説明

無線通信装置

【課題】障害の発生及び復旧を上位装置に正確に通知すること。
【解決手段】無線通信装置は、無線により地上設備205と送受信を行うTRX1系203及びTRX2系204と、TRX1系203及び第2送受信部204を現用系/予備系にそれぞれ設定するメインCPU201とを具備する。メインCPU201は、障害の発生を検出すると、その旨の通知を現用系に設定したTRX1系203またはTRX2系204から地上設備205に送信させ、TRX1系203およびTRX2系204のいずれか一方で受信された地上設備205からの発生応答に基づいて、当該障害の発生通知処理を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2重系の送受信機により上位装置との間で無線通信を行う無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
列車無線システムは、地上に設置された地上設備と、移動する列車に搭載された車上局との間の通信を可能にするものである。車上局は2重系の送受信機を有し、これらを現用系/予備系に切り替えて地上設備と無線通信を行い、車上局での障害の発生や復旧を地上設備に通知する(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
図7に、従来の無線通信装置の障害の発生と復旧のシーケンスを示す。なお、図7はTRX1系が現用側、TRX2系が予備側である場合を示す。車上局で障害705が発生すると、メインCPU701は発生通知710をTRX1系702とTRX2系703に対し通知する。現用側であるTRX1系702は、地上設備704に対し発生通知711を送信し応答待ち状態となる。一方、予備側であるTRX2系703は、地上設備704に対し送信せず、地上設備704からの応答待ち状態となる。地上設備704から発生応答712が返送されると、TRX1系702とTRX2系703が受信し共にアイドル状態へ戻る。なお、障害705の復旧は障害705の発生と同様のシーケンスである。
【0004】
図8に、従来の無線通信装置において、現用側及び予備側に地上設備からの発生応答が未達の場合の再送処理シーケンスを示す。車上局で障害805が発生すると、メインCPU801は発生通知810をTRX1系802とTRX2系803に対し通知する。現用側であるTRX1系802は、地上設備804に対し発生通知811を送信し、応答待ち状態となる。一方、予備側であるTRX2系803は地上設備804に対し送信せず、地上設備804からの応答待ち状態となる。
【0005】
地上設備804は発生応答812を返送するが、発生応答812がTRX1系802とTRX2系803に未達の場合、現用側であるTRX1系802が発生通知813を再送する。地上設備804の発生応答814がTRX1系802とTRX2系803に到達すると、TRX1系802は再送処理を停止し、TRX1系802とTRX2系803は共にアイドル状態へ戻る。なお、障害復旧の場合も障害805の発生と同様のシーケンスである。即ち、メインCPU801は障害の状態変化をTRX1系802とTRX2系803に通知し、TRX1系802またはTRX2系803が無線回線の制御を行う。
【0006】
図9に、従来の無線通信装置において、予備側のみに地上設備からの発生応答が未達の場合を示す。車上局で障害905が発生すると、メインCPU901は発生通知910をTRX1系902とTRX2系903に対し通知する。現用側であるTRX1系902は地上設備904に対し発生通知911を送信し応答待ち状態となる。一方、予備側であるTRX2系903は地上設備904に対し送信せず、地上設備904からの応答待ち状態となる。
【0007】
地上設備904の返送のうち、発生応答912が予備側のTRX2系903に未達、現用側のTRX1系902に発生応答913が到達した場合、TRX1系902はアイドル状態へ戻るがTRX2系903は応答待ち状態のままとなる。更に上記の状態で障害905が復旧し、地上設備904の返送である復旧応答921がTRX1系902とTRX2系903に到達した場合、TRX1系902はアイドル状態へ戻る。
【0008】
一方、TRX2系903においては、本システムでは障害の発生と復旧が短時間に起こった場合でも必ず地上設備904に情報を伝達する仕様となっているためTRX2系903はアイドル状態に移行せず、応答待ち状態に加え、復旧応答受信状態となる。このため、予備側であるTRX2系903が現用側へ系941が切り替わると、TRX2系903が送信権を取得し、応答待ち状態が残っていたTRX2系903は、発生通知911が地上設備904に対し未達と認識し、発生通知931を通知する。その結果、地上設備904では過去に発生した障害905が再度発生したと誤認識してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−258565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来技術では予備側の送受信機のみが地上設備からの応答未達であった場合、障害の発生回数が事実と異なってしまうという問題がある。
