説明

無電極放電紫外線照射装置を用いた液体処理装置

【課題】 効率的に放電管の全長にわたってほぼ均一に放電を生起させることのできる無電極放電紫外放射装置を備えた高効率の液体処理装置の提供。
【解決手段】 被処理液体の流入口から流出口に至る処理液体流路に配設されて前記流路を通る処理液体に対して紫外線を照射する放電管を有する液体処理装置において、前記放電管を内部を貫通する空洞部を有してなる筒状に形成し、該空洞部内に誘導コイルを巻き回したフェライトコアを配置する。誘導コイルは複数あって、各誘導コイルは放電管の長手方向に沿って分散してフェライトコアに配設される。複数の誘導コイルを分散して巻き回したフェライトコアの外周を囲むように放電管を配置したので、高い周波数でコイルを励磁する必要がなく、また放電を放電管の一部に集中させることなく放電管全長にわたって均一的に生起させることができる。更に、フェライトコアを冷却する手段を講ずる必要が無く簡便な構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導コイルの高周波励起に応じて紫外線放射放電管から紫外線を照射する無電極の放電紫外線照射装置を用いた液体処理装置に関する。特に、効率的に放電管の全長にわたってほぼ均一に放電を生起させ、被処理液体を効率的に処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から排水路中や小川などに直接的に紫外線放射装置を浸漬設置することで、殺菌や有機物除去と言った液体処理を行う液体処理装置が知られている。また半導体や液晶などの製造に不可欠な超純水製造過程において、微量の有機物を除去するために紫外線放射装置を用いた液体処理装置がある。この紫外線放射装置としては、蛍光ランプのような構成で管材料を紫外線透過性の石英管などに変更したものが用いられている。
【0003】
ところで、近年では寿命の長い無電極放電管が一般照明用として実用化されている。この無電極の放電紫外線照射装置としては、従来から誘導コイルを巻き回したフェライトコアを紫外線放射放電管(以下、単に放電管と呼ぶ)の近傍に配置しておき、当該コイルに対し高周波電流(又は高周波電圧)を印加して前記放電管内に環状電界を誘起することにより、前記放電管から紫外線を発生させて照射させるようにしたものが知られている(例えば下記に示す特許文献1参照)。この特許文献1に記載の装置においては、コイルに対し高周波電流(又は電圧)を印加することにより略球形状(詳しくは電球状)に形成されてなる放電管内においてドーナツ状の安定した放電が生じることに応じて、該放電管内に封入されている封入ガス特有の放射光が発せられる。例えば、放電管は石英などの材質からなる紫外線を透過するガラスで形成されており、またこの放電管内に封入されている封入ガスの構成物が水銀であるような場合には、当該放電管から254nmの殺菌線や185nmの真空紫外線等の放射が行われる。
また、誘導コイルを巻き回した複数のフェライトコアを同軸円筒放電管に配して、光放射の均一化を改善した無電極低圧ランプもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−205819号公報
【特許文献2】特開平10−269993号公報
【特許文献3】特表2005−506676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載の無電極放電紫外線照射装置では、放電管の長さがその直径の数倍以上である場合に、放電が放電管全長のうちの一部箇所に片寄って行われやすく、放電管全長にわたっての均一な放電を実現させることが難しく液体処理装置には不向きであった。そこで、上記特許文献2に記載の装置のように、放電管内において管軸方向(長手方向)に複数の誘導コイルを分離配置しておき、これらの各コイルを接続してそれぞれのコイルによる放電を独立的に放電管の複数箇所で並列的に生起させることによって、放電管全長にわたって放電の均一化を図ることが考えられる。
【0006】
