説明

焼き物用焙煎穀粉組成物

【課題】食感がサクサクとして非常にクリスピーで歯切れ感がよく経時的に劣化の少ない焼き物を得ることができる焼き物用小麦粉組成物を提供すること。
【解決手段】澱粉、米粉と小麦粉を、それぞれの比率が澱粉30〜80質量部、米粉10〜60質量部、小麦粉10〜60質量部となるように混合し、該混合物を焙煎することを特徴とする焼き物用穀粉組成物である。また、焙煎条件は、110℃〜160℃で、1〜3時間加熱することを特徴とする前記方法である。また、焼き物用穀粉組成物を含むミックス粉である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き物用焙煎穀粉組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食感や二次加工性の改良を目的として、小麦粉や米粉、澱粉を焙煎することが知られている。
小麦粉の焙煎の例として、小麦粉または小麦粉および澱粉からなる原料粉を品温110〜160℃の条件下で50〜150分間焙焼することを特徴とする、グルテンバイタリティ10〜65%を有する焙焼小麦粉の製造法が知られている(例えば特許文献1参照)。
澱粉の焙煎の例としては、油揚げ物に使用する100部の澱粉、湿澱粉混合物のpHを7〜10に調整するのに必要な量のアルカリ性塩類、0.1〜3.0部の糖質、デキストリン、糖アルコールの単独または混合物、0.05〜1.0部の生大豆粉および15〜28%の水分を含有する湿澱粉混合物を調製し、該湿澱粉混合物を120℃以上で1時間以上加熱焙焼した後、必要により有機酸を加えることによる中和及び調湿を行なうことを特徴とする食品用加工澱粉の製造法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−345421号公報
【特許文献2】特開平6−133714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、焙煎処理を利用し食感がサクサクとして非常にクリスピーで歯切れ感がよく経時的に劣化の少ない焼き物を得ることができる焼き物用穀粉組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、従来は別々に焙煎処理されその後必要に応じて混合して使用されていた澱粉、米粉及び小麦粉を焙煎処理前にあらかじめ混合し、該混合物を焙煎すると、意外にも、小麦粉、米粉、澱粉を別々に焙煎し、その後混合した場合より良好な二次加工性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、澱粉、米粉、小麦粉の3種類の比率を、澱粉が30〜80質量部、米粉が10〜60質量部、小麦粉が10〜60質量部となるように混合し、該混合物を焙煎することを特徴とする焼き物用穀粉組成物である。
また、焙煎条件は、110℃〜160℃で1〜3時間加熱することを特徴とする前記方法である。
また、焼き物用穀粉組成物を含むミックス粉である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の焼き物用穀粉組成物を使用することにより食感がサクサクとして非常にクリスピーで歯切れ感がよく、焼色が明るく、経時的な品質劣化が少ない焼き物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において焼き物とは、鯛焼き、大判焼き、人形焼き、ホットケーキ、クレープなど、鉄板、銅板、焼型などの焼成器を使用して接触加熱して焼成する菓子をいう。
これらは、鉄板、銅板、専用フライパンの上に生地を流し、製品を反転しながら上面、下面を焼成するものや専用の焼型に生地を流し込み、製品の上面、下面をそれぞれ焼成することを特徴とする。
型焼きでは内部に餡、ジャム、クリーム等のフィリングを挟んだ後、上下の生地を合わせて更に焼成する。
または下生地を焼成し、その上に餡等を載せ、更に上生地を流した後上面焼成型で挟み焼きする場合もある。
何れの場合でも加熱された鉄板、銅板、焼成型で接触加熱されることが特徴で、製品表面のパリパリ感、さっくり感、口溶け感等の食感を特徴とした菓子である。
【0008】
本発明において使用できる澱粉は、食用澱粉類であれば特に限定されず、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、サゴ澱粉等を使用することができる。
【0009】
本発明において使用できる米粉は求める製品の食感、食味に合わせて国内産米、タイ産米、米国産米等を適宜選択でき、使用する粉砕機の種類や粒度構成も特に限定されない。
【0010】
本発明で使用する小麦粉は求める製品の食感、食味に合わせて薄力小麦粉、中力小麦粉、強力小麦粉を適宜選択できる。
強い食感、風味を求める場合には全粒粉も使用することができる。
これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0011】
本発明において、澱粉と米粉と小麦粉の比率は澱粉30〜80、米粉10〜60、小麦粉10〜60の範囲である。
それ以上の比率の差では混合物を焙煎処理する効果が得られない。
この範囲内において、澱粉、米粉と小麦粉の配合割合は最終製品の求める品質により調整できる。
例えばパリパリ感が強い、さっくりした食感の鯛焼きには澱粉、米粉比率を多くし、製品内層のしっとり感を強くする大判焼き等には小麦粉比率を多くする。
【0012】
焙煎処理は通常の乾燥機、熱風を吹き付けるタイプ、製菓製パン用オーブン等、穀粉の品温が上がれば、どんなタイプの機械でも使用できる。
例えば、予め澱粉、米粉、小麦粉を混合したものを食パンの焼き型等の金属性の容器に詰め、蓋をして製菓製パン用オーブンで焼成する方法や製菓製パン用焼成天板に混合物を広げて、熱風式の乾燥機に入れて焙煎する方法が使用できる。
大規模な製造の際には、焼成下面が加熱されるバンドオーブン等も利用できる。
乾熱方法の違いで起こる水分減少の差は加工性には影響しない。
【0013】
焙煎条件は、110℃〜160℃で、1〜3時間加熱することが好ましく。さらに好ましくは、115℃〜145℃で、1〜2時間である。
焙煎温度が110℃未満では焙煎が不十分でパリパリ感不足の傾向があり好ましくない。
焙煎温度が160℃を超えると焦げ臭の発生の傾向があり好ましくない。
焙煎時間が1時間未満では焙煎が不十分でパリパリ感不足の傾向があり好ましくない。
焙煎時間が3時間以上では焦げ臭の発生の傾向があり好ましくない。
なお、本発明において、○○〜△△とは○○以上△△以下をいい、例えば1〜3とは1以上3以下を意味する。
【実施例】
【0014】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]鯛焼き
コーンスターチ50質量部、米粉40質量部、薄力小麦粉10質量部を混合し、乾燥機を使用して145℃で2時間焙煎処理し本発明の焼き物用穀粉組成物を得た。
前記焼き物用穀粉組成物に、表1に示す割合で各資材を配合し鯛焼きミックスを調製した。
【0015】
【表1】

