説明

無針薬物送達デバイスにおけるオピオイド製剤の使用

本発明は、好ましくはオピオイドである少なくとも1種の鎮痛薬を有する医薬組成物を含む、ヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して薬物を送達するのに適切な無針薬物送達デバイスに関する。本発明は、ヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して薬剤を注射するのに適切な無針薬物送達デバイスにおける、好ましくは少なくとも1種のオピオイドである少なくとも1種の鎮痛薬の使用にも関する。さらに本発明は、無針薬物送達デバイスを使用して、ヒトまたは動物の身体に、好ましくはオピオイドである少なくとも1種の鎮痛薬を注射することによって、突出痛を治療する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくはオピオイドである少なくとも1種の鎮痛薬を有する医薬組成物を含む、ヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して薬物を送達するのに適切な無針薬物送達デバイスに関する。
【0002】
本発明は、ヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して薬剤を注射するのに適切な無針薬物送達デバイスにおける、好ましくはオピオイドである少なくとも1種の鎮痛薬の使用にも関する。
【0003】
さらに本発明は、無針薬物送達デバイスを使用して、ヒトまたは動物の身体に、好ましくはオピオイドである少なくとも1種の鎮痛薬を注射することによって、突出痛を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
特発性である可能性があり、または癌、リウマチ、および関節炎などの疾患から生ずる可能性のある、重篤な慢性痛の治療は、これらの状態の治療の中心となる。例えば、腫瘍患者が感じる痛みの範囲には、骨膜および骨自体の痛み、ならびに内臓痛および軟部組織の痛みが含まれる。
【0005】
慢性の激痛のすべての形態は、患者の日々の生活を耐えられないものにし、しばしばうつ状態を引き起こす。したがって、患者の生活の質の持続的改善をもたらす痛みの治療の成功は、疾患の実際の原因の治療のような、包括的な治療の成功と同じく重要である。
【0006】
癌患者ならびにその他の理由で痛みを経験している患者の、慢性の激痛を治療するために、オピオイドなどの強力な鎮痛薬を使用することが慣例になっている。
【0007】
典型的には、慢性痛患者では、例えばモルヒネやオキシコドンなどの特定のオピオイドに関する適切な用量範囲を見出すために、オピオイドなどの強力な鎮痛薬の量が調整される。これらの患者の慢性痛の経験を永続的に制御するのに適切である投薬量を特定したら、ある一定の用量を、例えば8時間ごと、12時間ごと、または1日1回のみというように時間を決めて投薬する投薬計画(a by-the-clock regimen)に基づいて、薬剤を摂取させる。痛みの治療を受けていない場合に慢性的な痛みを覚えるような患者は、典型的には、制御された背景痛を有する患者と呼ばれる。
【0008】
背景痛の持続的な制御を実現するために、患者は通常、問題となっている鎮痛薬のいわゆる制御放出または持続放出製剤の投与を受けることになる。特にオピオイドの持続放出製剤は、例えば、錠剤「MST−Continus」、「Palladon」、および「Oxygesic」(すべて、Mundipharma GmbH、ドイツから販売される)の形のものが周知である。これらの持続放出剤形は、長期間にわたって活性剤を放出し、したがってこれらの製剤の投与頻度を減らすことが可能であることを特徴とする。これには、患者にとっていくつかの重要な利点があるが、それは例えば、患者が6から8時間の一定期間を通して眠ることができるからである。さらに、投与頻度が減ると、患者の薬物療法のコンプライアンスが高くなる。
【0009】
多くの癌患者は、現在、オピオイドで効率的に治療されており、かつ制御された背景痛を有すると見なすことができるにもかかわらず、患者は時折、通常の中程度の強さよりも大きい一時的な痛みの増大を経験する。
【0010】
慢性痛の治療のために、時間を決めて投薬する投薬計画にもかかわらず、「突き抜ける」中程度から重度の痛みのこの突発を、典型的には突出痛(BTP)と呼ぶ。突出痛という用語は、慢性痛治療の専門家の用語集で受け容れられるようになっており、したがって一般に、鎮痛薬治療を受けている患者の、通常なら安定な制御された痛みの背景に生ずる、一時的な痛みの憎悪を指す(例えば、Portenoy他(1990)、Pain、41:273〜281、Cara他(2004)、Pain、108:17〜27、Portenoy他(1999)、Pain、81:129〜134、およびPortenoy他(2006)The Journal of Pain、7(8):583〜591参照)。突出痛の現象は、「偶発的な痛み」および「偶発性疼痛」とも呼ばれている。
【0011】
癌集団の研究において、慢性痛のある患者の50から90%は、突出痛の発作を経験しており、これは、慢性の非癌性疼痛を有するオピオイド治療済み患者においても報告されている(Portenoy他(2006)、The Journal of Pain、7(8):583〜591参照)。
【0012】
したがって、オピオイドのような強力な鎮痛薬による痛みの治療は、その由来とは無関係に、現在では、過去と同じような医師による偏見に出会っていないが、継続的なオピオイド投薬計画の下にある十分に投薬量が調整された患者は、依然として厄介な痛みのある発作を引き起こす可能性がある。明らかに、突出痛現象の説明が強く求められており、突然の痛みの発作に苦しむこれらの患者の生活がより快適になるように、従来技術で種々の試みがなされてきた。
【0013】
突出痛を治療する場合、患者は、典型的には、背景痛を制御するために継続的に摂取される追加量のオピオイドなどの強力な鎮痛薬を投与されることになる。
【0014】
