説明

無電解めっきの前処理方法

【課題】被めっき体に前処理することで、無電解めっきを行った場合に、金属めっきと被めっき体とが良好な密着性を発揮する、簡易で、環境保護の点からも有用な無電解めっきの前処理方法の提供。
【解決手段】被めっき体に無電解めっきをする工程よりも前に被めっき体に対して行う前処理方法であって、アルミニウムの塩又は化合物を含む水溶液で被めっき体を一次処理した後、有機ケイ素化合物を含む水溶液で該被めっき体を二次処理することを特徴とする無電解めっきの前処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被めっき体に無電解めっきをする前工程で被めっき体に対して行う前処理方法に関し、詳しくは、アルミニウムの塩又は化合物を含む水溶液で被めっき体を一次処理した後、有機ケイ素化合物を含む水溶液で該被めっき体を二次処理する無電解めっきの前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解金属めっきとは、電気を使用せずに還元剤を使用することで、ガラス、合成樹脂、貴金属等から選択される被めっき体(以下、基板とも呼ぶ)の表面に皮膜を形成させる手法のことである。しかし、無電解めっきを行う際に、被めっき体の表面に直接めっきを行うと、成膜した際に密着力が弱く、めっきが不十分になる場合があった。
【0003】
そのため、従来、被めっき体と成膜しためっき膜との間の密着力を向上させる目的で、無電解めっきをする前に、被めっき体に対して前処理を行う方法が種々報告されている。例えば、特許文献1では、シランカップリング剤を前処理剤として使用することで、めっきされにくいガラス基板と、無電解めっき層のめっき膜との密着力を向上させるとしためっき方法を開示している。
【0004】
また、特許文献2には、被めっき体の表面に、リン酸塩化合物を含有するリン酸塩含有被膜を形成することによる無電解めっきの前処理方法が開示されている。詳しくは、該方法によって被めっき体の表面に形成したリン酸塩含有被膜に触媒金属塩溶液を接触させると、該リン酸塩含有被膜中のリン酸塩化合物が陽イオン交換特性を有するため、リン酸塩含有被膜に、触媒金属塩溶液中の触媒金属がリン酸塩含有被膜に選択的に触媒核として捕捉され、この結果、リン酸塩含有被膜に触媒金属が十分な量で強固に担持固定化されるとしている。そして、該方法は、安価で環境負荷が少ない上に全く新しく、該無電解めっきの前処理方法を適用することで、被めっき物表面上に、均一で密着性に優れた無電解めっき層の形成が可能になるとしている。
【0005】
また、特許文献3には、オゾン水、光触媒及び紫外線照射の作用によって、樹脂よりなる被処理材の被処理面を化学的に活性化させ、これによって無電解めっきによるめっき被膜の付着性を向上させる前処理方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、エッチング液を使用し、粗面とした銅又は銅合金の表面の粗化面を平坦面化させ、低粗度とした後に無電解めっき等のめっき処理を行うとする、めっき処理の前処理として施されるソフトエッチング用の前処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭59−52701号公報
【特許文献2】特開2000−309874号公報
【特許文献3】特開2005−68495号公報
【特許文献4】特開2005−68524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1〜4に記載されている前処理方法は、いずれも、処理が困難な酸性化合物を必要としたり、これらの前処理を行ってもめっき膜が所望する密着強度に至らず不十分な場合があり、更なる改良が求められている。
従って、本発明の目的は、被めっき体に前処理することで、無電解めっきを行った場合に、金属めっきと被めっき体とが良好な密着性を発揮する、簡易で、環境負荷が少なく、環境保護の点からも有用な無電解めっきの前処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、被めっき体に無電解めっきをする工程よりも前に被めっき体に対して行う前処理方法であって、アルミニウムの塩又は化合物を含む水溶液で被めっき体を一次処理した後、有機ケイ素化合物を含む水溶液で該被めっき体を二次処理することを特徴とする無電解めっきの前処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被めっき体に前処理することで、無電解めっきを行った場合に、金属めっきと被めっき体とが良好な密着性を発揮する、簡易で、環境負荷が少なく、環境保護の点からも有用な無電解めっきの前処理方法の提供が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明は、被めっき体に無電解めっきをする工程よりも前に被めっき体に対して行う、無電解めっきの前処理方法に関するが、本発明では、被めっき体を一次処理した後、さらに、該被めっき体を二次処理することを特徴とする。以下、これらの処理について具体的に説明する。まず、一次処理では、アルミニウムの塩又は化合物を含む水溶液で被めっき体を処理するが、その具体的な方法としては、例えば、下記のようにして、被めっき体にアルミニウムの塩又は化合物を含む水溶液を接触させることで行うことができる。まず、アルミニウムの塩又は化合物を含む水溶液を調製する。前処理は、調製した水溶液を、ハケ塗り、ローラー塗り或いはスプレー等の方法によって被めっき体に直接塗布する方法によって行ってもよいし、調製した水溶液中に、被めっき体を浸漬させる方法によって行ってもよい。操作が簡便で工程時間が短いため、調製した水溶液中に被めっき体を浸漬させる方法が好ましい。
【0012】
被めっき体にアルミニウムの塩又は化合物を含む水溶液を浸漬させる場合の、温度及び浸漬時間は特に限定されないが、例えば、5〜60℃の温度で行うことが好ましく、浸漬時間は、1秒〜5分とすることが好ましい。浸漬時間は、10秒〜5分とすることがより好ましく、10秒〜3分とすることが更に好ましい。
【0013】
上記の水溶液は、浸漬させる場合又は塗布する場合に関わらず、他の水溶性の有機溶媒等を添加してもよい。いずれの場合も水溶液中のアルミニウムの塩または化合物の濃度が、0.01質量%〜3質量%になるように調製することが好ましい。また、上記したようにして行う一次処理後に、被めっき体を水洗してもよい。
【0014】
本発明の方法で前処理を施す被めっき体としては特に制限はなく、金属やセラミックスや合成樹脂等に広く適用できる。例えば、被めっき体として、銅、銀、金、亜鉛、ニッケル、スズ、コバルト、クロム等の金属、又はステンレス等のこれらの金属の合金、ポリシロキサンポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリカーボネート、ポリヘキサメチレンアジパミド、ノルボルネン樹脂、ニトロセルロース、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム等の合成樹脂、ガラス、シリカ、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ヒドロキシアパタイト、蛍石、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、コーディエライト、サイアロン、マシナブルセラミックス等のセラミックスが挙げられる。これらは1種又は2種以上が選択される。特に、無電解めっき後の、被めっき体とめっき層との密着性の改善効果が高いため、被めっき体としては、銅、銀、金、亜鉛、ニッケル、スズ、コバルト、クロム、ステンレス、セラミックス、合成樹脂が好ましく、銅、アルミ、ステンレス、ガラスがより好ましく、ガラスが更に好ましい。2種以上併用する場合は、合成樹脂を上記の好ましい条件で使用できる被めっき体と少なくとも一つ組み合わせて使用することが好ましい。なお、被めっき体は粗面化処理されていても、粗面化処理されていなくてもよい。
