説明

無線通信装置及び通信制御方法

【課題】継続的に信頼性の高い無線通信を可能とする無線通信技術を提供する。
【解決手段】無線通信装置が、空間を用いて伝搬される第1の無線信号を処理する第1無線部と、生体表面又は生体内部を用いて伝搬される第2の無線信号を処理する第2無線部と、上記第1の無線信号及び上記第2の無線信号のいずれか1方を現無線信号として選択し、この現無線信号が処理されるように上記第1無線部及び上記第2無線部を制御する制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体伝搬路を用いる無線通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生体情報を取得するセンサ装置と、センサ装置から生体情報を収集し他のネットワークへその生体情報を送信するゲートウェイ装置とから構成される近距離の無線通信ネットワークをボディエリアネットワーク(BAN)と呼ぶ場合がある。このBANを利用すれば、例えば、心拍、体温等の生体情報を常時測定することにより、医療機関における検査の効率化、又は医療機関外における健康管理の充実を図るアプリケーションを実現することができる。
【0003】
図9及び10は、BANシステムの概要を示す図である。BANの通信手法としては、図9に示すように生体から離れた空間を伝搬路として利用する手法(例えば下記特許文献1参照)、図10に示すように生体を伝搬路として利用する手法(例えば下記特許文献2及び3参照)が主に検討されてきた。以降、前者を空間通信と表記し、後者を生体通信と表記する。生体通信は、生体内電流の変化を利用する手法、生体表面の電界を利用する手法等を含む。
【0004】
図9に示す空間通信の例では、各センサ装置901及び902は、それぞれアンテナ903又は904を用いて無線通信を行う。図10に示す生体通信の例では、各センサ装置911及び912は、例えば生体に付けられた電極913及び914を用いて無線通信を行う。
【0005】
利用周波数帯としては、空間通信を用いるBANシステムでは数100メガへルツ(MHz)から数ギガヘルツ(GHz)が利用されるのに対し、生体通信を用いるBANシステムではその伝搬路特性に応じて10(MHz)以下の周波数帯が利用されるのが一般的である。
【特許文献1】特許第3708354号公報
【特許文献2】特許第3707463号公報
【特許文献3】特開2001−144662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような空間通信又は生体通信を用いるBANシステムでは、用いられる特定周波数の伝搬環境が、周囲環境、近接物体の影響、又は他通信システムからの干渉等によって図11に示すようにフェージングを生ずる。図11は、従来のBANシステムに生ずるフェージングの例を示す図である。図11に示すPthは、受信電力閾値であり、受信信号の電力値がそれより低い場合に受信不可能となる。
【0007】
図11の例では、フェージングによって4つの時間帯において受信電力値がPthよりも低くなっており、各時間帯でそれぞれ通信不可能となる。このように、従来のBANシステムでは、通信に必要な受信電力が確保できず、通信が不可能となる時間帯を生ずるという問題があった。
【0008】
従来のBANシステムにおいて、このような通信不可能時間帯が生じた場合、BANシステムの対象となる生体自身を別の場所に移動するか近接物体の影響を取り除く必要がある。しかしながら、BANシステムが医療に用いられる場合等では、例えば病院のベッド
の上の患者のように対象となる生体自体の移動が難しい場合が多い。このような場合には、上記いずれの対応策も採ることができない。
【0009】
もちろん、このような問題点は、生体を対象とするBANシステムに限らず、移動が少ない無線通信装置同士が無線通信を行うネットワークでも同様に生ずる。
【0010】
本件の課題は、このような問題点に鑑み、継続的に信頼性の高い無線通信を可能とする無線通信技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本件各態様では、上述した課題を解決するために、それぞれ以下の構成を採用する。
【0012】
第1の態様は、空間を用いて伝搬される第1の無線信号を処理する第1無線部と、生体表面又は生体内部を用いて伝搬される第2の無線信号を処理する第2無線部と、上記第1の無線信号及び上記第2の無線信号のいずれか1方を現無線信号として選択し、この現無線信号が処理されるように上記第1無線部及び上記第2無線部を制御する制御部と、を備える無線通信装置に関する。
【0013】
空間を伝搬路とする第1の無線信号と生体を伝搬路とする第2の無線信号とで用いられる周波数帯は、前者が数100MHzから数GHzであり後者が10MHz以下であるため大きく異なる。よって、各周波数帯で生ずるフェージングの相関は低い。
【0014】
第1の態様に係る無線通信装置は、上述のような各無線信号を処理する第1無線部と第2無線部とを備えるため、第1無線信号の通信状況が悪い時間帯に第2無線信号を現無線信号として選択すればフェージング等の影響を回避することができる。
【0015】
すなわち、第1の態様によれば、第1無線部と第2無線部とを制御することにより、周波数ダイバーシチを実現し、ひいては、継続的に信頼性の高い無線通信を実現することができる。
【0016】
この第1の態様において好ましくは、上記制御部が、現無線信号を用いて所定情報を送信した後、この所定情報の受信確認信号が受信されない場合に、当該現無線信号を他方の無線信号に切り替える。
【0017】
また、第1の態様において好ましくは、当該現無線信号の受信状態を推定する推定部、を更に備えるように構成し、上記制御部が、その推定部により取得された受信状態が閾値よりも悪い場合に、現無線信号を他方の無線信号に切り替える。
【0018】
ここで、受信状態は、例えば、受信電力、信号対雑音比、信号対干渉雑音電力比等の値を用いて推定することができる。受信確認信号(ACK信号)が受信されない場合とは、例えば受信側においてその所定情報を正常に受信することができなかった場合であり、受信状態が悪い場合と言える。
【0019】
従って、この構成によれば、当該所定情報の送信側及び受信側において各通信方式の通信状態を正確に把握しながら一方の通信状況が悪い時間帯に他方の通信方式を選択することができる。
【0020】
また、第1の態様において好ましくは、上記制御部が、第1の無線信号及び前記第2の無線信号のいずれか1方を優先無線信号として指定する優先情報を保持し、所定のタイミングで現無線信号をこの優先情報で指定される優先無線信号に切り替えた後、試験信号が
処理されるように第1無線部及び第2無線部を制御する。
【0021】
