説明

無血清条件下で初代細胞を培養する方法及びウイルスを増幅させる方法

【課題】
無血清培地における初代細胞(特に初代鳥類細胞)の培養を可能にする方法であって、(I)対数期における細胞の成長及び(II)定常期における細胞の維持を可能にする方法を提供すること。
【解決手段】
本発明は初代細胞の培養方法に関する。初代細胞は成長因子及び付着因子からなる群より選択される因子を含む無血清培地で培養される。この初代細胞培養方法はポックスウイルスなどのウイルスを増幅させる方法の1工程にすることができる。このウイルス増幅方法では、成長因子及び付着因子からなる群より選択される因子を含む無血清培地中で初代細胞を培養する。次に、それらの細胞をウイルスに感染させ、子孫ウイルスが産生されるまでその感染細胞を無血清培地で培養する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は初代細胞の培養方法に関する。初代細胞は、成長因子及び付着因子からなる群より選択される因子を含む無血清培地で培養される。この初代細胞培養方法は、ポックスウイルスなどのウイルスを増幅させる方法の1工程にすることができる。このウイルス増幅方法では、成長因子及び付着因子からなる群より選択される因子を含む無血清培地中で初代細胞を培養する。次に、それらの細胞をウイルスに感染させ、その感染細胞を子孫ウイルスが産生されるまで無血清培地で培養する。
【背景技術】
【0002】
弱毒化ウイルス又は組換えウイルスなどのウイルスワクチンは、そのほとんどが、細胞培養系から製造される。ウイルス/ワクチン生産に使用される細胞として、細胞株(すなわちバイオリアクター中の単一細胞浮遊培養として、又は組織培養フラスコもしくはローラーボトルの細胞支持面に形成された単層として、生体外で継続的に成長する細胞)を挙げることができる。ウイルスの生産に使用される細胞株の例には、ポリオウイルスの製造に使用されるヒト胎児肺細胞株MRC−5や、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス及び風疹ウイルス(MMR II)(Merk Sharp & Dohme)の製造に使用されるヒト胎児肺細胞株WI−38などがある。
【0003】
ワクチンの製造には細胞株だけでなく初代動物細胞も使用される。ウイルス生産に使用される初代細胞の例はニワトリ胚線維芽細胞(CEF細胞)である。これらの細胞は、麻疹ウイルス及び日本脳炎ウイルス(Pasteur Merieux)、ムンプスウイルス(Provaccine製)、狂犬病ウイルス(Chiron Berhing GmbH & Co.製)、黄熱ウイルス(Aprilvax製)、インフルエンザウイルス(Wyeth Labs及びSmithKline & Beecham製)ならびに変異ワクシニアウイルスアンカラ(modified Vaccinia virus Ankara:MVA)の生産に使用される。
【0004】
多くの場合、CEF細胞が使用される。なぜなら、多くのウイルスワクチンは、有毒な病原性ウイルスをCEF細胞での連続継代により弱毒化することによって作製されるからである。弱毒化ウイルスはもはや疾患を引き起こさないが、有毒型ウイルスに対する強力な防御免疫を刺激する能力はまだ持っている。このタイプのウイルスの一例はMVAである。このウイルスは、ヒト及びほとんどの動物で、その複製が著しく制限される。MVAは種々のヒト病原体に由来する抗原を発現させるために使用することができるので、MVAはワクチンベクターとして発展している。MVAなどの弱毒化ウイルスは、ヒト細胞では増殖させないことが好ましい。なぜなら、ヒト由来の細胞中でそれらのウイルスが再び複製能力を持つようになるかもしれないという懸念があるからである。しかし、ヒト細胞内で複製する能力を回復したウイルスがヒトに投与されると、それは健康リスクになる可能性があり、その個体が免疫不全状態である場合は特にその可能性が高い。そのため、MVAなど、一部の弱毒化ウイルスは、ヒトでの使用が想定されている場合には、厳密にCEF細胞から製造されている。
【0005】
また、CEF細胞は、CEF細胞でしか増殖しないウイルスにも使用される。そのようなウイルスの例は、特に鳥類ウイルス、例えばアビポックスウイルス、特にカナリア痘ウイルス、ALVAC、鶏痘ウイルス及びNYVACである。
【0006】
生体外培養条件下で成長する細胞株及び初代細胞は、(I)対数期における細胞複製と、(II)細胞がもはや分裂しなくなった後の(すなわち細胞が定常期にある時の)細胞維持とを支えることができる特殊な成長及び維持培地を必要とする。よく用いられる細胞培養培地は、ビタミン類、アミノ酸類、必須微量元素及び糖類を含有する富栄養塩類溶液を含んでいる。細胞の成長と維持を支えるのに必要な成長ホルモン、酵素及び生物活性タンパク質が、通常、培地への補助添加物として、動物血由来血清製品の形で添加される。動物血由来血清製品の例は、ウシ胎仔血清、ニワトリ血清、ウマ血清及びブタ血清である。これらの血清は、赤血球と白血球とが既に除去されている血液画分から得られる。CEF細胞などの初代細胞は動物血清源への依存性が細胞株よりも高い。したがって、初代細胞は通常、5〜10%の血清(ほとんどの場合、ウシ胎仔血清(FCS))を含んでいる細胞培養培地で培養される。
【0007】
動物血清は、細胞の成長に必要な因子だけでなく、もともと付着細胞として成長する細胞が培養器の細胞支持面に付着するために必要とする因子も含んでいる。したがって、付着細胞にとっては、それらが成長して単層を形成することができるように、十分な血清を培地に加えることが不可欠である。
【0008】
残念ながら、ウシ/ウシ胎仔血清も、他の動物に由来する血清も、ウイルスなどの病原体を偶発的に含んでいる可能性がある。これらの病原体は、ワクチン又は細胞培養中で産生される他の任意の医薬製品を使った処置又は予防接種を受ける動物/ヒトに伝達されてしまう危険が、潜在的に存在する。このことは、細胞培養製品が免疫不全状態のヒトに投与される場合には、特に重大である。よく使用されるウシ血清補助添加物に付随する多くの潜在的大問題の一つは、細胞培養から製造された製品と接触する動物/ヒトにウシ海綿状脳症(BSE)を引き起こす物質を伝達する可能性である。
【0009】
細胞培養における動物血清の使用に伴いうる危険を考慮して、動物製品を使用しない製造工程が、極めて望ましいことが明らかになっている。
【0010】