【0015】
本発明で用いるアルミニウムの塩又は化合物としては、例えば、アルミニウムの塩、有機酸から生成する有機アルミニウム、アルコールから生成する有機アルミニウム等が挙げられる。
【0016】
アルミニウムの塩としては、例えば、硫酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、アルミナゾル、擬ベーマイト等のアルミナ水和物、クロルヒドロキシアルミニウム、水酸化アルミニウム、第一りん酸アルミニウム、第二りん酸アルミニウム、第三りん酸アルミニウム、上記のアルミニウム塩の水和物等が挙げられる。また、上記のアルミニウムの塩はポリ塩化アルミニウム[Al2(OH)n'Cl6-n']、ポリ水酸化アルミニウム[Al(OH)3]n''AlCl3(n’’は一般的には1〜50程度)等のように重合性のアルミニウム塩であってもよい。
【0017】
有機酸から生成する有機アルミニウムは、分子内にカルボン酸構造を有するアルミニウムであり、例えば、式Al(RCOO)3で示されるトリソープ、Al(OH)(RCOO)2で示されるジソープ、Al(OH)2(RCOO)で示されるモノソープが挙げられる。より具体的には、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩基性乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、イソステアリン酸アルミニウム、ジミリスチン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アルミニウムトリフラート等が挙げられる。
【0018】
アルコールから生成するアルコキシアルミニウムとしては、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムセカンダリーブトキシド、アルミニウムターシャリーブトキシド等が挙げられる。
【0019】
上記に挙げたアルミニウムの塩又は化合物は電解めっき後の接着性が高いため、アルミニウムの塩を使用することが好ましく、水に対する溶解性と密着性の改善効果が高いため、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウムがより好ましい。中でも、ポリ塩化アルミニウムが更に好ましい。
【0020】
次に、上記した一次処理後に行う、本発明を構成する二次処理について説明する。本発明で行う二次処理では、有機ケイ素化合物を含む水溶液で、前記の一次処理を施した被めっき体を更に処理する。具体的な方法としては、例えば、有機ケイ素化合物を含む水溶液を被めっき体に接触させることで行うことができる。
【0021】
本発明で規定する二次処理は、先に説明したようにして行う一次処理をした被めっき体に、下記のようにして有機ケイ素化合物を含有する水溶液を接触させることで行うことができる。まず、有機ケイ素化合物を含む水溶液を調製する。前処理方法としては、この調製した水溶液を一次処理した被めっき体に、ハケ塗り、ローラー塗り或いはスプレー等により直接塗布してもよいし、また、調製した水溶液中に、一次処理した被めっき体を浸漬させてもよい。操作が簡便で工程時間が短いため、調製した水溶液中に、一次処理した被めっき体を浸漬させる方法が好ましい。
【0022】
本発明で規定する二次処理で使用する有機ケイ素化合物が溶解した溶液に、一次処理した被めっき体を浸漬させる場合の温度及び浸漬時間は特に限定されないが、例えば、20℃〜60℃の温度で行うことが好ましい。浸漬時間は、0.1分〜5分間行うことがより好ましく、0.1分〜3分間行うことが更に好ましい。
【0023】
上記した二次処理で使用する有機ケイ素化合物の水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば、0.01質量%〜5質量%になるように希釈して使用することが好ましく、0.5質量%〜1.5質量%の濃度の水溶液を用いることがより好ましい。尚、本発明において用いる有機ケイ素化合物の水溶液は、一種類の有機ケイ素化合物を単独で用いてもよいが、複数の有機ケイ素化合物を混合して用いてもよい。
【0024】
本発明で使用する有機ケイ素化合物は、分子内にケイ素原子を有する有機物であれば、特に限定されないが、シラノール基(Si−OH)、加水分解によりシラノール基を与える加水分解性官能基を有する化合物であることが好ましい。
【0025】
加水分解性官能基としては、例えば、Si原子に直接結合したアルコキシ(−ORA)基等を挙げることができる。当該アルコキシ基を構成するRAとしては、例えば、炭素数が1〜12である直鎖状、分岐状、環状のいずれかのアルキル基が好ましい。より具体的には、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げられるが、中でもメチル基であることが好ましい。
【0026】
本発明で使用することのできる有機ケイ素化合物のより具体的なものとしては、下記のものが挙げられる。例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、3−グリシドプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドプロピルメチルジエトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、N−(p−ビニルベンジル)−N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン・塩酸塩、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミンとその部分加水分解物、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリフェニルシラノール、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、n−オクチルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、高分子型有機ケイ素化合物等が挙げられる。中でも3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、高分子型有機ケイ素化合物が好ましい。
【0027】
上記した高分子型有機ケイ素化合物としては、例えば、下記の化合物を用いるとよい。即ち、下記一般式(1)で表される化合物(以下、単に「一般式(1)の化合物」と記載する場合がある)と、テトラカルボン酸一無水物、テトラカルボン酸二無水物、トリカルボン酸一無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種類のポリカルボン酸無水物との反応生成物である中間体を、更に下記一般式(3)で表される化合物(以下、単に「一般式(3)の化合物」と記載する場合がある)と反応させて得られた有機ケイ素化合物を用いることが好ましい。
【0028】

