説明

無電解めっき用前処理方法及び無電解めっき皮膜の形成方法

【課題】セラミックス、プラスチックス等の各種の基板上に、簡単な処理工程によって優れた密着性を有する無電解めっき皮膜を形成できる方法を提供する。
【解決手段】下記(1)及び(2)の工程を含む無電解めっき用前処理方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03〜0.08モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させる工程、
並びに上記方法によって前処理を行った後、被処理物を無電解めっき液に接触させ、その
後、必要に応じて熱処理を行うことを特徴とする無電解めっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき用前処理方法及び無電解めっき皮膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IC、LSI等の高集積化に伴い、プリント配線基板の配線の細線化が進められている。更に、より集積度を向上させるために、チップを直接基板に搭載する方法が開発され、高密度な実装配線が可能なファインピッチファインパターン実装を適用可能な技術の開発も進行しつつある。
【0003】
この様な現状において、基板材料に対しては、優れた放熱性、電気特性、機械特性などが求められており、高純度アルミナや窒化アルミニウム等の熱伝導率が高いセラミックス基板が注目されている。
【0004】
これらのセラミックス材料を基板として使用するためには、その表面を金属化する技術の開発が必要である。
【0005】
しかしながら、セラミックス材料は、その表面が化学的に安定であるために、密着性よく導体を形成することは困難である。
【0006】
従来、セラミックス材料の表面を金属化する方法としては、蒸着・スパッタリングなどの気相法や無電解めっき法など知られている。これらの方法の内で、無電解めっき法を適用する場合には、通常、基板とめっき皮膜との間の密着性を確保するために、基板表面に対してエッチング゛処理が必要となる。しかしながら、一般にセラミックス材料は、化学的安定性が高いために、均一なエッチング効果を得ることは難しく、特に、微小領域において均一な密着力を得ることは困難である。
【0007】
絶縁性基板上に密着性のよい金属薄膜を形成する方法としては、スプレーパイロシス法によって製膜したZnOをバインダー層として用い、この上に触媒を付与した後、無電解めっき皮膜を形成する方法が報告されている(非特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、充分な密着性を得るためには、400nm程度以上のZnO膜を形成することが必要とされており、処理時間が長いために生産性が低く、コストの点でも満足のいくものではない。
【非特許文献1】H.Yoshiki, V. Alexandruk, K.Hoshimoto, and A. Fujishima, J. Electrochem, Soc., 141, L56(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、セラミックス、プラスチックス等の各種の基板上に、簡単な処理工程によって優れた密着性を有する無電解めっき皮膜を形成できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の条件を満足する亜鉛イオン、硝酸イオンおよびアミンボラン化合物を含有する水溶液を用いて化学的に酸化亜鉛膜を形成した後、pH3.5以上の触媒金属含有水溶液を用いて触媒金属を付与し、その後無電解めっきを行う方法によれば、非常に薄い酸化亜鉛皮膜を形成するだけで、各種の基板に対して平滑性を損なうことなく、優れた密着性を有するめっき皮膜を形成できることを見出した。更に、上記方法で無電解めっきを行った後、熱処理を行うことによって、短時間で密着性に優れた無電解めっき皮膜を形成することが可能となることを見出し、ここに本発明完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の無電解めっき用前処理方法及び無電解めっき皮膜の形成方法を提供するものである。
1. 下記(1)及び(2)の工程を含む無電解めっき用前処理方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03〜0.08モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させる工程。
