説明

無電解金属化のための安定な触媒

【課題】安定でかつ信頼性のある無電解金属めっき触媒を提供する。
【解決手段】銀、金、白金、パラジウム、イリジウム、銅、アルミニウム、コバルト、ニッケルおよび鉄から選択される1種以上の金属と、没食子酸、没食子酸誘導体およびこれらの塩から選択される1種以上の安定化化合物とのナノ粒子を含む水系触媒溶液を用いる。この水系触媒溶液はスズを含まない。この水系触媒溶液で基体を処理した後無電解金属めっき浴を用いて前記基体上に金属を無電解堆積する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解金属化のための安定な水系触媒に関する。より具体的には、本発明は、スズを含まず、かつ没食子酸、没食子酸誘導体およびこれらの塩によって安定化される無電解金属化ための安定な水系触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解金属堆積は基体表面上に金属層を堆積させるための周知の方法である。誘電体表面の無電解めっきは触媒をあらかじめ適用することを必要とする。プリント回路板の製造に使用される積層基体の非導電性セクションのような、誘電体を触媒化または活性化するのに最も一般的に使用される方法は、その基体を酸性塩化物媒体中の水系スズ/パラジウムコロイドで処理することである。このコロイドの構造は広く検討されてきた。一般に、懸濁物中でのこのコロイドの凝集を回避するために表面安定化基として機能する、スズ(II)イオンの安定化層、本質的にSnCl複合体のシェルによって取り囲まれたパラジウム金属コアをこのコロイドは含む。
【0003】
活性化プロセスにおいては、無電解金属堆積を活性化させるために、スズ/パラジウムコロイド触媒がエポキシまたはポリイミド含有基体のような誘電体基体上に吸着させられる。理論的には、無電解金属めっき浴中で還元剤から金属イオンへの電子輸送の経路におけるキャリアとして、この触媒は機能する。無電解めっきの性能は多くの要因、例えば、めっき液の添加剤組成によって影響を受けるが、無電解めっきの速度およびメカニズムを制御するには活性化工程が鍵となる。
【0004】
近年、電子デバイスのサイズの小型化および性能の望まれる増大に伴って、電子パッケージング産業における欠陥のない電子回路についての要求がより高くなってきている。スズ/パラジウムコロイドは数十年にわたって無電解金属めっきのための活性化剤として商業的に使用され、かつ許容可能な貢献をもたらしてきたが、それは、より高い品質の電子デバイスについての要求が増大するにつれて目立ってきている多くの欠点を有している。スズ/パラジウムコロイドの安定性は主たる懸念事項である。上述のように、スズ/パラジウムコロイドはスズ(II)イオンの層によって安定化され、そしてその対アニオンはパラジウムが凝集するのを妨げることができる。この触媒は空気に対して感受性であり、容易にスズ(IV)に酸化し、よってこのコロイドはそのコロイド構造を維持することができない。この酸化は無電解めっきの際の温度および攪拌を増大させることによってさらに促進される。スズ(II)の濃度がほぼゼロのような限界水準まで低下する場合には、パラジウム金属粒子のサイズが大きくなり、凝集しかつ沈殿し、よって触媒的に不活性になる。結果的に、より安定な触媒についての要求が増大している。さらに、パラジウムの高くかつ変動するコストはこの産業界がより低コストの金属を探索することを促してきた。
【0005】
新規で改良された触媒を見いだすためにかなりの努力がなされてきた。高コストのパラジウムのせいで、かなりの努力がコロイド銀触媒のようなパラジウムを含まない触媒の開発に向けられてきた。塩化第一スズがコスト高でかつ酸化されたスズは別のアクセレレーション(acceleration)工程を必要とするので、研究が行われてきた別の方向はスズを含まないパラジウム触媒に向いている。全体の無電解プロセスにさらなる工程を追加することに加えて、アクセレレーション工程に使用される材料は多くの場合、めっきされるべき基体から触媒を剥ぎ取って、めっき中に望ましくない空隙を残す。これは特に、プリント回路板製造に典型的に使用されるガラス繊維基体において一般的である。しかし、このスズを含まない触媒は、プリント回路板製造におけるスルーホールめっきに対して不充分な活性および信頼性であることを示してきた。さらに、このような触媒は、典型的には、貯蔵の際に徐々に活性が低下することとなり、よってこのような触媒を信頼性なくかつ商業的な使用に非実用的にする。
【0006】