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、障害の発生を上位装置に正確に通知することができる無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためにこの発明に係る無線通信は、無線により上位装置と送受信を行う第1送受信部及び第2送受信部と、前記第1送受信部及び前記第2送受信部を現用系/予備系にそれぞれ設定する制御部とを具備し、前記制御部は、障害の発生を検出すると、その旨の通知を前記現用系に設定した第1送受信部または第2送受信部から前記上位装置に送信させ、前記第1送受信部および前記第2送受信部のいずれか一方で受信された前記上位装置からの発生応答に基づいて、当該障害の発生通知処理を終了することを特徴とする。
【0012】
このように制御部で第1送受信部および/または第2送受信部の障害発生の通知および発生応答の受信状態を一括管理することで、第1送受信部と第2送受信部の系切替で発生する不正な発生通知を送信してしまう事態を回避することが可能となり、車上局で発生した障害の回数と地上設備に通知される障害の回数との一致が実現できる。
【発明の効果】
【0013】
すなわちこの発明によれば、障害の発生を上位装置に正確に通知することができる無線通信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】列車無線システムの構成図。
【図2】車上局の構成図。
【図3】本実施形態に係る無線通信装置のメインCPUにおける再送に関する状態管理処理を示すフローチャート。
【図4】本実施形態に係る無線通信装置の障害の発生復旧シーケンス。
【図5】本実施形態に係る無線通信装置において、予備側のみに地上設備からの返送が未達の場合のシーケンス。
【図6】本実施形態に係る無線通信装置において、現用側及び予備側に地上設備からの返送が未達の場合の再送処理シーケンス。
【図7】従来の無線通信装置の障害の発生復旧シーケンス。
【図8】従来の無線通信装置において、現用側及び予備側に地上設備からの返送が未達の場合の再送処理シーケンス。
【図9】従来の無線通信装置において、予備側のみに地上設備からの返送が未達の場合の再送処理シーケンス。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明に係る無線通信装置の実施形態を詳細に説明する。
図1に列車無線システムの構成図を示す。車上局は第1アンテナ101と第2アンテナ102を車両の両端に設置し、無線回線にて基地局103を経由して中央装置104と情報の授受を行う。以下、基地局103と中央装置104を合わせて地上設備(上位装置)と称する。
【0016】
図2に、車上局の構成図を示す。車上局(無線通信装置)は、メインCPU(制御部)201と送受信機202を備える。送受信機202は、TRX1系(第1送受信部)203とTRX2系(第2送受信部)204の2台で構成され、図1の第1アンテナ101と第2アンテナ102にそれぞれ接続される。
【0017】
TRX1系203とTRX2系204は、地上設備205からのポーリング信号206を受信すると、それぞれ受信電界値207をメインCPU201に通知する。メインCPU201は、TRX1系203とTRX2系204からの受信電界値を比較して、強い方を現用、弱い方を予備としてTRX1系203およびTRX2系204に対し現用指定208または予備指定209の動作指定を通知する。図2は、TRX1系が現用側、TRX2系が予備側の場合を示す。
【0018】
次に、本実施形態に係る無線通信装置における障害の発生及び復旧の通知処理について説明する。
図3は、メインCPUにおける再送に関する状態管理処理を示すフローチャートである。障害の状態変化が発生した場合、メインCPU201は現用側の判定301を行う。TRX1系203が現用の場合は処理302を実行し、TRX2系204が現用の場合は処理303を実行することにより、現用側から地上設備205に対し障害を通知する。通知後、地上設備205からの応答304を確認し、TRX1系203とTRX2系204のいずれか一方で応答がある場合は終了、双方とも応答がない場合は再度、現用側の判定301から処理を開始する。
【0019】
つまり、本実施形態では、送受信機202であるTRX1系203とTRX2系204は無線機プロトコルの処理に専念し、再送に関する状態管理処理は一切しないように構成する。一方、メインCPU201では障害の検出処理と再送に関する状態管理処理を行う。このようにすることで、地上設備205の返送待ち状態で送受信機202の系切替が発生しても現用側から地上設備205に対し障害を通知し、地上設備205から返送がない場合は再度、現用側から障害通知を行うことができる。
【0020】
図4に本実施形態に係る無線通信装置の障害の発生復旧シーケンスを示す。車上局で障害405が発生すると、メインCPU201は現用であるTRX1系203に対して発生通知410を通知し応答待ち状態となる。発生通知410が通知されたTRX1系203は、発生通知411を地上設備205に対し送信する。地上設備205から発生応答412が返送されると、TRX1系203とTRX2系204が共に受信し、発生応答413をメインCPU201に通知する。メインCPU201は、TRX1系203とTRX2系204のいずれか一方の発生応答413を採用しアイドル状態へ戻る。なお、障害405の復旧は障害405の発生と同様のシーケンスである。
