無線ICデバイス及びその製造方法
【課題】無線ICデバイスにおいて、無線IC素子の角部が直接外部に露出することを避け、かつ、基材シートやアンテナ素子が撓んだりしても無線IC素子がダメージを受けることを極力回避すること。
【解決手段】可撓性を有する基材シート10に設けられた可撓性を有するアンテナ素子30と、アンテナ素子30に接合された無線IC素子50と、無線IC素子50を覆うように基材シート10及び/又はアンテナ素子30に取り付けた可撓性を有するカバーシート40と、を備えた無線ICデバイス。カバーシート40は、無線IC素子50から所定の間隔Gだけ離れた箇所で基材シート10及び/又はアンテナ素子30に接着固定され、かつ、無線IC素子50の少なくとも側部には空隙部Hが形成されている。
【解決手段】可撓性を有する基材シート10に設けられた可撓性を有するアンテナ素子30と、アンテナ素子30に接合された無線IC素子50と、無線IC素子50を覆うように基材シート10及び/又はアンテナ素子30に取り付けた可撓性を有するカバーシート40と、を備えた無線ICデバイス。カバーシート40は、無線IC素子50から所定の間隔Gだけ離れた箇所で基材シート10及び/又はアンテナ素子30に接着固定され、かつ、無線IC素子50の少なくとも側部には空隙部Hが形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線ICデバイス、特にRFID(Radio Frequency Identification)システムに用いられる無線ICデバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の情報管理システムとして、誘導磁界を発生するリーダライタと、物品に付されたRFIDタグ(無線ICデバイスとも称する)とを電磁界を利用した非接触方式で通信し、所定の情報を伝達するRFIDシステムが実用化されている。このRFIDタグは、所定の情報を記憶し、所定の無線信号を処理する無線ICチップと、高周波信号の送受信を行うアンテナ(放射体)とを備え、管理対象となる種々の物品(あるいはその包装材)に貼着して使用される。
【0003】
RFIDシステムとしては、13MHz帯を利用したHFRFIDシステム、900MHz帯を利用したUHF帯RFIDシステムが一般的である。特に、UHF帯RFIDシステムは、通信距離が比較的長く、複数のタグを一括して読取りが可能であることから、物品管理のシステムとして有望視されている。
【0004】
近年、RFIDシステムは、医療分野にも応用されつつある。例えば、特許文献1,2,3には、手術用ガーゼにUHF帯用のタグを取り付けることを提案している。UHF帯用のタグをガーゼに取り付けてリーダライタで認識することで、患者の体内にガーゼを置き忘れるといった事故を防止するためである。
【0005】
このような医療分野においては、ガーゼや人体への引っ掛かりを防止するために、RFIDタグには角部がないことが好ましい。角部をなくすには、図13(A)に示すように、無線IC素子250を樹脂251でポッティングして封止することが考えられる。しかし、樹脂251で封止した場合、基材シート210やアンテナ素子230が撓んだりすると、図13(B)に示すように、樹脂251のアンテナ素子230への固定部にクラック251aが入ったり、図13(C)に示すように、樹脂251の薄い部分にクラック251bが入り、無線IC素子250がダメージを受ける、例えば、アンテナ素子230との間に接続障害が発生するといった不具合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−355258号公報
【特許文献2】特開2004−121412号公報
【特許文献3】特開2011−015395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、無線IC素子の角部が直接外部に露出することを避け、かつ、基材シートやアンテナ素子が撓んだりしても無線IC素子がダメージを極力受けることのない無線ICデバイス及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の形態である無線ICデバイスは、
可撓性を有する基材シートに設けられた可撓性を有するアンテナ素子と、
前記アンテナ素子に接合された無線IC素子と、
前記無線IC素子を覆うように前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に取り付けた可撓性を有するカバーシートと、
を備え、
前記カバーシートは、前記無線IC素子から所定の間隔だけ離れた箇所で前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定され、かつ、前記無線IC素子の少なくとも側部には空隙部が形成されていること、
を特徴とする。
【0009】
本発明の第2の形態である無線ICデバイスの製造方法は、
可撓性を有する基材シートにスリットによって分割された可撓性を有するアンテナ素子を設ける工程と、
複数の無線IC素子を前記アンテナ素子に前記スリットを跨ぐように等間隔で接合する工程と、
可撓性を有するカバーシートを、前記無線IC素子から所定の間隔だけ離れた箇所で、かつ、前記無線IC素子の少なくとも側部には空隙部を形成するように、前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定する工程と、
前記基材シート、前記アンテナ素子及び前記カバーシートを前記無線IC素子を間にして等間隔でカットする工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
前記無線ICデバイスは、例えば、手術用ガーゼに取り付けられ、RFIDシステムのリーダライタと交信することによって、患者の体内にガーゼを置き忘れるといった事故を未然に防止する。前記無線ICデバイスにおいて、無線IC素子は可撓性を有するカバーシートによって覆われているため、無線IC素子の角部が隠されるので、無線IC素子がガーゼや人体に引っ掛かることもない。また、カバーシートは無線IC素子から所定の間隔だけ離れた箇所で基材シート及び/又はアンテナ素子に接着固定され、かつ、無線IC素子の少なくとも側部には空隙部が形成されているため、基材シートやアンテナ素子が撓んだりしても無理な応力が無線IC素子に作用することがなく、無線IC素子がダメージを受けることが極力防止される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無線IC素子の角部が直接外部に露出することを避け、かつ、基材シートやアンテナ素子が撓んだりしても無線IC素子がダメージを受けることを極力回避でき、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施例である無線ICデバイスを示す斜視図である。