【0016】
前記鯛焼きミックス100質量部に対して120質量部の水を加えで生地を調製し、鯛焼き焼成機で下生地量30g、餡量60g、上生地量30gの重量比で190℃、4分間焼成し鯛焼きを得た。
【0017】
[比較例1〜2]鯛焼き
実施例1において、コーンスターチ、米粉及び薄力小麦粉の焙煎処理を行わない以外は実施例1と同様にして鯛焼きを得た(比較例1)。コーンスターチ、米粉及び薄力小麦粉を別々に焙煎して実施例1と同様に鯛焼きを得た(比較例2)。
【0018】
[実施例2〜5、比較例3〜6]鯛焼き
実施例1において、焙煎処理を、コーンスターチ50質量部、米粉40質量部、薄力小麦粉10質量部のうち、コーンスターチ、米粉と薄力小麦粉の割合が表2に示すように混合したものと残余のコーンスターチ、米粉又は小麦粉はそれぞれ単独で焙煎し、焙煎後混合した以外は実施例1と同様にして鯛焼きを得た。
前記混合物の調製は、単独で焙煎するコーンスターチ、米粉又は小麦粉の量が最も少なくなるように行った。
例えば、実施例2では、コーンスターチ30、米粉60、薄力小麦粉10の割合であるので、混合物はコーンスターチ20質量部、米粉40質量部、薄力小麦粉7質量部の構成となり、残余のコーンスターチ30質量部、薄力小麦粉は3質量部となる。
焼成した各製品について下記の評価基準で10名のパネラーにより焼成直後の外観、食感及び焼成後ヒートランプ式のホールディングキャビネットで1時間保管した後の食感を評価した。
食感
5点 サクサク感、パリパリ感が強く、歯切れ感が極めて良好
4点 サクサク感、パリパリ感があり、歯切れ感が良好
3点 サクサク感、パリパリ感が普通で、歯切れ感も普通
2点 サクサク感、パリパリ感が弱く、歯切れ感がやや悪い
1点 サクサク感、パリパリ感がなく、歯切れ感が悪い
外観
5点 非常に明るい焼き色で、照りが強い
4点 明るい焼き色で 照りがやや強い
3点 明るさが普通で、照りがある
2点 明るさが弱く 照りが弱い
1点 明るさがなく 照りがない
結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
実施例1の鯛焼きミックスを用いた鯛焼きの食感がサクサク感、パリパリ感に優れ、焼成後1時間の食感も良好に維持されていた。
また外観も明るく照りが強かった。
未焙煎のコーンスターチ、米粉、薄力小麦粉を使用した場合(比較例1)は、食感、外観とも劣り、コーンスターチ、米粉と薄力小麦粉を別々に焙煎した場合(比較例2)、コーンスターチ、米粉と小麦粉の配合割合が、コーンスターチ30〜80質量部、米粉10〜60質量部、小麦粉10〜60質量部の範囲外のもの(比較例3〜6)は、未焙煎よりは良いものの、実施例1〜5よりは劣っていた。
【0021】
[実施例6〜9]鯛焼き 焙煎条件の試験
実施例1において、焙煎条件を表3に示す条件に変更した以外は実施例1と同様にして鯛焼きを得て評価を行った。
結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
実施例6、実施例7の鯛焼きの食感はサクサク感、パリパリ感が良好で、焼成後1時間の食感もほぼ良好に維持されていた。
また外観も明るく照りがやや強かった。
実施例8、実施例9では実施例6及び実施例7に比較してやや劣る結果となった。
【0024】
[実施例10]人形焼き
中力小麦粉60質量部、小麦澱粉30質量部、米粉10質量部を混合し、130℃の乾燥機で3時間焙煎処理し本発明の焼き物用穀粉組成物を得た。
前記焼き物用穀粉組成物に、表4に示す割合で各資材を配合し人形焼きミックスを調製した。
【0025】
【表4】