(上記式(1)中、Aは窒素原子を含む炭素数3〜7の複素環基を表し、Z1は、直接結合を表すか又は炭素原子数1〜10のアルキレン基を表す。)

(上記式(3)中、R3は炭素原子数1〜12の炭化水素基を表し、R4は、−NH2、−NCO、イミダゾリル基又はトリアゾリル基を表し、Z2は炭化水素数1〜10のアルキレン基を表し、かつ、該アルキレン基は、−NH−、−O−又は−S−で中断されていてもよい。)
【0029】
[一般式(1)で表される化合物]
上記の一般式(1)の化合物において、Aは窒素原子を含む炭素原子数3〜7の複素環基を表す。Aに使用することができる含窒素芳香環としては、窒素が環内に少なくとも1つ以上存在する芳香族環であれば特に限定されない。例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、イミオキサゾリル基、ピリジニル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、インドリル基、インダゾル基、オキサゾリジン基、イソオキサゾリジン基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、トリアゾリル基、トリアジニル基、ベンゾオキサゾリル基、インドリル基、イソインドリル基、フラザニル基等が挙げられる。これらの含窒素芳香族環の中でも、めっきの前処理方法に用いた場合に、被めっき体と金属めっき層との密着性を向上させることができるので、アゾール基であるピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基のいずれかであることが好ましい。さらには、イミダゾリル基、トリアゾリル基がより好ましい。これらの含窒素複素環は環に1つ、又は2つ以上の置換基を有していてもよいが、置換基の種類によっては水溶性が悪化する場合があるので注意を要する。
【0030】
また、上記一般式(1)中のZ1は、結合基がない状態の直接結合を表すか、或いは炭素原子数1〜10のアルキレン基を表す。Z1に使用することができるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等が挙げられる。本発明で使用する有機ケイ素化合物の水溶性をより良好なものとするためには、Z1は直接結合又は炭素原子数1〜7のアルキレン基が好ましい。特には、直接結合又は炭素原子数1〜5のアルキレン基がより好ましい。炭化水素数が11以上の場合は水溶性が悪化する場合がある。上記要件を満足する一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、1−(3−アミノプロピル)イミダゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メチルチオ−1H−1,2,4−トリアゾール、1−(3−アミノプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(3−アミノプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−アミノプロピル−2,4,5−トリブチルイミダゾール、1−アミノエチル−4−ヘキシルイミダゾール、1−アミノブチル−2,5−ジメチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0031】
[ポリカルボン酸無水物]
上記した一般式(1)で表される化合物と反応させて中間体を得る際に用いられるポリカルボン酸無水物について説明する。ポリカルボン酸無水物とは、ポリカルボン酸から分子内で脱水した酸無水物のことであり、テトラカルボン酸一無水物、テトラカルボン酸二無水物、トリカルボン酸一無水物から選ばれる少なくとも1種類のポリカルボン酸無水物を用いる。これらのカルボン酸無水物は、その分子構造中に環を形成していてもよく、また、芳香族環を有していてもよい。なお、本明細書における「ポリカルボン酸」とはテトラカルボン酸又はトリカルボン酸を意味し、「ポリカルボン酸無水物」とは、上記のポリカルボン酸から分子内で脱水した酸無水物を意味する。
【0032】
本発明に好適に利用できる有機ケイ素化合物を得るためには、上記したポリカルボン酸無水物の中でも下記の一般式(2)で表わされる化合物(以下、単に「一般式(2)の化合物」という場合がある)を用いることが好ましい。

