説明

無線通信装置

【課題】プライマリーユーザからチャネル情報を得ることなく、セカンダリーユーザがプライマリーユーザに与える干渉を推定して、セカンダリーユーザがプライマリーユーザと同一の周波数を用いて無線通信を行う。
【解決手段】第1の周波数チャネルで位置情報を含む制御メッセージを送信した後に、第2の周波数チャネルでデータ送信を行う他の無線通信装置の存在下で、前記第2の周波数を用いてデータ送信を行うコグニティブ無線通信装置であって、位置情報取得手段と、前記他の無線通信装置が前記第1の周波数チャネルで送信する制御メッセージの受信電力を測定する制御チャネル受信手段と、自装置および他の装置の位置情報に基づいて、前記第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定する与干渉量推定手段と、前記推定される与干渉量に応じて前記第2の周波数における送信出力を制御する送信出力制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置に関し、特にプライマリーユーザが存在する状況でプライマリーユーザに干渉を与えない範囲でセカンダリーユーザが同一周波数を使って通信を行うアンダーレイコグニティブ無線システムを構成する無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線周波数の利用効率を高めるために、電波環境を認識・認知して無線通信に利用する周波数や方式などを適応的に判断するコグニティブ無線が検討されている。コグニティブ無線には2つの方法が考えられる。1つは、周波数を2次的に利用しようとする2次利用者(セカンダリーユーザ)が、1次利用者(プライマリーユーザ)の信号の存在を検知し、プライマリーユーザが存在しない場合のみ、その周波数を利用する方法である。この方法は、オーバーレイコグニティブ無線と呼ばれることがある。もう1つの方法は、プライマリーユーザが存在する状況でも、プライマリーユーザに干渉を与えない範囲で同一の周波数を使って通信を行う方法である。この方法は、アンダーレイコグニティブ無線システムとも呼ばれる。
【0003】
上記2つの方法を比較すると、オーバーレイコグニティブ無線システムではプライマリーユーザへ干渉を与えることが(理論的には)ないが、周波数利用効率がそれほど高くない。プライマリーユーザへの干渉を適切に抑えることができれば、アンダーレイコグニティブ無線システムの方が周波数利用効率を高めることができる。
【0004】
アンダーレイコグニティブ無線システムでは、プライマリーユーザへの干渉を避けるために、プライマリーユーザからチャネル状態情報(CSI: Channel State Information)を通信することを前提としている。しかしながら、これはプライマリーユーザがセカンダリーユーザに協力することを前提としているため、現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−285062号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】L. B. Le and E. Hossain, “Resource Allocation for spectrum underlay in cognitive radio networks”, IEEE Transactions on Wireless Communications., vol. 7, no. 12, pp. 5306-5315, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プライマリーユーザに与える干渉を推定できれば、セカンダリーユーザは、プライマリーユーザが許容可能な干渉レベルの範囲内でプライマリーユーザと同一の周波数を使って通信可能とすることができる。本発明は、プライマリーユーザからチャネル情報を得ることなく、セカンダリーユーザがプライマリーユーザに与える干渉を推定できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明にかかるコグニティブ無線通信装置は、第1の周波数チャネルで位置情報を含む制御メッセージを送信した後に、第2の周波数チャネルでデータ送信を行う他の無線通信装置の存在下で、前記第2の周波数を用いてデータ送信を
行うコグニティブ無線通信装置であって、位置情報を取得する位置情報取得手段と、前記他の無線通信装置が前記第1の周波数チャネルで送信する制御メッセージの受信電力を測定する制御チャネル受信手段と、前記位置情報取得手段から取得される位置情報および前記制御メッセージに含まれる位置情報に基づいて、前記第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定する与干渉量推定手段と、前記推定される与干渉量に応じて前記第2の周波数における送信出力を制御する送信出力制御手段と、を備える。
