焦電または圧電変換器を備えた光化学感知装置
本発明は、電磁線の照射で物質(2)に起きる非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための装置(1)に関する。該装置(1)は、一連の電磁線パルスを生じるように適合された線源(6)、物質(2)により生じたエネルギーを電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極(4、5)を有した変換器(3)、および変換器(3)により生じた電気シグナルを検出可能な検出器(7)を含んでなる。該検出器(7)は、線源(6)からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定するように適合されている。装置(1)は、アッセイおよびモニタリングの分野で、広い用途を有している。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、化学感知装置、特に変換器を用いた化学感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中における被検体、例えばバイオアッセイで生物学的に重要な化合物のモニタリングは、広い用途を有している。したがって、様々な分析および診断装置が利用されている。多くの装置は、検出すべき種の存在下で、目に見える変色を生じる試薬を用いている。試薬は多くの場合で試験片に付着され、変色の測定に役立つ光学機器が用意されることもある。
【0003】
WO90/13017は、細片形をした焦電または他の熱電気変換素子について開示している。薄膜電極が用意され、1種以上の試薬が変換器の表面上に付着されている。検出すべき種と試薬が接触するようになると、それは選択的比色変化を生じる。次いで、装置が典型的には検出器へ挿入され、そこで変換器がLED光源で通常下から照射され、試薬による光吸収が変換器表面で微小発熱として検出される。変換器からの電気シグナル出力が、検出すべき種の濃度を算出するように処理される。
【0004】
WO90/13017の系は、試薬との反応または結合で、試薬に変色を生じさせる種の分析を行う。例えば、試薬には、pHおよび重金属指示色素、パラセタモールアッセイでアミノフェノールを検出するための試薬(例えば、銅アンモニア溶液中o‐クレゾール)、および酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)でオキシドレダクターゼ酵素を検出するためのテトラゾリウム色素がある。しかしながら、この系はある用途には有用であるが、変換器の表面に置かれているのは試薬であるため、これは分析すべき種が試薬で変色を生じる分析のみに適していると考えられてきた。したがって、この系は、試薬で変色を生じない種の分析、または変色が変換器の表面上で生じない場合には適用しえないのである。バイオアッセイの分野では、このことが該系の用途を限定している。
【発明の具体的説明】
【0005】
したがって、本発明は、一連の電磁線パルスを生じるように適合された線源と、物質により生じたエネルギーを電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器と、変換器により生じた電気シグナルを検出可能な検出器とを備えてなり、該検出器が線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定するように適合されている、電磁線の照射で物質の非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための装置を提供する。
【0006】
本発明は、ここでは“光”と称されている電磁線の照射で物質の非放射性崩壊により生じるエネルギー、典型的には熱が、該物質が変換器と接触していない場合でも、変換器により検出されうること、更には、電磁線の照射と変換器により生じる電気シグナルとの時間遅れが、膜の表面からの該物質の距離の関数であること、という本発明者による発見に基づいている。この発見は、アッセイおよびモニタリングの分野で広い用途を有している。
【0007】
本発明は、一連の電磁線パルスで物質を照射してエネルギーを生じさせ、エネルギーの変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器を用いて、エネルギーの変化を電気シグナルへ変換させ、変換器により生じた電気シグナルを検出し、線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定する工程を含んでなる、電磁線の照射で物質の非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための方法も提供する。
【0008】
図1は、電磁線での物質2の照射に際する物質2の発熱に依存した、本発明による化学感知装置1を示している。図1は、物質2の存在下で化学感知装置1を示している。装置1は、電極コーティング4、5を有した焦電または圧電変換器3を含んでなる。変換器3は、好ましくは分極ポリフッ化ビニリデン膜である。電極コーティング4、5は、好ましくは、約35nmの厚さを有した酸化インジウムスズから形成されるが、導電率が低くなりすぎる1nmの下限から、光透過性が低くなりすぎる100nmの上限まで(それは95%T未満にはすべきでない)、ほぼいかなる厚さでも可能である。物質2はいずれか適切な技術を用いて圧電変換器3の近くに置かれ、ここでは上部電極コーティング4に付着して示されている。物質はいかなる適切な形でもよく、複数の物質が置ける。好ましくは、物質2は上部電極に吸着され、例えばイオン結合、水素結合またはファンデルワールス力のような分子間力でカップリングまたは結合されている。本発明の重要な特質は、光、好ましくは可視光のような電磁線源6で照射されたときに、物質2が発熱することである。光源は、例えばLEDである。光源6は適切な波長の光(例えば、補色)で物質2を照射する。理論に拘束されるつもりはないが、物質2が光を吸収して励起状態となり、次いで非放射性崩壊を生じて、図1の曲線で示されたエネルギーを発生する、と考えられている。このエネルギーは主に熱(即ち、環境中で熱運動)の形をとるが、他の形のエネルギー、例えば衝撃波も発生させてよい。しかしながら、エネルギーは変換器で検出され、電気シグナルへ変換される。本発明の装置は測定すべき具体的物質に合わせて変更されるため、非放射性崩壊で生じたエネルギーの正確な形は定める必要がないのである。別記されない限り、“熱”という用語は非放射性崩壊で生じたエネルギーを意味するためにここでは用いられている。光源6は、物質2を照射するように設置される。好ましくは、光源6は変換器3および電極4、5の下に置かれ、物質2は変換器3および電極4、5を通して照射される。光源は変換器内の内部光源でもよく、その場合に光源は誘導波系である。導波管が変換器自体でもよく、または導波管は変換器へ付着された別の層でもよい。
【0009】
物質2で生じたエネルギーは変換器3で検出され、電気シグナルに変換される。電気シグナルは検出器7で検出される。光源6および検出器7は双方とも制御器8の制御下に置かれている。光源6は、“断続光”と称される一連の光パルス(特定波長に言及されていない限り、ここで用いられている“光”という用語は、あらゆる形の電磁線を意味する)を発生する。原則上、変換器3からシグナルを発生させるには、1フラッシュの光、即ち1パルスの電磁線で十分である。しかしながら、再現性あるシグナルを得るためには、複数回の光フラッシュが用いられ、実際上それには断続光を要する。電磁線のパルスが適用される周波数は様々である。下限として、各パルス間の時間遅れは、各パルスと測定すべき電気シグナルの発生との時間遅れにとり十分でなければならない。上限として、各パルス間の時間遅れは、データの記録に要する時間が過度に延びるほど大きくてはならない。好ましくは、パルスの周波数は2〜50Hz、更に好ましくは5〜15Hz、最も好ましくは10Hzである。これは、パルス間で各々20〜500ms、66〜200msおよび100msの時間遅れに相当する。加えて、いわゆる“マーク‐スペース”(mark-space)比、即ちオン・シグナル対オフ・シグナルの比率は好ましくは1であるが、他の比率でも有害作用なしに用いうる。異なる断続周波数または異なるマーク‐スペース比で断続光を発生する電磁線源は、当業界で公知である。検出器7は、光源6からの各光パルス間の時間遅れ(または“相関遅れ”)と、変換器3から出て検出器7で検出された対応電気シグナルとを測定する。本発明者は、この時間遅れが距離dの関数であることを発見した。
【0010】
各光パルス間の時間遅れと、再現性ある結果をもたらす対応電気シグナルとを測定する上で、いかなる方法も用いうる。好ましくは、各光パルスの開始から、熱の吸収に対応した電気シグナルの最大が検出器7により検出される時点まで、時間遅れが測定される。
【0011】
熱が周辺の媒体へ分散され、そのため変換器3で検出されないか、または少なくとも有意のシグナルが変換器で受け取られない、と専門家は予想していたため、物質2が変換器表面から離されていても、シグナルがなお検出されうる、という発見は意外である。変換器3へエネルギーを伝えうる中間媒体を介してシグナルが検出されるのみならず、異なる距離dが区別され(これは“デプスプロファイリング”(depth profiling)と称されている)、受け取るシグナルの強度が変換器3の表面から一定の距離dのとき物質2の濃度と比例していることを、本発明者は意外にも発見したのである。更に、媒体自体の性質が時間遅れと所定時間遅れのときのシグナルの大きさとに影響を与えることを、本発明者は発見した。これらの発見は、変換器を用いた化学感知装置に、様々な新用途をもたらすことになる。
【0012】
一態様において、本発明は、物質が被検体または被検体の複合体もしくは誘導体であり、装置がサンプル中の被検体を検出するために用いられ、更に装置が変換器の近くに少なくとも1種の試薬を含んでなり、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を試薬が有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体が線源で生じた電磁線を吸収して熱を発生でき、使用時に、発生した熱が変換器で電気シグナルへ変換されて、検出器で検出され、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れが、変換器の表面から異なる距離で1箇所以上に存在する被検体の位置に対応している、上記のような装置を提供する。本発明は、熱の変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器へサンプルを曝し、変換器がその近くに少なくとも1種の試薬を有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を試薬が有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体が線源で生じた電磁線を吸収して熱を発生可能なものであって;一連の電磁線パルスで試薬を照射し、生じた熱を電気シグナルへ変換し;電気シグナルおよび線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを検出する工程を含んでなり、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れが、変換器の表面から異なる距離で1箇所以上に存在する被検体の位置に対応している、サンプル中の被検体を検出するための方法も提供する。このような装置および方法は、例えば、イムノアッセイおよび核酸ベースアッセイで用途を有している。イムノアッセイの好ましい例では、試薬が抗体、被検体が抗原である。
【0013】
典型的イムノアッセイでは、対象の抗原に特異的な抗体がポリ塩化ビニルまたはポリスチレンのシートのようなポリマー担体へ付着される。1滴の細胞抽出物または血清もしくは尿のサンプルが該シートへ置かれ、それが抗体‐抗原複合体の形成後に洗浄される。次いで、抗原上の異なる部位に特異的な抗体が加えられ、シートが再び洗浄される。この第二抗体は、高感度で検出されるように、標識を有している。シートと結合している第二抗体の量は、サンプル中における抗原の量と比例している。このアッセイおよびこのタイプのアッセイで他の別法は周知である;例えば、”The Immunoassay Handbook,2nd Ed.”,David Wild,Ed.,Nature Publishing Group,2001参照。本発明の装置はこれらアッセイのいずれでも用いうる。
【0014】
