説明

無菌包装食品の製造方法および無菌包装食品

【課題】殺菌装置内の無菌状態およびクリーン環境内の無菌状態を維持しながら、高い信頼性および安全性を有する無菌包装食品を製造するための無菌包装食品の製造法および無菌包装食品の提供。
【解決手段】クリーン環境1に連接または、クリーン環境入口2に配設した、蒸気放出ノズル3および蒸気・空気・凝縮水の排出出口4を備えた耐圧容器からなる殺菌装置5に、固形状食品原料を充填した開口部21を備えた容器22を収容して殺菌し、殺菌後の固形状食品原料が充填された容器23を前記クリーン環境1に少なくとも連接または、クリーン環境出口7に配設された密封装置8で前記開口部21をシールすることで、前記殺菌装置5内の無菌状態および前記クリーン環境1内の無菌状態を維持しつつ無菌包装食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無菌包装食品の製造方法および無菌包装食品に関するものであり、更に詳細には、米、麦、雑穀などの穀類、その加工品などを容器に充填して殺菌して、必要に応じて、煮炊きして製造する穀類加工品の製造方法および無菌包装食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品を包装した後に殺菌するレトルト食品と異なり、食品を殺菌した後にクリーン環境下で包装する、いわゆる無菌包装食品が流通している。包装前に食品に最適な殺菌をすることで、殺菌の熱による臭いの発生や物性変化などの品質劣化を最小限にすることができ、賞味期間が長くて品質のよい食品が製造できることが特徴であるが、食品のみならず殺菌装置内の確実な殺菌および無菌包装には課題も多く、従来から、これらに関する様々な提案がなされている(特許文献1〜4)。
特に、米、麦、雑穀などの穀類、その加工品などの固形食品を殺菌し、無菌包装する場合には、密閉された配管の中で殺菌から充填までを連続して行える粘・液体の流体食品と異なり、確実な殺菌と殺菌後の二次汚染の防止に注意が必要であり、殺菌対象物である食品の殺菌はもちろんのこと、殺菌装置内全ての部材を確実に殺菌できること、さらには外部からの菌の流入による二次汚染を確実に防止できることも重要な課題となる。
【0003】
通常、米、麦、雑穀などの穀類、その加工品などの固形食品の殺菌には、耐圧の蒸気式殺菌装置が用いられ、密閉された殺菌装置の中で飽和蒸気もしくは過熱蒸気により殺菌される。殺菌に際しては、蒸気が加熱対象物である食品や殺菌装置内の部材に触れた際に生じる凝縮水が、熱伝達の妨げになったり、殺菌装置内の温度斑の原因になったりするので、通常は、殺菌装置の底部に凝縮水の排出出口が設置され、スチームトラップと呼ばれる装置を用いて、装置内の圧力を下げることなく凝縮水を排出する。
【0004】
しかしながら、スチームトラップによる凝縮水の排出方法は、連続的なものではなく、凝縮水の滞留を伴う間欠的なものである場合が多く、凝縮水が溜まりやすい殺菌装置内の底部付近や排出出口の配管内には、温度が上がりにくい場所が存在し、温度斑の原因になったり、殺菌不良箇所が生じたりする。
また、例えば、数分から数十分かけて常温の食品を120℃程度まで加熱して殺菌するような場合には、温度斑を解消する熱伝達時間が十分に確保され、また通常はある程度の安全を見て過剰な殺菌を行うこともあり、実質的には殺菌不良箇所は存在しなくなるが、例えば、数秒から数分の短時間で常温の食品を125〜155℃程度の高温まで加熱して殺菌するような場合には、品質への影響が大きいために過剰な殺菌条件にすることも出来ず、また、熱伝達の時間も十分に確保されないために、温度斑が解消されず、殺菌不良箇所が存在する場合がある。
【0005】
このような場合には、殺菌装置内の温度斑による突発的な殺菌不良が生じたり、殺菌不良箇所に残存した菌が、一旦は殺菌できた食品に対して二次汚染を引き起こしたりすることがあり、確実な殺菌および無菌包装でなくなる危険性があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−84567公報
【特許文献2】特開平10−146160公報
【特許文献3】特開平9−172992公報
【特許文献4】特開平10−42806公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の目的は、殺菌装置内を確実に殺菌し、殺菌装置内の無菌状態およびクリーン環境内の無菌状態を維持しながら、高い信頼性および安全性を有する無菌包装食品を製造するための無菌包装食品の製造法を提供することである。
本発明の第2の目的は、本発明の方法により製造された、高い信頼性および安全性を有する無菌包装食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、殺菌装置において、蒸気を供給しつつ、蒸気・空気・凝縮水を排出して開口部を備えた容器に充填された固形状食品原料を殺菌しつつ、前記殺菌装置内を確実に殺菌することで、殺菌された固形状食品原料および容器が殺菌された状態のまま、クリーン環境内にて密封することにより、殺菌装置内の無菌状態を維持するとともに、クリーン環境内の無菌状態も維持しながら、高い信頼性および安全性を有する無菌包装食品を製造し提供することができ、前記課題を解決できることを見いだして、本発明を成すに至った。
【0009】
前記課題を解決するための本発明の請求項1は、クリーン環境に連接または、クリーン環境入口に配設した、蒸気放出ノズルおよび蒸気・空気・凝縮水の排出出口を備えた耐圧容器からなる殺菌装置に、固形状食品原料を充填した開口部を備えた容器を収容して、下記の工程(1)〜(5)を含む工程で殺菌し、殺菌後の固形状食品原料が充填された容器を前記クリーン環境に少なくとも連接または、クリーン環境出口に配設された密封装置で前記開口部をシールすることで、前記殺菌装置内の無菌状態および前記クリーン環境内の無菌状態を維持しつつ無菌包装食品を製造することを特徴とする無菌包装食品の製造法である。
【0010】
(1) 前記開口部を備えた容器に固形状食品原料を充填し、前記クリーン環境に面していない前記殺菌装置の面に備えられた容器導入用扉から前記容器を殺菌装置内に収容する。
(2) 前記蒸気放出ノズルから蒸気を少なくとも前記殺菌装置の底部に向けて噴射しつつ、かつ前記排出出口から装置内の蒸気・空気・凝縮水を排出しつつ、装置内を殺菌温度まで昇温する。
(3) 殺菌温度まで昇温した後も、前記蒸気放出ノズルから蒸気を前記殺菌装置の底部に向けて噴射しつつ、かつ前記排出出口から装置内の蒸気、空気、凝縮水を排出しつつ殺菌温度を維持しながら殺菌する。
(4) 前記クリーン環境に面している前記殺菌装置の面に備えられた容器取り出し用扉から殺菌後の食品が充填されている容器を前記クリーン環境内に取り出す。