【図2】前記無線ICデバイスを示す断面図である。
【図3】(A),(B),(C)ともにカバーシートの各種貼着状態を示す平面図である。
【図4】(A),(B)ともに前記無線ICデバイスの湾曲状態を示す断面図である。
【図5】(A)は前記無線ICデバイスの他の例を示す断面図、(B)は該無線ICデバイスの湾曲状態を示す断面図である。
【図6】無線IC素子としての無線ICチップを示す斜視図である。
【図7】無線IC素子として給電回路基板上に前記無線ICチップを搭載した状態を示す斜視図である。
【図8】給電回路の一例を示す等価回路図である。
【図9】前記給電回路基板の積層構造を示す平面図である。
【図10】前記無線ICデバイスの製造工程を示す説明図である。
【図11】前記無線ICデバイスをガーゼに取り付ける構造を示す分解斜視図である。
【図12】前記無線ICデバイスをガーゼに取り付けた状態を示し、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【図13】(A)比較例である無線ICデバイスを示す断面図、(B),(C)は該比較例における無線IC素子のダメージを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る無線ICデバイス及びその製造方法の実施例について添付図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部品、部分は同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
(無線ICデバイス、図1〜図5参照)
一実施例である無線ICデバイス1は、UHF帯の通信に用いられるものであり、図1及び図2に示すように、可撓性を有する基材シート10に設けられたアンテナ素子30と、アンテナ素子30に接続された無線IC素子50と、無線IC素子50を覆うようにアンテナ素子30に取り付けた可撓性を有するカバーシート40とを備えており、いわゆるRFIDタグとして構成されている。
【0015】
基材シート10は、例えば、耐熱性や耐薬品性を有することが好ましく、ポリイミドやPETなどの熱可塑性樹脂材を好適に使用することができる。アンテナ素子30は、基材シート10上に該シート10のほぼ全面に設けられた銀、銅、アルミニウムなどを主成分とする金属膜によって可撓性を有するように形成されている。アンテナ素子30は長辺方向の中央部分でスリット31によって分割されており、無線IC素子50はこのスリット31を跨ぐようにアンテナ素子30に接続固定されている。即ち、アンテナ素子30はダイポール型の放射素子として機能する。なお、図示はしていないが、アンテナ素子30の表面には、アンテナ素子30を覆うようにレジストやカバーレイのような保護膜が設けられている。
【0016】
無線IC素子50は、RF信号を処理するもので、その詳細は図6〜図9を参照して後述する。無線IC素子50とアンテナ素子30の端部、即ちスリット31で分割された端部(給電部30a,30a)との結合は電磁界結合あるいは半田バンプなどによる電気的な直接結合(DC接続)である。詳しくは、無線IC素子50は、給電回路基板65上に無線ICチップ51を搭載し、かつ、無線ICチップ51を樹脂材55にて封止したものである。但し、給電回路基板65は必ずしも必要なものではなく、無線ICチップ51が単独でアンテナ素子30に接合されていてもよい。
【0017】
カバーシート40は、前記基材シート10と同様の性質を有する樹脂材(例えば、PETフィルム)が使用されており、無線IC素子50から所定の間隔G(図2参照)だけ離れた箇所でアンテナ素子30に接着剤にて固定され、かつ、図2に示すように、無線IC素子50の側部には空隙部Hが形成されている。カバーシート40は、無線IC素子50のアンテナ素子30への接合状態を視認できることから、透明又は半透明であることが好ましい。
【0018】
なお、本実施例において、基材シート10とアンテナ素子30とは平面視でほぼ同じ形状とされているが、基材シート10のほうがアンテナ素子30よりも平面視で大きな面積を有するものであってもよい。この場合、カバーシート40は基材シート10に接着されていてもよく、あるいは、基材シート10とアンテナ素子30とに跨って接着されていてもよい。
【0019】
図3(A),(B),(C)に、平面視で長方形状をなすカバーシート40の種々の貼着状態を示し、斜線を付した部分で接着剤41にて固定されている。図3(A)は長辺方向の両端部においてアンテナ素子30に貼着されている状態を示している。図3(B)は枠状に(つまり、4辺にて)アンテナ素子30に貼着されている状態を示している。図3(C)は長辺方向の両側部においてアンテナ素子30に貼着されている状態を示している。
【0020】
ここで、無線ICデバイス1の通信作用について概略的に説明すると、無線IC素子50から所定の高周波信号が給電部30a,30aを介してアンテナ素子30に伝達されると、そのままアンテナ素子30から外部に放射される。アンテナ素子30が外部からの高周波を受信した場合も、同様に、給電部30a,30aから無線IC素子50に電力が供給される。これにて、無線IC素子50と図示しないリーダライタとが交信することになる。
【0021】
無線ICデバイス1において、無線IC素子50はアンテナ素子30の端部である給電部30a,30aに接合されており、カバーシート40は無線IC素子50を覆うように両端部で間隔Gを保持して接着固定されている。カバーシート40は無線IC素子50の天面に固定されることなく単に接触していてもよく(図4参照)、あるいは、接着剤42を介して無線IC素子50の天面に接着固定されていてもよい(図5参照)。
【0022】
基材シート10及びアンテナ素子30が、図4(A)に示すように、凸状に撓んだ場合、カバーシート40も凸状に変形することになり、無線IC素子50はカバーシート40によって押圧される。しかし、空隙部Hの存在によってカバーシート40の伸びが若干吸収されることにより、カバーシート40から無線IC素子50に作用する応力が緩和される。また、基材シート10及びアンテナ素子30が、図4(B)や図5(B)に示すように、凹状に撓んだ場合、カバーシート40が無線IC素子50の天面と接着されていない場合は(図4(B)参照)、カバーシート40が無線IC素子50から離間するのでカバーシート40から無線IC素子50に押圧力が作用することはない。カバーシート40が無線IC素子50の天面と接着固定されている場合であっても(図5(B)参照)、カバーシート40が空隙部Hの存在によって撓むのでカバーシート40から無線IC素子50に大きな押圧力が作用することはない。
