説明

無電解コバルトめっき液及び無電解コバルトめっき方法

【課題】本発明は、安定性が良好であって、かつ均一な無電解コバルトめっき皮膜を形成し得る新規な無電解コバルトめっき液を提供することを主な目的とする。
【解決手段】1)水溶性コバルト化合物、2)水溶性次亜リン酸化合物、3)脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸、アミノカルボン酸及びこれらの塩からなる群より選択された少なくとも1種の脂肪族カルボン酸類、並びに4)硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、ホウ酸及びホウ砂からなる群より選択された少なくとも1種の無機添加剤、を含有する水溶液からなる無電解コバルトめっき液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解コバルトめっき液及び無電解コバルトめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトめっき皮膜の形成方法としては、電気めっき法と無電解めっき法があり、この内、電気めっき法によって形成された電気コバルトめっき薄膜は、従来から、磁性材料、超硬工具等に用いられている。
【0003】
一方、無電解めっき法によって形成された無電解コバルトめっき薄膜についても、磁性薄膜としての用途が期待されており、例えば、コンピュータシステムの記憶素子としての情報記録媒体;音の記録媒体;外部磁界からの保護皮膜;磁気コア材料;磁気ヘッド等の軟磁性薄膜;磁気シールド膜への応用等が検討されている。さらに、装飾品、防錆部品、機械部品などの耐摩耗性が要求されるものへの応用も試みられている。
【0004】
しかしながら、無電解コバルトめっき薄膜に関する研究はなされているものの、従来知られている無電解コバルトめっき液は、安定性が劣り、均一なめっき皮膜の形成も困難である(非特許文献1)。
【0005】
したがって、未だに実用化に耐え得る無電解コバルトめっき液が提供されていないのが現状である。
【非特許文献1】金属表面技術Vol.17,No.8,1966
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した如き従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、安定性が良好であって、かつ均一な無電解コバルトめっき皮膜を形成し得る新規な無電解コバルトめっき液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の脂肪族カルボン酸類を特定の無機添加剤と組み合わせて配合した無電解コバルトめっき液によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の無電解コバルトめっき液、無電解コバルトめっき方法及びコバルトめっき皮膜が形成された物品を提供するものである。
1.1)水溶性コバルト化合物、2)水溶性次亜リン酸化合物、3)脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸、アミノカルボン酸及びこれらの塩からなる群より選択された少なくとも1種の脂肪族カルボン酸類、並びに4)硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、ホウ酸及びホウ砂からなる群より選択された少なくとも1種の無機添加剤、を含有する水溶液からなる無電解コバルトめっき液。
2.脂肪族カルボン酸類が、脂肪族トリカルボン酸、アミノカルボン酸、及びこれらの塩からなる群より選択された少なくとも1種であり、無機添加剤が、硫酸アンモニウム及び塩化アンモニウムからなる群より選択された少なくとも1種である上記項1に記載の無電解コバルトめっき液。
3.脂肪族カルボン酸類が、脂肪族ジカルボン酸及びその塩からなる群より選択された少なくとも一種であり、無機添加剤がホウ酸及びホウ砂からなる群より選択された少なくとも1種である上記項1に記載の無電解コバルトめっき液。
4.上記項1〜3のいずれかに記載の無電解コバルトめっき液を被めっき物に接触させることを特徴とする無電解コバルトめっき方法。
5.無電解コバルトめっき液のpHが7〜12である上記項4に記載の無電解コバルトめっき方法。
6.上記項4又は5に記載の方法によって無電解コバルトめっき皮膜を形成した後、被めっき物を100〜800℃で加熱処理することを特徴とする無電解コバルトめっき皮膜の形成方法。
7.上記項4〜6のいずれかの方法によって形成されたコバルトめっき皮膜を有する物品。
【0009】
以下、本発明の無電解コバルトめっき液、無電解コバルトめっき方法及びコバルトめっき皮膜が形成された物品について、順次具体的に説明する。
