説明

無電解ニッケルめっき用貴金属表面活性化液

【課題】金等の貴金属上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成する場合に、簡単な処理方法によって貴金属部分にのみ良好な無電解ニッケルめっき皮膜を形成することが可能な、貴金属に対する前処理液を提供する。
【解決手段】(i)錯化剤、(ii) 銅塩及び銀塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分、並びに(iii) アルデヒド類、を含有する水溶液からなる無電解ニッケルめっき用貴金属表面活性化液、並びに該活性化液を用いて貴金属表面を活性化した後、無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解ニッケルめっきを行うことを特徴とする貴金属上への無電解ニッケルめっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解ニッケルめっき用貴金属表面活性化液及び該活性化液を用いる貴金属上への無電解ニッケルめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板、半導体パッケージ、電子部品等の製造時における最終工程の一つに、導体回路、端子部分等に無電解ニッケルめっきを施し、更に無電解金めっきを行う処理がある。これは、プリント配線板の銅回路表面の酸化を防止して、良好なハンダ接続性能を発揮させることや、半導体パッケージとその上に実装される電子部品とをワイヤーボンディングさせる際に、半導体パッケージ、電子部品等の端子部分の金属と、金やアルミのワイヤーとを良好な状態で接合させることを目的とするものである。
【0003】
このようなめっき皮膜の形成方法としては、プリント配線板の銅皮膜や、半導体パッケージや電子部品の金属ペースト上に、無電解ニッケルめっき皮膜を自己触媒的に析出させ、その後、該無電解ニッケル皮膜上に金めっき皮膜を置換析出させ、さらに自己触媒的に無電解金めっき皮膜を厚く成膜する方法が一般的な方法である。
【0004】
昨今、セラミック基板の重要性が見直され、低温同時焼成多層セラミック基板(LTCC基板)に代表されるファインパターン性を重視した基板が用いられるようになっている。一般的にこのようなLTCC基板の回路等の導体部分は、銅または銀の金属ペーストによって形成されているが、これらの金属は、湿度の高い状態で電荷をかけると、銅や銀が溶け出して配線間が短絡する現象、いわゆるマイグレーションが生じ易い。ファインパターンを有する基板では、この様な現象は致命的であるため、金等の貴金属によって導体部分を形成してマイグレーションを防止する試みがなされている(下記非特許文献1参照)。この場合、はんだ付けを行う部分については、はんだ中への金の拡散を防止するために、金の上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成することが望まれる。しかしながら、金などの貴金属上には、無電解ニッケルめっき用の触媒であるパラジウムが置換析出しないために、通常の触媒付与処理によって無電解ニッケルめっきを行うことは困難である(下記非特許文献2参照)。このため、ホウ素化合物などの強力な還元剤によって貴金属表面を処理した後、無電解ニッケルめっきを行う方法などが試みられているが(下記非特許文献3参照)、この方法では、貴金属部分以外にも還元剤が吸着して不要な部分にも無電解ニッケルめっき皮膜が析出するという問題が生じている。
【非特許文献1】青柳 全 編著、高機能電子材料開発マニュアル、(株)シー・エム・シー
【非特許文献2】I. Ohno, O. Wakabayashi and S. Haruyama: ”Anodic Oxidation of Reductants in Electroless Plating”, J. Electrochem. Soc., 132, 2323(1985)