例として、図2は本発明の装置を用いた典型的な捕捉抗体アッセイを示している。装置は、変換器3と、被検体11を溶解または懸濁させた液体10を入れるためのウェル9とを含んでいる。変換器3は、相当数の試薬、即ち抗体12をそこに付着させている。抗体12は図2で膜に付着して示されており、この付着は該表面への共有結合によるか、または非共有結合吸着、例えば水素結合による。抗体は変換器へ付着して示されているが、変換器3の近くに抗体12を保持させるいかなる技術も適用可能な。例えば、シリコーンポリマー層のような追加層が抗体12と変換器3とを分離したり、または抗体が不活性粒子へ付着されてから、該不活性粒子が変換器3へ付着される。一方、抗体12は、変換器3の表面に被覆されたゲル層内に捕捉させてもよい。
【0015】
使用時、抗原11を含有した液体10(または何らかの流体)でウェルが満たされる。次いで、抗原11が抗体12と結合する。追加標識抗体13が液体に加えられ、いわゆる“サンドイッチ”複合体が結合抗体12、抗原11および標識抗体13間で形成される。結合抗原11のすべてがサンドイッチ複合体を形成するように、過剰の標識抗体13が加えられる。そのため、サンプルは結合標識抗原13aおよび溶液中遊離状態の未結合標識抗原13bを含有している。
【0016】
サンドイッチ複合体の形成に際してまたはその後で、一連の電磁線パルス、例えば光を用いてサンプルが照射される。各パルスと変換器3による電気シグナルの発生との時間遅れが、検出器により検出される。結合標識抗原13aで発生した熱のみを測定するために適した時間遅れが選択される。時間遅れは変換器3からの標識の距離の関数であるため、結合標識抗体13aは未結合標識抗原13bと区別される。これは、洗浄ステップの必要性を解消しているという点で、従来のサンドイッチイムノアッセイにはない大きな利点を呈している。従来のサンドイッチイムノアッセイでは、未結合標識抗原は結合標識抗原で生じたシグナルを妨げることから、測定が行われる前に、未結合標識抗体が結合標識抗体から分離されねばならない。しかしながら、本発明の“デプスプロファイリング”によれば、結合および未結合標識抗原は区別されうるのである。実際に、変換器近くの物質とバルク溶液中の物質とを区別可能な能力が本発明の特別な利点である。
【0017】
標識抗体は、好ましくは色素分子、金粒子、着色ポリマー粒子(例えば、着色ラテックス粒子)、蛍光分子、酵素、赤血球、ヘモグロビン分子、磁気粒子および炭素粒子から選択される標識で標識される。しかしながら、電磁線と相互作用して熱を発生可能ないかなる標識も、許容可能な。磁気粒子の場合、電磁線は高周波線である。上記すべての他の標識では光を用いる。金粒子の場合、銀イオンおよび還元剤の溶液を用いて標識が増強される。金は銀金属への銀イオンの還元を触媒/促進し、光を吸収するのは銀金属である。これらすべての標識が慣用的なものである。
【0018】
標識抗体、または実際には1種以上の追加試薬は、好ましくは本発明の装置へ組み込まれたチャンバー内で貯蔵される。
【0019】
抗体は典型的にはタンパク質、例えばタンパク質ベースホルモンであるが、それより小さな分子、例えば薬物も検出されうる。抗原は大きな粒子、例えばウイルス、細菌、細胞(例えば、赤血球)またはプリオンの一部でもよい。
【0020】
既知イムノアッセイの別な例として、本発明は、検出器で検出される電気シグナルがサンプル中未標識抗原の存在に反比例する、競合アッセイにも適用しうる。この場合、対象となるのはサンプル中未標識抗原の量である。
【0021】
競合イムノアッセイでは、抗体が図2で示されたように変換器へ付着される。次いで、抗原を含有したサンプルが加えられる。しかしながら、標識抗体を加えるのではなく、既知量の標識抗原が溶液へ加えられる。その際に、標識および未標識抗原は変換器3へ付着された抗体と結合する上で競合する。結合標識抗原の濃度は結合未標識抗原の濃度と反比例し、標識抗原の量は既知であるため、初期溶液中における未標識抗原の量が計算される。抗体に関して示されたものと同一の標識が、抗原でも用いうる。
【0022】
本発明の一態様において、検出される被検体は全血のサンプル中に存在してもよい。従来の多くのアッセイでは、溶液または懸濁液中で血液の他成分、例えば赤血球の存在は、対象となる特定被検体の検出を妨げている。しかしながら、本発明の装置では、変換器3から既知の距離にあるシグナルのみが測定されることから、溶液または懸濁液中で遊離している血液の他成分は検出を妨げない。別の分離ステップが不要であるため、これは血液サンプルの分析を簡素化する。血液サンプル中の被検体レベルを測定する装置は、好ましくは、手持ち式ポータブルリーダーと、圧電膜を含有した使い捨て装置を含んでなる。血液の少量サンプル(約10μL)が採取され、使い捨て装置内のチャンバーへ入れられる。チャンバーの片側は、対象の被検体と結合可能な抗体で被覆された圧電膜から作製されている。例えば上記のような標識抗体または既知濃度の標識抗原を含有した、追加の溶液も追加してよい。反応が進行すると、測定プロセスを始動させる使い捨て装置がリーダーへ挿入される。次いで、アッセイの結果がリーダーのディスプレーに示される。次いで、圧電膜を含有した使い捨て装置が取り外されて、廃棄される。
【0023】
可能性のあるバックグラウンド障害源は、焦電または圧電変換器の表面上における懸濁粒子の沈降である。例えば、銀粒子の生成により、一部装置でこれが生じうる。この障害源は、バルク溶液の上、例えば反応室の上側表面に変換器を置くことで避けられる。そのため、何らかの沈降が生じても、それが変換器を妨害することはない。一方、粒子は媒体より低密度にしてもよく、こうすると変換器の表面上での沈降よりもむしろバルク溶液の表面に浮き上がる。これと他の変更も、本発明の範囲内に含まれる。
【0024】
他の態様において、本発明の装置はラテラルフロー分析に付される。これは、妊娠試験でヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)の検出に特別な用途を有している。
【0025】
図3は、本発明による簡素化ラテラルフロー装置14を示している。該装置は、HCGと結合可能な未結合および結合抗体(即ち、濾紙または他の吸収体15と未結合および結合)を各々含有した第一および第二ゾーン18および19と一緒に、サンプルレシーバー16および芯17を含む濾紙または他の吸収体15を有している。該装置は、第二ゾーン19の近くに圧電膜も含有している。尿または血清のサンプルがサンプルレシーバー16に加えられ、次いで吸収体15に沿い芯17へ移動する。第一ゾーン18はHCGに対する標識抗体を含有しており、サンプルが第一ゾーン18を通過するとき、HCGがサンプルに存在しているならば、HCGに対する標識抗体がサンプルにより拾い上げられる。サンプルが第一ゾーン18から第二ゾーン19へ移動すると、抗原と抗体が複合体を形成する。第二ゾーン19では、抗原‐抗体複合体と結合可能な第二抗体が吸収体15または圧電膜20に付着されている。妊娠テスターのような従来のラテラルフロー分析では、陽性結果は第二ゾーン19で変色を呈する。しかしながら、従来のラテラルフロー分析は透明サンプルに限定され、本質的に陽性または陰性、即ちイエス/ノー結果のみに適している。しかしながら、本発明の装置では圧電膜20を用いている。膜から既定距離にあるサンプルのみが測定されるため、バルクサンプル中の汚染物は読取りに影響を与えない。更に、圧電膜の感度は結果を定量的に表わす。結果の定量化はラテラルフロー分析により広い用途をもたらし、抗原量の違いも区別可能なことから誤結果の回数を減らせる。
【0026】
本発明の装置は、溶液中で1種の被検体のみを検出することに限定されない。装置は“デプスプロファイリング”を行えることから、検出すべき各被検体と選択的に結合する試薬を用いることにより、各種被検体が検出され、その場合に試薬は変換器3の表面から異なる距離にある。例えば、2種の試薬を用いると2種の被検体が検出され、第一の試薬は膜から第一の距離に位置し、第二の試薬は膜から第二の距離に位置している。電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との間の時間遅れは、第一および第二試薬と結合する2種の被検体で異なる。
【0027】
異なる深さにするのみならず、変換器の異なる部分で、異なるタイプの試薬、例えば異なる抗体を用いることにより、多数の試験が行える。一方、または加えて、異なる波長の電磁線に応答する試薬/被検体を用いても、多数の試験が行える。
【0028】
熱を発生する物質は膜の表面上でもよいが、しかしながら、好ましくは、物質は膜の表面から少なくとも5nm離れ、好ましくは、物質は膜の表面から500μm以下で離れている。しかしながら、適切な時間遅れを選択することにより、バルク溶液中の物質も測定しうる。
【0029】
抗体‐抗原反応の代わりに、試薬および被検体は第一および第二核酸でもよく、第一および第二核酸は相補的であるか、あるいは試薬がアビジンまたはその誘導体を含有し、被検体がビオチンまたはその誘導体を含有しているか、またはその逆でもよい。系は生物学的アッセイに限定されず、例えば水中で重金属の検出に適用してもよい。系は液体に限定する必要もなく、あらゆる流体系、例えば空気中で酵素、細胞およびウイルスなどの検出に用いてもよい。
【0030】
前記のように、変換器で電気シグナルの発生に際する電磁線の各パルス間の時間遅れが、膜からの物質の距離に比例することを、本発明者は発見した。更に、時間遅れが媒体自体の性質に依存することも本発明者は発見した。当初、液体媒体がシグナルを全く鈍化させないことは意外であった。しかしながら、媒体の性質における変化が、時間遅れ(即ち、最大シグナルに達するまで)、シグナルの大きさおよびシグナルの波形(即ち、経時的な応答の違い)を変えうることを、本発明者は発見したのである。
【0031】
媒体の性質におけるこれら変化は、中でも、媒体の厚さ、媒体の弾性、媒体の硬度、媒体の密度、媒体の変形性、媒体の熱容量または音/衝撃波が媒体を伝わる速度の違いのせいである。
【0032】
媒体の性質に応じた時間遅れの違い自体が、有用な用途をもたらしうる。例えば、本発明の装置は、重合または解重合反応のような化学反応の進行を調べるために用いられる。本発明の装置は、上記のように、更に変換器の近くに少なくとも1種の物質を含んでなり、該物質は線源で生じた電磁線を吸収して熱を発生できるものであり、使用時に、発生した熱は変換器で電気シグナルへ変換されて、検出器で検出され、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れ、および/または一定時間遅れ、好ましくは非ゼロ時間遅れにおけるシグナルの大きさは、反応の進行につれて変化する。
【0033】
本発明は、熱の変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器へ反応媒体中の反応体を曝し、変換器が該変換器の近くに少なくとも1種の物質を有し、該物質が線源で生じた電磁線を吸収して熱を発生可能なものであって、一連の電磁線パルスで該物質を照射し、生じた熱を電気シグナルへ変換し、電気シグナルおよび線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを検出する工程を含んでなり、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れ、および/または一定時間遅れにおけるシグナルの大きさが、反応の進行につれて変化することからなる、反応の進行をモニターするための方法も提供する。
【実施例】
【0034】
酸化インジウムスズで被覆された分極ポリフッ化ビニリデンバイモルフを、下記例で感知装置として用いた。
【0035】
例1〜4および比較例1〜3では、感知装置をポリスチレン溶液で浸漬被覆し、酸化インジウムスズの上にポリスチレン層を形成した。内径5mmおよび高さ5mmの円形ポリスチレン“ワッシャー”を(感圧接着剤を用いて)ポリスチレン表面へ付着させ、感知装置の表面上に液体を有効に留められる反応ウェルを形成した。該ウェルは総容量100μL以内の液体を入れられる。反応ウェルの壁でタンパク質分子の非特異的結合を妨げるために、ポリスチレンワッシャーを牛血清アルブミン(BSA)およびTween(RTM)20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)の溶液で処理した。
【0036】
例1
図4は(a)圧電膜に付着した標識抗体および(b)溶液中の標識抗体の存在を検出する、2回の原理検証実験の結果を示している。2回の実験をポリスチレン被覆圧電膜の表面上に存在する反応ウェルで行った。第一実験(a)では、リン酸緩衝液(pH7.2、100mM)中金標識抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)溶液(5μg/mL、全250ng)50μLを反応ウェルへ加えて、1時間インキュベートし、次いですすぎ、乾燥させた。第二実験(b)では、ポリスチレン膜の表面を牛血清アルブミン(1%)およびTween(RTM)20(0.5%)の溶液でインキュベートにより遮蔽し、次いですすぎ、乾燥させた。
