説明

無農薬有機土耕水耕栽培システム

【課題】安全な有機質を用いて、一定規格の栄養価の高い農作物を高効率的に生産することのできる水耕栽培システムを提供する。
【解決手段】カニ、エビなどのキチン質を含む有機質を好熱性微生物群PTA−1773によって高温発酵させた培地土壌を含む無農薬土耕水耕栽培法とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、無農薬で有機の水耕栽培を可能とする装置の開発に関する。
【従来技術】
【0002】
従来より、水耕栽培技術は化学肥料を活用し、効率的な作物生産ができることが知られている。
【0003】
また、近年、アミノ酸などを用いた有機系の水耕栽培技術も開発されはじめている。
【本発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、農薬を用いることなく、一定以上の栄養規格をもつ水耕栽培作物を生産し、それらを高効率的に生産することにある。
【問題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、カニ、エビなどの魚介類の発酵物は作物の栽培にとって有効な代謝成分を豊富に有している
【0006】
好熱性微生物の発酵物は、高温下の発酵により、常温下の発酵では得られない代謝成分を豊富に含んでいる。
【0007】
また、微生物として極限環境下で生息する耐久性に優れた微生物群を用いることによって、耐熱性酵素という安定な酵素の土壌酵素の機能を補完し、分子シャペロンは土壌酵素の劣化を防ぐ。
【0008】
土壌酵素が豊富になれば、水耕栽培時の液層ならびに培土における有機物の分解ならびに代謝も促進し、作物の栽培にとって有効な成分が根を介して作物中に増量し、例えばビタミンA、ビタミンCやビタミンEなどが通常の水耕栽培作物ならびに一般的な露地栽培作物に比べて増量することができる。
【発明の実態】
【0009】
この実施形態に係る土耕水耕栽培は、キチン質を含む有機質を70〜80℃で高温発酵させた発酵物を含む培地土壌を含み、発酵微生物としては好熱性微生物が望ましい。
【0010】
キチン質を含む有機質としては、カニ、エビなどの甲殻類などが挙げられる。
【0011】
発酵微生物としてはキチン質を分解するキチン質分解酵素を産生する微生物が望ましい。
【0012】
好熱性微生物は、難分解性成分や有毒物質等の共存する場所をはじめとした劣悪な環境下でも、酵素活性を維持できる耐熱性酵素や、それを保護する分子シャペロンを発現し、生命を維持する能力が高いため、有機物の分解能、代謝能を安定的に維持することができる。これによって、、通常の微生物由来の成分では補うことのできない土壌における酵素活性を維持し、土壌の活性化によって各種機能成分の生合成を可能にするという利点がある。好熱性微生物としては、例えば、好熱性種菌PTA−1773をはじめとした好熱菌群があげられる。尚、PTA−1773は、大分県杵築市内の山中の土壌と別府湾の海底エビとの混合発酵物から採取、分離された混合菌であり、バチルスブレビス/Bacillus brevisの近縁種である好熱性細菌C−1と、C−3と、好熱性バチルス・ステアロサーモフィラスCH−4/Bacillus stearothermophilus CH4と、好熱性放線菌MH−1と、好熱性又は耐熱性乳酸菌/Bacillus coaglance LM−1と、好熱性又は耐熱性乳酸菌LM−2と、未知の細菌及び/又は放線菌との混合菌である。ここで、好熱性種菌PTA−1773は、発明者によって、2000年5月1日付けでATCC(American Type Culture Collection,10801 University Boulevard Manassas,Virginia20110−2209U.S.A.)に国際寄託されている(受託番号:PTA−1773)。これらの微生物は、高度な有機物分解能を持っており、70〜90℃の発酵熱エネルギーを発することができる微生物群である。好熱性種菌PTA−1773を培養するための栄養源としては、腐敗していない生のエビやカニの残渣等とともに、90℃程度の高温下でも分解されにくい多孔体である炭、コーヒー粕を用いて微生物の付着部分を増やし、好気条件下で好熱性種菌PTA−1773を12時間以上培養する。この時、発酵熱は少なくとも60〜90℃に保たれる。
【実施例】
【0013】
次に実施例により、更に詳細に説明するが、この発明は係る実施例に限定されるものではない。
【0014】
[ネギの土耕水耕栽培]
図1に示したように、スポンジの上にPTA−1773で発酵させた土壌を敷き、ネギを定植し、魚の発酵液を2万倍に希釈して潅水を下層のスポンジの部分を介して実施する。根元の3センチを残して収穫を4回繰り返して、20日後に収穫した万能ネギ(369ネギ)の栄養成分を測定した。
【0015】

