説明

無電解銅めっき液およびその管理方法

【課題】無機シアン化物や、微生物による分解が困難なEDTAおよびその塩を用いなくても、長期にわたって安定して運転が可能な無電解銅めっき液を提供する。
【解決手段】銅イオン、銅イオンの錯化剤、還元剤及びpH調整剤を含む無電解銅めっき液において、第一錯化剤として、モノアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種を含有し、第二錯化剤として、ジアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種を含有し、且つ、めっき液中の銅イオン濃度に対して前記第一錯化剤の濃度が1〜30倍モルであり、該銅イオン濃度に対して前記第二錯化剤の濃度が2倍モル未満である、無電解銅めっき液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解銅めっき液およびその管理方法に関する。特に、生分解性キレート剤を錯化剤として使用した無電解銅めっき液およびその管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解銅めっきは、プラスチック、セラミックス等の、非導電性物質にめっきが可能であり、様々な分野に適用されている。例えば、多層プリント配線板の層間接続方法として無電解銅めっきが用いられる。層間接続方法としては、スルーホールのようにプリント配線板の全板厚を貫通したものが一般的であり、層数が多いものには一部の層間を接続するビアホールが用いられている。めっきスルーホール法は、スルーホール接続をするために配線板にドリルで穴あけをし、その穴に無電解銅めっきを施すことにより穴内の導電化を行う方法である。ビアホールの接続も同様であり、レーザーなどを用いて配線板に穴あけをし、穴に無電解銅めっきを施すことにより穴内の導電化を行う方法である。また、フルアディティブ法における配線パターン形成、セミアディティブ法における導電化層の形成などにも無電解銅めっきが用いられている。
【0003】
上述のようなプリント配線板の製造に使用される無電解銅めっき液としては、通常、自己触媒型の無電解銅めっき液が用いられる。また、上記無電解銅めっき液は、硫酸銅などの2価の銅塩、2価銅イオンの錯化剤、ホルムアルデヒドなどの還元剤及び水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を主成分として含み、必要に応じて、無電解銅めっき液の安定性を増加させるための添加剤や、めっき皮膜の物性を向上させるための添加剤などを更に含むことが一般的である。
【0004】
上記無電解銅めっき液に用いられる錯化剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびそのアルカリ金属塩やアンモニウム塩、ロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム)などが、従来より知られている。
【0005】
EDTAは、水溶液中で多くの金属イオンと安定なキレートを形成する機能を有することから、その機能を応用して繊維工業、洗剤、洗浄剤、めっき、肥料、化粧品、食品、写真工業等、幅広い分野で使用されている。しかしながら、EDTAは微生物による分解が困難な物質であるため、環境問題の見地から使用が避けられるべきである。詳しくは、EDTAが河川、湖沼、海洋等へ放出されると、そのキレート性能の高さから、生態系に影響を与える恐れがある。このため、EDTAおよびその塩を錯化剤に用いた無電解銅めっき液を廃棄する際には、これをめっき液から分離、回収を行う必要がある。
【0006】
一方、ロッシェル塩に代表されるオキシカルボン酸型の錯化剤は、EDTAと比較すると、キレート安定性が充分でないことから、銅イオンに対して大過剰量使用されたり、シアン化ナトリウム等、無機シアン化物などを用いてめっき液の安定性を向上させることが必要となる。
【0007】
上記の問題を解決するため、無電解銅めっき液の錯化剤として、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびイミノ二酢酸を基本骨格としたモノアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩を使用しためっき液が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。