説明

無電解メッキの前処理方法および該基材の無電解メッキ方法

【課題】
より簡単な無電解メッキ用基材の前処理方法を提供すること。また、より簡単な操作で、しかもメッキ皮膜が基材表面に密着することができる新規な無電解メッキ法を提供すること。
【解決手段】
基材を陽イオン性界面活性剤水溶液中に浸漬し、次いで前記浸漬処理した基材を貴金属ゾル中に浸漬して得られた無電解メッキ用基材を、無電解メッキ液中に浸漬し、無電解メッキ方法にて基材表面にメッキ皮膜を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解メッキの前処理方法に関する。より詳しくは、基材を陽イオン性界面活性剤水溶液中に浸漬処理し、次いで該処理基材を貴金属ゾル中に浸漬させる無電解メッキ用基材の前処理方法に関する。さらに本発明はそれら前処理された無電解メッキ用基材の無電解メッキ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面へのメッキ皮膜の形成は、基材の装飾、防食性改善、機能性付加等が可能となり、電解及び無電解メッキ法、蒸着法などが一般的なメッキ方法として知られている。特に、無電解メッキ法は高分子材料、ガラスなどの導電性ではない基材表面にメッキ皮膜を形成できること、基材表面の窪んだ所にもメッキ皮膜を形成できること等の利点から、多用されているところである。
【0003】
基材表面に無電解メッキ法を用いてメッキ皮膜を形成させようとする場合、基材の表面にパラジウムなどの触媒を固定化し、無電解メッキ液中で表面に目的の金属を析出させる方法が、近年多用されている。ここで触媒固定化法には2方法が知られている。第1の方法は、パラジウム塩を基材表面に固定化したのち第1錫化合物で還元する方法、第2の方法は、錫化合物で安定化したパラジウムコロイドを基材表面に固定化したのち、酸により錫を除く方法である。これらの方法はどちらかというと操作が煩雑であるという不都合さがある。
なお、上記方法以外に、界面活性剤で安定化したパラジウムコロイドを絹や木綿の繊維に吸着させる方法も知られているが、一般的な方法ではない。
【0004】
メッキ皮膜が基材表面に密着していることは重要であるから、メッキ皮膜の密着性を向上させる技術は数多く知られている。例えば、基材の表面を物理的手段や化学処理により粗化する技術が知られている。また、クロム酸・硫酸混合液、重クロム酸・硫酸混合液、硫酸・過塩素酸混合液などの薬液に基材を浸漬する方法がある。また、基材表面に紫外線照射した後、ポリオキシエチレン結合を有する非イオン系界面活性剤を含有するアルカリ溶液と接触させて当該基材表面を処理した後、無電解メッキ法を用いて基材表面にメッキ層を形成させる技術が報告されている(特許文献1)。
これらの方法は、基材の種類が限定されること、基材の損傷に繋がること、コストが高く、保守管理を要する機器を使用しなければならないこと、危険性、公害性の高い薬液を使用しなければならないことなどの不都合さがある。
【0005】
一方、ブタジエンゴム及び炭酸カルシウム微粉末を熱可塑性樹脂に配合し、得られる混合物を溶剤に溶解して調製されてなるワニスを基材表面に処理した後に、メッキ膜を基材表面に密着して形成させることができるような技術(特許文献2)、基材にカチオン性化合物を付与したのちにタンニン酸を付与し、その後にメッキ膜を基材表面に密着して形成させることができるような技術(特許文献3)が報告されている。これらの技術は前記不都合さが多少なりとも改善されているが、依然として操作が煩雑であるとの問題点が残されており、さらなる技術の開発が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−88361号公報
【特許文献2】特開平10−140362号公報
【特許文献3】特開2003−105552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のような実情において、本発明の課題は、より簡単な、しかも、広い範囲の基材に適用できる無電解メッキの前処理方法を提供することにある。また、より簡単な操作で、しかもメッキ皮膜が基材表面に密着することができる新規な無電解メッキ法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決するべく鋭意研究を重ねる中、陽イオン界面活性剤水溶液中に浸漬した基材を、貴金属ゾル中に浸漬処理した後、無電解メッキ処理すると、驚くべきことにはメッキ皮膜が強固に基材表面に密着するという知見を得た。また、陽イオン界面活性剤水溶液中に浸漬した基材を、貴金属ゾル中に浸漬処理すると、その処理基材は貴金属粒子を固定化しているとの知見を得た。それらの知見に基づきさらに研究を重ね、ついに本発明を完成した。