突出痛の発作は、通常は突然生じ、短時間規模で治療する必要があるので、これらの追加の鎮痛薬投薬量は、通常は速効製剤の形で提供されることになる。したがってオピオイドの場合、追加の投薬量は、薬の作用の即時発現をもたらすことができるよう非経口的に、あるいは、例えばモルヒネやオキシコドンなどのオピオイドの経口即時放出製剤として、投与することができる。
【0015】
経口即時放出剤形は、液体または即時放出錠剤の形をとることができる。
【0016】
突出痛が重大な臨床問題であるという認識に鑑み、そのような「レスキュー薬剤」は、痛みを治療するために広く受け容れられるようになった。
【0017】
しかし、短時間作用型オピオイド製剤は、典型的には、固定スケジュールによるオピオイド投薬計画を既に採用した患者において、「必要に応じて」突出痛の発作の治療に使用されるので、患者が薬を過剰摂取しないように気を付けなければならない。さらに、経口経路によって摂取されまたは非経口的に投与される液体などの短時間作用型オピオイド製剤は、周知のように、痛みを治療するために薬剤を摂取しようとするのではなく、そのオピオイドを単離しかつそれらを違法な娯楽の目的で使用する個人によって、乱用される傾向がある。
【0018】
短時間作用型オピオイド製剤に曝されることによって、乱用または中毒を引き起こすとプレデポースされた(pre-deposed)一部の集団の間で乱用されるリスクが増大する可能性があることを考えると、レスキュー投薬は、リスクおよび利益の慎重な評価の後に1件1件慎重に実施される。これは典型的には、突出痛に苦しむ患者は、医師の管理下でのみ必要な短時間作用型薬剤を投薬される状態をもたらし、当然ながら、そのような患者は、任意の位置および時点で動きかつ必要とされる薬剤を摂取するという自由度を、ひどく損なうものである。またひどいことに、短時間作用型オピオイドの非経口投与により、針デバイスによる薬剤投与が少量しか受け容れられなくなる。
【0019】
さらに、経口投薬を受けている患者は、経口用量の作用の発現が時々遅すぎるのでレスキュー治療がなされないことを見出し、したがって典型的には、突出痛の発作の治療におけるより良好な結果は、非経口「レスキュー」療法によって実現されることを見出した。
【0020】
したがって、当技術分野では、突出痛の治療を可能にしかつ医師の管理を受けずに必要に応じていつでも患者が摂取することのできる、医薬組成物を提供することが強く求められている。それと同時に、これらの医薬組成物は、突出痛の発作を治療するのに一般に使用される速効オピオイド製剤のように、乱用する傾向が低くなるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、突出痛を治療するために、レスキュー薬剤として使用することができる薬剤を提供することである。本発明の目的は、要求に応じて患者自身が投与することができ、かつ突出痛の発作を治療するのに一般に使用される短時間作用型オピオイド製剤のように乱用する傾向の低い、突出痛の治療に適切な薬剤の送達を可能にする薬物送達デバイスも提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
したがって本発明の一実施形態は、ヒトまたは動物の身体に、皮膚表面を通して医薬組成物を注射するのに適切な無針薬物送達デバイスに関し、この無針薬物送達デバイスは、
a)ハウジングと、
b)パッケージからヒトまたは動物の身体に、皮膚表面を通して医薬組成物を押し出すことが可能な力を発生させる手段と、
c)パッケージからヒトまたは動物の身体に、皮膚表面を通して医薬組成物を押し出す前記力を伝達する手段と、
d)デバイスを起動させるための手段と、
e)少なくとも1種の鎮静薬を含む医薬組成物と
を含む。
【0023】
前記少なくとも1種の鎮静薬は、溶液、固体、分散液、または懸濁液の形で医薬組成物中に存在させることができる。
【0024】
オピオイドは、鎮痛薬の好ましいサブグループ、即ちトラマドール、ジヒドロコデイン、オキシコドン、モルヒネ、ヒドロモルホン、オキシモルホン、ナルブフィン、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、フェンタニル、スルフェンタニル、レミフェンタニル、およびブプレノルフィン、または医薬品として許容されるその塩からなるグループであることが好ましいサブグループを形成する。
【0025】
特に好ましいオピオイドは、ヒドロモルホンおよびオキシコドンであり、その塩酸塩も特に好ましい。
【0026】
本発明は、ヒトまたは動物の身体に、皮膚表面を通して医薬組成物を注射するのに適切な無針薬物送達デバイスにおける少なくとも1種の鎮痛薬の使用にも関する。
【0027】
本発明のさらに別の実施形態は、突出痛を治療するための薬剤の製造における、少なくとも1種の鎮痛薬の使用であって、前記少なくとも1種の鎮痛薬が、無針薬物送達デバイスを使用して皮膚表面を通してヒトまたは動物の身体に投与される使用に関する。
【0028】
本発明は、突出痛を治療する薬剤を製造するために、ヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して薬剤を注射するのに適切な無針薬物送達デバイスの使用にも関する。後者の場合、薬物送達デバイスは当然ながら、少なくとも1種の鎮痛薬を含む医薬組成物を含む。
【0029】
前述の場合のすべてにおいて、少なくとも1種の鎮痛薬は、固体、液体、分散液、または懸濁液の形で存在させることができる。
【0030】
少なくとも1種の鎮痛薬として、オピオイドを使用することも好ましく、このオピオイドの群は、トラマドール、ジヒドロコデイン、オキシコドン、モルヒネ、ヒドロモルホン、オキシモルホン、ナルブフィン、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、フェンタニル、スルフェンタニル、レミフェンタニル、およびブプレノルフィンからなることが好ましい。特に好ましいオピオイドは、ヒドロモルフィンおよびオキシコドン、およびそれらの塩酸塩である。
【0031】
本発明のさらに別の実施形態は、突出痛の治療を必要とする患者にその治療を行う方法に関し、ヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して薬剤を注射するのに適切な無針薬物送達デバイスを使用して、少なくとも1種の鎮痛薬が患者に投与される。
