説明

無鉛ガソリン組成物及びその製造方法

硫黄分が1質量ppm以下で、十分な運転特性を保持した無鉛ガソリン組成物及びその製造方法を提供する。
5容量%留出温度が25℃以上、かつ95容量%留出温度が210℃以下、オレフィン分が5質量%以上、ジエン価が0.3g/100g以下である分解ナフサ留分を脱硫処理する工程、及び得られた脱硫分解ナフサ留分を、他のガソリン基材と混合するブレンド工程を含む、硫黄分が1質量ppm以下、かつリサーチ法オクタン価が89.0以上である無鉛ガソリン組成物の製造方法。また、リサーチ法オクタン価が89.0以上、50容量%留出温度が105℃以下、オレフィン分が10容量%以上、全硫黄分が1質量ppm以下、全硫黄分に占めるチオフェン類硫黄化合物の割合が硫黄分として50質量%以上である無鉛ガソリン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境への影響を低減した無鉛ガソリン組成物とその製造方法に関する。特に、硫黄分を1質量ppm以下に低減して、環境への影響に配慮しつつ十分な運転特性を確保した無鉛ガソリン組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の高性能化に伴って、高い運転性能をもつ高性能ガソリンの需要が増加している。一方、自動車燃料やその燃焼排ガスによる環境汚染が社会問題になってきている。したがって、高い運転性能を維持するとともに、環境負荷の少ない自動車燃料が望まれている。特に、排ガス浄化と燃費改善の観点から、硫黄分の一層の低減が切望されている。
【0003】
JIS K 2202には、リサーチ法オクタン価(RON)が96.0以上の1号自動車ガソリンと89.0以上の2号自動車ガソリンが規定されており、前者は高性能なプレミアムガソリンとして、後者はレギュラーガソリンとして市販されている。従来、プレミアムガソリンは、接触改質ガソリン基材、メチルt−ブチルエーテル(MTBE)のような100以上のRONをもつ基材、アルキレートガソリン基材、接触分解ガソリン基材のような93以上のRONをもつ基材を中心に、各種の基材を配合して製造されている。
【0004】
重質な石油留分を分解することによって製造される分解ガソリン基材は、他のガソリン基材に比べ、経済的に製造できるという利点がある一方、高い硫黄分を含んでいた。その結果、上述のようにして製造されるガソリン中の硫黄分の大部分は、分解ガソリン基材に由来していた。
【0005】
分解ガソリン基材の硫黄分の低減は、高圧水素と触媒の共存下で水素化精製するという公知技術で容易に可能である。しかし、その場合は、接触分解ガソリン基材中に多く含まれ、高いRONをもつオレフィン分が水素化されて基材のRONが低下してしまうため、それを配合したガソリンでは十分な運転性能が得られないという問題点があった。
【0006】
一方、炭化水素油を、特定の条件下、吸着剤と接触させて硫黄化合物を吸着させる工程と、吸着剤に水素を通気させることにより吸着剤から硫黄化合物を脱離する工程を繰り返すことにより、オレフィンの水素化反応など不要な反応を抑制し、ガソリンの基材となる炭化水素油に含まれる硫黄分を連続的に低減する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このような吸着剤を用いる方法も、原料油に含有される特定の炭化水素化合物によるせいか、硫黄の吸着能が阻害されて硫黄分を効率よく継続的に低減することができず、必ずしも満足できる方法ではなかった。
【特許文献1】特開2003−277768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
硫黄分が1質量ppm以下と低く、かつ、十分な実用性能を確保した環境対応ガソリン、及びその製造方法は未だ確立されていない。本発明は、このような状況下で、硫黄分を低減し、かつ、十分な運転特性を確保した無鉛ガソリン組成物及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ジエン含有量が低い分解ナフサ留分を用いて水素化精製以外の脱硫処理を行うと、高いRONを維持したまま、硫黄分を効率よく低減できることを見出し、そして、このようにして得られた基材を用いることにより、十分な運転特性を確保した無鉛ガソリン組成物が得られることを見出し、本発明の無鉛ガソリン組成物及びその製造方法に想到した。
【0009】
すなわち、本発明による硫黄分が1質量ppm以下、かつリサーチ法オクタン価(RON)が89.0以上である無鉛ガソリン組成物の製造方法は、
(1)5容量%留出温度が25℃以上、かつ95容量%留出温度が210℃以下、オレフィン分が5容量%以上、ジエン価が0.3g/100g以下である分解ナフサ留分を脱硫処理する脱硫工程、及び
(2)前記(1)の脱硫工程で得られた脱硫分解ナフサ留分と他のガソリン基材とを混合するブレンド工程
を含む。
【0010】
好ましくは、(1)の工程において、予めジエン低減処理を経たジエン価が0.3g/100g以下の分解ナフサ留分を用いる。すなわち、本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法は、分解ナフサ留分の原料油に対し、予めジエン低減処理を行う工程を含むことが好ましい。また、このとき、ジエン低減処理は、分解ナフサ留分の原料油と周期律表第8族の元素を含む触媒とを接触させることが好ましく、このとき、ジエン低減触媒が、コバルトまたはニッケルから選ばれる少なくとも1種を含むものであることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法は、(1)の脱硫工程において、硫黄収着機能をもった多孔質脱硫剤を水素分圧1MPa以下の水素共存下で分解ナフサ留分と接触させて脱硫処理することが好ましく、このとき、多孔質脱硫剤が、銅、亜鉛、ニッケル及び鉄から選ばれる少なくとも1種を含むものであることが好ましい。
(2)のブレンド工程において、10〜90容量%の脱硫分解ナフサ留分と90〜10容量%の他のガソリン基材とを混合することが好ましい。
【0012】
また、本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法は、よりオクタン価の高い、例えばリサーチ法オクタン価が93.0以上、特には96.0以上といった無鉛ガソリン組成物を得るために、分解ナフサ留分は、5容量%留出温度が25〜43℃、かつ95容量%留出温度が55〜100℃、オレフィン分が5容量%以上、ジエン価が0.3g/100g以下である軽質な分解ナフサ留分を前記(1)の脱硫工程で用いることが好ましい。