また、コハク酸、グルタル酸等を基本骨格としたジアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩を錯化剤とした無電解銅めっき液が提案されている(例えば、下記特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された無電解銅めっき液は、温度の上昇に伴いめっき液が不安定になるという問題があった。また長期連続使用によりめっき液中に副生成物が大量に生成するとめっき液が不安定となり、寿命が低下するという問題があった。また、特許文献2に記載された無電解銅めっき液は、めっき析出速度が錯化剤の濃度に大きく影響を受け、錯化剤のモル濃度が銅イオンのモル濃度の2倍より大きくなると析出速度が大きく低下するため、銅イオンを補充する際、銅イオンと錯化剤との錯体を形成した状態で補充することができない。このため、補充によるケミカルショックが起こりやすく、めっき液が不安定になるという問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開平8−325742号公報
【特許文献2】特開平9−49084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術の問題点を解決すべくなされたものであり、無機シアン化物や、微生物による分解が困難なEDTAおよびその塩を用いなくても、長期にわたって安定して運転が可能な無電解銅めっき液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、銅イオン、銅イオンの錯化剤、還元剤及びpH調整剤を含む無電解銅めっき液において、(1)第一錯化剤として、モノアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種、(2)第二錯化剤として、ジアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種を含有し、且つ、めっき液中の銅イオン濃度に対して第一錯化剤の濃度が1〜30倍モルであり、該銅イオン濃度に対して第二錯化剤の濃度が2倍モル未満になるよう調整された水溶液であることを特徴とする無電解銅めっき液およびその管理方法を見出した。
【0012】
本発明は、以下に関する。
1. 銅イオン、銅イオンの錯化剤、還元剤及びpH調整剤を含む無電解銅めっき液において、第一錯化剤として、モノアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種を含有し、第二錯化剤として、ジアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種を含有し、且つ、めっき液中の銅イオン濃度に対して前記第一錯化剤の濃度が1〜30倍モルであり、該銅イオン濃度に対して前記第二錯化剤の濃度が2倍モル未満であることを特徴とする無電解銅めっき液。
2. モノアミン型生分解性キレート剤が、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびイミノ二酢酸を基本骨格とした第3級アミンを有する生分解性キレート剤であることを特徴とする前記の無電解銅めっき液。
3. ジアミン型生分解性キレート剤が、コハク酸、グルタル酸を基本骨格とした第2級アミンを有する生分解性キレート剤であることを特徴とする前記の無電解銅めっき液。
4. 銅イオン、銅イオンの錯化剤、還元剤及びpH調整剤を含む無電解銅めっき液の管理方法において、(1)第一錯化剤が、モノアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種であり、めっき液中の銅イオン濃度に対して前記第一錯化剤の濃度を1〜30倍モルになるように調整し、(2)第二錯化剤が、ジアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種であり、該銅イオン濃度に対して前記第二錯化剤の濃度を2倍モル未満になるように調整することを特徴とする無電解銅めっき液の管理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、二種以上のキレート剤を効果的に用いることにより、長期にわたって連続して使用しても安定しためっき液安定性、および優れた析出速度を有するめっき液およびその管理方法を提供することができる。また、難分解性のEDTAおよびその塩や、無機シアン化物を使用しないことから、めっき液の廃棄が比較的簡便な無電解銅めっき液を提供することができる。本発明の無電解銅めっき液は、多層プリント配線板の層間接続方法として多く用いられているめっきスルーホール法に用いる無電解銅めっき液に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するにあたっての最良の形態を示す。先ず、本発明の無電解銅めっき液の好適な実施形態について説明する。