この目標に向けて、動物血清を補充する必要のない特殊な培地が、細胞株を継続的に成長させるため、かつ継続的に成長する細胞株でウイルスを生産するために、それぞれ開発されている。細胞株を培養するために使用することができる、そのような無血清培地の例はGibco BRL/Life Technologies製のVP−SFMである。製造者の情報によると、VP−SFMは特に、VERO、COS−7、MDBK、Hep2、BHK−21及び他の重要な細胞株の成長(Price,P.及びEvege,E.,Focus 1997,19:67−69)と、前記細胞株でのウイルス生産用に設計されている。この培地での初代細胞の培養に関して入手できる情報はない。
【0011】
米国特許第5,503,582には、4%ウシ血清を含む培地でCEF細胞を培養した後、それらの細胞を無血清培地中での鶏痘ウイルスに感染させることが開示されている。Spataro,A.C.ら、J.Cell.Sci.1976;21,407−413には、単層が形成されていれば、CEF細胞を無血清培地中で24時間維持できることが開示されている。したがって、これらの両刊行物によれば、播種後の細胞培養に使用される培地は血清を含んでいる。既に表面に付着していて定常期に達している細胞の維持にしか、無血清培地は使用されなかった。血清を含まない従来の培地、例えば199培地やRPMI−1640などを使って播種を行うと、単層は形成されず、細胞は培地中に生育不能な凝集体を形成する。
【0012】
特許文献1は、動物細胞を生体外培養するための特殊な無血清培地に言及している。特許文献1に開示されている培地で培養することができる細胞は、哺乳動物、鳥類、昆虫又は魚類から得られる細胞を含む動物由来の細胞である。哺乳類細胞はヒト由来の初代細胞であってもよい。初代鳥類細胞への言及はない。
【0013】
特許文献2には、細胞を増殖及び発生させるための無血清培地が開示されている。これらの細胞は、好ましくは、造血細胞及び骨髄間質細胞である。初代鳥類細胞には言及されていない。
【0014】
特許文献3には、細胞株BHK、Vero又はMRC−5などの足場依存性哺乳類細胞を成長させるための無血清培地が開示されている。特許文献3は初代細胞にも鳥類細胞にも言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第98/15614号明細書
【特許文献2】米国特許第5,405,772号明細書
【特許文献3】国際公開第98/04680号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
無血清培地における初代細胞(特に初代鳥類細胞)の培養を可能にする方法であって、(I)対数期における細胞の成長及び(II)定常期における細胞の維持を可能にする方法を提供することが本発明の目的である。さらに、細胞が付着細胞である場合、培地は、好ましくは、(III)細胞培養器の表面への付着細胞の付着を可能にすることができる。無血清条件下で初代細胞を使用することによってウイルスを生産する方法を提供することが、本発明のもう1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、初代細胞を培養する方法であって、成長因子及び付着因子からなる群より選択される因子を含む無血清培地中で細胞を培養することを特徴とする方法を提供する。
【0018】
本発明によれば、もともと付着細胞として成長する初代細胞は、播種後に細胞培養器の表面に付着し、対数期では単層が形成されるまで成長する。本発明によれば、細胞の付着及び対数成長時に使用される培地中で静止細胞を維持することができる。
【0019】
本発明の方法は単層を形成する細胞に限定されない。もう一つの態様によれば、本発明の方法は、例えばもともと浮遊培養で成長する細胞(例:リンパ球又は他のタイプの血液細胞)や、もともとは付着細胞として成長するが浮遊培養で成長するように適応させた細胞など、他のあらゆるタイプの初代細胞に使用することができる。
【0020】
後述するように、これらの細胞は、ワクチンとして役立ちうるウイルスの無血清増幅に使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
もともと付着細胞として成長する初代細胞が、血清が存在しなくても、(I)許容できない量の凝集体を形成せずに細胞培養器の表面に効果的に付着することができ、(II)対数期に成長させることができるということは予想外だった。というのも、初代細胞は血清に含まれる多種多様な因子及び成分に依存すると一般に考えられていたからである。さらに、無血清培地で培養した場合、付着細胞は、細胞培養器の表面に付着しない生育不能な凝集体を形成するとも考えられていた。したがって、付着初代細胞を付着させ成長させるのに、成長因子及び付着因子からなる群より選択される因子を無血清培地に加えれば足りるということは予想外だった。また、浮遊培養で培養される初代細胞を、本発明の方法で用いられる培地を使って成長させることができるということも予想外だった。さらに、成長因子及び付着因子からなる群より選択される因子を含んでいる無血清培地中で、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)などの初代鳥類細胞を培養して、許容できない量の凝集体を形成させずに、細胞培養器の表面に付着させることができるということも驚きだった。というのも、成長因子又は付着因子を含まない無血清培地における鳥類細胞の成長は、非常に悪いことが知られていたからである。すなわち、成長因子及び付着因子から選択される因子を無血清培地に加えることによって、初代鳥類細胞の低い成長性を著しく改善できるということは予想外だった。
【0022】
本明細書で使用する「初代細胞」という用語は当業者にはよく知られている。以下の定義に限定されるわけではないが、「初代細胞」という用語は、動物又はヒトの組織、器官又は生物から新たに単離された細胞を指し、これらの細胞は、継続的かつ無限に複製及び分裂することはできない。通常、初代細胞が細胞培養で分裂する回数は100回未満であり、50回未満、25回未満であることが多い。したがって初代細胞は不死化を起こしていない。初代細胞の例は、臍帯血リンパ球及びヒト又は動物線維芽細胞である。動物線維芽細胞の好適例は鳥類線維芽細胞、最も好ましくはニワトリ胚線維芽細胞(CEF細胞)である。初代ヒト線維芽細胞の好適例は、ヒト包皮線維芽細胞である。
【0023】
初代細胞を単離できる方法は当業者にはよく知られている。一般に、初代細胞培養物は組織、器官又は胚から直接得られる。組織、器官又は胚にプロテアーゼ処置を施して単細胞を得る。次に、本発明の方法に従って、生体外培養条件下で細胞を培養する。
【0024】