【0016】
表1は、PTA−1773で発酵させた土壌で栽培した369ネギと一般の露地で栽培した対照ネギ(福岡産)の栄養価を比較した試験結果である。
【0017】
【表1】

【0018】
表1に示したように、369ネギは、ベータカロチンやビタミンAについて、対照ネギに比べて2倍以上増量した。ビタミンCについて、6割増量した。一方、硝酸態窒素については、70%減少した。
【0019】
これらの結果から、ネギの栄養成分について、ビタミンA、ビタミンCの量がPTA−1773や魚の発酵液を用いた土耕水耕栽培によって増量することがわかる。
【0020】
[ニラの土耕水耕栽培]
図1と同様に、スポンジの上にPTA−1773で発酵させた土壌を敷き、ニラを定植し、魚の発酵液を2万倍に希釈して潅水を下層のスポンジの部分を介して実施する。根元の3センチを残して収穫を3回繰り返して、その20日後に収穫したニラ(369にら)の栄養成分を収穫後2日、10日後で測定した。
【0021】
表2は、PTA−1773で発酵させた土壌で栽培した369にらと一般の露地で栽培した対照にら(栃木産)の栄養価を比較した試験結果である。
【0022】
【表2】

【0023】
PTA−1773で発酵させた土壌で栽培した369にらは、収穫後2日経過したものと比較して、収穫後10日間冷蔵保管したものでは、15〜20%程度の栄養価の減少しか認められなかった。一方、対照群では、369にらの収穫後10日冷蔵保管したものと比較しても、その半分程度の栄養価であった。
【0024】
これらの結果から、にらの栄養成分について、ビタミンA、ビタミンCの量がPTA−1773や魚の発酵液を用いた土耕水耕栽培において増量し、その経時変化が少ないことがわかる。
【発明の効果】
【0025】
当該発明は、安全な有機質を用いて、一定規格の栄養価の高い農作物を高効率的に生産することが可能となる水耕栽培システムであり、これによって農業の生産効率の向上とともに、安全で安心な高品質の農産品を消費者に供給することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カニ、エビなどのキチン質を含む有機水耕栽培用の培土。
【請求項2】
魚の発酵成分、魚醤を含む有機水耕栽培用の培土。
【請求項3】
好熱性微生物によって有機物を発酵させた資材を含む有機水耕栽培用の培土。
【請求項4】
好熱性微生物群PTA−1773によって有機物を発酵させた資材を含む有機水耕栽培用の培土。
【請求項5】
カビ性の植物病原菌に対する溶菌酵素を含む有機水耕栽培用の培土。
【請求項6】
キチン質分解酵素を含む有機水耕栽培用の培土。
【請求項7】
請求項1乃至6記載の培土を水耕栽培の棚に設置し、その内部あるいは下層に液層を設置し、溶液を循環させるとともに、5乃至90℃に保持した水槽あるいは配管において請求項1乃至6記載の培土由来の成分によって殺菌、あるいは有効微生物ならびに酵素の活性化を促す有機水耕栽培方法とその装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置の上部を日照射が可能な状態で被覆し、水耕作物の栽培温度を15乃至30℃で一定に保持できることを特徴とする有機水耕栽培方法とその装置。
【請求項9】
請求項7乃至8記載の装置によって栽培した有機水耕栽培作物。
【請求項10】
請求項7乃8記載の装置によって栽培し、ビタミン類が豊富な有機水耕栽培作物。
【請求項11】
請求項7乃8記載の装置によって栽培し、無農薬で栽培された有機水耕栽培作物。

【公開番号】特開2006−314310(P2006−314310A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170090(P2005−170090)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(597149951)株式会社三六九 (6)
【出願人】(501176303)日環科学株式会社 (10)
【Fターム(参考)】