【非特許文献3】渡辺秀人,五十嵐靖,本間英夫:”DMAB溶液による銅パターンの選択的活性化法”,回路実装学会誌,Vol.12,No.1(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、金等の貴金属上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成する場合に、簡単な処理方法によって貴金属部分にのみ良好な無電解ニッケルめっき皮膜を形成することが可能な、貴金属に対する前処理液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を行った。その結果、金属塩として銅塩又は銀塩を含有し、更に、錯化剤とアルデヒド化合物を含有する水溶液を用いて貴金属表面を処理し、その後、パラジウム塩等の触媒金属塩を含有する水溶液を用いて貴金属表面に無電解ニッケルめっき用触媒を付与した後、無電解ニッケルめっきを行う方法によれば、簡単な処理方法によって貴金属上に良好な無電解ニッケルめっき皮膜を形成することが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の無電解ニッケルめっき用貴金属表面活性化液、及び貴金属上への無電解ニッケルめっき方法を提供するものである。
1.(i)錯化剤、(ii) 銅塩及び銀塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分、並びに(iii) アルデヒド類、を含有する水溶液からなる無電解ニッケルめっき用貴金属表面活性化液。
2. 錯化剤が、カルボキシル基、ホスホノ基、水酸基及びアミノ基からなる群から選ばれた官能基を2個以上含む化合物であり、アルデヒド類が、脂肪族アルデヒド化合物、芳香族アルデヒド化合物、アルデヒド基含有還元糖類、グリオキサザール、及びグリオキシル酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である上記項1に記載の活性化液。
3. 被めっき物である貴金属を、(i)錯化剤、(ii) 銅塩及び銀塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分、並びに(iii) アルデヒド類、を含有する活性化液に接触させた後、無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解ニッケルめっきを行うことを特徴とする貴金属上への無電解ニッケルめっき方法。
4. 無電解めっき用触媒を付与する方法が、触媒金属塩を含有する水溶液に貴金属を接触させる方法である上記項3に記載の無電解ニッケルめっき方法。
【0008】
本発明の活性化液は、貴金属上に無電解ニッケルめっきを行う際に、貴金属の表面を活性化するために用いられるものであり、(i)錯化剤、(ii) 銅塩及び銀塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属塩、並びに(iii) アルデヒド類、を必須成分として含有する水溶液からなるものである。以下、本発明の活性化液に含まれる各成分について説明する。
【0009】
(i)錯化剤
本発明の活性化液では、錯化剤は、主として、該活性化液中における銅塩及び銀塩の安定性を維持する働きをするものである。
【0010】
通常、銅塩又は銀塩がそのままの状態で含まれる水溶液では、pH等の液の状態や、他の配合物、夾雑物等の影響によって沈殿や分解等を生じやすく、これにより活性化液の性能が低下し易い。本発明の活性化液では、錯化剤を配合することによって、銅塩及び銀塩の安定性を向上させることができる。また、貴金属部分以外への銅塩及び銀塩の付着を抑制して、貴金属部分以外へのめっき析出を防止できる。
【0011】
錯化剤としては、カルボキシル基、ホスホノ基、水酸基及びアミノ基からなる群から選ばれた官能基を2個以上含む化合物を用いることができる。これら化合物において、官能基の種類は同一でもよく、異なっていてもよい。
【0012】
具体的には、コハク酸、マロン酸等の2個以上のカルボキシル基を含有する多価カルボン酸類;グルコン酸、水酸基含有ポリマー(例えば、ポリビニルアルコール)等の2個以上の水酸基を含有する多価水酸基含有化合物;1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等の2個以上のホスホノ基を含有するホスホン酸類;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の2個以上のアミノ基を含有するエチレンジアミン類;リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のカルボキシル基と水酸基を含有するオキシカルボン酸類;グリシン、アラニン等のカルボキシル基とアミノ基を含有するアミノ酸類;エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等の窒素原子上にカルボキシアルキル基を3〜5個程度有するエチレンジアミン誘導体又はジエチレントリアミン誘導体、これらの誘導体の塩類(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等)等を挙げることができる。錯化剤は、一種単独又は二種類以上混合して用いることができる。