より具体的に述べると、プロテアーゼ消化したニワトリ胚からCEF細胞を得る。本発明によれば、CEF細胞は、固体細胞支持面に付着した付着細胞として最もよく成長する。細胞は複製を開始し、単層を形成する。動物血清を含まない標準的な培養培地を使って(胚消化後の)CEF細胞を生体外で培養すると、細胞は、時には固体細胞支持面に付着することもあるだろうが、複製してコンフルエントな細胞単層を形成することはなく、時間と共に固体培養支持面からゆっくりとはがれるだろう。これに対して、本発明の方法に従ってCEF細胞を培養すると、細胞は固体支持体に付着し、対数期では単層が形成されるまで成長し、数日間は定常期に留まることができる。
【0025】
付着初代細胞に関して、無血清培地における「細胞の培養」という用語は、培養器に無血清培地中の細胞を播種すること、対数期において、単層が形成されるまで細胞をその無血清培地中で成長させること、及び(又は)単層が形成されるとすぐに無血清培地中で細胞を維持することを指す。より好ましくは、無血清培地における「細胞の培養」という用語は、細胞の培養過程全体を通して動物血清製品が存在することのないように、上述した工程の全てが無血清培地で行われる方法を指す。したがって、より一般的な意味として、「無血清培地における細胞の培養」という用語は、単層の形成につながる全ての培地が無血清培地であるという事実を指す。成長因子及び付着因子から選択される因子は、上記の全工程で使用される培地に含めることができる。しかし、そのような因子は、細胞の付着及び(又は)対数成長条件下での細胞の成長に用いられる培地だけに加えれば十分であるかもしれない。
【0026】
浮遊培養で成長する細胞に関して、無血清培地における「細胞の培養」という用語は、培養器に無血清培地中の細胞を播種すること、対数期において無血清培地中で細胞を成長させること、及び(又は)さらなる複製が起こらない飽和密度に到達したらすぐに無血清培地中で細胞を維持することを指す。より好ましくは、無血清培地における「細胞の培養」という用語は、細胞の培養全体を通して動物血清製品が存在することのないように、上述した工程の全てが無血清培地中で行われる方法を指す。成長因子群から選択される因子は、好ましくは上記の全工程で使用される培地に含めることができる。しかし、そのような因子は、細胞の播種及び(又は)対数成長条件下での細胞の成長に用いられる培地だけに加えれば十分であるかもしれない。また、以下に詳述するように、適当なインキュベーション条件を選択すれば(例えば「波(wave)」インキュベーションの適用により)、通常は付着細胞として成長する細胞を、浮遊培養細胞として培養することも可能であるかもしれない。本発明の方法はこのタイプの培養にも適合する。
【0027】
「無血清」培地という用語は、動物又はヒト由来の血清を含有しない任意の細胞培養培地を指す。好適な細胞培養培地は当業者には知られている。これらの培地は、塩類、ビタミン類、緩衝剤、エネルギー源、アミノ酸及び他の物質を含む。CEF細胞の無血清培養に適した培地の一例は199培地である(Morgan,Morton及びParker;Proc.Soc.Exp.Bioi.Med.1950,73,1;Life Technologiesなどから入手することができる)。
【0028】
本発明の方法で使用される培地、特にCEF細胞などの付着細胞に使用される培地は、成長因子及び付着因子からなる群より選択される因子を含有する。付着因子の一例はフィブロネクチンである。
【0029】
もともとは付着細胞として成長する細胞であるにもかかわらず浮遊培養で培養される細胞の場合(これは例えばCEF細胞などで可能である)、成長因子群から選択される因子を使用することは特に好ましい。このタイプの培養に有用な成長因子の例は、組換えウシ、マウス、ニワトリ又はヒト上皮成長因子(EGF)である。最も好ましいのは、組換えヒトEGF(rh−EGF)である(Chemicon Int.、カタログ番号GF001)。
【0030】
もともと浮遊培養で成長する細胞の場合、培地は、好ましくは、EGFを含む成長因子群から選択される因子を含むことができる。このタイプの細胞にとって成長因子は非付着細胞に特異的な因子であることが最も好ましい。そのような成長因子の例は、インターロイキン類、GM−CSF、G−CSFなどである。どのタイプの因子がどのタイプの細胞に適しているかは、当業者であれば日常的な実験で容易に判定することができる。
【0031】
無血清培地に添加する因子がEGF、特にrh−EGFである場合は、これを1〜50ng/ml、より好ましくは5〜20ng/mlの濃度で培地に加えることが好ましい。ただし、細胞タイプが異なると、最適な結果を得るために要求される血清中のEGF濃度も多少異なりうることは、当業者にはわかるだろう。
【0032】
無血清培地に添加される付着因子がフィブロネクチン(例えばChemicon Int.;ヒト血漿フィブロネクチン;カタログ番号FC010)である場合は、これを1〜50、より好ましくは1〜10μg/cm細胞培養器表面の濃度で培地に加えることが好ましい。ただし、細胞タイプが異なると、最適な結果を得るために要求される血清中のフィブロネクチン濃度も多少異なりうることは、当業者にはわかるだろう。
【0033】
本発明によれば、特に細胞が付着細胞である場合は、成長因子及び付着因子から選択される因子を1つだけ培地に添加すれば十分である。しかし、成長因子及び付着因子から選択される2種以上の因子を培地に加えることもできる。特に初代細胞がCEF細胞などの付着細胞である場合、培地は、好ましくはEGFとフィブロネクチンとを、好ましくは上記載の濃度範囲で含むことができる。
【0034】
培地は微生物抽出物、植物抽出物、及び非哺乳類動物からの抽出物から選択される1種以上の添加物をさらに含むこともできる。微生物抽出物は、好ましくは酵母抽出物又はイーストレート限外濾過液である。植物抽出物は、好ましくはイネ抽出物又はダイズ抽出物である。非哺乳類動物からの抽出物は、好ましくは魚抽出物である。
【0035】
本発明の好ましい一態様として、成長因子又は付着因子から選択される因子を添加しておいた市販の無血清培地にアスパラギンを加えることができる。より好ましくは、ウイルス感染の際に使用する培地にアスパラギンを加える(下記参照)。市販の無血清培地は、通常、濃度範囲0.3〜1.0mMのアスパラギンを含んでいる。培地に補充するアスパラギンの好適量は0.5〜1.5mMの範囲にある。最も好ましいのは1mMのアスパラギン補充である。培地中のアスパラギンの総濃度は、好ましくは2mM未満、より好ましくは0.8〜1.8mMである。培地中の最も好ましいアスパラギン濃度は1.3mMである。
【0036】
さらにまた、好ましくは、グルタミンを培地に加えることができる。より好ましくは、ウイルス感染の際に使用する培地にグルタミンを加える(下記参照)。培地に補充するグルタミンの好適量は1〜5mMの範囲、より好ましくは2〜4mMの範囲にある。市販の培地はそのほとんどがグルタミンを含有していないので、これら範囲は培地中の好ましい総濃度とも一致する。