【0009】
与干渉量を推定する具体的な方法としては、例えば、以下の方法がある。
【0010】
第1の方法として、与干渉量推定手段は、送受信間の距離と送信周波数をパラメータとする電波伝搬モデルに、前記位置情報取得手段から取得される位置情報および前記制御メッセージに含まれる位置情報に基づいて得られる前記他の無線通信装置との距離と、前記第2の周波数とを適用することで、前記第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定する。
【0011】
第2の方法として、与干渉量推定手段は、送受信間の距離と送信周波数と道路またはその周辺の建物に関する情報をパラメータとする電波伝搬モデルに、前記位置情報取得手段から取得される位置情報および前記制御メッセージに含まれる位置情報に基づいて得られる前記他の無線通信装置との距離と、前記第2の周波数と、前記地図データベースから取得される道路幅、道路角、または建物高さとを適用することで、前記第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定する。この場合、無線通信装置は、少なくとも道路幅、道路角、建物高さのいずれかを含む地図データベースを備える必要がある。
【0012】
第3の方法として、与干渉量推定手段は、前記制御チャネルの受信電力と、前記位置情報取得手段から取得される位置情報および前記制御メッセージに含まれる位置情報に基づいて得られる前記他の無線通信装置との距離と、から第1の周波数における伝搬損失を推定し、その結果から第2の周波数における伝搬損失を推定して、第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定することができる。
【0013】
第4の方法として、与干渉量推定手段は、送受信間の距離と送信周波数と未知パラメータとをパラメータとする電波伝搬モデルにおいて、前記位置情報取得手段から取得される位置情報および前記制御メッセージに含まれる位置情報に基づいて得られる前記他の無線通信装置との距離と、前記第1の周波数と、前記制御メッセージの送信電力と受信電力とから、前記電波伝搬モデルにおける未知パラメータを決定し、該電波伝搬モデルを用いて第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定することができる。この場合、無線通信装置は、前記他の無線通信装置が前記第1の周波数で送信する制御メッセージの送信電力を予め記憶しているか、または該送信電力を取得できる必要がある。
【0014】
上記第4の方法を採用する場合には、前記与干渉量推定手段が求めた前記電波伝搬モデルの未知パラメータと、前記他の無線通信装置との距離とを、第2の無線通信装置に送信し、第2の無線通信装置から未知パラメータおよび前記他の無線通信装置との距離とを受信し、第2の無線通信装置から受信した未知パラメータおよび自らが決定した未知パラメータのそれぞれを、前記他の無線通信装置までの距離が近いほど大きな重み付け係数をかけた加重平均を算出し、加重平均された未知パラメータを該電波伝搬モデルに適用して、第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定する。
【0015】
また、本発明において、指向性を制御可能なアンテナを有しており、前記他の無線通信
装置から受信する制御メッセージに含まれる位置情報と、前記位置情報取得手段から得られる位置情報に基づいて、前記他の無線通信装置が位置する方向に電波を送出しないように前記アンテナの指向性を制御する、ことも好ましい。
【0016】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する無線通信装置として捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む無線通信方法、およびこの方法を実行するプログラムとして捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プライマリーユーザからチャネル情報を得ることなく、セカンダリーユーザがプライマリーユーザに与える干渉を推定でき、プライマリーユーザに悪影響を与えない範囲で同一周波数を使った通信が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態にかかるコグニティブ無線通信装置の機能ブロックを示す図である。