スズ複合体のための別の安定化部分、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)およびデンドリマーが開発されてきた。安定でかつ均一なPVP保護されたナノ粒子が様々な研究グループによって文献で報告されてきた。パラジウムがより安価な金属で部分的に置換えられている銀/パラジウムおよび銅/パラジウムのような他の金属コロイドも文献において報告されてきたが、今まで、スズ/パラジウムコロイド触媒について商業的に許容可能な代替物は存在していなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、安定でかつ信頼性のある無電解金属めっき触媒についての必要性が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
方法は、a)基体を提供し、b)前記基体に水系触媒溶液を適用し、前記水系触媒溶液は、銀、金、白金、パラジウム、イリジウム、銅、アルミニウム、コバルト、ニッケルおよび鉄から選択される1種以上の金属と、没食子酸、没食子酸誘導体およびこれらの塩から選択される1種以上の化合物とのナノ粒子を含み、前記触媒はスズを含まず、並びにc)無電解金属めっき浴を用いて前記基体上に金属を無電解堆積させることを含む。
【0009】
この触媒は、誘電体材料の基体をはじめとする基体上に金属を無電解めっきするために使用されることができ、かつこの触媒は従来のスズ/パラジウム触媒と比べて容易に酸化しないので、貯蔵の際に並びに無電解金属めっきの際に安定である。この触媒は生物分解性であり、よってこの触媒は環境的な危険を提供しない。没食子酸、没食子酸誘導体およびこれらの塩が廃棄の際の塩化第一スズの環境的な危険をもたらさないことを除いて、塩化第一スズが従来のスズ/パラジウム触媒においてそうであるように、没食子酸、没食子酸誘導体およびこれらの塩は安定化剤として機能する。没食子酸、没食子酸誘導体およびこれらの塩はナノ粒子形成において還元剤としても機能し、かつ触媒寿命を向上させるための酸化防止剤としても機能する。没食子酸、没食子酸誘導体およびこれらの塩で安定化された金属触媒は、アクセレレーション工程なしで無電解金属めっきを可能にし、かつプリント回路板のスルーホールの壁でさえ基体の金属めっきを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、300ppmAg/150ppm没食子酸安定化触媒対、従来のスズ/パラジウム触媒のバックライト評定である。
【図2】図2は、400ppmAg/200ppm没食子酸安定化触媒対、従来のスズ/パラジウム触媒のバックライト評定である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書全体にわたって使用される場合、文脈が明らかに他のことを示さない限りは、以下に示される略語は以下の意味を有する:g=グラム;mg=ミリグラム;ml=ミリリットル;L=リットル;cm=センチメートル;m=メートル;mm=ミリメートル;μm=ミクロン;nm=ナノメートル;ppm=100万分率;℃=摂氏度;g/L=グラム/リットル;DI=脱イオン;wt%=重量パーセント;およびT=ガラス転移温度。
【0012】
用語「プリント回路板」および「プリント配線板」は本明細書全体にわたって交換可能に使用される。用語「めっき」および「堆積」は本明細書全体にわたって交換可能に使用される。全ての量は、他に示されない限りは、重量パーセントである。全ての数値範囲は包括的であり、かつこのような数値範囲が合計で100%になることに制約されることが論理的である場合を除いて任意に組み合わせ可能である。
【0013】
水系触媒溶液は銀、金、白金、パラジウム、イリジウム、銅、アルミニウム、コバルト、ニッケルおよび鉄から選択される金属と、没食子酸、没食子酸誘導体およびこれらの塩から選択される1種以上の安定化化合物とのナノ粒子を含む。好ましくは、金属は銀、パラジウムおよび金から選択され、より好ましくは金属は銀およびパラジウムから選択され、最も好ましくは金属は銀である。
【0014】
好ましくは、安定化化合物は一般式:
【化1】


を有し、式中、Rは−Hまたは−(CH−CHであり、xは2〜4の整数であり、並びにR、R、R、RおよびRは−Hまたは−OHであり、かつ同じかまたは異なっており、ただしR、R、R、RおよびRの少なくとも1つは−OHであり、好ましくはRは−Hであり、より好ましくはRは−Hであり、かつR、RおよびRは−OHである。典型的な化合物には、没食子酸、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、2,4,6−トリヒドロキシ安息香酸および没食子酸エステル、例えば、没食子酸プロピルが挙げられる。典型的にはこれらの塩はナトリウムまたはカリウム塩である。好ましい化合物は没食子酸である。