【0037】
さらにもう1つの態様によれば、本発明は、以下の工程を含むウイルス増幅方法に関する。すなわち、第1工程では、上述の方法に従って初代細胞を培養する。すなわち、細胞タイプに応じて成長因子及び付着因子からなる群より選択される因子を含む無血清培地で初代細胞を培養する。上記初代細胞培養方法の説明で示した条件、定義、好ましい態様、及び好ましい−最も好ましい態様の順序は全て、本発明のこの態様によるウイルス増幅方法の第1工程の定義にも当てはまる。第2工程では、初代細胞をウイルスに感染させる。第3工程では、無血清培地中で子孫ウイルスが産生されるまで感染細胞をインキュベートする。
【0038】
「ウイルスの増幅」という用語は、感染細胞におけるウイルスの増殖的ウイルス複製によってウイルス量を増加させるという目的に、本発明の方法が好ましく使用されることを明確にするために用いられている。言い換えると、投入ウイルス量に対する産生ウイルス量の比は、好ましくは1を超えるべきである。したがって、本発明では、個々のウイルスについて、そのウイルスが増殖的に複製することのできる初代細胞を選択する。「増殖的複製」という用語は、あるウイルスが、ある初代細胞において、感染性子孫ウイルスが産生され、投入ウイルスに対する産生ウイルスの比が1を超える程度に複製されるという事実を指す。
【0039】
どのウイルスをどのタイプの初代細胞で増殖的に複製させることができるかは、当業者には知られている。例えば、増幅すべきウイルスがヒトサイトメガロウイルスである場合、初代細胞をヒト包皮線維芽細胞にすることができ、増幅すべきウイルスが麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、インフルエンザウイルス、又はポックスウイルス、例えばワクシニアウイルス、特に変異ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)である場合には、初代細胞をCEF細胞にすることができる。
【0040】
この態様の第2工程で初代細胞を感染させる方法は、当業者には知られている。例えば、単にウイルスを培地に加えるだけでもよい。あるいは、培地を除去し、ウイルスを新鮮培地に加え、それを細胞に加えてもよい。効率よく感染させるには、ウイルス濃度が高くなるように、ウイルス/培地懸濁液の量をできる限り少なくするべきである。ウイルスの付着後に追加の培地を加えることもできる。
【0041】
第3工程では、子孫ウイルスが産生するまで細胞を無血清培地に接種する。
【0042】
このウイルス増幅方法の第2工程及び第3工程で使用する無血清培地は、先に使用したものと同じ培地、すなわち、細胞タイプに応じて成長因子及び付着因子から選択される因子を含む無血清培地でありうる。しかし費用を節約するために、第2工程と第3工程の一方又は両方で、成長因子及び付着因子から選択される因子を含有しない無血清培地を使用することもできる。
【0043】
上に概説したように、全ての段階で、培地にはアスパラギン及び(又は)グルタミンを補充することができ、その場合、培地中のアスパラギンの総濃度は、好ましくは上に定義したとおりである。
【0044】
子孫ウイルスは、当業者に知られている方法で濃縮し、精製することができる。
【0045】
好ましい一態様では、本ウイルス増幅方法をポックスウイルスの増幅に使用する。したがって、この好ましい態様によれば、本発明は、ポックスウイルスを増幅させる方法であって、次の工程:(I)上述の方法(すなわち、細胞タイプに応じて、成長因子及び付着因子からなる群より選択される因子を含む無血清培地で初代細胞を培養する方法)に従って初代細胞を培養する工程、(II)その初代細胞をポックスウイルスに感染させる工程、及び(III)子孫ウイルスが産生されるまで感染細胞を無血清培地で培養する工程を含む方法に関する。
【0046】
無血清条件下で培養される細胞でポックスウイルスを増幅させることができるということは予想外だった。というのも、既知の無血清培地では細胞の成長が非常に悪いからである。したがって、既にストレスを受けている細胞は、ポックスウイルスの有意な増幅が起こる前に、ポックスウイルス感染に伴う余分なストレスによって死んでしまうと予想された。
【0047】
ポックスウイルスは、好ましくはオルトポックスウイルスである。オルトポックスウイルスの例はアビポックスウイルス及びワクシニアウイルスである。
【0048】
「アビポックスウイルス」という用語は、例えば鶏痘ウイルス、カナリア痘ウイルス、ジュンコ痘ウイルス(Uncopoxvirus)、マイナ痘ウイルス、鳩痘ウイルス、オウム痘ウイルス、ウズラ痘ウイルス、クジャク痘ウイルス、ペンギン痘ウイルス、スズメ痘ウイルス、ムクドリ痘ウイルス及び七面鳥痘ウイルスなど、任意のアビポックスウイルスを指す。好ましいアビポックスウイルスはカナリア痘ウイルス及び鶏痘ウイルスである。
【0049】
カナリア痘ウイルスの一例はレンチュラー(Rentschler)株である。ALVACと呼ばれるプラーク精製されたカナリア痘ウイルス(米国特許第5,766,598号)は、ブダペスト条約の規定に基づいて、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection:ATCC)に受託番号VR−2547として寄託された。もう1つのカナリア痘ウイルス株は、LF2 CEP 524 24 10 75と呼ばれる市販のカナリア痘ワクチン株であり、Institute Merieux,Inc.から入手することができる。
【0050】
鶏痘ウイルスの例はFP−1、FP−5及びTROVAC(米国特許第5,766,598号)株である。FP−1は、一日齢のニワトリにワクチンとして使用するために改変されたデュベット(Duvette)株である。この株は、0 DCEP 25/CEP67/2309 October 1980と呼ばれる市販の鶏痘ウイルスワクチン株であり、Institute Merieux,Inc.から入手することができる。FP−5は、ニワトリ胚由来の市販の鶏痘ウイルスワクチン株であり、American Scientific Laboratories(Division of Schering Corp.),Madison,Wisconsin,United States Veterinary License No.165,serial No.30321から入手することができる。
【0051】
