説明

無電解銅めっき液及び無電解銅めっき方法

【課題】本件発明の課題は、新規還元剤を用いたホルムアルデヒドフリーの無電解銅めっき液、及び、無電解銅めっき方法を提供することにある。
【解決手段】上記課題を解決するため、無電解銅めっき液は銅塩と還元剤とを含む無電解銅めっき液において、前記還元剤として亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を用いる。また、上記課題を解決するため、無電解銅めっき方法では、当該無電解銅めっき液に被めっき物を浸漬し、被めっき物の表面に銅を析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、被めっき物の表面に無電解で銅を析出させる際に用いる無電解銅めっき液及び無電解銅めっき方法に関し、特に、還元剤としてホルムアルデヒドを用いないホルムアルデヒドフリーの無電解銅めっき液及び無電解銅めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解銅めっきはプリント配線板のスルーホールめっきやプラスチックに対する下地めっき等に広く利用されている。無電解銅めっき液では、古くから還元剤として、ホルムアルデヒドが広く用いられてきた。しかしながら、ホルムアルデヒドは、臭気が強く人体及び環境に対する悪影響があることから、各種法規制の対象物質となっている。このため、近年では、次亜リン酸ナトリウム(例えば、「特許文献1」、「特許文献2」参照。)、グリオキシル酸(例えば、「特許文献3」参照。)等を還元剤として用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−60662号公報
【特許文献2】特開平10−237664号公報
【特許文献3】特許第3276919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、工業的には、依然としてホルムアルデヒドが無電解銅めっき液の還元剤として一般的に使用されており、工業的に使用が可能な新規還元剤が求められている。本件発明の課題は、新規還元剤を用いたホルムアルデヒドフリーの無電解銅めっき液、及び、無電解銅めっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本件発明に係る無電解銅めっき液は銅塩と還元剤とを含む無電解銅めっき液において、前記還元剤として、亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を用いたことを特徴とする。
【0006】
本件発明において、当該無電解銅めっき液は錯化剤を含むものであることが好ましい。
【0007】
本件発明において、前記錯化剤として、オキシカルボン酸、アミノカルボン酸及びこれらの塩から選ばれる一種又は二種以上を用いることが好ましい。
【0008】
本件発明に係る無電解銅めっき方法は、銅塩と還元剤とを含む無電解銅めっき液に被めっき物を浸漬し、被めっき物の表面に銅を析出させる無電解銅めっき方法において、前記還元剤として亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本件発明によれば、無電解銅めっき液の還元剤として、ホルムアルデヒドに比して人体及び環境に対する負荷の少ない亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を用いることにより、被めっき物の表面に銅を析出させることができる。従って、亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を無電解銅めっき液の還元剤として用いることにより、ホルムアルデヒドを用いる場合に比して、作業環境の改善及び環境負荷の低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る無電解銅めっき液及び無電解銅めっき方法の実施の形態を説明する。
【0011】
〈無電解銅めっき液〉
本件発明に係る無電解銅めっき液は、銅塩と還元剤とを含むものであり、還元剤として、亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を用いたことを特徴とする。また、本件発明に係る無電解銅めっきは、還元剤として亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を用いたことを除いては、公知の無電解銅めっき液と同様の組成とすることができる。具体的には、本件発明に係る無電解銅めっき液は、銅塩及び還元剤に加えて、錯化剤、pH調整剤、緩衝剤等の各種の成分を含む構成とすることができる。以下、各成分毎に説明する。