【0026】
前記人形焼きミックス100質量部に対して全卵30質量部、水30質量部、ソルビトール10質量部を加え混練して生地を調製した。
人形焼き焼成機により下生地量15g、フィリング量20g、上生地量15gの重量比で185℃、5分間焼成し人形焼を得た。
[比較例7〜8]人形焼き
実施例10において、中力小麦粉、小麦澱粉及び米粉の焙煎処理を行わない以外は実施例10と同様にして人形焼きを得た(比較例7)。中力小麦粉、小麦澱粉及び米粉をそれぞれ別々に焙煎処理した以外は実施例10と同様にして人形焼きを得た(比較例8)。
【0027】
[実施例11〜14、比較例9〜12]人形焼き
実施例10において、焙煎処理を、中力小麦粉60質量部、小麦澱粉30質量部、米粉10質量部のうち、中力小麦粉、小麦澱粉、米粉の割合が表5に示すように混合したものと残余の中力小麦粉、小麦澱粉又は米粉は単独に焙煎し、焙煎後混合した以外は実施例10と同様にして人形焼きを得た(実施例11〜14)。中力小麦粉、小麦澱粉と米粉の配合割合が、中力小麦粉10〜60質量部、小麦澱粉30〜80質量部、米粉10〜60質量部の範囲外のもので実施例10と同様にして人形焼きを得た(比較例9〜12)。
【0028】
10名のパネラーにより得られた人形焼きの焼成直後の外観、食感及び焼成後3日間室温で保管した後の食感を下記の評価基準で評価した。
食感
5点 さっくりとした歯切れ感が極めて良好で、口溶けが極めて良好
4点 さっくりとした歯切れ感が良好で、口溶けが良好
3点 さっくりとした歯切れ感が普通で、口溶けが普通
2点 さっくりとした歯切れ感が弱く、口溶けがやや悪い
1点 さっくりとした歯切れ感がなく、口溶けが悪い
外観
5点 非常に明るい焼き色で、照りが強い
4点 明るい焼き色で 照りがやや強い
3点 明るさが普通で、照りがある
2点 明るさが弱く 照りが弱い
1点 明るさがなく 照りがない
結果を表5に示す。
【0029】
【表5】