ワクシニアウイルスの例は、天壇(Temple of Heaven)株、コペンハーゲン株、パリ株、ブダペスト株、大連(Dairen)株、ガム(Gam)株、MRIVP株、パー(Per)株、タシケント株、TBK株、トム(Tom)株、ベルン株、パトワダンガル(Patwadangar)株、BIEM株、B−15株、リスター(Lister)株、EM−63株、ニューヨーク市公衆衛生局(New York City Board of Health)株、エルストリー株、池田(Ikeda)株及びWR株である。本発明は、好ましくは変異ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)を使って行われる(Sutter,G.ら[1994]Vaccine 12:1032−40)。典型的なMVA株は、ヨーロピアン・コレクション・オブ・アニマル・セル・カルチャーズ(European Collection of Animal Cell Cultures)に受託番号ECACC V00120707として寄託されているMVA 575である。最も好ましいのは、2001年11月22日に欧州特許庁に出願されたPCT出願PCT/EP01/13628(発明の名称「Modified Vaccinia Ankara Virus Variant(変性ワクシニアアンカラウイルス変異体)」)に記載されているMVA−BN又はその誘導体である。MVA−BNは、ヨーロピアン・コレクション・オブ・アニマル・セル・カルチャーズに、受託番号ECACC V00083008として寄託されている。MVA−BNの特徴、MVAがMVA−BN又はその誘導体であるかどうかの評価を可能にする生物学的アッセイの説明、及びMVA−BN又はその誘導体の取得を可能にする方法は、上に挙げたPCT出願に開示されており、その出願内容は参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0052】
本発明の方法に従って増幅されるウイルスは野生型ウイルス、弱毒化ウイルス又は組換えウイルスでありうる。
【0053】
「組換えウイルス」という用語は、ウイルスゲノム中に本来はそのウイルスゲノムの一部でない異種遺伝子が挿入されている任意のウイルスを指す。異種遺伝子は、治療遺伝子、免疫応答を誘導するためのエピトープを少なくとも1つは含んでいるペプチドをコードする遺伝子、アンチセンス発現カセット又はリボザイム遺伝子でありうる。組換えウイルスを構築する方法は当業者には知られている。最も好ましいポックスウイルスベクターはMVA、特にMVA 575及びMVA−BNである(上記参照)。
【0054】
「弱毒化ウイルス」は、病原性ウイルスから派生したウイルスであるが、宿主生物が感染した時の死亡率及び(又は)罹病率が、非弱毒化親ウイルスよりも低いウイルスである。弱毒化ポックスウイルスの例は当業者には知られている。弱毒化ワクシニアウイルスの一例はMVA株、特にECACCに受託番号V00083008として寄託されている株である(上記参照)。
【0055】
上述のように、ポックスウイルスの場合、初代細胞は、好ましくはCEF細胞又は初代アヒル胚線維芽細胞などの初代鳥類細胞とすることができる。ここでも、どの初代細胞がどのポックスウイルスの増幅に適しているかは当業者には知られている。CEF細胞はMVAの増幅には特に好ましい。CEF細胞でMVAを増幅する場合、EGF及びフィブロネクチンから選択される因子を1つ又は2つ選択することが、好ましい態様である。
【0056】
本発明の方法をCEF細胞におけるMVAの増幅に用いる場合、培地の出発pHは約7.0〜約8.5の範囲にあることが好ましい。7.0の出発pHは特に好ましい。
【0057】
さらに本発明は、上述の方法によって得られるウイルス、特にポックスウイルスに関する。好ましい一態様では、ポックスウイルスがワクシニアウイルスであり、最も好ましくはMVA−BNなどのMVA株である。
【0058】
さらに本発明は、本発明の方法によって産生されるウイルス、特にポックスウイルスを含んでいる組成物に関する。上述のように、ポックスウイルスは、好ましくはワクシニアウイルスであり、最も好ましくはMVA−BNなどのMVA株である。上記のウイルス増幅方法が用いられるので、本組成物は、動物血清中に含まれる産生物及び(又は)感染因子を含有しない。これに対して、従来の方法で生産されたウイルスを含んでいる組成物は、動物血清に由来する残留化合物を含んでいる。ワクシニアウイルス株などのポックスウイルス、特にMVA−BNなどのMVA株を含んでいる組成物の場合は、特にそうであるといえる。
【0059】
さらに本発明は、医薬又はワクチンとしてのウイルス、特に上に定義したウイルスに関する。ウイルスが野生型ウイルス又は弱毒化ウイルスである場合は、そのウイルスそのものに対する予防接種のために、そのウイルスを使用することができる。この目的には、弱毒化ウイルスが特に好ましい。ウイルスがそのウイルスゲノムに対して異種である遺伝子から発現されるタンパク質を発現させる組換えウイルスである場合は、そのウイルスそのもの、及び(又は)発現した当該異種タンパク質に対する予防接種を行うことができる。組換えウイルスがアンチセンスRNAやリボザイムなどの治療遺伝子を発現させる場合は、そのウイルスを医薬として使用することができる。
【0060】
さらに本発明は、ワクチンを製造するための、上に定義したウイルス又は上に定義した組成物の使用に関する。
【0061】
さらに本発明は、処置又は予防接種を必要とするヒトを含む動物にその処置又は予防接種を施す方法であって、上に定義したウイルス又は上に定義した組成物を、その動物又はヒトの身体に投与することを含む方法に関する。
【0062】
別段の表示がない限り、以下の実施例では、無血清培地は199培地(Life Technologies)である。添加するEGFは通常、Chemiconから入手した組換えヒトEGFである。フィブロネクチン(FN)はChemiconから入手した。
【実施例】
【0063】
<実施例1>
ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)の調製
