説明

無電解めっき前処理剤及びフレキシブル基板用銅張り積層体

【課題】基材と銅めっき層の常態での初期密着力、及び耐熱エージング試験(大気中、150℃、168時間)での密着力が0.4kgf/cm以上となるフレキシブル基板用銅張り積層体に用いる無電解めっき前処理液、及び該無電解めっき前処理液を用いて作製されたフレキシブル基板用銅張り積層体を提供すること
【解決手段】フレキシブル基板用銅張り積層体の基材に用いる無電解めっき前処理剤であって、金属捕捉能を有するシランカップリング剤と、熱硬化性樹脂とを含み、該積層体の耐熱エージング試験(大気中、150℃、168時間)後の密着力(ピール強度)が0.4kgf/cm以上となることを特徴とする無電解めっき前処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線用フレキシブル基板の素材等となる銅張り積層体の基材に用いる無電解めっき前処理剤、及びそれを用いて作製されたフレキシブル基板用銅張り積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド基板は、電子部品用の絶縁基板材料として多用されている。最近では電子機器の薄型化、小型化に伴い、ポリイミドフィルムに直接金属層を形成した、より自由度の高い2層銅ポリイミド基板が注目されているが、この基板は、ポリイミドフィルムと金属層の常態での初期密着力は実用レベルだが、耐熱・高温高湿環境での密着力などの特性が不安視されている。
【0003】
また、ポリイミドフィルムのフレキシブル銅張り積層板について、金属層をスパッタリング法により製造する方法が例えば特許文献1に開示されている。しかしこの方法ではコスト高であり、耐熱・高温高湿環境での密着力は満足できるものではなかった。
【0004】
ポリイミドフィルムと金属層の密着性を向上するための方法としてはプラズマ、UV等の乾式プロセス、アルカリ等での湿式プロセスがあるが、使用液の安全性・作業性や、過度に処理すると金属層表面に凹凸ができ、微細配線形成に悪影響を与える可能性がある。
【0005】
また、特許文献2には、ポリイミドフィルムに樹脂組成物被膜を形成する工程、該被膜活性化工程、触媒付与工程、触媒活性化工程、無電解金属めっき工程の5工程からなる無電解銅めっきを行なった後電気銅めっきを行う方法が記載されている。この方法は密着付与層として樹脂組成物層を生成させることを主題としており、その結果樹脂組成物層の膜厚は1〜20μmを有し、工程が煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−136378号公報
【特許文献2】特開2001−168496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、基材と銅めっき層の常態での初期密着力、及び耐熱エージング試験(大気中、150℃、168時間)での密着力が0.4kgf/cm以上となるフレキシブル基板用銅張り積層体に用いる無電解めっき前処理液、及び該無電解めっき前処理液を用いて作製されたフレキシブル基板用銅張り積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、フレキシブル基板用銅張り積層体の無電解めっき前処理剤として、金属捕捉能を有するシランカップリング剤と熱硬化性樹脂とを含む無電解めっき前処理剤を用いることにより、上記課題を解決することができることを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
(1)フレキシブル基板用銅張り積層体の基材に用いる無電解めっき前処理剤であって、金属捕捉能を有するシランカップリング剤と、熱硬化性樹脂とを含み、該積層体の耐熱エージング試験(大気中、150℃、168時間)後の密着力(ピール強度)が0.4kgf/cm以上となることを特徴とする無電解めっき前処理剤。
(2)前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする前記(1)記載の無電解めっき前処理剤。
(3)基材を前記(1)又は(2)記載の無電解めっき前処理剤で処理した後、無電解めっきにより銅めっき層を形成し、その上に電気めっきにより銅めっき層を形成したことを特徴とする、耐熱エージング試験(大気中、150℃、168時間)後の密着力(ピール強度)が0.4kgf/cm以上のフレキシブル基板用銅張り積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無電解めっき前処理剤を用いて基材を処理し、その後無電解銅めっき層、電気銅めっき層を積層したフレキシブル基板用銅張り積層体は、基材と銅めっき層の常態での初期密着力、及び耐熱エージング試験(大気中、150℃、168時間)での密着力が0.4kgf/cm以上となる、密着性に優れた2層銅張りフレキシブル基板用銅張り積層体となる。基材表面へは乾式・湿式前処理を全く行なわずに密着力を付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の無電解めっき前処理剤は、金属捕捉能を有するシランカップリング剤と熱硬化性樹脂とを含む。