【0032】
この場合も、鎮痛薬は、溶液、固体、分散液、または懸濁液の形で存在させることができる。トラマドール、ジヒドロコデイン、オキシコドン、モルヒネ、ヒドロモルホン、オキシモルホン、ナルブフィン、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、フェンタニル、スルフェンタニル、レミフェンタニル、およびブプレノルフィンからなる群などのオピオイドが好ましく、ヒドロモルホン、オキシコドン、およびそれらの塩酸塩が特に注目されている。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の文脈において、「突出痛」(breakthrough pain)という用語は、中程度の強さまたはそれ以下のベースラインの痛みの上で生じる、中程度の強さよりも大きな痛みの一時的な増大を指す。
【0034】
「ベースラインの痛み」は、12時間以上にわたる平均的な痛みの強さの経験として、慢性痛を治療するためのオピオイド投薬計画の下にある患者によって報告されている痛みである。
【0035】
ベースラインの痛みである痛みの強さは、典型的には、数値アナログスケール試験(NAS)などの一般的な方法を使用して決定される。突出痛の発作およびベースラインの痛みの決定は、Portenoyの前述の刊行物に詳述されている(特に、Portenoy他、(1999)(The Journal of Pain 7(8):583〜591)およびPortenoy他、(1999)Pain 81:129〜134参照)。これら2つの刊行物に示される突出痛および制御されたベースラインの痛みの定義を、参照により本明細書に組み込む。このように、制御されたベースラインの痛みという呼称は、2つの基準が一致することを必要とする。第1に、患者は、「あなたの痛みは現在、「継続的」または「ほぼ継続的」と言える要素を持っていますか。あるいは、あなたが受けている治療がなければ継続的またはほぼ継続的になると言える要素を持っていますか。」という質問に、肯定的に回答しなければならない。第2に、そのような患者は、比較的良好な痛みの制御に相応しいオピオイド投薬計画による治療を必要としなければならない。当業者なら、当然ながら、2つの参考文献で提供された情報に基づいて、制御されたベースラインの痛みをどのように決定するかがわかるであろう。次いで突出痛は、制御されたベースラインの痛みのレベルよりも高い、患者が経験する痛みの増大と見なされる。
【0036】
したがって痛みの強さは、例えば、「無(none)」、「軽度(slight)」、「中程度(moderate)」、「重度(severe)」、および「激痛(excruciating)」という項目を有する、5ポイントカテゴリースケールを使用して評価することができる。定義により、患者は、痛みの発作が患者によって重度または激痛と格付けされた場合に、突出痛の発作を経験することになる。
【0037】
上述のように、本発明の一実施形態は、ヒトまたは動物の身体に、皮膚表面を通して医薬組成物を注射するのに適切な無針薬物送達デバイスを指し、この無針薬物送達デバイスは、
a)ハウジングと、
b)パッケージからヒトまたは動物の身体に、皮膚表面を通して医薬組成物を押し出すことが可能な力を発生させる手段と、
c)パッケージからヒトまたは動物の身体に、皮膚表面を通して医薬組成物を押し出す力を伝達するための手段と、
d)デバイスを起動させるための手段と、
e)少なくとも1種の鎮静薬を含む医薬組成物と
を含む。
【0038】
したがって本発明は、一実施形態において、従来技術に記載される無針注射器デバイスであって、注射器デバイスには、好ましくはオピオイドである鎮静薬を含む医薬組成物が投入される点が異なるデバイスに関する。
【0039】
当業者なら、当然ながら、従来技術に記載されたような種々の無針ペン注射器を使用できることに、明らかに気付くであろう。また当業者なら、例えばヒト成長因子や卵胞刺激ホルモンなどのインスリンまたはホルモン用の、従来技術に記載されたようなこれらの種々の無針ペン注射器デバイスは、それらの機械的要素および構造に関して異なることにも気付くであろう。
【0040】
しかし、これらの構造の相違は、薬物送達デバイス内で使用できる医薬組成物のタイプに、ある特定の要件を課す可能性があるが、当業者なら、従来技術の無針注射器デバイスのこれらの構造的相違は、好ましくはオピオイドなどの強力な鎮痛薬を投与することによって突出痛を治療するのにそのような無針ペン注射器を理想的に使用することができるという、驚くべき実現に見出される本発明に対して、問題にならないことを理解するであろう。
【0041】
したがって、圧縮不活性ガスによって注射器から押し出された、事前に充填されかつ事前に測定された投薬量の鎮痛薬を含有する、無針注射器デバイスを使用することができる。圧力は、患者の皮膚表面を通して液剤が進入するのに十分になる。
【0042】
したがって、本発明の目的のため、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5851198号に記載された無針注射器デバイスを使用することができる。
【0043】
また、やはり参照によりその全体が組み込まれているWO03/015843A2に記載されたペン注射器デバイスも使用することができる。
【0044】
好ましい実施形態では、内部に記載されている無針薬物送達デバイスに関していずれも参照により本明細書に組み込まれている、いずれもCaretek Medical Ltd.の名義のWO03/023773A1およびWO2004/014468A1に記載されているペン注射器デバイスを使用することができる。
【0045】
当業者なら、当然ながら、皮膚表面を通してパッケージからヒトまたは動物の身体に薬剤を押し出すことが可能な力を発生させる、様々な手段があることがわかるであろう。力を発生させるこれらの手段は、例えば、圧縮ガスまたはばねの技術を含むことができる。
【0046】