特定病原体除去(SPF)受精卵の貯蔵期間は4℃で12日を超えないようにした。卵を孵卵器に入れ、37.8℃±8℃で10〜12日間インキュベートした。10〜20mlのPBSを使って、最大11個の卵につき1枚のペトリ皿を用意した。卵を専用の鶏卵箱に入れ、卵殻の外側を滅菌するために、バシロール(Bacillol)で十分に処理した。乾燥後、卵に孔を開けて、殻を注意深く取り除いた。漿尿膜を取りのけた。脚を持って胚を持ち上げてから、頭部を切り離した。次に、用意しておいたペトリ皿に胚を移した。脚を除去した後、胴体をPBSで再び洗浄した。最大11個の胴体を20mlのプラスチック製注射器に入れ、三角フラスコ中に絞り出した。胴体1つあたり5mlの予熱(37℃)したトリプシン/EDTA溶液を加え、磁気撹拌子を使ってその溶液を無血清培地と共に室温で15分間撹拌した。トリプシン処理した細胞を1層の網を通してビーカーに注いだ。全ての細胞を1本の225ml遠心管に移し、卓上遠心機を使って20℃、470×gで7分間遠心分離した。上清を捨てた後、10ng/mlのEGFを含む予熱(37℃)した新鮮無血清成長培地(胴体1つあたり1ml)に、上下に十分なピペット操作を行うことによりペレットを再懸濁した。10ng/ml EGFを含む予熱(37℃)した新鮮無血清成長培地を加えて、総体積を150mlにした。遠心分離工程を繰り返した。上清を取り除き、ペレットを上述のように再懸濁した。10ng/ml EGFを含む予熱(37℃)した新鮮無血清成長培地を加えて総体積を100mlにした。以下の項で説明するように細胞数を数えた。10ng/ml EGFを含む無血清培地を使って、必要量の細胞をローラーボトルに播種し、37℃でインキュベートした。播種後4日目に細胞はウイルス感染を行える状態になった。
【0064】
<実施例2>
細胞密度の算出
細胞懸濁液(CEF調製の項を参照)の試料を採取して、1体積のトリパンブルーと混合しすることにより、Fuchs−RosenthalからHemocytometer Fast Read 102という名称で供給されている血球計算板の16個の小区画あたりの最終細胞数を20〜100細胞にした(1:2〜1:10希釈)。細胞の再凝集/沈降を防ぐために、細胞を再懸濁した直後に試料を採取した。色素が死細胞中に間違いなく入るように、トリパンブルーと共に数分間インキュベートした後、10μlの細胞懸濁液を血球計算板に加えた。10倍対物レンズを使って光学顕微鏡下で白い生細胞だけを数えた。全体として3×16個の小区画からなる3つの代表的大区画を計数した。各大区画からはL字状に2つの縁部だけを計数に含めた。計数した細胞の平均値を求め、次の式を使って最終細胞濃度を計算した:平均細胞数×希釈率×10=細胞数/ml。最後に、細胞懸濁液を所望の作業濃度まで希釈した。
【0065】
<実施例3>
成長因子及びフィブロネクチンから選択される因子を無血清培地に添加することがCEF単層の形成に及ぼす効果
予備実験として、本発明者らは、FCSを含まない199培地を使用した場合、CEF細胞は細胞培養器の表面に付着しないことを明らかにした。また、単層も形成されない。7%FCSを含有する199培地を使用すると、正常な単層形成が観察される。添加物を培地に加えた場合に、無血清199培地におけるCEF細胞の付着及び成長を達成することができるかどうかを解析した。試験した添加物には、組換え上皮成長因子(r−hEGF)及びフィブロネクチン(FN)が含まれる。
【0066】
これらの実験では、種々の添加物を単独で又は組み合わせて含有する199培地でCEF細胞を成長させた。添加物を何も含まない199培地で成長させた細胞を陰性対照とした。7%FCSを含む199培地で培養した細胞を陽性対照とした。実験は全て、3mlの培地を含む6穴細胞培養プレートで行った。添加物は供給者のデータシートに従って処理してから細胞培養に使用した。フィブロネクチンは使用前に細胞培養プレートの表面に25分間吸着させた。フィブロネクチンは3μg/cmの濃度で使用し、EGFは10ng/mlの濃度で使用した。細胞を加える前に、細胞培養プレートをフィブロネクチン含有培地に25分間接触させた。
【0067】
試験対象添加物を含む各培養培地を2つ一組にして培養した。6穴細胞培養プレートを37℃で4日間インキュベートした。1日目から4日目まで、顕微鏡を使って細胞の付着と成長を評価した。
【0068】
陽性対照の場合はCEF細胞の正常な付着と成長が観察された。添加物を含まない199培地の場合は、CEF細胞の付着はほとんど観察できなかった。199培地に添加したEGFの使用により、添加物を含まない199培地と比較して、単層の形成に決定的な改善が見られた。細胞は付着して典型的な線維芽細胞の形態を形成することがわかった。さらに、4日間の全期間にわたって継続的な成長を観察することができた。培養培地にフィブロネクチンを添加することにより、細胞付着の改善も達成された。EGFとフィブロネクチンを両方とも添加したところ、EGFだけ及びフィブロネクチンだけを添加した場合と比較して多少の改善が得られた。
【0069】
要約すると、添加物EGF及びフィブロネクチンの使用により、無血清199培地におけるCEF細胞の単層形成を補助することができると結論する必要がある。
【0070】
さらに、並行実験として1×10個のCEF細胞を、10%FCSを含む培地、FCSを含まない培地、及びFCSは含まないがEGFを含む培地に播種した。播種の2日後に細胞数を数えた。細胞数は、それぞれ播種に使用した細胞数の42%、6%及び44%になった。したがって、EGSを含む無血清培地に播種した細胞に関する結果は、FCSを含む培地で得られる結果と同程度に良好であり、血清もEGFも含まない培地よりもかなり良好であった。さらに、EGFを含む培地を種々の標準的無血清培地、例えばDMEM、Opti−Mem又は293−SFMなどと比較した。そのために1×10個のCEF細胞を種々の無血清培地に播種し、4日間培養した。EGFを含む培地で培養した細胞の数は、無血清DMEM、Opti.Mem及び293−SFMで培養した細胞の数より、それぞれ24倍、5倍及び12倍多かった。
【0071】
<実施例4>
MVAによるCEF細胞の感染
ローラーボトルに播種して4日後にCEF細胞を感染させた。この時点で、細胞は適切な単層に成長していた。細胞をMOIが1又は0.1のMVAに感染させた。感染を行うためにフラスコから成長培地を除去した。ローラーボトル1本ごとに、望ましい量のウイルスを、血清を含まない適当な感染培地20mlで希釈した。この段階では無血清培地は成長因子及びフィブロネクチンから選択される因子を含んでもよいし、含まなくてもよい。細胞をウイルスと共にローラーボトル培養器中、0.3〜0.5rpm、37℃で1時間インキュベートした。1時間後にローラーボトルを適当な無血清成長培地で満たし、総体積をローラーボトル1本あたり200mlにした。この段階では無血清培地は成長因子及びフィブロネクチンから選択される因子を含んでもよいし、含まなくてもよい。48時間後又は72時間後にローラーボトルを−20℃に凍結することにより、ウイルス複製を停止させた。
【0072】
<実施例5>
感染CEF細胞からのウイルス抽出物の調製及びMVAの力価測定
