説明

無電解めっき用前処理剤及びこれを用いた無電解めっき方法

【課題】無電解めっきにより、フィラー等を含む樹脂基板においても、基板表面に均一で、密着性が良好な金属膜を形成することができる前処理液を提供することを目的とする。また、前処理した後に行う触媒付与において、Pd濃度が低くても無電解めっきにより基板表面に均一で、密着性が良好な金属膜を形成することが可能となる前処理剤を提供することを目的とする。
【解決手段】基板の無電界めっき用前処理剤であって、アニオン系リン酸エステル界面活性剤を含み、処理した基板表面のゼータ電位が0mV未満となることを特徴とする無電解めっき用前処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解めっき用前処理剤、特に基板樹脂の無電解銅めっき性を向上させる無電解めっき用前処理剤、及びこれを用いた無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識が高まり、基板材料のハロゲンフリー化が進められている。また電子機器の高性能化、高密度実装化への要求に伴い基板材料に対して高い信頼性が求められ、高いガラス転移点(Tg)を有する材料が使用されている。このようにハロゲンフリー化、高Tg化された材料を用いた基板は、通常、主成分のエポキシ樹脂やシアネート樹脂などの樹脂成分とシリカ(SiO2)やアルミナ(Al23)などのフィラー成分、ガラス繊維などの成分で構成されている。それら基板成分(表面)ごとにめっき活性が異なり、その上に無電解めっきにより、均一で、密着性が良好な金属膜を形成することが困難になってきている。
また、従来より無電解めっきの前処理として被めっき物を前処理し、触媒を付与し、無電解めっきを行う。触媒としてはPd等が用いられており、めっき性を確保するためには触媒液中のPd濃度を100〜200mg/L程度に上げて用いているが、Pdは高価であり、触媒液中のPd濃度が低くても効果的に触媒を付与することができることが望まれている。
【0003】
基材と無電解めっきにより形成する金属被膜との密着性を向上させる無電解めっき用前処理剤として、特許文献1にカチオン性高分子と電子供与性基を有する樹脂とカチオン系界面活性剤及び/またはノニオン系界面活性剤を有する水性処理液が記載されている。界面活性剤は、繊維布帛のような形状を有する基材に処理液を浸透させるために使用するものであり、アニオン系界面活性剤はカチオン性高分子との凝集が懸念されるため好ましくない。
また、特許文献2には脱脂・洗浄効果を有し、触媒を確実に付着させる前処理剤として、ノニオン系界面活性剤と陽イオン性樹脂と金属イオンの錯化剤を含む前処理液が記載されている。
特許文献3には、無電解めっきにより導体パターンを十分に被覆することができる前処理方法として、ノニオン系界面活性剤を含有する溶液を接触させる第1の工程と、カチオン系界面活性剤を含有する溶液に接触させる第2の工程を有する前処理方法が記載されている。この方法は2工程を必要とし、工程が煩雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−91877号公報
【特許文献2】特開2006−249520号公報
【特許文献3】特開2006−2217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、無電解めっきにより、フィラー等を含む樹脂基板においても、基板表面に均一で、密着性が良好な金属膜を形成することができる前処理液を提供することを目的とする。
また、前処理した後に行う触媒付与において、Pd濃度が低くても無電解めっきにより基板表面に均一で、密着性が良好な金属膜を形成することが可能となる前処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討を行った結果、特定の界面活性剤を含有する前処理剤を用いることにより上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)基板の無電界めっき用前処理剤であって、アニオン系リン酸エステル界面活性剤を含み、処理した基板表面のゼータ電位が0mV未満となることを特徴とする無電解めっき用前処理剤。
(2)前記アニオン系リン酸エステル界面活性剤がアニオン系芳香族リン酸エステル類であることを特徴とする前記(1)記載の無電解めっき用前処理剤。
(3)前記(1)又は(2)記載の無電解めっき用前処理剤を用い、基版を処理した後、Pd濃度が10mg/L以上40mg/L以下のPd含有触媒液を用いて触媒を付与し、無電解めっきを行うことを特徴とする無電解めっき方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の無電解めっき用前処理剤を用いて処理することにより、基板全体のめっき性が改善され、フィラー等を含む樹脂基板においても、基板表面に均一で、密着性が良好な金属膜を無電解めっきで形成することができる。
