説明

無線通信端末、及び無線通信端末における電磁波の暴露低減方法

【課題】複数周波数で動作する機能を備えていても、各周波数帯に応じて筐体グランドに流れる高周波電流を適正に制御することにより、高性能なアンテナ特性を維持しながら電磁波の被爆量を低く抑えることができる無線通信端末を提供する。
【解決手段】グランド間スイッチ17が、800MHz帯アンテナ11と2GHz帯アンテナ12に電力を供給するアンテナ給電点13の近傍に設けられている。また、グランド間接続導体16が、2GHz帯の波長λの1/8λと3/8λの位置で、基板に形成されたグランド導体14と外装の剛性を保持する筐体に形成された金属導体15とを接続している。グランド間スイッチ17は、800MHz帯で使用するときはONとなり、2GHz帯で使用するときはOFFとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に密着させて使用する携帯電話機などの無線通信端末等に関し、特に、通話時などにおいて、人体頭部への電磁波の暴露を低減させることができる無線通信端末、及び無線通信端末における電磁波の暴露低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、携帯電話機によって通話を行う場合は、その携帯電話機を人体の頭部に密着させて使用するため、送受信アンテナを頭部から最も離れた位置に配置することによって人体への電磁波の暴露を低減させている。ところが、電磁波の波源となる送信時の高周波電流は、送受信アンテナのみならず、携帯電話機の筐体グランド上にも隆起する。そのため、筐体の小型化や薄型化により、携帯電話機の通常の使用状態においては、筐体グランドが人体に近接したり、人体への密着度が大きくなるため、該人体への電磁波の暴露が増大するおそれがある。
【0003】
図4は、2つ周波数帯に対応する従来の携帯電話機の構成及びアンテナ配置を示す斜視図である。なお、説明を容易にするために、この図では携帯電話機20の外装については省略されている。図4に示すように、携帯電話機20は、基板グランド25と筐体グランド26との間が、複数箇所においてグランド間接続導体24によって接続されている。さらに、800MHz帯アンテナ21と2GHz帯アンテナ22が筐体の6時側(すなわち、携帯電話機20の使用時における下側)に配置されている。また、これらの800MHz帯アンテナ21と2GHz帯アンテナ22には、アンテナ給電点23からそれぞれの周波数帯の電力が供給されている。
【0004】
このように、800MHz帯アンテナ21と2GHz帯アンテナ22を筐体の6時側に配設しただけであると、図4の矢印に示すように、基板グランド25と筐体グランド板26の縦方向における高周波電流の位相が同相になるため、筐体グランド26の人体密着面におけるSAR(Specific Absorption Rate:電磁波の比吸収率)は、2GHz帯の電磁波において局所的な被爆量が大きくなる。すなわち、このような電磁波の被爆量は、周波数が高くなるにつれて増大するため、複数周波数で動作する機能を備えた携帯電話機においては、特に周波数の高い方の電磁波を低減させることが急務となっている。
【0005】
そこで、関連技術として、筐体グランド上に隆起する高周波電流をコントロールする(低減させる)ために、携帯電話機の筐体に対して別のグランド板(導電性平板)を取り付けたり、その導電性平板にスリット(切り込み)を追加するなどして、携帯電話機の筐体(シールドケース)に隆起する高周波電流による電磁波の暴露を低減させる技術が開示されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。これらの技術によれば、シールドケースに接続された導電性平板の終端が開放端となっているため、そのインピーダンスが無限大に近づくためにシールドケースに流れる高周波電流が流れ難くなる。したがって、シールドケースから放射される電磁波が低減されるので、人体への電磁波の被爆量を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−94311号公報