【0037】
前混合銀エンハンサー溶液(Sigma SE-100)50μLを第一反応ウェルへ加えて、増強反応を開始させた。金標識抗HRP250ngを含有した前混合銀エンハンサー溶液50μLを第二ウェルへ加えて、増強反応を開始させた。
【0038】
次いで、ウェルを10Hzの断続周波数で波長654nmの断続光により照射した。約10〜15msの相関遅れで圧電膜により検出される最大シグナルの大きさを測定した。シグナルをアナログ‐デジタルコンバーターに表示させた。図4はこれら増強反応の結果を示している。y軸は、“読取値(ADCカウント)”と称される、検出器で受け取られたシグナルを示し、x軸は秒で時間を示している。
【0039】
第一実験(a)では、表面に結合した金標識抗HRPが膜の表面で銀イオンと還元剤との反応を仲介し、変換器表面で金属銀の堆積を導く。第二実験(b)では、溶液中の金標識抗HRPが溶液中で銀イオンと還元剤との反応を仲介し、銀粒子の沈殿を導く。これら反応の動的プロファイルは経時的にモニターでき、測定が10秒毎に行われる。バルク溶液は結合標識よりも圧電膜から離れた距離にあるため、約10〜15msの相関遅れではほとんどまたは全くシグナルが検出されない。第一実験(a)における表面上の抗HRP量が、第二実験(b)における溶液中の抗HRP量と等しいかまたはそれより少なくなるように、用いられた抗HRPの量は調整している。
【0040】
ちなみに、シグナルが約50〜60msの相関遅れで検出されたならば、バルク溶液中に存在する抗体のシグナルは変換器の表面に存在する結合抗体よりも測定されやすくなるが、媒体によるシグナルの鈍化のせいで、シグナルの強度は低下することがある。
【0041】
例2
ウサギ抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)免疫グロブリンG(Sigma cat.No.P7899)(IgG)のpH7.2 100mMリン酸緩衝液中1:30希釈液30μLを反応ウェル中室温で1時間インキュベートし、ポリスチレンの表面に抗体を吸着させた。次いで溶液をすすぎ、リン酸緩衝液(30μL)中牛血清アルブミン(1%)およびTween(RTM)20(0.05%)で処理して、ポリスチレン表面上の残留吸着部位を遮蔽した。ウェルを脱イオン水ですすぎ、乾燥させた。次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼ溶液(100mMリン酸緩衝液中125μg/mL)30μLを反応ウェルへ加え、1時間インキュベートし、次いですすいだ。金標識ヤギ(Fab′)2抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(British Biocell)(100mMリン酸緩衝液中1:10希釈)30μLを室温で1時間かけて加えた。次いで、ウェルを脱イオン水ですすいだ。次いで、銀エンハンサー溶液(使用直前に前混合された溶液A20μLおよび溶液B20μLからなるSigma SE-100)を反応ウェルへ加え、センサーの表面上における金属銀染色の展開を、高エネルギー青色LED(470nmで発光する)からの断続光(10Hz)を用いたセンサー膜の照射によりモニターした。センサーに生じた電圧をロックイン増幅器を用いて測定し、次いで任意のデジタルシグナルへ変換し、PCに保管する。
【0042】
比較例1
上記例2で記載されたとおりに反応を行ったが、但しセンサーの表面にウサギ抗HRPを吸着させる初期ステップは省略した。
【0043】
比較例2
上記例2で記載されたとおりに反応を行ったが、但し西洋ワサビペルオキシダーゼとのインキュベートステップは省略した。
【0044】
比較例3
上記例2で記載されたとおりに反応を行ったが、但し金標識ヤギ(Fab′)2抗西洋ワサビペルオキシダーゼ抗体とのインキュベートステップは省略した。
【0045】
図5は、例2および比較例1〜3(各々4回)の結果を示している。迅速なシグナルを生じる4つの連続データは、センサーの表面上におけるウサギ抗HRP/HRP/金標識ヤギ抗HRPサンドイッチによるものである(例2)。他のすべての連続データは、コントロール反応によるものである(比較例1〜3)。
【0046】
例3
ウサギ抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)免疫グロブリンG(Sigma cat.No.P7899)(IgG)(pH7.2 100mMリン酸緩衝液中1:30希釈液30μL)を2個の反応ウェル中室温で1時間インキュベートし、ポリスチレンの表面に抗体を吸着させた。次いで溶液をすすぎ、リン酸緩衝液(30μL)中牛血清アルブミン(1%)およびTween(RTM)20(0.05%)で処理して、ポリスチレン表面上の残留吸着部位を遮蔽した。ウェルを脱イオン水ですすぎ、乾燥させた。次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼ溶液(100mMリン酸緩衝液中125μg/mL)10μLを反応ウェル1へ加え、一方リン酸緩衝液単独10μLを反応ウェル2へ加えた。これらを15分間インキュベートし、次いで金標識ヤギ(Fab′)2抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(British Biocell)(100mMリン酸緩衝液中1:10希釈)30μLを室温で15分間かけてウェル1および2の双方へ加えた。次いで、銀エンハンサー溶液(使用直前に前混合された溶液A20μLおよび溶液B20μLからなるSigma SE-100)を双方の反応ウェルへ加え、センサーの表面上における金属銀染色の展開を、前記技術を用いてモニターした。
【0047】
モデル被検体としてウェル1でHRPの存在は、変換器の表面にサンドイッチ複合体(ウサギ抗HRP/HRP/金標識ヤギ抗HRP)を形成させ、そのためウェル1の表面に一部の金標識を付着させる。ウェル2でHRPの不在は、金標識ヤギ抗体がウェル2で溶液中に留まっていることを意味している。
【0048】
ウェル1および2で経時的なシグナルの展開は図4で掲載された場合と類似しており、被検体の検出が洗浄ステップなしで行いうることを実証している。
【0049】
例4
捕捉抗体として変換器の表面に吸着されたウサギ抗HRP IgG、標的被検体としてHRPおよびリポーター抗体として金標識ヤギ抗HRP IgGを用いて、一連の実験を例2で記載されたとおりに行った。5つの異なるHRP濃度(100ng/mL、10ng/mL、1ng/mL、100pg/mLおよび1pg/mL)を用いた。これは、3ng、300pg、30pg、3pgおよび30fgに当たるHRPの総量に相当する。銀増強ステップを上記のように行った。図6は、反応に用いられた被検体の量にシグナルが依存していることを示している。
【0050】
例5
この例では、変換器をシリコーン層で被覆する。変換器で検出されたシグナルは、シリコーン層の厚さおよび弾性の双方に依存している。シリコーン層を様々な厚さで調製し、Sudan Black B色素のスポットをピペットで(エタノール中)色素溶液の添加によりシリコーン層上に置いた。3つの異なる層厚(200、133および79μm)および3つの異なる全色素量(10mmol dm−3色素溶液0.1、1.0または2.5μLの添加による)を用いて、全部で9回の測定を行った。図7は、相関遅れが10msのとき(全部で3つの色素量について)層厚が薄くなると、シグナルが有意に上昇することを示している。
【0051】
加えて、中間シリコーン層の厚さは、シグナルが最大に到達するのに要する時間(即ち、相関遅れ)に影響を与える。これは図8で示されており、色素スポットと変換器との中間に位置するシリコーン層の厚さは100〜500μmであった。y軸はカウント(×103)を示し、一方x軸は相関遅れ(相関遅れ1=5ms、2=10ms、3=15msなど)を示している。最大シグナルは100μmのシリコーン層で観察され、15msの相関遅れのとき最大に達している。シリコーン層の厚さが増すと、シグナルが低下し、同時に、最大に到達するのに要する時間も500μmのシリコーン層厚で50msに延びることが観察される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
本発明はここでは図面を参照しながら記載される。
【図1】本発明の化学感知装置の概略図を示す。
【図2】本発明の装置を用いたサンドイッチイムノアッセイを示す。
【図3】本発明によるラテラルフロー(lateral-flow)アッセイ装置を示す。
【図4】(a)圧電膜上の標識抗体および(b)溶液中の標識抗体についての、時間に対する読取値のグラフを示し、双方とも金属銀の触媒堆積により高められる。
【図5】圧電膜の表面上で金属銀の触媒堆積により高められる、コロイド金標識抗体を用いたサンドイッチアッセイの結果を示す。
【図6】5種の異なる被検体濃度を用いた、圧電膜の表面上で金属銀の触媒堆積により高められる、金標識抗体を用いたサンドイッチアッセイの結果を示す。
【図7】未着色層上の着色層を通りエネルギーを圧電膜へ伝えるエネルギー伝達を立証した、膜厚に対するカウントのグラフを示す。
【図8】着色層および未着色層を通りエネルギーを圧電膜へ伝えるエネルギー伝達を立証した、相関遅れに対するカウントのグラフを示す。
【発明の分野】
【0001】
本発明は、化学感知装置、特に変換器を用いた化学感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中における被検体、例えばバイオアッセイで生物学的に重要な化合物のモニタリングは、広い用途を有している。したがって、様々な分析および診断装置が利用されている。多くの装置は、検出すべき種の存在下で、目に見える変色を生じる試薬を用いている。試薬は多くの場合で試験片に付着され、変色の測定に役立つ光学機器が用意されることもある。
【0003】
WO90/13017は、細片形をした焦電または他の熱電気変換素子について開示している。薄膜電極が用意され、1種以上の試薬が変換器の表面上に付着されている。検出すべき種と試薬が接触するようになると、それは選択的比色変化を生じる。次いで、装置が典型的には検出器へ挿入され、そこで変換器がLED光源で通常下から照射され、試薬による光吸収が変換器表面で微小発熱として検出される。変換器からの電気シグナル出力が、検出すべき種の濃度を算出するように処理される。
【0004】
WO90/13017の系は、試薬との反応または結合で、試薬に変色を生じさせる種の分析を行う。例えば、試薬には、pHおよび重金属指示色素、パラセタモールアッセイでアミノフェノールを検出するための試薬(例えば、銅アンモニア溶液中o‐クレゾール)、および酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)でオキシドレダクターゼ酵素を検出するためのテトラゾリウム色素がある。しかしながら、この系はある用途には有用であるが、変換器の表面に置かれているのは試薬であるため、これは分析すべき種が試薬で変色を生じる分析のみに適していると考えられてきた。したがって、この系は、試薬で変色を生じない種の分析、または変色が変換器の表面上で生じない場合には適用しえないのである。バイオアッセイの分野では、このことが該系の用途を限定している。
【発明の具体的説明】
【0005】
したがって、本発明は、一連の電磁線パルスを生じるように適合された線源と、物質により生じたエネルギーを電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器と、変換器により生じた電気シグナルを検出可能な検出器とを備えてなり、該検出器が線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定するように適合されている、電磁線の照射で物質の非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための装置を提供する。
【0006】
本発明は、ここでは“光”と称されている電磁線の照射で物質の非放射性崩壊により生じるエネルギー、典型的には熱が、該物質が変換器と接触していない場合でも、変換器により検出されうること、更には、電磁線の照射と変換器により生じる電気シグナルとの時間遅れが、膜の表面からの該物質の距離の関数であること、という本発明者による発見に基づいている。この発見は、アッセイおよびモニタリングの分野で広い用途を有している。
【0007】
本発明は、一連の電磁線パルスで物質を照射してエネルギーを生じさせ、エネルギーの変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器を用いて、エネルギーの変化を電気シグナルへ変換させ、変換器により生じた電気シグナルを検出し、線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定する工程を含んでなる、電磁線の照射で物質の非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための方法も提供する。