しかし、上記特許文献2に記載の装置においては、保護管内に配置される誘導コイルが単に空洞の筒部などに巻き回された空芯コイルであって、該コイルに印加される高周波(電流又は電圧、以下同じ)は数十MHzと非常に高い。そのような数十MHzと非常に高い高周波は磁性材料からなるフェライトコアに巻き回された誘導コイルを励磁するには不向きであり、また特許文献2に記載の装置は放電管(放電ランプ)の外周にコイルが巻き回された構成であることから、コイルが巻き回された放電ランプの内側に配設された筒部を単にフェライトコアに置き変えただけでは、効率的に放電を生起させることができなかった。
【0007】
さらに数十MHzの空芯コイルを用いた高周波励磁によるものであるので、特に誘電率の高い水を主体とした被処理液体を処理する液体処理装置に適用するようなコイル部と被処理液体とが比較的近くに接近して居る場合には、高周波電力が液体に吸収され、無駄な高周波電力損失をきたすことになる。そのために被処理液体とコイル部とを離間する必要があり、液体処理装置が大型になるなどの欠点があった。この点、上記特許文献3は上記した特許文献1の欠点を改善するものであるが、液体処理装置への展開を想定したものではなく、そのまま適用すると、有機物分解や殺菌などの液体処理能力が十分発揮されえない欠点があった。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、主要構成要素のひとつである紫外線照射装置に、水などの被処理液体の誘電率が高いがために従来では無電極放電を用いることが難しかったフェライトコアを用いた無電極放電紫外線照射装置を適用した液体処理装置であって、この無電極放電紫外線照射装置に効率的に放電管全長にわたってほぼ均一に放電を生起させ、望ましい有機物分解や殺菌に必要な紫外線を効率的に放射することのできるようにした液体処理装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る無電極放電紫外線照射装置を用いた液体処理装置は、被処理液体の流入口及び流出口を備えた処理液体流路に配設されて、流路を通る処理液体に対して無電極放電紫外放射装置で紫外線を照射するものである。その無電極放電紫外線照射装置は、長手方向に沿って内部を貫通する空洞部を有してなる筒状の紫外線放電管であって、前記紫外線放電管は前記空洞部の外周を囲む本体部の内部に放電媒体が封入されてなるものと、前記空洞部内に前記放電管の長手方向に沿って配置されるフェライトコアと、前記フェライトコアに巻き回された複数の誘導コイルであって、該誘導コイルは前記放電管の長手方向に沿って分散して配設されており、前記放電管に高周波磁界を作用させて前記放電管に放電を生起させるものと、前記誘導コイルにリード線を介して高周波電流又は電圧を供給する高周波電源であって、該高周波電源は前記誘導コイルを通電することにより前記紫外線放電管に紫外線を発生させるものとを備える。そして、前記無電極放電紫外線放射放電管はこれら紫外線を透過する素材からなる保護部材内に収容されており、その保護管外を被処理液体が流れるようにする。
【0010】
本発明の無電極放電紫外線照射装置を用いた液体処理装置によれば、フェライトコアに巻き回された誘導コイルにリード線を介して高周波電流又は電圧を供給することによって紫外線放電管から紫外線を生起させるが、前記放電管を内部を貫通する空洞部を有してなる筒状に形成しておき、該空洞部内に前記誘導コイルを巻き回したフェライトコアを配置するようにした。また、前記誘導コイルは複数あって、各誘導コイルは前記放電管の長手方向に沿って分散して前記フェライトコアに配設される(巻き回される)ようにしている。すなわち、複数の誘導コイルをフェライトコアに分散して巻き回したうえで、それらの外周を囲むようにして放電媒体が封入されてなる放電管を配置する構成としたので、被処理液体に吸収されて電力損失の原因となる高い周波数でコイルを励磁する必要がなく、またコイルによる放電を独立的に放電管の複数箇所で並列的に生起させて放電を放電管の一部に集中させることなく放電管全長にわたって均一的に生起させることができ、処理液体流路のほぼ全体に渡って液体を処理することが可能となる。
【0011】