(上記式(2)中、R1およびR2は結合して酸無水物を形成する基を表すか、或いは、R1およびR2のうちの一方が−COOH基を、他方が、水素原子、炭素原子数1〜12の炭化水素基および−COOH基から選ばれるいずれかの基を表し、Xは、−CO−、−O−、−SO2−又は窒素原子で中断されてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0033】
上記一般式(2)中のR1およびR2に使用できる炭素原子数1〜12の炭化水素基としては、例えば、下記のようなアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等が挙げられる。
【0034】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ドデシル(ラウリル)基等が挙げられる。
【0035】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−メチルエテニル基、2−メチルエテニル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基等が挙げられる。
【0036】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、メチルシクロペンテニル基、メチルシクロヘキセニル基、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0037】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−ビニルフェニル基、3−イソプロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−イソブチルフェニル基、4−ターシャリーブチルフェニル基、4−ヘキシルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基等が挙げられる。
【0038】
1及びR2は−COOHでもよく、R1及びR2は連結して、酸無水物として環を形成していてもよい。R1及びR2は、上記の中でも特に、−COOH又は連結して、酸無水物として環を形成していることが好ましい。更に、一般式(1)と反応性が高く、本発明に好適に利用できる有機ケイ素化合物を短時間で製造できることから、R1およびR2は、酸無水物として環を形成したものであることがより好ましい。
【0039】
一般式(2)中のXは、−CO−、−O−、−SO2−或いは窒素原子で中断されてもよく、炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、環を形成していてもよく、芳香族環を有していてもよい。より好ましくは、炭素原子数が1〜10の炭化水素基である。Xは、上記の条件を満たせは特に限定されないが、無電解めっきの際に、当該有機ケイ素化合物を被めっき体に対する前処理に使用した場合に、めっき後の密着強度が向上するため、下記の(B−1)〜(B−18)であることが好ましく、(B−1)〜(B−5)がより好ましく、(B−1)、(B−3)、(B−4)又は(B−5)が更に好ましい。
【0040】

【0041】

【0042】

【0043】
本発明に用いる有機ケイ素化合物の形成材料として好適な、一般式(2)で表されるテトラカルボン酸一無水物又はテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、以下に列挙した化合物(C−1)〜(C−18)のテトラカルボン酸が脱水してなる一無水物又は二無水物が挙げられる。
【0044】

【0045】

【0046】

【0047】
また、本発明に用いる有機ケイ素化合物の形成材料に好適な一般式(2)で表されるトリカルボン酸一無水物の好ましい具体例としては、下記に挙げる(C−19)〜(C−22)のトリカルボン酸が脱水した一無水物が挙げられる。
【0048】

【0049】
本発明に用いる有機ケイ素化合物の形成材料に好適な一般式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば、メソ−ブタン1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタン−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、無水トリメリット酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物、1,2,3,4−シクロペンタン−テトラカルボン酸二無水物、シス−アコニット酸無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物、ジグリコール酸無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0050】
[一般式(3)で表される化合物]
次に、本発明に好適に用いられる有機ケイ素化合物の形成材料である下記一般式(3)で表される化合物について説明する。本発明に好適な有機ケイ素化合物は、上述した、一般式(1)の化合物とポリカルボン酸無水物とを反応させて得た中間体を、更に下記一般式(3)で表される有機ケイ素化合物(以下、単に「一般式(3)の化合物」という場合がある)と反応させてなる最終生成物である。