【0010】
(無電解コバルトめっき液)
本発明の無電解コバルトめっき液は、1)水溶性コバルト化合物、2)水溶性次亜リン酸化合物、3)脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸、アミノカルボン酸及びこれらのカルボン酸塩からなる群より選択された少なくとも1種の脂肪族カルボン酸類、並びに4)硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、ホウ酸及びホウ砂からなる群より選択された少なくとも1種の無機添加剤、を含有する水溶液からなるものである。
【0011】
本発明の無電解コバルトめっき液に含まれる水溶性コバルト化合物は、コバルトを含有し、かつ水溶性の化合物であれば特に限定されない。通常は、二価のコバルト塩等が用いられる。このようなコバルト塩の具体例としては、硫酸コバルト、塩化コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト、炭酸コバルト等を挙げることができ、これらは単独又は2種以上組み合わせて使用できる。配合量はCo量として、1〜50g/l程度が好ましく、2〜10g/l程度がより好ましい。
【0012】
本発明の無電解コバルトめっき液に含まれる水溶性次亜リン酸化合物は、還元剤としての役割を担うものである。例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸ニッケル等の次亜リン酸塩、次亜リン酸などが挙げられ、これらの中でも、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウムが好ましい。これらは単独又は2種以上組み合わせて使用できる。配合量は、1〜50g/l程度が好ましく、10〜30g/l程度がより好ましい。
【0013】
本発明の無電解コバルトめっき液では、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸、アミノカルボン酸及びこれらの塩からなる群より選択された少なくとも1種の脂肪族カルボン酸類と、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、ホウ酸及びホウ砂からなる群より選択された少なくとも1種の無機添加剤とを組み合わせて用いることが必要である。この様な脂肪族カルボン酸類と無機添加剤を組み合わせて用いることによって、安定性が良好であって、しかも均一で優れた外観のコバルトめっき皮膜を形成し得る無電解コバルトめっき液を得ることができる。
【0014】
これらの内で脂肪族カルボン酸類は、通常、錯化剤としての役割を担うものと考えることができ、これをめっき液中に配合することによって、良好な安定性を有するコバルト錯体が形成される。更に、この様なめっき液から形成されるコバルト皮膜中には適度な量のリンが含まれるものとなり、後述する熱処理を行うことによって、硬度が高く、耐摩耗性に優れたコバルト皮膜を得ることができる。
【0015】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、酒石酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができる。これらの中でも、酒石酸、リンゴ酸が好ましい。
【0016】
脂肪族トリカルボン酸の具体例としては、クエン酸、トリカルバリル酸、ベンゼントリカルボン酸、アコニット酸等を挙げることができる。これらの中でも、クエン酸が好ましい。
【0017】
アミノカルボン酸としては、グリシン、グルタル酸、アラニン、アスパラギン酸等が挙げられる。これらの中でも、グリシン、アラニンが好ましい。
【0018】
上記した脂肪族カルボン酸の塩としては、水溶性の塩であれば、特に限定はなく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を用いることができる。
【0019】
上記脂肪族カルボン酸類の配合量は、特に制限されず、他の化合物の種類、その量等によって変わり得るが、1〜250g/l程度とすることが好ましく、20〜60g/l程度とすることがより好ましい。また、上記脂肪族カルボン酸類を酸として用いる場合には、1〜50g/l程度の配合量とすることが好ましい。
【0020】
硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、ホウ酸及びホウ砂からなる群より選択された少なくとも1種の無機添加剤は、無電解コバルトめっき皮膜の析出を促進させる作用をするものと考えられる。これらの無機添加剤を上記した脂肪族カルボン酸類と組み合わせて用いることによって、適度な析出速度で良好な無電解コバルトめっき皮膜を形成することが可能となる。