放電管を円筒状としたので、従来に比較して放電空間を薄く且つ放電管表面に近くすることのできることから、有機物分解に有効な真空紫外線の放射量が増大する利点が生じる。さらに、こうした無電極の紫外線放電管は従来において用いられていた有電極の放電管に比べて長寿命であるので、従来に比べて放電管交換の頻度を低減することができる。また、フェライトコアを用いた誘導コイルへの通電に応じて放電管を励起する際のコイルの1次電流と放電管の2次電流とのエネルギー伝達を良化できるし、フェライトコアを大きくしなくても高周波電源側から放電管側へと効率的にエネルギーを伝達させることが簡単にできる。
さらには、このような構成にすることで、紫外線の透過率低下をもたらす被処理液体中の有機物や無機物が保護管表面に付着した場合に、容易にクリーニング可能となる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、複数の誘導コイルをフェライトコアに分散して巻き回したうえで、それらの外周を囲むようにして放電媒体が封入されてなる放電管を液体処理装置に配置する構成としたので、高い周波数でコイルを励磁する必要がなく比較的低い数百KHzの周波数で励磁でき、誘電率の高い水などを主体とした被処理液体でも高周波電力損失を少なくできて効率的な紫外線放射が可能となる。またコイルによる放電を独立的に放電管の複数箇所で並列的に生起させて放電を放電管の一部に集中させることなく放電管全長にわたって均一的に生起させることが簡易な構成ででき、且つ液体処理に必要な紫外線放射が効果的に行われ、さらに長寿命であるために放電管交換などのメンテナンス回数が大幅に減る、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る液体処理装置の一実施例を示す概念図である。
【図2】液体処理装置に適用される無電極放電紫外線照射装置の例を示す概念図である。
【図3】無電極放電紫外線照射装置の別の例を示す斜視図である。
【図4】水銀原子密度と管半径の積を変数とした場合の254nmの減衰程度を示すグラフである。
【図5】周囲温度と水銀密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照してこの発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る液体処理装置の一実施例を示す概念図である。図1に示した本発明に係る液体処理装置は、後述する図2又は図3に示すような無電極放電紫外線照射装置1を保護管(保護部材)O内に配置し、該保護管O内に被処理液体Pが侵入しないようシールしたうえで、処理槽A内に貯められた被処理液体P中に浸漬せしめるようにして処理槽A内に配置されるようになっている。この実施形態では、図中左側の導水管Xから被処理液体流入口Aaを介して流れ込んで処理槽A内に貯められた被処理液体Pを無電極放電紫外線照射装置1により紫外線照射することによって、被処理液の殺菌並びに被処理液体中の有機物(微生物等)の防除といった液体処理が行われる。液体処理された後の被処理液体Pは、浄化水などとして処理槽A内から被処理液体流出口Abを介して図中右側の導水管Xから流れ出る。なお、前記保護管Oは必ずしも管でなくてもよく、無電極放電紫外線照射装置1の無電極紫外線放射放電管Hの外周表面に塗布された例えばフッ素樹脂からなるものであってもよい。
【0016】
図1に示すように、本発明に係る液体処理装置の構成要素をなす無電極放電紫外線照射装置1は、その直径に比べて軸長が長く形成された円筒状の無電極紫外線放射放電管H(又は紫外線ランプとも呼ぶ)と、磁性材料からなる1個のフェライトコアFと、複数の誘導コイルC(ここでは一例として2個のコイルC1,C2からなるものを示した)と、前記誘導コイルCを高周波励起する高周波電源(図示せず)と前記各誘導コイルCとを接続するリード線Wとから構成されてなる。
【0017】
前記放電管Hの内部には、開口された一方の端部から開口された他方の端部までにわたって内部を貫通させた中空部(空洞部)H1が形成されてなり(つまり放電管Hの断面は環状になる)、該中空部H1(空洞部)には管軸に沿って1個の長尺形状のフェライトコアFが配置される。この実施形態では、フェライトコアFも放電管Hと同様の円筒形状に構成されてなり、該放電管Hとほぼ同軸になるように放電管H内に配設される。なお、このフェライトコアFの全長は、放電管Hの最大径の10倍以上に形成されるとよい。また、ここでは図示を省略したが、フェライトコアFを上記の放電管H内において同軸に配設するための支持部材を有していてよい。