このような軽質な分解ナフサ留分は、当該分解ナフサ留分の原料油をジエン低減処理した後に分留して得たものであっても、あるいは前記分解ナフサ留分の原料油を分留した後にジエン低減処理して得たものであっても、あるいは分留とジエン低減処理を同時に行って得たものでもよい。
さらに、軽質な分解ナフサ留分を得る分留を行う前に、あるいは分留と同時に分解ナフサ留分の原料油又はジエン低減処理した分解ナフサ留分の原料油に対し、含まれる硫黄化合物の分子量を大きくする前処理を施しておくことが好ましく、こうすることによって、軽質な分解ナフサ留分に含まれる硫黄分を容易に低減しておくことができる。
【0013】
本発明の無鉛ガソリン組成物の好ましい製造方法は、このような軽質な分解ナフサ留分を前記(1)の工程で脱硫処理した後、前記(2)のブレンド工程において、10〜60容量%の軽質な脱硫分解ナフサ留分と90〜40容量%の他のガソリン基材とを混合し、リサーチ法オクタン価が93.0以上である無鉛ガソリン組成物の製造方法である。
【0014】
本発明による無鉛ガソリン組成物は、リサーチ法オクタン価が89.0以上、50容量%留出温度が105℃以下、オレフィン分が10容量%以上、全硫黄分が1質量ppm以下、及び全硫黄分に占めるチオフェン類硫黄化合物の割合が硫黄分として50質量%以上である。
また、好ましくは本発明の無鉛ガソリン組成物は、リサーチ法オクタン価が93.0以上である。さらに好ましくは、全オレフィン分に占める沸点範囲35〜100℃のオレフィン分が90容量%以上、全硫黄分に占めるチオフェン及び2−メチルチオフェンの合計量の割合が硫黄分として50質量%以上、及び/又は、チオール類の含有量が硫黄分として0.1質量ppm以下である。
【発明の効果】
【0015】
特に接触分解ガソリンや各種の分解ガソリンなどの分解ナフサ留分には、ジエン類が不可避的に含有される。ジエン類が含まれると、多孔質脱硫剤による処理において、ジエン類が多孔質脱硫剤に優先的に吸着し、硫黄を吸着(収着)する機能が阻害される。一方、本発明によれば、予めジエンを低減する処理を行い、ジエン価を0.3g/100g以下に制限しているので、高い硫黄収着機能を長時間持続することができる。すなわち、接触分解ガソリンをジエン除去した後、わずかな水素共存の下、硫黄収着機能をもつ多孔質脱硫剤によって処理して得た脱硫分解ナフサ留分と、硫黄分が10質量ppm以下の他のガソリン基材とを混合することによって、硫黄分1質量ppm以下の無鉛ガソリン組成物を製造することが可能となる。接触分解ガソリンなどの分解ナフサ留分中のチオフェン類硫黄化合物も除去することが可能なので、チオフェン類硫黄化合物を多く含む分解ナフサ留分などの軽質な分解ナフサ留分も脱硫処理が可能である。また、接触分解軽質ガソリンなどの軽質な分解ナフサ留分に多く含まれるオレフィン分はほとんど水素化されないので、脱硫処理に伴うオクタン価ロスを回避できる。したがって、従来得られている無鉛ガソリン組成物から他の性状をほとんど変えることなく硫黄分だけを1質量ppm以下まで減じることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、特定の性状を有する分解ナフサ留分を脱硫処理する脱硫工程、及び得られた脱硫分解ナフサ留分を、他のガソリン基材と混合するブレンド工程を含む硫黄分が1質量ppm以下、かつリサーチ法オクタン価が89.0以上である無鉛ガソリン組成物の製造方法である。なお、以下の説明において、分解ナフサ留分として、いわゆる流動接触分解ガソリン(FCCガソリン)を主体的に引用して説明するが、本発明はFCCガソリンに限定されるものでなく、その他の石油精製及び石油化学などのプロセス、装置から得られる製品、中間製品などで、例えば熱分解装置から生成する熱分解ナフサ、脱ろう装置から生成する脱ろうナフサ、ナフサクラッカーから生成する分解ナフサなどを分解ナフサ留分として用いることができる。要は、5容量%留出温度が25℃以上、かつ95容量%留出温度が210℃以下、オレフィン分が5容量%以上、ジエン価が0.3g/100g以下の分解ナフサ留分であればよい。したがって、いわゆるホール(whole)の分解ナフサ留分のほかに、それをさらに分留して得た軽質な分解ナフサ留分、あるいは重質な分解ナフサ留分であっても、前記条件を満足すればよい。なお、これらの分解ナフサ留分の5容量%留出温度は25〜130℃、及び95容量%留出温度は55〜210℃が好ましい。また、ジエン価が0.3g/100g以下のものを用いるために、分解ナフサ留分は、予め以下に詳述するジエンを低減する処理が施され、前記ジエン価を有するものを使用することが好ましい。
【0017】
〔ジエン低減処理〕
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法において、予めFCCガソリンのような分解ナフサ留分に対しジエン低減処理を行い、ジエン価が0.3g/100g以下である分解ナフサ留分を得る。ジエン価が0.1g/100g以下であると、なお一層好ましい。ジエン価が0.3g/100gを超えると、その後の脱硫工程に用いる硫黄収着機能をもつ多孔質脱硫剤の脱硫性能が低下し、特にチオフェン類硫黄化合物の脱硫が困難になる。脱硫性能の低下は、単位処理量における脱硫率の低下、あるいは所定の脱硫率を保持するための多孔質脱硫剤の再生頻度の増加によって知ることができる。したがって、ジエン化合物を低減する前処理を行ってから次の脱硫工程に供することが好ましい。ただし、このジエン低減処理工程においては、オレフィンが水素化されパラフィンに転化するとオクタン価が大きく低下するから、オレフィンが水素化されないように選択的なジエン低減処理をすることが好ましい。
【0018】
なお、ここでいうジエン価とはUOP326−82にて測定した値である。
また、ジエン低減処理において、用いる触媒と条件を選択することによって、硫黄分も同時に低減できる。そうすれば、収着機能をもった多孔質脱硫剤の寿命を延長させることが可能である。
【0019】
