説明

無線ICタグの製造方法、無線ICタグ、及び無線通信システム

【課題】筺体内に充填される樹脂の冷却時の収縮を抑制して無線ICタグの反りの発生を防止する。
【解決手段】無線ICタグの製造方法は、一面が開口した筺体2内に、ICチップ42およびアンテナ43を有するICタグ本体3を配置する第1工程と、ICタグ本体3を覆うように筺体2内に被覆樹脂7を流し込む第2工程とを有する。被覆樹脂7は、グラスファイバーが配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ICタグ本体を筺体内に配置して筺体内に樹脂を流し込むことで製造される無線ICタグおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムで用いられる無線ICタグは、データを記憶するICチップと、リーダからの電磁波を送受信するアンテナとを備えている。電磁波をアンテナが受信すると共振作用により起電力が発生し、この起電力によりICチップが起動して、チップに記憶された情報がアンテナから発信される。
【0003】
従来から、無線ICタグとして、一面が開口した筺体内に、ICチップとアンテナを備えるICタグ本体を配置して、筺体内に熱可塑性樹脂を流し込んでICタグ本体を樹脂に埋設させたものがある。例えば、特許文献1の無線ICタグでは、筺体内に充填される熱可塑性樹脂として、ポリフェニレンサルファイド(PPS)や、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)などを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−332116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PPS樹脂やABS樹脂などの熱可塑性樹脂は、冷却される際に収縮するため、筺体内に高温の熱可塑樹脂を流し込んで硬化させると、筺体とICタグ本体は収縮せずに充填樹脂だけが収縮して、無線ICタグに反りが生じる場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、筺体内に充填される樹脂の冷却時の収縮を抑制して反りの発生を防止できる無線ICタグとその製造方法、および、この無線ICタグを用いた無線通信システムを提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
第1の発明に係る無線ICタグの製造方法は、一面が開口した筺体内に、ICチップおよびアンテナを有するICタグ本体を配置する第1工程と、前記ICタグ本体を覆うように前記筺体内に被覆樹脂を流し込む第2工程とを有し、前記被覆樹脂は、グラスファイバーが配合されていることを特徴とする。
【0008】
この構成によると、被覆樹脂にグラフファイバーを配合したことで、筺体内に充填された被覆樹脂が冷める際の収縮を抑制でき、その結果、無線ICタグに反りが生じるのを防止できる。
【0009】
第2の発明に係る無線ICタグの製造方法は、第1の発明において、前記被覆樹脂の主成分がポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする。
【0010】
この構成によると、無線ICタグの耐熱性を向上させることができる。
【0011】
第3の発明に係る無線ICタグは、一面が開口した筺体と、ICチップおよびアンテナを有し、前記筺体内に配置されるICタグ本体と、前記ICタグ本体を覆うと共に、前記ICタグ本体と前記筺体の内面との隙間に充填された被覆樹脂とを備え、前記被覆樹脂は、グラスファイバーが配合されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によると、第1の発明と同様の効果を奏する。
【0013】
第4の発明に係る無線ICタグは、第3の発明において、前記被覆樹脂の主成分がポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする。
【0014】
この構成によると、無線ICタグの耐熱性を向上させることができる。
【0015】
第5の発明に係る無線ICタグは、第3または第4の発明において、前記筺体の主成分が、ポリフェニレンサルファイドであることを特徴とする。
【0016】
この構成によると、筺体の耐熱性を向上させることができる。また、ポリフェニレンサルファイドとポリブチレンテレフタレートとの接着性が高いため、筺体と被覆樹脂とを確実に接着させることができる。
【0017】