【0018】
一方、前記放電管Hの中空部H1以外の本体部H2は、石英等の所望の紫外線を透過する材質を用いて形成されてなる閉じられた空間を有してなり、当該空間に紫外線を放射するガスとなる例えば水銀粒あるいは水銀アマルガムなどが封入されている。
【0019】
前記中空部H1に配設された前記フェライトコアFの外周には、軸方向(長手方向)において離間した位置に2個の誘導コイルC1,C2がそれぞれ巻き回される。これらの誘導コイルC(C1,C2)は、リード線Wにより並列接続される。このリード線Wは、放電管Hの一方の開口端から引き出されて図示を省略した高周波電源に接続することのできるようになっている。
【0020】
上記構成の放電管Hによる紫外線放射について説明する。高周波電源によりリード線Wを介してそれぞれの誘導コイルC(以下、単にコイルと呼ぶ)が同時に高周波励起されると、それぞれのコイルCが巻き回されているフェライトコアFの当該箇所内を前記コイルCにより誘起された磁束が通過する。フェライトコアF内において磁束が通過すると、その磁束により放電管H内に電界が誘起されることから、個々のコイルCに対応した放電が起きる。その結果、電力供給された各コイルCと放電プラズマリングとがそれぞれ結合し各コイルCのエネルギーがプラズマに注入されることに従い、放電管Hの本体部H2内部に封入された水銀粒あるいは水銀アマルガムによる紫外線の放電発光を継続的に生ずる。すなわち、無電極紫外線放射放電管Hでは、高周波電源によりコイルCを介してフェライトコアFが励磁されると、長尺形状に形成された放電管Hに2次誘起起電力を発生させるので、これにより放電管H内の放電が生起される。そして、放電管H内に封入されている水銀粒(あるいは水銀アマルガム)の一部が気体となって存在することで、紫外線が効率よく放射される。更には、放電管は円筒状に構成されているので、従来の円柱状放電管に比較して、放電空間が狭まり、内部のプラズマ電子温度が上昇しやすく、有機物分解に効果的な波長の短い真空紫外光などがより強く放射される。
【0021】
上述のようにして、前記フェライトコアFの軸方向において離間した位置に2個の誘導コイルC1,C2を巻き回した構成とすることなく、従来のようにして、1個のフェライトコアFに1個のコイルのみを巻き回した単一な構成とした場合には、特に直径に比較して管軸方向が長い長尺状の放電管H内においては、放電の起きた領域は放電の負特性から抵抗成分が減少することとなり、もって電流が当該領域に集中する傾向にある。そうすると、放電がますます前記領域に集中する現象が生じるので、放電管Hの管軸方向において均一な放電発光が阻害されることになる。しかしながら、この実施形態に示した無電極放電紫外線照射装置1のように、放電管H内に同形状の1個のフェライトコアFを配設しておき、該フェライトコアFに複数のコイルC(ここでは2個のものを例に示したが、2個以上であってよい)を分割配置することによれば、個々のコイルCごとに放電が行われて放電管Hの特定箇所に集中し偏って放電が行われることがなくなる。したがって、ほぼ均一な放電発光を放電管Hの全長にわたって得ることができるようになる。
【0022】
なお、フェライトコアFに巻き回された複数のコイルCは、高周波電源に対してリード線を介して並列接続されることに限らず直列接続されてもよい。ただし、各コイルCを並列に接続した場合には、高周波電源からのコイル駆動電圧を低くして、高周波電源における駆動回路内にある各部品の耐電圧値を下げることができるので、これらの部品の寿命を長くすることができるという利点がある。
【0023】
本実施例において、フェライトコアFの動作効率上の観点からすれば、高周波電源によるコイルCの駆動周波数が高ければ高いほど損失が大きくなることから、前記駆動周波数はできれば高くないほうが望ましい。反対に、高周波電源によるコイルCの駆動周波数が低すぎる場合には、フェライトコアFを太くつまりは直径を大きくしなければならずコスト的に不利である。これらに鑑みれば、高周波電源によるコイルCの駆動周波数は、20kHz以上1MHz以下であるのが望ましい。