(5) 前記クリーン環境内に取り出した殺菌後の固形状食品原料が充填された容器を前記密封装置で前記開口部をシールする。
【0011】
本発明の請求項2は、請求項1記載の無菌包装食品の製造法において、殺菌終了後に前記殺菌装置内の圧力が殺菌装置の外部環境の圧力より低くなる前に前記排出出口を閉じ、その後に前記クリーン環境に面している前記殺菌装置の面に備えられた容器取り出し用扉から殺菌後の食品が充填されている容器を前記クリーン環境内に取り出すことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3は、請求項1あるいは請求項2記載の無菌包装食品の製造法において、前記蒸気放出ノズルが前記耐圧容器内の前記固形状食品原料が充填された前記容器より前記耐圧容器の底側に備えられ、前記蒸気を前記蒸気放出ノズルから前記殺菌装置の底部に直接蒸気を吹き付けて、前記殺菌装置内の殺菌と前記固形状食品原料の殺菌を行うことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の無菌包装食品の製造法において、加圧殺菌後、前記クリーン環境内で殺菌後の固形状食品原料が充填された容器に炊き水および/または調味液を添加し、この容器を前記クリーン環境内に設置された調理装置に収容して蒸気を用いて炊飯・調理し、炊飯・調理した後、無菌包装食品が充填された容器を前記密封装置で前記開口部をシールすることで、前記殺菌装置内の無菌状態および前記クリーン環境内の無菌状態を維持しつつ無菌包装食品を製造することを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項5は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の無菌包装食品の製造法において、前記固形状食品原料が、米、麦、雑穀、豆類の単体もしくは2種以上の混合物を含む粒形状食品原料であることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項6は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の無菌包装食品の製造法において、前記殺菌温度が125℃〜155℃の範囲であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項7は、請求項1から請求項6のいずれかに記載の無菌包装食品の製造法により製造されたことを特徴とする無菌包装食品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1は、クリーン環境に連接または、クリーン環境入口に配設した、蒸気放出ノズルおよび蒸気・空気・凝縮水の排出出口を備えた耐圧容器からなる殺菌装置に、固形状食品原料を充填した開口部を備えた容器を収容して前記の工程(1)〜(5)を含む工程で殺菌し、殺菌後の固形状食品原料が充填された容器を前記クリーン環境に少なくとも連接または、固形状食品原料が充填されている前記開口部をシールすることで、前記殺菌装置内の無菌状態および前記クリーン環境内の無菌状態を維持しつつ無菌包装食品を製造することを特徴とする無菌包装食品の製造法であり、
前記蒸気放出ノズルから蒸気を殺菌装置の底部に向けて噴射することにより、空気や凝縮水が溜まりやすく温度が上がりにくい底部から加熱することができ、また、蒸気を噴射しつつ、蒸気、空気、凝縮水を連続して排出しながら殺菌温度を維持して殺菌するので、空気や凝縮水が一定箇所に滞留することなく、常に熱い蒸気により除去されながら殺菌されるので、殺菌装置内に温度斑が生じず、殺菌不良箇所が発生しない。
そのため、殺菌装置内が確実に殺菌され、殺菌装置内の無菌状態およびクリーン環境内の無菌状態を維持しながら高い信頼性および安全性を有する無菌包装食品を製造することができるという顕著な効果を奏する。
【0018】
本発明の請求項2は、請求項1記載の無菌包装食品の製造法において、殺菌終了後に前記殺菌装置内の圧力が殺菌装置の外部環境の圧力より低くなる前に前記排出出口を閉じ、その後に前記クリーン環境に面している前記殺菌装置の面に備えられた容器取り出し用扉から殺菌後の食品が充填されている容器を前記クリーン環境内に取り出すことを特徴とするものであり、
殺菌終了後、前記殺菌装置内の圧力が殺菌装置の外部環境の圧力より低くなる前に前記排出出口を閉じるので、殺菌装置内の圧力が、蒸気の凝縮による体積収縮により、殺菌装置の圧力が外部環境の圧力よりも低くなろうとする力が働いても、外部環境より菌が流入し二次汚染の原因となる危険性もない。そのため、より確実に殺菌装置内の無菌状態およびクリーン環境内の無菌状態を維持しながら高い信頼性および安全性を有する無菌包装食品を製造することができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0019】
本発明の請求項3は、請求項1あるいは請求項2記載の無菌包装食品の製造法において、前記蒸気放出ノズルが前記耐圧容器内の前記固形状食品原料が充填された前記容器より前記耐圧容器の底側に備えられ、前記蒸気を前記蒸気放出ノズルから前記殺菌装置の底部に直接蒸気を吹き付けて、前記殺菌装置内の殺菌と前記固形状食品原料の殺菌を行うことを特徴とするものであり、
前記蒸気放出ノズルが前記耐圧容器内の前記固形状食品原料が充填された前記容器より前記耐圧容器の底側に備えられ、前記蒸気を前記蒸気放出ノズルから前記殺菌装置の底部に直接蒸気を吹き付けて、前記殺菌装置内の殺菌と前記固形状食品原料の殺菌を行うので、装置内の食品への蒸気の当たり方が均一になり、殺菌斑が生ぜず、また、蒸気が直接殺菌対象物に当たり、蒸気の勢いや蒸気中に含まれる凝縮水の力で食品が吹き飛んだり、変形したりすることがなくなるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0020】
本発明の請求項4は、請求項1から請求項3記載のいずれか1項に記載の無菌包装食品の製造法において、前記クリーン環境内で殺菌後の固形状食品原料が充填された容器に炊き水および/または調味液を添加し、この容器を前記クリーン環境内に設置された調理装置に収容して蒸気を用いて炊飯・調理し、炊飯・調理した後、無菌包装食品が充填された容器を前記密封装置で前記開口部をシールすることで、前記殺菌装置内の無菌状態および前記クリーン環境内の無菌状態を維持しつつ無菌包装食品を製造することを特徴とするものであり、
殺菌後に、炊き水および/または調味液を添加して蒸気により調理することにより、より最適な条件で食品を殺菌して、殺菌後の調理により食品の食味・食感などを適宜変化させ、殺菌による調理効果を補うことができ、様々な品質の無菌包装食品を製造することが出来るというさらなる顕著な効果を奏する。