【0023】
つまり、無線IC素子50はカバーシート40にて覆われているが、空隙部Hが存在することにより、基材シート10やアンテナ素子30が撓んだりしても無理な応力が無線IC素子50に作用することがなく、無線IC素子50がダメージを受けることが防止されることになる。
【0024】
(無線IC素子、図6〜図9参照)
以下に、無線IC素子50について説明する。無線IC素子50は、図6に示すように、高周波信号を処理する無線ICチップ51であってもよく、あるいは、図7に示すように、無線ICチップ51と所定の共振周波数を有する共振回路を含んだ給電回路基板65とで構成されていてもよい。
【0025】
図6に示す無線ICチップ51は、シリコン半導体集積回路チップとして構成されており、クロック回路、ロジック回路、メモリ回路などを含み、必要な情報がメモリされている。無線ICチップ51は、その裏面に入出力用端子電極52,52及び実装用端子電極53,53が設けられている。入出力用端子電極52,52は前記アンテナ素子30の給電部30a,30aと金属バンプなどを介して電気的に接続される。なお、金属バンプの材料としては、Au、はんだなどを用いることができる。
【0026】
図7に示すように、無線ICチップ51と給電回路基板65とで無線IC素子50を構成する場合、給電回路基板65には種々の給電回路(共振回路/整合回路を含む)を設けることができる。例えば、図8に等価回路として示すように、互いに異なるインダクタンス値を有し、かつ、互いに逆相で磁気結合(相互インダクタンスMで示す)されているインダクタンス素子L1,L2を含む給電回路66であってもよい。給電回路66は、所定の共振周波数を有するとともに、無線ICチップ51のインピーダンスとアンテナ素子30とのインピーダンスマッチングを図っている。なお、無線ICチップ51と給電回路66とは、電気的に接続(DC接続)されていてもよいし、電磁界を介して結合されていてもよい。
【0027】
給電回路66は、無線ICチップ51から発信された所定の周波数を有する高周波信号を前記アンテナ素子30に伝達し、かつ、受信した高周波信号をアンテナ素子30を介して無線ICチップ51に供給する。給電回路66が所定の共振周波数を有するので、インピーダンスマッチングが図りやすくなり、アンテナ素子30の整合回路部分の電気長を短くすることができる。
【0028】
次に、給電回路基板65の構成について説明する。図6及び図7に示すように、無線ICチップ51の入出力用端子電極52は、給電回路基板65上に形成した給電端子電極142a,142bに、実装用端子電極53は、実装端子電極143a,143bに金属バンプなどを介して接続される。
【0029】
給電回路基板65は、図9に示すように、誘電体あるいは磁性体からなるセラミックシート141a〜141hを積層、圧着、焼成したものである。但し、給電回路基板65を構成する絶縁層はセラミックシートに限定されるものではなく、例えば、液晶ポリマなどのような熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂のような樹脂シートであってもよい。最上層のシート141aには、給電端子電極142a,142b、実装端子電極143a,143b、ビアホール導体144a,144b,145a,145bが形成されている。ビアホール導体144a,145aは給電端子電極142aによって接続されている。ビアホール導体144b,145bは給電端子電極142bによって接続されている。2層目〜8層目のシート141b〜141hには、それぞれ、インダクタンス素子L1,L2を構成する配線電極146a,146bが形成され、必要に応じてビアホール導体147a,147b,148a,148bが形成されている。
【0030】
以上のシート141a〜141hを積層することにより、配線電極146aがビアホール導体147aにて螺旋状に接続されたインダクタンス素子L1が形成され、配線電極146bがビアホール導体147bにて螺旋状に接続されたインダクタンス素子L2が形成される。また、配線電極146a,146bの線間にキャパシタンスが形成される。
【0031】
シート141b上の配線電極146aの端部146a−1はビアホール導体145aを介して給電端子電極142aに接続され、シート141h上の配線電極146aの端部146a−2はビアホール導体148a,145bを介して給電端子電極142bに接続される。シート141b上の配線電極146bの端部146b−1はビアホール導体144bを介して給電端子電極142bに接続され、シート141h上の配線電極146bの端部146b−2はビアホール導体148b,144aを介して給電端子電極142aに接続される。
【0032】
以上の給電回路66において、インダクタンス素子L1,L2はそれぞれ逆方向に巻かれており、インダクタンス素子L1,L2には差動信号による逆方向の電流が流れるため、インダクタンス素子L1,L2で発生する磁界が相殺される。磁界が相殺されるため、所望のインダクタンス値を得るためには配線電極146a,146bをある程度長くする必要がある。これにてQ値が低くなるので共振特性の急峻性がなくなり、共振周波数付近で広帯域化することになる。
【0033】
インダクタンス素子L1,L2は、給電回路基板65を平面透視したときに、左右の異なる位置に形成されている。また、インダクタンス素子L1,L2で発生する磁界はそれぞれ逆向きになる。これにて、給電回路66(インダクタンス素子L1,L2)をアンテナ素子30に結合させたとき、アンテナ素子30には逆向きの電流が励起され、その電流による電位差でアンテナ素子30が動作する。
【0034】
給電回路基板65に共振/整合回路を内蔵することにより、外部の物品の影響による特性変動を抑えることができ、通信品質の劣化を防ぐことができる。また、無線IC素子50を構成する無線ICチップ51を給電回路基板65の厚み方向の中央側に向けて配置すれば、無線ICチップ51の破壊を防ぐことができ、無線IC素子50としての機械的強度を向上させることができる。
【0035】
(無線ICデバイスの製造工程、図10参照)
次に、前記無線ICデバイス1の製造方法の一例について図10を参照して説明する。この製造方法は、複数の無線ICデバイスを集合基板として作製した後、1単位ずつカットする、いわゆる多数個取りの手法によっている。
【0036】