【0024】
すなわち、フェライトコアFの透磁率をμ、磁界強度をHとすると、フェライトコアFを介して高周波電源から放電管Hへと伝達されるエネルギーは、フェライトコアFの単位体積当り「μfH2/2」で表される。したがって、周波数(f)が低くなると単位体積当りのエネルギー伝達量が少なくなるので、一定量のエネルギーを伝達するためにはフェライトコアFを大きくしなければならなくなる。例えば20kHzの周波数で駆動する場合には、200kHzの周波数で駆動する場合に比べて約10倍の大きさのフェライトコアFが必要になる。そこで、本実施形態においては放電管Hから紫外線を発生させるための駆動周波数の下限がフェライトコアFの外周に巻き回されたコイルCへの駆動周波数で決まり、望ましくは20kHz以上(更に望ましくは50kHz以上)の周波数で駆動するように調整するのがよい。そうすることで、フェライトコアFをあえて大きくしなくても、高周波電源から放電管Hへと効率的にエネルギーを伝達させることが簡単にできるようになる。
【0025】
更には被処理液体が、誘電率が高いがために高周波電磁波をより多く吸収して高周波電力損失の大きい水などを主体とした液体である場合には、コイルCの駆動周波数が高いと紫外線を放射するべきエネルギーが、紫外線を放射しないで被処理液体に直接吸収されてしまい多大な電力損失をきたす原因となる。そのために、コイルCの駆動周波数は1MHz以下が望ましい。500kHz以下ならば更に望ましい。
【0026】
また、この実施形態においては、放電管Hを図2に示したように両端を開口させて内部を貫通させた中空の円筒状に構成したので、放電管Hの製作が容易であること、当該放電管Hの本体部H2がフェライトコアF及びコイルCを覆う形にコイルCを巻き回したフェライトコアFを挿入設置するのが容易であること、といった利点もある。さらには、コイルC及びフェライトコアHの外周を囲むように、紫外線反射材を取り付けることが簡単にでき(より具体的には放電管Hの内壁面つまりはフェライトコアFと面する内周側に紫外線反射材を取り付け易い)、これにより発生された紫外線の影響によるフェライトコアFやコイルCの劣化を防止することができ、且つ紫外線の放射対象である被処理物が存在する放電管Hの周囲への紫外線放射量を増やして効率をあげることが容易にできる。
【0027】
さらに、放電管Hの内側管を硬質ガラスや軟質ガラスなどで形成する一方、外側管を石英で形成するなどして、放電管Hの内側管と外側管とを異なる素材で形成しておきこれを組み合わせることにより内部に中空部H1を有する放電管Hを形成するとよい。硬質又は軟質ガラスのような紫外線を透過しない素材で内側管を形成することで、中空部H1に配設されるフェライトコアFやコイルCを本体部H2から発せられる紫外線から保護するための例えば上記した紫外線反射材などを取り付けるなどの保護策を講ずる必要がなくなるので、コストを下げることができる。なお、膨張係数の異なる硬質又は軟質ガラスで形成された内側管と、石英で形成された外側管との接合は、膨張係数が少しずつ異なるガラスを複数段重ね合わせて接合した、いわゆるグレーテッドチューブ(傾斜管)を用いればよい。
【0028】
通常の電極を有する放電管は電極による寿命により高々2万時間程度の寿命であるが、本願発明に係る液体処理装置の構成要素である無電極放電紫外線照射装置1のフェライトコアFを用いた放電管Hは電極が無いので有電極放電管に比べて数倍の寿命となる。しかし、放電管Hが紫外線劣化のほとんど無いアルミナなどのセラミックで構成されている場合は別として、一般的な石英等で構成されている場合には、185nmなどの真空紫外線放射により石英を構成する原子間結合が切断されて石英の体積が変化することによって放電管Hに微細クラックが生じてしまい、ついには放電管H自体が破損することが生じ得、これが放電管Hの寿命を短くし得る1つの原因となっている。
【0029】