【図2】第1の実施形態にかかるコグニティブ無線通信装置の送信出力決定処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】第1の実施形態におけるコグニティブ無線通信装置の送信出力を説明する図である。
【図4A】第1の実施形態における与干渉量推定処理の一例を示すフローチャートである。
【図4B】第1の実施形態における与干渉量推定処理の別の例を示すフローチャートである。
【図4C】第1の実施形態における与干渉量推定処理の別の例を示すフローチャートである。
【図4D】第1の実施形態における与干渉量推定処理の別の例を示すフローチャートである。
【図5】第2の実施形態にかかるコグニティブ無線通信装置の送信出力決定処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】第2の実施形態におけるコグニティブ無線通信装置の送信出力を説明する図である。
【図7】第3の実施形態にかかるコグニティブ無線通信装置の送信方法決定処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】第3の実施形態におけるコグニティブ無線通信装置の送信方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
〈システム概要〉
本実施形態にかかるコグニティブ無線通信システムは、既存システム(プライマリーユーザ)との間で周波数を共用する。コグニティブ無線通信装置(セカンダリユーザ)は、プライマリーユーザと同一の周波数を使って、プライマリーユーザに干渉を与えないような送信出力で通信を行う。すなわち、本実施形態に係るコグニティブ無線通信システムは、いわゆるアンダーレイ型のコグニティブシステムである。
【0021】
ここでは、既存システムおよびコグニティブシステムのいずれもが車車間通信システム
であることを想定して説明するが、既存システムおよびコグニティブシステムのいずれも任意の形態の無線通信システムであってかまわない。
【0022】
既存システムはキャリアセンスを用いる多元接続方式であるCSMA/CA方式を採用し、RTS/CTSの制御信号を用いて与干渉を回避している。送信ノードがRTS(Request To Send: 送信要求)メッセージを送信し、受信ノードは受信可能であればCTS
(Clear To Send: 受信準備完了)メッセージを送信する。周囲のノードはRTS/CT
Sメッセージを監視しているので、他ノードがデータ送信している間はデータ送信を控えることで衝突が防止される。ここで、既存システムは、RTS/CTS制御を行う周波数(制御チャネル)と、通信を実際に行う周波数(データチャネル)が異なっている。また、本実施形態においては、RTSメッセージおよびCTSメッセージには、そのメッセージを送信するノードの位置情報が含まれることを想定する。位置情報は、典型的にはGPS装置から取得される緯度・経度情報である。なお必須ではないが、制御チャネルで送信されるメッセージだけでなく、データチャネルで送信されるメッセージにも位置情報が含まれる。
【0023】
コグニティブシステムは、少なくとも既存システムのデータチャネルと同じ周波数を利用して通信を行う。したがって、データチャネルでの通信によって既存システムに干渉を与えないように送信出力を制御する必要がある。ここでコグニティブシステムにおける無線通信装置は、既存システムから送信される制御チャネルに基づいて、データチャネルにおいて自らの送信が既存システムに与える干渉量を推定し、与干渉量が許容レベル以下になるように送信出力を制御する。
【0024】
〈装置構成〉
図1は、本実施形態にかかるコグニティブ無線通信システムを構成する、無線通信装置(コグニティブ無線通信装置)の機能構成を示す概略図である。無線通信装置1は、アンテナ2、高周波部3、AD変換部4、デジタル信号処理部5、GPS装置6および地図データベース7を備える。高周波部3は、無線信号を受信してデジタル信号処理が行いやすい周波数帯に変換したり、送信信号を実際に送信する周波数に変換したりする。AD変換部4は、受信したアナログ信号をデジタル信号に変換し、送信するデジタル信号をアナログ信号に変換する。なお、無線通信装置1は、アンテナ2から受信した広帯域の信号(例えば、900MHz〜5GHz)を、一括してAD変換して、チャネル選択などを含めて復調処理等はデジタル信号処理部5で実現する。
【0025】
デジタル信号処理部5は、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ダイナミック・リコンフィギュラブルプロセッサなどによっ