【0015】
安定化化合物は、所望の安定化および金属めっきを提供するのに充分な量で水系触媒中に含まれる。触媒および金属めっきを安定化するための具体的な安定化剤の量、または安定化剤の組み合わせを達成するためにわずかな実験が行われるだけでよい。一般に、1種以上の安定化化合物は水系触媒中に、50ppm〜1000ppm、好ましくは100ppn〜500ppmの量で含まれる。
【0016】
場合によっては、没食子酸または没食子酸誘導体に加えて、金属イオンを金属に還元するために、1種以上の還元剤が含まれうる。金属イオンを金属に還元することが知られている従来の還元剤が使用されうる。このような還元剤には、これに限定されないが、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、ジ亜リン酸ナトリウム、ヒドラジン水和物、ギ酸およびホルムアルデヒドが挙げられる。還元剤は金属イオンの実質的に全てを金属に還元する量で含まれる。そのような量は一般的には、従来の量であり、かつ当業者に周知である。
【0017】
金属源には、当該技術分野および文献で知られている、触媒活性を有する金属を提供する任意の従来の水溶性金属塩が挙げられる。2種以上の触媒金属の混合物が使用されうる。このような塩は100ppm〜2000ppm、好ましくは300ppm〜1500ppmの量で金属を提供するように含まれる。銀塩には、これに限定されないが、硝酸銀、酢酸銀、トリフルオロ酢酸銀、銀トシラート、銀トリフラート、フッ化銀、酸化銀、チオ硫酸銀ナトリウムおよびシアン化銀カリウムが挙げられる。パラジウム塩には、これに限定されないが、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウムカリウム、塩化ナトリウムパラジウムおよび硝酸パラジウムが挙げられる。金塩には、これに限定されないが、シアン化金、三塩化金、三臭化金、塩化金カリウム、シアン化金カリウム、塩化金ナトリウム、およびシアン化金ナトリウムが挙げられる。白金塩には、これに限定されないが、塩化白金および硫酸白金が挙げられる。イリジウム塩には、これに限定されないが、三臭化イリジウムおよび塩化イリジウムカリウムが挙げられる。銅塩には、これに限定されないが硫酸銅および塩化銅が挙げられる。ニッケル塩には、これに限定されないが塩化ニッケルおよび硫酸ニッケルが挙げられる。コバルト塩には、これに限定されないが、酢酸コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、および硫酸コバルトアンモニウムが挙げられる。アルミニウム塩には、これに限定されないが、硫酸アルミニウム、および硫酸アルミニウムナトリウムが挙げられる。鉄塩には、これに限定されないが、クエン酸第一鉄アンモニウム、シュウ酸第一鉄アンモニウム、および硫酸第一鉄アンモニウムが挙げられる。典型的には、金属塩は銀、パラジウムおよび金である。好ましくは、金属塩は銀およびパラジウムである。より好ましくは塩は銀である。
【0018】
水系触媒を作り上げる成分は任意の順に一緒にされて良い。当該技術分野および文献において知られている任意の適切な方法が水系触媒を製造するために使用されうる。具体的なパラメータおよび成分の量は方法ごとに変動しうるが、一般に、1種以上の安定化化合物が充分な量の水に最初に溶解される。水溶液としての金属源の1種以上が激しい攪拌を伴って安定化剤溶液と一緒にされて均一な混合物を形成する。場合によっては、次いで、1種以上の還元剤を含む水溶液が激しい攪拌を伴って安定化剤および金属塩の混合物と混合されうる。プロセス工程および溶解は典型的には室温で行われるが、温度は反応成分を溶解するのを助けかつ金属イオンの還元を促進するように変えられうる。理論に拘束されるわけではないが、安定化剤は金属の一部分またはほとんどをコーティングするかまたは取り囲むことができ、触媒溶液を安定化することができる。金属および安定化剤の粒子の直径は少なくとも1nmから、典型的には1nm〜1000nm、または例えば、2nm〜500nmのサイズの範囲である。好ましくは、この粒子は2nm〜300nm、より好ましくは2nm〜100nm、最も好ましくは2nm〜10nmのサイズの範囲である。
【0019】