ジエン低減処理の方法は、ジエン低減触媒と接触分解ナフサ留分を水素の共存下で接触させ、ジエンをモノオレフィンに転化するか、あるいは、ジエンと共存する硫黄化合物とを反応させスルフィドに転化させる方法が好ましい。ジエン低減触媒としてはアルミナなどの無機多孔質担体に周期律表第8属の金属を少なくとも1種を担持した触媒が好ましく用いられる。さらには、硫黄を含む原料油に対して耐性があるニッケルまたはコバルトを含む触媒がなおいっそう好ましい。反応条件としては、接触分解ナフサ留分中のジエン価が0.3g/100g以下でありかつ、オレフィン水素化率が20%以下となるように設定する必要がある。ここで、オレフィン水素化率とは、処理前のオレフィン含有量を100%とした場合の、処理後のオレフィン含有量の低減率をいう。
なお、ジエン低減触媒と接触分解ナフサ留分を水素の共存下で接触させる好ましい反応条件は、反応温度40〜300℃、反応圧力0.0〜4.0MPa(ゲージ圧)、LHSV1.0〜10.0hr−1、H/OIL比1〜100NL/Lである。
【0020】
従来から石油精製においては、オレフィン中のジエンを選択的に水素化精製することが行われており、本発明においてジエンを低減する方法として適用できる。具体的には、IFP Selective Hydrogenationプロセス、Hules Selective Hydrogenationプロセスなどが好ましく用いられる(石油学会編石油精製プロセス、p.62、講談社サイエンティフィク、1998、参照)。
また、本発明においてジエンを低減する方法として、SHUプロセス(21st JPI Petroleum Refining Conference “Recent Progress in Petroleum Process Technology”, 37(2002))やCD Hydroプロセス(NPRA 2001 Annual Meeting, AM-01-39)も用いることができる。
【0021】
〔接触分解ガソリン〕
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法において、分解ナフサ留分として前述のように接触分解ガソリンが代表的に用いられる。この接触分解ガソリンを製造するプロセスは、接触分解装置、原料油、運転条件を特に限定するものでなく、公知の任意の製造工程を採用できる。接触分解装置は、無定形シリカアルミナ、ゼオライトなどの触媒を使用して、軽油から減圧軽油までの石油留分の他、重油間接脱硫装置から得られる間脱軽油、重油直接脱硫装置から得られる直脱重油、常圧残さ油などを接触分解して高オクタン価ガソリン基材を得る装置である。例えば石油学会編「新石油精製プロセス」に記載のあるUOP接触分解法、フレキシクラッキング法、ウルトラ・オルソフロー法、テキサコ流動接触分解法などの流動接触分解法、RCC法、HOC法などの残油流動接触分解法などがある。
【0022】
分解ナフサ留分中の硫黄化合物を低減するためには、接触分解装置の原料油として軽油から減圧軽油までの石油留分、特にその硫黄分を4000質量ppm以下、より好ましくは2000質量ppm以下、さらには1000質量ppm以下、特には500質量ppm以下に水素化精製などにより低減した留分を用いることが好ましい。
【0023】
〔脱硫工程〕
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法における脱硫工程では、ジエン価が0.3g/100g以下である分解ナフサ留分を脱硫処理して、次のブレンド工程に供する脱硫分解ナフサ留分を得る。脱硫工程で得られる脱硫分解ナフサ留分の硫黄分を、2質量ppm以下に脱硫することが好ましく、1質量ppm以下、さらには0.5質量ppm以下にすることができるとなお一層好ましい。脱硫工程においては、硫黄化合物のうちチオフェン類硫黄化合物が最も残留しやすい硫黄化合物であるため、脱硫分解ナフサ留分中の全硫黄分に占めるチオフェン類硫黄化合物の割合は硫黄分として50質量%以上、さらには70質量%以上であるのが好ましい。なお、ここでいうチオフェン類硫黄化合物とは、チオフェン、2−メチルチオフェン、2,5−ジメチルチオフェン等の分子内にチオフェン骨格を含む硫黄化合物のことである。また、脱硫接触分解ガソリンのオレフィン分は5〜60容量%、特には20〜40容量%であることが好ましい。
【0024】
脱硫工程における脱硫処理の方法は、水素の共存下で収着機能をもった脱硫剤と分解ナフサ留分を接触させる方法が好ましい。水素化脱硫触媒と水素の存在下で、分解ナフサ留分を水素化精製処理する方法では、オレフィンが水素化されて得られるガソリン基材のRONが低下しやすく、また水素化脱硫によって生成する硫化水素がオレフィンと反応してチオール類を再生成しやすいため、十分に脱硫処理できないので不適切である。収着機能をもった脱硫剤を用いると有機硫黄化合物から除去される硫黄が脱硫剤上に固定化されオレフィンと反応してチオール類を再生成することがないので好ましい。
【0025】
硫黄の収着機能をもった脱硫剤と分解ナフサ留分を接触させる方法を用いる場合の脱硫剤としては、硫黄化合物に対する収着機能を有するものであれば特に限定はない。銅、亜鉛、ニッケル及び鉄から選ばれる少なくとも1種を含む多孔質脱硫剤が好ましく用いられる。好ましい脱硫剤は、銅などの金属成分を0.5〜85質量%、特には1〜80質量%含有する。脱硫剤の製造方法は特に限定されないが、アルミナのような多孔質担体に銅などの金属成分を含浸、担持して焼成する製造方法や、共沈法によって銅などの金属成分とアルミニウムなどの成分とを沈殿させて成形、焼成等の工程を経る製造方法が、好ましい方法として挙げられる。また、成形、焼成された脱硫剤にさらに金属成分を含浸、担持して、焼成してもよい。脱硫剤は、焼成されたものをそのまま用いてもよいし、水素雰囲気下で処理して用いてもよい。脱硫剤の比表面積は、好ましくは30m/g以上、特には50〜600m/gである。脱硫剤の組成や製造方法は特に限定されないが、特許第3324746号公報、特許第3230864号公報および特開平11-61154号公報に開示されているような脱硫剤が好ましいものとして挙げられる。
【0026】
本発明の硫黄収着機能を持った多孔質脱硫剤とは、有機硫黄化合物中の硫黄原子を脱硫剤に固定化するとともに、有機硫黄化合物中の硫黄原子以外の炭化水素残基については、有機硫黄化合物中の炭素−硫黄結合が開裂することによって脱硫剤から脱離させる機能をもった多孔質脱硫剤をいう。この炭化水素残基が脱離する際には、硫黄との結合が開裂した炭素に、系内に存在する水素が付加する。したがって、有機硫黄化合物から硫黄原子が除かれた炭化水素化合物が生成物として得られることになる。ただし、硫黄原子が除かれた炭化水素化合物が、さらに水素化、異性化、分解等の反応を受けた生成物を与えることがあっても構わない。一方、硫黄は脱硫剤に固定化されるため、水素化精製とは異なり、生成物として硫化水素などの硫黄化合物を発生しない。