同様に、前記力を伝達する手段も、デバイスを起動させるための手段の場合と同様に当業者に周知である。
【0047】
前述の薬物送達デバイスのいくつかは、皮膚を通してそれ自体の穴を生成する非常に微細な高速液体ジェットを生成することによって、薬物を送達する技術を利用するが、WO03/023773A1およびWO2004/014668A1に記載されている技術は、先駆発射物が最初に皮膚内部に押し遣られ、その後薬剤が押し遣られることにより、皮膚表面を通した活性剤の効率的移動が確実に行われる代替技術に関する。WO03/023773A1およびWO2004/014668A1に記載されている技術の利点の1つは、固体状態で、液体状態で、半固体状態で、ペーストとして、または種々の粘度の液体状態で活性剤を含む、医薬組成物を使用することができることである。したがって、WO03/023773A1およびWO2004/014668A1に記載されているデバイスによれば、膜に含めることができる液体の形をとり、または粘度が少なくとも5000センチポアズの液体として、または半固体として、または軟質展性のコンシステンシーを有するペーストとして、または固体中に分散された液体であるゲルとして、または固体状態の、突出痛を治療するための鎮痛薬、特にオピオイドを送達することが可能になる。
【0048】
突出痛を治療するために、少なくとも、好ましくはオピオイドである鎮痛薬を含む無針薬物送達デバイスを使用する利点には、とりわけ、患者がこのデバイスを使用することができ、かつ古典的な針技術の場合と同じ嫌悪感を持たなくなることがある。これは、投与しやすさを著しく増大させ、同時に、古典的な針技術を使用したときに生ずる可能性のある皮膚の刺激を低下させることになる。
【0049】
さらに、この場合は好ましくはオピオイドである活性剤は、皮膚表面を通して投与され、活性剤は、短時間規模で全身に再吸収され、突出痛を効率的に治療するのに必要とされる素早い作用の発現がもたらされる。
【0050】
さらに、ペン注射器デバイスは、極めて乱用し難い。例えば、単回使用のペン注射器は、例えば経口摂取しなければならない従来技術の液体製剤よりも、このペン注射器から鎮痛製剤を分離することを非常に難しくする、使用可能状態にある注射器に既に組み込まれた投薬量の鎮痛薬を含むことができる。その一方で、製剤が、ペン注射器内に挿入される置換え可能な容器内に含有される場合、その容器は、鎮痛製剤の違法な分離を非常に難しくするように設計することができる。当業者なら、当然ながら、オピオイド製剤を無針薬物送達デバイスから分離することが難しくなるように、無針ペン注射器デバイスを構成することが可能であることに、明らかに気付くであろう。例えばオピオイド製剤は、例えば適切な量でオピオイド拮抗薬を含む別の製剤とは切り離された状態で、容器内に置くことができる。2種の製剤は、容器を分解しようと試みた場合に、両方の製剤が互いに接触して製剤のいかなる非経口的乱用も妨げられるように、無針ペン注射器の容器内に置くことができる(いわゆる2チャンバーアプローチ(two chamber approach))。
【0051】
構造的要素に応じて、突出痛の発作を治療するために、鎮痛薬、特にオピオイドを送達するための無針ペン注射器は、単回用量のみの投与または反復投与が可能になるように構成することができる。したがって、無針ペン注射器デバイスは、単回使用または多回使用を目的とすることができ、例えば、使い捨てまたは再使用可能な注射器にすることができる。無針ペン注射器デバイスを単回または多回使用注射器にするのに必要とされる種々の構成的要素は、インスリンまたは成長ホルモン施用に使用されるようなその他のペン注射器デバイスから、当業者に周知である。
【0052】
無針ペン注射器デバイスのタイプに応じて、鎮痛薬、好ましくはオピオイドの投薬量を、事前に固定しまたは調節可能にすることができる。例えば、調節可能な投薬量のオピオイドを有するペン注射器デバイスは、責任能力のある患者が痛みの発作の重症度に応じて投薬量を投与することができる、という利点を有することになる。その一方で、事前に固定された投薬量によって、無針ペン注射器デバイス内に含有される鎮痛組成物の乱用の可能性が、さらに低下することになる。好ましくはオピオイドである少なくとも1種の鎮痛薬を有する医薬組成物を含む、無針ペン注射器デバイスのその他の利点および実施形態は、当業者に明らかにされよう。
【0053】
好ましくはオピオイドである少なくとも1種の鎮痛薬を含む医薬組成物に関し、当業者なら、当然ながら、これらの製剤が種々の形をとることができ、かつ必要な場合には任意選択で種々の医薬品として許容される賦形剤を含むことができることに、明らかに気付くであろう。
【0054】
記述されるような無針ペン注射器デバイス用の、好ましくは少なくとも1種のオピオイドである、少なくとも鎮痛薬の製剤を設計する場合、2つの態様が当業者によって主に考えられることになる。
【0055】
本発明の目的は、突出痛の発作を治療するための前述の無針ペン注射器デバイスを使用することであるので、注射器内に含有される医薬組成物は、活性剤が素早い作用の発現をもたらすことが確実に可能であるようにしなければならない。好ましくはオピオイドである少なくとも1種の鎮痛薬を含む医薬組成物は、皮膚表面を通して注射器により投与されることになるので、作用の発現は、典型的には、同じ製剤を経口投与する状況に比べてより早く生ずる。
【0056】
しかし当業者なら、当然ながら、医薬品として活性な薬剤が例えば液体形態で注射器によって投与される場合、その液体によって即時放出製剤の特徴を確実に得るであろう。したがって、突出痛の治療を考えている当業者なら、当然ながら、活性剤が注射された後のヒトまたは動物の身体による活性剤の放出および再吸収を著しく遅延させることが知られている、賦形剤および成分の使用が回避されよう。活性剤の医薬組成物を開発する場合に、当業者が考えるであろう第2の態様は、この組成物が、使用される無針ペン注射器の機械的要件に適合することである。
【0057】
既に上記にて述べたように、当業者なら、固体、液体、分散、または懸濁形態の活性剤を含む医薬組成物を考えることができる。
【0058】