て構成することができる。デジタル信号処理部5は、その機能部として、通信制御部51および受信電力測定部52を含む。デジタル信号処理部5は、その他にも変復調等のための機能部を要するが、これらは公知であるため詳しい説明は省略する。
【0026】
通信制御部51は、接続確立処理や、データの送受信処理、チャネルの使用状況を通信相手に通知する処理、利用するチャネルを選択する処理などを行う。受信電力測定部52は、プライマリーユーザの制御チャネルを受信してその受信電力を測定する。
【0027】
GPS装置6は、GPS衛星などからGPS信号を受信して位置情報(緯度・経度情報)を取得するものである。地図データベース7には、道路の幅や交差点における道路の接続角度、建物の位置や高さなどの情報が含まれる。
【0028】
〈処理フロー〉
図2は、本実施形態にかかるコグニティブ無線通信装置が送信出力を決定する処理の流
れを示すフローチャートである。まず、プライマリーユーザの制御チャネルを受信して、受信電力測定部52が、その受信電力を測定する(S100)。次に、通信制御部51が、所定の送信出力でデータチャネルを送信した場合にプライマリーユーザへ与える干渉量を推定する(S102)。具体的な与干渉量の推定方法については後述する。また、所定の送信出力とは無線通信装置1が送信可能な最大送信出力とすることが典型であるが、最大送信出力以内の任意の出力であってもかまわない。
【0029】
次に、推定された与干渉量がプライマリーユーザの許容レベル以上であるか否か判断する(S104)。プライマリーユーザが許容できる干渉レベルは、無線通信装置1は予め知っているものとする。与干渉量が許容レベル以内であれば(S104−NO)、予め定められた送信出力でデータチャネルを送信する。一方、与干渉量が許容レベル以上となる場合(S104−YES)は、与干渉量が許容レベル以内となるように送信出力を変更する(S106)。
【0030】
なお、セカンダリーユーザ同士の接続確立は種々の方法によって行うことができる。コグニティブシステムにおいても、制御チャネルとデータチャネルとを異なる周波数としても良いし、一つの周波数チャネルのみを利用しても良い。制御チャネルとデータチャネルを異ならせる場合は、制御チャネルの周波数とプライマリーユーザの周波数と異ならせるのであれば任意の送信出力で制御チャネルを送信することができるが、プライマリーユーザと同一の制御チャネルを用いるのであればこれもプライマリーユーザに干渉を与えない出力で送信する必要がある。そして、プライマリーユーザと同一の周波数であるデータチャネルの送信では、上記で求めた送信出力で送信を行う。
【0031】
図3は、本実施形態にかかるアンダーレイコグニティブ無線通信を説明する図である。図中、ノードNが本無線通信装置1(セカンダリーユーザ)であり、ノードA,Bが既存システムの無線通信装置(プライマリーユーザ)である。点線で示した円11はプライマリーユーザAの制御チャネルの無線通信範囲を示し、点線で示した円12はプライマリーユーザBの制御チャネルの無線通信範囲を示す。セカンダリーユーザNは、プライマリーユーザAから受信する制御チャネルから、データチャネルでプライマリーユーザに与える干渉量が許容レベル以上になる範囲21にプライマリーユーザAが含まれないように、送信出力を決定する。セカンダリーユーザNは同様に、プライマリーユーザBから受信する制御チャネルから、データチャネルでプライマリーユーザに与える干渉量が許容レベル以上になる範囲22にプライマリーユーザが含まれないように、送信出力を決定する。図3の場合では、2つのプライマリーユーザから制御チャネルを受信するので、送信出力も2つ決定されることになるが、いずれのプライマリーユーザにも許容レベル以上の干渉を与えてはいけないので、より小さい方の送信出力が選択される。すなわち、図3に示す例ではデータチャネルの与干渉範囲が円21に示す範囲となるような送信出力が選択される。
【0032】
〈与干渉量推定方法〉
次に、プライマリーユーザへの与干渉量の推定方法について説明する。この推定方法としていくつかの手法が考えられるが、本実施形態においてはプライマリーユーザの制御チャネルに含まれる位置情報および、自端末のGPS装置6から得られる位置情報を利用することを特徴とする。以下、それぞれの推定方法を説明する。
【0033】
第1の推定方法は、送受信間距離および周波数をパラメータとする電波伝搬モデルを用いて算出される伝搬損失を利用する方法である。図4Aは第1の推定方法のフローチャートを示す。
【0034】
まず、プライマリーユーザの制御チャネルに含まれる位置情報と、セカンダリーユーザがGPS装置6から得た位置情報とから、プライマリーユーザとセカンダリーユーザの間
の距離(送受信間距離)を算出する(S210)。
【0035】