【特許文献2】特開2005−184073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に開示された技術は、携帯電話機のシールドケースに対して別途に導電性平板を取り付けなければならないので、携帯電話機が大型化してしまう。また、複数周波数で動作する機能を備えた携帯電話機に対しては、複数周波数に対応させるために、周波数帯の異なる導電性平板を複数個用意しなければならない。あるいは、1個の導電性平板の場合はアンテナの電気特性への影響が避けられなくなる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、複数周波数で動作する機能を備えていても、それぞれの周波数帯に応じて筐体グランドに流れる高周波電流を適正に制御することにより、高性能なアンテナ特性を維持しながら電磁波の被爆量を低く抑えることができる無線通信端末、及び無線通信端末における電磁波の暴露低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係る無線通信端末は、複数の周波数帯で無線通信を行う無線通信端末であって、通信回路を搭載する基板に設けられた基板グランドと、筐体の剛性を保持する金属導体からなる筐体グランドと、前記複数の周波数帯に対応するアンテナと、前記基板グランドに設けられて前記アンテナに給電する給電点と、前記給電点の位置において前記基板グランドと前記筐体グランドとの電気的な接続状態を切り替えるグランド接続切替えスイッチと、前記給電点から所定距離だけ離間した位置において前記基板グランドと前記筐体グランドとを電気的に接続するグランド接続導体と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る無線通信端末における電磁波の暴露低減方法は、複数の周波数帯に対応するアンテナで無線通信を行う無線通信端末における電磁波の暴露低減方法であって、通信回路を搭載する基板に設けられた基板グランドに、前記アンテナに給電する給電点が設けられるとともに、前記給電点から所定距離だけ離間した位置に、前記基板グランドと筐体の剛性を保持する金属導体からなる筐体グランドとを電気的に接続するグランド接続導体が設けられ、前記給電点の位置に設けられたグランド接続切替えスイッチによって、使用周波数に応じて、前記基板グランドと前記筐体グランドとの電気的な接続状態を切替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る携帯電話機などの無線通信端末によれば、複数の周波数帯に対応した各アンテナのアンテナ給電点の近傍に設けたグランド接続切替えスイッチと、所定の位置に配置されたグランド接続導体とにより、2GHz帯における筐体の縦方向に流れる高周波電流の位相をコントロールすることにより、人体への電磁波の被爆量が最も大きくなる2GHz帯のSARを低減させることが可能となる。また、グランド接続切替えスイッチの切り替えにより、アンテナ給電点23の近傍における基板グランドと筐体グランドの相互の接続が可能となるため、800MHz帯のアンテナ特性においても効率的に動作させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に適用される携帯電話機の外観斜視図である。
【図2】図1に示す携帯電話機の使用状態を示す模式図である。
【図3】携帯電話機の内部に収容される内部ユニットを示す概略斜視図である。
【図4】2つ周波数帯に対応する従来の携帯電話機の構成及びアンテナ配置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る携帯電話機などの無線通信端末は、グランド接続切替えスイッチによって、基板グランドと筐体グランドとの接続状態を切替えることにより、基板グランドと筐体グランドに流れる高周波電流の制御を行っている。これにより、複数周波数(例えば、2周波数)共用システムの携帯電話機においても、高性能なアンテナ特性を維持させながら電磁波の人体への被爆量を低く抑えることができる。すなわち、本発明による無線通信端末装置は、基板グランドとケース補強金属である筐体グランドとの間の隙間を利用して、グランド板間の所定の位置にグランド接続切替えスイッチを配設する。そして、使用周波数に応じてグランド接続切替えスイッチを切替えることにより、アンテナ特性とSARのコントロールとを行うことを特徴としている。
【0014】
以下、本発明に係る無線通信端末について、携帯電話機を例に挙げて、図面を参照しながら好適な実施形態を詳細に説明する。なお、実施形態に用いる図面において、同一の構成要素は原則として同一符号を付し、かつ、重複する説明は可能な限り省略する。
【0015】
《実施形態》
図1は、本発明の一実施形態に係る携帯電話機1の外観斜視図である。なお、この図では、一般的な携帯電話機1であるスマートフォン(登録商標)の外観を示している。図1に示すように、携帯電話機1の筐体正面には表示部2が配置され、該携帯電話機1を使用するときの上側(以下、12時側という)には通話音声を発するレシーバ部放音孔3が配置されている。
【0016】