本発明の無電解銅めっき液は、銅イオン供給源としての銅塩、銅イオンの錯化剤、還元剤及び水酸化アルカリなどのpH調整剤を含む水溶液である。
【0015】
銅塩は、2価の銅イオンを含むものであれば良く、例えば、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、臭化銅、酸化銅、水酸化銅、ピロリン酸銅などが挙げられるが、これらに限定しない。銅塩の濃度は0.1〜1000mMの範囲であることが好ましく、安定しためっき析出性を有するためには、1〜500mMの範囲であることがより好ましい。銅塩の濃度が0.1mM未満であると、めっき反応が効率よく行われないため好ましくなく、1000mMを超えると、めっき液の安定性が著しく低下するため好ましくない。
【0016】
銅イオンの錯化剤は、(1)第一錯化剤として、モノアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種であり、(2)第二錯化剤として、ジアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする。第一錯化剤の化合物の具体例としては、アスパラギン酸一酢酸、アスパラギン酸二酢酸、アスパラギン酸一プロピオン酸、イミノジコハク酸、2−スルホメチルアスパラギン酸、2−スルホエチルアスパラギン酸、グルタミン酸二酢酸、2−スルホメチルグルタミン酸、2−スルホエチルグルタミン酸、メチルイミノ二酢酸、α−アラニン二酢酸、β−アラニン二酢酸、セリン二酢酸、イソセリン二酢酸、フェニルアラニン二酢酸、アントラニル酸二酢酸、スルファニル酸二酢酸、タウリン二酢酸、スルホメチル二酢酸あるいはこれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が挙げられる。また、第二錯化剤の化合物の具体例としては、エチレンジアミンジコハク酸、1,3−プロパンジアミンジコハク酸、エチレンジアミンジグルタル酸、1,3−プロパンジアミンジグルタル酸、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジアミンジコハク酸、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジアミンジグルタル酸あるいはこれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が挙げられる。
【0017】
上記第一および第二錯化剤のうち、分子内に不斉炭素原子を有する場合、生分解性の観点から、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸等、L体を基本骨格とした生分解性キレート剤が好ましい。
【0018】
上記第一錯化剤の濃度(モル)は、めっき液中の銅イオン濃度(モル)に対して1〜30倍モルであることを特徴とし、好ましくは1〜20倍モル、さらに好ましくは1〜15倍モルである。第一錯化剤の濃度(モル)が1倍モル未満であると、めっき液が不安定となり好ましくなく、30倍モルを超えると、経済的な観点から好ましくない。
【0019】
上記第二錯化剤の濃度(モル)は、めっき液中の銅イオン濃度(モル)に対して2倍モル未満であることを特徴とし、好ましくは0.1〜1.7倍モル、より好ましくは0.2〜1.5倍モル、特に好ましくは0.3〜1.2倍モルである。第二錯化剤の濃度(モル)が銅イオン濃度(モル)に対して2倍モル以上であると、めっき析出速度が小さくなり好ましくない。
【0020】
還元剤はホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、水素化ホウ素塩、グリオキシル酸、還元糖など、銅イオンを還元可能なものであれば良く、特に限定しない。還元剤の濃度は0.1〜1000mMの範囲であることが好ましく、安定しためっき析出性を有するためには、1〜500mMの範囲であることがより好ましい。還元剤の濃度が0.1mM未満であると、めっき反応が効率よく行われないため好ましくなく、1000mMを超えると、めっき液の安定性が著しく低下するため好ましくない。
【0021】
pH調整剤は水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、塩酸、硝酸、硫酸などの酸性溶液などが挙げられるが、特に限定しない。めっき液のpHは6〜14の範囲であることが好ましく、安定しためっき反応を得るためには、pH10〜13の範囲であることがより好ましい。pHが6未満であると、めっき反応が効率よく行われないため好ましくなく、pH14を超えると、めっき液の安定性が著しく低下するため好ましくない。