凍結したローラーボトルを室温で融解した。融解工程中に細胞はローラーボトルの表面からはがれ、フラスコを振とうすることにより機械的に取り除くことができる。ウイルス/細胞懸濁液を採取し、小分けする。感染細胞からウイルスを放出させるために、ウイルス/細胞懸濁液を3回凍結/融解した。凍結/融解したウイルス試料を力価測定に使用した。
【0073】
力価測定は、ウイルス懸濁液の10倍希釈系列を使用し、各希釈率につき試料を8つずつ使って、96穴プレート中の第1継代CEF細胞で行った。感染後に抗ワクシニアウイルス抗体と適当な染色液とを使って感染細胞を可視化した。詳述すると、アッセイの0日目に、初代CEF細胞(「ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)の調製」の項を参照されたい)をトリプシン処理し、「細胞密度の算出」の項で説明したように計数した。7%FCSを含むRPMI培地で細胞を希釈して、1×10細胞/mlにした。この希釈後に96穴プレートの各ウェルに、マルチチャンネルピペットを使って100μlずつ播種した。細胞を37℃及び5%COで終夜インキュベートした。力価測定の対象であるウイルス試料(「感染CEF細胞からのウイルス抽出物の調製」の項を参照されたい)を、血清を含まないRPMIを使って、10−1から10−12まで10倍ずつ連続希釈した。この連続希釈は、深底96穴プレートの全ウェルに900μlのRPMIを加えることによって行われる。1行目の全ウェルに100μlのウイルス試料を加えて混合した。その後、マルチチャンネルピペットを使って次の行のウェルに100μlの各試料を移した。希釈を行っている間は、深底96穴プレートを氷上に置いた。プレートを37℃及び5%COで5日間インキュベートして感染を進行させた。5日後にワクシニアウイルス特異抗体を使って細胞を免疫組織化学染色した。染色のために96穴プレートを容器の上で上下逆さにすることによって培養培地を除去した。100μl/ウェルのメタノール/アセトン(1:1)混合液を使って細胞を室温で10分間固定した。固定液を除去し、プレートを風乾した。乾燥後、細胞をPBSで1回洗浄し、抗ワクシニアウイルス抗体(3%FCSを含むPBSで1:1000に希釈した抗ワクシニアウイルス抗体・ウサギポリクローナル・IgG画分(Quartett、ドイツ・ベルリン、#9503−2057))と共に、室温で1時間インキュベートした。抗体を除去した後、細胞をPBSで2回洗浄し、HRP結合(セイヨウワサビペルオキシダーゼ結合)抗ウサギ抗体(3%FCSを含むPBSで1:1000に希釈した抗ウサギIgG抗体・HRP結合・ヤギポリクローナル(Promega、ドイツ・マンハイム、#W4011))と共に、室温で1時間インキュベートした。再び細胞をPBSで洗浄し、o−ジアニシジン又はTMBで染色した。o−ジアニシジン染色法を用いる場合は、50mMリン酸クエン酸緩衝液60mlあたり5mgのo−ジアニシジンと180μlの30%Hとからなる染色液100μl/ウェルと共に、細胞をインキュベートした。細胞が褐色に染色されるまで細胞を室温でインキュベートした。1〜3時間後には感染細胞が明瞭に見えた。TMB染色法を用いる場合は、細胞を30μl/ウェルの1.2mM TMB(Seramun Diagnostica GmbH)と共にインキュベートした。15分のインキュベーション時間後に、TMB溶液を除去し、細胞をPBSで1回洗浄した。感染細胞は暗青色に見える。プレートを感染細胞について採点した。ウイルス力価はスピアマン(Spearman)とケルバー(Kaerber)の式を使って計算した。TCID50を計算するために褐色細胞又は青色細胞を示す各ウェルを陽性と記録した。アッセイパラメータは一定に保たれるので、以下の簡略化した式を使用した。
【0074】
ウイルス力価[TCID50/ml]=10[a+1.5+xa/8+xb/8+xc/8]
a=8つのウェルの全てが陽性である最後の列の希釈率
=a+1列目の陽性ウェル数
=a+2列目の陽性ウェル数
=a+3列目の陽性ウェル数。
【0075】
<実施例6>
無血清培地におけるCEF細胞の最適播種密度及びCEF細胞の感染に関するMVAの最適量
無血清CEF成長に関して、最適播種細胞密度は7.5×10細胞/850cm(ローラーフラスコ1本の表面)であると決定された。細胞は播種後4日目には大きな塊を形成せずに良好な単層を形成することでき、この時点で感染させることができた。
【0076】
無血清法で培養したCEF細胞からのMVA産生量を最大にするのに最適なウイルス接種レベルと感染時間とを決定するための実験を行った。本発明の培地にCEF細胞を7.5×10細胞/850cmの密度で播種した。播種後4日目に細胞を0.05〜1.0 TCID50/細胞の範囲にある様々なMVA量に感染させた。最適な結果は0.1 TCID50/細胞のMVAで得られた。
【0077】
<実施例7>
培養及びMVA感染に関する無血清培地の至適pH
MVA感染及び他のポックスウイルス感染は7.0未満のpHに弱い。ポックスウイルスは酸性pHでは安定でなく、液体ウイルス製剤として貯蔵する際の安定性及びウイルス完全性を確保するために、精製ポックスウイルスはpH7.0より高い緩衝溶液中に保存することが推奨される。様々な出発pHで感染を行った場合のウイルス収量に対する影響を決定するために実験を行った。ローラーボトルに10ng/ml EGF+4mM L−グルタミンを含む無血清培地中のCEF細胞を通常の方法で播種し、4日間培養した。10ng/ml EGF+L−グルタミンと1mMアスパラギンとを含む無血清培地中、6.5〜9.0の様々なpHで、細胞を0.1 TCID50/細胞のMVAに感染させた。感染72時間後に培地のpHを測定し、細胞抽出物を通常の方法で力価測定することによりウイルス収量を決定した。その結果を以下の表に記載する。この表は感染開始時の培地の初期pHがウイルス収量に及ぼす影響を表している。
【0078】
【表1】

【0079】
L−グルタミン及びアスパラギンを補充した10ng/ml EGFを含む無血清培地で感染を行った場合、7.0〜8.5の出発pHではウイルス産生量は比較的一定していたが、出発pHが6.5及び9.0の場合はウイルス産生量が低かった。最もよい収量は出発pH7.0で得られた。市販されている標準的な無血清培地は、通常、7.4のpHを持つ。したがって、無血清培地のpHを7.0に調節することによりウイルス収量の改善を助長することができる。
【0080】
<実施例8>
無血清培地に添加したアスパラギンの効果
