説明

焼き小麦粉食品、その老化を阻害する方法、及びその老化阻害剤

【課題】老化を可及的に阻害可能な焼き小麦粉食品、焼き小麦粉食品の老化を阻害する方法、及び焼き小麦粉食品の老化阻害剤を提供することを目的とする。
【解決手段】α‐サイクロデキストリン、β‐サイクロデキストリン、γ‐サイクロデキストリン、及び分岐サイクロデキストリンのうち1以上であるサイクロデキストリンと、グルコマンナン、グルコマンナン分解物、ゼラチン、寒天、低強度寒天、カラギーナン、キサンタンガム、キサンタンガムを加熱処理することにより得られる改質キサンタンガム、グアーガム、グアーガム分解物、タラガム、タラガム分解物、ローカストビーンガム、ローカストビーンガム分解物、ジェランガム、アラビアガム、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩、アルギン酸塩分解物、及びアルギン酸エステルのうち1以上である増粘多糖類とが含有されていることを特徴とする焼き小麦粉食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化を可及的に阻害可能な焼き小麦粉食品、焼き小麦粉食品の老化を阻害する方法、及び焼き小麦粉食品の老化阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パン、ホットケーキ、たこ焼きなどの小麦粉を主成分とする焼き小麦粉食品は、しっとりとした弾力のある食感が好まれている。しかし、このような焼き小麦粉食品は、経時的に乾燥・硬化し、食感が低下する老化現象が起こる。これを阻害するためのものとして、例えば、特許文献1においては、サイクロデキストリンを含有する糖類水溶液にショートニングを混合して得られるショートニング懸濁液状組成物が記載されている。
【特許文献1】特開昭57−177642号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような組成物を用いても、老化阻害の効果は十分でないという問題を有する。そこで、本発明は、老化を可及的に阻害可能な焼き小麦粉食品、焼き小麦粉食品の老化を阻害する方法、及び焼き小麦粉食品の老化阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、サイクロデキストリン及び増粘多糖類を含有することによって、老化現象が生じにくくなることを見出した。すなわち、本発明は、サイクロデキストリン及び増粘多糖類が含有されていることを特徴とする焼き小麦粉食品である。また、サイクロデキストリンと増粘多糖類を焼き小麦粉食品の原料に添加することによって焼き小麦粉食品の老化を阻害する方法である。さらに、サイクロデキストリンと増粘多糖類が含有されていることを特徴とする焼き小麦粉食品の老化阻害剤である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、老化を可及的に阻害可能な焼き小麦粉食品、焼き小麦粉食品の老化を阻害する方法、及び焼き小麦粉食品の老化阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に係る焼き小麦粉食品などは、老化を可及的に阻害することができる。特に、冷凍解凍後においても水分の蒸発が少なく、優れた食感を維持できる。本発明に係る焼き小麦粉食品は、老化を可及的に阻害できるのみならず、優れた食感及び作業性を有する。従来においては、老化を阻害しようとすると作業性が悪くなるなど問題が生じたが、本発明においては作業性も良好である。作業性が悪くなると、例えばパン類の場合には、生地の加工耐性が悪くなったり、また、保形性(形状安定性)が弱くなり、ホイロ・焼成時に腰折れや表面じわが発生することがある。特に、大量機械生産による焼き小麦粉食品の製造においては、生地の加工耐性と形状安定性が重要な場合があり、作業性が悪いと大量機械生産ができないという問題を生じてしまう。本発明に係る焼き小麦粉食品においては、老化現象、特に冷凍解凍後においても老化現象が生じにくく、作業性も良好であり、さらに優れた食感を有する。すなわち、従来のサイクロデキストリンのみを添加した場合、食感及び作業性が必ずしも十分でなかったが、本発明のようにサイクロデキストリンと増粘多糖類を併用することによって、食感及び作業性をさらに向上することができる。