次に、電波伝搬モデルに基づいて与干渉量を推定する(S212)。ここで利用する電波伝搬モデルは、例えば、
【数1】

と表される。ここで、A、B、Cは定数であり、dは送受信間距離[m]、fは送信周波数[Hz]である。なお、伝搬モデルでは送受信装置のアンテナ高を考慮することが多いが、車車間通信においてはアンテナ高がほぼ一定となることから定数Cにアンテナ高が含まれると考えても良い。このような電波伝搬モデルとして、奥村−奏モデル、Walfisch−池上モデル、坂上モデルなどを例に挙げることができる。
【0036】
ここで、送受信間距離dは、ステップS200で求めた距離を適用する。また、送信周波数fは、データチャネルの周波数を適用する。そして、無線通信装置1(セカンダリーユーザ)の所定の送信出力をPt2とすると、プライマリーユーザに与える干渉量Zは、
【数2】

と推定することができる。
【0037】
第2の推定方法は、第1の方法と同様に電波伝搬モデルを用いる点では同じであるが、道路幅、道路角、建物高さなどを考慮するモデルを用いる点が異なる。このような電波伝搬モデルとして、拡張坂上モデル、多賀モデルなどを例に挙げることができる。図4Bに第2の推定方法のフローチャートを示す。
【0038】
この方法では周囲の道路や建物などの情報が必要となるので、位置情報を元に地図データベース7からこれらの情報を取得する。その他については第1の方法と同様なので詳細な説明は省略する。
【0039】
なお、第1,第2の方法では電波伝搬モデル(伝搬損失推定式)を用いているが、電波伝搬シミュレーションを行ってデータチャネルでプライマリーユーザに与える干渉量を推定してもかまわない。プライマリーユーザおよびセカンダリーユーザの位置情報はそれぞれ取得できるので、シミュレーションに必要なその他の情報(例えば地図データ)を本無線通信装置1に格納しておけば、電波伝搬シミュレーションを行うことができる。
【0040】
第3の推定方法は、制御チャネルにおける伝搬損失を推定し、これに基づいてデータチャネルでの伝搬損失を推定する方法である。図4Cに第3の推定方法のフローチャートを示す。
【0041】
まず制御チャネルに含まれる位置情報とGPS装置6から得られる位置情報に基づいてプライマリーユーザとの間の距離を求める点は第1,第2の方法と同様である(S230)。次に、プライマリーユーザの制御チャネルの受信電力と伝搬モデルから、制御チャネル周波数における伝搬損失をする(S232)。そして、制御チャネルでの伝搬損失から算出できるデータチャネルでの伝搬損失を用いて、データチャネルでの与干渉量を推定する(S234)。
【0042】
プライマリーユーザの送信電力Pt1とセカンダリーユーザでの制御チャネルの受信電力Pの間には、l(fc,d)を制御周波数がfcで距離d離れた場合の自由損失、l
rayをレイリー損失、nを雑音電力として、
【数3】

の関係がある。したがって、制御チャネルでの伝搬損失P/Pt1が求まる。一方、伝搬損失は周波数の2乗に比例するので、セカンダリーユーザがデータチャネルを送信出力Pt2で送信した場合に、プライマリーユーザに与える干渉量Zは、
【数4】

と表せる。このようにして、データチャネルにおいてプライマリーユーザに与える干渉量を推定することもできる。
【0043】
第4の推定方法は、プライマリーユーザの制御チャネルの送信出力が既知の場合に適用可能な方法である。この制御チャネルの送信出力は、セカンダリユーザ(無線通信装置1)があらかじめ知っていてもよいし、制御チャネル内に情報として含められていても良い。この場合、制御チャネルのプライマリー・セカンダリー間での伝搬損失が分かるので、電波伝搬モデルに1つの未知パラメータが存在しても、この未知パラメータを算出することができる。
【0044】
図4Dに第4の推定方法のフローチャートを示す。位置情報に基づいてプライマリーユーザとの距離を算出する点(S240)は第1〜第3の方法と同様である。次に、プライマリーユーザの制御チャネルの送信出力と、セカンダリーユーザでの受信電力から電波伝搬モデルのパラメータを推定する(S242)。例えば、上記の式(1)において、定数Aを未知パラメータとみなして、制御チャネルの伝搬損失から定数Aを決定するようにしても良い。また、道路幅をパラメータとして用いる電波伝搬モデルを使用する場合であって、本無線通信装置1が地図データベースを備えていない場合に、道路幅をモデルパラメータとして推定することができる。
【0045】
