説明

無電解ニッケルめっき液

【課題】耐折り曲げ性に優れたニッケルめっき皮膜を形成できる新規な無電解ニッケルめっき液を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)


[式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は下記基:


(式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、mは1〜10の整数である)であり、nは2又は3である。]で表されるアルキレンジアミン化合物を含有することを特徴とする自己触媒型無電解ニッケルめっき液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解ニッケルめっき液及び無電解ニッケルめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品、特にプリント配線板において、はんだ付け、ボンディング等を行う部分には、表面処理として無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、金めっきを施すことが多い。この場合、通常、厚さ1〜5μm程度の無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、置換めっき法により0.03〜0.1μm程度の金皮膜が形成されている。また、金ワイヤボンディングにおける優れた耐熱性を付与するためには、置換金めっき法または還元金めっき法によって、厚さ0.2〜0.7μm程度の金皮膜を形成する場合もある。
【0003】
上記したプリント配線板の基板材料は、主にガラスエポキシ樹脂を用いたいわゆるリジッド基板と主にポリイミド等を用いたフレキシブル基板に大別される。これらの内で、フレキシブル基板では、形状変化に対応するためにめっき皮膜に柔軟性が要求されるが、上記したニッケルめっき/金置換処理を行った場合には、ニッケルめっき皮膜の柔軟性が悪く、基板のパターン部を形成する銅と比較して耐折り曲げ性に劣るという欠点がある。例えば、下記特許文献1には、ニッケル系下地層上にパラジウムを還元析出させてパラジウムバリア層を形成し、該パラジウムバリア層上に置換金めっきによりハンダ接合部を形成する方法が記載されているが、この方法では、ニッケル系下地層の厚さを0.5μm以下とすることが望ましく、0.5μmを超えると、フレキシブル基板での折り曲げに対してクラックが発生し易くなることが記載されている。
【0004】
また、携帯機器の軽薄短小化によりリジッド基板も軽く薄いものが使用されるようになり、耐折り曲げ性に優れたニッケルめっき皮膜が強く要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−49589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、耐折り曲げ性に優れたニッケルめっき皮膜を形成できる新規な無電解ニッケルめっき液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の一般式で表されるアルキレンジアミン化合物を無電解ニッケルめっき液の添加剤として用いることによって、ニッケルめっき皮膜の耐折り曲げ性が大きく向上し、更に、析出皮膜のファインパターン性や銅素地に対する密着性も向上させることが可能であることを見出した。更に、該アルキレンジアミン化合物をホスホン酸類及びアミノ酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物と併用する場合には、耐折り曲げ性が向上することに加えて、めっき浴の安定性も大きく向上することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記の無電解ニッケルめっき液及び無電解ニッケルめっき方法を提供するものである。
1. 下記一般式(I)
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は下記基:
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、mは1〜10の整数である)であり、nは2又は3である。]で表されるアルキレンジアミン化合物を含有することを特徴とする自己触媒型無電解ニッケルめっき液。
2. 水溶性ニッケル化合物、還元剤及び錯化剤を必須成分として含有する水溶液である上記項1に記載の無電解ニッケルめっき液。
3. 一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物において、R、R、R及びRで表される基の少なくとも一個が水素原子である上記項1又は2に記載の無電解ニッケルめっき液。
4. 一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物において、R、R、R及びRで表される基の内で、1〜3個が水素原子である上記項1〜3のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液。
5. 一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物1モルに対して、ホスホン酸類及びアミノ酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を0.01〜10モル含有する上記項1〜4のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液。
6. 上記項1〜5のいずれかに記載の無電解ニッケルめっき液に被めっき物を接触させることを特徴とする無電解ニッケルめっき方法。
【0013】
以下、本発明の無電解ニッケルめっき液について詳細に説明する。
【0014】
添加剤成分
本発明の無電解ニッケルめっき液は、還元剤を含有する自己触媒型の無電解ニッケルめっき液であって、添加剤として、下記一般式(I)
【0015】
【化3】