2. 触媒付与液が、Pd,Ag及びPtからなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒金属を5〜200ppmと、錯化剤成分を含有するpH3.5〜13の水溶液である上記項1に記載の方法。
3. 上記項1又は2の方法によって前処理を行った後、被処理物を無電解めっき液に接触させることを特徴とする無電解めっき方法。
4. 下記(1)〜(4)の工程を含む無電解めっき方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03〜0.2モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させて触媒を付与する工程、
(3)上記(2)工程によって触媒を付与した後、被処理物を無電解めっき液に接触させて無電解めっき皮膜を形成する工程、
(4)上記(3)工程で無電解めっき皮膜を形成した後、熱処理を行う工程。
5. 熱処理温度が100℃以上である上記項4に記載の無電解めっき方法。
【0011】
以下、本発明の無電解めっき用前処理方法について具体的に説明する。
【0012】
酸化亜鉛膜形成工程
本発明方法では、まず、第一工程として、亜鉛イオン、硝酸イオンおよびアミンボラン化合物を含有する酸化亜鉛膜形成用水溶液を用いて被処理物の表面に酸化亜鉛膜を形成する。
【0013】
この際、酸化亜鉛膜形成用水溶液としては、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03〜0.08モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液を用いる。
【0014】
この様な水溶液を被処理物に接触させることによって、被処理物の表面に酸化亜鉛膜を還元析出させることができる。この際、上記した特定の濃度範囲の亜鉛イオンと硝酸イオンを含む組成物を用いることによって、形成される酸化亜鉛膜は、微小なポーラス構造を有する皮膜となる。形成される酸化亜鉛皮膜は、各種基板に対する密着性が良好であり、また、酸化亜鉛皮膜が微細なポーラス構造を有することによって、後述する工程に従って触媒付与と無電解めっきを行うと、充分なアンカー効果が発揮されて優れた密着性を有する無電解めっき皮膜を形成することができる。
【0015】
亜鉛イオン源となる化合物としては、水溶性亜鉛塩を用いればよく、その具体例として、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、リン酸亜鉛、ピロリン酸亜鉛、炭酸亜鉛等を挙げることができる。
【0016】
硝酸イオン源としては、硝酸、水溶性硝酸塩等を用いることができ、硝酸塩の具体例として、硝酸亜鉛、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸尿素等を挙げることができる。
【0017】
亜鉛イオン源となる化合物及び硝酸イオン源となる化合物は、それぞれ、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。また、亜鉛イオン及び硝酸イオンの両方のイオン源として、硝酸亜鉛を単独で用いても良い。特に、硝酸亜鉛を単独で用いる場合には、浴中に不要な成分が多く存在することがなく、水酸化亜鉛の形成なども抑制されて、純度の高い酸化亜鉛膜を広い濃度範囲で形成することが可能となる。
【0018】
アミンボラン化合物としては、水溶性の化合物であればいずれも用いることができ、具体例として、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等を挙げることができる。特に、トリメチルアミンボランを用いる場合には、浴の安定性が良好となり、良好な酸化亜鉛膜を長期間継続して形成できる。
【0019】
上記した酸化亜鉛膜形成用組成物に含まれる亜鉛イオン濃度は、0.03〜0.08モル/L程度であることが適当であり、0.05〜0.07モル/L程度であることが好ましい。硝酸イオンのモル濃度は、亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍程度、好ましくは1.5〜2.5倍程度とする。
【0020】
アミンボラン化合物の添加量については、広い範囲で調整することが可能であり、例えば、0.001〜0.5モル/L程度とすることができるが、0.01〜0.1モル/L程度とすることが好ましい。この様にアミンボラン化合物の添加量は、広い範囲で調整できるので、例えば、低コストとするためには、アミンボラン化合物の添加量を比較的低い濃度とすればよい。この場合には、析出速度は若干の低下があるものの、目的とする微細なポーラス構造の酸化亜鉛膜を形成することは可能である。