【0027】
脱硫処理は、バッチ式で行っても、流通式で行っても構わないが、脱硫剤を充填した固定床脱硫塔に分解ナフサ留分を流通させて行うことが、脱硫剤と得られる脱硫分解ナフサ留分の分離が簡便にできるので好ましい。脱硫処理する温度は、0〜400℃の範囲から選ぶことができ、好ましくは20〜380℃の範囲から選ぶとよい。脱硫剤と接触させただけでは脱硫されにくいチオフェン類の脱硫を促進するために、水素を共存させて脱硫処理を行ってもよい。ただし、オレフィンが水素化され、得られるガソリン基材のRONが低下することを避けるため、水素分圧は1MPa未満とすることが好ましく、さらには0.6MPa未満とすることが好ましい。固定床流通式で脱硫剤と分解ナフサ留分を接触させて脱硫処理を行う場合、LHSVは、0.01〜10000hr−1の範囲から選ぶことが好ましい。
【0028】
プレミアムガソリンを製造する場合、用いるガソリン基材は高いオクタン価を有することが望ましい。また、高いオクタン価を有するガソリン基材は、レギュラーガソリンを製造するブレンドの際にも、ブレンドのフレキシビリティを広げる上で好ましい。分解ナフサ留分をさらに分留して、比較的高オクタン価の軽質な分解ナフサ留分を、上記のジエン低減処理、脱硫した物を、他のガソリン基材と混合して本発明の無鉛ガソリン組成物を製造することができる。
【0029】
分留及びジエン低減処理後の軽質な分解ナフサ留分は、5容量%留出温度が25〜43℃、かつ95容量%留出温度が55〜100℃、オレフィン分が5容量%以上、ジエン価が0.3g/100g以下であるであることが好ましく、この軽質な分解ナフサ留分は、ジエン低減処理した後に分留して得たものであっても、分留した後にジエン低減処理して得たものであっても、あるいはジエン低減処理と分留を同時に行って得たものであってもよい。また、分留に先立ってあるいは分留中に、硫黄化合物の分子量を大きくする前処理を施しておくと、大きな分子量になった硫黄分は高沸点の重質な分解ナフサ留分中に移動して、軽質な分解ナフサ留分中の硫黄分を簡単な操作で少なくすることができる。以下、前記分留の工程、及び硫黄化合物の分子量を大きくする前処理の工程についてより詳しく説明する。
【0030】
〔分留工程〕
本発明の無鉛ガソリン組成物の製造方法における分留工程では、接触分解ガソリンを分留して5容量%留出温度が25.0〜43.0℃であって、かつ95容量%留出温度が55.0〜100.0℃である接触分解軽質ガソリンなどの軽質な分解ナフサ留分を得る。5容量%留出温度が25.0℃未満であると、無鉛ガソリン組成物の蒸気圧が高くなる。95容量%留出温度が80.0℃、特に100.0℃を超えると、脱硫接触分解軽質ガソリンの硫黄分が高くなる。5容量%留出温度が43.0℃を超えたり、95容量%留出温度が55.0℃未満であったりすると、無鉛ガソリン組成物の蒸留性状の調整が困難になったり、分留工程で得られる接触分解軽質ガソリンの得率が低下し無鉛ガソリン組成物のコストが高くなったりする。
【0031】
分留工程で得られる接触分解軽質ガソリンは、チオフェン類硫黄化合物を硫黄分として0.1〜50質量ppm含むことが好ましい。20質量ppm以下、さらには10質量ppm以下であるとなお一層好ましい。チオフェン類硫黄化合物は、後の工程での脱硫処理で得られる脱硫接触分解軽質ガソリン中に残留しやすい硫黄化合物であるため、分留工程で得られる接触分解軽質ガソリンが、硫黄分として50質量ppmを超えるチオフェン類硫黄化合物を含んでいると、脱硫工程において、脱硫剤の運転サイクルが短くなり好ましくない。分留工程で得られる接触分解軽質ガソリンが、硫黄分として0.1質量ppm未満のチオフェンしか含まないようにすることは、該接触分解軽質ガソリンの得率を低下させるので、好ましくない。
【0032】
また、分留工程で、接触分解ガソリンを分留して軽質な分解ナフサ留分を得ると、当然、比較的重質な分解ナフサ留分も製造することになる。このとき、本発明は重質な分解ナフサ留分を排除するものではなく、5容量%留出温度が25℃以上、好ましくは25〜130℃、かつ95容量%留出温度が210℃以下、好ましくは55〜210℃、オレフィン分が5質量%以上、ジエン価が0.3g/100g以下を満足すれば、本発明の無鉛ガソリン組成物、特に比較的低オクタン価のガソリン組成物の製造に低コストで、好適に用いることができる。
通常、接触分解重質ガソリンは接触分解軽質ガソリンよりも硫黄分が多く、特に接触分解重質ガソリン中の硫黄分が50質量ppm以上の場合は、ジエンだけを除去して、水素の共存下で収着機能をもった脱硫剤による処理を行うと、脱硫剤の寿命が著しく短くなる。また、接触分解重質ガソリンは比較的オレフィン量が少ないため、高圧の水素存在下における水素化脱硫でも硫黄分5質量ppm程度までならば、比較的オクタン価ロスを損なうことなく脱硫が可能である。したがって、高圧の水素共存下における水素化脱硫によって、オレフィン水素化率を20%以下、好ましくは10%以下に抑えながら接触分解重質ガソリン中の硫黄分を20質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下、さらには5質量ppm以下に低減した後、水素の共存下で収着機能をもった脱硫剤による処理を行い脱硫することが好ましい。なお、ジエン量の低減については、水素化脱硫の際、脱硫と同時に行うことができる。好ましくはジエン重合等による水素化脱硫触媒や水素化脱硫装置への悪影響を抑制するため、予めジエン低減処理を行うのがよい。
【0033】