また、前処理した後に行う触媒付与において、Pd濃度が低くても無電解めっきにより基板表面に均一で、密着性が良好な金属膜を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で得られた基板のSEM写真である。
【図2】実施例2で得られた基板のSEM写真である。
【図3】実施例3で得られた基板のSEM写真である。
【図4】比較例1で得られた基板のSEM写真である。
【図5】比較例4で得られた基板のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の無電解めっき用前処理剤は、アニオン系リン酸エステル界面活性剤を含み、該前処理剤で処理した基板表面のゼータ電位が0mV未満となる。
アニオン系リン酸エステル界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩等のアニオン系芳香族リン酸エステル類、及びアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等のアニオン系脂肪族リン酸エステル類が挙げられるが、本発明の所定の効果を得るためにはアニオン系芳香族リン酸エステル類が好ましい。
アニオン系芳香族リン酸エステル類としては、例えば(株)ADEKA製CS141E、CS279等を好ましく用いることができる。
【0011】
本発明の前処理剤は、アニオン系リン酸エステル界面活性剤の水溶液として用い、前処理液中アニオン系リン酸エステル界面活性剤を1mg/L〜3g/L含有することが好ましく、10mg/L〜300mg/L含有することがより好ましい。含有量が1mg/L未満では表面の電位コントロールが不十分で、無電解めっきした際にムラになる。また、3g/Lを超えると、効果があるが、洗浄が大変であることと、それにより表面に残存し易くなり、無電解めっきにより形成しためっきの密着性が低下する。
本発明の前処理剤は、アニオン系リン酸エステル界面活性剤以外にポリエチレングリコール等のノニオン系界面活性剤や、ジアミンやホスホン酸などのキレート剤、錯化剤を含有してもよい。
【0012】
本発明の前処理剤で処理した基板表面のゼータ電位(界面動電位)は0mV未満であり、好ましくは0〜−100mVであり、更に好ましくは−10〜−50mVである。処理した基板表面のゼータ電位が0mV以上であると触媒の吸着が弱くなる。
【0013】
ゼータ電位の測定は、例えば大塚電子製ゼータ電位測定装置(ELS)等の装置を用いて、平板試料用セルユニットにて基板試料面に電気泳動を行い、その数値からゼータ電位を求めることができる。
【0014】
本発明の前処理剤を用いた前処理方法としては、前処理剤に基板を浸漬すればよい。前処理としては、35〜55℃で、1〜10分程度浸漬することが好ましい。
【0015】
前記前処理液を用いて前処理した後に、Pd等の触媒を付与する。Pd触媒液としては公知のものを用いることができる。例えば、Pdイオン化合物系の触媒液を好ましく用いることができる。
本発明の前処理剤を用いて処理することにより、Pdの触媒付与を行う触媒液のPd濃度を10〜40mg/Lとすることができる。40mg/Lを超えてもめっき性に何ら問題はないが、不必要にPd吸着量を増加させるだけでコスト面で不利である。
【0016】
基板は、ビルドアップ基板樹脂等の樹脂基板が好ましい。樹脂基板としては、主成分のエポキシ樹脂やシアネート樹脂などの樹脂成分とシリカ(SiO2)やアルミナ(Al23)などのフィラー成分、ガラス繊維などの成分で構成されている樹脂基板が挙げられ、例えば、SiO2系フィラーが充填されたエポキシ樹脂の基板を好適に用いることができる。基板は、過マンガン酸などの通常の方法でデスミア処理したのち、本発明の前処理剤で処理することが好ましい。
【0017】
触媒を付与した後に行う無電解めっきは、銅、ニッケル、スズ等の無電解めっきであるが、無電解銅めっきが好ましく、この際に用いる無電解銅めっき液としては、公知の無電解めっき液を用い、公知の方法で行うことができる。
本発明の処理剤で処理した後、Pd濃度が10〜40mg/Lの触媒液を用いて触媒を付与しても、無電解銅めっきにより、フィラー等への付きまわりもよく、均一に成膜することができ、また密着性がよいめっき膜を得ることができる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
シリカ系フィラーを含有するエポキシ樹脂からなるプリント基板用の基板(GX18、味の素ファインテクノ製)をデスミア処理した後、アニオン系芳香族リン酸エステル型界面活性剤(CS141E、(株)ADEKA製)を1g/L含んだ前処理剤で処理し(45℃、3分)、表面のゼータ電位を測定した。ゼータ電位は−10mVであった。その後、Pd濃度が30mg/Lのキャタリスト(CBプロセス、日鉱金属(株)製)にてPdを付与した。その後無電解銅めっきを行い、膜厚0.3μmの銅層を形成した。SEM写真を図1に示す。図1に見るように、輝点部位がなく、フィラーに付きまわりよくめっきされていることがわかる。