まず、工程aとして、広い面積の基材シート10上にスリット31によって分割されたアンテナ素子30を金属膜によって設ける。次に、工程bとして、複数の無線IC素子50をアンテナ素子30上にスリット31を跨ぐように等間隔で接合する。工程cとして、アンテナ素子30上に広い面積のカバーシート40を被せて貼着する。カバーシート40の貼着は、前述のように、個々の無線IC素子50から所定の間隔G(図2参照)だけ離れた箇所で、かつ、無線IC素子50の側部には空隙部Hを形成するように処理される。
【0037】
次に、工程dとして、基材シート10の裏面にキャリアテープ20を貼着する。工程eとして、カット線Cで示すように、無線ICデバイス1を間にして等間隔で1単位の無線ICデバイス1にカットする。このとき、カットされるのは、基材シート10、アンテナ素子30、カバーシート40であり、キャリアテープ20はカットされない。このように、無線ICデバイス1がキャリアテープ20上に集合されている段階で、無線ICデバイス1ごとに一括してリーダライタ(図示せず)と交信させ、特性の評価を行う。
【0038】
(物品への取付け形態、図11及び図12参照)
次に、前記無線ICデバイス1を物品へ取り付ける形態について説明する。ここで、物品とは具体的には手術用ガーゼ70である。即ち、図11及び図12に示すように、ガーゼ70の特定の箇所に不織布71,72で挟み込んだ無線ICデバイス1を縫製する。縫製箇所は図12(A)で点線Dで示している。なお、縫製箇所はこの位置に限るものではない。また、不織布71,72の周囲の適宜箇所を熱圧着して無線ICデバイス1をガーゼ70に取り付けるようにしてもよい。また、無線ICデバイス1は、ガーゼ70と不織布71との間に挟み込んであってもよい。即ち、無線ICデバイス1とガーゼ70との間に位置する不織布72を省略してもよい。
【0039】
ガーゼ70が折り曲げられたりしても、無線IC素子50がダメージを受けることがないことは勿論、剛性を有する無線IC素子50は可撓性を有するカバーシート40によって覆われているため、無線IC素子50の角部が隠されることになり、無線IC素子50がガーゼ70や人体に引っ掛かることはない。また、無線IC素子50は不織布71,72によってもカバーされており、他物品への引っ掛かりは皆無である。さらに、手術で多数枚のガーゼ70を使用した後に、リーダライタにて無線ICデバイス1を一つ一つ確認することにより、患者の体内にガーゼ70を置き忘れるといった事故を未然に防止することができる。
【0040】
(他の実施例)
なお、本発明に係る無線ICデバイス及びその製造方法は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更することができる。
【0041】
特に、基材シート、カバーシートやアンテナ素子の材質、形状やサイズは用途に応じて適宜選択すればよい。また、間隔Gや空隙部Hの大きさは任意である。あるいは、アンテナ素子の形状は任意であり、ミアンダ状であったり、ループ状であってもよい。さらに、本無線ICデバイスを取り付ける物品は、前記手術用ガーゼに限らず、衣料品や各種布製品であってもよく、本無線ICデバイスは可撓性を有する物品に好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明は、無線ICデバイスに有用であり、特に、無線IC素子の角部が直接外部に露出することがなく、無線IC素子のダメージを極力回避できる点で優れている。
【符号の説明】
【0043】
1…無線ICデバイス
10…基材シート
30…アンテナ素子
31…スリット
40…カバーシート
50…無線IC素子
51…無線ICチップ
65…給電回路基板
70…ガーゼ
H…空隙部
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線ICデバイス、特にRFID(Radio Frequency Identification)システムに用いられる無線ICデバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の情報管理システムとして、誘導磁界を発生するリーダライタと、物品に付されたRFIDタグ(無線ICデバイスとも称する)とを電磁界を利用した非接触方式で通信し、所定の情報を伝達するRFIDシステムが実用化されている。このRFIDタグは、所定の情報を記憶し、所定の無線信号を処理する無線ICチップと、高周波信号の送受信を行うアンテナ(放射体)とを備え、管理対象となる種々の物品(あるいはその包装材)に貼着して使用される。
【0003】
RFIDシステムとしては、13MHz帯を利用したHFRFIDシステム、900MHz帯を利用したUHF帯RFIDシステムが一般的である。特に、UHF帯RFIDシステムは、通信距離が比較的長く、複数のタグを一括して読取りが可能であることから、物品管理のシステムとして有望視されている。
【0004】
近年、RFIDシステムは、医療分野にも応用されつつある。例えば、特許文献1,2,3には、手術用ガーゼにUHF帯用のタグを取り付けることを提案している。UHF帯用のタグをガーゼに取り付けてリーダライタで認識することで、患者の体内にガーゼを置き忘れるといった事故を防止するためである。
【0005】
このような医療分野においては、ガーゼや人体への引っ掛かりを防止するために、RFIDタグには角部がないことが好ましい。角部をなくすには、図13(A)に示すように、無線IC素子250を樹脂251でポッティングして封止することが考えられる。しかし、樹脂251で封止した場合、基材シート210やアンテナ素子230が撓んだりすると、図13(B)に示すように、樹脂251のアンテナ素子230への固定部にクラック251aが入ったり、図13(C)に示すように、樹脂251の薄い部分にクラック251bが入り、無線IC素子250がダメージを受ける、例えば、アンテナ素子230との間に接続障害が発生するといった不具合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−355258号公報
【特許文献2】特開2004−121412号公報
【特許文献3】特開2011−015395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、無線IC素子の角部が直接外部に露出することを避け、かつ、基材シートやアンテナ素子が撓んだりしても無線IC素子がダメージを極力受けることのない無線ICデバイス及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の形態である無線ICデバイスは、