【0030】
実施例10の人形焼きの食感はさっくりとした歯切れ感が良好で、焼成後3日後の食感も良好に維持されていた。
また外観も明るく照りがやや強かった。
未焙煎の中力小麦粉、小麦澱粉、米粉を使用した場合(比較例7)は、食感、外観とも劣り、中力小麦粉、小麦澱粉と米粉を別々に焙煎した場合(比較例8)や中力小麦粉、小麦澱粉と米粉の配合割合が、小麦粉10〜60、小麦澱粉30〜80、米粉10〜60の範囲外のもの(比較例9〜11)は、未焙煎よりは良いものの、実施例10〜14よりは劣っていた。
【0031】
[実施例15]クレープ
馬鈴薯澱粉40質量部、タピオカ澱粉40質量部、強力小麦粉10質量部、米粉10質量部を混合し、160℃に加熱したコンベクションオーブンで1時間焙煎処理し本発明の焼き物用穀粉組成物を得た。
前記焼き物用穀粉組成物に、表6に示す割合で各資材を配合しクレープミックスを調製した。
【0032】
【表6】

【0033】
前記クレープミックス100質量部に対して全卵50質量部、水120質量部、サラダ油10質量部を加え生地を調製した。
クレープ用鉄板焼成器で生地量120g、180℃で45秒間焼成、反転して焼成しクレープを得た。
【0034】
[比較例13〜14]クレープ
実施例15において、澱粉混合品、強力小麦粉及び米粉の焙煎処理を行わない以外は実施例15と同様にしてクレープを得た(比較例13)。澱粉混合品、強力小麦粉及び米粉をそれぞれ別々に焙煎処理した以外は実施例15と同様にしてクレープを得た(比較例14)。
【0035】
[実施例16〜19、比較例13〜16]クレープ
実施例15において、馬鈴薯澱粉40質量部とタピオカ澱粉40質量部の澱粉混合品、強力小麦粉10質量部と米粉10質量部のうち、澱粉混合品、強力小麦粉と米粉の割合が表8に示すように混合したものと残余の澱粉混合品、強力小麦粉又は米粉とに分けて焙煎処理を行い、焙煎後混合した以外は実施例15と同様にしてクレープを得た(実施例16〜19)。澱粉混合品、強力小麦粉と米粉の配合割合が、澱粉混合品が30〜80質量部、強力小麦粉10〜60質量部、米粉10〜60質量部の範囲外である以外は実施例15と同様にしてクレープを得た(比較例15〜18)。
【0036】
10名のパネラーにより得られたクレープの焼成直後の外観、食感及び焼成後1時間室温で保管した後の食感を下記の評価基準で評価した。
食感
5点 さっくりとした歯切れ感が極めて良好で、口溶けが極めて良好
4点 さっくりとした歯切れ感が良好で、口溶けが良好
3点 さっくりとした歯切れ感が普通で、口溶けが普通
2点 さっくりとした歯切れ感が弱く、口溶けがやや悪い
1点 さっくりとした歯切れ感がなく、口溶けが悪い
外観
5点 非常に明るい焼き色で、照りが強い
4点 明るい焼き色で つやがやや強い
3点 明るさが普通で、つやがある
2点 明るさが弱く つやが弱い
1点 明るさがなく つやがない
結果を表7に示す。
【表7】

【0037】
実施例15のクレープミックスを用いたクレープの食感がさっくりと歯切れ感に優れ、焼成後1時間の食感も良好に維持されていた。また外観も明るく照りが強かった。
未焙煎の澱粉混合品、強力小麦粉、米粉を使用した場合(比較例13)は、食感、外観とも劣り、澱粉混合品、強力小麦粉と米粉を別々に焙煎した場合(比較例14)や澱粉混合品、強力小麦粉と米粉の配合割合が、澱粉混合品30〜80質量部、強力小麦粉10〜60質量部、米粉10〜60質量部の範囲外のもの(比較例15〜18)は、未焙煎よりは良いものの、実施例15〜19よりは劣っていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉、米粉と小麦粉をそれぞれの比率が澱粉30〜80質量部、米粉10〜60質量部、小麦粉10〜60質量部となるように混合し、該混合物を焙煎することを特徴とする焼き物用穀粉組成物。
【請求項2】
焙煎条件は、110℃〜160℃で1〜3時間加熱することを特徴とする請求項1に記載の焼き物用小麦粉組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の焼き物用小麦粉組成物を含むミックス粉。


【公開番号】特開2012−39936(P2012−39936A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183802(P2010−183802)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【Fターム(参考)】