チオフェン類硫黄化合物の中でもとりわけ、2位にアルキル基をもつチオフェン類硫黄化合物は、脱硫工程で得られる脱硫接触分解軽質ガソリン中に最も残留しやすい硫黄化合物である。接触分解軽質ガソリン中においては、チオフェン類硫黄化合物として主にチオフェン、2−メチルチオフェン、3−メチルチオフェンが含まれるが、2位にアルキル基をもつチオフェン類硫黄化合物としては2−メチルチオフェンが該当する。したがって、分留工程において、2−メチルチオフェンを低減しておくことが好ましい。このためには、分留時の95容量%留出温度を100.0℃、特には85.0℃、さらには75℃以下とすることが好ましい。分留時の95容量%留出温度を75℃以下まで下げると2−メチルチオフェンだけでなく3−メチルチオフェンも接触分解軽質ガソリン中にほとんど含まれなくなるため、このとき含まれるチオフェン類硫黄化合物は主にチオフェンとなる。したがって、分留時の95容量%留出温度が75℃以下の場合には、脱硫工程で得られる脱硫接触分解軽質ガソリン中に最も残留しやすい硫黄化合物はチオフェンとなる。
【0034】
〔硫黄化合物の分子量を大きくする前処理〕
分留工程に供する接触分解ガソリンについて、含まれる硫黄化合物の分子量を大きくする前処理を行って分留工程に供するか、あるいは分留と同時に硫黄化合物の分子量を大きくする前処理を行うことが好ましい。チオール類などの硫黄化合物の分子量を選択的に大きくすることにより、その含硫黄化合物の沸点が高くなるため、分留工程において、含硫黄化合物を接触分解重質ガソリン中に移行することができ、分留工程で得られる接触分解軽質ガソリンの硫黄分を低減することができる。具体的には、接触分解軽質ガソリンのチオール類の含有量を硫黄分として合計0.1質量ppm以下にすると一層好ましい。
【0035】
従来から石油精製においては、チオール類を処理して製品を無臭化するためのスイートニングが行われるが、酸化法や酸化抽出法によって、チオール類をジスルフィド類に転化する公知の方法は、本発明において硫黄化合物の分子量を大きくする方法として適用できる。具体的には、マーロックス法、ドクター法などが好ましく用いられる(産業図書株式会社、石油精製技術便覧第3版、1981、参照)。
【0036】
また、本発明において硫黄化合物の分子量を大きくする方法として、分解ナフサ留分に含まれる硫黄化合物とオレフィン類とを反応させる方法も好適に用いられる。具体的には、チオール類とオレフィン類とを反応させる方法(特開2001-55584号公報参照)やチオール類やチオフェン類をオレフィン類と反応させる方法(“Production of Low Sulfur Gasoline and Diesel Fuels: Tier 2 and Beyond”, Petroleum Refining Technology Seminar August 2001, 11-18、参照)が挙げられる。また、特に好ましくは硫黄化合物の分子量を大きくする処理とジエン低減処理を同時にできるプロセスを用いるのがよい。具体的には、前記のSHUプロセスが好適に用いられる。さらには、分留を行いながら、硫黄化合物の分子量を大きくする処理とジエン低減処理を同時にできるプロセスを用いるのがいっそう好ましい。具体的には、前記のCD Hydroプロセスが好適に用いられる。
【0037】
〔ブレンド工程に用いられる他のガソリン基材〕
ブレンド工程で混合される他のガソリン基材としては、接触改質ガソリン基材、アルキレートガソリン基材、直留ナフサを脱硫処理した基材、異性化ガソリン基材、ナフサクラッカーから生成したナフサ基材、トルエン、キシレン及びMTBE、エチルt−ブチルエーテル(ETBE)、t−アミルエチルエーテル(TAEE)、エタノール、メタノール等の含酸素ガソリン基材等、公知のガソリン基材を用いることができる。ブレンド工程で混合される他のガソリン基材は、硫黄分が10質量ppm以下であり、好ましくは3質量ppm以下、さらには1質量ppm以下、特には0.5質量ppm以下であることが好ましい。他のガソリン基材の硫黄分が10質量ppmを超えると、そのガソリン基材のブレンド工程での配合量が制約され、好ましくない。
【0038】
好ましい配合量について各リサーチ法オクタン価別に説明する。例えば、リサーチ法オクタン価が96〜102の場合の好ましい配合量は、脱硫分解ナフサ留分を25〜80容量%、特には30〜50容量%、接触改質ガソリン基材を25〜50容量%、特には30〜45容量%、アルキレートガソリン基材を10〜40容量%、特には15〜30容量%である。
リサーチ法オクタン価が93〜96の場合の好ましい配合量は、脱硫分解ナフサ留分を50〜90容量%特には60〜80容量%、接触改質ガソリン基材を5〜35容量%、特には10〜25容量%、アルキレートガソリン基材を10〜25容量%、特には5〜15容量%である。
リサーチ法オクタン価が89〜93の場合の好ましい配合量は、脱硫分解ナフサ留分を55〜90容量%、特には65〜85容量%、接触改質ガソリン基材を0〜20容量%、特には5〜15容量%、アルキレートガソリン基材を0〜15容量%、特には0〜10容量%である。
【0039】
〔添加剤〕
さらに、本発明のガソリン組成物には、当業界で公知の燃料油添加剤の1種又は2種以上を必要に応じて配合することができる。これらの配合量は適宜選べるが、通常は添加剤の合計配合量を0.1質量%以下に維持することが好ましい。本発明のガソリンで使用可能な燃料油添加剤を例示すれば、フェノール系、アミン系などの酸化防止剤、シッフ型化合物、チオアミド型化合物などの金属不活性化剤、有機リン系化合物などの表面着火防止剤、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどの清浄分散剤、多価アルコール又はそのエーテルなどの氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステルなどの助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの帯電防止剤、アゾ染料などの着色剤を挙げることができる。
【0040】
〔無鉛ガソリン組成物〕
本発明の無鉛ガソリン組成物は、リサーチ法オクタン価が89.0以上、50容量%留出温度が105℃以下で、オレフィン分が10容量%以上、全硫黄分が1質量ppm以下、全硫黄分に占めるチオフェン類硫黄化合物の割合が硫黄分として50〜100質量%である。好ましくは、リサーチ法オクタン価の下限が、93.0以上、特には96.0以上、上限が通常102.0以下、全オレフィン分に占める沸点範囲35〜100℃のオレフィン分が90容量%以上、全硫黄分に占めるチオフェン及び2−メチルチオフェンの合計量の割合が硫黄分として50質量%以上、さらには70質量%以上、チオール類の含有量が硫黄分として0.1質量ppm以下である。
【0041】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