【0012】
銅塩: 本件発明において、無電解銅めっき液に含まれる銅塩は特に限定されるものではなく、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅等の無機銅塩、酢酸銅、酒石酸銅、エチレンジアミン四酢酸銅等の有機銅塩等、従来より無電解銅めっき液の銅イオン供給源として用いられてきた各種銅塩を採用することができる。
【0013】
本件発明において、無電解銅めっき液中の銅塩濃度は、液の具体的な組成によって異なるため、特に限定されるものではないが、0.001mol/L〜0.3mol/L程度の範囲内とすることが好ましい。銅塩濃度が低すぎる場合には、無電解銅めっき被膜の析出速度が遅く、工業的生産に見合わないため好ましくない。一方、銅塩濃度が1mol/Lを超える場合は、無電解銅めっき液の粘度が高くなり、銅が不均一に析出する場合があるため好ましくない。
【0014】
還元剤: 還元剤として、本件発明では、亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩のうち、一種又は二種以上を用いることを特徴とする。ここで、亜ジチオン酸誘導体として、例えば、亜ジチオン酸ビス(1−メチル−3−シアノ−1,4−ジヒドロピリジン−4−イル)、亜ジチオン酸ビス(1−メチル−3−カルバモイル−1,4−ジヒドロピリジン−4−イル)を挙げることができる。また、亜ジチオン酸塩として、例えば、亜ジチオン酸ナトリウム(次亜硫酸ナトリウム)、亜ジチオン酸カルシウム、亜ジチオン酸亜鉛等を挙げることができる。亜ジチオン酸誘導体塩として、亜ジチオン酸ビス[1−(2,6−ジクロロベンジル)−3−カルバモイルー4−メチル−1,4−ジヒドロピリジン−4−イル等を挙げることができる。但し、亜ジチオン酸誘導体、亜ジチオン酸又は亜ジチオン酸誘導体の塩は上記列挙した物質に限定されるものではない。
【0015】
亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩は還元力の強い物質であるため、無電解銅めっき液に含まれる銅イオンを効率的に還元し、工業的生産効率に見合う析出速度で無電解銅めっき被膜を製造することが期待できる。但し、本件発明において、亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩は、下記式(1)に示すように、無電解銅めっき液中の二価銅イオンを還元して、一価銅イオンを生成する作用を示す。そして、下記式(2)に示すように、一価銅イオンの不均化反応により、当該無電解銅めっき液中に銅が析出する。
【0016】
【化1】

【0017】
本件発明において、無電解銅めっき液中の還元剤濃度(mol/L)は、無電解銅めっき液中の銅塩濃度に応じて、銅の析出速度等を考慮して、適切な濃度となるように調整されることが好ましい。具体的には、当該無電解銅めっき液中の還元剤濃度は、無電解銅めっき液中の二価銅イオン濃度(mol/L)を基準にしたときに、下記式(3)の関係を満たすように調整されることが好ましい。
【0018】
【数1】

【0019】
すなわち、無電解銅めっき液中の二価銅イオン濃度を「2」としたときに、還元剤濃度は「0.2〜1.5」の範囲内であることが好ましい。上記二価銅イオン濃度を「2」としたときの還元剤濃度が「0.2」未満である場合、二価銅イオンの還元速度が遅くなり、工業的生産に見合う銅の析出速度を得ることができないため好ましくない。還元剤濃度が「1」に達するまでは、当該還元剤濃度が高くなる程、析出速度が直線的に増加する傾向にある。当該観点から、還元剤濃度は「0.4」以上であることがより好ましい。一方、当該還元剤濃度が「1.5」を超える場合、錯化剤の種類や浴pH等によっては、当該無電解銅めっき液の分解が顕著となるため好ましくない。当該無電解銅めっき液の分解を抑制するという観点から、当該還元剤濃度は「1.2」以下であることがより好ましく、「1.0」以下であることが更に好ましい。ここで、化学量論的には、二価銅イオン濃度を「2」としたとき、還元剤濃度は「1」であることが最も好ましく、銅の析出速度も最も早くなる。従って、これらの観点から、無電解銅めっき液中の二価銅イオン濃度を「2」としたときに、還元剤濃度は「1」であることが最も好ましい。なお、無電解銅めっき液中の具体的な還元剤濃度は、0.001mol/L〜1mol/L程度の範囲内で、銅塩濃度に応じて、適宜、調整することが好ましく、0.002mol/L〜0.5mol/L程度の範囲内で調整することがより好ましい。
【0020】