ここで、石英中に水酸基OHが100ppm以上存在し、尚且つ塩素やフッ素などのハロゲン元素が0.1ppm以上含有されている場合には、真空紫外線光の影響による微細クラックの生成が少ないことが実験的に分かった。これは、ハロゲンの存在で真空紫外線光の透過率が向上して石英内での吸収が減ることによることと、OH基の存在で石英の切断された結合が回復することによる。そこで、本願発明に係る無電極放電紫外線照射装置1においても、石英中に水酸基OHを100ppm以上且つ塩素やフッ素などのハロゲン元素を0.1ppm以上含有させて中空円筒状の放電管Hを形成することによって、紫外線劣化による放電管Hの寿命の向上を図っている。
【0030】
また、本願発明に係る液体処理装置の構成要素である無電極放電紫外線照射装置1の放電管Hの内壁面(内周)には真空紫外光を吸収する酸化チタンなどを塗布することで、放電管Hを構成している石英内への真空紫外線の侵入を抑えることができ、こうすることによっても放電管Hの寿命を改善することができる。さらには、従来から知られているが、酸化アルミや希土類酸化物などを放電管Hの本体部H2内部の特に外周表面側に塗布することで、該放電管H内において封入されている水銀の付着量を減少させることができるので、これにより外部への紫外線放射量が減少することを防止するようにもしている。
なお、上記したこれらの対策を同時に用いてよいことは当然である。そうすると、放電管Hの寿命を飛躍的に延ばすことがより効果的にできるようになるので非常に有利である。
【0031】
以上詳述したように、本発明に係る液体処理装置によれば、その構成要素である無電極放電紫外線照射装置1を、複数の誘導コイルCをフェライトコアFに分散して巻き回したうえで、それらの外周を囲むようにして放電媒体が封入されてなる放電管Hを配置するといった簡単な構成とし、こうすることで放電を放電管Hの管軸方向において一部箇所に集中させることなく管軸方向全長にわたってほぼ均一に行うことができるようにした。また、円筒状無電極放電管とすることで、こうした無電極の放電管Hは有電極の放電管に比べて長寿命であるが、さらに放電管Hの内壁面をコーティングすることで放電管の寿命をより長くすることができ、また出力低下を減少することもできる。さらに、駆動周波数を適正にすることでフェライトコアFの電力損失を少なくでき、尚且つ被処理液体への高周波電力損失を低減できる。これらの利点を有した、長寿命且つ安定した放電を行う無電極放電紫外放射装置1を備えた液体処理装置を提供することができるようになる。
【0032】
以上、図面に基づいて実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な実施形態が可能であることは言うまでもない。例えば、図3に示すように、放電管Hの中空部H1に配設されたフェライトコアFを複数に分割し(ここでは8個のフェライトコアF1〜F8)、これら複数のフェライトコアF1〜F8各々にコイルCを1乃至複数ずつ対応付けて巻き回した構成の無電極放電紫外線照射装置を用いた液体処理装置であってもよい。ここでは一例として、フェライトコア1個につき8個のコイルC1〜C8をそれぞれ1個ずつ対応付けて配設した(巻き回した)例を示した。
【0033】
一般的に、鉄心にコイルを巻いたインダクタンスは磁束の漏洩により限流作用を有し、それがために安定器としての機能を呈することが知られている。それと同様に、本発明に係る液体処理装置の構成要素である無電極放電紫外線照射装置1においてもコイルCを巻き回すフェライトコアFを複数に分割することにより、該分割された複数のフェライトコアF1〜F8のうち隣り合うもの同士が向き合う端面にギャップが生じるので、そこから少し磁束が漏れることが起こる。この漏洩磁束により多少の限流作用が働いて、バラスト作用を呈することになる。それ故に、個々のコイルC1〜C8が弱い限流成分を有することになるので、図3に示した無電極放電紫外線照射装置は図2に示したものと比べて、放電が放電管Hの一部箇所に偏ることなく幅広に安定して生起することになる。また、この構成によれば、高周波電源における駆動回路の各部品の寿命即ち電子バラストの寿命を長くすることができる。
【0034】
