説明

無線通信端末による複数同時通話システム

【課題】複数からなる無線通信端末による同時通話を、親局の様な特別な局を必要とせず安価に実現することが可能な無線システム及びその装置を提供する。
【解決手段】音声をサンプリングによりデジタル化した上でデジタル変調を行い、各端末が一定の周期でバースト送信を行う時分割多重方式を用い、これに複数端末間においてもそれぞれが自律的に同期を確立する方法を提供することにより、親局の様な特別な局を必要としない複数端末間での同時通話を安価に実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信方法およびその装置に関し、複数の端末間において同時に音声通話を行う為の無線通信方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線電波を使って音声通信を行う無線機の分野では、工事現場における誘導、建築現場やクレーンでの連携作業、飲食店や催し物会場などにおける業務連絡用の携帯無線機や、レジャー用途などにおける個人用の無線機として各種の形態が登場してきており、例えば、簡易業務無線機やアマチュア無線機、特定小電力無線機などである。
【0003】
これらの無線機において、特に即時応答が求められる作業や常時両手を使う作業においてはプレストーク方式の無線機では都合が悪く、その為、2台の無線機間でお互いの送信周波数と受信周波数を逆転させることで双方向同時通話を可能とする複信方式の無線機が多く用いられている。しかし、この複信方式の無線機の場合、1対1での同時通話は実現できるがさらに複数の人数と同時に通話したい場合には使用することができず、当然ながら送受周波数の関係上、これらの無線機を単純に複数用意しただけでは複数での同時通話を実現することはできない。
【0004】
そこで、従来の複数同時通話方式では、図1に示す様に親局となる1台の基地局と子局となる複数の端末から構成され、子局では端末ごとにそれぞれ異なる周波数F1〜F4を用いて送信を行い、それら複数の周波数を親局により全て同時に受信し、親局ではそれぞれ受信した子局の音声と自局の音声を一つに合成した上で周波数F5を用いて再送信を行うことにより、子局では周波数F5のみを受信することで、送受それぞれ1つの周波数を用いて複数の端末と同時に通話することを可能にしている。
【0005】
また、親局で子局の音声を合成して中継する前記方式以外での複数同時通話を実現する方法として、先行技術文献1では各端末それぞれに、全ての端末からの送信周波数を受信できるようにすることにより、複数同時通話を実現する構成も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 特開平08−116305号 公報
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
以上に述べた従来の複数同時通話の構成において、前者の技術では親局となる端末が複雑かつ高価になってしまう上に、一対向での最小構成においてもその親局が必要となってしまうことによる導入コストが大きいことや、全ての局が親局と通信できる必要がある為に、親局の場所を固定できない無線システムには向かないという問題点があった。また、後者の技術においても、全ての移動端末1つ1つが前者で示す親局同様の回路を搭載する必要があり、回路も複雑で端末1台1台のコストが大きくなるという問題を抱えている。
【0008】
本発明は前記した問題点を解決するために案出されたもので、本発明の目的は、複数の無線通信端末による同時通話を、親局となる専用端末を必要とせず、低コストに実現可能とする無線通信方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した目的を達成するために本発明に係る無線通信方法では、図3に示す回路構成により、送信側では音声をA/D変換回路によりデジタル化した音声データをデジタル変調回路による時分割多重方式を用いて送出し、受信側では一度受信音声メモリに格納した複数端末からの音声データを音声合成回路により合成して出力する機能を具備することで、複数端末からの送信音声を同時に受信可能な構成としている。ただし、送受同一周波数を用いた時分割多重による通信方式では送受のタイミングがずれてしまわない様に各端末同士が常に同期を取り合う必要があるが、従来の技術ではタイミングの基準となる親局がなければ複数の端末間での同期を取り合うことが非常に困難であった。そこで、本発明に係る無線通信方法では、それぞれの端末が他の端末からの受信データ及び受信タイミングによって自局の送信タイミングを自律的に補正し、複数端末間で同期を確立する方法を提供することで、複数端末間での同時通話を実現する。