錯化剤: 錯化剤は、無電解銅めっき液中での銅化合物の沈殿を防止し、銅の析出反応を適度な速度とするために用いられる成分である。本件発明では、一般に無電解銅めっき液に添加される錯化剤であれば、特に限定することなく用いることができる。しかしながら、還元剤として上記亜ジチオン酸等を用いたときに、銅の析出が良好であるという観点から、オキシカルボン酸、アミノカルボン酸及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を錯化剤として用いることが好ましい。
【0021】
オキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、L−酒石酸等を挙げることができる。
【0022】
また、アミノカルボン酸としては、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸、メチルグリシン二酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、(S,S)−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸四酢酸、エチレンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノ−2−プロパノール−N,N,N’,N’−四酢酸、L−アスパラギン酸−N,N−二酢酸、イミノジコハク酸、L−グルタミン酸二酢酸、イミノ二酢酸等を挙げることができる。また、これらの誘導体についても、銅イオンとの錯体形成能を有する限り適宜用いることができ、例えば、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸等を用いてもよい。
【0023】
また、アミノカルボン酸又はオキシカルボン酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を適宜用いることができ、複合塩であってもよく、特に限定されるものではない。またこれらの水和物であってもよい。
【0024】
亜ジチオン酸又は亜ジチオン酸誘導体、あるいはこれらの塩を還元剤として用いた場合に、上記列挙したオキシカルボン酸、アミノカルボン酸の各化合物はいずれも銅の析出が良好であるため好ましいが、オキシカルボン酸とアミノカルボン酸とを比較した場合、アミノカルボン酸を錯化剤として用いた方が銅の析出速度が速い傾向にあるため、アミノカルボン酸を用いることがより好ましい。特に、銅の析出速度が速いという観点から、アミノカルボン酸の中でも、特に、ジエチレントリアミン五酢酸、メチルグリシン二酢酸3ナトリウム、ヒドロキシエチレンジアミン四酢酸等を用いることが好ましい。
【0025】
また、上記列挙したアミノカルボン酸の中には生分解性を有する化合物と、生分解性を有していない化合物とが含まれる。環境への影響及び排水処理の容易さを考慮した場合、アミノカルボン酸の中でも生分解性を有する化合物を錯化剤として用いることが好ましい。具体的には、上記列挙した化合物のうち、イミノ二酢酸、L−アスパラギン酸−N,N−二酢酸、イミノジコハク酸、L−グルタミン酸二酢酸、(S,S)−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸四酢酸、メチルグリシン二酢酸は生分解性を有し、これらのうち(塩を含む)いずれか一種又は二種以上を用いることが更に好ましい。このような生分解性錯化剤を用いることにより、本件発明に係る無電解銅めっき液をホルムアルデヒドフリーとするだけではなく、環境への負荷がより少なく、排水処理のより容易な無電解銅めっき液とすることができる。
【0026】
これら錯化剤の濃度は、当該無電解銅めっき液の具体的な組成に応じて、適宜、調整することが好ましい。具体的には、0.001mol/L〜2mol/Lの範囲内で、当該無電解銅めっき液を調製したときの銅塩濃度(mol/L)に対して、1倍〜4倍の濃度(mol/L)にすることが好ましい。錯化剤の濃度が低く過ぎる場合、銅化合物の沈殿が生じやすくなり、更に、酸化還元反応が速くなりすぎ、当該無電解銅めっき液の分解が生じやすくなるため好ましくない。一方、錯化剤の濃度が高過ぎる場合、銅の析出速度が非常に遅くなり、また、当該無電解銅めっき液の粘度も高くなり、析出が不均一になる場合があり好ましくない。
【0027】
pH調整剤: pH調整剤は浴pHを適当な値に調整するための成分である。本件発明では、無電解銅めっき液において従来使用されているpH調整剤を無機物、有機物問わず、必要に応じて適宜使用することができる。
【0028】