ガソリン基材の調製1
アルミナにニッケルを20質量%担持した触媒5cmをn−ヘプタンにジメチルジスルフィドを2質量%溶かした溶液を用い300℃にて硫化した後、反応温度250℃、反応圧力常圧、液空間速度(LHSV)4hr-1、H/Oil比340NL/Lの条件のもと、中東系原油の減圧軽油留分を水素化精製処理したものを主たる原料油とする流動接触分解で得られた接触分解ガソリンAを通油してジエン低減処理を行い、接触分解ガソリンBを得た。共沈法にて調製した銅亜鉛アルミニウム複合酸化物(銅含有量35質量%、亜鉛含有量35質量%、アルミニウム含有量5質量%)5cmを反応管に充填し、これに水素ガスを5cm/min、温度200℃の条件にて16hr流通させ、還元処理を行った。その後、この反応管に接触分解ガソリンBを、反応温度100℃、反応圧力常圧、LHSV2.0hr-1、H/Oil比0.06NL/Lの条件のもと20時間通油して収着機能をもった脱硫剤によって脱硫した脱硫接触分解ガソリンCを得た。接触分解ガソリンA、接触分解ガソリンB及び脱硫接触分解ガソリンCの性状は、表1のとおりであった。
【0042】
なお、密度はJIS K 2249、蒸気圧はJIS K 2258、蒸留性状はJIS K 2254、ジエン価はUOP326−82に準拠して測定した。硫黄分は、ASTM D 5453(紫外蛍光法)に準拠して測定した。硫黄化合物の含有量(硫黄換算)は、化学発光によって硫黄化合物を選択的に検出、定量するANTEK製硫黄化学発光検出器を備えた島津製作所製ガスクロマトグラフ装置を用いて、ガスクロマトグラフ法で測定した。炭化水素成分組成及びRONは、ヒューレットパッカード社製PIONA装置を用いて、ガスクロマトグラフ法で測定した。
【0043】
【表1】

【0044】
接触分解ガソリンAはジエン価0.6g/100gであったが、接触分解ガソリンBはジエン価が0.1g/100gとなりジエンがほぼ除去されていた。接触分解ガソリンBは5.0質量ppmの硫黄分を含んでいたが、脱硫剤による処理によって硫黄分0.2質量ppmの脱硫接触分解ガソリンCが得られた。得られた脱硫接触分解ガソリンCは、チオフェン類を0.2質量ppm含んでいたが、その他の硫黄化合物は含んでいなかった。
【0045】
ガソリン基材の調製2
前記ガソリン基材の調製1と同様にして中東系原油から得られた別のロットの接触分解ガソリンDを軽質分と重質分に分留し、接触分解軽質ガソリンEを得た。この接触分解軽質ガソリンEを用い、反応温度を200℃、LHSVを2hr-1とした以外、前記ガソリン基材の調製1と同様にジエン低減処理を行い、接触分解軽質ガソリンFを得た。次いで、ガソリン基材の調製1と全く同じ方法、条件で、接触分解軽質ガソリンFを脱硫して脱硫接触分解軽質ガソリンGを得た。接触分解ガソリンD、接触分解軽質ガソリンE、接触分解軽質ガソリンF及び脱硫接触分解軽質ガソリンGの性状は、表2のとおりであった。
【0046】
【表2】

【0047】
接触分解軽質ガソリンEはジエン価1.6g/100gであったが、接触分解軽質ガソリンFはジエン価が0.1g/100gとなりジエンがほぼ除去されていた。接触分解軽質ガソリンFは14質量ppmの硫黄分を含んでいたが、脱硫剤による処理によって硫黄分0.2質量ppmの脱硫接触分解軽質ガソリンGが得られた。得られた脱硫接触分解軽質ガソリンGは、2−メチルチオフェンを0.2質量ppm含んでいたが、チオフェン及び3-メチルチオフェンは含んでいなかった。
【0048】
ガソリン基材の調製3
接触分解ガソリンDをスイートニング処理し接触分解ガソリンHを得た。接触分解ガソリンHを軽質分と重質分に分留し、接触分解軽質ガソリンIを得た。ガソリン基材の調製2と同じ方法によって、接触分解軽質ガソリンIに対してジエン低減処理を行い、接触分解軽質ガソリンJを得た。この接触分解軽質ガソリンJを、ガソリン基材の調製1にて調製した銅亜鉛複合酸化物を用い、ガソリン基材の調製1と同じ条件にて脱硫処理を行い、脱硫接触分解軽質ガソリンKを得た。接触分解ガソリンH、接触分解軽質ガソリンI、ジエンを除去した接触分解軽質ガソリンJ及び脱硫接触分解軽質ガソリンKの性状は、表3のとおりであった。
【0049】
【表3】

【0050】
接触分解ガソリンDに含まれていた軽質チオール類は、スイートニング処理によって、より高分子量のジスルフィド類に転化していた。接触分解軽質ガソリンIはジエン価1.6g/100gであったが、接触分解軽質ガソリンJはジエン価が0.1g/100gとなりジエンがほぼ除去されていた。接触分解軽質ガソリンJは、11質量ppmの硫黄分を含んでいたが、脱硫剤で処理することにより、硫黄分0.2質量ppmの脱硫接触分解軽質ガソリンKが得られた。得られた脱硫接触分解軽質ガソリンKは、2−メチルチオフェンを0.2質量ppm含んでいたが、チオフェン及び3-メチルチオフェンを含んでいなかった。分留する前にスイートニングすることによってチオール類はジスルフィドとなり重質分に移行するため、接触分解軽質ガソリン中の硫黄分はスイートニングしない場合の21質量ppmと比べて11質量ppmに低減できる。これにより、収着剤の負荷が低減できるため、収着剤を長寿命化できると考えられる。
【0051】
ガソリン基材の調製4
接触分解ガソリンA及び接触分解軽質ガソリンEをそれぞれガソリン基材の調製1にて調製した銅亜鉛複合酸化物を用い、ガソリン基材の調製1と同じ条件にて脱硫処理を行い、脱硫接触分解ガソリンL及び脱硫接触分解軽質ガソリンMを得た。脱硫接触分解ガソリンL及び脱硫接触分解軽質ガソリンMの性状は、表4のとおりであった。
【0052】
【表4】

【0053】
脱硫接触分解ガソリンLには3.6質量ppmの硫黄分が含まれており、また、脱硫接触分解軽質ガソリンMは11質量ppmの硫黄分が含まれており、ともに、ジエンを除去しないで収着処理を行うと特にチオフェン類硫黄化合物の除去が困難であることが明らかである。
【0054】
ガソリン基材の調製5
接触分解以外の公知技術で得られるガソリン基材として、脱硫直留ナフサN、接触改質中質油O、接触改質重質油P、アルキレートガソリンQ、ETBE基材Rがあり、その性状は表5に示すとおりである。接触改質中質油Oは、接触改質ガソリンから、トルエンを多く含む留分を蒸留分離したものである。接触改質重質油Pは、接触改質ガソリンから、炭素数9以上であって11未満の芳香族を蒸留分離したものである。