第6の発明に係る無線ICタグは、第3〜第5のいずれかの発明において、前記ICタグ本体は、基板と、前記基板の前記筺体の底面側に配置され、前記ICチップおよび前記アンテナが設けられたベースフィルムを有するインレイとを備え、前記基板または前記筺体は、前記ICチップと対向する位置に凹部を有することを特徴とする。
【0018】
この構成によると、基板または筺体のICチップと対向する位置に凹部を設けたことにより、被覆樹脂の射出圧によって、インレイのICチップが設けられた部分が、筺体の底面に押し付けられるのを防止できる。したがって、ICチップの破損を防止できる。
【0019】
第7の発明に係る無線通信システムは、第3〜第6のいずれかの発明の無線ICタグを用いたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る無線ICタグの断面図である。
【図2】基板をインレイ側から見た平面図である。
【図3】無線ICタグの製造工程の一部を示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る無線ICタグの断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る無線ICタグの断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る無線ICタグの断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る無線ICタグの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の無線ICタグ1は、一面が開口した直方体状の筺体2と、筺体2内に配置されたICタグ本体3および被覆樹脂7を備えている。無線ICタグ1は、例えば物品100に装着されて、図示しないリーダと無線通信する。無線ICタグ1とリーダとによって、無線通信システムが構成される。
【0022】
筺体2は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの耐熱性の高い合成樹脂を主成分として形成されている。筺体2には、グラスファイバー(GF)が10〜40%配合されていてもよい。また、図示は省略するが、筺体2の側壁部には、無線ICタグ1を物品100にネジで固定するためのネジ孔が形成されている。
【0023】
ICタグ本体3は、矩形板状の部材である。ICタグ本体3は、基板5と、この基板5に接着層6を介して取り付けられるインレイ(インレット)4とで構成される。ICタグ本体3は、インレイ4が筺体2の底面2aと対向するように筺体2内に配置される。
【0024】
インレイ4は、ベースフィルム41と、ベースフィルム41の片面に設けられたICチップ42およびアンテナ43を有する。インレイ4は、アンテナ43側の面が接着層6を介して基板5に接着されており、ベースフィルム41は、筺体2の底面2aと接触している。
【0025】
ベースフィルム41は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)などの電気絶縁性を有する合成樹脂で形成されており、その厚みはほぼ一定である。
【0026】
アンテナ43は、ダイポールアンテナであって、例えば銅などの導電性材料で形成されている。アンテナ43は、配線、蒸着、エッチング処理、またはスクリーン印刷などによって、ベースフィルム41の表面に形成されている。
【0027】
図2に示すように、ICチップ42は、ベースフィルム41の中央部に設けられており、アンテナ43に電気的に接続されている。なお、図2は基板5の平面図であるため、ICチップ42は本来表れないが、説明のために表示している。ICチップ42の直径は、例えば400〜1000μmである。また、ICチップ42の厚みは、アンテナ43の厚みよりも厚くなっている。そのため、ベースフィルム41が、筺体2の底面2aと接触した状態では、インレイ4の中央部(ICチップ42が設けられた部分)は、底面2aと反対側(基板5側)に突出している。
【0028】
接着層6は、ICチップ42とアンテナ43を覆うと共に、ベースフィルム41のICチップ42またはアンテナ43が設けられていない部分を覆っている。接着層6は、例えばアクリル系接着剤などで構成されており、電気絶縁性を有する。
【0029】
基板5は、矩形板状の部材であって、補助アンテナ層51と、スペーサ層52と、グランド層53との積層体で構成されている。基板5の補助アンテナ層51側に接着層6とインレイ4が配置されている。基板5の厚みは、例えば0.5〜5mmである。
【0030】