可撓性を有する基材シートに設けられた可撓性を有するアンテナ素子と、
前記アンテナ素子に接合された無線IC素子と、
前記無線IC素子を覆うように前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に取り付けた可撓性を有するカバーシートと、
を備え、
前記カバーシートは、前記無線IC素子から所定の間隔だけ離れた箇所で前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定され、かつ、前記無線IC素子の少なくとも側部には空隙部が形成されていること、
を特徴とする。
【0009】
本発明の第2の形態である無線ICデバイスの製造方法は、
可撓性を有する基材シートにスリットによって分割された可撓性を有するアンテナ素子を設ける工程と、
複数の無線IC素子を前記アンテナ素子に前記スリットを跨ぐように等間隔で接合する工程と、
可撓性を有するカバーシートを、前記無線IC素子から所定の間隔だけ離れた箇所で、かつ、前記無線IC素子の少なくとも側部には空隙部を形成するように、前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定する工程と、
前記基材シート、前記アンテナ素子及び前記カバーシートを前記無線IC素子を間にして等間隔でカットする工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
前記無線ICデバイスは、例えば、手術用ガーゼに取り付けられ、RFIDシステムのリーダライタと交信することによって、患者の体内にガーゼを置き忘れるといった事故を未然に防止する。前記無線ICデバイスにおいて、無線IC素子は可撓性を有するカバーシートによって覆われているため、無線IC素子の角部が隠されるので、無線IC素子がガーゼや人体に引っ掛かることもない。また、カバーシートは無線IC素子から所定の間隔だけ離れた箇所で基材シート及び/又はアンテナ素子に接着固定され、かつ、無線IC素子の少なくとも側部には空隙部が形成されているため、基材シートやアンテナ素子が撓んだりしても無理な応力が無線IC素子に作用することがなく、無線IC素子がダメージを受けることが極力防止される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無線IC素子の角部が直接外部に露出することを避け、かつ、基材シートやアンテナ素子が撓んだりしても無線IC素子がダメージを受けることを極力回避でき、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施例である無線ICデバイスを示す斜視図である。
【図2】前記無線ICデバイスを示す断面図である。
【図3】(A),(B),(C)ともにカバーシートの各種貼着状態を示す平面図である。
【図4】(A),(B)ともに前記無線ICデバイスの湾曲状態を示す断面図である。
【図5】(A)は前記無線ICデバイスの他の例を示す断面図、(B)は該無線ICデバイスの湾曲状態を示す断面図である。
【図6】無線IC素子としての無線ICチップを示す斜視図である。
【図7】無線IC素子として給電回路基板上に前記無線ICチップを搭載した状態を示す斜視図である。
【図8】給電回路の一例を示す等価回路図である。
【図9】前記給電回路基板の積層構造を示す平面図である。
【図10】前記無線ICデバイスの製造工程を示す説明図である。
【図11】前記無線ICデバイスをガーゼに取り付ける構造を示す分解斜視図である。
【図12】前記無線ICデバイスをガーゼに取り付けた状態を示し、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【図13】(A)比較例である無線ICデバイスを示す断面図、(B),(C)は該比較例における無線IC素子のダメージを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る無線ICデバイス及びその製造方法の実施例について添付図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部品、部分は同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
(無線ICデバイス、図1〜図5参照)
一実施例である無線ICデバイス1は、UHF帯の通信に用いられるものであり、図1及び図2に示すように、可撓性を有する基材シート10に設けられたアンテナ素子30と、アンテナ素子30に接続された無線IC素子50と、無線IC素子50を覆うようにアンテナ素子30に取り付けた可撓性を有するカバーシート40とを備えており、いわゆるRFIDタグとして構成されている。
【0015】
基材シート10は、例えば、耐熱性や耐薬品性を有することが好ましく、ポリイミドやPETなどの熱可塑性樹脂材を好適に使用することができる。アンテナ素子30は、基材シート10上に該シート10のほぼ全面に設けられた銀、銅、アルミニウムなどを主成分とする金属膜によって可撓性を有するように形成されている。アンテナ素子30は長辺方向の中央部分でスリット31によって分割されており、無線IC素子50はこのスリット31を跨ぐようにアンテナ素子30に接続固定されている。即ち、アンテナ素子30はダイポール型の放射素子として機能する。なお、図示はしていないが、アンテナ素子30の表面には、アンテナ素子30を覆うようにレジストやカバーレイのような保護膜が設けられている。
【0016】
無線IC素子50は、RF信号を処理するもので、その詳細は図6〜図9を参照して後述する。無線IC素子50とアンテナ素子30の端部、即ちスリット31で分割された端部(給電部30a,30a)との結合は電磁界結合あるいは半田バンプなどによる電気的な直接結合(DC接続)である。詳しくは、無線IC素子50は、給電回路基板65上に無線ICチップ51を搭載し、かつ、無線ICチップ51を樹脂材55にて封止したものである。但し、給電回路基板65は必ずしも必要なものではなく、無線ICチップ51が単独でアンテナ素子30に接合されていてもよい。
【0017】
カバーシート40は、前記基材シート10と同様の性質を有する樹脂材(例えば、PETフィルム)が使用されており、無線IC素子50から所定の間隔G(図2参照)だけ離れた箇所でアンテナ素子30に接着剤にて固定され、かつ、図2に示すように、無線IC素子50の側部には空隙部Hが形成されている。カバーシート40は、無線IC素子50のアンテナ素子30への接合状態を視認できることから、透明又は半透明であることが好ましい。
【0018】