【0010】
また、本発明に係る無線通信方法はデジタル方式を用いていることで、予め通話データのフォーマットの中に音声データと制御データを別々に定義することが可能であり、従来のアナログ同時通話では難しかった制御データと音声データとを同時に伝送することが比較的簡単に実現できる。
【0011】
また、本発明に係る無線通信方法によると、お互いが通信エリア外となる端末同士間でも、予めグルーピング時に登録した台数が使用可能な全スロット数を下回る場合や、各端末の通信状況などにより明らかに通信エリア外となっているスロットが存在している場合において、そのどちらとも通信できる位置にあるもう一台の端末がその空きスロットを使用して受信した通話データを再送信することで、お互いが通信エリア外となる端末同士間でもお互いの通話データを受信することが可能となる。
【0012】
ここで、本発明のグルーピングの目的は装置固有IDと各端末のタイムスロットの割当てを複数端末間で設定し共有することであり、その目的が達成できる方法及び手順であれば、いかなる手段を用いても構わない。
【発明の効果】
【0013】
この様に、本発明にかかる無線通信方式によると、グルーピングにより組付けされた複数の無線端末が同一周波数で送受を切替えて通信を行い、且つ、それぞれの端末が基地局を必要とせず自律的に同期を確立することが可能である為、複数の無線通信端末間の同時通話をより低コストに実現することが可能である。
【0014】
また、本発明に係る無線通信方法およびその装置によると、通話データの中に音声データと同時に制御データを付加することが容易にできる為、複数端末間で同時通話を行っている間でも、予め決めておいた任意の動作を行わせることが可能である。
【0015】
また、本発明に係る無線通信方法およびその装置によると、お互いが通信エリア外となる端末同士でも、そのどちらとも通信できる位置に端末があることで、全ての端末間で同時通話が可能であり、実質的な通信エリア拡大の効果を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の一般的な5局間での同時通話を行う装置構成を例示した図である。
【図2】本発明による5局間での同時通話を行う装置構成を例示した図である。
【図3】本発明による同時通話を行う端末の回路構成を例示した図である。
【図4】同期タイミングの平均化による同期の確立手順を例示したフロー図である。
【図5】同期タイミングの平均化による同期の確立方法を例示した図である。
【図6】優先順位による同期の確立方法を例示した図である。
【図7】制御データにより他局動作の制御を行う装置構成を例示した図である。
【図8】中継機能を有する3局間での同時通話を行う装置構成を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して本発明による複数同時通話無線方式の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
図2は本発明の請求項1記載の複数同時通話無線方式による5局間での複数同時通話を行う装置構成例を示すものである。図2において、端末21〜25は全て同一構成の無線装置であり、予めグルーピングによりそれぞれ個別の識別番号ID1〜5と合わせて送信タイムスロットSL1〜5が設定されている。
【0019】
この構成を用いて複数端末間での同期を実現する方法について図5を用いて説明する。図5(a)では端末21と端末22はお互いが通信エリア外である為、端末21のフレームタイミングは端末22よりも相対的に+10となっている状態であり、それぞれが自身のフレームタイミングにて識別番号を含む音声バースト信号を発信している様子を例示している。
【0020】
この状態から端末21と端末22が近づきお互いが通信エリア内となった時、図5(b)に示す様に端末22では端末21の識別番号ID1とその受信タイミングから推測されるフレームタイミング+10と自局のフレームタイミング±0との平均値によって自局のフレームタイミングを置換えれば+5となり、また、端末21からすれば自局のフレームタイミングを±0として考えるため、逆に端末22のフレームタイミングが−10となり、それらの平均値として−5を自局のフレームタイミングとすることで、次のフレームではお互いのフレームタイミングが補正前の基準フレームタイミングに対して+5となり同期する。