【0021】
本発明の請求項5は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の無菌包装食品の製造法において、前記固形状食品原料が、米、麦、雑穀、豆類の単体もしくは2種以上の混合物を含む粒形状食品原料であることを特徴とするものであり、
特に殺菌中に吹き飛びやすく、また温度斑による殺菌不良の生じやすい、米、麦、雑穀、豆類の単体もしくは2種以上の混合物を含む粒形状食品原料を用いても、殺菌装置内が確実に殺菌され、殺菌装置内の無菌状態およびクリーン環境内の無菌状態を維持しながら、高い信頼性および安全性を有する無菌米飯や炊き込みご飯やその他の具材を入れた無菌米飯などの無菌包装食品を製造することができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0022】
本発明の請求項6は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の無菌包装食品の製造法において、前記殺菌温度が125℃〜155℃の範囲であることを特徴とするものであり、
前記殺菌温度で殺菌することにより、より短時間で確実に殺菌することができ、さらに殺菌の熱による臭いの発生や物性変化などの品質劣化を生じやすく殺菌時間の管理も難しい高温での殺菌においても、温度斑が生じず、殺菌不良箇所が存在しなくなるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0023】
本発明の請求項7は、請求項1から請求項6のいずれかに記載の無菌包装食品の製造法により製造されたことを特徴とする無菌包装食品であり、高い信頼性および安全性を有するので、産業上の利用価値が高いという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(イ)は、本発明で用いるクリーン環境、蒸気放出ノズルおよび蒸気・空気・凝縮水の排出出口を備えた耐圧容器からなる殺菌装置、調理装置、密封装置などを模式的に説明する説明図であり、(ロ)は、前記殺菌装置を模式的に説明する断面説明図である。
【図2】(イ)−(ニ)は、それぞれ実施例1、実施例2、比較例1および比較例2における殺菌装置内の蒸気放出ノズルの配設位置および排出出口の配設位置および蒸気の噴射状況を模式的に説明する説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に本発明の第1実施態様につき、図1を用いて詳細に説明する。
図1(イ)に示したように、本発明で用いる無菌包装食品製造装置Aは、クリーン環境1と、クリーン環境1の入口2に配設した、蒸気放出ノズル3および蒸気・空気・凝縮水の排出出口4を備えた耐圧容器からなる殺菌装置5と、殺菌装置5の後方のクリーン環境1内に設置された調理装置としての無菌包装食品加工用の炊飯装置6と、クリーン環境1の出口7に配設された密封装置8とが順次並んで配設されている。
本発明の第1実施態様においては殺菌装置5がクリーン環境1の入口2に配設された例を示したが、本発明においては殺菌装置5がクリーン環境1の入口2に接した状態で連なっていても外部環境から菌の侵入を防ぐ機構になっていれば良い。殺菌装置5がクリーン環境1の入口2に接した状態で連なっていれば、外部環境からクリーン環境1内に菌が流入することがなく、クリーン環境1内の無菌状態が維持される。
【0026】
そして、開口部21を備えた容器22に固形状食品原料20を充填して、固形状食品原料20を充填した容器22を矢印で示した方向から、すなわちクリーン環境1に面していない殺菌装置5の面に備えられた容器導入用扉10から、クリーン環境1の入口2に配設した殺菌装置5に収容して殺菌するように構成されている。
【0027】
図1(ロ)に示したように、蒸気放出ノズル3は耐圧容器5内の固形状食品原料20が充填された容器22より耐圧容器5の底部9側に備えられ、蒸気を蒸気放出ノズル3から殺菌装置5の底部9に直接蒸気を吹き付けて、殺菌装置5内の殺菌と固形状食品原料20の殺菌を行うようになっている。
蒸気放出ノズル3は耐圧容器5の底部9側に備えられ、蒸気放出ノズル3から蒸気を殺菌装置5の底部9に向けて噴射しつつ、排出出口4の開閉弁11を開けて排出出口4から耐圧容器5内の蒸気・空気・凝縮水を排出するようになっている。
【0028】
なお、蒸気放出ノズル3から蒸気を殺菌装置5の底部9に向けて噴射するということは、噴射される蒸気が全蒸気放出ノズル3から噴射された時に蒸気の全部が殺菌装置5の底部9に向けて噴射されることがもっとも好ましい。
しかし、固形状食品原料20の種類、容器22の大きさや形状、容器22への充填量、無菌包装食品の種類などによっては、全蒸気放出ノズル3から噴射される蒸気の一部が底部9に向かっていれば良い場合もあり、また凝縮水が溜まりやすい底部9の殺菌をより確実に行うためには、全蒸気放出ノズル3から噴射される蒸気の1/3以上が底部9に向けて噴射されることが好ましい場合もあり、さらにより確実に殺菌を行うためには、全蒸気放出ノズル3から噴射される蒸気の1/2以上が底部9に向けて噴射されることがより好ましい場合もある。
【0029】
なお、“蒸気・空気・凝縮水”とは、蒸気および/または空気および/または凝縮水の意であり、これらを単体もしくは2種以上の混合状態にて排出出口4より排出するようになっている。ただし、その他の外部から持ち込まれたものを同時に排出することを否定したものではない。
【0030】
なお、凝縮水とは、蒸気が自らよりも温度の低い加熱対象物である食品や殺菌装置5内の部材に触れた際に凝縮して生じる水のことである。
排出出口4から排出されるものは、殺菌工程の経過に伴い変化し得る。殺菌工程初期においては、主に空気と空気を追い出すための蒸気と蒸気の凝縮により生じる凝縮水が混在して排出され、殺菌工程終盤においては、主に凝縮水と凝縮水を押し出すための蒸気が混在して排出される。
【0031】
次に、無菌包装食品製造装置Aを用いて無菌包装食品を製造する場合の一例を下記工程(1)−(7)に従って説明する。
工程(1)先ず、開口部21を備えた容器22に固形状食品原料20を充填し、前記のようにクリーン環境1に面していない殺菌装置5の面に備えられた容器導入用扉10から固形状食品原料20を充填した容器22を殺菌装置5内に収容する。
固形状食品原料20を容器22に充填する前あるいは後、殺菌装置5内に収容する前に、予め熱処理したり、下味付け、漬込み、浸漬、洗浄、洗米などの処理を行うことができる。
例えば、精白米を洗米した後、水に浸漬して水を含浸させ、水切り後、その米を計量して容器22に所定量を充填する。