緩衝剤: 緩衝剤は、銅の析出反応に伴う浴pHの変動を防ぐために用いる成分である。本件発明では、無電解銅めっき液において従来使用されているクエン酸ナトリウム、ホウ酸、炭酸など、従来公知のものを必要に応じて適宜使用することができる。
【0029】
その他、促進剤、光沢剤、安定剤等、公知の無電解銅めっき液で使用されている種々の添加剤成分を必要に応じて、適宜、適切な濃度で含むことができる。
【0030】
〈無電解銅めっき方法〉
本件発明に係る無電解銅めっき方法は、銅塩と還元剤とを含む無電解銅めっき液に被めっき物を浸漬し、被めっき物の表面に銅を析出させる無電解銅めっき方法において、還元剤として亜ジチオン酸、亜ジチオン酸塩及びこれらの誘導体のうちいずれか一種又は二種以上を用いることを特徴とする。
【0031】
無電解銅めっき液: 本件発明では、無電解銅めっき液として、上述した本件発明に係る無電解銅めっき液を採用することができる。当該無電解銅めっき液の組成については上述したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0032】
pH: 本件発明において、上記無電解銅めっき液のpHは、中性領域〜弱アルカリ性領域とすることが好ましく、具体的にはpH7以上pH12.5未満であることが好ましく、pH8以上pH11以下であることがより好ましい。従来公知の無電解銅めっき液は、強アルカリ性で用いることが多く、被めっき物を無電解銅めっき液に浸漬した場合、被めっき物の劣化を引き起こし易いという問題があった。このため、無電解銅めっきに供することができる被めっき物の材質が限定されていた。これに対して、本件発明に係る無電解銅めっき方法では、中性領域〜弱アルカリ性領域のpHに調整した無電解銅めっき液に被めっき物を浸漬するため、従来に比して、幅広い材質のものに対して、無電解銅めっき被膜を形成することができる。また、排水処理も容易になる。
【0033】
温度: 本件発明において、銅の析出反応を行う際の浴温は20℃〜70℃とすることが好ましい。無電解銅めっき液の具体的な液の組成によっても異なるが、浴温が20℃未満である場合、銅の析出反応が緩慢になって無電解銅めっき被膜の未析出や外観不良が生じる。一方、浴温が70℃を超える場合は、当該無電解銅めっき液の蒸発が激しく、めっき液組成を所定の範囲に維持することが困難になるため好ましくない。これと同時に、無電解銅めっき液の分解が生じやすくなるため好ましくない。
【0034】
被めっき物: 本件発明において、被めっき物に関する限定は特にはない。通常の無電解銅めっきの対象物と同様のものを被めっき物とすることができる。プラスチックなどの触媒活性のない被めっき物については、常法に従って、表面粗化、キャタリスト、アクセレータ等の前処理を施せばよい。また、上述したように、本件発明では、浴pHが通常の無電解銅めっき液と比べると、低いため、従来の無電解銅めっきでは採用できなかった材質のものについても被めっき物とすることができる。具体的には、従来、浴pHが高すぎて無電解銅めっきに供することができなかったポリイミド、DFR(ドライフィルムレジスト)付基板、ガラス上のITO等についても、本件発明に係る無電解銅めっき液を用いれば、当該被めっき物の表面に無電解銅めっき被膜を形成することが可能になり、無電解銅めっきの工業用途を拡大することができる。
【0035】
以上説明した本実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下では実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は以下の実施例に限定されるものではないのは勿論である。
【実施例1】
【0036】
実施例1では、以下の組成を有する無電解銅めっき液を調製した。なお、錯化剤として、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物(EDTA・4Na4HO)及びクエン酸三ナトリウム二水和物(クエン酸・3Na2HO)を併せて用いた。また、アンモニア水を適宜添加して、浴pHを8.0に調整したもの(以下、pH8.0浴という)と、浴pHを11.0に調整したもの(以下、pH11.0浴という)とを作製した。
【0037】
硫酸銅・5HO :0.06M(mol/L)
EDTA・4Na4HO :0.06M
クエン酸・3Na2HO :0.05M
亜ジチオン酸ナトリウム :0.04M
【0038】
そして、40℃にした上記無電解銅めっき液中に被めっき物をそれぞれ20分間浸漬して、無電解銅めっき被膜の析出速度を求めると共に、浴の安定性を観察した。
【0039】