なお、複数のプライマリーユーザからの制御チャネルを受信する場合は、それぞれの受信電力に基づいてモデルパラメータを推定することができる。推定されるモデルパラメータは本来同一の値となるべきであるが、誤差などの影響により同じ値とならない。そこで、複数のモデルパラメータが推定された場合には、平均値を利用することも好ましい。ここでは、単純な平均(相加平均)でも良いし、プライマリーユーザとの距離が近いほど大きな重みを付けた加重平均(例えば、距離の逆数の重み付け係数とした加重平均)であっても良い。プライマリーユーザとの距離が近いほど、そのプライマリーユーザからの制御チャネルの受信電力に基づくモデルパラメータは精度良く求められていると考えられるからである。
【0046】
モデルパラメータが推定された後は、第1,第2の推定方法と同様に、電波伝搬モデルを適用してデータチャネルでの与干渉量を推定する(S244)。
【0047】
〈本実施形態の作用/効果〉
本実施形態によれば、プライマリーユーザ(既存システム)と同一の周波数を用いて通信を行う場合に、プライマリーユーザに与える干渉を抑制できる。この際、既存システムからチャネル情報を送信する必要がないので、既存システムに特別な変更を加える必要がない。そして、プライマリーユーザと同一の周波数が使えることで、周波数の利用効率が向上する。
【0048】
(第2の実施形態)
本実施形態では、与干渉量推定を1つだけのコグニティブ無線通信装置で行うと正確ではないため、複数のコグニティブ無線通信装置が協調しあうことで精度を向上させる。これは、第1の実施形態で説明した、電波伝搬モデルのモデルパラメータを制御チャネルの受信電力に基づいて推定する方法(図4D。第4の推定方法)を用いるときに有効である。すなわち、各コグニティブ無線通信装置で推定したモデルパラメータを装置間で通知しあうことで、より正確なモデルパラメータを取得し、これに基づいて与干渉量を推定することで、推定の精度が向上する。
【0049】
図5は、本実施形態にかかるコグニティブ無線通信装置が送信出力を決定する処理の流れを示すフローチャートである。図6は、本実施形態にかかるコグニティブ無線通信装置が送信出力を決定する処理を説明する図である。
【0050】
コグニティブ無線通信装置(セカンダリーユーザ)は、プライマリーユーザが送信する制御チャネルを受信して、その受信電力を測定する(S300)。ここでは、セカンダリーユーザがプライマリーユーザの制御チャネルの送信電力を予め知っているか、もしくはプライマリーユーザの制御チャネルに送信電力が含まれていることを前提とする。すなわち、セカンダリーユーザはプライマリーユーザの制御チャネルの送信電力を知っていることを前提とする。
【0051】
次に、セカンダリーユーザは、上述した第1の実施形態の第4の推定方法と同様に、電波伝搬モデルのモデルパラメータを推定する(S304)。例えば、上記の式(1)における定数Aを推定する。ここで、セカンダリーユーザとプライマリーユーザの距離や位置情報が必要であれば、制御チャネルに含まれる位置情報を利用すればよい。セカンダリーユーザが複数のプライマリーユーザからの制御チャネルを受信できる場合も、上記第1の実施形態の第4の推定方法で説明した方法と同様に扱えばよい。なお、この場合、周囲に送信するプライマリーユーザとの距離は、複数のプライマリーユーザとの距離の平均としても良いし、最も近いプライマリーユーザの距離としても良い。
【0052】
セカンダリーユーザは、推定したモデルパラメータとプライマリーユーザまでの距離とを周囲のセカンダリーユーザに通知する(S304)。この通知は、プライマリーユーザに干渉を与えない方法であれば任意の方法で行えばよい。例えば、プライマリーユーザの制御チャネルと同一の周波数で、かつ、プライマリーユーザに干渉を与えないような送信出力で送信しても良い。この場合、制御チャネルの受信電力に基づいて、セカンダリーからプライマリーへの与干渉量を推定する。また、例えば、プライマリーユーザが利用する周波数とは別の周波数を使って送信してもかまわない。例えば、図6において、セカンダリーユーザNn(n=1〜3)が推定したモデルパラメータをIn、セカンダリーユーザNnと最も近いプライマリーユーザとの距離をrnとする。セカンダリーユーザN1は、モデルパラメータI1と距離r1は自ら推定し、モデルパラメータI2,I3と距離r2,r3はそれぞれセカンダリーユーザN2,N3から取得する。他のセカンダリーユーザについても同様である。そして、セカンダリーユーザは、与干渉量推定に用いるモデルパラメータを、
【数5】

として決定する。なお、ここでは距離の逆数を重み付け係数とする加重平均を用いたが、距離が近いほど重みが大きくなるような加重平均であれば他の手法を採用してもかまわない。このようにして、全てのセカンダリーユーザにおいて、同一のモデルパラメータIを導くことができる。
【0053】