合成されたままの触媒のpHは酸性から穏やかなアルカリ性の範囲であり得る。触媒がアルカリ性である場合には、無電解金属化のために触媒を使用する前に、このpHは7未満に下げられる。1種以上の酸またはその塩が触媒に添加されることができ、7未満、好ましくは1〜6.5、より好ましくは2〜6のpH範囲を提供することができる。無機または有機酸またはその塩が、所望の範囲にこのpHを維持するのに充分な量で使用されうる。無機および有機酸および塩の混合物が使用されても良い。無機酸の例は塩酸、硫酸および硝酸である。有機酸には、モノカルボン酸およびポリカルボン酸、例えば、ジカルボン酸が挙げられる。有機酸の例は、安息香酸、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、リンゴ酸、マレイン酸、シュウ酸、酢酸、クエン酸および酒石酸である。
【0020】
この触媒は様々な基体を無電解金属めっきするのに使用されうる。このような基体には、これに限定されないが、ガラス、セラミック、磁器、樹脂、紙、布およびこれらの組み合わせのような無機および有機物質をはじめとする材料が挙げられる。金属−クラッドおよび非クラッド材料も、この触媒を用いて金属めっきされうる基体である。
【0021】
基体にはプリント回路板も挙げられる。このようなプリント回路板には、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂およびこれらの組み合わせを伴い、ガラス繊維のような繊維を含む金属クラッドおよび非クラッド、並びに上記含浸された実施形態が挙げられる。
【0022】
熱可塑性樹脂には、これに限定されないが、アセタール樹脂、アクリル系、例えば、アクリル酸メチル、セルロース系樹脂、例えば、酢酸エチル、セルロースプロピオナート、セルロースアセタートブチラートおよび硝酸セルロース、ポリエーテル、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、スチレンブレンド、例えば、アクリロニトリルスチレンおよびコポリマー、並びにアクリロニトリル−ブタジエンスチレンコポリマー、ポリカーボネート、ポリクロロトリフルオロエチレン、並びにビニルポリマーおよびコポリマー、例えば、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルブチラール、塩化ビニル、塩化ビニル−アセタートコポリマー、塩化ビニリデンおよびビニルホルマールが挙げられる。
【0023】
熱硬化性樹脂には、これに限定されないが、フタル酸アリル、フラン、メラミン−ホルムアルデヒド、フェノール−ホルムアルデヒドおよびフェノール−フルフラールコポリマーを単独でまたはブタジエンアクリロニトリルコポリマーまたはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマーとのコンパウンドで、ポリアクリルエステル、シリコーン、尿素ホルムアルデヒド、エポキシ樹脂、アリル樹脂、グリセリルフタラートおよびポリエステルが挙げられる。
【0024】
多孔質材料には、これに限定されないが、紙、木材、ガラス繊維、布および繊維、例えば、天然繊維および合成繊維、例えば、綿繊維およびポリエステル繊維が挙げられる。
【0025】
触媒は低T樹脂および高T樹脂の双方をめっきするために使用されうる。低T樹脂は160℃未満のTを有し、そして高T樹脂は160℃以上のTを有する。典型的には、高T樹脂は160℃〜280℃、または例えば、170℃〜240℃のTを有する。高Tポリマー樹脂には、これに限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリテトラフルオロエチレンブレンドが挙げられる。このようなブレンドには、例えば、PTFEとポリフェニレンオキシドおよびシアナートエステルが挙げられる。高Tを有する樹脂を含むポリマー樹脂の他の種類には、これに限定されないが、エポキシ樹脂、例えば、二官能性および多官能性エポキシ樹脂、ビマレイミド/トリアジンおよびエポキシ樹脂(BTエポキシ)、エポキシ/ポリフェニレンオキシド樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリスルホン(PS)、ポリアミド、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)およびポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、ポリウレタン、ポリエーテルイミド、エポキシおよびこれらの複合体が挙げられる。
【0026】