なお、本実施例において、基材シート10とアンテナ素子30とは平面視でほぼ同じ形状とされているが、基材シート10のほうがアンテナ素子30よりも平面視で大きな面積を有するものであってもよい。この場合、カバーシート40は基材シート10に接着されていてもよく、あるいは、基材シート10とアンテナ素子30とに跨って接着されていてもよい。
【0019】
図3(A),(B),(C)に、平面視で長方形状をなすカバーシート40の種々の貼着状態を示し、斜線を付した部分で接着剤41にて固定されている。図3(A)は長辺方向の両端部においてアンテナ素子30に貼着されている状態を示している。図3(B)は枠状に(つまり、4辺にて)アンテナ素子30に貼着されている状態を示している。図3(C)は長辺方向の両側部においてアンテナ素子30に貼着されている状態を示している。
【0020】
ここで、無線ICデバイス1の通信作用について概略的に説明すると、無線IC素子50から所定の高周波信号が給電部30a,30aを介してアンテナ素子30に伝達されると、そのままアンテナ素子30から外部に放射される。アンテナ素子30が外部からの高周波を受信した場合も、同様に、給電部30a,30aから無線IC素子50に電力が供給される。これにて、無線IC素子50と図示しないリーダライタとが交信することになる。
【0021】
無線ICデバイス1において、無線IC素子50はアンテナ素子30の端部である給電部30a,30aに接合されており、カバーシート40は無線IC素子50を覆うように両端部で間隔Gを保持して接着固定されている。カバーシート40は無線IC素子50の天面に固定されることなく単に接触していてもよく(図4参照)、あるいは、接着剤42を介して無線IC素子50の天面に接着固定されていてもよい(図5参照)。
【0022】
基材シート10及びアンテナ素子30が、図4(A)に示すように、凸状に撓んだ場合、カバーシート40も凸状に変形することになり、無線IC素子50はカバーシート40によって押圧される。しかし、空隙部Hの存在によってカバーシート40の伸びが若干吸収されることにより、カバーシート40から無線IC素子50に作用する応力が緩和される。また、基材シート10及びアンテナ素子30が、図4(B)や図5(B)に示すように、凹状に撓んだ場合、カバーシート40が無線IC素子50の天面と接着されていない場合は(図4(B)参照)、カバーシート40が無線IC素子50から離間するのでカバーシート40から無線IC素子50に押圧力が作用することはない。カバーシート40が無線IC素子50の天面と接着固定されている場合であっても(図5(B)参照)、カバーシート40が空隙部Hの存在によって撓むのでカバーシート40から無線IC素子50に大きな押圧力が作用することはない。
【0023】
つまり、無線IC素子50はカバーシート40にて覆われているが、空隙部Hが存在することにより、基材シート10やアンテナ素子30が撓んだりしても無理な応力が無線IC素子50に作用することがなく、無線IC素子50がダメージを受けることが防止されることになる。
【0024】
(無線IC素子、図6〜図9参照)
以下に、無線IC素子50について説明する。無線IC素子50は、図6に示すように、高周波信号を処理する無線ICチップ51であってもよく、あるいは、図7に示すように、無線ICチップ51と所定の共振周波数を有する共振回路を含んだ給電回路基板65とで構成されていてもよい。
【0025】
図6に示す無線ICチップ51は、シリコン半導体集積回路チップとして構成されており、クロック回路、ロジック回路、メモリ回路などを含み、必要な情報がメモリされている。無線ICチップ51は、その裏面に入出力用端子電極52,52及び実装用端子電極53,53が設けられている。入出力用端子電極52,52は前記アンテナ素子30の給電部30a,30aと金属バンプなどを介して電気的に接続される。なお、金属バンプの材料としては、Au、はんだなどを用いることができる。
【0026】
図7に示すように、無線ICチップ51と給電回路基板65とで無線IC素子50を構成する場合、給電回路基板65には種々の給電回路(共振回路/整合回路を含む)を設けることができる。例えば、図8に等価回路として示すように、互いに異なるインダクタンス値を有し、かつ、互いに逆相で磁気結合(相互インダクタンスMで示す)されているインダクタンス素子L1,L2を含む給電回路66であってもよい。給電回路66は、所定の共振周波数を有するとともに、無線ICチップ51のインピーダンスとアンテナ素子30とのインピーダンスマッチングを図っている。なお、無線ICチップ51と給電回路66とは、電気的に接続(DC接続)されていてもよいし、電磁界を介して結合されていてもよい。
【0027】
給電回路66は、無線ICチップ51から発信された所定の周波数を有する高周波信号を前記アンテナ素子30に伝達し、かつ、受信した高周波信号をアンテナ素子30を介して無線ICチップ51に供給する。給電回路66が所定の共振周波数を有するので、インピーダンスマッチングが図りやすくなり、アンテナ素子30の整合回路部分の電気長を短くすることができる。
【0028】
次に、給電回路基板65の構成について説明する。図6及び図7に示すように、無線ICチップ51の入出力用端子電極52は、給電回路基板65上に形成した給電端子電極142a,142bに、実装用端子電極53は、実装端子電極143a,143bに金属バンプなどを介して接続される。
【0029】
給電回路基板65は、図9に示すように、誘電体あるいは磁性体からなるセラミックシート141a〜141hを積層、圧着、焼成したものである。但し、給電回路基板65を構成する絶縁層はセラミックシートに限定されるものではなく、例えば、液晶ポリマなどのような熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂のような樹脂シートであってもよい。最上層のシート141aには、給電端子電極142a,142b、実装端子電極143a,143b、ビアホール導体144a,144b,145a,145bが形成されている。ビアホール導体144a,145aは給電端子電極142aによって接続されている。ビアホール導体144b,145bは給電端子電極142bによって接続されている。2層目〜8層目のシート141b〜141hには、それぞれ、インダクタンス素子L1,L2を構成する配線電極146a,146bが形成され、必要に応じてビアホール導体147a,147b,148a,148bが形成されている。
【0030】
以上のシート141a〜141hを積層することにより、配線電極146aがビアホール導体147aにて螺旋状に接続されたインダクタンス素子L1が形成され、配線電極146bがビアホール導体147bにて螺旋状に接続されたインダクタンス素子L2が形成される。また、配線電極146a,146bの線間にキャパシタンスが形成される。