【0032】
工程(2)そして、蒸気放出ノズル3から蒸気を殺菌装置5の底部9に向けて噴射しつつ、排出出口4の開閉弁11を開けて排出出口4から装置5内の蒸気・空気・凝縮水を排出して、殺菌装置5内を殺菌温度まで昇温する。
【0033】
工程(3)そして、殺菌温度まで昇温した後も、蒸気放出ノズル3から蒸気を殺菌装置5の底部9に向けて噴射しつつ、かつ排出出口4から殺菌装置5内の蒸気、空気、凝縮水を排出しつつ殺菌温度を維持しながら殺菌する。
なお、耐圧容器5の内の温度調整は、蒸気放出ノズル3からの蒸気の放出量の調整、もしくは、排出出口4の開閉弁11の開度調整による排出量の調整などにより、殺菌される固形状食品原料の物性や、設定する殺菌温度により適切な条件に適宜調整を行う。
蒸気放出ノズル3の放出口の口径や、排出出口4の口径、放出ノズルの放出圧力なども、殺菌装置5の能力や、殺菌条件の設定などにより、殺菌装置5の設計時や、無菌包装食品を製造する際に、適宜設定し調整を行う。
蒸気放出ノズル3の放出口径と、排出出口4の排出口径とのバランスによって調整することもできる。その場合は、蒸気放出ノズル3の放出口径が、排出出口4の排出口径に対して過小でない限り、調整を容易にできる。また、蒸気放出ノズル3や排出出口4が複数ある場合は、両者の口径から計算される面積を用いて、調整を容易に行なうことができる。
【0034】
なお、本発明の殺菌温度は、殺菌する対象の菌・微生物に合わせて適宜設定できるが、100℃以上であれば、一般的な菌の殺菌は短時間で可能で好ましいが、125℃以上であれば、さらに芽胞菌などの熱に強い菌も短時間で殺菌する事ができ、また、食品原料に必要な殺菌時間が、凝縮水などで温度斑が発生しやすい殺菌装置5の殺菌に必要な時間より短くなり易く、固形状食品原料に必要以上の熱による品質劣化を生じさせないことから、殺菌温度として、より好ましい。
また、容器22の材質や、固形状食品原料への影響を考慮する必要があるが、殺菌温度は高い方が、短時間で殺菌ができるため、生産効率が良くなり好ましいが、155℃以下であるならば、一般的に安価で加工を行いやすい無菌包装食品で使用されるプラスチック材質である、ポリプロピレンの耐熱温度以下となるため好ましい。
【0035】
工程(4)殺菌終了後、殺菌装置5内の圧力が前記殺菌装置5の外部環境の圧力より低くなる前に開閉弁11を閉めて排出出口4を閉じる。
すなわち、殺菌終了後に前記殺菌装置5内の圧力が、前記殺菌装置5に連接する、クリーン環境1における圧力ではなく、前記容器導入用扉10の外側の圧力(外部環境の圧力)より低くなる前に、または、前記耐圧容器5に備えられた排出出口4の外側の圧力(外部環境の圧力)より低くなる前に、前記排出出口4を閉じ、その後に前記クリーン環境1に面している前記殺菌装置5の面に備えられた容器取り出し用扉12から殺菌後の食品が充填されている容器22を前記クリーン環境1内に取り出すようにすることが肝要である。
【0036】
工程(5)クリーン環境1に面している殺菌装置5の面に備えられた容器取り出し用扉12から殺菌後の固形状食品原料20が充填されている容器22をクリーン環境1内に取り出す。
【0037】
工程(6)殺菌後、固形状食品原料20が充填されている容器22に、クリーン環境1内に設置された図示しない添加装置を用いて炊き水および/または調味液あるいは適切な具材を適切な量だけ添加し、この容器22を矢印の方向からクリーン環境1内に設置された公知の調理装置6に収容して蒸気を用いて炊飯・調理する。
炊飯・調理の対象となる穀類加工品により、所定の温度、所定の圧力下で、所定の時間、適宜選択し、炊飯・調理する。
炊き水は特に限定されるものではなく、具体的には、例えば、水の他にも調味液やソース類など各種液体を用いることができ、各種味付き穀類加工品を煮炊きすることも可能である。
炊飯・調理の際は、必要に応じて蓋をしてもよい。
穀類は、単体または2種以上混合して使用できる。
【0038】
工程(7)炊飯・調理した後、炊飯・調理後の無菌食品が充填された容器22をクリーン環境1の出口7に配設された密封装置8で容器22の開口部21をシールする。
例えばヒートシール機で完全にシールして密封包装する。窒素などの不活性ガスで置換したり、脱酸素剤を封入したりしてもよい。
そして、密封包装後は、そのままあるいは所定数ダンボール箱に梱包するなどして適温に維持された貯蔵庫内で貯蔵したり、搬送・輸送に供したりする。
クリーン環境1の出口7は、外部から菌の侵入を防ぐ機構になっている。前記浸入を防ぐ機構は、クリーン環境1の圧力を高くし、外気浸入を防ぐ方法など、様々な方法を用いる事ができる。
【0039】
殺菌装置5内の凝縮水をスチームトラップにより除去する従来の方法では、温度斑による殺菌不良や、凝縮水による熱伝達不足による殺菌不良箇所の発生もあり、確実な殺菌および無菌包装でなくなる危険性があった。
また、殺菌後は、殺菌装置5内の圧力が、蒸気の凝縮による体積収縮により、前記殺菌装置5の外部環境の圧力より低くなろうとする力が働き、外部より微生物(菌)が流入する危険性があり、その結果、クリーン環境1内の気圧や空気の流れにもよるが、固形状食品原料20が直接汚染されたり、あるいは容器22、その他、搬送装置に菌が付着してしまい、クリーン環境1内へ少なからず菌の持ち込みが生じ、その結果、クリーン環境1内での密封シールまでに、殺菌された固形状食品原料20が間接的に汚染されたりする可能性が残されていた。
【0040】
それに対して、本発明は、殺菌装置5内から、クリーン環境1へ固形状食品原料20を搬出する際に、殺菌装置5内が完全に殺菌されており、また、殺菌装置5内へ外部より菌が流入する危険性もないのでクリーン環境1のクリーン環境が維持され、殺菌後の固形状食品原料20が汚染されることがない。
以上のようにして、殺菌装置5内の無菌状態およびクリーン環境1内の無菌状態を維持しつつ無菌包装食品を製造することができる。
【0041】
本発明で用いる固形状食品原料20は、特に限定されることはないが、気体・液体ではなく、流動性のあるものではなく、容器内に充填することができる大きさ、形状などを有するものであって、食品として使用できる固体の食品原料であればよい。
固形状食品原料20としては、穀物や穀物由来の原料を含む食品原料が、好ましい。本発明でいう穀物とは、具体的には、例えば、米や、雑穀の米以外のイネ科、例えば、大麦・はと麦・きび・たかきび・トウモロコシ・小麦・稗・粟・ホワイトソルガムなどや、マメ科、例えば、小豆、大豆、そら豆、落花生、ささげ、いんげん豆、えんどう豆、緑豆などや、その他の科の、ごま・そば・アマランサス・キヌアなどの澱粉質を含む作物などを挙げることができる。
これらの穀類は、さらに、事前に洗浄、浸漬、裁断、発芽処理、予備加熱などを行っておいてもよい。