触媒はプリント回路板のスルーホールまたはバイアの壁上に金属を堆積させるために使用されうる。触媒はプリント回路板を製造する水平プロセスおよび垂直プロセスの両方で使用されうる。
【0027】
水系触媒は従来の無電解金属めっき浴と共に使用されうる。この触媒は無電解めっきされうるあらゆる金属を無電解的に堆積させるために使用されうることが想定されるが、典型的には、この金属は銅、銅合金、ニッケルまたはニッケル合金から選択される。より典型的には、この金属は銅および銅合金から選択され、最も典型的には銅が使用される。市販の無電解銅めっき浴の例はサーキュポジット(CIRCUPOSIT(商標))880無電解銅浴(マサチューセッツ州マルボロのロームアンドハースエレクトロニックマテリアルズLLCから入手可能)である。
【0028】
典型的には、銅イオン源には、これに限定されないが、銅の水溶性ハロゲン化物、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩および他の有機および無機塩が挙げられる。このような銅塩の1種以上の混合物が銅イオンを提供するために使用されうる。例としては、硫酸銅、例えば、硫酸銅五水和物、塩化銅、硝酸銅、水酸化銅およびスルファミン酸銅が挙げられる。組成物中での一般的な銅イオン濃度は0.5g/L〜30g/Lの範囲であり得る。
【0029】
1種以上の合金形成金属(alloying metal)も無電解組成物中に含まれて良い。このような合金形成金属には、これに限定されないが、ニッケルおよびスズが挙げられる。銅合金の例としては、銅/ニッケルおよび銅/スズが挙げられる。典型的には、銅合金は銅/ニッケルである。
【0030】
ニッケルおよびニッケル合金無電解浴のためのニッケルイオン源には、1種以上の従来のニッケルの水溶性塩が挙げられうる。ニッケルイオン源には、これに限定されないが、硫酸ニッケルおよびハロゲン化ニッケルが挙げられる。ニッケルイオン源は従来の量で無電解合金形成組成物に含まれうる。典型的には、ニッケルイオン源は0.5g/L〜10g/Lの量で含まれる。
【0031】
基体を金属化するのに使用される方法の工程は、めっきされるべき表面が金属であるか誘電体であるかに応じて変化しうる。具体的な工程および工程のシークエンスはある方法から次のものに変化しても良い。基体を無電解金属めっきするのに使用される従来の工程はこの触媒と共に使用されることができるが、水系没食子酸および没食子酸安定化金属触媒は、多くの従来の無電解めっきプロセスにおけるようなアクセレレーション工程を必要としない。よって、この触媒を使用する場合には、アクセレレーション工程は好ましくは除かれる。一般に、この触媒は金属で無電解めっきされるべき基体の表面に適用され、その後金属めっき浴を適用する。無電解金属めっきパラメータ、例えば、温度および時間は従来のものでありうる。従来の基体準備方法、例えば、基体表面をクリーニングまたは脱脂すること、表面を粗化またはマイクロ粗化すること、表面をエッチングまたはマイクロエッチングすること、膨潤溶媒適用、スルーホールをデスミアすること、並びに様々なすすぎおよび変色防止(anti−tarnish)処理が使用されうる。このような方法および配合物は当該技術分野において周知であり、かつ文献に開示されている。
【0032】
典型的には、金属めっきされる基体が、プリント回路板の表面上またはスルーホールの壁上のような誘電体材料である場合には、その板は水ですすがれ、クリーニングされ、そして脱脂され、その後、スルーホール壁をデスミアする。典型的には、誘電体表面を準備または軟化することまたはスルーホールをデスミアすることが膨潤溶媒の適用と共に始まる。
【0033】
任意の従来の膨潤溶媒が使用されうる。この具体的な種類は誘電体材料の種類に応じて変化しうる。誘電体の例は上に開示されている。どの膨潤溶媒が特定の誘電体材料に適しているかを決定するためにわずかな実験が行われるだけでよい。誘電体のTは多くの場合、使用されるべき膨潤溶媒の種類を決定する。膨潤溶媒には、これに限定されないが、グリコールエーテルおよびその関連するエーテルアセタートが挙げられる。グリコールエーテルおよびその関連するエーテルアセタートの従来の量が使用されうる。市販の膨潤溶媒の例は、サーキュポジット(CIRCUPOSIT(商標))コンディショナー3302、サーキュポジット(CIRCUPOSIT(商標))ホールプレップ3303、およびサーキュポジット(CIRCUPOSIT(商標))ホールプレップ4120(ロームアンドハースエレクトロニックマテリアルズから入手可能)である。
【0034】