【0031】
シート141b上の配線電極146aの端部146a−1はビアホール導体145aを介して給電端子電極142aに接続され、シート141h上の配線電極146aの端部146a−2はビアホール導体148a,145bを介して給電端子電極142bに接続される。シート141b上の配線電極146bの端部146b−1はビアホール導体144bを介して給電端子電極142bに接続され、シート141h上の配線電極146bの端部146b−2はビアホール導体148b,144aを介して給電端子電極142aに接続される。
【0032】
以上の給電回路66において、インダクタンス素子L1,L2はそれぞれ逆方向に巻かれており、インダクタンス素子L1,L2には差動信号による逆方向の電流が流れるため、インダクタンス素子L1,L2で発生する磁界が相殺される。磁界が相殺されるため、所望のインダクタンス値を得るためには配線電極146a,146bをある程度長くする必要がある。これにてQ値が低くなるので共振特性の急峻性がなくなり、共振周波数付近で広帯域化することになる。
【0033】
インダクタンス素子L1,L2は、給電回路基板65を平面透視したときに、左右の異なる位置に形成されている。また、インダクタンス素子L1,L2で発生する磁界はそれぞれ逆向きになる。これにて、給電回路66(インダクタンス素子L1,L2)をアンテナ素子30に結合させたとき、アンテナ素子30には逆向きの電流が励起され、その電流による電位差でアンテナ素子30が動作する。
【0034】
給電回路基板65に共振/整合回路を内蔵することにより、外部の物品の影響による特性変動を抑えることができ、通信品質の劣化を防ぐことができる。また、無線IC素子50を構成する無線ICチップ51を給電回路基板65の厚み方向の中央側に向けて配置すれば、無線ICチップ51の破壊を防ぐことができ、無線IC素子50としての機械的強度を向上させることができる。
【0035】
(無線ICデバイスの製造工程、図10参照)
次に、前記無線ICデバイス1の製造方法の一例について図10を参照して説明する。この製造方法は、複数の無線ICデバイスを集合基板として作製した後、1単位ずつカットする、いわゆる多数個取りの手法によっている。
【0036】
まず、工程aとして、広い面積の基材シート10上にスリット31によって分割されたアンテナ素子30を金属膜によって設ける。次に、工程bとして、複数の無線IC素子50をアンテナ素子30上にスリット31を跨ぐように等間隔で接合する。工程cとして、アンテナ素子30上に広い面積のカバーシート40を被せて貼着する。カバーシート40の貼着は、前述のように、個々の無線IC素子50から所定の間隔G(図2参照)だけ離れた箇所で、かつ、無線IC素子50の側部には空隙部Hを形成するように処理される。
【0037】
次に、工程dとして、基材シート10の裏面にキャリアテープ20を貼着する。工程eとして、カット線Cで示すように、無線ICデバイス1を間にして等間隔で1単位の無線ICデバイス1にカットする。このとき、カットされるのは、基材シート10、アンテナ素子30、カバーシート40であり、キャリアテープ20はカットされない。このように、無線ICデバイス1がキャリアテープ20上に集合されている段階で、無線ICデバイス1ごとに一括してリーダライタ(図示せず)と交信させ、特性の評価を行う。
【0038】
(物品への取付け形態、図11及び図12参照)
次に、前記無線ICデバイス1を物品へ取り付ける形態について説明する。ここで、物品とは具体的には手術用ガーゼ70である。即ち、図11及び図12に示すように、ガーゼ70の特定の箇所に不織布71,72で挟み込んだ無線ICデバイス1を縫製する。縫製箇所は図12(A)で点線Dで示している。なお、縫製箇所はこの位置に限るものではない。また、不織布71,72の周囲の適宜箇所を熱圧着して無線ICデバイス1をガーゼ70に取り付けるようにしてもよい。また、無線ICデバイス1は、ガーゼ70と不織布71との間に挟み込んであってもよい。即ち、無線ICデバイス1とガーゼ70との間に位置する不織布72を省略してもよい。
【0039】
ガーゼ70が折り曲げられたりしても、無線IC素子50がダメージを受けることがないことは勿論、剛性を有する無線IC素子50は可撓性を有するカバーシート40によって覆われているため、無線IC素子50の角部が隠されることになり、無線IC素子50がガーゼ70や人体に引っ掛かることはない。また、無線IC素子50は不織布71,72によってもカバーされており、他物品への引っ掛かりは皆無である。さらに、手術で多数枚のガーゼ70を使用した後に、リーダライタにて無線ICデバイス1を一つ一つ確認することにより、患者の体内にガーゼ70を置き忘れるといった事故を未然に防止することができる。
【0040】
(他の実施例)
なお、本発明に係る無線ICデバイス及びその製造方法は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更することができる。
【0041】
特に、基材シート、カバーシートやアンテナ素子の材質、形状やサイズは用途に応じて適宜選択すればよい。また、間隔Gや空隙部Hの大きさは任意である。あるいは、アンテナ素子の形状は任意であり、ミアンダ状であったり、ループ状であってもよい。さらに、本無線ICデバイスを取り付ける物品は、前記手術用ガーゼに限らず、衣料品や各種布製品であってもよく、本無線ICデバイスは可撓性を有する物品に好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明は、無線ICデバイスに有用であり、特に、無線IC素子の角部が直接外部に露出することがなく、無線IC素子のダメージを極力回避できる点で優れている。
【符号の説明】
【0043】
1…無線ICデバイス
10…基材シート
30…アンテナ素子
31…スリット
40…カバーシート
50…無線IC素子
51…無線ICチップ
65…給電回路基板
70…ガーゼ
H…空隙部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基材シートに設けられた可撓性を有するアンテナ素子と、
前記アンテナ素子に接合された無線IC素子と、
前記無線IC素子を覆うように前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に取り付けた可撓性を有するカバーシートと、
を備え、