【0042】
通常特に使用する前記米としては、うるち米、もち米、玄米、黒米などであり、これらは洗浄済浸漬米、無洗浸漬米、未浸漬米であってもよい。
通常特に使用する前記雑穀としては、麦、粟、きび、稗、大豆、小豆、黒豆、緑豆、ごま、アマランサス、トウモロコシなどを挙げることができる。
【0043】
本発明でいう穀物由来の固形状食品原料20とは、穀物を粉末状にし、加水などを行ってねり合わせ、必要に応じて乾燥させたものであり、具体的には、例えば、パスタ(ロングパスタ、例えば、スパゲティ、リングイネなど、ショートパスタ、例えば、クスクス、ニョッキ、ペンネなど)・うどん・ソーメン・ビーフン・春雨・日本そばなどの麺類などを挙げることができる。
【0044】
無菌包装食品製造装置Aを用いて無菌包装食品を前記工程(1)−(7)に従って製造する場合の一例を示したが、穀物由来の固形状食品原料20を用いる場合、工程(6)で殺菌後、炊飯・調理することなく、容器22をクリーン環境1の出口7に配設された密封装置8で容器22の開口部21をシールすることにより、殺菌装置5内の無菌状態およびクリーン環境1内の無菌状態を維持しつつ無菌包装食品を製造することができる場合がある。
【0045】
本発明で用いる炊き込みご飯の具としては、具体的には、例えば、鶏肉・牛肉・豚肉などの畜肉由来原料、アサリ・イカ・タコ・ホタテ・鯛の身などの魚貝由来原料、ごぼう・人参・筍・アスパラガス・いんげん豆・そら豆・椎茸・しめじなどの野菜・茸原料、こんにゃく・油揚げ・竹輪などの加工食品などを挙げることができるほか、事前に味付け・加熱等の調理した前記炊き込みご飯の具等も挙げることができる。
【0046】
本発明で用いる殺菌装置5は、公知の耐圧容器からなる殺菌装置を使用でき、円筒横型のものや角型のものを好ましく使用できる。
円筒横型の殺菌装置5は、生じる凝縮水が底辺に集合しやすく、排出しやすいという特徴があり、角型の殺菌装置5は、食品を収容する際の収容効率がよく使用蒸気量を節約できるという特徴がある。
【0047】
本発明で用いる殺菌装置5に設置される蒸気放出ノズル3や蒸気・空気・凝縮水の排出出口4などの設備は、公知のものを使用すればよく、例えば、前記殺菌装置5に接続された配管の切断面の先端を利用することもでき、前記殺菌装置5に接続して内部まで差し込まれた配管の各所に小さな孔を設けて利用することもできる。
【0048】
蒸気放出ノズル3や排出出口4として配管の小孔を噴射口として利用する場合は、孔を開ける位置や孔の大きさ、数で、噴射の向きや勢いを調節することができる。
配管の切断面の先端を排出出口4として利用する場合には、前記殺菌装置5の底部9に段差なく設置すれば、底部9に溜る凝縮水を無理なく缶外へ排出することができる。
【0049】
蒸気放出ノズル3や蒸気・空気・凝縮水の排出出口4の設置位置や設置数も、本発明の特許請求の範囲内であれば、特に限定されるものでなく、適宜設置することができる。
蒸気放出ノズル3は、殺菌装置5の底部9に蒸気を噴射することが可能であれば、前記殺菌装置5の底部9に溜まり易い凝縮水と共に、前記殺菌装置5内全体の殺菌を行いつつ、容器22内の固形状食品原料20も殺菌を行うことができる。
【0050】
さらに、蒸気放出ノズル3が、固形状食品原料20が充填された容器22より、殺菌装置5の底部9側に設置されることは、凝縮水が溜まり易い殺菌装置5の底部9を、より均一に殺菌することが可能になるほか、前記容器22内の固形状食品原料20に噴出された蒸気が直接あたらないため、固形状食品原料20が変形したり、飛散することがなく、より好ましい。
【0051】
本発明で用いる殺菌装置5には、適宜その他の公知の設備を付帯することができる。蒸気・空気・凝縮水の排出出口4とは別に、殺菌の初期工程において空気を主に排出する目的で、排出出口4を例えば殺菌装置5の天井に別途設けるなどすることもでき、殺菌終了時に蒸気を主に排出する目的の排気口を、例えば殺菌装置5の側壁部13に設けるなどすることができる。
温度計や圧力計なども適宜設置できる。
【0052】
本発明の加熱調理で用いる蒸気は、飽和蒸気でも過熱蒸気でもよい。
飽和蒸気であれば、食品を焦がしたり乾燥させたりすることなく効率よく加熱調理することができる。
過熱蒸気を使用すれば、食品の水分値の上昇を抑えながら加熱したり、水分を蒸発させながら加熱したり、焦がしたりすることもできる。また、クリーン環境内の結露発生を防止でき、結露水が食品に付着してしまうことを防止することもできる。
【0053】
本発明で用いる蒸気の温度は、常温(クリーン環境の温度)より高く、使用する容器22の耐熱温度以下が必須条件であり、例えば炊き水を入れた場合、炊き水が90℃以上に早く到達して炊飯・調理が効率良く良好に進むと共に、使用するプラスティック容器の変形などがないことを考慮して、具体的には、例えば、95〜110℃の飽和蒸気や、101〜155℃の過熱蒸気が使用できる。
【0054】
本発明で用いるクリーン環境1は、無菌包装食品の製造に適するものであればよく、特に限定されるものではなく、例えば、クリーンルームの様に、室内全体がクリーン状態を維持できるようなものでもよく、また殺菌から、密封包装までが、クリーン環境1を維持できる1つの装置であってもよく、また各装置をクリーンなトンネルでつなぐような形態のものであっても、一連の装置として連続していてもよい。
【0055】
本発明で用いるクリーン環境1内には、前記のように図示しない添加装置を設置して炊き水および/または調味液あるいは適切な具材やトッピングなどを適切な量だけ無菌的に添加できるようにすることができる。
【0056】
本発明で用いるクリーン環境1の例としては、例えば、米国航空宇宙局(NASA)の規格でクラス100〜クラス10000のクリーンルームやクリーンブース内などで無菌的に行なうなどを挙げることができる。クリーン環境1で行なう際には使用する設備ならびに添加する炊き水および/または調味液などは充分に殺菌されたものを使用する。
【0057】
本発明で用いる容器22は、上部が開口し、形状は丸、多角形、楕円、トレー状形状、円筒状形状、深い形状など特に限定されず、材質はプラスチック、ガラス、セラミックス、金属あるいはこれらの組合わせなどいずれでもよい。
【0058】
本発明で用いる容器22として、製品として販売可能な包装容器となる耐熱性容器を用いることができる。
容器22として、製品として販売可能な包装容器となる耐熱性容器を用いると、容器22から包装容器への移し替えや別途包装容器の殺菌が不要となり、工程が簡略化できるとともに、均一な品質を有する無菌包装食品を、その状態のまま密封包装して製品にできる。
【0059】