場合によっては、基体およびスルーホールが水ですすがれる。次いで、プロモーターが適用される。従来のプロモーターが使用されうる。このようなプロモーターには、硫酸、クロム酸、過マンガン酸アルカリまたはプラズマエッチングが挙げられる。典型的には、過マンガン酸アルカリがプロモーターとして使用される。市販のプロモーターの例はサーキュポジット(CIRCUPOSIT(商標))プロモーター4130およびサーキュポジット(CIRCUPOSIT(商標))MLBプロモーター3308(ロームアンドハースエレクトロニックマテリアルズから入手可能)である。
【0035】
場合によっては、基体およびスルーホールは再び水ですすがれる。次いで、中和剤が適用されて、プロモーターによって残った残留物を中和する。従来の中和剤が使用されうる。典型的には、中和剤は、1種以上のアミンを含むアルカリ水溶液、または3重量%のペルオキシドおよび3重量%の硫酸の溶液である。市販の中和剤の例はサーキュポジット(CIRCUPOSIT(商標))MLB中和剤216−5である。場合によっては、基体およびスルホールは水ですすがれ、次いで乾燥させられる。
【0036】
溶媒膨潤およびデスミアの後で、酸またはアルカリコンディショナーが適用されうる。従来のコンディショナーが使用されうる。このようなコンディショナーには、1種以上のカチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、錯化剤およびpH調節剤または緩衝剤が挙げられうる。市販の酸コンディショナーの例はサーキュポジット(CIRCUPOSIT(商標))コンディショナー3320およびサーキュポジット(CIRCUPOSIT(商標))コンディショナー3327(ロームアンドハースエレクトロニックマテリアルズから入手可能)である。適するアルカリコンディショナーには、これに限定されないが、1種以上の第四級アミンおよびポリアミンを含むアルカリ界面活性剤水溶液が挙げられる。市販のアルカリ界面活性剤の例はサーキュポジット(CIRCUPOSIT(商標))コンディショナー231、3325、813、および860である。場合によっては、基体およびスルーホールは水ですすがれる。
【0037】
コンディショニングの後でマイクロエッチングが行われうる。従来のマイクロエッチング組成物が使用されうる。マイクロエッチングは、後で堆積される無電解およびその後の電気めっきの接着性を向上させるために、露出した金属上にマイクロ粗化された金属表面を提供するようにデザインされる(例えば、内層および表面エッチング)。マイクロエッチング剤には、これに限定されないが、60g/L〜120g/Lの過硫酸ナトリウム、またはオキシモノ過硫酸ナトリウムもしくはカリウム、および硫酸(2%)混合物、または一般的な硫酸/過酸化水素が挙げられる。市販のマイクロエッチング組成物の例は、サーキュポジット(CIRCUPOSIT(商標))マイクロエッチ3330およびプレポジット(PREPOSIT(商標))748である。場合によっては、基体は水ですすがれる。
【0038】
次いで、マイクロエッチングされた基体およびスルーホールにプレディップが適用されうる。プレディップの例としては、2%〜5%塩酸または25g/L〜75g/Lの塩化ナトリウムの酸性溶液が挙げられる。市販のプレディップはカタプレップ(CATAPREP(商標))404(ロームアンドハースエレクトロニックマテリアルズから入手可能)である。
【0039】
安定化された没食子酸または没食子酸誘導体またはそれらの塩の触媒は、次いで、基体およびスルーホールに適用される。触媒での前処理は1〜10分間にわたって、典型的には2〜8分間にわたって行われうる。温度は室温〜80℃、または例えば、30℃〜60℃の範囲であり得る。基体およびスルーホールは場合によっては、触媒の適用の後で、水ですすがれうる。
【0040】
次いで、基体およびスルーホールの壁は、無電解浴で金属、例えば、銅、銅合金、ニッケルまたはニッケル合金でめっきされる。典型的には、スルーホールの壁上に銅がめっきされる。めっき時間および温度は従来のものであり得る。典型的に、金属堆積は20℃〜80℃、より典型的には30℃〜60℃の温度で行われる。基体は無電解めっき浴中に浸漬されうるか、または無電解めっき浴がこの基体上に噴霧されうる。典型的には、堆積は5秒〜30分間にわたって行われうるが、めっき時間は基体上の金属の厚さに応じて変化しうる。
【0041】
場合によっては、変色防止剤が金属に適用されうる。従来の変色防止組成物が使用されうる。変色防止剤の例はアンチターニッシュ(ANTI TARNISH(商標))7130(ロームアンドハースエレクトロニックマテリアルズから入手可能)である。基体は、場合によっては、すすがれることができ、次いで板は乾燥させられうる。