上記一般式(3)の中のR3は、炭素数1〜12の炭化水素基を表すが、例えば、一般式(2)のR1及びR2として、例示した、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等が使用できる。これらの中でも、水溶性が高いため一般式(3)の中のR3は、炭素原子1〜6のアルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0051】
上記一般式(3)中のR4は、下記に述べるように、該一般式(3)の化合物と反応させる、先述した一般式(1)の化合物とポリカルボン酸無水物との反応生成物である中間体の構造によって好ましい置換基が異なる。
(i)中間体が、一般式(1)の化合物とテトラカルボン酸二無水物との反応生成物であり、残基として無水物骨格がある場合、一般式(3)中のR4は、−NH2又はイミダゾリル基であることが好ましい。
(ii)中間体が、一般式(1)の化合物と、テトラカルボン酸二無水物、トリカルボン酸一無水物又はテトラカルボン酸一無水物との反応生成物であり、残基として無水物骨格がない場合は、一般式(3)中のR4は−NCOであることが好ましい。
【0052】
また、上記一般式(3)中のZ2は、炭化水素数1〜10のアルキレン基を表すが、該アルキレン基は、−NH−、−O−又は−S−で中断されていてもよい。このようなZ2としては、例えば、一般式(1)のZ1として、例示したアルキレン基が挙げられる。水溶性が良好なことから、炭素原子数2〜5のアルキレン基がより好ましい。該アルキレン基は−NH−、−O−、−S−で中断されていてもよいが、中断されていないことが好ましい。このような一般式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0053】
[製造方法]
次に、本発明に好適に用いることができる有機ケイ素化合物の製造方法について説明する。本発明で用いる高分子型有機ケイ素化合物の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。まず、下記のような方法で中間体を得る。例えば、ポリカルボン酸無水物(以下、(B)成分という場合がある)を溶媒に溶解させた溶液に一般式(1)の化合物(以下、(A)成分という場合がある)を溶媒に溶解した溶液を0〜25℃で滴下し、滴下終了後、5〜40℃で0.5〜10時間撹拌し、中間体を得る。次に、得られた中間体を精製せずに、下記の(I)又は(II)に挙げるような方法によって先の一般式(3)で表される化合物と反応させて、目的物である有機ケイ素化合物を得る。
【0054】
(I)一般式(3)中のR4が、−NH2、イミダゾリル基又はトリアゾリル基の場合、一般式(3)の化合物(以下、(C)成分という場合がある)を溶媒に溶解させた溶液を0〜25℃で滴下し、滴下終了後、5〜40℃で0.1〜5時間撹拌する。
(II)一般式(3)中のR4が、−NCOの場合、一般式(3)の化合物を溶媒に溶解させた溶液を30〜80℃で滴下し、滴下終了後、30〜80℃で0.5〜6時間撹拌する。
【0055】
上記のようにして得られる反応生成物(中間体)における、一般式(1)の化合物とポリカルボン酸無水物との好ましい反応比は、一般式(3)の化合物の構造中においてR4としてとり得る基によって異なる。
(i)R4が、−NH2、イミダゾリル基又はトリアゾリル基の場合
一般式(1)で表される化合物のモル数/ポリカルボン酸のモル数=1.5/1〜1/1.5が好ましい。該モル比は、1.2/1〜1/1.2であることがより好ましく、1.1/1〜1/1.1であることが更に好ましい。
(ii)R4が−NCOの場合
一般式(1)で表される化合物のモル数/(ポリカルボン酸のモル数×1分子内の酸無水物の数)=1.5/1〜1/1.5が好ましい。該モル比は、1.2/1〜1/1.2であることがより好ましく、1.1/1〜1/1.1であることが更に好ましい。
また、最終生成物における、上記のようにして得られた中間体と、一般式(3)の化合物との比は、下記のようであることが好ましい。すなわち、中間体の形成に用いた一般式(1)の化合物と、中間体と反応させる一般式(3)の化合物との比が下記のようになるようにすることが好ましい。具体的には、一般式(1)の化合物と一般式(3)の化合物との比が、モル比で、一般式(1)の化合物/一般式(3)の化合物=1.5/1〜1/1.5となるように構成することが好ましく、1.2/1〜1/1.2となるように構成することがより好ましく、1.1/1〜1/1.1となるように構成することが更に好ましい。
【0056】
上記した各反応で用いる溶媒としては特に限定されないが、非プロトン性の極性溶媒が好ましい。より具体的には、テトラヒドロフラン、メチルターシャリーブチルエーテル、1,4−ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが挙げられる。より好ましいものとしては、アセトン、NMP、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、NMPを使用することがより好ましい。
【0057】
本発明で用いる高分子型有機ケイ素化合物としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシランを用いて合成した高分子型有機ケイ素化合物がより好ましい。
【0058】
本発明で用いる有機ケイ素化合物の具体的な製造例を、方法1〜方法3として、以下に、反応の概要図を示して説明する。
【0059】
<方法1>
方法1では、(A)成分と、(B)成分のテトラカルボン酸の二無水物をモル比1:1で反応させて中間体(S)とするが、(A)成分と(B)成分のモル比1:1での反応は、(B)成分の酸無水物部位と(A)成分のアミン部位が反応し、中間体(S)となる。一般式(3)のR4がアミノ基である化合物[(C)成分]が、該中間体(S)と反応した場合、中間体(S)の酸無水物の部位と、(C)成分のアミノ基の部位が反応し、アミド結合が形成され、中間体(S2)が得られる。そして、下記に示したように、得られた中間体(S2)の−Si(OR3)3基から脱R3OHし、分子間で重合することで本発明で用いる高分子型有機ケイ素化合物が得られる。以下に、上記した方法1における反応の概要を示す。
【0060】