【0021】
酸化亜鉛膜形成用水溶液のpHについては、特に限定されるものではないが、pHが低い場合には浴の安定性は向上するものの成膜速度が低下し、一方、pHが高い場合には、成膜速度は向上するが浴の安定性が低下して沈殿が生成し易くなり、酸化亜鉛膜を得ることが困難となる。これらの点から、該組成物のpHは4〜7程度とすることが好ましい。
【0022】
酸化亜鉛膜形成用水溶液の液温については、特に限定的ではないが、60〜90℃程度とすることが好ましく、70〜85℃程度とすることがより好ましい。この様な温度範囲で酸化亜鉛膜を形成することによって、優れた密着性を有する無電解めっき皮膜を形成することが可能となる。
【0023】
形成される酸化亜鉛膜の膜厚は、特に限定的ではないが、良好な密着性を得るためには、100nm程度以上、特に、200nm程度以上とすることが好ましい。膜厚の上限については、特に限定的ではないが、生産性などを考慮すると、300nm程度以下とすることが好ましく、250nm程度以下とすることがより好ましい。本発明の方法によれば、この様な薄い膜厚の酸化亜鉛膜を形成するだけで、優れた密着性を有する無電解めっき皮膜を形成できるので、製造時間が短縮され、生産効率が高く、コスト的にも有利である。
【0024】
更に、酸化亜鉛膜形成用水溶液から酸化亜鉛膜を形成する方法によれば、微細なパターン上に均一で密着性の良い皮膜を形成できるので、高密度の配線パターンにも対応が可能である。
【0025】
酸化亜鉛膜を形成する方法としては、被処理物を上記した酸化亜鉛膜形成用水溶液に接触させればよく、通常は、酸化亜鉛膜形成用水溶液に被処理物を浸漬すればよい。浸漬する際には、該水溶液は、無撹拌及び撹拌状態のいずれでも良く、撹拌法としては、公知の攪拌方法を適宜採用できる。形成される酸化亜鉛膜の膜厚は浸漬時間とともに増加するので、液温に応じて、浸漬時間を適宜設定することによって、目的とする膜厚の酸化亜鉛膜を形成することができる。例えば、80℃程度の液温で200nm程度の酸化亜鉛膜を形成するためには、20分程度又はそれ以上の処理時間となる。
【0026】
酸化亜鉛膜を形成するための被処理物の種類は特に限定されず、酸化亜鉛膜形成用水溶液中に浸漬した場合に変質しない材料であればどのような材料も使用可能であり、導電性及び非導電性のいずれの材料であってもよい。その具体例としては、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム等の金属材料、NESAガラス、ITOガラス等の導電性ガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラス(コーニング7059ガラス)などの非導電性ガラス材料、セラミックス材料、ABS,PC,PET、ポリイミド、エポキシなどのプラスチックス材料などを挙げることができる。
【0027】
被処理物としてガラス、セラミック、プラスチックス等を用いる場合には、被処理物を酸化亜鉛膜形成用水溶液に浸漬する前に、触媒金属を付与する。触媒金属の付与方法としては、無電解めっき皮膜を形成する際に行われている触媒付与方法と同様とすればよい。触媒付与処理の具体的な方法としては、無電解めっき皮膜を形成する際に行われている公知の方法をいずれも適用できる。一般的には、パラジウムを付与する方法が広く行われており、例えば、センシタイジング−アクチベーション法、キャタリスト−アクセレレーター法、アルカリキャタリスト法等により触媒を付与すればよい。
【0028】
その他、触媒金属としては、例えば、銀を用いることもできる。銀触媒を付与する方法については、特に限定はないが、例えば、特開平1−68478号公報に記載されている銀ヒドロゾルを用いて触媒を付与する方法、特開平10−30188号公報に記載されている銀塩0.01〜100ミリモル/L、陰イオン界面活性剤0.01〜0.5重量%、及び銀塩に対して0.1〜0.8倍モルの還元剤を含有する水溶液を用いる方法、特開2000−8180号公報に記載されている、2価の錫イオンを含むセンシタイジング溶液と接触させてセンシタイジング処理を行った後、銀イオンを含有する溶液と接触させることによって銀触媒を付与する方法などを適用できる。
【0029】
更に、無電解めっき皮膜を形成する際に用いられるその他の触媒、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、白金等の触媒金属を付与してもよい。また、上記した触媒金属を二種類以上併用してもよい。 例えば、Sn−Ag触媒(奥野製薬工業(株)、MOONプロセス)、Sn―Ag−Pd触媒(奥野製薬工業(株)、テクノクリアプロセス)などを適用出来る。
【0030】