【0022】
また、無電解銅めっき被膜の性状を向上させるため、めっき液の連続使用に伴う液安定性を向上させるため、めっき析出速度を向上させるため、さらには、めっき析出速度の変動を抑えるため等、様々な用途・目的に応じて、無電解銅めっき液に添加剤を必要に応じて添加することができる。例えば、2、2’−ビピリジル、オルトフェナントリン、フェロシアン化カリウム、ベンゾチアゾール、チアゾール、ニコチン酸、ベンゾトリアゾール、ポリ硫化カリウム、8−アザグアニン、8−アザキサンチン、8−アザヒポキサンチン、アデニン、8−アザアデニン、グアニン、ヒポキサンチン、クプロン、硫化カリウム、硫化ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ゲルマニウム酸ナトリウム、二酸化ゲルマニウム、スズ酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、メタバナジン酸ナトリウム、五酸化バナジウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ニッケル、ほう酸、しゅう酸カリウム、チオ尿素、アリルチオ尿素、チオリンゴ酸、チオグリコール酸、グリコール酸、炭酸ナトリウム、硝酸カリウム、鉛塩類などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明に使用する無電解銅めっき液の温度は、5〜90℃の範囲で用いることができ、10〜80℃の範囲であることがより好ましい。めっき液の温度が5℃未満であると、めっき反応が効率よく行われないため好ましくなく、90℃を超えると、めっき液中の水の蒸発によりめっき液の濃度の変動が大きくなり、めっき液の安定性が著しく低下するため好ましくない。
【0024】
次に、本発明の無電解銅めっき液に、被めっき物を浸漬するにあたっての好適な実施形態について説明する。
本発明の無電解銅めっき液でめっきされる好適な被めっき物は、プリント配線板であるが、これに限定されない。例えば、鉄、銅、ニッケル、コバルト、クロムなどの金属及びこれらの金属を含んだ合金、PET樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などのプラスティック、ガラス、セラミックス、その他の複合材料などが挙げられる。
【0025】
無電解銅めっき液に浸漬する被めっき物の面積、すなわちロードファクターは、めっき液1Lあたり0.001〜0.3mが好ましく。0.003〜0.1mがより好ましい。ロードファクターが0.001m/L未満であると、生産効率の観点から好ましくなく、0.3m/Lを超えると、めっき液の溶存酸素濃度が極端に低下し、めっき液が不安定となるため好ましくない。
被めっき物を無電解銅めっき液に浸漬する時間は、30秒以上であることが好ましく、1分以上であることがより好ましい。30秒未満であると、めっき未析出が起こるため好ましくない。
【0026】
無電解銅めっき液の安定性は、一般的に、めっき液中の溶存酸素に大きく依存する。溶存酸素濃度は、5〜90℃のめっき液温度において、0.5〜35mg/Lの範囲であることが好ましく、1.5〜20mg/Lの範囲であることがより好ましい。めっき液中の溶存酸素は、めっき析出反応に伴い低下することから、必要に応じて、連続もしくは断続的に、酸素、もしくは酸素を含んだ混合気体をめっき液に供給しても良い。酸素を含んだ混合気体の好適な例としては、空気が挙げられる。
【0027】
また、本発明に使用する無電解銅めっき液に浸漬する前段階として、被めっき物に、めっき反応を効果的に行うための前処理を行うことも可能である。前処理工程は、常法の処理工程、例えば、被めっき物を脱脂洗浄する工程、被めっき物に触媒を付与する工程、被めっき物に付与した触媒を活性化する工程などが挙げられる。特に、プリント配線板のスルーホールやビアホールの導電化を行うためには、これらの前処理工程を順次行うことが好ましい。
【0028】