すなわち、基材を陽イオン性界面活性剤水溶液中に浸漬し、前記浸漬処理した基材を貴金属ゾル中に浸漬することを特徴とする無電解メッキの前処理方法(請求項1記載の発明)は上記課題を解決することができる。なお、本発明では基材を陽イオン性界面活性剤水溶液中に浸漬し、前記浸漬処理した基材を貴金属ゾル中に浸漬することを特徴とする無電解メッキ用基材の前処理方法でもある。
前記貴金属ゾルは、水溶性ポリマー、蔗糖、またはクエン酸三ナトリウムから選ばれた少なくとも1種である安定剤の存在下に調製された貴金属ゾルであることが好ましく(請求項2記載の発明)、前記貴金属ゾルは白金またはパラジウムのゾルであることが好ましい(請求項3記載の発明)。
前記陽イオン性界面活性剤としては長鎖4級アンモニウム化合物であることが好ましい(請求項4記載の発明)、
前記基材としては高分子材料であることが好ましく(請求項5記載の発明)、特に熱可塑性ポリマーであることが好ましい(請求項6記載の発明)。
【0009】
本発明は、上記無電解メッキの前処理方法のいずれかの方法により得られることを特徴とする無電解メッキ用基材でもある(請求項7)。
また、前記基材を無電解メッキ液中に浸漬することを特徴とする無電解メッキ方法でもあり(請求項8)、無電解メッキ液の温度が室温以上でメッキ液の沸点以下であることを特徴とする無電解メッキ方法でもある(請求項9記載の発明)。
さらに、上記請求項8で得た無電解メッキ皮膜が形成された基材を、基材のガラス転移点以上でかつ融点以下の温度でさらに加熱処理して、基材表面にメッキ皮膜を形成させることでもある(請求項10記載の発明)。なお、本発明では、上記無電解メッキの前処理方法を無電解メッキ用基材の前処理方法と記載することもできる。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
前記、基材としては無電解メッキ方法を採用して基剤表面にメッキ膜が密着させることができる基材であれば特に制限されないのであって、具体的には、ガラス、セラミックス類、鉱物、炭素、金属、高分子材料、それらを前記例示された素材を少なくとも1種以上含む複合材料等が基材として採用できる。その中でも、セラミックス類、炭素、金属、高分子材料が好ましく、特に高分子材料、すなわち熱硬化性樹脂、天然高分子、熱可塑性ポリマー、各種の合成ゴム類等の高分子材料が好ましく、さらには熱可塑性ポリマーが好ましい。
好ましい基材を具体的に例示すると、アルミナ、チタニア、シリカ等のセラミックス類、活性炭、不定形炭素、グラファイトなどの炭素、銅、ニッケル、鉄などの金属、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性ポリイミド等の熱硬化性樹脂、セルロース、フィブロイン等の天然高分子、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタアクリレート、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、熱可塑性ポリイミドなどの熱可塑性ポリマー、各種の合成ゴム類が好ましい。
基材の形状については特に限定されないのであって、フィルム状物、板状物、線状物、繊維状物、粉体状物等を例示できるが、それらに限定されない。
【0011】
前記陽イオン性界面活性剤は、水に溶けるときに疎水性基のついている部分がプラスイオンに電離する界面活性剤を意味する。陽イオン性界面活性剤はアミン塩型と第4級アンモニウム塩型に分類される。本発明では第4級アンモニウム塩型を用いることが有利であり、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩が有利である。その中でも炭素数が12〜22程度の長鎖4級アンモニウム化合物が好ましい。具体的には、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム等が好ましい。
前記陽イオン性界面活性剤の水溶液での陽イオン性界面活性剤の濃度は、0.01〜1重量%程度とすることが好ましい。前記範囲を外れると本発明の効果を達成しずらくなり、1重量%よりも高いとコストがかかり不利である。