【0055】
【表5】

【実施例1】
【0056】
脱硫直留ナフサNを10.0容量%、接触改質中質油Oを5.0容量%、接触改質重質油Pを5.0容量%、アルキレートガソリンQを5.0容量%と、ガソリン基材の調製1記載の脱硫接触分解ガソリンCを75.0容量%配合し、無鉛ガソリン組成物Sを調製した。また、添加剤として、着色剤(シラド化学製CL−53)2mg/L、酸化防止剤(住友化学工業製スミライザー4ML)20mg/L、清浄分散剤(ビーエーエスエフ製Keropur AP−95)100mg/Lをそれぞれ添加した。なお、この添加剤の添加は、下記の実施例及び比較例の無鉛ガソリン組成物の調製においても全く同じ方法で行った。調製した無鉛ガソリン組成物Sの性状を表6に示す。
【実施例2】
【0057】
また、脱硫直留ナフサNを3.5容量%、接触改質中質油Oを19.0容量%、接触改質重質油Pを15.0容量%、アルキレートガソリンQを23.0容量%と、ガソリン基材の調製3記載の脱硫接触分解軽質ガソリンKを39.5容量%配合し、無鉛ガソリン組成物Tを調製した。無鉛ガソリン組成物Tの性状を表6に示す。
【実施例3】
【0058】
脱硫直留ナフサNを6.0容量%、接触改質中質油Oを8.0容量%、接触改質重質油Pを5.0容量%、アルキレートガソリンQを8.0容量%、ETBE基材Rを6.0容量%と、ガソリン基材の調製1記載の脱硫接触分解ガソリンCを67.0容量%配合し、無鉛ガソリン組成物Uを調製した。無鉛ガソリン組成物Uの性状を表6に示す。
【実施例4】
【0059】
脱硫直留ナフサNを6.0容量%、接触改質中質油Oを9.0容量%、接触改質重質油Pを8.0容量%、アルキレートガソリンQを10.0容量%と、ガソリン基材の調製1記載の脱硫接触分解ガソリンCを57.0容量%、ガソリン基材の調製3記載の脱硫接触分解軽質ガソリンKを10.0容量%配合し、無鉛ガソリン組成物Vを調製した。無鉛ガソリン組成物Vの性状を表6に示す。
【0060】
【表6】

【比較例1】
【0061】
脱硫接触分解ガソリンCを用いる代わりに、接触分解ガソリンAを用いた以外は、実施例1の無鉛ガソリン組成物Sの場合と全く同じ処方で、無鉛ガソリン組成物Wを調製した。無鉛ガソリン組成物Wの性状を表6に示す。
【比較例2】
【0062】
ガソリン基材の調製3記載の脱硫接触分解軽質ガソリンKを用いる代わりに、ガソリン基材の調製3記載の接触分解軽質ガソリンIを用いた以外は、実施例2の無鉛ガソリン組成物Tの場合と全く同じ処方で、無鉛ガソリン組成物Xを調製した。無鉛ガソリン組成物Xの性状を表6に示す。
【0063】
表6によれば、本発明によって提供される無鉛ガソリン組成物Sは、従来技術によって提供される無鉛ガソリン組成物Wと比較して、他の性状をほとんど変えることなく、硫黄分を1質量ppm以下に低減できることが明らかである。また、本発明によって提供される無鉛ガソリン組成物Tも対応する無鉛ガソリン組成物Xと比較して、他の性状をほとんど変えることなく、硫黄分を1質量ppm以下に低減できる。本発明によって提供される無鉛ガソリン組成物U、Vも硫黄分を1質量ppm以下に低減できる。
【0064】
ガソリン基材の調製6
上記のガソリン基材の調製1とは異なるロットの中東系原油をガソリン基材の調製1と同様に処理して得られた接触分解ガソリンAAをスイートニング処理した後、軽質分と重質分に分留し、重質分を接触分解重質ガソリンBBとして得た。この接触分解重質ガソリンBBをコバルト、モリブデンおよびリンをアルミナに担持した触媒(コバルト含有量2.4質量%、モリブデン含有量9.4質量%、リン含有量2.0質量%)を用い、反応温度220℃、反応圧力1.0MPa、LHSV4.0hr−1、H/Oil比307NL/Lの条件下にてジエン低減処理を行い、ジエンを除去してジエン価が0.6g/100gから0.1g/100g未満の接触分解重質ガソリンCCを得た。この、ジエン除去接触分解重質ガソリンCCを、H/Oil比を0.18NL/Lとした以外はガソリン基材の調製1と全く同じ方法、条件で脱硫し、硫黄分0.9質量ppmの脱硫接触分解重質ガソリンDDを得た。各ガソリン(接触分解ガソリンAA〜脱硫接触分解重質ガソリンDD)の性状を表7に示す。
【0065】
ガソリン基材の調製7
前記のガソリン基材の調製6で用いた接触分解重質ガソリンBBを、ジエン低減処理を行うことなく、H/Oil比を0.18NL/Lとした以外はガソリン基材の調製1と全く同じ方法、条件で脱硫し、脱硫接触分解重質ガソリンEEを得た。脱硫接触分解重質ガソリンEEの性状を表7に示す。
【0066】
【表7】

【実施例5】
【0067】
脱硫直留ナフサNを10.0容量%、接触改質中質油Oを7.0容量%、接触改質重質油Pを5.0容量%、アルキレートガソリンQを6.0容量%と、ガソリン基材の調製3記載の脱硫接触分解軽質ガソリンKを37.0容量%、及びガソリン基材の調製6記載の脱硫接触分解重質ガソリンDDを35.0容量%配合し、無鉛ガソリン組成物Yを調製した。無鉛ガソリン組成物Yの性状を表6に示す。
【比較例3】
【0068】
脱硫接触分解重質ガソリンDDの代わりにガソリン基材の調製7記載の脱硫接触分解重質ガソリンEEを用いた以外は、実施例5と全く同様にして無鉛ガソリン組成物Zを調製した。無鉛ガソリン組成物Zの性状を表6に示す。
【0069】
表7で、ガソリン基材の調製6の脱硫接触分解重質ガソリンDDとガソリン基材の調製7の脱硫接触分解重質ガソリンEEとを比較すると、高いジエン価、高い硫黄分のままで収着機能をもった脱硫剤によって脱硫しても硫黄分を1質量ppm以下とするのは非常に困難であることが分かる。したがって、ジエン低減処理を行った後に収着機能をもった脱硫剤によって脱硫した脱硫接触分解重質ガソリンDDを、その他の低硫黄のガソリン基材と共に用いて、硫黄分が1質量ppm以下で、十分な運転特性を保持した無鉛ガソリン組成物を容易に調製できることは、表6に無鉛ガソリン組成物Yとして示すとおりである。
【0070】
[参考例]
ガソリン基材の調製1に記したものと同じ銅亜鉛アルミニウム複合酸化物(銅含有量35質量%、亜鉛含有量35質量%、アルミニウム含有量5質量%)5cmを反応管に充填し、これに水素ガスを5cm/minの条件にて16hr流通させ、還元処理を行った。その後、この反応管にチオフェンを263質量ppm(硫黄分として100質量ppm)含むトルエン溶液を、反応温度100℃、反応圧力常圧、LHSV2.0hr−1、H/Oil比0.18NL/Lの条件のもと通油し、表8に示す生成物を得た。