セカンダリーユーザは、距離に応じた重み付けをして求めたモデルパラメータIを電波伝搬モデルに当てはめて、所定の送信出力でデータチャネルを送信した場合のプライマリーユーザへの与干渉量を推定する(S308)。この与干渉量がプライマリーユーザの許容レベル以上であるか否か判断する(S310)。プライマリーユーザが許容できる干渉レベルは、セカンダリーユーザが予め知っているものとする。与干渉量が許容レベル以内であれば(S310−NO)、予め定められた送信出力でデータチャネルを送信する。一方、与干渉量が許容レベル以上となる場合(S310−YES)は、与干渉量が許容レベル以内となるように送信出力を変更する。
【0054】
本実施形態に依れば、複数のセカンダリーユーザが協調してモデルパラメータを推定するため、より正確なモデルパラメータの推定が行え、結果としてプライマリーユーザへの与干渉量の推定の精度が向上する。したがって、プライマリーユーザへの与干渉をより効果的に防止することができる。
【0055】
(第3の実施形態)
本実施形態では、アンテナ2として指向性が調整可能なアレイアンテナを採用し、プライマリーユーザの位置への電波送出を除くように指向性を調整する。
【0056】
図7は、本実施形態にかかるコグニティブ無線通信装置が送信方法を決定する処理の流れを示すフローチャートである。図8は、本実施形態にかかるコグニティブ無線通信装置が送信方法を決定する処理を説明する図である。
【0057】
コグニティブ無線通信装置(セカンダリーユーザ)は、プライマリーユーザが送信する制御チャネルを受信して、その受信電力を測定する(S400)。次に、制御チャネルに含まれるプライマリーユーザの位置情報、および自ノードの位置情報、さらには他のセカンダリーノードから送信される位置情報に基づいて、プライマリーユーザの方向を電波送出範囲から除外しても他のセカンダリーユーザとの通信が可能な位置関係であるか判断する(S402)。プライマリーユーザ方向を除外すると他のセカンダリーユーザと通信できない場合(S402−NO)は、ステップS404に進み、第1の実施形態と同様にして送信出力を決定する。なお、プライマリーユーザ方向を除外すると他のセカンダリーユーザと通信できない場合とは、他のセカンダリーユーザとプライマリーユーザが同じ方向に位置している場合である。
【0058】
一方、プライマリーユーザの方向を電波送出範囲から除外しても他のセカンダリーユーザとの通信できる場合(S402−YES)は、ステップS410に進み、所定の送信出力を利用し(S410)、かつプライマリーユーザの位置を除くようにアンテナの指向性を制御する(S412)。プライマリーユーザの方向を除外しても他のセカンダリーユーザと通信ができる場合とは、典型的には図8に示すような場合であり、セカンダリーユーザN1〜N3は、それぞれプライマリーユーザA,Bの方向を除外しても互いに通信できる。
【0059】
このように、指向性を調整することでプライマリーユーザに干渉を与えずに、より大きな送信出力でセカンダリーユーザがデータチャネルを送信することができるので、より効率的に周波数を利用することができる。
【0060】
(変形例)
上記第1〜第3の実施形態は適宜組み合わせて実施することができる。たとえば、第3の実施形態において、指向性制御による対応ができない場合に、第2の実施形態と同様の方法によって送信出力を決定しても良い。
【0061】
また、第3の実施形態における指向性制御は、第2の実施形態における推定してモデルパラメータとプライマリーユーザの距離を周囲のセカンダリーノードに通知するとき(図5のステップS304)でのみ適用するようにしても良い。このようにすると、モデルパラメータ等をより多くのセカンダリーユーザと交換することができ、より正確な与干渉量の推定ができる。
【符号の説明】
【0062】
1 無線通信装置
2 アンテナ
3 高周波部
4 AD変換部
5 デジタル信号処理部
6 GPS装置
7 地図データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の周波数チャネルで位置情報を含む制御メッセージを送信した後に、第2の周波数チャネルでデータ送信を行う他の無線通信装置の存在下で、前記第2の周波数を用いてデータ送信を行う無線通信装置であって、
位置情報を取得する位置情報取得手段と、
前記他の無線通信装置が前記第1の周波数チャネルで送信する制御メッセージの受信電力を測定する制御チャネル受信手段と、
前記位置情報取得手段から取得される位置情報および前記制御メッセージに含まれる位置情報に基づいて、前記第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定する与干渉量推定手段と、
前記推定される与干渉量に応じて前記第2の周波数における送信出力を制御する送信出力制御手段と、