脱脂洗浄工程は、無電解銅めっき液との接触工程の前処理として、溶剤、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液を用いて被めっき物表面を清浄化するために行う。脱脂洗浄工程において清浄化に用いる材料としては、1種以上の界面活性剤を含んだ酸性水溶液またはアルカリ性水溶液が好ましい。界面活性剤は、非イオン性の界面活性剤を含むことが好ましく、例えば、脂肪酸モノグリセリンエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸ポリエチレングリコール縮合物、脂肪酸アミド・ポリエチレングリコール縮合物、脂肪族アルコール・ポリエチレングリコール縮合物、脂肪族アミン・ポリエチレングリコール縮合物、脂肪族メルカプタン・ポリエチレングリコール縮合物、アルキルフェノール・ポリエチレングリコール縮合物、ポリプロピレングリコール・ポリエチレングリコール縮合物などが挙げられるが、これらに限定されない。また、次の触媒付与工程において、めっき反応の触媒となる金属を効率よく付与するため、1種以上の界面活性剤と、陽イオン性樹脂を含んだ溶剤、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液を用いることができる。
【0029】
触媒付与工程は、酸性またはアルカリ性の、貴金属を含んだ水溶液またはコロイド状液体を用いて、被めっき物表面に、無電解銅めっき反応の触媒となる貴金属、貴金属を含む合金、または貴金属イオンを付与するために行う。該貴金属は、パラジウム、ロジウム、白金、金、銀などが挙げられるが、パラジウムが好適である。触媒付与工程において用いる材料としては、公知の酸性またはアルカリ性のパラジウムを含んだ水溶液またはコロイド状液体を用いることができる。
【0030】
触媒活性化工程は、触媒付与工程において被めっき物表面に付与した貴金属、貴金属を含む合金または貴金属イオンを活性化するために行う。すなわち、めっき反応の触媒としての機能を発現させる工程である。触媒活性化工程において用いる材料は、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液が好ましい。また、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素塩、グリオキシル酸、還元糖などの還元剤を含んだ酸性水溶液またはアルカリ性水溶液を用いることができる。
【0031】
次に、本発明の無電解銅めっき液を、補充しながら連続して使用するための管理方法についての好適な実施形態について説明する。
本発明の無電解銅めっき液を継続して使用するためには、反応により減少した銅イオンおよび還元剤を補充することが必要となる。めっき反応および副反応による銅イオン濃度および還元剤濃度の減少率は異なるために、それぞれ補充する量は異なる。従って、補充する際は、めっき反応が起こる組成になるように銅イオン源、および還元剤を個別に補充する必要性がある。また、めっき反応および副反応によりめっき液のpHが変化する場合には、pHの調整を行う必要がある。例えば、ホルムアルデヒドを還元剤に用いた場合、めっき反応に伴いpHが小さくなるため、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのpH調整剤を補充する。
【0032】
補充する前に、めっき液中の銅イオン、還元剤およびpH調整剤の濃度を測定し、補充量を決定する必要がある。これらの濃度を測定する方法は、めっき液に用いられる成分に応じて、適宜決定される。
【0033】
銅イオン、還元剤およびpH調整剤の補充は、それぞれ別々の水溶液で補充することが好ましい。また、補充に伴うめっき液の容量変化を小さくするために、補充液は比較的高い濃度の水溶液であることが好ましい。
【0034】
銅イオンを補充するための補充液中の銅塩は、2価の銅イオンを含むものであれば良く、例えば、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、臭化銅、酸化銅、水酸化銅、ピロリン酸銅などが挙げられるが、これらに限定しない。補充液中の銅塩の濃度は50〜1000mMの範囲であることが好ましい。補充液中の銅塩の濃度が50mM未満であると、補充に伴いめっき液の容量が大きく増加するため好ましくない。
【0035】
還元剤を補充するための補充液中の還元剤は、本発明に用いた無電解銅めっき液に用いた還元剤と同じ物質であり、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、水素化ホウ素塩、グリオキシル酸、還元糖などが挙げられる。補充液中の還元剤の濃度は50〜10000mMの範囲であることが好ましい。補充液中の還元剤の濃度が50mM未満であると、補充に伴いめっき液の容量が大きく増加するため好ましくない。
【0036】
pH調整剤を補充するための補充液中のpH調整剤は、通常、本発明に用いた無電解銅めっき液に用いたpH調整剤と同じ物質であり、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、塩酸、硝酸、硫酸などの酸性溶液などが挙げられる。補充液中のpH調整剤の濃度は100〜10000mMの範囲であることが好ましい。補充液中のpH調整剤の濃度が100mM未満であると、補充に伴いめっき液の容量が大きく増加するため好ましくない。