【0011】
金属捕捉能を有するシランカップリング剤を添加することにより、被めっき面に対してシランカップリング剤を介して貴金属触媒をより均一に、より確実に固着することができる。
【0012】
前記シランカップリング剤として、好ましいものはアゾール系化合物またはアミン化合物とエポキシ系化合物との反応により得られるものである。
【0013】
アゾール系化合物としては、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、トリアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール、ベンダゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。これらに制限されるものではないが、イミダゾールが特に好ましい。
【0014】
また、アミン化合物としては、例えばプロピルアミン等の飽和炭化水素アミン、ビニルアミン等の不飽和炭化水素アミン、フェニルアミン等の芳香族アミン等を挙げることができる。
【0015】
また前記シランカップリング剤とは、前記アゾール系化合物またはアミン化合物由来の貴金属捕捉基の他に、−SiX基を有する化合物であり、X、X、Xはアルキル基、ハロゲンやアルコキシ基などを意味し、被めっき物への固定が可能な官能基であれば良い。X、X、Xは同一でもまた異なっていても良い。
【0016】
前記シランカップリング剤は、前記アゾール系化合物またはアミン化合物とエポキシシラン化合物を反応させることにより得ることができる。
【0017】
このようなエポキシシラン化合物としては、
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、R1、R2は水素または炭素数が1〜3のアルキル基、nは0〜3)
で示されるエポキシカップリング剤が好ましい。
【0020】
前記アゾール系化合物と前記エポキシ基含有シラン化合物との反応は、例えば特開平6−256358号公報に記載されている条件で行うことができる。
【0021】
例えば、80〜200℃でアゾール系化合物1モルに対して0.1〜10モルのエポキシ基含有シラン化合物を滴下して5分〜2時間反応させることにより得ることができる。その際、溶媒は特に不要であるが、クロロホルム、ジオキサン、メタノール、エタノール等の有機溶媒を用いてもよい。
【0022】
特に好ましい例としてイミダゾール化合物とエポキシシラン系化合物の反応を下記に示す。
【0023】
【化2】

【0024】
(式中、R1、R2は水素または炭素数が1〜3のアルキル基、R3は水素、または炭素数1〜20のアルキル基、R4はビニル基、または炭素数1〜5のアルキル基、nは0〜3を示す。)
本発明に使用する金属捕捉能を持つ官能基を有するシランカップリング剤のその他の例として、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
本発明の無電解めっき前処理剤に用いる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂を添加することにより、密着力が向上する。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂を用いると特に密着力向上の効果が大きく、好ましい。
【0026】
本発明において、無電解めっき前処理剤に貴金属化合物が含有されることは必須ではない。本めっき前処理剤に浸漬後、塩化パラジウム水溶液に浸漬することでめっき活性を得ることができる。しかし、めっき前処理剤が貴金属化合物等の触媒を含有することがより好ましい。触媒としては、パラジウム、銀、白金、金等の貴金属化合物、例えば、それらのハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、貴金属石鹸等を挙げることができ、特にパラジウム化合物が好ましい。また、従来の塩化スズなどの触媒も本発明の目的の範囲内において含有させることができる。
【0027】