【0007】
本発明に係る焼き小麦粉食品とは、小麦粉を主成分とし、加水され成形後焼成された食品であり、うどんやパスタなどの茹でられた小麦粉食品は除かれる。焼き小麦粉食品としては、例えば、パン類、ケーキ類、及び、たこ焼きなどの粉物食品が挙げられる。このような焼き小麦粉食品は、一般的に比重が0.05〜0.95g/cmである。比重とは単位体積あたりの質量であり、パン類であれば発酵時、ケーキ類であれば焼成時に空気を含有し膨らむことによって、比重が低下する。
【0008】
本発明に係る焼き小麦粉食品などに用いられるサイクロデキストリンとしては、α‐サイクロデキストリン、β‐サイクロデキストリン、γ‐サイクロデキストリン、分岐サイクロデキストリンが挙げられる。分岐サイクロデキストリンとしては、例えば、サイクロデキストリン環にグルコースが結合しているグルコシルサイクロデキストリン、サイクロデキストリン環にマルトースが結合しているマルトシルサイクロデキストリン、サイクロデキストリン環にマルトトリオースが結合しているマルトトリオシルサイクロデキストリン、サイクロデキストリン環にパノースが結合しているパノシルサイクロデキストリン、及びクラスターデキストリンが挙げられる。サイクロデキストリンとしては、α‐サイクロデキストリン、γ‐サイクロデキストリン、分岐サイクロデキストリンが好ましい。
【0009】
本発明に係る焼き小麦粉食品などに用いられる増粘多糖類としては、グルコマンナン、グルコマンナン分解物、ゼラチン、寒天、低強度寒天、カラギーナン、キサンタンガム、改質キサンタンガム、グアーガム、グアーガム分解物、タラガム、タラガム分解物、ローカストビーンガム、ローカストビーンガム分解物、ジェランガム、アラビアガム、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩、アルギン酸塩分解物、及びアルギン酸エステルが挙げられ、グルコマンナン、カラギーナン、改質キサンタンガム、アラビアガム、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩、及びアルギン酸エステルが好ましい。
【0010】
グルコマンナン分解物、グアーガム分解物、タラガム分解物、ローカストビーンガム分解物、及びアルギン酸塩分解物は、グルコマンナン、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、及びアルギン酸塩が低分子化されている。低分子化は、酸や酵素処理等することによって行うことができる。
【0011】
低強度寒天は、寒天に比べゼリー強度が低い。低強度寒天は、熱処理によって寒天成分の分子を切断し、ゼリー強度が1.5%寒天濃度で10〜250g/cmの範囲に調整された低強度寒天を用いることができる(特許第3414954号)。
【0012】
キサンタンガムを粉末状態で加熱処理することにより得られる改質キサンタンガムは、キサンタンガムに比べ粘度が高い。改質キサンタンガムは、精製されたキサンタンガムを粉末状態で、かつ80℃以上で加熱処理することにより、水溶液の曳糸性を低下させると同時に、濃度1%,25℃の水溶液で1,200cps以上の粘度を持つように改質された改質キサンタンガムを用いることができる(特許第3424272号)。
【0013】
サイクロデキストリンの含有量は、焼き小麦粉食品に配合される全穀粉類の0.05〜5重量%であることが好ましい。
【0014】
増粘多糖類の含有量は、焼き小麦粉食品に配合される全穀粉類の0.05〜5重量%であることが好ましい。
【0015】
サイクロデキストリンと増粘多糖類の配合比(重量)は、焼き小麦粉食品の種類などにもよるが、一般に1:99〜99:1の範囲であり、さらに好ましくは30:70〜70:30の範囲である。この範囲外ではサイクロデキストリンと増粘多糖類の組み合わせによる老化阻害効果が十分に発現されない。
【0016】