【0021】
また、系切替406発生後は、TRX2系204が現用側となるため、障害407が発生した場合、メインCPU201は現用であるTRX2系204に対して発生通知430を通知する。
図5に、本実施形態に係る無線通信装置において、予備側のみに地上設備からの返送が未達の場合のシーケンスを示す。車上局で障害505が発生すると、メインCPU201は現用であるTRX1系203に対して発生通知510を通知し応答待ち状態となる。発生通知510が通知されたTRX1系203は、発生通知511を地上設備205に対し送信する。
【0022】
地上設備205からの発生応答512のうち、発生応答512が予備側のTRX2系204に未達、現用側のTRX1系203に発生応答512が到達した場合、TRX1系203は発生応答513をメインCPU201に通知する。メインCPU201は、TRX1系203の発生応答513を受けてアイドル状態へ戻る。なお、障害505の復旧は障害405の発生と同様のシーケンスである。
【0023】
系切替506発生後は、TRX2系204が現用側となるため、障害507が発生した場合、メインCPU201は現用であるTRX2系204に対して発生通知530を通知する。
従来技術のようにTRX1系203とTRX2系204では状態を持たず、本実施形態ではメインCPU201で状態を一括管理することで、TRX1系203とTRX2系204の系切替で発生する不正な発生通知を送信してしまうという事態を回避できる。つまり、メインCPU201により、系切替発生506後、発生応答512を未受信のまま現用側となったTRX2系204が、障害発生505の発生通知を再度行ってしまうことが確実に抑止される。
【0024】
図6に、本実施形態に係る無線通信装置において、現用側及び予備側に地上設備からの返送が未達の場合の再送処理シーケンスを示す。車上局で障害605が発生すると、メインCPU201は現用であるTRX1系203に対して発生通知610を通知し応答待ち状態となる。発生通知610が通知されたTRX1系203は、発生通知611を地上設備205に対し送信する。
【0025】
地上設備205は発生応答612を返送するが、発生応答612がTRX1系203とTRX2系204に未達の場合、メインCPU201は現用側であるTRX1系203に対し発生通知613を再送する。TRX1系203は、メインCPU201からの発生通知613を受けて、地上設備205に発生通知614を再送する。地上設備205の発生応答615がTRX1系203とTRX2系204に到達すると、メインCPU201は再送処理を停止し、アイドル状態へ戻る。なお、障害復旧の場合も障害605の発生と同様のシーケンスである。
【0026】
以上述べたように、上記実施形態では送受信機であるTRX1系とTRX2系についての再送に関する状態管理処理をメインCPUで一括して行うように構成する。このように構成することで、TRX1系とTRX2系の系切替で発生する不正な発生通知を送信してしまう事態を回避することができる。したがって、TRX1系とTRX2系間で系切替が発生しても、車上局で発生した障害の回数と地上設備で通知した障害の回数が一致し、障害の発生及び復旧を地上設備に正確に通知することが可能となる。
【0027】
なお、上記実施形態では、障害発生の通知をメインに説明したが、障害復旧の通知も同様に行うため、障害復旧の通知に関しても、障害発生の通知と同様の作用効果を得られることは言うまでもない。
要するに、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0028】
101…第1アンテナ、102…第2アンテナ、103…基地局、104…中央装置、201…メインCPU、202…送受信機、203…TRX1系、204…TRX2系、205…地上設備。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線により上位装置と送受信を行う第1送受信部及び第2送受信部と、
前記第1送受信部及び前記第2送受信部を現用系/予備系にそれぞれ設定する制御部と
を具備し、
前記制御部は、障害の発生を検出すると、その旨の通知を前記現用系に設定した第1送受信部または第2送受信部から前記上位装置に送信させ、前記第1送受信部および前記第2送受信部のいずれか一方で受信された前記上位装置からの発生応答に基づいて、当該障害の発生通知処理を終了することを特徴とする無線通信装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−62664(P2013−62664A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199546(P2011−199546)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】