この優先情報は、高い伝送レートが要求される場合に第1の無線信号が優先無線信号として指定され、低消費電力が要求される場合に第2の無線信号が優先無線信号として指定されると効果的である。上述したように第1の無線信号は、第2の無線信号よりも高周波であることから高速伝送が可能だからである。また、高周波信号を処理する第1無線部は、第2無線部に較べて消費電力が大きい。よって、第2の無線信号が優先的に選択されれば、低消費電力を実現することができる。
【0022】
この構成によれば、上述のように継続的に信頼性の高い無線通信を可能としながら、更に、必要性に応じた高速伝送又は低消費電力を実現することができる。
【0023】
なお、別態様としては、以上の何れかの構成を実現する通信制御方法であってもよいし、プログラムであってもよいし、このようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記憶媒体であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
上記態様によれば、継続的に信頼性の高い無線通信を可能とする無線通信技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して、各実施形態としてのセンサ装置についてそれぞれ説明する。なお、以下に述べる各実施形態の構成はそれぞれ例示であり、本発明は以下の各実施形態の構成に限定されない。ここでは、センサ装置を例に挙げるが、センシング機能を有さず無線通信機能のみを有する無線通信装置であってもよい。
【0026】
[実施形態の概要]
まず、各実施形態に共通な事項として、実施形態の概要を説明する。
【0027】
図1は、BANシステムの構成例を示す図である。本実施形態におけるセンサ装置1(#1及び#2)は、相互に無線通信することによりBANシステムを形成する。センサ装置1は、生体9に取り付けられ、例えば生体情報を測定する。以降、複数のセンサ装置1を区別する必要がある場合にのみ(#1)及び(#2)の符号を付すものとする。
【0028】
図2は、BANシステムの通信方式を示す概念図である。
【0029】
図2に示すように、本実施形態におけるセンサ装置1は、空間通信用アンテナ(以降、単にアンテナと表記する)5及び生体通信用電極(以降、単に電極と表記する)7を有する。センサ装置1は、空中を伝搬する周波数F1の電磁波をアンテナ5を介して送受する
。センサ装置1は、電極7により生体表面に生じさせた電界により周波数F2の電磁波を
送受する。
【0030】
空間通信で利用される周波数F1は、上述したように、数100MHzから数GHzの
間で割り当てられる。一方、生体通信で利用される周波数F2は、その伝搬路特性により
、周波数F1よりも大幅に低い10MHz以下で割り当てられる。
【0031】
本実施形態におけるセンサ装置1は、各々大きく異なる周波数を用いる空間通信と生体通信とのいずれか一方を適応的に選択し実行する。すなわち、センサ装置1は、一方の通信方式で通信状況が悪くなった場合には他方の通信方式に切り替える。
【0032】
空間通信で利用される周波数F1と生体通信で利用される周波数F2とは、伝搬路特性の違い等から上述したように大きく異なる。従って、周波数F1及び周波数F2で生ずる各フェージング環境は相関が低い。結果、周波数F1を用いた空間通信においてフェージング
の影響を受ける時間帯は、周波数F2を用いる生体通信に切り替えることにより、フェー
ジングの影響を受けない可能性が高い。
【0033】
従って、例えば、図11に示すような通信不可能時間帯において他方の通信方式に切り替えることにより、通信不可能時間帯が生ずるのを避けることができる。本実施形態におけるセンサ装置1は、特定の周波数F1又はF2に作用するフェージング等による通信障害を回避することができ、継続的に信頼性の高い無線通信を実現することができる。ひいては、本実施形態におけるセンサ装置1は、継続的かつ信頼性の高いモニタリングが必要な医療用システム等に適用可能である。
【0034】
[第1実施形態]
以下、第1実施形態におけるセンサ装置について説明する。
【0035】
〔装置構成〕
図3は、第1実施形態におけるセンサ装置1の一部の概略構成を示すブロック図である。
【0036】
第1実施形態におけるセンサ装置1は、アンテナ5、電極7、トランシーバ10、ベースバンド処理部30をその一部に持つ。本実施形態は主に通信機能に特化するため、その他のセンシング機能等については図示及び説明しない。上記トランシーバ10及びベースバンド処理部30は、ソフトウェアの構成要素又はハードウェアの構成要素、若しくはこれらの組み合わせとしてそれぞれ実現される([その他]の項参照)。
【0037】
トランシーバ10は、空間を伝搬する無線信号を処理する無線処理部(電極7及び送受信スイッチ17を除く全てのユニット)と生体表面又は生体内部を用いて伝搬される無線信号を処理する無線処理部(生体通信アンプ16及び21、通信方式スイッチ15及び22、送受信スイッチ17、電極7)とを備える。トランシーバ10は、ベースバンド処理部30から送られるベースバンド信号をそのとき選択されている通信方式に対応する無線処理部により処理し、処理された無線信号をその通信方式に応じてアンテナ5又は電極7により送出する。アンテナ5又は電極7で無線信号を受信された場合には、トランシーバ10は、その無線信号を同様に選択されている通信方式に対応する無線処理部によりベースバンド信号に変換し、そのベースバンド信号をベースバンド処理部30へ送る。
【0038】
具体的には、トランシーバ10は、送受信スイッチ11及び17、空間通信アンプ12及び24、生体通信アンプ16及び21、アップコンバータ23、ダウンコンバータ13、局部発振器14、通信方式スイッチ15及び22等を有する。
【0039】
送受信スイッチ11は、ベースバンド処理部30から送られる送受切替信号に応じて、アンテナ5と繋がる通信線を送信用回路に接続するか、受信用回路に接続するかを切り替える。具体的には、送受信スイッチ11は、当該送受切替信号が送信側への切り替えを示す場合には、アンテナ5と繋がるアンテナ端子を空間通信アンプ24と繋がる入力端子に接続する。当該送受切替信号が受信側への切り替えを示す場合には、送受信スイッチ11は、当該アンテナ端子を空間通信アンプ12と繋がる出力端子に接続する。
【0040】
送受信スイッチ17は、ベースバンド処理部30から送られる送受切替信号に応じて、電極7と繋がる通信線を送信用回路に接続するか、受信用回路に接続するかを切り替える。具体的には、送受信スイッチ17は、当該送受切替信号が送信側への切り替えを示す場
合には、電極7と繋がる端子を通信方式スイッチ22と繋がる入力端子に接続する。当該送受切替信号が受信側への切り替えを示す場合には、送受信スイッチ17は、電極7と繋がる端子を通信方式スイッチ15と繋がる出力端子に接続する。
【0041】