触媒付与工程
上記した方法で酸化亜鉛膜を形成した後、無電解めっき用の触媒を付与する。触媒付与方法としては、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液を被処理物に接触させればよい。
【0031】
触媒付与液のpHは、3.5以上であることが必要であり、3.5〜13程度であることが好ましく、4〜10程度であることがより好ましく、4.5〜7程度であることが特に好ましい。この様なpH範囲の触媒付与液を使用することによって、酸化亜鉛膜をほとんど溶解させることなく、無電解めっき用触媒を付与することができる。
【0032】
触媒金属としては、無電解めっきに対して触媒活性を有する金属であれば、特に限定無く使用できる。例えば、Pd、Ag、Pt等を例示できる。
【0033】
これらの触媒金属は、後述する錯化剤との組み合わせにおいて、所定のpH範囲の水溶液中に可溶性の化合物であれば特に限定なく使用できる。
【0034】
例えば、代表的な触媒金属であるPdを用いる場合には、その水溶性塩である硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム等を使用できる。
【0035】
これらの触媒金属をpH3.5以上の水溶液中で安定化させるためには、通常、触媒付与液中に錯化剤を配合する。錯化剤の代表例としては、イミノジ゛酢酸(IDA),ニトリロトリ酢酸(NTA),エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などのアミノカルボン酸類;ギ酸,酢酸,プロピオン酸、グリコール酸等のモノカルボン酸;シュウ酸,マロン酸、コハク酸、リンゴ酸等のジカルボン酸;クエン酸等のトリカルボン酸;LiCl、NaCl、KCl等の塩化物等を挙げることができる。特に、塩化物を錯化剤としてクロロ錯体とする場合には、酸化亜鉛膜の溶解量が少ない点で好ましい。
【0036】
本発明で用いる触媒付与液では、触媒金属の濃度については特に限定的ではないが、例えば、金属濃度として、5〜200ppm程度であることが好ましく、10〜50ppm程度であることがより好ましい。
【0037】
錯化剤の濃度についても特に限定的ではなく、上記したpH範囲の触媒付与液中において、触媒金属が安定に存在し得る濃度とすればよい。例えば、上記のカルボン酸類を錯化剤とする場合には、触媒金属に対して1〜10倍モル程度,好ましくは2〜5倍モル程度の錯化剤を用いることができ、塩化物を錯化剤としてクロロ錯体を形成する場合には、触媒金属に対して5〜50倍モル程度,好ましくは10〜30倍モル程度の錯化剤を用いることができる。
【0038】
上記した触媒付与液を用いる場合には、一般に、触媒付与液中の触媒金属濃度を増加させるとZnO膜表面の触媒付与量が増加する傾向がある。例えば、触媒金属としてPdを用いる場合には、触媒付与液中のPd濃度を増加させると、ZnO膜表面のPd存在率は10原子%上回る場合がある。しかしながら、ZnO膜表面のPd存在量が多くなると、無電解めっきにおいて初期反応が大きくなり過ぎて微細なポアの内部からの無電解めっきの析出が阻害され、十分なアンカー効果が得られず、その結果ZnO膜と無電解めっき皮膜との密着性が低下することがある。この様な点を考慮すると、Pdを触媒金属とする場合には、ZnO膜表面におけるPd存在率は5原子%程度以下であることが好ましい。この場合、触媒付与液中のPd金属濃度は、5〜200ppm程度であることが適当であり、10〜50ppm程度であることが好ましい。
【0039】
触媒を付与する方法としては、酸化亜鉛膜を形成した被処理物を上記した触媒付与液に接触させればよく、通常は、触媒付与液に被処理物を浸漬すればよい。触媒付与液の液温は、通常、20〜50℃程度とすればよく、処理時間は10〜60秒程度とすればよい。
【0040】
上記したpH条件を満足する触媒付与液を用いて、触媒金属を付与することによって、酸化亜鉛膜をほとんど溶解することなく、酸化亜鉛膜に触媒金属を付与することができる。このため、本発明の方法では、非常に薄い膜厚の酸化亜鉛膜を形成するだけで、密着性の良好な無電解めっき皮膜を形成することが可能である。
【0041】
無電解めっき法
上記した方法で触媒金属を付与した後、無電解めっきを行うことによって、各種の基板に対して、密着性のよいめっき皮膜を形成することができる。
【0042】
無電解めっき液としては、公知の自己触媒型無電解めっき液をいずれも用いることができる。この様な無電解めっき液としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解コバルトめっき液、無電解ニッケル−コバルト合金めっき液、無電解金めっき液等を例示できる。