を備える無線通信装置。
【請求項2】
複数の他の無線通信装置のそれぞれについて、前記与干渉量推定手段によって与干渉量を推定し、
前記送信出力制御手段は、前記複数の他の無線通信装置のいずれに対しても所定の与干渉量以下となるように前記第2の周波数における送信出力を決定する、
請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記与干渉量推定手段は、送受信間の距離と送信周波数をパラメータとする電波伝搬モデルに、前記位置情報取得手段から取得される位置情報および前記制御メッセージに含まれる位置情報に基づいて得られる前記他の無線通信装置との距離と、前記第2の周波数とを適用して、前記第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定する、
請求項1または2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
少なくとも道路幅、道路角、建物高さのいずれかを含む地図データベースをさらに備え、
前記与干渉量推定手段は、送受信間の距離と送信周波数と道路またはその周辺の建物に関する情報をパラメータとする電波伝搬モデルに、前記位置情報取得手段から取得される位置情報および前記制御メッセージに含まれる位置情報に基づいて得られる前記他の無線通信装置との距離と、前記第2の周波数と、前記地図データベースから取得される道路幅、道路角、または建物高さとを適用して、前記第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定する、
請求項1または2に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記与干渉量推定手段は、前記制御チャネルの受信電力と、前記位置情報取得手段から取得される位置情報および前記制御メッセージに含まれる位置情報に基づいて得られる前記他の無線通信装置との距離と、から第1の周波数における伝搬損失を推定し、その結果から第2の周波数における伝搬損失を推定して、第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定する、
請求項1または2に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記他の無線通信装置が前記第1の周波数で送信する制御メッセージの送信電力を予め記憶しているか、または該送信電力を取得し、
前記与干渉量推定手段は、送受信間の距離と送信周波数と未知パラメータとをパラメータとする電波伝搬モデルにおいて、前記位置情報取得手段から取得される位置情報および前記制御メッセージに含まれる位置情報に基づいて得られる前記他の無線通信装置との距
離と、前記第1の周波数と、前記制御メッセージの送信電力と受信電力とから、前記電波伝搬モデルにおける未知パラメータを決定し、該電波伝搬モデルを用いて第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定する、
請求項1または2に記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記与干渉量推定手段が求めた前記電波伝搬モデルの未知パラメータと、前記他の無線通信装置との距離とを、第2の無線通信装置に送信し、
第2の無線通信装置から未知パラメータおよび前記他の無線通信装置との距離とを受信し、
第2の無線通信装置から受信した未知パラメータおよび自らが決定した未知パラメータのそれぞれを、前記他の無線通信装置までの距離が近いほど大きな重み付け係数をかけた加重平均を算出し、
加重平均された未知パラメータを該電波伝搬モデルに適用して、第2の周波数でデータ送信する際の前記他の無線通信装置に及ぼす与干渉量を推定する、
請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項8】
指向性を制御可能なアンテナを有しており、
前記他の無線通信装置から受信する制御メッセージに含まれる位置情報と、前記位置情報取得手段から得られる位置情報に基づいて、前記他の無線通信装置が位置する方向に電波を送出しないように前記アンテナの指向性を制御する、
請求項1〜7のいずれかに記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−119778(P2012−119778A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265575(P2010−265575)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】