【0037】
めっき液に銅イオン、還元剤およびpH調整剤を補充する際に、めっき槽中に局所的に濃度差が生じることがある。局所的な濃度差を生じると、めっき液が不安定になり、めっきができなくなることある。これを防止するため、補充の際には撹拌子や撹拌棒を用いて、あるいは空気等を吹き込むことによって十分に撹拌することが好ましい。
【0038】
また、めっき液に銅イオンをより安定に補充する際には、銅イオンと錯化剤との錯体を形成した水溶液を補充することが好ましい。上記錯化剤は、本発明の無電解銅めっき液で用いた第一錯化剤であるモノアミン型生分解性キレート剤であることが好ましい。補充液中の錯化剤の濃度は、補充液中の銅塩の濃度に対して0.5〜2モル倍であることが好ましく、0.8〜1.2モル倍であることがより好ましい。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1〜6)
1Lのビーカーに、表1に示した組成で無電解銅めっき液を建浴した。ここで、銅塩には硫酸銅五水和物を、還元剤にはホルムアルデヒド(37%ホルマリン)を用いた。第一錯化剤(モノアミン型生分解性キレート剤)として、L−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩である「キレストCMG−40」(キレスト株式会社製、商品名)を、第二錯化剤(ジアミン型生分解性キレート剤)として、(S,S)−エチレンジアミンジコハク酸三ナトリウム塩である「キレストEDDS−35」(キレスト株式会社製、商品名)を用いた。全てのめっき液のpH調整剤には水酸化ナトリウムを用い、pHを12.4とした。また、全てのめっき液に、添加剤として、フェロシアン化カリウムを3.0mg/L、2,2’−ビピリジルを30mg/L、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量2000)を2.0g/L添加した。さらに、擬似的に連続運転をしためっき液とするため、全てのめっき液に、副生成物としてギ酸ナトリウムを1000mM、硫酸ナトリウムを500mM添加した。
【0040】
【表1】

【0041】
被めっき物として、エポキシ系の両面銅張積層板である「MCL−E−679」(日立化成工業株式会社製、商品名、厚さ0.2mm)の銅箔を全面エッチング除去したエポキシ系樹脂基板を使用した。ここで、被めっき物の表面積を0.01mとした。
【0042】
上記被めっき物に無電解銅めっきを行う前に、以下の工程に示す前処理を行った。
被めっき物をクリーナーコンディショナである「CLC−601」(日立化成工業株式会社製、商品名)に60℃で5分間浸漬し、被めっき物の洗浄およびコンディショニングを行った。次に、室温(20〜25℃)で2分間水洗した。
【0043】
次に、得られた被めっき物を、パラジウム−錫触媒の前処理液である「PD−301」(日立化成工業株式会社製、商品名)に25℃で2分間浸漬した。次に、得られた被めっき物をパラジウム−錫触媒液である「HS−202B」(日立化成工業株式会社製、商品名)に25℃で5分間浸漬した。次に、得られた被めっき物を室温(20〜25℃)で2分間水洗した。
【0044】
次に、得られた被めっき物を、酸性の処理液である「ADP−601」(日立化成工業株式会社製、商品名)に25℃で5分間浸漬した。このようにして無電解銅めっきのためのパラジウム触媒を被めっき物表面に析出させた。次に、得られた被めっき物を室温(20〜25℃)で2分間水洗した。以上に示しためっき前処理を行った。
【0045】
次に、得られた被めっき物を、表1に示した組成の無電解銅めっき液に1時間浸漬した。このとき、めっき液の温度は70℃とし、めっき液にエアレーションパイプを通して、空気の流量が15mL/(分・L)で連続的に発生させて通気を行った。次に、得られた被めっき物を室温(20〜25℃)で2分間水洗した。以上に示したように、被めっき物に無電解銅めっきを行った。
【0046】
被めっき物に析出した銅めっき皮膜から、めっき析出速度を求めた。また、めっきを行った無電解銅めっきを室温(20〜25℃)まで冷却し、24時間放置した。その後、めっき液の状態を目視で観測した。沈殿物やめっきふり等が認められない状態を安定(○)とし、沈殿物やめっきふり等が認められた状態を不安定(×)とした。それらの結果を表2に示した。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示したように、いずれのめっき液も析出速度が2.0μm/h以上であり、且つめっき液は安定であった。
【0049】
(比較例1〜5)