現在、好ましくはオピオイドである鎮痛活性剤の液体製剤を使用することが好ましい。その最も単純な実施形態では、そのような液体製剤は、例えば、生理学的pH値の生理食塩水に溶かしたモルヒネまたはオキシコドンを含むことができる。しかし当業者なら、固体状態の活性剤の注射を使用することも考えることができる。この文脈において、活性剤の固体粒子のサイズがより微細になるほど、活性剤はより素早く患者の全身に再吸収されることが明らかにされよう。
【0059】
使用される鎮痛薬、特にオピオイドに関して、当業者なら、遊離塩基、ならびに医薬品として許容されるその塩、または治療上活性でありかつ医薬品として許容されることも知られている誘導体を使用することを考えるであろう。本発明のコンテスト(contest)において、オピオイドに言及する場合、これは常に、遊離塩基、ならびに医薬品として許容される塩、または前述の誘導体を指す。
【0060】
例えばオキシコドンについて言及する場合、オキシコドンは、遊離塩基の他に、その塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酒石酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、重酒石酸塩、リン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、フマル酸塩、およびコハク酸塩も含む。
【0061】
ヒドロモルホンおよびオキシコドンの場合、塩酸塩が好ましい。
【0062】
上述のように、オピオイドは突出痛を治療するのに好ましく、これらのオピオイドには、モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルホン、プロポキシフェン、ニコモルヒネ、ジヒドロコデイン、ジアモルヒネ、パパベレタム、コデイン、エチルモルヒネ、フェニルピペリジン、およびその誘導体、メタドン、デキストロプロポキシフェン、ブプレノルフィン、ペンタゾシン、チリジン、トラマドール、ヒドロコドンを含めることができる。さらに、本発明による使用可能なオピオイド鎮痛薬の例は、ブプレノルフィン、メペリジン、オキシモルホン、アルファプロジン、アニレリジン、デキストロモラミド、メトポン、レボルファノール、フェナゾシン、エトヘプタジン、プロピラム、プロファドール、フェナムプロミド、チアムブテン、ホルコデイン、コデイン、ジヒドロコデイノン、フェンタニル、3−トランス−ジメチルアミノ−4−フェニル−4−トランス−カルベトキシ−Λ'−シクロヘキセン、3−ジメチルアミノ−0−(4−メトキシフェニル−カルバモイル)−プロピオフェノンオキシム、(−)β−2’−ヒドロキシ−2,9−ジメチル−5−フェニル−6,7−ベンゾモルファン、(−)2’−ヒドロキシ−2−(3−メチル−2−ブテニル)−9−メチル−5−フェニル−6,7−ベンゾモルファン、ピリニトラミド、(−)α−5,9−ジエチル−2’ヒドロキシ−2−メチル−6,7−ベンゾモルファン、エチル1−(2−ジメチルアミノエチル)−4,5,6,7−テトラヒドロ−3−メチル−4−オキソ−6−フェニル−インドール−2−カルボキシレート、1−ベンゾイルメチル−2,3−ジメチル−3−(m−ヒドロキシ−フェニル)−ピペリジン、N−アリル−7α(1−R−ヒドロキシ−1−メチルブチル)−6,14−エンド−エタノテトラヒドロノロリパビン、(−)2’−ヒドロキシ−2−メチル−6,7−ベンゾモルファン、ノラシルメタドール、フェノペリジン、α−d1−メタドール、α−1−メタドール、β−d1−アセチルメタドール、α−1−アセチルメタドール、およびβ−1−アセチルメタドールである。
【0063】
トラマドール、ジヒドロコデイン、オキシコドン、モルヒネ、ヒドロモルホン、オキシモルホン、ナルブフィン、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、フェンタニル、スルフェンタニル、レミフェンタニル、およびブプレノルフィン、または医薬品として許容されるその塩を含むオピオイドの群が特に好ましい。
【0064】
本発明の特に好ましい実施形態は、上述の無針薬物送達デバイスにオキシコドンまたはヒドロモルホン製剤を組み込み、それを皮膚表面を通してヒトまたは動物の身体に注射することによって、突出痛の発作を治療するための、オピオイド、オキシコドン、またはヒドロモルホン、および好ましくはそれらの塩酸塩の使用に関する。
【0065】
突出痛の発作を効率的に治療するために投与される投薬量は、各オピオイドごとに個別に決定しなければならない。しかし、オピオイド投薬計画に合わせて調節される制御されたベースラインの痛みを有する患者が、経口投与によって1日のうちに受ける投薬量の、約10%から30%の間で使用することが好ましい。さらに、制御されたベースラインの痛みを有する患者が1日に経口投与を介して受ける投薬量の、約10から20%、および約15%を使用することが好ましい。当業者なら、特に、患者が高用量のオピオイドで治療される場合、経口摂取される日用量の10%〜15%で十分になることにも気付くであろう。
【0066】
「約」という用語は、指定された値からの10%、好ましくは5%の偏差を示す。
【0067】
当業者なら、この計算された投薬量が、経口鎮静製剤の投与によって突出痛を治療するための投薬量を指すことに、明らかに気付く。本発明によれば、鎮静製剤は皮下注射されることになり、当業者なら典型的に、経口投与による突出痛の発作を治療するための投薬量を、各オピオイドごとに指定される係数によって割ることになる。この係数は、典型的には知られている経口:静脈内投薬量に基づき、多くのオピオイドまたはその他の鎮痛薬の非経口投与によって初回通過効果を発揮することができない事実を反映している。そのような追加の係数は、オピオイド(鎮痛薬)の基準量が、制御された背景痛を実現するための1日当たりの非経口投与量を指す場合、通常は必要ではない。
【0068】
モルヒネの場合、この係数は、例えば約3になり、ヒドロモルホンの場合、この係数は例えば約5になり、オキシコドンの場合、この係数は約2になり、トラマドールの場合、この係数は例えば約1になり、コデインの場合、この係数は例えば約5になる。
【0069】