容器22として、製品として販売可能な包装容器となる耐熱性容器は、上部が開口し、開口部の周縁に外向きのフランジ状ヒートシール部を備えているものであれば好ましく使用でき、形状は丸、多角形、楕円、トレー状形状、円筒状形状、深い形状など特に限定されるものではない。
【0060】
また、耐熱性および耐水性があればよく、材質はプラスチック、ガラス、紙、セラミックス、金属あるいはこれらの組合わせなどいずれでもよく、例えばガスバリヤー性耐熱容器包装体、耐熱性合成樹脂フィルム及び/又は金属箔のラミネート材からなるプラスチック容器などを挙げることができる。
【0061】
本発明で用いる図示しない蓋材フィルムは、容器22とのシール適性などを考慮し適宜選択される。
例えば、製品として販売可能な容器となる耐熱性容器は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を中間層とし、上下層には、ポリプロピレンを積層しこれを容器に成形したもの、また、蓋材フィルムとしては、「PET/Kナイロン/ポリエチレン系シーラント」などが使用できる。
【0062】
本発明で用いる水は特に限定されるものではなく、具体的には、例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水など公知の水を用いることができる。
【0063】
上記実施の形態の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮するものではない。又、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0064】
例えば上記実施形態の説明においては、バッチ式で殺菌した例を示したが、もちろん本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0065】
例えば、バッチ式で殺菌する以外に、容器導入用扉10が連続して殺菌装置5を密封することが必要とされるが、連続的あるいはバッチ式と組み合わせて半連続的に殺菌することもでき、そして手動で行うこともできるが、制御装置により制御して自動的に行うこともでき、あるいはこれらを組み合わせて行うこともできる。
【0066】
例えば、固形状食品原料20を収容した容器22を殺菌装置5に複数収容して殺菌する場合、容器22を複数バラバラに前記殺菌装置5内に収容することもできるが整然と並べてもよく、また整然と並べたものを2段以上間隔をあけて層状にして行うこともでき、また整然と並べたものを枠などに支持・固定して殺菌することもできる、あるいはこれらを組み合わせて行うこともできる。
【0067】
殺菌工程初期の殺菌装置5内の蒸気・空気・凝縮水の排出工程においては、蒸気で空気などを押し出す方法に限らず、真空ポンプを用いて空気などを除去する方法など、各種公知の方法を組み合わせて利用してもよい。
【0068】
調理装置6による調理の後に、必要に応じて冷却工程を設けたり、別の容器に移し替えたり、水や調味液を再び添加したり、様々な工程を組み合わせることができる。
【実施例】
【0069】
次に実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限りこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例において記載された%は、質量%を表す。
【0070】
(実施例1)
図1に示した無菌包装食品製造装置Aを用いて固形状食品原料(精白米)20を殺菌、炊飯して無菌包装食品(無菌米飯)を製造する例を示す。
工程(1)先ず、精白米を洗った後、常温の水に1時間浸漬して水を含浸させ、水切り後、その米(水分含量30%)を150g計量して、そのまま製品として使用できる上部が開放した耐熱性プラスチック製容器(容器開口部:18mmφ、容積:400mmリットル、平均肉厚0.3mm、材質:PP/EVOH/PP積層体)透明蒸着PETフィルム12μm/シール材45μm)22に充填した。
無菌包装食品製造装置Aのクリーン環境1に面していない殺菌装置5の面に備えられた容器導入用扉10から固形状食品原料20を充填した容器22を殺菌装置5内に収容した。
【0071】
工程(2)そして、図2(イ)に示したように容器22より下方の耐圧容器5の底部9側に設置された2つの蒸気放出ノズル3から蒸気を殺菌装置5の底部9に向けて噴射しつつ、排出出口4の開閉弁11を開けて排出出口4から装置5内の蒸気・空気・凝縮水を排出して、20秒後、殺菌装置5内を殺菌温度135℃まで昇温した。
【0072】
工程(3)そして、殺菌温度135℃まで昇温した後も、蒸気放出ノズル3から蒸気を殺菌装置5の底部9に向けて噴射しつつ、かつ排出出口4から殺菌装置5内の蒸気、空気、凝縮水を排出しつつ殺菌温度135℃を維持しながらで30秒間、殺菌した。
【0073】
工程(4)殺菌終了後、殺菌装置5内の圧力が前記殺菌装置5の外部環境の圧力より低くなる前に開閉弁11を閉めて排出出口4を閉じた。
【0074】
工程(5)クリーン環境1に面している殺菌装置5の面に備えられた容器取り出し用扉12から殺菌後の固形状食品原料20が充填されている容器22をクリーン環境1内に取りだした。
【0075】
工程(6)殺菌後、固形状食品原料20が充填されている容器22に、クリーン環境1内に設置された図示しない添加装置を用いて炊き水を90g添加し、この容器22を矢印の方向からクリーン環境1内に設置された公知の調理装置6に収容して99℃の飽和蒸気を用いて20分間、炊飯した。そして、常温まで冷却した。
【0076】
工程(7)炊飯・冷却した後、炊飯後の無菌包装食品が充填された容器22をクリーン環境1の出口7に配設された密封装置8で容器22の開口部21を蓋材として透明フィルム(蒸着PETフィルム/シール材)を用いてシールした。
そして、密封包装後は、所定数ダンボール箱に梱包して適温に維持された貯蔵庫内で貯蔵した。
【0077】
密封包装した試料の殺菌状態および殺菌装置5内の殺菌状態について、下記の方法で検査した。
検査結果を、殺菌時に(蒸気、空気、凝縮水)を排出出口4から排出したかどうかなどとともに、表1にまとめて示した。
【0078】
(殺菌状況の検査方法)について
(1)固形状食品原料および製造した食品の殺菌状態については、下記の2方法で確認した。
(1−1)密封包装し1年間常温で保管した試料1000個について、実際に微生物検査を実施して菌の有無(陽性数/1000個)を確認した。
(1−2)固形状食品原料20を充填した容器22の内側底部に温度センサを設置して、固形状食品原料20のF値を求めて確認した。
【0079】
(2)殺菌装置5内の殺菌状態については、下記の2方法で確認した。
(2-1)殺菌装置5の底部9および側壁部13に温度センサを設置して、底部9および側壁部13のF値を求めて確認した。