スペーサ層52は、電気絶縁性材料で形成されている。具体的には、例えば、熱硬化ポフェニレンエーテル(PPE)、エポキシ、シリコーン、フッ素、フェノールなどの合成樹脂を主成分とし、ガラスクロスに樹脂を含浸させたものであってもよく、グラフファイバーが混練されたものであってもよい。スペーサ層52の中央部(詳細には、接着層6を介してICチップ42に対向する位置)には、円形状の凹部52aが形成されている。凹部52aの直径は、ICチップ42よりも大きく、例えば2〜5mmが好ましい。また、凹部52aの深さは、ICチップの厚み以上であって、0.2mm以上が好ましい。なお、凹部52aの形状は、円形状に限定されるものではない。
【0031】
補助アンテナ層51およびグランド層53は、例えば銅などの導電性材料で形成されており、その厚みは、1〜100μmである。また、図2に示すように、補助アンテナ層51の中央部(ICチップ42に対応する位置)には、孔51aが形成されている。孔51aは、スペーサ層52に設けられた凹部52aよりも大きい。なお、孔51aの代わりに、切り欠きを設けてもよい。
【0032】
基板5は、部品100が無線通信を妨害する材料(例えば、金属などの導電性材料、紙やガラスなどの誘電体材料、磁性体材料)を含む場合であっても通信特性が劣化するのを防止する機能を有する。具体的には、グランド層53によって、金属などの通信妨害物の影響を抑えることができる。また、補助アンテナ層51は通信周波数の電磁波に対して共振するように構成されており、補助アンテナ層51のICチップ42に対応する位置に孔51aを設けたことで孔51aの縁に電流が流れ、磁界が発生するため、孔51aを横断するようにアンテナ43が配置されていることで、アンテナ43に誘導電流が発生し、ICチップ42が起動する。そのため、補助アンテナ43による無線通信が可能となり、その結果、無線ICタグ1の通信可能距離を延ばすことができる。
【0033】
被覆樹脂7は、ICタグ本体3を覆うと共に、ICタグ本体3と筺体2の内面との隙間に充填されている。被覆樹脂7は、主成分がポリブチレンテレフタレート(PBT)であって、グラスファイバーが10〜40%配合されている。
【0034】
次に、無線ICタグ1の製造工程について説明する。
【0035】
凹部52aを形成したスペーサ層52の両面に補助アンテナ層51とグランド層53を貼り付けて基板5を作成し、この基板5の補助アンテナ層51側の表面に接着層6を介してインレイ4を取り付けて、ICタグ本体3を作成する。次に、図3(a)に示すように、射出成形などで作成された筺体2の内側に、ICタグ本体3を配置して、図3(b)に示すように、被覆樹脂7となる高温の樹脂材料を基板5の表面に向かって高圧で射出して筺体2内に流し込む。そして、図3(c)に示すように、筺体2の開口縁まで被覆樹脂7を充填した後、冷却して被覆樹脂7を硬化させる。
【0036】
本実施形態の無線ICタグ1によると、被覆樹脂7にグラフファイバーを配合したことで、筺体2内に充填された被覆樹脂7が冷める際の収縮を抑制でき、その結果、無線ICタグ1に反りが生じるのを防止できる。
【0037】
充填樹脂としてPPS樹脂を用いた場合、成形加工時にPPS樹脂からガスが発生して、内部に空隙が生じるため、高温環境下では空隙内のガスが膨張して、無線ICタグが変形してしまう場合がある。また、充填樹脂としてABS樹脂を用いた場合には、ABS樹脂の耐熱温度が70〜100℃と低いため、高温環境下では熱により変形してしまう場合がある。一方、本実施形態では、被覆樹脂7の主成分がポリブチレンテレフタレート(PBT)であるため、無線ICタグ1の耐熱性を向上させることができる。
【0038】
また、筺体2の主成分をポリフェニレンサルファイド(PPS)とすることで、筺体2の耐熱性を向上させることができる。また、PPSとPBTとの接着性が高いため、筺体2と被覆樹脂7とを確実に接着させることができる。
【0039】
また、無線ICタグ1の製造工程において、被覆樹脂7を基板5の表面に向かって筺体2内に射出したとき、基板5には射出圧がかかる。そのため、基板5に凹部52aが設けられていない場合には、インレイ4のICチップ42が設けられた部分が、射出圧によって筺体2の底面2aに押し付けられ、ICチップ42が破損する場合がある。一方、本実施形態では、基板5のICチップ42と対向する位置に凹部52aを設けているため、被覆樹脂7の射出圧によって、インレイ4のICチップ42が設けられた部分が、筺体2の底面2aに押し付けられるのを防止できる。したがって、ICチップ42の破損を防止できる。
【0040】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0041】
上記実施形態では、被覆樹脂7の主成分がPBTであるが、PBT以外の樹脂を用いてもよい。
【0042】