【0021】
上記した無機添加剤の配合量は、1〜200g/l程度が好ましく、40〜100g/l程度とすることがより好ましい。
【0022】
上記脂肪族カルボン酸類と、無機添加剤との組み合わせの内で、
(1)i)脂肪族トリカルボン酸、アミノカルボン酸及びこれらの塩からなる群より選択された少なくとも1種の脂肪族カルボン酸類と、ii)硫酸アンモニウム及び塩化アンモニウムからなる群より選択された少なくとも1種の無機添加剤との組み合わせ、
(2)脂肪族ジカルボン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも一種の脂肪族カルボン酸類と、ホウ酸及びホウ砂からなる群より選択された少なくとも1種との組み合わせ、
等が好ましい。脂肪族カルボン酸類と無機添加剤とを上記組み合わせで用いる場合には、特に、再現性のある均一なめっき皮膜を形成することが可能となる。
【0023】
上記(1)の組み合わせでは、i)脂肪族トリカルボン酸、アミノカルボン酸及びこれらのカルボン酸塩からなる群より選択された少なくとも1種の脂肪族カルボン酸類の配合量を、好ましくは1〜250g/l程度、より好ましくは30〜60g/l程度とし、ii)硫酸アンモニウム及び塩化アンモニウムからなる群より選択された少なくとも1種の無機添加剤の配合量を、好ましくは1〜200g/l程度、より好ましくは60〜90g/l程度とすればよい。ただし、アミノカルボン酸及び/又はその塩の配合量については、1〜50g/lの範囲内とすることが好ましく、10〜20g/l程度の範囲内とすることがより好ましい。
【0024】
また、上記(2)の組み合わせでは、脂肪族ジカルボン酸及びその塩からなる群より選択された少なくとも一種の脂肪族カルボン酸類の配合量を、好ましくは1〜250g/l程度、より好ましくは50〜100g/l程度とし、ホウ酸及びホウ砂からなる群より選択された少なくとも1種の添加量を、好ましくは1〜100g/l程度、より好ましくは10〜50g/l程度とすればよい。
【0025】
好ましい具体例の一例として、クエン酸及び/又はその塩と、硫酸アンモニウムとの組み合わせ;グリシンと硫酸アンモニウムとの組み合わせ;酒石酸及び/又はその塩と、ホウ酸との組み合わせ等が挙げられる。
【0026】
本発明の無電解コバルトめっき液は、上記化合物を含有する水溶液である。
【0027】
また、本発明の無電解コバルトめっき液には、必要に応じて更に光沢剤、界面活性剤等、通常無電解ニッケルめっき液に使用されている補助薬剤を配合することもできる。
(無電解コバルトめっき方法)
本発明の無電解コバルトめっき液を用いてコバルトめっき皮膜を形成するには、該無電解コバルトめっき液を被めっき物の被めっき部分に接触させればよい。
【0028】
具体的な方法については特に限定的ではなく、被めっき部分を本発明の無電解コバルトめっき液に十分に接触させることが可能な方法であればよい。例えば、本発明の無電解コバルトめっき液を被めっき物に噴霧する方法なども適用可能であるが、通常、無電解コバルトめっき液中に被めっき物を浸漬する方法が好ましく、この方法によれば、容易に均一なめっき皮膜を形成できる。無電解めっき液中に被めっき物を浸漬する際には、必要に応じて、適度な撹拌を行っても良い。
【0029】
被めっき物は、特に制限されず、機械部品、電気機械器具、工作機械、作業工具、金属粉末、金型、利器工匠具等の各種の金属製品;プラスチック製品、セラミックス製品、繊維製品、紙・木材製品、ガラス製品等の各種の非金属製品などが挙げられる。尚、後述する加熱処理を行う場合は、当該加熱処理温度において変質のないものであれば使用できる。
【0030】
無電解コバルトめっき液の温度(浴温)も限定的でないが、浴温50〜95℃程度が好ましく、浴温75〜95℃程度がより好ましい。
【0031】
無電解コバルトめっき液のpHは、7〜12程度とすることが好ましく、8〜10程度とすることがより好ましい。この様なpH範囲とすることによって、均一なコバルトめっき皮膜を形成することが可能となる。所定のpH範囲に調整するには、アンモニア、アミン化合物、苛性アルカリなどのアルカリ性化合物;塩酸、硫酸などの酸を適宜添加すればよい。
【0032】
無電解コバルトめっき液と被めっき物との接触時間については、所望とするめっき皮膜の厚さ等によって適宜決定すればよい。コバルトめっき皮膜の膜厚については、用途などに応じて適宜決めればよいが、例えば、高硬度の皮膜を形成するためには、0.2μm〜100μm程度とすればよい。
【0033】
尚、被めっき物に対して、上記無電解めっき処理を行う前に、必要に応じて、常法に従って、アルカリ脱脂、電解脱脂、希酸浸漬等の通常の前処理を施せばよい。また、めっき処理後には水洗、湯洗、乾燥等の通常行われている操作を行ってもよい。
【0034】