(2-2)殺菌処理後に、殺菌装置5の底部9に凝縮水が溜まっているかどうかを目視で確認した。
【0080】
本発明における無菌状態を維持するための、殺菌装置5内の固形状食品原料20および前記殺菌装置5の底部9・側壁部13は、芽胞菌(ボツリヌス菌等)が死滅する、殺菌値Fが4より大きいことが必要であり、殺菌する固形状食品原料20の形状や大きさにより、固形状食品原料20の中心部への熱伝達が変化することから、殺菌値Fが6以上であることが好ましく、さらに、殺菌装置5の底部9・側壁部13全体の熱伝達差の影響や、殺菌値Fの測定部における殺菌値Fが8以上であることがより好ましい。
【0081】
また、無菌状態の維持には、F値が4以上であればいいが、固形状食品原料20の品質面および生産効率面から、F値が25以下であることが好ましく、多くの固形状食品原料20の著しい変色が防止されるので、F値が20以下であれば、より好ましい。
なお、F値とは、250F°(121.1℃)における加熱時間での殺菌値を換算した値であり、殺菌値Fのことである。
さらに、無菌状態を維持するためには、殺菌時に殺菌不良が生じやすい凝縮水が、底部9に多く溜まらないことが望ましく、実質的に溜まらないことがより望ましい。
【0082】
【表1】

【0083】
表1から、実施例1は、固形状食品原料20も殺菌装置5の底部9・側壁部13もF値が高く、凝縮水の溜まりもなく、十分に殺菌され、殺菌装置5内は無菌状態が維持されていることが判る。
さらに、微生物検査結果からも、安全性の高い無菌包装食品であることが判る。
【0084】
(実施例2)
図1に示した無菌包装食品製造装置Aを用いて固形状食品原料(精白米)20を殺菌、炊飯して無菌包装食品(無菌米飯)を製造する例を示す。
図2(ロ)に示したように蒸気放出ノズル3の1つが容器22より下方の耐圧容器5の底9側に設置されて底9に向けて噴射し、他の蒸気放出ノズル3が容器22より上方の耐圧容器5の天井側に設置されて天井に向けて噴射している以外は、実施例1と同様にして殺菌、炊飯し、そして、常温まで冷却した。
【0085】
表1から、実施例2は、やや殺菌装置5の側壁部13に比べ底部9のF値が低いが、凝縮水の溜まりもなく、十分に殺菌され、殺菌装置5内は無菌状態が維持されていることが判る。
さらに、微生物検査結果からも、安全性の高い無菌包装食品であることが判る。
【0086】
(実施例3)
実施例1と同様に工程(5)まで行なった後、工程(6)で殺菌後、固形状食品原料20が充填されている容器22に、クリーン環境1内に設置された図示しない添加装置を用いて炊き水を90g添加し、この容器22を矢印の方向からクリーン環境1内に設置された公知の調理装置6に収容して135℃の加熱蒸気を用いて12分間、炊飯した。
工程(7)炊飯後、クリーン環境1内に設置された図示しない他の添加装置を用いて、炊飯後で湯気の出ている炊飯後のごはんの上に、殺菌済みのおかかを所定量添加した。そして、おかかを添加した炊飯後の無菌包装食品が充填された容器22をクリーン環境1の出口7に配設された密封装置8で容器22の開口部21を蓋材として透明フィルム(蒸着PETフィルム/シール材)を用いて冷却前にシールした。
製造面においては、F値が実施例1と同様に、固形状食品原料20も殺菌装置5も高いことから、無菌状態の維持が高く、製造された食品においても、信頼性および安全性の高い無菌包装食品が出来た。
【0087】
(実施例4)
図1に示した無菌包装食品製造装置Aを用いて固形状食品原料(精白米)20を殺菌、炊飯して無菌包装食品(リゾット風炊き込みごはん)を製造する例を示す。
無浸漬米を用い、それに野菜具材を適量添加したものを使用し、炊き水の代わりに調理水を用いた以外は実施例1と同様にして殺菌、炊飯し、常温まで冷却し、そして、シールした。
製造面においては、F値が実施例1と同様に、固形状食品原料20も殺菌装置5も高いことから、無菌状態の維持が高く、製造された食品においても、信頼性および安全性の高い無菌包装食品が出来た。
【0088】
(実施例5)
図1に示した無菌包装食品製造装置Aを用いて固形状食品原料[ボイル済みのパスタ(生めん)]20を殺菌して無菌包装食品(パスタ)を製造する例を示す。
ボイル済みのパスタ(生めん)を使用した以外は実施例1と同様にして殺菌した後、常温まで冷却し、シールした。
製造面においては、F値が実施例1と同様に、固形状食品原料20も殺菌装置5も高いことから、無菌状態の維持が高く、製造された食品においても、信頼性および安全性の高い無菌包装食品が出来た。
【0089】
(実施例6)
図1に示した無菌包装食品製造装置Aを用いて固形状食品原料(大豆)20を殺菌して無菌包装食品(大豆の水煮)を製造する例を示す。
浸漬した大豆を使用し、炊き水の代わりに調理水を用いた以外は実施例1と同様にして殺菌し、調理後冷却を行わず、シールした。
製造面においては、F値が実施例1と同様に、固形状食品原料20も殺菌装置5も高いことから、無菌状態の維持が高く、製造された食品においても、信頼性および安全性の高い無菌包装食品が出来た。
【0090】
(比較例1)
図1に示した無菌包装食品製造装置Aを用いて固形状食品原料(精白米)20を殺菌して無菌包装食品(無菌米飯)を製造する例を示す。
図2(ハ)に示したように蒸気放出ノズル3から蒸気を水平方向の殺菌装置5の側壁部13に向けて噴射した以外は、実施例1と同様にして殺菌し、炊き水を添加して炊飯し、常温まで冷却し、そして、シールした。
表1から、比較例1は、固形状食品原料20および殺菌装置5の側壁13のF値は高く、食品の微生物検査では菌は検出されなかったが、殺菌装置5の底部9のF値が低く、芽胞菌の死滅には不十分な可能性があり、安全・信頼性の高い無菌状態が維持されていないことが判る。
【0091】
(比較例2)
図1に示した無菌包装食品製造装置Aを用いて固形状食品原料(精白米)20を殺菌して無菌包装食品(無菌米飯)を製造する例を示す。
図2(ニ)に示したように蒸気放出ノズル3がいずれも耐圧容器5の天井側に設置されて天井に向けて噴射している以外は、実施例1と同様にして殺菌し、炊き水を添加して炊飯し、常温まで冷却し、そして、シールした。
表1から、比較例2は、固形状食品原料20および殺菌装置5の側壁13のF値は高く、食品の微生物検査では菌は検出されなかったが、殺菌装置5の底部9のF値が低く、殺菌装置5の底部9の無菌状態の維持において安全・信頼性の高い無菌状態が維持されていないことが判る。
【0092】
(比較例3)
殺菌装置5の天井部に図示しない空気排出出口が設置され、そして殺菌装置5の底部9には凝縮水排出のための図示しないスチームトラップが設置されている以外は図1に示した無菌包装食品製造装置Aと同じ製造装置Aを用いて固形状食品原料(精白米)20を殺菌して無菌包装食品(無菌米飯)を製造する例を示す。