【0008】
図1は、電磁線での物質2の照射に際する物質2の発熱に依存した、本発明による化学感知装置1を示している。図1は、物質2の存在下で化学感知装置1を示している。装置1は、電極コーティング4、5を有した焦電または圧電変換器3を含んでなる。変換器3は、好ましくは分極ポリフッ化ビニリデン膜である。電極コーティング4、5は、好ましくは、約35nmの厚さを有した酸化インジウムスズから形成されるが、導電率が低くなりすぎる1nmの下限から、光透過性が低くなりすぎる100nmの上限まで(それは95%T未満にはすべきでない)、ほぼいかなる厚さでも可能である。物質2はいずれか適切な技術を用いて圧電変換器3の近くに置かれ、ここでは上部電極コーティング4に付着して示されている。物質はいかなる適切な形でもよく、複数の物質が置ける。好ましくは、物質2は上部電極に吸着され、例えばイオン結合、水素結合またはファンデルワールス力のような分子間力でカップリングまたは結合されている。本発明の重要な特質は、光、好ましくは可視光のような電磁線源6で照射されたときに、物質2が発熱することである。光源は、例えばLEDである。光源6は適切な波長の光(例えば、補色)で物質2を照射する。理論に拘束されるつもりはないが、物質2が光を吸収して励起状態となり、次いで非放射性崩壊を生じて、図1の曲線で示されたエネルギーを発生する、と考えられている。このエネルギーは主に熱(即ち、環境中で熱運動)の形をとるが、他の形のエネルギー、例えば衝撃波も発生させてよい。しかしながら、エネルギーは変換器で検出され、電気シグナルへ変換される。本発明の装置は測定すべき具体的物質に合わせて変更されるため、非放射性崩壊で生じたエネルギーの正確な形は定める必要がないのである。別記されない限り、“熱”という用語は非放射性崩壊で生じたエネルギーを意味するためにここでは用いられている。光源6は、物質2を照射するように設置される。好ましくは、光源6は変換器3および電極4、5の下に置かれ、物質2は変換器3および電極4、5を通して照射される。光源は変換器内の内部光源でもよく、その場合に光源は誘導波系である。導波管が変換器自体でもよく、または導波管は変換器へ付着された別の層でもよい。
【0009】
物質2で生じたエネルギーは変換器3で検出され、電気シグナルに変換される。電気シグナルは検出器7で検出される。光源6および検出器7は双方とも制御器8の制御下に置かれている。光源6は、“断続光”と称される一連の光パルス(特定波長に言及されていない限り、ここで用いられている“光”という用語は、あらゆる形の電磁線を意味する)を発生する。原則上、変換器3からシグナルを発生させるには、1フラッシュの光、即ち1パルスの電磁線で十分である。しかしながら、再現性あるシグナルを得るためには、複数回の光フラッシュが用いられ、実際上それには断続光を要する。電磁線のパルスが適用される周波数は様々である。下限として、各パルス間の時間遅れは、各パルスと測定すべき電気シグナルの発生との時間遅れにとり十分でなければならない。上限として、各パルス間の時間遅れは、データの記録に要する時間が過度に延びるほど大きくてはならない。好ましくは、パルスの周波数は2〜50Hz、更に好ましくは5〜15Hz、最も好ましくは10Hzである。これは、パルス間で各々20〜500ms、66〜200msおよび100msの時間遅れに相当する。加えて、いわゆる“マーク‐スペース”(mark-space)比、即ちオン・シグナル対オフ・シグナルの比率は好ましくは1であるが、他の比率でも有害作用なしに用いうる。異なる断続周波数または異なるマーク‐スペース比で断続光を発生する電磁線源は、当業界で公知である。検出器7は、光源6からの各光パルス間の時間遅れ(または“相関遅れ”)と、変換器3から出て検出器7で検出された対応電気シグナルとを測定する。本発明者は、この時間遅れが距離dの関数であることを発見した。
【0010】
各光パルス間の時間遅れと、再現性ある結果をもたらす対応電気シグナルとを測定する上で、いかなる方法も用いうる。好ましくは、各光パルスの開始から、熱の吸収に対応した電気シグナルの最大が検出器7により検出される時点まで、時間遅れが測定される。
【0011】
熱が周辺の媒体へ分散され、そのため変換器3で検出されないか、または少なくとも有意のシグナルが変換器で受け取られない、と専門家は予想していたため、物質2が変換器表面から離されていても、シグナルがなお検出されうる、という発見は意外である。変換器3へエネルギーを伝えうる中間媒体を介してシグナルが検出されるのみならず、異なる距離dが区別され(これは“デプスプロファイリング”(depth profiling)と称されている)、受け取るシグナルの強度が変換器3の表面から一定の距離dのとき物質2の濃度と比例していることを、本発明者は意外にも発見したのである。更に、媒体自体の性質が時間遅れと所定時間遅れのときのシグナルの大きさとに影響を与えることを、本発明者は発見した。これらの発見は、変換器を用いた化学感知装置に、様々な新用途をもたらすことになる。
【0012】
一態様において、本発明は、物質が被検体または被検体の複合体もしくは誘導体であり、装置がサンプル中の被検体を検出するために用いられ、更に装置が変換器の近くに少なくとも1種の試薬を含んでなり、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を試薬が有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体が線源で生じた電磁線を吸収して熱を発生でき、使用時に、発生した熱が変換器で電気シグナルへ変換されて、検出器で検出され、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れが、変換器の表面から異なる距離で1箇所以上に存在する被検体の位置に対応している、上記のような装置を提供する。本発明は、熱の変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器へサンプルを曝し、変換器がその近くに少なくとも1種の試薬を有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を試薬が有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体が線源で生じた電磁線を吸収して熱を発生可能なものであって;一連の電磁線パルスで試薬を照射し、生じた熱を電気シグナルへ変換し;電気シグナルおよび線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを検出する工程を含んでなり、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れが、変換器の表面から異なる距離で1箇所以上に存在する被検体の位置に対応している、サンプル中の被検体を検出するための方法も提供する。このような装置および方法は、例えば、イムノアッセイおよび核酸ベースアッセイで用途を有している。イムノアッセイの好ましい例では、試薬が抗体、被検体が抗原である。
【0013】
典型的イムノアッセイでは、対象の抗原に特異的な抗体がポリ塩化ビニルまたはポリスチレンのシートのようなポリマー担体へ付着される。1滴の細胞抽出物または血清もしくは尿のサンプルが該シートへ置かれ、それが抗体‐抗原複合体の形成後に洗浄される。次いで、抗原上の異なる部位に特異的な抗体が加えられ、シートが再び洗浄される。この第二抗体は、高感度で検出されるように、標識を有している。シートと結合している第二抗体の量は、サンプル中における抗原の量と比例している。このアッセイおよびこのタイプのアッセイで他の別法は周知である;例えば、”The Immunoassay Handbook,2nd Ed.”,David Wild,Ed.,Nature Publishing Group,2001参照。本発明の装置はこれらアッセイのいずれでも用いうる。
【0014】
例として、図2は本発明の装置を用いた典型的な捕捉抗体アッセイを示している。装置は、変換器3と、被検体11を溶解または懸濁させた液体10を入れるためのウェル9とを含んでいる。変換器3は、相当数の試薬、即ち抗体12をそこに付着させている。抗体12は図2で膜に付着して示されており、この付着は該表面への共有結合によるか、または非共有結合吸着、例えば水素結合による。抗体は変換器へ付着して示されているが、変換器3の近くに抗体12を保持させるいかなる技術も適用可能な。例えば、シリコーンポリマー層のような追加層が抗体12と変換器3とを分離したり、または抗体が不活性粒子へ付着されてから、該不活性粒子が変換器3へ付着される。一方、抗体12は、変換器3の表面に被覆されたゲル層内に捕捉させてもよい。
【0015】
使用時、抗原11を含有した液体10(または何らかの流体)でウェルが満たされる。次いで、抗原11が抗体12と結合する。追加標識抗体13が液体に加えられ、いわゆる“サンドイッチ”複合体が結合抗体12、抗原11および標識抗体13間で形成される。結合抗原11のすべてがサンドイッチ複合体を形成するように、過剰の標識抗体13が加えられる。そのため、サンプルは結合標識抗原13aおよび溶液中遊離状態の未結合標識抗原13bを含有している。
【0016】
サンドイッチ複合体の形成に際してまたはその後で、一連の電磁線パルス、例えば光を用いてサンプルが照射される。各パルスと変換器3による電気シグナルの発生との時間遅れが、検出器により検出される。結合標識抗原13aで発生した熱のみを測定するために適した時間遅れが選択される。時間遅れは変換器3からの標識の距離の関数であるため、結合標識抗体13aは未結合標識抗原13bと区別される。これは、洗浄ステップの必要性を解消しているという点で、従来のサンドイッチイムノアッセイにはない大きな利点を呈している。従来のサンドイッチイムノアッセイでは、未結合標識抗原は結合標識抗原で生じたシグナルを妨げることから、測定が行われる前に、未結合標識抗体が結合標識抗体から分離されねばならない。しかしながら、本発明の“デプスプロファイリング”によれば、結合および未結合標識抗原は区別されうるのである。実際に、変換器近くの物質とバルク溶液中の物質とを区別可能な能力が本発明の特別な利点である。
【0017】
標識抗体は、好ましくは色素分子、金粒子、着色ポリマー粒子(例えば、着色ラテックス粒子)、蛍光分子、酵素、赤血球、ヘモグロビン分子、磁気粒子および炭素粒子から選択される標識で標識される。しかしながら、電磁線と相互作用して熱を発生可能ないかなる標識も、許容可能な。磁気粒子の場合、電磁線は高周波線である。上記すべての他の標識では光を用いる。金粒子の場合、銀イオンおよび還元剤の溶液を用いて標識が増強される。金は銀金属への銀イオンの還元を触媒/促進し、光を吸収するのは銀金属である。これらすべての標識が慣用的なものである。
【0018】
標識抗体、または実際には1種以上の追加試薬は、好ましくは本発明の装置へ組み込まれたチャンバー内で貯蔵される。
【0019】
抗体は典型的にはタンパク質、例えばタンパク質ベースホルモンであるが、それより小さな分子、例えば薬物も検出されうる。抗原は大きな粒子、例えばウイルス、細菌、細胞(例えば、赤血球)またはプリオンの一部でもよい。
【0020】
既知イムノアッセイの別な例として、本発明は、検出器で検出される電気シグナルがサンプル中未標識抗原の存在に反比例する、競合アッセイにも適用しうる。この場合、対象となるのはサンプル中未標識抗原の量である。
【0021】
競合イムノアッセイでは、抗体が図2で示されたように変換器へ付着される。次いで、抗原を含有したサンプルが加えられる。しかしながら、標識抗体を加えるのではなく、既知量の標識抗原が溶液へ加えられる。その際に、標識および未標識抗原は変換器3へ付着された抗体と結合する上で競合する。結合標識抗原の濃度は結合未標識抗原の濃度と反比例し、標識抗原の量は既知であるため、初期溶液中における未標識抗原の量が計算される。抗体に関して示されたものと同一の標識が、抗原でも用いうる。
【0022】
本発明の一態様において、検出される被検体は全血のサンプル中に存在してもよい。従来の多くのアッセイでは、溶液または懸濁液中で血液の他成分、例えば赤血球の存在は、対象となる特定被検体の検出を妨げている。しかしながら、本発明の装置では、変換器3から既知の距離にあるシグナルのみが測定されることから、溶液または懸濁液中で遊離している血液の他成分は検出を妨げない。別の分離ステップが不要であるため、これは血液サンプルの分析を簡素化する。血液サンプル中の被検体レベルを測定する装置は、好ましくは、手持ち式ポータブルリーダーと、圧電膜を含有した使い捨て装置を含んでなる。血液の少量サンプル(約10μL)が採取され、使い捨て装置内のチャンバーへ入れられる。チャンバーの片側は、対象の被検体と結合可能な抗体で被覆された圧電膜から作製されている。例えば上記のような標識抗体または既知濃度の標識抗原を含有した、追加の溶液も追加してよい。反応が進行すると、測定プロセスを始動させる使い捨て装置がリーダーへ挿入される。次いで、アッセイの結果がリーダーのディスプレーに示される。次いで、圧電膜を含有した使い捨て装置が取り外されて、廃棄される。