前記陽イオン性界面活性剤の水溶液中に基材を浸漬する時間は特に制限されないが、例えば、数秒以下と短い時間で充分である。前記陽イオン性界面活性剤の水溶液中に基材を浸漬し、直ちに引き上げる操作でも充分である。
本発明の特徴の一つである前記陽イオン性界面活性剤の水溶液中に基材を浸漬することにより、本発明の所期の効果がもたらされる理由は基材表面がプラスイオンで覆われることによるものと推測される。
【0012】
貴金属ゾルは、液体中に、コロイド粒子と呼ばれる数10ナノメートル又はこれ以下の粒径の貴金属粒子が均一に分散した形態をとるものとして知られている。前記貴金属粒子の液体中の量は1000ppm程度以下であることが好ましい。
本発明で用いる貴金属ゾルは本発明の所期の目的を達成することができる限り、何ら制限されないのであるが、例えば負電荷を持つ貴金属ナノ粒子を含む貴金属ゾルが好ましい。
前記貴金属は金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムから選ばれる金属をいう。なお、前記貴金属ゾルの中では白金またはパラジウムのゾルを用いることが好ましい。
【0013】
前記貴金属ゾルは貴金属含有化合物を原料として公知の方法により調製できる。例えば、水中で貴金属塩を還元剤で還元し、共存する保護物質により貴金属ゾルを保持させる貴金属ゾルの製法が知られている。特に、原料貴金属塩に含まれるハロゲンイオンが還元後の貴金属ナノ粒子の表面に吸着されて負電荷を持つ貴金属ナノ粒子を含む貴金属ゾルが調製される場合が多い。
貴金属ゾルとしては貴金属ヒドロゾルが好ましい。前記貴金属含有化合物としては、貴金属塩が好ましく、具体的には、塩化白金(VI)酸、塩化パラジウム(II)、塩化ロジウム(III)、塩化ルテニウム(III)、硝酸銀(I)等を例示できる。
前記還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、クエン酸三ナトリウム
等を例示できる。前記保護物質として、水溶性ポリマー、蔗糖等を例示できる。
【0014】
前期貴金属含有化合物を原料として貴金属ゾルを調製するときには、安定剤を存在させることが好ましい。前記安定剤として、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ゼラチン等の水溶性ポリマー、蔗糖、クエン酸三ナトリウムなどから選ばれた安定剤を一種または二種以上を用いることが望ましい。前記安定剤の使用量は、共存する貴金属化合物の種類や量等によって変動するので一概に規定することができないが、例えば貴金属1(重量部)に対して0.1〜10(重量部)が好ましい。
【0015】
基材を陽イオン性界面活性剤水溶液中に浸漬する手段は特に限定されないのであって、用いる基材の種類や形状、用いる陽イオン性界面活性剤水溶液の種類や量に応じて最適な手段を選べばよい。
基材を陽イオン性界面活性剤水溶液中に浸漬する条件も特に限定されないのであって、例えば陽イオン性界面活性剤水溶液中に基材を室温下にて、1〜5秒間程度浸漬すればよい。さらに、基材を陽イオン性界面活性剤水溶液中に浸漬し、加熱してもよい。
【0016】
上記浸漬した基材を引き上げ、水洗洗浄し、乾燥させた基材を、貴金属ゾル中に浸漬処理することが好ましい。
前記浸漬処理した基材を貴金属ゾルに浸漬する手段は特に限定されないのであって、用いる基材の種類や形状、用いる貴金属ゾルの種類や量に応じて最適な手段を選べばよい。
基材を貴金属ゾル中に浸漬する条件も特に限定されないのであって、例えば貴金属ゾル中に基材を室温下にて10秒間程度以上浸漬すればよい。
【0017】
上記浸漬した基材を引き上げ、水洗洗浄し、前処理された無電解メッキ用基材を得ることができる。この基材には、その表面に貴金属ゾル中に存在する貴金属が固定化されている。ここで貴金属粒子の存在はXPS(X線光電子分光法)分析で可能である。
【0018】
上記基材を無電解メッキ処理することが本発明の一つの大きな特徴である。
無電解メッキする方法は特に限定されないのであって、用いる基材の種類や形状、用いる貴金属ゾルの種類、形成されるメッキ皮膜の持たせる性状、機能等に応じて最適な無電解メッキする方法を選べばよい。
メッキ皮膜を形成する金属としては、例えば、ニッケル、コバルト、銅、金、白金、銀、パラジウムなどを例示できるが、本発明ではそれらに限定されない。
【0019】
上記浸漬した基材を無電解メッキ液に浸漬し、基材表面にメッキ皮膜を形成する方法の一例について説明する。本発明はこの無電解メッキ方法に何ら限定されない。