プラスチック、セラミックスなどの触媒活性がない素材上には、常法に従って触媒を付与した後、無電解コバルトめっき方法を行えばよい。
【0035】
触媒の付与方法については、常法に従えばよく、パラジウム、銀、ルテニウム等の無電解めっき用触媒を公知の方法に従って付与すればよい。パラジウム触媒の付与方法としては、例えば、いわゆる、センシタイジング−アクチベーティング法、キャタライジング法などと称される方法が代表的な方法である。
【0036】
また、真空蒸着、スパッタリング等の方法で触媒活性を有する薄膜を形成した後、無電解コバルトめっき皮膜を形成してもよい。
【0037】
さらに、被めっき物上に他の金属にて皮膜を形成した後、その皮膜上に無電解コバルトめっき方法を実施することも可能である。他の金属としては、Cu、Ni、Fe、Zn、Pd、Au、Ag等が例示できる。
【0038】
上記した無電解コバルトめっき方法により、被めっき物に均一なコバルトめっき皮膜を形成できる。形成されるコバルト皮膜は、例えば、磁性薄膜等のさまざま用途に使用できる。
【0039】
上記した方法でコバルトめっき皮膜を形成した後、更に、加熱処理を行うことによって、コバルトめっき皮膜の硬度を大きく向上させて、耐摩耗性に優れた皮膜とすることができる。加熱温度は、100〜800℃程度とすることが好ましく、200〜600℃程度とすることがより好ましい。
【0040】
熱処理方法は、特に限定されず、例えば、炉内加熱、高周波加熱、赤外線加熱、レーザー加熱等の各種の方法を採用できる。加熱雰囲気も、特に限定されず、窒素、アルゴン等の不活性ガス;酸素、空気等の酸化性ガス;真空などの各種の雰囲気が挙げられる。
【0041】
また、加熱時間は加熱温度、めっき皮膜の厚さ等に応じて適宜決めればよく、例えば、1分〜12時間程度の広い範囲から適宜選択すればよい。好ましくは1時間〜3時間程度である。
【0042】
上記した熱処理を行うことによって、コバルトめっき皮膜の硬度が大きく向上し、めっき浴組成、加熱条件等によっては、ビッカース硬度が800Hv以上という高硬度を有する皮膜とすることができる。
【0043】
この様な高硬度を有する皮膜は、従来のコバルトめっき薄膜が利用されている分野の他に、多種多様の分野においても使用し得るものである。例えば、焼き入れ、浸炭、窒化、硬質クロムめっき、無電解めっき、化成処理、溶射、化学気相成長法(CVD法)、物理蒸着法(PVD法)等で処理されていた機械部品、電気機械器具、工作機械、作業工具、金属粉末、金型、利器工匠具等に対して、これらの処理に代わって利用することが可能となる。
【0044】
上記した方法によれば、無電解コバルトめっき皮膜を形成した後、熱処理を行うという非常に簡単な処理方法によって、高硬度の耐摩耗性皮膜を形成することができる。この様な処理方法は、従来の代表的な耐摩耗性めっき皮膜であるクロムめっき皮膜の形成方法と比較すると、処理工程が短く、しかも廃液処理なども容易であるために、耐摩耗性皮膜の形成方法として非常に有用性の高い方法である。
【発明の効果】
【0045】
以上の通り、本発明の無電解コバルトめっき液は、安定性に優れためっき液であって、均一で外観の良好なコバルトめっき皮膜を再現性よく形成し得るものである。従って、本発明めっき液を用いることによって、磁性皮膜などの各種の用途に使用できる有用性の高いコバルトめっき皮膜を安定性よく形成することが可能となる。
【0046】
更に、コバルトめっき皮膜を形成した後、熱処理を行うことによって、簡単な処理工程で、硬度、耐摩耗性等に優れたコバルト皮膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、実施例と比較例とを示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に制限されるものではない。
(実施例1〜10)
下記表1に示した各成分を含有する水溶液からなる各無電解コバルトめっき液中に、浴温度90℃、pH9の条件で、撹拌下に被めっき物(JIS G 3141で規定する冷間圧延鋼板 50×100mm)を2時間浸漬することによってコバルトめっき皮膜を形成した。
【0048】
各めっき液を用いた場合について、析出速度、皮膜状態及び室温におけるビッカース硬度を表1に記載する。また、各実施例で得られた全てのめっき皮膜の均一性を目視にて観察した。この均一性を表1に併記する。
【0049】
【表1】

【0050】
次いで、得られた被めっき物を電気炉内でそれぞれ200℃、400℃、600℃、又は800℃で1時間加熱した後、めっき皮膜のビッカース硬度を室温で測定した。図1は、実施例1、3、7及び9の各めっき液を用いて形成されためっき皮膜についての熱処理温度とビッカース硬度との関係を示すグラフである。
(比較例1〜3)
