装置7では有効信号として扱う。このため、移動局5が境界Aを通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができる。
【0037】
同様に、移動局5がゾーンZ2からゾーンZ1に移動する場合、境界Aを通過すると、移動局5は、LCX3aから送信される下り回線信号からゾーンZ1の識別情報を検出した後に、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ1の識別情報に変更する処理を行うが、この処理が完了するまでの間された上り回線信号は、ゾーンZ2の識別情報のままで送信される。当該上り回線信号は、基地局1bの、漏洩同軸ケーブル通信の受信入力となるLCX3dで受信されるので、それを受信した基地局1b、または中央装置7では有効信号として扱う。このため、移動局5が境界Aを通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができる。
【0038】
なお、境界Aから位置Bまでの距離は、LCX3bから送信される下り回線信号を取り逃がしなく受信するために必要な時間、下り回線信号からゾーンZ2の識別情報を検出して、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ2の識別情報に変更して、上り回線信号を送信するまでの時間を足して、さらにマージンを加えた時間に移動局5の移動速度を掛けて得られた距離に、移動局5の移動速度によって決まる最低限必要な距離を足し併せることで決定することができる。
【0039】
また、境界Aから位置Cまでの距離は、LCX3aから送信される下り回線信号を取り逃がしなく受信するために必要な時間、下り回線信号からゾーンZ1の識別情報を検出して、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ1の識別情報に変更して、上り回線信号を送信するまでの時間を足して、さらにマージンを加えた時間に移動局5の移動速度を掛けて得られた距離に、移動局5の移動速度によって決まる最低限必要な距離を足し併せることで決定することができる。
【0040】
このように、境界Aから位置Bまでの距離、および境界Aから位置Cまでの距離を決定することで、隣接したゾーンに移動局が移動した直後においては、移動前のゾーンの基地局で確実に下り回線信号を受信できるとともに、移動後のゾーンの識別情報に変更した上り回線信号を確実に送信することが可能となる。
【0041】
<応用例>
以上説明した実施の形態1に係る列車無線システムは、基地局が受信ダイバーシチの構成を採る場合でも適用可能である。
【0042】
すなわち、アンテナ2a、LCX3aおよび終端器4aで構成される基地局1aの下り回線を、基地局1aの送信および受信ダイバーシチの一方の系に接続し、アンテナ2d、LCX3cおよび終端器4cで構成される基地局1aの上り回線を、基地局1aの受信ダイバーシチの他方の系に接続することで、基地局1aが受信ダイバーシチ構成を採る場合にも対応できる。
【0043】
また、アンテナ2b、LCX3bおよび終端器4bで構成される基地局1bの下り回線を、基地局1bの送信および受信ダイバーシチの一方の系に接続し、アンテナ2e、LCX3dおよび終端器4dで構成される基地局1bの上り回線を、基地局1bの受信ダイバーシチの他方の系に接続することで、基地局1bが受信ダイバーシチ構成を採る場合にも対応できる。
【0044】
上述した受信ダイバーシチの構成を採る場合も、上り回線が通信途絶となる可能性を低減するという効果を奏するとともに、LCX3aおよびLCX3cでそれぞれ受信した信号を基地局1aで選択、あるいは合成することにより、一方のLCXの入力が弱い場合でも、他方のLCXの入力を使用して受信信号の品質を改善できる。
【0045】
同様に、LCX3bおよびLCX3dでそれぞれ受信した信号を基地局1bで選択、あるいは合成することにより、一方のLCXの入力が弱い場合でも、他方のLCXの入力を使用して受信信号の品質を改善できる。
【0046】
<実施の形態2>
<システム構成>
図3に本発明に係る実施の形態2の列車無線システムの構成を示す。
なお、図3においては、図2を用いて説明した実施の形態1に係る列車無線システムと同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0047】
基地局1aには、空間波通信の送信出力となるアンテナ2a、および漏洩同軸ケーブル通信の送信出力となるLCX3aが共通に接続され、LCX3aは移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3aの先端には、終端のための終端器4aが取り付けられて基地局1aの下り回線を構成している。また、基地局1aには、空間波通信の受信入力となるアンテナ2dおよび2fが共通に接続されて基地局1aの上り回線を構成している。
【0048】
境界基地局1bには、空間波通信の送信出力となるアンテナ2b、および漏洩同軸ケーブル通信の送信出力となるLCX3bが接続され、LCX3bは移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3bの先端には、終端のための終端器4bが共通に取り付けられて、境界基地局1bの下り回線を構成している。また、基地局1bには、空間波通信の受信入力となるアンテナ2eおよび2gが共通に接続されて基地局1bの上り回線を構成している。
【0049】