上述した本発明に係る液体処理装置で被処理液の殺菌や被処理液体中の有機物分解などの液体処理を行う場合には、上記したように本発明の液体処理装置の構成要素のひとつである無電極放電紫外線照射装置1を被処理液体Pの流路の途中に、例えば処理槽A内に埋没させるあるいは流路内にさらすようにして配置しておき、これを外部に配置した高周波電源により動作させるとよい。ここで、水銀封入放電管Hを用いた無電極放電紫外放射装置1の場合には、その水銀蒸気圧を適正に保ち紫外放射効率を最適にする必要があり、それはとりもなおさず放電管Hの最冷部温度を適正値に保持することによる。
【0035】
排水(被処理液体P)等の温度は、通常15℃乃至30℃程度である。例えば、半径1cm(直径2cm)の放電管Hにおける254nm紫外線の放射最適水銀周囲温度は40℃前後であるが、その一方で、図4に示すように、放電管Hの管半径と放電管Hの本体部H2内における水銀蒸気圧の積により254nm紫外線の吸収量が決まるようにもなっている。それ故、水銀周囲温度が高いと水銀密度が高くなる(つまりは吸収量が大きくなる)ので、254nm紫外線の減衰が大きくなってしまい出力効率は低下する。反対に、水銀周囲温度が低いと254nm紫外線を放射する原子数が減ることになるので、254nm紫外線の放射効率が低下することになる。図4では水銀周囲温度が35℃から45℃前後である場合を便宜的に四角枠で示してあるが、水銀蒸気密度と管半径の積がこの四角枠で囲んだ値前後にあれば254nmの放射効率が最適であることになる。
【0036】
次に、水銀密度と温度との関係を図5に示す。図中において示される四角枠は、温度が15℃から30℃にある場合を便宜的に示す。ここで、仮に被処理液体が25℃の被殺菌水と考え、放電管Hが直接液体に触れて25℃に冷却されるものとした場合、そのときの水銀密度はおよそ6×1023cm-3程度となることが知られていることからすれば、放電管Hの管半径を約5cmにするのが254nm紫外線の最適放射条件となる。かくして、放電管Hの径はおよそ半径で5cm程度、直径で10cm程度が254nm紫外線の放射の観点から最高条件であるといえる。ただし、実使用上は放電管Hの温度が25℃よりも上昇する場合もあることから、その場合には放電管Hの管半径は5cmよりも小さい数cmのものでもよい。これらに鑑みれば、放電管Hの最大径は直径で10cm以下であればよい。なお、放電管Hが被処理液体の温度よりも更に高温度になる場合には、水銀蒸気圧を下げるための工夫として例えばアマルガムなどを使用してよいことは当然である。
【0037】
図2又は図3に示したような、本発明に係る液体処理装置の構成要素である無電極放電紫外線照射装置1をそのまま汚水処理等に利用した場合、時間の経過に伴いスケールといわれる汚れが放電管H表面に付着してしまい、紫外線出力を低下させる原因となる。そこで、放電管Hの汚れを防止する上で図1に示すように石英などから形成されてなる保護管Oに収容してから処理槽A内に配置するのが一般的である。こうした場合、放電管Hからの発熱に加えてフェライトコアFからの発熱があるが、放電管Hが直接被処理液体Pに接することが無いので紫外放射効率を左右する放電管Hの最冷部温度は適正に保たれる。さらには、フェライトコアFの総全長を長くできるのでフェライトコアFのパワー密度を低くでき、これに伴うと共に、尚且つ被処理液体の主成分である誘電率が高く高周波電力損失が大きい水などに対して、駆動周波数を高くすることが無いことにより、発熱が抑えられてフェライトコアFの温度が上昇しすぎることによる動作不良もない。
【0038】
なお、放電管Hのパワー密度を大きくしてフェライトコアFのパワー密度を高くした結果として、フェライトコアFの温度が高くなる場合には、フェライトコアFを軸を中心に孔をあけた中空状に形成しておき、当該中空部分に空気を送ることによりあるいは熱伝達の良いヒートパイプや金属棒などを通すことにより、フェライトコアFを冷却することのできるようにするとよいことは公知の事実である。
【0039】
また、上記無電極放電紫外線照射装置1を保護する保護管Oの機械的強度さらには保護管Oの価格の観点からすると、実用的な放電管Hの最大直径は10cm程度となるので、このことは上述した最適水銀密度と管径の積からの見解とほぼ合致する。このように、保護管Oの径を限定することで保護管Oの価格を安価にでき、もって液体処理装置自体を安価に提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