上記経口:静脈内の比は、必要とされる用量を定めるように導かれることが理解される。患者間のばらつきは、各患者について適切な用量になるまで慎重に用量が調整されることを必要とする。
【0070】
モルヒネの場合、経口投与された日用量は、典型的には経口で1日当たり約30mgから約1000mgに及ぶ。したがって、経口によって突出痛の発作を治療するために投与されるモルヒネの投薬量は、約3〜9mgから約100から300mgの範囲内になる。突出痛を治療するための、モルヒネの経口比に関する好ましい範囲は、約3〜9mgから約40から120mgになる。突出痛の発作を治療するのに皮下投与される投薬量は、約1〜3mgから約33から50mgの範囲内、好ましくは約1から3mgから約13〜40mgの範囲内になることが相応しい。
【0071】
ヒドロモルホンの場合、定常状態での典型的な日用量は、約2mgから約400mgに及ぶことが知られている。したがって、経口で突出痛の発作を治療する投薬量の範囲は、約0.2〜0.6mgから約40〜120mgに、好ましくは約0.4〜1.2mgから約6.4から19.2mgに及ぶことになる。突出痛の発作を治療するために皮下投与される投薬量は、約0.04〜0.12mgから約8から20mgの範囲内、好ましくは約0.08〜0.24mgから約1.3〜5.9mgになることが相応しい。
【0072】
トラマドールの場合、典型的な投薬量は、定常状態で施用する間、1日当たり約50mgから約600mg、好ましくは約50mgから約400mgに及ぶ。したがって、典型的な突出痛の治療シナリオでは、約5〜15mgから約60〜180mgの間のトラマドール、好ましくは約5〜15mgから約40〜120mgの間で経口または皮下投与することになる。
【0073】
フェンタニルは、典型的には、1日当たり600μgから2.4mgの量で静脈内または経皮投与される。したがって、皮下的に突出痛の発作を治療するための投薬量は、約60〜180μgから、約0.24mgから0.72mgの間になる。
【0074】
コデインは、典型的には240mgまでの量で皮下投与される。したがって、皮下から突出痛の発作を治療するための投薬量は、最大で約24〜72mgの間になる。
【0075】
ジヒドロコデインは、典型的には320mgまでの量で静脈内投与される。したがって、皮下的に突出痛の発作を治療するための投薬量は、最大で約32〜96mgの間になる。
【0076】
オキシコドンの場合、典型的な日用量は、1日当たり約5mgから約800mgに及ぶ。したがって、突出痛の発作を治療する場合、典型的には約0.5〜1.5mgから、約80から240mgの間のオキシコドンの経口投与、好ましくは約1〜3mgから約16〜48mgの間を使用することになる。突出痛の発作を治療するのに皮下投与される投薬量は、約0.25〜0.75mgから、約40から120mgの範囲内、好ましくは約0.5〜1.5mgから約8〜24mgの範囲内になることが相応しい。
【0077】
前述のすべては、それぞれの塩酸塩を指すことが好ましい。
【0078】
したがって、突出痛の発作を効率的に治療するために投与されるオピオイドの量は、ベースラインの痛みの制御を実現するのに毎日のように使用される量に依存することになることが、当業者に理解される。したがって、例えば1日当たり32mgの投薬量のヒドロモルホンが経口投与される患者について、その突出痛の発作の治療がなされる場合、突出痛の発作を治療すると見なされる典型的な量は、例えば、経口で3.2から9.6mgの間、または皮下若しくは静脈内投与で1から3mgの間になる。ヒドロモルホンの治療も受ける別の患者が、1日当たり8mg投与される場合、突出痛の発作を効率的に治療するのに必要な量は、例えば経口で0.8から2.4mgの範囲内、または静脈内で0.2から0.5mgの間の範囲内にすることができる。
【0079】
突出痛の発作を効率的に治療するのに必要になるオピオイドの正確な量に関し、当業者なら、様々な因子を考えるであろう。上述のように、1つの因子は、制御されたベースラインの痛みを実現するために患者が摂取する、1日当たりの総投薬量になる。この総量は、典型的には、24時間にわたって経口摂取される投薬量になり、その投薬量の10から30%は、経口的に突出痛を治療するための、良好な第1の推定値になる。しかし、10から30%の範囲内で、特定量は、突出痛の発作の頻度および重症度に依存する可能性があり、また皮下注射用の無針薬物送達デバイスによる皮下投与では、その量がしばしば少なくなる。
【0080】
当業者なら、臨床試験での突出痛の発作の頻度および強度の測定に、十分通じている。そのような臨床試験の設計は、例えば、Portenoy他による前述の刊行物(The Journal of Pain(2006)7(8):583〜591)に詳述されている。この刊行物から、慢性の制御された痛みを有する非癌性患者の場合、突出痛の発作の典型的な発生回数は、ほとんどの患者で1日当たり約2.4回になることがわかる。さらに、この刊行物の表2は、突出痛の発作として分類することができる種々の痛みの症状に関し、良好な概観を示している。当業者なら、制御されたベースラインの痛みおよび突出痛の発作を決定するための、臨床試験のタイプおよびそのような臨床試験の設計にも詳しいであろう。典型的には、当業者なら、約15から100名のグループに関する試験を設計することになる。しかし、20名の患者のグループで十分と考えられる。これらの患者は、FDAやEMEAなどの規制当局の推奨に従うある試験対象患者基準および除外基準に基づいて、そのような試験に登録される。年齢、性別、育ち、体重、身体状態、薬剤のタイプおよび頻度などの、典型的な試験対象患者基準に関する良好な全体像は、前述の参考文献に見出すことができる。
【0081】
無針薬物送達デバイスで鎮痛薬、特にオピオイド製剤を使用する利点の1つは、オピオイド製剤の乱用が生じにくく、オピオイド製剤をそのようなデバイスから分離することがより難しくなることが、既に述べられている。
【0082】