【0042】
さらなる処理には、光像形成による従来の処理、および、例えば、銅、銅合金、スズおよびスズ合金の電解金属堆積など基体上のさらなる金属堆積が挙げられうる。
【0043】
誘電体材料の基体をはじめとする基体上に金属を無電解めっきするのに、この触媒が使用されることができ、かつこの触媒は従来のスズ/パラジウム触媒と比べて容易に酸化しないので、この触媒は貯蔵の際に、および無電解金属めっきの際に安定である。この触媒は生物分解性であり、よってこの触媒は環境的な危険をもたらさない。没食子酸、没食子酸誘導体およびそれらの塩が廃棄の際の塩化第一スズの環境的危険性を生じさせないということを除いて、没食子酸、没食子酸誘導体およびそれらの塩は塩化第一スズが従来のスズ/パラジウム触媒において働くように安定化剤として機能する。没食子酸、没食子酸誘導体およびそれらの塩はナノ粒子形成において還元剤として、および触媒寿命を向上させるための酸化防止剤としても機能する。没食子酸、没食子酸誘導体およびそれらの塩で安定化された金属触媒は、アクセレレーション工程なしで無電解金属めっきを可能にし、かつプリント回路板のスルーホールの壁でさえ基体の金属めっきを可能にする。
【0044】
以下の実施例は本発明の範囲を限定することを意図しておらず、本発明をさらに説明することを意図している。
【実施例】
【0045】
実施例1
複数のスルーホールを有する6種類の異なる積層物がそれぞれ2つづつ提供された:NP−175、370HR、TUC−752、SY−1141、SY−1000−2、およびFR−408。NP−175はナンヤ(Nanya)から得られた。370HRおよびFR4−408はイソラ(Isola)から得られた。TUC−752は台湾ユニオンテクノロジーから得られ、並びにSY−1141およびSY−1000−2はシェンギー(Shengyi)から得られた。積層物のT値は140℃〜180℃の範囲であった。それぞれの積層物は5cm×12cmであった。それぞれの積層物のスルーホールは以下のように処理された:
【0046】
1.それぞれの積層物のスルーホールはサーキュポジット(商標)MLBコンディショナー211で78℃で7分間にわたってデスミアされた;
2.次いで、それぞれの積層物のスルーホールは流れている水道水で4分間にわたってすすがれた;
3.次いで、スルーホールは、pH13、78℃で10分間にわたってサーキュポジット(商標)MLBプロモーター213水性過マンガン酸塩溶液で処理された;
4.次いで、スルーホールは4分間にわたって流れている水道水ですすがれた;
5.次いで、スルーホールはサーキュポジット(商標)MLB中和剤216−5溶液で5分間にわたって、46℃で処理された;
6.次いで、それぞれの積層物のスルーホールは流れている水道水で4分間にわたってすすがれた;
7.次いで、スルーホールは3%サーキュポジット(商標)コンディショナー231アルカリコンディショナーを含む水系浴中で、40℃で、5分間にわたって処理された;
8.次いで、それぞれの積層物のスルーホールは流れている水道水で4分間にわたってすすがれた;
9.次いで、スルーホールはプレポジット(商標)748で2分間にわたって室温で処理された;
10.次いで、それぞれの積層物のスルーホールは流れている水道水で4分間にわたってすすがれた;
11.次いで、6枚の積層物のスルーホールは5分間にわたって40℃で、150ppmの没食子酸で安定化された硝酸銀からの300ppm銀触媒(2.9のpH、7〜10nmの範囲の触媒粒子サイズ)で前処理され;一方、他の6枚の積層物のスルーホールはカタプレップ(商標)404ホール調製配合物で1分間にわたって室温で処理され、その後100ppmのパラジウムを含み、過剰の塩化第一スズを伴う従来のコロイドパラジウム/スズ触媒で5分間にわたって40℃で処理された;
12.次いで、スルーホールは流れている水道水で4分間にわたってすすがれた;
13.次いで、積層物はサーキュポジット(商標)880無電解銅めっき浴中に、38℃でpH13で浸漬され、15分間にわたって銅がスルーホールの壁上に堆積させられた;
14.次いで、銅めっきされた積層物が冷水で4分間にわたってすすがれた;
15.次いで、それぞれの銅めっきされた積層物は圧縮空気で乾燥させられた;
16.積層物のスルーホールの壁は、以下に記載されるバックライトプロセスを用いて銅めっき被覆率について検査された;
【0047】