前記カバーシートは、前記無線IC素子から所定の間隔だけ離れた箇所で前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定され、かつ、前記無線IC素子の少なくとも側部には空隙部が形成されていること、
を特徴とする無線ICデバイス。
【請求項2】
前記基材シートは可撓性物品に取り付けられるものであること、を特徴とする請求項1に記載の無線ICデバイス。
【請求項3】
前記基材シートは長手方向を有し、前記カバーシートが前記長手方向の両端部で前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定されていることを、特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無線ICデバイス。
【請求項4】
前記カバーシートは前記無線IC素子の天面に固定されることなく接触していること、を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項5】
前記カバーシートは前記無線IC素子の天面に接着固定されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項6】
前記カバーシートは、平面視で長方形状をなし、その長辺方向の両端部において前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項7】
前記アンテナ素子はスリットによって分割されたダイポール型であり、前記無線IC素子は前記スリットを跨ぐように接続されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項8】
前記無線IC素子は所定の無線信号を処理する無線ICチップであること、を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項9】
前記無線IC素子は、所定の無線信号を処理する無線ICチップと、所定の共振周波数を有する給電回路を含む給電回路基板とからなること、を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項10】
可撓性を有する基材シートにスリットによって分割された可撓性を有するアンテナ素子を設ける工程と、
複数の無線IC素子を前記アンテナ素子に前記スリットを跨ぐように等間隔で接合する工程と、
可撓性を有するカバーシートを、前記無線IC素子から所定の間隔だけ離れた箇所で、かつ、前記無線IC素子の少なくとも側部には空隙部を形成するように、前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定する工程と、
前記基材シート、前記アンテナ素子及び前記カバーシートを前記無線IC素子を間にして等間隔でカットする工程と、
を備えたことを特徴とする無線ICデバイスの製造方法。
【請求項1】
可撓性を有する基材シートに設けられた可撓性を有するアンテナ素子と、
前記アンテナ素子に接合された無線IC素子と、
前記無線IC素子を覆うように前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に取り付けた可撓性を有するカバーシートと、
を備え、
前記カバーシートは、前記無線IC素子から所定の間隔だけ離れた箇所で前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定され、かつ、前記無線IC素子の少なくとも側部には空隙部が形成されていること、
を特徴とする無線ICデバイス。
【請求項2】
前記基材シートは可撓性物品に取り付けられるものであること、を特徴とする請求項1に記載の無線ICデバイス。
【請求項3】
前記基材シートは長手方向を有し、前記カバーシートが前記長手方向の両端部で前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定されていることを、特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無線ICデバイス。
【請求項4】
前記カバーシートは前記無線IC素子の天面に固定されることなく接触していること、を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項5】
前記カバーシートは前記無線IC素子の天面に接着固定されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項6】
前記カバーシートは、平面視で長方形状をなし、その長辺方向の両端部において前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項7】
前記アンテナ素子はスリットによって分割されたダイポール型であり、前記無線IC素子は前記スリットを跨ぐように接続されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項8】
前記無線IC素子は所定の無線信号を処理する無線ICチップであること、を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項9】
前記無線IC素子は、所定の無線信号を処理する無線ICチップと、所定の共振周波数を有する給電回路を含む給電回路基板とからなること、を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項10】
可撓性を有する基材シートにスリットによって分割された可撓性を有するアンテナ素子を設ける工程と、
複数の無線IC素子を前記アンテナ素子に前記スリットを跨ぐように等間隔で接合する工程と、
可撓性を有するカバーシートを、前記無線IC素子から所定の間隔だけ離れた箇所で、かつ、前記無線IC素子の少なくとも側部には空隙部を形成するように、前記基材シート及び/又は前記アンテナ素子に接着固定する工程と、
前記基材シート、前記アンテナ素子及び前記カバーシートを前記無線IC素子を間にして等間隔でカットする工程と、
を備えたことを特徴とする無線ICデバイスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−77268(P2013−77268A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218131(P2011−218131)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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