【0020】
通常、前記無電解メッキ液は、メッキ皮膜を形成する金属含有化合物、還元剤、各種配合剤から形成される。
前記金属含有化合物としては、つぎのような化合物が知られている。例えば、塩化金(III)酸、臭化金(III)酸およびこれらのアルカリ金属(K,Na)塩等の金ハロゲン化塩、硫酸ニッケル(II)六水塩、硫酸銅(II)五水塩、硫酸コバルト(II)七水塩等が挙げられる。
その金属含有化合物のメッキ液中での濃度は用いる基材の種類や形状、形成させる貴金属の種類、形成されるメッキ皮膜の持たせる性状、機能等に応じて変動するので一概に規定することができないが、例えば、メッキ液に1〜100mMの濃度で存在させることが好ましい。
【0021】
前記還元剤としては、次亜燐リン酸ナトリウム、過酸化水素、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウムなどが挙げられる。
その金属含有化合物のメッキ液中での濃度は用いる基材の種類や形状、形成させる貴金属の種類、形成されるメッキ皮膜の持たせる性状、機能等に応じて変動するので一概に規定することができないが、例えば、メッキ液に1〜1000mMの濃度で存在させることが好ましい。
【0022】
前記配合剤としては、界面活性剤、水溶性ポリマー、pH調整剤、緩衝剤、錯化剤が知れている。
【0023】
前記界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコールエーテルなどを挙げることができる。
【0024】
前記水溶性ポリマーとしては、ゼラチン、ポリビニルアルコールなどを挙げることができる。
【0025】
前記pH調整剤としては、塩酸、水酸化ナトリウムなどを挙げることができる。緩衝剤としては、リン酸塩、乳酸、カルボン酸などを挙げることができる。錯化剤としては、乳酸、カルボン酸などを挙げることができる。
【0026】
前記処理した基材を上記無電解メッキ液に浸漬させる手段やメッキ皮膜を形成させる条件は特に制限されないのであって、用いる基材の種類や形状、形成させる貴金属の種類、形成されるメッキ皮膜の持たせる性状、機能等に応じて変動するので一概に規定することができないが、例えば、室温からメッキ液の沸点以下にて数分から数10時間程度基材を浸漬することが好ましい。
また、メッキ液皮膜が形成された無電解メッキ用基材をメッキ液から引き上げた後、基材のガラス転移点以上でかつ融点以下の温度でさらに加熱処理することが特に好ましい。ここでの加熱方法、加熱時間などは特に制限されないのであって、メッキ用基材、メッキ液の組成などに応じて最適な組み合わせを選択すればよいが、例えば、10分〜3時間を例示することができる。
ここで、ガラス転移点はすでに知られており、例えば非晶質の固体を加熱すると、流動性がなかった固体が、ある狭い温度範囲で急速に粘度が低下し流動性が増し、このときの温度をガラス転移点という。この測定法も広く知られている。
このようにして形成されたメッキ皮膜は、とくに基材表面に強固に密着されている。
【0027】
無電解メッキ液は、処理の直前に調製することが望ましく、そのためには、たとえば金属含有化合物の水溶液と還元剤含有水溶液を別々につくっておき、この両者を使用直前に混合するのが便利である。
【0028】
本発明のメッキ技術は、プリント基板、電子デバイス実装パッケージ、フラットパネルディスプレー、太陽電池などの配線基盤、電極、あるいは電子機器の電磁波シールド膜などを構成する材料のメッキに応用することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、無電解メッキ皮膜を強固に密着させることができる基材が簡単な操作で調製できる。また、本発明により、基材に強固に密着した無電解メッキ皮膜が簡単な操作で形成させることができる。特に、前処理された基材をメッキ液に浸漬しメッキ皮膜を形成した後に基材のガラス転移点以上でかつ融点以下の温度において加熱処理をすることにより、優れた密着性を有するメッキ皮膜が形成された基材が得られる。本発明では、従来のメッキ用触媒付与操作が不要であるので、その操作を省略することができるし、そのうえ、多種多様の基材(担体)にもメッキ皮膜を形成することができるという特徴もある。本発明では特に熱可塑性ポリマーにメッキ皮膜を形成させることが好ましい。この理由は加熱によりポリマーが軟化することと関係があると推察される。