通信方式スイッチ15及び22は、ベースバンド処理部30から送られる通信方式切替信号に応じて、アンテナ5で送受信される信号を処理するか、電極7で送受信される信号を処理するかを切り替える。通信方式スイッチ22は送信信号の出力先を切り替え、通信方式スイッチ15は受信信号の入力を切り替える。
【0042】
具体的には、通信方式スイッチ22は、通信方式切替信号が空間通信を示す場合には、生体通信アンプ21と繋がる入力端子をアップコンバータ23と繋がる出力端子に接続する。通信方式切替信号が生体通信を示す場合には、通信方式スイッチ22は、生体通信アンプ21と繋がる入力端子を上記送受信スイッチ17と繋がる出力端子に接続する。
【0043】
通信方式スイッチ15は、通信方式切替信号が空間通信を示す場合には、ダウンコンバータ13と繋がる入力端子を生体通信アンプ16と繋がる出力端子に接続する。通信方式切替信号が生体通信を示す場合には、通信方式スイッチ15は、上記送受信スイッチ17と繋がる入力端子を生体通信アンプ16と繋がる出力端子に接続する。
【0044】
生体通信アンプ21は、ベースバンド処理部30から送られるベースバンド信号を増幅し、生体通信に必要な電力を有する信号を生成する。この生体通信に必要な電力としては、例えば、電極7から送出された信号が通信相手のセンサ装置の電極で受信され、そのセンサ装置のベースバンド処理部のA/Dコンバータで復調できる程度の電力が確保されればよい。生体通信アンプ21は、生成された信号を通信方式スイッチ22に送る。
【0045】
アップコンバータ23は、生体通信アンプ21で増幅された信号を通信方式スイッチ22を経由して受けた場合に、その信号を局部発振器14からの出力信号と混合させることにより高周波信号へ変換する。この高周波信号は、図2の例における周波数F1を有する
。アップコンバータ23は、変換された高周波信号を空間通信アンプ24へ送る。
【0046】
局部発振器14は、アップコンバータ23及びダウンコンバータ13において所定の高周波信号を処理させるために所定の周波数を発振する。図2の例では、局部発振器14は、周波数F1を発振する。
【0047】
空間通信アンプ24は、アップコンバータ23により変換された信号を増幅する。アンプコンバータ23から送られる信号は、生体通信アンプ21により既に増幅されている。空間通信アンプ24は、この信号を更に空間通信に必要な電力に増幅する。この空間通信に必要な電力としては、例えば、アンテナ5から送出された信号が通信相手のセンサ装置のアンテナで受信され、そのセンサ装置のベースバンド処理部のA/Dコンバータで復調できる程度の電力が確保されればよい。すなわち、生体通信時に電極7から出力される信号及び空間通信時にアンテナ5から出力される信号は、それぞれ伝搬路及びそれを処理するトランシーバ10の内部回路が異るものの、最終的に受信側のセンサ装置のベースバンド処理部30において閾値以上の電力が保持されるように処理されればよい。空間通信アンプ24は、増幅された信号を送受信スイッチ11へ送る。
【0048】
空間通信アンプ12は、アンテナ5で受信され送受信スイッチ11を経由して受けた微弱な信号をノイズを低減させながら増幅する。空間通信アンプ12は、増幅された信号をダウンコンバータ13へ送る。
【0049】
ダウンコンバータ13は、空間通信アンプ12から送られる信号を局部発振器14から
の出力信号と混合させることによりベースバンド信号に変換する。ダウンコンバータ13は、変換されたベースバンド信号を通信方式スイッチ15へ送る。
【0050】
生体通信アンプ16は、通信方式スイッチ15が生体通信側へ切り替えられている場合には、電極7で受信され送受信スイッチ17を経由して受けた微弱な信号をノイズを低減させながら増幅する。一方、生体通信アンプ16は、通信方式スイッチ15が空間通信側へ切り替えられている場合には、ダウンコンバータ13で周波数変換された信号を必要に応じて増幅する。生体通信アンプ16は、増幅された信号をベースバンド処理部30へ送る。
【0051】
ベースバンド処理部30は、ベースバンド処理を実行する。ベースバンド処理部30は、図示しない他の機能部から所定の送信情報を受ける。ベースバンド処理部30は、この送信情報を符号化、変調等によりベースバンド信号に変換し、変換されたベースバンド信号をトランシーバ10へ送る。所定の送信情報は、例えば、取り付けられた生体9から収集される生体情報(血圧、体温等)である。
【0052】
一方、アンテナ5又は電極7で受信された信号に対応するベースバンド信号を受けた場合には、ベースバンド処理部30は、そのベースバンド信号を復調、復号等を行うことによりそのベースバンド信号から所定の受信情報を得る。所定の受信情報は、例えば、受信信号がACK(受信確認)信号である場合には受信確認を示す情報である。その他、所定の情報は上述の生体情報であってもよい。得られた受信情報は、図示しない他の機能部へ送られる。本実施形態におけるセンサ装置1は、ACK信号等の制御信号以外のデータ信号を受けた場合には、ACK信号を返信する。
【0053】
ベースバンド処理部30は、BAN制御部31及び受信電力測定部32を含む。
【0054】
受信電力測定部32は、トランシーバ10から送られる受信信号に対応するベースバンド信号の受信電力を測定する。受信電力測定部32は、ベースバンド処理部30に送られる全ての受信信号を対象として受信電力を測定するようにしてもよいし、ACK信号以外の受信信号を対象として測定するようにしてもよい。受信電力測定部32は、測定された受信電力に関する情報をBAN制御部31へ送る。
【0055】
BAN制御部31は、通信方式の切り替え制御を行う。BAN制御部31は、空間通信及び生体通信のいずれか1方を選択し、この選択結果を示す通信方式切替信号を上述のトランシーバ10の通信方式スイッチ15及び22に送る。BAN制御部31は、センサ装置1が受信側となる場合には、受信電力測定部32により測定された受信電力に基づいて上記選択を行い、センサ装置1が送信側となる場合にはACK信号に基づいて上記選択を行う。
【0056】
具体的には、BAN制御部31は、当該受信電力が予め調整可能に保持される所定の閾値電力よりも小さい場合には、現在選択されている通信方式を他方の通信方式に切り替える。また、BAN制御部31は、ACK待ちの状態においてACK信号が受信されない場合には、現在選択されている通信方式を他方の通信方式に切り替える。
【0057】
これにより、BAN制御部31は、空間通信で利用される周波数F1と生体通信で利用
される周波数F2との間で周波数ダイバーシチを実現する。なお、BAN制御部31にお
ける通信方式の切り替え制御については動作例の項でより詳細に説明する。
【0058】
BAN制御部31は、更に、アンテナ5及び電極7をそれぞれ送信及び受信で共用しているため、送信及び受信の切り替えを制御する。BAN制御部31は、その制御結果とし