貴金属石鹸は、脂肪酸、樹脂酸、またはナフテン酸と、貴金属化合物との反応により得ることができ、本発明において好ましく用いることができる。
【0028】
脂肪酸としては、炭素原子数が5〜25のものが好ましく、より好ましくは8〜16である。脂肪酸の炭素数が4以下であると、有機溶媒に溶解しにくくなり、不安定となる。また炭素原子数が26以上であると有機溶媒への可溶分が限定されること、貴金属含有量が低下することで添加量が多くなり実用的でない。
【0029】
前記脂肪酸としては、オクチル酸、ネオデカン酸、ドデカン酸、ペンタデカン酸、オクタデカン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、ヒドロキシテトラデカン酸、カルボキシデカン酸等の含酸素脂肪酸、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0030】
また、前記脂肪酸、樹脂酸、ナフテン酸のうち、好ましいものを例示すると、ナフテン酸、オクチル酸、ネオデカン酸、ペンタデカン酸等を挙げることができる。
【0031】
また、前記貴金属化合物としては無電解めっき液から被めっき物表面に銅やニッケルなどを析出させる際の触媒効果を示すパラジウム、銀、白金、金等のハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩等の化合物であって、脂肪酸等と石鹸を形成し得る化合物を挙げることができるが、特にパラジウム化合物が好ましい。
【0032】
本発明に使用する貴金属石鹸は、前記脂肪酸等と前記貴金属化合物とを複分解法、直接法等の金属石鹸製造法の常法により得ることができる。
【0033】
本発明に使用する貴金属石鹸として好ましいナフテン酸パラジウムを下記に示す。
【0034】
【化3】

【0035】
本発明に使用する前記貴金属石鹸は、有機溶剤に可溶性であり、また溶液として安定である。このような有機溶剤としては、例えば、ブタノール、2−エチルへキサノール、オクチルアルコール等のアルコール、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム、ジオキサン等を挙げることができる。
【0036】
本発明の無電解めっき前処理剤は、上記金属捕捉能を有するシランカップリング剤、熱硬化性樹脂、貴金属石鹸等を、例えば、ブタノール、2−エチルへキサノール、オクチルアルコール等のアルコール、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム、ジオキサン等の有機溶剤に溶解させて用いる。
【0037】
無電解めっき前処理剤中の金属捕捉能を有するシランカップリング剤の濃度はこれに限ったものではないが、0.001〜10重量%が好ましく、0.05〜3重量%がより好ましい。0.001重量%未満の場合、基材の表面に付着する化合物量が低くなりやすく、効果が得にくい。また、10重量%を超えると付着量が多すぎて乾燥しにくかったり、粉末の凝集を起こしやすくなる。
【0038】
無電解めっき前処理剤中の熱硬化性樹脂の濃度は0.001〜30重量%が好ましく、0.05〜10重量%がより好ましい。0.001重量%より少ないと効果がなく、30重量%を超えると液粘度が高くなりすぎるため、めっき付きにむらが出る。
【0039】
また、貴金属石鹸は、無電解めっき前処理剤の溶液中において、1〜30000mg/L、好ましくは50〜10000mg/Lの濃度(貴金属換算)で使用することができる。
【0040】
本発明のフレキシブル基板用銅張り積層体の基材としては、各種ポリイミドフィルム、PET等が好ましく用いられる。ポリイミドフィルムとしては、例えば、カプトン(東レデュポン製)、ユーピレックス(宇部興産製)等が、PETとしては、ルミラー(東レ製)が挙げられる。
【0041】
基材を無電解めっき前処理剤で処理する方法としては、浸漬、刷毛塗り、スピンコート等の方法が一般的であるが、これらに限定されるものではなく、表面に前処理剤を付着させる方法であれば良い。
【0042】
表面処理後に使用した溶剤を揮発させるにはこの溶媒の揮発温度以上に加熱して表面を乾燥すれば十分であるが、さらに60〜120℃で3〜60分間加熱することが好ましい。
【0043】
また、本発明の無電解めっき前処理剤層の膜厚は1〜200nmが好ましい。
【0044】
本発明のフレキシブル基板用銅張り積層体は、これまで述べてきた前処理を施した基材上に、常法の無電解めっき法により銅めっき層を形成し、更に常法の電気めっきにより銅めっき層を形成したものである。こうして、本発明により、均一で密着性に優れたフレキシブル基板用銅張り積層体を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