そのような製剤の乱用の可能性をさらに低下させるため、前述の2チャンバーアプローチに従って、ナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、ナロルフィン、ナルブフィン、ナロキソンアジネン、メチルナルトレキソン、ケチルシクラゾシン、ノルビナルトルフィミン、ナルトリンドール、6−β−ナロキソール、および6−β−ナルトレキソール、または医薬品として許容されるその塩などのオピオイド拮抗薬を含むペン注射器システムおよび/またはコンテナに、医薬組成物をさらに組み込むことを考えることができる。したがって、オピオイドおよび拮抗薬製剤は切り離されており、オピオイド製剤を分離するために不法にペン注射器を分解しようとしかつ/または容器を破壊しようとした場合にのみ、接触する可能性がある。この手法は、拮抗薬なしでオピオイドを分離することを防止し、したがって非経口的乱用を防止する。
【0083】
特に好ましい拮抗薬には、ナルトレキソン、ナルメフェン、およびナロキソンが含まれる。拮抗薬としては、ナロキソンおよびその塩酸塩が特に好ましい。
【0084】
当業者なら、ペン注射器によって投与されるオピオイド製剤は、効率的な突出痛の発作を治療する代わりに禁断症状を誘発する可能性があるので、通常は、オピオイド拮抗薬を関連ある量で含むべきではないことに、明らかに気付くであろう。
【0085】
しかし、一実施形態では、医薬組成物をペン注射器システムおよび/または容器に組み込むことを考えることができ、これには、オピオイド、特にオピオイドであるトラマドール、ジヒドロコデイン、オキシコドン、モルヒネ、ヒドロモルホン、オキシモルホン、ナルブフィン、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、フェンタニル、スルフェンタニル、レミフェンタニル、およびブプレノルフィンを、ナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、ナロルフィン、ナルブフィン(μ−受容体−拮抗薬およびk−受容体−作動薬)、ナロキソンアジネン、メチルナルトレキソン、ケチルシクラゾシン、ノルビナルトルフィミン、ナルトリンドール、6−β−ナロキソール、および6−β−ナルトレキソールなどのオピオイド拮抗薬、または医薬品として許容されるその塩と一緒に、1つの製剤に含めることができる。
【0086】
これは、非常に低い投薬量の拮抗薬が製剤に含まれている場合、即ち、オピオイド作動薬よりもわずか105から109少ない拮抗薬が含まれている場合と考えることができる。そのような、非常に低い拮抗薬の投薬量は、禁断症状を誘発せず、または痛みの治療の効力に影響を与えず、耐性発現および/または痛覚過敏を低減させることができる(Burns他(2005)Recent developments in pain research:115〜136)。この文脈において、末梢作用拮抗薬アルビモパンおよびメチルナルトレキソンは、便秘および嘔吐を打ち消す働きもあるはずであるので、特に好ましい可能性がある。さらに、メチルナルトレキソンまたはアルビモパンなどの、末梢に作用するオピオイド拮抗薬が選択される場合、あるいは、ペプチドをベースにしたオピオイド受容体拮抗薬が選択される場合、鎮静効果の低下はほとんど見られない。
【0087】
上述のように、本発明の1つの目的は、前述の鎮静薬の医薬組成物、特に好ましくは、トラマドール、ジヒドロコデイン、オキシコドン、モルヒネ、ヒドロモルホン、オキシモルホン、ナルブフィン、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、フェンタニル、スルフェンタニル、レミフェンタニル、およびブプレノルフィンのオピオイド製剤を、上記にて示された量で、ヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して医薬組成物を注射するのに適した無針薬物送達デバイスで使用することである。次いでそのような無針注射器デバイスを、突出痛の発作の治療に使用することができる。
【0088】
したがって、本発明の一実施形態は、突出痛を治療するための薬剤の製造における、少なくとも1種の鎮静薬、好ましくは前述の好ましいオピオイドの、上記にて示された量での使用にも関し、上記にて示された量のこの少なくとも1種の鎮静薬、好ましくは前述の好ましいオピオイドは、ヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して薬剤を注射するのに適切な無針薬物送達デバイスを使用して、ヒトまたは動物の身体に、皮膚表面を通して投与されるものである。
【0089】
無針ペン注射器デバイスを使用して、上記にて示された量でのトラマドール、ジヒドロコデイン、オキシコドン、モルヒネ、ヒドロモルホン、オキシモルホン、ナルブフィン、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、フェンタニル、スルフェンタニル、レミフェンタニル、およびブプレノルフィンなどの特定のオピオイドの施用が、明らかである。
【0090】
まず最初に、突出痛の発作は、上述のように十分に素早い作用の発現をもたらすことができない経口製剤によって治療しない。同時に、針の技術の使用から生ずる非経口施用の欠点が回避される。したがって、そのような無針ペン注射器デバイスの使いやすさによって、患者はそれにより薬剤を摂取することができ、いつでもどこでも必要な場合に任意の時間および位置で注射することができる。さらに、ペン注射器デバイスが、投薬量の調節のために多回使用可能な場合、薬剤の投与は、痛みの発作の頻度および重症度に合わせて細かく調整することができる。その一方で、痛みの発作の頻度および重症度がしばしば知られている場合(Portenoy他による上記刊行物参照)、患者は、オピオイド製剤を含む単回使用の使い捨て無針ペン注射器デバイスを使用し、処方された用量を投与することができる。
【0091】
当業者なら、そのような製剤が多数回投与されるのか否かに応じて、例えば塩化ベンザルコニウムなどの保存剤、または塩化ベンジルなど多回ペン注射器で一般に使用されるその他の周知の保存剤を含むことが、必要でありかつ望ましいことに気付くであろう。
【0092】