【0023】
可能性のあるバックグラウンド障害源は、焦電または圧電変換器の表面上における懸濁粒子の沈降である。例えば、銀粒子の生成により、一部装置でこれが生じうる。この障害源は、バルク溶液の上、例えば反応室の上側表面に変換器を置くことで避けられる。そのため、何らかの沈降が生じても、それが変換器を妨害することはない。一方、粒子は媒体より低密度にしてもよく、こうすると変換器の表面上での沈降よりもむしろバルク溶液の表面に浮き上がる。これと他の変更も、本発明の範囲内に含まれる。
【0024】
他の態様において、本発明の装置はラテラルフロー分析に付される。これは、妊娠試験でヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)の検出に特別な用途を有している。
【0025】
図3は、本発明による簡素化ラテラルフロー装置14を示している。該装置は、HCGと結合可能な未結合および結合抗体(即ち、濾紙または他の吸収体15と未結合および結合)を各々含有した第一および第二ゾーン18および19と一緒に、サンプルレシーバー16および芯17を含む濾紙または他の吸収体15を有している。該装置は、第二ゾーン19の近くに圧電膜も含有している。尿または血清のサンプルがサンプルレシーバー16に加えられ、次いで吸収体15に沿い芯17へ移動する。第一ゾーン18はHCGに対する標識抗体を含有しており、サンプルが第一ゾーン18を通過するとき、HCGがサンプルに存在しているならば、HCGに対する標識抗体がサンプルにより拾い上げられる。サンプルが第一ゾーン18から第二ゾーン19へ移動すると、抗原と抗体が複合体を形成する。第二ゾーン19では、抗原‐抗体複合体と結合可能な第二抗体が吸収体15または圧電膜20に付着されている。妊娠テスターのような従来のラテラルフロー分析では、陽性結果は第二ゾーン19で変色を呈する。しかしながら、従来のラテラルフロー分析は透明サンプルに限定され、本質的に陽性または陰性、即ちイエス/ノー結果のみに適している。しかしながら、本発明の装置では圧電膜20を用いている。膜から既定距離にあるサンプルのみが測定されるため、バルクサンプル中の汚染物は読取りに影響を与えない。更に、圧電膜の感度は結果を定量的に表わす。結果の定量化はラテラルフロー分析により広い用途をもたらし、抗原量の違いも区別可能なことから誤結果の回数を減らせる。
【0026】
本発明の装置は、溶液中で1種の被検体のみを検出することに限定されない。装置は“デプスプロファイリング”を行えることから、検出すべき各被検体と選択的に結合する試薬を用いることにより、各種被検体が検出され、その場合に試薬は変換器3の表面から異なる距離にある。例えば、2種の試薬を用いると2種の被検体が検出され、第一の試薬は膜から第一の距離に位置し、第二の試薬は膜から第二の距離に位置している。電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との間の時間遅れは、第一および第二試薬と結合する2種の被検体で異なる。
【0027】
異なる深さにするのみならず、変換器の異なる部分で、異なるタイプの試薬、例えば異なる抗体を用いることにより、多数の試験が行える。一方、または加えて、異なる波長の電磁線に応答する試薬/被検体を用いても、多数の試験が行える。
【0028】
熱を発生する物質は膜の表面上でもよいが、しかしながら、好ましくは、物質は膜の表面から少なくとも5nm離れ、好ましくは、物質は膜の表面から500μm以下で離れている。しかしながら、適切な時間遅れを選択することにより、バルク溶液中の物質も測定しうる。
【0029】
抗体‐抗原反応の代わりに、試薬および被検体は第一および第二核酸でもよく、第一および第二核酸は相補的であるか、あるいは試薬がアビジンまたはその誘導体を含有し、被検体がビオチンまたはその誘導体を含有しているか、またはその逆でもよい。系は生物学的アッセイに限定されず、例えば水中で重金属の検出に適用してもよい。系は液体に限定する必要もなく、あらゆる流体系、例えば空気中で酵素、細胞およびウイルスなどの検出に用いてもよい。
【0030】
前記のように、変換器で電気シグナルの発生に際する電磁線の各パルス間の時間遅れが、膜からの物質の距離に比例することを、本発明者は発見した。更に、時間遅れが媒体自体の性質に依存することも本発明者は発見した。当初、液体媒体がシグナルを全く鈍化させないことは意外であった。しかしながら、媒体の性質における変化が、時間遅れ(即ち、最大シグナルに達するまで)、シグナルの大きさおよびシグナルの波形(即ち、経時的な応答の違い)を変えうることを、本発明者は発見したのである。
【0031】
媒体の性質におけるこれら変化は、中でも、媒体の厚さ、媒体の弾性、媒体の硬度、媒体の密度、媒体の変形性、媒体の熱容量または音/衝撃波が媒体を伝わる速度の違いのせいである。
【0032】
媒体の性質に応じた時間遅れの違い自体が、有用な用途をもたらしうる。例えば、本発明の装置は、重合または解重合反応のような化学反応の進行を調べるために用いられる。本発明の装置は、上記のように、更に変換器の近くに少なくとも1種の物質を含んでなり、該物質は線源で生じた電磁線を吸収して熱を発生できるものであり、使用時に、発生した熱は変換器で電気シグナルへ変換されて、検出器で検出され、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れ、および/または一定時間遅れ、好ましくは非ゼロ時間遅れにおけるシグナルの大きさは、反応の進行につれて変化する。
【0033】
本発明は、熱の変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器へ反応媒体中の反応体を曝し、変換器が該変換器の近くに少なくとも1種の物質を有し、該物質が線源で生じた電磁線を吸収して熱を発生可能なものであって、一連の電磁線パルスで該物質を照射し、生じた熱を電気シグナルへ変換し、電気シグナルおよび線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを検出する工程を含んでなり、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れ、および/または一定時間遅れにおけるシグナルの大きさが、反応の進行につれて変化することからなる、反応の進行をモニターするための方法も提供する。
【実施例】
【0034】
酸化インジウムスズで被覆された分極ポリフッ化ビニリデンバイモルフを、下記例で感知装置として用いた。
【0035】
例1〜4および比較例1〜3では、感知装置をポリスチレン溶液で浸漬被覆し、酸化インジウムスズの上にポリスチレン層を形成した。内径5mmおよび高さ5mmの円形ポリスチレン“ワッシャー”を(感圧接着剤を用いて)ポリスチレン表面へ付着させ、感知装置の表面上に液体を有効に留められる反応ウェルを形成した。該ウェルは総容量100μL以内の液体を入れられる。反応ウェルの壁でタンパク質分子の非特異的結合を妨げるために、ポリスチレンワッシャーを牛血清アルブミン(BSA)およびTween(RTM)20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)の溶液で処理した。
【0036】
例1
図4は(a)圧電膜に付着した標識抗体および(b)溶液中の標識抗体の存在を検出する、2回の原理検証実験の結果を示している。2回の実験をポリスチレン被覆圧電膜の表面上に存在する反応ウェルで行った。第一実験(a)では、リン酸緩衝液(pH7.2、100mM)中金標識抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)溶液(5μg/mL、全250ng)50μLを反応ウェルへ加えて、1時間インキュベートし、次いですすぎ、乾燥させた。第二実験(b)では、ポリスチレン膜の表面を牛血清アルブミン(1%)およびTween(RTM)20(0.5%)の溶液でインキュベートにより遮蔽し、次いですすぎ、乾燥させた。
【0037】
前混合銀エンハンサー溶液(Sigma SE-100)50μLを第一反応ウェルへ加えて、増強反応を開始させた。金標識抗HRP250ngを含有した前混合銀エンハンサー溶液50μLを第二ウェルへ加えて、増強反応を開始させた。
【0038】
次いで、ウェルを10Hzの断続周波数で波長654nmの断続光により照射した。約10〜15msの相関遅れで圧電膜により検出される最大シグナルの大きさを測定した。シグナルをアナログ‐デジタルコンバーターに表示させた。図4はこれら増強反応の結果を示している。y軸は、“読取値(ADCカウント)”と称される、検出器で受け取られたシグナルを示し、x軸は秒で時間を示している。
【0039】
第一実験(a)では、表面に結合した金標識抗HRPが膜の表面で銀イオンと還元剤との反応を仲介し、変換器表面で金属銀の堆積を導く。第二実験(b)では、溶液中の金標識抗HRPが溶液中で銀イオンと還元剤との反応を仲介し、銀粒子の沈殿を導く。これら反応の動的プロファイルは経時的にモニターでき、測定が10秒毎に行われる。バルク溶液は結合標識よりも圧電膜から離れた距離にあるため、約10〜15msの相関遅れではほとんどまたは全くシグナルが検出されない。第一実験(a)における表面上の抗HRP量が、第二実験(b)における溶液中の抗HRP量と等しいかまたはそれより少なくなるように、用いられた抗HRPの量は調整している。
【0040】
ちなみに、シグナルが約50〜60msの相関遅れで検出されたならば、バルク溶液中に存在する抗体のシグナルは変換器の表面に存在する結合抗体よりも測定されやすくなるが、媒体によるシグナルの鈍化のせいで、シグナルの強度は低下することがある。
【0041】
例2
ウサギ抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)免疫グロブリンG(Sigma cat.No.P7899)(IgG)のpH7.2 100mMリン酸緩衝液中1:30希釈液30μLを反応ウェル中室温で1時間インキュベートし、ポリスチレンの表面に抗体を吸着させた。次いで溶液をすすぎ、リン酸緩衝液(30μL)中牛血清アルブミン(1%)およびTween(RTM)20(0.05%)で処理して、ポリスチレン表面上の残留吸着部位を遮蔽した。ウェルを脱イオン水ですすぎ、乾燥させた。次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼ溶液(100mMリン酸緩衝液中125μg/mL)30μLを反応ウェルへ加え、1時間インキュベートし、次いですすいだ。金標識ヤギ(Fab′)2抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(British Biocell)(100mMリン酸緩衝液中1:10希釈)30μLを室温で1時間かけて加えた。次いで、ウェルを脱イオン水ですすいだ。次いで、銀エンハンサー溶液(使用直前に前混合された溶液A20μLおよび溶液B20μLからなるSigma SE-100)を反応ウェルへ加え、センサーの表面上における金属銀染色の展開を、高エネルギー青色LED(470nmで発光する)からの断続光(10Hz)を用いたセンサー膜の照射によりモニターした。センサーに生じた電圧をロックイン増幅器を用いて測定し、次いで任意のデジタルシグナルへ変換し、PCに保管する。
【0042】
比較例1
上記例2で記載されたとおりに反応を行ったが、但しセンサーの表面にウサギ抗HRPを吸着させる初期ステップは省略した。
【0043】
比較例2
上記例2で記載されたとおりに反応を行ったが、但し西洋ワサビペルオキシダーゼとのインキュベートステップは省略した。
【0044】
比較例3
上記例2で記載されたとおりに反応を行ったが、但し金標識ヤギ(Fab′)2抗西洋ワサビペルオキシダーゼ抗体とのインキュベートステップは省略した。
【0045】
図5は、例2および比較例1〜3(各々4回)の結果を示している。迅速なシグナルを生じる4つの連続データは、センサーの表面上におけるウサギ抗HRP/HRP/金標識ヤギ抗HRPサンドイッチによるものである(例2)。他のすべての連続データは、コントロール反応によるものである(比較例1〜3)。
【0046】
例3