1・・・無電極紫外線放射放電装置
A・・・処理槽
Aa・・・被処理液体流入口
Ab・・・被処理液体流出口
C(C1〜C8)・・・誘導コイル
F(F1〜F8)・・・フェライトコア
H・・・無電極紫外線放射放電管
H1・・・中空部
H2・・・本体部
O・・・保護管
P・・・被処理液体
W・・・リード線
X・・・導水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って内部を貫通する空洞部を有してなる筒状の紫外線放電管であって、前記紫外線放電管は前記空洞部の外周を囲む本体部の内部に放電媒体が封入されてなるものと、
前記空洞部内に前記放電管の長手方向に沿って配置されるフェライトコアと、
前記フェライトコアに巻き回された複数の誘導コイルであって、該誘導コイルは前記放電管の長手方向に沿って分散して配設されており、前記放電管に高周波磁界を作用させて前記放電管に放電を生起させるものと、
前記誘導コイルにリード線を介して高周波電流又は電圧を供給する高周波電源であって、該高周波電源は前記誘導コイルを通電することにより前記紫外線放電管に紫外線を発生させるものと、
前記紫外線放電管の外周に設けられ、該放電管を保護する紫外線透過性の保護部材と
を備え、
被処理液体の流入口及び流出口を備えた処理液体流路に配設され、前記流路を通る処理液体に対し紫外線を照射して前記被処理液体を処理する液体処理装置。
【請求項2】
前記フェライトコアは複数が前記放電管の長手方向に沿って分散して配設されてなり、前記それぞれのフェライトコアに1乃至複数の前記誘導コイルが巻き回されてなることを特徴とする請求項1に記載の液体処理装置。
【請求項3】
前記複数の誘導コイルを前記高周波電源に対し直列もしくは並列に接続することを特徴とする請求項1又は2に記載の液体処理装置。
【請求項4】
前記フェライトコアの軸方向の全長は前記放電管の最大径の10倍以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項5】
前記放電管の最大径は10cm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項6】
前記誘導コイルを駆動する際の前記高周波電源の周波数は20kHz以上1MHz以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項7】
前記放電管は円筒状に形成されてなり、該円筒状放電管の内側管をガラスで構成する一方で外側管を石英で構成してなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項8】
前記誘導コイルと前記フェライトコアを配置してなる前記放電管の前記空洞部側を紫外線反射材で被覆したことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項9】
前記放電管の前記本体部内を当該本体部内に封入されている放電媒体との反応を防止する保護膜で被覆すると共に、さらに185nmの紫外線を吸収して前記本体部を透過させない材料で前記本体部内を被覆することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の液体処理装置。
【請求項10】
前記放電管は、OH基を100ppm以上尚且つハロゲンを0.1ppm以上含有している石英で構成されてなることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の液体処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−256568(P2012−256568A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129940(P2011−129940)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(391031155)株式会社日本フォトサイエンス (12)
【Fターム(参考)】