【0013】
本発明の活性化液における錯化剤の濃度については特に限定的ではないが、錯化剤濃度が低すぎると、銅塩及び銀塩を活性化液中に安定に可溶化させることが困難となり、水酸化銅や酸化銀等の沈殿や、他の夾雑物による難溶性沈殿、還元剤等による銅塩や銀塩の金属化に伴う沈殿等が生じ易くなる。一方、錯化剤濃度が高すぎると、大きな影響は見られないが、活性化液のコストが上昇する。これらの点から、錯化剤濃度は、銅塩と銀塩の合計量に対して0.1〜1000倍モル程度とすることが好ましく、0.5〜100倍モル程度とすることがより好ましい。
【0014】
(ii) 銅塩及び銀塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属塩:
銅塩及び銀塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属塩(以下、「金属塩成分」ということがある)は、被めっき物である貴金属の表面に吸着して、貴金属表面へのパラジウム触媒の付与を容易にする働きをするものと考えられる。
【0015】
銅塩及び銀塩としては、それぞれ水溶性の化合物であれば特に限定なく使用できる。銅塩の具体例としては、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、臭化物等の無機塩、酢酸銅、酒石酸銅等の有機酸塩を挙げることができ、銀塩の具体例としては、硝酸銀、過塩素酸銀等の無機塩;酢酸銀等の有機酸塩;錯化剤としてアンモニア、エチレンジアミン、亜硫酸、チオ硫酸等を含む銀錯塩等を挙げることができる。
【0016】
本発明の活性化液は、銅塩と銀塩のいずれか一方又は両方を同時に含有することができる。また、銅塩と銀塩のそれぞれについては、一種のみ用いてもよく、二種以上混合して用いてもよい。
【0017】
金属塩成分の濃度については特に限定的ではないが、金属塩成分の濃度が低すぎると、パラジウム触媒の付与量が不足して無電解ニッケルめっきの析出性が低下し、良好なめっき皮膜が得られ難くなる。一方、金属塩成分の濃度が高すぎると、活性化液中に水酸化銅や酸化銀等の沈殿や、他の夾雑物による難溶性沈殿、還元剤等による銅や銀塩の金属化に伴う沈殿等が生じ易くなり、更に、コスト高にもつながる。これらの点から、銅塩及び銀塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属塩の濃度は、1〜1000mmol/L程度とすることが好ましく、2〜500mmol/L程度とすることがより好ましい。
【0018】
(iii) アルデヒド類:
アルデヒド類の作用については必ずしも明確ではないが、アルデヒド類の配合量が少なすぎると、無電解めっき用触媒を付与した後の無電解ニッケルめっきの析出性が低下して部分的な未析出が生じやすくなる。このため、アルデヒド類は、貴金属表面における金属塩成分の付着性を向上させて、触媒成分の付与量を増加させる作用をするものと考えることができる。
【0019】
アルデヒド類の具体例としては、ホルマリン、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物;ベンズアルデヒド、フルフラール、バニリン等の芳香族アルデヒド化合物;ブドウ糖、果糖等のアルデヒド基含有還元糖類;グリオキサザール、グリオキシル酸等を例示できる。
【0020】
本発明では、上記したアルデヒド類は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0021】
本発明の活性化液中におけるアルデヒド類の濃度については、特に限定的ではないが、上記した通り、濃度が低すぎると無電解ニッケルめっきの析出性が低下して、均一なめっき皮膜が得られ難くなる。一方アルデヒド類の濃度が高すぎる場合は、活性化液が還元性を有するものとなり、液中で金属銅や金属銀の微粒子が生じたり、被めっき物上の不必要な部分に金属銅や金属銀が析出して、めっき外観の不良や無電解ニッケルめっきのパターン外析出等が発生しやすくなる。
【0022】
これらの点から、アルデヒド類の濃度は、1mmol/L〜1mol/L程度であることが好ましく、2mmol/L〜500mmol/L程度であることがより好ましい。