【0016】
[式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は下記基:
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、mは1〜10の整数である)であり、nは2又は3である。]で表されるアルキレンジアミン化合物を含有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明の無電解ニッケルめっき液によれば、上記したアルキレンジアミン化合物を添加剤として用いることによって、従来の無電解ニッケルめっき液から形成されるニッケルめっき皮膜と比較して、耐折り曲げ性に優れたニッケルめっき皮膜を形成することができる。
【0020】
上記一般式(I)において、Rは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、具体例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン等の直鎖メチレンやイソプロピレン、イソブチレン等の分岐鎖メチレン等を挙げることができる。また、mは1〜10の整数である。m=1の場合の具体例としては、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル等の炭素数1〜4程度の直鎖状又は分枝鎖状のヒドロキシアルキル基を挙げることができる。以下、本願明細書では、mが2以上の場合も含めてヒドロキシアルキル基ということがある。
【0021】
上記したアルキレンジアミン化合物の内で、n=2であるエチレンジアミン骨格を有する化合物の具体例は以下の通りである。
(1)R、R、R及びRが全て水素原子である化合物:
エチレンジアミン
(2)R、R、R及びRの内の3個が水素原子である化合物:
N−ヒドロキシメチルエチレンジアミン
N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン
N−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン
N−ヒドロキシイソプロピルエチレンジアミン
N−ヒドロキシブチルエチレンジアミン
(3)R、R、R及びRの内の2個が水素原子である化合物:
N,N’−ジヒドロキシメチルエチレンジアミン
N,N’−ジヒドロキシエチルエチレンジアミン
N,N’−ジヒドロキシプロピルエチレンジアミン
N,N’−ジヒドロキシイソプロピルエチレンジアミン
N,N’−ジヒドロキシブチルエチレンジアミン
(4)R、R、R及びRの内の1個が水素原子である化合物:
N,N,N’−トリヒドロキシメチルエチレンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシエチルエチレンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシプロピルエチレンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシイソプロピルエチレンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシブチルエチレンジアミン
(5)R、R、R及びRの全てがヒドロキシアルキル基である化合物:
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシメチルエチレンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシエチルエチレンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシイソプロピルエチレンジアミン
下記式で表されるN,N,N’,N’−テトラポリヒドロキシプロピレンエチレンジアミン(好ましくは分子量764〜770程度)
【0022】
【化5】

【0023】
また、上記したアルキレンジアミン化合物の内で、n=3であるプロパンジアミン骨格を有する化合物の具体例は以下の通りである。
(1)R、R、R及びRが全て水素原子である化合物:
プロパンジアミン
(2)R、R、R及びRの内の3個が水素原子である化合物:
N−ヒドロキシメチルプロパンジアミン
N−ヒドロキシエチルプロパンジアミン
N−ヒドロキシプロピルプロパンジアミン
N−ヒドロキシイソプロピルプロパンジアミン
N−ヒドロキシブチルプロパンジアミン
(3)R、R、R及びRの内の2個が水素原子である化合物:
N,N’−ジヒドロキシメチルプロパンジアミン
N,N’−ジヒドロキシエチルプロパンジアミン
N,N’−ジヒドロキシプロピルプロパンジアミン
N,N’−ジヒドロキシイソプロピルプロパンジアミン
N,N’−ジヒドロキシブチルプロパンジアミン
(4)R、R、R及びRの内で1個が水素原子である化合物:
N,N,N’−トリヒドロキシメチルプロパンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシエチルプロパンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシプロピルプロパンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシイソプロピルプロパンジアミン
N,N,N’−トリヒドロキシブチルプロパンジアミン
(5)R、R、R及びRの全てがヒドロキシアルキル基である化合物:
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシメチルプロパンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシエチルプロパンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシプロピルプロパンジアミン
N,N,N’,N’−テトラヒドロキシイソプロピルプロパンジアミン
下記式で表されるN,N,N’,N’−テトラポリヒドロキシプロピレンプロパンジアミン
(好ましくは分子量770〜780程度)
【0024】
【化6】