その結果、pH8.0浴では、無電解銅めっき被膜の析出速度は0.28μm/20分であったの対して、pH11.0浴では、被めっき物の表面に銅が僅かに析出することが観察されたものの、工業的に十分な析出速度には満たなかった。一方、pH8.0浴は浴安定性が低く、その後無電解銅めっき液は分解したが、pH11.0浴は浴安定性が高く無電解銅めっき液の分解は生じなかった。
【実施例2】
【0040】
次に、実施例2では、硫酸銅(II)五水和物0.03mol/L、亜ジチオン酸ナトリウム0.02mol/Lを含む無電解銅めっき液に、それぞれ表1に示す錯化剤を0.06mol/Lで添加して、錯化剤の種類が異なる11種類の無電解銅めっき液を調製し、各無電解銅めっき液のpHをアンモニア水により9.0に調整した。そして、45℃にした各無電解銅めっき液に、実施例1と同様の被めっき物を20分間浸漬し、めっき析出の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、いずれの錯化剤を用いた場合にも被めっき物の表面に銅の析出が確認された。被めっき物の表面に対する銅の析出速度は錯化剤の種類によって異なり、アミノカルボン酸に分類される物質は、オキシカルボン酸に分類される物質と比較すると銅の析出速度が速い傾向にあることが確認された。アミノカルボン酸の中でも、特に、メチルグリシン二酢酸三ナトリウムは、他の物質と比較すると析出速度が速い傾向にあることが確認された。なお、オキシカルボン酸に分類されるクエン酸三ナトリウム四水和物、L−酒石酸ナトリウム−カリウムは、浴の安定性が良いという点においては好ましいことが確認された。
【実施例3】
【0043】
次に、実施例3では、硫酸銅(II)五水和物0.03mol/L、亜ジチオン酸ナトリウム0.015mol/Lを含む無電解銅めっき液に、アミノカルボン酸に分類される種々の錯化剤を0.06mol/Lで添加して、錯化剤の種類が異なる複数種類の無電解銅めっき液を調製し、各無電解銅めっき液のpHをアンモニア水により8.0〜11.0の範囲内で調整した。そして、45℃にした各無電解銅めっき液に、実施例1と同様の被めっき物を20分間浸漬し、めっき析出の有無を確認すると共に、めっきの析出速度を求めた。検討を行った種々の錯化剤のうち、析出速度が良好であったものを表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示す錯化剤を用いた場合、いずれも工業的生産効率に見合った析出速度で銅を析出させることができることが確認された。また、実施例3では、無電解銅めっき液中の銅塩濃度を「2」としたときに、亜ジチオン酸ナトリウム濃度を「1」とすることにより、実施例2で調製した無電解銅めっき液を用いた場合よりも、早く銅を析出させることが可能であることが確認された。特に、検討を行った錯化剤のうち、ジエチレントリアミン五酢酸、メチルグリシン二酢酸三ナトリウム、ヒドロキシエチレンジアミン四酢酸等は、他の物質と比較すると析出速度が速く、当該無電解銅めっき液の錯化剤として好ましいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本件発明によれば、無電解銅めっき液の還元剤として、ホルムアルデヒドに比して、人体及び環境に対する負荷の少ない亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を用いることにより、被めっき物の表面に銅を析出させることができる。従って、作業環境の改善及び環境負荷の低減を図ることができる。また、本件発明によれば、中性領域〜弱アルカリ性領域のpHに調整した無電解銅めっき液に被めっき物を浸漬するため、従来に比して、幅広い材質のものに対して、無電解銅めっき被膜を形成することができる。また、排水処理も容易になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅塩と還元剤とを含む無電解銅めっき液において、
前記還元剤として、亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を用いたことを特徴とする無電解銅めっき液。
【請求項2】
当該無電解銅めっき液は錯化剤を含むものである請求項1に記載の無電解銅めっき液。
【請求項3】
前記錯化剤として、オキシカルボン酸、アミノカルボン酸及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を用いる請求項2に記載の無電解銅めっき液。
【請求項4】
銅塩と還元剤とを含む無電解銅めっき液に被めっき物を浸漬し、被めっき物の表面に銅を析出させる無電解銅めっき方法において、
前記還元剤として亜ジチオン酸、亜ジチオン酸誘導体及びこれらの塩のうちいずれか一種又は二種以上を用いることを特徴とする無電解銅めっき方法。