それぞれの板は側方向に切断されて、スルーホールの銅めっきされた壁を露出させた。スルーホール壁被覆率を決定するために、厚さ1mmの10個の側切片がそれぞれの板の分割されたスルーホールの壁からとられた。欧州バックライト評定スケール(European Backlight Grading Scale)が使用された。各板からの1mm切片は50倍の倍率の従来の光学顕微鏡の下に配置された。銅堆積物の品質は顕微鏡下で観察された光の量によって決定された。光が観察されなかった場合には、その切片は完全に黒であり、バックライトスケールにおいて5と評定され、これはスルーホール壁の完全な銅被覆を示す。何ら暗い領域なしで光が切片全体を透過した場合には、これは壁上に銅金属堆積が非常にわずかしかないか、全くなかったことを示し、この切片は0と評定された。切片が幾分かの暗い領域と明るい領域を有していた場合には、その切片は0〜5の間で評定された。
【0048】
図1はめっきされた6種類の板のそれぞれについての両方の触媒のバックライト性能を示す、バックライト評定分布グラフである。グラフ内のダイヤモンド形状の印は、各板についての10個のスルーホール断面についての95%信頼区間を示す。各ダイヤモンドの中央を通る水平線は、測定された10個のスルーホール断面の各群についての平均バックライト値を示す。銀/没食子酸触媒で処理されたNP−175板を除いて、この銀/没食子酸触媒は、4.5以上のバックライト値を有する従来のパラジウム/スズコロイド触媒と実質的に同じに機能した。典型的には、4.5以上のバックライト値はめっき産業における商業的に許容可能な触媒の指標である。
【0049】
実施例2
銀/没食子酸触媒が酢酸銀からの400ppmの銀、没食子酸200ppmおよびpH調節剤としてのシュウ酸を含んでいたことを除いて、実施例1の方法が繰り返された。このpHは2.7であり、銀/没食子酸ナノ粒子は7〜10nmの範囲であった。さらに、積層物は45℃で7分間の触媒中滞留時間を有しており、めっき時間は40℃で20分間であった。触媒工程の前および後で積層物をすすぐのに、水道水の代わりにDI水が使用された。バックライト結果は図2に示される。
【0050】
実施例1におけるのと同じ水準であったNP−175積層物を除いて、銀/没食子酸触媒の全てのバックライト結果は実質的に4.5の印より上であった。これに対して、従来のパラジウム/スズコロイド触媒のバックライトめっき結果は主として4.5のボーダーライン上であって、FR−408積層物についての結果は約4.3であり、許容可能な範囲より下であった。全体として、銀/没食子酸触媒は従来の触媒よりも良好なめっき結果を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)基体を提供し、
b)前記基体に水系触媒溶液を適用し、前記水系触媒溶液は、銀、金、白金、パラジウム、イリジウム、銅、アルミニウム、コバルト、ニッケルおよび鉄から選択される1種以上の金属と、没食子酸、没食子酸誘導体およびこれらの塩から選択される1種以上の安定化化合物とのナノ粒子を含み、前記水系触媒溶液はスズを含まず、並びに、
c)無電解金属めっき浴を用いて前記基体上に金属を無電解堆積させる、
ことを含む方法。
【請求項2】
前記金属が銀およびパラジウムから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記安定化化合物が没食子酸、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、2,4,6−トリヒドロキシ安息香酸および没食子酸エステルから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記無電解堆積される金属が銅、銅合金、ニッケルまたはニッケル合金である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子が少なくとも直径1nmである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1種以上の安定化化合物が50ppm〜1000ppmの量である請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−47385(P2013−47385A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−180771(P2012−180771)
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】