【0071】
【表8】

【0072】
表から、水素共存下で銅亜鉛アルミニウム複合酸化物を用いた処理によって、原料油中のチオフェンから硫黄が除去され、チオフェン中の硫黄原子以外の炭化水素残基に由来する炭化水素が生成物として得られる一方、硫化水素を生成しておらず、銅亜鉛アルミニウム複合酸化物が本発明の硫黄収着機能をもった多孔質脱硫剤として作用したことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、分解ガソリン留分をジエン除去した後、わずかな水素共存の下、硫黄収着機能をもつ多孔質脱硫剤によって処理して、硫黄分を低減し、オレフィン分を残し、脱硫処理に伴うオクタン価ロスを回避して得た脱硫分解ナフサ留分と、硫黄分が10質量ppm以下の他のガソリン基材とを混合する硫黄分1質量ppm以下の無鉛ガソリン組成物である。よって、従来得られている無鉛ガソリン組成物から他の性状をほとんど変えることなく硫黄分だけを1質量ppm以下まで減じることができた。したがって、本発明の無鉛ガソリン組成物は、高い運転性能を維持するとともに、環境負荷の少ない自動車燃料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5容量%留出温度が25℃以上、かつ95容量%留出温度が210℃以下、オレフィン分が5質量%以上、ジエン価が0.3g/100g以下である分解ナフサ留分を脱硫処理する脱硫工程と、及び得られた脱硫分解ナフサ留分を、他のガソリン基材と混合するブレンド工程とを含む、硫黄分が1質量ppm以下、かつリサーチ法オクタン価が89.0以上である無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項2】
分解ナフサ留分の原料油に対し、予めジエン低減触媒を接触させてジエン低減処理を行う工程を含む請求項1に記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項3】
ジエン低減触媒が、周期律表第8族元素から選ばれる少なくとも1種の金属を含む請求項2に記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項4】
ジエン低減触媒に含まれる少なくとも1種の金属が、ニッケルまたはコバルトである請求項3に記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項5】
脱硫処理が、硫黄収着機能をもった多孔質脱硫剤と分解ナフサ留分とを水素分圧1MPa以下の水素の共存下で接触させることである請求項1〜4のいずれかに記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項6】
多孔質脱硫剤が、銅、亜鉛、ニッケル及び鉄から選ばれる少なくとも1種を含むものである請求項5に記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項7】
ブレンド工程において、10〜90容量%の脱硫分解ナフサ留分と90〜10容量%の他のガソリン基材とを混合する請求項1〜6のいずれかに記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項8】
分解ナフサ留分が、5容量%留出温度が25〜43℃、かつ95容量%留出温度が55〜100℃、オレフィン分が5質量%以上、ジエン価が0.3g/100g以下である軽質な分解ナフサ留分である請求項1〜7のいずれかに記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項9】
軽質な分解ナフサ留分が、当該分解ナフサ留分の原料油をジエン低減処理した後に分留して得たものであるか、あるいは前記分解ナフサ留分の原料油を分留した後にジエン低減処理して得たものであるか、あるいは前記分解ナフサ留分の原料油の分留とジエン低減処理を同時に行って得たものである請求項8に記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項10】
軽質な分解ナフサ留分を得る分留を行う前に、あるいは分留と同時に分解ナフサ留分の原料油又はジエン低減処理した分解ナフサ留分の原料油に対し、含まれる硫黄化合物の分子量を大きくする前処理を行う請求項9に記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項11】
ブレンド工程において、10〜60容量%の軽質な脱硫分解ナフサ留分と90〜40容量%の他のガソリン基材とを混合し、リサーチ法オクタン価が93.0以上である請求項8〜10のいずれかに記載の無鉛ガソリン組成物の製造方法。
【請求項12】
リサーチ法オクタン価が89.0以上、50容量%留出温度が105℃以下、オレフィン分が10容量%以上、全硫黄分が1質量ppm以下、全硫黄分に占めるチオフェン類硫黄化合物の割合が硫黄分として50質量%以上である無鉛ガソリン組成物。
【請求項13】
リサーチ法オクタン価が93.0以上である請求項12に記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項14】
全オレフィン分に占める沸点範囲35〜100℃のオレフィン分が90容量%以上である請求項13に記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項15】
全硫黄分に占めるチオフェン及び2−メチルチオフェンの合計量の割合が硫黄分として50質量%以上である請求項13に記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項16】
チオール類の含有量が硫黄分として0.1質量ppm以下である請求項12〜15のいずれかに記載の無鉛ガソリン組成物。

【国際公開番号】WO2005/044959
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515277(P2005−515277)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016115
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】