【0061】
<方法2>
方法2では、(A)成分と、(B)成分のテトラカルボン酸の二無水物をモル比2:1で反応させて中間体(T)とするが、(A)成分と(B)成分のモル比2:1での反応は、(B)成分の酸無水物部位と(A)成分のアミン部位が反応し、中間体(T)となる。一般式(3)のR4がイソシアネート基である化合物[(C)成分]と、該中間体(T)とが反応した場合、中間体(T)の−COOHの部位と、(C)成分のイソシアネートの部位が反応し、二酸化炭素の放出を伴ってアミド結合が形成され、中間体(T2)が得られる。この中間体(T2)は、中間体(T)の構造によって位置異性体となる。そして、下記に示したように、得られた(T2)の−Si(OR33基から脱R3OHし、分子間で重合することで本発明で用いる高分子型有機ケイ素化合物が得られる。以下に、上記した反応の概要を示す。
【0062】

【0063】
<方法3>
方法3では、(A)成分と、(B)成分のテトラカルボン酸の一無水物をモル比1:1で反応させて中間体(U)とするが、(A)成分と(B)成分のモル比1:1での反応は、(B)成分の酸無水物部位と(A)成分のアミン部位が反応し、中間体(U)となる。一般式(3)中のR4がイソシアネート基である化合物[(C)成分]と、該中間体(U)とが反応した場合、中間体(U)のカルボン酸の部位と、(C)成分のイソシアネートの部位が反応し、アミド結合が形成され、中間体(U2)が得られる。なお、中間体(U)に反応部位が複数ある場合には、中間体(U2)は、異性体の混合物として得られる。また、該中間体(U2)は、中間体(U)の構造により位置異性体となる。そして、下記に示したように、得られた中間体(U2)の−Si(OR3)3基から脱R3OHし、分子間で重合することで本発明で用いる有機ケイ素化合物が得られる。以下に反応の概要を示す。
【0064】