ウサギ抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)免疫グロブリンG(Sigma cat.No.P7899)(IgG)(pH7.2 100mMリン酸緩衝液中1:30希釈液30μL)を2個の反応ウェル中室温で1時間インキュベートし、ポリスチレンの表面に抗体を吸着させた。次いで溶液をすすぎ、リン酸緩衝液(30μL)中牛血清アルブミン(1%)およびTween(RTM)20(0.05%)で処理して、ポリスチレン表面上の残留吸着部位を遮蔽した。ウェルを脱イオン水ですすぎ、乾燥させた。次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼ溶液(100mMリン酸緩衝液中125μg/mL)10μLを反応ウェル1へ加え、一方リン酸緩衝液単独10μLを反応ウェル2へ加えた。これらを15分間インキュベートし、次いで金標識ヤギ(Fab′)2抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(British Biocell)(100mMリン酸緩衝液中1:10希釈)30μLを室温で15分間かけてウェル1および2の双方へ加えた。次いで、銀エンハンサー溶液(使用直前に前混合された溶液A20μLおよび溶液B20μLからなるSigma SE-100)を双方の反応ウェルへ加え、センサーの表面上における金属銀染色の展開を、前記技術を用いてモニターした。
【0047】
モデル被検体としてウェル1でHRPの存在は、変換器の表面にサンドイッチ複合体(ウサギ抗HRP/HRP/金標識ヤギ抗HRP)を形成させ、そのためウェル1の表面に一部の金標識を付着させる。ウェル2でHRPの不在は、金標識ヤギ抗体がウェル2で溶液中に留まっていることを意味している。
【0048】
ウェル1および2で経時的なシグナルの展開は図4で掲載された場合と類似しており、被検体の検出が洗浄ステップなしで行いうることを実証している。
【0049】
例4
捕捉抗体として変換器の表面に吸着されたウサギ抗HRP IgG、標的被検体としてHRPおよびリポーター抗体として金標識ヤギ抗HRP IgGを用いて、一連の実験を例2で記載されたとおりに行った。5つの異なるHRP濃度(100ng/mL、10ng/mL、1ng/mL、100pg/mLおよび1pg/mL)を用いた。これは、3ng、300pg、30pg、3pgおよび30fgに当たるHRPの総量に相当する。銀増強ステップを上記のように行った。図6は、反応に用いられた被検体の量にシグナルが依存していることを示している。
【0050】
例5
この例では、変換器をシリコーン層で被覆する。変換器で検出されたシグナルは、シリコーン層の厚さおよび弾性の双方に依存している。シリコーン層を様々な厚さで調製し、Sudan Black B色素のスポットをピペットで(エタノール中)色素溶液の添加によりシリコーン層上に置いた。3つの異なる層厚(200、133および79μm)および3つの異なる全色素量(10mmol dm−3色素溶液0.1、1.0または2.5μLの添加による)を用いて、全部で9回の測定を行った。図7は、相関遅れが10msのとき(全部で3つの色素量について)層厚が薄くなると、シグナルが有意に上昇することを示している。
【0051】
加えて、中間シリコーン層の厚さは、シグナルが最大に到達するのに要する時間(即ち、相関遅れ)に影響を与える。これは図8で示されており、色素スポットと変換器との中間に位置するシリコーン層の厚さは100〜500μmであった。y軸はカウント(×103)を示し、一方x軸は相関遅れ(相関遅れ1=5ms、2=10ms、3=15msなど)を示している。最大シグナルは100μmのシリコーン層で観察され、15msの相関遅れのとき最大に達している。シリコーン層の厚さが増すと、シグナルが低下し、同時に、最大に到達するのに要する時間も500μmのシリコーン層厚で50msに延びることが観察される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
本発明はここでは図面を参照しながら記載される。
【図1】本発明の化学感知装置の概略図を示す。
【図2】本発明の装置を用いたサンドイッチイムノアッセイを示す。
【図3】本発明によるラテラルフロー(lateral-flow)アッセイ装置を示す。
【図4】(a)圧電膜上の標識抗体および(b)溶液中の標識抗体についての、時間に対する読取値のグラフを示し、双方とも金属銀の触媒堆積により高められる。
【図5】圧電膜の表面上で金属銀の触媒堆積により高められる、コロイド金標識抗体を用いたサンドイッチアッセイの結果を示す。
【図6】5種の異なる被検体濃度を用いた、圧電膜の表面上で金属銀の触媒堆積により高められる、金標識抗体を用いたサンドイッチアッセイの結果を示す。
【図7】未着色層上の着色層を通りエネルギーを圧電膜へ伝えるエネルギー伝達を立証した、膜厚に対するカウントのグラフを示す。
【図8】着色層および未着色層を通りエネルギーを圧電膜へ伝えるエネルギー伝達を立証した、相関遅れに対するカウントのグラフを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連の電磁線パルスを生じるように適合された線源と、
物質により生じたエネルギーを電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器と、
変換器により生じた電気シグナルを検出可能な検出器とを備えてなり、
該検出器が、線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定するように適合されている、電磁線の照射で物質の非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための装置。
【請求項2】
物質が被検体または被検体の複合体もしくは誘導体であり、装置がサンプル中の被検体を検出するために用いられ、装置が更に変換器の近くに少なくとも1種の試薬を含んでなり、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を試薬が有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体が線源で生じた電磁線を吸収してエネルギーを発生でき、使用時に、エネルギーが変換器で電気シグナルへ変換されて、検出器で検出され、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れが、変換器の表面から異なる距離で1箇所以上に存在する被検体の位置に対応している、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
試薬が抗体であり、被検体が抗原である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
被検体の複合体または誘導体が、標識抗体との複合体である、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
被検体が標識抗原であり、検出器で検出される電気シグナルがサンプル中未標識抗原の存在に反比例する、請求項3に記載の装置。
【請求項6】
標識抗体または抗原が、色素分子、金粒子、着色ポリマー粒子、蛍光分子、酵素、赤血球、ヘモグロビン分子、磁気粒子および炭素粒子から選択される標識で標識されている、請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
試薬が第一核酸であり、被検体が第二核酸であり、第一および第二核酸が相補的である、請求項2に記載の装置。
【請求項8】
試薬がアビジンまたはその誘導体を含有し、被検体がビオチンまたはその誘導体を含有しているか、またはその逆である、請求項2に記載の装置。
【請求項9】
更に、変換器の近くに少なくとも1種の物質を含んでなり、該物質が線源で生じた電磁線を吸収してエネルギーを発生可能なものであって、使用時に、発生したエネルギーが変換器で電気シグナルへ変換されて、検出器で検出され、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れ、および/または一定時間遅れにおけるシグナルの大きさが、反応の進行につれて変化することからなる、反応体間における反応の進行をモニターするために適した、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
反応が重合または解重合反応である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
時間遅れが少なくとも5ミリ秒、好ましくは少なくとも10ミリ秒である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
時間遅れが500ミリ秒以下、好ましくは250ミリ秒以下、更に好ましくは150ミリ秒以下である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
電磁線が光、好ましくは可視光である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
試薬が変換器に吸着されている、請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
請求項2〜8のいずれか一項に記載された被検体あるいは請求項9または10に記載された反応体が、液体中に溶解または懸濁されている、請求項2〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
変換器と接触させて液体を入れるためのウェルを更に含んでなる、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
1種以上の追加試薬を貯蔵するためのチャンバーを更に含んでなる、請求項1〜16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
追加試薬が、後で形成される被検体の複合体または誘導体を産生するための標識抗体である、請求項16に記載の装置。
【請求項19】
一連の電磁線パルスで物質を照射してエネルギーを発生させ、
エネルギーの変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器を用いて、エネルギーの変化を電気シグナルへ変換させ、
変換器により生じた電気シグナルを検出し、および
線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定する
工程を含んでなる、電磁線の照射で物質の非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための方法。
【請求項20】
エネルギーの変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器へサンプルを曝し、変換器がその近くに少なくとも1種の試薬を有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を試薬が有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体が線源で生じた電磁線を吸収して、非放射性崩壊によるエネルギーを発生可能なものであって、
一連の電磁線パルスで試薬を照射し、
生じたエネルギーを電気シグナルへ変換し、
電気シグナルおよび線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを検出する工程を含んでなり、
電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れが、変換器の表面から異なる距離で1箇所以上に存在する被検体の位置に対応している、サンプル中の被検体を検出するための方法。
【請求項21】
試薬が抗体であり、被検体が抗原である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
被検体の複合体または誘導体が、標識抗体との複合体である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
被検体が標識抗原であり、検出器で検出される電気シグナルがサンプル中の未標識抗原の存在に反比例する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
標識抗体または抗原が、色素分子、金粒子、着色ポリマー粒子、蛍光分子、酵素、赤血球、ヘモグロビン分子、磁気粒子および炭素粒子から選択される標識で標識されている、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
試薬が第一核酸であり、被検体が第二核酸であり、第一および第二核酸が相補的である、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