ここで、基地局1aの空間波通信の受信入力となるアンテナ2fは、境界Aを越えてゾーンZ2内の位置Bまでの空間波通信を受信できる位置に配置され、基地局1bの空間波通信の受信入力となるアンテナ2gは、境界Aを越えてゾーンZ1内の位置Cまでの空間波通信を受信できる位置に配置されている。
【0050】
<特徴的作用および効果>
このような構成を採ることで、移動局5がゾーンZ1からゾーンZ2に移動する場合、境界Aを通過すると、移動局5は、LCX3bから送信される下り回線信号からゾーンZ2の識別情報を検出した後に、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ2の識別情報に変更する処理を行うが、この処理が完了するまでの間された上り回線信号は、ゾーンZ1の識別情報のままで送信され、上り回線信号は、基地局1aの空間波通信の受信入力となるアンテナ2fで受信されるので、それを受信した基地局1a、または中央装置7では有効信号として扱う。このため、移動局5が境界を通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができる。
【0051】
同様に、移動局5がゾーンZ2からゾーンZ1に移動する場合、境界Aを通過すると、移動局5は、LCX3aから送信される下り回線信号からゾーンZ1の識別情報を検出した後に、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ1の識別情報に変更する処理を行うが、この処理が完了するまでの間された上り回線信号は、ゾーンZ2の識別情報のままで送信され、当該上り回線信号は、基地局1bの空間波通信の受信入力となるアンテナ2gで受信されるので、それを受信した基地局1b、または中央装置7では有効信号として扱う。このため、移動局5が境界Aを通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができる。
【0052】
なお、境界Aから位置Bまでの距離および境界Aから位置Cまでの距離は、実施の形態1の場合と同様の条件で決定することができる。
【0053】
また、図2に示したLCX3cおよび3dの代わりに、アンテナ2fおよび2eを用いることで、配設コストを抑制することができる。
【0054】
<実施の形態3>
<システム構成>
図4に本発明に係る実施の形態3の列車無線システムの構成を示す。
図4においては、ゾーンZ1とゾーンZ2との境界位置を境界Aとして示し、境界Aの近傍には、ゾーンZ1では境界基地局として基地局1aが配置され、ゾーンZ2では境界基地局として基地局1bが配置されている。
【0055】
基地局1aには、空間波通信の送信出力および受信入力となるアンテナ2a、および漏洩同軸ケーブル通信の送信出力および受信入力となるLCX3aが共通に接続され、LCX3aは移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3aの先端には、送信波を除去するフィルタ8aを介してアンテナ2hが取り付けられ、基地局1aの無線回線を構成している。
【0056】
基地局1bには、空間波通信の送信出力および受信入力となるアンテナ2b、および漏洩同軸ケーブル通信の送信出力および受信入力となるLCX3bが共通に接続され、LCX3bは移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3bの先端には、送信波を除去するフィルタ8bを介してアンテナ2iが取り付けられ、基地局1bの無線回線を構成している。
【0057】
なお、その他、図2を用いて説明した実施の形態1に係る列車無線システムと同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0058】
ここで、LCX3aに接続されるアンテナ2hは、境界AからゾーンZ2内の位置Bまでの領域の空間波通信を受信できる位置に配置され、LCX3bに接続されるアンテナ2iは、境界AからゾーンZ1内の位置Cまでの領域の空間波通信を受信できる位置に配置されている。
【0059】
そして、アンテナ2hは送信波を除去するフィルタ8aを介してLCX3aに接続されるので、LCX3aが送信に使用されている場合にアンテナ2hから送信波が出力されることはなく、境界Aから位置Bまでの領域で受信した上り回線信号のみを受ける受信専用アンテナとして機能する。また、アンテナ2iは送信波を除去するフィルタ8bを介してLCX3bに接続されるので、LCX3bが送信に使用されている場合にアンテナ2iから送信波が出力されることはなく、境界Aから位置Cまでの領域で受信した上り回線信号のみを受ける受信専用アンテナとして機能する。
【0060】
なお、フィルタ8aおよび8bは、送信周波数を遮断し、受信周波数を通過させることができるフィルタで構成すれば良い。
【0061】
<特徴的作用および効果>
このような構成を採ることで、以下のような作用および効果を奏する。
すなわち、移動局5がゾーンZ1からゾーンZ2に移動する場合、境界Aを通過すると、移動局5は、LCX3bから送信される下り回線信号からゾーンZ2の識別情報を検出した後に、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ2の識別情報に変更する処理を行うが、この処理が完了するまでの間された上り回線信号は、ゾーンZ1の識別情報のままで送信される。当該上り回線信号は、基地局1aの、上り回線信号の受信専用アンテナ2hで受信されるので、それを受信した基地局1a、または中央装置7では有効信号として扱う。このため、移動局5が境界Aを通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができる。