【0065】
本発明の前処理方法において被めっき体を前処理した後にめっきに使用する無電解めっき液は、公知のものを使用することが可能であり、めっき液に使用できる金属は特に限定されない。例えば、銅、銀、金、亜鉛、ニッケル、スズ、コバルト、クロム、パラジウム、タングステン、白金、ロジウム、ルテニウム等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0066】
本発明の無電解めっきの前処理方法を使用して製造される、めっきが施された製品は、特に限定されないが、例えば、自動車工業材料(ヒートシンク、キャブレータ部品、燃料注入器、シリンダー、各種弁、エンジン内部等)、電子工業材料(接点、回路、半導体パッケージ、プリント基板、薄膜抵抗体、コンデンサー、ハードディスク、磁性体、リードフレーム、ナット、マグネット、抵抗体、ステム、コンピューター部品、電子部品、レーザー発振素子、光メモリ素子、光ファイバー、フィルター、サーミスタ、発熱体、高温用発熱体、バリスタ、磁気ヘッド、各種センサー(ガス、温度、湿度、光、速度等)、MEMS等)、精密機器(複写機部品、光学機器部品、時計部品等)、航空・船舶材料(水圧系機器、スクリュー、エンジン、タービン等)、化学工業材料(ボール、ゲート、プラグ、チェック等)、各種金型、工作機械部品、真空機器部品等、広範なものが挙げられる。本発明の無電解めっきの前処理方法は、特に無電解めっきと被めっき体との密着性が求められる電子工業材料に使用することが好ましく、中でも、半導体パッケージ、プリント基板の製造においてめっき処理を施す際に適用することがより好ましく、半導体パッケージの製造に使用することが更に好ましい。
【0067】
無電解めっきを使用した半導体製造におけるビルドアップ法は、通常は、めっきスルーホール法によって作られたコア層の上に、絶縁層と導体層を交互に積み上げ、多層配電層を形成し、ビルドアップ基板を形成する方法であり、従来の張り合わせ型のプリント基板と比較し、微細な配線パターンを高密度に収容できる点で特徴がある。ビルドアップ基板の製造方法は特に限定されないが、例えば、まずソフトエッチングした被めっき体(基板)に対して、粗化を目的としてクロム酸−硫酸水溶液等でエッチング処理を行った後、被めっき体と堆積層の密着性を向上させる目的で、先に説明したような有機ケイ素化合物を用いたカップリング剤を含有する水溶液に、被めっき体を浸漬させる。その後、プレデッィプとしてパラジウム化合物等の金属化合物を含有する水溶液を用いて触媒を付与する。その後、無電解めっきを行い、引き続いて電解めっきを行う方法がよく知られている。
【0068】
本発明では上記工程において、カップリング剤を含有する水溶液を浸漬させる工程の前にアルミニウムの塩または化合物に被めっき体を浸漬させることに特徴がある。
【実施例】
【0069】
以下、実施例等を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。尚、以下の実施例等において「%」は特に記載が無い限り質量基準である。
【0070】
本発明のアルミニウム化合物〔(Al)成分〕及び有機ケイ素化合物〔(Si)成分〕は下記の化合物を使用した。
【0071】
(Al)成分
Al−1:硫酸アルミニウム・14−18水和物
Al−2:硫酸アルミニウムカリウム・12水和物
Al−3:塩化アルミニウム・6水和物
Al−4:高塩基性塩化アルミニウム(多木化学(株)社製、タンホワイト)
Al−5:ポリ塩化アルミニウム
Al−6:塩基性乳酸アルミニウム(多木化学(株)社製、タキセラム M−160P)
Al−7:第一りん酸アルミニウム
(Si)成分
Si−1:3−アミノプロピルトリメトキシシラン
Si−2:3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン
Si−3:N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール
Si−4:2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン
Si−5:下記の製造法1により製造された化合物(b1)
Si−6:下記の製造例2により製造された化合物(b2)
【0072】
[製造例1]
NMP(51.17g)に、メソ−ブタン1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物(5.94g、0.03mol)を45℃で溶かした。これを25℃に冷却し、同温で1−(3−アミノプロピル)イミダゾール(3.76g、0.03mol)/NMP(3.76g)溶液を5分掛けて滴下した。滴下終了後、25℃で30分間撹拌した。さらに20℃で、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(5.38g、0.03mol)/NMP(5.38g)溶液を5分掛けて滴下した。滴下終了後、25℃で30分間撹拌する。ガスクロマトグラフィー(以下、GCと略記)で3−アミノプロピルトリメトキシシランの消失を確認して反応を終了し、化合物b1(分子量:14,464)を得た。
なお、製造した化合物b1の分子量測定は、下記の条件で測定した。
Shodex社製、GPC−101、カラム:Shodex GPC KD−806M、分子量マーカー:標準ポリスチレン(0.2g/L)
【0073】
[製造例2]
NMP(57.86g)に、無水コハク酸(12.01g、0.12mol)を室温で溶かした。水浴で冷却しながら、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(26.56g、0.12mol)を5分掛けて滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌し、目的の下記の構造の有機ケイ素化合物b2を得た。
【0074】

【0075】
評価基板(被めっき体)には、下記のC−1〜C−4の、それぞれ材質と表面性状が異なる、形状が90mm×50mm×0.4mmのものを使用した。
【0076】
C−1:銅張積層板の銅箔をエッチング除去した評価基板、日立化成工業(株)社製、ICパッケージ用基板、MCL−E−679FG(表面粗さRa=0.4μm)
【0077】
C−2:表1に記載のガラス粗化剤にソーダ石灰ガラスを室温下、25℃、10分浸漬し表面を粗化し、表面粗さRa=0.6μmの表面を得たソーダ石灰ガラス