【0043】
無電解めっきの条件については、公知の方法と同様とすればよい。また、必要に応じて無電解めっき皮膜を二層以上形成してもよい。
【0044】
熱処理工程
本発明では、上記した方法によって無電解めっき皮膜を形成した後、更に、熱処理を行うことによって、無電解めっき皮膜の密着性を大きく向上させることができる。また、通常、本発明方法では、無電解めっきを行った後、安定した密着性を得るために、室温で24時間程度放置することが望ましいが、無電解めっき後に熱処理を行うことによって、短時間で十分な密着性を得ることができる。このため、無電解めっき皮膜を形成した後、電気めっき、ハンダ付け等の処理を行う場合には、熱処理を行うことによって処理時間を大幅に短縮することができる。
【0045】
尚、無電解めっき皮膜を形成した後熱処理を行う場合には、熱処理を行わない場合と比較して、酸化亜鉛膜形成用組成物における亜鉛イオン濃度及び硝酸イオン濃度がより高い場合にも、良好な密着性の無電解めっき皮膜を形成することができる。具体的には、亜鉛イオン濃度が0.03〜0.2モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液を酸化亜鉛膜形成用組成物として用いることができる。この場合の酸化亜鉛膜形成用組成物による処理条件は、熱処理を行わない場合と同様とすればよい。
【0046】
熱処理温度については、特に限定的ではないが、100℃程度以上とすることが好ましい。特に、好ましくは120℃程度以上、より好ましくは150℃程度以上の温度で熱処理を行うことによって、短時間の熱処理で密着強度を大きく向上させることができる。熱処理温度の上限については特に限定的ではなく、使用する基材の種類などに応じて、変質などが生じることのない温度とすればよい。通常、熱処理温度を250℃程度以下とすれば、無電解めっき皮膜表面の酸化物などによる変質を抑制することができる。
【0047】
熱処理時の雰囲気については特に限定的ではないが、通常、大気雰囲気中などの酸素含有雰囲気とすればよい。また、高温で熱処理を行う場合には、窒素雰囲気中などの不活性ガス雰囲気中で熱処理を行うことによって、無電解めっき皮膜表面の変質を抑制できる。
【0048】
熱処理時間については、十分な密着強度が発現される時間とすればよい。具体的な熱処理時間は、熱処理温度に応じて異なるが、例えば、100℃程度の熱処理温度では、1時間程度以上とすることが好ましく、特に、8時間程度以上、好ましくは12時間程度以上とすれば、密着強度を大きく向上させることができる。熱処理温度が120℃程度以上の場合には、30分程度以上、好ましくは8時間程度以上の熱処理を行えば密着強度を大きく向上させることができ、特に、150℃以上の熱処理温度では、30分程度以上の熱処理を行えば密着強度を大きく向上させること可能であり、短時間で密着強度の高い無電解めっき皮膜を形成することができる。
【0049】
上記した方法によって、無電解銅めっき皮膜を形成した後、又は、無電解めっき後熱処理を行った後、必要に応じて、電気めっきを行っても良い。この場合、無電解めっきの後、必要に応じて、酸、アルカリ等の水溶液によって活性化処理を行い、その後、電気めっきを行えばよい。電気めっき液の種類については特に限定はなく、公知の電気めっき液から目的に応じて適宜選択すればよい。
【発明の効果】
【0050】
本発明の無電解めっき方法によれば、セラミックス、ガラス等の各種基板に対して、平滑性を損なうことなく密着性に優れためっき皮膜を形成できる。特に、本発明方法によれば、微細な回路を形成する場合にも密着性のよい金属皮膜を形成することが可能である。
【0051】
また、本発明方法では、酸化亜鉛膜の膜厚が比較的薄い場合であっても密着性に優れためっき皮膜を形成できるので、製造時間が短縮され、生産性が向上する。
【0052】
また、無電解めっき皮膜を形成した後熱処理を行う場合には、長時間放置することなく、短時間の熱処理を行うだけで無電解めっき皮膜の密着強度を大きく向上させることができ、処理時間の大幅な短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0054】
実施例1〜6及び比較例1〜6
厚さ1mmの市販のソーダライムガラス板を被処理物として用い、市販の無電解めっき用触媒付与液(奥野製薬工業(株)製、テクノクリアSN, AG, PD)を用いて、Sn-Ag-Pd触媒核を基板表面に付与した。
【0055】