【0023】
(v) 他の成分
本発明の活性化液中には、さらに、該活性化液の特性に悪影響を及ぼさない限り、上記以外の成分、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の他の金属塩、界面活性剤等の他の有機化合物等が含まれていてもよい。
【0024】
本発明の活性化液のpHについて特に限定されるものではないが、pHが低すぎると活性化力が劣るものとなり、無電解ニッケルめっきの析出性が低下しやすい。また高すぎると、水酸化銅や酸化銀等の沈殿が生成することや、アルデヒド類の還元電位が高くなりすぎて活性化液中で金属銅や金属銀の微粒子が生じることがある。また水酸化イオンとアルデヒド基が反応し、活性化液中のアルデヒド類の濃度低下が起こる。かかる点から、本発明の活性化液のpHは、3〜14程度が好ましく、5〜13程度がより好ましい。
【0025】
無電解ニッケルめっき方法
本発明の活性化液は、貴金属上に無電解ニッケルめっきを行う際に、無電解ニッケルめっきの前に、被めっき物である貴金属の表面を活性化させるために用いられるものである。
【0026】
被めっき物となる貴金属としては、銅よりも貴な電位を有する金属であれば特に限定はない。例えば、金、銀、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム等の金属、これらを含む合金等を例示できる。これらの内で、特に本発明の活性化液は、電子部品の導体回路部分、接続部分、端子部分に等に使用される金の表面に無電解ニッケルめっきを行う際に有効に用いることができる。
【0027】
被処理物は、貴金属のみからなるものに限定されず、金属材料、プラスチック材料、セラミック材料など各種材料の一部に貴金属部分を有するものであっても良い。例えば、セラミック基板の導体回路全体、パッド、ランド及びその他の接続部分、半導体パッケージや各種電子部品の端子部分等について、貴金属によって形成されている部分を処理対象とすることができる。
【0028】
本発明の活性液を用いて無電解ニッケルめっき処理を行う場合には、まず、必要に応じて、常法に従って脱脂等の前処理を行い、めっき処理の対象となる貴金属の表面を清浄な状態とする。
【0029】
次いで、被めっき部分である貴金属の表面を本発明の活性化液に接触させる。具体的な処理方法については限定的ではなく、貴金属の表面を該活性化液に十分に接触させることが可能な方法であればよい。例えば、貴金属の表面に該活性化液を噴霧する方法も適用可能であるが、通常は、該活性化液中に貴金属部分を含む被処理物を浸漬する方法によれば効率のよい処理が可能である。
【0030】
該活性化液の液温については特に限定的ではないが、液温が低すぎると活性化の効果が弱く、無電解ニッケルめっきの析出性が低下して良好なめっき皮膜が得られにくい。一方、液温が高すぎると該活性化液中のアルデヒド化合物がアルカリとの反応で消費されることにより、活性化液の寿命が短くなり、安定して使用することが困難になる。かかる点から、該活性化液の液温は、通常0℃程度以上とすればよく、25〜90℃程度とすることが好ましい。
【0031】
本発明の活性化液による処理時間は、該活性化液中の各成分の種類、濃度、活性化液の液温、処理方法などによって異なるので一概に規定出来ないが、浸積時間が短かすぎると充分な活性効果が得られ難い。一方、浸積時間が長い場合には、特に大きな影響は見られないが、工程上や経済上負担にならない程度の時間とすることが好ましい。これらのことから、浸漬法によって処理する場合には、通常、30秒〜5分間程度の浸漬時間とすることが好ましい。尚、浸漬の際には、攪拌、循環濾過等を行っても良い。
【0032】
上記した方法で本発明の活性化液による処理を行った後、被めっき物である貴金属の表面に無電解めっき用触媒を付与する。無電解めっき用触媒の付与方法としては、貴金属の表面を触媒金属塩を含有する水溶液に接触させればよい。
【0033】
この処理に用いる触媒金属塩を含有する水溶液としては、水溶性の触媒金属の塩を含む水溶液であれば特に限定なく使用できる。触媒金属としては、無電解ニッケルめっき用の触媒として公知の金属であれれば特に限定なく使用できる。代表的な触媒金属はパラジウムであり、水溶性のパラジウム塩の具体例としては、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、ジエチレンジアミンパラジウム錯体、テトラアンミンパラジウム錯体等を例示できる。触媒金属塩の濃度については特に限定的ではないが、例えば、0.0001〜0.1mol/L程度とすればよい。また、一般にアクチベーター液として知られている無電解めっき用パラジウム触媒付与液も用いることができる。例えば、塩化パラジウムを0.05〜0.5g/L程度と35%塩酸を10〜100mL/L程度含有する公知のアクチベーター液を用いることができる