CEF細胞の培養時及びMVAによるCEF細胞の感染時にはアスパラギンの量が制限因子になりうることが予備実験によって明らかになった。培養工程及び感染工程における無血清培地中のアスパラギンの枯渇を克服するために、CEF細胞を感染させる前に補助添加物としてアスパラギンを培地に追加した。培地に補充するアスパラギンの最適量を決定するために、ローラーボトルに10ng/ml EGF+4mM L−グルタミンを含む無血清培地中のCEF細胞(7.5×10細胞/850cm)を播種した。播種の4日後に、様々なアスパラギン濃度(0.5、1.0及び1.5mM)を補充した10ng/ml EGF+4mM L−グルタミンを含む無血清培地中で、0.1 TCID50/細胞のMVAに細胞を感染させた。感染72時間後にウイルス複製を停止させ、ウイルス力価を決定した。その結果を以下の表に示す。この表は、感染段階で様々なレベルのアスパラギンを補充したCEF細胞からのMVAの産生量を示している。力価は1種類のアスパラギン補充につき3本のローラーボトルの平均を表す。
【0081】
【表2】

【0082】
これらの結果は、10ng/ml EGFを含む無血清培地にアスパラギンを補充するとウイルス産生量が向上しうるということと、感染工程には1mMの補充が最適であることを証明している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長因子及び付着因子からなる群より選択される因子を含む無血清培地で、初代鳥類細胞を培養することを特徴とする、初代鳥類細胞の培養方法。
【請求項2】
初代鳥類細胞がニワトリ胚線維芽細胞(CEF)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
成長因子が上皮成長因子(EGF)、特に組換えヒトEGFである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
EGFの濃度が5〜20ng/ml培地の範囲にある、請求項3記載の方法。
【請求項5】
付着因子がフィブロネクチンである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
フィブロネクチンの濃度が1〜10μg/cm細胞培養器表面の範囲にある、請求項5記載の方法。
【請求項7】
培地が成長因子及び付着因子から選択される2種以上の因子を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
培地が請求項4及び請求項6記載の濃度範囲にあるEGF及びフィブロネクチンを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
培地が微生物抽出物、植物抽出物及び非哺乳類動物からの抽出物から選択される1種以上の添加物をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
微生物抽出物が酵母抽出物又はイーストレート限外濾過液である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
植物抽出物がイネ抽出物又はダイズ抽出物である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
非哺乳類動物からの抽出物が魚抽出物である、請求項9記載の方法。
【請求項13】
ウイルスを増幅させる方法であって、次の工程:
(i)請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法に従って初代鳥類細胞を培養する工程、
(ii)前記初代鳥類細胞に前記ウイルスを感染させる工程及び
(iii)子孫ウイルスが産生されるまで無血清培地で前記感染細胞を培養する工程
を含み、前記初代鳥類細胞が前記ウイルスの増殖的複製を可能にする細胞である方法。
【請求項14】
初代鳥類細胞がニワトリ胚線維芽細胞(CEF)である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
ウイルスがムンプスウイルス、麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、インフルエンザウイルス及びポックスウイルスから選択される、請求項13又は14記載の方法。
【請求項16】
ポックスウイルスがオルトポックスウイルスである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
オルトポックスウイルスがワクシニアウイルスである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
ワクシニアウイルスが変異ワクシニアウイルスアンカラ(Modified Vaccinia virus Ankara)である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ポックスウイルスが弱毒化ウイルス又は組換えウイルスである、請求項15〜18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
工程(ii)及び(iii)の一方又は両方で使用される無血清培地が、成長因子及び付着因子から選択される因子を含有しない、請求項13〜19のいずれか1つに記載の方法。
【請求項21】
工程(iii)の後に1つ以上の精製工程を設ける、請求項13〜20のいずれか1つに記載の方法。
【請求項22】
請求項13〜21のいずれか1つに記載の方法によって得られるポックスウイルス。
【請求項23】
請求項13〜21のいずれか1つに記載の方法によって産生されるポックスウイルスを含む組成物。
【請求項24】
医薬又はワクチンとしての請求項22記載のポックスウイルス又は請求項23記載の組成物。
【請求項25】
ワクチンを製造するために、請求項22記載のポックスウイルス又は請求項23記載の組成物を使用する方法。
【請求項26】
処置又は予防接種を必要とするヒトを含む動物に、その処置又は予防接種を施す方法であって、その動物又はヒトに請求項22記載のポックスウイルス又は請求項23記載の組成物を投与することを特徴とする、前記処置又は予防接種を施す方法。

【公開番号】特開2010−148522(P2010−148522A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−55602(P2010−55602)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【分割の表示】特願2004−533438(P2004−533438)の分割
【原出願日】平成15年9月1日(2003.9.1)
【出願人】(502240076)バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ (18)
【Fターム(参考)】