て送受切替信号をトランシーバ10の送受信スイッチ11及び17へ送る。送信及び受信の切り替えタイミングは、割り当てられるタイムスロットを用いて実行されてもよいし、通常時は受信側に設定し送信情報が存在する場合にのみ送信側へ切り替えるようにしてもよい。
【0059】
〔動作例〕
以下、第1実施形態におけるセンサ装置1の動作例について図4及び5を用いて説明する。図4は、第1実施形態におけるセンサ装置1の空間通信例を示す図である。図5は、第1実施形態におけるセンサ装置1の生体通信例を示す図である。図4及び5は、第1実施形態におけるセンサ装置1(#1)からセンサ装置1(#2)へ所定の情報が送信される場合の動作例を示す。
【0060】
図4及び5の例における送受信関係では、本実施形態におけるセンサ装置1(#1)及び(#2)は以下のように動作する。
【0061】
センサ装置1(#1)では、所定の送信情報がベースバンド処理部30へ送られると、送信側への切り替え指示を示す送受切替信号がBAN制御部31からトランシーバ10(#1)へ送られる。トランシーバ10(#1)内の送受信スイッチ11(#1)及び17(#1)は、この送受切替信号を受信する。これに伴い、送受信スイッチ11(#1)は、アンテナ5(#1)と繋がるアンテナ端子を空間通信アンプ24(#1)と繋がる入力端子に接続する。送受信スイッチ17(#1)は、電極7(#1)と繋がる端子を通信方式スイッチ22(#1)と繋がる入力端子に接続する。このとき、送受信スイッチ17(#1)には送受切替信号が送られないようにしてもよい。後述するように通信方式スイッチ22(#1)が空間通信側に切り替えられるため、送受信スイッチ17(#1)に送信信号が送られないからである。
【0062】
このとき、センサ装置1(#2)では、受信側への切り替え指示を示す送受切替信号がBAN制御部31からトランシーバ10(#2)へ送られる。結果、上述のセンサ装置1(#1)とは逆に、トランシーバ10(#2)内の送受信スイッチ11(#2)及び17(#2)は図4に示すように受信側に切り替えられる。センサ装置1(#2)においても、このとき、送受信スイッチ17(#2)には送受切替信号が送られないようにしてもよい。
【0063】
以下、図4を参照して、第1実施形態におけるセンサ装置1の空間通信時の動作例について説明する。
【0064】
図4の例では、センサ装置1(#1)のBAN制御部31において空間通信が選択されることにより、空間通信への切り替え指示を示す通信方式切替信号がBAN制御部31からトランシーバ10(#1)へ送られる。トランシーバ10(#1)の通信方式スイッチ22(#1)及び15(#1)はこの通信方式切替信号を受信する。これに伴い、通信方式スイッチ22(#1)は、生体通信アンプ21(#1)と繋がる入力端子をアップコンバータ23(#1)と繋がる出力端子に接続する。通信方式スイッチ15(#1)は、ダウンコンバータ13(#1)と繋がる入力端子を生体通信アンプ16(#1)と繋がる出力端子に接続する。
【0065】
この後、所定の送信情報が変換されたベースバンド信号がトランシーバ10(#1)へ送られる。ベースバンド信号は、生体通信アンプ21(#1)で増幅された後、通信方式スイッチ22(#1)を経由してアップコンバータ23(#1)へ送られる。この増幅された信号は、アップコンバータ23(#1)により空間通信のための周波数F1へ周波数
変換された後、空間通信アンプ24(#1)へ送られる。空間通信アンプ24(#1)で
は、この信号が更に増幅される。このように生成された高周波信号は、送受信スイッチ11(#1)を経由してアンテナ5(#1)から送出される。
【0066】
このとき、受信側のセンサ装置1(#2)においても、空間通信が選択され、空間通信への切り替え指示を示す通信方式切替信号がBAN制御部31からトランシーバ10(#2)へ送られる。結果、上述のセンサ装置1(#1)と同様に、トランシーバ10(#2)内の通信方式スイッチ22(#2)及び15(#2)は図4に示すように空間通信側に切り替えられる。このように送信側のセンサ装置1(#1)と受信側のセンサ装置1(#2)との間で通信方式の同期を取る仕組みについては後述する。
【0067】
アンテナ5(#1)から送出された信号は、センサ装置1(#2)のアンテナ5(#2)で受信される。この受信信号は、送受信スイッチ11(#2)を経由して空間通信アンプ12(#2)へ送られ、空間通信アンプ12(#2)で増幅される。この増幅された信号は、ダウンコンバータ12(#2)でベースバンド信号に変換される。ベースバンド信号は、通信方式スイッチ15(#2)を経由して生体通信アンプ16(#2)へ送られ、生体通信アンプ16(#2)で増幅された後、ベースバンド処理部30へ送られる。
【0068】
ベースバンド処理部30においてそのベースバンド信号から所定の情報を抽出できた場合には、センサ装置1(#2)は、ACK信号を送信する。このとき、センサ装置1(#2)のBAN制御部31は、送信側への切り替え指示を示す送受切替信号を送受信スイッチ11(#2)及び17(#2)へ送り、トランシーバ10(#2)をACK信号が送信できる状態に切り替える。このACK信号は、対応する受信信号と同様の通信方式(空間通信)で返信される。
【0069】
以下、図5を参照して、第1実施形態におけるセンサ装置1の生体通信時の動作例について説明する。
【0070】
図5の例では、センサ装置1(#1)のBAN制御部31において生体通信が選択されることにより、生体通信への切り替え指示を示す通信方式切替信号がBAN制御部31からトランシーバ10(#1)へ送られる。この通信方式切替信号を受信すると、通信方式スイッチ22(#1)は、生体通信アンプ21(#1)と繋がる入力端子を送受信スイッチ17(#1)と繋がる出力端子に接続する。通信方式スイッチ15(#1)は、送受信スイッチ17(#1)と繋がる入力端子を生体通信アンプ16(#1)と繋がる出力端子に接続する。
【0071】
この後、所定の送信情報が変換されたベースバンド信号がトランシーバ10(#1)へ送られる。ベースバンド信号は、生体通信アンプ21(#1)で増幅された後、通信方式スイッチ22(#1)及び送受信スイッチ17(#1)を経由して電極7(#1)へ送られる。この増幅された信号は生体通信のための周波数F2を持つ。
【0072】
この周波数F2の無線信号は、電極7(#1)により生体9の表面に生成された電界を
伝搬され、電極7(#2)で受信される。
【0073】
このとき、受信側のセンサ装置1(#2)においても、生体通信が選択され、生体通信への切り替え指示を示す通信方式切替信号がBAN制御部31からトランシーバ10(#2)へ送られる。結果、上述のセンサ装置1(#1)と同様に、トランシーバ10(#2)内の通信方式スイッチ22(#2)及び15(#2)は図5に示すように生体通信側に切り替えられる。
【0074】
電極7(#2)で受信された信号は、送受信スイッチ17(#2)及び通信方式スイッ