【0025】
上記したアルキレンジアミン化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0026】
上記した一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物の内で、特に、R、R、R及びRで表される基の少なくとも一個が水素原子であるアルキレンジアミン化合物を用いる場合には、形成されるニッケル皮膜は、耐折り曲げ性が良好であることに加えて、微細なパターンを有する被めっき物に対しても、パターン上にのみ良好なめっき被膜を形成できる特性、即ち、ファインパターン性が良好となる。
【0027】
また、R、R、R及びRで表される基の内で、1〜3個が水素原子であるアルキレンジアミン化合物を用いる場合には、上記した性能に加えて、下地が銅金属である場合に、特に密着性に優れたニッケル皮膜を形成することが可能となる。
【0028】
本発明の無電解ニッケルめっき液では、一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物の濃度は、0.1〜100g/L程度とすることが好ましく、1〜50g/L程度とすることがより好ましい。
【0029】
無電解ニッケルめっき液の組成
本発明の無電解ニッケルめっき液は、自己触媒型のめっき液であり、必須成分として、水溶性ニッケル化合物、還元剤及び錯化剤を含有するものである。
【0030】
水溶性ニッケル化合物としては、めっき液に可溶性であって、所定の濃度の水溶液が得られるものであれば特に限定なく使用できる。例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル、次亜リン酸ニッケル等を用いることができる。特に、溶解性が良好である点で硫酸ニッケルが好ましい。水溶性ニッケル化合物は、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。水溶性ニッケル化合物の濃度は、0.5〜50g/L程度とすることが好ましく、2〜10g/L程度とすることがより好ましい。
【0031】
還元剤についても特に限定はなく、無電解ニッケルめっき液で用いられている公知の還元剤を用いることができる。この様な還元剤としては、次亜リン酸、次亜リン酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン等を例示できる。還元剤は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。還元剤の濃度は、0.01〜100g/L程度とすることが好ましく、0.1〜50g/L程度とすることがより好ましい。
【0032】
錯化剤についても特に限定はなく、無電解ニッケルめっき液で用いられている公知の錯化剤を用いることができる。この様な錯化剤としては、酢酸、蟻酸等のモノカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸等のジカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、
ナトリウム塩等;リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;エチレンジアミンジ酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等のアミノポリカルボン酸やそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を例示できる。更に、ホスホン酸類、アミノ酸類等も錯化剤として用いることができる。これらの錯化剤は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0033】
錯化剤の配合量は、5〜180g/L程度とすることが好ましく、10〜120g/L程度とすることがより好ましい。
【0034】
尚、上記した一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物の内で、エチレンジアミン、プロパンジアミン等は、錯化剤としても作用する成分である。従って、錯化剤としても作用するアルキレンジアミン化合物を含む場合には、その他に錯化剤を用いることなく、アルキレンジアミン化合物のみを用いても良く、その他の錯化剤と併用しても良い。この場合には、アルキレンジアミン化合物とその他の錯化剤の合計の配合量が上記範囲内となればよい。
【0035】
本発明の無電解ニッケルめっき液では、特に、上記した錯化剤の内で、ホスホン酸類及びアミノ酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含む場合には、上記アルキレンジアミン化合物による効果を阻害することなく、めっき浴の安定性を大きく向上させることができる。特に、ホスホン酸類を用いる場合には、更に、ファインパターン性も向上させることができる。
【0036】
ホスホン類としては、各種のホスホン酸、その塩等を用いることができる。この様なホスホン酸類の具体例としては、アミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジメチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、フェニルホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4トリカルボン酸、下記式で表されるN−ヒドロキシアルキルアミノメチルホスホン酸
【0037】
【化7】