1Lのビーカーに、表3に示した組成で無電解銅めっき液を建浴した。ここで、銅塩には硫酸銅五水和物を、還元剤にはホルムアルデヒド(37%ホルマリン)を用いた。また、pH調整剤および添加剤は実施例1〜6と同じ成分を用い、pHは12.4とした。さらに、実施例1〜6と同様に、副生成物としてギ酸ナトリウムを1000mM、硫酸ナトリウムを500mM添加した。
【0050】
【表3】

【0051】
実施例1〜6と同様の条件でめっき前処理を行い、表3に示した組成の無電解銅めっき液に1時間浸漬した。このとき、めっき液の温度は70℃とし、めっき液にエアレーションパイプを通して、空気の流量が15mL/(分・L)で連続的に発生させて通気を行った。次に、得られた被めっき物を室温(20〜25℃)で2分間水洗した。以上に示したように、被めっき物に無電解銅めっきを行った。
【0052】
被めっき物に析出した銅めっき皮膜から、めっき析出速度を求めた。また、めっきを行った無電解銅めっきを室温(20〜25℃)まで冷却し、24時間放置した。その後、めっき液の状態を目視で観測した。沈殿物やめっきふり等が認められない状態を安定(○)とし、沈殿物やめっきふり等が認められた状態を不安定(×)とした。それらの結果を表4に示した。
【0053】
【表4】

【0054】
表4に示したように、比較例1〜3では、めっき析出速度が大きくなったが、めっき液が不安定となり、めっき液中に銅を含有した沈殿物が観測された。また、第一錯化剤であるL−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩の濃度を増加させてもめっき液は安定にならなかった。また、比較例4および5では、めっき液は安定であったが、第二錯化剤である(S,S)−エチレンジアミンジコハク酸三ナトリウム塩の増加に伴って析出速度が小さくなった。
【0055】
以上説明したとおり、本発明では、二種以上のキレート剤を最適な条件で用いることにより、長期にわたって連続して使用しても安定しためっき液安定性、および優れた析出速度を有するめっき液およびその管理方法を提供することができる。また、難分解性であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびその塩や、無機シアン化物を使用しないことから、めっき液の廃棄が比較的簡便な無電解銅めっき液を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオン、銅イオンの錯化剤、還元剤及びpH調整剤を含む無電解銅めっき液において、第一錯化剤として、モノアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種を含有し、第二錯化剤として、ジアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種を含有し、且つ、めっき液中の銅イオン濃度に対して前記第一錯化剤の濃度が1〜30倍モルであり、該銅イオン濃度に対して前記第二錯化剤の濃度が2倍モル未満であることを特徴とする無電解銅めっき液。
【請求項2】
モノアミン型生分解性キレート剤が、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびイミノ二酢酸を基本骨格とした第3級アミンを有する生分解性キレート剤であることを特徴とする請求項1記載の無電解銅めっき液。
【請求項3】
ジアミン型生分解性キレート剤が、コハク酸、グルタル酸を基本骨格とした第2級アミンを有する生分解性キレート剤であることを特徴とする請求項1または2記載の無電解銅めっき液。
【請求項4】
銅イオン、銅イオンの錯化剤、還元剤及びpH調整剤を含む無電解銅めっき液の管理方法において、(1)第一錯化剤が、モノアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種であり、めっき液中の銅イオン濃度に対して前記第一錯化剤の濃度を1〜30倍モルになるように調整し、(2)第二錯化剤が、ジアミン型生分解性キレート剤およびそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩から選ばれた少なくとも一種であり、該銅イオン濃度に対して前記第二錯化剤の濃度を2倍モル未満になるように調整することを特徴とする無電解銅めっき液の管理方法。

【公開番号】特開2010−65268(P2010−65268A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232084(P2008−232084)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】