図5(c)では更にこの状態から端末23が通信エリア内となった直後の状態を示しており、端末23は端末21及び端末22のフレームタイミングよりも+30となっている為、端末21は自局のフレームタイミング±0と端末22のフレームタイミング±0と端末23のフレームタイミング+30との平均値によって自局のフレームタイミングを置換えれば+10となり、端末22は端末21と条件が同じなので端末21と同様、フレームタイミングを+10と置換え、端末23からすれば自局フレームタイミングを±0とするので端末21及び端末22のフレームタイミングはどちらも−30となり平均値である−20を自局のフレームタイミングに置換えることで、その結果、それぞれの端末のフレームタイミングは図5(d)に示す通りとなり、複数端末間においても補正によってフレームタイミングが同期する様子を示している。この状態から更に端末24、端末25が通信エリア内となった場合にも、同様の手順により同期を確立することが可能である。尚、これら一連のフレームタイミング値の補正手順についての詳細フロー図を図4にて例示する。
【0021】
また、図2の構成を用いて複数端末間での同期を実現する方法として、請求項2記載による予め優先順位を決めておく方法もあり、その方法について図6を用いて以下に説明する。図6(a)では端末21と端末22はお互いが通信エリア外である為、端末21のフレームタイミングは端末22よりも相対的に+10となっている状態であり、それぞれが自身のフレームタイミングにて識別番号と自局が同期を行っている端末番号を含む音声バースト信号を発信している様子を例示している。尚、この時点では、どちらの端末も同期する相手が見つけられない為、同期先の端末番号は自局IDを設定する。また、それぞれの端末IDによる優先順位は、既にグルーピング手順の段階で決定しており、ここではID1の優先順位が一番高く、続いてID2、ID3、ID4、ID5となっているものとする。
【0022】
この状態から端末21と端末23が近づきお互いが通信エリア内となった時、図6(b)に示す様に端末21では自局の優先順位が一番高い為、自局のフレームタイミングは固定したままとなり、端末23では端末21の同期先の端末番号ID1から優先順位を判断し、端末21へ同期を合わせる様に自局のフレームタイミングを補正することで、端末21と端末23のフレームタイミングが同期する。図6(c)では更にこの状態から端末23と端末22が通信エリア内となった直後の状態を示しており、端末23は自局の通信エリア内で端末22から音声データと同時に送出される同期先の端末番号ID2よりも端末21から送出される同期先の端末番号ID1の方が優先順位が高い為、端末21へ同期を合わせ、また、端末22では、自局のID2よりも端末23より送出される同期先の端末番号ID1の方が優先順位が高いと判断して端末23へ同期を合わせる様に自局のフレームタイミングを補正することで、端末21、端末22、及び端末23のフレームタイミングが同期する。この状態から更に端末24、端末25が通信エリア内となった場合にも、同様の手順により全ての端末が同期を確立することが可能である。
【0023】
図7は本発明の請求項3記載の制御機能を有する同時通話無線方式を適用した5局間での複数同時通話を行う装置構成例を示す。この例において、各端末には送話を制御する為の割込みスイッチが搭載され、図3の回路構成において制御データの中にその接点情報が含まれるものとする。
【0024】
今、端末22〜25の各端末がそれぞれ同時通話を行っている状態で端末21より割込みスイッチをONにしたうえで送話を開始した場合、端末21では音声データと合わせて制御データに割込み制御信号、及び送信フレームごとに変化する通し番号を含んだものが通話データとして送信され、また、その通話データを受信した各端末側では割込み制御信号を受けてその音声データを一時的に自局の音声データに差換えて中継送信する。この時、複数の端末間で割込みによる通話データがループしない様にする為、他の端末から同時に同じ通し番号の通話データを受信した場合はより受信品質の高い方を採用し、また、古い通し番号の通話データを受信した場合はそれを無視する。
【0025】
これにより、複数同時通話の構成において複数の端末間で同時に通話を行っている間でも、任意の端末より各端末の制御を行うことが可能となり、緊急時や、確実に全員に伝えなければならない様な、より優先度の高い要件を他局の同時通話に割込ませる拡声的な機能を実現することが可能である。
【0026】
また上記構成例において、通常は受信のみを行い通話データ内の音声データを無音状態としておき、必要時だけ割込みスイッチを押して音声データを付加する様に端末を設定することで、従来のプレストーク方式とほぼ同様の動作として使用することもでき、また、これらを切換えて使用することによって、プレストーク方式と複数同時通話方式が混在することも、本発明によれば実現することが可能である。