下記表2に示した各成分を含有する水溶液からなる各無電解ニッケルめっき液中に、浴温度90℃、pH4.5〜6.5の条件で、撹拌下に実施例と同様の被めっき物を2時間浸漬することによってニッケルめっき皮膜を形成した。
【0051】
各めっき液を用いた場合について、析出速度、皮膜状態及び室温におけるビッカース硬度を表2に記載する。
【0052】
【表2】

【0053】
次いで、得られた被めっき物を電気炉内でそれぞれ200℃、400℃又は600℃で1時間加熱した後、めっき皮膜のビッカース硬度を室温で測定した。図2は、比較例1〜3の各めっき液を用いて形成されためっき皮膜についての熱処理温度とビッカース硬度との関係を示すグラフである。
【0054】
以上の実施例1〜10の結果から明らかなように、本発明の無電解コバルトめっき液を用いて形成されためっき皮膜は800℃以下という比較的低い温度で加熱処理を行うだけで、高い硬度を有する無電解コバルトめっき皮膜とすることができる。
【0055】
さらに、比較例1〜3の結果から、無電解コバルトめっき皮膜は、加熱処理された従来の無電解ニッケルめっき皮膜よりも、高い硬度を有することとなることでも、非常に有用である。
(比較例4〜6)
下記表3に示した各成分を含有する水溶液からなる各コバルトめっき液中に、浴温度90℃、pH9の条件で、撹拌下に実施例と同様の被めっき物を2時間浸漬させた。各めっき液を用いた場合について、析出速度、皮膜状態及び室温におけるビッカース硬度を表3に記載する。
【0056】
【表3】

【0057】
以上の比較例1〜3から明らかなように、めっき液中に特定の脂肪族カルボン酸類を有していても、特定の無機添加剤と組み合わせて用いない場合には、コバルトめっき皮膜は形成されない。したがって、本発明では、特定の脂肪族カルボン酸と特定の無機添加剤とを組み合わせることが非常に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、実施例1、3、7及び9の各めっき液を用いて形成されためっき皮膜についての熱処理温度とビッカース硬度との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1〜3の各めっき液を用いて形成されためっき皮膜についての熱処理温度とビッカース硬度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)水溶性コバルト化合物、2)水溶性次亜リン酸化合物、3)脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸、アミノカルボン酸及びこれらの塩からなる群より選択された少なくとも1種の脂肪族カルボン酸類、並びに4)硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、ホウ酸及びホウ砂からなる群より選択された少なくとも1種の無機添加剤、を含有する水溶液からなる無電解コバルトめっき液。
【請求項2】
脂肪族カルボン酸類が、脂肪族トリカルボン酸、アミノカルボン酸、及びこれらの塩からなる群より選択された少なくとも1種であり、無機添加剤が、硫酸アンモニウム及び塩化アンモニウムからなる群より選択された少なくとも1種である請求項1に記載の無電解コバルトめっき液。
【請求項3】
脂肪族カルボン酸類が、脂肪族ジカルボン酸及びその塩からなる群より選択された少なくとも1種であり、無機添加剤がホウ酸及びホウ砂からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1に記載の無電解コバルトめっき液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の無電解コバルトめっき液を被めっき物に接触させることを特徴とする無電解コバルトめっき方法。
【請求項5】
無電解コバルトめっき液のpHが7〜12である請求項4に記載の無電解コバルトめっき方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法によって無電解コバルトめっき皮膜を形成した後、被めっき物を100〜800℃で加熱処理することを特徴とする無電解コバルトめっき皮膜の形成方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかの方法によって形成されたコバルトめっき皮膜を有する物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−161109(P2006−161109A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355266(P2004−355266)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】