前述の実施形態の他に、本発明は、突出痛を治療する必要のある患者においてその治療をする方法にも関し、少なくとも1種の鎮痛薬、好ましくは上述のオピオイド製剤が、ヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して薬剤を注射するのに適した無針薬物送達デバイスを使用して患者に投与される。
【0093】
本発明の上述の実施形態のすべてに関して、オピオイド鎮痛薬ヒドロモルホンおよびオキシコドンの使用が好ましいことが強調される。無針薬物送達デバイスでの液体オピオイド製剤の使用が、現在のところ好ましいことも理解されよう。
【0094】
本発明について、その好ましい実施形態のいくつかを参照しながらこれまで述べてきたが、本発明の範囲をいかなる方法によっても限定するものではない。本発明の中心は、ヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して無針薬物送達デバイスによりオピオイドを投与することにより、上記にて定義された突出痛の発作を治療することが可能でありかつ推奨可能であるという認識にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物に皮膚表面を通して医薬組成物を注射するのに適切な無針薬物送達デバイスであって、
a)ハウジングと、
b)パッケージからヒトまたは動物の身体に、皮膚表面を通して医薬組成物を押し出すことが可能な力を発生させる手段と、
c)パッケージからヒトまたは動物の身体に、皮膚表面を通して薬剤を押し出す前記力を伝達するための手段と、
d)デバイスを起動させるための手段と、
e)少なくとも1種の鎮痛薬を含む医薬組成物と
を含むデバイス。
【請求項2】
前記デバイスが、単回または多回使用に適切である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記医薬組成物が、前記少なくとも1種の鎮痛薬を、溶液、固体、分散液、または懸濁液として含む、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記鎮痛薬が、好ましくはトラマドール、ジヒドロコデイン、オキシコドン、モルヒネ、ヒドロモルホン、オキシモルホン、ナルブフィン、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、フェンタニル、スルフェンタニル、レミフェンタニル、およびブプレノルフィン、または医薬品として許容されるその塩からなる群から選択されたオピオイドである、請求項1から3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
前記医薬組成物が、約3mgから30mgの間のモルヒネ、若しくは等量の医薬品として許容されるその塩、または約0.75mgから40mgの間のオキシコドン、若しくは等量の医薬品として許容されるその塩、または約0.08mgから8mgの間のヒドロモルホン、若しくは等量の医薬品として許容されるその塩、または約3mgから45mgの間のコデイン、若しくは等量の医薬品として許容されるその塩、または約15mgから60mgの間のトラマドール、若しくは等量の医薬品として許容されるその塩を含む、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
ヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して医薬組成物を注射するのに適切な無針薬物送達デバイスでの、少なくとも1種の鎮静薬の使用。
【請求項7】
突出痛を治療する薬剤の製造における、少なくとも1種の鎮静薬の使用であって、前記少なくとも1種の鎮痛薬が、無針薬物送達デバイスを使用してヒトまたは動物の身体に皮膚表面を通して投与される使用。
【請求項8】
請求項1に記載のデバイスが使用される、請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
前記デバイスが、単回または多回使用に適切である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記少なくとも1種の鎮痛薬が、溶液、固体、分散液、または懸濁液として提供される、請求項6から9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
前記鎮痛薬が、好ましくはトラマドール、ジヒドロコデイン、オキシコドン、モルヒネ、ヒドロモルホン、オキシモルホン、ナルブフィン、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、フェンタニル、スルフェンタニル、レミフェンタニル、およびブプレノルフィンからなる群から選択されたオピオイド、または医薬品として許容されるその塩である、請求項6から10のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
モルヒネが、約3mgから30mgの間の量で、または等量の医薬品として許容されるその塩として皮下に提供され、オキシコドンが、約0.75mgから40mgの間の量で、または等量の医薬品として許容されるその塩として皮下に提供され、ヒドロモルホンが、約0.08mgから8mgの間の量で、または等量の医薬品として許容されるその塩として皮下に提供され、コデインが、約3mgから45mgの間の量で、または等量の医薬品として許容されるその塩として皮下に提供され、あるいはトラマドールが約15mgから60mgの間の量で、または等量の医薬品として許容されるその塩として皮下に提供される、請求項11に記載の使用。

【公表番号】特表2010−501308(P2010−501308A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526093(P2009−526093)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/058976
【国際公開番号】WO2008/025790
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(599108792)ユーロ−セルティーク エス.エイ. (134)
【Fターム(参考)】