インレイ4は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、ベースフィルム41の両面にアンテナ43が形成された構成でもよい。
【0043】
上記実施形態では、ベースフィルム41の片面にアンテナ43とICチップ42が設けられたインレイ4を、接着層6によって基板5に貼り付けているが、アンテナ43と補助アンテナ層51との間に電気絶縁体層が配置される構成であれば、上記実施形態の構成に限定されない。
【0044】
補助アンテナ層51と接着層6の間に、電気絶縁性材料で形成された第2スペーサ層を配置してもよい。この場合、例えば図4および図5に示すように、第2スペーサ層208の中央部に孔208a(または凹部)が設けられていてもよい。補助アンテナ層51とグランド層53との間に位置するスペーサ層は、図4に示すように、凹部52aが設けられたスペーサ層52であってもよく、図5に示すように、凹部が設けられていないスペーサ層252であってもよい。図4および図5では、第2スペーサ層208、補助アンテナ層51、スペーサ層52、252およびグランド層53の積層体が、本発明の「凹部が設けられた基板」を構成する。
【0045】
また、第2スペーサ層を配置する場合、例えば図6に示すように、第2スペーサ層308に孔や凹部を設けずに、スペーサ層52にのみ凹部52aを設けてもよい。図6では、補助アンテナ層51、スペーサ層52およびグランド層53の積層体が、本発明の「凹部が設けられた基板」を構成する。第2スペーサ層308に孔を設けない場合、インレイ4のICチップ42が設けられた部分は、第2スペーサ層308と筺体2の底面2aとの間で挟まれるものの、第2スペーサ層308は、スペーサ層52よりも薄く剛性が低いため、スペーサ層52に凹部52aを設けない場合よりもICチップ42に加わる射出圧を低減できる。
【0046】
上記実施形態では、基板5に凹部52aを設けているが、例えば図7に示すように、基板405(スペーサ層452)に凹部を設けずに、筺体402の底面のICチップ42と対向する位置に凹部402bを設けてもよい。この場合であっても、上記実施形態と同様に、被覆樹脂7の射出圧によって、インレイ4のICチップ42が設けられた部分が、筺体402の底面に押し付けられるのを防止でき、ICチップ42の破損を防止できる。
【符号の説明】
【0047】
1 無線ICタグ
2、402 筺体
2a 底面
3 ICタグ本体
4 インレイ
5、405 基板
6 接着層
7 被覆樹脂
41 ベースフィルム
42 ICチップ
43 アンテナ
51 補助アンテナ層
52、252、452 スペーサ層
52a 凹部
53 グランド層
208、308 第2スペーサ層
208a 孔
402b 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面が開口した筺体内に、ICチップおよびアンテナを有するICタグ本体を配置する第1工程と、
前記ICタグ本体を覆うように前記筺体内に被覆樹脂を流し込む第2工程とを有し、
前記被覆樹脂は、グラスファイバーが配合されていることを特徴とする無線ICタグの製造方法。
【請求項2】
前記被覆樹脂の主成分がポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載の無線ICタグの製造方法。
【請求項3】
一面が開口した筺体と、
ICチップおよびアンテナを有し、前記筺体内に配置されるICタグ本体と、
前記ICタグ本体を覆うと共に、前記ICタグ本体と前記筺体の内面との隙間に充填された被覆樹脂とを備え、
前記被覆樹脂は、グラスファイバーが配合されていることを特徴とする無線ICタグ。
【請求項4】
前記被覆樹脂の主成分がポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項3に記載の無線ICタグ。
【請求項5】
前記筺体の主成分が、ポリフェニレンサルファイドであることを特徴とする請求項3または4に記載の無線ICタグ。
【請求項6】
前記ICタグ本体は、
基板と、
前記基板の前記筺体の底面側に配置され、前記ICチップおよび前記アンテナが設けられたベースフィルムを有するインレイとを備え、
前記基板または前記筺体は、前記ICチップと対向する位置に凹部を有することを特徴とする請求項3〜5の何れか1項に記載の無線ICタグ。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載の無線ICタグを用いたことを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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