本発明では、また、表面を粗化する必要はないので、基材への損傷の不安も無く、極めて有効的な発明である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。なお、数字は特に記載しない限り重量%、重量部である。
【0031】
実施例1a 白金ゾルの調製
20mM-塩化白金酸(IV水溶液(2.5ml)を純水で94mlに希釈し、室温下で攪拌しながら、1%-ポリビニルピロリドンK-30(重量平均分子量40,000)水溶液(1ml)および40mM-水素化ホウ素ナトリウム水溶液(5ml)を順次加え、3日間放置して、暗褐色透明な白金ヒドロゾル(Pt-PVP、100ml)を得た。
実施例1b 無電解メッキ用基材の前処理方法
未延伸の6ナイロンフィルム(2cm×4cm, 135μm厚)を0.1%-塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液中に浸漬し、直ちに引き上げ、水洗し、さらに、実施例1aで調製されたP t-PVP中に1分間浸漬し、水洗して、前処理された無電解メッキ用基材を得た。
【0032】
実施例2a 無電解金メッキ液の調製
使用直前に、等体積の20mM-塩化金(III)酸水溶液と40mM-過酸化水素水溶液を混合して無電解金メッキ液を得た。
a 実施例2b 基材の無電解メッキ方法
実施例1bで調製された基材を、実施例2aで調製された無電解金メッキ液(4ml)中に室温下で5分間浸漬して金の皮膜を形成させ、水洗、乾燥後、120℃で30分間加熱処理して、金メッキしたナイロンフィルムを得た。
この金メッキ皮膜は良好な密着性を示し、粘着テープによる剥れは全く認められなかった。
上記金メッキ皮膜の密着性試験はJIS K5600-5-6に準拠した。具体的には上記6ナイロンフィルムのメッキ皮膜面にカッターナイフで軽く縦横6本づつの溝を入れ、セロファンテープを貼り付けた上で、当該セロファンテープを引き剥がし、セロファンテープと共に引き剥がされた小片の個数から金メッキ皮膜の密着性を知ることができる(以下、同様)。
【0033】
実施例3a 白金ゾルの調製
J. Turkevich, J. Res. Inst. Catal. Hokkaido Univ., 24, 50 (1976) に記載の方法に準じて行った。
沸騰させた92.5mlの純水中に20mM-塩化白金(VI)酸水溶液(2.5ml)および40mM-クエン酸三ナトリウム水溶液(5ml)を順次加え、さらに2時間沸騰させた後冷却して、暗褐色透明な白金ヒドロゾル(Pt-TSC、100ml)を得た。
実施例3b 無電解メッキ用基材の前処理方法
ポリエステル布(2cm×4cm, 日本規格協会製の染色堅ろう度試験添付白布)を0.1%-塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液中に浸漬し、直ちに引き上げ、水洗し、さらに、実施例3aで調製されたPt-TSC中に1 分間浸漬し、水洗して、前処理された無電解メッキ用基材であるポリエステル布を得た。
【0034】
実施例4 基材の無電解メッキ方法
実施例3bで調製されたポリエステル布を、実施例2aで調製された無電解金メッキ液(4ml)中に室温下で5分間浸漬して金の皮膜を形成させ、水洗、乾燥後、180℃で30分間加熱処理して、金メッキしたポリエステル布を得た。
この金メッキ皮膜は良好な密着性を示し、粘着テープによる剥れは全く認められなかった。
【0035】
実施例5a パラジウムゾルの調製
蔗糖(1g)の水溶液(92.5ml)に、室温下で攪拌しながら20mM-塩化パラジウム(II)水溶液(100mMの塩化ナトリウムを含む、2.5ml)および40mM-水素化ホウ素ナトリウム水溶液(5ml)を順次加え、1日放置して、暗褐色透明なパラジウムヒドロゾル(Pd-suc、100ml)を得た。
実施例5b 無電解メッキ用基材の前処理方法
ポリエステル布(2cm×4cm, 日本規格協会製の染色堅ろう度試験添付白布)を0.1%-塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液中に数秒間浸漬し、直ちに引き上げ、水洗し、さらに、実施例5aで調製されたPd-suc中に5分間浸漬し、水洗して、前処理された無電解メッキ用基材であるポリエステル布を得た。
【0036】
実施例6a 無電解ニッケルメッキ液の調製