【0078】
C−3:表2記載のステンレス粗化剤に、SUS304を、30℃で3分浸漬し表面を粗化し、粗度Ra=0.2μmの表面を得たステンレス

【0079】
C−4:アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体
【0080】
〈無電解めっきの前処理方法〉
無電解めっきの前処理は、製造法2−1又は比較製造法2−1により行った。
【0081】
[製造法2−1]
まず、(Al)成分としてAl−1〜Al−7を、それぞれAl23換算濃度で1質量%となる量で含む水溶液500mLを調製した。一次処理として、上記で調製した各水溶液中に、基板C−1〜C−4を、それぞれ21℃で5分間浸漬した。浸漬後、水洗(25℃、1分)を行った。次いで、(Si)成分として1質量%となる量のSi−1〜Si−6を含む水溶液500mLを調製し、二次処理として、一次処理後の各基板を、調製した各水溶液中に、40℃、5分間浸漬した。浸漬後、水洗(25℃、1分)を行った。その後、プレディップ(25℃、1分)、活性化(35℃、5分)、水洗(25℃、1分)、還元(30℃、5分)、水洗(25℃、1分)の順に行い、無電解めっきの前処理を行った。
【0082】
[比較製造法2−1]一次処理は行わず二次処理のみを行う
製造例2−1で行った(Al)成分による一次処理を行わず、基板C−1〜C−4を、製造例2−1で使用したと同様のSi−1〜Si−6を含む水溶液500mL中に、40℃、5分間浸漬した。浸漬後、水洗(25℃、1分)を行った。その後、プレディップ(25℃、1分)、活性化(35℃、5分)、水洗(25℃、1分)、還元(30℃、5分)、水洗(25℃、1分)の順に行い、無電解めっきの前処理を行った。
【0083】
〈無電解めっき方法〉
次に、下記の製造法3−1〜製造法3−3に従い、製造法2−1で、本発明で規定する方法により無電解めっきの前処理を行った基板と、比較製造法2−1で、それ以外の方法で前処理を行った基板のそれぞれに対して、無電解めっき、電解めっきを順に行った。
【0084】
[製造法3−1]
市販の無電解銅めっき溶液(アトテック社製、製品名:MSK−DK)を使用し、めっき浴を32℃に調節し、上記製造法2−1又は比較製造法2−1により前処理した基板をそれぞれ浸漬し、空気撹拌下、20分間撹拌し、無電解めっきした。その際のめっき厚は1μmである。これを水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、150℃、30分乾燥し、10%硫酸に1分間浸漬した。そして、この無電解銅めっき上に、電解銅めっきを20μm形成し、水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、180℃で30分乾燥して、めっき物を得た。
【0085】
[製造法3−2]
表3に記載の成分が含有されている無電解ニッケル浴を調製し、浴の温度を60℃に調節して、上記製造法2−1又は比較製造法2−1によってそれぞれの前処理をした基板を浸漬し、空気撹拌下、15分間撹拌し、無電解めっきした。その際のめっき厚は2.0μmである。これを水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、180℃、30分乾燥し、10%硫酸に1分間浸漬した。そして、この無電解ニッケルめっき上に、電解銅めっきを20μm形成し、水洗(25℃、1分)後、恒温槽内で、180℃、30分乾燥して、めっき物を得た。
【0086】

【0087】
[製造法3−3]
表4に記載の成分が含有されている無電解銀浴を調製し、浴の温度を25℃に調節し、上記製造法2−1又は比較製造法2−1によってそれぞれの前処理をした基板を浸漬し、浴を撹拌しながら10%グルコース水溶液を7分掛けて滴下した。滴下終了後、30分間撹拌し、無電解めっきした。その際のめっき厚は0.5μmである。これを、水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、180℃、30分乾燥し、10%硫酸に1分間浸漬した。そして、この無電解銀めっき上に、電解銅めっきを20μm形成し、水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、180℃、30分間乾燥して、めっき物を得た。
【0088】

【0089】
[実施例4−1〜4−16及び比較例4−1〜4−14]
上記した製造例3−1〜製造例3−3の各製造法によりめっきを施した基板について、ピール強度を下記の条件で測定し、結果を表5にまとめて示した。なお、ピール強度の数値が高いほど、電解めっき後の被めっき体(評価基板)とめっき膜が剥離しにくく、密着度が高いことが分かる。
測定装置:島津製作所社製、卓上試験機EZ−S使用
・ ピール速度:50mm/min
・ 試料サイズ:5mm幅
【0090】

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明で提供する無電解めっきの前処理方法は、金属や合金、セラミックス或いは合成樹脂等の広範な被めっき体に対して前処理を施すことで、めっき膜と被めっき体との間における良好な密着性を実現でき、しかも、使用する薬剤の環境負荷が少なく、ハケ塗り、ローラー塗り、スプレー、浸漬等の簡易な操作で行えることから、各種めっき製品への広範な活用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき体に無電解めっきをする工程よりも前に被めっき体に対して行う前処理方法であって、アルミニウムの塩又は化合物を含む水溶液で被めっき体を一次処理した後、有機ケイ素化合物を含む水溶液で該被めっき体を二次処理することを特徴とする無電解めっきの前処理方法。
【請求項2】
前記アルミニウムの塩又は化合物が、アルミニウムの塩である請求項1に記載の無電解めっきの前処理方法。
【請求項3】
前記有機ケイ素化合物が、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシランおよび高分子ケイ素化合物からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物である請求項1又は2に記載の無電解めっきの前処理方法。
【請求項4】
前記被めっき体が、銅、銀、金、亜鉛、ニッケル、スズ、コバルト、クロム、ステンレス、セラミックスおよび合成樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の無電解めっきの前処理方法。