チ15(#2)を経由して生体通信アンプ16(#2)へ送られる。この信号は、生体通信アンプ16(#2)で増幅された後、ベースバンド処理部30へ送られる。
【0075】
ベースバンド処理部30においてそのベースバンド信号から所定の情報を抽出できた場合には、図4の説明と同様の手法によりセンサ装置1(#2)は、ACK信号を送信する。このACK信号は、対応する受信信号と同様の通信方式(生体通信)で返信される。
【0076】
〈処理フロー〉
以下、第1実施形態におけるセンサ装置1の処理例について図6を用いて説明する。図6は、第1実施形態におけるセンサ装置1の処理例を示すフローチャートである。図6に示される処理は、主に、トランシーバ10が受信側に切り替えられている状態においてのBAN制御部31の処理である。BAN制御部31は、以下のような処理を所定の周期又は信号受信時に逐次実行する。
【0077】
BAN制御部31は、アンテナ5又は電極7で受信された信号が変換されたベースバンド信号の有無を検知する(S601)。BAN制御部31は、この受信信号がない場合には(S601;NO)、ACK待ち状態か否かを判定する(S602)。BAN制御部31は、所定の情報を無線送信した後にはACK待ち状態となる。
【0078】
BAN制御部31は、ACK待ち状態である場合には(S602;YES)、ACKのタイムアウト時間が経過しているか否かを判定する(S603)。このACKのタイムアウト時間は予め調整可能に保持される。BAN制御部31は、ACKのタイムアウト時間が経過していると判断すると(S603;YES)、現在選択されている通信方式を確認する(S604)。
【0079】
BAN制御部31は、現在選択されている通信方式が空間通信である場合には(S604;YES)、生体通信方式へ切り替えることを決定する(S606)。BAN制御部31は、現在選択されている通信方式が空間通信でない場合(すなわち生体通信である場合)には(S604;NO)、空間通信方式へ切り替えることを決定する(S607)。BAN制御部31は、この決定結果を示す通信方式切替信号をトランシーバ10へ送信する。
【0080】
BAN制御部31は、ACK待ち状態でない場合(S602;NO)、ACK待ち状態でACKのタイムアウト時間を経過していない場合(S603;NO)には、受信信号がないのでそのまま処理を終了する。
【0081】
一方で、受信信号が存在し(S601;YES)かつその信号がACK信号である場合には(S610;YES)、BAN制御部31は、ACK待ち状態を解除する(S611)。
【0082】
以上の通信方式切り替え処理は、センサ装置1がACK待ち状態の場合すなわち所定情報の送信側である場合の処理である。このとき、ACK信号の送信側すなわち所定情報の受信側のセンサ装置1(以降、受信側のセンサ装置1と表記する)においても同一の通信方式が選択されるべきである。
【0083】
受信側のセンサ装置1は、所定情報の送信側のセンサ装置1から所定情報を含む無線信号を受信した場合には、以下のような処理を行う。BAN制御部31は、受信信号が存在し(S601;YES)、その受信信号がACK信号でないと判断する(S610;NO)。
【0084】
このとき、ベースバンド処理部30にはその受信信号が送られている。受信電力測定部32は、その受信信号の電力を測定する(S615)。
【0085】
BAN制御部31は、受信電力測定部32からその受信電力の情報を受け、その受信電力が閾値電力よりも小さいか否かを判定する(S615)。BAN制御部31は、この受信電力が閾値電力よりも小さいと判定した場合には(S615;YES)、現在選択されている通信方式を確認する(S616)。
【0086】
BAN制御部31は、現在選択されている通信方式が空間通信である場合には(S616;YES)、生体通信方式へ切り替えることを決定する(S617)。BAN制御部31は、現在選択されている通信方式が空間通信でない場合(すなわち生体通信である場合)には(S616;NO)、空間通信方式へ切り替えることを決定する(S618)。BAN制御部31は、この決定結果を示す通信方式切替信号をトランシーバ10へ送信する。
【0087】
BAN制御部31は、この受信電力が閾値電力以上であると判定した場合には(S615;NO)、正常受信できたことを示すACK信号を送信する(S620)。
【0088】
このように、受信側のセンサ装置1は、所定情報を含む無線信号の受信電力が閾値電力より小さい場合すなわちその無線信号の伝搬環境が悪い場合に、現在選択されている通信方式を他方に切り替える。この場合には、受信側のセンサ装置1は、ACK信号を返信しない。これにより、その所定情報を送信したセンサ装置1はACK信号を受けることができず、上述のS603の判断により通信方式を他方に切り替える。結果、送信側及び受信側のセンサ装置1において同一の通信方式が選択される。
【0089】
〈第1実施形態における作用及び効果〉
上述の第1実施形態におけるセンサ装置1は、各々フェージング環境の相関が低い周波数を用いる空間通信及び生体通信の両方を実行するための無線処理部をトランシーバ10内に備える。この構成において空間通信と生体通信とのいずれか一方がその受信状況に応じて適応的に選択される。すなわち、空間通信を実行している際にその通信状況がフェージング等の影響により悪化した場合には、利用周波数が大きく異なる生体通信に切り替えられる。逆に、生体通信を実行している際にその通信状況が悪化した場合には、利用周波数が大きく異なる空間通信に切り替えられる。
【0090】
これにより、第1実施形態におけるセンサ装置1によれば、大きな周波数ダイバーシチ効果を得ることができ、継続的に信頼性の高い無線通信を実現することができる。
【0091】
第1実施形態におけるセンサ装置1では、所定情報の送信側となる場合には、ACK信号の未受信により通信方式が切り替えられる。逆に、所定情報の受信側となる場合には、その所定情報を含む無線信号の受信電力が閾値電力よりも小さい場合に通信方式が切り替えられる。
【0092】
これにより、第1実施形態におけるセンサ装置1によれば、センサ装置間で通信方式の切替を通知することなく、通信方式の切替の同期を取ることができる。従って、簡易な構成により、上述のような効果を得ることができる。
【0093】
[第二実施形態]
以下、第2実施形態におけるセンサ装置について説明する。第2実施形態におけるセンサ装置は、通信状況と共に優先モードを考慮して、通信方式の切り替えを決定する。第2実施形態におけるセンサ装置は、この優先モードとして伝送レートを優先する伝送レート
優先モードと消費電力の低減を優先する電力優先モードとを用いる。
【0094】
〔装置構成〕
図7は、第2実施形態におけるセンサ装置の一部の概略構成を示すブロック図である。
【0095】