【0038】
(式中、nは2〜6の整数である)、下記式で表されるN−ホスホノメチルアミノカルボン酸
【0039】
【化8】

【0040】
(式中、nは2〜6の整数である)、およびこれらのホスホン酸の塩(ナトリウム塩、カ
リウム塩等の金属塩、アンモニウム塩等)等を例示できる。
【0041】
アミノ酸類の具体例としては、グリシン、アラニン、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、L−グルタミン酸、L−グルタミン酸2酢酸、L−アスパラギン酸、タウリン等を挙げる ことができる。
【0042】
上記したホスホン酸類とアミノ酸類については、それぞれ2種以上を併用することも可能である。めっき浴の安定性を向上させる効果を発揮させるためには、ホスホン酸類及びアミノ酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の濃度は、一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物1モルに対して0.01〜10モル程度とすることが好ましい。
【0043】
本発明の無電解ニッケルめっき液には、その他必要に応じて、通常用いられている各種の添加剤を配合することができる。例えば、安定剤として、硝酸鉛、酢酸鉛等の鉛塩;硝酸ビスマス、酢酸ビスマス等のビスマス塩;チオジグリコール酸等の硫黄化合物等を1種単独又は2種以上混合して添加することができる。安定剤の添加量は、特に限定的ではないが、例えば、0.01〜100mg/L程度とすることができる。
【0044】
また、pH緩衝剤として、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、炭酸、それらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を配合することができる。緩衝剤の配合量は特に限定的ではないが、例えば0.1〜200g/L程度とすることができる。
【0045】
更に、めっき液の浸透性を向上させるために、界面活性剤を配合することができる。界面活性剤としては特に限定はなく、ノニオン性、カチオン性、アニオン性、両性等の各種界面活性剤を1種単独又は2種以上混合して添加することができる。添加量としては、例えば、0.1〜100mg/L程度とすればよい。
【0046】
本発明の無電解ニッケルめっき液のpHは、通常、2〜9程度とすればよく、3〜8程度とすることが好ましい。pH調整には、硫酸、リン酸等の無機酸および水酸化ナトリウム、アンモニア水等を使用することができる。
【0047】
無電解めっき方法
本発明の無電解ニッケルめっき液を用いて無電解ニッケルめっきを行うには、常法に従って、該無電解めっき液を被めっき物に接触させればよい。通常は、該無電解ニッケルめっき液中に被めっき物を浸漬することによって、効率よくニッケルめっき皮膜を形成することができる。
【0048】
無電解ニッケルめっき液の液温は、通常、40〜98℃程度とすればよく、60〜95℃程度とすることが好ましい。また必要に応じて、めっき液の撹拌や被めっき物の揺動を行うことができる。
【0049】
被めっき物の材質については特に限定はない。例えば、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム等の金属やこれらの合金等は無電解ニッケルめっきの還元析出に対して触媒性を有するので、常法に従って前処理を行った後、直接無電解ニッケルめっき皮膜を形成することができる。銅等の触媒性のない金属や、ガラス、セラミックス等については、常法に従ってパラジウム核などの金属触媒核を付着させた後に、無電解ニッケルめっき処理を行えばよい。
【0050】
特に、本発明の無電解ニッケルめっき液は、ポリイミド等を用いたフレキシブル基板を被めっき物として、はんだ付け、ボンディング等を行う部分における表面処理用のめっき
液として用いる場合に、耐折り曲げ性に優れ、クラックの生じ難い信頼性に優れたニッケルめっき皮膜を形成できる。この場合、ニッケルめっき皮膜の膜厚は、通常、0.2〜10μm程度とされる。また、ニッケルめっき皮膜上には、常法に従って金めっき皮膜を形成することが多い。例えば、置換めっき法により0.03〜0.1μm程度の金皮膜を形成することができ、更に、耐熱金ワイヤボンディング性のためには、置換金めっき法または還元金めっき法によって、厚さ0.2〜0.7μm程度の金皮膜を形成する場合もある。本発明の無電解ニッケルめっき液を用いて形成されたニッケルめっき皮膜は、これらの金めっき皮膜を形成する場合にも、良好な密着性を発揮することができ、耐折り曲げ性が良好であり、ハンダ付性、ワイヤボンディング性などについても良好な特性を発揮できる。
【発明の効果】
【0051】
本発明の無電解ニッケルめっき液によれば、耐折り曲げ性に優れた無電解ニッケルめっき皮膜を形成することができる。更に、アルキレンジアミン化合物の種類を選択することによって、ファインパターン性、銅素材に対する密着性などをより一層向上させることも可能である。
【0052】
また、該アルキレンジアミン化合物をホスホン酸類及びアミノ酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と併用する場合には、めっき浴の安定性を大きく向上させることができる。
【0053】
従って、本発明の無電解ニッケルめっき液を用いることによって、例えば、プリント配線板などを被めっき物とする場合に、耐折り曲げ性に優れた信頼性の高いニッケルめっき皮膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0055】
実施例1
下記表1に示す浴No.1〜16(本発明めっき浴)及び浴No.A(比較浴)の各無電解ニッケルめっき液を調製した。
【0056】
【表1】