市販のポリイミドフィルムカプトン(200H、東レデュポン製)の表面に、イミダゾールシラン(イミダゾールと3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの等モル反応生成物)1g/Lと、Pd石鹸(ナフテン酸Pd、日鉱マテリアルズ製)0.5g/L(Pd換算100mg/L)と、エポキシ樹脂(エピコートEP828、ジャパンエポキシレジン製)1g/Lを含んだ有機溶媒(ブタノール)系無電解めっき前処理剤を塗布した。150℃で溶媒除去し、膜厚70nmの前処理剤層を形成した後、無電解銅めっき(めっき液:NKM554、日鉱メタルプレーティング製)により膜厚0.5μmの銅めっき層を形成し、次に、電流密度2A/dmで電気銅めっき(めっき液:硫酸銅系、日鉱メタルプレーティング製)を行ない、膜厚35μmの銅めっき層を形成した。その常態でのピール強度、その後空気中150℃、168時間エージングした後のピール強度をそれぞれ測定した。ピール強度はJIS C−6481に基づく90度引き剥がし試験による。以下の実施例、比較例においても同様である。結果は表1の通り、エージング後での強度も0.7kgf/cmと高い数値を示した。
実施例2
市販のポリイミドフィルムカプトン(200H、東レデュポン製)の表面に、イミダゾールシラン(イミダゾールと3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの等モル反応生成物)1g/LとPd石鹸(ナフテン酸Pd、日鉱マテリアルズ製)0.5g/L(Pd換算100mg/L)と、フェノール樹脂(XLC−4L、三井化学製)2g/Lを含んだ有機溶媒(ブタノール)系無電解めっき前処理剤を塗布した。150℃で溶媒除去し、膜厚70nmの前処理剤層を形成した後、無電解銅めっき(めっき液:NKM554、日鉱メタルプレーティング製)により膜厚0.5μmの銅めっき層を形成し、次に、電気銅めっき(めっき液:硫酸銅系、日鉱メタルプレーティング製)を行ない、膜厚35μmの銅めっき層を形成した。その常態でのピール強度、その後空気中150℃、168時間エージングした後のピール強度をそれぞれ測定した。
実施例3
実施例1のイミダゾールシランの変わりにアミノシラン(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、信越化学製)を用いた以外は実施例1と同様に処理・試験を行なった。結果は表1の通り、エージング後での強度も0.4kgf/cmと高い数値を示した。
比較例1
エポキシ樹脂を含まない以外は実施例1と同様に処理・試験を行なった。結果は表1の通り、初期ピール強度は0.9kgf/cmと高かったが、エージング後のピール強度は0.1kgf/cmと低いものとなった。
比較例2
スパッタリング法により銅シード層を0.5μm形成した後、実施例1と同様に電気銅めっきで35μmの銅めっき層を形成し、実施例1と同様に試験を行なった。結果は表1の通り、初期ピール強度は0.9kgf/cmと高かったが、エージング後は低いものとなった。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル基板用銅張り積層体の基材に用いる無電解めっき前処理剤であって、金属捕捉能を有するシランカップリング剤と、熱硬化性樹脂とを含み、該積層体の耐熱エージング試験(大気中、150℃、168時間)後の密着力(ピール強度)が0.4kgf/cm以上となることを特徴とする無電解めっき前処理剤。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする請求の範囲1記載の無電解めっき前処理剤。
【請求項3】
基材を請求の範囲1又は2記載の無電解めっき前処理剤で処理した後、無電解めっきにより銅めっき層を形成し、その上に電気めっきにより銅めっき層を形成したことを特徴とする、耐熱エージング試験(大気中、150℃、168時間)後の密着力(ピール強度)が0.4kgf/cm以上のフレキシブル基板用銅張り積層体。

【公開番号】特開2012−7244(P2012−7244A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216833(P2011−216833)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【分割の表示】特願2006−535103(P2006−535103)の分割
【原出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】