試薬がアビジンまたはその誘導体を含有し、被検体がビオチンまたはその誘導体を含有しているか、またはその逆である、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
サンプルを変換器へ曝す工程と試薬を照射する工程との間、前記方法が、変換器からサンプルを除去することなく行われる、請求項20〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
エネルギーの変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器へ反応媒体中の反応体を曝し、変換器が該変換器の近くに少なくとも1種の物質を有し、該物質が線源で生じた電磁線を吸収して非放射性崩壊によるエネルギーを発生可能なものであって、
一連の電磁線パルスで該物質を照射し、
生じたエネルギーを電気シグナルへ変換し、
電気シグナルおよび線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを検出する工程を含んでなり、
電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れ、および/または一定時間遅れにおけるシグナルの大きさが、反応の進行につれて変化することからなる、反応の進行をモニターするための方法。
【請求項29】
反応が重合または解重合反応である、請求項28に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連の電磁線パルスを生じるように適合された線源と、
物質により生じたエネルギーを電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器であって、該変換器の近くに少なくとも1種の試薬が存在し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を該試薬が有している変換器と、
変換器により生じた電気シグナルを検出可能な検出器とを備えてなり、
該検出器が、線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定するように適合されている、電磁線の照射で被検体または被検体の複合体もしくは誘導体の非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための装置。
【請求項2】
試薬が抗体であり、被検体が抗原である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
被検体の複合体または誘導体が、標識抗体との複合体である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
被検体が標識抗原であり、検出器で検出される電気シグナルがサンプル中未標識抗原の存在に反比例する、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
標識抗体または抗原が、色素分子、金粒子、着色ポリマー粒子、蛍光分子、酵素、赤血球、ヘモグロビン分子、磁気粒子および炭素粒子から選択される標識で標識されている、請求項3または4に記載の装置。
【請求項6】
試薬が第一核酸であり、被検体が第二核酸であり、第一および第二核酸が相補的である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
試薬がアビジンまたはその誘導体を含有し、被検体がビオチンまたはその誘導体を含有しているか、またはその逆である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
時間遅れが少なくとも5ミリ秒、好ましくは少なくとも10ミリ秒である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
時間遅れが500ミリ秒以下、好ましくは250ミリ秒以下、更に好ましくは150ミリ秒以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
電磁線が光、好ましくは可視光である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
試薬が変換器に吸着されている、請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
被検体が液体中に溶解または懸濁されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
変換器と接触させて液体を入れるためのウェルを更に含んでなる、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
1種以上の追加試薬を貯蔵するためのチャンバーを更に含んでなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
追加試薬が、後で形成される被検体の複合体または誘導体を産生するための標識抗体である、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
電磁線の各パルスの周波数が少なくとも2Hzである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
エネルギーの変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器へサンプルを曝し、変換器がその近くに少なくとも1種の試薬を有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を試薬が有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体が線源で生じた電磁線を吸収して、非放射性崩壊によるエネルギーを発生可能なものであって、
一連の電磁線パルスで試薬を照射し、
生じたエネルギーを電気シグナルへ変換し、
電気シグナルおよび線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを検出する工程を含んでなり、
電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れが、変換器の表面から異なる距離で1箇所以上に存在する被検体の位置に対応している、サンプル中の被検体を検出するための方法。
【請求項18】
試薬が抗体であり、被検体が抗原である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
被検体の複合体または誘導体が、標識抗体との複合体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
被検体が標識抗原であり、検出器で検出される電気シグナルがサンプル中の未標識抗原の存在に反比例する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
標識抗体または抗原が、色素分子、金粒子、着色ポリマー粒子、蛍光分子、酵素、赤血球、ヘモグロビン分子、磁気粒子および炭素粒子から選択される標識で標識されている、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
試薬が第一核酸であり、被検体が第二核酸であり、第一および第二核酸が相補的である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
試薬がアビジンまたはその誘導体を含有し、被検体がビオチンまたはその誘導体を含有しているか、またはその逆である、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
サンプルを変換器へ曝す工程と試薬を照射する工程との間、前記方法が、変換器からサンプルを除去することなく行われる、請求項17〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
電磁線の各パルスの周波数が少なくとも2Hzである、請求項17〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
一連の電磁線パルスを生じるように適合された線源と、
物質により生じたエネルギーを電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器と、
変換器により生じた電気シグナルを検出可能な検出器とを備えてなり、
該検出器が、線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定するように適合されている、電磁線の照射で物質の非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための装置。
【請求項2】
物質が被検体または被検体の複合体もしくは誘導体であり、装置がサンプル中の被検体を検出するために用いられ、装置が更に変換器の近くに少なくとも1種の試薬を含んでなり、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を試薬が有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体が線源で生じた電磁線を吸収してエネルギーを発生でき、使用時に、エネルギーが変換器で電気シグナルへ変換されて、検出器で検出され、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れが、変換器の表面から異なる距離で1箇所以上に存在する被検体の位置に対応している、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
試薬が抗体であり、被検体が抗原である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
被検体の複合体または誘導体が、標識抗体との複合体である、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
被検体が標識抗原であり、検出器で検出される電気シグナルがサンプル中未標識抗原の存在に反比例する、請求項3に記載の装置。
【請求項6】
標識抗体または抗原が、色素分子、金粒子、着色ポリマー粒子、蛍光分子、酵素、赤血球、ヘモグロビン分子、磁気粒子および炭素粒子から選択される標識で標識されている、請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
試薬が第一核酸であり、被検体が第二核酸であり、第一および第二核酸が相補的である、請求項2に記載の装置。
【請求項8】
試薬がアビジンまたはその誘導体を含有し、被検体がビオチンまたはその誘導体を含有しているか、またはその逆である、請求項2に記載の装置。
【請求項9】
更に、変換器の近くに少なくとも1種の物質を含んでなり、該物質が線源で生じた電磁線を吸収してエネルギーを発生可能なものであって、使用時に、発生したエネルギーが変換器で電気シグナルへ変換されて、検出器で検出され、電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れ、および/または一定時間遅れにおけるシグナルの大きさが、反応の進行につれて変化することからなる、反応体間における反応の進行をモニターするために適した、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
反応が重合または解重合反応である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
時間遅れが少なくとも5ミリ秒、好ましくは少なくとも10ミリ秒である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
時間遅れが500ミリ秒以下、好ましくは250ミリ秒以下、更に好ましくは150ミリ秒以下である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
電磁線が光、好ましくは可視光である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
試薬が変換器に吸着されている、請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
請求項2〜8のいずれか一項に記載された被検体あるいは請求項9または10に記載された反応体が、液体中に溶解または懸濁されている、請求項2〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
変換器と接触させて液体を入れるためのウェルを更に含んでなる、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