【0019】
実施例2
実施例1と同様のプリント基板用の基板をデスミアした後、アニオン系芳香族リン酸エステル型界面活性剤(CS279、(株)ADEKA製)を1g/L含んだ前処理剤で処理し(45℃、3分)、表面のゼータ電位を測定した。ゼータ電位は−20mVであった。その後、Pd濃度が38mg/Lのキャタリスト(CBプロセス、日鉱金属(株)製)にてPdを付与した。その後無電解銅めっきを行い、膜厚0.3μmの銅層を形成した。SEM写真を図2に示す。図2に見るように、輝点部位がなく、フィラーに付きまわりよくめっきされていることがわかる。
【0020】
実施例3
実施例1と同様のプリント基板用の基板をデスミアした後、アニオン系芳香族リン酸エステル型界面活性剤(CS141E、(株)ADEKA製)を0.5g/L含んだ前処理剤で処理し(45℃、3分)、表面のゼータ電位を測定した。ゼータ電位は−5mVであった。その後、Pd濃度が30mg/Lのキャタリスト(CBプロセス、日鉱金属(株)製)にてPdを付与した。その後無電解銅めっきを行い、膜厚0.3μmの銅層を形成した。SEM写真を図3に示す。図3に見るように、輝点部位がなく、フィラーに付きまわりよくめっきされていることがわかる。
【0021】
比較例1
実施例1と同様のプリント基板用の基板をデスミアした後、ノニオン系エチレングリコール型界面活性剤(PEG1000)を1g/L含んだ前処理剤で処理し(45℃、3分)、ゼータ電位を測定した。ゼータ電位は5mVであった。その後その後Pd濃度が38mg/Lのキャタリスト(CBプロセス、日鉱金属(株)製)にてPdを付与した後無電解銅めっきを行い、膜厚0.3μmの銅層を形成した。SEM写真を図4に示す。SEM写真において、輝点となっているところが表面がめっきされていない部分であり、フィラー上のめっき析出が不十分であった。
比較例2
実施例1と同様のプリント基板用の基板をデスミアした後、ノニオン系エチレングリコール型界面活性剤(PEG1000)を10mg/L含んだ前処理剤で処理し(45℃、3分)、ゼータ電位を測定した。ゼータ電位は−5mVであった。その後その後Pd濃度が38mg/Lのキャタリスト(CBプロセス、日鉱金属(株)製)にてPdを付与した後無電解銅めっきを行い、膜厚0.3μmの銅層を形成した。SEM写真において、表面がめっきされていない部分があり、フィラー上のめっき析出が不十分であった。
【0022】
比較例3
実施例1と同様のプリント基板用の基板をデスミアした後、アニオン系アルキルベンゼンスルホン酸塩型界面活性剤(ネオペレックスG−25、KAO製)を1g/L含んだ前処理剤で処理し(45℃、3分)、表面のゼータ電位を測定した。せータ電位は−5mVであった。その後Pd濃度が38mg/Lのキャタリスト(CBプロセス、日鉱金属(株)製)にてPdを付与した後無電解銅めっきを行い、膜厚0.3μmの銅層を形成した。SEM写真において表面がめっきされていない部分があり、フィラーへのめっき析出が不十分であった。
【0023】
比較例4
実施例1と同様のプリント基板用の基板をデスミアした後、アニオン系アルキルベンゼンスルホン酸塩型界面活性剤(ネオペレックスG−25、KAO製)を1mg/L含んだ前処理剤で処理し(45℃、3分)、表面のゼータ電位を測定した。せータ電位は−0.5mVであった。その後Pd濃度が38mg/Lのキャタリスト(CBプロセス、日鉱金属(株)製)にてPdを付与した後無電解銅めっきを行い、膜厚0.3μmの銅層を形成した。SEM写真を図5に示す。輝点となっているところが表面がめっきされていない部分であり、フィラーへのめっき析出が不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の無電界めっき用前処理剤であって、アニオン系リン酸エステル界面活性剤を含み、処理した基板表面のゼータ電位が0mV未満となることを特徴とする無電解めっき用前処理剤。
【請求項2】
前記アニオン系リン酸エステル界面活性剤がアニオン系芳香族リン酸エステル類であることを特徴とする請求項1記載の無電解めっき用前処理剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の無電解めっき用前処理剤を用い、基板を処理した後、Pd濃度が10mg/L以上40mg/L以下のPd含有触媒液を用いて触媒を付与し、無電解めっきを行うことを特徴とする無電解めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−236025(P2010−236025A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85527(P2009−85527)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】