【0062】
同様に、移動局5がゾーンZ2からゾーンZ1に移動する場合、境界Aを通過すると、移動局5は、LCX3aから送信される下り回線信号からゾーンZ1の識別情報を検出した後に、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ1の識別情報に変更する処理を行うが、この処理が完了するまでの間された上り回線信号は、ゾーンZ2の識別情報のままで送信される。当該上り回線信号は、基地局1bの、上り回線信号の受信専用アンテナ2iで受信されるので、それを受信した基地局1b、または中央装置7では有効信号として扱う。このため、移動局5が境界Aを通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができる。
【0063】
<実施の形態4>
<システム構成>
図5に本発明に係る実施の形態4の列車無線システムの構成を示す。
なお、図5においては、図4を用いて説明した実施の形態3に係る列車無線システムと同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0064】
基地局1aには、空間波通信の送信出力および受信入力となるアンテナ2a、および漏洩同軸ケーブル通信の送信出力および受信入力となるLCX3aが共通に接続され、LCX3aは移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3aの先端には、アイソレータ9aを介してアンテナ2jが取り付けられ、基地局1aの無線回線を構成している。
【0065】
基地局1bには、空間波通信の送信出力および受信入力となるアンテナ2b、および漏洩同軸ケーブル通信の送信出力および受信入力となるLCX3bが共通に接続され、LCX3bは移動局5の走行路に沿って配置され、LCX3bの先端には、アイソレータ9bを介してアンテナ2kが取り付けられ、基地局1bの無線回線を構成している。
【0066】
ここで、LCX3aに接続されるアンテナ2jは、境界AからゾーンZ2内の位置Bまでの領域の空間波通信を受信できる位置に配置され、LCX3bに接続されるアンテナ2kは、境界AからゾーンZ1内の位置Cまでの領域の空間波通信を受信できる位置に配置されている。
【0067】
そして、アイソレータ9aは、アンテナ2jから基地局1aの方向だけに電波を通過させる機能を有し、基地局1aの送信電波がアンテナ2jからは送信されないようにすることができるので、LCX3aが送信に使用されている場合にアンテナ2jから送信波が出力されることはなく、アンテナ2jは、境界Aから位置Bまでの領域で受信した上り回線信号のみを受ける受信専用アンテナとして機能する。
【0068】
アイソレータ9bは、アンテナ2kから基地局1bの方向だけに電波を通過させる機能を有し、基地局1bの送信電波がアンテナ2kからは送信されないようにすることができるので、LCX3bが送信に使用されている場合にアンテナ2kから送信波が出力されることはなく、アンテナ2kは、境界Aから位置Cまでの領域で受信した上り回線信号のみを受ける受信専用アンテナとして機能する。
【0069】
なお、アイソレータ9aおよび9bは、サーキュレータのポートの1つを無反射終端させて構成され、高周波アイソレータと呼称される場合もある。
【0070】
<特徴的作用および効果>
このような構成を採ることで、以下のような作用および効果を奏する。
すなわち、移動局5がゾーンZ1からゾーンZ2に移動する場合、境界Aを通過すると、移動局5は、LCX3bから送信される下り回線信号からゾーンZ2の識別情報を検出した後に、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ2の識別情報に変更する処理を行うが、この処理が完了するまでの間された上り回線信号は、ゾーンZ1の識別情報のままで送信される。当該上り回線信号は、基地局1aの、上り回線信号の受信専用アンテナ2jで受信されるので、それを受信した基地局1a、または中央装置7では有効信号として扱う。このため、移動局5が境界Aを通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができる。
【0071】
同様に、移動局5がゾーンZ2からゾーンZ1に移動する場合、境界Aを通過すると、移動局5は、LCX3aから送信される下り回線信号からゾーンZ1の識別情報を検出した後に、上り回線信号に付加する識別情報をゾーンZ1の識別情報に変更する処理を行うが、この処理が完了するまでの間された上り回線信号は、ゾーンZ2の識別情報のままで送信される。当該上り回線信号は、基地局1bの、上り回線信号の受信専用アンテナ1kで受信されるので、それを受信した基地局1b、または中央装置7では有効信号として扱う。このため、移動局5が境界Aを通過した直後であっても、上り回線が通信途絶となる可能性を低減することができる。
【0072】
<変形例>
以上説明した実施の形態1〜4においては、LCXに対する給電は、境界基地局側となる一方の先端から給電し、境界Aの近傍に位置する他方の先端を終端器により終端した構成を示したが、この構成に限定されるものではない。すなわち、境界基地局側となる一方の先端を終端器により終端し、境界Aの近傍に位置する他方の先端に境界基地局から延在させたケーブルを介して給電す構成としても良い。このケーブルには、漏洩を防止した同軸ケーブル等を使用すれば良いので、コスト負担は抑制される。
【0073】