図2は、図1に示す携帯電話機1の使用状態を示す模式図である。図2に示すように、携帯電話機1の通話時においては、レシーバ部放音孔3が人体頭部4の耳5の穴に位置することになる。そのため、携帯電話機1の下部(6時側)に設けられたアンテナ10は人体頭部4から離れることになるが、携帯電話機1の筐体グランドとして機能する金属導体15の多くは人体頭部4の側頭部(耳5や頬6の部分)へ密着することになる。
【0017】
図3は、携帯電話機1の内部に収容される内部ユニットUを示す概略斜視図である。なお、図3では、本実施形態に関係する説明を容易にするために、携帯電話機1の外装部分やその他本発明の実施形態と直接的には関係しない部品などは省略されていて、SAR(電磁波の比吸収率)に関係する部品のみを記載している。
【0018】
図3に示すように、800MHz帯アンテナ11と2GHz帯アンテナ12からなるアンテナ10は、携帯電話機1の筐体の6時側に内蔵型として配設されている。したがって、図2に示すように、通話時においては、アンテナ10は人体頭部4から最も離れた位置となる。なお、800MHz帯アンテナ11と2GHz帯アンテナ12は共にアンテナ給電点13から電力が給電されている。
【0019】
本実施形態に基づくアンテナ10は2周波数共用アンテナであり、800MHz帯アンテナ11は800MHzの波長(λ)の1/4λの長さ、2GHz帯アンテナ12は2GHzの波長(λ)の1/4λの長さとなっている。
【0020】
また、通信回路(不図示)が搭載されている基板には、基板グランドとして機能するグランド導体14が設けられている。さらに、携帯電話機1における筐体の外装の剛性を保持し、かつ、表示部2(図1参照)の補強を兼ねていて、筐体グランドとして機能する金属導体15が設けられている。なお、図3は説明用の作図であるため、グランド導体14と金属導体15との隙間が大きく図示されているが、実際には、グランド導体14と金属導体15との隙間は、0.1〜0.5mm程度のごく薄い隙間である。
【0021】
また、本実施形態では、グランド導体14及び金属導体15は、いずれも、縦方向の長さは、およそ800MHz帯の波長(λ)の1/4λの長さであり、横方向の長さは、およそ2GHz帯の波長(λ)の1/4λの長さとなっている。
【0022】
また、グランド導体14と金属導体15とを接続するために、グランド接続導体であるグランド間接続導体16が設けられている。これらのグランド間接続導体16は、それぞれ、アンテナ給電点13から、2GHz帯アンテナ12の共振周波数の1/8λの位置と3/8λの位置に設けられている。
【0023】
さらに、グランド導体14と金属導体15とをアンテナ給電点13の近傍で接続/開放するためのグランド接続切替えスイッチであるグランド間スイッチ17が、該アンテナ給電点13の近傍に配置されている。このグランド間スイッチ17は、半導体スイッチでもよいし有接点スイッチであってもよい。
【0024】
次に、図3に示す携帯電話機1の動作について説明する。携帯電話機1で800MHz帯を使用するときは、グランド間スイッチ17を閉にし、携帯電話機1で2GHz帯を使用するときはグランド間スイッチ17を開にすることにより、使用周波数帯に応じた切替え回路(図示せず)によって制御される。
【0025】
すなわち、800MHz帯を使用するときは、グランド間スイッチ17によって給電点近傍でグランド導体14と金属導体15とが接続されるため、800MHz帯アンテナ11が、グランド導体14及び金属導体15と共に800MHz帯にて共振し、グランド導体14と金属導体15に隆起する高周波電流は、グランド導体14と金属導体15の縦方向に流れる電流が支配的となる。したがって、最も効率的なアンテナ特性が実現できる。
【0026】
また、2GHz帯を使用するときは、800MHzに比べ波長が短くなるため、人体への局所的な電磁波の被爆量が増大するが、この電磁波の被爆量を低減させるためにグランド間スイッチ17を開にする。これによって、2GHz帯アンテナ12は筐体グランドと共に2GHz帯で共振するが、筐体グランドの横方向に流れる高周波電流により、効率的なアンテナ特性が実現できる。
【0027】
図3に示すように、2GHz帯を使用したときの高周波電流の、あるタイミングにおける位相が矢印で示してある。すなわち、アンテナ給電点13では金属導体15が接続されていないため、筐体グランド(金属導体15)の縦方向の高周波電流は、1/8λと3/8λ離れた位置のグランド間接続導体16によって折り返す電流が生じるため、アンテナ給電点13を基点として、グランド導体14と金属導体15の間では高周波電流の位相が反転し、該高周波電流を打消し合う状態になる。その結果、2GHz帯の電磁波の放射量(暴露)は低減される。