次いで、下記表1及び表2に示す組成の酸化亜鉛膜形成用組成物を用い、各表に示す処理条件で酸化亜鉛膜を形成した。次いで、各表に示す組成の触媒付与液を用いてPd触媒を付与した。その後、市販の無電解銅めっき液(奥野製薬工業(株)製、ATSアドカッパーIW)を用いて、表1及び表2に示す処理条件で無電解銅めっき皮膜を形成した。無電解銅めっき皮膜の膜厚は、めっき時間15分の場合に約0.3μm、めっき時間30分の場合に約0.6μmであった。尚、各処理の間には、水洗を行った。
【0056】
上記した方法で無電解銅めっき皮膜を形成し、24時間放置した後、めっき皮膜表面に市販の粘着テープを貼り付け、表面に対して垂直方向に急激にテープを引っ張る方法でテープ剥離試験を行い、めっき皮膜の密着性を評価した。めっき皮膜が全く剥離しない場合を○、めっき皮膜の剥離が生じた場合を×として、表1及び表2に示す。尚、めっき皮膜の剥離は、いずれの場合にも、酸化亜鉛膜とめっき皮膜の界面において生じた。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
実施例7
実施例4と同様にして厚さ約0.6μmの無電解銅めっき皮膜を形成した後、引き続き空気中で熱処理を行った。次いで、熱処理後のめっき皮膜について、下記の方法でテープ剥離試験と密着強度の測定を行った。下記表3に、熱処理温度及び熱処理時間と、試験結果を示す。
【0060】
試験方法
* テープ剥離試験(剥離面積測定)
実施例1〜6と同様の方法でテープ剥離試験を行った。結果は、テープを貼り付けた面積に対する剥離しためっき皮膜の面積の割合(%)として表す。100%とあるのは、めっき皮膜が全面剥離したことを示す。
* 密着強度測定
無電解銅めっき皮膜の表面に2×2mmの範囲にステンレス線をハンダ付けし、オートグラフを用いてステンレス線を引っ張り、めっき皮膜が剥離する際の強度を測定し、これを密着強度とした。
【0061】
【表3】

【0062】
以上の結果から明らかなように、100℃以上の温度で熱処理を行うことによって、無電解めっき皮膜の密着強度が大きく向上した。特に、150℃以上の熱処理温度では、短時間の熱処理で無電解めっき皮膜の密着強度を大きく向上させることが可能であった。
【0063】
実施例8
下記表4に示す条件で、ZnO膜形成、触媒付与、無電解銅めっき及び加熱処理を順次行った。形成された無電解銅めっき皮膜について、実施例7と同様の方法でテープ剥離試験を行い、剥離しためっき皮膜の割合を求めた。結果を下記表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
以上の結果から明らかなように、硝酸亜鉛濃度が0.1mol/Lの酸化亜鉛膜形成用組成物を用いた場合にも、無電解めっき皮膜を形成した後加熱処理を行うことによって、良好な密着性の無電解めっき皮膜を形成することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)の工程を含む無電解めっき用前処理方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03〜0.08モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させる工程。
【請求項2】
触媒付与液が、Pd,Ag及びPtからなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒金属を5〜200ppmと、錯化剤成分を含有するpH3.5〜13の水溶液である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法によって前処理を行った後、被処理物を無電解めっき液に接触させることを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項4】
下記(1)〜(4)の工程を含む無電解めっき方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03〜0.2モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させて触媒を付与する工程、
(3)上記(2)工程によって触媒を付与した後、被処理物を無電解めっき液に接触させて無電解めっき皮膜を形成する工程、
(4)上記(3)工程で無電解めっき皮膜を形成した後、熱処理を行う工程。
【請求項5】
熱処理温度が100℃以上である請求項4に記載の無電解めっき方法。

【公開番号】特開2007−126743(P2007−126743A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171327(P2006−171327)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】