無電解めっき用触媒付与のための処理方法については、活性化液による処理方法と同様に、貴金属の表面に触媒金属塩を含有する水溶液を接触させれば良い。例えば、触媒金属塩を含有する水溶液を噴霧する方法も適用可能であるが、通常は、触媒金属塩を含有する水溶液中に、貴金属部分を含む被処理物を浸漬すればよい。
【0034】
処理条件については特に限定的ではないが、通常、25〜80℃程度の液中に30秒〜10分間程度浸漬すればよい。
【0035】
尚、本発明の活性化液による活性化処理を行った後、無電解めっき用触媒を付与する前に、通常、活性化液の持ち込みによる悪影響を防ぐために水洗を行うが、触媒金属塩を含有する水溶液の種類によって活性化液の持ち込みの影響が少ない場合には、処理工程の短縮のためには、活性化液による処理を行った後、水洗することなく、直接、無電解めっき用触媒を付与しても良い。
【0036】
上記した方法で無電解めっき用触媒を付与した後、無電解ニッケルめっきを行うことによって、貴金属上に良好な無電解ニッケルめっき皮膜を形成することができる。無電解ニッケルめっき液としては、自己触媒性の無電解ニッケルめっき液であれば、特に限定なく使用できる。無電解ニッケルめっきの条件についても、使用するめっき液の種類に応じて、通常のめっき条件に従えばよい。
【0037】
上記した方法によれば、貴金属とそれ以外の材料からなる複合材料、例えば、貴金属による導体回路を有するLTCC基板等を被めっき物とする場合にも、貴金属部分にのみ選択的に良好な無電解ニッケルめっき皮膜を形成することができる。
【0038】
上記した方法で無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、必要に応じて、回路表面の酸化防止や、ハンダ接続性、ボンディング性等を向上させるために、金めっき皮膜を形成することができる。この場合、例えば置換型の無電解金めっき液などを用いて、常法に従って金めっき皮膜を形成すればよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明の活性化液を用いることによって、従来、無電解ニッケルめっき皮膜を形成することが困難であった金などの貴金属上に、簡単な処理方法によって良好な無電解ニッケルめっき被膜を形成することができる。
【0040】
従って、本発明の活性化液を用いることによって、低温同時焼成多層セラミック基板(LTCC基板)等のファインパターンを有する基板上に形成した貴金属による回路部分、接続分、端子部分などに対して、簡単な処理方法で無電解ニッケルめっき皮膜を形成することが可能となり、マイグレーションの防止性に優れ、且つはんだ付け性等も良好な製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0042】
実施例1〜8及び比較例1〜7
パッド径0.5mmのBGA搭載用パターンと、線幅50μm、スペース幅50μmの配線パターン有する5×5cmの低温同時焼成セラミック基板(以下LTCC基板とする)を被処理物として用い、下記の処理工程によって無電解ニッケルめっきを行った。
【0043】
尚、上記被処理物におけるパッド部分と配線部分は、金ペーストを用いて形成されているが、パッド部分と配線部分が、銀、金−銀合金又は銀−白金合金のペーストを用いて形成されたLTCC基板を被処理物とした場合にも、以下に示す結果とほぼ同様の結果が得られた。
*処理工程
1.脱脂工程:
奥野製薬工業(株)製浸漬脱脂剤(商標名:NNPクリーナー)を使用して、25℃の脱脂剤に3分間浸漬した。
2.活性化処理:
下記表1又は表2に示す活性化液を使用して、表中に示す条件で浸漬処理を行った。
3.パラジウム触媒付与:
奥野製薬工業(株)製アクセレーター液(商標名:NNPアクセラ(塩化パラジウム 0.1g/L、ヨウ化ナトリウム250g/Lを含むpH6の水溶液))を使用して、25℃のアクセレーター液中に1分間浸漬した。
4.無電解ニッケルめっき:
奥野製薬工業(株)製自己触媒性無電解ニッケルめっき液(商標名:NNPニコロン)を使用して、75℃で20分間無電解ニッケルめっきを行った。
5.無電解金めっき:
奥野製薬工業(株)製置換型無電解ニッケルめっき液(商標名:ムデンノーブルAU)を使用して、60℃で10分間無電解金めっきを行い、約0.05μmの金めっき皮膜を形成した。
【0044】
尚、各処理の間には水洗処理を行った。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表中、EDTAはエチレンジアミン四酢酸であり、EDTMPはエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸である。
【0048】
上記した方法でめっき処理を行った試料について、下記の方法で無電解ニッケルめっきの付き回り性、外観、膜厚を評価し、さらに活性化液の安定性を評価した。結果を下記表3に示す。
*無電解ニッケルめっき皮膜の膜厚:
蛍光X線膜厚測定装置を用いて測定した。
*外 観:
実体顕微鏡により未析出の有無、パターン外析出を調べた。
*ハンダ接続強度:
パッド径0.5mmのBGA搭載用パターンに、直径0.63mmの共晶ハンダボールをリフロー装置を用いて搭載し、常温ハンダボールプル試験器を用いて、ハンダボールを機械で挟んで垂直に引っ張り上げ、ハンダ接続強度の測定装置を用いて接続強度を測定した。尚、密着状態については、ハンダ接続強度試験を行った際のニッケルめっき皮膜とパッド部分との剥離の有無を目視によって評価した結果である。
*活性化液安定性確認
各活性化液を、表1又は2に示した処理温度に24時間維持して、活性化液中の変色、分解、沈殿等を目視にて確認して、安定性を評価した。
【0049】
【表3】

【0050】
以上の結果から明らかなように、本発明の活性化液を用いて活性化処理を行った後、触媒付与及び無電解ニッケルめっきを行うことによって、未析出やパターン外析出等のない良好な無電解ニッケルめっき皮膜を形成できた。また、得られためっき皮膜はハンダ接合性及び密着性が共に良好であった。更に、本発明の活性化液は、安定性が良好であり、分解、沈殿等を生じ難いものであった。
【0051】
これに対して、活性化液による処理を行っていない比較例1では、無電解ニッケルめっきの析出性が非常に悪く、形成されためっき皮膜は、密着性及びハンダ接合性に劣るものであった。
【0052】
また、錯化剤を含有しない安定化液を用いた比較例2及び3では、活性化液中に沈殿が生じやすく、パターン外析出も発生した。金属塩成分を含有しない比較例4及び5と、アルデヒド類を含有しない比較例6及び7では、無電解ニッケルめっきの析出性が悪く、部分的な未析出が生じ、得られためっき皮膜は、密着性、ハンダ接合性にも劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)錯化剤、(ii) 銅塩及び銀塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分、並びに(iii) アルデヒド類、を含有する水溶液からなる無電解ニッケルめっき用貴金属表面活性化液。
【請求項2】
錯化剤が、カルボキシル基、ホスホノ基、水酸基及びアミノ基からなる群から選ばれた官能基を2個以上含む化合物であり、アルデヒド類が、脂肪族アルデヒド化合物、芳香族アルデヒド化合物、アルデヒド基含有還元糖類、グリオキサザール、及びグリオキシル酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である請求項1に記載の活性化液。
【請求項3】
被めっき物である貴金属を、(i)錯化剤、(ii) 銅塩及び銀塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分、並びに(iii) アルデヒド類、を含有する活性化液に接触させた後、無電解めっき用触媒を付与し、次いで、無電解ニッケルめっきを行うことを特徴とする貴金属上への無電解ニッケルめっき方法。
【請求項4】
無電解めっき用触媒を付与する方法が、触媒金属塩を含有する水溶液に貴金属を接触させる方法である請求項3に記載の無電解ニッケルめっき方法。

【公開番号】特開2007−177268(P2007−177268A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375249(P2005−375249)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】