また、実施の形態1〜4においては、ゾーン境界の下り回線をLCXで構成する例を示したが、LCXの替わりにアンテナで構成し、上り回線のアンテナとは、配置する位置、高さおよび指向特性が異なるように構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、例えば、周波数が同一で、識別情報が異なる複数のゾーンを有し、ゾーン境界においては漏洩同軸ケーブル通信を使用する列車無線システムにおいて利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の前提となる列車無線システムを説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態1の構成を示す図である。
【図3】本発明に係る実施の形態2の構成を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態3の構成を示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態4の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
3a〜3d LCX(漏洩同軸ケーブル)、5 移動局、8a,8b フィルタ、9a,9b アイソレータ、2f〜2k アンテナ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動局の走行路に対応させて通信領域であるゾーンが複数設定され、各ゾーンに含まれる基地局と移動局との間で無線通信を行うための無線通信システムであって、
複数の前記ゾーンにおいては通信周波数を共通とし、それぞれで固有の識別情報を信号に付加することでゾーン間での混信を防止し、
前記基地局の送信出力となる第1の漏洩同軸ケーブルと、
前記基地局の受信入力となる第2の漏洩同軸ケーブルと、を備え、
前記第1の漏洩同軸ケーブルは、一方端が隣接するゾーンとの間の境界部に位置するように前記移動局の走行路に沿って配置されて前記ゾーンの境界領域を規定し、
前記第2の漏洩同軸ケーブルは、一方端が前記境界部を越えて前記隣接するゾーン内の所定位置に存在するように前記移動局の走行路に沿って配置される、無線通信システム。
【請求項2】
移動局の走行路に対応させて通信領域であるゾーンが複数設定され、各ゾーンに含まれる基地局と移動局との間で無線通信を行うための無線通信システムであって、
複数の前記ゾーンにおいては通信周波数を共通とし、それぞれで固有の識別情報を信号に付加することでゾーン間での混信を防止し、
前記基地局の送信出力となる漏洩同軸ケーブルと、
前記基地局の受信入力となる空間波通信のアンテナと、を備え、
前記漏洩同軸ケーブルは、一方端が隣接するゾーンとの間の境界部に位置するように前記移動局の走行路に沿って配置されて前記ゾーンの境界領域を規定し、
前記アンテナは、前記境界領域とともに前記隣接するゾーン内の所定位置までの空間波通信を受信できる位置に配置される、無線通信システム。
【請求項3】
移動局の走行路に対応させて通信領域であるゾーンが複数設定され、各ゾーンに含まれる基地局と移動局との間で無線通信を行うための無線通信システムであって、
複数の前記ゾーンにおいては通信周波数を共通とし、それぞれで固有の識別情報を信号に付加することでゾーン間での混信を防止し、
前記基地局の受信入力および送信出力となる漏洩同軸ケーブルと、
前記漏洩同軸ケーブルの一方端に、送信波を除去するフィルタを介して接続された受信専用アンテナと、を備え、
前記漏洩同軸ケーブルは、前記一方端が隣接するゾーンとの間の境界部に位置するように前記移動局の走行路に沿って配置されて前記ゾーンの境界領域を規定し、
前記受信専用アンテナは、前記境界部から前記隣接するゾーン内の所定位置までの空間波通信を受信できる位置に配置される、無線通信システム。
【請求項4】
移動局の走行路に対応させて通信領域であるゾーンが複数設定され、各ゾーンに含まれる基地局と移動局との間で無線通信を行うための無線通信システムであって、
複数の前記ゾーンにおいては通信周波数を共通とし、それぞれで固有の識別情報を信号に付加することでゾーン間での混信を防止し、
前記基地局の受信入力および送信出力となる漏洩同軸ケーブルと、
前記漏洩同軸ケーブルの一方端に、前記基地局の方向だけに電波を通過させるアイソレータを介して接続された受信専用アンテナと、を備え、
前記漏洩同軸ケーブルは、前記一方端が隣接するゾーンとの間の境界部に位置するように前記移動局の走行路に沿って配置されて前記ゾーンの境界領域を規定し、
前記受信専用アンテナは、前記境界部から前記隣接するゾーン内の所定位置までの空間波通信を受信できる位置に配置される、無線通信システム。
【請求項5】
前記境界部から前記隣接するゾーン内の前記所定位置までの距離は、
前記隣接するゾーンに前記移動局が移動した場合に、前記隣接するゾーンの下り回線信号を取り逃がしなく受信するために必要な時間と、前記下り回線信号から前記隣接するゾーンの前記識別情報を検出して、前記隣接するゾーンの上り回線信号に付加する前記識別情報を前記隣接するゾーンに対応するように変更して、前記上り回線信号を送信するまでの時間とを足して、前記移動局の移動速度を掛けて得られた距離を少なくとも含むように設定される、請求項1ないし請求項4の何れかに記載の無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−205984(P2008−205984A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41622(P2007−41622)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】