【0027】
図8は本発明の請求項4記載の中継機能を有する同時通話無線方式における3局間での複数同時通話を行う装置構成を示す。この例において、端末22は端末21と端末23の両方の通話データを受信できるが、端末21と端末23はお互いが通信エリアにない為、双方の通話データは直接受信できない状態を例示しており、また、本構成では許容される総端末数は5局であるのに対して予めグルーピングの際に登録された端末数は3となっており、予めグルーピングの際にSL4、及びSL5は使用されないことが明らかとなっている。この時、各端末では音声データの他に制御データとして自局から受信可能な端末の情報を合わせて1つの通話データとして送信することで、端末22では端末21と端末23からの通話データの情報により端末21と端末23の位置関係を把握することが可能であるため、端末22は端末21の通話データを空いているSL4で、また端末23の通話データをSL5で中継送信することにより、端末21と端末23間においても間接的にお互いの通話データが受信可能となる。
【0028】
これにより、複数同時通話の構成において全ての端末が同一通信エリア内におらず、一部通信エリア外となる端末を含む場合においても、全端末間での複数同時通話を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
11〜15 従来の同時通話端末1〜5
21〜25 本発明の同時通話端末1〜5
F1〜F6 送受周波数
SL1〜SL5 割当スロット
ID1〜ID5 識別番号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時分割多重方式による複数の無線通信端末により構成され、それぞれが送受同時に音声通話を行う為の無線通信方法であって、送信側では音声信号をサンプリングによりデジタル化して送信を行い、受信側では受信した複数端末からの通話データをそれぞれ音声信号として合成出力する手段と、グルーピング手順により通信端末間の構成を確認する手段と、通話時に無線通信端末間で同期を合わせる方法として、受信した複数の受信信号のタイミング1つ1つと自局のフレームタイミングとの誤差時間を平均化し、その結果を用いて自局の通信タイミングを補正することで、各端末が自律的に同期を合わせる手段を兼ね備え、それら手段を用いてタイムスロット構成により予めグルーピング時に決められたタイミングで送信、及び受信を行うこと、を特徴とする無線通信方法。
【請求項2】
時分割多重方式による複数の無線通信端末により構成され、それぞれが送受同時に音声通話を行う為の無線通信方法であって、送信側では音声信号をサンプリングによりデジタル化して送信を行い、受信側では受信した複数端末からの通話データをそれぞれ音声信号として合成出力する手段と、グルーピング手順により通信端末間の構成を確認する手段と、通話時に無線通信端末間で同期を合わせる方法として、グルーピング手順にて決定したID番号により予め優先順位を決定しておき、通話時には自局が同期を行っている同期先のID番号を含めた情報を音声信号と同時にを送出することで、受信端末ではそれらの情報を元により優先順位の高いID番号の端末を判定し、その結果を用いて自局の通信タイミングを補正することで、各端末が自律的に同期を合わせる手段を兼ね備え、それら手段を用いてタイムスロット構成により予めグルーピング時に決められたタイミングで送信、及び受信を行うこと、を特徴とする無線通信方法。
【請求項3】
任意の端末より音声信号と同時に他の端末を制御する制御信号を送出することで、受信した端末側で予め決められた動作を行うように制御できること、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無線通信方法。
【請求項4】
自局の通話データとは別に、他局より受信した通話データを使用されていない別のタイムスロットを用いて再送信を行うこと、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−250379(P2011−250379A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131458(P2010−131458)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(503231402)コーナン電子株式会社 (4)
【Fターム(参考)】