図7に示すように、第2実施形態におけるセンサ装置1は、第1実施形態の構成に加えて、電力スイッチ71を更に有する。その他の構成については、BAN制御部31を除いて第1実施形態と同様である。以下、第1実施形態と異なる構成についてのみ説明する。なお、図7に示される回路電源70は、第1実施形態においても備えられ、第1実施形態では説明を省略した。
【0096】
電力スイッチ71は、空間通信時のみ動作する無線処理部(空間通信アンプ12及び24、アップコンバータ23、ダウンコンバータ13、局部発振器14)に繋がる電力線とそれらに電力を供給する回路電源70の出力線との接続状態を切り替える。電力スイッチ71は、BAN制御部31からの通信方式切替信号を受け、この信号が生体通信への切り替えを示す場合にその接続状態をオフにする。すなわち、電力スイッチ71は、生体通信方式が選択された場合に、空間通信アンプ12及び24、アップコンバータ23、ダウンコンバータ13及び局部発振器14への電力供給を停止させる。
【0097】
BAN制御部31は、上記優先モードを管理する。この優先モードは、予め調整可能に保持されるようにしてもよいし、送信データ量等に応じて自動で切り替えられるようにしてもよい。後者の場合には、例えば、センサ装置1は、送信すべきデータ量が所定の閾値よりも大きいときには伝送レート優先モードに設定し、それ以外には電力優先モードに設定する。後者の場合で、そのデータの受信側となるセンサ装置1は、送信側のセンサ装置1からその優先モードの通知を受けるようにしてもよい。
【0098】
BAN制御部31は、第1実施形態における通信方式切り替え処理に加えて、更に、優先モードに応じた通信方式切り替え処理を実行する。この切り替え処理では、通信状況が悪い時間帯を除いた他の時間帯については優先的に優先モードとして設定される通信方式(空間通信又は生体通信)へ切り替えられる。この切り替え処理は、他のセンサ装置と同期が取られた所定のタイミングで実行される。この所定のタイミングは、例えば、各センサ装置において同期の取られた所定の周期であってもよいし、専用の信号がセンサ装置間で送受されるタイミングであってもよい。
【0099】
BAN制御部31は、優先モードが伝送レート優先モードに設定されている場合には、空間通信方式が選択されるように制御する。これは、空間通信で利用される周波数F1
、生体通信で利用される周波数F2に較べて大幅に大きいため高速伝送が可能となるから
である。
【0100】
空間通信方式が実行されている場合には、生体通信方式に較べて、トランシーバ10内において動作するユニットが多くなる。生体通信時には、電力スイッチ71により、空間通信アンプ12及び24、アップコンバータ23、ダウンコンバータ13、局部発振器14への電力供給が停止されるため、空間通信時に較べて消費電力が低くなる。これにより、BAN制御部31は、優先モードが電力優先モードに設定されている場合には、生体通信方式を選択する。
【0101】
BAN制御部31は、このように優先モードに応じた通信方式の切り替えを実行すると、その切り替え後の通信方式により試験信号を送信する。BAN制御部31は、この試験信号を用いて第1実施形態と同様の通信方式切り替え処理を行うことにより、この切り替え後の通信方式の通信状況を確認する。試験信号を送信したセンサ装置1は、第1実施形
態と同様にACK待ち状態となり、試験信号を受信したセンサ装置1は、第1実施形態と同様にその受信電力に基づいて通信方式の切り替えを決定する。
【0102】
但し、全てのセンサ装置1により試験信号が送信される必要はない。よって、各センサ装置1には、試験信号を送信すべきか否かの設定情報が予め調整可能に保持されるようにしてもよいし、送信動作を行う必要のあるセンサ装置1が主導でこの試験信号を送信するようにしてもよい。
【0103】
〔動作例〕
以下、第2実施形態におけるセンサ装置の動作例として、上記BAN制御部31における優先モードに応じた通信方式切り替え処理について図8を用いて説明する。図8は、第2実施形態におけるセンサ装置の処理例を示すフローチャートである。センサ装置1のBAN制御部31は、図6に示す第1実施形態における処理を実行しながら、所定のタイミングにより以下のような処理を実行する。
【0104】
BAN制御部31は、優先モードを確認する(S801)。BAN制御部31は、優先モードが伝送レート優先モードに設定されている場合には(S801;YES)、現在選択されている通信方式が生体通信方式であるか否かを確認する(S802)。BAN制御部31は、現在選択されている通信方式が生体通信方式でない場合(すなわち空間通信方式である場合)には(S802;NO)、そのままその通信方式を継続する。
【0105】
一方、BAN制御部31は、現在選択されている通信方式が生体通信方式である場合には(S802;YES)、伝送レート優先モードに対応する空間通信方式への切り替えを決定する(S803)。BAN制御部31は、この決定結果を示す通信方式切替信号をトランシーバ10へ送信すると共に、試験信号を示すベースバンド信号をトランシーバ10へ送る。
【0106】
このとき、この試験信号の受信側となるセンサ装置1においても、送信側のセンサ装置1と同期の取られたタイミングで上述のような処理が実行されている。よって、受信側のセンサ装置1も送信側のセンサ装置と同じ通信方式へ切り替っている。
【0107】
以降、受信側のセンサ装置1では、その試験信号の受信電力に応じた通信方式の切り替え処理が実行される(図6のS615、S616、S617、S618、S620)。このとき、空間通信の通信状況が回復していれば、そのセンサ装置1からは同一の空間通信方式によりACK信号が返信される。一方、空間通信の通信状況が回復していなければ、受信側のセンサ装置1は生体通信方式へ再度切り替えられ、ACK信号は返信されない。
【0108】
試験信号を送信したセンサ装置1は、試験信号に対するACK待ち状態となっている。これにより、送信側のセンサ装置1は、空間通信の通信状況が回復していれば受信側のセンサ装置1からACK信号が返信されてくるので、優先モードに応じて切り替えられた通信方式を継続する。一方、空間通信の通信状況が回復していなければ受信側のセンサ装置1からACK信号が返信されないため、送信側のセンサ装置1は、受信側のセンサ装置1と同様に生体通信方式へ再度切り替えられる。
【0109】
このように、センサ装置1は、試験信号を用いて、伝送レート優先モードに対応する空間通信方式の通信状況の回復具合をチェックする(S805)。
【0110】
BAN制御部31は、優先モードが電力優先モードに設定されている場合には(S801;NO、S810;YES)、現在選択されている通信方式が空間通信方式であるか否かを確認する(S811)。BAN制御部31は、現在選択されている通信方式が空間通
信方式でない場合(すなわち生体通信方式である場合)には(S811;NO)、そのままその通信方式を継続する。
【0111】