本発明に係る焼き小麦粉食品に用いられるサイクロデキストリン及び増粘多糖類は、あらかじめ小麦粉に混ぜた後に小麦粉とともに水など液体に添加させて混ぜてもよく、小麦粉に添加される水や卵などの液体に添加させて混ぜてもよい。これらを材料として調理することにより、本発明に係る焼き小麦粉食品を得ることができる。
【実施例】
【0017】
次に、本発明に係る焼き小麦粉食品の実施例について説明する。実施例及び比較例において用いられたサイクロデキストリン及び増粘多糖類は、以下の通りである。
α−サイクロデキストリン:伊那食品工業株式会社製
クラスターデキストリン:江崎グリコ株式会社製
デキストリン:松谷化学工業株式会社製
グルコマンナン:伊那食品工業株式会社製
カラギーナン:伊那食品工業株式会社製
改質キサンタンガム:CPケルコ社製のキサンタンガムの粉末100gを110℃にて200分加熱処理したもの。
アラビアガム:伊那食品工業株式会社製
ペクチン:伊那食品工業株式会社製
アルギン酸:伊那食品工業株式会社製
アルギン酸塩:伊那食品工業株式会社製
アルギン酸エステル:伊那食品工業株式会社製
【0018】
また、表中の作業性、食感、及び硬さについては、以下のように評価した。
(作業性)
生地の作業性を当社の評価員によって評価した。評価は以下の3段階とした。
○:作業性に問題なし。
△:生地が固い、又は生地がベタつく等の問題があり、作業性にやや問題がある。
×:作業性に問題がある。
(食感)
焼き小麦粉食品の食感を当社の5人のパネラーによって評価した。評価は5人の評価に基づいて、以下の3段階とした。なお、冷凍解凍後*1の評価は、−30℃で30日間冷凍保存した後、自然解凍した後に食感を評価したものである。
○:弾力があって歯切れも良いなどの理由により、食感が良好である。
△:固いなどの理由により、食感が良好ではない。
×:団子状となる、パサつくなどの理由により、食感が悪い。
(硬さ)
焼き小麦粉食品の硬さをプランジャーによって評価した。*2は、円形のプランジャーで測定した結果を表し、強度の変化から老化現象の度合いを評価した。*3は、山切りのプランジャーで測定した結果を表し、値が低いものほど食した時に歯切れが良く団子状の食感とはならない傾向にある。
【0019】
実施例1乃至8
表1に示した配合量(重量部)に基づいて実施例1乃至8に係る焼き小麦粉食品(バターロールパン)を作成した。先ず、小麦粉、上白糖、食塩、脱脂粉乳、及びドライイーストに、表1に示した配合量の1/3〜半量の水、全卵、α―サイクロデキストリン、クラスターデキストリン、グルコマンナン、カラギナン、改質キサンタンガム、アラビアガム、及びペクチンを分散させた後、残りの水を加えてドウミキサーにて低速で3分間混ぜた。その後、無塩バターを加えて中速で12分間、更に高速で5分間、混捏した。捏ね上げ温度は28℃であった。捏ね上げ生地を50分間発酵させた後、ガス抜きをした。得られた生地を50gずつに分割し、丸め成型を行い、20分間のベンチタイムをとった後、38℃、湿度85%の条件下で40〜60分間ホイロした。その後、190℃のバッチ式オーブンで20分間焼成して、実施例1乃至8に係る焼き小麦粉食品(バターロールパン)を得た。結果を表3に示す。
【0020】
比較例1及び2
表2に示した配合量(重量部)で添加を行った以外は実施例1乃至8と同様にして、比較例1及び2に係る焼き小麦粉食品(バターロールパン)を得た。結果を表4に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
実施例9乃至11
表5に示した配合量(重量部)に基づいて実施例9乃至11に係る焼き小麦粉食品(ホットケーキ)を作成した。先ず、小麦粉(薄力粉)に、全卵、牛乳、水、上白糖、ベーキングパウダー、グルコマンナン、デキストリン、及びα―サイクロデキストリンを加え、小麦粉のダマがほぼなくなるまで攪拌混合し、ホットケーキ生地を得た。この生地をホットプレートにて焼成して、実施例9乃至11に係る焼き小麦粉食品(ホットケーキ)を得た。結果を表6に示す。
【0026】
比較例3及び5
表5に示した配合量(重量部)で添加した以外は実施例9乃至11と同様にして、比較例3乃至5に係る焼き小麦粉食品(ホットケーキ)を得た。結果を表6に示す。
【0027】
【表5】