蒸気放出ノズル3から蒸気を殺菌装置5の底部9に向けて噴射しつつ、排出出口4および図示しない前記空気排出出口から殺菌装置5内の蒸気・空気・凝縮水を排出しつつ、殺菌装置5内を殺菌温度まで昇温したが、殺菌時においては殺菌装置5内の蒸気、空気、凝縮水を排出出口4および前記空気排出出口から常に連続的に排出せず、前記図示しないスチームトラップにより間欠的に凝縮水を排出した以外は、実施例1と同様にして殺菌し、炊き水を添加して炊飯し、常温まで冷却し、そして、シールした。
表1の通り、比較例3は、固形状食品原料20および殺菌装置5の側壁13のF値は高いが、殺菌装置5の底部9のF値が1で、凝縮水の溜まりも多く、殺菌が不十分であることが判る。また、食品の微生物検査でも菌が1個検出され、殺菌装置5の底部9の無菌状態が維持されていないことが判り、安全性の高い包装食品の提供ができないことが判る。
【0093】
表2に、実施例1−6の無菌包装食品の製造工程を示す。
【0094】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、例えば、クリーン環境入口に配設した、蒸気放出ノズルおよび蒸気・空気・水の排出出口を備えた耐圧容器からなる殺菌装置に、固形状食品原料を充填した開口部を備えた容器を収容して、殺菌温度まで昇温した後も、前記蒸気放出ノズルから蒸気を前記殺菌装置の底部に向けて噴射しつつ、かつ前記排出出口から装置内の蒸気、空気、凝縮水を排出しつつ殺菌温度を維持しながら殺菌する工程で殺菌し、あるいはさらに必要に応じて殺菌後の固形状食品原料が充填された容器に炊き水および/または調味液を添加し、この容器を前記クリーン環境内に設置された調理装置に収容して炊飯・調理し、炊飯・調理した後、クリーン環境出口に配設された密封装置で前記容器の開口部をシールすることで、殺菌装置内の無菌状態およびクリーン環境内の無菌状態を維持しながら高い信頼性および安全性を有する無菌包装食品を製造することができるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値は甚だ大きい。
【符号の説明】
【0096】
A 本発明で用いる無菌包装食品製造装置
1 クリーン環境
2 入口
3 蒸気放出ノズル
4 排出出口
5 殺菌装置
6 調理装置
7 出口
8 密封装置
9 底部
10 容器導入用扉
11 開閉弁
12 容器取り出し用扉
13 側壁部
20 固形状食品原料
21 開口部
22 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーン環境に連接または、クリーン環境入口に配設した、蒸気放出ノズルおよび蒸気・空気・凝縮水の排出出口を備えた耐圧容器からなる殺菌装置に、固形状食品原料を充填した開口部を備えた容器を収容して、下記の工程(1)〜(5)を含む工程で殺菌し、殺菌後の固形状食品原料が充填された容器を前記クリーン環境に少なくとも連接または、クリーン環境出口に配設された密封装置で前記開口部をシールすることで、前記殺菌装置内の無菌状態および前記クリーン環境内の無菌状態を維持しつつ無菌包装食品を製造することを特徴とする無菌包装食品の製造法。
(1)前記開口部を備えた容器に固形状食品原料を充填し、前記クリーン環境に面していない前記殺菌装置の面に備えられた容器導入用扉から前記容器を殺菌装置内に収容する。
(2)前記蒸気放出ノズルから蒸気を少なくとも前記殺菌装置の底部に向けて噴射しつつ、かつ前記排出出口から装置内の蒸気・空気・凝縮水を排出しつつ、装置内を殺菌温度まで昇温する。
(3)殺菌温度まで昇温した後も、前記蒸気放出ノズルから蒸気を前記殺菌装置の底部に向けて噴射しつつ、かつ前記排出出口から装置内の蒸気、空気、凝縮水を排出しつつ殺菌温度を維持しながら殺菌する。
(4)前記クリーン環境に面している前記殺菌装置の面に備えられた容器取り出し用扉から殺菌後の食品が充填されている容器を前記クリーン環境内に取り出す。
(5)前記クリーン環境内に取り出した殺菌後の固形状食品原料が充填された容器を前記密封装置で前記開口部をシールする。
【請求項2】
殺菌終了後に前記殺菌装置内の圧力が殺菌装置の外部環境の圧力より低くなる前に前記排出出口を閉じ、その後に前記クリーン環境に面している前記殺菌装置の面に備えられた容器取り出し用扉から殺菌後の食品が充填されている容器を前記クリーン環境内に取り出すことを特徴とする請求項1記載の無菌包装食品の製造法。
【請求項3】
前記蒸気放出ノズルが前記耐圧容器内の前記固形状食品原料が充填された前記容器より前記耐圧容器の底側に備えられ、前記蒸気を前記蒸気放出ノズルから前記殺菌装置の底部に直接蒸気を吹き付けて、前記殺菌装置内の殺菌と前記固形状食品原料の殺菌を行うことを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の無菌包装食品の製造法。
【請求項4】
加圧殺菌後、前記クリーン環境内で殺菌後の固形状食品原料が充填された容器に炊き水および/または調味液を添加し、この容器を前記クリーン環境内に設置された調理装置に収容して蒸気を用いて炊飯・調理し、炊飯・調理した後、無菌包装食品が充填された容器を前記密封装置で前記開口部をシールすることで、前記殺菌装置内の無菌状態および前記クリーン環境内の無菌状態を維持しつつ無菌包装食品を製造することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の無菌包装食品の製造法。
【請求項5】
前記固形状食品原料が、米、麦、雑穀、豆類の単体もしくは2種以上の混合物を含む粒形状食品原料であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の無菌包装食品の製造法。
【請求項6】
前記殺菌温度が125℃〜155℃の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の無菌包装食品の製造法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の無菌包装食品の製造法により製造されたことを特徴とする無菌包装食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−105600(P2012−105600A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257886(P2010−257886)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000116297)ヱスビー食品株式会社 (40)
【Fターム(参考)】