一方、BAN制御部31は、現在選択されている通信方式が空間通信方式である場合には(S811;YES)、電力優先モードに対応する生体通信方式への切り替えを決定する(S812)。BAN制御部31は、この決定結果を示す通信方式切替信号をトランシーバ10へ送信すると共に、試験信号を示すベースバンド信号をトランシーバ10へ送る。以降、上述した伝送レート優先モード時の処理と同様に、センサ装置1は、試験信号を用いて、電力優先モードに対応する生体通信方式の通信状況の回復具合をチェックする(S815)。
【0112】
〈第2実施形態における作用及び効果〉
上述の第2実施形態におけるセンサ装置1は、第1実施形態における手法により通信品質を継続的に保ちながら、所定のタイミングで優先モードに対応する通信方式に切り替えようと試みる。
【0113】
具体的には、センサ装置1は、通信状況に応じた通信方式の切り替えにより生体通信方式が選択された状態において伝送レート優先モードが設定されている場合には、所定のタイミングで空間通信方式へ切り替え、空間通信の通信状況を確認する。これにより、空間通信の通信状況が回復していれば、高速伝送を可能とする空間通信方式へ切り替えられる。
【0114】
逆に、センサ装置1は、通信状況に応じた通信方式の切り替えにより空間通信方式が選択された状態において電力優先モードが設定されている場合には、所定のタイミングで生体通信方式へ切り替え、生体通信の通信状況を確認する。これにより、生体通信の通信状況が回復していれば、消費電力の少ない生体通信方式へ切り替えられる。
【0115】
第2実施形態におけるセンサ装置1によれば、図11に示される通信不可能時間帯のみ他方の通信方式へ切り替え、それ以外には優先モードに応じた通信方式を継続することができる。
【0116】
よって、第2実施形態によれば、継続的に信頼性の高い無線通信を実現しながら、必要性に応じて高速伝送又は低消費電力運転を更に実現することができる。当該センサ装置1が生体9に取り付けられ交換が困難な場合などには電力優先モードが選択されれば効果的である。逆に、送信データ量が多いセンサ装置1の場合などには伝送レート優先モードが選択されれば効果的である。
【0117】
[変形例]
上述の各実施形態におけるセンサ装置1はそれぞれ、受信電力測定部32により測定される受信電力を用いて通信方式の切り替えを決定していたが、受信状況を示す他の情報を用いるようにしてもよい。他の情報には、例えば、復号後の信号を用いて測定されるBLER(BLock Error Rate)、再送回数等がある。この場合には、受信電力測定部32の替わりに、受信状況判定部を設け、この受信状況判定部が、他の情報に基づいて受信状況が悪いと判断した場合に、通信方式の切り替えを決定するようにすればよい。
【0118】
また、上述の各実施形態における受信電力測定部32は、信号対雑音比(以降、SIR(Signal to Interference power Ratio)、信号対干渉雑音電力比(以降、SINR(Signal to Interference plus Noise power Ratio)と表記する)等を推定するようにして
もよい。この場合には、SIR、SINR等を閾値(閾値電力Pth/雑音電力)と比較した結果により、通信方式の切り替えを決定するようにすればよい。なお、SIR、SI
NRの推定方法については、一般的な方法を用いればよいため、ここでは説明を省略する。
【0119】
また、上述の第2実施形態におけるセンサ装置1では、電力スイッチ71を設ける例を示したが、優先モードを伝送レート優先モードのみとする場合にはこの電力スイッチ71を省いても良い。
【0120】
[その他]
〈ハードウェアの構成要素(Component)及びソフトウェアの構成要素(Component)について〉
ハードウェアの構成要素とは、ハードウェア回路であり、例えば、フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、ゲートアレイ、論理ゲートの組み合わせ、信号処理回路、アナログ回路等がある。
【0121】
ソフトウェアの構成要素とは、ソフトウェアとして上記機能を実現する部品(断片)であり、そのソフトウェアを実現する言語、開発環境等を限定する概念ではない。ソフトウェアの構成要素としては、例えば、タスク、プロセス、スレッド、ドライバ、ファームウェア、データベース、テーブル、関数、プロシジャ、サブルーチン、プログラムコードの所定の部分、データ構造、配列、変数、パラメータ等がある。これらソフトウェアの構成要素は、1又は複数のメモリ(1または複数のプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processer)等)上で実現される。
【0122】
なお、上述の各実施形態は、上記各機能部の実現手法を限定するものではないため、上記各機能部は、上記ハードウェアの構成要素又はソフトウェアの構成要素若しくはこれらの組み合わせとして、本技術分野の通常の技術者において実現可能な手法により構成されていればよい。
【0123】
〈付記〉
以上の本実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。各項に開示される態様は、必要に応じて可能な限り組み合わせることができる。
【0124】
(付記1)
空間を用いて伝搬される第1の無線信号を処理する第1無線部と、
生体表面又は生体内部を用いて伝搬される第2の無線信号を処理する第2無線部と、
前記第1の無線信号及び前記第2の無線信号のいずれか1方を現無線信号として選択し、この現無線信号が処理されるように前記第1無線部及び前記第2無線部を制御する制御部と、
を備える無線通信装置。
【0125】
(付記2)
前記制御部は、前記現無線信号を用いて所定情報を送信した後、この所定情報の受信確認信号が受信されない場合に、前記現無線信号を他方の無線信号に切り替える、
付記1に記載の無線通信装置。
【0126】
(付記3)
前記現無線信号の受信状態を推定する推定部、を更に備え、
前記制御部は、前記推定部により取得された受信状態が閾値よりも悪い場合に、前記現無線信号を他方の無線信号に切り替える、
付記1又は2に記載の無線通信装置。
【0127】
(付記4)
前記推定部は、前記現無線信号の受信状態として、受信電力、信号対雑音比及び信号対干渉雑音電力比の少なくとも1つを推定し、
前記制御部は、前記推定部により推定された受信電力、信号対雑音比及び信号対干渉雑音電力比の少なくとも1つに基づいて、前記現無線信号の切り替えを判断する、
付記3に記載の無線通信装置。
【0128】
(付記5)
前記第1無線部は、
前記第2無線部が持たない周波数変換部及び増幅部を含み、
前記制御部は、前記第2の無線信号が現無線信号として選択される場合には、前記第1無線部の周波数変換部及び増幅部の少なくとも1つに供給される電力を停止させる、
付記1から4のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【0129】