【0057】
上記した各無電解ニッケルめっき液を用いて下記の方法でめっき試験を行った。
【0058】
被めっき物としては、大きさ2×7cmのポリイミド樹脂(厚さ25μm)上に線幅75μm、スリット幅75μmの銅パターン(銅厚18μm)を40本と、1×4cmの銅パッドを形成したものを用いた。
【0059】
この被めっき物について、脱脂処理を行った後、過硫酸Na溶液で0.5μm程度のエッチングを行い、ICPアクセラ(奥野製薬工業(株)製、Pd含有触媒液)を200ml/L含む触媒液を用いて、室温で1分間触媒付与を行った後、上記しためっき浴1リットル中に被めっき物を浸漬し、表1に示す浴温度及びめっき処理時間で厚さ約3μmの無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。
【0060】
得られた各試料について、下記の方法で耐折り曲げ性(皮膜の柔軟性)、ファインパターン性(めっきの拡がりの有無)及び銅素材に対する密着性を評価した。結果を下記表2に示す。
* 耐折り曲げ性:
線幅75μmの配線パターン部分について、めっき面が表面となるようにして、直径0.8mmのステンレス製棒に約180度の角度まで巻き付けることによって、無電解ニッケルめっき皮膜の耐折り曲げ性試験を行った。試験後の各試料について、顕微鏡観察(1000倍)を行い、めっき皮膜の割れの有無を調べた。結果については、クラックが認められない場合を○印、クラックの発生が認められた場合を×印で示す。
* ファインパターン性
めっき後の各試料の線幅75μmの配線パターン部分について、顕微鏡観察(1000倍)によって、銅パターン外へのめっき拡がりの有無を調べた。結果については、めっき拡がりが全くない場合を◎印、僅かにめっき拡がりが認められた場合を○印、めっき拡がりが多数生じた場合を△印で示す。
* 銅素材との密着性:
面積1×4cmのパッド部分について、カッターナイフを用いてニッケルめっき皮膜の表面に切り込みを入れて、1mm角のマス目を100個形成し、粘着テープを貼り付けて、垂直方向に引き剥がした。この際に剥離したマス目の数を計測することによってニッケルめっき皮膜の密着性を評価した。剥離したマス目が0の場合を○印、1〜10個の場合を△印で示す。
【0061】
【表2】