【0028】
以上、本発明に係る半導体装置の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、本発明の具体的に構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもそれらは本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、人体への電磁波の被爆量を低く押させることができるので、汎用の携帯電話機に限られず、人体に密着させて使用し電磁波を発する任意の無線通信端末に対して適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 携帯電話機
2 表示部
3 レシーバ部放音孔
4 人体頭部
5 耳
6 頬
10 アンテナ
11 800MHz帯アンテナ
12 2GHz帯アンテナ
13 アンテナ給電点
14 グランド導体(基板グランド)
15 金属導体(筐体グランド)
16 グランド間接続導体
17 グランド間スイッチ
20 携帯電話機
21 800MHz帯アンテナ
22 2GHz帯アンテナ
23 アンテナ給電点
24 グランド間接続導体
25 基板グランド
26 筐体グランド
U 内部ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の周波数帯で無線通信を行う無線通信端末であって、
通信回路を搭載する基板に設けられた基板グランドと、
筐体の剛性を保持する金属導体からなる筐体グランドと、
前記複数の周波数帯に対応するアンテナと、
前記基板グランドに設けられて前記アンテナに給電する給電点と、
前記給電点の位置において前記基板グランドと前記筐体グランドとの電気的な接続状態を切り替えるグランド接続切替えスイッチと、
前記給電点から所定距離だけ離間した位置において前記基板グランドと前記筐体グランドとを電気的に接続するグランド接続導体と、
を備えることを特徴とする無線通信端末。
【請求項2】
前記複数の周波数帯は、相対的に周波数の高い第1の周波数帯と相対的に周波数の低い第2の周波数帯であり、前記グランド接続切替えスイッチは、前記第1の周波数帯でOFFとなり、前記第2の周波数帯でONとなることを特徴とする請求項1に記載の無線通信端末。
【請求項3】
前記第1の周波数帯は2GHz帯であり、第2の周波数帯は800MHz帯であることを特徴とする請求項2に記載の無線通信端末。
【請求項4】
前記アンテナは、2GHz帯用の第1のアンテナと、800MHz帯用の第2のアンテナとを有し、
前記第1のアンテナは2GHz帯の波長の1/4の長さであり、前記第2のアンテナは800MHz帯の波長の1/4の長さであることを特徴とする請求項3に記載の無線通信端末。
【請求項5】
前記基板グランド及び前記筐体グランドは、共に、縦方向の長さが800MHz帯の波長の1/4の長さであり、横方向の長さが2GHz帯の波長の1/4の長さであることを特徴とする請求項3または4に記載の無線通信端末。
【請求項6】
前記グランド接続導体は、前記アンテナ給電点から2GHz帯の波長の1/8の距離だけ離間した位置と、2GHz帯の波長の3/8の距離だけ離間した位置とにそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項5に記載の無線通信端末。
【請求項7】
複数の周波数帯に対応するアンテナで無線通信を行う無線通信端末における電磁波の暴露低減方法であって、
通信回路を搭載する基板に設けられた基板グランドに、前記アンテナに給電する給電点が設けられるとともに、前記給電点から所定距離だけ離間した位置に、前記基板グランドと筐体の剛性を保持する金属導体からなる筐体グランドとを電気的に接続するグランド接続導体が設けられ、
前記給電点の位置に設けられたグランド接続切替えスイッチによって、使用周波数に応じて、前記基板グランドと前記筐体グランドとの電気的な接続状態を切替えることを特徴とする無線通信端末における電磁波の暴露低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−74361(P2013−74361A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210208(P2011−210208)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(310006855)NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】