(付記6)
前記制御部は、
前記第1の無線信号及び前記第2の無線信号のいずれか1方を優先無線信号として指定する優先情報を保持し、所定のタイミングで前記現無線信号をこの優先情報で指定される優先無線信号に切り替え、試験信号が処理されるように前記第1無線部及び前記第2無線部を制御する
付記5に記載の無線通信装置。
【0130】
(付記7)
前記優先情報は、高い伝送レートが要求される場合に前記第1の無線信号が優先無線信号として指定され、低消費電力が要求される場合に前記第2の無線信号が優先無線信号として指定される、
付記6に記載の無線通信装置。
【0131】
(付記8)
空間を用いて伝搬される第1の無線信号を処理する第1無線部と、
生体表面又は生体内部を用いて伝搬される第2の無線信号を処理する第2無線部と、
を有する無線通信装置における通信制御方法において、
前記第1の無線信号及び前記第2の無線信号のいずれか1方を現無線信号として選択するステップと、
この選択された現無線信号が処理されるように前記第1無線部及び前記第2無線部を制御する制御ステップと、
を含む通信制御方法。
【0132】
(付記9)
前記制御ステップは、前記現無線信号を用いて所定情報を送信した後、この所定情報の受信確認信号が受信されない場合に、前記現無線信号を他方の無線信号に切り替える、
付記8に記載の通信制御方法。
【0133】
(付記10)
前記現無線信号の受信状態を推定する推定ステップ、を更に含み、
前記制御ステップは、前記推定ステップにより取得された受信状態が閾値よりも悪い場合に、前記現無線信号を他方の無線信号に切り替える、
付記8又は9に記載の通信制御方法。
【0134】
(付記11)
前記推定ステップは、前記現無線信号の受信状態として、受信電力、信号対雑音比及び信号対干渉雑音電力比の少なくとも1つを推定し、
前記制御ステップは、前記推定ステップにより推定された受信電力、信号対雑音比及び信号対干渉雑音電力比の少なくとも1つに基づいて、前記現無線信号の切り替えを判断する、
付記10に記載の通信制御方法。
【0135】
(付記12)
前記第1無線部は、前記第2無線部が持たない周波数変換部及び増幅部を含み、
前記制御ステップは、前記第2の無線信号が現無線信号として選択される場合には、前記第1無線部の周波数変換部及び増幅部の少なくとも1つに供給される電力を停止させる、
付記8から11のいずれか1項に記載の通信制御方法。
【0136】
(付記13)
前記制御ステップは、
前記第1の無線信号及び前記第2の無線信号のいずれか1方を優先無線信号として指定する優先情報を保持し、所定のタイミングで前記現無線信号をこの優先情報で指定される優先無線信号に切り替え、試験信号が処理されるように前記第1無線部及び前記第2無線部を制御する
付記12に記載の通信制御方法。
【0137】
(付記14)
前記優先情報は、高い伝送レートが要求される場合に前記第1の無線信号が優先無線信号として指定され、低消費電力が要求される場合に前記第2の無線信号が優先無線信号として指定される、
付記13に記載の通信制御方法。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】BANシステムの構成例を示す図である。
【図2】BANシステムの通信方式を示す概念図である。
【図3】第1実施形態におけるセンサ装置の一部の概略構成を示すブロック図である。
【図4】第1実施形態におけるセンサ装置の空間通信例を示す図である。
【図5】第1実施形態におけるセンサ装置の生体通信例を示す図である。
【図6】第1実施形態におけるセンサ装置の処理例を示すフローチャートである。
【図7】第2実施形態におけるセンサ装置の一部の概略構成を示すブロック図である。
【図8】第2実施形態におけるセンサ装置の処理例を示すフローチャートである。
【図9】空間通信を用いたBANシステムの概要を示す図である。
【図10】生体通信を用いたBANシステムの概要を示す図である。
【図11】従来のBANシステムに生ずるフェージングの例を示す図である。
【符号の説明】
【0139】
1 センサ装置
5 アンテナ
7 電極
9 生体
10 トランシーバ
11、17 送受信スイッチ
12、24 空間通信アンプ
13 ダウンコンバータ
14 局部発振器
15、22 通信方式スイッチ
16、21 生体通信アンプ
23 アップコンバータ
30 ベースバンド処理部
31 BAN制御部
32 受信電力測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を用いて伝搬される第1の無線信号を処理する第1無線部と、
生体表面又は生体内部を用いて伝搬される第2の無線信号を処理する第2無線部と、
前記第1の無線信号及び前記第2の無線信号のいずれか1方を現無線信号として選択し、この現無線信号が処理されるように前記第1無線部及び前記第2無線部を制御する制御部と、
を備える無線通信装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記現無線信号を用いて所定情報を送信した後、この所定情報の受信確認信号が受信されない場合に、前記現無線信号を他方の無線信号に切り替える、
請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記現無線信号の受信状態を推定する推定部、を更に備え、
前記制御部は、前記推定部により取得された受信状態が閾値よりも悪い場合に、前記現無線信号を他方の無線信号に切り替える、
請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記第1の無線信号及び前記第2の無線信号のいずれか1方を優先無線信号として指定する優先情報を保持し、所定のタイミングで前記現無線信号をこの優先情報で指定される優先無線信号に切り替え、試験信号が処理されるように前記第1無線部及び前記第2無線部を制御する
請求項3に記載の無線通信装置。
【請求項5】
空間を用いて伝搬される第1の無線信号を処理する第1無線部と、
生体表面又は生体内部を用いて伝搬される第2の無線信号を処理する第2無線部と、
を有する無線通信装置における通信制御方法において、
前記第1の無線信号及び前記第2の無線信号のいずれか1方を現無線信号として選択するステップと、
この選択された現無線信号が処理されるように前記第1無線部及び前記第2無線部を制御する制御ステップと、
を含む通信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−268016(P2009−268016A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118340(P2008−118340)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】