【0028】
【表6】

【0029】
実施例12乃至14
表7に示した配合量(重量部)に基づいて実施例12乃至14に係る焼き小麦粉食品(食パン)を作成した。先ず、小麦粉、上白糖、食塩、脱脂粉乳、及びドライイーストに、表7に示した配合量の1/3〜半量の水、α―サイクロデキストリン、アルギン酸、アルギン酸塩、及びアルギン酸エステルを分散させた後、残りの水を加えてドウミキサーにて低速で3分間混ぜた。その後、ショートニングを加えて中速で12分間、更に高速で5分間、混捏した。捏ね上げ温度は28℃であった。捏ね上げ生地を50分間発酵させた後、ガス抜きをした。得られた生地を270gずつに分割し、丸め成型を行い、20分間のベンチタイムをとった後、38℃、湿度85%の条件下で40〜60分間ホイロした。その後、200℃のバッチ式オーブンで30〜35分間焼成して、実施例12乃至14に係る焼き小麦粉食品(食パン)を得た。結果を表8に示す。
【0030】
比較例6及び7
表7に示した配合量(重量部)で添加を行った以外は実施例12乃至14と同様にして、比較例6及び7に係る焼き小麦粉食品(食パン)を得た。結果を表8に示す。
【0031】
【表7】

【0032】
【表8】

【0033】
実施例15
表9に示した配合量(重量部)に基づいて実施例15に係る焼き小麦粉食品(ロールケーキ)を作成した。先ず、上白糖、α―サイクロデキストリン、及び改質キサンタンガムを全卵、及び卵黄に分散させ、充分泡立てた後、小麦粉を添加し、60℃に加温した牛乳、及び無塩バターを添加した。その後、200℃の鉄板で10分間焼成して、実施例15に係る焼き小麦粉食品(ロールケーキ)を得た。結果を表10に示す。
【0034】
比較例8及び9
表9に示した配合量(重量部)で添加を行った以外は実施例15と同様にして、比較例8及び9に係る焼き小麦粉食品(ロールケーキ)を得た。結果を表10に示す。
【0035】
【表9】

【0036】
【表10】

【0037】
実施例1乃至15及び比較例1乃至9より、老化現象、特に冷凍解凍後においても老化現象が生じにくく、作業性良く製造可能であり、かつ優れた食感を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクロデキストリン及び増粘多糖類が含有されていることを特徴とする焼き小麦粉食品。
【請求項2】
前記増粘多糖類が、グルコマンナン、グルコマンナン分解物、ゼラチン、寒天、低強度寒天、カラギーナン、キサンタンガム、キサンタンガムを加熱処理することにより得られる改質キサンタンガム、グアーガム、グアーガム分解物、タラガム、タラガム分解物、ローカストビーンガム、ローカストビーンガム分解物、ジェランガム、アラビアガム、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩、アルギン酸塩分解物、及びアルギン酸エステルのうち1以上であることを特徴とする請求項1記載の焼き小麦粉食品。
【請求項3】
前記サイクロデキストリンが、α‐サイクロデキストリン、β‐サイクロデキストリン、γ‐サイクロデキストリン、及び分岐サイクロデキストリンのうち1以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の焼き小麦粉食品。
【請求項4】
前記サイクロデキストリンの含有量が、焼き小麦粉食品に配合される全穀粉類の0.05〜5重量%であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の焼き小麦粉食品。
【請求項5】
前記増粘多糖類の含有量が、焼き小麦粉食品に配合される全穀粉類の0.05〜5重量%であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の焼き小麦粉食品。
【請求項6】
サイクロデキストリンと増粘多糖類を焼き小麦粉食品の原料に添加することによって焼き小麦粉食品の老化を阻害する方法。
【請求項7】
サイクロデキストリンと増粘多糖類が含有されていることを特徴とする焼き小麦粉食品の老化阻害剤。