【0062】
以上の結果から明らかなように、アルキレンジアミン化合物を添加剤として含む浴No.1〜16の無電解ニッケルめっき浴から形成されたニッケルめっき皮膜は、耐折り曲げ性試験においてクラックが全く発生せず、耐折り曲げ性に優れた柔軟なめっき皮膜であることが確認できた。
【0063】
更に、窒素原子に少なくとも一個の水素原子が結合したアルキレンジアミン化合物を添加剤として含む無電解ニッケルめっき浴(浴No.1〜6及び9〜14)については、ファインパターン性が特に良好であり、これらの内で、置換基として少なくとも一個のヒドロキシアルキル基を有するアルキレンジアミン化合物を含む無電解ニッケルめっき浴(浴
No.2〜6及び10〜14)から形成されたニッケルめっき皮膜は、銅素材との密着性についても非常に良好であった。
【0064】
実施例2
下記表3に示す浴No.17〜23(本発明めっき浴)の各無電解ニッケルめっき液を調製した。
【0065】
【表3】

【0066】
被めっき物として、大きさ2×7cmのポリイミド樹脂(厚さ25μm)上に線幅40
μm、スリット幅40μmの銅パターン(銅厚18μm)を40本と、1×4cmの銅パッドを形成したものを用いて、実施例1と同様にして触媒付与までの処理を行った後、上記しためっき浴1リットル中に被めっき物を浸漬し、表3に示す浴温度及びめっき処理時間で、厚さ約3μmの無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。尚、実施例2において用いた被めっき物は、実施例1で用いた被めっき物と比較して、銅パターンのピッチ幅が狭く、ファインパターン性について、より精密な評価ができるものである。
【0067】
上記した方法で形成されたニッケルめっき皮膜について、実施例1と同様にして、耐折り曲げ性、ファインパターン性及び銅素材に対する密着性を評価した。更に、各無電解ニッケルめっき液の浴安定性の評価として、めっき液をガラスビーカーに入れ、90℃で2日間加温を行い、ビーカー底へのニッケル析出の有無を判定した。浴安定性試験の結果については、ビーカー底におけるNiの析出が無い場合を◎印、ビーカー底にNi核の痕跡が認められる場合を○印、ビーカー底にニッケル析出が明らかに認められる場合を△印で示す。以上の結果を下記表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
以上の結果から明らかなように、アルキレンジアミン化合物を添加剤として含む浴No.17の無電解ニッケルめっき浴から形成されたニッケルめっき皮膜は、耐折り曲性、ファインパターン性及び密着性の全ての特性について良好であったが、更に、ホスホン酸類又はアミノ酸類を含む浴No.18〜23の無電解めっき浴は、浴安定性がより優れたものであった。特に、ホスホン酸類を含む浴No.18〜20の無電解ニッケルめっき液については、銅回路のピッチ幅の狭い被めっき物に対してもめっき拡がりの発生が認められず、ファインパターン性についても非常に良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

[式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子又は下記
基:
【化2】

(式中、Rは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、mは1〜10の整数である)であり、nは2又は3である。]で表されるアルキレンジアミン化合物を含有する自己触媒型無電解ニッケルめっき液に被めっき物を接触させることを特徴とする、耐折り曲げ性に優れた無電解ニッケルめっき皮膜の形成方法。
【請求項2】
前記一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物が、
(A)R、R、R及びRのうちの2個が水素原子である化合物
(B)R、R、R及びRのうちの1個が水素原子である化合物
のうち少なくともいずれか一つである、
請求項1に記載の耐折り曲げ性に優れた無電解ニッケルめっき皮膜の形成方法。
【請求項3】
前記自己触媒型無電解ニッケルめっき液が、さらに前記一般式(I)で表されるアルキレンジアミン化合物1モルに対して、ホスホン酸類を0.01〜10モル含有する自己触媒型無電解ニッケルめっき液である、
請求項1又は2に記載の耐折り曲げ性に優れた無電解ニッケルめっき皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記自己触媒型無電解ニッケルめっき液が、水溶性ニッケル化合物、還元剤及び錯化剤を必須成分として含有する水溶液である、請求項2又は3に記載の耐折り曲げ性に優れた無電解ニッケルめっき皮膜の形成方法。

【公開番号】特開2013−28866(P2013−28866A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−219595(P2012−219595)
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【分割の表示】特願2007−39348(P2007−39348)の分割
【原出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】