Thin Solid Films, 2007年、515巻、7798-7804ページの記載に準じて行った。硫酸ニッケル(II)六水塩(8mmol)、乳酸(30mmol)およびプロピオン酸(3mmol)を純水(約70ml)中に溶解し、次に、次亜リン酸ナトリウム(24mmol)を溶解した。さらに、1規定水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを4.5に調節し、総体積が100mlとなるまで純水を加えて無電解ニッケルメッキ液を得た。
実施例6b 基材の無電解メッキ方法
実施例5bで調製された基材を、実施例5aで調製されたパラジウムゾル(Pd-suc)中に5 分間浸漬し水洗した。このフィルムを、実施例6aで調製された無電解ニッケルメッキ液(2ml)中に70℃で10分間浸漬してニッケルの皮膜を形成させ、水洗、乾燥後、180℃で30分間加熱処理して、金ニッケルメッキしたポリエステル布を得た。
このニッケルメッキ皮膜は良好な密着性を示し、粘着テープによる剥れは全く認められなかった。
【0037】
実施例7 無電解メッキ用基材の前処理方法
高密度ポリエチレン板(Alfa Aesar製品、Stock #45155、2cm×4cm、1.6mm厚)を実施例1bと同様な操作により、前処理された無電解メッキ用基材を得た。
実施例8 基材の無電解メッキ方法
実施例7で調製された基材を、実施例2aで調製された無電解金メッキ液(4ml)中に室温下で5分間浸漬して金の皮膜を形成させ、水洗、乾燥後、130℃で30分間加熱処理して、金メッキしたポリエチレン板を得た。
この金メッキ皮膜は良好な密着性を示し、粘着テープによる剥れは全く認められなかった。
【0038】
実施例9 無電解メッキ用基材の前処理方法
ポリプロピレン板(Alfa Aesar製品、Stock #45153、2cm×4cm、1.6mm厚)を実施例1bと同様な操作により、前処理された無電解メッキ用基材を得た。
実施例10 基材の無電解メッキ方法
実施例9で調製された基材を、実施例2aで調製された無電解金メッキ液(4ml)中に室温下で5分間浸漬して金の皮膜を形成させ、水洗、乾燥後、160℃で30分間加熱処理して、金メッキしたポリプロピレン板を得た。
この金メッキ皮膜は良好な密着性を示し、粘着テープによる剥れは全く認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を陽イオン性界面活性剤水溶液中に浸漬し、次いで前記浸漬処理した基材を貴金属ゾル中に浸漬することを特徴とする無電解メッキの前処理方法。
【請求項2】
貴金属ゾルが、水溶性ポリマー、蔗糖、またはクエン酸三ナトリウムから選ばれた少なくとも1種の安定剤の存在下に調製された貴金属ゾルであることを特徴とする請求項1記載の無電解メッキの前処理方法。
【請求項3】
貴金属ゾルが白金またはパラジウムのゾルであることを特徴とする請求項1または2記載の無電解メッキの前処理方法。
【請求項4】
陽イオン性界面活性剤が長鎖4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無電解メッキの前処理方法。
【請求項5】
基材が高分子材料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無電解メッキの前処理方法。
【請求項6】
高分子材料が熱可塑性ポリマーであることを特徴とする請求項5記載の無電解メッキの前処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の無電解メッキの前処理方法により得られることを特徴とする無電解メッキ用基材。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の無電解メッキの前処理方法により得られる無電解メッキ用基材を無電解メッキ液中に浸漬することを特徴とする無電解メッキ方法。
【請求項9】
無電解メッキ液の温度が室温以上でメッキ液の沸点以下であることを特徴とする請求項8記載の無電解メッキ方法。
【請求項10】
請求項8で得た無電解メッキ皮膜が形成された基材を、基材のガラス転移点以上でかつ融点以下の温度において加熱処理することを特徴とする無電解メッキ方法。

【公開番号】特開2010−47828(P2010−47828A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216028(P2008−216028)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】