1種以上の追加試薬を貯蔵するためのチャンバーを更に含んでなる、請求項1〜16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
追加試薬が、後で形成される被検体の複合体または誘導体を産生するための標識抗体である、請求項16に記載の装置。
【請求項19】
一連の電磁線パルスで物質を照射してエネルギーを発生させ、
エネルギーの変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器を用いて、エネルギーの変化を電気シグナルへ変換させ、
変換器により生じた電気シグナルを検出し、および
線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定する
工程を含んでなる、電磁線の照射で物質の非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための方法。
【請求項20】
エネルギーの変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器へサンプルを曝し、変換器がその近くに少なくとも1種の試薬を有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を試薬が有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体が線源で生じた電磁線を吸収して、非放射性崩壊によるエネルギーを発生可能なものであって、
一連の電磁線パルスで試薬を照射し、
生じたエネルギーを電気シグナルへ変換し、
電気シグナルおよび線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを検出する工程を含んでなり、
電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れが、変換器の表面から異なる距離で1箇所以上に存在する被検体の位置に対応している、サンプル中の被検体を検出するための方法。
【請求項21】
試薬が抗体であり、被検体が抗原である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
被検体の複合体または誘導体が、標識抗体との複合体である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
被検体が標識抗原であり、検出器で検出される電気シグナルがサンプル中の未標識抗原の存在に反比例する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
標識抗体または抗原が、色素分子、金粒子、着色ポリマー粒子、蛍光分子、酵素、赤血球、ヘモグロビン分子、磁気粒子および炭素粒子から選択される標識で標識されている、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
試薬が第一核酸であり、被検体が第二核酸であり、第一および第二核酸が相補的である、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
試薬がアビジンまたはその誘導体を含有し、被検体がビオチンまたはその誘導体を含有しているか、またはその逆である、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
サンプルを変換器へ曝す工程と試薬を照射する工程との間、前記方法が、変換器からサンプルを除去することなく行われる、請求項20〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
エネルギーの変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器へ反応媒体中の反応体を曝し、変換器が該変換器の近くに少なくとも1種の物質を有し、該物質が線源で生じた電磁線を吸収して非放射性崩壊によるエネルギーを発生可能なものであって、
一連の電磁線パルスで該物質を照射し、
生じたエネルギーを電気シグナルへ変換し、
電気シグナルおよび線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを検出する工程を含んでなり、
電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れ、および/または一定時間遅れにおけるシグナルの大きさが、反応の進行につれて変化することからなる、反応の進行をモニターするための方法。
【請求項29】
反応が重合または解重合反応である、請求項28に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連の電磁線パルスを生じるように適合された線源と、
物質により生じたエネルギーを電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器であって、該変換器の近くに少なくとも1種の試薬が存在し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を該試薬が有している変換器と、
変換器により生じた電気シグナルを検出可能な検出器とを備えてなり、
該検出器が、線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定するように適合されている、電磁線の照射で被検体または被検体の複合体もしくは誘導体の非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための装置。
【請求項2】
試薬が抗体であり、被検体が抗原である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
被検体の複合体または誘導体が、標識抗体との複合体である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
被検体が標識抗原であり、検出器で検出される電気シグナルがサンプル中未標識抗原の存在に反比例する、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
標識抗体または抗原が、色素分子、金粒子、着色ポリマー粒子、蛍光分子、酵素、赤血球、ヘモグロビン分子、磁気粒子および炭素粒子から選択される標識で標識されている、請求項3または4に記載の装置。
【請求項6】
試薬が第一核酸であり、被検体が第二核酸であり、第一および第二核酸が相補的である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
試薬がアビジンまたはその誘導体を含有し、被検体がビオチンまたはその誘導体を含有しているか、またはその逆である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
時間遅れが少なくとも5ミリ秒、好ましくは少なくとも10ミリ秒である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
時間遅れが500ミリ秒以下、好ましくは250ミリ秒以下、更に好ましくは150ミリ秒以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
電磁線が光、好ましくは可視光である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
試薬が変換器に吸着されている、請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
被検体が液体中に溶解または懸濁されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
変換器と接触させて液体を入れるためのウェルを更に含んでなる、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
1種以上の追加試薬を貯蔵するためのチャンバーを更に含んでなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
追加試薬が、後で形成される被検体の複合体または誘導体を産生するための標識抗体である、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
電磁線の各パルスの周波数が少なくとも2Hzである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
エネルギーの変化を電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器へサンプルを曝し、変換器がその近くに少なくとも1種の試薬を有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体と結合可能な結合部位を試薬が有し、被検体または被検体の複合体もしくは誘導体が線源で生じた電磁線を吸収して、非放射性崩壊によるエネルギーを発生可能なものであって、
一連の電磁線パルスで試薬を照射し、
生じたエネルギーを電気シグナルへ変換し、
電気シグナルおよび線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを検出する工程を含んでなり、
電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れが、変換器の表面から異なる距離で1箇所以上に存在する被検体の位置に対応している、サンプル中の被検体を検出するための方法。
【請求項18】
試薬が抗体であり、被検体が抗原である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
被検体の複合体または誘導体が、標識抗体との複合体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
被検体が標識抗原であり、検出器で検出される電気シグナルがサンプル中の未標識抗原の存在に反比例する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
標識抗体または抗原が、色素分子、金粒子、着色ポリマー粒子、蛍光分子、酵素、赤血球、ヘモグロビン分子、磁気粒子および炭素粒子から選択される標識で標識されている、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
試薬が第一核酸であり、被検体が第二核酸であり、第一および第二核酸が相補的である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
試薬がアビジンまたはその誘導体を含有し、被検体がビオチンまたはその誘導体を含有しているか、またはその逆である、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
サンプルを変換器へ曝す工程と試薬を照射する工程との間、前記方法が、変換器からサンプルを除去することなく行われる、請求項17〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
電磁線の各パルスの周波数が少なくとも2Hzである、請求項17〜24のいずれか一項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2006−522930(P2006−522930A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506107(P2006−506107)
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001551
【国際公開番号】WO2004/090512
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(505379445)ピエズオプティック、リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】PIEZOPTIC LIMITED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001551
【国際公開番号】WO2004/090512
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(505379445)ピエズオプティック、リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】PIEZOPTIC LIMITED
【Fターム(参考)】
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